07/05/11 第2回診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会の議事録について     第2回診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会 日時 平成19年5月11日(金)    10:00〜 場所 九段会館 桐の間4階 ○医療安全推進室長(佐原)  ただいまから第2回の診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検 討会を開催させていただきます。委員の皆様方におかれましては、ご多用のところを本 検討会にご出席をいただき、誠にありがとうございます。また、参考人の方々もどうも ありがとうございます。  初めに本日の委員の出欠状況についてご報告いたします。本日は全員からご出席いた だけるというお返事をいただいております。それでは以降の議事進行について、前田座 長よろしくお願いいたします。 ○前田座長  本日はお忙しい中をお集まりいただきまして、どうもありがとうございました。本日 はさまざまな視点から、この会のテーマに関連して幅広いご意見を頂戴するということ で、関係分野の方々を参考人としてお招きしております。まず、お招きした参考人の方々 をご紹介させていただきたいと思います。ご遺族の立場から稲垣克巳参考人でございま す。同じくご遺族の立場から二川雅之参考人でございます。医師で虎の門病院の泌尿器 科部長の小松秀樹参考人でございます。国立病院機構呉医療センター・中国がんセンタ ーの専任リスクマネジャーを務めておられます富永理子参考人でございます。4人の皆 様には後ほどご発言いただく時間を用意しておりますので、よろしくお願いいたします。 それでは事務局から今日の配付資料の確認をしていただきたいと思います。 ○医療安全推進室長  まず議事次第、座席表、委員名簿のほかに、配布資料1として、厚労省試案に対して 出されたパブリックコメントがあります。資料2-1として、稲垣参考人からのご提出資 料。資料2-2として、二川参考人からのご提出資料。資料2-3として、小松参考人から のご提出資料。資料2-4として、富永参考人からのご提出資料でございます。なお、小 松参考人からは本日机上配付として2つの資料を別途いただいています。資料3として、 診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業についてのもの。資料4-1として、病理 数、法医数等の医師数について。資料4-2として、医療事故の件数について。資料4-3 として、医療事故調査に委員会の専門家等が関わっている例。資料4-4として、「医療事 故を防止し被害者を救済するシステムをつくりたい」と題されている加藤委員からの資 料。資料4-5として、「医療事故に関する刑事責任の在り方について」という日本医師会 の医療事故責任問題検討委員会でまとめられた資料。それから、参考資料集が別途付い ています。以上ですが資料の欠落等がございましたらご指摘いただきたいと思います。  なお、資料1の厚労省試案に対して提出されたご意見、及び資料4-5の医療事故に係 る刑事責任の在り方について、この2つについては印刷の都合上、傍聴の方には配付し ておりませんので、あらかじめご了承ください。以上です。 ○前田座長  資料のほうはお揃いでしょうか。それでは議事に入らせていただきたいと思います。 前回はかなり自主的な議論に入ったわけですが、それに続けて委員の皆様のご意見をと いうことですが、このテーマはご承知のように患者、医療関係者をはじめとして国民の 非常に大きな関心を集めているものであって、幅広い議論をしていかなければいけない ということで、今回は初めの議事として3月9日に公表された、「診療行為に関連した死 因究明等の在り方に関する課題と検討の方向性への意見募集」に対して寄せられた意見 について、先ほど資料1として紹介されたものです。これについて事務局より簡単にご 報告いただいて、そのあと、先ほどの参考人のご意見を伺っていきたいと考えておりま す。  議事の3としては、参考人のご意見を伺ったあと、17年度より厚生労働省の補助金事 業として、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」が実施されていますが、本 検討会の検討課題を議論していく上で、このモデル事業の実施状況を把握していくこと は不可欠であろうかと思いますので、ご説明いただきたいと思います。  議事4として第1回の検討の際に、加藤委員と鮎澤委員からご発言がありました資料 などについて、準備が整った範囲で提出しておりますので、併せてご紹介いただきたい と思います。  それではまず資料1について簡単にまとめて説明をしていただければと思います。よ ろしくお願いいたします。 ○医療安全推進室長  それでは簡単に事務局より資料1についてご報告をさせていただきます。資料1は3 月9日に公表しましたいわゆる厚労省試案に対するご意見募集の結果です。厚労省試案 が記載している範囲にとらわれず、非常に幅広い観点からたくさんの有意義なご意見を いただきました。概要については資料1の表紙に書いてあるとおり、意見募集期間は3 月9日から4月20日までの間でご意見の総数は140件です。個人の方が113件、団体の ものとして27件でした。また、5のところですが、職業では個人の113件のうち、医療 従事者が91名、法曹関係者が3名、それ以外の方が10名、不詳の方が9名という状況 でした。8のところは医療紛争の経験があるかどうかで、当事者になったことがある方 が28名、身近で見聞きしたことがある方が36名、経験なしの方が11名という状況でし た。  また、パブリックコメントの内容についてですが、非常にたくさんいただきまして、 合計で458頁の大作になっておりますので、事務局で要訳してここでご紹介することは あえていたしません。ゴールデンウイーク中に各委員にはすでに配付させていただいて おりますので、これらのパブリックコメントも踏まえ、本検討会でのご議論を進めてい ただきたいと思います。なお、傍聴の方には印刷の都合上配付しておりませんが、ご希 望の方には本日午後以降、医療安全推進室までご連絡いただければ配付させていただき たいと思います。 ○前田座長  ありがとうございました。我々も配付していただいて、私も読ませていただいたので すが、ほかの審議会などでのパブリックコメントに比べ非常に密度が高くて、しかも数 が多いし、充実したものでびっくりしました。ただ、逆にそこは非常に議論が練れてい てというか、もちろん対立がないわけではないのですが、今後の議論に具体的にすぐつ ながっていくご意見が非常に多かったと思います。今日は時間の関係もありますので、 いまの段階で委員の方でご感想をいただければいただいて、先に進みたいと思います。 基本的にはこのご意見を十分に踏まえて、委員会の審議を進めていきたいと考えており ます。かなり大部のものですので、これからきちんと読み込むという委員の方もあろう かと思いますが、ご感想があれば出していただければと思いますが、いかがでしょうか。 この中で「この意見は特に注目」ということでもよろしいのですが、何かございますで しょうか。もし、なければ先ほど申し上げたように、これだけ本当に大変なご努力をし て関心をもっていただいておりますので、是非これを踏まえた議論をしてまいりたいと 思いますので、なにとぞよろしくお願いいたします。  それでは今日予定しております議事2に移らせていただきます。先ほど紹介させてい ただきました参考人の方々からご意見を伺ってまいりたいと思います。紹介させていた だいた稲垣委員、二川委員、小松委員、富永委員の順にご発言をいただきたいと思いま す。その後、質疑応答を含めて意見交換ということで、それぞれいろいろなご経験、も う論文をお書きになり、本までお書きになった先生もいらっしゃって、誠に恐縮なので すが、ご説明をいただく時間が1人10分でお願いをしてあると思いますので、ご協力を よろしくお願いいたします。まず、稲垣参考人ですが、いま申したとおり10分というこ とで恐縮なのですが、なにとぞよろしくお願いいたします。 ○稲垣参考人  稲垣克巳です。私は医療過誤被害者の父親です。私が書きました『克彦の青春を返し て−医療過誤十八年の闘い』をお手元にお配りしておきましたから、後でご覧になって いただきたいと思います。なお、前にお配りしたと思われる方にはお渡ししておりませ んので、ご必要でしたらまた申し出ていただきたいと思います。  それでは本論に入ります。診療行為に関連した死因の究明に当たっては、死因が究明 されればよいというものではなくて、再発防止の対応がなされなければならないと思い ます。さらには被害者の救済、その他にまで及ぼすべきではないかと思います。1番か ら順を追って申し上げます。最初に組織のあり方について。中立性、公平性を貫いて、 医療事故の調査を行う「医療事故調査委員会」を創設します。調査対象は予期しない診 療関連死だけでなく、大きな後遺症が残ったり、入院期間が極めて長期化したような予 期をしない重大な医療事故を加えるものとします。なお、全国的に統一した方針、方法 の下に調査を行うべく、「医療事故調査委員会」は全国単位として、迅速性、機動性を確 保するために、下記の8支部を置くということで、北海道、東北、首都圏は東京・神奈 川・埼玉・千葉、北関東・甲信越のグループで山梨・長野・新潟・群馬・栃木・茨城。 中部、近畿、中・四国をまとめて、九州とこの8支部を置いたらどうかと思います。な お、各都道府県に支部を置くことは県単位の人口差が大きく、非効率で望ましくないと 思います。  2番めに届出制度のあり方についてです。現在は医療法に基づき医療事故情報収集等 の事業で、特定機能病院、国立病院、大学病院等の重大な医療事故の届出が義務化され ています。これを改め、今後は全国すべての医療機関の診療関連死及び重大な医療事故 を新たに創設される「医療事故調査委員会」に届け出ることを義務化し、届出を怠った 場合には罰則を科することにしたいと思います。  医療事故被害者が「医療事故調査委員会」に直接に事故の報告をして、委員会が調査 することが妥当であると認めたものは調査の対象にするといたします。これは重要なこ とですが、医師法第21条を改正し、診療行為に係わる予期しない死亡事故は、「医療事 故調査委員会」に届けることとします。なお、調査により犯罪性が認められた場合には、 同委員会から資料を添付して警察へ届けることにします。医療機関が診療行為に関連の ない死亡を発見したときに警察へ届けることは言うまでもありません。  3番めに調査組織における調査のあり方についてです。「医療事故調査委員会」は法律 によって調査権をもち、事故が起きた医療機関に出向く等、当該医療機関と一体となっ て事故の経過、原因分析等の調査をし、再発防止策を立てます。なお、調査の一極集中 を避けて分散化を図るために特定機能病院、国立病院、大学病院、500床以上の病院は 重大な医療事故が発生したときに過半数の外部委員を加えた独自の調査委員会を作るこ とを義務づけます。