介護事業運営の適正化に関する有識者会議報告書

介護事業運営の適正化に関する有識者会議

平成19年12月3日

1 はじめに 

○  本有識者会議は、株式会社コムスン(以下「コムスン」という。)の不正事案を受けて、介護サービス事業者による不正事案の再発を防止し、介護事業を適切に運営するために必要な措置等について検討するため、平成19年7月に設置され、関係団体からのヒアリングを含めこれまで5回にわたり議論を行ってきた。

○  全国的に事業を展開していたコムスンは、その不正行為により介護事業から撤退することを余儀なくされ、事業移行も完了した。一方、不正行為の発覚からコムスンの介護事業が承継事業者に移行されるまでの間の一連の対応の中で、現行の法制度の問題点も明らかとなった。

○  このため、本有識者会議では、
 ・  広域的な介護サービス事業者に対する規制の在り方
 ・  指定事業者の法令遵守徹底のために必要な措置
 ・  事業廃止時における利用者へのサービスの確保のために必要な措置
等を中心に議論を行ってきた。

○ 今般、これまでの議論を踏まえ、本有識者会議は、不正事案の再発防止及び介護事業の適切な運営のために必要な措置等に関し、報告書を以下のとおりとりまとめるものである。

2 問題の所在 

○  介護保険法に基づく事業者規制については、平成12年の介護保険法施行当初は、事業所ごとの指定取消しかできず、指定の欠格事由も限られ、また、指定の更新制が導入されていないなど、悪質な事業者を排除するための規制が不十分であった。
  そこで、平成17年の介護保険法改正(以下「平成17年改正」という。)においては、悪質な事業者を排除するため、一事業所の指定取消が他の事業所の指定・更新の拒否につながる仕組みの導入、指定の欠格事由の追加、指定更新制の導入等事業者規制の見直しを行ったところである。

○  コムスンに対する処分は、複数の事業所で不正な手段による指定申請が組織的に行われていたものとみられることから、平成17年改正により設けられた規定を適用し、コムスンの全事業所について指定及び更新を拒否することとしたものであるが、これは適切なものであったと考える。

○  しかし、本有識者会議における議論の中で、

(1) 企業統治の中心である事業者の本部等に立入調査・報告徴収をすることができず、必要な命令等を行うことができなかった。

(2)  コムスンは、いわゆる処分逃れとして、本来指定取消の対象となる事業所について、その処分前に廃止届を提出したため、指定権者が事業所に対する取消処分をできなかった。

(3)  コムスンは、同一グループ内の他法人に事業譲渡を行い、指定を受ける旨を表明した。これは実質的に処分の回避と見られかねない行為であったが、現行の法制度では何ら制限がない。

(4)  不正行為を組織的に行っていない事業者でも、一事業所の指定取消により他の事業所も一律に指定・更新を拒否されるが、これは行為と制裁の均衡という観点から妥当なものか。

(5)  事前規制から事後規制への流れの中で、事業者自らが業務の適正を確保するための内部統制の仕組みの重要性が増しているが、介護サービス事業者の法令遵守が十分に確保されていない。

(6)  利用者数・事業所数が多い事業者や、居住系サービスを展開している事業者が事業を廃止する場合、利用者のサービス確保がより重要な課題となるが、現行の法制度では、利用者のサービス確保対策が十分ではない。

などの問題点も指摘されたところである。

○  こうした問題点を踏まえ、介護サービス事業者による不正事案の再発を防止し、介護事業の運営を適正化するため、以下のとおり所要の制度改正等を行う必要がある。

3 広域的な介護サービス事業者に対する指導・監督体制の充実 

 (1) 業務管理体制に関する指導・監督権の創設

○  介護事業については、介護保険法上、各事業所において満たすべき基準が定められ、都道府県、市町村が事業所ごとに指定をした上で、指導・監督等を行っている。この仕組みは事業所ごとにサービスの質を確保する上で有効であり、現行の事業所単位の指定及び規制の仕組みは引き続き維持する必要がある。

○  一方で、組織的な不正行為が行われる背景には、法令遵守を含めた事業者の業務管理体制に問題があると考えられるため、不正行為への組織的な関与が疑われる場合には、国、都道府県、市町村が事業者の本部等に立入調査等を行うことができるようにする必要がある。

○  事業者の本部等への調査において、法令遵守を含めた業務管理体制に問題があると判明した場合には、国、都道府県、市町村が事業者に対して是正勧告・命令ができるようにする必要がある。

