07/02/05 医道審議会医師分科会医師臨床研修部会 第3回議事録            医道審議会医師分科会医師臨床研修部会                     日時 平成19年2月5日(月)                        10:00〜                     場所 厚生労働省共用第8会議室(6階) ○井内専門官 定刻になりましたので、ただいまから医道審議会医師分科会医師臨床研 修部会を開催させていただきます。本日は先生方にはご多忙のところをご出席いただき 、誠にありがとうございます。今回より新たに委員にご就任いただく方をご紹介させて いただきます。山形大学医学部附属病院長の山下先生です。 ○山下委員 山下です。よろしくお願いいたします。 ○井内専門官 本日の出欠状況ですが、吉田委員が少し遅れております。飯沼委員、長 尾委員が欠席となっています。それでは議事に入ります。これ以降は部会長、よろしく お願いいたします。 ○部会長(齋藤) 前回の資料にありましたように、遅くとも平成19年12月、すなわち 今年の末までには医師臨床研修制度については検討を終えなければならないことになっ ております。今後、個別の議論を行っていくことになりますが、まず関係者の方々のご 意見を伺う必要があるだろうということで、2回ほど関係者の方々からご意見を伺う機 会を設けてもらいました。本日は臨床研修病院関係者お二人、大学関係者お二人からご 意見を伺い、次回はそれ以外の関係者の方々からご意見を伺うことを予定しております 。  では、初めに議事の進め方について、事務局から説明をお願いします。 ○専門官 それではご説明させていただきます。本日は医師臨床研修制度にかかわるヒ アリングです。本日の進め方として、4人の先生に来ていただいております。お一人当 たり15分程度のお話をいただきまして、その後、そのお話した内容の事実関係等、簡単 なご質問等をしていただければと思います。すべての参考人の先生方のお話が終わりま したら、今日来ていただいております参考人の先生方も含め、皆様方でフリーディスカ ッションという形で、この臨床研修のあり方について論議いただければと考えておりま す。  資料の確認をさせていただきます。いちばん上に議事次第、次に座席表、さらに委員 名簿、参考人一覧で、その後、各参考人の先生から提出していただいている資料が付け てあります。不足する資料等がございましたら、事務局までお申し付けください。なお 、前回の議事録がいちばん後ろに付けてあります。その議事録に問題点等がありました ら、一両日中にお知らせいただければと思います。先生方のご意見をいただきました上 で、確定とさせていただきます。それでは部会長、よろしくお願いいたします。 ○部会長 ただいまの説明について、何かご意見、ご質問はございますでしょうか。な ければ早速、最初に福井参考人から説明をお願いいたします。 ○福井参考人 聖路加病院の福井です。このような機会を与えていただきありがとうご ざいます。お手元の資料に基づいて説明させていただきます。時間がありましたら2つ 目のパートについてお話させていただきます。  2年次修了時直前の研修医の臨床能力を評価する研究を、私たちは16、7年前から続 けてきております。最初の報告が平成4年、平成15年に古い制度での研修を2年間終わ ったところでの研修医の臨床能力の調査を行っております。そして今般、平成17年度か ら厚生労働科学研究費をいただいており、私のグループの研究と、篠崎先生のグループ の研究を一部共同で行わせていただいています。その中に平成4年、平成15年に行った ものと同じ項目で、2年次研修医の臨床能力や例数などについて調査を行っております ので、その比較データを説明させていただきます。  資料1ページ目の・の3番目ですが、比較したのは平成15年3月に、古い制度でいち ばん最後の年に研修を終わった方々と、昨年の3月、新しい制度での第1期生の2年間 の研修を終わったところでの臨床能力についての自記式調査です。平成15年は763施設、 平成17年度(平成18年)の調査は849施設の臨床研修教育責任者に送付し、臨床能力 については無作為に5人のうち1人という割合で選んでいただいて、回答をお願いしま した。  平成15年3月の調査では、大学病院の研修医が1,762名、臨床研修病院の研修医が 712名で全研修医数の5分の1より数が多いのですが、おそらく5人に1人以上の割合で 切り上げでお願いしているものですから、施設によって20%以上の割合になっていて、 たくさんの方が回答してくださったようです。平成18年は昨年の3月に行ったもので、 大学病院の研修医が487名、研修病院が679名から回答が得られ、解析対象となってい ます。  4つの側面、基礎的な臨床知識・技能は14項目、やや専門化した臨床知識・技能が6 項目、行動科学・社会医学的側面を持った臨床知識・技能が11項目、臨床研究のための 知識・技能が3項目あり、それぞれについて自己評価の部分で「確実にできる、自信が ある」「だいたいできる、たぶんできる」「あまり自信がない、ひとりでは不安である 」「できない」の4段階評価をしてもらって、x二乗検定を行っています。  そこで最初に「確実にできる」「できる」と回答した方と、「あまり自信がない」「 できない」と回答したグループの2群に分けて解析したものがお手元のグラフ、表aに あります。大学病院、臨床研修病院のデータを合わせたものです。基礎的な臨床知識・ 技能の「細菌培養 グラム染色を行い、結果の解釈ができる」は新制度導入前は31%で 、導入後は54%になったのを棒グラフで表しています。その下の「術後起こり得る合併 症及び異常に対して基本的な対処ができる」は旧制度では52.8%が新制度では74.5%に なったという表し方をしており、伸び率が50%以上になったものをグリーンで色を付け ています。  次頁です。これは大学病院の研修医についてのものです。先ほどのもの(表a)は研 修病院と大学病院を合わせたデータで、表bは大学病院の研修医だけのものです。「細 菌培養」は旧制度の30%が新制度の56%に上がったことになります。グリーンで色を付 けてあるところが13項目で全体の場合よりやや多くなっています。次の表cが研修病院 の研修医についてのデータで、「細菌培養」では34%から53%に上がっています。  表dは研修病院と大学病院を比べています。旧制度の研修医を対象に、平成15年3月 に調べたものです。ピンク色は「できる」と答えた研修医が大学病院に比べて研修病院 で多いもので、その逆の黄色になっている3つの項目に比べて、かなり多くなっていま す。  次の表eは導入後、昨年の3月のデータです。こちらは黄色のほうがやや多くなって おり、「できる」と答えている研修医の割合が研修病院に比べて大学病院で高い項目が 多くなったことになります。  次のグラフは、それぞれの項目はすべて名前が横軸で入っていませんが、全般的に見 ていただきたいところは黄色のラインです。いちばん下のほうに目立つものですが、こ れは導入前、旧制度の大学病院での研修医のもので、導入前の研修病院の研修医のブル ーのものより、ほとんどの項目で下になっていました。大学病院の研修医のほうが研修 病院の研修医に比べて低かったわけですが、導入後はかなり似たようなレベルにまで上 がっています。  次のグラフは、やや専門化した臨床知識・技能についてのもので、これもほとんど並 び方が同じです。特に大学病院の研修医がいちばん下にあったのですが、導入後の大学 病院は薄いブルーで示していますが、かなり導入後の研修病院の研修医と同じところに きています。  次は行動科学・社会医学的側面をもった臨床知識・技能についてのデータです。その 次が臨床研究のための知識・技能です。最後のグラフは伸び率について比較しているも ので、真ん中のパープルのところが飛び出ていますが、大学病院の研修医の「確実にで きる」あるいは「できる」と答えた研修医の割合は、最初は低かったものですから、伸 び率自体は非常に高くなっています。  ということで、以上のデータをまとめますと、新制度になってからの研修医は、ほと んどすべての項目で「確実にできる」あるいは「できる」の割合が上昇しています。旧 制度の研修医のほうがよかったという項目は1つもなく、すべての項目について高くな っています。特に改善の度合いが大きかった項目は、やや専門化した臨床知識・技能で す。大学病院ではほとんどの項目で改善、伸び率が50%以上の項目が13ありました。 研修病院では50%以上伸びたのは6項目です。  旧制度では研修病院の研修医が大学病院の研修医よりも高かった項目は19あって、反 対に大学病院が優れていた項目が3ありましたが、新制度ではその数値だけでいうと、 逆転してきています。  同じ方法で「確実にできる」という4段階評価のいちばん上の評価をした研修医につ いて解析してもほぼ似たような状況で、それが1頁目から2頁目にかけて簡単に書いて あります。結論としては研修医の臨床能力修得状況は、自己評価によると新制度への移 行後、大学病院の研修医と研修病院の研修医との間の差がほとんどなくなってきている と言えます。82の症状や病態、疾患の経験例数についても調べました。そのうちの3つ だけ、例示しております。例えばショックですと、平成15年の研修医は1例も経験して いないのは9%、1〜5例が33%、6〜10が23%、11例以上が36%と回答していまし たが、平成18年の調査では、1例も経験しなかったという研修医は0%、1〜5例が 28%、6〜10例が28%、11例以上が43%と、これもx二乗検定を行いますと有意差を もって増えています。