07/11/12 第4回原爆症認定の在り方に関する検討会議事録 第4回原爆症認定の在り方に関する検討会             日 時 平成19年11月12日(月)13:00〜15:00           場 所 厚生労働省 省議室(9階)            1.論点に係る意見発表及び意見交換 2.その他 ○金澤座長 それでは、定刻わずか前でありますが、皆様おそろいですので始めさせて いただきます。第4回原爆症認定の在り方に関する検討会でございます。  御出席の状況でございますけれども、甲斐先生が御欠席ということは伺っております が、8名のうち7名御出席いただいておりますので会が成立していることを申し上げた いと思います。  それでは、議事に入りたいと思います。議事次第が配られておりますが、これに沿っ て進めたいと思います。「論点に係る意見発表及び意見交換」と「その他」ということに なっております。では、事務局から資料について御確認をお願いします。 ○佐々木課長補佐 では、資料でございます。  まず、議事次第が1枚です。  それから、座席表です。  その後、資料一覧がございまして、資料1といたしまして神谷委員説明資料でござい ます。横の左とじのものでございます。  資料2としまして、永山委員の説明資料でございます。A4縦左とじのものでござい ます。  資料3といたしまして、鎌田委員説明資料でございます。  そして、参考資料が2つございます。参考資料1といたしまして永山委員説明の参考 資料、参考資料2といたしまして鎌田委員説明の参考資料でございます。  それから、各委員の机の上には前回までの資料をファイルとじで置かせていただいて おります。以上でございます。 ○金澤座長 ありがとうございました。資料の不足はございませんでしょうか。もしよ ろしければ、早速でありますが、議題1にあります「論点に係る意見発表及び意見交換」 に移りたいと思います。  まずは 今お話がありましたように、神谷委員から「急性放射線障害の概要」という ことで御説明をいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○神谷委員 それでは、「急性放射線障害の概要」ということで説明させていただきます。  急性放射線障害の概要につきましては、既に専門家の先生方はよく御存じのことだと思 いますが、専門家でない先生方もいらっしゃいますので、概略ということで御説明させ ていただきます。  まず、図1をごらんください。放射線の影響には2つの表れ方があります。1つは確 定的影響と呼びますし、もう一つは確率的影響と呼びます。これは何が違うかというこ とでありますが、その絵を見ていただけたらと思います。  確定的影響という影響の表れ方にはしきい値があります。一方、確率的影響というも のはしきい値というものがありません。閾値というのは何かといいますと、ある被曝線 量以下ですと、その症状が表れないというような影響の表れ方であります。これに対し まして、確率的影響というのはしきい値がございません。したがいまして、その表れ方 というのは放射線の量に対して確率的に影響が表れるというように考えられています。 ICRPではしきい値を定義しておりまして、それは被曝した集団の1から5%に症状 が現れる線量をしきい値と呼んでおります。  実際にしきい値というのはどういう病気にあるかということでありますが、代表的な のは白内障であります。それ以外にも不妊であるとか皮膚の損傷、あるいは血液障害と いう障害にはしきい値がありまして、それ以下の線量では症状が現れないとなっていま す。  一方、確率的影響の方ですが、これには悪性腫瘍と遺伝的影響というものが考えられ ています。これらの影響は、確率的に現れるというように理解されています。  次の表1を見ていただきますと、そこに実際のしきい値が書いてあります。例えば、 骨髄障害でリンパ球が一時的減少を起こしますが、その場合のしきい値は0.5Svと推定 されています。したがいまして、これ以下の線量ではリンパ球の減少は認められないと いうことになります。それ以外にも、例えば精巣であるとか卵巣の障害、水晶体の障害 である白内障、あるいは胎児の奇形というような障害に対して、それぞれしきい値が存 在いたします。  それから、図2を見ていただきたいと思います。放射線障害を考えるときに、非常に 重要な因子があります。それは、私たちの体を構成しています組織の感受性という問題 です。感受性というと少し言葉が難しいのですが、平たく言いますと放射線に対してや られやすさということであります。このやられやすさというのは、組織によって異なり ます。そこの絵を見ていただきますと、放射線高感受性組織と書いてありますが、こう いう造血組織であるとか、あるいは消化管粘膜というような組織は放射線に対して非常 にやられやすい組織であります。  こういう組織には特徴があります。どういう特徴かといいますと、非常に細胞の増殖 が活発な組織であるということであります。あるいは、非常に幼若な細胞がたくさんあ るような組織、そういう組織は放射線に対して非常に感受性が高いということになりま す。これに対して放射線に対して抵抗性の組織というのもございまして、それは先ほど 言った組織の特徴の逆であります。つまり、細胞分裂を余りしていないような組織、じ っとしているような組織、そういう組織は放射線に対して抵抗性があります。その代表 が神経細胞であったり、筋肉であったりいたします。  次の表2を見ていただきますと、その細胞分裂の頻度と、それから放射線に対する感 受性が相関するということが具体的に記載されています。先ほど申し上げた造血組織で あるとか、あるいは睾丸の精巣上皮、卵胞上皮、あるいは腸上皮というような組織は非 常に放射線に対して感受性が高く、神経組織とか筋肉組織は抵抗性があるということで あります。  それでは、実際の放射線障害というのはどのように起きてくるかという問題に入って いきたいと思いますが、その前に図3をごらんいただきたいと思います。これは、私た ちの身の回りの放射線について示したものであります。右が人工放射線、左が自然放射 線というふうに区別して書いてありますが、人工放射線というのは私たちが医療等で使 っている放射線のことであります。自然放射線というのは、私たちが地球環境に住むこ とによって浴びる放射線のことであります。  実際に、私たちは地球環境に住むことによって非常に微量なのですが、放射線の被曝 をしています。その量は、宇宙から飛んでくる放射線であるとか、大地からの放射線、 食物からとる放射線、あるいはラドンとかトロンというような環境中からの放射線があ りまして、世界平均では年間に大体2.4mSvの被曝が年間あります。日本の場合はこれよ り少し多いのですが、世界各地を平たく見てみますと、地域によっては非常に環境放射 線の高い地域も存在いたします。それはハイバックグランドエリアと呼びますが、ブラ ジルであるとか、インドであるとか、中国であるとかにそういう地域が存在しています。  そういうことで、厳密に言うと私たちは放射線を被曝しながら生きているということ になるわけなのですが、そうするとなぜ放射線障害が起きてくるかという非常に難しい 問題と直面することになります。こういうことから考えますと、放射線障害の問題は極 めて放射線の量に関係するということになります。  次のページを見ていただきますと、図の4になりますが、そこに放射線の量と、それ から私たちの健康に障害が起きた場合の症状を書いてあります。急性放射線障害のとこ ろを見ていただきますと、下の方は私たちが日常的に医療等で使っている放射線であり ます。それで、実際に臨床症状が出てまいりますのは、500mSvを超えてからであります。 それ以上になりますと、非常に深刻な放射線障害の問題が出てまいります。  例えば、皮膚が赤くなる、脱毛が起きる、あるいは骨髄障害が起きてくる。線量が高 い場合は、そのまま放置すれば死に至るということになりますし、更に線量が上がりま すと、今度は消化管がやられて、その結果死に至ることになりますし、更に線量が高く なりますと中枢神経系がやられるというようなことになります。このやられやすさとい うのは、先ほど御紹介しましたような組織の感受性に依存した障害の受け方ということ になります。 表3を見ていただきますと、今までの急性放射線障害をまとめたものが 示してあります。0.5Gyの被曝がありますと、リンパ球が一時的に減少するというよう なことがあります。しかし、これは回復いたします。  それから、3Gyを超えますと一時的な脱毛が起きたり、皮膚が赤くなるというような ことが起きます。  更に、3Gy以上になってまいりますと骨髄障害が始まります。骨髄が障害されますと 白血球や血小板等が減少してまいりますので、そのために感染が起きたり、出血傾向が 出たりいたします。それに対して適切な治療が行われないと、死に至る可能性も出てま いります。  それから、8Gyを超えますと消化管がやられて、その結果、消化管上皮が破壊されま すので、そこから水や電解質を失う、あるいは出血が起きるというようなことが起きま す。更にそこに感染が加わりまして、最終的には敗血症というような症状が起きてまい ります。 更に、6Gyを超えますと肺臓炎が発症しますし、腎臓であるとか、いろいろ な組織あるいは臓器が障害を受けます。  更に線量が高くなりますと、今度は中枢神経系が直接やられて、その結果、意識障害 であるとか運動失調、あるいは錯乱というような症状が出てまいります。  東海村臨界被曝事故の経験から、8Gy以上の被曝があった場合は、最先端の医療をも ってしてもその救命はなかなか難しいというのが私たちの経験であります。  図5を見ていただきます。図5には「急性放射線障害の時間的推移」が示してありま す。放射線障害は非常に特徴ある時間的な経緯を通ります。被曝いたしますと、すぐ症 状が出るということはありません。まずは前駆期という時期があり前駆症状が出てまい ります。その症状は吐き気であるとか、嘔吐であるとか、下痢というような軽い症状な のですが、それはやがて治まります。そして、何も症状のない潜伏期という時期に入り ます。