07/10/04 第2回原爆症認定の在り方に関する検討会議事録 第2回原爆症認定の在り方に関する検討会              日 時:平成19年10月4日(木) 17:00 〜19:06           場 所:中央合同庁舎第5号館 省議室(9階) 1.有識者からの意見聴取(日本被団協の推薦する者)   総合病院福島生協病院病院長    齋 藤   紀氏   名古屋大学名誉教授        沢 田 昭 二氏 2.原子爆弾被爆者医療分科会からの意見聴取   原子爆弾被爆者分科会会長     佐々木 康 人氏   原子爆弾被爆者医療分科会会長代理 草 間 朋 子氏 3.その他 ○金澤座長 よろしいでしょうか。それでは、定刻になりましたので、第2回目の「原 爆症認定の在り方に関する検討会」を開催させていただきます。  本日の御出席状況でございますけれども、永山委員が御欠席という御報告を受けてお りますので、よろしくお願いいたします。したがいまして、現時点で8名の委員の中で 7名の御出席をいただいておりますので、会が成立していることを申し上げます。  それでは、議事に入りますが、議事次第がございますけれども、これに沿いまして議 事を進めたいと思います。ここにございますように、議事は、有識者からの意見聴取で ございます。それから、原子爆弾被爆者医療分科会からの意見聴取でございます。そし て、その他となっております。  議事に入ります前に、事務局から資料その他につきまして簡単にお話、よろしく。 ○佐々木課長補佐 では、資料の確認をさせていただきます。資料に不備等がございま したら、事務局までお知らせください。  まず、資料でございますが、「資料一覧」に基づきまして御説明をいたします。  資料1といたしまして、「『原爆症認定の在り方に関する検討会』における意見陳述」 ということで、齋藤様の資料でございます。  それから、資料2でございます。「残留放射線と内部被曝」、沢田様の資料でござい ます。  資料3といたしまして、「原爆症認定の審査について」ということで、佐々木様、草 間様の資料でございます。  それから、参考資料でございますが、参考資料1といたしまして、齋藤様の「陳述参 考資料」でございます。  参考資料2といたしまして、「原爆症認定に関する審査の方針」でございます。  参考資料3といたしまして、原爆症の認定申請書の様式でございます。  参考資料4といたしまして、「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条の規定 による認定の審査に必要な書類等について」という通知でございます。  参考資料5といたしまして、「放射線の人体への健康影響評価に関する研究」、児玉 班の研究でございます。  参考資料6といたしまして、「広島原爆被爆者の放射線白内障」に関する論文でござ います。  参考資料7としまして、「肝機能障害の放射線起因性に関する研究」、戸田班の研究 報告書でございます。  参考資料8としまして、「疾病・障害認定原子爆弾被爆者医療分科会名簿」でござい ます。  資料は以上でございます。 ○金澤座長 ありがとうございました。それでは、資料不足はございませんね。大丈夫 ですね。  それでは、早速、議題の1に入りたいと思います。最初は、日本原水爆被害者団体協 議会、いわゆる被爆者団体でありますが、そこから御推薦ございました総合病院福島生 協病院の病院長でいらっしゃいます齋藤紀先生と、後でお話ございますが、名古屋大学 名誉教授の沢田昭二先生のお二方にお見えいただいております。  まず最初に齋藤先生からどうぞ。資料は1になりましょうか。どうぞお願いいたしま す。 ○齋藤氏 御紹介いただきました齋藤でございます。広島で内科の臨床医をしておりま す。被爆者の方々の診療に関しては、約30年の経験を持たせていただいております。し たがって、私が今日お話ししますことは、先人のいろいろな研究論文を含めまして、被 爆者の方々からお聞きしたこと、学んだことを中心にお話しさせていただきたいと思い ます。よろしくお願いいたします。  意見陳述書が配付されておりますので、御参照いただきたいと思います。  初めに、意見陳述の場を与えていただいたことに対して関係各位に感謝申し上げます。 私の陳述の内容は、表記しましたように主要には被爆者疾病の病像について現在到達し ている理解を説明し、9月20日付で被団協から示された「見直しにあたっての要求」の 3項にある政令で定められる疾病、傷害についても見解を述べることにあります。  なお、私は、今般の原爆症集団訴訟の1つ、広島地裁における認定申請却下処分取消 訴訟において、医師として数編の意見書を提出しており、原爆被爆者の急性症状や晩発 障害をどのように見るべきかについて詳細に述べているところですが、今回の意見陳述 に際して、私の全体的な考えを御理解いただくために有効かと考え、司法の場に提出し ました書証4篇を添付させていただきました。よろしくお願いいたします。  短い時間ですので、簡潔に述べていきたいと思います。最初に、資料1〜7の順に従 い、被爆者疾病について、現在理解されている点について触れたいと思います。  なお、その他の文献の引用は文中に記したいと思います。  また、文中で資料番号の間違いが2か所あります。そのときに訂正させていただきま す。  また、ワープロの変換ミス等の間違いが幾箇所かあります。御容赦ください。  原爆被爆者の病像についてであります。  まず、(1)固形がんについてであります。添付しました資料1をごらんいただきま す。これは、放射線影響研究所の寿命調査、LSSと呼んでおりますけれども、その第 13報の一部です。ページをめくっていただきまして、11ページ図2をごらんください。 これは固形がんを全体として見た場合の被曝線量との相関を見たものです。横軸はシー ベルト単位で取っております。文章に一部下線を引きましたが、この表の示すところは、 ごく低線量域、0.12シーベルト未満においても有意の過剰率となることが示されており、 被爆者固形がんは更にしきい値のない線形の線量反応関係を示すことが指摘されており ます。  もう2枚めくっていただきまして、13ページの図4をごらんください。ここには13 種類の個別がんの1シーベルト当たりの過剰相対リスク、ERRと略しますけれども、9 0%信頼区間の棒とともに示されております。この図の中で、4種の固形がんは十分な統 計学的有意差を示さず、90%信頼区間下限がマイナスとなっていますが、ERRの平均 で見た場合、平均はクローズド・サークルで棒のやや中央に示されている点ですけれど も、ERRの平均で見た場合は、すべての部位のがんが0.0の軸よりも右にあります。 LSS13報の解析者は、個別の固形がんの変動の幅は大きいものではなく、したがって、 臓器別の差異を過剰に解釈しないようにと文中で留意しております。  次は、添付資料の2でございます。添付資料の2は、被曝線量をDS02で評価した報 告ですが、表紙の次のページを開いていただきます。これは論文中のフィギア3の図と、 その説明文を添付したものであります。図の横軸には、これはグレイ表示で単位を取っ てありますけれども、全固形がんの線量反応関係を見たものです。いずれも0から0.15 グレイの低線量域から有意のリスク増加を示していることが示されております。また、 英文の文中に下線を引かせていただきましたが、しきい値線量を0.085に設定するモデ ルよりも線形線量反応がよりフィットすること、つまり、しきい値がないことも同時に 指摘しております。  次のページ、資料3でございます。この図は、公表が予定されているLSS第14報に 示されている表の一部でございます。既に幾つかの研究会で紹介されておりますので、 利用させていただきました。先ほどの13報の場合から調査期間を約5年間、2002年ま で延長線して得られた調査です。臓器別の過剰相対リスクを90%信頼区間の棒で示して います。13報では、統計学的有意差が不十分であった4種のがんのうち、膵臓がん、英 語で「Pancreas」と書かれてあるものでありますけれども、膵臓がんが90%信頼区間の 棒がずっと右へ移動してきております。各固形がんの名前の一番上に「合計」と書かれ ているものがあります。これが全固形がんをまとめて見た場合の過剰相対リスクに当た ります。これで見ますと、図中ちょっとわかりづらいですけれども、過剰相対リスクは 1グレイ当たり、これは文中「シーベルト」を訂正していただきたいと思います。1グ レイ当たり過剰相対リスクは0.37となっております。つまり、非被爆者の1.37倍のリ スクということになります。  なお、先ほどの添付資料2では紹介しませんでしたが、添付資料2の論文は、臓器別 の過剰リスクを求めるだけではなくて、いわば発がんをする組織細胞別に放射線の影響 を見ておりますけれども、5大病理組織、すなわち、偏平上皮がん、腺がん、他の上皮 がん、肉腫、他の非上皮がんについても放射線の発がんリスクを検討して、すべての病 理組織でリスク増加が認められたことを述べております。  以上、添付資料の1、2、3から今日言えることは、人体で固形がんを発症するすべ ての組織において、放射線はしきい値を持たず、ごく低い線量からリスク増加に影響す ることがわかったということであります。  また、個別のがんではなくて、被爆者にとってみれば多重がんの問題も重要となって おります。多重がんは近距離被爆の高齢被爆者において増加することが既に知られてお ります。しかし、近距離直接被爆だけに限定はされません。  添付資料4をごらんください。『保団連』という雑誌の8月号ですが、それを1枚め くっていただきまして、タイトルでわかりますように、これは入市被爆者の場合の事例 を記したものです。内容は後で読んでいただくことで省きますけれども、被爆の第14 日、8月19日に、爆心地から350メートルのところに集団で入市して1週間介護に当た った女子生徒たちの被曝状況及び後障害を記したものです。このうちの1人が広島地裁 原告被爆者の一人となっているものです。この方は、乳がん、胃がん、卵巣がん、子宮 がんの四重がんを罹患されています。  なお、入市した23名の生徒集団から2名の白血病が発症しており、入市被曝の被害が 決して軽視できないことを教えております。  被爆者の病態を断面で見るのではなく、持続的なものとして見ることが大切であると 私は考えております。その点について触れたいと思います。(2)被爆者の持続的病態 についてです。  原爆投下から60年以上がたち、被爆者たちの多くが鬼籍に入る時期を迎えつつありま す。それは同時に、人体における原爆被害の全体像把握が一層求められていることでも あります。  原爆の急性障害が急性症状の外観上の消失で終わるものではなく、持続して存在する ことを把握しましたのは、当時の精神科医、小沼十寸穂でありました。彼は、心身統合 の失調を基本とする「体質的偏倚」が長期的に存続し続けることを指摘いたしました。 しかし、心身統合の失調を扱う学問の当時としての限界は覆うべくもなく、また、白血 病初めがんの多発という問題を受けて、基礎と臨床の主流がこの問題に集中し、結果的 に被爆者に見られました「体質的偏倚」を総合的に、あるいは経時的に把握する流れは 途絶したと言えます。  