同じように具体的に数値を出していますのは妊娠分娩にかかわる ものと老年症候群ですが、これらを含めて調査対象の82症状、病態、疾患すべてについ て新制度研修医の経験症例数は統計学的に有意差をもって増加しています。  医療記録の記載件数については4項目について調べています。例えば死亡診断書も上 と同じような示し方をしています。平成15年に1通も書いたことがなかった研修医は 18%、1〜5通が41%、6〜10通が19%、11通以上が23%でしたが、平成18年には 書いたことのない研修医が7%、1〜5通が55%、6〜10通が21%、11通以上が17% と増加しています。これと同じように、その他の3種類の医療記録の記載件数について も統計学的に有意差をもって増加しています。  私どもの結論としては、経験症例数もすべて今回の新制度になって増えていますし、 臨床能力についても「できる」あるいは「確実にできる」という研修医の割合が、旧制 度のときの研修医に比べてかなり増えていて、そういう意味では、新制度は研修医の臨 床能力を高める上で、よかったのではないかと思っています。今年も2月から3月にか けて、もう一度2年次の研修医の調査を、ほぼ同じ項目について行う予定です。それも 以外に私は新制度についていくつか感想がありますが、いちばん申し上げたいことは、 私たちの調査に基づいたデータでは、少なくともこの2年間の新制度は大変よかったの ではないかと思っているということです。 ○部会長 福井先生ありがとうございました。それでは5分ぐらい時間がありますので 、いまのことに関してご意見、ご質問、いかがでしょうか。 ○大橋委員 統計の解析的なことについてお尋ねします。1つは15年度と18年度のデ ータ、特に研修病院の母集団は大体同じところなのかどうか。アンケートを出したとき に偏りがないのかどうかはいかがでしょうか。 ○福井参考人 平成15年度の調査は国立公衆衛生院におられた瀬上先生が主任研究者 で行われたもので、当時把握できているほとんどすべての研修病院に送付したはずです 。ほとんど同じと考えてよいと思います。 ○大橋委員 もう1つお聞かせいただきたいのは、研修病院のところで指導者の数を大 学病院と比較するときに規模が病院によって非常に違うと思うのですが、それによる差 、あるいは地域によって研修病院で同じような効果があるのかどうかという辺りを解析 していたら教えていただきたいと思います。 ○福井参考人 いま私の手元にそのデータはないのですが、少なくとも平成4年のデー タでは、研修医が受け持つ患者の数については、臨床研修病院の方が大学病院の2倍受 け持っていて、大学病院は指導医はたくさんいるのですがあまり教えてくれないという ことで、数の少ない研修病院のほうがどちらかというと、研修の満足度が高いという状 況でした。平成15年のデータと今回のデータで指導医の数については今、私の手元には ありません。 ○大橋委員 また教えてください。 ○吉田委員 前回は欠席で失礼しました。これを見せていただきますと、項目dの臨床 研究のための知識・技能の伸び率がほかと比べるとかなり低いこと。表cでは「診療上 湧き上がってきた疑問点について、Medlineで文献検索ができる」は、研修病院の研修 医のみ−3%と。実際に調査をしていて伸び率が全体から見て低い点は、何かお気付き の点はございますでしょうか。 ○福井参考人 そうですね、臨床研究はかなり病院に任せられている点がありまして、 カリキュラム上全く臨床研究に触れていない病院から、以前から一生懸命にやっている 病院まで二極化しているようです。この2年間でEBMを身に付けてもらうためのいろ いろな試みが行われているのですが、それが浸透していなかったということになるので はないかと思います。 ○山口委員 症状のお話がすべてよくなったというお話を聞きましたが、それは研修病 院と大学病院の間で違いがあったのでしょうか。 ○福井参考人 不妊など、82項目について経験症例数のデータを比べているのですが、 大学病院と研修病院を分けた解析はまだ行っていません。やりたいとは思っています。 ○相川委員 この制度設計をしたときに期待したデータ以上、少なくとも研修が充実し ているデータがこの分析では出たと理解してます。大変よかったと思っています。お聞 きしたいことは、15年のときは旧制度ですから、例えば産婦人科に入った2年目の終わ りの人もサンプルの中に入っている。あるいは耳鼻科に入った人も入っている。新制度 の場合には内科、外科、小児科などを回ったということですね。それでそのように分か れていても、鼓膜や眼底の診察に関しての能力は新制度のほうがよかったということな のでしょうか。 ○福井参考人 はい。 ○相川委員 そうすると、旧制度の15年のときのサンプルでは、どのぐらいの方が眼科 、あるいは鼓膜を診る耳鼻科、産婦人科にいたのでしょうか。もし、細かい数字がなけ ればいいのですが。もう1つ聞きたいのは、そのような特定な科に最初から入った旧制 度においては、その部分では新制度の人よりも優れていたのでしょうか。割合よりもむ しろそこのところを聞きたいです。 ○福井参考人 平成15年のデータが細かい解析をやっていないところもあってわから ないのですが、平成4年については確かに先生がおっしゃるように、耳鼻科に行った研 修医は100%、1年目から耳鼻科の研修を行っていますので鼓膜が診られる。内科に行 った研修医は実は10%ぐらいしか診れませんでした。直腸診もそうで、外科に行った研 修医と内科に行った研修医とでは全然違うとか、非常に極端に、どの診療科に行ったか によって項目によっては臨床能力に差が出ていました。今回の新制度では全員が最低限 16カ月間は同じ所を回っていますので、その部分が非常に小さくなってきているのでは ないかと思っていますが、お見せする数値としては今手元にはありません。 ○相川委員 ありがとうございました。 ○部会長 それでは時間もありますので、次に岩手医科大学医学部長の小川参考人から 説明をお願いします。 ○小川参考人 審議会で意見を述べる機会を与えていただきまして、感謝を申し上げた いと思います。いま福井先生から新制度のよかった点についてお話があったと思います が、私自身は地方の立場から、そしてまた大学の立場から社会的に及ぼした負の影響に ついてお話をさせていただきます。  資料は資料2−1、2−2、2−3です。2−3は一昨年全国医学部長病院長会議か ら「臨床研修に関する充実・改善」に関する提言と要望を出させていただいたものです 。資料2−2は、昨年の総会において緊急声明として「臨床研修制度の迅速な見直し」 をお願いしたものです。  では、資料2−1についてお話いたします。昨年、臨床研修修了者が初めて誕生した ということで、昨年の4月から6月にかけて全国80大学すべての調査をしました。対象 としては、影響していないと思われる制度発足2年前の平成14年を用いています。大学 所属医師が平成14年、71.4%あったものに対し、制度発足後50.6%で約20%もの減少が 見られました。  2頁目です。地域別の増減状況について、実数で表したものです。それをグラフにし たのが3頁目に、北海道から九州全国にかけてあります。いちばん左側の青が平成14 年の大学所属医師、2番目の赤っぽいところが帰学者で、その増減率が下にあります。 北海道で56.7%の減少、四国は59.2%の減少で極めて深刻な事態になっています。中部 地方は比較的影響を受けていないということですが、中部地方は行政圏で北陸、中央高 地、東海と分けられるそうですが、北陸では実に61.8%もの減少。それに対して東海は 12%の増加で地方における医師不足が加速していると言えるかと思います。  4頁です。九州地方を50万人以上の都道府県県庁所在地がある中大都市圏域と、50万 人未満に分けたものです。大都市のある都道府県では+0.4%に対して、小さな町しか ない県では約−60%ということで地方の中でも中大都市と小都市の県の差がはっきりし ています。  これを全国の都道府県で見ますと下の図です。北海道だけ3大学があり広い面積を持 っているので、札幌地区とそれ以外に分けてみました。50万人以上の都道府県県庁所在 地がある所の−9.8%に対して50万人未満では−56%で、地域における格差が極めて大 きいと言えるかと思います。  診療科別の増減についても検討しました。次頁です。−30%ぐらいが平均です。各科 によって人数が違いますから、人数の少ない科についてはちょっとした増減が大きく出 ていますが、ほとんどがマイナスで、その中でも特に社会問題化している小児科、産婦 人科の減少はもとより、整形外科、外科、脳外科など救急医療にかかわる分野における 減少が著明です。実際に診療に従事している医師の分布と比較しました。厚生労働省三 師調査から医師調査の30才未満の若手医師と比較したわけです。それにおいても小児科 、産婦人科の減少とともに、脳神経外科、外科、整形外科など、生命にかかわる外科系 の減少が明らかです。  7頁です。最終報告の結果です。(1)大学所属医師の減少、(2)地域別では四国、北海道 、東北、中国など地方における減少が著明である。大都市のない都道府県での減少。(3) 救急医療・24時間体制の科・診療リスクの高い科・患者生命にかかわる科の減少が著明 です。その中でも地方の地域医療において重要な内科の実数の減少は非常に大きな影響 を示しています。すなわち、(1)地域間格差が増大し、(2)診療科間の格差が増大している 。その結果、(3)地方、へき地医療が崩壊している。(4)救急医療が近々に崩壊するだろう ことが危惧される。(5)さらに日本における医学・医療の底支えをしていた医学部卒業者 の基礎に行く方の減少が大変危機的な状況です。