07/02/22 平成18年度第4回医道審議会医師分科会医師臨床研修部会議事録 医道審議会医師分科会医師臨床研修部会          日時 平成19年2月22日(木)          10:00〜          場所 厚生労働省第7共用会議室(5階) ○井内専門官 ただいまより「医道審議会医師分科会医師臨床研修部会」を開催いたし ます。先生方にはご多忙のところご出席いただきまして、誠にありがとうございます。 本日は山口委員、吉田委員が欠席です。それでは議事の進行に入っていただきたいと思 います。これ以降は部会長にお願いいたします。 ○齋藤部会長 本日は前回に引き続き、指導医2名、研修医2名、公立病院関係者1名、 地域医療関係者1名、患者代表1名の方々からご意見を伺う予定となっております。初 めに、本日の議事の進め方について事務局から説明をお願いいたします。 ○井内専門官 ただいま部会長からも説明があったように、本日は関係者の方々からご 意見をいただくということで、医師臨床研修制度に関わるヒアリングを進めていきたい と思います。ヒアリングのために来ていただいている参考人の先生方には、お一人10 分程度お話いただきたいと思っております。10分間のお話の後に個々のディスカッショ ンをしていただき、最後にトータルでフリーディスカッションという形で進めていきた いと考えております。  次に資料の確認をいたします。お手元に配付いたしました資料は議事次第、さらに座 席表、委員名簿、本日来ていただいている参考人の先生方の一覧となっております。資 料1〜7は参考人の先生方の資料として付けております。配付資料に問題がありました ら、その時点で事務局のほうにお申し付けいただければと思います。なお、前回の議事 録案を委員の方々へ配付しております。本日の会議終了後、お気付きの点等がございま したら、2月28日までに事務局のほうへご指摘いただきたいと思います。その上で確定 したものとし、公表したいと考えております。 ○齋藤部会長 ただいまの説明について、ご意見、ご質問があればお願いいたします。 ないようですので、早速寺澤参考人から説明をお願いいたします。 ○寺澤参考人 発言の機会をいただきましてありがとうございます。本日は意見を2点 申し述べたいと思います。1点は、いま提示されたプログラムに対する意見で、もう1 点は必修化の後に起きている嫌な出来事に関して、こうしたらいいのではないかという 提言です。  先日私どもの駐車場で、必修化で2年間スーパーローテーションして腹部外科に行っ た後期研修医とすれ違いました。すれ違いざまに、彼が立ち止まって、先日外勤先での 当直の折、歩いて受診しに来た頭痛の患者がいたことを話し始めました。その病院はC Tスキャンをやるには放射線技師を医師が呼び出さないといけないという体制だったよ うですが、彼は病歴だけでクモ膜下出血の可能性があると見抜き、かなり嫌がる放射線 技師を彼が呼び寄せてCTスキャンを行わせ、非常にわずかなクモ膜下出血を見つけた という話をしてくれました。必修化のスーパーローテーションをしていなければ、おそ らくCTスキャンもしなかっただろうし、やったとしても、あの少ないクモ膜下出血は 見つけられなかっただろうと彼は言いました。「先生、スーパーローテーションは素晴ら しいです」と言って意気揚々と引き上げて行きました。  私は約30年前に沖縄県立中央病院でスーパーローテーションを行いましたが、その後 本土(沖縄から戻ってくるとこのような言い方をするのですが)に帰ってきてから出く わす医者が、私には皆非常に変わった医者に見えました。やはり、スーパーローテーシ ョンはみんながしたほうがいいのではないかと常々思っておりましたので、今回の必修 化の制度は個人的には英断だったと思っております。医学生や若手の医者に臨床能力重 視の傾向が出始めていますし、大学病院も多くの施設で臨床教育を重視する傾向が見え 始め、これまで学位、大学院など研究至上主義と言ってもいい医者の育ち方に対して、 その振り子を反対の方向に向けさせるかなりの力になりつつあると私なりに高い評価を しております。スーパーローテーションのおかげで、いわゆるゼネラリストとして生き ていこうとする人たちが、自分のエネルギーになる場所を探し、スーパーローテーショ ンをする。これまでは救急医、家庭医、総合内科医を狙っていかなくてはならなかった 時代でしたが、スーパーローテーションが始まったことによって、この領域に進む人た ちが非常に入りやすくなったというメリットも出始めていると思います。  プログラムで検討していただきたいことが2つあります。1つは救急部と麻酔科に提 示されたプログラムの書き方には、どうしても承服しがたいものがありました。救急部 (麻酔科を含む)というのは理解しがたいというのが個人的な意見です。私は救急部も 麻酔科もスーパーローテーションでローテーションしましたが、麻酔科で学ぶものと救 急室で学ぶものは全く違います。麻酔科は、いわゆる気道の管理、呼吸管理、循環管理、 全身管理ですが、救急室では、頭痛だと言って歩いてきた患者の中からクモ膜下出血を 見つける、胃が痛いと言って来る人たちの中から心筋梗塞を見つけるといったことが救 急の研修で大事なことですから、麻酔科と救急の研修はそれぞれ必修にして、期間を明 言すべきだったと思っています。もし再検討していただけるならば、是非お願いしたい と思います。  もう1つは、当直の過ごし方に関して非現実的な書かれ方で下りてきたことが、どう しても承服しがたいのです。3年目になってから、彼らは外勤先等で当直をやります。 救急で大きな問題が起きるのは平日の深夜帯と週末の準夜帯が大体定番です。いまスー パーローテーションの時期だから、深夜帯はあまり働かなくてもいいとしてしまうと、 深夜というきつい時間帯に救急患者をしっかり診る能力を養うということを、彼らは一 体いつするのでしょうか。やはり、救急のトレーニングで深夜帯を外すことは良くない と個人的には思います。せめて準夜帯だけでも救急の研修をきちんとできるような当直 の過ごし方の具体的な指示があっても良かったのではないかと思います。救急部を3カ 月なり、2カ月なりローテーションすれば、あとの1年9カ月、10カ月はそれぞれロー テーションしている他科の当直でもいいだろうという考え方がありますが、私は大反対 です。臨床研修病院として名を馳せている多くの病院は、救急部をローテーションして いる数カ月の期間以外も、当直の日がくると必ずERで、内科をローテーションしてい ても子どもを診る、けが人も診るという過ごし方を1年なり2年なりさせて彼らを鍛え ています。今回の当直の過ごし方に関する指針は明らかに違う、というのが個人的な意 見です。  必修化によって起きているとても嫌なこととして、特に地方の病院で医者が減ってい ること、あるいは市中の大きな総合病院でも指導医が疲弊して、開業するという形で総 合病院から離れていっているということに関して、私は3つの提案をしたいと思います。 1つは、日本のドクターたちにおける主治医のあり方です。例えば指導医はいまこのよ うな働き方をしています。自分自身も16人ぐらいの患者を持ち、初期研修医がくると、 その16人のうちの6人を一緒に診るという形で副主治医をさせ、医学生が来ると、その 中の1人ぐらいを医学生に受け持たせる、つまり主治医をしながら研修医や学生の指導 をしているわけです。もし、ここに後期研修医が来ますと、おそらく自分の持っている 患者のうちのかなりの患者を、後期研修医に主治医をさせながら指導すると思うのです が、日本のいままでのスタイルとして、指導医は内科部長クラスであっても自分が受け 持つ患者を最後まで必ずそのまま主治医をしています。患者が夜中や週末に亡くなりま すと、この指導医はやはり夜中も出てくるわけです。非常に疲弊したまま、指導医たち に、指導もしっかりやれと言うのはある意味大変残酷なシステムになっていると思いま す。  沖縄県立中央病院のスーパーローテーションと同じようなスタイルのものが、2年版 になって登場したと思ったのですが、根本的に違うところは、沖縄県立中央病院はチー ム主治医制を取っているということです。指導医の下に後期研修医と初期研修医、ロー テーションで見学に来たり、実習に来たりする医学生がいて、このチームで16人から 20何人かの患者を診ているわけです。実働は初期研修医と後期研修医で、指導医は非常 に難しい患者や難しい検査、手術、教育に完全に特化しています。つまり、名前は主治 医ですが、指導医は主治医業務から完全に解放されており、いわゆる専門的な診療や教 育に専念でき、良い研修ができる。研修医が集まることによって、指導医は基本的な雑 用から解放されているわけです。  臨床教育を良くしようとするならば、指導医たちの負担をもう少し軽減して、研修医 が来たら教えるだけで、雑用から解放されて、自分の肉体的な苦痛はかなり軽減される。 言葉は悪いですが、ある意味指導医にとっておいしい面がないまま、日本の指導医の働 き方で初期研修の制度を押し付けていくと、多くの指導医は逃げ出すのではないかと思 います。チーム主治医制の奨励を、是非厚生労働省レベルでしていただけないかと思い ます。  もう1つは、救急の研修が大事だと言われながら、実際の現場では救急の研修がうま くいっていないということです。それは各科の当直の先生方が指導医として初期研修医 の指導に当たっている病院が圧倒的に多いからです。例えば頭を打って吐いている子ど もが来たとき、初期研修医は当直の外科系の先生に相談する。それがたまたま整形外科 の先生だと、「そんなもの俺に相談してどうするのだ。脳外科の医者に電話しろ」と電 話を切ってしまいます。そこで自宅拘束の脳外科の医者に初期研修医が電話をすると、 「お前がいきなり電話してくるとは何事だ。外科系の当直医から俺に電話があって然る べきだろう」とまた電話を切られる。現場ではこのようなことが起きているのです。つ まり、この国ではERで働くスペシャリストが養成されてこなかったために、救急の研 修は大事だと言われながら、現場ではあまりうまくいっていないというのが現状です。 それは救急医学会がこれまで通してきた、ある指導も関与しています。  日本救急医学会は、いわゆる三次救急、クリティカルケアをやる救急医を救命型の救 急医、あるいはICU型の救急医と我々が呼んでいるスタイルで育ててきました。つま り、三次救急の瀕死の患者が来たときにERで初期診療をして、ICUに連れて行き、 多発外傷は自分たちで手術をし、他科のドクターに依存せずに三次救急の初期から治療 までを、完全に独立した形で行う集団を救急医として育ててきました。このスタイルの 中、一次、二次救急、つまり自家用車、タクシー、ワゴン車で乗り付けてくる患者たち はどうなっているかと言いますと、やはり各科の当直医が診ております。残念ながら、 ここで大きなトラブルが起きています。ここの当直の先生方の守備範囲が限定されてい るために、自分の不得意な患者に関してはトラブルが起きる。