(照会先) 厚生労働省医政局経済課
医療関連サービス室
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寝具類洗濯業務におけるオゾンガス消毒に関する
報告書



平成19年1月19日
寝具類洗濯専門部会



寝具類洗濯業務におけるオゾンガス消毒に関する報告書


  はじめに
  我が国の医療をめぐる環境は、急速な少子高齢化の進行、医療技術等の進歩への対応、安全で安心できる医療を求める国民の要請など大きく変化してきており、医療の提供はもちろんのこと、医療に関連するサービスの分野においても安全、安心でより質の高い効率的な医療サービスが求められており、多くの医療機関がより良質な医療の提供や医業経営の合理化・効率化、患者サービスの質の向上を図るため、医療と密接に関連したサービスについて、民間会社の専門的なサービスを活用している状況にあり、今後もさらに拡大していくものと思われる。
  一方、「医療分野における規制改革に関する検討会」の報告書(平成16年1月)においては、患者・国民の視点に立って医療サービスの質の向上・効率化などを推進していくためには、医療機関が委託する業務に基準を設ける範囲及び現行基準の見直しを含め、幅広く検討することが必要であると指摘されているところである。
  現在、患者等の寝具類の洗濯業務に関しては、医療機関の委託率が非常に高く、その委託形態は、医療機関以外の専門施設において行われている。
  当該業務は、患者等が使用した布団やシーツ、枕などの寝具又は患者等に貸与した衣類(以下「寝具類」という。)について、これらを医療機関から回収し、消毒(※1)、洗濯、乾燥した上で医療機関に納品するものである。
  医療機関が委託できる寝具類は、[1]感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下「感染症法」という。)に規定された一類から四類の病原体に汚染されたもので、医療機関内で消毒が行われているもの、[2][1]以外で血液や体液、排泄物等が付着している感染の危険のあるもので、原則として医療機関内で消毒が行われているもの、[3]一般のもの、である。特に、[1]及び[2]については、感染症の蔓延や作業従事者に対する感染防止などの観点から、適切な処理がされていなければならず、現行基準により、医療機関及び受託事業者が医療機関以外の専門施設で行う消毒等について、それぞれ定めているところである。
  今般、社団法人日本病院寝具協会(以下「寝具協会」という。)より、受託事業者が医療機関以外の専門施設で行う消毒のうち、ガスを用いた消毒方法に関して、より有効で安全なオゾンガス消毒の追加要望がされたことから、医療関連サービス基本問題検討会の下に「寝具類洗濯専門部会」を設置し、オゾンガス消毒の有効性、安全性を検証するための検討を行った。

  基本的な考え方
  医療法において、病院等の管理者は診療又は患者等の入院に著しい影響を与える業務を委託しようとする場合に、当該業務を委託することができる者の基準を定め、業務委託の水準の確保を図っている。
  患者等の寝具類の洗濯業務において、医療機関が委託できるもののうち、感染の危険のあるものは、原則として医療機関内で消毒を行ってから受託事業者に引き渡すこととされているが、例外的に、感染の危険のある旨を表示した密閉性の容器に入れて、未消毒のものを委託する場合もあることなどから、それらのものは、受託事業者が医療機関以外の専門施設において消毒しなければな らない。感染の危険のある寝具類の消毒については、蒸気、熱水、塩素剤、ガス等を用いた方法で行うこととされており、基本的には熱水消毒(80℃10分)が主であるが、寝具類の素材等の特性から熱水消毒が不可能である場合、又は、熱水消毒が可能な物と不可能な物が混在している場合に、それらを仕分けする作業にともなって発生する作業従事者への感染を防止する観点から、これらの寝具類はガスによる消毒を行った後に、洗濯を行っている。ガスに関しては、低温による消毒が可能であることから、加熱による材質の損傷のおそれがないといった利点があるものの、残留毒性、発がん性など人体への影響等から、より有効で安全なガス消毒の方法が求められている。
  近年、人体への影響に配慮した「オゾン」を活用して、病室、手術室、厨房、医療機器や介護用品などの殺菌(※2)が行われている状況にある。又、医療関係以外でも、食品や水処理など広い分野において活用されており、オゾンを活用することについては一定の理解を得ているものと考える。
  このような状況を踏まえた上で、患者等に対して安全で安心なサービスの提供を図るため、オゾンガス消毒を基準に追加すべきか否か、オゾンガス消毒に関する文献や研究報告、試験結果等に基づき、病原菌等に対する有効性、患者等や作業従事者に対する安全性などについて検討していく必要がある。

