08/01/07 「安心と希望の医療確保ビジョン」第1回会議議事録 「安心と希望の医療確保ビジョン」第1回会議 議事録 ○小野看護職員対策官  定刻になりましたので、「安心と希望の医療確保ビジョン」第1回会議を開催いたします。   本日は、ご多忙のところご参集いただきましてありがとうございます。初めに、舛添厚生労働 大臣よりご挨拶を申し上げます。 ○舛添厚生労働大臣  皆さんこんばんは。本日は、お忙しい中をお集まりいただきましてありがとうございます。 私が昨年8月に厚生労働大臣に就任して以来、最初に奈良県で妊産婦のいわゆるタライ回 しという事件が生じました。この医療体制をどうするかということ、特に産婦人科医師の不足 ということで、大変国民的な問題になっております。 昨年5月から、緊急の医療体制整備を政府与党でしっかりやってきておりますが、長期的に どうするのかということについての議論があまりなされていない。 特に医師の養成というのは10年計画で考えねばなりませんが、医師が余っていると言われ ていながら、片一方で産婦人科の医師がいないという現状であり。少し長期的なビジョンを 打ち立てることが必要だろうと思います。 このため、国民に安心を与える、そして将来に希望を与える、安心と希望の医療ビジョンとい うことで先生方にお集まりいただきました。そして今後、コアの先生方を中心にいろいろなゲ ストをお呼びし、例えば歴史的観点から見て、ヨーロッパと比べたらどうだろう、日本の江戸 時代と比べたらどうだろう、という人文社会科学の観点もそこに入れてみたいと思っておりま す。   もう1つは、机上の空論にしないために、現場を歩いてみたいということです。私も、就任し てすぐに千葉県の亀田総合病院に行って、緊急医療体制の実態を見ました。消防署の救急 車の出動の体制も見てまいりました。そういうことも含め、現場を少し見て、現場からの状況 判断ということもこれに加え、とにかく全くフリーに自由闊達な議論を皆さん方にしていただい て、国民が本当に安心できる医療体制を、10年、20年の計画で作りたいと思っております。   今年の春4月ぐらいを目処にし簡単な報告書をまとめて、こういう方向で日本の医療体制を 国民が安心できるものにするという新しい医療ビジョンを掲げ、ます。年金と並んで医療の問 題というのは、政府に対する信頼感、そして肝炎の問題はなんとか決着しそうなところまで漕 ぎ着けましたけれども、生命を大切にするという厚生労働行政の原点をしっかり掲げ、それを 国民の皆さん方に信頼していただける政策にする。   そのように、非常に重要な長期ビジョンを皆さん方の力をお借りし、そして国民的な議論の たたき台として作り上げたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。本日は本当 にありがとうございます。 ○二川医政局総務課長 どうもありがとうございました。本日は第1回の会合ですので、まず構成員の方々をご紹介さ せていただきます。   まず厚生労働省側です。西川京子厚生労働副大臣です。松浪健太厚生労働大臣政務官 です。   有識者としてご参加いただく方々です。NPOささえあい医療人権センターCOML理事長の辻本 好子さんです。野中医院院長の野中博さんです。国立病院機構理事長の矢崎義雄さんで す。 ○小野看護職員対策官   カメラ撮りはここまでとさせていただきますので、退室をお願いいたします。   議事に入ります。資料1に基づき、この会議の趣旨などにつきまして、先ほど大臣のご挨拶 にもありましたが簡単にご説明申し上げます。1の「目的」ですが、昨年の医療制度改革の後 も、医療の確保に関する問題がさまざま指摘されているところです。こうした問題に対し、将 来を見据えた改革が必要であり、人材・施設・医療サービスなどにおける医療アクセスの改 善を図るよう、あるべき医療の姿を示す「安心と希望の医療確保ビジョン」の策定を進めるた め、本会議を開催するものであります。  「検討事項」としては、歴史的・文化的・国際的な位置付けも踏まえた我が国の医療の在り方 など、総論的な事柄を話し合いたいと思います。その後、各論として医療を支える人材、医 療機関の在り方、医療サービスの内容などについて、委員の先生方から大きな方向性につ いてご議論を賜れればと思っております。  「運営」についてですが、議事については公開ということで進めさせていただきます。  「スケジュール」については、本日第1回会議を開催し、1カ月に1回から2回程度開催し、本 年4月を目途にビジョンを取りまとめたいと考えております。  内容についてですが、資料2は人口や医療に関する大変基礎的かつ大局的なデータを並べ ております。本日の先生方の自由なご議論のインスピレーションのきっかけのようなものにし ていただく趣旨で用意させていただきましたので簡単に見ていきたいと思います。   1頁は平均寿命で、女性の平均寿命の推移です。女性の平均寿命は、1980年代後半に80 歳を超え、G7諸国の中で最長となりました。2005年時点で85.5歳に至っております。   2頁は男性の平均寿命です。男性の平均寿命については、グラフの左のほうで1960年代の 後半以降、G7諸国で最も長くなっております。2005年時点で78.6歳になっております。  3頁は乳児死亡率です。乳児(1歳未満児)の死亡率は、グラフの左のほうの1960年代後 半以降一貫して、G7諸国での最低レベルとなってきております。   4頁は、我が国の人口の推移です。我が国の人口は2004年にピークを迎え、減少の局面 に入ってきているところです。