07/03/26 第97回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会議事録 第97回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会 1 日時  平成19年3月26日(月)13:00〜 2 場所  職業安定局第1会議室 3 出生記者    委員  公益代表 : 鎌田委員、清家委員        労働者代表: 市川委員、長谷川委員、古市委員        使用者代表: 成宮委員   事務局  鳥生職業安定局次長、坂口需給調整事業課長、        篠崎需給調整事業課長補佐、松浦需給調整事業課長補佐、        佐藤需給調整事業課長補佐 4  議題  (1)労働力需給制度について        (2)その他 ○清家部会長   ただいまから、第97回労働力需給制度部会を開催いたします。なお、北村委員、山崎 委員、輪島委員はご欠席です。  本日は、最初に公開で労働力需給制度についてご審議いただきます。また、その後、 一般労働者派遣事業の許可の諮問、有料職業紹介事業及び無料職業紹介事業の許可の諮 問に係る審議を行いますが、許可の諮問につきましては、資産の状況等の個別の事業主 に関する事項を取り扱うことから、これについては「公開することにより特定の者に不 当な利益を与え、または不利益を及ぼす恐れがある」場合に該当するため、非公開とさ せていただきますので、傍聴されている方には始まる前にご退席いただきますことを、 あらかじめご了承ください。  今日は前回お約束しましたように、まず最初に公開で、海外の労働者派遣制度につい てのヒアリングを行いたいと思います。本日は有識者の方をお二人お招きしていますの で、ご紹介します。まず、フランスについて早稲田大学法務研究科教授の島田陽一先生 です。 ○島田教授   よろしくお願いします。   ○清家部会長   イギリスについて、専修大学法学部教授の有田謙司先生です。   ○有田教授   よろしくお願いいたします。   ○清家部会長   まずフランスの事例につきまして島田先生より、20〜30分程度説明していただき、続 いてイギリスの事情について、有田先生より20〜30分程度ご説明をしていただいた上で、 その後に質議の時間を取りたいと思います。早速ですが島田先生よりお願いいたします。   ○島田教授   早稲田の島田でございます。フランスの労働者派遣法について紹介します。資料に則 してご報告します。  最初に「フランスにおける労働者派遣の現状」です。派遣労働者の年齢が、平均29歳 ですから、比較的若い方が多いことがわかります。派遣労働者が54万8,000人という統計 が直近で出ていまして、就業人口全体の2.5%です。フランスの労働市場の規模は日本の 半分程度と考えていただければ、そう狂いはないと思うので、そのようなイメージでご 覧いただければと思います。  派遣業ですが、書かれているような売上高、企業数です。次のものは派遣労働者数の 統計の取り方と違うのですが、常用換算にしたときに52万2,000人という数字が出てい ます。この10年ぐらいで1.5倍ぐらいにはなっているのかと思います。  どのようなところで派遣労働が利用されているかですが、工業、建設、土木といった 現場作業の比率が高いというのが、フランスの特徴だと思います。派遣労働者のおよそ 4分の3は、これらの部分で就労していると言われています。工業部門等については、 お読みいただければと思います。ただ、事務職員の派遣、幹部職員クラス、最近ではマ ネージャも含めた派遣も出てきて、こうしたニーズが高まっているようです。  派遣労働者を利用している主な理由ですが、大企業の場合は欠勤労働者の代替として 利用していて、小企業は業務の一時的増加への対応策としての利用が、総体的に多いと 言われてます。  あとでもご説明しますが、フランスの大きな派遣労働法制の特徴は、派遣労働という のは契約的に見ると、期間の定めのある労働契約という形態を取ることになります。フ ランスで派遣労働というのは、トラバーユ・タンポレルと言いますから、まさに一時的 な労働ということですので、当然期間の定めのある労働契約になります。  派遣労働は派遣労働ということにかかわらず、三者関係が生じるという特別のこと以 外については、有期労働契約の規制と全く同じところが、フランスの法制の非常に大き な特徴です。と同時に、有期労働契約法制自体に対する規制という点も、フランスの労 働法制の特徴と言えるかもしれません。  したがって、制度的には我が国とは違って、ほとんど同じような条件が付与されてい るわけですが、ユーザー側からすると、どのような場合に派遣労働を使って、どのよう な場合には直用である有期労働契約を使うのかということですが、これも実態ですので、 私も完全に掌握しているということではありませんが、一応説明されているところによ ると、およそ有期労働契約は第三次産業で使われる場合は有期労働契約が多いというこ とです。したがって、競合関係がないのだと説明がされています。  どのような点を考慮するのかということですが、フランスの不安定労働契約法制、こ れは実定法上の用語で、派遣労働と有期労働契約を含むものです。これは非常に複雑で す。したがって、一般企業にとってみると、その適切な運用はそう簡単ではないです。  そこで、派遣労働を選択するというのは、労働者派遣企業は専門ですから、これにつ いてのノウ・ハウが利用できる点が大きいと言えます。しかし、これを金額で見ると、 どうしても高くならざるを得ないです。有期労働契約の2.1倍と言われています。有期 労働契約の場合、社会保険料、税金、募集・採用業務ということを考えると、経費的に どうなのかということについては、場合によるのだということのようです。結局、必要 量の予見が困難で、短期の利用である、大量の利用であるという場合には派遣を使い、 わりと独力で確保できるような場合は有期労働契約を使うというような使い分けになっ ていると言われています。  次が「労働者派遣事業に係る法制度」です。法律上は労働者派遣は定義されていませ んが、派遣元事業主、労働者派遣企業の事業主になりますが、その定義規定が置かれて います。「派遣元事業主とは、あらゆる自然人または法人であって、合意された職業格 付けに応じて雇用し、そのために報酬を支払う労働者を、一時的に派遣先の指揮命令下 におくことをもっぱら業とする者をいう」。この括弧にあるのは、フランスは「労働法 典」と申しますが、フランスの労働法制の条文です。「L」と書かれているのが法律で す。  次が、許可や登録制度についてどうかということです。フランスの場合は届出制にな っています。したがって、許可の主体というのは要らないのですが、企業所在地の労働 監督官に届出をすることになります。どうやって事業を開始できるかというと、労働監 督官へ届出をして、さらに法律で定められた財政的な保証を準備することです。届出方 法は、届出事由がそこに書いてあるところです。当然と言えば当然ですが、社会保険料 を支払う機関の名称等々も含まれているということです。  さらに、財政的保証の準備ですが、支払い不能に陥ったような場合、賃金等あるいは 社会保険料を確保するための保証金とされています。届出に対しては、無届についての 制裁はそこにあるとおりです。届出については有効期間がないとされているので、一旦 届ければ事業をすることができるということになります。  フランスの派遣労働の場合は、適用対象業務という考え方は日本のようには通ってお りませんで、基本的に制約がありません。ただ、使う場合の原則があります。これは有 期労働契約と同じですが、「派遣先企業、ユーザー企業の通常かつ恒常的な業務に係る 雇用を長期的に充用することを目的とすること、または結果することもできない」とい うことです。