外部委員にはでき得れば国レベルの「医療事故調査委員会」の代表 を加えることが望まれます。  下に書いた図のような形になり、重大な医療事故が発生した際には、同じことですが 特定機能病院、国立病院、大学病院、500床以上の病院は独自の調査委員会を作る。そ して過半数を外部委員とする。その他の病院については「医療事故調査委員会」が当該 病院と一体となって調査をするとしたいと思います。  4番めに再発防止のためのさらなる取組みについてです。「医療事故調査委員会」の任 務の1つは、原因を追求した上で同じ事故の再発防止を図ることにあります。いままで は大きな医療事故が発生しても、その情報はその病院だけにとどめられ、あるいは大学 病院ではその医局だけにとどめられ、情報の共有化は図られませんでした。そのため同 じような医療事故が他の医療機関で繰り返し発生してきました。1つの重大な医療事故 を他山の石として、医療の世界の負の遺産とし、再発防止のシステムを作り上げる必要 があります。原因を徹底的に究明した上で具体的な再発防止策を立て、各医療機関に情 報を伝達して、同じような事故が二度と起こらないように注意を喚起することをシステ ム化すべきであると思います。共有化が非常に大切なことだと思います。  5番めとして被害者の救済です。「医療事故調査委員会」の大きな目的の1つとして、 被害者の救済を図ることを重要な事項と考えたいと思います。現在、医療事故被害者は 裁判に訴える以外に方法がありません。裁判は長期を要する上に、精神的、経済的負担 が大きいものです。調査結果に基づいて医療過誤の有無にかかわらず、速やかに救済す る制度を作ることが望まれます。死亡事故だけでなくて、重大な事故をも対象とします。 調査の結果、医療過誤が明らかなものは当然補償金を医療者が負担します。無過失分に 対応する補償の財源としては、医療は不確実であるとの原則をわきまえた上で、医療者 等業者、患者、国の三者で負担します。医療者、製薬業者、医療機器業者等は売上高の 一定割合を拠出します。患者は無過失補償の受益者です。一部負担は当然と理解すべき だと思います。この救済制度は国民が安心して、安全な生活をしていく上で不可欠なも のであり、国の積極的な援助を期待したいと思います。  なお、患者負担については、車の自賠責保険を国民が負担していることと同様に考え たいと思います。現在検討されている産科医療における無過失補償制度についても、こ の中に包含すべきものと考えます。それだけでなく、無過失補償制度として初めてのも のですから、将来、他の疾病にも拡大することを前提に検討すべきであると思います。  6番めに行政処分、民事紛争及び刑事手続等との関係についてです。行政処分につい ては医道審議会で審議されていますが、刑事罰を受けた者が対象です。平成14年12月 から刑事事件とならなかった医療過誤について、明白な注意義務違反が認められたもの も対象に加えられました。また、平成17年12月16日の「医師等の行政処分のあり方に 関する検討会報告」では、「国に行政処分の根拠となる事実関係に関わる調査権限を創設 すべき」とされましたが、十分に機能するまでに至っておりません。「医療事故調査委員 会」の調査結果に基づき、診療に関わる重大な医療事故については、当委員会が行政処 分をも審議することとし、医道審議会の審議対象から除外します。調査結果は人権を尊 重した上で、透明性を図るべきであり、民事裁判、民事調停、刑事裁判に積極的に活用 されるべきだと思います。  最後の結びとして、我が国の医療は事故を隠す、患者に説明しない、謝らないという 悪弊を持っておりました。また、上下の風通しが悪く、自由活発な議論ができない風潮 がありました。これを払拭しなければなりません。カルテの改ざんが頻繁に行われてき ました。また、司法もカルテの改ざんに甘かったと思います。カルテの改ざんは医療事 故以上に重大な犯罪であるとの認識を持つべきであり、法改正が必要だと思います。「医 療事故調査委員会」の創設という大きな改革を進めていく上では、従来の医療の世界が 持っていた悪弊、悪い風潮を打破して、道を開いていく必要があります。また、それが なければ国民の信頼も得られないと思います。 ○前田座長  ありがとうございました。非常に全般にわたって具体的なご提言をいただいていると 思います。時間の関係で各委員の方からご質問、ご意見をご自由にご発言いただければ と思います。口火を切るのは難しいかもしれませんが、いかがでしょうか。 ○樋口委員  稲垣さんの説明は非常にわかりやすくて、ありがたいと思いました。極めて重大な医 療事故の被害者であって、その方がこういうご提言をされていることに非常に重い意味 があると思っています。その中で被害者の思いはいろいろな願いがあって、必ずしも相 互にうまく整理のつかないような場合があります。1つは非常に単純化して言えば、稲 垣さんが強調されてきた再発防止という、つまりこの事故をただ無駄に終わらせたくな いという願いです。もう1つはこれに関係した人を何とか悪いやつなので処罰したいと いう方向性がもう一方にあって、それぞれ当然だとは思うのですが、今日のお話の中で は前者が強調されていたような気がするのです。  具体的な質問としては、刑事事件がいまの日本では大きな意味を持っているので、例 えば最初のところで調査により、つまり医療事故調査委員会を立ち上げて再発防止のた めの調査をしてもらうのだというのですが、その後の調査によって犯罪性が認められた 場合には、そこから警察へつなぐというご提案なので、犯罪性が認められることの意味、 どういう場合が犯罪だと。これは刑事事件で処罰してもらわなければいけないという事 故なのだとお考えなのかをお聞かせいただければと思います。 ○稲垣参考人  まずストレートに回答だけではありませんが、私がいちばん強調していることは再発 防止がいちばん重要なことだと思っています。したがって、5つのことを被害者が要望 するということを言いますが、私の場合は裁判をやる前に真相を概ねを病院と話をして わかっています。ただし、謝罪もありませんでしたから謝罪をしてほしいということと、 再発防止が重要なことである。それから原状回復はもう初めから諦めていましたからこ れもないわけです。補償の問題は個人的にいろいろと立場が違うと思いますから、私は 無過失補償制度を作るべきだということで提案しています。  いわゆる例えば刑事事件になって、警察で最初に調査に入った場合、医療事故の原因 を正しく調査して真相を究明して、それを再発防止につなげるということはなかなか難 しいと思うのです。だからやはり同じ事故を再び繰り返さないということを最も重視し たいと思いますから、それには事故調査委員会が自ら調査をすることを最重要に考えて います。犯罪性をどこでということも、調査委員会の方が認定されるわけで、例えば何 かルールを決められてもいいと思いますが、私は調査委員会が自ら調査をする、あるい はさらに調査委員会を中心にして、最終的には排除すべき人の行政処分まで含めて、医 療の世界で自らが実施してもらうべきである。それでなければ国民の信頼が得られない ということを、最後の結びで申し上げております。 ○前田座長  辻本委員が中座されるとのことなので、なるべく早めにご発言いただければと思いま す。いまのことについて特にご質問、ご意見がなければまだ時間もあると思いますので、 ほかのどなたか、稲垣委員に対してございますか。 ○辻本委員  3頁の中程少し上に、患者は無過失補償の受益者であり云々というところで、一部負 担は当然と理解すべきでありとお書きいただいています。ここのところをもう少し、も しご意見をお持ちであれば詳しくお聞かせいただきたいと思います。 ○稲垣参考人  基本的にはここに書きましたように、国の予算の中からの支援も大いに期待したいと いうことがあります。また、医療界なり製薬業界等の関係業界の支援も財源として受け たいと思います。ですけれども、患者なりあるいは一般市民といってもいいかもわかり ませんが、これは受益者ですから、やはり一部負担があっても当然ではないかと私は思 います。だから、患者だけが負担がないということはおかしいのではないか。私は被害 者の立場ですけれども、そのように考えております。 ○前田座長  よろしいでしょうか。初めから非常に制度全般に対してきちんとしたご提言をいただ いているので、かえって議論しにくい面もあるかもしれないのですが、ご質問、ご意見 はいかがでしょうか。後で議論する場は十分あると思いますし、関連してほかの方々の いろいろなお立場からの発言を聞いた上で、ご意見をいただいたほうがいい面もあろう かと思います。本当に稲垣参考人ありがとうございました。ひとまずここで区切りとい うことで、次の二川参考人の意見を伺って、先に進めてまいりたいと思います。二川参 考人よろしくお願いいたします。 ○二川参考人  皆さんこんにちは。私は埼玉県越谷市からまいりました二川雅之と申します。会社経 営、47歳です。よろしくお願いいたします。今日お話することは、私の父の医療事故と その後4年半の話です。父は当日心臓バイパスの手術の途中、死亡してしまいました。 67歳でした。手術当日の詳細は別の資料の事実経過にありますが、当日の話をいまから 少し簡単にしたいと思います。  当日、手術は主治医と教授の2名が主に執刀してくれました。手術当初、助手である 教授が心臓に3cmもの傷を付けてしまいました。その後の手術操作において出血を止め られずに死亡しました。当初、3時間程度で終わる予定の手術で、7時間後、夕方の4 時ぐらいだったと思うのですが、主治医から途中説明がありました。手術中に心臓の動 きが悪くなったためにポンプを回す。その管を入れたところ、血管が裂けて出血したと いうことでした。  それからまた家族は待っていました。開始から12時間後、夜の9時ごろ、父と対面し たのは集中治療室でした。父の身体は全身がむくみ、顔は2倍ぐらいに腫れ上がり、何 本もの管が顔および胸につながれ、父の顔からはまだ出血が止まらず血が噴き出してい ました。母はハンカチで父の顔に流れる血を何度も何度も拭いましたが血は止まらず、 瞬く間に目のくぼみに溜まっていきました。全身が震えました。こんな形の手術終了っ てあるのかと思いました。当日、終了の主治医からの説明は、心臓が手術中に動きが悪 くなった程度のものでした。  納得のいかない説明の中、同病院内での解剖が進められましたが、信用できるはずが ありません。翌日、所轄の警察に被害届けを提出し、司法解剖をしてもらいました。同 じく警察の捜査も始まりました。その後、私たち家族はお互いに慰め合いながら暮らし ておりましたが、少しだけ落ち着きはじめた4カ月後、突然毎日新聞社から連絡が入り ました。内容は内部告発でした。「あまりにもひどい手術だった。二川さんは手術中に心 臓を傷付けられ、その後送血でもミスがあり死亡」したといい、記者はカルテも持って いました。カルテの中には2時間後に心臓ラプチャーが記載されておりました。その後、 弁護士の先生方にお願いし、事件から3年半後、民事提訴しております。現在係属公判 中です。母も真実を父に報告したいと毎日毎日司法解剖の結果を待ち、泣きながら暮ら しておりましたが、無念のまま3年後に他界しました。  