この図でいくと、2010年以降は推計となるわけですが、合計特 殊出生率を1.26として推計すると、2055年には9,000万人を割り込み、高齢化率は40%を 超えるという推計になっております。 5頁は、同じ推計で人口ピラミッドの変化を見たものです。左から2005年、2030年、2055年 となっております。我が国の人口構造の変化を見ますと、現在はこの図のいちばん下の四角 で囲んであるところですが、1人の高齢者を3人で支えている社会構造になっております。こ れが、少子高齢化が一層進行いたしますと、徐々にこの分母のほうが減ってまいりまして、 少子高齢化が一層進行してまいりまして、2055年には1人の高齢者を1.2人で支える社会 構造になると想定されています。 6頁では、そうした高齢化が進んでいく中での亡くなる人の数、死亡数の年次推移です。平 成17年までが実績値で、その後は推計値です。左側の目盛りでまいりますと、平成17年の 実績値がおよそ100万〜110万の間というところです。推計値ですが、平成52年(2040年) には約1.5倍の166万人で、1年間でお亡くなりになる方の数が増えていくという社会がやっ てくるという推計になっております。   7頁は、亡くなる要因の年次推移です。これはいままでの統計ですが、先生方もよくご存じの ように、右側にあります悪性新生物・心疾患・脳血管疾患といった理由でお亡くなりになる方 がシェアとして多いということです。  8頁は、お亡くなりになる場所のデータです。これは、医療機関における死亡割合の年次推 移です。医療機関において死亡する方の割合が年々増加してきており、昭和51年に自宅で お亡くなりになる方の数を上回っております。さらに、近年では8割を超える水準となってきて いるところです。  9頁は、年齢・階級別受療率のデータです。どういうことで医療機関にかかっているかという データです。上が外来、下が入院です。外来の場合には、まず子供時代に1つ大きな山があ ります。年齢を重ねていくに連れだんだんと増えていき、50歳代後半からそのカーブが少し 急になってきて、70歳代後半でピークを迎えるところです。押し上げの要因としては、ほとん どすべてのものが押し上げに寄与しているところですが、右側の四角の中で特出しておりま すような、関節症などの筋骨格系等の疾患、あるいは循環器系の疾患、糖尿病など、新生 物といったものについては、ピーク時あるいは80歳代前半まで増えているところです。一方 で入院については、年齢を重ねるごとに加速度的に増えていくようなグラフになっております。 それで、いちばんの山が90歳以上のところとなっております。   10頁は、G7諸国の寿命と健康寿命というデータです。これは下に出典を示しておりますが、 WHOのWorld Health Reportなどから引用したものです。寿命と健康寿命と比較したもので、 左側が男性、右側が女性となっております。日本は、平均寿命についても、また健康寿命の データにおいても、G7諸国の中で最も長いデータという状況になっておりまして、それは男女 とも同様の傾向になっております。   11頁は、OECD加盟国の医療費の状況のデータです。これは30カ国のデータを比較したも ので、日本の欄は右側の四角の真ん中辺りにあります。OECD加盟国と比較いたしますと、我 が国は総医療費の対GDP比は、先進国の中では比較的低く、また我が国の1人当たりにか かる医療費も比較的低い水準にとどまっているところです。  12頁は、OECD諸国での医師数の比較のデータです。左側に国名が並んでいて、右側に OECD諸国それぞれの人口1,000人対医師数が示されております。上からずっと目を追って いきますと、下から4番目の箇所に我が国のデータがあります。 13頁ですが、一方で同様の形で病床数についてOECD諸国で調べたデータです。我が国の 病床数は、人口1,000人当たり14.2ということであり、他のOECD諸国に比べて大幅に多く の病床を有しているところです。   以上、こちらで用意いたしました資料を簡単にご説明申し上げました。 ○二川医政局総務課長   本日は第1回ですので、フリーディスカッションという形で、ご出席の方々にご発言いただきた いと思います。 ○野中委員  資料2の13頁の病床数のことで教えてください。この病床数について、急性期の病床と、慢 性期の病床との数の比率がわかれば教えていただきたいと思います。なぜこういう話をする かといいますと、私は大学病院で勤務しながら、その後診療所を浅草で開業しています。そ れで何年か経って、いま医療が社会保障制度として欠けているという視点で、治すという医 療に関して我が国の医療は世界の医療とそんなに遜色ないと思います。しかし、支えるとい う部分が非常に欠けているのではないのだろうか。   特に、私は診療所の医師として欠けているのではないかと思っていますし、そういう面で病 床数とか医師数のことについては、病院の中で病床数だけで考えるのではなくて、その病院 が急性期の医療として国民の生命を預かる病院、それから患者の生活とか人生を支える医 療の病床とは分けて考える必要があるだろう。   もう1つはこの前のいろいろなデータを見ていても、例えば8頁は有名な図と言われていま すけれども、昭和26年には自宅で亡くなる方が8割だったのが、現在は病院で8割だという ことです。このことにおいても、治すという視点で、例えば治療する視点で、国民は病院を選 ぶのはある面で当然だと思います。そこで、私たち医療を提供する者が忘れていたのは、た とえ病気や障害を抱えていても、患者の生活を支える。