しかし、今日、統計学的解析手法の発達により、被爆者の病態を縦断的に把握するこ とが一層可能となってきており、また、免疫学的手法、遺伝子解析の手法の発達などか ら被爆者病態を総合的に理解することができるようになりつつあります。  添付資料5をごらんください。添付資料5は、被爆者においては炎症性マーカーが線 量依存的に上昇していることを示したものです。414ページを見てください。1ページ めくっていただきます。図1と下の方にありますけれども、インターロイキン6、ある いはTNF-α、あるいはCRP、インターロイキン10など、線量相関を見ております けれども、放射線被曝というのはいわば一種の炎症促進状態をつくり上げることでもあ りました。  また、この資料には載せておりませんが、血清カルシウムが線量に相関して増加して いることも報告されております。更には、既に免疫の偏向が被爆者に存在することも知 られております。  このような一連の偏向が年余にわたって続くことは、がん、非がん疾患の双方に対し て決して無縁とは言えません。1965年、被爆20年後の厚生省調査は、一般国民と比べ、 被爆者の医療にかかる割合を2倍から3倍としております。それは1975年の被爆30年 後においても同様でありました。免疫の偏向や血清カルシウムの高値や炎症促進状態な どを仮に踏まえるだけでも、被爆者の多疾傾向は、放射線被爆がつくった持続的病態そ のものと言えます。  被爆者の縦断的調査によれば、若年コホートにおいて高血圧が持続していること、ま た、同じように縦断的調査では、この40年間、すべての年齢時において被爆者群は非被 爆者群よりもヘモグロビンが低値であったことが示されております。続発性貧血を除い て調べられたこの膨大な調査結果は、造血機能に対する被爆の直接的影響が一貫して続 いていることを示唆しております。  いわば被爆者の後障害とは、原爆投下時の急性障害から、途中がなくて、突然に晩発 障害のがんや非がん疾患が発症するというものではなくて、持続的なものととらえられ てきております。原爆被爆者の晩発障害を限定的に狭く見ようとする考え方は根本的な 修正が迫られていると言えます。  次に、非がん疾患について触れたいと思います。添付資料6をごらんください。添付 資料6は、放射線影響研究所の成人健康調査(AHS)第8報の資料であります。アブ ストラクトの邦文の中に示されておりますように、甲状腺疾患、慢性肝障害、子宮筋腫、 白内障に有意な線量反応関係が見られたことを述べております。  また、心筋梗塞においても、40歳未満被爆で有意な関連を指摘しています。これは次 のページ、1枚めくっていただきまして、左上に図が2つ示されております。そのうち の下段の図、心筋梗塞ですけれども、被爆時年齢40歳未満で、1968年から1998年まで の30年間の調査結果であります。線量に相関して心筋梗塞の発症率が有意に増加してい ることが示されております。  また、今回は資料でお示ししませんが、副甲状腺機能亢進症や肺維症も近距離被爆者 に多いことが知られているところであります。  次の添付資料6は添付資料7の間違いで、訂正してください。添付資料7は、放射線 白内障についてのMinamotoらの報告であります。放射線白内障は長い間、しきい値のあ る確定的影響の代表として知られ、原爆白内障は被曝後数年して発症し、その後は進展 せずとされていました。しかし、広島大学眼科教室、長崎大学眼科教室、放射線影響研 究所の共同研究は、遅発性の放射線白内障の発症を指摘しました。  343ページに図が4つ示されておりますけれども、その一番下の図dでございます。 放射線白内障は、病理組織的に水晶体の後ろ、後嚢下に混濁を示すことが特徴とされて おりますけれども、この後嚢下混濁が線量に依存して発症していることが示されており ます。  また、その上の図c、Cortical Opacities、皮質混濁とされているものであります。 これは臨床的には老人性白内障を示します。この皮質混濁についても線量相関が明らか になりました。しかも、いずれの線量相関も線量にしきい値を有していないことが確か められております。  Minamoto論文の冒頭、339ページに戻っていただきまして、アブストラクトが英文で 書かれております。その一番下段、コンクルージョン、結論が示されております。「ふ たつのタイプの放射線の影響が観察された」とされています。  しきい値の問題に関して言いますと、実は、それ以前の被爆者調査で、水晶体が若年 で被曝した場合、放射線白内障の発症は高頻度となり、しきい値は被爆時年齢と関連し、 可変的である可能性が知られておりました。  添付資料10は、私が広島地裁に提出した資料の1つですけれども、その3ページから 6ページに原爆白内障の研究史を概括しておりました。ちょっと長くなりますので飛ば せていただきますけれども、後でお読みいただければ幸甚に存じます。Minamotoらの報 告は、被爆者の後障害が機序を変えながら持続していることを実は知らしめたとも言え ます。  次は、原因確率についてお話し申し上げたいと思います。原因確率に基づく認定申請 却下についてであります。  原爆被爆による後障害に被曝の影響がどの程度存在するのかを理解するのに、認定審 査においては原因確率なる指標を用いて行われております。これまでの原爆症認定訴訟 におけるすべての判決が、この原因確率を最も問題とし、そして、いわばすべての判決 が原因確率に基づく認定審査を是正するよう行政に求めたのでした。なぜそうなのかを 臨床医として考えたいと思います。  放射線被曝によって疾病が誘発され、あるいは促進されたりするのか否かを知ること が、原爆後障害の被爆者にとっては研究の起点でありました。それによって被爆者は自 らの疾病に対する放射線の影響を知り、制度の活用につなげることができることになり ます。  白血病や固形がんを例にとれば、既述のように人体に生じるとされるそれらの新生物 疾患、悪性腫瘍のほぼすべてにおいて、放射線の影響を受けることで発症率が増加する とされております。しきい値はないとされております。被爆から半世紀を越えて、原爆 後障害研究は1つのゴールに到達していると言えます。  しかしながら、他方、原因確率に基づく認定申請却下の在り方は、がんに限って言え ば、今、私が述べた理解と異なる部分を抱えております。被爆者集団の中で得られた疾 病と被曝との関係、つまり、ほぼすべてのがんや白血病で放射線の影響を排除できない こと、放射線起因性は否定できないことを疫学的理解として持ちながら、個人において は放射線の影響があったことを排除できるとすること、放射線起因性は否定できるとす ることを堂々と行っていることであります。  一定の被爆者集団に100人のがんが発症し、同数の非被爆者集団に90人の同一のがん が発症した場合、被爆者集団での過剰発症は10人でありまして、集団の寄与リスクは1 0%とされます。ここで問題なのは、集団での一定の傾向性、寄与リスク10%をもって、 がんを発症した特定の被爆者個人において、その影響はごく低率なので、放射線の影響 は排除できるとしていることであります。  しかし、頭を冷やして考えれば、集団での寄与リスク10%であっても、10人の過剰発 症被爆者を特定することはできませんし、また、他の90人がリスクゼロ、つまり被曝し ていないことでもありません。  つまり、本来、ここで示された過剰発症性、寄与リスク10%は、社会に対してはリス ク警告の意味で極めて重大であって、同時に個人においては、既にがんを発症した被爆 者に対しては放射線の影響があり得たこと以外のなにものでもないはずです。  もう一つの疑問に触れたいと思います。実際、DS86で被曝量ゼロとされております 入市被爆者に脱毛がしっかりと認められて、また、DS86、被曝量ゼロとされている入 市被爆者に白血病発症が有意の増加を一貫して示している現在、DS86、DS02の初期 放射線を被曝量の基本とし、残留放射線被曝を軽視する現今の原因確率では、仮にどの ような精巧な放射線発がんの生物モデルに基づくものであっても、被爆者の実相を十分 に把握することは困難と思っております。  臨床の現場からすれば、疫学統計で活用されてきた寄与リスクの算出が原因確率とし て名前を変え、認定棄却の役割を果たしている様は、個別救済に立法趣旨を置く援護法 の本旨と全く異質な代物に変じていることを指摘せざるを得ません。  最後に、政令で定めるべき疾患について述べたいと思います。政令で定めるべき疾病 について述べれば、白血病や固形がんを発症した場合は、基本的に臓器を問わず認定の 対象とすべきです。先ほどまで述べてきたことを踏まえての私の思いであります。  また、同時に、AHS8報その他で示されておりますけれども、非がん疾患について も放射線被曝との関連が既に明白となっている疾患、例えていえば、甲状腺機能低下症、 副甲状腺機能亢進症、慢性肝障害、心筋梗塞、子宮筋腫、放射線白内障、肺線維症など が対象となるべきと思っております。  私の意見陳述は以上です。ありがとうございました。 ○金澤座長 どうもありがとうございました。御質問はお二方のお話の後にと思ってお りますので、続きまして沢田昭二先生にお話を伺いたいと思います。よろしいでしょう か。 ○沢田氏 沢田昭二です。よろしくお願いします。  今日、この検討会で発言の機会を与えていただいてありがとうございます。先ほどの 齋藤先生のお話、それから、これまでの集団訴訟の地裁判決、その裏付けになるような 残留放射線被曝と内部被曝について、時間が限られていますので、初めの9項目のまと めについて、目を通していただければありがたいと思います。  この背景になることについては、後ほど詳しい資料を皆さんにお届けしたいと思いま すので、その節はよろしくお願いいたします。  お手元の、図1をごらんいただきたいのですが、ここには専門の方もいらっしゃるん ですけれども、初期放射線と残留放射線について説明しますと、原爆から1分以内に放 射された中性子とガンマ線を初期放射線といいます。1分以後に放射された放射線を便 宜的に残留放射線と呼んでいます。  この図の爆心地に近いところ、火球の真下なんですけれども、この近くには初期放射 線の中性子が大量に降ってきまして、その中性子を吸収した地上の物質の原子核が誘導 されて放射性物質に変わっていくわけです。これを誘導放射化物質といいますが、その 誘導放射化物質からも放射線がずっと出続けるわけです。ですから、それが一つの残留 放射線になります。  もう一つの残留放射線は、放射性降下物からの放射線です。原爆が爆発した瞬間にガ ンマ線が周りの大気を熱しまして、ちょうど小さな太陽と同じようなプラズマ状態の火 球ができます(図2)。この火球の表面、火球がどんどん膨張していくわけですけれど も、膨張した、その表面に大気の圧力が高い、ショック・フロントと呼ばれるところが できます。火球の膨張するスピードよりも、このショック・フロントが伝播していくス ピードの方が速くなりますと、このショック・フロントが火球から離れて衝撃波になっ てずっと広がっていくわけです。この衝撃波によって爆風がつくられます。というわけ で、爆風によって、この火球の内部につくられた、後に放射性降下物になってくるわけ ですけれども、大量の放射性物質があるわけですけれども、それが飛び散るということ はあり得ません。  