これらは近い将来、教育研究診療レベ ルが低下し、結果的に国民の医療と福祉の重大な危機を招くことが予測されるわけです 。  8頁です。医学は生涯教育なので、教えることができるのは今の知識であり、技術で しかありません。当然10年経ちますと医学・医療のレベルは大きく進歩します。現在、 私自身も学生時代に習ったこと、あるいは卒後すぐに習ったことでもって診療をやって いるわけではない。その後獲得したものでやっているわけで、優れた技術ですら陳腐化 するわけです。そういう意味ではいかに優れた教育システム研究者でも、10年後、20 年後の知識や技術を教えることはできないわけです。そういう意味では自らが最新の知 識・技術を生涯学習として学び続けられる手法を授けるのが教育の基本ではないかと思 っています。  9頁です。そういう意味では医学生・医師についてはシームレスな生涯教育が必要で す。研修制度の位置づけを明確にして、卒前と卒後の一貫性を担保する、シームレスな システムが必要だろうということです。詳しくは資料2−2にありますが、昨年の7月 に緊急声明として(1)過疎地を含む地方医療の崩壊、(2)小児科、産科はもとより外科系救 急医療の崩壊、(3)日本の医学・医療、教育研究診療の沈滞は国民に対する大変な問題で 、制度の迅速な見直しをお願いしたものです。  10頁です。上に昨年の全国医学部長病院長会議からの提言と要望があります。下には 臨床研修制度がなぜこれだけ社会問題化して、医師不足が急に生じたのかということで す。この2年間に1万5,310名の新医師が誕生しました。しかしながら臨床研修医は研 修に専念することになっているので、研修病院には医師として存在はしていますが、外 科、内科、眼科、耳鼻科等々のマンパワーにはなっていないわけです。全国の医師数が 平成16年の厚生労働省の調査では25万6,600名余ですので、この2年間で約6%の医 師がこの世の中から消えたのと同じ状況を生み出したということです。  さらにもう1つ付け加えますと、1年間に約4,000名の医師がリタイアしていますの で、この医師不足は9%にのぼり、約1割ですから、地方においては極めて大きな影響 を受けています。  11頁です。昨年の8月に新医師確保総合対策がありました。いろいろ提言されていま すが、先ほどお出しした地方と大都市圏域における差です。特にへき地・地方の地域医 療は、地方の大学が担っておりました。新卒者がすぐに地域医療の担い手になるわけで はありませんが、大学の各診療科にマンパワーがあることによって5年目、6年目の医 師が地域医療、あるいは過疎地医療のお手伝いをすることができていたわけです。現在 では地方大学における医師不足により、過疎地医療のサポート体制は完全に破綻してい ます。  新医師確保総合対策の中で集約化という話がありますが、地方には東京の約半分くら いの面積の二次医療圏があり、その二次医療圏には1つの病院しかない。その1つの病 院しかない二次医療圏は東京の半分くらいの面積があって、そこに1病院しかないよう な二次医療圏の中で、基本診療科の充足すらままならないというのが地方の実情なので す。地方の医療の崩壊は今年中に社会問題化するでしょうし、かなりの地方でこういう 破綻が見えてきている状況です。  大学以外に例えば公立病院等々で地方医療の、あるいは過疎地医療のお手伝いができ るかというと、それもできないので、地方ではもう破綻寸前です。  これらの問題の解決法として全国医学部長病院長会議で議論をされている内容は12 頁です。医学教育については皆さんには改めて言う必要もないわけですが、教養、基礎 、臨床が屋根瓦的に6年一貫教育としてされています。大体の大学では4年生までに知 識の部分、5年生、6年生で臨床実習が行われ、5,6年で技能・態度を学ぶわけです が、その後に知識を問う国家試験がされることに非常に大きな問題があります。  12頁の下、技能を学ぶ臨床実習の後に知識を問う国家試験がくることにより、各大学 の6年生が国家試験対策を強要されていて、折角6年一貫教育として6年間の教育がで きるはずなのに、実質5年ちょっとしかの教育にならざるを得ないという実情がありま す。  それともう1点、臨床実習ですが、医学生の医行為実施については前川基準が昔から あるわけです。そして、臨床実習については先ほどの福井先生をはじめとして実効的な 臨床実習をしようということで掛け声がかけられているわけですが、実際には医学生の 医行為実施の法的な裏づけがありません。従って、実際にはなかなかクリニカル・クラ ークシップ実習になっていかないということがあります。また、医療安全が重要視され る中、現場において実習指導教員がどんどん腰が引けて、むしろ10年前よりも見学実習 になっている実態があります。これらの問題が解決すれば、現在の臨床研修は確かにい い制度ですが、それに匹敵する学部教育、臨床実習が可能となると考えています。  臨床実習の問題解決策としては、コア・カリキュラムの導入、CBTも本格実施とな り、4年生から5年生に行くときに、全国すべての大学でCBTを実施していますから 、その中でCBTを国家試験化して医行為に法的な裏づけを付けて、医学生に仮免許を 与えて臨床実習をさせていただければ、これは実効的な実習になりますので、大変よろ しいかと思います。  大学における臨床実習の問題の1つには難しい症例、希で重症な症例が多く、軽症で 頻度の多い疾患は少ない。きちんとそういうことが教育できるのかということがありま す。そういう意味でこの2年間で培われてきた臨床研修病院と共同で臨床実習を行うこ とにより、頻度の多い疾患に対するプライマリケアも含めて実習ができるのではないか と思います。もし、卒後に国家試験をもう1回行うということであれば、知識を問わな いで技能を問う形の実地試験形式の国家試験をしていただきたい。  そういう意味では、臨床研修病院の協力が得られれば、6年の医学部教育で臨床研修 の到達目標をクリアすることは十分に可能だと思います。国の社会資源がこれだけ枯渇 し、財政的にも難しい状況の中で、なぜ6年でできる医学教育を無理やり8年にしなけ ればならないのかということです。そういう意味では限られた社会資源の有効活用にな りましょうし、頻度の高い疾患については研修病院での実習をさせていただければよろ しいかと思います。これによって得られる効果は、現在大きく社会問題化している医師 不足の速効的な解消につながるということだろうと思っています。  最後の頁です。学部教育だけですぐに難しい手術等々ができるわけではないし、卒後 の2年間の研修で難易度の高い治療ができるようになるわけではありません。そういう 意味では医学生涯教育の観点から、卒前・卒後の一貫した医師の生涯教育、システムの 確立をお願いしたいと思います。  最後にまとめとして、(1)臨床実習前の国家試験の実施、(2)CBTの国家試験化、(3)仮 免許を交付して学生の医行為の法的整備をしていただきたい。(4)臨床研修病院の協力を 得て臨床実習を行えば実効ある臨床実習ができます。8年かかっているものを6年で済 ませることができる。(5)必要があれば卒後の技能を問うOSCEでの国家試験をやって いただければよろしいと思いますし、連携した教育システムが必要です。(6)卒後の臨床 研修については専門研修として再構築をしていただきたい。これはまだ案の段階ですが 、こういう形のことを考えています。そういう意味では国民のため、日本の医学・医療 の水準維持のために、十分なご審議をお願いしたいと思います。 ○部会長 ありがとうございました。ご意見、ご質問を伺いたいのですが、1つだけ小 川先生に確認したいと思います。1頁目に「帰学状況」の数字がありますね。これは平 成14年度は卒業者が自大学及び他大学に所属した数字が出ていて、大学残留率ですね。 ところが、下は卒業者で大学へ帰った人、これは他の大学も含めての帰学率という数字 で、全く同じものを比較しているのではないのですね。 ○小川参考人 そのとおりです。ですから、平成14年に卒業した人が2年後に大学にい る率であれば、正確に比較はできるわけですが、それは実態として捉えることができま せんので、コントロールとして大体のことは見ているだろう。そしてそんなに大きな差 はないと思っています。 ○部会長 いかがでしょうか。 ○冨永委員 いまおっしゃいますように、地方の大学病院での研修医が少なくなってい るのと比例して帰学率が少なくなっているというご指摘です。マスコミの報道等をみて もこのとおりだと思うのです。その原因として、都会から地方の大学に行っている学生 が多いとか、若い人の都会志向などと言われていますが、臨床研修のカリキュラムとし ては都会の大学も、地方の大学も遜色なくよく指導できるカリキュラムを作っていらっ しゃると思うのです。いままでそうでなかったのが急になったということは、都会の臨 床研修病院で臨床研修を受けたい人の数も増えたのが原因かと思われますが、その他の 要因については、どのようにお考えでしょうか。 ○小川参考人 これはあくまでも臨床研修を市中の臨床研修病院で行う人が増えて大学 での研修が減ったということを言っているわけではありません。臨床研修を2年間やっ た研修医が、大学に2年後にきちんと帰属しているかどうかを検討したものです。そう すると、やはり東京など大都会に行って、大都会の生活に慣れてしまった方々は、地方 に戻ってくることは基本的にはないことを示しているのだろうと思います。いろいろな 意味で大都会のほうが生活環境等々がよろしいところもあるわけです。  