その支える場所として医療機関が適 切だったかどうかという部分の視点が、私たち医師にとっても足りなかったということを大きく 感じます。   いま、私の所の診療所では在宅医療というか、地域の高齢者の方々が住み慣れた地域で、 病気や障害を抱えても家で生活したいという方々に対する仕事をしています。昔は、高齢と いうことだけで在宅という生活を選んだと思うのですけれども、最近ではがんというか、将来 避けることのできない死がある方々も在宅医療の現場で生きております。そういう中で支える 視点というのが大事だ、ということをつくづく痛感しております。そうやって翻ってみますと、医 療の中でそのことがいちばん欠けていたのではないのだろうかと思うのです。本日の資料を 見ていてそういうことを感じます。   どうしても強調したいのは、医師1人の個人の能力というものが医療の中で語られすぎてい る。もう1つは、古い言葉で当たり前の言葉として語られていますけれども、連携というか、病 院と診療所の連携がもっとうまくいけば、もうちょっと患者の生活を支えることができると思い ます。どうもそういう連携という部分の中でうまくいっていない、ということを大きく課題として 医療の中で捉えています。  特に私は診療所の現場で患者といろいろ話をしていて、本日も診療所で風邪の患者を診 ていて家族の話をいろいろしていて、その方から聞かれたのは、実はおばが病院から追い出 されたので、在宅生活をしていなくてはならなくて、その家へ見舞いに行ったという話がありま した。なぜ病院から追い出されたという言葉が言われるかというところに、医療が国民にとっ て社会保障制度として、追い出されたという感覚を持たないような配慮が大事ではないかと 思っています。  かい摘まんで言えば、支える医療というものに対する認識をもっと持つべきだろうと思いま す。そういう面の中では、病院の中で急性期で頑張る先生たちには頑張っていただきたいと 思います。片方では、診療所として支える医療の大事さをある面では認識していただきたい と思います。   それは医師1人だけではできません、特に支える医療は。やはり、多職種が連携しなければ ならないですし、その中には看護師やヘルパーといったさまざまな職種の人がいなければな りません。昨年のある事件から、どうもヘルパーとか介護の職種に希望がなくなり、介護の学 校などへ行く人たちが減っているということが、医師だけではなくて大きな問題として捉えてい ますので、どうかその点も今後検討していただけたらと思っております。 ○矢崎委員  本日は、安心と希望の医療確保という視点から、長期的な我が国の将来の医療の在り方の 視点でご議論いただく委員会を発足してくださいまして大変ありがとうございます。   いままで、医療に関して課題が生じますと厚労省の下で、いろいろな審議会・検討会が開か れております。しかし、その医療そのものが大変複雑なものですから、せっかくそこで審議さ れた結果が、必ずしも医療側にも患者側にも率直に、あるいは十分な理解が得られないとこ ろがあるかと思います。このような貴重な機会というのはメディアの注目度も高いと思います ので、少なくともここで議論されたことが患者側にも、医療側にも十分その真意が汲み取られ るような進行を事務局によろしくお願いしたいと思います。   患者側も、医療側もいろいろな課題に対して過敏に対応しているところがありますので、大 臣が言われた、少し長期的な視点に立って議論を進める。喫緊の課題の対策はもちろん重 要ですが、そういうことも重要ではないかと思います。私は臨床医として病院で働いてきまし たし、いまは病院全体の運営を見る立場にあります。病院のあり方、あるいは病院の抱えて いる問題を中心に課題が明確になり、少しでも解決の方向が見出せればと思います。   医師不足の問題も、先ほど大臣がご指摘になられました産科などの救急医療、がんの治 療・手術といった、高度医療に関する病院機能の低下というのが皆さんいちばん心配されて いるところでありますので、そのあり方をどうするか、運営のあり方をどうするかを少し議論を 深めていただければと思います。   先ほどの資料にありますように、高齢化時代を鑑みますと、これから入院医療の需要がも のすごく増えていく。ただでさえ、いま病院の機能が低下しているのではないかと言われてお りますが、今後はさらに在宅医療を推進する一方で、入院需要が事実増加すると思います ので、その対策をどうするかということも重要な課題ではないかと思います。   もう1点申し上げますと、我が国における医療人の養成をどう進めるかということです。これ は、我が国の医療のあり方に関連しますが、例えば先ほどの病院の運営から申し上げます と、病院というのは国家資格の違う医師・看護師・薬剤師・その他のメディカルスタッフから構 成されて、資格で縦に分かれています。横には外科・内科・循環器・その他の診療科で横に 分かれていて、非常に分断された組織なのです。チーム医療と言われていますが、なかなか コミュニケーションが難しくて、最近注目されている医療事故の大部分はコミュニケーション不 足に由来します。これは職員間、あるいは患者・家族とのコミュニケーションもあるかと思いま すが、そこをどうするか。病院の運営そのものは驚いたことに、歴史を振り返ってみますと、 明治以来こんなに医療が近代化し、装置も近代化しているのに、病院の運営というのは昔ど おりで全然変わっていないのです。ここを、抜本的に病院の生産性を高めるにはどうしたらい いかという視点から考えますと、いま申し上げました良き医療人の養成・育成というのは、今 後医療のあり方を振り返ってどうしたらいいか。  