国の主張は、この原爆の爆発で放射性物質が飛び散ったと主張しているわけですけれ ども、これは爆風の発生機構から見て正しくありません。  図3はアメリカ軍の飛行機から広島の原子雲を撮影したものですが、呉市の南阿賀地 域の海岸線が見えています。ここから爆心地までの距離が約20数キロメートルあります から、その距離からこの原子雲の高さが10数キロメートル、横幅も10数キロメートル に広がっていること、後にはもっと広がっていくわけですけれども、そういうことがわ かります。  図4は雲仙岳の測候所からスケッチした長崎の原子雲です。やはり高度は10数キロメ ートルになっていると思いますが、この一番南の端っこは野母崎のところですから、爆 心地から約20キロです。北の方は大村飛行場の上空ぐらいに相当しますけれども、やは り20キロまで広がっています。  図5は長崎の原子雲をイメージした図なんですけれども、火災になっているところが 長崎市内です。金比羅山を超えた西山地域に黒い雨が大量に降ってきたことがわかって いますが、それは、原子雲の中心部分が急速に上昇して、先ほどの火球の中にあった放 射性物質を核にして水滴ができます。それがこの原子雲を形成するわけですけれども、 その原子雲から急成長した水滴が強い黒い雨になって降ってきたというわけで、この西 山地域に黒い雨が集中して降ってきたわけです。  圏界面という大気圏と成層圏の境のところに原子雲が横に広がっていきます。先ほど 図4にスケッチがありました。そして、爆心地に近いところでは上昇気流が強いわけで す。そうすると、この上昇気流を補うように周りから下降気流ができて、結局ここに渦 巻きのような対流ができるわけです。そういう原子雲の下層の部分はその下降気流にと らわれて下に下がってきます。下に下がってきますと、温度が上がりますから、水分が 蒸発して、ずっと見ていると雲の高さが変わらないように見えるわけです。これは富士 山の山などの雲を見ていただければわかりますけれども、雲は動かないように見えます が、空気は動いているわけです。放射性降下物が原子雲の下に充満します。  時間がありませんので、これはまとめですが、スキップいたします。  大量に大気中に浮遊している放射性の微粒子は風で運ばれてしまって後から測定でき ないわけです。それから、放射性の雨に含まれて地面にしみ込んだ放射性降下物も台風 などによって運び去られたりします。というわけで、放射性降下物による被曝影響のす べてを物理学的な測定で調べることは不可能です。黒い雨が大量に降ってきて、放射性 降下物が雨、風、台風、洪水などで流されないで地中に浸透して残ったものが測定でき ているわけです。  靜間先生たちが測られた3日後の測定もありますけれども、これも黒い雨が大量に降 った地域を示唆する、すごく貴重な測定結果なんですが、浸透量や残留量は地質と地形 によりますから放射性降下物のすべてをつかむことはできないわけです。  しかるに、国の認定基準では、広島では己斐・高須地域、長崎では西山地域だけが放 射性降下物による影響がある、しかもそれは外部被曝のみを考慮しています。これでは 被曝実態は説明できないわけです。判決が示していますように、放射性降下物の影響は 被曝実態に基づいて考えること、すなわち被爆者に実際に起こった急性症状の発症率と か、染色体異常の頻度とか、がんによる発症とか死亡についてのリスクとか、そういう ことから原爆の残留放射線に関する影響を引き出すことが重要になってきます。  被爆者に関する多数の放射性急性症状の調査の資料があります。これらは共通して初 期放射性がほとんど到達していない遠距離、2キロより以遠ということになりますが、 そこでもそういう急性症状の発生を示しています。  原爆訴訟の場合でも被爆者が証言していますし、こうした被曝実態を調査して科学的 にこれを解明する必要があるわけで、私はそういうことを明らかにするのは科学者の責 任であると同時に国の責任でもあると思います。というわけで、私はさまざまな急性症 状の発症率の調査がありますが、それを研究して被曝影響を明らかにすることを試みて おります。  たくさんの調査結果の中で私が重視したのは、放射線影響研究所のStramとMizuno が、初期放射線のDS86がつくられて間もないころなんですけれども、DS86に基づく 初期放射線による被曝線量と重度な脱毛の発症率との関係を放射線影響研究所の寿命調 査集団LSSについて、1989年に調べた結果があります。それがこの図6です。この脱 毛の発症率を見ますと、この黒い点がStramたちが調べた結果ですけれども、3グレイ の値は放射線感受性が個人差が随分あることを示して、正規分布をしていると考えられ ます。人間の体重とか身長なども正規分布をしているわけですけれども、放射線感受性、 急性症状を発症する、脱毛を発症する感受性が正規分布をしているとして、このStram たちの結果を調べますと、3グレイまでがぴたっと一致します。ただし、高線量になる と、そこからずれてくるわけです。  このずれは放影研のLSS集団が、大量の放射線被曝をしても1950年まで生き残 った被爆者の集団であるという特徴を示しているわけですが、実は、同じ放影研でKyoi zumiたちがマウスに人毛を移植して調べた結果がありまして、それはこういうふうにや はり正規分布であらわせて、高線量のところまで正規分布のカーブにぴたっと一致しま す。ということで、私はこのStramたちの被曝線量と脱毛発症率の関係を基にして、さ まざまな急性症状の発症率を解析いたしました。  図7が被爆線量と急性症状発症率の関係ですけれども、この黒い線が先ほどの脱毛の 発症率の関係です。被曝線量が変わってきますと、脱毛の発症率がこのように変わって、 高線量になると100%に近づいていくわけです。そして、下痢は、近距離、初期放射線 の被曝はかなり高線量でないと発症しないので、脱毛の線よりも右側に、高線量の方に ずれています。しかし、遠距離でも下痢が大量に発症していまして、そういう意味では すごく低線量から発症しますので、脱毛よりも低線量側に大きくずれた曲線になります。 それから、皮下出血で紫色の斑点ができる紫斑とか、口内炎とか、そういうものは脱毛 と同じカーブを使って解析いたしました。  解析するときに、被曝線量の初期放射線と放射性降下物の被曝線量を式で表さなくて はならないのですけれども、その式を長い間いろいろ調べてやりますと、こういう式が すごくいいということを発見いたしました。発見したといっても、この中にたくさんの パラメータが含まれていまして、結局この式は被爆者の調査の被曝の実態から現象論的 に引き出したというべき式なんです。だから、理論式といっても、純粋に理論家がつく った式ではありません。これを用いて、先ほどの正規分布であることを使って発症率の データを解析いたします。  図8は広島の脱毛の爆心地からの距離に対する発症率なんですけれども、先ほどのSt ramの初期放射線被曝に対する発症率は菱形を結んだ下の方の黒い点線、これがStram のデータです。それから、その他、初期放射線以外も含めた全放射線、被曝線量に対す る脱毛発症率の多くの調査のデータです。白抜きの丸印が放影研の脱毛発症率です。こ れはLSS集団ですから、すごい調査集団が大きいですから、精度のいいデータです。 放影研の黒い点線が初期放射線による脱毛の発症率で、この赤い丸印がすべての放射線 被曝量を含めた脱毛の発症率のカーブです。全被曝線量と初期放射線の被曝線量とでこ れだけ違いが出ており、この違いは放射性降下物の影響以外に合理的に説明できないこ とになるわけです。これを先ほどの理論式を使って引き出すと、図9に引っ張り出した カーブが得られます。この全体の発症率を与える被曝線量は太い破線になって出てくる わけです。初期放射線の方はDS02という初期放射線の線量評価がありますから、遮蔽 効果を考慮すると細い破線のように急速に減少します。2キロを超えるとほとんどゼロ に近づいてきます。  先ほど求めた太い破線の全被曝線量から細い破線の初期放射線被曝を引き算してやる と、図9の山型をした、ちょうど図8の発症率のカーブの隙間に対応した放射性降下物 の影響が出てくるわけです。これが先ほどのStramたちの初期放射線の被曝影響による 脱毛発症率を基にして求めた放射性降下物の影響なんです。  被曝線量の単位をグレイという単位を用いていますけれども、Stramたちのデータを 基にしているわけですが、初期放射線によってどのように脱毛が発症するかということ を基準にしているわけですから、初期放射線のガンマ線とか中性子線と同じ脱毛の発症 率を与える放射性降下物の影響を表すというふうに理解していただきたいと思います。  脱毛以外の様々な症状の調査もあって、それも解析して、図11のように全く同じ初 期放射線と放射性降下物の被曝線量で、多くの調査と、いろんな種類の急性症状を統一 的にフィットすることができました。この意味で放射性降下物の残留放射線の影響とし て急性症状を発症させたことは動かせない事実だということになるわけです。  同じことを長崎についてもやりまして、図12の各種の症状発症率から図13の被曝 線量を求め、全く広島と同様の結論が長崎でも出ましたが、時間の関係がありますので 省略します。  というわけで、先ほど図5において説明しましたように、原子雲の下に放射性の微粒 子が充満していて、黒い雨も有名なんですけれども、黒い雨の影響だけでなく、さらに 広い範囲に放射性の微粒子の影響が広がっていることが急性症状発症率から示されます。 国の側は、長崎で言えば西山地域のところしか認めませんし、しかも、それは外部被曝 線量しか認めないんですけれども、今、申し上げましたように、放射性の微粒子の影響 は、被曝実態である急性症状発症率に基づけば、すごく深刻な影響を与えていることが おわかりいただけたと思います。  次は、入市被爆者が爆心地付近に入ったときに誘導放射化物質の影響を受けたかどう かを調べました。図14は1957年に広島のお医者さんの於保源作さんという方が広島大 学の医学部の学生などを使って丹念に調査した結果です。原爆が爆発して何日目に爆心 地から1キロメートル以内に入ったかという、入った日数が横軸です。様々な急性症状 の発症率に加え、赤い丸印をつなぐ折り線のは5種類の急性症状を合算した発症率です。 この発症率を先ほどの関係を使いましてフィットしますと、図14の点線のようなフィッ トが得られますが、このフィットの基の放射線量が図15の曲線になります。 つまり、 こういう赤い丸印を結ぶ曲線です。実は、葉佐井先生や靜間先生が『原爆放射線の人体 影響1992』というものに残留放射線の影響を紹介してくださっているんですけれども、 そこと同じ方法で計算した結果の外部被曝線量が図15の左下隅に書いてありまして、入 市して爆心地にずっとい続けたときの累積被曝線量、爆心地から500メートルのところ での累積被曝線量、1キロだったらほとんどゼロに近いというふうになっているわけで す。この違いが誘導放射化物質による、主に内部被曝の影響、あるいは皮膚の表面に誘 導放射化物質をくっつけた、至近距離からの外部被曝の効果となります。こうした内部 被曝と至近外部被曝をちゃんと考えないと、この影響は説明できないことになります。 