司法解剖の結果が出たのは昨年11月、警察より連絡が入りました。なんと4年以上か かりました。内容を見せてほしいとお願いしたところ、開示されないそうです。なぜで すか、納得いきません。民事裁判も進みません。真相究明をしているのに、家族が解剖 結果すら見られない。非常にそこが納得いかない部分です。  この4年半の間に、実は私は教授ではなく、主治医と何度も実際に会いました。彼は その病院に辞表を出し、しがらみがなくなったので真実を話してくれております。彼は 私の父の墓参りをしたり母に会ったりして、現在でも真実を語ってくれています。内容 は以下のとおりです。  どうして心臓に傷を付けたことを当日言ってくれなかったかという問いに、まず自分 が傷をつけたのではないから言わなかった。2つめ、自分の上司である教授が傷をつけ た。院内の上下関係もあり、結局言う勇気がなかった。病院に呪縛されていた。翌日、 教授に「遺族に話をしよう」と言ったところ、話す必要がないと隠蔽された。昨日、実 はその主治医とまた会いました。本日の検討会で真実をすべて述べると申し入れをしま したが、彼は賛成してくれました。  簡単ですが、別の箇条書にしてある「申し上げたいこと」という資料があります。1 番。当日、教授が心臓に傷をつけたことを担当医が隠蔽したこと。これは後ほど言おう と思ったということを言っていましたが、火葬されてしまっては証拠がなくなります。 当日言うことが重要だと思います。教授が傷をつけたことは話す必要がないと。必要が ないわけはありませんね。  5番ですが、現在でも院内でも事故調査を全く行っていないのみならず、教授及び担 当医の間で一切話もせず、民事の答弁でも先方は教授及び弁護士で発言を決定し、担当 医には一切連絡すら入っていない。病院としてあるまじき態度だと思います。  9番です。司法解剖の結果が出たのが4年余りかかりました。担当の警察の刑事さん には非常に積極的にやっていただいていますが、約2年前、容疑が固まったので送検す るということを聞いておりましたが、やはり念のために鑑定結果が必要だということで 現在もまだ書類送検もされていない状況です。解剖結果が4年以上かかるのがちょっと 不思議であります。  まとめに入ります。以上のことから、今後このような事件が再発しないように患者同 意の上で手術の過程をビデオで撮影し、一定期間保存するなどして、医師だけ、もしく は病院のみだけで事故の有無を判断しない。専門機関で審査をするなど、そういうシス テムが必要だと思います。 ○前田座長  ありがとうございました。二川参考人は事実関係、ご発言いただいたことも含めて民 事係争中ということなので、こういう場にお呼びするのはある意味でよくないというご 意見もあろうかと思いますが、やはりこういう渦中におられる方の生の意見を聞いた上 でまた議論を組み立てていくことが非常に重要だということで、お招きした次第です。 ですから、個人情報に関わる部分や事実関係の微妙なところは表になるべく出さないと いう形で、実質的に今後の我々の検討会に関係ある話をしていただいたということです。  質問、ご意見、ほかの委員の方からいかがでしょうか。何かこの場で伺っておきたい ことがあれば、いかがでしょうか。  私のほうから質問させていただきます。資料2-2と最後に二川参考人がおっしゃった 箇条書にして申し上げたいことをまとめてくださっているところがあります。そのいち ばん下で、「医師のみで事故の有無を判断しないで専門機関で審査をする」ということに わざわざアンダーラインをつけているのですが、ここで専門機関というと医師中心には なると思うのですが、医師のほかに誰かが入るほうがいいのか、それとも手術をした関 係医師以外の客観的な立場の医師で構成される専門機関ならいいとお考えなのか、その 辺の感じはどうですか。 ○二川参考人  申し上げたとおり今回、手術室の中で起きたことは、私どもは当初内部告発というこ とがなければわからなかったわけで、現在に至っていないわけです。当日の説明もなか ったわけですから。私のいまの立場ですと、その病院は信用ができなかったという形に なります。なので、ビデオなどで撮影をして、医師同士でも結構です。証拠を残すこと が非常に重要であって、その中に真相を究明する機関もしくはそういう場所の中には、 医師だけでなく遺族も当然入りたいということです。 ○前田座長  わかりました。ほかの委員の方からご質問、ご意見はいかがでしょうか。こういう具 体的なものは重い話ですので、なかなか質問しにくい面があろうかと思うのですが、先 生お願いします。 ○高本委員  心臓外科の専門の領域ですから、この例で心臓を傷付けたというのは左心耳が傷付い たのですね。左心耳は非常に薄い組織ですから、たまに傷付くことはあるのです。だか らそれを修復すればほとんどあまり大きな問題ではありません。それで出血があって、 心機能が悪くなったもので、補助循環をやった。補助循環をやったところが大動脈解離 になった。これも補助循環の中の合併症になっています。ですから、もう少し医学的に は専門の調査委員会で検討しなくてはいけないだろうと私も思います。もう1つは医師 は患者とのコミュニケーションをきちんとしなくてはならないということがいえるだろ うと思います。 ○前田座長  よろしいでしょうか。ほかに委員の方お願いいたします。 ○鮎澤委員  先ほどの座長のご質問に戻るのですが、いただいている「申し上げたいこと」のまと めの下線の「医師のみで事故の有無を判断しない」のところ、「医師のみ以外」の方につ いて「ご遺族」とおっしゃっておられました。パブリックコメントの中にも、第三者機 関の調査委員のメンバーには市民を入れるべきだという議論がかなりあります。ただ、 市民を入れる話と、ご遺族を入れる話というのは違うと思うのです。確認をさせていた だきたいのですが、二川参考人は、いわゆる市民ではなくて、その件に係わっているご 遺族を入れるべきだというお考えなのでしょうか。 ○二川参考人  市民の方に参加していただくのももちろん大賛成です。遺族も私は必ず入らなければ いけないと思います。手術のもともと入院した過程、前後のことの話もできることもあ ります。最終的に遺体を引き取って帰るわけです。そのときの状況もお話できるわけで すから、遺族が入らなければいけないと思っております。 ○鮎澤委員  あえて質問させていただきたいと思うのですが、海外などでこういった制度について 検討する際、真相究明の席に遺族が入ることが必ずしもいいわけではない、特に事故発 生後迅速に検討していかなければいけないようなときに、まだ気持の整理がつかないご 遺族が入られることは、必ずしもいい議論につながっていかないという意見もあるので す。その辺りのことはいかがでしょうか。 ○二川参考人  海外のことは存じ上げませんが、あくまでも遺族も悲しいからそっとしておいてくだ さいという遺族もいらっしゃいますし、積極的に参加したいという遺族、私はそちらで すが、同意があれば遺族は必ず参加できるというシステムでも結構ですが、あったほう がいいと思います。 ○鮎澤委員  ありがとうございました。 ○堺委員  パブリックコメントとの関係で1つだけお尋ねします。たくさんありましたパブリッ クコメントの中に、1つだけ「判定会議からすべての医師を除外すべきだ」と読み取れ るものがありました。それはそれで1つの考えだと思います。二川参考人は医師の資格 を持つ者すべてを除外するというようにはお考えではないといま理解しましたが、それ でよろしいでしょうか。 ○二川参考人  はい。医師でなければわからないことは多いと思います。 ○辻本委員  ご遺族が議論の中に入るというご意見について、さらにお聞かせいただきたいのです が、なかなかご遺族が加わるということが過去の調査委員会の中では実現できていなか った現実があります。私も市民の立場ということで、そうした委員会に名を連ねて議論 に参加しました。医療の限界や不確実性についてかなり厳しい現実がやり取りされます。 もしご遺族がいらっしゃったらと思うだけで身の縮む思いをした経験がございます。そ こでお尋ねしたいのは、例えばいまリスクマネジャーとか、限りなく病院側の人ではあ るのですが、社会的にも役割を認知された形でより家族の側に立って、あるいは中立の 立場で間をつなぐようなことを任ずるシステムが少しずつ成熟してきている時期にある と思うのです。  例えば二川参考人がそういう方を介して議論の中身を一字一句間違いなくということ は無理にしても、かなり詳しくご報告をお受けになるとしたら、そういう参加の仕方に ついてはどうお考えでしょうか。 ○二川参考人  ご質問の内容が、生々しいところが出てくるので、その辺も聞きたいということでよ ろしいのですか。 ○辻本委員  それと逆にそこにご遺族がいることで、医療側も十分な議論がしにくい状況という雰 囲気も生まれることもあるだろうと考えてお尋ねしております。 ○二川参考人  すべての目標は真実を究明することですから、遺族が参加したいというのであれば 生々しい議論だって参加しなければいけないと思うし、遺族がその会議に在・不在であ っても医師は言葉尻や論調、空気のようなものを、事故ですので、変えてはいけないと 思います。 ○辻本委員  はい、ありがとうございました。 ○前田座長  よろしいでしょうか。ほかにご質問、ご意見は、もしよろしければ、また戻ってご議 論いただくこともあろうかと思いますが、小松参考人にご意見を聞かせていただきたい と思いますので、よろしくお願いいたします。 ○小松参考人  私は少し総論的なことをお話しようと思います。具体論についてはかなり稲垣参考人 に近いような考えを持っておりますが、総論的なことをお話いたします。少し部分的に なりますが1頁です。患者家族は現代医学は万能であると思っている方が多いです。一 部の方は人間が死すべき存在であることをなかなか理解されていらっしゃらない。この 考え方の齟齬が医事紛争の最大の原因だと思っております。  一方で、日本では1980年代の半ばから世界に類を見ない医療費抑制政策が採られてき ており、2004年には医療費の対GDP比が先進国7カ国では最低になりました。特に入院 診療に費用がかけられていません。これを医療提供者の献身的な労働で補ってきました が、齟齬が大きくなる中で、医療提供者は不当に攻撃されているという感覚を持ち始め ています。このために勤労意欲を失って、病院から離れ始めている。そして医療の脆弱 な部分から崩壊が始まったと私は認識しています。  第三者の専門家による医療事故調査がなぜ必要かということですが、入院診療では堺 先生の研究では6.8%で、大体10%弱世界中で有害事象が発生しています。この中には 医療過誤が当然含まれています。過去には医療が無謬であるという前提があって、医療 過誤に対応する制度が医療に組み入こまれておりませんでした。ですから、稲垣参考人 がおっしゃられた隠蔽して謝らないと非難されても仕方ないような状況が制度としてそ うなっていたというところがあります。  一方で裁判による医事紛争処理には多くの問題があります。患者側も医療側もこれは 納得していないというのが現状だと思います。