医師に例えれば、専門性を高める一方、総合性を高める。先ほど医師の数の問題が議論 になりましたが、これは極めて専門性の高い医師を養成する一方、みんなが専門性の高い 医師になったら、それは医師が何人いても足らない。いま、病院の医師不足の中にも専門性 を高めているために、1人の患者を何人もの医師が診なければならないところもあって、これ は専門性プラス総合性を持った医師の育成というのも、これからは十分必要ではないかとい うことで、良き医療人の育成はどうしたらいいかということを、やはり今後大きな課題として取 り上げる必要があるのではないかと思います。   そのほか医療提供体制の問題とかいろいろありますけれども、それは議論を進める中で述 べていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。 ○辻本委員  患者の立場ということで、こういう場に参加させていただくことを非常にうれしく、また光栄に 思っております。17年前から電話相談ということで、同じ患者の立場でしかないのですが、一 緒に考えるお手伝いということで、4万2,000人の方の相談に耳を傾けてきました。   17年前にスタートしたころは、本当にこんなことを医師に聞いてもいいのでしょうか、というぐ らい遠慮がちな患者たちの声だったものが、最近では私たちもたじたじとするぐらい権利意 識が高まり、情報を集めていますし、自分の気持を自分の言葉で語れる人たちが増えてきて いるし、さまざまなデータが右肩上がりに上がるごとく、患者のニーズが高まりを見せている ことを実感しています。  わずか17年なのですが、本当に日本の医療が変わったということも見てまいりました。1つに は医療提供側のお二方のお話もそうですけれども、17年前の医師の意識と、今日の医師の 意識というのは本当に大きく違います。その背景にはいろいろ歴史的なものもあると思いま すけれども、そういう意味では患者の私たちが「医療はサービス」をはき違えをしてしまったの ではないか、という状況も1ついま胸を痛める問題として抱えております。権利と義務という のでしょうか、そういうものを少しはき違えてしまっているところもあるとすれば、この場に患者 という立場で迎えていただけたというその裏には、患者がもっともっと成熟しないといけないと いうことを国民全体で考える機会を与えていただいたことでもあろうかと思っています。成熟 ということは自立、もっと言うならば医療の限界や不確実性ということを私たち患者がどの程 度の覚悟を持って引き受けていけるか、ということがいま大きく問われていることだと、電話 相談など、患者・家族の声を聞きながら感じています。   国民皆保険が整備され、与えられる医療、施される医療というような位置付けだったものが 大きく変わってきたことの中に答えが潜んでいると思います。患者の役割としては協働する 医療、共に参加し、お互いにこの人に出会えてよかったね、と言えるような人間関係も含め た医療というものを、患者が成熟していくことで築けるのではないでしょうか。   私は、この「安心と希望の医療確保ビジョン」というタイトルの中の「希望」というところに非常 に大きく、胸をワクワクさせるような期待を込めてこの場に座らせていただいております。   いま患者が何を求めているか、そうしたことをずっとずっと電話相談ということの定点観測で 聞いてまいりましたが、患者と医療者関係で何が大事かといえば、いかに情報を共有するか、 そしてどう向き合うか、インフォームド・コンセントとコミュニケーションがテーマだと思います。 野中委員が、支えるということを言ってくれましたけれども、私は患者の立場から共に参加す るというキーワードで、協働の医療の構築ということを実現したい、その中での患者の役割と いうことを模索していきたい、そんなことをこのビジョンの中に思いを込めております。   良き医療人の育成というお話がありましたが、私たちも医学部の授業の中、それから研修 制度といったところで、若い医療人の育成に関わりを持たせていただいています。例えば、あ る大阪府内の病院の研修医、2年次の「地域医療」枠のわずか1週間なのですけれども、お 預かりして電話相談ということで、患者・家族の声を聞いていただいています。2年目の研修 医ですらもう疲弊しきっている、患者が怖くてしようがない。患者に怒鳴られたことで、もう本 当にいやになっちゃった、というような愚痴を昼ご飯を食べながらいっぱい言っていました。そ の彼らが、電話相談で切々と語る患者・家族の声を耳にすること、平均40分、長い場合には 1時間、1時間半以上かかる電話に、私どものボランティアの方がじっと耳を傾けているその 様を見て、やはり向き合うというのは大事なことですね、ということに気づいてくれるのです。   そして、医療現場が忙しいということの中で、もう一言言葉を添えれば、もっともっと円滑な 人間関係ができるのにという原点に気づいてくれる。その中で、現場に帰った2年目の研修 医から、電話相談の方、ボランティアの方たちから教えられたことで、もう一度気持ちを切り 換えて向き合ったら、患者の顔まで違って見えてきた。やはり怖がっていたり、いわゆる敵対 というようなことで医療は絶対に進められない。やはり一緒に築いていくことですねと。言って みれば当たり前のことですが、いちばん大切なことに気づいてくれたということで、その言葉 を送ってくれたときに、私たちのほうがみんなで大喜びしたことがつい最近ありました。  