07/11/08 「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」議事録について 第9回 診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会 日時 平成19年11月8日(木) 10:00〜12:00 場所 厚生労働省省議室(9階) ○医療安全推進室長(佐原)   定刻になりましたので、ただいまから第9回「診療行為に関連した死亡に係る死因 究明等の在り方に関する検討会」を開催いたします。委員の皆様方におかれましては、 ご多用の中、当検討会にご出席いただきまして誠にありがとうございます。本日は、鮎 澤委員、児玉委員、辻本委員、山口委員、山本委員より欠席の連絡をいただいておりま す。その他、若干遅れている委員もいらっしゃるようです。  配付資料の確認をさせていただきます。議事次第、座席表、委員名簿のほかに資料1、 資料2、参考資料を用意させていただきました。なお、「第二次試案に寄せられた御意見 の本文」につきましては全部で340頁ほどになりますが、厚労省のホームページに全文 を掲載する予定にしております。本日、委員の皆様の机上には配付させていただいてお ります。  以降の議事進行につきましては前田座長にお願いいたします。 ○前田座長   本日も、お忙しい中をお集まりいただきましてありがとうございます。10月に公表致 しました第二次試案に関して、前回、ご検討頂いたわけですが、意見募集につきまして は今説明がありましたように、非常に多くの意見が寄せられています。本日は、この意 見募集で寄せられた皆様のご意見について、事務局から整理したものを報告して頂き、 それを加えて、前回の検討会における第二次試案に対する委員の皆様のご指摘を、「第8 回検討会における主な御議論」としてまとめさせて頂いていますので、それと併せてご 説明頂き、その後、これらを踏まえて、意見交換をさせて頂きたいと思います。  まず、資料1、資料2と続けて事務局から説明をお願い致します。 ○医療安全推進室長   資料1は、「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案(第二次試 案)に寄せられた御意見」です。  1頁は全体の集計結果です。「募集期間」は10月17日〜11月2日で、「意見の総数」 は104件、個人が87件、団体が17件でした。個人背景として、5で「職業構成」は医 療従事者が65件、一般の方が14件、法曹関係者が3件。6で「医療紛争の経験者」は、 当事者になったことがある18件、身近で見聞きしたことがある31件といった内容にな っております。  2頁以下では、今後この検討会での議論の参考にして頂くべく、第二次試案の論点に 沿って、寄せられたご意見を可能な限り幅広く取りまとめ、事務局の責任で概要として 作成させて頂きました。  取りまとめに際しては、(1)同様の趣旨と思われるご意見については、1つの項目にま とめさせて頂きました。(2)医療事故調査委員会(仮称)を表す文言については、便宜上 全て「調査委員会」として統一させて頂きました。(3)各コメントの括弧内の数字という のは、104通のご意見に事務局で整理のために便宜上付した番号です。なお、各ご意見 につきましては、その全文を厚生労動省のホームページに掲載することとしております。  以下各項目に沿って、少し時間をかけてご説明させて頂きます。  1「総論的事項」。  a)適切に運用されることで医療の透明性や信頼性を高めることに繋がるものと評価し ている。  b)目的を原因究明と再発防止と明言し、専門的第三者機関の創設へ向けてより具体 的・適切な提案がなされた点、死因究明・再発防止を通じて、医療全体の質・安全の向 上の重要性について、適切な認識が示された点を評価。  c)第二次試案の方向性は、日本医学会加盟19学会の共同声明に一致したものであり、 その意義は評価できる。  以上のようなご意見がある一方で、 e)患者・医療者が求めているのは、患者と医療者との対話の促進・真相究明・再発防止 だが、試案は行政組織が必要となる真相究明だけに焦点を当てている。  f)第二次試案は、医療者が誠実で医療行為が適切であれば、必ず同じ優良な結果が生 まれるはずであり、「診療行為に関連した予期しない死亡」の原因には医療者の怠慢や誤 りがあるという前提に立っているようにみえ、医療の幻想を招くとともに、患者の主観 的な安心・納得・期待を、医療従事者の法的責任追及へ結びつけようとする思想が潜ん でいるように見える。  g)第二次試案は、医療関係者の法的責任追及に傾倒しすぎるなど全般的に懲罰的な意 味合いが濃い。  h)第二次試案では、現状を無視した医療に対する過大な要求が更に強くなる。調査委 員会は、裁判の促進や関係者の処分が目的ではなく、安全で積極的な医療を行う環境作 りが一番の目的のはずである。  i)第二次試案では、萎縮医療・医療崩壊が促進される又は決定的なものにする懸念が ある。同様の意見はk)でありますとか、あるいはいちばん下の、m)意見がまとまって おらず、拙速に結論を出すべきではない。4頁で、n)調査委員会が同時に抱える二面性 については、もう少し時間をかけてきめ細やかな議論を尽くすべき。o)第二次試案に基 づいて調査機関を拙速に設立することには反対。  2、診療関連死の死因究明組織について (1)「組織の在り方について」 (1)調査委員会の設置 (行政機関としての設置について)。  a)国の組織として行政機関内に設置すべき。  b)強力な調査権限を付与しなければ調査に支障が出る。  c)行政機関内に設置することは容認できるけれども、中立性・公平性・秘密保持・独 立性の確保について検討すべき。  d)国の責任として、必要な予算と人材を配置して航空・鉄道事故調査委員会などと同 等な公正・中立な第三者機関を設立すべき。  e)第三者としての中立・公正な立場を保持することが最も重要であり、医療者・患者・ 行政それぞれの立場から一定の距離を置くことが大切ではないか。  f)行政機関に委員会を設置し、全国にその分科会を設置する案には、実効性がないの ではないか。再発予防の提言等では日本医療機能評価機構の事故予防センター、あるい は紛争対応には民間にいくつかのADRを推進できる機関が生まれてきており、そういっ た民間活力を利用すべき。 g)届出先を保健所とし、事例の評価等を行う調査委員会は都道府県単位が望ましいので はないか。  (厚生労働省に設置について)。 a)調査委員会を主管する大臣は厚生労動大臣とすべき。 b)厚生労動省に関連・関係する調査委員会として第三者機関を設置するのが適当。  その一方で、 c)事故調査と行政処分を同じ厚生労動省が担当すること、医療行政を通じて医療制度・ 診療システムに関与している厚生労動省が、そのシステム事故の調査委員会を直属傘下 に置くこと等、問題があり、厚生労動省に設置するのは手続上の便宜のみである。 d)調査委員会は厚生労動省から切り離し、他省庁の管轄または独立性を持ったものにす べき。 f)具体的に内閣府等に、国家行政組織法第三条に基づく独立行政委員会などとして設置 するのが適当。 (2)調査委員会の目的、あるいはどこまでの業務をやるか。 a)処罰を目的にした調査委員会は機能しない。調査委員会を設置するのであれば、あく までも再発防止や事実究明を目的とすべきで個人の責任追及を目的とすべきではない。  試案の中で、「インフォームドコンセントの在り方について更に検討する」と書いてあ りますが、 b)インフォームドコンセント等の評価については、医事紛争の争点となるので、評価の 基準作りをお願いしたい。 c)コミュニケーション等の評価については、許容範囲で総合的な判断を示すべき。 d)遺族が死因究明を求める場合、予期できない死亡に直面し医療水準以外の要因で納得 ができない場合もあるが、医療機関から提出された記録を中心としたモデル事業ではイ ンフォームドコンセント等のコミュニケーション等の評価は困難な現状であるが、調査 委員会では可能とすることが必要。  この一方で、 e)患者・遺族と医療従事者とのコミュニケーションは、本来当該医療機関が自らのこと として誠意を持った対応をすることが望ましい。「最初のボタンを付け違えた状態」で委 員会などの第三者が介入しても被害者遺族が納得するか極めて疑問である。 (3)「監察医制度」との関係について a)監察医制度とは別の制度として運用すべき。 b)基本的に別の制度として運用する必要があり、必要に応じた連携とすべき。  一方で、 c)監察医制度が不十分である。監察医制度の充実と全国レベルへの普及という視点が欠 けているのではないか。 d)調査委員会の前に迅速性を具え、法的権限を持った監察医を制度として全国に配備す るべきで、これに予算措置を講ずるべきではないか。 (2)調査委員会の構成について a)「医学的な観点からの」調査を行うのであれば、当該の医療従事者は当然のこととし て、医療従事者以外の者が参加する場合の関わり方や役割を明確にする必要があるので はないか。 c)調査委員会の構成では、看護面について評価できる経験豊富な看護師の参加が不可欠 ではないか。 d)事故原因の分析・事故防止の専門家(心理学者や人間工学等の専門家)も加えるべき ではないか。 e)保健所長をメンバーにしてはどうか。 f)メディエーター的な役割を果たせる者を調査の手続き・プロセスの中に位置づけるこ とのほうが有益であり、調査委員会のチームの中に「遺族の立場を代表する者」を位置 づける必要はない。 g)中立性、公平性を重視するなら、当事者と関係のない専門家で構成し、遺族の代表は 含めない。医学的知識のない遺族の立場を代表する者を調査委員会のメンバーに加える ことは、議論が感情論に走り混乱を招く可能性があるのではないか。 (3)人材育成等 a)調整看護師は、調査報告書が交付されるまでの間に両者の信頼関係を悪化させないよ う、出来ればそれを改善するようなメディエーター的活動を行うべきであり、そのため の要員を確保し、その養成、教育システムを構築することが必要ではないか。 d)解剖医の数や体制が十分ではない。 e)病理医・法医の不足があり、解剖に対処可能なよう、労働環境を含めた支援が必要で ある。 g)遺族との調整を担う者や解剖担当医の人材育成・確保が速やかに可能とは思えない。 i)遺族の立場を代表する者を構成員に加えることは評価するが、人材確保は困難であり、 調査委員会の委員や調査実務の担当として活躍できるよう、十分な育成・支援策が行わ れることが望ましい。 j)制度が発足した場合、日本病院団体協議会としては、調査委員会への専門家の派遣に ついて、可能な限り協力する。 k)医師の専門家集団としての日本医師会は、調査委員会の設置に際し、調査担当医師の 派遣等、全面的に協力を行う。 l)全ての専門学会が調査分析、再発防止に向けた活動に参加しなければならない。  一方で、 m)調査実務を担う人材の育成よりも、医療現場における医療従事者の患者・家族とのコ ミュニケーション能力やメディエーション技術を高めることが重要。  あるいは、 n)院内に遺族のサポートをするスタッフが必要。 3.診療関連死の届出制度の在り方について (1)届出の義務化等について a)隠ぺい、届出遅延、証拠改ざんなどに対応するため、刑事罰を含めた対策が必要。 b)医療事故は密室で発生するものであり、極めて隠匿しやすい環境にあり、刑事罰に相 当するような厳しいペナルティでなければ届出の義務化は果たされない。むしろ、医師 法第21条を遵守すべきではないか。 c)医療機関に対して法的に届出を義務付けるべき。届出を怠った場合には、何らかのペ ナルティを科すことを法的に明確化すべきである。この点を法的に明確化しないまま医 師法第21条の届出対象から診療関連死を除外してはならない。 d)あるいはe)ですが、届出の義務化と医師法第21条との整合性やペナルティの程度 についてはどうするのか。 e)ペナルティを科すなら対象を明確化すべきである。 f)届出義務を怠った場合の何らかのペナルティはやむを得ないが、医師法第21条違反 のような刑事処分ではなくて、行政指導レベルであるべき。 g)ペナルティの内容として、患者の安全に関する研修等、あるいは医療機関や医療従事 者に対する施策が考えられる。  一方で、 h)届出義務化と刑事・行政処分の連動は、医療の向上には、有害無益である。 i)届出義務化は萎縮医療を招く。ペナルティはないようにすること。 j)診療関連死の届出。全例届出義務化や警察への通報は、日本医師会の「医師の職業倫 理指針」に完全に反し、現場の萎縮医療を招くことは必至である。 k)再発防止が目的であれば、自発的な報告書作成であり、外部に公表する必要はない。 l)医療事故情報収集等事業の届出範囲は自発的な報告を前提とした医療の質の改善を目 的としたものである。現状では範囲が明確ではなく、学術会議でも届出対象を明確に定 義できなかったのであり、診療関連死については現状では必要に応じて報告し、調査を 行うのが適切であり、現時点では診療関連死の届出義務化すべきではない。 m)この制度には、ペナルティは必要ない。目的どおり機能すれば全てが届け出られる。 n)届出義務化すると医療側が過剰に判断し、自らの判断を避け、厖大な量の届出がされ ると考えるが適切に対応しきれるか。 p)届出制度の一般人への周知が必要である。 q)届出制度の内容を遺族に対して説明する義務を医療機関の届出義務の中に含むべきで ある。 (2)届出先等について a)365日24時間受理可能な体制整備を図るべきである。 c)届出先は、遺族や医療機関からの相談のしやすさを考慮すると、日常医療相談、医療 機関への立入検査を業務としている保健所とすべきではないか。  一方で、 d)保健所への届出は望ましくない。事務の流れとしても単なる時間のロスであり、届 出調査機関に直接なされるべき。 (3)届出の範囲について a)「診療関連死」の定義が曖昧であり明確化すべき。 b)「診療行為に関連する死亡」では、病院における患者の死亡全てを包摂する概念と誤 解される可能性がある。「診療行為に関連した予期しない死亡」など、できるだけ具体的 かつ明確な名称を用いるよう要望する。 c)「不幸にも診療行為に関連した予期しない死亡」という内容は、膨大な件数が予測さ れる。このように広範に届け出る必要性があるのか。また、調査委員会も対応できるの か。 d)診療関連死の定義につきまして、「(1)明らかな医療事故、あるいは、(2)医療事故の疑 いのある死亡」と規定してはどうか。 e)インフォームドコンセントの上で、不幸にして起こってしまった合併症等に伴う患者 死亡は、“診療関連死”に含めない旨の明記が必要ではないか。 (4)届出に係る警察との関係について a)必要な場合には警察に通報することで、調査委員会の公正・中立な判断を示すことに なり、市民からも理解が得られる仕組みになる。 b)診療関連死の届出を警察としていないことは、評価ができる。 c)調査委員会における専門家の役割を明確にし、その判断を以後の審査において尊重す ることを明記すべき。診療関連死の届出を受け付けた調査委員会は、まず医学的に調査 委員会で調査すべき事例かどうかの判断を行い、その結果に基づいて調査委員会での審 査を開始する二段階の仕組みを作るべき。 d)診療関連死について必要な場合には警察に通報するとあるが、何を届け出るのかの定 義がない。  この辺は同様のご意見で、 g)解剖開始後に刑事関連事案を示す所見が認められた場合の警察届出に関係した実務上 のガイドラインなどを明確化してほしい。 h)診療関連死の中に警察に連絡する必要のある事故、あるいは過誤が含まれると想定す ること自体が問題、医療に司法を持ち込むことに危うさを感じる。 i)診療関連死の全件届出義務化及び警察への通報は、日本医師会の「医師の職業倫理指 針」にも反し、現場の萎縮医療を招くことは必至である。 j)警察への通報を要するものは、故意または未必の故意がある場合、証拠隠滅、虚偽診 断書作成、カルテ改ざん、届出妨害により正確な調査が不可能な場合としてはどうか。  医師法第21条の改正に関係し、まず、 k)医師法第21条改正について具体的中身が示されていない。 l)医師法第21条による診療関連死の警察への届出問題について、解消を求める。 m)本制度に基づく届出がなされた場合、医師法第21条に基づく届出は不要とする。  一方で、 o)医師法第21条による届出をなくすることについては、その実施時期などより審議を すべき。医療界の意識改革が行われ、市民が医療への信頼感をより高め、かつ、調査委 員会の実績が市民から評価されるまでは、医師法第21条に基づく届出は残しておきなが ら、届出先を一本化するために調査委員会が代行を行って、必要な場合は警察と連携す る。 4.委員会における調査の在り方について (1)調査の対象事例について  a)死亡事例のみとしたことは評価できる。  反対に、 b)死亡に至らずとも、植物状態や重大な後遺症が残った場合も対象とする必要がある。 (2)遺族からの相談等の取り扱い a)医療機関の内部告発等による診療関連死についても、同様に調査体制を検討されたい。 (3)調査の手順について」。 a)委員会の調査に委ねる前段階で、対話による両者の理解を十分に得ない限り、死因究 明における根本解決ではなく、単なる解剖学的診断体制の構築になるのではないか。 b)診療関連死のおそれある場合は予備調査を開始し、予備調査にて調査委員会で検討す るか否かの判断をしてはどうか。  再掲になりますが、 c)調査委員会における専門家の役割を明確にして、専門家の判断に基づいて調査を開始 すべきかどうかの判断をしていってはどうか。 d)解剖については、将来的には、調査対象全例を解剖することも検討すべきである。こ のため、全国的な解剖制度の整備が必要である。また解剖に対する遺族の同意は、医療 機関ではなく調査委員会が得るべきである。 e)場合によっては承諾解剖ではなく、強制解剖ができる旨を規定してはどうか。  このように解剖の重要性をご指摘いただいた意見の一方で、 h)画像診断や臨床経過が正しい死因を確定できる場合が多くあることや、親族の解剖を 回避したい気持ちが死因究明や事故防止の妨げとなる可能性がある等の理由により、解 剖を必須としなくてもよいのではないか。 5. 院内事故調査委員会 a)院内事故調査委員会は重要であり、院内事故調査委員会による調査が必須であること を法的に明確化すべき。また、その在り方について、法律やガイドライン等で明確化す ることで、院内事故調査の水準を担保することが必須。 b)外部委員を加えることを法的に明確化すべき。中小規模の医療機関においては、事故 調査委員会、学会、あるいは医師会等の支援が必要である。 c)事故調査委員会と並行して調査を行うのか、院内事故調査委員会の調査結果を踏まえ て委員会が調査を行うのか、明確にするべき。  この一方で、 d)院内事故調査委員会は事故発生当事者であり、被害者遺族や世間の理解が得られない ので、設けるべきではない。 6.再発防止のための更なる取組 (1)医療機関に対する提言 a)賛成。事例の分析は単に表面的でなく、多面的角度から行い、その内容を共有化して、 再発防止に取り組むことが重要である。 b)事故の当事者である医師に対して、再発防止のための研修が必要であり、そのシステ ム作りが必要。再発防止、再教育が第一義。  逆に、 d)集積された事例の分析を行い、全国の医療機関に向けた再発防止策の提言を行うこと に関しては、既に医療事故情報収集等事業で実施されており、この制度との整合性を図 る必要がある。 