そして、1週間後に入った人は、爆心地から1,500メートルぐらいで直曝した人の初期 放射線と同じくらいの影響を受けていることがわかります。  ということで、放射性降下物の影響と入市被爆した場合の誘導放射化物質の影響がす ごく深刻だということがおわかりいただけたと思います。  被爆者には、急性症状のほかに、染色体異常とか、晩発性のいろんな症状があります。 図16の佐々木と宮田の日赤中央病院の被爆者の染色体異常の調査とか、図17のブレー メン大学のシュミッツ-フォイエルヘーケの放影研がコントロールに使った遠距離被爆 者とか入市被爆者の晩発性症状の死亡と発症の標準相対リスクを調査した結果がありま すが、そういう結果を調べましても、ほぼ先ほどの急性症状から得られた結果と一致す る結果が得られています。  初期放射線は瞬間的な外部被曝が主ですし、透過力の強い中性子とかガンマ線が主な 影響を与えますから、体内のある範囲を考えますと、ほぼその範囲では一様に被曝をす ると考えられます。ところが、降下物や誘導放射化物質の放射性微粒子を体内に取り込 みますと、1ミクロンぐらいの大きさでも、その中には何百万個、何百億個という放射 性の原子核が含まれています。ですから、こうした微粒子が体内のどこかに沈着します と、集中してその周辺の細胞が被曝をするわけで、一様な外部被曝とは異なった影響を もたらします。  図18は、1ミクロンのサイズのストロンチウム95の微粒子が、次々と崩壊していろ んな核種に変わっていくわけですけれども、それが酸化ジルコニウムになって沈着した ときにどういうことになるかを示したものです。図18に半致死量の4グレイの線が示さ れています。図18の縦軸は対数目盛りですけれども、至近距離のところは100グレイと か、それをもっと超えるような被曝をするわけです。というわけで、内部被曝は一様な 外部被曝とは全く違ったメカニズムで考えていかなければいけないことがわかります。  放射線影響研究所の疫学研究はかつては遠距離被爆者、入市被爆者を非被爆者として コントロールの比較対象群にした外部比較法に基づいていたわけですが、最近は内部比 較法によっているのですけれども、外部比較法も内部比較法も全く同じ答えを出します。 というのは、確率変数として初期放射線しか考えていませんから、残留放射線の影響は、 出てくるはずがないわけです。無から有が出てくるはずはないのです。このことを図19 から読み取っていただければありがたいと思います。  放射線影響研究所の疫学的研究の結果を基にして計算した原因確率は変わってしまう わけです。原因確率というのは、先ほどの齋藤先生のお話のように、統計的な結果すな わち平均値を個々の被爆者の放射線被曝の判断に適用するというのはいろんな過ちを引 き起こすわけですけれども、その原因確率の計算の基礎にした疫学研究も残留放射線を 無視しているわけですから、大幅に変わることをこの図20は示しているわけです。  最後に、国が唯一、内部被曝の評価の根拠にしているのは長崎の西山地域の被爆者の ホール・ボディ・カウンターによるセシウム137のガンマ線の測定結果です。ところが、 このセシウム137は体内に入りますと約100日で半分に減っていきます。つまり、生物 学的半減期は100日です。200日たつと4分の1、300日たつと8分の1になります。1 年たつと356日ですから、約10分の1に落ち込んでしまいます。実際に測られたのは1 969年です。24年たっていますから、24桁落ちるわけですから、放射性降下物から取り 込んだセシウム137は測れるはずがありません。では、何を測ったかというと、放射性 降下物のセシウムが西山地域に黒い雨で降ったりなどして地中に残っているわけですけ れども、そういうものを作物が吸収します。その作物を食べるわけです。ということで、 すごく間接的に被爆者が摂取した、そういう環境から摂取したセシウム137を測定した わけです。  81年にも測定しましたので、岡島さんたちはその結果を用いて、環境の半減期が、7. 4年であることを求めています。実はこれを用いて1945年から、被爆者が被曝した累積 被曝線量だというわけですけれども、放射性降下物とは直接関係のないものが放射性降 下物による内部被曝の影響だというわけです。ということで、ホール・ボディ・カウン ターによる測定は全く被爆直後の放射性降下物による被曝を測定したものではないわけ です。国が唯一、内部被曝の評価と称するものは、実はこれはアメリカの原子力委員会 が1959年にそういうのをやりなさいと示唆した結果だということが最近になってアメ リカの資料からわかってきています。以上のように内部被曝の影響はもっともっと深刻 に考えなければいけないことがわかってきました。  これで私の報告を終わりたいと思いますが、以上述べたことを今一生懸命、もっとも っと精度を上げて計算をしたいなと思っています。これはこの集団訴訟の裁判の判決結 果を示していることにもなりますし、認定基準を改善する上でも、この残留放射線や内 部被曝の影響をすごく重視していただくことにもつながってきますし、それから、今、 急速に進展していると思いますが、そういう放射線の影響の研究にも役立つことになる と思いますので、よろしくお願いしたいと思います。どうもありがとうございました。 ○金澤座長 ありがとうございました。ちょっと時間が迫っておりますけれども、いえ、 先生だけのあれではありませんから。何か、本日の御発表の方々お二方に、齋藤先生と 沢田先生に、がん化の問題、あるいは急性症状の問題という問題提起があったわけです けれども、いかがでしょうか。御質問、はい、どうぞ、鎌田委員。 ○鎌田委員 鎌田ですが、齋藤先生にお伺いしたいんですけれども、被爆者の方の気持 ちについてお伺いしたいと思うんです。なぜかというと、現場でいろいろと見ておられ ますので一番わかるんではないかと思います。といいますのは、裁判までして自分たち の意思を貫こうとしているのは、特別手当のお金を得たいからということから発してい るのか、それとも認定審査で放射線の起因性を否定されたという悔しさから、このよう な裁判という行動に出ているのか、先生はどのように感じておられますか。 ○齋藤氏 日常診療の中で、私も広島に長くおりますので、その方が被爆者であるかど うかを特別意識しません。被爆者の方も、特別日常の診療の中で、私は被爆者だからこ うだと、こうではないかという議論はほとんどしません。したがって、実は被爆者の方 は普通の患者さんとして私たちと接しているんです。  今、闘われている裁判は何かといいますと、被爆者が認定申請をして、それはいろい ろな事情の中で、いろいろな体験の中で認定申請する気持ちに至ったと思うんですけれ ども、認定申請をして、それが却下された。却下された方が今、その処分を撤回してほ しいという裁判なんですね。つまり、そういう1つのステップがあるわけなんです。被 爆者方が異口同音におっしゃいますのは、自分たちが50年患ってきた疾病の問題とか、 あるいは必ずしも放射線と関係ありませんけれども、家族の離反であるとか、さまざま な思いが、実はあの原爆から連なっているということなんです。当然、医者の目から見 てそれが放射線被曝に大きく依拠したことであるということを判断できる場合もありま す。急性症状等々見ますと、大変さまざまな、あるいは悲惨な疾病歴を持っている方が 多くおられるんです。  被爆者が一番この原爆にかける思いというのは、実は、あなたのもろもろの疾病は放 射線と無縁です、関係ありませんという一片の通知が来ることなんです。これはAさん に限らず、Bさんに限らず、Cさんに限らず、今の原爆訴訟を闘っている多くの方がな ぜ原爆訴訟を進めるのか。実は、証人にも立たなければいけません。体を押していろい ろなことをしなければなりません。それを押してなぜするかというのは、あなたの病気 が放射線と関係ありませんということを断罪されることなんですね。そのことは、自分 たちの人生が完全に否定されたということなんではないかなと思うんです。ですから、 少し大仰に語ってしまいましたけれども、そういう思いが根底にあるのではないかなと 思っております。 ○金澤座長 ありがとうございます。ほかに御質問ございますか。どうぞ、丹羽委員。 ○丹羽委員 沢田先生に御質問があります。その前に手短に、お2人のお話、非常に感 銘をもって聞かせていただきました。ただ、実際に私の知っておるデータは、多くが放 影研から出ている『ラジエーション・リサーチ』とか、そういうところに出た論文なん ですね。それから私が理解している知識、持っている知識と、先生がおっしゃっておら れるのが相当大きいそごがあるように私自身は感じていまして、例えばフォールアウト の線量で2キロぐらいのところで1グレイ、あるいはそれ以上の線量を先生は当てはめ ておられましたけれども、そうすると、こういう山型の落ちてくるもののクロスすると ころは倍の線量になるわけですね。足し算になって。だから、DS02とプラスフォール アウト。 ○沢田氏 山のところは0.5グレイなんです。 ○丹羽委員 ああ、そうですか。先生のものでは1を超えていたのではなかったですか。 ○沢田氏 kyoizumiらのマウスの実験から得られた被曝線量と発症率の関係を用いる と、もっと大幅に増えます。 ○丹羽委員 そうすると、線量が倍増えると、その影響たるや激甚であると私自身はこ れを見て単に感覚的に思ったんです。そうすると、これまでの放射線影響研究所がやっ てきた線量体系は全く変わってしまう。だから、逆に言えば、線量に対するリスクは半 分になる。これは、世界中の放射線のリスク評価基準がすべて放射線影響研究所の研究 によって成り立っておるという部分がございますので、先生の線量評価というシステム が本当であれば、これは全く今の防護体系は成り立たないということにまでなっていこ うかと思うんですが、その辺りが私、ナイーブな感覚として、先生の図から拝見いたし ました。なかなか答えは出ないと思うんですけれども、そういう感覚を持ったというこ とです。  もう一つ、これは齋藤先生にもちょっと関わるんですが、一応、入市被曝の方々で、 『レポートナイン』だったか、それとたしか『ランセット』にPreston先生が書かれた ものでも、リスクがないというか、かえって低いぐらいであるというデータがあったよ うに私は覚えております。それは多分、4,000人ぐらいの方々の中で見えなかったとい うデータで、母集団が4,000人ぐらいだったと思うんです。そこら辺の中で、個々の実 際の被爆者の方を見ておられる先生のお立場は、これは個人の問題でありまして、その 辺りの整合性というのが非常に、多分、臨床の現場の感覚と、我々が疫学データを見て おるもののギャップが確かにあるんではないか。これも議論を始めると随分長いことに なりますので、私の感覚として述べさせていただきます。 ○金澤座長 ありがとうございました。それでは、甲斐委員、どうぞ。 ○甲斐委員 幾つか質問とコメントをさせていただきたいんですけれども、1つは、齋 藤先生の、先ほどがんと白内障のお話を伺ったんですけれども、がんについては、現在 の知見としても、やはり低い線量までしきい値がないというのは世界的にもそういう理 解で、現在、放射線防護等に使われておりますけれども、白内障については、先ほどの Minamoto論文で、現象的なデータからしきい値がないのではないかなという御意見だっ たんですが、これはあくまでもデータの解析上、こういうフィッティングをした結果と して、こういうカーブは書かれているのかなというふうに私は理解しているんです。