そういう意味では、本当に2年目の研修医が疲弊しきっているという現実を、もう少し患者側 の私たちもしっかりと捉えて、やはり良い医療に出会うためにということで、医学教育あるい は医師の育成、といったところにも関わっていける患者になりたいと思っています。 ○西川厚生労働副大臣 お三方からそれぞれ大変いいお話を聞かせていただきまして感謝申し上げます。特に野中 先生のお話は、厚生労働省が1つの方向性として、在宅医療を最終的な大きな目標として いるわけですが、その理念はおそらく一致しているのだと思います。その中で、支えるという ことの人材不足ということをおっしゃっていただいて、まさに共有している問題だというところを ご指摘いただいたという思いでおります。   矢崎先生の、コミュニケーション不足が問題だというのは、辻本さんのお話と基本的に同じ だと思うのです。私は、今回の肝炎の問題も座長を務めさせていただきましたが、常に裁判 になっていくという医療の問題というのは、本当はいちばん基本に患者と医師との信頼関係 があったら、実はそういう不幸な結果になっても裁判にはならないという現実が結構あるので はないかと思うのです。   そういう中で、いま辻本さんがおっしゃったように、医師の考え方なり態度が圧倒的に17年 間で変わってきたというお話を、私はなるほどという思いで聞いていました。今度は、医師の ほうが患者にナーバスになりすぎて、なかなか医師としての誇りが保てないというような現実 を私も自分の地元で、いろいろな所でお話を聞いております。   お互いにささくれ立って、相手を非難し合うような、これを私はあえて申し上げますが、マスコ ミの方々の報道の仕方というのは正直言って問題ありと思っています。現実に、いま行われ ていることをきちんと報道していただく、その中で問題点ありという報道を是非していただきた いと思います。その問題点だけが全面的に出てきて、お互いに不毛な争いみたいなものだけ が報道されるというのは将来に対して本当に不幸だと思うのです。そういう中で、お互いがと ことん話し合って、信頼感を保ちながら共同する医療の方向性というのは、将来の理想的な 姿だと思います。   私は、辻本さんにいちばん期待しています。患者の立場ということでどういうお話をしていた だけるか。正直言うと、患者の権利ということに最重点を置いたお話をたぶんされてくると思 っていました。その中で、患者の側の成熟が大事であって、権利と義務の中庸を患者自身が しっかり考えなかったら、日本の医療は崩壊してしまうというお話をいただいて、私は本当に うれしいです。まさにそのことだと思います。厚生労働省のほうは、医療の先生方の奮闘に 甘えている部分もありますから、それにきちんと応えていかなければいけない。   本日は、お三方の大変バランスの取れたお話をいただきまして、決していい子ぶっていいお 話だけをするつもりは全くないのですが、いまの日本の現実というのはそこがいちばん問題 だと思っています。お互いに指摘し合うばかりで、実はお互いに理解し合って育てていく部分 というのが非常に欠けている。教育の現場でもおそらくそうですし、政治の分野でもそうなの ですが、それは本当に日本という国の将来に対していいことではないので、そういう前向きな 視点でお互いに意見交換させていただけたらと思います。ありがとうございました。 ○松浪厚生労働大臣政務官 先生方、どうもありがとうございました。皆さんからいま伺った話の中には、病院の生産性の 問題、それから病診連携、さらにはチーム医療等、いま厚生労働省が課題としている問題が バランスよく散りばめられていたと思います。私も政務官にならせていただいてから、各厚生 関係の団体である三師会から病院協会等20団体ほど回らせていただいて意見交換をさせ ていただく中で、先が見えない、まさに希望と安心が見えない、ということが現状であろうと思 います。   特に辻本さんがおっしゃったように、患者の意識も大きく変わらなければいけないということ は、諏訪中央病院の鎌田先生がお書きになっていましたけれども、名医よりも良医をと。地 域と密着した。名医が要るのは人生に何度かだと。でも、ついつい我々でも地元で支持者の 方は市民病院へ行こう、医大へ行こうと、風邪でもそちらへ行きたがるというような、そういう 意識改革がまだ行われていない中で、そういう連携で患者の意識を変えていかなければい けない、というのは私も非常に強く感じます。   それが終末期の問題等になりますと、私たちも終末期の医療をいかに選択できるか。いま は選択権がないのです。私は、尊厳死という言葉はあまり好きではないのですが、尊厳的な 医療をどのように選択できるかというようなこと、これを議論すると、亡くなる前の医療費を下 げたいだけではないか、ということでついついタブー視されてしまいます。私の祖母は、絶対 に寝たきりになりたくないとずっと言っていた気丈な祖母だったのですが、結局気管切開と胃 瘻で4年間寝たきりということでしたが、これではクオリティ・オブ・デスというものが全くないと いうことを本当に身を持って私も感じております。   我々がいま議論しようとしていることは、これから先を見据えてということです。特に日本の 少子高齢化率というのは、65歳以上の方が7から14%になるのに、フランスでは110数年 で、ドイツでは40年で、日本は24年というような、まさに超少子高齢化のスピードですから、 国家戦略としていかに国民の皆さんにこの問題に対応できるのかということ。先生方のそれ ぞれの現場でタブーというものがあると思うのです。