つまり、いわゆる常用代替という形で派遣を使うことはできません。これ は有期労働契約についても、同じ規制があるというのが大きな特徴です。  その上で、どういう場合に使うことができるのかということが、法定されているわけ です。1つのカテゴリーが、代替要員です。つまり、欠勤している労働者、または労働 契約が中断しているというのは、休職をしている、フランスの場合は育児休業は3年と いう長期にわたりますので、そういうことが1つのポイントで、中断というのはそうい う意味です。  2番目は、少しややこしいのですが、廃止が予定されているポストに在職していた労 働者、つまりあるポストが1年後になくなると指定されたところに配置をされていた、 多くの場合は期間の定めのない労働契約の人が退職をした場合、残りの期間について利 用することができるというものです。  3番目は、例えば今年の10月1日から採用されることが決まっているけれども、退職 者が出たために4月から9月までの6カ月間は空いてしまったという場合にも、使うこ とができるということです。最近は企業長などの代替についても、認めるようになって いるようです。こういうのが休暇を取った場合などです。  2番目のカテゴリーは、企業の業務量の一時的な変化です。企業の業務量が一時的に 増加した場合。輸出向けに例外的な注文があった場合。安全確保のための緊急作業。こ のようなことが認められています。  3番目のカテゴリーが、本来的に一時的な労務、性質上そうだというもの、季節労働、 典型的には農作物の収穫の時期などをイメージしていただければと思います。それから、 期間の定めのない労働契約を使わないで、有期労働契約でやるというのが慣行になって いる部分です。これは政令によってそういうことが指定されているということです。  4番目のカテゴリーは雇用政策上の措置です。具体的には失業対策ですが、これで派 遣労働が利用される場合です。通常の契約というよりは、雇用政策、失業対策としての 特別な措置と考えられますが、ただ非常に長期にわたって存続していますので、1つの カテゴリーになっているということです。  次は利用が禁止されているということですが、まず1番のほうは日本でもそうかと思 いますが、争議参加労働者の代替です。それから、一定の危険作業についての利用の禁 止です。それから経済的解雇で、これは整理解雇と考えていただければ結構ですが、そ のポストについて6カ月間利用することが禁止されています。あとは派遣満了あるいは 有期労働契約の満了後というのは、要するに派遣契約で1年やって、また派遣契約で1 年というのはできないことになっているので、待機期間として、その3分の1に当たる 期間が与えられています。ただ、代替労働の場合、緊急作業の場合はこの限りではない とされています。  次は例外ですので、こういう例外があるということです。後で少し出てきますが、特 徴としては、このような適用除外をする場合には、50人以上の事業場に設置される法定 の従業員代表制度の企業委員会、あるいは従業員代表委員、これはどちらかというと苦 情処理を行う10名以上の企業に置かれる法定の従業員代表組織ですが、こういうところ に対しての情報提供、事前協議が義務づけられている点は、1つの大きな特徴かと思い ます。無許可というのはミスリーディングで申し訳ないのですが、届出のない場合の刑 事制裁、民事制裁が定められています。  次に、労働者派遣契約に対する規制です。労働者派遣契約というのは日本と同じこと ですが、書面で、派遣開始後2日以内に作成することになっています。これに対する制 裁が大変に厳しくて、この契約を欠く場合、派遣労働者は派遣先企業と期間の定めのな い労働契約を締結したものと見なされることになります。この労働者派遣契約は、派遣 労働者ごとに個別的に作成することになっておりまして、その義務的な必要記載事項は、 まず派遣労働を利用する理由です。それから派遣の期間、派遣労働が利用されるポスト の具体的な状況、交替制などです。  この点は日本にとっても重要かと思うのですが、派遣労働者の安全、健康に特別な危 険があるというような場合には、特別な安全性のための教育が義務づけられていますが、 そういうことも書かなければいけません。それから、職業格付け、場所、安全性上の問 題、報酬額ということが示されています。  次が派遣期間です。派遣期間については、その利用する事由に応じて、確定期限付き の場合と不確定期限付きの場合があります。まず、確定期限付きの場合ですが、これは 原則として、18カ月で更新はその中で1回です。ただし、利用事由ごとに例外がありま す。短い場合は9カ月、長い場合は24カ月とされています。  もう1つは不確定期限付きで、これは代替労働者の場合、必ずしもいつ終わるかが確 定していないことがあるので、不確定期限ということが可能です。例えば病気で休業し ている場合には、休職期間中でも、健康が戻れば仕事に復帰することがあります。その ような場合を想定していただければ、おわかりいただけるかと思います。  ただ、1点注意をすべき点は、不確定期限付き契約というのは構わないのですが、最 短期間、ここだけは派遣を使う場合に期間として働くことができるという期間を定めな ければいけないということがあります。  指導・監督・取締り等については、労働監督官というのが中心であるということです ので、よろしいかと思います。  民事制裁は先ほど言いましたように、派遣労働法制の場合は、一種の民事制裁と言っ ていいと思うのですが、要するに派遣先の企業と派遣労働者との直接の労働契約関係を 認めてしまうという厳しい制裁が予定をされています。  どういう場合かというと、派遣期間が終わっているにもかかわらず就労が継続してい る場合。派遣先が利用事由とか、派遣期間等の規定に違反をしているということ。労働 者派遣契約が書面化されていない、そしてすでに就労開始していた場合にはこういうこ とになります。  この訴訟については、フランスの訴訟は労働契約にかかわる司法裁判所の第1審につ いては、労働裁判所という労使同数の判事による裁判所がつくられています。この裁判 所は、ある意味で日本の労働審判とも似ているのですが、通常は調停が前置になってい ます。調停がまとまらない場合に判決に移行するのですが、民事制裁に関する請求につ いては、調停を経ないで直ちに判決に送られて、1カ月以内に判決を下します。非常に 迅速な解決が特別に認められているということです。  ただ、こういう場合に実際にどういう訴訟になっていくかというと、結局期間の定め のない労働契約ということになりますので、そこの契約を解除して、期間の定めのない 労働契約が解除された場合の規定に従って、それが違法な解雇だということになると、 最低で賃金の6カ月分の補償金が支払われます。プラス補償手当が付くことになります。  派遣事業については、兼業が禁止されています。フランスでも、派遣と請負の区分が 問題になっていますが、いわゆる労務供給事業については、営利目的があって関係労働 者に損害を与える結果となる、さまざまな規定の回避する結果になるということについ ては、古くから禁止されていましたが、基本的に派遣労働法制が制定されてからは、派 遣労働法によらないものはすべて違法であるとされています。  問題は、労務供給事業と請負との区別ですが、日本とさほど違うわけではありません が、業務請負という場合には作業遂行、作業結果に責任を持つ。勤務体制についても、 独自の体制が必要だということ。管理者が現場にいなければならない。料金が労働時間 数に応じていれば労務供給である。供給された労務の特殊性、これが企業の一般的な業 務として区別されたものであるという場合には業務請負ですが、企業の業務の範囲内あ るいは個有の技術もないということになると、労務供給とされます。(5)が決定的な要素 とされてますので、この点はやや日本と違ってくる可能性が高いように思います。  