○  業務管理体制に関する規制については、事業者の事業を展開する地域に応じて、都道府県域を超えて広域的に事業展開を行っている事業者に対しては国が、市町村域を超えて広域的に事業展開を行っているが同一都道府県内にとどまる事業者に対しては都道府県が主体となって、関係自治体と緊密な連携の下に対応することが必要である。

 (2) 不正事業者による処分逃れ対策 

○  処分逃れ対策の一環として、事業所の廃止届の提出を事後届出制から事前届出制とすることが必要である。
  また、監査中には事業所の廃止届を提出できないようにする仕組みの導入についても検討する必要がある。

○  指定取消を受けた事業者が、同一法人グループ内で事業移行しようとする際に、処分逃れのおそれがあると認められる場合には、指定権者が指定を拒否できるようにするなど指定について一定の制限を課す必要がある。

○  ただし、同一法人グループ内すべての法人について指定を拒否することは、過度な規制となる可能性があることから、当該グループの実態を踏まえた対応ができるようにする必要がある。

○  介護事業には、株式会社をはじめ社会福祉法人、医療法人、特定非営利活動法人等様々な経営主体が参入していることから、同一法人グループの範囲については、資本関係のみならず実質的な支配・被支配関係にも着目する必要がある。

 (3) きめ細かな監査指導の実施

○  監査指導は、事業者の不正行為を未然に防止し、業務の健全性を確保する観点から、きめ細かく、機動的に行われる必要がある。

○  都道府県、市町村は、通常の事業所監査の際にも、その一環として必要があると認める場合は、事業者の本部等に立入調査等を行うことができるようにする必要がある。

○  都道府県、市町村の監査指導については、法令の規定を過度に厳格にとらえたり、介護報酬の返還のみの指導に偏っていたりするなど、各自治体や担当者ごとに判断にバラツキが見られるとの指摘もあることから、監査指導業務の標準化を図る必要がある。

 

○  「不正又は著しく不当な行為」については、不測の事例について指定の拒否や指定取消を行うための条項であり、立法技術的には許容されるが、各自治体による判断に不合理な差が生じることのないよう、いくつかの例を示すことを検討する必要がある。

 

○  不正行為等に対して機動的に対応するため、現行の法制度では改善勧告・命令の対象となっている人員、設備・運営基準違反に加え、指定取消事由となっているその他の違反行為についても、改善勧告・命令の対象とする必要がある。

○  不正行為を行った事業者に対し、介護報酬の返還及び加算金の支払をさせる場合に、保険者が確実に徴収できる仕組みについて検討する必要がある。

 (4) 指定・更新の欠格事由の見直し

○  組織的な不正行為を行う悪質な事業者を介護事業から排除するため、コムスンの事案のような不正行為について指定・更新を拒否する仕組みは引き続き必要である。

○  しかしながら、

(1)  組織的な不正行為を行っていない事業者についても、一事業所の不正行為をもって、他のすべての事業所について、一律に指定・更新を認めないとすることは妥当か。

(2)  一自治体の指定取消処分により他の自治体において機械的に指定・更新できないということは、他の自治体の権限を過度に制約していることになるのではないか。

などの指摘がある。

○  このため、事業所の指定取消があった場合に、指定・更新を拒否できる仕組みを維持した上で、各自治体が、事業者の不正行為への組織的な関与の有無を確認し、自らの権限として指定・更新の可否を判断できるようにする必要がある。

○  自治体の圏域を超えて広域的に事業所を展開する事業者について、組織的な不正行為が疑われる又は確認された場合は、国、都道府県、市町村の間で十分な情報の共有を行った上で、緊密な連携の下に対応することが必要である。

○  居住系サービスであるグループホームや有料老人ホームなどは、利用者の日常生活の場であり、仮にその指定を取り消すとすれば、これらに代わる生活の場を確保する必要があることから、利用者に対する影響が大きい。このため、居住系サービスと通所型・訪問型等の在宅系サービスを一括りにしている現行の指定類型のあり方について検討する必要がある。

4 法令遵守等に係る体制の整備 

○  介護保険制度は、要介護・要支援の高齢者を対象とするサービスであり、その費用は保険料と公費によって賄われるなど公益性の高い制度であることから、そのサービス提供主体である事業者には、より高い水準の法令遵守と事業運営の透明性の確保が求められる。