このようなところで初期 研修医が研修をして、果たして良い研修が成り立つかと言うと、かなり疑問だというの は、考えれば誰でもわかる話ではないかと思うのです。  一方、北米では一次、二次、三次という区別なく、最初に救急室に来た患者は、子ど もであろうとけが人であろうと病人であろうと、我々がER型の救急医と呼んでいる Emergency Physicianが診ています。この人たちは腹痛や発熱の子どもも診るし、目が 痛いという人も診るし、心肺停止の患者も診るのです。そのようなドクターを救急医と して育てます。入院が必要だとわかると、各科にconsultationして、入院の治療は各科 に完全に分業されて、救急医は初期診療部隊、各科のドクターが入院治療部隊として分 業するスタイルをアメリカは作りました。  分けて見ると、日本の救命型の救急医はここ(救命型救急医)をやり、アメリカ、カ ナダの救急医はここ(ER型救急医)をやっていることになります。完全に守備範囲の違 う救急医を育てつつあるというのがこれまでの現状でした。私はこの2つの救急医が、 日本で両方育てられればいいと思っています。救命型の救急医とER型の救急医が両方 育てば、初期研修医はER型の救急医に歩いて来た頭痛の患者の中からクモ膜下出血を 選び出すにはどのような病歴を取るべきか、心下部痛で来た患者を心筋梗塞だと見破る には、どのような人をうまく選び出せばいいか、その辺りをこのドクターが教えること ができます。このドクターたちは各科の後期研修医となった人たちのクリティカルケア の全身管理を教えるスタイルで貢献できるはずです。今後、この救命型タイプの救急医 とこのER型タイプの救急医が両方育つことが、この国での研修の発展に必須ではないの かと考えております。  整理すると、アメリカではこのようなクリティカルケアのチームとER型の救急医、 家庭医、総合内科医が育ちました。日本では救命型の救急医は育っていますが、残念な がらERで教えることができるドクターは育つことなく、かつ家庭医や総合内科医も育 つことなく、開業医に任されてきました。この2つを今後何とかしない限り、日本の初 期臨床研修は発展しないのではないかと思っております。ER型の救急医、家庭医、総 合内科医と救急部ローテーションの研修医たちが初期診療の研修と診療を兼ねる。そし て各科の専門の医者たちを病棟での治療に専念させてあげないと、各科の専門の医者た ちはこのドクターたちの代わりもし、入院の治療もし、年をとっても診療をして疲弊し てしまう。そのため、総合病院からいいドクターが離れていくということが起きている のではないかと思います。このドクターたちを育てることで、この先生方の疲弊は少し 軽減されると思います。  最後に、ゼネラリストの養成をお願いしたいと思います。ゼネラリストの養成は後期 研修の問題になりますが、厚生労働省は後期研修に関してはあまり積極的なアプローチ を見せていないようですが、それは良くないと個人的には思います。ERで働き、教え る救急医、そしてクリティカルケアをやる救急医、いま日本の救急医学会はこの両方を 育てる姿勢を見せ始めました。一方、総合診療学会が総合内科医、家庭医療学会が家庭 医という形で、この2つをいまから育てていくと思うのですが、現場で見ていると道は かなり険しいように思います。総合診療がこの2つを、救急部がこの2つをうまく育て られるような国からの支援がないと、現場はなかなか難しい、苦悩に満ちた毎日を送る ことになります。  大学病院は各科の専門の医者を地域の病院に派遣していました。研修病院が、大学か ら医者が少しシフトする形で臨床研修が始まり、大学から各科の専門医が地域の病院に 派遣されなくなりました。この苦悩に満ちた状況の突破口はゼネラリストの養成だと思 います。つまり、研修病院と大学病院で家庭医の後期研修のコースを立ち上げ、大学病 院、研修病院で総合内科医の研修のコースを立ち上げ、総合内科医を地域の病院に、家 庭医をその近隣の診療所に派遣して、家庭医が通院と往診を、総合内科医が入院と検査 に特化する形でうまく役割分担できれば、もしかすると地域の医師不足の解消の1つの 突破口になるのではないかと考えております。  いま福井県の最南端の高浜という地域がかなり苦境に陥っております。社会保険高浜 病院は2003年はこの状態でしたが、2005年には大学からの引き上げで一気に内科医が 減り、かなり苦しい状況になりました。私もこの病院に月1回応援に行っておりますが、 私どもの総合診療部のドクターがこの近くの診療所に2005年に赴任しました。去年から もう一人行って、2人になりました。自治医大の先生が大飯町の診療所をスタートさせ、 ここでも家庭医が働き始めています。大学の引き上げによる高浜病院の弱体化を、この 診療所はいま見事にカバーしつつあります。この辺りで少し家庭医が、やがて高浜病院 にも総合内科医が赴任する形でこの苦境が乗り切れるのではないかと予想しております。  日本でER型の救急医が働こうとすると、実はかなり苦難があります。それは多発外 傷が来たときに、外傷のチームが育っていない病院だったり、原因不明の発熱の患者が 来ると、内科のスペシャリスト同士で押し付け合うといった問題が発生し、これらの患 者たちの入院が非常に難しいことが発生して、ER型の救急体制をうまくつくれないと いった現状です。もし、外科系のドクターがクリティカルケアのローテーションも後期 研修の中に組み入れて、総合力のある外科系の後期研修のコースが立ち上がり、内科系 も一気に循環器内科、呼吸器内科と行くのではなくて、総合内科的な研修を受けた後、 循環器内科、呼吸器内科に行くというスタイルの育て方で、多発外傷で引取り手がない とか、原因不明の発熱で内科のサブスペシャリティの先生方が押し付け合うといったこ とが防げれば、ER型の救急医がうまく働けて、その体制は施設でうまくいく見通しが 出てくると思います。残念ながら、現時点ではER型の救急医は皆苦悩しております。 ここの総合医たちの、あるいは総合力のある後期研修のコースを立ち上げなければ、E R型の救急は救急医としてあちこちで働き始めたとしても、おそらくみんな潰れていく だろうと予想しております。  いわゆる後期研修の指針の提示を、是非国レベルでしていただきたいと思います。初 期研修がここまでいい成果を上げつつある今日、後期研修に関して国が何らかの指針を 出さないと、これまでのようにスーパースペシャリストだけが育ち、日本の医療はなか なか良くならないと感じております。地域医療のマンパワー不足の対策としては家庭医、 総合医の養成、救急研修の充実にER型の救急医の養成と配備の奨励、あるいは後期研 修で外科系に行く方々が、多発外傷を診ることができるような外科系の後期研修になる ように、内科のサブスペシャリティに行く方々が、総合内科の力を持てるような後期研 修になるようなコースの奨励、後押しを是非国レベルでしていただけないかと現場では 感じております。  まとめとして、単独主治医制では優秀な指導医が疲弊するので、チーム主治医制の導 入を国レベルで指導したほうがいいと思います。救急の研修の充実にER型の救急体制 の導入が急務だと思います。医師のマンパワー不足には家庭医、総合内科医の養成が急 務だと思います。関連領域のローテーションを含む総合力重視の後期研修の立ち上げを、 国レベルで推し進めるべきだと思います。ご静聴どうもありがとうございました。 ○齋藤部会長 貴重なご意見をありがとうございました。あまり時間がないのですが、 少しディスカッションをお願いいたします。まず、いま言われたチーム主治医制という のは非常に合理的でいいと思いますが、それには患者やその家族の理解がないと駄目だ と思います。重篤になったときは、夜中であっても主治医がいないとはどういうことだ と言われかねないわけですから、それをどのように社会全体で変えるかでしょうね。 ○寺澤参考人 たぶん、それはスタートの時点での患者への紹介の仕方だと思うのです。 沖縄県立中央病院はその点を非常に巧妙にやっていて、もちろん主治医はスタッフです が、「私と一緒に働く○○先生です。○○先生です。」といった紹介の仕方をいたしま す。1日1回は必ず回診で、上級の先生と後期研修の先生、初期研修の先生が必ず顔を 出し、上級医が研修の先生に指示を出している姿を患者や家族にきちんと見せています 。研修の先生だけで治療するのではないということが非常にわかりやすく、また見えて いる状態をつくりながら、夜中に具合が悪くなったときも、研修医がもちろん動いてい るが、上級医がきちんと指示を出せる体制になっているといった風土を、沖縄の方々に うまく植え付けたように思います。  例えばいま福井県立病院の救急室で、救急医や研修医が子どもの診察をしても福井市 民は怒りません。しかし、東京では、小児科の名札も付けていない医者が子どもを診た ら、たぶん患者たちは怒るのではないかと思います。福井でこれが実現するのに20年か かりました。それは我々が診て、必要ならば小児科の医者を呼ぶということを、福井市 民に見せてきたから、市民がそれを受け入れつつある状態になったと思います。このス タイルも、時間をかければ患者たちに十分受け入れられるシステムだろうと思っており ます。 ○齋藤部会長 他に何かあればお願いいたします。 ○相川委員 私は救急医学を専門にしているので、ただいまの寺澤先生の考えにかなり 近いものを持っております。特に今日は医政局長もいらっしゃいますが、日本の救急体 制に関して、研修の場から見た救急ということで述べますと、救命救急センターが全国 に配置されて、死にそうな、あるいは既に心臓が止まっているような患者に対する治療 に関してはかなり整備されましたが、臨床研修の場から見ると、救命救急センターはあ まり適切な場所ではない、むしろER型の救急部門で研修したほうが良いと思っており ます。  1つ目の論点で、最初に言われた救急と麻酔とをはっきり分けるべきだということに ついては、この制度設計をする委員会のときからそのように思っておりました。救急と 麻酔とは似て非なるものです。しかし、意識のない患者が来たときに挿管ができるとい いので、一部の方は挿管については麻酔科の先生も非常にうまいからと言いますが、麻 酔科の先生は手術室で全身麻酔を管理するのが主な仕事であって、救急で来た患者の first doctorとなり、患者を判断するのは救急医の仕事です。そうすると、むしろ研修 医は後者のようなトレーニングを受けるべきだし、全身麻酔あるいは全身管理の必要が あるならば、麻酔のトレーニングもある期間を区切ってやることによって、その両者を はっきり区別するということには非常に賛成です。 ○齋藤部会長 時間の関係もありますので、次に和泉参考人から説明をお願いいたしま す。 ○和泉参考人 このたびは発言の機会をありがとうございました。私は北海道の名寄市 という一地方病院で働いておりまして、臨床研修を担当しておりますので、地方の臨床 研修病院から見た医師の臨床研修制度についてお話させていただきます。