で すから、データの統計的なばらつき、統計的な情報を加味すると、しきい値云々という のは、こういうデータからはどちらも判定できない。今、知見としては、たくさんのマ ルチな細胞が関わり合ったときには、通常はしきい値があるだろうと考えているのがこ ういう分野の基本的な見解かなと私は理解しております。がんは1個のフォトンでもD NAに損傷ができますので、そういう可能性は否定できないということで、防護上も慎 重にしきい値なしとしているのかなという理解をしております。  それから、沢田先生の脱毛の発症率については非常に大事なデータを御指摘されてい るわけですけれども、1つわからなかったのは、Stramたちのデータと、放影研のもう 一つのデータとの差が放射性降下物によるものであるというふうに、これがどういう根 拠で断定できるのか、ちょっと私にはわからなかったんです。ここは非常に大事な点だ と思うので、現象的には、降下物だけを取り出すことはできないのかなと思います。そ れが1点です。  もう一点は、爆心からの距離によって、脱毛と下痢、消化管障害の発症率が出されて いるわけですけれども、今日、紹介していただいたものの中でも、下痢、消化管障害の 方がしきい値が高いということで、当然、発症率は下がってきます。しかし、於保論文 で見ますと、消化管の下痢の方が発症率が高くなっております。そういう意味ではこれ は非常に矛盾して、一貫性のない結果になっているので、こういうのはどういうふうに 考えられたのかなというのが私の疑問でありました。 ○沢田氏 説明させていただいていいですか。 ○金澤座長 どうぞ。 ○沢田氏 先ほどの丹羽先生の御質問ですけれども、放影研のデータを、残留放射線の 影響をきちんととらえた形で、もう一遍きちんととらえ直して、それを国際放射線防護 委員会などに送っていただくというのはすごく大事な仕事ではないかなと思っているん です。やはり先ほど言いましたように残留放射線被曝は無視できない影響があると思い ます。その結果、例えば原因確率などは、先ほども図20に示しましたように随分大きく なってしまうということがあるわけです。初期放射線しか考えていない場合にはゼロと いうところが、今度、残留放射線の影響がゼロではなくて0.5グレイになったりすると、 1グレイになったり、変わってくるわけです。相対リスクなどを求めますときは、ゼロ グレイのところの絶対リスクで割り算をするわけです。とすると、相対リスクを求める 分母の絶対リスクがどんどん小さくなってくるということが起こりますので、逆に相対 リスクは大きくなってしまうということが起こるわけです。それで先ほどの図20のよう に原因確率が変化することになるわけで、そういう一番基礎データである放影研のデー タが残留放射線被曝もきちんとした線量評価をして、その影響をちゃんと反映させたら どうなるかということを研究しなければいけないんではないかなと私は思っています。  それから、今の甲斐先生の御質問ですけれども、私は脱毛だけではなくて、脱毛の関 係を使って、紫斑とか、口腔障害とか、そういうものがほぼ同じように説明できる。急 性症状の発症は、放射性降下物によって説明せざるを得ない。特に紫斑などは放射線の 影響以外に考えるのは難しいですから、脱毛、紫斑などの発症率がちゃんと統一的に再 現できたということは、放射性降下物による被曝の影響だと考えられます。問題は下痢 の方です。下痢は遠距離でかなり発症率が高いわけです。遠距離の場合は放射性降下物 を体の中に取り込むわけです。初期放射線は透過力の強い放射線を浴びるわけです。そ うしますと、下痢を起こすのは腸の粘膜の損傷が原因ですけれども、腸の粘膜というの はすごく薄いので、透過力の強いガンマ線はほとんど通り抜けて、そこにエネルギーを 付与しないわけです。したがって、電離作用は余り起こさない。だから、かなり高線量 を与えないと下痢を起こさないということになるわけです。ところが、内部被曝の方は 腸の粘膜のそばまで放射線の微粒子がやってくるわけです。そうすると、透過力の弱い ベータ線とかアルファ線とか、そういうものが影響を与えるわけです。ということで、 先ほどの下痢の発症率を近距離から遠距離までまとめて分析すると、遠距離の放射性微 粒子による内部被曝の影響と、近距離の初期放射線の外部被曝の影響とが私の分析では 両方必要であるということが最近になってわかってきているんです。そういうふうに実 際の被曝実態をちゃんと解明すれば、急性症状を起こすメカニズムについてもアプロー チできるんではないかと思いますので、是非参考にしていただきたいと思います。 ○金澤座長 ありがとうございました。ほかに。どうぞ、靜間先生。 ○靜間委員 沢田先生に幾つかお聞きしたいんですけれども、1点は、小さい話ですが、 2ページ目のまとめ1の1番として、「DS02の初期放射線の推定線量が実測値と符合 しているのは約1.5kmまで」とありますけれども、これは日米で合意していますのは1. 2キロまでで、1.5キロまでは実測値と合ってはおりません。  それと、先ほど丹羽先生からもお話ありました被曝線量の理論式なんですが、初期放 射線の量を引いた残りが1キロちょっと過ぎぐらいがピークになるような、ラージFと いう関数で研究されておりますけれども、これがフォールアウトとしますと、1キロか ら2キロ辺りにそういうフォールアウトが多かったということになって、それはちょっ と、実際にそうだったのかなというのが疑問なんです。こういったFのような関数でな くても、爆心に近いところのデータはまずないと思いますので、初期放射線に加えて何 か追加のものがあるということをあらわしているのではないでしょうか。 ○金澤座長 どうぞ。 ○沢田氏 初めの方の初期放射線、日米合同でいろいろこれまで、私も1990年代の終わ りごろに靜間先生たちが測定された結果などを調べたんですけれども、その後の測定が どんどん、技術も進んで、いろんな測定結果が出てきたんですけれども、一番遠距離ま で測定されているのが、靜間先生たちの広島の中性子線は1.8キロぐらいまで測定され ているわけです。これはコバルト60です。今度、見直しでDS02になったときに、小 村さんの測定で中間距離は指示され、遠距離は否定されていないです。それから、ガン マ線で一番遠距離なのは長友先生たちの測定結果で、2,050メートルの結果があるわけ です。これはバックグラウンドをかなり引き過ぎているぐらいの引き過ぎをやっていて、 かなり丹念にやっていらっしゃいます。その2つのデータだけではなくて、すべてのデ ータが系統的に遠距離で過小評価になる傾向を示しています。実際にほとんど一致して いると言われている1,500メートルぐらいのところも、よく丹念に調べてみますと、放 射線が減少していく傾向が、わずかにDS02の方が実測値よりもきついわけです。実測 値の方が緩いんです。ということは、遠距離でDS02が過小評価している可能性がある んではないか。要するに、系統的にあらゆる実験データがそういうふうになっていると いうことは、遠距離にはDS86やDS02は適用できないことを示しているんではな いかなと思います。ですから、実測値がきちんとサポートされているのは今おっしゃっ たように1,200メートルまでです。そこから先は、いろんな測定結果が過小評価に転ず る方向を示しているわけですけれども、これをもっともっとやるというのは今からはも う難しいです。この辺は靜間先生の方が専門です。  それから、先ほどの放射性降下物による被曝線量の式なんですけれども、先ほどの図 8の放影研の脱毛の初期放射線のみと全被曝線量の2つのカーブの違いを見ていただく と、開きを埋め合わせるようなのが先ほどの式にちょうどぴたっと一致するということ になるわけです。この急性症状の発症率をいろんな数式を使ってフィットさせてみたわ けですけれども、この式が一番うまくいく。ただし、私の解析は、1キロよりも中はや っていません。というのは、1キロより中ですと、ほとんどの被爆者が死亡しています。 調査する被爆者が少ないということもありますし、同時に初期放射線だけでいろんな急 性症状がほとんど100%発症するということなので、1キロ以内の式の形はほとんどわ かりません。  先ほど言いましたように、爆心地に近いところは上昇気流が主流であって、そこにや ってきた放射性降下物は少なかった。これは靜間先生たちが、仁科芳雄たちが集めた資 料からも、爆心地付近の方がむしろ少なかったということを示しているわけです。です けれども、爆心地付近が爆心地からの距離の一乗に比例するか、何乗に比例するかとい うのはきちんとは押さえられないと思います。ということで、1キロ以遠の式としてこ れを理解していただければよろしいと思います。 ○金澤座長 ありがとうございました。どうぞ。 ○丹羽委員 これは靜間先生の御専門なんですが、中性子の線量の誤差、あるいはDS0 2で解決がついたと私は理解しています。サンプルの測定をドイツと、たしか小村先生 がおやりになって、これまでのものがバックグラウンドを拾っておったということで解 決がついたんではないかと私は理解しております。 ○沢田氏 小村先生たちのユウロピウムなどの測定結果によって一部はある程度修正さ れたんですけれども、靜間先生たちが早くから指摘された大事な問題は遠距離で過小評 価になっている可能性があるんではないかという、そういう問題の根本的な疑問は今な お私は解決されていないと思います。コバルト60については現在、測定できないわけで す。ですから、アメリカ側の人たちを中心にDS02で全部解決したとおっしゃっている わけですけれども、解決したのは1,200メートルまでです。高速中性子を測定したのを 見ましても、1,500〜1,600メートルのデータを見ますと、実測値の方がゆっくりと減少 していることがデータでも示されていますので、遠距離の過小評価かどうかを判断する 上で、そういう中間距離でよく一致しているところの減少傾向、現在はここから推測す る以外にないと思うんです。それはそういうDS86やDS02が遠距離で過小評価の 傾向があるということを指摘しているんですけれども、その理由はまだ余り十分煮詰ま っていません。 ○金澤座長 ありがとうございました。 ○沢田氏 まあ、これは靜間先生の方が専門なのです。 ○金澤座長 わかりました。時間が大分過ぎておりますが、沢田先生の最後の2行を拝 見いたしますと、今、論文をおまとめになっていらっしゃるそうですので、その論文が 世に出ることを期待しております。 ○沢田氏 ありがとうございます。 ○金澤座長 ありがとうございました。ほかに何か。どうぞ。 ○靜間委員 済みません、もう一つコメントで。 ○金澤座長 はい、どうぞ。 ○靜間委員 被曝線量の話なんですけれども、DS86とか02というのは確かに初期 放射線、中性子とガンマ線についての線量を決めていますけれども、先ほどから出てお りますようなフォールアウトの影響とか残留放射線の影響というのは入っていない。そ れはあるんですけれども、御存じかどうか、私も最近知ったんですけれども、アメリカ の核実験、ネバダとか太平洋のマーシャルとか、そういうところで実験に関わった退役 軍人の線量評価の中で、ベータ線の影響を評価するというのが昨年のヘルツ・フィリッ クスの論文に出ておりました。