e)同様の事業が行われている。新組織を立ち上げる前に、その事業の有効性を検証する などの評価を公開すべきである。 (2)行政庁に対する提言 a)調査委員会は、経済産業省、財務省等に対しても独立した立場から勧告・建議を行う ことを可能とする必要がある。 b)行政庁だけでなく、医薬品・医療機器メーカー等に対する指導等も必要。 c)ヒューマンエラーの生じやすい労働環境の改善もまた、最終的な医療の質と安全の向 上のために図るべきである。現在の医療制度は、医療安全を支えられるだけの診療報酬 になっていない。調査委員会はこういう提言も行うべき。 7.行政処分、民事紛争及び刑事手続との関係 a)刑事処分は可能な限り謙抑的であるべきであり、新制度ではシステムエラーを十分に 考慮して、過失を起こした医療従事者及び医療機関に対しては、再発防止のための再教 育を中心とした行政処分システムを構築すべきである。 b)診療関連死については、個人の過誤が明らかな場合も含めて業務上過失致死は刑事免 責とし、行政処分と民事賠償で対応する。ただし、故意犯や隠ぺいが明らかになった場 合については、刑事訴追を否定しない。 c)調査委員会の報告や活動は、行政処分、民事紛争、刑事手続との関連をなくすべきで ある。医療従事者個人を罰しても、医療の安全にはつながらず、むしろ医療の崩壊につ ながる。 d)刑事処分等に使われるのであれば、当事者が証言を拒んだりするため、医療の透明化 はできず、真相究明は困難になる。 f)罰をおそれるための萎縮と隠ぺいが必ず起こるので、罰しない代わりに事実を正確に 申告させ原因究明をするのが正しい事故防止対策ではないか。業務上過失致死傷罪は、 故意罪とは異なり、抑止力による再発防止は不可能。さらに医療は廃止するわけにもい かず、診療は拒否できないのであり、業務上過失致死傷と医療は全く相容れない法概念。 g)調査報告書は公開されても、法的証拠能力としては機能しないようにするなどの配慮 をすべきである。 h)平均的な医療従事者が一般的な業務を行う上での事故は確率的に発生するもので避け ることは困難であり、個人の責任とするのはおかしい。家族等が救済措置をしてほしい ということであれば、個人や病院に負わせるのではなく、保険等の中で補償すればよい のではないか。 k)医療組織自体も、事故よりは医師の不適切な行動を罰する自律的な教育的処分を行う 組織を作り国民に自律性を示す必要があると思われる。 (1)行政処分の在り方について a)刑事処分は可能な限り謙抑的であるべきであり、新制度ではシステムエラーを十分に 考慮して、過失を起こした医療従事者及び医療機関に対しては、再発防止のための再教 育を中心とした行政処分のシステムを構築すべきである。 b)医道審議会が独立性と透明性を確保して再出発するなどの抜本的な見直しが必要。 c)医療従事者の自律的活動として、広範な医療従事者の協力を得て、行政処分を勧告す るための医療関係者、法律関係者により構成される独立性のある審議会を設置する必要 がある。 d)医師のプロフェッショナル集団としての学会も、独自に教育的な処分とシステム改善 策の提案をすることが求められる。 (2)裁判外紛争処理について a)ADRに関して、財源を含めてより具体的に示すべき。 b)調査委員会よりもADRを設立・機能させる方が病院の希望としては急ぐ。 c)医療紛争は、死因究明のみでは解決しない。院内メディエーター及びADRへ予算措置 が必要である。 d)調査委員会とは別に、遺族のメディエーションを行う組織を新たに作り、調査報告や 賠償以外の遺族の癒しに努めるべきである。 e)民間のADR機関に任せるのではなくて、国の責任として機構の設立、整備を図ってい くべき。 f)既に多くの医師会は公正・中立の立場で紛争解決の任に当たる組織をもっており、こ れと連携を図るべきであろう。 (3)刑事手続について a)医療事故について、刑事事件になるものもあり得る。 b)日本医師会は、警察・検察庁等捜査当局に対する謙抑的姿勢の伝統の堅持を提言する。 c)調査委員会から警察に通報された事例も並行して調査委員会による調査がなされる仕 組みとすべきである。  また、同様の意見だと思いますが、 d)患者遺族から警察への届出があっても、警察は従来のように自らの調査を行わず、調 査委員会の原因究明に調査を委託する仕組みを要望する。 e)警察の捜査と調査委員会の調査を調整するに当たっては、調査委員会の調査を優先さ せるべき。  これらの一方で、 f)調査委員会の調査と警察の捜査は目的が異なるので、それぞれが独自に調査すること が必要。本制度による調査は、あくまで「患者の安全」という視点からであるべきだ。 g)刑事事件に関係する可能性のあるものについては、直ちにその後の調査を警察に依頼 し、この調査委員会では検討しないこととする。 h)刑事手続について記載されているが、そもそも医療行為に刑事訴追は馴染まないもの であると考える。 i)調査委員会の調査報告書は、基本的に刑事手続への活用は不可とするべき。 j)調査委員会の報告書が刑事手続で使用されないことを保障し、調査委員会の意図は懲 罰ではなく再発防止にあることを明確にする。警察の捜査に資料が利用されることがあ れば、調査委員会は正常に機能しない。 k)医師の刑事免責を立法化しなければ、生命に直結する診療科からの医療崩壊は避けら れないのではないか。 8.本制度の開始時期等 a)人員面、財政面での十分な検討が必要なのではないか。 b)制度発足にあたっては財源の確保も課題である。不要な組織を作り、過剰に費用を拠 出することは厳に慎むべき。医療機関側にこの制度を原因とする負担をかけないよう配 慮が必要である。  以上のようなご意見がありました。事務局でまとめましたが、まだ十分まとめきれて いないかもしれませんが、以上のような状況です。  資料2は、前回の本検討会における主な議論ということでまとめさせて頂きました。 議題1.「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在りに関する試案―第二次試案― について (1)診療関連死の死因究明を行う組織の設置主体について  この「組織の設置主体について」ということで、内閣府の下に独立行政委員会とする ことが適切ではないか。あるいは、厚生労動省に設置するのが適当ではないか。 (2)医療事故調査委員会(仮称)の名称について  これは抵抗がある。 (3)組織のあり方について  地域ブロック単位の分科会での評価には、関係学会との密接な連携が必要である。 (4)院内事故調査委員会について  第三者機関で、あらゆる医療事故の調査をすることは、無理であり、院内事故調査委 員会の体制を整えることが重要。 (5)届出義務違反へのペナルティについて  届出を義務化すれば何らかのペナルティがあって当然であるが、その科し方について は、工夫があるべき。 (6)医師法第21条について  医療関係者の間では大きな問題になっており、整理は難しいが、何らかの形で医師法 第21条についても但書きを付ける等の対応をするべき。 (7)警察との関係について  警察と第三者機関における調査の役割分担については、明確にすべきである。警察に 届け出られた事例についても、第三者機関に調査を任せる仕組みとすべき。 (8)調査報告書の公表について  個人情報を削除して、プライバシーに配慮した上で公表し、再発防止策に役立てるべ きである。  議題2. 航空・鉄道事故調査委員会からの報告 (1)組織について (国交省に設置していることについてどうかという質問について)  事故調査委員会の委員長、委員は設置法で独立して職権を行うことになっているほか、 その任命には両院の同意を得ることが必要であり、独立性、公平性は担保されている。  事故調査に必要な航空、鉄道等のデータは国土交通省にあり、迅速かつ円滑に調査を 実施する為には国土交通省に設置されていることが有効であるというお答えがありまし た。 (2)事故調査と警察捜査の関係について  事故調査委員会は事故の原因究明と再発防止、警察は捜査という観点で取り組んでい て目的や進め方が違うが、現場での調査が重なるため、必要な協力をしながら調査を進 めている。  また、現場物件の検査は警察と協力してやる部分があるが、口述聴取は委員会と警察 は別々に実施しており、委員会の口述聴取記録を警察に提供することはない。  さらに、報告書は公表し、公表した後に刑事裁判等で活用されうることについては、 航空事故調としては関知しないが、報告書に記載した以外の情報に関しては一切出すこ とはない。以上です。 ○前田座長  膨大な意見を頂いて、私も目を通させて頂きました。パブコメとして、ほかの省庁の 審議会などのお手伝いをすることがありますけれども、非常にレベルの高いものであっ て、内容は非常に真摯なものだと思います。それぞれの立場から、医療に関与されたこ とを踏まえた、非常に中身のあるものだと思います。それをこれだけにまとめて頂いた ということは、事務局も大変なご苦労だったと思います。  また、このまとめ方以外にも、各委員にはお目通し頂いていると思いますし、ご議論 の中で是非これを踏まえ、前回の議論もまとめて頂きましたけれども、それを一歩進め る形で議論をして頂ければと思います。事務局でまとめた中身は項目ごとに分けて整理 されているわけですけれども、本日は、今までずっとやってまいりましたので、順にこ の目次に沿ってご意見を伺うということはせずに、全体についてお願いしたいと思いま す。  ただ、できればこのパブコメについてをきっかけにご意見を頂けるとありがたいと思 います。できれば、今回もお集まりの委員全員からご意見を頂戴できればと思っており ます。