ご存じないか もしれませんが、名寄市というのは、旭川から北へほぼ90kmの所にある道北の基幹都市 ですが、道北は人口も少なく、まばらな小さな町の集まりです。私は臨床研修を担当し ておりますが、病院の概要は自治体病院です。北海道は5つの医療圏に分けられますが、 私どもの病院は道北の三次医療圏の中央センター病院に指定されております。病床数は 469床、外来患者数は1日1,000人程度、手術件数は2,500件前後、分娩数は500〜600 というところです。現在医師数は51名で、厚生労働省が指定している指導医は33名、 研修医は現在10名おります。  後でも話が出ますが、地方のセンター病院として、北海道は無医村やいくつかの小さ い診療所をたくさん抱えておりますので、そこへの医療支援も1つの重要な仕事です。 いままでは大学が担当していた医療支援が、いくつかの医師の引き上げによって、最近 ではそれを担当することも地方のセンター病院の仕事に移行しつつあります。平成18 年度は代替医師の派遣とサテライトのクリニックを合わせて、約300日ほど医師を派遣 する事業を行いました。当院は新制度になる前から研修病院に指定されておりましたが、 2004年の新制度が始まってからは、私どもは単独型ではありませんが、大学に行った学 生が多いので、北海道大学と旭川医科大学の協力型病院として3名を受け入れてから 徐々に増えて、最近は10名という形になっております。  これは研修医の処遇ですが、自治体病院ですので、名寄市の嘱託医の規定に沿って給 与を出しております。住宅環境、その他学会出張規程を決めております。これはどこの 病院でもやっていることだと思いますが、一地方病院として何とかいい研修を提供でき ないかということで、病院内でいろいろ話し合った上でプログラムを決めましたが、た くさん受け入れればいいというものでは決してなくて、病床数からすればもう少し受け 入れることはできるのですが、密度の濃い研修にしなければいけないということを原則 にし、一診療科をローテーションするのは1人の研修医ということを原則としておりま す。研修評価はEPOCのシステムを利用しております。10名程度の研修医ですから、 専任のセンター職員という形では採っておりませんで、すべて兼任で行っております。 研修医はいろいろな問題を抱えることがありますので、私はプログラム責任者をやって おりますが、週1回程度、早朝に研修医と話をする機会を必ず設けて、意見交換をした り、要望を聞いたりしております。  指導医教育については、各地で指導医講習会が開かれておりますので、これを受講す ることを促進しておりますが、指導医はかなり疲れています。しなければならない仕事 がたくさんあるし、地方の病院ですから臨床が非常に忙しい。そこで指導医手当を支給 することにしました。地域保健医療の研修については、先ほど示したサテライト診療施 設や医療支援施設と相談して、1カ月ほどいい形で地方に行ってもらっております。  いまのお話にもありましたが、私どもの病院には救急部が独立してありませんので、 救急室で救急を見ることになります。今回のプログラムでは麻酔科に3カ月行き、それ とは全く別個の形で、必ず指導医とペアで月3回程度当直をして、夜の救急を勉強させ ます。いまのお話にもあったように、ゼネラリストは非常に重要ですが、縦割りの診療 科で研修をすると、どうしてもその科のことしかわからず、外来診療が疎かになること もありますので、当院では総合外来という形で最初に患者を診て、ある程度考えて振り 分けをするという仕事を研修させております。研修会、勉強会についてはどちらの病院 でも同じだろうと思います。  ここ3年ほど新しい制度でやってきて、私どもは地方の臨床病院ですが、研修医を教 育する、医師を育成することは義務であると常々病院長が医師全体に話しておりまして、 それがだんだん行き渡り、当たり前のことだという意識づけがされてきております。や はり、教育にはお金と時間がかかるから、医師を育てるのも投資として考えてほしいと 話しております。実際に補助金としてくるのは、研修医1名に対して1カ月13万円ぐら いですが、先ほどの処遇やいろいろなことからしても、これ自体は赤字になるわけです が義務であると考えております。若い研修医がいるということは、病院内が非常に活性 化します。教えなければならない下の人間、研修医がいるということは、指導医の意識 の向上につながるので、指導医にとってもメリットが本来はあるはずです。  近年医療安全ということが強く言われておりますが、研修医がいることで考えなけれ ばならないことがたくさん出てきて、医師全体の医療安全における意識が向上いたしま した。いろいろ意見はあるところですが、研修医がスーパーローテートによって、いろ いろなことを幅広く勉強する期間があるというのは、かなりの能力が付くことだと思い ます。特に2年次の研修医はかなりの実力が付いて、指導医とペアで当直をしている場 合は、どちらかと言うと、2年次の研修医のほうがいろいろなことがわかっているとい うことも中にはあるようです。  ここ数年間研修医たちと話をしていて、研修医から見た問題点として挙がるのは、診 療科によっては学生実習の延長ではないかということであり、これはどこでもあるよう です。特に、2年次の必修科は最低1カ月となっていますが、産婦人科で1カ月研修す ることが一体どれだけの意味を持つのかといった質問をする研修医もおります。細切れ にローテーションするために、いくつかの問題点が起きることもあると思います。経験 目標、経験手技、レポートなどがありますが、項目が煩雑なことと、初歩的なこともか なり含まれていて、研修医としては義務感というか、そのような感覚で非常に面倒だと 言っております。外科系の専門医を目指す研修医は、修練が遅れるということを話す者 もおります。  原則として指導医の許可がないとできないことについては、免許を持った医師であり ながら立場が曖昧で、責任の所在といった問題もあります。例えば、指導医の許可なく、 やってはいけないと言われながらも、病棟では1人でやらなければならないこともあっ て、後で指導医がそれを容認するという形がほとんどですから、非常に立場が曖昧であ ると。指導医側から見ると、いま指導している指導医というのはスーパーローテーショ ンの形を義務として育ったわけではなく、縦割りの専門医だらけでやってきたわけで、 その人たちが指導するわけですから、指導医が総合的に教育できないという問題点があ ります。  医学部では教育することを教育されない。昔の人たちはただ後ろに付いてくればいい という所で育ってきているので、指導医が下の人間を教えるといった教育的な手法を修 得していないことが多いと思います。私どものような一般病院の勤務医は、日常診療に 追われて教育に割く時間が非常に少ないというか、それをするためにはかなりの労働を 強いられるわけです。特に、最近は患者の権利意識が高く、教育より診療を優先しなけ ればならない状況にありますので、うまく教育していくには現場にはいろいろな問題点 があります。忙しいので研修評価を期限内に行えない指導医が多くて、結局は時間外労 働が増えます。やはり、多少疲れていくか、指導を疎かにするかということになってい くのです。  まとめとして、これらのことから臨床研修を担当して思ったこと、要望をここに示し ました。まず、臨床研修制度の継続は必要なことだと思います。ただ、これを議論する には指導医の問題もあるので、現制度で育った研修医が指導医になってからが問題だと 思いますから、それからの評価が必要ですし、もう少し長いスパンで、これで育った研 修医のその後の評価も必要だと考えます。カリキュラム、プログラムについては、先ほ ども述べたように、2年次の必修科目と期間は妥当かどうかという意見が非常に多く見 られるということです。順番もありますから、2年の間でもう少し柔軟性を持つプログ ラムにできないかといった意見もあります。初歩的なことも結構たくさんレポート項目 にありますし、本来は卒前の臨床実習でいくつかのことをもう少し済ませてから卒後臨 床研修に行くような、卒前の実習と卒後の臨床研修の連携、一貫性があったほうがいい のではないかと思います。  研修医の処遇についてですが、今いろいろなアンケートの中には、研修医が給料面な どいろいろなところに不満を持っている施設もあるようです。いい研修をすることを目 的に行く人がほとんどですが、中には給料格差によって決めている研修医もいるわけで すから、中身で勝負するのであれば、施設間の格差をなくして、研修医の給料は全国一 律にすべきではないかと思っております。指導医についてですが、いまのままでは指導 医は疲れていきます。先ほどの先生と同様、何かないと駄目ではないかという意見です。 これは給料だけではなく、いろいろな体制の問題もあると思います。  いま臨床研修病院は非常に幅広く増えておりますが、この中には、いい臨床研修をし てもらおうということだけではなく、医師数が足りないという現実から臨床研修病院に なる病院も北海道の中にはあると考えます。そこで、各都道府県の実態と分布を考えた 施設の基準と限定をすべきではないかと思います。先ほども示したいままで大学が担当 していた地域医療支援も、大学の医師が少ないことによって、北海道ではどんどん引き 上げが起こっております。そうすると地域の医療が崩壊し、結局それをまた支援するの はセンター病院であり、臨床研修病院であるということになって、どんどん仕事が増え ていくわけですから、このようなことをする病院にはそれなりの処遇をしていただけれ ばと思います。  臨床研修プログラムについてですが、いまお話したように、現在北海道では医師不足 から診療科の集約化や閉鎖が相次ぎ、各病院の状況が目まぐるしく変化しております。 プログラムの変更は前年の4月30日までしかできませんが、北海道では病院の状態がど んどん変わっていきますので、部分的な変更についてはもっと柔軟性を希望いたします。 以上です。 ○齋藤部会長 どうもありがとうございました。何かご意見があればお願いいたします。 ○山下委員 ご苦労されていることがよくわかりました。2つ教えていただきたいと思 います。いわゆる臨床研修プログラムという枠組みではなくて、先生が言われた卒前・ 卒後の教育という一連の流れ、大学との協力、地域医療といったことは、医療システム 全体で考えていかなければいけないと思うのですが、それに対する先生のビジョンをお 聞かせいただきたいというのが1つ。先生の所はかなりコンスタントに初期研修を採っ ていらっしゃるようですから、後期研修に1年生が既に出ていると思いますが、どのよ うな選択をして、そのようなときに先生方はどのような関与をしたのかについても教え ていただきたいと思います。 ○和泉参考人 後の質問についてですが、私どもの病院で後期研修する者はいまのとこ ろおりません。中身は書きませんでしたが、私どもではいま少ないと言われている産婦 人科と小児科を希望する研修医が非常に多く、一旦大学の医局に所属する形で旭川医科 大学に帰る研修医がほとんどです。