これを双方納得させて、国民の社会制度 への信頼感を取り戻すことが、いまの医療崩壊を食い止めるのに何よりも重要かと思い ます。  3頁です。いろいろなことが書いてあるのですが、リアリズムだけを強調します。医 師、医師の団体、学会、患者・患者家族いずれも自分の利害に忠実だろうと思うのです。 私は多少ギスギスするところがあるかもしれないと思うのですが、チェック・アンド・ バランスを意識的に組み合わせるという、かなり突き離したやり方を意識してやる必要 があると思っています。  次は少しややこしい話ですが、規範的予期類型と認知的予期類型の齟齬について申し 上げます。2005年9月に「日本におけるドイツ年記念・法学集会」があり、ドイツのグ ンター・トイブナー氏という方が基調講演をされました。現在世界社会では規範的予期 類型=政治、道徳、法よりも、認知的予期類型=経済、学術、テクノロジー、いわゆる 専門分野が主役を演ずるようになり、世界社会の法はそれぞれの社会分野ごとに形成さ れ、極端な分立化に至っている。それぞれの分野で正しさが決められていると思います。 トイブナー氏は国と国との間の利害や政策をめぐる衝突よりも、世界社会では分野ごと の部分社会間の合理性の衝突が重要になってきたと言っていました。分野ごとの正しさ の衝突ということになると、法はとうていこれらの矛盾を解消できない。互いの規範を 尊重して、自律的部分社会同士の相互観察で共存を図るしかないとしました。具体例と してブラジルでの特許を無視したエイズ治療薬の製造販売について言及しています。こ の問題では経済と保健の合理性が衝突して、結果として保健の合理性が優先されました。  国内に目を向けますと、原則的な対象として国内の個人を想定した一世紀前の古い刑 法が、国際的に正当性が形成され、しかもそれが日々更新されている医療レジーム、航 空レジーム、産業レジームなどと対立して、ときに破壊的な影響を与えているように私 には見えます。  法は規範の源泉ではなくて、規範は人間の営みから歴史的に生じる。トイブナー氏は 「法は対話の形式だ」としています。規範的予期類型と認知的予期類型の齟齬は昔から あって、「それでも地球は動く」と言ったガリレオに対する宗教裁判なども規範的予期類 型と認知的予期類型の齟齬です。村上淳一先生の今日お渡しした文章中に入っています が、トイブナー氏の講演に対するコメントの中でルーマンの言葉を引用しています。「国 家もまた特殊的組織として普遍主義的にふるまう要請に服する。国家が機能分化と特殊 的普遍主義の論理に従わないときは、世界社会のアドレスとしての資格を自ら減少させ ることになる」と言っています。  刑法35条は法令または正当な業務による行為は罰しないとしています。医療ではヒュ ーマンエラーは避けられません。事故につながるかどうかはシステムの問題が大きいと いうことです。専門的業務の制御のルールを司法の言語で規定することは安全を向上さ せません。相応の言語論理体系を持つ専門家による制御が必要だと私は思っております。  医療事故調査についての基本方針ですが、私は調査機関を作るとすれば、紛争解決を 主たる目的にすべきだと思っております。それは科学的な調査と評価を行い、公平な被 害者救済を行う。安全対策については個々の事件から個別に毎回やっていたのでは医療 従事者のやれることには限界があって無理です。全体のバランスがあります。対応策に は強弱があるべきで、現場の限界を前提にやらないといけない。これに関しては医療事 故防止センターがすでに発足していて全体的な作業をやっているので、将来に向かって のことはそちらでやるのがよろしいかと思います。 具体的な話にいきます。まず組織上の問題です。いまはモデル事業からの引き継ぎで、 学会が主体になろうとしていますが、学会から出てくる医師は少し問題がある。私は病 院団体がやるべきだと思っています。今日資料を出せなかったのですが、実は泌尿器学 会の理事の選挙がありました。各地域でやるのですが、当選者と次点の間に大きな票の 差があるのです。これは明らかに談合でやっているからです。もう1つは評議員が2列 に並んでいるのですが、大学の教授が並んで、その人の指名する人が並んでいるのです。 どうしても、大学の利害に忠実になります。先ほどのチェック・アンド・バランスから いけば、学会にまかせてしまうことには少し問題があります。  調査のきっかけは先ほど稲垣参考人がおっしゃられたように、患者からの要請を絶対 に受けるべきだと私は思います。  6頁の下のほうですが、事実だけか法的評価を含むのかということですが、何らかの 形で科学的言語を持つ新たな評価方式を創設しなければならないと思います。司法は医 療と全く異なる言語論理体系を持ちます。このために評価が科学的なものになりにくく、 判断の振れ幅が大きい。過去の裁判の判断をリセットする必要があります。裁判の過程 を短縮化して過去の法的判断を大量コピーするようなタイプADRは、医療崩壊をさらに 進めることになろうかと思います。評価部分については無過失補償を前提とした考え方 の表現方法になろうかと思います。  7頁、紛争解決です。紛争解決とはどのようなことか。医事紛争の解決は正確で科学 的な調査と偏りのない評価を行って、それを患者側に十分に説明して納得を得ること。 一定の条件を満たすものについて金銭で紛争を終了させることを基本とします。患者側 の納得が得られることを目指します。これは非常に重要なことだと思いますが、これは 人間の性質上、不調に終わる場合もあります。そうした場合には判断が科学的合理性に 則っていること、社会が解決を正当と受け取ることが重要だと思います。患者側の納得 を紛争解決の必須条件にすると、病院側の一方的な譲歩を促しかねず、さらなる医療崩 壊の原因になりかねないと思います。  不法行為法による解決。民法709条を適用されたままで公平な賠償を実施することに なると、それも過去の判例に基づいて全部賠償を出していくと、かなり大変なことにな ろうかと思います。現在の診療報酬体系だとこれは病院がたぶんつぶれます。保険診療 については診療契約を明確にして、無過失補償制度を組み込むようにすべきだと思いま す。無過失補償では「避けられた傷害」を補償の対象とします。「避けられた傷害」につ いては別途定義を明確にする。スウェーデンの制度では実質的にはいまの民事裁判での 賠償の対象と大体同様なものが補償の対象となっています。それに付け加わるものも当 然あります。  8頁、刑事責任です。過失犯罪を医療に適用するのかということです。業務上過失致 死傷は、私は医療に適用すべきではないと思います。これはいろいろな専門分野のあら ゆるところがそうだと思っていますので、医療だけの問題ではないと思います。これは 別に議論が必要だと思っています。いずれにしても業務上過失致死傷を適用とするとす れば、かなり明確な定義がないと医師がやっていけないところがあろうかと思います。 故意犯罪については故意犯罪が明確になった時点で調査を中止して検察に引き継ぐこと がよろしいかと思っています。  行政処分についてはこの調査を組み入れるかどうかは非常に問題がある。ですけれど も、私があえて議論を広げるために調査機関での資料を使ったらいいのではないかとい う意見を申し上げます。これはあえてです。いずれにしてもシステムエラーに関しては 個人への病院に対する指導改善命令処分が重要だと思います。個人に関してはシステム エラーについては処分をすべきではなくて、意図的怠業、マニュアル違反、責務に対応 した能力の欠如、過去の事故履歴などを判断材料にする。同時にマニュアルや規則が実 際に実施可能かどうか、十分な訓練が行われていたかどうかということ、医療資源、要 するにお金が十分に投下されていたかどうかということを考えないといけない。常にリ スクを負っているという医療の性質上、個人の処分は謙抑的でないといけないと思いま す。処分制度を作ると、処分者側が責任逃れのために処分を乱発する可能性がある。こ れに対する抑止のシステムを作らないと暴走する可能性があると思います。先ほどのチ ェック・アンド・バランスはこれにも絶対に必要であると思います。 ○前田座長  いままでのご研究といいますか、ご発表になったことを知りながら、10分ということ でお願いしてご迷惑をかけて申し訳なかったと思います。非常に根源的な問題とシステ ム全体、医療費の問題も含めてのご指摘もありましたが、いかがでしょうか。何かご質 問はおありでしょうか。 ○堺委員  どうもご意見ありがとうございました。ただいまのご意見とパブリックコメントに小 松参考人がお書きになられたご意見と両方合わせてお尋ねします。本日のご意見でも小 手先の解決ではなくて根本的な改革案を考えるべきであると、誠に私もそのとおりだと 思います。パブリックコメントの中でも思想、法体系、社会のあり方について日本の社 会全体での理解と合意を形成すべきであるというご指摘があり、これもそのとおりだと 思います。  しかし一方で今回の医療事故の死因究明と機構を作ろうということも、これまた社会 のかなりの部分からそういうご意見が出ていると思います。そこでお尋ねいたしますが、 日本の場合、確かに一度決めてしまいますとなかなか変わりにくい。特に法律の場合は そういうことがあり、そうであるとすると、すべての議論を尽くしてからでないと、制 度を設計すべきでないという議論も理屈としては成り立つと思います。  ただ、可能ならば私の意見を1つだけ挟ませていただきますと、今回の我々が考えよ うとしている制度は、できるだけ柔軟に変更可能なものにしてほしいと思っています。 小松参考人は、すべての議論を尽くしてから制度設計をすべきだとお考えでしょうか。 それとも制度設計をしながら議論もして、制度は途中で柔軟に変えられるようなものが 望ましいとお考えでしょうか。あるいはそれ以外のお考えがおありでしょうか。 ○小松参考人  議論は尽くさないといけないと思いますが、たぶん、あらゆるものについて制度設計 をやりながら議論していくのであろうと思います。特に先生が言われたフレキシブルに 後で見直せるようにしておくというのは、ものすごく重要なことだと思います。これは いったん、始まったときに諸刃の剣になる可能性がある。これができたことによって、 さらに物事を潰してしまう可能性が十分にあると私は思っています。ですから、フレキ シブルにやるようなものがもしうまく組み込めれば、それに越したことはないと思いま す。 ○辻本委員  時間切れで、たぶんそこのところはお話を端折られたのかなと思うのですが、行政処 分というお話について少しお聞かせいただきたいと思います。先ほどの二川さんのお話 の中にも、担当医が「上司がやったことに対しては言えなかった」という、システム以 前の医療現場のヒエラルキーの問題ということがあり、これはよくよく小松さんがご存 じの現場だと思います。そのありようについてどうお考えなのか、ご意見を聞かせてく ださい。 ○小松参考人  それは、たぶん個別の病院の問題だと思います。我々の所では手術室安全マニュアル というのを作り、内部告発を制度化しました。内部告発というのは当然あって、これは なかなか押さえられないです。