もう1つは、いまこれだけ医師不足が叫ばれている中で、約6%の医師が突然いなく なったのと同じですから、研修後の医師確保の観点で市中の研修病院も血道を上げ囲い 込みを行っている所もあるのだろうと思っています。ですから、大学に戻ってくる者が 少なくなっている。また、基礎に行く者は激減したということです。  先ほど申し上げるのを忘れましたが、是非見直しをされるときに、日本の医学を守る ためには、医学部卒業者が基礎医学に行っていたことが、欧米に比べて医学・医療レベ ルを維持してきたという原動力になっていたことを忘れてはなりません。それが臨床研 修をしなければ病院長施設長すなわち開業医になれないという縛りがあるわけで、そう するともう基礎に行く方々はいなくなると思いますので、是非その辺も含めて、ご検討 いただきたいと思います。 ○山下委員 医学部の卒前教育を非常に充実するというご提案で、その際にご検討にな ったと思うのですが、初期の研修内容を全部医学生に落としたときに、内容が全部カバ ーできるかどうか、法的な問題はどうクリアできるかご検討の内容を教えていただきた いのです。要するに仮免許状態でどれぐらいまでできるか、どこまで検討していてどう クリアするかということです。 ○小川参考人 それは、仮免許が国民のご理解を得た上での免許でなければいけないわ けです。実際には現在CBTが義務化されています。そのCBTの高い受験料(2万8000 円)についても各個人、あるいは大学負担になっており、そういう負担を強要されてい るにもかかわらず、CBTに合格したら何だというものが全くないわけです。それとク リニカル・クラークシップ実習に関しては10年前から、見学実習ではなく実質的な診療 参加型の実習にしましょうということが言われてきたわけですが、実際に現場では後退 している。それは実習指導医が例えば注射をさせる、あるいはさまざまな医行為をさせ て問題が起こったときに責任を取らされるのだったら、学生には見学させている方が問 題がないということで後退しているわけです。そういう意味では昔、10年以上前は5年 生、6年生の臨床実習でやっていたことを現在は卒後の研修医がやっている実態がある ので、是非その辺も含めてご検討いただければと思います。 ○部会長 最後に総合ディスカッションが残っていますので、次の方に伺いたいと思い ます。次は京都大学医学教育推進センター教授の平出参考人にお願いします。 ○平出参考人 私もプログラム責任者で現場に近い立場から少しお話させていただきま す。資料3−2は医師臨床研修制度の見直しに関する提言で、今年の1月12日に国立大 学附属病院長会議から出させていただいたものです。私と同じ臨床研修センターの担当 者が集まって提言を厚生労働省に出させていただきました。今日は機会をいただきまし て、この見直しに関しての提言案についてご説明させていただく形です。非常にたくさ んの意見が集まっていますので、私の独断と偏見で整理してお話させていただきます。 2頁目の「1.臨床研修のあり方、理念について」、さらに3頁目の「2.臨床研修の 到達目標について」と「3.臨床研修プログラムの変更手続の弾力化について」、この 3つについて主に資料3−1でお話させていただきます。                  (スライド開始)  私どもは教育センターという立場におります。各講座が学生と連なっていたのをまと めて、センターが教育をするという立場にいます。(1,2ページ目)私は、京都大学 の医学教育推進センターの専任の教官です。研修センターも同様に、いままで各診療科 が研修医と結び付いていたのが、横断的に面倒を見ましょうということになりました。 今度の臨床研修制度の改革でいちばん大きかったことは、このセンターができたことで はないかという意見もあります。ただ、国立大学ではこのセンターの担当の人がうつ状 態になってしまったりして、非常に悲惨な状態であるというので、なんとかみんなで頑 張ろうということでやっています。(スライドだけ、資料は無し)こういうセンターで シミュレーション教育をやったりとか、いろいろ役に立っています。これは医療安全の シミュレーションの写真です。臨床研修センターでやっています。こういうセンターに 人が付きました。しかしこういう人は非常に苦労している状況で、そういう人たちの声 を集めてまいりました。  (4ページ目)ご存じのように必修化後、研修医の数が大学病院と一般研修病院で逆 転した。第一志望の方も、大学病院は少なくなってしまっています。(5ページ目)こ れは厚労省の調査によりますが、黄色の一般研修病院のほうが研修医の満足度が高いで す。2年目になると、研修病院のほうがうんといいわけです。(6ページ目)これは不 満足度で、雑用が多いということで赤の大学病院は1年目より不満が多い。2年目の研 修医に聞いてみると、ガッと非常に不満が増えてしまうということで、私ども国立大学 病院としても、これをなんとかしないといけないということでやっています。  (7ページ目)これは、国立大学病院で作ったパンフレットです。このときの会議で は、国立大学病院としては失うものは何もない。何でもやっていこう、いろいろトライ アルをしようということで、パンフレットを作ることになりました。この朽ち果てた木 は、かつての国立大学病院かと学生から質問されましたが、そこから新しい芽が出てく るという図式です。こういう者たちが集まって、見直しに関する提言を作りました。臨 床研修協議会、臨床研修委員会という場に研修センターの担当者が集まって作ったもの です。  (8ページ目)これは厚労省の調査のよるものです。研修医に聞いたところ、小児科 は7.5%、産婦人科は4.9%志望です。(9ページ目)ただ、マッチングのときに母集団 も先ほどとは違いますが、学生に聞いてみると小児科志望は10%くらいあります。少し 心配です。外科は13%です。研修をしている最中に志望が変わった人は4割ぐらいおら れます。もちろん、研修して別な科に興味が湧いたというのもありますが、研修して興 味が削がれてしまったとか、指導医を見ていると大変だというのはいつわらざるところ があると思います。それが非常に心配なところです。  (10ページ目)京大では、小児科、産婦人科重点プログラムというのを作りました 。これはおこがましくて、3カ月で本当に重点と言えるかどうかは疑問はあります。し かし、少なくとも20名の定員を削って、小児科重点プログラム、産婦人科重点プログラ ムにしました。2年間京大でやるというプログラムでは、すべて第1志望の学生がマッ チして、1年目は学外、2年目は京大というプログラムではほとんどが第1志望だった のですが、小児科、産婦人科重点プログラムとなると、第3志望、第4志望である程度 滑り止めとして使われているという実態でした。  1に挙げました臨床研修のあり方、理念についてですが、現在の臨床研修の理念を定 着させるためには定められた診療科をただローテーションするだけではなくて、もう少 し特徴のあるプログラムの選択が病院にもできる研修も許されることが重要だと思いま す。出てきた案の例ですが、小児科への進路選択の希望の強い研修医については、小児 科をまずローテートした後に救急部門をローテートするようなプログラムも柔軟に構築 するようにすべきである。小児救急が、これでできるようになるはずだという意見もあ ります。私もいろいろな所で聞きますが、研修指導の負担で産婦人科もかなりへこたれ ています。むしろ、もう少し女性の心とからだを理解できるように研修理念を明確にし て、研修の枠を広げれば、研修医にとっても豊かな選択が可能となるはずではないか。 そういうことも考えていったほうがいいのではないかという意見があります。こういっ たものを取り入れて、もう少し柔軟に豊かなものにできるのではないかという現場担当 者の声です。  (スライドだけ、資料は無し)これは指導医のためのワークショップの写真ですが、 宮嵜室長のご報告では1万5,000人が受講した。いままでにないことだと思います。( 11、12ページ目)研修目標というのは一般目標、行動目標に分け、非常にビヘイビ アルな行動的な目標を立ててやっていきましょうということです。いま厚生労働省から 提示されている研修目標、到達目標というのはこれと枠組みが違います。これを見ます と、到達目標の考え方がずれています。ここでいう行動目標というのは基本姿勢、態度 である。あとは経験していけばよい。良い態度で、とりあえず疾患を経験すれば良いと 捉えかねないです。私も指導医にそのずれを質問をされて、非常に困るところです。  ワークショップの内容は、WHOで長くやってきた内容なのです。  (14ページ)これはICLSコースですが非常に広まりました。1日コースでこう いう学習目標を立てて、心肺蘇生を学ぶ。研修目標はACLSになっています。ACL Sは10ケースシナリオになるよということで、非常に拡張されたものです。3日間で6 万円がかかる。なかなか研修医に教えられるものではなくて、1日コースぐらいの日本 で育ったコース、2年間に育ったコースを推奨すべきだと思います。いま日本では半年 で500コースで、半年で1万人が認定されています。ナースも含まれていますが、研修 医もかなり受けています。ですから、4万人ぐらいは2年間で受けたということで、こ ういうものを研修目標に取り入れていくべきである。イギリスの場合は、年間で6万人 が受けているILSコースは国でサポートしています。到達目標をやはり組み直したほ うがいい。現在提示されている臨床研修の到達目標には、急速に変化する臨床研修の現 状に合わない部分、先ほどのような不適切な部分、研修の現実から見て適当でない部分 があります。医療安全などは非常に貧弱です。見直すことが求められている。