もう1つは全く別のことですが、北海道には北海道 プライマリーケア・ネットワークというゼネラリストを育てる会があって、1人がそれ に入ってゼネラリストを目指しております。私どもの所ももっと医師がいたほうがいい し、後期研修はさらに実力がついた人ですから、是非私どもの所でという話をして、そ のような基準でホームページにも載せておりますが、いまのところはまだありません。  卒前教育と卒後教育は一貫してできなければならない、いいプログラムを作ろうとす ればそうだと思います。全国の医学部長病院長会議でいくつか提言されていた方法が、 個人的にはいいのではないかと思っております。つまり、いま臨床実習はどんどん早く なっていますが、結局、臨床実習をやっている間に国家試験の勉強をする形になってい るので、どちらかと言うと国家試験に向いてしまって、臨床実習があまり有効でない可 能性があるのではないかと個人的には思っております。頑張る医学生もいるのですが、 こっちもあっちもというと大変ではないかと思います。 ○齋藤部会長 本日は7名の方々からご意見を伺う予定ですが、やっと2名の方が終わ りました。大変熱心なご意見をいただいております。次に、木佐参考人にお願いいたし ます。 ○木佐参考人 簡単に自己紹介いたしますと、北大を2004年3月に卒業しまして、1年 目に北大病院のたすき掛けで帯広厚生病院に行き、2年目は北大病院で研修いたしまし た。帯広厚生病院の後期研修では、最近つくられた総合診療科、こちらは総合診療や地 域医療を目指す人を対象としたプログラムですが、この病院が気に入ったので3年目は ここで研修を始めて、いま半年間の予定で苫前という人口4,000人の町に行っておりま す。苫前は札幌から北へ車で3時間半ぐらい行った所で、日本海に面した小さな病院で す。そこで経験してきたことについてお話させていただこうと思います。  北大もそうですが、特に帯広厚生病院はこの制度が始まってから研修医を集めるのに 力を入れ出したような病院ですから、伝統があるわけではなく、試行錯誤して行ってい るのが現状かなと思います。そのような意味で気付いたところ、問題点をお話します。  最近できた初期研修の制度の良い所としては、採用に当たって各病院が事前に情報を 公表してくれるようになって比較がしやすくなり、事前にしっかり準備をしなくてはい けないという動機づけが出てきたことだと思います。研修に対するモチベーションが上 がって、学生時代のうちから研修はどうしようかといった気運が出てきたのはいいこと だと思います。より早期から就職活動を開始するようになり、学生時代の活動が圧迫さ れるので、どちらがいいのかという話はまた別にありますが、少なくともモチベーショ ンは上がっているということです。昔は「隣の医局は外国より遠い」という格言を話し てくれた先生がいましたが、いまはそのようなことはなくなり、風通しも良くなって、 研修医になったら堂々と複数科で研修ができるようになったということがあると思いま す。また、制度として明確化されたのである程度の収入が保証されるようになったこと は非常に助かると思います。  良い所ばかり言ってもしようがないので、問題点のほうを用意してきたのですが、ま ず研修医側の問題として、10名いれば1名、2名はこのようなパターンに陥るかなと思 われることですが、飲み込みが遅くてなかなか仕事がさせてもらえないというものです。 仕事をさせてもらえないので全然勉強できず、ますます仕事ができない、その科には数 カ月しかいないので中途半端なところでタイムアップになってしまい、また次の科に移 る。これを2年間ローテーションしている間繰り返し、いろいろ頑張ってはみたが、実 力が付いたのか、ついていないのかわからないといったケースが見られると思います。 いままでのように、1年間1カ所で手取り足取りじっくり教えてもらっていたときには あまり問題にならなかったかもしれませんが、新しい制度になってこのようなケースが 出てきているかなと思います。本人のやる気とは別に、最初の人間関係、特に指導医や 病棟の看護師などとの人間関係をうまくつくれないと、つらい3カ月になってしまうと いうことがあります。  病院の特徴によって、経験しづらいことをどのようにして教えてもらえばいいのか、 研修医たちは試行錯誤していると思います。例えば病棟研修が中心の科が多いと思いま すが、外来の研修をしたいというときに、どうやって指導医に相談すればいいのかわか らないとか、急性疾患も診たいが、担当するのは入院中の慢性疾患が多いのでどうした らいいかということを、遠慮があって指導医に相談できないといった研修医もおります。  どちらかと言うと指導医側の問題として、指導医の先生方は熱心な方が非常に多いの ですが、教えるのが得意なことが是非教えたいことで、それは自分の専門領域であり、 研修医が知りたいこととは必ずしも一致していないということが多々見られます。もう 1つは、自分が教わっていないことは自信を持って教えられないということです。指導 医が自分で診療をやる分には全く困らないのでしょうが、例えば感染症、医師・患者コ ミュニケーション、最近の文献検索などについては、自分では何とかやっているが、研 修医に教えるとなると、ちょっとわからないから適当にやってよ、ということに陥りが ちです。いままでは自分の科に進む研修医だけを教えていればよかったのが、自分の科 に直接興味もない研修医も教えなければいけないということで、どうアプローチしたら いいかわからないという声があります。総論だけではなくて、各論の指導医研修会、感 染症についてはこのような形で勉強して教えてはどうか、そのような研修会があるとい いのかなと思っています。  いままでの話にもあったように、指導医の先生は非常に疲れていて、特に1カ月ずつ 研修医が回ってくる所では、傍から見ても疲労の色が濃いと思います。2年経って小児 科、産婦人科に行くと、教えるのはいいわと。忙しいから研修医には対応できない、も ちろん個別のニーズにも応えられない。研修医も遠慮して、もういいですとなってしま うという状況があります。先ほどもありましたが、指導医側に何らかのメリットがない といけないのだろうということで、研修医にお金を上げるならば、指導医にそのお金を 使っていただいたほうがいいのではないかと思います。  個々の研修医の目標の差ということで、当然モチベーションの差はありますが、モチ ベーションがあってもどうしようか、将来専攻する科を見据えて研修の内容を選んでい くパターンもあれば、研修する科と無関係に何でも幅広く取り込む人もある。何でもで きることに越したことはないのでしょうが、非効率な面があること、あちこち手を出す と付いて行けないということもあって、先ほどいろいろな経験があるということを言わ れていましたが、それは私も実感していることで、必ずしも診療できるレベルになるの かというと、なるところもあれば、ならないところもあるから、ちょっと漠然とした目 標かなと思っております。将来の目標別にしっかりやっておいたほうがいいところと、 誰でもできなければいけない最低の目標とを、もう少し弾力的にできるような指針を示 していただいたほうがいいと思っています。  医療事故の話もよく出てくるのですが、大体研修医が余計なことをするのは事故の元 と言われていて、できることに制限をしようということで、5年前の先生は1年目から やっていたことを私たちには手取り足取りやりましょうと。それはそれで安全なのでし ょうが、その分成長もしないということがあって、各科細切れで、それぞれの流派を覚 えていたりすると、3カ月経つとこの流派は終わりかといったこともあって、一貫性が ないと思ったりすることもあります。事故を起こすのは研修医であっても、システム全 体に問題があるということもあります。例えば、病棟によってローカルルールが違った り、各科で対応が違ったり、病院のルールが多過ぎて書類が山ほどあり、短期間では把 握できないこともあるので、一律に研修医のせいにはしないでほしいと思います。医療 安全講習会も開いていただいていますが、現場とのギャップがあって、一体どちらが本 当なのかと思うこともあります。よくあるのはリキャップ禁止です。リキャップを国試 で選ぶと禁忌肢に当たると後輩から教えてもらったのですが、私の行った職場はどこで もリキャップをやっておりまして、リキャップはやっては駄目なのではないかと言うと、 「そうだけど、どうしようもないんだよね」とよくわからない返事がくるというのが現 状です。  その他、研修前に病院が潰れてしまうとどうしようもないので、いま各科の撤退の話 もありましたが、そちらのほうを心配しなければいけない現状が北海道では多いのかな というところと、ドロップアウトしてしまう研修医、100人いれば数人は出てしまうの で、それへのアプローチ。たぶん、いままでは医局で抱えていて、長い目で見て相談に 乗っていたのでしょうが、面倒があまり見られなくなってしまうのはどうするのか。ち ょっと厳しいのではないかと思われる研修医に、今後どのようにアプローチしていくか。 アンケートにいいことしか書かないなど問題はありますが、全部話しているときりがな いので、以上で終わらせていただきます。 ○齋藤部会長 ありがとうございました。現場から大変具体的で生々しいご意見をいた だきましたが、いかがでしょうか。特になければ、次に高崎参考人にお願いいたします。 ○高崎参考人 このような場で発言する機会をいただきまして誠にありがとうございま す。現在、私は倉敷中央病院の脳神経外科で後期研修医、シニアレジデントをさせてい ただいております。私の研修を踏まえて、同僚たちの意見等も参考にしながらお話させ ていただきたいと思います。  初めに、倉敷中央病院はこのような所にありまして、病院の外観はこのようになって おります。病床数は1,116床で、手術室が19室、ICU8床、CCU24床、NCU8 床といった状況です。NCUというのは脳卒中脳神経外科の専門ユニットで、SCUと 同じような所です。病院の正面玄関はこのようになっております。初期研修の内容は私 がスーパーローテートを開始した年の人数で書かせていただいておりますが、ジュニア レジデントは25名、そのうち内科系のレジデントは15名、外科系は10名でした。研修 内容としては、外科系、内科系ともに1年目は特に変わりがなく、3カ月ごとの外科( 腹部外科)と麻酔科を3カ月ローテートしました。6カ月の内科については、実際には 2カ月ずつの内科を3科回るような状態でした。私は外科系で、当院の場合はもともと 内科は6科の中から3科を選ぶことになっていましたが、自分に関係がある呼吸器、消 化器、循環器を選択して回りました。  2年目になると、いちばん右端に書いてあるように、外科系の人間は5カ月の希望枠 があって、希望枠の中で選択科を希望することができました。内科系に関しては内科全 般を回るのがいいだろうという、このときはそういう判断だったと思うのですが、4カ 月、精神科が1カ月延びていることと、あとは内科の4カ月があり、残りの6カ月は2 科を回る状態でした。  