前回、ちょっと急ぐような発言をしてご迷惑をお掛けしたわけですが、本日ここ で何か決めなければいけないとか、時間が迫っているということではないので、これだ けのものを頂きましたので、それを踏まえてご意見を頂ければと思います。 ○樋口委員   本日、私はメモを作ってきましたので少し時間を頂きたいと思います。これだけの分 量のパブリックコメントを頂いて、先程のように医療安全推進室長にまとめて頂いて、 随分読みやすくなりました。理解したところもありますが、その過半数といいますか、 多数は医療者の側からのご意見が多くて、その中には第二次試案といいますか、ここで の議論の在り方については厳しいご意見も随分ありました。どこかの党首ではないので すが、説明不足というのか、こちら側の十分な説明が行き亘っていないというか、こち ら側の意図が十分伝わっていなくてそういうご意見になったのか、というように思われ る部分もあるわけです。何らかの形で誤解を解きたいとも思っております。あるいは、 誤解ではなくてこちら方の、例えば私の考え方が足りない部分もあるのかもしれません。  総論として、いま事務局としてご説明を願った佐原さんは、医療安全推進室長である わけです。こういう検討会で我々は何をやっているのかというと、キャッチフレーズと いうか目的は医療安全のために何ができるかという話をいま我々はやっている、という ことをもう一回確認しておきたいのです。医療安全というのは、英語で言うとペイシェ ントセーフティということになりますから、イコール患者の安全ということなので、患 者の安全、医療安全という旗を高く掲げるという機会をとにかくここで作ろうというこ となのです。それは、医療事故の真相究明と再発防止策の工夫であります。  もし、ここから何か生み出されて、それが第三者機関なら第三者機関ですが、それが できた時に、今までいろいろな形で医療事故に関係してきた、あるいは医療事故に直接 遭った患者、あるいは遺族が、あの時にこういうものがあったら本当に良かったのにと 思うような組織を立ち上げる必要があるということだと思っています。  2番目に、十分な理解かどうかわからないのですが、こういう風になった経緯を私な りに考えてみました。経緯は、特に今世紀に入ってですが、医療事故が刑事事件化する、 というのが非常に大きな問題になって、マスコミでも大きく取り上げられるし、実際に 逮捕される医者が何人も出てくるということになりました。  この刑事司法の、警察あるいは検察の側の方々の行動が、やはり一定の警鐘的効果を 持ったと思うのです。だからこそこういうものが立ち上がって、今までになく、とたぶ ん言って良いのだと思うのですが、医療界が結束してやろうとしています。今までは、 個人個人の医者だって当然医療安全ということを考えなければいけないということはわ かっていたはずです。安全でなくて良いというはないわけです。  しかし、医療界がまとまって、医療安全というものについて何か組織的な対応をしよ うという風になったのは、やはり刑事司法が非常に大きな役割を果たしたと思うのです。 それを評価すべきで、その結果どうなったかというと、医師法第21条を、今までは誰も 読むことすらなかった。法律家ですらその存在を知らなかったし、たぶん医者だって絶 対に知らなかった。誰でも医師法第21条というのはこういう規定ですね、という風にこ の条文に注目がされるようになってきたのはこの10年です。この10年の間に多くの人 が知るようになりました。  日経新聞の去年の記事によると、8年ないし9年の間に医師法第21条に基づく医療事 故の届出が1,226件出た。これは、年平均で130、140ぐらいの話ですけれども、たぶん 警察に届け出ても、実際の捜査には至らないケースもあると思われますので、実際の届 出は140、150件の何倍かはたぶんあると思うのですが、そのような事態になった。  しかし日経新聞によると、実際に立件されたのは1,200数十件の中で400件なのです。 だから3分の1程度が立件されて、検察庁へ送致されるのですけれども、検察のほうで 不起訴処分という形で終わるのも相当数に上るわけです。  そういう状態なのですが、それでも刑事司法手続が動いたことにより、全体の医療に 対して大きな影響を及ぼした。その大きな影響は、いい影響と、やはりちょっとどうか なという問題もある。それは刑事司法の限界というのでしょうか、あえて言えば刑事司 法だけではなくて、法が介入して医療安全が図れるかというと、それは法律家がどんな に頑張っても医療を安全にすることはできない。それは当たり前のことなのですけれど も、改めてそれが確認された何年かだと思うのです。  この法の在り方というのが、この何年かの間だけですが刑事司法を中心としてきたも のだから、いわゆる制裁型・懲罰型になるわけです。そうすると、誰が悪いかという話 だけが問題になる。しかし、どうも医療事故というのは、ある特定の人が悪いという話 ではなくて、むしろ、ある病院なら病院の中でどこが悪かったのだろうか、ということ の方が問題で、その原因は複合的なものがある。非常に間接的なものもあれば、直接的 なものにまで及ぶような、もっと複雑なものであって、私も法学部ですからあえて自分 のことも含めて言いますが、単純な法律家が介入して、こいつだというような手法で医 療安全が本当にプラスになっていくかというと、それはそうではないでしょう。  例えば、お医者さんを1人捕まえて刑務所に入れても、実際には有罪になっても刑務 所に入っている例はないはずなので、執行猶予付きという話ですが、犯罪者にしても、 それで全体の医療の安全が高まったということになるのかどうかというと、そうではな いでしょう。  幸い、加藤さんなども強調しておられますが、遺族の願い、あるいは患者家族の願い は何かというと、単に恨みを晴らそうということではないのだということです。こうい う悲しいことがあった場合に、それが一体どうして起きたのか、ということがまず知り たいということ。もし間違いがあれば人間として謝罪して貰いたいという話と、その経 験をなんとか活かして貰いたい。同じような悲しい思いをする人を、少しでも少なくし て貰いたいという思いがある。  ここへオブザーバーとして参加して頂いている刑事司法の、例えば警察の代表の方、 あるいは検察の代表の方、法務省の方も、やはり刑事司法の側でもどんどん行こうと思 っているわけではなくて、自らの限界というのでしょうか、禁欲的姿勢をいまだって堅 持しているのだし、医療安全というものは当然医療者が責任を持ってやるべきことであ って、厚生労働省はその監督官庁ですが、そういうものだということを繰り返し、この 場で明言されておられるわけです。  そうだとすると、今回のこの検討会の方向性は、そういう方向性で出ていると思うの ですが、なかなかこの文章だけではうまく伝わっていないことなのだろうと思います。 制裁型・懲罰型ではなくて、本当の意味での真相究明と再発防止策のための医療安全の 旗を立てる、あるいは組織を作る。それを誰が行うかというと、それは警察ではない、 法律家でもない。警察も、後ろのほうで何らかの形でバックアップ体制を取るだけなの です。やはり、中核は医療界です。医療者が本気になってまとまって、とにかく日本に 医療安全という旗を立てようということだと思うのです。それでないと何にもならない。  失敗から学ぶということのためには、その失敗に関与した遺族、あるいは患者家族の 経験も大事なので、その人達も一緒になって、このパブリックコメントにもありました けれども、事故防止というのはすべての人の願いなのです。事故を起こして喜んでいる 医療者はいませんから、いないはずですから、医療者も患者もこぞって、うまくいくか どうかはとにかく、やってみないとわからないけれども、新しい組織を立ててやってみ ようという経緯だと私は理解しているのです。  3つ目に、しかし実際に第三者機関を立ち上げた時には、医療安全も真相究明も口で は簡単に言えるのですが、それがうまくいくかどうかは本当に至難の業です。私も、モ デル事業に少しだけ関与させて頂いて、解剖すればすぐに何でもわかるのかと思ったら、 それは本当の素人考えだということがわかりました。しかし、そういう真相究明をする ために、医療者たちである病理学者であれ、法医学者であれ、臨床の人たちが、時間の ないところをなんとか時間を作って、とにかく駆けつけてきて解剖に参加し、その後、 調査委員会で議論している中に、患者とか私のような普通の人も入ってそれを見てほし いと思うのです。  そういうことをやっているのは、世界でもまだ類例がないわけです。世界に冠たると いうか、日本で先駆けとしてこういうものをやってみるということには、やはり試みに 値する。そういうことをやってみて、もしうまくいけば、世界のモデルになる可能性が あるわけです。  長広舌になって一般論だけ言ってもしようがないので、各論のところでは誤解という か、この委員会でも詰めきれていないからだと思いますが、とりあえず3点申し上げま す。第1点目は、新しい組織を立ち上げたときに、そこへ何を届けるのだろう。これが、 2番目のペナルティの問題とも関連してまだ非常に曖昧ではないか。今までは警察へ届 け出たのだけれども、警察ではなくて第三者組織でいいと言っても、何を届け出るのか。 届け出ないと後ですぐペナルティという話になるのだったら、それは一種警察に代わる、 警察の下請機関みたいなものが作られて、懲罰的姿勢というのがそのまま堅持されると いう印象を持っておられる方が医療者の中にも相当いらっしゃる。  そうではない、ということをはっきりさせるためには何を届け出るのか、ということ をもう少し明らかにする必要があります。これがまたなかなか難しいのです。医療安全 という旗を立てているのですから、医療安全の見地から見て、医療機関が、医療者が、 この医療については何らかの形で問題があったのではないかと。