これは実際に計算しておりますのはSAICのグループ でして、これはDS86とか02の計算をしたところです。これは皮膚線量と目の水晶体 への被曝についての計算をしたもので、内部被曝は入っておりませんけれども、ベータ 線の影響はどれぐらいあるかというので、ガンマ線の線量に対してベータ線が幾らとい うのを計算しています。  結論ですけれども、これを見ますと、爆発から30分後から2年後までで、地上から2 メートルの高さまでの線量を計算しておりまして、簡単に言いますと、ベータ線の方が ガンマ線の約10倍線量が高いという結果が出ております。したがいまして、ベータ線で すので主に皮膚ですが、しかも衣服を着ていたらどれぐらい下がる、約30%ぐらい下が るという計算をしておりますけれども、こういったベータ線の影響というのは、被曝線 量を考える上では重要になってくるんではないかと思います。コメントです。 ○金澤座長 ありがとうございました。大変大事なコメントをいろいろお伺いいたしま した。何かほかに。  ありがとうございました。大分時間が過ぎておりまして、また次のお話も伺いたいと 思います。齋藤先生、沢田先生、どうもありがとうございました。  それでは、次の議題に移りたいと思います。次は、現在、原爆症認定審査を行ってお られます原子爆弾被爆者医療分科会の佐々木康人分科会長と、草間朋子分科会長代理の お二方でございます。お話を伺わせていただきたいと思います。それでは、よろしくお 願いします。 ○佐々木氏 佐々木でございます。私ども原子爆弾被爆者医療分科会では、御承知のよ うに原爆被爆者の医療特別手当の申請書類に基づいて、申請されている疾患が原爆放射 線放射能の原因がどの程度に考えられるか、これは起因性と申しておりますけれども、 その起因性と、そして、起因性があると判断した場合に、現にその疾患に特有の医療の 必要性があるか、これは要医療性と言っておりますけれども、これを審査をして答申を しております。  審査の結果は3つに分類して判定をしております。BCD認定といっておりますけれ ども、B認定は、医療特別手当の支給が妥当であるという判断であります。Cは、申請 を却下するという判定であります。Dの場合には、起因性は認められるのであるけれど も、要医療性がないので、医療特別手当を今、支給するのは妥当ではないという判断で あります。  この分科会で審査をするに当たっては、極力科学的な視点、知見に基づいて、できる 限り客観的かつ公平な判断をしたいと考えております。そういう観点から、平成13年の 5月に審査の方針というものを決めました。これは、委員会を公開で開きまして、そこ の場で決めたものであります。その資料がお配りしてあります。 ○金澤座長 参考資料の2でございます。 ○佐々木氏 参考資料の2でしょうか、お配りしてあります。それと、併せて、申請者 の出される申請用紙、ブランクのものでありますけれども、申請用紙が参考資料として お手元にあろうかと思います。  現在は、その審査の方針に則って審査を行っております。その審査の方針については、 お手元の資料を見ていただければよろしいわけでありますけれども、その内容をかいつ まんで御説明した後、実際にどういうふうに審査の方針を運用して審査を行っているか ということを御説明したいと思います。  審査の方針の内容に書かれておりますのは、第1に、原爆放射線起因性の判断につき まして、放射線影響の中で、いわゆる確率的影響でありますがんと白血病については、 原因確率というものを出して、それに基づいて、それを参考にして判断をしております。 それから、いわゆる確定的影響、有害な組織反応である白内障につきましては、しきい 値を算定いたしまして、しきい値から判断をしております。  原因確率が適用される疾患と適用されない疾患とがあるわけでありますが、原因確率 を適用しているのは、白血病、各種がん、副甲状腺機能亢進症であります。原因確率が おおむね50%以上の場合には、かなり高い蓋然性をもって、原爆放射線による一定の健 康影響の可能性があるという推定をしております。おおむね10%未満の場合には、原爆 放射線による健康影響の可能性が低いものと推定をしております。ただし、そこに書か れておりますことは、原因確率を機械的に適用して判断するのではなく、申請者の既往 歴、環境因子、生活歴なども総合的に勘案することになっております。  しきい値が適用される疾患の場合ですが、白内障については、審査の方針を決めた当 時に放影研の知見からしきい値を1.75シーベルトといたしております。これもしきい値 を機械的に適用して判断するのではなく、申請者の既往歴、環境因子、生活歴なども総 合的に勘案することになっています。  原因確率及びしきい値が設けられていない疾患の取扱いにつきましては、この審査の 方針では、原因確率及びしきい値が設けられていない疾病等は、放射線起因性に関して 肯定的な科学的知見が立証されていないことを留意しつつ、申請者の被曝線量、既往歴、 環境因子、生活歴を総合的に勘案して、個別に判断をすることになっております。  原爆放射線の被曝線量の算定については、初期放射線による被曝線量はDS86に則っ て現在、算定をしております。これは申請者の被爆地及び爆心地からの距離の区分に応 じて定めております。これは審査の方針の別表1に載っております。  なお、被爆時に遮蔽があった場合には、被爆状況によって0.5ないし1を乗じて得た 値を用いることになっております。  誘導放射線による被曝線量については、申請者の被爆地、爆心地からの距離及び原爆 爆発後の経過時間の区分に応じて定めておりまして、これが審査の方針の別表10に載っ ております。これに基づいて算定をしております。  また、放射性降下物による被曝線量については、己斐地区、高須地区、これは広島で す。それから、西山3、4丁目、または木場、長崎の場合にはこの地区について、そこ に居住していた時間に応じて被曝線量を定めておりまして、これは審査の方針の2ペー ジ目の下の方に小さな表が出ております。これに基づいております。  要医療性の判断につきましては、申請のあった疾病等の状況に基づいて個別に判断を することになっています。  以上が審査の方針に書かれておりますことの概要でありますが、実際にこの審査の方 針をどのように運用をして認定審査をしているかということを次に述べさせていただき ます。  まず、被曝線量の算定でありますが、被爆者の方たちは健康手帳を持っておられます ので、この健康手帳の記載を尊重しつつ、しかし、申請内容を詳しく検討しまして、被 爆地、爆心地からの距離を慎重に決定しております。必要に応じて申請者に内容を確認 するよう事務局に指示することもあります。これはどういうことかと申しますと、距離 を丸めたりしていることがあるものですから、そういうところについては実際の申請さ れた方の行動などを検討して、より微調整をするということを行っています。  それから、被曝線量の算定でありますけれども、初期放射線量を基本として、申請者 の被爆後の行動を考慮して、必要に応じて先ほど申し上げました表を使って残留放射線 による被曝線量を加算しております。  なお、残留放射線のうち、放射性降下物による被曝線量については、関係する案件で 個別の滞在時間をきめ細かく時間単位で評価をしているところであります。  遮蔽については、申請内容を詳しく検討いたしまして、遮蔽ありと判断する際には、 場合によって非常に慎重にしております。家屋内におられる場合にはそれほど問題はな いのですが、遮蔽ありとすべきかすべきでないか迷うような場合もあります。そういう 点については慎重に検討した結果、遮蔽ありと判断した場合には、遮蔽物の性状を問わ ずに0.7を乗じることにしております。  次に、申請疾病の放射線起因性の判断でありますけれども、申請書類の中の医師の意 見書、病理診断報告書、あるいは画像とか臨床検査の報告書などを検討しまして、申請 疾病病名をまず確認する作業を行います。  がんや白血病については推定被曝線量から原因確率を求めます。がんであっても、表 にないものについては、その他のがんということで、胃がんの男性の表、2−1という 区分の表を用いて原因確率を算定しております。  白内障については推定被曝線量をシーベルトに換算しまして、しきい値と比較して、 しきい値を超えているかどうかという判断をし、加えて放射線白内障の特徴的な所見が あるかどうかを眼科の専門の委員が写真などを見ながら判定をしているわけであります。  悪性新生物、がん、白内障以外については、臓器の放射線感受性に基づくおおよその 線量区分を参考にしつつ、申請内容を審議し、総合的に判断をしております。特に異常 に高い線量、4.5グレイを超えるような大量の被爆者、この「曝」という字は「爆」で なければいけないんですが、誤字であります。被爆者については、特に慎重な議論をす ることにいたしております。  また、申請疾病名と医師の意見書の診断名が時に異なる場合があります。そういう場 合には申請者に申請疾病名の確認を行うよう事務局に指示をしております。診断の確認 をするのに必要な情報が不足している場合もありまして、そういう場合には更に情報を 収集する努力をするよう事務局に指示をすることもあります。  要医療性の判断につきましては、現在の治療状況について申請書の内容を詳細に検討 をしております。また、書面上は要医療性が確認できない場合であっても、審議に必要 と判断された場合には申請者に追加の情報を求めるよう事務局に指示をしております。  この審査の方針では、先ほど申しませんでしたけれども、審査の方針の見直しという 第3の項目がありまして、指針は、新しい科学的知見の集積等の状況を踏まえて必要な 見直しを行うものとしております。  現在、検討の必要性を分科会として議論している事項の中には、DS02に基づく線量 評価と原因確率の見直しを、これは厚労省の班研究として、していただいておりまして、 間もなく報告書が出てくると期待をしております。  また、誘導放射線の評価については、原爆投下30分からの入市の場合の考慮を検討す る必要があるという議論が行われております。  既に過去のことになっておりますけれども、放射線影響と疾病の関係については、最 新の知見の整理を持続的に実施しておりまして、例として挙げているのが過去のことと 申し上げておりますけれども、平成17年度には肝機能障害の放射線起因性について文献 レビューをしていただいて、報告書をつくっていただいております。その報告書に基づ いて、肝炎、肝機能障害の認定審査の基準を公開の場で議論をいたしまして、肝炎につ いての審査の基準を新たにつくっております。  こういった専門家によるさまざまな問題の検討は是非継続的にしていただきたいと思 っております。と申しますのは、この分科会自体は申請書類の審査でほぼ手いっぱいで あります。審査に関わる議論はいたしますけれども、より一般的な問題について、文献 のレビューをするとか、あるいは審査の基準の中に取り込むのが適切であるかどうかと いう判断をするだけの余裕はありませんので、外部の有識者による検討をしていただい て、それを参考にして審査の基準の中に取り込むということをしていかなければならな いということで、実際にやっていただいておりますけれども、もっとこれを恒常的にで きるといいなと私自身は思っており、また、そういう発言をしているところであります。  