例えば「 二次救命処置、ACLSができ、一次救命処置を指導できる」とありますが、現在では 研修医のためのICLSコースが普及されていますので、こういう見直しをしていく必 要がある。これは一例です。  最後に、プログラムの途中変更は許されないなどの柔軟性について言及します。プロ グラムの柔軟性、特徴のあるプログラム、外国での研修などの展望のあるプログラムと いったものが許されていない。そして1研修医あたりの救急件数500例とか、分娩数20 例という数の上での規制になってしまっている。ここは、非常に問題だと思います。省 令を見直すということですが、省令の中の「救急医療を提供している」という記載は、 救急患者に対して失礼ではないかという気もします。研修病院の条件として救急医療が 指導できるという条件ではないのです。救急医療を提供していればいいのです。必要な 症例があること、すなわち患者がいればいいということは、指導できるという意味では ないのです。夜間に、研修医が救急外来からコールする。指導医が自分の専門とは異な るからといって、研修医の肩をポンと叩いて去っていく。私は、実際に研修病院のシン ポジウムなどに出ると、研修医がこういうことを言うわけです。救急患者の経験数では なくて、指導の質とか診療の質が問題ではないかという辺りも、もう少し見直していく べきではないかと思います。  (19ページ目)私の秘書が正月に調べてくれました。救急指導医が勤務する臨床研 修病院は、マッチングにノミネートされた1,072のうち、167で15%です。指導医まで は難しいかもしれません。しかし、認定医・専門医が勤務する病院は半数です。決して 東京に多いわけではないです。沖縄とか香川とか、地域で真面目にやっている基幹病院 が多いところもあります。実は、地方でも少ないところはあります。しかし、マッチ率 は京阪神とか首都圏が非常に高いです。レギュレーションは数だけで言うと硬直してし まうので、もう少し質のレギュレーション、柔軟なものを取り入れていく時期ではない か。分娩の数だけでいくのは、ちょっと無理があるのではないかというのが研修担当の 皆さんの意見です。これは、地方からの悲痛な声ですが省略します。  京都府もかなり追い込まれています。北部を実際に歩いてみますと、悲惨です。学生 は翌年から送れる。しかし、研修医を送るというのはこれから3年後になるわけです。 どうしてかというと、プログラムを変更することはできませんので、新しくこの地域の 病院を協力病院にするとなりますと、実際に研修医が行くのは3年後です。その辺は、 すぐにでもやりたい。本当です。我々は、国立大学病院同士のたすきがけも考えていま す。そして京都大学は来年、地域医療重点プログラムを出します。3カ月間、地域でや る。しかし、それも地域に実際に研修医が行くのは3年後です。先ほどの小川先生の話 ではないですが、自分の郷里が田舎であれば、そこで3カ月研修をやってみたいという 人は必ずいると思います。そういうことをやっていかないと駄目ではないかと思います 。弾力化が必要であろう。それと同時に事務手続も簡素化して、もう少し柔軟にできる ようにすべきであろうということです。地域でがんばっておられる先生からお手紙をい ただいて非常に感激して、同封された写真をここへ貼り付けました。以上です。                 (スライド終了) ○部会長 ありがとうございました。研修のプログラムあるいは制度について、かなり 具体的なご意見をいただきました。平出参考人に対して、何かご意見、ご質問はありま すか。 ○山下委員 小川先生の話とも関係がありますが、先生の中で弾力的なプログラムを作 るために、将来を見据えたプログラムを作るのは私も非常に切実な問題だと思っていま す。アンケートの満足度で、そのプログラムのことは結構出てきますが、そのあとにつ ながるために、どういうことを研修医が不安に思っているか、また不満に思っているか がアンケートに出てこないのですが、何かそういうデータをお持ちでしたら教えてほし いです。要するに、本来キャリアのために研修を使いたいのに、これは不満であるとい う、内容ではなくて、将来を見据えたプログラムについての不安、不満があるのでしょ うか。 ○平出参考人 全くおっしゃるとおりだと思います。データとしては非常に難しいです が、実は国立大学病院の担当者からはたくさん上がってきました。つまり、プライマリ ・ケア、全人的医療というのは非常にいい理念なのですが、2年間ベッタリそれをやれ というのではなくて、2年目はもう少し研修医のキャリアが見えてくるようなプログラ ムができる設定にすることが非常に大事。極端なことを言えば、例えば外国へ出すとい う話もあるのです。その地方厚生局の方も話を聞いてよく考えていただいていますが、 そういうことも含めて特に将来が見えるような、特に研修2年目について、先生がおっ しゃるようにもう少しここで考え直していく必要があるのではないかと思います。 ○山口委員 先ほど、小児科と産婦人科の重点プログラムのお話をされましたが、それ で小児科、産婦人科の希望者が増えたのでしょうか。 ○平出参考人 小児科10人、産婦人科10人を採りましたが、これは3カ月研修を義務 にしています。私どもが希望したのは、この10人はほかの研修医の指導をしてほしい。 そして、小児科、産婦人科に進むようなマインドを育ててほしいというのが元の希望だ ったのです。割れたらどうしようかと思っていましたが、一応マッチしましたので、き っとこういう人たちは残ってくれるものと希望しています。 ○吉田委員 国立大学病院同士のたすきがけの理由やねらいがよくわからないのですが 、なぜそういうことをするのですか。 ○平出参考人 これは、まだ議論中です。私的なことで恐縮ですが、私は大阪大学を卒 業して、いまは京都大学に勤務で、ずっと関西で暮らしています。非常に便利ですし充 実しています。しかし、私の出身地は長野県です。常に長野県にいる肉親だとか、そう いうことも気になっていまして、もし3カ月自分の実家のある大学へ研修が許されるの であれば、私自身は行ったと思います。そういう手掛かりというかチャンスを与えられ 、一定期間で行って、本当にそこで生活することがよければ定着することはあると思い ます。そういうチャンスを与えていく、そういうものを掘り起こしていくことが必要だ と思っています。 ○部会長 時間の関係で、最後に聖隷浜松病院長の堺参考人からお話を伺います。 ○堺参考人 私のほうは一般研修病院の立場から、3年間経過している医師臨床研修制 度についてお話をしたいと思います。                 (スライド開始)  (1ページ目)聖隷浜松病院、臨床研修に関して言いますと単独型で、精神科に関し ては協力施設との連携をしています。小児科に関しては聖隷浜松病院が協力病院となっ て、ほかの管理型病院の研修医を受けています。病床数は744床、医師数は215名です。 いわゆる初期研修が、1学年12名の24名です。新専門研修、今年3年目研修で後期に 残ってくれた人が21名です。ボリューム的に言いますと、ここに書いてある分娩数、手 術件数、救急車の搬入件数は年間で5,200ほどありますから、ボリュームとしては問題 ないと思います。問題は質になると思いますが、そんな形で研修を行っています。  (2ページ目)3年間が経って、聖隷浜松病院としてわかった課題が5つあります。 良い医師が育っているのか。安全性の保証はどうか。処遇と労働者性。先ほど来言われ ている継続した臨床教育、研修はどうか。地域医療とのかかわりです。今日は地域医療 のかかわりにはあまり触れないで、最初の4つを言いたいと思います。  良い医師が育っているかというのは、3つのファクターがあると思います。制度とし ての新医師臨床研修制度。環境として言いますと病院でありますし、プログラムが当た ると思います。人に関しては研修医、指導医、病院スタッフ、利用者。利用者の視点は 非常に大きいと思います。安全性の保証では、どうしても病院の都合、研修の都合が言 われますが、問題は利用者の不利益になっていないかが重要だと思っています。処遇と 労働者性については、聖隷浜松病院のデータを基に最後にお話させていただきます。  「良い医師が育っているか」の中の環境と人について言いますと、聖隷浜松病院では 全病院的な体制づくりを行っています。研修センターを設立しまして、その中には専任 の事務職員、特徴的なのは専任の看護師で師長クラス2名を配属しています。環境整備 は、もちろんやっています。プログラムの充実ですが、最初は聖隷浜松病院も特色を出 そうということで、小児、救急、麻酔の3つのプログラムがあったのですが、どうも研 修医は、そういうのは後期研修でやるから十分であって、それよりも最初の2年間はプ ライマリ・ケアをやりたいという意向が強くありまして、いまでは単独でプライマリ・ ケア中心のプログラムをやっています。臨床・診療体制、指導医体制としては、担当部 署を明確にしました。総合診療内科、救急科を中心にやって、ほかは専門各科にお願い する。指導医の育成と適切な評価が必要だろうということで、適切な評価に関しては指 導医手当として、僅かですが月額3万円を支給しています。  それから、メンター制の導入です。学生からすぐに来たわけですから、精神的にかな り脆いところがありまして、メンター制を導入しています。臨床研修医の評価の第一者 評価、第二者評価に関してはポートフォリオ、双方向性、看護師等の他職種の評価を行 っています。第三者評価は、新医師臨床研修評価に関する研究会の評価ですが受審予定 です。  問題は、研修病院になると質が下がるのではないかという懸念があると思いますが、 病院としてはこの質の保証と外への可視化、医療の質の向上に努めてタイムリーで正確 な情報を外に発信しています。