それを第三者の所で明 らかにして貰うということが必要だと考えるようなものを届ける。いまは、それは渋々 かもしれませんけれども、警察のほうへ届け出ているケースとほとんどオーバーラップ すると思うのです。  それから、遺族のほうでは十分納得できない経緯の医療については、それをなんとか 明らかにして貰いたいということですから、これが窓口になって、当然それは届け出る。 だから、遺族が納得できないようなものについては医療機関の方から、しかし遺族のほ うが率先してでも構わないのですが届け出て頂く。もう少し何らかの形で明確な指針が 出ると良いと思いますが、何を届け出るのかについてもう少し明らかな姿勢を示す必要 がある。  2点目は、ペナルティです。ペナルティというと、医療安全という旗を立てているの ですから、医療安全に協力する義務化の話があって、これは医療者に課していいのでは ないかと思うのです。医療安全を目指さない医療者があって良いわけがないわけですか ら。これは法律家的発想ですが、義務であるからには、義務違反に対しては何らかの処 置があって良いだろうという話でのペナルティだと思うのです。  そのペナルティというのも、いろいろな形があるということはこれまでの議論で行わ れているわけで、一例ですけれども、例えば個人情報保護法というのは、ペナルティ付 きの法律として日本国は作ったわけです。しかし、あれはいきなりペナルティという話 になるのではなくて、個人情報保護に熱心でない、あるいは問題のあるような個人情報 保護機関、医療の場合では病院になると思いますが、医療機関について、医療の場合で あれば厚生労働大臣、主務官庁の所で勧告を出す。次の段階では命令を出す。それでも 聞かないような場合にはペナルティということになるので、これと同様の仕組みを作る 可能性もあります。医療安全に協力するという姿勢を見せないような所には何らかの指 導があって然るべきです。最後は、どうしても駄目だという場合は制裁があるというよ うな形のものを考える、ということかと私は思っているので、もしそうであるなら、そ ういうことをもう少しこの文章の中でも明らかにしてあげると誤解は少なくなるかもし れません。  3点目は、医師法第21条の問題です。10年来こういう話になっているのでなかなか難 しい問題だと思います。パブリックコメントの中にも、医師法第21条は残しておいて、 第三者機関がちゃんと動くようになったら、その後に医師法第21条を外すという段階型 もあるでしょう。そのご意見ももっともだと思うのですが、はっきり制裁型・懲罰型で はなくて、別の形でもっと実効的な医療安全の仕組みを取るのだということを明らかに するためには、医師法第21条についても、いまの第二次試案では「整理する」という表 現になっていますがそれをもう少し違う表現にすることが考えられます。整理するとい うのをどう取るかということですが、もう少しはっきり、医師法第21条は後ろに下がっ て頂くという姿勢を明らかにした方が良いのかと思っています。  個別の論点もいろいろあると思いますが、最後にもう1点です。今回の批判的なコメ ントの中で、医療者から随分あったという印象を私は受けています。それは説明不足、 情報提供不足の話なのかと思っています。8頁のところで、病院団体協議会、あるいは 医師会のところでは、こういう第三者組織が立ち上がった時には、医療者として全面協 力をするという姿勢を既に見せて頂いております。できればそれ以外にも、モデル事業 に協力している19学会、例えばこういうものがすぐ問題になるのは外科学会、産科婦人 科学会、麻酔学会、内科学会であれ何であれだと思いますが、そういう学会でも声明を 出して、我々がちゃんとやるから、ということを言って頂く。  いわゆる医療者の団体で、病院団体がありますけれども、他に看護協会であれ、医療 者が支えて医療安全をとにかく責任を持ってやっていくという姿勢を明らかにして頂く といいのではないかと感じました。 ○前田座長   いまのものに関連してでも、非常に全般に渡りますので、もうご発言も出てきやすく なったと思います。どなたか如何でしょうか。 ○堺委員   私もこの検討会に参加させて頂いて、法律をご専門となさる方々のご意見を伺ったわ けですが、今まであまりこういう機会がなかったものですから、法律を専門となさる方々 と医療を専門とする者の間には、ある局面では、ものの考え方に随分違いがあるという ことを感じました。しかし、いちばん根っこのところでは共通しているというように思 っておりますし、共通していてほしいとも思っております。  いま樋口委員がご指摘されたところと重複するところがいくつもありますが、今回の パブリックコメントを拝見して、まず医療関係者の意見が、数として大変多かったとい うことがあります。医療関係者の目から見ますと、その中には様々なご意見があるわけ です。しかし国民の方々からご覧になると、医療関係者という分類になろうかと感じま す。このパブリックコメントのご意見を踏まえて、検討会の在り方についての意見を申 し上げたいと思います。  私どもがここにこうやって集まっているのは、何をするためか。広い意味での調査委 員会について論じているわけですが、私はこの調査委員会には広い意味と狭い意味の両 方があると思っております。広い意味というのは、私がいちばん大事だと思っているも のですが、医療安全の推進を含む医療の質向上に資するものを作ろうというのが、やは り根底だと思います。しかし、そこへ行くためには狭い意味での調査委員会、すなわち 真相究明の部分あるいは原因究明の部分、ADR等々の紛争解決の部分、行政処分等の処 分に関する部分、そして最後に、それらを医療安全の推進を含む医療の質向上にどう活 かすかというところがあると思っております。ただ、全体の仕組みは大きなもので統括 するということがあっても良いとは思いますが、この4つを全部1つの機関が同じメン バーでやるということは、あまり現実的だとは思いません。  4つの機能をそれぞれある程度分けて考えますと、まず最初の原因究明は、樋口委員 のご意見にもありましたように、届出の定義というものが必要だと思います。もちろん 100%厳密には定義できませんが、ご遺族にとっても医療機関にとっても、どういうもの をこの調査機関に届けるのかという、ある程度のガイドラインは必要だと思いますし、 このガイドラインをどうやって作るかというのも検討しなければいけないと考えます。  原因究明のための狭い意味での調査機関には、もちろん医療の専門家たちも入ります が、私はやはり医療を専門とする者の視点だけではなくて、国民の視点というものがそ の中にはあるのだということを、国民の皆様にわかっていただけるような委員会の構成 であってほしいと思います。つまり、ちょっと抽象的な言い方になりますが、医療を専 門としない中立的な方にも代表的な立場でお入り頂いて、この原因究明はこういうもの だということを、そういう方の目も経て発表できるようになればと思っております。  もう1つは、警察との関わりです。警察へ届け出るということの定義を厳密にするこ とはできないと思います。しかし、ある程度のガイドライン的なものがあった方が、み んなが納得しやすいのではないかと思います。  また、警察に関しては医療機関の立場から、医師法第21条というものがあります。検 討会でいろいろなご意見を伺っていますと、法律を専門となさる方々は刑法に関して、 起訴・公判・判決が大事だというようにお考えでいらっしゃると、私は理解しました。 それは法律の立場としては当然だと思います。しかし医療機関側から見ますと、その前 の所轄での取調べがあります。これは司法のお立場では末端的なものなのかもしれませ んが、医療機関の現場では何か起こった時に、あるいはご遺族が訴え出られたときに、 まず動かれるのは所轄での取調べですので、法律的に医師法第21条にある程度の改正が 加わっておりませんと、所轄の方からしますと、届出があれば医師法第21条に則って動 かなければいけないと思いますので、医師法第21条に何らかの改正を加えるということ は、医療機関としては是非お願いしたいと思っております。  次に紛争解決です。これにはADRの部分もありますし、表現が若干不適当かもしれま せんが、謝罪・反省といったところもあろうかと思います。  行政処分等の処分については、狭い意味での調査機関、調査委員会とは、ある程度別 なものであった方が機能しやすいのではないかと思います。  最後の医療安全の推進を含む医療の質向上が、私はいちばん大事だと思っております。 いま、日本医療機能評価機構である程度の活動はなされておりますけれども、そこでど のような活動がどのように行われているか、その内容を少し調べさせて頂くようなこと も含めて、最終のゴールは、今後、医療の質向上へ繋げるためにはどうするのが良いか というところだと思うのです。直ちに結論は出ないと思います。しかし、最終的にはそ れを作るのだということで、できれば委員の皆様方のご同意も頂ければと願っておりま す。 ○前田座長  両委員とも、ある意味で1つのポイントは共通していて、やはり最終的なゴールは、 広い意味での医療安全と質向上ということですね。委員がおっしゃるように、その合意 はもうあると思うのです。それに異論のある方というか、そういうご発言は今までなか ったと思うのです。ただ、その前のご指摘の4つに分けて、その中のどこまでを今回案 として作っていけるかというのには、また難しい課題が含まれていると思います。今の ものに関連してでもよろしいのですが、ほかの委員の方、如何でしょうか。 ○高本委員   樋口委員は、医療者が中核になるべきだろうというお話でした。私は外科学会の代表 でもありますので、学会の話をします。昔は学会でも、紛争解決のような委員会があり ました。