これを言ったら、こういうふうに誤解され てしまうということもあると思うのですけれども、そういうものに今後我々がこの議論の中で切 り込んでいかないと、本当にこれだけ厳しい中での未来は見えないのではないかと思います。 特に先生方の中で、これはちょっと言いにくいな、ということについて特にご発言をいただけ ればありがたいと思います。 ○舛添厚生労働大臣  資料の12頁を見ますと、いちばん下がトルコで、日本は下から4番目、しかしアメリカ合衆国 もヨーロッパに比べると人口1,000人当たりの医師数が少ない部類に入るのだと思います。 それにも関わらず、これは矢崎先生がおっしゃったと思いますが、日本の医師ほど忙しくない、 大変ではないというのは、その医師を支えるスタッフ、メディカルクラークなり、アシスタントな りが手分けして役割分担ができているからだということを、この前循環器の医師と話をしてい たらそういうことだということでした。   現在、メディカルクラークという制度を入れることを検討しておりますけれども、医師がカルテ を書く整理の時間だけでもなくて済めば、どれだけ多くの患者を診ることができるかということ なのです。チームとして、これは医師だけではなくて先ほど来ある看護師、メディカルクラーク、 アドミニストレータを含め、どういうチームでやるのかということの答えを、長期的ビジョンで出 したいということがあります。だから、これもただ単に人口1,000人当たりの医師数というより もその中身、チーム構成がどうなっているかを事務局に調べてもらいたいということです。   野中先生がおっしゃった、病床数は多いのだけれども、自宅で支える視点というのがないと いうことですが、私は医療よりも介護のほうから最初に入ったものですから、私の認知症の 母親などは治すというよりも、いかに支えるかということがありました。 1つは、自宅で生ま れ、自宅で死ぬ。私も含めてだけれども、以前は正常分娩は産婆さんが自宅で取り上げてく れて、何の問題もなく育ってきています。いまは、みんなクリニックでしか産まないというのは なぜなのだろうか。これは、畳の上で死なないというのもほとんどそうなのです。 子供の教 育という面でも、私は自分の弟妹が自宅でオギャーと生まれる瞬間を見るのと、おじいちゃん、 おばあちゃんが事切れるのを見るというのは、生と死に対する決定的瞬間を共有することだ と思うのですが、今はその大切さみたいなものがなくなったのではないか。それが、少年犯罪 などに直接つながるかどうかは別として、そういう問題意識をもっております。   それから長期的に支えることにすると、場合によっては医療と介護の線引きをどうするのか。 医療保険と介護保険の垣根を取り払うという考え方があってもいいのではないかと思うので す。支えるということからいうと、ちょっとそういう問題意識を感じました。   辻本さんのところで言うと、医療事故などの究明をしていて、何がいちばん知りたいかという と、真相究明が一番で、そこから先に失われた機能を戻してくださいとか、補償してくださいと いうのがある。だけど、真実を知りたいということが非常に多い。そこでどういう形で情報を共 有するのか、いまはインターネットがあります。いま私は厚生労働大臣なので何かあれば皆 さんに聞けるのだけれども、ほとんどの医療情報はインターネットで取れます。それで、例え ば矢崎先生に私がかからなければいけないとなって、この先生は大丈夫かというときには、 学術雑誌まで見ることができます。それで、矢崎先生はこういういい論文を書いておられるか ら、これは立派な先生だろうと思ってかかったりする。そういうインターネット時代における情 報の共有のあり方、というのは1つ問題提起しておきたいという感じがいたします。   では、どこまで正しい情報なのか。現場でずっと患者を診ている場合に、最新の医療情報と いうのは本当に入れることができるのだろうか。そうすると、ネットで見たほうが場合によって はよくわかって、ものすごい失礼な言い方をすると、ホームドクターよりも、ネットの医療情報 のほうが進んでいたりすると、そこで若干トラブルが起こったりするようなこともあります。イン ターネットは、これからますます盛んになってきますので、それにおける医療情報の共有の仕 方などということを、いま皆さんのお話を聞きながら雑感ですけれども感じました。あとは、ご 自由にご発言いただければと思います。 ○辻本委員  ただいま情報というお話が出たのですけれども、かつては情報がなかったのです。いまおっし ゃられたように、最近は私どもの電話相談の中でも情報をいっぱい集めて、逆に言えば情報 の海に溺れそうになって、どうしたらいいのでしょうという相談が届いてきます。   先ほど、私は「成熟」という言葉を使わせていただいたのですけれども、人が成熟に至るプロ セスの中で、例えば情報というものを吟味するために、やはり第三者機関というのでしょうか、 相談機関というのでしょうか、情報はいっぱい集めた、それで私はどうしたらいいのでしょう。 こういう情報と、こういう情報があってということをおっしゃる中で、あなたはどうしたいのです かということを聞きながら、いままで自分でも自分の気持を言語化しなかったような、心の奥 底に潜んでいる、本当はこうしたいのだという気持と自身が向き合うために、間をつないでく れる人の支援があって初めて役立つものになっていくのではないかと思うのです。   先ほどから、チーム医療という話も盛んに出てきているのですけれども、医療現場において も、医療そのものが成熟していく中には、医師だけに負荷を求めるのではなくて、もっともっと 隙間というと失礼かもしれませんが、役割分担の中で、そこは私たちに引き受けさせてくださ いというような、コメディカルそれぞれのプロフェッショナルが出てくる仕掛けが必要です。