以上で終わらせていただきます。 ○金澤座長 ありがとうございました。草間先生、何か御追加がございますか。どうぞ。 ○草間氏 本日は分科会がどういう形で審査をしているかというのを中心に御報告させ ていただくことにしておりますので、佐々木分科会長からの御説明で十分だと思います。 ○金澤座長 ありがとうございました。それでは、御質問、御討議、どうぞ、鎌田委員。 ○鎌田委員 鎌田ですが、1つ教えていただきたいのは、被爆者の方で、一番最初のと きにがんが出て、これは起因性、要治療性、要治療性は別にして、起因性はないよと言 われて、5〜6年たってまたがんができたといった場合、いわゆる重複がんの取扱いは どのようにされているんでしょうか。 ○佐々木氏 重複がんが被爆者に多いという研究成果があることは分科会としても認識 しておりますけれども、現在、重複がんを特別に取り扱うということはいたしておりま せん。 ○鎌田委員 それは現在ですけれども、場合によっては考慮することも考えにあるとい うことではないんですね。 ○佐々木氏 先ほど申し上げましたように、新たな基準を設ける、あるいは審査の方針 に追加をするということは大事なことだと思っております。それをするためには、1つ の論文が出たから、すぐにそれを審査の方針に取り込むというわけにもいきませんので、 その論文も含め、世の中といいますか、サイエンスとしてどういう信頼性があって、科 学の常識として、あるいは定説として通用するものであるかということの検証をした上 で、更にそれを審査の方針に取り込むかどうかということはやや違った面もあると思い ます。そういう点について、分科会自身がそれをやることは極めて難しいものですから、 そういう問題に関して、分科会の外の、例えば班研究のような形で専門家が十分にレビ ュー、検証されて、そして分科会に対して、例えばこういうのを審査の方針に取り入れ るべきであるという提案をしていただきますと、私たちもそれに基づいて判断をするこ とができますので、そういうことを先ほど申し上げたつもりであります。 ○草間氏 ちょっとよろしいでしょうか。 ○金澤座長 どうぞ。 ○草間氏 重複がんについての別な原因確率表をつくっているわけではありませんけれ ども、例えばある方が、個別にがんを審査させていただいておりますので、別個にがん が出ましたということになれば、審査していただければ、その都度、審査をさせていた だくようにしておりますので、重複がんの方についても、同じ方が2回3回がんが出ま したということになれば、その都度、審査をさせていただいております。ただ、重複が んに関して、別のPCを考えるということはしていないということですので、そういう ふうに御理解いただきたいと思います。 ○金澤座長 ありがとうございました。どうぞ、神谷委員。 ○神谷委員 広島大学の神谷と申します。先生の御説明にありましたように、現在の審 査というのは、現在ある科学的知見に基づいて審査をする。それは根拠としては科学的 根拠に基づかざるを得ないということで御指摘があったように思います。最後に先生が 御指摘になりましたように、科学的知見というのは今後集積されていって、今ある事実 が変わる可能性もあるという御指摘があったと思いますが、そういう観点から、審査で は実際には総合的に勘案して評価するというお話があったように思います。例えば白内 障の問題でも、しきい値の値が出ていますけれども、このしきい値だって将来は変わる 可能性があると思いますので、そういうことで総合的に評価されるということだと思い ますが、総合的というところをもう少し具体的に教えていただけませんでしょうか。 ○金澤座長 どうぞ、お願いします。 ○佐々木氏 よろしいでしょうか。例えば今、白内障の話が出ましたけれども、白内障 で仮にしきい値を超えている申請者があったとしても、その経過などから、今、老人性 の白内障というのは極めてたくさんあるわけでありますから、そういう中で、経過と、 実際の白内障の診断の根拠、あるいは所見であります写真を添付していただいて、眼科 の専門の委員が、これが本当に放射線起因性の白内障といっていいかどうかという判断 をしております。そういった意味で、いろんな面から議論をすることにしております。 ○金澤座長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。どうぞ、甲斐委員。 ○甲斐委員 先ほど沢田先生から出てきた、いわゆる急性症状の話ですけれども、急性 症状の中でも特に脱毛というものが今回の大きな焦点になっているのかなというふうに 個人的には思うんですけれども、脱毛を申請してきた場合、特に被曝直後に脱毛があっ たといった場合に、この審査会ではどのように線量評価上で扱われているのか、脱毛と いうものをどういうふうに評価しているのかをお聞きしたいんです。 ○金澤座長 どうぞ、お願いします。 ○佐々木氏 よろしいですか。いわゆる急性症状は大変大きな話題になっているかと思 いますので、少し時間をいただいて、やや冗長になるかもしれませんが、説明をさせて いただきたいと思います。  釈迦に説法でありますけれども、一度に全身に放射線を被曝して、その線量が1グレ イを超えるような高度の被曝であった場合には、さまざまな臨床症状が起こってまいり ます。その中に、例えば吐き気であるとか、嘔吐であるとか、下痢とか、脱毛とか、皮 膚の紅斑などがあるわけでありますが、このような有害な組織反応、いわゆる確定的影 響というものには、線量にしきい値があるのが特徴であって、それぞれの症状、あるい は症候に対して、しきい値というものがかなりよくわかっております。そういった症状、 あるいは症候といいましょうか、特にリンパ球の減少などの症候が被曝線量の推定の指 標になるものであります。  そうではありますけれども、症状そのものは非特異的なものでありまして、多分ここ におられる皆様方も今までに下痢をされたことも、吐いたことも、場合によっては毛が やや異常に抜けるということは経験しておられると思います。それは必ずしも放射線に 当たらなくてもそういうことは起こる。いろいろな原因で起こるわけであります。しか し、放射線に被曝したという事実があれば、その被曝の線量の推定に、特に初期には役 に立つ、あるいは物理的な線量評価が不可能であったり、あるいは物理的線量評価が間 に合わないという時期には、こういったものが役に立つことがよくあります。そうする ことによって、早期から被爆者に適切な治療計画を立てることができるわけであります ので、症状による線量評価は有用な指標であると思います。  ちなみに私自身が経験したことを申し上げますと、1999年の9月30日にジェー・シ ー・オー(JCO)で事故が起こりまして、高度の被曝を受けた3人の作業者を私が当 時おりました放射線医学総合研究所に受け入れております。このときの最初に線量につ いての情報はなかったわけでありますけれども、被曝者の中に嘔吐をした方があるとい うので、これは恐らく1グレイ以上の被曝をしたんではないかという想定をしたことも ありますし、実は、お1人の方は避難の途中で失神をしておられます。そういった失神 の症状があるとすれば、もしそれが放射線に起因するものだとすれば、もしかすると15 グレイ以上の被曝があったかもしれないということも議論したわけであります。この問 題は、同時に避難のときに転倒したんではないかとか、場合によってはてんかんの発作 を起こされたんではないかとか、そういうこともありまして、今もってそれが放射線の 影響であったかどうかということは決着が着いていないわけであります。  そういった意味で、症状から最初に線量の推定をしておりますし、2日目ぐらいにな りますとリンパ球の減少が見られ、そのリンパ球の減少の経時的な変化から線量を推定 する方法があります。そういうものを用いて、これも臨床の症候から線量を評価したと いうこともあります。  しかし、その後に物理的な線量推定、ジェー・シー・オーの事故の場合には中性子被 曝が主体でありましたので、放射化された持ち物とか、あるいは犠牲者の血液のエネル ギー分析とか、放射線、放射能の測定とか、あるいは全身計測とか、そういったことを 行って、線量評価がだんだん固まってくるわけであります。  更に時間はかかりますけれども、染色体異常の検出によって生物学的な線量評価も行 いまして、3週間ぐらいたちますと、幾つかの方法による線量が出てきて、最終的には、 それでもなかなか1つに、この線量というわけにはいきませんで、3人の方それぞれ、 1〜4グレイ、6〜8グレイ、8〜14以上グレイ相当の被曝があったと判断したわけで あります。こういう使い方は、症状というのは、どちらかといえば前向きというのでし ょうか、今、放射線の被曝事故が起こったりしたときに線量評価をするのに役に立つわ けであります。  原爆被爆者の方々も原爆の直後に高度の被曝をした方がたくさんおられて、いわゆる 急性放射線症を発症した方がおられると想定されますし、そのために亡くなった方たち もおられると推測はしております。  しかしながら、現在申請をしておられる方には幾つか問題があります。1つは、もう 60年以上たっておりますので、被曝直後の症状についての記憶がどこまで確かかという 問題があります。特に被曝されたときに極めて幼少でおられた方たちの記憶というのは、 なかなかそれを実証することは難しいということがあります。  一方、DS86による線量評価にも不確実性はあるとは思いますけれども、こちらの方 が不確実性の大きさとしては、症状よりは小さいであろうと考えているわけであります。 したがって、0.1グレイ以下の低線量の被曝を、このDS86からの、先ほど申し上げま した線量推定では、0.1グレイ以下の低線量である方が、先ほど申し上げた下痢とか嘔 吐とか脱毛とか、いわゆる急性症状があったということを記載しておられた場合には、 これが放射線起因性であるということは分科会としては認めることはできません。  したがって、そういう場合には、吐き気とか嘔吐とか全身倦怠、脱毛などがあるわけ ですけれども、特に平常の状態でない、原爆被爆という未曽有の被害を受けられ、非常 に過酷な生活を強いられている中で、栄養状態も悪かったでしょうし、衛生状態も悪か ったでしょうし、また、非常に過激な労働をしなければならない面もあったでしょうか ら、そういうことでも先ほど申し上げました症状は起こり得るわけでありますので、む しろそういうことが原因ではないかと想像するわけであります。したがって、線量の低 い申請者が上記の症状を記載しておられても、それが放射線起因性とは分科会としては 考えておりません。 ○金澤座長 ありがとうございました。追加ということでよろしいですか。どうぞ。 ○草間氏 今、佐々木先生が言われたように、いわゆる急性症状と皆さんが言われるも のについては、いわゆるしきい値線量があるわけでして、症状が非特異的といいますけ れども、実は大変に放射線に特徴的なことは、潜伏期間がありまして、特に脱毛に関し ましては、毛母細胞の死が原因で起こることになっておりますので、原爆投下後、大体 10日から2週間で脱毛が起こり、しかも、その脱毛がだらだら続くという形ではなくて、 それこそ2〜3日か、長くても1週間くらいの間に抜け落ちてしまう。