その潜伏期を経て、今度は放射線障害が全面的に現れる急性期の症状が出てまい ります。  急性期の症状には、血液障害、皮膚障害、消化管障害、循環器系の障害に伴うショッ ク等、被曝線量に応じた症状がこの急性期に出てまいります。  それから、潜伏期の長さというのも放射線量に依存して短くなる傾向があります。  その急性期を経て最終的には回復期あるいは慢性期に至るということで、急性放射線 障害にはこういうように前駆期、潜伏期、急性期あるいは回復期というように、時間的 な経過があるということであります。  表4を見ていただきますと、その前駆期の症状をもう少し細かく見たものであります。 前駆期の症状の現れ方も線量に依存しておりまして、線量が高いと症状が早く現れる傾 向があります。  少し具体的に見てみますと、例えば嘔吐というのは2Gy以上の線量で被曝するとかな り高頻度、ここでは実際には70から90%と書いてありますが、その頻度で被曝後1、 2時間後にそういう症状が出ます。更に線量が高くなりますと、もっと短い時間でほぼ 100%に嘔吐は認められます。  一方、下痢に関しましては4Gy以上の被曝がないと発症しません。その場合も、大体 3から8時間の経過を経て発症してくるということであります。更に線量が高くなって、 1時間くらいで下痢の症状が出ますと、6Gy以上の被曝があるというように推定されま す。  それから、意識障害です。意識障害というのは中枢神経系に対する障害を意味してお りますが、低い線量ではまず出ません。意識障害が出るのは50Gy以上の被曝がある場合 と言われておりましたが、実際には東海村臨界被曝事故でも軽度の意識障害が認められ ておりますので、もう少し低い線量でも出る可能性があります。  それから、体温の上昇は2Gyの被曝があれば微熱が出てまいりまして、それ以上の被 曝がありますと体温がもっと上がってくることが認められています。  表5を見ていただけますでしょうか。この表は、放射線障害の初期の診断法をまとめ ています。放射線障害というのは特別な症状が出るわけではありませんので、その診断 自体は非常に難しいのですが、いろいろな臨床所見であるとか、あるいは検査所見を総 合して診断するというのが適切なやり方だと指摘されています。ここではその例を示し ていますが、例えば嘔吐が48時間以内に認められた場合は1Gy以上の被曝があるだろ うと推定されますし、紅斑が数時間から数日以内に認められた場合は3Gy以上の被曝が ある。更には、脱毛が2から3週間以内に認められた場合は3Gy以上の被曝があると推 定されます。  更にそれをもっと裏付けるのが検査所見でありまして、リンパ球の数が1,000以下の 場合は先ほどお話をしましたように0.5Svあるいは0.5 Gy以上の被曝があると推定され ますし、更に染色体解析ができますと、より正確なデータを得ることができます。具体 的には、ダイセントリックとか、リングとか、フラグメントというような染色体の異常 が認められますと、少なくとも0.2Sv以上の被曝があると推定されるわけです。  いずれにしましても、この一つひとつではなかなか診断が難しいものですから、これ らを総合して診断するということになります。  次に、図6を見ていただけますでしょうか。今まで急性放射線障害の初期症状につい てお話をしてまいりましたが、これからは少し放射線障害に特徴的な血液疾患と皮膚障 害についてお話をしたいと思います。  まず最初が血液障害ですが、図6に示しておりますのは被曝線量に応じて血液中の成 分であります血小板であるとか、リンパ球とか、あるいは好中球がどのように変動する かということを示しております。これは模式図でありまして、実際のデータではありま せん。血小板、リンパ球、好中球、ともに被曝線量に応じた減少、そしてその回復が認 められています。  次のページを見ていただきますと、図7にはもう少し詳しくその血液の変動が示され ています。ここで示しておりますのは、好中球と血小板の資料であります。それぞれ被 曝線量に応じて、好中球ならば好中球、血小板ならば血小板が減少して回復するという ことでありますが、被曝線量が増えるに従ってその減少するスピードが早くなります。 それと同時に回復するスピードも早くなるということですが、好中球の場合は5Gyを超 えると、その回復は認められないというデータになっています。同様に、血小板の場合 も6Gyを超えるとその回復はなかなか認められないというデータです。  次のページを見ていただきますと、表6と図8があります。この2つの表は、リンパ 球の変動を示しています。放射線障害を受けたときに最も鋭敏に変動するのはリンパ球 です。そこに実際の数値を示しています。この数値を用いて、大体の線量を推定するこ とができます。それが表6と表8に書いてあるわけですが、例えば700から1,500くら いのリンパ球があるときは1から2Gyぐらいの被曝線量があったのではないかと推定 できるわけです。  更にそれをもう一歩進めたのが図8であります。これは被曝後、例えば被曝2日目あ るいは3日目のリンパ球の数を数えれば、その数値を方程式に入れることによって大体 の被曝線量を推定することができるということであります。実際に、この方式はチェル ノブイリ原子力発電所事故での被曝線量の推定にも用いられました。  次のページを見ていただきますと、今度は皮膚の障害について記載されています。今 までは、基本的には全身被曝を受けたときの急性障害についてお話をして参りましたが、 この皮膚障害に関しは局所的な被曝による障害のデータです。2つ表が出ていますが、 1つはIAEAから報告されたもの、それから表8はICRPからの報告であります。  まず表7を見ていただきますと、3から10Gyの被曝があると紅斑が認められま。更に は壊死が起きるというような症状が出てまいります。  表8も基本的には同じデータですが、表8の場合はしきい線量で示されています。少 し見てみますと、初期紅斑は被曝してすぐに現れる紅斑のことなのですが、それは2Gy ぐらいのしきい線量があると言われています。それから、一時的な脱毛に関しては3Gy、 永久脱毛は7Gyぐらいの被曝があるということであります。  最後の表になりますが、次のページの表9をごらんいただけますでしょうか。これは、 急性放射線障害の今までお話をしたことをまとめたものであります。上の方に血液の変 化、リンパ球であるとか顆粒球、血小板の変化が書いてあります。  それから、線量の区分としては、ここでは1から2Gyを軽症と呼んでいますし、2か ら4Gyを中等度、4Gyから6Gyを重症、更に重症という区分で線量を決めています。  それに基づいて血液の変化、あるいは臨床症状の変化が書いてあります。臨床症状の ところを見ていただきますと、2Gyぐらいから具体的な臨床症状が観察されるようにな りまして、4Gyを超えますと今度は骨髄障害の症状がかなり強く出てまいります。更に 6Gyを超えますと、消化管障害が起きてそういう症状が出てくる。更に高くなると意識 障害が出てくるということであります。  下痢のところを見ていただきますと、下痢は大体6Gy以上の被曝があって認められる というようになっております。そのときの発症時期は、被曝後6から9日の潜伏期があ るということになります。  脱毛に関しましては2Gy以上被曝した場合に15日以降の潜伏期をもって発症してく るということですが、6Gyを超えると完全な脱毛が起きると記載されています。  以上、非常に概略的ですが、「急性放射線障害の概要」について御報告させていただき ました。 ○金澤座長 どうもありがとうございました。大変わかりやすいお話をしていただきま した。何か御質問などございませんでしょうか。  丹羽委員、どうぞ。 ○丹羽委員 私は医者ではございませんが、最近放影研の論文で昔、我々が教科書で聞 いていた白内障の線量効果関係について、急性のいわゆる放射線白内障というものにつ いては先生がここにお書きになっているとおりなのですが、それ以外の高齢に伴って出 てくる白内障についても、それが線量によって少し上がるという知見が出てまいったと 聞いてはいますし、論文もたしか1つ2つ出ていた。  ただし、急性の放射線白内障に比べると線量に対する相対リスクの上昇というのは逆 に非常に少ない関係になっていると聞いておりますが、この点はどのようでございます か。○神谷委員 急性放射線障害に伴う白内障というのは、診断自体はそれほど難しく ありませんで、御存じのように後極に白濁ができるというので老人性の白内障とは簡単 に区別できるのですが、老人性の白内障が放射線被曝によってアクセレートされるとい いますか、頻度が上がることに関してのメカニズムといいますか、そういうものはわか っていないと思います。  ただ、そういう現象が観察されているというのは先生の御指摘のとおりであります。 ○金澤座長 ありがとうございました。ほかにどうでしょうか。  すみません。ナイーブな質問なんですけれども、5ページの図3の中で、地球上のい ろいろな場所で自然放射線の強さが違うというお話をいただきましたが、いろいろな場 所が時によって違うというのならばわかるんですが、いつも同じところがというのはど ういう考え方をすればいいんでしょうか。 ○神谷委員 私は環境放射線の専門ではないので正確なお答えはできませんが、例えば その地域で花こう岩の量とか、そういう自然界から、大地から放散される放射線の量が 違うところがあるということかと思います。  それから、環境中のラドンとかトロンというような放射性同位元素の量も地域によっ て随分違います。日本はラドン、トロンというのは比較的低い地域なのですけれども、 北欧は非常にラドン、トロンの環境中の量が多いと聞いております。 ○金澤座長 ありがとうございました。ほかにどうでしょうか。  よろしいですか。また途中で思いつかれましたら御遠慮なく御質問ください。  それでは、次に永山先生から「内部被曝について」の御発表をお伺いしたいと思いま す。よろしくお願いします。 ○永山委員 それでは、内部被曝について御説明させていただきます。  資料2をごらんください。今日の話の内容は、一番上に書いておりますように内部被 曝のまず総論として内部被曝の経路、あるいは体内分布、代謝、測定法などのお話をい たしまして、その後、長崎、広島での内部被曝、それから最後に少しチェルノブイリで のデータを加えさせていただきます。  