いま まで主役でいた人たちの、その裏で働いていた人たちが、今度は主役になっていく、そういう 構図を作っていくことができないのか。   やはり17年間電話相談をしてきて思うことは、「問題の渦中にいるときにこの相談機関を知 っていたらどんなによかったでしょう。終わってからでとても残念です」と言われて、私たちの 活動のPR不足ということをいつも感じているのです。ちょっと心に寄り添ってくれる、ちょっと 隙間を埋めてくれる、そういう所を一緒に考えていける橋渡し役が、本当の意味の成熟という ことに辿り着くための支援として必要ではないのかということを感じています。 ○矢崎委員  いま、大臣からインターネットを介して情報の氾濫という言葉がありましたが、これは患者側 のニーズとしてやむを得ないと思うのです。やはり医療側が、いまセカンドオピニオンというこ とで、自分が受けている医療について、本当にこれは正しいかどうかということから始まり、も っと違う選択肢もあるのではないかということを提供する。   いまも相当普及していますが、まだまだ患者側がいまかかっている先生に手術しなさいと言 われたら、本当に手術が必要かということをほかの医師に聞きたいと言っても、私の家族と か親戚でも、そんなことはいまはいいのだと言ってもみんな躊躇してしまうのです。ですから、 医療側ももう少しフランクに、それが将来の医療のあり方のいちばん大事な根底のもので、 信頼をおけるいちばんのポイントだということを理解し、個人の腕を疑っているのではなくて、 確証を持ちたいために行くのだということで、患者と医師とのコミュニケーションを深める意味 で重要だということを認識して、患者側も利用していただきたい。それから、医師側もまだま だそういうことに対して抵抗感を持っている方もおられるので、是非その辺の理解を深めてい ただきたいと思います。   辻本委員から大変心強い発言をいただいて、本当にありがたく思っております。医療と、医 療を受ける側との間の関係が最近いろいろ摩擦が生じています。これは、不幸にして過誤を 含めた医療事故が起こった場合に、その対応するシステムとしてしっかりした体制がない。医 療で何かあると、最終的には裁判で決着をつける。裁判というのは、灰色の決着はありませ んから、白黒で争うことになるので、本当に医療で起こったことを公平に、透明性高く判断す る機関がない。   この度医療安全の調査委員会が第三者機関としてできるといった場合にも、医療側がそこ の調査の資料が裁判のときの供述書として用いられるのではないかとか、医療側が非常に 過敏になっている。その趣旨を十分司法も医療もわかった人が間に立って、よく議論を進め ないと、お互いに素人同士で話し合っても、お互いに裏側に何かあるのではないかというよう な無駄な議論をしてしまうところがあります。   私は医療に何かあったときの対応は、裁判か先ほど副大臣がおっしゃられたマスコミがどう 判断するかにかかっているので、もう少し医療の専門家を交えた、もちろん一般的な患者の 代表も入った所で、本当に真相を究明するということを十分理解していただくことが必要だと いうことです。   先ほど申し上げましたように、医療側も、医療を受ける側も十分理解を深めるようなプロセ スがないと、不十分なまま実施されると、かえって関係が悪くなる可能性もあります。先ほど 申し上げましたように、議論が深まって、両方が十分理解を持って物事を進めるということを 是非お願いしたいと思います。それには少し時間をかけた議論、それも時間だけかけるので はなくて、非常に凝縮した議論が行われれば、そんなに時間はかからないと思いますので、 そういう点もご配慮いただければと思います。 ○野中委員  先ほど、大臣が認知症の話をされましたが、私も介護と医療の仕事で、認知症の専門家で はありませんけれども、認知症をもっても住み慣れた地域である程度の期間、生活できること に対してずっと仕事をしてきました。その中でつくづく思っていることは、認知症に対しての対 応が、日本の医療は遅れていることが、いまの医療の大きな問題であります。治せないという ことをどうやって理解するかということが医療の中に欠けていたと思うのです。   医療が治せるものは、どんどん文明が進んで、技術がどんどん進歩して、いろいろなものを 克服すること。それは矢崎先生たちの、特に大学病院にはもっとどんどんやってほしいと思 いますし、そこがやれるような状況に国が制度として、医師の数も増えてしなければなりませ ん。片方で、地域の中では治せないような患者をどうやって支えていくか、という視点がいま までの中になかったということが、社会保障としての医療の制度に欠けていたと思います。   私も、自分の母親が認知症でしたけれども、そこでの自分の体験として何をわかればいい かといったら、本人の不安をどうやって理解してあげるかということが大事だということに気が ついたときに、初めて自分として地域の診療所の医師として、ある程度自分のやり方、方向 性が固まりました。   もう1つ私は人工透析の仕事をしていますが、中には30年以上も私の診療所に通ってきて くださる方もいます。週3回透析を受けながら30年も生きている方々の姿を見ますと頭が下 がります。そういうやむなく病気を抱えてしまった人たちに対し、私たちは何ができるのだとい うところを医療の中で考えて、初めて自分が医師として医療社会保障制度の中にいる存在 理由がわかるわけです。   