しかし最近は医療安全管理委員会というような名前になってきて、基本的に視 点が、医療安全が中心になっているということを申し上げたいと思います。医療者から も随分パブコメがあり、こういうところが問題ではないかというところは、樋口委員と 同じように、我々の説明不足が大分あるのではないかと思っております。また来週辺り、 医学会の先生方ともお会いしますので、こういう誤解を解くチャンスもあるのではない かと思います。  しかし、このパブコメを見ても、大きな団体の中で医師会、病院協議会、外科学会、 内科学会という医療者のほとんどをカバーするような所が皆、積極的に第三者機関に協 力しようとしています。まだ問題はありますが、ひとつひとつ解決しながら歩もうとい う姿勢でおります。医師会は約半数の医師を抱えており、内科学会は9万人の会員、外 科学会は4万人の会員ということで、これだけでも13万人になるのです。そうすると、 これだけで医師の半分ぐらいを抱えております。あとの産科学会や皮膚科など、いろい ろな領域に話をして、誤解を解きながら、大多数の学会の賛同が得られると感じており ます。  外科学会の試みをお話しますと、各学会には必ず評議員というのがおり、非常に大切 な機関として、評議員会というものがあります。大体1つの学会で200人から300人の 評議員がおります。評議員というのは学会へ出て評議員会で発言するというのが主な仕 事でしたが、我々外科の関係では、評議員は医療安全に協力するということも大事な役 目の1つとして挙げることにいたしました。評議員というのは、大体その地域の有力な 先生方ですから、その地域を中心に医療安全に協力するという体制を外科学会ではとっ ておりますし、ほかの学会にもこれを推し進めていく覚悟でおります。学会としてはこ れを非常に大切な役目として考えておりますから、必ずや樋口委員のご要望にお応えで きるのではないかと思っております。 ○木下委員   私たち日本医師会でも、このような新しい仕組みを作り、法制化していくことこそ、 最終的には医療安全、事故防止に繋がることであるという観点で対応してまいりました。 その背景としては、いま樋口委員がご説明になったとおりの経緯があり、私たち医師仲 間だけで医療事故に対する刑事訴追の問題を討議しますと、時には我々だけでしか通ら ないような議論や、まとめが出る可能性があります。しかしながら法治国家であり、検 察庁があり、警察庁があり、しかも我々は法律の下で医療行為も行われているという当 然のことをもう一遍考えてみますと、医療事故に関して我々がいろいろ主張することが、 果たして司法関係の方に通るのかという視点から、約1年かけて元検事長の方、刑事法 の学者の方々、医療界の代表も交えて医療事故に対する刑事訴追のあり方を検討してま いりました。  その基本というのは、先ほど樋口委員がお話になったような、医療事故に対する刑事 司法の在り方として、本当にこれがふさわしいのか、国民にとって良いことなのだろう かという視点から、やはり問題であるということに立脚し、では、どうあるべきかとい うことでした。  1つは、今回試案でまとめられたことが基本でした。それはどういうことかと申しま すと、これには入口の問題と出口の問題があるかと思いますが、入口の問題として、何 か起こった時の届出先として、警察という犯罪捜査を中心にやっておられる方々に届け るのではなくて、新たに警察以外の所に届けるということ、つまり中立・公平な第三者 機関を新たに作り、そこに届けるべきであるということです。  それから先程もお話がありましたように、検察も警察もそれなりに謙抑的な姿勢で対 応して下さっているのですから、これは今後も続けて頂きたいということです。したが って、これを法制化していくことなしには現行の医師法第21条は、このまま残り、診療 関連死の警察への届出という構図はかわらないのです。国民にとっても医師にとっても より良い形を、今回作っていくという視点であるだけに、この新しい取組みについては、 是非具体化して頂きたいという姿勢でおります。  いまの問題というのは、事故が起こった後の刑事司法のあり方に関する議論です。こ れと同時に、日本医師会は、医療安全の観点から、事前の課題として、医療事故をおこ さないように、再発予防への取り組みを真剣に始めています。  したがって、まず診療関連死の刑事訴追の方向を改めるための議論から整理していく ということでお願いしているわけで、先程来お話にありました医療界全体として、全て の医師が、この問題を解決するために、みんなでやっていこうという気持に関して、全 くぶれるものではありません。それは我々としても続けていきたいと思います。  今回のパブコメでも、ある医師会からは批判的なものも出ましたが、これは我々の責 任で、情報・説明不足ということに尽きると思います。そういうことで、問題視してい る各人に説明して、正確に理解してもらい、この課題を何とか形にしていこうというよ うに考えております。先程高本委員がおっしゃったように、医療界全体としては医療安 全のために、決して医療事故後の問題だけではなくて、事前の再発予防に関しても、今 後取り組んでいくという姿勢だけは明確にしておきたいと思います。 ○楠本委員   パブリックコメントの整理を、本当によくして下さってありがとうございました。提 出されたものを見ますと、医療従事者からの意見が多いということですが、やはり医師 が圧倒的に多いという状況で、看護師、その他の医療従事者に関しては10のコメントで した。私はこれを見て、このことが医療界全体、特にコメディカルにとって差し迫った 問題というような捉え方ができていない、啓発普及ができていないと改めて思っており ます。看護師の意見にしても、調整看護師という死因究明のモデル事業にかかわってい ると思われる方々からのご意見と、リスクマネージャーの関係の方という内容で、一般 の臨床で日々看護を提供している人たちには、問題になっていないということを改めて 思いました。  私はこの検討会がもたれるに当たり、中立・公平という観点で、患者側と医療従事者 が医療安全に向けて真摯に語り合える場を作れることは、大変喜ばしいことだという発 言をした覚えがあります。それから少しトーンを落としてなりを見ておりました。と言 いますのは、本当に医療界がプロフェッショナル・オートノミーを発揮して、加藤委員 がよくおっしゃる、逃げない、ごまかさない、隠さないという文化に行けるのかどうか、 それが本当に試されていると思って来ております。  樋口委員が先程、看護協会もというようにおっしゃいましたが、実際の医療安全の現 場では、私は看護がほとんどを担っているというように思っております。医療安全は看 護なくしてなし得ないものだと思っております。この間、中医協の議論に供された医療 安全に関する資料で、リスクマネージャーをどういう職種が担っているかというのが出 ておりました。86%を看護師が1人で担っているという状況です。そういう意味で、も う既に看護は医療安全に向けて本当に真摯に取り組んでいるということです。  この検討会の方向性については、私共も検討しつつ見てまいりました。モデル事業に おいては調整看護師が、関わる医療従事者、ご遺族の方、関連した病院などの調整を非 常に必死になって担っているという現状があります。ただ、位置付けとしては専任の所 も出てきましたが、パートでというのもあり、あまり強化されていません。今後これを 制度化していく時には、名称には拘りませんが、福祉看護職の位置づけというものをき ちんとお考えになって頂いて、役割を果たさせて頂けるということを、是非お願いした いと思います。  それから、まとめの中で出てきている、生きた人間と疾病を対象とする医療の限界と 不確実性を理解するということを国民にも広く理解を求めないと、わかり得ない部分の 1つの大きな要因がこちらにもあると思います。医療にかかれば何とかなる、病院に行 けばということですが、実は病院も命懸けになっており、医療を提供する側も生活生命 を絶たれるような状況で医療を提供しています。こういった状況を改善していくために は、国民側にも遺族の気持をわかってほしいという、本当に大変な思いをなさった方も 勿論いらっしゃいます。そことのわかり合っていくプロセスというのも必要ですが、そ の前提として、やはり医療の不確実性というか、もうちょっとわかっていただく教育を きちんとして頂きたいと思います。そして、そういった調査委員会は、国民側の無理解 ということも力強く指摘していくような、そういう委員会であって頂きたいと思ってお ります。  死因究明については今のところ、科学的な医師の立場からの究明というのが大きく出 ておりますが、医療安全は、医療というシステムの虚弱さといったもので出ているとこ ろがたくさんあります。ですので、そこを究明していくという観点から、やはり看護者 だけではなく、多くの学際的な分野を入れた取組みの委員会を、中にたくさん入れてい く必要があるのではないかと思っております。  届出先が保健所ということについては、保健所に本当にそういう可及的な対応ができ るのかどうか。これから仕組みを考えていくことだと思いますが、それよりもむしろ、 直接委員会に届け出るといった仕組みのほうが宜しいのではないかと思います。  また、内部告発についてどう取り扱うかということも、検討する必要があるのではな いかと思っております。内部告発から一種の社会正義ということで、大きな事件が解明 されていったことも見ておりますので、これをどう取り扱っていくかです。むしろ二段 階的な予備調査をして進めていくような、そういった慎重な対応をしつつ、全く取り上 げないということではないのではないかと思っております。  日本看護協会も看護界を挙げて、事故調査委員会の成立または運営に向けて、一生懸 命協力していく覚悟はとうにできております。