内部被曝は最初の絵にかいていますように、原爆放射線全体の中では残留放射線、こ れは放射化の誘導放射線と放射性降下物から成りますけれども、この放射性降下物と一 部の放射化誘導放射線が内部被曝に影響してきます。  このような内部被曝というのは、外からはもちろん放射性物質が入ってくるわけです けれども、どういう形で体内に入っていくかといいますと、まずAに書いていますよう に基本的に肺、それから経口、皮膚を介して体内に入ってきます。  まず経肺、吸入です。呼吸器の構造を右のところに簡単に書いていますが、気管から 気管支、細気管支、終末気管支と分かれていって、最終的にガス交換をする肺小葉、肺 胞に分かれるわけですけれども、この中に入っていった放射性物質というのは比較的小 さいもので5μm以下、文献によっては1μm以下と書いてありますが、小さいものは最 終的に肺胞まで達します。ところが、もう少し大きいものは途中で引っ掛かって分泌物 とともに咽頭まで上がっていく。そして、順次飲み込まれて消化管へ侵入するという形 をとります。大体それにかかる時間というのを下のところの四角に書いておりますので、 終末気管支まで入ったものでもやはり15時間ぐらいすると咽頭まで上がってくるとい うことです。  そうすると、実際に肺胞に入った放射性物質はどういう運命をたどるのかといいます と、次のページに書いていますように、これは化学物質ですからそういう化学的な溶解 度というものに依存します。可溶性の、いわゆる溶けやすいものはそのまま吸収されて 直接血液、リンパ系を介して循環器系に入っていきます。トリチウム、リン、セシウム、 ヨード、ストロンチウムなどがこれに当たります。  不溶性の物質、溶けないものはそのままなかなか入っていきませんから、いわゆる細 胞の貪食機能によってリンパ系から循環で体内に入っていきます。主に金属の酸化物な ど、コバルト、ウランなどがこれに当てはまります。一部、これらは異物ですから、肺 小葉では異物に対する局所的な炎症反応が起こって、繊維化とか瘢痕化することも起こ ります。 これが肺からの吸入になりますけれども、次に経口の場合です。経口の場合 は、主に(1)(2)で書いているような2種類の侵入が考えられます。1番が先ほど言 いましたいわゆる吸入物質が気道から食道へ移動する場合、もう一つは放射性ヨードや 特に放射性セシウムなどが肉、ミルク、野菜、それから書いていませんけれども、水な どを介して体内に入るということです。  体内に入った後の吸収のされ方というのは、4番のところに書いていますように核種 によって違います。特にトリチウム、ヨード、セシウムというものが非常に吸収がよく て、ほぼ100%消化管から吸収されると言われています。特にヨードとかセシウムは先 ほど上でも言いましたようにいろいろな食物に含まれて体内に入っていきますので、食 物連鎖関連核種と呼ばれるようなこともあるようです。  3つ目の体内への経路としてはいわゆる経皮、皮膚を介した侵入が考えられます。た だし、通常正常な皮膚からはほとんど吸収はされないと言われています。例外として、 一応トリチウムがありますけれども、ほとんどは怪我から、いわゆる創傷汚染が主原因 ということになります。これも吸収とか経口と同じで、溶解度の高いものはよく入って いきますし、溶解度の低いものはいわゆる細胞に貪食されて入っていくという形をとり ます。  このように体内に入った放射性物質が体内でどのような分布をとるかというのが次の Bのところです。これは放射性の活性にかかわらず化学物質ですから、通常の化学物質 と同じような薬理学的動態をとります。例えばナトリウム24というのは放射化で起こる ものですけれども、細胞外液に溶けて全身を回ります。セシウムはカリウムと同様な分 布をとりますので細胞内液に分布しますし、更には筋肉あるいは生殖腺への集積も多い ということです。ヨード131はもちろん御存じのように甲状腺に高い親和性を持ってお りますし、ウランは肝臓、骨、あるいはストロンチウムは骨と、ある程度核種によって 蓄積しやすい臓器というものが決まっています。  次のページにいきます。そうすると、そのように分布した放射性核種がどうなるかと いいますと、その後、代謝されるか、あるいはそのまま排出されます。特にこのとき留 意しないといけないのは、いわゆる放射線核種の半減期ですけれども、通常のいわゆる 物理学的あるいは放射線学的な半減期に対して、体内からの排出に関しては生物学的半 減期という言葉を用います。例えばセシウム137というのは放射線学的には半減期、30 年ですけれども、生物学的には約100日、体から出ていく場合は約100日で半分になる というようなことがわかっております。  排出は書いてありますように、尿路系だったり、呼吸器から出ていったり、あるいは 便の中に出ていったりということになります。  このような内部被曝をどのようにして測定するかというのがDのところになりますけ れども、甲状腺に集まったヨード131からのβ線、あるいは体内に入ったセシウムから のガンマ線というものは、この図に書いてあるような全身あるいは部分的なカウンター で外から測ることができます。それ以外に関しては、特にα線、β線を出すようなトリ チウム、リン、ストロンチウムなどに関しては外から測定できませんので、皮膚・鼻腔 の拭き取り、あるいは尿、便の検査ということになります。ですから、これはある程度 急性期に限られる検査ということになります。以上が、簡単な内部被曝に関しての総論 です。  次に、長崎と広島での内部被曝がどのように考えられているかというところをll.番 でまとめております。  まず長崎、広島の原爆で内部被曝がどのように評価されているかということですけれ ども、そこの四角に書いておりますのは原爆症認定基準における被曝線量の選定です。 ちょっとページ数がずれていますけれども、1番の初期放射線による被曝線量というの は審査の方針で参考資料の1ページになりますが、そのような表から計算されますし、 残留放射線に関しては被曝線量、これも参考資料の2ページになりますけれども、その ような表に従って算定されるようになっております。  更に、放射性降下物はここに示しますように、広島では己斐・高須地区、長崎では西 山地区でこのような被曝線量があるということで、トータルの被曝線量を想定いたしま すので、現在の原爆症認定では内部被曝は全く考慮されていないということになります。  一般的な話として3ページの一番下に書いておりますように、チェルノブイリ等の原 発事故あるいは地表での核爆発、カザフスタンあるいはビキニ環礁での核実験になりま すけれども、このように地表で爆発した場合には放射性降下物というのが非常に多いと 言われておりますが、長崎・広島のように空中での核爆発の場合は核分裂の生成物が成 層圏まで上昇してかなりの広い範囲に広がるので、集中的な被害がないというのは一般 的に言われていることであります。  次のページにいきます。そうすると、長崎と広島で現在どれぐらいの放射化誘導放射 線と放射性の降下物があったと推定されているかといいますと、放射化の誘導放射線に 関しては広島で約50cGy、長崎でそれの約3分の1から2分の1、18から24cGyくらい ではなかったかと推定されています。放射性降下物に関しては逆に長崎の方が高くて12 から24 cGy、広島ではその約10分の1ということが推定されているわけですから、こ れらが内部被曝に関与しているということが考えられます。  そうすると、どれぐらいの内部被曝が実際にあったのかという測定あるいは推定です。 1番は資料2ということで、これは10、11ではなくて3ページと4ページですけれども、 まずそこを少し見ていただきたいと思います。これは、いわゆるDS86の邦訳の本から 取ってきております。私の参考資料の3ページですが、DS86の中で「残留放射能の放 射線線量」というところが第6章にあります。その中で線を引いておりますけれども、 これ以外、これというのは直接の放射線ですが、直接の放射線以外にも残留放射能ある いは放射性加工物などがあった。しかし、これらの2つの線源からの放射線というのは 余り主要な査定では考慮されてこなかったというのが現状です。  実際に四百何ページある訳本の中で内部被曝に触れたのは参考資料の4ページになり ますけれども、「137Csからの内部放射線線量」ということで、この1ページ弱が触れ られているのみです。実際に参考資料の4ページのところをまとめたのが、私の今日の 資料の4ページです。また4ページに戻っていただいて、「内部被曝測定・推定」の1番 です。岡島先生らの報告ですけれども、原爆投下の直後というのは内部被曝に関しては 測定は不可能であったということで、後になっていわゆる長い半減期のガンマ線放出核 種であるセシウム137の測定から内部被曝が推定されたというのが現状です。1969年で すから、被曝後24年、長崎の西山地区でホールボディカウンターを用いてセシウム137 が測定されています。このとき男性で38.5、女性で24.9という値が得られておりまし て、対照との比較で男性で約13、女性で10pCi/kgという被曝が考えられています。  その後、1981年の12年後に2回目の測定が行われて、実際の内部被曝は減っている けれども、半減期が7.4年というふうに計算されています。これは、先ほど言いました セシウムの生物学的半減期100日と合わないということで、一つの考え方としては土壌 中のセシウムが食物摂取によって体内に入ってきたという環境半減期ではないかという ことが考えられています。  いずれにせよ、このような数値から1940年から85年ですから、原爆直後から40年間 でのセシウムによる内部被曝はどれくらいかといいますと、男性で0.1mSv、女性で0.08 mSvということになります。この量は先ほど神谷先生が言われましたけれども、いわゆ る自然放射線による1年間の被曝線量というものが世界で大体平均2.4mSvですから、こ れよりもはるかに低いということが言えます。  