派遣労働者ですが、日本のような常用型はなくて登録型のみです。派遣労働契約です が、先ほどの労働者派遣契約と同様に、書面によって作成することが義務づけられてい ます。そこで書かなければならない事項は、1つは先ほどご紹介した労働者派遣契約の 内容を再録します。それに加えて、派遣労働者の職業格付け等、さらに年金とか社会保 障に関する情報も書きます。さらに、派遣先が当該労働者を雇用することを禁止しない ことを明示した条項とされています。  この書面作成義務については、特徴的なものは、これをしていないと普通法上の労働 契約、つまり期間の定めのない労働契約と見なされるとなっていますので、書面を作成 していないという手続き違反にもかかわらず、非常に厳しい制約が課せられているとい うことです。  次が、派遣労働契約の場合の試用期間です。試用期間については、フランスの場合は 大体労働協約によって定められているわけですが、派遣労働契約については、非常に例 外的に試用期間の最長期間が規制されています。そこに書いているようなことで、1カ 月以下2日、1カ月から2カ月の3日、2カ月を超える場合5日、このように試用期間 が非常に短いので、実労働日で計算されるとなっています。  契約の継続です。事実上就労が継続された場合には、期間の定めのない労働契約とさ れることになります。契約の終了については、これについては契約の満了によって自動 終了になっています。そこは特に問題はないと思います。  契約の期間満了前の破棄については、当事者の合意があった場合を除いて、重大な非 行または不可抗力による場合は、契約期間中の契約を破棄することができない。これが 原則で、これは有期労働契約を含めて契約の原則です。  ただし、やや特別な仕組みがあって、期間満了前の破棄については、労働者派遣企業 のほうは3日以内に新しい労働契約を提案する義務があるとされています。この場合、 労働条件の重要な変更がないことが条件とされています。この提案がないということに なると、原則に戻って、派遣元による派遣期間中の破棄は、期間中の通常の有期契約と 同様に、期間中に得られたと思われる賃金額をベースとした損害賠償請求権を取得する ことになります。  次に派遣労働者の法的な地位です。まず、個別的な権利として報酬ですが、これは有 期労働契約もそうですが、派遣先労働者との平等が考えられていて、即ち同等の職業格 付けで同一の職務に従事する労働者、これと同等のということになります。これはフラ ンスの場合は職業格付け、フランス語でqualification professionelleと言いますが、 こういうものが職業ごとに成立しているので、どういう人と賃金を対応させるのかは比 較的わかりやすいということがあります。  次の不安定雇用手当というのは、派遣期間の終了時に一定の手当を払うということで、 総報酬額の10%とされています。有給休暇、あとはさまざまな賃金、休暇等への補償で すので、見ておいていただければと思います。  福利厚生施設の利用、日本も適用対象業務が原則なくなってきているという中では、 フランスで重要だと思っているのは安全教育です。要するに、同一の安全教育を受けら れる平等原則があるのだというのは当然なのですが、派遣労働者について特別な危険の ある業務について、補強的に、派遣労働者に特別な措置をとることが挙げられています。 考え方としては、派遣労働者はどうしても不慣れということがありますので、その点に 対して、特に労災防止という観点から、通常の従業員が受けている以上の措置が正当化 される、必要であるという考え方が取られているのは特徴的かと考えています。  集団的な権利ですが、派遣労働者も同じようなことがありますが、組合代表委員とい うのは、その事業場において組合を代表する委員ということです。これはもちろん派遣 元企業についての問題です。派遣労働者も派遣元のほう、先ほど言ったような従業員代 表、これは選挙制度ですので、こうした選挙権をこの条件を満たすと得られるというこ とがあります。派遣先との関係ではどうかということですが、派遣先の従業員代表委員 が、苦情処理をする機関ですが、これを利用することができるというのが1つの特徴で す。  あと労働組合とか、従業員代表の派遣ですが、特徴的なものは14頁をご覧ください。 いわゆる団体訴訟というのが認められていて、代表的労働組合というのは、伝統的にフ ランスでずっと活動している有名な労働組合は5つぐらいあるのですが、本人のために そこの団体が訴訟をすることが可能なのです。もちろん、当該労働者が「そのような訴 訟はやめてくれ」ということは別なのですが、そういうことが可能であるということで す。なかなか個人では訴訟ができないことについて、労働組合にその代理人としての資 格を認めています。  企業委員会という従業員代表機関ですが、ここに会社側がどのように派遣労働を利用 しているのか、これは有期契約についてもそうなのですが、これについて定期的に情報 提供をすること、あるいはここで協議を行うことが認められている点は特徴的かと思い ます。  さらに、フランスでは企業レベルでは、労働組合がある場合について、代表的組合は 義務的な年次交渉が義務づけられているのですが、その際に派遣労働者の利用状況も、 義務的な交渉状況とされています。これも1つの特徴かと思います。以上です。 ○清家部会長   続いて有田先生からイギリスの事例についてお話を伺います。   ○有田教授   専修大学の有田です、よろしくお願いいたします。資料に沿って説明していきます。 イギリスの現在労働者派遣をめぐっては、特にTUCと政府との間でのさまざまな動き が強まっている状況にあります。  最初にイギリスの議論状況を凝縮して言いますと、派遣労働者の地位をめぐって、法 的な議論がなされています。それから、フランスでは明確にされているような比例原則 的な平等原則と言うか、それがイギリスには法制上ありませんので、この立法化をめぐ って大きな議論が行われています。  最初の「労働者派遣事業の法規制の概要」というところですが、イギリスでは1973 年のEmployment Agencies Actという、職業紹介の事業規制と、派遣事業の規制の両者 を含んだ法律ですが、これが現在も一部改正を受けながら現行法として存在しています。  そして、この法律を受けて、事業者が従うべき行為規則が定められています。これは 当初1973年法ができて、すぐに同名の規則があったのですが、これが2003年に全面的な 改正を受けています。一言で言うと、最後の項目に書いているように、総じて、イギリ スの派遣法制というのは規制が緩いものなのですが、例えばこの行為規則の中で、いく つか派遣事業者が従うべきルールが定められていますが、1つ注目すべきものとして指 摘すれば、派遣前6カ月の間に派遣先に直接雇用されていた労働者を派遣対象者として 派遣してはならない、というルールがあります。これは分社化か何かわかりませんが、 そういう形で、以前直用していた人を派遣労働者に切り替えることを一定期間は制限さ れることが、ルールとして定められています。  この1973年法が労働者派遣事業に関する一般法になるわけですが、特別法として、看 護師等については、この法律の適用がないということで、看護師については特別の法律 が規制を加えています。もともと1957年にできていた法律なのですが、おそらくコミュ ニティケアに関するイギリスの諸制度の変更に合わせて、2000年にCare Standards Act という法律ができ、それを受けてNurses Agencies Regulations2002というのができて いて、これによる規制に服することになっています。  看護師業務の特殊性に応じて、一定のルールがこの法律及びその規則に基づいて、設 定されています。