当院での研修の特徴を自分なりに考えますと、概要としては病床数が1,116床で、医 師数が343名、このうち指導医は60名おります。救急センターは総受診者数が5万7,942 名、救急搬送も7,038名と比較的多いのではないかと思います。  治療体制としては患者1人に対して主治医と担当医と指導医の3人で診させていただ いています。私たちがジュニアレジデントをしていたときは、担当医の枠で診療に当た らせていただきました。実際にはいちばん患者の窓口になるような状態ですが、主治医 の先生自体も、当院ではシニアレジデントと呼んでいて、3年目から5年目までの医師 が担当していて、さらに指導医の先生と相談しながらという状態でした。平均の担当患 者数は担当医1人当たり大体10人ぐらいで、実際は15人ぐらいだと思うのですが、そ れぐらいの幅の人数でした。  症例数としてはいわゆる大規模の病院に準じていると思いましたし、当院は市中病院 でしたので、いわゆるコモンディジーズを非常に数多く診ることができて、短い各科の 研修期間での経験症例は豊富であったと考えています。  理由ですが、自分が当院での初期研修を選んだ理由としては、後期研修として当院で の脳神経外科を希望しており、自分の希望科、後期研修を考えた選択を考えました。そ して、「専門科への手技の習練が可能」と書いてありますが、脳外科など、マイナー科 を専攻にしている人間としては、初期研修医の時期からトレーニングができるのは非常 に魅力的で、実際に顕微鏡を使ったマイクロサージェリーのトレーニングができること は魅力の1つでした。  そして、スーパーローテートとして考えますと、病院全体としての症例数が非常に多 く、先ほども挙げましたが各科でできるだけのコモンディジーズ、自分が専門科に行く としても実際に患者を診る中で、学ばなければいけないことを経験できるのではないか という理由で選びました。  実際に当院での初期研修が終わって振り返ったところで、当院のジュニアレジデント の者とも話し合ったことなのですが、長所としては、各科の一般的な知識や技術の経験 が短期間での多くの症例経験によって出来たと思います。ただ、習得に関すると、実際 に習得できるまでにはやはり至らないとは思っています。ただ、こういった経験を数多 くできることによって、どのタイミングで他科へコンサルトすべきか、どのような病態 はどの科になるのかといったことや、各科の多数の指導医との交流が可能であり、他科 へのコンサルトのしやすさがよかったと思います。これは自分たちにとってもスムーズ に治療が行えますが、治療を受ける患者にとっても非常にいいことではないかと思いま す。  また相談できる同僚という意味で、当院の場合には25名レジデントがいて、それぞれ さまざまな希望科を持っていたことで、さまざまなディスカッションができましたし、 いろいろなものの考え方、視点なども共有することができました。  短所ですが、自分は脳神経外科に行っていますので、専門科に対する知識、技術の遅 れを非常に痛感しています。これは同期と比べるわけではなくて、初期研修義務化前の 各科研修医、具体的には私たちの1つ学年上で、医局から派遣で来られた先生方、つま り脳神経外科を初めから選ばれて来られた方々と比べますと、技術と知識において歴然 とした差があり、脳外科の先生からすれば、私たちは3年目になってはじめて医師にな ったぐらいのレベルだと言われますし、実際に自分でもそう感じます。  そのほか「後期研修を含めた今後の進路が未定」と書いていますが、自分の場合は後 期研修を当院でさせていただいているのですが、医局に属さない場合、その後の研修期 間後の進路はやはりはっきりしていませんし、病院によって後期研修の時点で迷うこと も出てきます。そういった意味での不安はあります。  「研修病院での内容の差異」と書いてありますが、これは他病院に自分の同学年の人 間が行って話をしていても、やはり各病院には長所、短所があって、それぞれの意見が あります。そういった差異が今後どのように自分に影響してくるかは、心配ではありま す。  次のスライドは「研修修了者からの意見」と書いてありますが、当院のシニアレジデ ントに応募したときの応募者全体ですので、各病院から来られた先生も含めてのアンケ ートですけれども、マッチングについては基本的には「良い」という意見が多いと思い ます。実際に自分もマッチングについては良いと思っています。良いという意見として は可能性が拡大、いままでの医局制度に縛られない状態で各病院が選べるのは非常に魅 力的だと思います。そして、研修の集中ができることと、比較的公平に選ばれていると いうことや、こういった制度が始まることによって、大学側も教育に対しての対応の改 善が見られるのではないかという意見が書かれています。  「悪い」という意見は、必ずしも公平でないという意見もあったようです。また、全 員参加は不要である。そういった意思を持つ人だけがやればいいのではないかという意 見や、多数の試験、自分も実際に研修に行くときは10病院ぐらいは回って、いろいろ見 させていただいてから試験を受けたのですが、そういったことは非常に負担だという声 も上がっていたようです。  マッチングについては、「良い」という意見が非常に多かったのですが、研修制度の 改善については「必要」という意見が7割上がっていたという状況です。改善点として は内容が一律、これは先ほど何度かお話にも出てきていますが、各希望科それぞれ最終 的には各希望科に専門の科が決まっていくようになる状態で、すべての内容が一律であ るより、やはり各専門科を見据えたローテートができたほうが、最終的には医療の質の 向上にもつながるのではないかと思います。  また情報不足という声も上がっていました。実際にはインターネットや各病院の説明 会などがあって、徐々に整備されてきているとは思うのですが、そういったことが大学 側ではあまり説明がないこともあるのかもしれません。採用基準が不明確というのは各 病院間での採用基準がばらばらであって、それが不明確である場合もあるという意見が ありました。  研修期間について、内科系の先生からすると2年間の短い期間で習得するのは不可能 だから長いほうがいいという者もいれば、外科系の人間でも早く専門科で修練したいと いう人間もいて、長すぎるという両方の意見がありました。その他、指導体制の整備の 希望、手技の習得の希望、もしくは病院間による格差という点が挙げられていました。  指導医側からの意見も少し当院の指導医から聞きましたので載せますと、現行の研修 制度について良い悪いは半々ぐらいで、皆さん良いところも悪いところもあると言って います。良いという意見は先ほども上がっていましたが病院の活性化、後期研修への移 行。目標の明確化はそういったスーパーローテートすることによって、当院の場合は外 科系の話だと思うのですが、後期研修を目指して入ってくる人間がある程度多いという 状況があるので、そういったことで明確化できてよかったということでした。  「悪い」という意見は、学生はあまり各科の専門医が決まっていない人が多く、将来 のイメージがまだ考えられていない状態でマッチングしても仕方がないのではないかと いう意見や、学生気分が抜けていないという意見がありました。希望科の変更が多い、 研修医側のモチベーションが当院の場合は以前からレジデントを公募で取っていた状況 なので、それと比べてモチベーションが低下しているという意見も聞かれました。各専 門科の知識、手技が少し遅れてくるという意見もありました。  以上の意見を自分なりにまとめますと、研修医側として現制度は基本的に良いと評価 していました。自分も基本的には良いと思っていますが、改善を求める声も非常に高く ありました。特に自分が思うこととも合わせて言いますと、各専門希望科に沿ったスー パーローテートを希望する意見が多くて、実際には各科に対応したローテートを病院側 が全て決めていくことは困難だと思いますので、ある程度幅を持たせたスーパーローテ ート、自由枠のあるようなスーパーローテートが整備されれば非常にいいのではないか と考えます。  反対意見として、手技や知識の遅れ、学生気分など、指導医側からの意見も多くあり まして、自分たちも実感するところもありますし、しっかりとしなければいけないと思 います。現制度が結果的には始まってさまざまな進路が整えられていますが、基本的に はかなり甘やかされているような状況だと少し思います。学生のときにいろいろ与えて もらうのは非常にいいことなのですが、一応大学を卒業して一社会人として働いていく 中で、何でもかんでも与えられた制度に対して何かを言うということだけではなく、自 らの意思や行動をしっかり持って、自分なりのビジョンを持って、実際に決まっている 枠の中で、どれだけうまく利用していくかということも自分でも考えていかなければな らないと考えました。 ○齋藤部会長 ありがとうございました。何かご意見、ご質問はございませんでしょう か。 ○相川委員 かなり現実的な質問をしたいのですが、高崎先生と同じようなプログラム を受けて、内科や小児科に後期研修に入らなかった、つまり外科系に入った方たちの能 力、ケーパビリティについて、ダイレクトにお聞きするのですが、いまの先生、あるい は先生の同僚が小児の救急疾患が来る、例えば熱が出たので来るなど、そのような所の 当直を1人でやる自信は、先生だけでなくて全体的に見てどうでしょうか。そういうと ころで小児科医に相談しないで当直をこなせる自信はありますか。 ○高崎参考人 おそらく個人として、全体としてもそうですが、自分がいる環境にもよ ると思うのです。基本的にやらなければいけない状況であれば、それはやります。ただ、 やはり不安は強いです。一般的なコモンディジーズという意味では診れますが、各科を 研修することによって、コモンディジーズの中に非常に重要な病気が隠されていること や、急性期の急がなければいけない病気が隠されているのをなまじ知っているので、よ り怖くはなっています。 ○相川委員 旧制度の先生の1年、2年先輩の先生よりはいいですか。 ○高崎参考人 それはいいと思います。 ○齋藤部会長 よろしいですか。それでは次に小山田参考人から説明をお願いします。 ○小山田参考人 資料5をご覧ください。私ども自治体病院協議会は傘下に1,000の病 院があります。団体として臨床研修に関するいろいろな委員会、アンケート調査、ある いは活動方針を協議しています。そうした意見、あるいは要望をまとめてきましたので、 ご覧いただきます。1頁、現在私ども1,000ある病院の中で、実際に臨床研修に携わっ ている病院が346あります。ですから約3分の1の病院がこれに携わっており、そこで 研修を受けている方が年間に1,500名、ですから2年間で約3,000名がいます。  2頁です。私ども協議会として研修受入体制を充実するための取組みとして、次のよ うなことをやっています。1つは研修指導医の養成です。全国国民健康保険診療施設協 議会と共同で、平成15年から大体1カ月に1回ぐらいずつ、これまで52回2泊3日の 講習会をやりました。