それ以外に測定したというものはほとんど見当たらず、あとはシミュレーションとか 測定になるんですけれども、シミュレーションに関して1つだけ御紹介します。2番に なりますけれども、これは前回のこの検討会のときに靜間先生が出された資料2の1の 中にあります。今日は参考資料として付けておりませんけれども、DSの2に基づく誘 導放射線量の評価という中で、放射化された塵埃の吸入による被曝のシミュレーション というものをされております。詳細は省きますけれども、一番下の2行に書いています ように、原爆当日に広島で焼け跡での片付け作業に8時間従事した場合の推定被曝とい うのが、塵からの吸入で0.06μSvということで、外部被曝に比較してほとんど無視でき るレベルではないかということが考えられています。  次のページにいきます。そうすると、このような内部被曝は計算上は非常にわずかだ ということですけれども、このようなごく微量の内部被曝は危険性はないのかというと ころがひとつ問題になると思います。  1つの例を挙げますと、トロトラストという血管の造影剤ですけれども、これを投与 された患者さんでの肝がん発生というのが放射線被曝で問題になっているのは御存じだ と思います。これはトリウムという放射性物質を含むわけですけれども、これは網内系 の細胞に取り込まれ、特に肝臓に集まります。これは代謝されずに長い間、体内にとど まってα線を出します。これは検査に使いますから、投与量としては非常に微量です。 大体1から5Bqと言われておりますけれども、この量というのは全身、私たちの体の中 にも放射線のカリウム、カリウム40というものがあるんですが、これから出る被曝量が 96 Bqと言われておりますので、これに比べてもはるかに低い量のトロトラストによっ て肝がんが発生するということは、微量の内部被曝というのは無視できないのではない かということが考えられるのではないかと思います。  実際、この考え方として、第2回の検討会は私は欠席だったんですけれども、澤田先 生の資料と議事録を見させていただくと、いわゆるホット・パーティクル理論というこ とを澤田先生は出されております。外部被曝は左側に示すように体内に均一に当たりま すけれども、内部に入った放射性の微粒子というのは1か所から放射線を出しますので、 回りの細胞が非常に高線量の放射線によって被曝されるということで、微量でも非常に 危険であるという説になります。この理論はもちろん学会で否定されたりもしておりま すけれども、ごく微量の内部被曝の危険性ということを言っているのではないかと考え られます。  もう一つ、問題点と言えるかもしれませんけれども、これは内部被曝と疾病の関係で す。ある程度がんのできやすい臓器というものはありますけれども、それと内部被曝で の体内分布というのが必ずしも合うのか、合わないのかというところもひとつ問題にな るのではないかと思っています。  最後にlll.番としてチェルノブイリのお話を少ししますけれども、我々の長崎大学で チェルノブイリでの検診をしておりますので、その結果になります。そこに青で書いて おりますけれども、長崎・広島での内部被曝がチェルノブイリのそれに匹敵するという ことを言うつもりは全くありません。量的には先ほど言いましたように、空中での核爆 発ですので非常に少ないとは思いますけれども、質的に似たところがあるのでデータを 出させていただきます。  我々はチェルノブイリの近郊のベラルーシ、ゴメリ市、それからロシアのクリンシー で学童の検診を引き続きやっております。下の一番左のような簡易のホールボディカウ ンターをつくって、真ん中に子どもの絵が載っておりますけれども、このようにしてセ シウムを測ります。そうすると、一番右のグラフにありますようにセシウム137が引っ 掛かってきます。カリウム40ももちろんここに引っ掛かってくるわけです。  最後のページのグラフにいきますと、95年から2002年までの結果です。このように、 明らかに内部被曝が認められて、この7年間で減少してきた。  ごらんいただけるように、非常に緩やかに下がってきております。それで、体内の生 物学的半減期100日とは到底考えられない長い半減期で下がってきているということで、 これは先ほど言いました長崎の西山地区でのデータと非常に類似している。  次のグラフに書いておりますのは、横軸が土壌の汚染で縦軸がその体内の被曝ですけ れども、非常に相関しているということで、土壌被曝が高い地域ほどやはり体内被曝が 多い。我々は直接データは持っておりませんけれども、現地の人は向こうの肉、野菜、 ミルク等から放射線活性が以前は出ていたということを聞いています。そういうことで、 このように土壌からの食物を介したセシウムの持続的な体内への侵入があると考えられ ます。  実際にこれぐらいのカウンターの値でどれくらいかというのが一番下の表ですけれど も、ベクレルからシーベルトに換算いたしますと、どちらの市においても年間0.16 mSv くらいの被曝量が量としては考えられます。長崎、広島の場合は恐らくはるかにこれよ り低いだろうというところが考えられるわけです。  大体、以上が内部被曝に関しての治験ですけれども、最後に文章にしていませんがま とめますと、内部被曝に関する最近の新治験というのはほとんどないと考えられます。 以前の数値化されたデータを見る限りは、やはり非常に低いと言わざるを得ないところ ですけれども、最後の方で言いましたように、微量の放射性物質の危険性あるいは測定 できないような、前回靜間先生が言われたようなβ線の関与というのは否定できないと いう問題も起こっているかと思います。以上です。 ○金澤座長 どうもありがとうございました。大変クリアなお話をいただいたように思 います。どなたか御質問ございませんでしょうか。  では、鎌田委員どうぞ。 ○鎌田委員 2ページ、4ページの内部被曝測定について御説明いただきました。2つ 質問をしたいと思います。  69年、81年に岡島先生が測定されておりまして、それと現時点での年間の被曝線量に 比べると非常に値が低いものだったということですが、これは当時25年くらい前にさか のぼったときにどれぐらいの量であったかというエスティメーションが出されておるの かどうかです。原爆が落ちた少なくとも1か月くらい、あるいは3年くらいの間にどれ ぐらいの量をその土地の人が摂取した可能性があるかというような御計算はされていな いでしょうか。それが1点目です。 ○金澤座長 では、1つずついきましょう。 ○永山委員 実際に被曝直後にどれぐらい体内に入ったかという計算があるかどうか、 私は知りません。  ただし、この69年と81年の計算から数値を使って、45年から85年までの40年間の 内部被曝の量が計算されているんですけれども、これは恐らく69年と81年の値からさ かのぼって45年の量を計算し、この値が出ているものと私は理解しております。 ○鎌田委員 2つ目をよろしいですか。長崎では非常に奇妙なことに、西山地区だけで 1970年まで2人の慢性骨髄性白血病が起こっておるわけです。どちらかというと慢性の 骨髄性白血病は長崎では低い。少ない頻度なんですけれども、あの限られた地区だけで 2人も出たということで、何らかの残留放射線の影響というものを考えなければいけな いのではないかということから考えまして、先生が今セシウムを主にデータとして出さ れましたけれども、ほかのものは内部的なものとして病因起因性のものをどのように考 えておられるか、どのようなものを考えておられるか、お尋ねしたいと思います。 ○永山委員 先ほど言いましたように、原爆の投下直後のデータというものは全くなく て、ある程度年数がたってからの測定ですから、実際にセシウムしかデータとしてはな いというのが現状ですし、もちろんこれはガンマ線だけですから、先ほど言いましたβ 線を測定できていないわけで、セシウム137から計算された内部被曝がもちろんすべて ではない。ですから、先生が言われるように、それ以外の各種の被曝から発がんに至っ ているという可能性は考えられると思います。 ○金澤座長 ほかにいかがですか。  では、丹羽委員どうぞ。 ○丹羽委員 1つは鎌田先生の御質問に関係して、もう一つは永山先生のお話について です。  鎌田先生の西山地区の慢性骨髄性白血病というのは私も全然素人なのですが、2例と おっしゃいましたね。もともと症例数が少ない場合、それは何が原因であるかというこ とについては数が少ない場合は非常に難しいと思うんです。高い、あるいは高くないと いうふうなことを議論する上で、これは純然たる統計的な問題を申し上げているんです けれども、そういうことで一般的にその2例というのはどう考えてもこれは高くて、何 らかの特別な原因があるというふうに考えるべき数字なのか。その辺りをお聞きしたい のですが。 ○鎌田委員 おっしゃるように、病気を見て白血病がたばこでできたのか、ベンゼンで できたのか、何でできたのかは区別ができません。  しかし、200名近くの部落の中で25年間で計算しただけでも、私は先ほど「奇妙 な」という言葉を使いました。奇妙なことに多いということは、何かそこに原因があり そうだということを言っているのであって、放射線の可能性も非常に考えておかなけれ ばいけないという意味で申し上げた次第です。ですから、1970年当時から西山地区 に対しては特別な目で科学者がいろいろと研究されたということを申し上げたいと思い ます。以上です。 ○丹羽委員 もう一つ、内部被曝の件なんですけれども、トロトラストについてはたし か肝臓に集積するということで、カリウムのガンマでしたか、βでしたかのエミッショ ンとは随分話が違って、αエミッターであるということがまず第1点です。  それからもう一つは、それが特に肝臓に集積して、私は今、思い出せないので次回ま でにちゃんと調べておきますけれども、その線量はこの程度ではなかったです。たしか 発がんまでの潜伏期が20年から50年くらいでして、その間の集積線量はたしか5Gyと か、相当すさまじい線量のように私自身は記憶しております。  ただ、間違いかもわかりません。だから、これは大事なことなので次回までに一回調 べてお話申し上げます。 ○金澤座長 ありがとうございました。  それでは神谷委員、それから鎌田委員どうぞ。 ○神谷委員 先ほど丹羽先生が御指摘になったトロトラストの線量の話ですけれども、 丹羽先生が御指摘のようにトロトラストの場合は東北大学の福本先生が非常に詳細な解 析をされているのですが、集積線量はグレイオーダーで、発症までは数十年かかるとい うのが福本先生の御報告です。ですから、カリウムの場合とはちょっと状態が違うよう に思います。  それから、先生の御専門の甲状腺の話をお伺いしたいんですけれども、西山地区で甲 状腺のゴイターの発症が有意に高いというような御報告を聞いたりもするのですが、そ れに関して最近、何か新しい知見はあるのでしょうか。 ○永山委員 検診を続けて、この前できた論文でも腫瘍性の病変は有意をもって高い。 以前出た自己免疫性の甲状腺ですね。抗体陽性のものはこの前のところでは出なかった んですけれども、腫瘍性の腫瘤ですね。病変は有意に高いというふうに記憶しておりま す。 ○金澤座長 どうぞ、鎌田委員。 ○鎌田委員 先ほどのトロトラストの件ですけれども、丹羽先生、神谷先生の御発言ど おり数シーベルトというのが普通だと思うんです。というのは、染色体を見ますとすご くばらばらな急性の染色体異常と同じようなものになっています。  ということは、同じリンパ球が同じところに何回も当たっているというような細胞が たくさんありますので、決して数ミリとか、そういうレベルではないですし、シーベル トレベルだと考えていいのではないかと思います。以上です。 ○金澤座長 ありがとうございます。ほかにどうぞ。 ○靜間委員 話が戻りますけれども、岡島先生の測定されたデータで69年と81年の測 定なんですが、被曝直後に体内に取り込んだセシウムというのは、この時点では生物学 的半減期で体外に排出されていると思いますので、原爆の直後に取り込んだものが生物 学的半減期で排出されるまでにいろいろな障害を残しているという可能性はあると思い ますが、それを測るということはちょっと難しかったろうと思います。  それから、その下の内部被曝の線量が出されていますのはセシウム137だけでしたで しょうか。1945年から85年までの内部被曝が0.1mSvというものが出されておりますけ れども、セシウムの量がわかれば核分裂の周率というのはわかっていますので、核種が どれぐらいできていたかというのはわかります。ですから、核分裂生成物全体の線量に 直したときにどれくらいかというのは、セシウムがわかればほかに換算はできますので、 線量の評価というものもできると思っております。 ○金澤座長 これはセシウムのことだけなんですか。 ○永山委員 これは恐らく上の数字のセウシムだけだったと思います。 ○金澤座長 セシウムを参考にして全体をとなると、どれぐらいになるんですか。 ○丹羽委員 すぐにはわかりません。ただ、このときに測られているのは原爆直後のセ シウムではなくて、それ以降の核実験等でセシウムが摂取されたものだから原爆由来の ものではないので、この値から換算はできないと思います。 ○永山委員 今、先生が言われるほかの核実験というのは、世界のほかのところであっ たものということですか。 ○丹羽委員 そうです。 ○永山委員 今、詳しいデータを持ってきていませんけれども、西山地区での値という のは長崎市内の人だったと思いますが、ほかの地域の人よりも高いという引き算でセシ ウムからの被曝が推定してあったというふうに記憶しております。 ○金澤座長 ほかにいかがですか。 ○靜間委員 もう一点補足させてもらってよろしいでしょうか。  前回のときに、最後にセミパラチンスクでの原医研と現地側との調査の報告を国際共 同研究としてされましたものを紹介いたしましたけれども、あのときにセミパラでは地 下実験がたくさん行われていて、それで地下水の汚染があったのではないかということ と、たくさんの実験が行われているのでその集積があるのではないかということが言わ れていたんです。それで、帰りまして原医研の星先生ともちょっと話をしましたら、セ ミパラと核実験場は150キロ離れているということで、地下実験が行われているにして も地下水の汚染の影響がそこまでは及んでいないということが1点です。  それから、多数の核実験の影響が積み重なっているのではないかということですが、 聞いてみましたら、これは核実験の後のいろいろな雲の流れとか、そういうものがあっ て、それが必ずしも同じ方向には流れない。例えばドロンという地区があるんですけれ ども、そこでの影響というのはほとんど1回である。ここにもありますけれども、1949 年8月29日の朝7時に核実験が行われて、フォールアウトを含んだ雲がその村に流れて きたのが9時ごろだった。その雲が通り過ぎただけでその村に影響が出ているというこ とでして、そんなにたくさん集積しているのではなくて1回での影響が出ているという ことだそうです。 したがいまして、前回も言いましたのは内部被曝と外部被曝の量に ついては大体同等程度のデータが出ていると言いましたけれども、そういう意味からし ましたら広島、長崎での実験と似たような、1回の実験で起こったということが言える のではないかと思います。以上のことを補足させていただきます。 ○金澤座長 どうぞ、丹羽委員。 ○丹羽委員 もう1つ、うっかり言い忘れましたけれども、内部被曝の方が危ないとか 危なくないという議論がよくあるんですが、一応理屈の上からも内部被曝、外部被曝の 評価は、組織に対してある程度均一にした線量で評価してもいいという議論がなされて います。 理由は、ホット・パーティクルについては大きくなればなるほど線量が損を する。ウエシテッド・ドースとか言っていますけれども、結局オーバーキルになるとい うことで、線量効果関係がずっと直線ではなくて上の方になってくるとフラットになっ てくるということから、ウエシテッド・ドースが1つは出るということで、直線性から 考えても、それから考えても、一応普通の組織線量で評価してもいいのではないかとい う考え方があります。  ただし、プルトニウムの場合は沈着する部位などが骨表面で、その場合は標的になる 細胞が非常に多いので単なる線量だけでは評価できないということで、割と細かい評価 が既になされております。  もう一つは、ホット・パーティクル説に関してはバスビーさんという方とブランホー ルさんという方が、非常に危ないと。特にそれはストロンチウムに関して危ないという ふうに議論を展開されて、それはストロンチウムがイットリウムに崩壊して、そのイッ トリウムがすぐに何時間というようなオーダーでもう一度β線を出す。その場合に、細 胞が細胞周期を回っていて特定のところへたまっているところにやられるから危ないと いうふうな議論を展開されました。  これに関しては、今のところそれを支持するというデータは私自身ないと思っており まして、一応普通の線量で評価して問題ないのではないかと私自身は考えております。 そういうことをコメントさせていただきます。 ○金澤座長 ありがとうございました。ほかにどうでしょうか。  いろいろ御意見をいただきましたので、まとめの段階でいろいろとまたディスカッシ ョンをしていただくかもしれません。  それでは、今の点でも、内部被曝についてでも何か御意見がございましたらどうぞま た後でおっしゃってください。とりあえず次にまいりまして、「残留放射線」に関して鎌 田委員から御説明をいただきたいと思います。どうぞ。 ○鎌田委員 私の方は、「残留放射線」を医学的見地から申し上げたいと思います。  お話をしたいのはここに書いてある4つの点でありまして、この検討会の議論の基本 的な私自身の考え方、線量について、それから3番目には入市被爆者の初期症状など いろいろなエビデンスを申し上げたいと思います。4番目には、現在の認定制のことに ついてお話をします。  1ページの下の方ですけれども、こういうふうな議論をする場合には、昭和55年に原 爆被爆者基本対策問題懇談会という非常に大事な茅委員会の報告書がありまして、それ に準ずるのが大事だろうと思います。  これに書かれている第1点は、「特別の犠牲」であるということ、4回も書かれており まして、東京大空襲とも違う。戦時中の犠牲者とも違う。それはなぜか。「特別の犠牲」 という意味は、原爆被爆者は遺伝子の異常を伴う犠牲者であるというふうに現在考える ことができると思います。  2番目のポイントとしては、障害の実態、程度に合わせた適切、妥当な対策をとらな ければいけないということが書かれております。  3番目には、「科学的根拠」に基づくべきものでなければならないということです。私 の考えは、これらに基づいて話をしたいと思います。  2点目には、この検討会の目的でもあります、総理大臣よりの指示を踏まえてこの検 討会ができたということについて重く受け止めたいと思います。  次のページをお願いします。被曝線量についてですけれども、1番は物理的な考え方 と医学的な考え方に違いがあります。物理学的にはいろいろな条件を平均化して計算し、 そして来るべき現象を予見するということで、今まですばらしい業績があるわけです。 ですけれども、何にしても一般化してしまうという意味で、例えば1平方メートル内に降下したウ ラニウムの量とその効果はどんなものかというと、1平方メートル当たり非常に少ないので人体に 影響がないとか、あるいは1 m高さのレベルで機械を操作しながらの測定で、また20 m −50m毎に測定しながら、東西南北について残留放射線の量を測ったわけですけれど も、それは回りのものを全体としてつかまえるのには非常によかったんです。  ところが、医学的考え方になりますと、そういうものが塊としてあるような場合に非 常に人体影響が大きいわけです。ブラジルのゴイアニヤで放射線事故がありましたけれ ども、この事故の場合は何か奇妙な病気が出た。それで、何だろう、白血球が減ってい る。放射線か?という格好でその原因が出てきたわけですけれども、同じように原爆の 場合には一様に降ったとしても屋根の上に降った雨が雨水として集められて、雨水のお け(桶)のところでたくさんの放射線線量が出たという記録が残っております。ですか ら、普段考えられるものと違うことが起こっているということが実際に人間の生活の中 にあるということを考えなければいけないと思います。  次のページにいきます。