これは、学生相手でもありますし、一般の利用者に対し ても情報の発信をしようと思っています。民間病院ですから、いちばん大切なのは財政 基盤の確立です。研修医の受入というのは、病院の持ち出しです。これは明確ですから 病院としては先行投資と考えています。  (3ページ目)利用者にとって最大の関心事である安全性保証に関しては、先ほど申 し上げた研修センターの専任看護師の役割が非常に大きくなってきます。どういうこと かというと、彼らは患者の視点で物事を判断します。それから現場の調整機能。研修医 が病棟へ行って大変だとか、外来、救急場面で現場のナーススタッフといろいろな問題 があったりしますが、そういうことの調整をやっています。それから、適切なフィード バックをかけています。  実際にどういうことをやるかといいますと、患者に対して、聖隷浜松病院は研修指定 病院ですから研修医がいますよと。問題があったら、何でも申し出てくださいとお願い しています。患者のリスクを回避する。それから、現場ではなかなかできない研修医の 技術、コミュニケーション不足の把握をやってフィードバックをかけます。  いちばん問題になっているのはローテーションが変わるとき、個々によってスムーズ に行かない場合があります。それに関しては、専任看護師が非常に手助けになっていま す。それからメンタルサポート。指導医、メンターに聞けないようなことでも、気軽に 専属の看護師に相談できることがあるように思います。  研修医の業務内容に関しては、どこの病院でもやっているでしょうけれども、上級医 の確認が必要な処置、処方の基準というのは確認リストという形で取っています。問題 の安全・感染管理に関してはもちろんOJTもやりますし、KYT(危険予知トレーニ ング)をやって非常に効果を上げています。  なかなか触れられないのが処遇と労働者性です。研修医の処遇についてはあとで述べ ます。指導医の処遇に関しても先ほど申しましたように、指導医手当というのを月3万 円支払っています。それから、最近もちろん問題になっていますが勤務体制、当直業務 の見直しです。当直というのは夜間の通常業務であって、できたらいろいろ考える必要 があるという認識を持っています。具体的には小児科でフレックスタイム、当直の翌日 の午後はオフをするなど、いろいろやっています。ただ、問題は特に外科系は次の日に 手術予定があったりすると、実際はどうしたらいいかなというのが頭の痛いところです 。  これは研修医の勤務時間ですが、平均で見ると81.2時間です。随分多いのですが、タ イムカードによるスタディーですから、たぶん研修医は例えばCPCなど準備を病院に 来てやっている場合、この中に含まれているのではないかと思います。もう少し精度を 高める必要があると思っていますが、たぶん70時間ぐらいではないかと思っています。  (4ページ目)なかなかキャリアパスが見えないということですが、その前に問題は 、初期研修の評価になると結局卒前の関係が出てまいりますし、講義をどうするかとい うのがあります。切り口として初期研修はどうなっているのか、それに対する見直しは どうなのかというのを明確にする必要があると思います。もちろん、クリニカル・クラ ークシップをやる必要がありますし、文科省、厚生労働省も一緒に検討していることと 思います。後期研修に関してもこれは非常に問題で、なかなかできていないところはあ りますが、後期研修で望むことはプログラムを明確に策定する必要があると思います。  先ほど来、都市集中というのがありますが、全国レベルあるいはプログラムレベルで 定員を設定する必要があると思います。定員があれば、例えば東京でそんなにたくさん 採ることは不可能になるわけですから、ボリュームあるいは質を見ながら定員を設定し ていただきたいと思っています。そのためには第三者評価です。評価のない制度という のは全く意味を成さないわけですから、これはやっていただきたい。これは日本専門医 認定機構でもちろんやっていただいていると思いますが、たぶんその辺からいろいろな 提案が出てくるのではないかと思っています。  医師のキャリアパスの構築は非常に重要なことで、先ほど小川先生もおっしゃいまし たが基礎研究への配慮が必要ですし、研修修了者のフォローアップです。特に一般病院 に関して言いますと、何よりも人材確保につながると思っています。例えば聖隷浜松病 院のキャリアパスですが、卒前にクリニカル・クラークシップをやっていますし、初期 研修をやっていますし、後期研修、フェロー、スタッフ、管理職になるわけですが、こ の中で大学病院、大学院、一般病院とのやり取りはもちろんあります。  聖隷浜松病院では、開業することを何ら悪いものと思っていません。というのは地域 連携のために聖隷浜松病院の理念、やり方を理解した医師が開業するのは非常にありが たいことで、これは利用者にとってもいいことだと思って、三方一両得の形で考えてい ます。  制度の見直しに関しては、いま平出先生からいろいろありましたが、基本的な考え方 としては、プライマリ・ケアと全人医療、人格の涵養、アルバイトをしないの3つがあ ったと思いますが、その基本的な考え方が妥当かどうかというのをどこかでしっかり見 極める必要があると思っています。それから期間、ローテーションは妥当か。たぶん、 クリニカル・クラークシップがうまくいってくれれば2年間は必要ないかもしれません が、そういう検討も必要かと思っています。それから到達目標、施設基準は、もちろん あると思います。  たまたま週末に漢方の勉強会があって行ってきました。漢方というのは医学教育のコ ア・カリキュラムに入っているそうですが、卒後研修の到達目標には全然入っていない ということで随分不満の声があったのです。この場を借りてそういうこともあるのでは ないかということです。  マッチングは妥当か。中間公表が必要かどうかと、いろいろあると思います。問題は 修了基準が妥当かで、まだ経過措置だと思います。処遇は妥当か。繰り返し言いますが 、プログラムが評価されていて適切なのか。満足な指導体制が確立されているのか。何 よりも私どもは、今回の初期臨床研修というのはもちろん研修医のためにあるのですが 、国民、利用者に対して我々が良い医師を作るという質の担保を我々に依頼されている と思います。病院の立場、研修医の立場もいいのですが、利用者の理解、協力、評価が 得られているのかどうかをどこかでやっていく必要があるかと思っています。  (5ページ目)臨床研修の財政的側面ですが、新制度が始まる平成15年度の聖隷浜松 病院の実態を見ますと、6月時点ですから初期研修を始めて3カ月です。たぶん労働者 性は随分低いとは思いますが、それでも昔の診療報酬による労働者性に注目した診療報 酬でいきますと、1カ月大体13万5,000円働いてくれます。ところが、病院としては研 修医の人件費、宿舎、臨床研修指導にかかわる研修指導医の人件費分なども含めると、 研修医1人あたり年間で大体670万円です。月額にすると56万円がかかっています。旧 制度での補助金ですと、研修医1人あたり大体4万7,000円いただいていました。これ では駄目だ、アルバイトしなくてもいいように、ということで、新制度では処遇が随分 改善されました。大きく分けて補助金、交付金、診療報酬があります。最初に、研修医 1人あたり概ね月30万円と言われたと思います。  診療報酬としては、昨年度に少し改定が行われました。入院、診療加算に関しては30 点が40点になりました。最初は、協力型臨床研修病院には全然評価されていなかったの ですが、それも20点と随分評価していただいたと思っています。DPCに関して言いま すと、加算が0.0006から0.0010になっています。実際になかなかわからないのですが、 聖隷浜松病院で試算してみますと、大体平均でいくとこれ全体が月額54万円です。54 万円というのは、実際に見たところの研修医1人あたりにかかる病院の費用と概ね合致 しています。  (6ページ目)これは、実際の補助金です。最初の平成16年は1期生だけでしたから 少なかったのですが、2年次は2学年ということで多くなっています。ただ、導入円滑 化特別加算というのは、3年目では半分ぐらいに減っています。実際に聖隷浜松病院は どのぐらいいただいていたかといいますと、研修医1人あたりにしますと平成16年は大 体16万円、平成17年度は10万円、平成18年度はまだ申請中ですが大体10万円と、徐々 に減っている傾向にあります。病院はどのぐらい出しているかといいますと、1年目は 大体31万円で、2年目が36万円です。ギャップはあるわけです。そういう中で、良い 制度を定着させて国民に納得いただける良い医師を育てるには、ある程度この辺は診療 報酬なのか補助金なのかいろいろお考えはあると思いますが、明確に出していただかな いことにはなかなか難しいかと思っています。  制度の評価については誰が評価するのかで変わってきますが、研修病院の考えとして は、努力義務が義務化されたということを評価していいと思います。それから、いろい ろ問題はありますが到達目標、行動目標、経験目標が明確化されたと思います。何より もいちばん大きいのは、マッチング導入によって研修医が病院を選択するということで す。この影響というのは初期研修にとどまらず、後期研修でも結局研修医が大学を選ぶ のか、一般病院を選ぶのかになると思いますが、世の中の流れはこのようになってきて いるので、これを戻すのはなかなか難しい感じがしています。300床という病床規制が 外されまして、研修病院への門戸は広げられたと思っています。