その修了者には医政局長の名の入った修了証を授与しています。 現在までに2,029名、ですから研修医3人に対して指導医が2名できたということです。 必要なのは本当に研修病院が立派なプログラムに基づいて研修しているかどうか、とい う評価が必要だという声が出てまいりまして、そこに書いてありますように、日本病院 会、全国社会保険協会連合会、私ども、それから国立病院機構、全国国民健康保険診療 施設協議会という5つの病院団体で、臨床研修の評価に関する研究会を立ち上げまして、 そこで病院がやっている研修の実態について、病院機能評価機構がやっているような項 目に基づいて訪問審査をする。サーベイヤーの養成をする。またこれに関する講習会を やる形ですが、組織づくりにかなり時間がかかり、現在まで実施したのが6施設だそう ですが、今年の3月までには27施設が受けることになっているそうです。今後かなり多 くなると期待しています。こうした活動は全て国診協と全く共同で行っているところで す。  次頁には新しくできた新臨床研修制度に対する全体としての評価と、私どもの共通し た意見が書いてあります。新しい臨床研修制度ができてから3年が経過し、その順調な 滑り出し、経過に私どもは満足しています。非常に長い期間、私どもはこの制度の実現 に努力し、また主張、要望してきたもので、それだけの責任もあることから、この制度 が長く続き、定着していくことを望んでいます。その中で特にこの制度あるがゆえに医 師不足がある。医師不足の根源は新臨床研修制度にあり。そして臨床研修制度を廃止す る、あるいは1年に短縮することがこれからの医師不足の解決、あるいは医師の養成に 欠かせないという意見が、大学教育の代表者会議で出されています。私どもはこの新し い研修制度を作ったときの基本的な姿勢からして、絶対に容認するわけにはいかない。 今後、2年間研修を行うことを是非堅持していく姿勢を、今後とも貫いていきたいと考 え、またそれを要望するものです。  ただ、その中で「当面の取り扱い」がありました。1つは研修受入れ要因の研修医数 と、もう1つはその病院の医師数が医師法に則ったものであるかどうか。3番目に指導 医の要件としての年数ですが、2月1日の官報により、「当面の取り扱い」を当分の間、 このまま継続する形になったわけです。それはそれとしていいとしても、1番目の本則 は入院患者10名に対して1人の研修医、あるいは入院患者数もありますが、それを8で 割ったものが当分ということで、これは現状を見ると、ごく限られた都会の大きな大学 しかないのです。後の2項目はいろいろな変動があって難しいですが、この項目は何年 までということを決めていただけないか、もう少し考えていただけないか、と思ってい ます。  今後の改善検討課題は国に対してだけでなくて、私ども研修医を引き受けている病院 として改革すべき問題も含めてあります。1つはいまのローテーションのプログラムの 組み方の中で、これを改善すべき点があるのではないか。例えば小児科研修をもう少し 長くしたらどうか、保健所の研修を含めて地域医療の研修部分にはいろいろな問題が含 まれているので、これをどうしたらいいかということが出されています。これにはプロ グラムにもう少し明確に記載すればいいのではないかという意見もありますが、問題点 として出されています。  研修医の都市集中ですが、これは今もありますが、何とかなくしてほしいという声が あります。ただ現実を見ますと、少しずつではありますが、都市集中が緩和されつつあ るような傾向を私どもは見ています。もう1つはまたここに都会、あるいは都市を離れ た所で枠を作ることになると、研修を受ける人たちの選択の自由が奪われるのではない かという懸念もあるので、この点についてはもう少し経過を見た上で考えていいのでは ないかという意見が多いようです。  次は3番目、後期研修です。一体後期研修とは何かがはっきりしない、プログラムも 非常にばらばらなので、そのような点については、学会や厚生労働省が現在認めている ような専門医を育成する目的をはっきりさせることが必要なのではないか。その期間や 卒後後期研修を終わった後の人生設計のあり方の面を明確にした上で、後期研修の期間 と待遇、これは身分はたとえ臨時職員であっても、通常の職員と同じ待遇をしてほしい。 そうすべきだという意見が多いようです。  指導医に対する待遇、役付けですが、その病院の中における身分、職務をもっと明確 にして、ゆとりのある指導ができるような処遇を、実際には他の人と同じ診療をやりな がら、指導を行っているという、かなり厳しい過酷な労働が強いられている点がありま す。いま私どもの調べによると、指導医という職務を与えて、病院で主たる業務は研修 で、あとはその研修に必要な臨床、外来診療、入院診療は少しですがやりながら研修を する、というゆとりを持たせて指導させているのが関東地方に2つの病院があります。 そこまではいかなくても、もう少しゆとりのある研修指導ができるような体制にもって いくべきだという意見が強いし、待遇は実際にはプログラム編成、その他の委員会とい う名目で出ているのですが、実際はほとんど指導医に手当が出ておりません。その不満 が多いのです。私はいろいろな場で、たとえ少なくともそういう名目で国から出ている ので出してほしいと言っているのですが、出さないというか、出ていないのです。そう いったことを私どもはこれからも病院長、あるいは開設者に対して訴えていきたいと考 えています。  それから先ほど言いました研修病院の評価ですが、これは私ども病院団体で設立した ものですが、今後とも積極的に進めていく。そしていますぐというわけではありません が、将来これが何らかの形で診療報酬につながるような形に持っていくことを望んでい る次第です。 ○齋藤部会長 ありがとうございました。いかがでしょうか、ご意見、ご質問は。全国 の研修医の5人に1人、あるいはマッチングでは自治体病院の占める役割は4人に1名 ですね。よろしいですか。それでは次は山田参考人にご意見を伺いたいと思います。 ○山田参考人 山田です。今回はこのような機会を与えていただきまして、誠にありが とうございます。私自身はいままで参考人の方々が言われた具体的なことも踏まえて、 少し大局的なというか、研修制度だけではなくて、全体のあり方から発言をさせていた だこうと思います。簡単な自己紹介ですが、私自身は昭和55年、自治医科大学を卒業し た3期生です。スーパーローテートを25年前に受けて、3年目から人口2,000人弱の山 間の診療所へ派遣されて、それから20年近く同じ地域で診療してきました。その後、い ま卒業生の枠組みというか、いろいろなことに関与することになって、病院、研修に関 与するようになりました。私自身はそういった意味で20数年前なのですが地域の診療所 に行って、なぜこんな大学を卒業したのかなとか、卒業と同時にどうも自分たちはいち ばん辛い所に行かされているのではないか、みんなが好んでやらなかったことを自分た ちが掃除役をしなければいけないのではないか、と思っていました。実際に行って見る と、やはり予想したとおり、患者は時間外に夕ご飯を食べてからやってくるとか、病院 では非常に礼儀正しい患者が多かったのに、診療所だと、やれ注射をしてくれとか、前 の先生はいつも簡単に注射をしてくれたとか、非常に現場では求められることが大学、 あるいは総合病院で学んだことと違うことで、非常にストレスを感じたことは事実です。  周りの看護師は年輩で、私が診療所長といっても、いじわるな看護師がいたり、これ を記録に残すのはいけないのかもしれませんが、担当する事務長は役場からやってきた たそがれ族みたいな人で、何かよくわからない人がやっている。そんなところで責任を 持ってやることに若い27、8の医師としては、なんでこんなことをやっているのだろう という感じを持ったのが当時でした。ただ、やるうちに、実は地域の人たちは悪いわけ ではなくて、結局医師に何でも気軽に診てほしいとか、自分の個別の事情、私はこの注 射が効いたのだから是非してほしいとか、何でもこびるわけではないのですが、限られ た医療機関の中で最大限やってほしい、保健・福祉など関係者と仲良くやってほしいと いったことは当然のことで、そういったことからだんだん自分の医学生や研修時代にひ とかどの専門医にならなければいけないという脅迫感から、どうも自分が脱落者だと思 っていたのですが、地域の人たちはあながちそうではない、そればかりではないという か、そういった医療を求めているのではないかと感じてきました。  これは先生方を前にして説法するわけではありませんんが、いままでは病気や病院、 あるいは臓器の異常、遺伝子異常に興味があったのですが、むしろそういった病気のこ とも必要なのですが、病人のことを理解しないと同じ末期がんの患者に肺がんの末期ス テージが一緒だと言っても、することは随分違ってくる。同じ高血圧の患者でも、血圧 が160ある人で全然何とも感じない人もいるし、もう160あったらあたふたと診療所に 駆け込んでくる人たちもいる。そういったところを配慮しないといけないのではないか。 そういうことで私自身は右側の「疾患モデル」は大学時代、研修時代に非常によく学ん だつもりなのですが、それ以上に患者に焦点を当てて、そういったことに興味を持つこ とに少しシフトしてきました。  そういったところで私自身は地域医療に携わる中で、非常に重要な要素としては「家 庭医」と書いてありますが、用語にはこだわらなくて、身近で継続的で、全身が診れて、 多職種と調整役ができて、患者の思いをかなえてあげられるような医療者になることが 非常に大事な役割だと感じてくるようになりました。  Comprehensive Careと書いてありますが、大学病院では学んだことは白血病など特殊 な病気が非常に多い。そういったところからすると、例えば頭痛の患者が診療所に来る と、最初に脳腫瘍を疑ってしまったり、バランスが悪い診療に傾いてしまう。そうする と、CTがないことが悩ましかったり、患者もCTを撮ってほしいというものですから、 紹介状をどんどん書いていると、今度来た医師は頭痛というとすぐ紹介状を書くと言わ れたり、要するに全体のバランスを理解していないで診療にあたってしまうことはまず いのではないかと思うようになりました。頭痛でも、よく話して聞いてみると、お母さ んが子供さんの発育に不安を持っていたりなど、短い診療時間ではなかなかわからない のですが、回を重ねるうちに家族背景を理解してくると、アプローチしやすくなること も経験しました。  治療の継続性という意味では、1人の患者のたまたま10数年間のお年寄りの最期、亡 くなられるまでケアをしたケースですが、高血圧がもともとあって、早期胃がんが発見 されて、その後、イレウスを何回か起こされて気管支炎や一時期入院を経験された患者 ですが、何も特殊な患者でなく、村で85歳のお年寄りを診ていると、7つ、8つ慢性的 な加療が必要な健康問題を抱えていらっしゃることはごく普通なのです。