例えば、必ず登録が必要、そしてその登録事業者が登録マネージャの ようなものを専任しておかなくてはならなくて、その就業規則に当たるものも作成して おかなければならない等と、一定の規制が特別に付加されております。  戻りまして、1973年法では当初は許可制度があったわけですが、これが1994年の規制 緩和で適用除外法に基づいて廃止されました。その代わりに、事業者が法令違反を行っ た場合には、監督行政機関のEASIと呼ばれる監督官が特別に設けられているのですが、 ここからの摘発を受けて、雇用審判所、先ほどフランスでは二者構成ということでした が、イギリスの場合には三者構成の雇用審判所に申立てをし、これは役所のほうが申立 てをして、事業に従事することを禁止する禁止命令を裁判所から出してもらうというこ とが、制裁の仕組みとして設けられています。  ただし、この禁止命令制度が十全に機能しているかどうかについては、議論のあると ころであるとして、TUCはここは不十分であって、うまく機能していないことを強く 主張していますが、その点についてはまた後で触れたいと思います。  1994年法に基づいて、許可制度が廃止された後、中小の事業者が相当数増えて、中に は非常に劣悪な条件で派遣労働者を使って、いろいろな事故を起こしたりというトラブ ルが生じました。とりわけイギリスにおいて非常にショッキングな事件として、中国人 の派遣労働者が貝を採取する仕事に従事していて、多数人が溺死するという悲惨な事故 が起こって、そうした業種を対象にした特別の許可制を敷く法律を作ることで、 Gangmasters(Licensing)Act2002というのが制定されております。しかし、これは1973 年法の特別法として、先ほどの看護師等に関する法律と同じく、その適用対象とされる 事業が非常に狭く限定されております。  ここに書いていますように、農業労働、貝の採取、農業労働から得られた生産物また は魚貝ないし魚貝から得られる生産物の加工、包装の仕事を適用対象として、非常に狭 い範囲に限定して許可制を復活する内容になっております。  そして注目すべきは、許可を受けていない事業者との間で労働者派遣の契約をする者、 即ち派遣先に対して無許可の事業者と契約をした派遣先に罰則を適用する形で、規制を 及ぼす規定が設けられているというのが、非常に大きな特徴ではないかと思います。そ して、この規制のあり方というのは、三者関係の当事者関係において、派遣労働者を保 護する制度としては非常に有効ではないかということを指摘する学者の見解が見られて います。  労働者派遣事業については法律上定義が置かれていて、「(営利、非営利にかかわり なく、または他の事業に関係してのものであるか否かにかかわらず)事業者と雇用関係 にある者を何らかの能力において、他者のために、且つその他者の指揮命令の下に活動 するために、供給する事業」という定義が設けられています。ただ、ここにいうところ の「雇用」というのは、我が国でいう労働者性を見ていく場合に、通常想定されている ような雇用に限るものではなくて、むしろ自営的な働き方をするような人、あるいは明 確に自営でやっているような人も、この対象に入ってくるところが、大きな問題を呼ん でいるところです。  派遣労働者については、IIの「三者間の法的関係と権利・義務」で説明したいと思い ます。我が国の派遣法のように、派遣元、派遣労働者、派遣先の三者間の法的関係、あ るいは権利義務関係について、イギリスの1973年法も、それを受けた行為規則も、いず れも三者の関係については、それを規律あるいは定める規定を設けておりません。ただ、 規則の中で設けられているものとしては、労働者派遣事業者は、派遣労働者にサービス を提供する前に、派遣労働者が、この場合(work-seeker)ということで職業紹介を受 けるものと共通の語で表わされていますが、「雇用契約、徒弟契約あるいは請負契約の いずれの下に、労働者派遣事業者に雇用される、あるいはされるだろうかということ及 びその場合に、派遣労働者に適用される、あるいは適用されるであろう雇用条件」につ いて、派遣労働者と合意しておかなければならないということで、その契約した条件を さらに示すということが定められているだけであります。  したがいまして、明確にわかるように、自営業者の派遣も可能になるということです が、こういった法制度の状況から、イギリスでは近年いくつかの裁判例において、三者 間の契約関係について、これを争点として争われるような訴訟が提起されて、問題とな っています。  その中で、派遣労働者と労働者派遣事業者間の雇用契約の存在が争われたケースで、 被用者性の有無ということであるわけですが、この労働者派遣事業者と、派遣労働者と の間に雇用契約が存在していて、派遣された労働者は制定法上の諸権利の共有主体とな る被用者、employeeであるという判断が示されたものが、1997年の事件です。  これは、事業者が倒産した場合の賃金の立替払いの制度の適用部分が争われたケース ですが、下の*を見ていただくと、イギリスにおける労働者概念ということで、これは 非常に我が国と異なって、イギリスにかなり特徴的なものです。イギリスでは、広く言 えば、労働者の中に被用者というものと狭義の労働者というものが、2つ存在していま す。狭義の労働者と言っていい被用者、employeeというのは、例えばイギリスの労働者 に対する諸権利を定めた基本法と言っていい1996年の雇用権利法などに置かれている定 義では、次のように定義付けられています。「雇用契約の下に入った、またはその下で 働く(雇用が終了した場合には、そのようにしていた)個人」ということで、雇用契約 または徒弟契約は「明示または黙示を問わず、また明示であれば口頭によるか、書面に よるかを問わない」ということなのですが、要するにcommon low上、雇用契約と判断さ れるような関係の下にいる者がemployee、そしてこのemployeeに限って、制定法上の多 くの諸権利が付与されることになっている関係で、派遣労働者がemployeeなのか、どう かということが、法的に問題となってきたわけです。  その場合に、雇用契約の存否をどのように、あるいは被用者性の判断ということにな るわけですが、近年の裁判例によると、仕事を提供する義務と、賃金その他に対しての 報酬と見返りに、その仕事を履行する義務という、義務の双互性という基準を、日本の 最高裁に当たる貴族院がこれを重視する判断基準を示したことで、こうした双互性を欠 くものは雇用契約関係にはないから、その当事者の一方は被用者ではないと判断される ようになっております。  権利義務ということで言えば、被用者と認められても、一定の諸権利については、同 一使用者の下での一定期間以上の勤続期間が、権利の付与のための要件とされています。 例えば不公正に解雇されない権利というのが、重要な権利として保証されているわけで すけれども、その不公正に解雇されない権利は1年間の勤続期間を有していなければな らない。ただ、この場合、途中の一定の中断期間を継続したものとして扱うことが可能 となる規定が置かれているので、それによる通算によって、その要件をクリアできる場 合もあろうかと思いますが、派遣労働者の場合に、実は結構な長期間にわたって同一派 遣先に派遣されていることも多いようです。  2番目の、そういう状況の中で、派遣労働者と派遣先の間の雇用契約の有無が争われ るケースは、まさにそのような長期間同一の派遣先に派遣されていた労働者が、派遣契 約の打切り等によって雇用を失う場合に、派遣先との間で不公正に解雇されたというこ とで、自分は派遣先の被用者である、派遣先との間に雇用契約関係が存在しているとい うことで争うような事案がいくつか出てきています。  控訴院(court of Appeal)、貴族院の下ですが、貴族院に行くケースはそれほどたく さんではありませんので、先例としては相当な重みを持つ審級の裁判所ですが、Frank ケースと、Dacasというのでしょうか、この2つのケースでは、派遣先との間の雇用契 約関係の存在の可能性を認める判断をしています。