病院もえらい大変なことになるし、それで我々の所では 内部告発制度を病院のシステムの中に作っています。手術室で起きたものについては、 報告者は名前を書かずに項目をチェックするだけです。文章を全然書かなくていい。そ れでポストに放り込めば事故として報告しないといけないものかどうかというのが、そ れでわかるようなシステムができているのです。医療安全管理者が行ってそれを調べ、 それは院内の調査委員会に入る。院内の調査委員会では元裁判官がメンバーに加わって 議論しています。密告制度を組み込むことで、意見を汲み上げるようなシステムにして います。 ○辻本委員  ありがとうございました。 ○前田座長  刑事の専門なので教えていただきたいのですが、非常に重要なご指摘で規範的な予期 類型から認知的な予期類型に移っていく。それは私もある意味で必然というか、医療の 世界のことを法律家の側の言葉だけで、なたで切るようなことをしてはいけないという のはよくわかるのですが、逆に国民生活の中で規範的な法体制みたいなものがあって、 それが国民の生活を縛って安心も与えている。ですからこの会も、できる限りそういう 裁判みたいなものの中に、専門的な観点から見て納得いくようなものを入れていくとい うか、近づけていくための努力をしようと思っているわけですね。ですから、先生のお 立場からはそう見えるのだと思いますが、刑事がそんなにずかずかと医療の世界に土足 で踏み込んでいるかというところなのです。 ○小松参考人  いまから2、3年前はそうですね。 ○前田座長  その評価は個人的にお話したほうがいいかもしれません。1つだけここでお伺いした いのは、先生でも重大な事件は刑事でやらなければいけない。それは故意犯であるとい うことなのですが、私たち刑事の人間から見ると、故意と過失の限界というのはそんな にクリアカットでないのと、そこがそんなにスポンと線が引けるような絶対的な差であ るか。やはりいろいろなものの総合として、おそらく重大な刑事でやらなければいけな いような重大なものと、そうでないものがあって、その線の引き方がいちばん大事にな ってくると思います。  ただ、故意犯と過失犯は全く質的に違うということで、最近の危険運転致死罪なども そうなのですが、あれは故意でもあれば過失でもあるようなものをものすごく重くした りするわけです。先生が故意犯かどうかで明確に分けたほうがいいとおっしゃるのは、 伝統的なものとか英米の議論を踏まえてということなのですか。 ○小松参考人  私は法律の議論はそんなに詳しいわけではないのですが、少なくともアメリカには業 務上過失致死傷というのはないそうですね。 ○前田座長  そこもいろいろな議論があるのです。 ○小松参考人  いま、私が申し上げたのは原則の話で、やはり業務上過失致死傷というのを重くやろ うとすると、どうしても暴走がある。いまの検察の現状の過失致死傷に対する判断の仕 方はこんなに揺れ動いているのです。それをずっと医療に携わっている人間から見ると、 これはとてもじゃないけどやっていけない。検察も物事を隠して誰かを犯罪人にしよう としたりする。あれはどちらかというと故意犯ですよね。あれも業務上の問題です。 ○前田座長  長くなってはいけませんが、その振れ幅を狭くするために、この調査委員会みたいな ものが是非必要だというのは、おそらくコンセンサスになったと思うのです。それを意 図的に広くとか、幅を持たせておいたほうがいいという発想は絶対にないと思います。 喋りすぎて申し訳なかったのですが、ほかの委員の方で何かご質問、ご意見はございま せんか。 ○山本委員  7頁の先生が書かれているところですが、紛争解決のお話で、この紛争解決を現行の 民事裁判に頼ったまま、調査機関が調査結果を患者側に示すことになると、裁判が一気 に数十倍に増加する可能性があるというお話は、非常に興味深い叙述に思いました。先 生の現状のご認識としては、本来であれば患者が損害賠償請求を起こすことは考えられ るけれども、事故の立証が非常に難しいために訴訟が起こされていないようなものが非 常に多数あると、そういうご認識であるという理解でよろしいでしょうか。 ○小松参考人  過失があるかないかは別にして、少なくとも、ある種の裁判官の判断で病院側が敗訴 になるのと同様の事例というのはあると思います。また、いまは病院の中で裁判になら ないで処理されているのがかなり多いのですが、それも出てくることになると思います。 ○山本委員  わかりました。 ○前田座長  ほかに委員の方々からございますか。よろしければ、ありがとうございました。最後 に富永参考人に意見表明というかご説明いただいて、また質疑をしたいと思います。よ ろしくお願いします。 ○富永参考人  呉医療センターから参りました富永です。私は提言というより現実にやっていること のご説明をさせていただきます。私どもの病院ではこの図のような医療安全管理体制を 構築しています。医療事故や苦情が発生した場合は病院としての対応方針を早期に決定 し、その方針に基づいて医療安全管理室専任リスクマネジャーが中心となり、現場をサ ポートして初期対応を適切に行うように努力しています。  特に平成12年11月から開始したヒヤリ・ハット会議は、当時は他の病院では見られ ないシステムであったと思います。この会議の目的は、院内で発生した思いがけない出 来事を幹部職員ができるだけ早く共有し、事故の拡大や苦情や訴訟への発展を防ぐこと にあります。現在、副院長、事務部長、統括診療部長、看護部長、薬剤課長、専任リス クマネジャーをメンバーとして、毎日13時から約30分開催しています。対応に急を要 する場合は緊急で開催することもあります。  この会議は、発生した出来事に対する病院の対応方針を即座に決定し、現場に発信し ていくこともあれば、医療安全管理委員会等のより多くのメンバーが集う大規模な会議 に、事例の検証や意思決定を委ねることを決めたりします。つまり発生した事故や苦情 に対して実施する初期対応の方向性を決め、発信していくことが、この会議の重要な役 割になっています。  またこの会議は、組織横断的な活動をする専任リスクマネジャーに権威を与え、職員 も専任リスクマネジャーに相談したことは、ヒヤリ・ハット会議で検討されると認知す るようになりました。国立病院機構の専任リスクマネジャーは、ヒヤリ・ハット体験報 告の分析・評価、現場へのフィードバックなど、日々の医療安全のための活動を行うこ とだけではなく、苦情や事故発生時の対応も期待されます。  私どもの病院では、ヒヤリ・ハット会議で決めた対応方針に基づいて現場に指示を与 え、場合によっては患者・家族への対応を行います。また検証会等で検討した内容を、 具体的行動レベルの手順書に作成することも重要な役割になっています。  医療安全管理委員会は、管理診療会議のメンバーで月1回の定例会を行い、ヒヤリ・ ハット体験報告の分析結果や、事故防止のために取り組むべき内容について検討してい ます。医療事故発生時には事案検討会として、医療安全管理委員会の構成員の中から副 院長、統括診療部長、内科系診療部長、外科系診療部長、薬剤課長、看護部長、副看護 部長、事務部長、企画課長、業務班長、医事専門職、専任リスクマネジャーと、当事者 を含む当該事象に関係する職員で行います。  ヒヤリ・ハット会議の検証会開催決定を受けて、専任リスクマネジャーが日程調整と 資料作成を行い、重大事項の場合には24時間以内に開催しています。検証会は副院長の 進行で詳細な事実確認と過失の判断及び病院の対応方針、対応者の決定、さらに再発防 止に向けて病院システムの改善策を策定します。余談ですが、毎日、幹部職員が医療安 全について話合い、指示を出して行動する体制は、どのようなことでも病院全体として 真剣に取り組む姿勢につながっています。  次に持参薬の投薬指示が漏れるミスがあり、患者に障害が残った事例から具体的な動 きを述べさせていただきます。患者さんはご自宅で歩行器を用いて歩行中に転倒され、 大腿骨を骨折し緊急入院をされました。その際、30年近く服用されていた抗痙攣薬を1 回分持参され看護師に渡しています。看護師から報告を受けた主治医は、かかりつけ医 に内容の確認をしてから服薬開始の指示をしようと考えましたが、そのまま失念してし まい、さらに看護師も再確認しなかったために服薬が開始されませんでした。ご家族は 点滴の中に薬が入っているのだろうと考えました。患者さんは3週間後にリハビリ施設 に転院されました。転院の翌日に突然大きな痙攣発作が起こったため呼吸が止まり、人 工呼吸を受けながら再入院されました。入院後も重積発作を繰り返し、発作のコントロ ールに時間がかかりました。  この再入院されてから10日後に病棟看護師長から、家族の方が怒っておられ説明に苦 慮していると報告を受けました。報告を受けた翌日の午後に、ご家族の面会時間に合わ せて病室に出向きました。自己紹介して訪問理由を伝えました。面談で40分程度でした が、お気持を聞くことができました。そしてそのことが事実であればご立腹はよくわか るので、調査をしてご報告すると約束をしました。  カルテや主治医などの関係者から事実確認を行い、ヒヤリ・ハット会議で報告し検討 しました。直ちに医療安全管理委員会で事例を検証し、対応方針を決めるということを 決定しました。医療安全管理委員会では、本事例の場合は投薬を失念したという過失が あり、持参薬が投薬されなかったことと、痙攣重積発作との間には因果関係があると判 断しました。病状回復に向け全力を尽くすこと。病院のシステムに問題があり、このよ うな事態を招いたこと、ご心配をかけて申し訳ないことをお伝えする。最終的に後遺症 が残ったことは病院の責任であり、謝罪を行い賠償すべく示談交渉に入ることにしまし た。  ご家族へは、数回にわたっての委員会で決めた病院の対応と内容を、統括診療部長と 専任リスクマネジャーがお伝えをしました。そしてご家族の涙の訴えを聞き続け、ご要 望にどう応えるかを考えました。最終的には当事者を同席させ院長が謝罪した後、当事 者が病室に見舞いに行くことを許していただきました。事務部長は、賠償のための事務 手続は病状が安定してから行うことを約束しました。また今回の事態を引き起こしたシ ステム上の問題と、再発防止策のために改善したことをお伝えしました。退院はメディ カル・ソーシャルワーカーとの連携で話を進めました。  ご家族の反応については、当時は病院側のミスで持参薬が投与されなかったことを知 り大変立腹されていました。しかし、病棟看護師長から報告を受けてからご家族からお 話を聞き、病院として事態の検証を行い謝罪し賠償を行うという、対応方針に沿って速 やかに対応を開始することができました。また決定した病院の対応方針は、初めにお話 をお聞きした専任リスクマネジャーが中心となって家族に伝え、示談の事務手続に入る ことを納得されるまでフォローを行うことができましたので、病院の一貫した姿勢を表 わすことができたと考えています。  示談成立時には、「病状が悪化したときの腹立たしさを聞いてもらい、自分たちの思い を病院が受け止めてくれたことがとてもありがたかった。混乱した時期にも病院からの 支援があったことがとても心強かった」と、ご家族からの発言をいただいています。  