その方は一般 的に町へ行くと、毎週診療所通いをして、専門科ごとに今日は整形、明日は耳鼻科、明 後日は内科という感じで私の所にいらっしゃった患者の中でもそういった受診をされた 患者がいて、とにかく薬をみんな見せてくださいと言うと、20種類ぐらい持ってこられ る。買い物袋にたくさん持って見せていただくことも、そう希なことではなくて、おじ いさんに「これ全部飲んでいるのですか」と聞くと、「先生、こんなに全部飲んだら身 体壊しちゃうよ」と、たくさんあるので3日に1回それぞれのものをもらってくるので、 1回行ってくると1カ月分で三月もつのだと自慢されたり、バランスの悪いことになり がちだということです。  地域へ行くと医師だけで解決する問題が少なくて、ヘルパーを導入したり、慢性の腰 痛を抱えている人たちは介護の苦労が非常に大きかったり、そういったサービスが腰痛 の患者に必ずしも鎮痛剤が最良の処方ではなく、むしろヘルパーを導入してもらったり することが最良の処方箋だったりすることはしばしば経験するところです。  そういった視点で私が自治医大の卒業生として30年近く前に卒業した当時は、全国の へき地・離島に医師が不足していました。それから自治医大ができて、その後も1県1 医大で医師の養成数は確実にたくさん増えたので、解決が進んだのではないかと思って いたのですが、最近では先生方のご指摘にあるように、地域の中核病院から、我々卒業 生もいまやへき地の診療所に行かなくてもいいから、へき地を支える中核病院に残って くれという声が多いことも事実です。そういった現状を踏まえると、なぜなかなか地域 に残ってくれないのかというと、いままではどちらかというと専門診療に偏った医師の 育成が、一部は関係しているのではないかと感じます。  その弊害として先ほどお年寄りの例を挙げたのですが、専門診療科の先生たちが地域 の病院に来ると、例えば狭間の愁訴というか、まだはっきり診断がついていない患者の 対応に、非常にお困りになるとか、どうしても関心が人から病気へ移ってしまう。これ は簡単な模式図ですが、いままではやはり大学を中心に医師の養成が行われて、どちら かというと、いままで専門医として高度医療に特化した、それに非常にマッチするよう な医師がたくさん産み出されてきたと思うのですが、どちらかというと地域の病院では、 先ほどからお話があったように、歩いて来たのだけれども、実はクモ膜下出血だったと か、初期の愁訴、あるいはいろいろな愁訴を抱えている人、あるいは大学病院で必ずし も治療しなくても肺炎で呼吸管理をしなければいけないとか、そういった頻度のほうが かなり多い。そういうコモンな病気のほうが多いことに対して、なかなかいままでの専 門は機能しにくかったのではないかと思います。  極端な言い方をして専門医の先生方に失礼かもしれませんが、臓器型専門医だけでは いまのニーズに十分に応えていけないのではないか。いくら倍になっても特定の、例え ば自分は何かをしたい先生たちが、ある程度充足されてきて、フィードバックされるま では時間がかかるだろうし、全部の専門科が揃えばみんなが幸せかというとどうも私は そうではないような気がします。日本に不足している医師は患者が選んで合わせる医師 でなく、ある程度地域で患者に合わせられる医師、特定の専門科を持っていても差し支 えないのですが、総合的な診療能力を持った一次医療を支える人たちをある程度しっか り、寺澤先生が言われたように、一次の救急ができる能力、一次的なことが総合的にで きる、初診が診られる、外来ができる医師を、一方では専門的に育成する必要があるの ではないかと思います。  ここに簡単に図式しましたが、コモンな病気を病初期に基本的な診療能力で全科の身 体のあらゆる健康問題を、じかに外来主体に診療できる人たちを育てていく必要がある のではないかと思っています。これは模式図ですが、医療の資質でいうと何でもできる 医師は何もできないと、私たちがへき地に行ってよく言われたものです。肺がんや特殊 な治療はもちろん呼吸器専門医がいちばん質の高い医療を提供できるのでしょうけれど も、例えば風邪を呼吸器の人に診てもらうかというと、そちらの方が質が高いと言い張 る人は少ないと思うのです。喘息などだと1回だけ診た小児科の医師よりも、10年間診 てきた開業の医師が、このお子さんの病歴をよく知っていて、どの薬が効いたか効かな いかという病歴を理解していて、そのお子さんに当たる場合、場合によっては小児の専 門医よりもその方とお付き合いの長かった開業の先生のほうが、実はそのお子さんの医 療の質に関しては高いのではないかと思います。そういったところで今後、新しいタイ プのゼネラリスト、総合医、コモンな病気にできるだけ収斂して、ある程度外来で一次 対応ができる医師の育成が非常に重要ではないかと思います。  ここでは家庭医という表現を使いましたが、あらゆる問題が診られて、24時間患者か らのアクセスに一応何らかの対応ができる。これは個人でもグループでもかまいません が、家族、お子さんもお母さんも一緒に診ることができる。長くその地域で関与できる 新しい時代の医師、一次医療を担う人たちを育成する必要があるのではないかと思いま す。  いままではどちらかというと、大学病院オリエンテッドな医師の育成が多かったので すが、地域のニーズに合わせて日本国全体のニーズに合わせて医師数、配役、あるいは どういったタイプの医師が必要なのか、育成が必要なのかを卒前卒後の教育にフィード バックしていくことが必要ではないか。今後医師養成に関しては、単に量を増やす、も ちろんいまは絶対数が不足していると思うのですが、それ以外に総合医、家庭医といっ たフィールドの育成が必要ではないか。そのためにはそういったフィールドをオーソラ イズすることは非常に重要ではないかと思います。  医師育成からすると、やはり勝手に専門科を選ぶよりも医師という公職を意識させる ような卒前教育、卒後教育をさせ、日本国民が困っているところに日本全体の医師の集 団がある程度それに対応してあげられるような機能を持たないと、みんなが楽なという か、自分が目指す地位が安定したポジションにはつきたいのだけれども、日本国民が困 ったフィールドに医師全体がシフトしていかない。だから、第2、第3の自治医大を作 れば地域医療やへき地医療の問題は済むというわけではなくて、医師全体のシステムが そういったことにも関心を持ってほしいという気持です。  そういった意味で今後、いつでも、何でも、どこでも、誰でも、かなり長くお付き合 いができる医師の育成を、将来プライマリーケアのフィールドでやるような人たちは、 こういった研修をやって、そのためには大きな総合病院で専門的な研修を初期から始め る人たちも必要ですけれども、もっと今困っている地域病院で、全科当直をしながら、 あるいは指導医の先生たちと一緒に苦しみながらフィールドで頑張ってみる。いま本当 に困っている地域に後期研修を選んで、そういった地域病院で頑張ってみるような人た ちが、将来そういったフィールドに応えていくことになるのではないかと期待していま す。  たまたま家庭医療学会の仕事もしているので、いまそういった若い人たちは、実は将 来そういった一次医療を担いたいという人たちがいるものですから。「私はどうしたら いいのですか、家庭医はアメリカに行かないと研修できないのですか」と質問されるこ ともあるのですが、日本の家庭医は日本で育てないと日本のフィールドにはなじまない。 ですから、用語は総合診療や、プライマリケア、包括ケア、かかりつけ医などいろいろ な枠組みがありますが、それを超えて国民に応えられる一次医療を担う専門家集団の後 期研修のあり方を、是非みんなで議論して育てていく道が必要ではないか。  ですからこそ、初期臨床研修は基礎的な総合診療能力を持った臓器型専門医の育成の 視点が比較的多かったと思うのですが、私自身は臓器別専門医も幅広く診ることは決し て悪くないと思うのですが、もう1つ、ゼネラリスト、生涯総合医として育っていく人 たちを育成することも非常に重要ではないかと思います。ですから、2種類というわけ でもないのですが、お互いに協力し合って、専門医が専門医としてうまく機能するため には、専門医教育だけで将来一次医療を担っていく形ではなく、2つの形の医師の育成 のあり方が、いま期待されるのではないかと思っています。 ○齋藤部会長 ありがとうございました。いまお話に出てきたような家庭医、総合医の 役割は、昔は開業医が担っていたと思うのですが、いまはそういう方が少なくなったの でしょうか。 ○飯沼委員 先生のお考えは非常に我々が思っていることと近いのですが、言葉として は日本医師会は家庭医に目茶苦茶なアレルギーがありますので、それはお気をつけ願わ ないと、要するに家庭医イコール人頭割という発想が、日本の医療の古くからの考え方 がイギリスで失敗した例がきちんと証明されているので、総合医という名前でやがてそ の辺に収斂するような気がしていますので、非常にいい名前だと思いますが、先生の話 は家庭医という名前だけ取ってもらうと、大体私たちと考えは同じです。 ○冨永委員 先生の長年の地域医療に携わってこられた経験から、本当に貴重なご意見 をいただいたと思います。いままでにも各参考人から総合診療、あるいは家庭医の育成 について必要だ、あるいは全自病、国診協ではその認定制度を作りますというお話を小 山田参考人からいただきましたが、臨床研修が始まったそもそもの経緯は、専門医、臓 器物に偏りすぎるという反省から成り立ったと思います。そういうことでプライマリー ケアを2年間ローテートすることによって、総合診療を担うべき人の基礎はできたと思 うのです。今後、それをどのようにして育成していくか。厚生労働省の資料にもプライ マリーケアという専門医療であると書かれていますが、今後どのようにして育成すべき かに関して、先生のご意見がありましたらお聞かせ願いたいと思います。 ○山田参考人 総合医の立場からすると、スーパーローテートは必須のことで、その上 にやはり3年間ぐらいはどちらかというと内科が中心になると思いますが、総合内科的 なこと、あるいは一次的な救急、地域医療、あるいは地域病院での病棟管理といったこ とが必須です。また、場合によってはへき地の診療所、あるいは一般の開業医の先生、 いままで実際に質の高いプライマリーケアを提供されていた先生もたくさんいらっしゃ るのですが、大学教育や研修にあまり活かされてこなかったところがあるので、是非研 修の中に、開業の先生方や地域で本当に住民と一緒になっておられる先生方の研修を取 り入れたい。そういった所に将来行きたい人たちに、専門的に一次医療を担う人たちの ための総合医の後期研修プログラムを、いろいろな学会が別々にやるのではなくて、ま とまってお互いに協力できる範囲で構築していく必要があるのではないかと思っていま す。 ○大橋委員 大変感銘深くお伺いしたのですが、1つだけお聞きします。ファミリーメ ディスンと名前はいいのですが、先生が目指している家庭医を、現在指導する教官体制、 確かに大学の中には欠如した部分だと思うのですが、外国ではきちんとした専門医とし てあります。