その一定の判断基準としては、相当 期間にわたって同一の派遣先に継続して派遣されていて、実際の賃金の支払い決定等に ついても、実質的な決定権を持っているようななされ方をしているとか、指揮命令を実 際に具体的にしている、派遣労働ですから派遣先が指揮命令をしているというのは、当 然のことのように思われるのですが、そういった条件を備えている場合には、派遣先と の間に黙示の雇用契約の存在を認め得るのだという判断を示し、3つ目のCable & Wireless Plc事件において、初めてこれを実際に派遣先との間の黙示の雇用契約を認め るという判断をしました。  ただ、最後の実際にそういう認定をしたケースにおいては、事案の特殊性が強調され ておりまして、もともと先ほどのルールの禁止に触れそうな、派遣会社に移籍をさせる ような形で、もともと働いていた職場に派遣労働者として働くというような形が取られ ていたケースですので、そういう特殊性が大抜きには考えられないというような見方も あります。いずれにせよ、これは本来立法による対応が必要であるという見解が学者か らも、実務家からも強く主張されています。  *の(2)の「労働者」というのを見ていただきたいのですが、これは先ほど言いました ように、被用者概念というのは非常に狭いということがあって、多くの労働者が主要な 権利から排除されるという状況がある中で、一定の個々の制定法ごとに、適用対象を定 めるというやり方で、例えばその下にあるように、全国最低賃金法とか、労働時間規則、 これらの法律はその権利の主体を被用者employeeではなくて、労働者workerとするとい う規定を設けて、その適用対象を広げることを行っています。  提言を見ていただくと、「雇用契約、または、明示または黙示を問わず、また明示で あれば口頭によるか書面によるかを問わず、職業的または営業的事業の顧客ではない契 約の相手方に当該個人本人が労働またはサービスをなしまたは遂行することを約する他 の契約のいずれかに入った、またはそれらいずれかの契約の下で働く(「雇用」が終了 した場合には、それは働いていた)個人」ということですので、例えば弁護士さんが顧 客に対してサービスを提供するというような場合を除いて、実際に本人、個人が労務の 提供をするようなものを広く、労働者ということで救い上げるという規定が入ってきて います。  したがって、労働者派遣事業者、あるいは派遣先のどちらとの間に、先ほど見たよう な契約関係があるか否かにかかわりなく、個別の法律によって、労働者派遣事業者と派 遣先の双方、あるいは一方に一定の義務を課し、あるいは派遣労働者に権利を付与する ような規定が個別に設けられています。そういう意味では、非常に重要なものである全 国最低賃金も、これの対象になるということです。  どちらがその義務を負うのかについては、全国最低賃金法と労働時間規則については、 共通して派遣労働者に報酬を支払う義務を負っている、あるいは実際に支払う立場にあ る者がその義務を負うものだという規定の仕方を取っています。  それから、先ほどのフランスの規定にも少しあったのとほぼ同じで、おそらくEUの 影響ではないかと思いますが、1999年の労働安全衛生管理規則の中で、派遣先に対して、 リスクアセスメントを行って、そこで確認された派遣労働者に対する危険に関する情報、 及びそれに関する指示内容を労働者派遣事業者に通知する義務を負わせています。  その義務が行使されて、そのことを知った労働者派遣事業者は、その内容を派遣労働 者に通知するという義務を両者が負うという形で、安全衛生法上の保護を図るというこ とが行われています。  次の頁です。差別を禁止する立法は、最終的な労務提供を受ける利用者に、使用者と して差別を禁止する形を取っています。なお、この**のところで書いていますように、 所得税とか、国民保険の保険料の場合には、派遣労働者は徴収ということから考えて派 遣事業者の被用者ということで源泉徴収するやり方が取られています。  次に「派遣労働者の現状と問題」ですが、最初は派遣労働の数についての正確な統計 数値はないということです。これは許可制でもなくなって、把握されていないというこ とでこのようなことになっているのですが、労働力調査の公式統計であるLabour Force Surveyでは、派遣労働は全雇用の約1.1%という見積りをしています。人数的には26万 3,000人という推計をしています。この数値は、同じLabour Force Surveyで、1992年の 0.4%から、2006年に1.1%ですから、0.7ポイントということで、2倍強に増えている 状況です。  ただ、所管省庁であるDTIは、LFSの推計値は少し低く抑えているという見方を していて、DTIが2001年にEUの派遣労働に関するリレクティブの、どういう影響が 生じるのかというアセスメントを行った際の文書の中では、推計として70万人という数 字を出しています。ただ、以下の説明の中では、大体Labour Force Surveyの数値を基 に、ご説明させていただきたいと思います。  今度は事業者数のほうですが、1994年に許可制が廃止されて以降に増大しています。 付加価値税の支払いとの関係で登録している事業者数で見たものでいきますと、2005年 には1万6,800となっています。これも1994年度は6,500ということでしたから、非常に 数が増えているということです。  イギリスの特徴としては、アメリカ資本のような大きな派遣業者が一部あって、しか し、その他の中小、零細の派遣事業者が多数存在するというのが、イギリスの派遣事業 の1つの特徴ではないかと思います。それをある種束ねるような使用者団体がイギリス に存在しています。  次に表を見ていただくと、「産業別の派遣労働者数と割合」ということで、特徴的な ところは、製造業の現場で17%、あるいは不動産関係、Real estate,renting & business activitiesの辺りが20.7です。あるいはHealth & social workが多いという ところで大体半数以上働いています。  次の頁を見ていただくと、一時的雇用、テンポラリーワークの中の1つの種類として、 エージェンシーを通じて派遣されるという派遣労働者が類型化されていますが、派遣労 働者の属性で見たときに、特徴的なところは、イギリスの場合、他の働き方の人と比べ て少数派民族というか、エスニックマイノリティの割合が非常に高い、その辺の問題を 常に抱えています。先ほどのGangmastersの貝の採取のケースでも中国人の労働者の人 たちが犠牲になっているところにも通じているのではないかと思います。  一時的雇用についてですが、労働者の種類ということですが、どういう仕事に就いて いるのかです。事務的なAdministrative and Secretarialというのが、いちばん多いわ けです。下から2つ目のProcess, Plant and Machine Operatives製造現場で機械を操 作するとか、先ほどのような魚貝の加工が13.7で結構多いところです。  先ほども触れましたが、労働者派遣事業者に雇用されている派遣期間の長さでいきま すと、大体は短期で代わっていくのが多いようですが、1年以上2年というところが1 2.3、2年から4年目が7.6、4年以上も7.2ということで、長期にわたって派遣されてい る労働者も多い。その辺が先ほどのような争いが生じる元になっています。  派遣労働者のもっとも高い職業資格、どの程度の職業資格を持っているのかと。職業 資格の問題ですけれども、ざっと見て相対的に一部高いものを持っている派遣労働者も いますが、それほど高くない人の割合が高いと言えるかと思います。