このような事例が、なぜ紛争化しなかったかを考えると、手前みそではありますが、 ご家族の怒りを専任リスクマネジャーが早期にキャッチし、ご家族のお気持に耳を傾け るとともに、事実関係を整理し、病院としての対応方針を決める場に持ち込むことがで きたこと。そして病院側のミスを真摯に謝罪し、賠償する方針を策定し対応に移すこと ができたこと。これらの対応に関して、患者の気持を受け止めながら一貫して行ったこ とによって、紛争化を防止することができたのではないかと考えています。次の事例は ご拝読いただくことで省かせていただきます。  最後にまとめとして、医療の現場では治療の経過において過失がなくても、患者側が 望まない結果になることがあります。また、いかに事故を未然に防止すべく取組を進め ても事故は発生することがあります。こうした場合に初期対応を適切に行うことができ なければ誤解が生じ、その後の対応に多くの時間を要することになると考えます。この ような事態にならないために、どんな場面においても不信感を芽生えさせない、事実を ありのままに伝えることができなければならないと考えています。また過失がある場合、 あるいは期待に添えなかったことを謝罪する場合には、真摯な態度が伝わらなければ謝 罪したことにはならないと思います。さらには再発防止策を講じることを約束し、進捗 状態を定期的に伝えることも必要になるかと思います。  私たちは、医学的に過失がなくても、話し方や接し方で医療不信を招くことをしばし ば経験します。最初のボタンの掛け違いが大きな誤解を招き、医療不信に陥らせるとす れば、ボタンを掛け違えたことが判明した時点で掛け直せばよいと考えます。私どもの 病院では、苦情や事故の対応に困り果てるまで当事者が対応するのではなく、早期に病 院としての組織的な対応を行うことで、無用な紛争の発生を防ぐことができると信じて います。ご清聴ありがとうございました。 ○前田座長  ありがとうございました。真相解明ということ以上にある意味で非常に重要なことだ と思います。何かご質問、ご意見をどうぞ。 ○樋口委員  ご説明ありがとうございました。ちょっと私、仮定の問題を聞こうとしているので、 それは困ると言われるかもしれませんが、3頁目で事例の紹介があって、いまお話があ ったように持参薬の投薬指示が漏れるミスがあり、患者に障害が残った事例についてこ ういう対処をしましたと。富永さんの病院ではきちんとした対処をしておられると感銘 を受けました。  この事例で、こういう抗痙攣薬を飲み続けないといろいろな障害が起きるとき、どの 程度のものが起こるのか私は医師でないのでわかりませんが、仮に障害が残ったのでは なくて重大な発作で亡くなってしまったという事例を仮に考えます。その場合にどうだ ろうかというと、まず基本的に私の仮定は、富永さんの病院ではきちっとした対応をし て、この障害が残った事例と同じような形で対応して、遺族との関係をきちんとされて ということで終わる可能性が私は大きいと思うのですが、そこで2つ質問です。しかし これが亡くなられた事例だと、国立病院でもあるし、当然、いまの状態では刑事司法へ つなぐ、警察につなぐことになるのではないかと思います。そうなった場合にこの病院 側の対応はどうなるのだろうかというのが第1問です。  2つめは、警察ではなくて、ここではちゃんと医療安全管理委員会というのを立ち上 げて院内できちんとした対応をされていますね。しかし、それ以外に第三者機関なるも のが将来作られることがあったときに、そういう必要があるのか。あるいはそういうも のを立ち上げたときに、それには何を期待されるのかを、医療安全管理者の立場から何 かコメントがあればお聞きしたいと思います。どちらも仮定の質問で恐縮です。 ○富永参考人  ミスで死亡事故になったら警察に届けます。警察の判断を仰ぐということはやってい ます。今までも処置直後に急変をされたりした事例については届けています。家族への 対応については、届けたから、届けないからといって変わるものではありません。説明 しても患者ご家族の方に納得いただけないこともありますが、それでも繰り返し説明し ます。話が煮詰まるようであれば、第三者機関で調査していただくことがあっても、私 はいいなと思います。  余談ですが、検証委員会の中で何度も繰り返しやっていますと、自分たちは悪くない のだから訴えていただこうよというような発言もあります。そうしないために一生懸命 頑張り続けていますけれども、第三者機関の方にきっちり証明していただければ、患者 さんも病院も安心するということはあるかもしれません。  小松先生が言われたように、最初からすべての事例が第三者機関に届くのはあまり望 ましくないかなと思います。自分たちの病院で処理できることはいっぱいあるような気 がします。もちろん十分な説明があって医療を行うわけですが、そのときに、ご納得い ただかないまま医療を進めているという事実もあるのではないかと思いますので、そう いったことは病院の中で解決できる感じがします。答えになりましたでしょうか。 ○樋口委員  2つあったうちの第1点について、もう少しということですが、亡くなられた場合に は警察に届ける。その後ですが、警察に届けた後の刑事司法が関わってくることについ て富永さんの病院では、その影響としてプラスの影響もないしマイナスの影響もないと お考えなのでしょうか。何の影響もない、我々は毅然としてこれをちゃんとやっている ので、プラスの影響もないしマイナスの影響もないということでしょうか。 ○富永参考人  警察の方がドカッとお出でになったらすごいことになります。亡くなられた後、24時 間以内に届けるという話になりますが、それだと鑑識の方から刑事の方からどっさりや って来られて、患者様のご家族はそのまま待機をしなければいけないし、治療に関わっ た者は次々に調査を受けますので、そういった意味では停滞します。結果はわかりませ んが、その作業中はものすごくおおごとになります。 ○前田座長  よろしいですか。ほかの委員の方、どうぞ。 ○堺委員  ご説明ありがとうございました。富永参考人のご勤務の病院で重大な医療事故という のは、幸いこれまで起こっていなかったのかもしれませんが、重大な医療事故が起こっ たときに当事者の精神的なケアをどのようにするか、体制についてお尋ねしたいと思い ます。  これは、私自身の痛烈な反省に基づいてお尋ねしているのですが、以前勤務していた 病院である事故が起こったときに、私は当事者の医療スタッフの精神的なケアはその直 後から始めたのですが、ご家族の精神的ケアを同時に同じように行うべきことに、その 時の私は思い至らなかったのです。今でも痛烈に反省しています。もちろんご家族によ くご説明し、その後もいろいろご報告することは必要なのですが、事故の直後こそ精神 的なケアが必要だなというふうに思っていて、富永先生の病院ではどのような体制を用 意していらっしゃるでしょうか。 ○富永参考人  当事者へのケアというのがいちばん重要になります。 ○堺委員  私は当事者と、ご家族の両方に必要だなと思っています。 ○富永参考人  ご家族に関しては、私と病棟師長が主になります。当事者については幹部職員が関わ って、精神科のドクターも心理療法士もかかわります。ただ、ドクターが当事者になっ た場合は治療チームに入りますので、なかなか気の毒だなとは思っています。看護師の 場合は現場から離すことができます。 ○前田座長   よろしいですか。ほかに何かご意見はございますか。 ○楠本委員  日々のご活躍がよくわかるお話を伺って大変励まされました。ありがとうございまし た。1点お伺いしたいのですが、リスクマネジャーの役割としてパブリック・コメント に、かなりメディエイターというか調停機能をする人がいるのではないかということが 出ていて、リスクマネジャーの役割として、いまヒヤリ・ハットに関してのお話はよく わかったのですが、事故が起こったときに調停というか、本当に軋轢があるところにど のくらい関わっていくのか。そしていまのリスクマネジャーの養成や教育の中で足りな いものは何か。もしリスクマネジャーとして調停という機能を担っていくとしたら何が 必要か、そういうところを教えていただけたらありがたいと思います。 ○富永参考人  リスクマネジャーがすべてするのは間違いだと思っています。事故が発生した時に対 応する者と、日々のヒアリ・ハットの対応をする者とは別にする必要があると思ってい ます。メディエイターの方がいれば、事故発生後はその方に対応していただきたいと考 えています。いまのリスクマネジャーがなんでもするという考え方のほうがおかしいと 思います。国立病院機構は両方の対応を期待されますので、事故が発生すると一切日々 の活動はストップします。データもずっと溜まってきます。事故発生時の方に重きを置 きますから、予防活動するはずの者が、それができないというのはおかしいと思います。 ○前田座長  よろしいですか。山口委員、どうぞ。 ○山口委員  先ほどの樋口委員の2つめの質問の続きみたいなことですが、富永さんのお話は、院 内での事故調査委員会を非常に有効に活用されている病院でのお話だと思います。そう いう所で第三者機関ができたときに届けなければいけない。それで院内での対応と第三 者機関の判断が一致した場合は、病院として非常にいい効果なのだろうと思いますが、 その判断が一致しなかった場合には、どのような影響が考えられますか。 ○富永参考人  一致しないということは。 ○山口委員  例えばお挙げになっている事例の2で、肺血栓塞栓症を起こしたときの対応で、例え ばこの抗血栓薬が行っていなかったことが問題ではないかという指摘を受けて、院内で 十分対応したという判断と違う判断が出てきた場合に、そういう第三者機関の対応に対 してどういう反応になるのでしょうか。 ○富永参考人  2の事例につきましては、非常にリスクの高い患者さんに抗血栓薬の処置をしていな かったことについて、いまの時代ではもういけないと思いますし、検証会の中でもその ことは出ていました。リスク判定がどうだったというふうに出ていましたが、第三者機 関の先生方が指摘するような内容のことについては、院内でもちゃんと指摘するのでは ないかと思います。だから院内で指摘できないという未熟な組織だったら、なおさら第 三者機関が要りますし、成熟した組織であれば第三者機関と白黒が違うような意見は出 てこないような気がします。だから、そういう意味では現場をもう少し育てないと、別 の葛藤がまた生まれるかもしれません。 ○加藤委員  教訓が具体化してくるときに、それを共有化するという点でお尋ねしたいのですが、 こうした具体的な対応をしてある程度改善点も出てきたと。手順を新たに作ったり、そ ういうことについての対外的な公表については、どういうふうになっているのでしょう か。1つの医療機関で起きたことは他でも起きるという意味で、こういう形で起きまし たということは、インターネット上に公表していたりするのでしょうか。 ○富永参考人  今はしていません。 ○加藤委員  それはどうしてですか。 ○富永参考人  ホームページを立ち上げてというところまで手が回らないのと、リスクマネジャーの 仲間の内では公表しています。