むしろ医療界の、特に医師の皆さんにお 願いしたいのは、この公正・中立というところに本当に歩み寄ってやれるのかというこ とです。看護師というのはある種、「家政婦は見た状態」のところもあります。そういっ たところも本当に恐れず、ちゃんと公開していく勇気と、それからの展開への期待をも って事業を進めていくということを是非お願いして、看護もそれに向けて努力をしてま いりたいと思っております。 ○前田座長  さまざまな点、具体的なご指摘も踏まえて、もちろん次回にも繋がっていくと思いま す。加藤委員、如何ですか。 ○加藤委員   名称をどうするかということは、実は単に名称の問題に止まらず、みんなが描く中身 に関係してくるのではないかということを感じながら、今お話を聞いておりました。私 は前回、「医療事故調査委員会」という名称よりも、「医療安全中央委員会」というもの を内閣府に設けて、国家的な事業としてやってはどうかという話をしました。実は、そ の後大きく育てていくためには、「医療安全質向上委員会」といった名称で、第三者機関 をきっちりと提示することが大切なことではないかという気がしております。  今までのご議論の中で出ていなくて、私が極めて重要だと思っているのは、「院内事故 調査委員会」というのが第二次試案の5に、わずか2行書かれているだけということで す。「院内事故調査委員会における調査・評価が極めて重要であり、外部委員を加える等 により、その体制の充実を図る」というように書いてあります。今回のパブコメの整理 の中でも、院内事故調査委員会については、今日の資料の15頁に出てきます。私は、特 に医療界の模範的な医療機関であるべき特定機能病院や大学病院などで、院内で事故が 起きたときに院内で自律的に、客観的かつ公正な評価がきちんとできないようでは話に ならないという気持があります。  もし、院内事故調査委員会がきちんとなされた場合に、第三者機関は院内の事故調査 委員会とどういう関係を取っていくのか、ここのところは実は大変重要な視点になって くるだろうと考えます。なぜならば、全国で診療関連死が1年間にどのぐらい発生する のかという想定は、なかなか難しいわけです。勿論、診療関連死の定義や届出義務の問 題など、様々なことによって、数というのは相当幅が出てくる可能性があります。然し ながら、2,000件とか3,000件という数になるかもしれない診療関連死を、第三者機関 が全国いくつかのブロックに分かれて鋭意活動するとしても、大変な労力をかけなけれ ばいけないということになります。  私は、ある一定規模以上の病院で事故が起きた時には、自前の院内事故調査委員会が 自律的に、客観的で公正な事故分析、事故評価がなされるような豊かな土壌を医療界に 形成することなくして、この第三者機関が皆さんが期待しているような役割を果たせな いのではないかと感ずるわけです。第三者機関ができたから、各院内の事故調査の活動 が停止していいはずがありません。つまり、それぞれの医療機関独自に、自分達がその 医療機関の中で、組織的な弱点やシステム的な問題をも含めて分析し、改善点を提言し ていく力が育っていかないことには、この医療安全質向上委員会的なもの、第三者機関 的なものは豊かに活動を展開することはできないだろうと考えるからです。  その意味では身近で事故が起きた時に同僚批判、ピアレビューということがきちんと 正しくなされ、個人攻撃になるのではなく、今後の医療の改善のためにみんなの問題と して考え、下のほうに沈澱させてしまうのではなくて、医療事故情報というものをきち んと浮かび上がらせて、そこから教訓を学んでいこうではないかという文化、それが今、 医療界にいちばん強く必要な、また、求められていることではないでしょうか。実はそ れが、医療安全質向上の基盤を形成していくのだという思いがあるからです。  その意味で私は、院内事故調査委員会をどういうように育てていくのか、または、い ま院内で一生懸命事故調査をしようとしている芽を大きく育てていくことができるのか、 それを様々な施策の面で、かなり優先的な課題として考えて貰いたいと思います。いち ばんいけない姿は、こういう第三者機関ができたから、もうお任せするということです。 そこへ全部委ねて、自分達はその指示に従うという医療機関になっては絶対にいけない だろうと思うわけです。一定規模以上の医療機関には、私はそれを期待していきたいし、 そういう芽を育てたいわけです。  しかし、もっと小さな規模の医療機関ではどうするか。例えば100床位で果たしてや れるだろうかとか、いろいろなことが出てきます。そういう場合はいろいろな考え方が あり得ると思います。仮に、いくつかの規模の病院がその地域にあったとすれば、連合 して事故調査委員会を外部に設けるとか、学会の地方会がそういう所に事故調査委員会 を設置するとか、場合によっては医師会のそうした地域の取組みの中で、自浄作用委員 会というようなものができるという話も聞いたことがありますので、そういう中できち んとクオリティーコントロールを図っていくとか、いろいろなことをしていく。  かつ、そのプロセスが透明で、成果物たる事故報告書がオープンにされる。個人情報 やいろいろなことに配慮しつつも、教訓という部分、あるいは提言という部分は皆さん にオープンにされて公開され、そして医療の安全に警鐘を鳴らすことができるならば、 そのほうが非常に役立つのではないかと考えます。ですので、院内調査委員会、あるい は外部の事故調査委員会のようなものが、どういう形で形成されるのか、私は各学会の 責任も重いと思います。これを機会に、そうした全体的な、総合的な力で、何とか医療 の安全や質向上の大きなうねりを作っていきたいと思っているわけです。 ○豊田委員   私は遺族の立場でお話させて頂きたいと思います。私の息子の事故は、内部告発がき っかけで公に知られるところとなりました。この内部告発がなければ、私がこの席にい ることはなかったと思いますし、病院は当初、否定し続けていましたので、事故が公に なることもありませんでした。内部告発そのものが、決してよい形だと思っているわけ ではありませんが、そういった行動を起こされる方がいないと、事実や実態が明らかに ならなかった事故が、これまでにもあったのだと思います。最初に樋口委員から口火を 切って頂いたお話を、私はとてもありがたい思いで聞いていました。  遺族に限定してしまいますが、遺族が知りたいことは、もちろん真相ですが、それを 病院や関わった当事者たちがどう受けとめて、どう考えてくれているのかということを、 いちばん知りたいと思うわけです。ところが実際には、病院と対話ができず、警察が介 入することもあるでしょうし、病院が全くシャットアウトしてしまって、対応してくれ ないということもあります。そういう中で遺族は、どんどん不安と不信感が膨らんでい ってしまうのだと思います。  いま医療側に萎縮が起きているという危惧や、そういった心配をなさるということは、 遺族である私たちにとっても十分理解できます。ただ、なぜ遺族が警察に届け出たいと 思うのかという原点のところを、もう一度考えて頂きたいと思います。毎回発言させて いただいていますけれども、好きで警察に届け出ているわけではありません。  それから先生方の中でもおっしゃっているように、警察で、医療の専門的な部分をご 存じない方から聴取された中で、遺族である私自身も正直傷ついた部分がありました。 しかし一方で、ほかの被害者遺族の方にお話を伺うと、「警察の方がいなかったら、自分 達はどうなっていたかわからない」とおっしゃっている方もたくさんいらっしゃいます。 これらのことからも、現状の形でいくと、警察が全く介入しないという形は不安である という気持は、やはり遺族の中にはあると思います。  今日、高本委員や木下委員が発言して下さいましたが、被害者遺族や国民の皆さんは、 医師の方々、医療者の方々の発言といったものが、信じられる発言と行動であってほし いと願っているわけです。信じられるものであれば一緒に調査委員会を作っていかれる のではないかと思います。勿論パブリックコメントの中の批判的な医師のご意見という のも、真摯に受けとめなければいけません。ただ医療職以外の人も一緒に取り組んでい かれる、一緒に考えていかれる内容でなければ、とうてい国民は受け入れられないと思 います。  確かに全ての医療事故の届出を一本化して、そこで全ての解剖がやり切れるかといっ たら、それは大変なことだと思います。その際には画像診断などの導入なども、是非こ の機会に検討して頂きたいと思います。私の息子の事故に関しては腸閉塞だったのです が、もしかしたら解剖をしなくても、画像診断ではっきりわかったかもしれません。で すので「これでは大変だ」とか、「できないのではないか」ばかり言っていないで、やは りそういったものの導入についても考えて頂きたいと思います。  それと、私が実際に体験したことの中で、息子は行政解剖を受けました。しかし行政 解剖の結果として、死因や解剖記録の内容が病院に伝えられることがありませんでした ので、内部の事故調査委員会の中で検討され、きちんとした報告書が作成されることは 最後までありませんでした。私たち遺族は、事故が起きた当該病院の中で自浄作用をき ちんと行って頂くことが、いちばんの願いです。そういったことからも、病院の中にき ちんと調査内容や情報が伝わるようなことを、行って頂くことが望ましいのではないか と思います。民間のADR機関も必要だとは思いますが、ADR機関に頼る前に、やはり病 院の中で一つひとつの事例に対して対応していくことが、いちばん大切なことだと思い ます。  私も実際、現在勤務している新葛飾病院の中で、ご家族に向き合って対応させて頂い ています。完全な形ではありませんけれでも、そうやって一つひとつ対応することによ って、その病院の中で欠けている部分や改善点が、毎回必ず見えてきています。