実際、地域で200床以 下でも十分満足のいく研修をやっている病院がいくつもありますから、これは非常に評 価されていいと思っています。  地域による医師養成のかかわりが重要視されたと思います。結局、臨床研修をやって いないと人材が来ないこともあるし、後期研修も来ないということがあって、地域でい ろいろな連携を組みながら医師養成にかかわる必要があるという認識が出てきていると 思います。それにも増して、継続した医師養成のかかわりです。初期研修だけではなく てクリニカル・クラークシップ、それに続く後期研修に対する重要性が認識されたと思 っています。実際に私どもの病院でも、1年目が2年目になったら立派に新しい後輩を 育てる屋根瓦方式の教育体制が出てきていると思っています。ですので、これは非常に 大きなことです。  もう1つは、プライマリ・ケアへの関心が高まったということです。最初にプログラ ムが3つあったのが、1つに集約されたことでわかります。実際に後期研修を見てみま すと、聖隷浜松病院は今年度は21人が後期に来てくれたのですが、そのうちの2人がプ ライマリ・ケアあるいは総合診療を取ってくれました。次年度は15人を採る予定ですが 、その中でも2人がプライマリ・ケアに来てくれています。ですから、確実に初期研修 をやったおかげで、これが定着しつつあります。そんなに急激な変化はできないとは思 いますが、これを5年続ければ、5年間で10人になるわけです。ですから、これは非常 に大きな意義だと思っています。実際、私どもの感じでは良い医師が育ちつつあるとい うことで、この初期臨床研修制度というのは続けていただきたい。もちろん、現状のと おりでいいということではないと思いますが、先ほど申し上げたようないろいろな課題 を一つひとつ我々が一緒になってつぶしていきながら維持する必要があるかと思ってい ます。以上です。                 (スライド終了) ○部会長 ありがとうございました。臨床研修病院の立場から、いろいろな問題点を明 確にお話していただきました。あと約25分ほど時間が残っていますので、4人のお話を 聞いてのフリーディスカッションをしたいと思います。4人にいろいろな角度からお話 いただきました。もちろん、この会の目的は臨床研修制度の議論ですが、医師の生涯教 育あるいは卒前、卒後の教育とも絡んでいますし、今日はいろいろな意見を出していた だいて、後ほど事務局で論点を整理して次回以降につなげたいと思いますので、どうぞ ご自由にご発言をいただきたいと思います。いかがでしょうか。 ○福井参考人 先ほど時間がなかったために端折ったところなのですが、制度自体の課 題について、私自身が感じていることを4つか5つ申し上げたいと思います。  1つ目は、研修病院の数や研修医の枠があまりにも多過ぎて、それが研修医の分布の 地域の偏在を生んでいる要因になっているとということで、したがって、研修病院のプ ログラムの評価に連動して、これは堺先生がおっしゃったことと同じですが、プログラ ムの評価とともに地域分布を考えて、もう少し研修医の枠を減らしてもよいのではない かと思っています。  2つ目は、研修医の評価が思っていた以上に煩雑で、2ヶ年の修了時を目指していま はEPOCなどを用いて、到達目標一つひとつについての評価をしていますが、何かもう少 し工夫をして煩雑性を減らすことができないかなと思っています。ただ、具体的にどう すればよいかということについてはアイディアはありません。  3つ目はカリキュラム自体も、細かいところも含めて少し改善するところがあると思 います。是非到達目標も全体像も含めて、カリキュラム全体をもう1回検討していただ ければと思っています。例えば、到達目標はあくまでもどういう知識を持っているか、 何ができるようになっているかということを明示するのであって、経験というのは到達 するための方略で、それを目標として掲げているのはフィットしないと思っています。  もう1つは、今回いくつか新しい制度で困るという意見が時々聞こえるのは、特定の 診療科で従来の3年目の研修医の能力と比べますと、当然内科なら内科の研修期間が最 初の2年間で短くなっていますので、内科の視点から見ると3年目の研修医は従来のプ ログラムより力が劣っているという見方をされるわけです。そこをもう少し長いスパン で評価する必要があるとか、幅広い臨床能力を今後どうやって評価していくのか。つま り、1つの診療科の視点だけで評価しようとすると、常に以前のほうがよかったという 意見になりますので、全体の臨床能力をどうやって評価していくのかというのも何か工 夫が必要かなと思っています。 ○矢崎委員 いまお話を伺って、臨床研修制度が順調に経過してきたと。しかし、いく つかの問題点があってその改善の方向性をいま具体的に示されたと思います。例えば先 ほど臨床研究に関する知識・技能が研修病院でやや落ちるのではないかと。これは、研 修病院の図書館機能が大学病院から落ちていて、Medlineの検索とかはEBMの推進あ るいは最新の医療情報に接するいちばん大事なルーツなのですが、それがなかなか難し い。私どもの国立病院機構の146の病院のうち、91の病院が難病とかそういう患者を主 に診ている療養所です。そういう療養所は最新情報にエクスポージャーされなくていい のかということで、私どもは全部の病院が、Medlineにアプローチできるようなシステ ムを導入したのですが、個々の病院ですと例えば200床以下の病院ではなかなか経済的 な負担で難しいところがあるので、何かお互いにシンジケートを組んでシステムを導入 するようなことを研修病院としてある程度条件化することも必要かなという感じがしま した。  それと、大学の先生方で現状にちょっと誤解があるのかなと感じたのは、研修に専念 することによってマンパワーがなくなったというのですが、本当は研修に専念すること によって逆にあがるはずであり、診療が充実するのではないかと。大学の先生のマンパ ワーというのは、大学のいろいろな雑用をやるマンパワーが不足しているのではないか とも取られかねないので、研修に専念することは従来の見学型ではなくて実際にベッド サイドで実習するということで、視点が違うかなと。  それから、医師不足は病院の勤務医の不足で、トータルの医師が不足しているのでは ない。喫緊の課題は病院の勤務医の不足であって、それに地域格差が加わったので、勤 務医の勤務が継続できるような環境整備を是非厚労省でもお考えいただいて、例えばい ま無責任賠償法とかADRとか、病院の医師に対するリスクをサポートするシステムを やっていますが、是非それを推進していただきたいと思います。  もちろん先ほどご指摘にありました卒前の医学教育には、いろいろなリミテーション があります。今日は文科省の医学教育課長もいらっしゃっていますので、できるだけそ ういう臨床実習に関するリミテーションを先ほどの要望にもありましたように、臨床実 習を充実することによって卒後の臨床研修の部分を前倒しにすることも可能ですので、 是非それをやっていただければ大変ありがたいと思います。 ○部会長 三浦さん、何かありますか。 ○医学教育課長(文部科学省) 日頃から先生方に特に卒前の教育といいましょうか、 先生が言われた臨床実習をどうやって充実するかということのご提案をいただいていま して、幸いOSCEとCBTが入っていますので、そういうことを足掛かりにしてどの ように進めるかは非常に重要な課題だろうと思っています。具体的にどう動くかについ てはいま私どもは会議を開いていまして、その会議の中で議論をいただいています。ま た改めまして機会がありましたら、ご報告なりを申し上げたいと思います。 ○部会長 その点に関しては単なる医学教育だけの問題ではなくて、実際に医行為をし なければ本当の実習にならないとすると、社会への理解というか国民の理解のほうが大 きいファクターですよね。 ○医学教育課長(文部科学省) おっしゃるとおりだと思います。制度的にできるよう なことと、それを受けてくださる患者がいなければ条件がセットできませんので、地域 あるいは患者からの信頼をどのように確保していくのか。それは大学病院にとっても、 非常に重要な課題だろうと考えています。 ○相川委員 いまのに関係して、小川先生のご発表のスライドの12、13頁は、将来の方 向性としては非常に大事なところであると思っています。アメリカの4年制のメディカ ルスクールの生徒を見てみましても、メディカルスクールの段階でいまの研修医がして いるようなトレーニングをかなり受けているということですので、この方向に進むこと は非常に大事だと思っています。しかし、今回見直しということですが、今回の制度で 目標としたプライマリ・ケアあるいは幅広い診療の知識、人格の涵養あるいはアルバイ トをしないで研修できる方向性については、間違っていなかったと思っています。確か に各論の中で、参考人の方々からいろいろなことを指摘されました。これは是非ここで いろいろなものを検討して、さらに良い方向を見ていかなければいけないと思っていま すが、その中でいくつか意見を言わせていただきます。  まず、マンパワーの視点から研修医制度を見ることに関しては、慎重に考えなければ いけないのかなと思っています。というのは、特に最初の2年間は移行期でありました ので、卒業生がすぐにそれぞれの診療科に入らない。また、専門分化している形の大学 病院では、専門の科で非常にマンパワーの不足が起きて問題が起こったということです が、この移行期の2年を過ぎたあとでは、2年終わった人が、専門分野にかなり帰って きているのではないかと期待していたわけです。