要するに、ばさ っと抜けるという感じで、そういった潜伏期があるということと、症状がどういう形で 続くかということで放射線の特徴は十分見られるということなんです。  したがいまして、今、脱毛を訴えておられる方たちが、例えば1か月、2か月続きま したとか、徐々に抜けてきましたということは、放射線による脱毛、放射線に起因した 脱毛だったら、こういうことはないと私どもも判断しております。  これはさっき佐々木先生も言われたように、ジェー・シー・オーの事故の患者さんに つきましても一斉に脱毛が起こって、それこそ枕にべったり髪の毛がつくというような 状態があったということは、今の知見でも言われております。  特に脱毛とか皮膚障害に関しましては、これはX線が発見されて、直ちに放射線治療 に使われたわけでして、線量と脱毛との関係が大変しっかりしております。だから、頭 皮の場合ですと、頭皮に少なくとも3グレイくらいの放射線を受けないと脱毛は起こら ない。しかも、起こる症状が、症状そのものは毛が抜けるという症状ですけれども、潜 伏期間があり、脱毛が起こる期間が決まっており、しかも大体2か月くらいですれば、 一過性の脱毛だったらまた生えてくるという形で、そういった症状の経過が大変特徴的 であるということは是非御理解いただきたいと思います。 ○金澤座長 ありがとうございました。ほかに御意見ございますか。鎌田委員、どうぞ。 ○鎌田委員 脱毛に関しては、特に今、御指摘があったように、訴えの不確実性、ある いは症状の不自然さ、そういうものがあるだろうということは考えられますが、先ほど 靜間委員の方から指摘がありましたベータ線の影響というものを考慮、私はチェルノブ イリのときのベータ版を見ていますが、ああいうのを参考にしていきますと、不確実性 はあるとしても、そういうものも一方では十分考えておかなければいけないのではない かなという気持ちがしているんです。ですから、その辺はこの委員会でまたいろいろ議 論されると思うんですが、是非参考にしていただければありがたいとコメント申し上げ ます。 ○金澤座長 どうぞ、お願いいたします。 ○草間氏 先ほど靜間先生から御指摘ありましたように、ネバダではベータ線の影響が ということですけれども、ネバダの核実験場の原爆実験と広島・長崎に投下された原爆 との大きな違いは、広島・長崎の原爆の場合には、DS02で高さが若干修正されました けれども、広島、長崎、それぞれ500〜600メートルの高さで爆発したわけです。だから、 初期放射線に関しては、少なくともベータ線は、空気中の比定の問題で問題にならない ということです。ネバダの場合ですと、地下核実験、あるいは地表面の近いところで核 実験が行われております。これはムルロア環礁の原爆なども同じでして、放射性降下物 が地表に降下しているという点で広島・長崎の原爆とは大きく違う。この辺は是非御理 解いただきたいと思います。 ○鎌田委員 よろしいですか。 ○金澤座長 どうぞ。 ○鎌田委員 広島でも、0.9MeVという大きなベータ線の観測が被曝後1週間以内に、た しか仁科研究室の方で測定されていると思うんです。ですから、空中でのものだから余 り影響がないというんだけれども、むしろ地上で起こった反応により発生したベータ線 というのが大きいのではないかと私は思うんです。 ○草間氏 誘導放射線という意味でしょうか。 ○鎌田委員 そうです。 ○金澤座長 どうぞ。 ○佐々木氏 私は線量の測定評価について専門的な知識は持っておりませんけれども、 先ほども申し上げましたように、今、鎌田委員が言われたようなことがあるのであれば、 今、私どもはDS86というものを現在では一番信頼できる資料と思って、それに基づい ておりますけれども、それ以外にさまざまな研究成果があるということも知っておりま す。それをどこかで検証して、その検証の結果に基づいて、この分科会で審査の方針の 中に取り込むようにという助言をしていただけるような、そういうメカニズムが大事だ と思います。今、鎌田委員が言われたからといって、それでは分科会でベータ線の計算 をしましょうというわけにもなかなか、そこまでの能力といいますか、余裕は分科会は 持っておりません。その点を御理解いただきたいと思います。 ○金澤座長 ありがとうございます。もう随分時間がたってしまいましたが、このベー タ線の問題は靜間先生から出たことなので、今のお二方の御議論に何かコメントがござ いましたら是非お願いしたいんです。ネバダとは違うんではないかという御意見もあり ました。 ○靜間委員 確かに広島・長崎とネバダ、あるいはマーシャルとかビキニとは状況は違 うと思うんですけれども、核分裂生成物と、要するにその後のアクチノイドの影響とか、 そういったものが大きい。あと、地上の放射化も入っていますが、確かに状況は違うん で、広島・長崎について計算する必要はあると思うんですけれども、方向として、そう いうベータ線の影響がかなり大きいんではないかということがあると思います。 ○金澤座長 ありがとうございました。ほかに何か、御質問なり御意見なりございませ んでしょうか。どうぞ、丹羽委員。 ○丹羽委員 少しサイエンスと外れるんですが、原因確率というので10%とか50%とい う数字がありますが、これはどのように、いわゆる直線化説に則れば、これは限りなく 白に近いところから限りなく黒に近いところまで出てくるわけです。だから、どういう 考えでこれが出てきたかというのをちょっとお聞かせいただければと思います。 ○金澤座長 どうぞ。 ○佐々木氏 草間分科会長代理から御説明をいただきたいと思っておりますけれども、 私どもはこの審査の方針を立てたときには、高度の蓋然性をもって放射線、放射能と、 それから疾病との起因性を審査することという目的で行いましたので、その高度の蓋然 性というのは原因確率で言えばどのくらいのものを高度の蓋然性といっていいかという ことから、この50%、10%というものを決めたつもりであります。 ○草間氏 だから、これはまさにサイエンスかポリティカルな判断かということになる かと思いますけれども、原因確率を取り込むときに、原因確率を今、寄与リスクを使っ て出すことにはいろいろ問題があるんではないかというお話がありましたけれども、使 えるデータとしては今、これしかないわけでして、原因確率というのは1人の個人に起 こったがんならがんが、どれだけ放射線が関係しているかということで、平成13年にP Cを、この審査の方針を取り入れるときに少し文献調査をさせていただきまして、もう 既にアメリカとかイギリス等では、職業上の補償に関して原因確率を取り入れておりま して、その中で、そういった取り入れているところは段階的に入れて、段階的に入れる というとおかしいんですけれども、例えば原因確率が50%だったら50%だけ補償しまし ょうとか、そういう形だったんですけれども、この原爆被爆者援護法そのものはall or nothingの判定をしなければいけないわけです。そういうふうに決められているのです。 イギリスとかアメリカ等では50%を超えていれば起因性はかなり高いと判断していい でしょうという知見が出されており、10%というと、90%はほかの原因ですよというこ とになります。10%以下の場合には段階的な補償もしないという方針をとっていました。 だから、10%と50%というのは妥当な判断だろうということで取り入れさせていただき ました。その中間に関しましては個々に判断をしていきましょうということで、段階的 な判断というのはちょっと日本では、今の原爆被爆者援護法上はあり得ない話ですので、 all or nothingですと、10%と50%が、諸外国のPCを取り入れているところの判断を 御参考にしていただきまして、こういう形で決めさせていただきました。 ○金澤座長 ありがとうございました。ほかに御意見はございませんでしょうか。よろ しいですか。佐々木先生、草間先生、どうもありがとうございました。お戻りください。  本日は、原爆症認定に関しまして、被爆者のお立場、認定をなさっておられる立場の 両方から御意見をちょうだいいたしました。いろいろな新しい問題も提起されまして、 誤解のようなものも少し解けた部分もあったかもしれません。こういう議論をまた次に つなげていかなければいけませんので、論点整理を、皆さん方からいただいた御意見を 整理いたしまして、僣越でありますが、私と丹羽先生とで少しまとめて、事務的にもま とめて、次回以降にまたお示ししたいと思いますが、いかがでしょうか。そういう形で お許し願えたらと思います。  そろそろ時間になってしまいましたけれども、今後、検討を行う論点の内容を10月1 0日ぐらいまでにメールで、あるいはファクスで事務局あてに御連絡いただきますと、 それを取り入れることができるんではないかと思いますので、今日の御意見を敷衍する 形でも結構ですし、何らかの形で、今日の感想のようなものでも結構でございますので、 事務局の方にお寄せいただければと思います。今日はこれで終わりますけれども、事務 局から何か御説明、どうぞ。 ○鎌田委員 ちょっと今のがよく理解できなかったんですが、10月10日までに委員が 考えて、何かプロポーザルをせよというふうに聞こえたんですけれども、論点整理をす るのに。 ○金澤座長 いやいや、プロポーザルではなくていいです。論点整理と申しますより、 今、言いましたけれども、御感想でも結構ですし、こういうことを今後は討議してもら いたいということでも結構ですし、御意見をいただきたいということです。 ○鎌田委員 1つは、委員長と副委員長が今日のことについてまとめをいたしましょう、 その次には、10日までに委員から意見か何かを出してください、その意見か何かという のは、何の意見なのかなというふうに、ちょっとぴんとこなかった。 ○金澤座長 先生方の御意見ですか。 ○鎌田委員 その10日に出すものは。 ○金澤座長 先生方の御意見です。 ○鎌田委員 意見は、この第2回の議論の中の、その辺ちょっと。 ○金澤座長 いいえ、もっと大まかなことを言っております。1回目と2回目を通して 先生がお考えになったことをどうぞ事務局にお寄せくださいということです。それが今 日のまとめとは別に、第3の項目になるかもしれませんし、第2の項目になるかもしれ ません。その中で大事なものがあればですね。そういうことです。どうぞ硬くお考えに ならずに御自由に御意見をいただけないかと、こういうことです。 ○鎌田委員 わかりました。 ○金澤座長 ほかに何か御意見ございますか。では、事務局から。 ○北波健康対策推進官 それでは、事務局から次回の会合につきまして御説明させてい ただきます。  次回につきましては、10月29日、月曜日でございますが、13時から15時を予定して おります。場所はまだ決まっておりませんので、追って連絡をさせていただきたいと思 います。決まり次第、御案内をさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたし ます。 ○金澤座長 10月29日、月曜日、第3回、13時から15時、はい、わかりました。何か 御質問ございませんでしょうか。  それでは、本日の第2回目の会を終わりたいと思います。次回、10月29日にまたお 会いしたいと思います。よろしくお願いします。(了)