そして 向き合う姿勢というのを患者さんやご遺族に見て頂くことが、一番大事なことだと感じ ています。そのことが一番の信頼回復に繋がっていくのではないかと思いますし、そう いった関係を築いていくことによって、患者さんやご遺族の心の回復に繋がることにも なるのだと思います。当該病院できちんと行っていくこと、病院の中で事故調査委員会 を行っていくこと、そういった一つひとつのプロセスが大切だと思います。  また、外部の方達との連携についても、非常に重要だと思います。いま加藤委員がお っしゃったように、当院の場合ですと176床の民間病院ですので、その中の医師だけで 事故調査委員会を立ち上げるというのは、非常に難しい状況です。是非外部にきちんと 事故調査委員会というものを設置して、死因がはっきりした中で、その情報が当該病院 の中に伝えられて、そこでご遺族に対してきちんと対応できるような体制が取れること を、切に願っています。  各医療機関は年に2回以上研修会を行わなくてはいけない、ということが義務化され ていると思います。いま私は医療安全に関する院内研修会ということで、全国から講演 依頼をお受けして、たくさんの医療機関の方とお会いしています。そして現場の声を直 接お伺いしています。そういったご意見をお伺いしていくと、パブリックコメントのよ うな批判的な意見ばかりではなく、この検討会の皆さんがご発言なさっていることや、 試案に出ていることに概ね賛同されている方も非常に多いということを、私自身、現場 の声を直接聞いている中で感じております。これは決して遺族だけのことではなく、現 場の方たちも願っていることではないかと、私自身はそう解釈しております。  国民の皆さんが、こういったパブリックコメントに意見を出すというのは、非常に敷 居が高いと言いますが、出しにくかったり、どう出して良いかわからないというのが現 状だと思います。それは医療現場の皆さんもそうだと思います。そういった声なき声を 知る努力をしていかなくてはいけないと思います。多数のサイレントマジョリティーに 対して、そこを考慮した制度でなければならないと思っておりますので、是非、今後も その辺のところを詰めて頂きたいと思います。 ○南委員   皆様のご発言とダブることが多いのですが、何点か申し上げたいと思います。なぜこ ういうものが必要になったかという整理と、どういうものにすべきかというところは、 最初に樋口委員が整理されたとおりであると思います。  今回のパブリックコメントで私がいちばん印象を受けたのは、職業構成を見ても、医 療従事者が6割以上ですし、医療現場の方がこの問題に深い関心をお持ちであるととも に、どういうものが出来るのか、危惧も抱いているわけです。今後、これを設置してい く上でいちばん問題となるのは、やはり「届出の範囲」だと思います。これをどう決め るのかによっては、医療の現場に混乱もあり得ると思いますし、いままでの医師法第21 条とどういうように区別するのか、具体的にはかなり大きな問題になるだろうとも思い ます。  豊田委員も言われましたし、樋口委員も最初に、「私たちが目指す組織というのは、過 去に不幸なことがあった遺族の方などが、あの時これがあったらと思えるような組織」 と言われました。まさにそうだと思います。もし、そうであるとすれば、これまで声を 挙げてきた方々にとっては、刑事司法や警察というものがあったからこそ、声を上げ、 こういう場ができたわけです。刑事司法の担当の方が好んで医療事故に首を突っ込んで 関与してきたわけでは決してなく、それがあったのでここまできたということは、一つ きちんと評価をしておく必要があります。  国民としては、いまの段階では、豊田委員も言われたように、完全に理想的な新しい 組織に委ねて大丈夫なのか、という不安があって当然だと思います。現実には、樋口委 員や楠本委員も言われたように、医療文化がどう変われるかというところにかかってい ると思うのです。そう考えますと、いま医療現場が置かれている状況というのは、「火の 車」。大変厳しい状況になっているわけです。現場の方からお話を聞きますと、現在の医 療現場は切実な苦労を抱えているわけで、そのことも考慮しなければなりません。  本来、「医療安全」のあるべき姿は現場から、ということを考えますと、各当該病院が 行うべき医療事故調査と今回できる組織の関係、あるいは各現場にどういう機能を確保 するのかというところから、やはりきちんと論じていかないと、「理想的なものが出来ま す」と言ってみても、現実性が乏しいという印象を持ちます。今回、こういう組織がで きることについては総論的に反対はないわけですから、あとはいかに現実的に現場が機 能し、なおかつ、調査委員会が扱うべき事例をきちんと作るか、というところにかかっ ているのではないでしょうか。  最後に、これは楠本委員が言われたことでしょうか。医療には不確実性や医療安全コ ストやマンパワーなどいろいろなものがあって、医療に対する国民の認識についても意 見ができるような組織にというようなご発言をされました。この会議の初回でも申し上 げたのですが、いまの医療をめぐる現状というのは、やはり国民の認識というものと不 可分ではないと思います。ただ、そこまでをこの組織に、ということになると、ますま す組織が重くなって、この財政状況の中でそういうものが現実にできるのかという心配 もいたします。 ○前田座長   コメントを頂きたいという趣旨ではないのですが、法務省、警察庁のほうで何かコメ ントがあればお願いします。 ○刑事企画課長(警察庁刑事局)  いま各先生方のご議論をお伺いしており、この非常に重要な問題について、真摯にご 議論頂いているなと思いました。まだ2度目の参加ですが、この問題については新しい 調査委員会の在り方というのが、非常に重要なのだろうと感じております。旧来の行政 の在り方というのは、たぶん監督官庁が指導監督よろしきを得て、基本的に行政の予定 調和が図られるということだろうと思うわけです。然しながら、全ての行政分野におい て、一定限度の失敗や過誤といったものは不可避であります。そういった意味で1つの 流れとして、事前チェックから事後チェックということが、この席に入って言われてき ているわけです。そういった中で、今回の委員会というものも位置づけられる必要があ るのだろうと思っております。  それを担保する1つの有り様というのは、たぶん皆様方からも出ていたと思いますが、 やはり国民に対してどの程度の説明ができるか、また、組織自体としてどの程度の透明 性が確保されているのかということです。それらはたぶん今回の調査委員会においても、 国民の信頼を確保し、国家刑罰権の発動や捜査に関連する分野で活動される中において、 極めて重要な役割を果たしていかれるのだろうと思います。そういった観点からの要請 にも応えるものになる必要があるのだろう、というように聞かせて頂いております。警 察のこととは直接関係ありませんが、取りあえずそういうことをコメントさせて頂きま す。 ○前田座長   今日のご議論を伺っていますと、院内調査委員会の問題が他のところに比べると、少 し議論が足りなかったかと思います。堺委員がご指摘になった真相究明と安全対策の質 の向上、特に質の向上に関しては、院内の動きが非常に重要だというのは、もうご指摘 のとおりだと思うのです。ただ、真相究明の部分になってくると、先程のいろいろなお 話にもありましたように、新しい組織で学会の協力を得てやっていかなければいけない という部分が、より強くなるかもしれません。  1つの組織の中にどう組み込んでいくかというのは、いろいろ問題はあろうかと思い ますが、それ以上に、今日のご議論を伺っていて重要なポイントでもあり、このパブコ メでも数として一番ご心配になられていることがよくわかったのは、何を届けたら良い のか、どういう場合に届けたら良いのか、届出の主体は誰なのか、それから刑事罰にど う繋がっていくのかということに対するご懸念です。それらに関しては医師会・学会等 からいろいろご説明頂けるということもご発言頂いたわけですけれど、やはりこの検討 会としては次回、その点については少なくとももう1回、議論をやった方が良いのでは ないでしょうか。  医療安全の問題についての組織を作っていく時に、主体になられるのは医療の方々で す。その方々がこれだけご懸念を持っていらっしゃるということに関しては、やはり重 く受け止めないといけないと思うのです。明確な定義をするというのは難しい問題で、 また袋小路に行ってしまうかもしれませんが、少なくとも今までの例との比較とか、ガ イドラインとか、いろいろな言葉が出ています。具体例でも良いです。何か手掛かりに なるようなもので、医療の世界でこういうものが出来ても、今までよりも萎縮的な医療 になるものではない、むしろ逆の方向を向いているのだということが、ある意味で具体 的にイメージできる一歩をお願いできればと思います。  時間も大体終わりになりましたし、きちんと全員に発言して頂けましたので、今日の ところはこういう形でまとめさせて頂きます。次回の予定について、事務局としては何 かお考えですか。 ○医療安全推進室長   次回の検討会の日程については、改めてご連絡を差し上げたいと思っております。 ○前田座長   それでは、今まとめさせて頂いたような方向で、次回にもう1回ご議論頂きます。た だ、ほとんどの委員からご発言がありましたように、この会を作っていくことについて は、基本的なご賛同は得られているということで、具体的に作り込む方向で議論を進め てまいりたいと思います。何とぞ宜しくお願い致します。それでは今日は閉じさせて頂 きたいと思います。 (照会先)  厚生労働省医政局総務課医療安全推進室   03−5253−1111(2579) 1