国立病院機構のネットワークの中では公表していますが、 それ以外に公表する手段をまだ考えていません。 ○加藤委員  今後は、その点は具体化しようというお気持はあるわけですか。 ○富永参考人  はい。 ○加藤委員  わかりました。 ○前田座長  よろしいでしょうか。だいぶ時間も過ぎてしまっているのですが、せっかく参考人の 方々に来ていただきましたから、言い落としたとか、是非このことだけはもう1回繰り 返しておきたいとか何かございましたら、遠慮なくご発言いただければと思います。 ○小松参考人  調査結果が患者に行くと数十倍と言いましたが、数十倍にはならないかもしれません。 だけどどういうふうになるかが、出し方と出す文脈によって予想がつかないというとこ ろがあります。ですからかなりの覚悟をして準備しておかないと、裁判所のほうにもも のすごい負担がかかる可能性を秘めているということです。 ○前田座長  山本委員の関係のですね。ほかになければ委員の中でご発言のない方、いかがですか。 無理に全員がということはないのですが、全体に関して是非この点だけは指摘しておき たいということがございましたら、お願いしたいと思います。よろしいですか。それで は4人の参考人の方、ありがとうございました。非常に貴重なご意見を頂戴できたと思 います。これを活かして審議を進めてまいりたいと思います。  議事の3に移らせていただきます。診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業に ついて、資料3をご覧ください。これについて事務局からご説明いただければと思いま す。 ○医療安全推進室長  事務局から資料3に基づき報告します。資料3の表紙をご覧ください。1から6につ いてはモデル事業の標準的な流れ等、モデル事業の一般的な手続に関する説明を入れて います。7から11に関しては実際にどのように調査分析が行われているか、評価結果報 告書はどういうものが出されているかの資料を入れています。12から14については主 に事務局の体制についての資料です。15はモデル事業を1年間やってみて、モデル事業 の今後の方向性についてということで、言ってみれば反省と、今後どうしていったらい いのかについてモデル事業のほうでまとめています。ここに出している資料は、いずれ もモデル事業の実施主体である日本内科学会のホームページにも掲載しているものです。  簡単に中身を説明させていただきます。2頁はモデル事業の目的と趣旨です。医療の 質と安全性を高めていくためには、診療行為に関連した死亡について、臨床面及び法医 学・病理学の両面からの解剖所見に基づいた正確な死因の究明と、診療内容に関する専 門的な調査分析に基づき、診療上の問題点と死亡との因果関係とともに、同様の事例の 再発を防止するための方策が専門的・学際的に検討され、広く改善が図られていくこと が肝要である。  そこで、医療機関から診療行為に関連した死亡について調査依頼を受け付け、臨床医、 法医及び病理医を動員した解剖を実施し、更に臨床医による事案調査も実施し、専門的、 学際的なメンバーで、死因究明及び再発防止策を総合的に検討するモデル事業を行うも のであるということで、平成17年の9月から日本内科学会のほうでやっていただいてい るものです。  厚労省としても、このモデル事業は、今後の制度化について議論していく際に必要な 課題の整理や、あるいは議論の際に必要な基礎資料を得るという意味で非常に重要なも のであると考えています。  1頁に戻っていただき、モデル事業の一般的な流れですが、(1)の医療機関からモデル 事業の説明を行い、患者さんのご遺族から同意書をいただきます。医療機関からモデル 事業に調査分析を依頼し、(3)で医療機関に対する聞き取り調査や診療録の調査等が行わ れます。(4)で同時に解剖が行われ、死亡検案書が遺族と医療機関に渡され暫定的な結果 について説明が行われます。(5)で調査結果と解剖結果をもとに地域評価委員会で評価が 行われ、作成された評価結果報告書の内容について、医療機関及びご遺族の両方に説明 がなされます。(6)で評価結果報告書を基に今後の再発防止策等について検討され、その 実績が公表されるといった仕組みになっています。  標準的な流れはこういうものですが、この調査にあたっては各依頼医療機関から、院 内での事故調査をしていただき、それを提出していただくというものもあります。これ については17頁にありますのでご覧ください。院内調査委員会の報告書のひな形といっ たもので、依頼医療機関の調査委員会は院内調査報告書の作成にあたっては、臨床経過 について検討し、以下の内容を参考に作成するということで、3の調査方法では、どの ように調査したかについて具体的に記載する。4の事例概要では、どのような事例であ ったのかについて事案発生までの経過の概要を経時的に記載する。5の臨床経過一覧表 では、調査によって得られたデータを整理し、事案の発生前後の臨床経過を経時的かつ 詳細に記載していただきます。具体的には19頁に臨床経過一覧表の記入例を示していま す。6の検討結果では、臨床診断の妥当性、手術、処置等診療行為の妥当性、院内体制 との関係を記載します。7として再発防止策、8として「おわりに」といった内容で、院 内の事故調査委員会の報告書を必ず出していただく形になっています。  現在までの受付状況ですが、21頁をご覧ください。5月7日現在の数字ですが、これ までに53例の事例を受け付けています。その下に受付に至らなかったものとして85件 のものがあります。その内訳として遺族の同意が得られなかった、解剖の体制が取れな かった、医療機関からの相談はあったけれども、最終的に依頼はなかったもの、あるい は司法解剖または行政解剖となったもの等があります。  このモデル事業からの最終的な評価結果報告書については、28頁にあります。評価結 果報告書のひな形として、1は評価結果報告書の位置づけ・目的です。当該モデル事業 は診療行為に関連した死亡について、適正な死因究明及び医療の評価結果を提供するこ とで、医療の透明性の確保を図るといったことが書いてあります。2は臨床経過の概要、 3は解剖結果の概要と死因、4は臨床経過に関する医学的評価ということで臨床診断の妥 当性、手術、処置、診療行為の妥当性について、院内体制との関係といったことを記載 することになっています。5は結論、6は再発防止策の提言、7は参考資料で評価委員名 簿等を作成して付けています。  最終的には関係者への説明や、実績報告書への記載に用いる評価結果の概要を添付す ることにしていて、この評価結果の概要は公表していきますから、ご遺族、依頼医療機 関のプライバシーに十分配慮したものを作っています。解剖結果報告書については原則 として写真は除き、この評価結果報告書に添付する形で報告しています。各地域の事務 局の体制については36頁以降にありますが、36頁、37頁、38頁は前回も簡単に説明し ましたので省略します。  39頁を開いていただき、モデル事業の今後の方向性について、モデル事業を1年間や っていただいた段階でリビューをしていただいています。モデル事業は平成17年9月よ り開始して1年経過し、本モデル事業のこれまでの運営状況を踏まえ、有意義なモデル 事業がより円滑に行われるよう、今後の方向性について下記のとおり取りまとめたとい うことです。1が年間受付の事例数について、2が評価に要する時間について、3が患者 遺族及び依頼医療機関からの反応について、4が事業の方向性についてですが、1)は依 頼医療機関の院内調査委員会との関係、2)はこのモデル事業に参加される人員の確保に ついて、3)はより少ない人員体制での試行、4)は調査・評価について、5)は総合調整 医の育成、6)は調整看護師等の研修の充実について、現在の課題をまとめていただいて います。簡単ですが以上です。 ○前田座長  ありがとうございました。この検討会にとっても非常に重要な内容というか、つなが る話ですが、何かいまのご説明に関して質問はございますか。全体の総括としては初期 の目標の予定どおり大体進行して、さらに直していきたいという感じなわけですね。 ○山口委員  中央事務局長をさせていただいていますが、最初スタートしてからここに至るまで約 1年ぐらい、いちばん大きな問題はマンパワーが足りないことでした。いろいろなアレ ンジをしていただく方、あるいは調整看護師の方に実際に現場に行っていただいて、こ のモデル事業の内容を説明していただく作業がなかなか軌道に乗りませんでした。  もうひとつは、どういうふうに進めて、どういうアウトカムをちゃんと出していくか。 ご家族に説明する方法も含めて、そういうことが固まるのに約1年かかりました。いま、 ようやく大体の基本的な方向は固まったかなと考えています。これからまだまだいくつ か問題はあるかと思いますが、ようやく固まったのでこのモデル事業をできるだけ広く 周知していただいて、これに事例を出して頂きたいと思います。  さらに、実際に始めて原因究明というふうに言いますが、死亡原因はほとんどが簡単 にわかります。解剖して死亡原因が初めてわかったということは非常に少数で、多くは 解剖した所見を参考にして死因を確定したというところですが、臨床的に死因は大体推 定ができる。半分ぐらいはむしろ直接の死因よりも臨床経過が非常に問題であって、そ の臨床経過を評価する場合に解剖結果は直接関係がない場合があります。例えば何かの 臨床管理上の問題で心肺停止が起こり、実際に患者さんが亡くなったのは3カ月後で、3 カ月後の解剖結果は、心肺停止が起こったことに関する評価に関してほとんど役には立 たない。そういうシチュエーションが約半分ぐらいありますので、死因究明の今後の方 向としては、解剖所見とともに、そういう臨床評価を標準的な基準に従ってやることも、 1つ大きなテーマとして残っています。  現在、いろいろな学会から評価の先生方に来ていただいていますが、その事例ごとに 違う学会にお願いし、それぞれの専門家をお願いするわけですが、同じ専門医が引き続 いてやっていれば、もちろんラーニングカーブがあるのだろうと思いますけれども、現 在のところはそれぞれ事例ごとに、それぞれの領域にお願いしていますので、そういう 意味で評価の基準が、きっちり定まっているところまでには達していないと思います。  さらに、先に実際に出た報告書が病院あるいはご遺族でどう活用されるか、やり方と して違ったやり方はないか、そういうことも今後の検討課題だと認識しています。 ○樋口委員  私もたまたまモデル事業に少し関与してきた人間なので、少しだけ総論的なことを補 足します。私のできる限りでということですけれども、モデル事業というのは死亡例に 限定しているのです。医療事故の場合は重篤な障害が発生したような場合は対象とせず、 死亡事例に限定し、いまのところは8つぐらいでしたか、地域限定ということで全国で 展開できるわけでもないのですが、モデル事業でもありますから地域を限定していると いうこと。  それと死亡例を対象としているからということもあるのですが、はっきりした証拠を ということなので解剖を前提としています。先ほどの紹介にあったように、遺族の方で 解剖までは望まないという事例はご協力いただけないなど、いろいろな限界はあるので す。