DS86、DS02について、私はDS86の誤差が25から35%あ るということを意識しつつ、やはりこれは初期線量としては妥当なものだと思います。  ですけれども、残留放射線に関しては余りにも検討がなされていないと思います。そ の1つは、土壌の成分だけを計算しておりまして、放射化した金属あるいは特に人体で すね。あるいは馬、そういうものから相当量の放射線が出ていたということがあります ので、それらの検証が必要かと思います。  それからもう一つは、DS86は翌日入市からの設定で書かれていますが、当日入市が 可能であった事実を認めることが大事だと思います。参考資料1としまして、一人ひと りの被爆者が言っても、あなたの記憶間違いよ、7日のことを6日と勘違いしているの ではないですかというふうなことで済まされてしまう。では、軍隊はどうだったかとい うことで軍隊の資料を提出してありますが、それには8月6日の夕方から石塚隊が市内 に入っております。紙屋町から八丁堀まで死体の整理を行っています。また、暁部隊39 名の方が8月6日の出来事を記録に残しております。それらを参考資料として出してい ます。  3番目には、8月中旬に行はれた東京大学の理研とか、京都大学物理学科の方達の実 測値があるんですね。観測された測定値がある。それを余りにもDS86に採用していな いという点があります。是非これもごらんになって、その当時どれだけの放射線があっ たかということを計算していただきたい。検証が必要だと思います。  それから、下の方は「医学的見地からの被曝線量推定」(急性症状、白血球数、染色体 異常率)ということで、これについては神谷委員から既に報告がありましたので割愛い たします。  それから、4ページについては入市被爆者の初期症状と後障害についてのエビデンス を示したいと思います。下の方で、入市被曝爆者といった場合に遠く大竹とか、いろい ろな4km先からこちらの方に2km以内に入ってきた方と、直接3kmで被曝したという 方が2km以内に入った場合とは違うわけですね。よくあることなんですが、入市してい てもあの人は3km被爆者だということで終わってしまうんです。実際には入市したか、 2km以内に入ったかどうかという点を十分に気をつけて解析しなければいけないとい うことを申し上げておきたいと思います。  それから、5ページの上の方ですけれども、入市被爆者人口はどれぐらいいるかとい うことですが、現在(H19,3,31)全国6万3,000人、広島県で3万4,000人です。広島 大学ではH57年に全国29万人の方の被爆者をコンピュータに入れました。そのときのデ ータがこれでありまして、H57年の段階で広島県4万9,213人、8月6日入市者に7,0 33人、そして7日に新たに1万8,102人が入市して、滞在したのは2万2,736人です。 だから、6日と7日に滞在した人とかの累積が右側に書いてあります。いずれにしても、 4万9,000人が入市者数となります。  では、どういうふうな症状が出てきたかということを下に書いていますけれども、脱 毛があります。脱毛に関しては、るる前回からも議論がありましたので割愛します。  それから、6頁目の於保先生のデータですけれども、これも2km以遠で被曝して、さ らに家族を探しに2km以内に入市してきたという人に脱毛が多いということを申し上 げなければいけないと思います。  下の方は白血球数についてです。白血球数については細かなデータがありまして、9 月24日に3,200だったという下士官の方の場合、入市して500m地点での銀行で働いた 方が9月には2,500だったということです。  それから、7ページをごらんください。これは京都大学調査団の方で早期入市者20 名のうち4名が、2,000から4,000の白血球減少があった。実に20%に当たります。  それから、下をごらんください。これは軍隊の資料です。軍隊で「衛生速報第9号」 に書いてあります。全部読みます。  「8月6日以降広島市ニ於テ作業ニ従事或ハ滞在セシ者136例中89例ニ白血球減少症 (2,300−5,000)ヲ認メタリ。  中等度以下ノ減少者ハ概ネ8月6日直後ヨリ直チニ屍体収容ノ為爆心地ヲ距ル500米 圏内ニ這入リシ者ニ著明ニシテ、滞在日数ノ長キ者等著明ナル影響ヲ蒙リ、遠距離ニ滞 在セシ者ハ減少程度少シ」というふうに明確に書かれております。これは先ほど来、神 谷先生から説明がありましたように、最低0.5Sv以上の被曝をしているということが考 えられております。  8ページをごらんください。上の方(被曝後のリンパ球減少)は割愛します。  下の方は、広島大学では500m以内で奇跡的に助かった人78名を追跡調査しておりま すその中の6名が地下室あるいは地下壕で被曝し、物理的計算ができないということに なっております。そういう方の動き、その後どちらの方に逃げていったかということ、 どういう服装だったかというようなことをここに書いておりますが、最初の例は逓信病 院の本局の方に2時間後に報告に行ったということで、原医研と放影研と両方で染色体 異常を測っていますけれども、それぞれ0.8ないし0.9Svであるということで、いわゆ る残留放射線によって受けたのがそれぐらいです。  下の2番目の方は、天神町地下壕におりまして比治山の方に逃げられた方ですが、こ れは1.8Svであす。  9ページをごらんください。これは袋町小学校の地下に学生4名がいて、先生が1名 被曝されておりますが、そこに服装や逃避開始時間などを書いています。いずれにして も、爆心地から比治山の方に逃げて行っているわけです。それで1.9Svあるいは3.3Sv の線量が染色体から推定されました。  赤で書いていますけれども、この残留放射線の被曝量は退避開始時間ですね。いつか ら逃げたか。5時間たって逃げたかというような退避時間、あるいは退避にかかった時 間、30分で通り過ぎたのか、1時間かかったのか。あるいは、靴を履いていたかどうか。 そういうようなものによって残留被曝線量は大きく影響されます。  しかし、いずれにしましても最低見積もっても0.5Svの残留放射線を受けた人がいる。 私は全員がこの程度の残留放射線を受けたと申し上げてはおりません。こういう方がお られますということ、あるいはこういう方が白血病になっておりますということを申し 上げたいわけです。  下の方です。では、なぜ0.5Sv以上の被曝があったのかといいますと、右側のテーブ ルは見にくいですけれども、これは中国電工というよう会社が当時の電信柱の本数につ いて書いておりまして、1 km以内に964本ありまして、その中の96%の電柱が壊れて 焼けたりしています。では、その中に碍子が1本の電柱に10ないし20個あったとして、 1万から2万個の碍子が壊れて地上に落ちている。そして、それが放射化しているとい うようなことを御想像いただければ、放射化し、人間に当たったということがわかると 思います。それから、人体とか馬骨とか、そういうものを8月27日に測定しても、なお 10から100倍の放射線があったという書簡があります。  次のページをご覧ください。これは、都築先生が昭和20年9月5日の中国新聞に書い てあります。後半です。爆発後数日間内に爆心から半径500m以内の土地で働いたものに は、ある程度の障害があると考えてよかろう。そういう人は健康診断を受けなさいとい うふうなことの注意がなされています。  下の方を申し上げます。入市被爆者の中で固形がんが増えているよというのが1994 年のデータで、これは原医研から出たものです。従来、入市被爆者についての科学的根 拠が非常に乏しいといったのは、分母が非常にとらえにくかったわけです。だから、何 ら物が言えなかったんですけれども、分子ははっきりわかっていたんです。分母が19 67年にできましたから統計的、疫学的な推計が可能であったということで、1994年に 報告がなされておりますけれども、がんのリスクが高いということ、しかも11ページの 下の方をごらんください。1968年から1977年にかけて、常に8月6日に入市した人だ けに明確に有意差があります。  12ページをごらんください。これは、私は入市被爆者の中で白血病が多いということ を申し上げるつもりで出したものですけれども、るる申し上げる必要はないと思います が、13ページの上の方をごらんください。1970年から1990年の21年間に観察した人口、 すなはち、8月6日の人をずっと21年間観察し続けた総人数は13万8,000人、その中 に白血病が30名もおられました。8月7日については34万人をずっと見ておりまして 37人出ました。8月8日以降は56万人、その中で46人の白血病の方が出ました。  これを疫学的に集計しました。この下の図は省略いたします。  次のページをごらんください。その結果、今のものを疫学的に計算しますと、上が男 性、下が女性ですけれども、8月6日の男性は3.44、これは普通の人に比べて高かった ですよということを意味する表です。それから、女性の場合には8月7日も有意差をも って増えています。なぜ8月7日に女性が多いかといいますと、初日の8月6日は男性 が入市しているんです。ところが、7日には女性の方が倍くらい入市しているんです。 そういう関係もありまして、女性は8月7日入市者にも白血病が増えています。  15ページをごらんください。その人たちの染色体を90%の症例について調べておりま す。すなわち、6日の日の入市被爆者の白血病30名の中の1名は慢性リンパ性白血病と いうものがありますが、これは放射線と関係ないということになっておりますので、29 名の中の26名を染色体検査しております。その染色体異常が複雑であるということがわ かりまして、これは疫学的というか、統計学的に有意差が出ました。一般の直爆を受け た人の白血病の染色体は非常に複雑なわけです。そういうことから考えて、入市した人 の染色体も複雑であるということは放射線との影響が示唆されるのではないかというこ とが考えられるわけです。 その下の図は、それぞれの被爆者が白血病になるまでに何 年間、観察されたか、あるいは被爆時どこで作業をした人かということを書いています。 1km以内、1kmから2km、丸印をつけておりますけれども、これは私たちが勝手にその 地点、町名を決めたわけではなくて、既に広島市の方で規定されているところを使った わけです。  