もう1つ、派遣労 働者の1年前の状況は、<Temp-to-perm>ということで、派遣を通じて常用雇用に移行 するということが期待されている部分がイギリスにもあるのですけれども、実際はどう かということをこれで見ると、実際には政府はTemp-to-permというときに、失業中の人 が派遣を通して再起を図っていくということが、規制を厳しくすると難しくなるという 言い方をしているのですが、この点については必ずしもそうではないのではないか。つ まり、職に就いていた人の割合が7割と、相当程度実際には高くて失業状態にあった人 がいま現時点で派遣労働に就いているという割合は、実はそれほど他の状況にある人と 変わらないということです。派遣労働を選んだ理由のうち、正規・常用雇用に就けなか ったからというのがほぼ半数の45%、正規・常用雇用を望まないというのが約3割とい う割合になっています。同じ派遣でも、フルタイムとパートタイムで分けて見たときに はフルタイムの派遣労働者の場合には、正規・常用に就けなかったからという割合が相 当高くなっています。ただ一部の指摘ではIT産業のようなところは、むしろそこで働 いている労働者は派遣の形態がいいというような指向性が見られるということです。法 律上は労働者派遣の形態が定められているわけではありませんが、一般的には登録型派 遣の形態がいいのではないかと言われている。労働条件の格差ですが、2001年の調査で すが、これも政府のアセスメント文書の中に出た記載ですが、派遣労働者の週当たり平 均の賃金ですけれども、これは230ポンド、これに対して比較対象となる正規・常用雇 用の労働者にすれば340ポンドという差があるわけです。ただこれについてTUCは大 きな差ではないと見ているのに対して、政府はそのうちの15%が差別に起因するもので はないかという見方をしています。  法令違反の申告の件数ですけれども、先ほどの監督官の人数が非常に少ない人数しか 現在存在しておりませんけれども、申告を受けて専ら取り締まりをするということなの ですが、2004年から2005年度の間は1,380件、しかし実際に禁止命令が発令されたのは0。 ただ1件申立てをして、これは雇用審判所によって棄却されたということがありました。 これは年次報告の中に記載されております。派遣労働の意味、役割というところの評価 なのですけれども、学者の評価の中には、派遣先が、我が国のように事前面接等の規制 等は何もありませんので、派遣労働者を面接し、入念に選ぶわけですので、長期失業者 や技能の低い労働者のような不利な立場にある人たちが、派遣を通して再就職するとい うことは、実際には見込めないのではないかという見方をしています。  Temp-to-permを促進するという役割も、実際には大きくはないのではないかという指 摘をしております。  もう時間が過ぎているので、簡単に法規制の見直しをめぐる近時の動向ということで すけれども、現在政府は、先ほどの2003年職業紹介事業で、労働者派遣事業行為規則の 改正案を提案しています。現在、日本流に、パブリック・コメントのような前段階のコ ンサルテーション・ドキュメントというご意見を伺いますという手続を取っているとこ ろですけれども、何を提案しているのかと言いますと、実は2003年の規則の中で、既に 規制対象になっている部分をより明確にしようということで、それを細分化するような 中身。例えば登録料を一定の場合には取っていく。例えば、モデルとか演劇従事者など ですけれども、その場合に、演劇従事者の一部が、いろいろな被害にあっているケース があるので、その辺をもう少し具体化した規則内容にしようということが提案されてい ます。組合のほうのTUCが非常に小手先のものに過ぎないということで、批判をして います。イギリス政府の第3の道の政策からいくと、労働市場の柔軟性の確保と派遣労 働者の保護ということで、柔軟性の確保というところとならないようにという考慮のほ うをむしろ強く派遣法については重視しているように思われます。こうした状況の中で、 TUCと連携を取っていくということではないかと思いますが、労働党の議員が庶民院 の中で、「Temporary and Agency Workers(Prevention of Less Favourable Treatment) Bill」という法案を提出して、今月の上旬に第2部会まで終わって廃案になってしまっ たようです。これは要するにEUの指令案の中に示されている、あるいはフランスの法 律の中では既に規定されている比較され得る直接雇用されている労働者との間の均等待 遇というか平等、比例原則に基づいた均等待遇を保障するということを、労働条件の改 善を図るということがいちばん中心となっている法案なわけです。やはりこれも先ほど のような柔軟性の確保のほうを重視するという姿勢なのか、あるいはEUの指令案がま だ成立していない段階で、イギリス政府としては、こういうものを法律として作るつも りはないという意見なのでしょうけれども、支持をしないということで、議員立法とし ては、ここでもう終わってしまっているようです。政府とTUCとの見解の対立が、こ の問題について非常に鋭くなっているという状況にございます。  最後に特に我が国との関係でも問題になっている偽装請負のような関係でいえば、イ ギリスの労働法の有力な学者が非常に強く言っているのが、2002年のGangmastersの中 に、先ほど言いましたような、違法な派遣を受けている。この場合は無許可という形で すけれども、派遣事業者から派遣契約をした派遣先に対して罰則適用という形で責任を 取らせるというやり方で三者間の関係を規律していくというのが、非常に規制手法とし ては、優れたものではないかという評価をしているということに、興味を引かれたとこ ろです。以上、少しオーバーしましたが、これで終わらせていただきます。 ○清家部会長   ありがとうございました。ただいま島田先生からは、フランスのこと、また有田先生 からはイギリスの事情につきまして、ご説明をいただきました。お二人の先生の説明に 関しまして、ご質問の時間を少し取らせていただきたいと思いますので、委員の皆様ど うぞご質問をしていただきますようにお願いします。   ○長谷川委員   島田先生にお伺いしたいのですが、フランスの派遣法では、派遣法というか、不安定 雇用のことなのですけれども、これは労働者から見ても、事業主から見ても、うまくい っていると見るのか、何か問題を抱えていると見るときに、事業主はどう見ていて、労 働者はどのように見ていると思いますか。   ○島田   いまのフランスの派遣法、有期労働契約法制もそうなのですけれども、1990年にいま の基本的な制度ができて、もう17年ぐらい経つのですが、部分的な手直しはありますけ れども、基本的にはこれで定着しているというふうに思います。フランスでは結構大き な派遣業者団体があって、そこが様々な活動に取り組んでいるのですが、そこにヒアリ ングをしたのは4、5年前の経験なのですが、特段今フランスの中で法律をいじる必要 性は特に感じていないというふうに伺いました。ですから、両方、労働者側で言えばも っと法が厚いほうがあるいは使用者側ではもうちょっと柔軟なほうがいいという、一般 的な気持ちはあるのかもしれませんけれども、いまの法律の体制の中でどうやっていく かということが課題だというふうに伺っています。現状のままで行こうというコンセン サスが強いように思います。 ○長谷川委員   それはやっぱりフランスの場合は、欠勤労働者の代替利用だとか、一時的な仕事の増 加への対応とか、臨時的、一時的だというところによるものだと見ていいのですか。ど っちからも比較的、他の国と比べて比較的派遣に対して、事業者団体も労働者のほうか らも問題があって法律を見直しするべきだという、一般論ではなくて声高に出てこない というのは、ある意味でフランスの場合は臨時的、一時的だとか、代替要員だとかとい うことが、明記されていて、それに沿って、その法律が運用されているからだというふ うに見ていいのですか。   ○島田教授   なるほど。やっぱり、そういう機能の仕方ができる市場があるというイメージです。 だから、働き方は、モジュール型というのでしょうか。向けたところに対して、入れ込 むことができるので、例えば5人で働いているところが1人抜けて4人になったら、こ れは絶対仕事ができないという発想が強いみたいです。4人で何とかしようという発想 がなくて、ですから、そこに派遣を入れて、必要がなくなれば外すという、そういうこ とが可能で、それにはフィットしているのかなという感じがします。   ○長谷川委員   あとフランスでは登録だけですよね。日本だと登録と常用があるのですけれども、事 業主のほうから、常用みたいなものとか、労働者のほうから常用派遣のようなものがほ しいという、そういう声はあまり大きくないのですか。   ○島田教授   ないですね。むしろ常用になってしまうと。労務供給事業的な要素が強いんじゃない んでしょうか。   ○市川委員   1990年にできる以前に、この形態は労務供給事業的なものというのはどういう状況に あったのでしょうか。   ○島田教授   あのフランスがいちばん最初に派遣というのを合法化したのは、1972年で、そのとき は、あまり規制力が高くなかったのですが、その後82年にミッテラン政権になりまして、 現在のに近い法規制が出て、そこから90年の間に政権がいろいろ交替する中で、だいぶ 揺れ動いたのですが、厳しくなるとか。しかし90年から安定しているということだと思 うんです。フランスの場合どうだったかというと、一番言われたのは60年代では、 absenteeism無断欠勤が非常に増えて、そこに対して、どうやって労働力を確保するの かということで、やはりアメリカあたりから生まれてきたマンパワーとか、ああいう会 社がこう定着して、そこに対して出していくと。これを必ずしも当時で言えば違法なの だけれども、これを違法として見るということに、労使ともにあまりメリットがないの ではないかという議論がだんだん高まっていったというイメージです。やっぱり日本の 出発とは全然違って、適用対象がないですから、当初は建設土木とか、自動車、農産物 の収穫期とか、そういうところにかなり使われていった経緯があります。それがだんだ ん休日代替とか、IT系とか、専門技術にも広がっていったという、そういうイメージ です。   ○清家部会長   ほかにいかがでしょうか。   ○市川委員   私が聞き落としたのかもしれませんが、島田先生のペーパーの5頁にあります、労働 者派遣契約と、8頁にある派遣労働契約もまた労働者派遣契約と同様にと、これ2種類 は違うものなのですか。   ○島田教授   違うのです。労働者派遣契約というのは派遣元と派遣先を結ぶ、日本でもたぶんそう いうことになりますが、あとのほうは、派遣元と労働者です。合わせて1点補足させて いただきますと、非常に民事制裁は非常に厳しいということなのですが、フランスの場 合は、解雇は日本のような原職に戻るという制度は原則は使用者が嫌だという場合戻れ ませんから、損害賠償になるのです。だから、要するに期間の定めのない労働契約にな るという意味は、その破棄が解雇の場合に、期間を定めない労働契約の場合に請求でき る補償金が取れると、そういう趣旨なんです。だから、それは最低6ヶ月というのがベ ースになっているわけですが、それを請求できるということです。そのまま任意にはあ り得るのかもしれませんが、そうすると多くの訴訟というのは、そのまま派遣労働者が 派遣先企業の社員として働くことができるようになるということではイメージとしては ないということで、この点が日本とだいぶ制度が違うので。   ○長谷川委員   有田先生にお聞きしたいのですけれども、なかなか頭で整理できないのですけれども、 結局イギリスの場合は、派遣労働者から見た場合に、派遣元と派遣先がありますが、ど っちが使用者なのかというのは、どこで判断するのですか。   ○有田教授   法律上は先ほどもお話しましたように、定めがありません。法的な紛争になって、例 えば訴訟で裁判所に行ったときに、どちらか、あるいは当初、早い時期の裁判例では、 どちらとの間にも、労働契約関係、日本流で言えば、雇用契約関係がないという判断を 示す。そうすると使用者はいないということなります。指揮命令を受けて働いているけ れども、あえて言えば斡旋されていって自営で仕事をしているという形の評価なのでし ょうけれど。ただ、裁判所もそれで苦労して、ある種、日本の法律用語で、無名契約と いうか、suigenerisというか、固有の契約形態がそこにあるというような苦肉の言い方 をしていたのですが、ただ、最近の控訴院の判決の中では、やはりどちらかに責任を持 ってもらわなければ、契約は機能しているはずで、この働き方からすると、どちらが使 用者というふうに認め得る場合があります。それは黙示で契約関係を推認することもで きるのだから、先ほど言ったような指揮命令関係にあるということと、日本にかなり近 い賃金の支払いの実態がどうなのかということ、長期にわたって継続して働いていると いうことで、そういう場合には派遣先との間の労働契約関係、日本流に言えば存在して いるというふうに推認し得るというのが最近出てきている。それはやはりここが法律状 態として不明確なので、司法的に何らかの解決を図らなければいけないということで裁 判所が非常に苦しい判断をしている。だから学者の議論の中ではこれはかなり無理があ るという議論を労働学者の中でする人もいるのですけれども、これは立法的な解決が必 要なのだという意見が非常に強いということです。ただ、先ほどの法案の中にも、この 点については一切触れられていなくて結局均等待遇のところだけが法案としては中心の ものとして出てきている。そういう形の法案になっていて、三者間の法律関係について の規定というのは、結局、法廃案になったような、この法案の中でもやはり出てきてい ないと。そこはちょっとTUCなんかもどういうスタンスでこれを見ているのかという のがよくわからないのですが。   ○長谷川委員   それと、私たちはここで2回目の勉強会なのですが、アメリカ、ドイツ、フランスの 次はイギリスなんですけれども、派遣事業というのは、やはり拡大しているのと、派遣 労働者も増加しているのですよね。イギリスの場合、派遣事業者とか、派遣労働者とい うのは増加しているというふうに見るのでしょうか。   ○有田教授   そうですね、先ほどの数字の上に出ていたように、正確な数字というのは、なかなか 難しいようなのですが、どの数値を見ても、やはり増えています。とりわけ、労働者の 数も増えていますけれども、事業者数が非常に多くなっています。ある学者の分析によ ると、アメリカ資本の大きなものがちょっとあって、あとはイギリスの地場の昔からあ るエージェンシーが、事業を。イギリスの場合は、許可制がなくなってから、特に Employment Agencyとして、有料職業紹介事業と派遣事業を一緒にやっているようなと ころが多いです。それが地場で小さい規模の事業者がたくさん増えていったということ で、その辺でいろいろな問題を起こすところも多いと。事業者団体として自分たちもダ ーティーなイメージを何とかしないといけないということで、自主規制のルールをつく ったりしているのですが、やはり守らないのと、とりわけ、エスニックマイノリティー を派遣労働者として使っているようなところが、とりわけ大きな問題を起こしたという ので、ある種対症療法的にそこは許可制という形で強い規制をかけるということを一部 復活させる対応をしているということのようです。   ○長谷川委員   それで最後にもう1つ。