私は医師会活動もしてきましたけれども、現場の医師だけではありませんけれども、自分た ちは何の目的のために医療の仕事を選んだのか、そこをどうも忘れてしまうというか、もっと 言えばハウツーものばかりに目先が行って、自分たちは何のために医療の仕事を選んだの か、そこを忘れてしまうということがあったのではないか。制度としても、そういうことを忘れさ せられてしまったのではないかということがあると思います。   特に矢崎先生たちがやられているような大学病院の急性期の医療の先生たちは、患者の 生命を守るために酷な時間の中で仕事をしなければならない。そこにはいろいろな人材を入 れるような工夫をされることが必要だろうと思います。私たち地域の現場の中にも、さまざま な多職種との連携がどうであるかということが必要だろうと思います。   患者たちの中には、いろいろ不平とか苦情を言う方もいますけれども、そういう方々ときちん とコミュニケーションをして、その方が患者たちの不安を共有することにより、その患者たちは 苦情を言わなくなるということを、私はこの数年間経験しております。それは、まさに辻本さん が言われたように、患者に一緒に参加してもらうということ、最近ではEBMと同時に、NBMとい いまして患者の人生の物語を一緒に作ろうということを、医療人として参加できるということ が大事だと言われていますので、私はいまそういうことを大事に感じています。   連携という言葉は言いやすいのですけれども、どうやったら連携ができるかという部分を是 非考えていただきたいと思います。最終的には患者とも連携する姿勢が大事だと思います。 非難をすることよりも、私たちが何を社会保障制度の中で患者と共有するかという姿勢がい ちばん大事なのではないかと思っています。 ○辻本委員  先ほど、政務官が言いにくいことを言ってくださいとおっしゃったので励まされて言います。検 討事項の中にも、「医療サービス」というキーワードが登場していますが、医療をサービスと いう言葉で語っていいのだろうかという疑問をずっと抱いてきています。10数年前の厚生白 書で、初めて医療はサービスということを謳った辺りから、患者と医療者の関係も何やらギク シャクしてきたのではないか。例えば患者様などという様呼称が始まったのも、どうもその辺 りが影響を及ぼしているような気もします。患者も、サービスだったら良くて当たり前ではない かということで、マイナス1を探すようなまなざしで医療現場を見てしまう。そういう様変わりと いうところにも、このキーワードが大きな影響を及ぼしているように思います。この医療サービ スということですが、果たして医療はサービスなのかということを是非深めてみたいということ を望んでおります。   もう1つ、大臣が歴史文化というところから日本の医療を見つめてみたいと言っていただい たときに、真っ先に感じたのがインフォームド・コンセントです。アメリカなどの文化の違う医療 現場で育ったものが、そのまま直輸入されてきたことで、やはりこれも患者と医療者関係が 歪んでしまった原因の一つではないのか。日本には日本の歴史の中で、文化の中でどう向 き合うかというような人間関係に必要なもの、例えば家族の存在や関わり方についてもアメリ カなどとはやはり違うものが、医療という現場の中でも問われているのではないか。   インフォームド・コンセントという言葉が、10年ぐらい経ってようやく医療現場に根づきました。 概念の必要性を患者側も受け止めるようになりました。それだったら、次の10年は、言って みれば日本型のインフォームド・コンセントとはどういうことなのだろうと、そんなことも希望の ビジョンの中で、私はみんなで考えてみたいと思っています。 ○二川医政局総務課長   時間も過ぎましたが、最後に大臣から何かございますか。 ○舛添厚生労働大臣  いまの辻本さんの話の関連ですけれども、医療というのはサービス産業、ビジネスとしてどう 位置付けるのか。それも、医療の効率化とか無駄を廃しなさい、ビジネスとしてペイするかし ないか、というのは1つ議論があると思うのです。いまの日本の競争力を考えたときにバイオ の部分、特に薬の部分で日本の製薬メーカーの競争力は国際的に見てどうかという話があ ります。   だからこの先端分野について、特に薬などはそう言えるのでしょうけれども、ビジネスとして 位置付ける考え方と、赤髭先生ではないけれども、そういうものではいけませんと言う考え方 もある。そうすると、また財源論になって恐縮なのですけれども、どういう形で医療体制を支 えますかとなります。それこそ北欧並みに消費税25%でいきますか、というような話にもなる わけなのですが、これは国民的な議論が相当必要になります。  サービス産業としての医療も必要だろうという感じはしています。しかし、片一方で国民皆保 険というような話をしたときには、それを超える何らかの哲学がないといけないと思いますの で、その議論が十分いっていないところも長期的な医療体制の構築ができにくいかなという 問題意識がありました。いま、医療サービスという言葉をおっしゃったので、それも問題提起 しておきたいと思います。 ○二川医政局総務課長  まだ議論は尽きないかと思いますけれども、予定の時間を少し過ぎておりますので、本日は このぐらいにさせていただきます。今後の日程等ですが、次回の会合は、冒頭にご説明いた しました、総論部分であります歴史・文化・国際的位置付けといった部分について有識者か らのヒアリングを行いたいと思っております。日程につきましては、今月中に調整させていた だきたいと思っております。本日はこれで閉会といたします。どうもありがとうございました。