次のページは、染色体異常について例を挙げています。8月6日に堺町でこのように、 あるいは8月6日に松原町、川口町、それぞれ入市し、亡くなった日も発病した日も書 いてありますが、このような複雑な染色体異常があります。  以上のことから、17ページです。6日及び7日に入市した男性と女性に白血病発生率 が有意な超過があったということです。それから、染色体所見から放射線の影響も考え られるのではないかと非常に穏やかに言っております。  これから、第4番目の原爆認定・給付に関する現行の矛盾ということについてお話を します。  1番目は、「原因確率理論」の適用の是正についてです。原因確率理論の使用は間違い ではないと思います。しかし、現状では認定か、却下か、どちらかに帰結しなければい けないということがあります。ですけれども、原因確率論を使うのであれば段階的に適 用する必要がある。すなわち、あなたは50%の確率で放射線と関係がありますよ、あな たは20%ですよという段階的な適用をとるのが妥当ではないか。これがすなわち、最初 のページで私が申し上げました障害の程度に応じて補償すべきであるというところを考 えますと、1かゼロかというのは非常にそぐわないところがあると思います。だから、 是非この検討会で議論をしていただきたいと思います。  最後の18ページですけれども、「原爆認定・給付における現行の矛盾」の中の1つに、 放射線の影響について2回の判定がなされている仕組みがあります。というのは、健康 管理手帳を得る段階で放射線の影響を受けたとして認定されております。普通のけがと か、そういう場合は除けられますけれども、そうでない限りにおいては認定されている わけです。 ところが、例えば白血球減少で健康管理手当をいただいたんだけれども、 今度は病気が進んでいわゆる認定審査の方に申請したときに、あなたの線量ならば却下 ですと言われた場合、前は認定されていて今度は却下ということになるんです。これは 非常に被爆者の立場からすると理解できないですね。その辺は、段階的な適用をするこ とによって解消されるものだと思います。  最後ですけれども、給付の中に「特別手当」というものがあります。昭和56年に「医 療特別手当」という項目が新たに設置されたものですから従来の「特別手当」は1ラン ク下になった訳です。これは認定被爆者で認定を受けた病気が治った方に支給されます。 これは、病気が治ったら実際には給付金が13万円から5万円になるという意味なんです けれども、そのように切り替えなければいけないということになっておりながら、現状 においてはそういうことが行われた形跡が認められません。つまり、形骸化しておりま す。ですから、障害の実態あるいは程度に即した適切、妥当な対策、いわゆる基本懇の 精神に基づく形にするのであれば、「段階的適用」の支給にするべきではないかと思いま す。  給付制度そのものは昭和42年から行われて、14年後の56年に一部改正がなされてお ります。その後、平成13年に原因確率論が使われるようになりましたけれども、それは ほとんど大きな改正ではなくて現在に至っています。すなわち、25年間ほとんど何ら制 度の見直しがなされないままで、現在のような問題になって来ていると理解しておりま す。  そういう意味から、金澤座長におきましては特別の御決断をもってこの制度の改正の 点まで御検討いただきますようお願いしたいと思います。以上です。 ○金澤座長 私は権利も権力も持っているわけではないので、皆さんで御検討いただき たいと思います。大変広範に御意見をちょうだいいたしました。  幾つかあるんですが、まずは残留放射線に関して少し御議論をいただきたいと思いま す。今、御意見をいただきましたことに関してどうでしょうか。 ○丹羽委員 細かい質問になってしまって恐縮ですが、先生は染色体異常で複雑な切断 を持っているとかというくだりがございましたが、これは白血病の方の染色体異常を見 ておられるんですか。 ○鎌田委員 そうです。 ○丹羽委員 そうすると、当然ながらそれはクローナルグロースをしていて、疾病の進 展とともにどんどんカリオタイプも複雑になっていくものだと私は理解しているので、 最初の放射線の影響を見ているということは言えるのでしょうか。 ○鎌田委員 それは非常に奇妙な議論になってきますが、整理します。  原爆被爆者の末梢血リンパ球を取って調べますと、その中に30%、40%染色体異常が あります。それから、骨髄を見ても同じように30%、40%染色体異常があります。傷を 付けられたものがあるわけで、その傷が付いたものの中から白血病になったものがある わけです。それで、1945年の傷を持った細胞がそのまま白血病になっていっているのか。 あるいは今、丹羽先生が言われたように、途中でクローンがセレクションを起こして別 なクローンになっていったのか。これは、証明できません。  ですけれども、言えることは、直接被爆した人の白血病は、普通の人の白血病よりも 非常に染色体異常の複雑さが強いんです。それと同じことで、入市被爆者について、入 市した人の白血病の染色体異常と、9日以降の入市の人の白血病とをコントローにおい て比較したわけです。そうしたら、同じように複雑さがあったということです。  では、その複雑さは何なのかといった場合、元の種がそのようにクローンになったの か、それはわかりません。でも、そのような環境に体がなっているということは少なく とも間違いないと思います。答えになっていますでしょうか。 ○丹羽委員 ちょっと考えさせてください。 ○鎌田委員 健常な被爆者は、体の中に異常な遺伝子を持っているんです。遺伝子異常、 染色体異常があるんです。それが影響していろいろな病気になる。白血病になる。その ときに違う染色体異常をもつ形になっていくこともあり得るわけですが、そのままの場 合もあり得るわけです。○丹羽委員 この議論は多分、細か過ぎて本質からずれていく んですが、単なる研究者の目から見たときに少し理解できない部分があったので御質問 させていただきました。これで控えさせていただきたいと思います。 ○金澤座長 ありがとうございます。  ほかにどうでしょうか。急性期の症状についてもお話がございましたけれども、神谷 先生、先ほどのお話との関係で何かありますか。 ○神谷委員 鎌田先生は染色体解析の御専門家でいらっしゃいますので非常に説得力の ある資料を示していただいたと思いますが、8ページの先生が示された染色体解析から の被曝線量の0.9 Sv、あるいは1.87 Svというようなデータは安定型染色体の解析によ るものなのでしょうか。 ○鎌田委員 はい。全部安定型です。というのは、50年間ずっと同じレベル以上をその 被曝者は大体取っています。それで、それ以前の10年ぐらいの間には不安定型というの があります。不安定型は下がってきますが、安定型の異常というのはほとんど変わらな いでずっと50年でも60年でも現時点でも検出できるということですので、この線量は いつ測っても同じだということです。 ○神谷委員 そうしますと、先生が後半の部分でお話になられました白血病患者さんの 線量を推定するということは可能なんでしょうか。 ○鎌田委員 これは、普通には可能ではありません。  というのは、血液の中はどろどろになっておりまして白血病細胞ばかりですので、そ の中から正常なその人が受けたであろう線量というものを推定することは実際には不可 能なわけです。ですけれども、Bリンパ球というものがあります。Bリンパ球というも のを調べてみますと、特別な方法を使えば受けた線量を推定することが可能になります。 それが1点です。  もう一つは、その方の治療が終わった段階で正常な健康体になったときに調べること によって、末梢血のリンパ球で放射線によるような染色体異常があれば、それは言えま すけれども、治療の影響が出てきますので、これは必ずしもダイレクトな証明にはなり ません。ですから、答えは白血病患者について、その段階で線量推定することは不可能 ですが、特別な方法があればできないことはないということです。 ○神谷委員 ありがとうございました。 ○金澤座長 ありがとうございました。ほかにいかがですか。 ○丹羽委員、どうぞ。 ○丹羽委員 地下壕におられた方は、一応外に出られて町の中を逃げていかれる過程で 得た線量というふうにもちろん私は聞いていたのですが、地下壕の中では全くゼロなん でしょうか。 ○鎌田委員 これはごらんになったらわかりますが、8ページの上の方に図を書いてい ます。電車通りがありまして、放射線が向こうの方からきておりまして、これは富国生 命ビルです。そして、これは地下室ですので、壁が最低6枚、それに地下のコンクリー トがあります。大体ガンマ線の減少率、シーリング効果というものが1枚当たり0.3と いうことからいきますと、ほとんど中性子についても同じようにゼロに近いということ になります。物に当たって減衰しますね。それが6枚です。ですから、ほとんどゼロと いうことになります。 ○丹羽委員 私は全然ここの状況を知りませんので、多分物理関係の方が的確に実測し ておられるのではないかと思いますので、わかりました。 ○金澤座長 ほかにいかがですか。  どうぞ、靜間委員。 ○靜間委員 実測しているかと言われますと、原爆ドームに地下室があるのですが、我々 はそこの壁のサンプルを取って測定を試みたことがありますけれども、いわゆる中性子 による残留放射能というのは測定できなかったということがあります。それで、初期放 射線、中性子ガンマ線はこういった地下室までは届いていないと思います。 ○金澤座長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。今の残留放射線につ いてはとりあえずはそのくらいでよろしいでしょうか。  その他のことで、今、鎌田委員から大変広範にお話をいただきましたので、ほかのこ とでも結構でございますが、何か御意見はございますでしょうか。  どうぞ、丹羽委員。 ○丹羽委員 この入市被爆の方の白血病の頻度、SIRが高いというのは非常に私は興 味深く伺ったんですけれども、これはどこかに御発表なさっておられるのでしょうか。 ○鎌田委員  参考資料として入れさせていただいておりますが、長崎医学雑誌の79 巻に報告しております。  それから、ついでにですけれども、に被爆線量について参考資料として何枚目かに今 年の発表分を入れさせていただきました。参考資料の14ページに「0.5Sv以上の残留放 射線に被曝したと推定される事例」としてあります。これは今年の6月に発表しており まして、これは投稿済みでありますが、いわゆる先生の言うインプレスになっているか という質問に対しては、この論文はまだだというふうに答えます。  以上です。 ○金澤座長 ほかにいかがですか。どうぞ。 ○永山委員 鎌田先生にお伺いしたいんですけれども、残留放射線の評価ということに 関して1つの問題は、土壌だけが問題にされている。町の中にはそれ以外にさっき言わ れた、いろいろな碍子とか銅線とか鉄とかあったわけですけれども、実際にそういうも のが土壌に含まれると放射化される放射線というのはどれくらい増える可能性があるん でしょうか。何か御存じでしたら教えていただきたいと思います。 ○鎌田委員 どれぐらい増えるかという意味でしょうか。今、増えるとおっしゃいまし たか。 ○永山委員 はい。土壌だけで考えた場合と、土壌プラスいろいろな鉄とか碍子とか入 っていた場合と、放射線の量はどれくらい変わってくるのでしょうか。 ○鎌田委員 それは、御本人が入市されたときにどういう状況になったかによって相当 変わってきます。  例えば、お父さんが放射化したものを処理するのに2時間も3時間もかかって作業を やっていた場合にはその方は相当な線量を受けることになりましょうし、あるいは家を 片付けていて休むときに鉄筋コンクリートのところに例えば30分間横になったとした 場合、残留放射線が体の方に影響するということも十分考えられますし、個々の状況に よって違う。少なくともプラスされるということは間違いないと思います。 ○永山委員 個々で言うのはもちろん非常に難しいので、平均でしかなかなか物を言え ないと思うんですけれども、上限値としてどれくらいまでとかというのは。 ○鎌田委員 私は科学的立場から遠慮して0.5 Svですと言い続けておりまして、上限値 は言いたいのはありますけれども申し上げられません。それは、この委員会でまた御検 討いただくなりすればよろしいのではないかと思います。 ○丹羽委員 それに関して、これは素人の非常にインテュイブな理解で申し上げるんで すけれども、多分そのような放射化されるものの分布というのはランダムである。そう すると、ある放射化されたものに近付いた場合は別のものから遠ざかるという関係なの で、多分平均した線量として考えて問題はないんじゃないかと私は思ってはいるんです けれども、靜間先生などがこれは御専門なので、いかがでしょうか。 ○鎌田委員 その前に、それに関連してよろしいですか。  部分的なものになっているから、それがある意味、均等化されるのではないだろうか とおっしゃるのはそうでしょう。  ところが、均等化されるべきものが4つも5つも6つも7つもあった場合ですね。今、 先生がおっしゃるのは、土壌の場合は平均化しているだろうということですけれども。 ○丹羽委員 違うんです。ここに、例えば放射化されるものが全部あるとしますね。そ れで、私がここにいるとこれに近い。でも、あれからは遠い。ずっと離れていくと、距 離の二乗で一番低くなるのが真ん中であるということはあるんですが、そこのところで 動く限りにおいては結構、平均化された線量になるのではないかというふうに素人考え ではあるが、思ったということです。 ○鎌田委員 私は、平均化されるべき数が多くなっているというわけです。だから、全 体が上がるわけです。 ○丹羽委員 だから、多分平均で考えてもいいんじゃないかと思います。 ○鎌田委員 そうです。それは、平均で考えることも可能だと思います。 ○金澤座長 ほかにいかがですか。 ○靜間委員 1つよろしいですか。神谷先生の方から最初に急性期症状の話があったん ですけれども、例えば下痢などでは4Gyぐらいだったらまれというふうに言っています が、これは外部からガンマ線とか放射線を当てた場合にこういう症状が起こるというこ とだろうと思うんですが、例えば動物実験でもβ線を出すようなものを口から飲み込ん だ。そういった場合に、下痢などがもっと多く出るというふうなデータとかはあるんで しょうか。○神谷委員 先生が御指摘のように、これは基本的には外部からの全身照射 のときのデータです。β線の場合、そういうものを飲み込んだときの消化管障害のデー タがあるかというと、それはないと思います。 ○鎌田委員 今の件で、私はうろ覚えですけれども、アメリカの方でプルトニウムの人 体実験をやっておりまして、それに関する本が販売されています。それによると、いつ ごろから下痢が出てきたかというのが書いてある可能性があると思います。○神谷委員  β線ですか。プルトニウムですね。α線ですね。 ○金澤座長 ほかにいかがですか。 ○丹羽委員 私はずっとこの委員会でお話を聞いておりまして、1つすごく気になって いたことがあります。それは、鎌田先生の御議論と少し関係するんですけれども、1つ は前回の議論の続きのような部分がございますが、線量の軸を変えなくていいかどうか という問題です。特定の事例について、例えば高いとか、そういうことは当然ながらあ り得る可能性がある。問題は、全体の線量体系を、例えば1Gy全部下駄を履かせるとか、 そういうようなことが必要であろうかどうか。  この質問は何からくるかといいますと、前回の議論の中で軸のことが問題になって、 そのときに私が申し上げたのは、染色体異常の頻度は非常にばらつきはするけれども、 距離との関係で線量を張り付けるとしかるべきドーズレスポンスが出て、それは普通の 人の血液を外部に取り出して照射して染色体異常を見たという場合と大体合致するよう な線量効果関係が得られている。  そのときに先生は、広島の場合はバックグラウンドになる染色体異常の頻度が高いと いうふうにおっしゃいました。私はそれをよく理解できませんでしたので、その後少し 調べてはいたんですけれども、バックグラウンドの染色体異常が果たしてどれくらいの ものかというのを私は熟知していませんので、これは先生の御専門の領域であろうと思 います。それが高いということが全体に下駄を履かせなければならない高さであるのか どうかというのが私自身にとってはひとつ気になっております。 ○鎌田委員 結論を申し上げます。それは、下駄を履かせる必要はないと思います。今 までの考え方で線量体系を考えながら議論していっていいのではないかと思います。 ○金澤座長 よろしいですか。  鎌田先生、内容の質問で恐縮なんですけれども、先生の参考資料2の23ページに先ほ どお話になった資料の13ページのデータが出ておりますし、それからいただいた資料の 5ページに入市被爆者の人口というのが出ておりまして、それをさっきから突き合わせ て考えていたんですけれども、ちょっとわかりにくいので教えていただきたいと思いま す。  参考資料の23ページの表1の観察人/年というのと、6日、7日、8日以降のですね。 それと……。  以降ですか。なるほど。要するに、いただいた資料の方の5ページの人口というのは どういうふうに関係するのかという話なんです。ちょっとここを御説明いただけますか。 ○鎌田委員 わかりました。今、御指摘の23ページというのは今日の資料の13ページ になります。 ○金澤座長 これは全く同じ表ですよね。 ○鎌田委員 そうです。それで、これは1970年から90年までの21年間、毎年の人口を 足しております。ですから、毎年12月31日に入市被爆者が何人いたかというのを出し ております。 ○金澤座長 先生、すみません。今日いただいた資料の5ページの入市被爆者の人口と の関係を教えてください。 ○鎌田委員 わかりました。ポイントを私が明確にしていなかったのかもしれませんが、 5ページの一番上は全国も広島県も平成19年の分です。それから、ここに8月6日、7 日、8日と書いてあるものは昭和57年の被爆者数になります。ですから、現時点での人 口ではありません。観察対象数になります。  更に言いますと、このときに広島県で昭和57年に4万9,213人おりました。それが現 時点では3万4,588人に減っている。一番上の数字をごらんいただいたら、広島県は3 万4,588人になっているということになります。 ○金澤座長 わかりました。 ○鎌田委員 私も今朝、資料を見て、明確でないなと思って、その時点、時点での期日 を明確に記載していたらいいと……。  それで、今ちょっとお話をしかけたんですけれども、毎年毎年のデータは周辺地域が 広島市に合併するというようなことがありますので、それも入れ込んで、それから出て 行った転出者も全部取り除いて、常に12月31日の人口を20年間足したのが十三万幾ら とか、あるいは五十何万という13ページの上の数字になります。とにかく観察した数で すね。 ○金澤座長 わかりました。何かほかに御意見はございますか。  そろそろ予定した時間に近付いてまいりましたけれども、急性症状にしても内部被曝 にしても残留放射線にしても一応の御議論はいただいたと思います。結論になるかどう かはわかりませんが、問題点の御指摘はいただいたと思います。また、鎌田委員の方か らそれ以外の問題点もちょうだいしたと思います。本日はそろそろ終わりなのですが、 全体を通して何か御意見がございますか。  もしないようでしたら、まだ議論は続きますので、これから改めてまた御議論をいた だきたいと思いますけれども、次回の会合について事務局からお願いします。 ○北波健康対策推進官 それでは、次回の開催につきましては11月28日水曜日15時か ら17時を予定しております。場所はまだ決まっておりませんので、決まり次第、御案内 等については御連絡させていただきますのでよろしくお願いいたします。 ○金澤座長 どうもありがとうございました。何か御質問はございますか。  それでは、ただいまの予定のように11月28日15時ということでございます。  それでは、散会といたします。どうも皆さん活発な御議論をありがとうございました。                                     (了)