地方によっても、診療科によってもそ の格差があることがわかってきたわけですから、後期研修医の配分がどのようにすれば 適正になって、大学あるいは研修病院、地域医療が正常になっていくかはここで各論的 に検討するべきかと思います。  もう1つ気になったのは、基礎の先生方のことが、よくわからなかったのです。確か にMDというか医師の資格を持つ基礎の教官・研究者を養成することも病理学ではまだ 必要かもしれない。また、いくつかの基礎の部門でも必要かと思いますが、これからの 基礎の研究というのはかなりPhDに依存しなければいけない基礎の分野の進歩がある のではないかと思っています。もちろん、MDが基礎の分野に行って研究者・教育者に なることを止めることではないかもしれませんが、その者が研修を受けないと将来、病 院長になれないということが私には理解できなかったのです。つまりMDになったあと に基礎に行くならば、その方は基礎でしっかり研究・教育をしていただくのがロールモ デルではないかと私は思っていますし、昔の病院長は基礎を長く研究したあとで病院長 になることも可能かもしれませんが、いまの医療の状況を見ますと長いこと基礎で研 究・教育に携わった方が病院長になるというのは、特にこれから10年先ぐらいの話でし ょうから無理なのではないかと感じています。 ○小川参考人 いまの件に関してですが、病院長というのは施設開設者ですから、要す るに開業もできなのです。したがって、基礎に行きたいという医学部卒業者がいたとし て、その方が一生懸命に頑張って、将来教授とか研究所で大成すればいいのですが、す べての基礎に行った方が大成できるわけではなく、当然途中で方向転換をして臨床に戻 りたいと思ったときに戻れないのだったら、初めから研修をしなければいけないという のが現状です。そうすると、2年間の研修をやっているうちに基礎に行くというモチベ ーションがなくなってしまって、基礎にはいかなくなってしまっているのが現状です。  先ほどの矢崎先生のご指摘ですが、確かに研修医は医師免許証を持って研修病院にい ますが、例えば地方の100床規模あるいは50床規模の診療所的な所に、その方々が行っ ているわけではないのです。研修病院に医師はいますが、地域医療あるいは過疎地医療 からするとマンパワーにはなっていないという意味です。 ○矢崎委員 そうしますと、研修に専念することでマンパワーになっていないというこ とではないわけですね。 ○小川参考人 研修に専念するのですから、研修病院の中ではマンパワーに当然なって いるでしょう。けれども、要するに日本全体の医療という意味で地域医療あるいは各科 のマンパワーにはなっていないという意味です。 ○山口委員 いまの小川先生のお話を伺っていて、卒前教育を前倒しでというのは非常 によろしいのではないかと思いますが、そのことと大学に研修医として残ることとはシ ナリオが違うのではないか。そのあとの後期研修で大学に戻ってくるかどうかというの は、さらにもっと違うお話かなと思うので、前倒しにするという卒前教育のお話と大学 に研修医が残るというお話とは、どう結び付くのでしょうか。 ○小川参考人 あくまでもこの部会は、医道審議会医師分科会医師臨床研修部会ですが 、できれば研修制度ありきで議論をしていただきたくはないと思っています。要するに 、この2年間の臨床研修制度が導入されたことによって、社会的には現実にさまざまな 問題が顕在化してきたことは事実だろうと思います。  1つは、地方における地域医療の医師不足による崩壊ということと、折角ここまでつ くってきた救急医療が危なくなってきているということと、先ほどの基礎の問題があり ます。制度設計そのものは、国民に対する医療が良くなるために制度設計をするわけで す。そういう意味では、ただ単に研修制度をごちゃごちゃ小さいところでいじっていて も問題は解決しません。やはり卒前の医学教育から卒後の医学教育、さらに生涯教育が 重要です。難しい疾患の手術や治療は研修をやったからできるのか。お産を少しだけ勉 強したから産科ができるのかというとそうではありません。そういう意味ではきちんと した一人前の医師に育て上げていくのは大学6年間だけでは到底足りなくて、その後10 年、20年というスパンがあって良医ができていくわけなので、それをきちんと整理をし ていただきたい。現在の研修制度ありきで議論をするのではなくて、その制度設計をし ていただきたいと思います。 ○大橋委員 いま小川先生の言われたことに尽きるわけですが、今日は4人の参考人の 方の話を聞かせていただいて、この前の会でも申しましたように、全国医学長病院長会 議としてもこれを入れたメリットを非常に評価して、その上に立って平出参考人に今日 まとめていただきましたが、研修のカリキュラムの特に2年目の多様性については少し お考えいただかないと、平出参考人もおっしゃっていましたように、かえって本当の意 味の国民の期待する医師の質の問題が出てくるということで、いま小川参考人が言われ たように研究というのも年齢依存が結構あることはご承知おきいただきたい。是非お願 いします。大学においては、終わったあとにやればいいのだよというのではなくて、生 理学からしても早く叩かなくてはいけない時期があるので、そういう意味でも2年目の 研修カリキュラムの中に、大学での研究プログラムというのもあって然るべきではない か。イギリスではアカデミック・メディスンというのも導入されてきていますので、そ ういう自由度も是非お願いしたい。  もう1つは堺参考人が言われたように、マッチングについて地域性というのを考えて いただきたい。これは英国でもウエールズ、スコットランド、イングランド、ノーザン ・アイルランドの4つの地域でまずやってという地域性を考えていますが、そういう視 点を是非この議論の中にも入れていただければと思います。  最後にお願いですが、研修生を全国一律に入れるわけですよね。ですから、その例外 事項というのは本当にないわけですが、二次医療圏というのは地方によって非常に違い がある。そこを考えて一律に入れないと今回のような弊害事項が出てくるということで 、自由裁量権をどう担保するかも同時に考えながら初期目的を入れる趣旨で、是非検討 事項に入れていただければ我々としても大変ありがたい。これは、あくまで大橋という よりは全国医学長病院長会議の考え方としてお願いしたいと思っています。 ○西澤委員 私は北海道ですが、確かに医師不足でいちばん困っている所です。しかし ながら、臨床研修が入ったがために医師不足かと言われると、私の目から見ると1つの 要因ではあったけれども、それ以外にもっとたくさんの要因があったのではないかと思 います。ですから、そこをきちんと整理しての議論が必要だと思います。  私個人としては、臨床研修の評価をしています。北海道全体で見ると、研修医の数は 新制度が始まる前からは減っていません。ですから大学が減って、ほかが増えていると いうことです。北海道の3大学がそのあたりを今いろいろ調べていまして、どうして大 学が減ったのだろう、どうしてほかの所へ行くのだろうということで頑張って、これか らたぶんそれが是正されていくのではないかと思っています。これからはある意味で協 力ですし、良い意味での競争だと思います。このようにして、より良い研修制度ができ れば、それが最終的に良い医師が育って、特に地方においての医師不足が解決されるい ちばんの手段ではないかと思っています。 ○部会長 篠崎委員、いかがですか。 ○篠崎委員 今日、4人のお話を聞いて、大変参考になりました。是非、事務当局の厚 生労働省でも積極的に取り入れるべきところは取り入れていただいて、「改むるに憚る ことなかれ」という考えでお願いしたいと思います。いま皆さん方もおっしゃいました ように医師不足は先進国共通の問題で、OECDがいくつかの要因を言っていますが、 その1つに先進国共通に高齢化していること。老人が多ければ、老人というのは病気を 1人でいくつも持ちますから患者の数が多くなったと同じことですし、また感染症が克 服されて慢性病が多くなっていますので、これも病期が長くなりますから患者の数が増 えたと同じことです。医師が足りないということは先進国共通の課題ですが、問題はど ういうふうに医療提供体制あるいは配置を考えるかが大事なことだと思います。今回の 医師臨床研修はトリガーになったかもしれませんが、これがすべて医師不足につながっ たわけではないように思います。  先ほど小川先生がおっしゃった基礎の研究者になることは非常に大事ですが、いまの 場合、例えば基礎の研究に行っていて途中で臨床に変わりたいときは、その時点でこの 研修をやっていいわけですから、道が閉ざされているわけではないということです。こ れがあるから基礎に行かないというのは、本当に基礎の医師になりたいというモチベー ションがどうなのかという気がします。24カ月という限られた期間ですから、あらゆる ところでリサーチマインドを研修生に持っていただくようなプログラムや、指導医に対 する研修等が必要ではないかと思います。 ○部会長 時間になりましたので、このあたりで終わりたいと思います。本日は参考人 の方々に貴重なご意見をお聞かせいただき、ありがとうございました。おかげさまで、 有意義な議論ができたと思います。最後に、日程について事務局からお願いします。 ○井内専門官 次回は、2月22日10時より予定しています。よろしくお願いします。 どうもありがとうございました。 ○部会長 どうもありがとうございました。 (照会先)                  厚生労働省医政局医事課                     医師臨床研修推進室                   (代表)03−5253−1111                  (内線4123)