イギリスは何でもありだと読んでいたのですけれども、その 中で、看護師の派遣事業は適用されないとなっているのですけれども、その理由は何で すか。   ○有田教授   やはり安全性とか、看護業務の特殊性ということで、もともと看護師の派遣について は、別の派遣法があって、これを新しいケアスタンダード、ですから、例えば看護なり、 介護なり、介護職も入っていますが提供するパーソナルサービスですから、その水準と いうのは、派遣される場合に、一定の水準は保たなければいけないということで、その ために一定の労働条件の確保とか、就業規律の確保とか、責任の所在を明確にさせると か、結構特殊なルールが必要だから一般の派遣のような規制が低いものとは違ったもの が別の観点で出てきているということであると思います。   ○清家部会長   ほかにいかがでしょうか。それでは時間になりましたので、お二人の先生からのヒア リングはここまでとさせていただきたいと思います。島田先生、有田先生ありがとうご ざいました。 (島田、有田教授退席) ○清家部会長   では続きまして事務局のほうで、資料を準備していただいていますので、引き続き事 務局から資料の説明をお願いします。   ○坂口課長   事務局のほうからご報告ですが、お手元にお配りしております配付資料No.2をお開き ください。ご報告いたしますのは、派遣先が講ずべき措置に関する指針の一部改正とい うことで、23日に公示して4月1日から施行というものでございます。内容は趣旨のと ころをご覧いただきますと、前年の国会で均等法が改正されまして、それにともないま して、「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関 し、事業主が適切に対処するための指針」ということで、これは、均等法に基づく指針 でございます。そちらのほうが策定されて、この4月1日から施行することとなってい ます。これに合わせた形で、技術的に派遣先が講ずべき措置に関する指針の中に、紹介 予定派遣の場合に、この均等法の関係の措置に準じて定めている部分もありますので、 それについての改正を行うというものです。後ほど新旧でご覧いただきますけれども、 概要にポイントを書いておりますが、これは、現在派遣先の指針におきまして、派遣先 が紹介予定派遣を受け入れる際に当たりまして、その場合は派遣労働者の特定を目的と する行為ということができるわけですが、その場合に、一定の措置を行わないようにと いう内容を、均等法に則した形で書いております。これに則した内容について、(1) と(2)に書いていますが、改正均等法及び改正の均等法指針におきまして、これまで の直接差別について、女性側からのみという形のものに代えて、男女双方に対する直接 差別が禁止されたということ等を受けまして、それに倣った改正を行うということが1 点です。それから(2)でございますけれども、同じく改正均等法と均等法指針におい て、間接差別に関わる禁止が規定されたということで、これについて派遣先指針にも、 これに準じた形での措置を定めるという内容です。具体的には、資料の参考の1ですけ れども、右側が現行、左側が改正後の派遣先の指針です。具体的には派遣先指針の第二 の十八の(四)ですが、現行側の右にありますように、これまでの均等法に準じまして、 均等法の第5条の趣旨に照らして行ってはならない措置ということで、(1)以降に定めて いるのですが、これにつきまして、(1)の部分については、アからカという形で書いてあ ります。例えばアの部分で、女性であることを理由としてその対象から女性を排除する ことというような記述や、イやウについても、女性又は男性について特定等に係わる人 数を設定するというようなことがないようにと。いわば、条件面も含めまして、女性で あるということを理由とした内容とならないようにというのが、現行の指針でありまし たが、改正後の指針は左側ですけれども、(1)ア等に書いてありますように、特定等に当 たって、その対象から男女のいずれかを排除するということでありましたり、条件を男 女で異なるものとすることというような内容について、均等法の第五条の趣旨に照らし て行ってはならないという内容に改正するものです。柱のところに、第七条と書いてあ るのが、間接差別に関わる部分で、2頁ですが、左側が均等法の第七条、均等法指針に 倣った形で、(2)ということで、間接差別についても、派遣先が特定等を行う場合に、講 じてはいけないということで書いているものです。具体的には(2)にもありますように、 性別以外の事由を要件とするもののうち、次の措置というものについては、講じてはな らないということで、これも均等法指針等に準じて例示していますけれども、例えばア にありますように、派遣労働者の特定等に当たって、派遣労働者の身長、体重又は体力 を要件とすること、イには、当該派遣労働者の特定等に当たって、転居を伴う転勤に応 じることができることを要件とするというようなものについては、間接差別に当たると いうことで、これを講じないようにということです。以下(3)の部分ですが、右側の(2)で 規定していましたポジティブ・アクションです。ポジティブに改善することを目的とす る措置は行っても構わないという内容につきまして、これも均等指針のほうに表記を合 わせた形で改正するというものです。それから3頁左側(4)についても、これも従前右側 の現行にありますように、(3)の適用除外という形で、均等指針に倣いまして、以下に書 いてあるようなケースについては、先ほどの講じてはならないというものの場合に適用 しませんということで、芸術・芸能分野、一定の基準法との関係で許されるというケー スについて、例示しています。これにつきましても、改正法につきましては、均等指針 等の表記に合わせた形で、整備をするという内容等でございます。以上のような内容に つきましては、告示の整備をさせていただいたということについてのご報告でございま した。   ○清家部会長   ありがとうございました。それではただいまの事務局からのご報告につきまして、ご 質問等あればお願いします。よろしいですか。                    (了承) ○清家部会長   特にないようでしたら、いまのご報告を承ったということにさせていただきたいと思 います。  それでは次に最初の議題の、労働力需給制度についてはここまでとさせていただきま して、一般労働者派遣事業の許可の諮問に移りたいと思います。冒頭に申し上げました ように、傍聴されております方につきましてはご退席いただきますようお願い申し上げ ます。また、鳥生職業安定局次長につきましても、所用により退席されると伺っていま す。  では次に事務局から何かございますでしょうか。 (傍聴者、鳥生次長退室) ○坂口課長   次回の部会につきましては4月26日木曜日9時30分から12時、同じく安定局第1会議 室で予定をさせていただきたいと考えています。したがいまして、従前、4月12日に日 程の確保のお願いをしていたのですけれども、4月12日には開催はしないということと させていただきたいと思います。申し訳ありませんがよろしくお願いいたします。   ○清家部会長   いま事務局からもありましたように、次回の部会は4月26日の9時半から12時で開催 させていただきますので、日程の確保等よろしくお願いいたします。次会の部会におけ る具体的な審議内容等につきましては、私のほうで事務局と相談した上で、各委員に、 事務局より予めお諮りしたいと思っております。よろしくお願いいたします。  以上をもちまして、第97回労働力需給制度部会を終了いたします。本日の署名委員は、 雇用主代表は、成宮委員、労働者側代表は長谷川委員にお願いをいたします。どうもあ りがとうございました。   照会先    厚生労働省職業安定局需給調整事業課調整係    〒100-8916東京都千代田区霞が関1−2−2    TEL03(5253)1111(内線5747)