○  このため、新たに事業者単位の規制として法令遵守を含めた業務管理体制の整備を義務づける必要がある。その際、事業者の規模等に応じた義務とする必要がある。

○  また、法令遵守等の自主的な取組を促す観点から、介護サービス情報公表制度、第三者評価制度等を活用するほか、介護支援専門員など専門職や同業者間の相互評価的な取組を推進する必要がある。

○  事業者が法令遵守を含めた業務管理体制を整備するに当たっては、制度や規制・指導の内容について理解を深めることが必要であることから、例えば、行政が事業者規制の内容について周知を徹底するとともに、法令遵守に関する研修を実施するなどの取組が必要である。

○  事業者に対して規制を課すばかりでなく、法令遵守を含めた業務管理体制を整備して適切な事業運営を行っている事業者に対しては、更新申請時の事務の簡素化を図るなど何らかのインセンティヴを与えることを検討する必要がある。

5 事業廃止時における利用者へのサービス確保対策 

○  事業廃止時における利用者へのサービス確保対策については、一義的には事業者の責任において実施する必要がある。
  他事業者への個別利用者の紹介や事業の承継に当たっては、事業者間又は事業者と利用者の間での契約を尊重するべきであるが、その際、手続きの公平性・公正性や従業員の雇用維持等についても適切な配慮がなされる必要がある。

○  事業者によるサービス確保のための措置については、個別に利用者を引き継ぐ場合は個々の利用者の他事業者へのあっせん、事業の承継を行う場合は事業移行計画の作成、必要に応じた承継事業者の公募等、事業者が事業移行の態様や規模に応じ必要な措置を講ずることが必要である。

○  前述のようなサービス確保のための措置については、多くの関係者が関わるため、当該事業者のみでは十分に対応できない場合も考えられることから、行政が必要に応じ事業者の実施する措置を支援する必要がある。

○  行政としては、事業者の行う措置に対する支援として、事業移行計画作成に当たっての助言や承継事業者の公募実施の支援、利用者に対する支援措置として相談窓口の設置等を検討する必要がある。

○  利用者に対する継続的なサービスの確保という観点から、指定更新を拒否する際に更新期限まで十分な期間がない場合には、利用者の引受先が決まるまでの一定期間に限り、指定の有効期間を延長するなど指定更新期間の弾力的な運用を図ることができるよう検討する必要がある。

6 その他 

○  迅速できめ細かな監査指導を行うことができるようにする観点から、事業所への監査指導の事務を都道府県から市町村に移すことについては、地域密着型サービスの指定権が市町村に移されて間もないこと等から、長期的に検討すべき課題である。

7 おわりに 

○  コムスンの不正事案を契機として、介護保険制度に対する国民の信頼が揺らいでいる。
  本報告書が一つの契機として、不正事案の再発防止及び介護事業の運営の適正化が図られるよう、介護保険制度の見直し等が早急に行われる必要がある。
  また、これらの目的を達成するため、介護サービス事業者は自主的な取組を一層推進するとともに、関係者が連携して、国民から信頼される介護保険制度の構築に努めることを期待する。


参考1

介護事業運営の適正化に関する有識者会議名簿

(座長) 遠藤 久夫  学習院大学経済学部教授

狩野 信夫  東京都福祉保健局高齢社会対策部長

神作 裕之  東京大学大学院法学政治学研究科教授

小島   通  愛知県健康福祉部長

木間 昭子  特定非営利活動法人高齢社会をよくする女性の会理事

小山 秀夫  静岡県立大学経営情報学部長

櫻井 敬子  学習院大学法学部教授

山本 憲光  弁護士

(五十音順、敬称略)


参考2

介護事業運営の適正化に関する有識者会議の議論の経過

第1回(平成19年7月19日)

○ 事業者規制の現状について

○ 株式会社コムスンの不正事案について

第2回(平成19年8月24日)

○ 介護事業運営の適正化に関するヒアリング

 ヒアリング先:社団法人全国老人福祉施設協議会

有限責任中間法人日本在宅介護協会

有限責任中間法人全国介護事業者協議会

日本介護支援専門員協会

日本労働組合総連合会

保険者代表(宮城県仙台市)

第3回(平成19年10月5日)

○ 株式会社コムスンの事業譲渡について

○ 自由討議

第4回(平成19年10月24日)

○ 論点整理について

第5回(平成19年12月3日)

○ 報告書とりまとめ

                

照会先:老健局振興課企画法令係(内3937)


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