しかし、何もなくてこの検討会でも一層議論になると思いますが、中立的第三者機 関というのを立ち上げた後、一体どうなるのだろうかということについて、何も事実的 な証拠というのかエビデンスがなくて議論を進めるのは、いかがなものかということで すので厚生労働省あるいは内科学会等の医学会が中心になって、こういうモデル事業を やってきたわけですから、そこから何かを得て今後の議論の基礎にしたいということで す。  そこで論点というのが3点あって、1つは現行法を前提にしてこのモデル事業をやっ ているので、いちばん入口のところで刑事司法との関わりから、警察のほうへいくべき 事件なのかモデル事業のほうで引き受けるべき事件なのかについて、なかなか難しい問 題があります。これは現行法を前提としているからであって、もし今後、制度改正する ときにはどうあるべきかという議論に直結はしないかもしれないけれども、相当関係の あるような経験をしているということだけはたしかです。この経験をどういう形でここ へつなぐことができるかというのが第1点です。  2つめは、実際にこういうモデル事業をやると、いまマンパワーという山口さんのお 話もありましたが、解剖等に当たる人員も大変です。いきなり事件や事故は起きますか ら急に携帯等で呼び出して、とにかくいきなり来てもらうことになります。地域限定が あるがために病理医の数や法医学者の数などネックはたくさんあって、できる範囲のこ とでやっているのですが、これを始めると人員や費用などのコストがかかるという話に ついての何らかのベース、経験を、いましているということです。  第3点が、そのコストをかけてどういうベネフィットがあるのだろうかという話です。 これはまた2つに分かれて、協力いただいた医療機関と遺族の方々に、こういうモデル 事業で解剖、その他のことをやっていただいたので、よかったという満足度がどのくら いあるかという問題と、社会的に見ても、こういうことをやることによって当事者だけ でなく、いろいろ良い影響があるのだということの社会的満足度みたいなものがありま す。ただ、これは事例数がまだ少なくて、はっきりしたことが言える状況ではないのか もしれませんが、ともかく以上のような3点についてこういう経験をしているというこ とを、今後、何らかの形でここへつないで議論の糧にしていけたらいいと、私も関与者 の一人ですので願っています。 ○前田座長  ほかに、どなたかございますか。よろしいですか。それでは時間の関係で先を急がせ ていただきます。最後の議事ということで加藤委員と鮎澤委員から発言がありました資 料について、事務局から説明していただきたいと思います。資料4です。 ○医療安全推進室長  資料4-1について説明します。これは前回、加藤委員から要請があったものです。病 理医と法医の数等についてということで、これは日本病理学会の調べになりますが、病 理学会の専門医の数が全国で1,928名、病理専門医の研修施設は678施設あるというこ とです。また裏側ですが、法医解剖に関わる医師数等ということでは日本法医学会の調 べですけれども、いくつかのカテゴリーがあって真ん中のところを見ていただくと、法 医学会の認定医が全国で119名いらっしゃるということです。  4-2は前回、医療事故の件数がどのぐらいあるのかということで、私が口頭で申し上 げたものと同じものですが、資料にしたほうがわかりやすいということで資料にして提 出しています。医療事故収集等事業で、日本医療機能評価機構でまとめているものです が、平成18年で1,296件の事故があります。このうち死亡事故が152件ということです。 これは報告義務のかかっている273病院からの報告です。また厚生労働科学研究で堺委 員にしていただいたものですが、そのことについてもここに記載しています。  4-3は前回、鮎澤委員から要請がありました医療事故の調査において院外の専門家等 が関わっている例についてということで、国立病院機構九州ブロックの事例を紹介して はどうかということでした。事務局で調べたところ、他にもいくつか同様の取組をして いる所がありましたので、資料としてまとめさせていただきました。  1頁をご覧いただくと、「拡大医療安全管理委員会」というものを設けています。その 目的としては、院外の専門家を加えて第三者的立場から過失の有無を厳正に審議し、再 発防止策の提言を行うということです。位置づけとしては、事故の発生した病院から、 このブロックの中に設置されている「医療事故調停委員会」の依頼に基づき、「医療事故 調停委員会」の下部組織として当該病院内に設置するものです。この委員会の構成です が、当該病院の委員として院外の専門の委員、事案によっては国立病院機構外の専門委 員も招聘しています。そのほか九州ブロックの事務所顧問弁護士等が入って、事案の評 価を行っています。活動状況については、平成16年4月から3年間に32回開催し、32 例について評価を行っています。  2頁からは、国立病院機構から提出していただいた資料を添付しています。同様に4 頁が群馬県の病院局の取組ということで詳細は省きますが、群馬県の県立病院で発生し た重大な医療事故について、県立病院外の有識者の委員を招いて第三者機関として調査 評価を行っているものです。5頁からは群馬県から提出していただいた資料を添付して います。  10頁は石川県医師会の取組の概要です。これは「臨床・病理検討会」という名称で(2) のところをご覧いただくと、位置づけとして石川県医師会の剖検システムによる剖検後、 県立中央病院にて開催されます。この検討会の委員の構成は(3)に書いてあるとおり、 外部の方を中心にされています。  14頁は名古屋大学医学部付属病院の取組です。名古屋大学の場合には事故の事例に応 じて、どの程度の外部有識者を入れていくかについて段階に分けてやっています。(2) の最初の○で外部有識者主導の調査委員会があり、死亡や重篤な障害を招いた重大過失 があった事例に対して行い、医師・看護師/(ときに)他業種専門家を中心とし、法律 専門家は必ず招聘し、内部委員は外部委員の支援のために2名加わるだけとするといっ た形で、評価を行っています。ほかにも全国にいろいろな取組があるようですが、4例 の事例を報告させていただきます。  4-4は、加藤委員から「医療事故を防止し被害者救済するシステムをつくりたい」と いう冊子をご提出いただいています。資料4-5は、日本医師会医療事故責任問題検討委 員会が、「医療事故に関する刑事責任のあり方」という答申をまとめています。これは昨 日、日本医師会から公表されていますので、これも資料として提出させていただきます。 以上です。 ○前田座長  ありがとうございました。特に加藤委員、鮎澤委員、よろしいですか。 ○鮎澤委員  短い間で本当に貴重な情報の収集と資料の作成を、どうもありがとうございました。 国として動いているモデル事業とともに、こういうふうに現場レベルでさまざまな動き があることの一端を見ていただける、本当に大事な資料になったと思います。先ほど樋 口委員から、既に実績を積んでいるモデル事業から3点ということでお話がありました が、こういった中からも大変大事な、これから詰めていく具体的問題点や課題が出てき ているのだと思います。今日は時間がありませんので持ち帰って読ませていただき、参 考にさせていただかなければいけないと思っているところです。本当にありがとうござ いました。 ○前田座長  よろしいですか。 ○加藤委員  資料4-4は「医療被害防止・救済センター」構想の冊子なのですが、ポイントは、医 療被害の防止と被害者の救済を完全に分離した発想で、今まで多く物事が考えられてき たけれども、実はこの2つの問題を一体的に車の両輪のようにやらないことには、本質 的な解決にならないのだという思いでプランを立てています。今日は時間が限られてい るので省きますが、11頁にその構想の図が出ています。過失があろうがなかろうが、重 大な事故があった場合に被害者が補償されるという仕組みを、運用として当初始めては どうかという思いがあります。この冊子自体が既に2万6,000部ほど出ていて、表紙の 裏に賛同していただいている方々に名前を連らねていただいています。たぶん、かなり 皆さんもご存じの方が多いと思いますけれども、医療事故の問題について医療側も被害 者側も有識者の方々も併せて、こうしたものを作りたいということについては一致でき ているのだろうと思っていますので、また読んでいただければと思います。 ○前田座長  ありがとうございました。そのほかに特にございませんか。 ○木下委員  日本医師会から参考資料として、「医療事故に対する刑事責任のあり方について」とい う冊子を配付させていただきました。昨年の2月でしたか、福島県立大野病院事件とい うのが起こりました。この事件は被害者の方に大変お気の毒なことでしたけれども、事 故が起こった1年半後に突然、警察が入って医師が業務上過失致死傷罪と医師法21条 違反疑いで逮捕されるということが起こったというものです。そのことは極めて深刻な 議論をまきおこし、我々医師の間では、そのようなことがあってはならないということ でほとんど全国の医師会から、医師法21条の問題に関し具体的な提言をしてもらいた いという医師会への強い要望がありました。  医師会から出すと何か医師だけのためにという誤解を招きかねないとも限りません。 そこで医師だけでなく司法関係の刑事法の学者の先生方、あるいは検察の方も含めて一 緒に議論し、今回のようにまとめたわけです。今日の各参考人の方々のご意見も踏まえ、 我々医師のみならずすべての方たちにとって、医療事故に対する刑事司法はこうあるべ きであるという視点でまとめていただいたものです。  特に今日、小松参考人からもお話がありましたように、外科医の志望者は大変少なく なってきています。産科はもちろんですが、そういう状況が続くと国民にとって本当に 不幸なことになります。そういう視点からも是非参考にしていただきたいと思いますの で、よろしくお願い申し上げます。 ○前田座長  ありがとうございました。ほかによろしいですか。今日はさまざまなご意見をいただ き、ありがとうございました。今日のご意見を参考にして次回以降の議論を進めてまい りたいと思いますが、この次は本日お招きした参考人とまた異なる関係の分野、視点か らということで、次回は解剖の担当の医師と、検察OBの方で医療事件に詳しい方をお招 きしてお話を伺い、あとほかの議事も進めてまいりたいと思っています。事務局から次 の日程等についてご案内いただければと思います。 ○医療安全推進室長  次回の検討会は6月8日(金)、午後2時から4時までを予定しています。詳細につい ては後日ご連絡いたします。本日はありがとうございました。 ○前田座長  特に参考人の4人の方々は本当にお忙しい中、ありがとうございました。必ずこれを 有効に活かして進めてまいりたいと思いますので、今後ともご助言いただきたいと思い ます。よろしくお願いします。皆さん、ありがとうございました。 (照会先)  厚生労働省医政局総務課  医療安全推進室   03−5253−1111(2579) 4