その教官体制は日本ではどのように作っていったらいいか。あるいは作る までの間はどうすべきかについてはどういうお考えでしょうか。 ○山田参考人 数少ないのですが、そういったリーダーシップが取れる指導医、勉強さ れている先生方もいらっしゃいますし、日本型の家庭医療というか、あるいは総合医療 があってもいいと思います。専門診療科で例えば8時〜5時でその後はあまり何もやら なくて、往診もしない、単科の診療をしているのはちょっとモデルにはならないのです が、地域でいままで10年、20年やってこられて、往診もやって、いろいろな場所で対 応して、休日対応もする、あるいは医師会で自治体の小児科の当番をする活動をされて いるところに、是非指導してもらうなど、そういったところにも勉強に行く。身分、給 与などいろいろな問題があるかもしれませんが、実際に日本でそういったプライマリー ケアを支えてこられた先生方の質は非常に高いと思います。それがオーソライズされて いなくて、しっかりまとまった教育をする立場からすると、なかなか見えなかった。だ からそういったことに各県や各地元の大学とうまくリンクして、教育することにすべて の医師会の先生方に関与していただくと、枠組みは十分にできるのではないかと思って います。 ○齋藤部会長 最後の佐伯参考人からお話を伺います。 ○佐伯参考人 本日は関係者がお話を聞いてくださるということで、患者の代表として 最後に時間が残っているだけでということで、今回はお呼びいただきました。それはそ れで、とてもいいことではあると思うのですが、医療の受け手が1億2,800万人という 人口です。皆様方も健康でないときには医療の受け手になるわけなのですが、そのわり に1人だけなのかというのがまず最初の感想でした。医療は日々私どもが納税し、健康 保険料を納め、あるいは納税の中で医学部の学費の補助金にも回ったり、あるいは研究 にも回ったりで、国民の支えなくしては考えていけない国民のためのものであると思い ます。いま起こっていることの良いこと、改善しなければならないこと、そんなことを 一緒に国民の代表複数を入れて、建設的にやっていただきたいと、最初に要望を申し上 げます。  私はパワーポイントはあえて用意しませんでした。医師不足で困っている地域に住ん でいるわけでもなく、娘がおりますが、まだ子供を持つには若い年齢ですので、実際に 困ることに直面しているわけではないので、ナマの声を代表するという訳ではないと思 います。ただ、全体を眺めて、あるいは医学部の学生や研修医の方とのいろいろな接触 の場面があり、そこで感じていること、あるいは臨床研修指導医ワークショップなどの ようなところに多く参加し、そこでお聞きするようなことなども踏まえて、いくつか意 見を述べてみようと思っております。  私が用意したレジュメは、本当に国民の素朴な感想です。例えばいま病院が閉じてい くなど、いろいろ結果が突然降りてくる。なぜこんなことが起こるのだろうか。どうや ら一方的な報道によると、研修制度でこうなったからだと。ああ、なるほど、と。なる ほどはいいのだけれども、どうしてくれるのだということですね。そこの病院がどうも 患者のほうを向いていないのではないか、あそこの先生が勝手にいなくなったとか、ど うも患者として、国民として受け取ることが単体の病院、あるいは個人の医師にしか向 けられていないことが1つあります。  先ほどいろいろレジデントの方から発表等がありましたが、教える、教わるという表 現も、何か個人的なニュアンスがするのです。日本の医療の質を確保して、これを支え ていくという確保するとか、全体としてのそういう表現ではなく、1人の医師、研修医 として良いところを習っていく、学んでいくって、何かおかしいのではないかというの が素朴なところです。  各病院や診療所などいろいろな所が努力しているというのはかなりわかったつもりで すが、そもそも私ども国民といいましょうか、一般の者は医師免許はいくつも種類がな いと思っています。医師免許って1本だけですね。大型免許とか普通免許はないわけで すね。医師免許があるのだったら、そこで産気づいたらやってもらえるだろうとか、そ こでパタっと倒れたら、何かこうやって心臓マッサージをしていただけるだろうと思っ ていたのが、どうやら話を聞いてみると、「いや、私は違いますから、私はできません」 とかいろいろ言われて、今はそういう教育内容ですからと、さも理路整然と説明される のです。おかしいなと思うのです。日本の国が国家として免許を出している、それも複 数あるのではなくて1本で医師という免許を出している。その人たちが、あれもできな い、これもできない、これはこういう教育だから、こういう伝統ですからと。それでよ かったのか?全然よくなかったわけです。よくなかったことを、もう少し皆さん、医師 免許があるからには、最低限のことはできましょうとしたのが、今回の臨床研修の必修 化であっただろうと思います。  ということで言えば、先ほどある研修医の方が産科に1カ月行くのはどんな意味があ るのか、そんなものは面倒だ、義務だ、義務ではしょうがないというような意見も出て くるのもおかしいし、もっと受ける人が国民の期待がこうであるということを踏まえて、 きちんとそのように対応する。そこに向けて研修をしなければならないことを、自ら自 覚する、あるいは研修の指導医、あるいは指導医の病院、都道府県、あるいは国が国民 の信頼に応えるところまで、もっと踏み込んでいただきたいと思っています。  国民皆保険というとても立派な制度があるのは、是非誇るべきことなのだといろいろ 言われるわけですが、自ら毎月払う人はこれからは減っていくだろうと思います。今は 給与から自動的に取られているから払われているわけなのだけれども、毎月今を評価し てください、それで来月払ってくださいというやり方になると、払わない人が激増する のではないか。つまり医療の受け手からの声が全く通っていかない。一緒に考えてとい うところに進んでいっていない。そこで国民皆保険はこれからは危ういだろうと思いま す。  これからすべきことは、国民全体にいまの医療の現状のこれだけ大変なのだ、これだ け困っていることがあるのだ、これだけ足りないことがあるのだということをまず示し ていただいて、わかっていただいて、その上でいまぎりぎり出来ることはここまでなの だ。ここをいまやろうとしている。これについてどうですかと。本当のインフォームド コンセントをそこで行うことではないかと思います。  いま、ようやくといいましょうか、文部科学省関係の方もいらしてくださいましたが、 学生1人ひとりが悪いわけではなくて、医学教育の中に医療が極めて社会的、公共的な 仕事である。それを担う人材があなた方ですよということを、入学した初日から叩き込 むような、そういう医学教育の内容でなかったということが、やはり大きいのではない かという気がします。大学教育では教えてもらえないとかいろいろあったのですが、大 学の中に教える人がいないとか、一般の国民の人が聞くと、愕然としますし、憤りも覚 えるだろうと思うのです。私のような立場ですといろいろお聞きする機会がありますが、 大変というか、最初は非常に驚きました。すごく驚き、どう受け取ればいいのだろうか と思ったのですが、何もやっていなかったのかという感じです。  医療訴訟などもあるのですが、おそらく一般の国民の方はこれぐらいはやってもらえ るだろうと期待しているわけです。それは幻想にすぎませんよと、誰からも教えてもら っていないから、期待していたから、でも迎えた現実があまりにも期待とは違うもので、 コミュニケーションもうまくいかない。それで、訴訟という1つの不幸な形になってし まうわけなのです。もう少し国民全体の期待を具体的に捉える、聞く機会をやらせのタ ウンミーティングではなく、実際的な本当のこういう顔を見ながらのミーティングを作 っていただきたい。その上で、本当にいい制度をもっと、よくなっているところをもっ と補強して、副作用として起こっていたところを何とか解決するような具体的な方策を 考えていく、そんなことを進めていただきたいなと思います。  そういうことをいまやっていますということを、是非、厚生労働省としても、あるい は都道府県からもアピールしていただきたいです。いま何が起こっている、いまこうし ていますということを、逐一伝えることが納得、理解しますし、最終的には支えて評価 してもらえることになると思います。おそらく毎回病棟に足を運んで、患者に顔を見せ てという、そのやり方と通じるだろうと思うのです。人の医療をやる仕事としてお願い します。私の主治医としてお願いします。その気持は全く同じだと思います。そこを是 非いい信頼関係で、いい循環でやっていただきたいと考えています。  具体的に個別に言いますと、研修医の方にはいままでの医療にはなくて、患者の側と してとても困っていたこと、「患者の視点に立った安全、安全で質の高い医療提供体制 の構築」と謳われていますが、特に今回の医療法改正で上がってきた「わかりやすい医 療」ということで言いますと、自分がいま何を受けようとしているのかがわかるような 説明能力を持っていただくことだと思います。黙ってやっていればいいということでは なくて、いまこういうことをやろうとしています。そして説明するだけではなく、きち んと理解をいただけたか、納得していただけたか、そして一緒にやっていきましょうと 協力体制でやっていく、そんな姿勢を持つことだと思います。その姿勢を持って一緒に やっていく、それで「ありがとう」と患者や家族から言ってもらえることが、本当の医 療者冥利に尽きると、給料で釣られるのではなく、本当のプロフェッションとしての喜 びとして感じていただけるような、そういう育て方を医学教育、生涯教育で是非一貫し てやっていただきたいと思っています。 ○齋藤部会長 ありがとうございました。本日は7名の参考人からそれぞれの経験、あ るいは立場を踏まえて大変貴重なご意見を伺いました。まだ2、3分ありますので、全 体を通じてこれだけは言っておきたいというご意見がございましたらどうぞ。  今日のいろいろなご意見は、主として臨床研修制度に関するものですが、それを含む もう少し幅の広い分野に対するご意見もあったと思いますが、いかがでしょうか。もし ございませんようでしたら、今回のいろいろご議論いただいた内容を事務局で整理して いただきたいと思います。それでは今後の日程について事務局からどうぞ。 ○井内専門官 前回及び今回ということでご議論をいただきましたものを、事務局で整 理させていただいた上で、次回で見ていただければと思っています。今後は先生方の日 程を調整させていただき、次回の会を開催させていただきたいと思います。 ○齋藤部会長 どうもありがとうございました。 (照会先)                   厚生労働省医政局医事課                      医師臨床研修推進室                    (代表)03−5253−1111                   (内線4123)