  オゾンガス消毒の有効性について
  現行基準において、医療機関が委託できる寝具類のうち、受託事業者が医療機関以外の専門施設において消毒を行わなければならないものは、感染の危険のある寝具類及びそれ以外の寝具類であるが、ガスによる消毒を用いるのは感染の危険のある寝具類である。
  これらの寝具類は、原則として医療機関内で消毒が行われたものであるが、感染症法に規定された五類の病原体に汚染されているもの、血液や体液、排泄物等が付着しているものなどが含まれており、感染症法に規定する病原体や大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、黒カビなどの一般細菌が付着している可能性がある。
  患者等に対して衛生的な寝具類を提供するためには、これらの病原菌を消毒しなければならないことから、以下の事項に沿って、オゾンガスの病原菌に対する有効性について検証を行った。
(1 )病原菌に対する消毒効果
  オゾンガスによる消毒効果について、栄養型細菌、真菌など医療機関から排出される寝具類に感染、付着している病原菌を想定して、寒天培地及びメンブレンフィルターを用いた試験により、それぞれの病原菌(大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、黒カビ等)に対する有効性データを検証したところ、どの病原菌においてもオゾンガス消毒による有効性が確認できた。
(2 )オゾンCT値(濃度ppm×時間min)の設定
  オゾンガス消毒の有効性は、オゾンCT値(濃度ppm×時間min)によって表現されるものであり、オゾンガス消毒により有効な消毒効果を得るためには、このCT値を設定する必要がある。
  (1)の有効性データでは、それぞれの病原菌におけるCT値は様々であるが、最も高いCT値は5,600ppm・min(黒カビ)であったことから、目安としては、CT値6,000ppm・min以上の設定が必要であると考える。
  なお、当該データには、参考までに芽胞菌に対するCT値(6,900ppm・min)も示されていたが、常在菌として存在しているセレウス菌や枯草菌が形成する芽胞菌を完全に除去するには滅菌(※3)以外に方法はなく、創傷等のない健常な皮膚に接触する寝具類においては、これらの芽胞菌が増殖しない程度に減らすことが重要であり、必ずしも滅菌の必要はないことから、オゾンガス消毒におけるCT値の設定に当たっては、芽胞菌のCT値を考慮しないこととする。
(3 )ガスの浸透度
  一度に大量の寝具類をオゾン消毒庫内に投入した場合、折りたたまれた布団や重なっている毛布などに対し、オゾンガスが内部まで浸透しているかを確認するため、実験装置を用いて実際のオゾンガス消毒と同様の工程により、8層に折りたたんだ布団の消毒を行い、[1]外部、[2]内部(4層)、[3]中心部(8層)それぞれの濃度を計測したところ、[3]中心部の濃度は、[1]外部における濃度の70%以上を確保しており、又、曝露時間の経過とともに、それぞれの濃度は同様な傾向で上昇していたことも確認できた。
  これにより、[3]中心部を消毒するために必要な濃度を確保するためには、CT値を9,000ppm・min以上に設定する必要がある。
  又、現行基準において、課長通知別添2により、蒸気及び熱湯消毒の際に、大量の寝具類を消毒する場合の留意事項が記載されていることから、ガス消毒においても同様の記載を設けることが必要と考えられる。

(4 )寝具類の素材に対する影響
  オゾンガス消毒による寝具類の素材に対する影響を確認するため、医療機関で使用している寝具類を対象として、実験装置を用いて実際のオゾンガス消毒と同様の工程により、CT値45,000ppm・minで繰り返し消毒した後、手触りや風合い、強度などを未消毒の寝具類と比較した結果、素材に変化がないことが確認できた。
  しかしながら、オゾンは酸化力が強いことから、ゴムなどの素材はオゾンガス消毒によって劣化するため、対象物の適否等を含めて注意事項などを記載する必要がある。

  オゾンガス消毒の安全性について
  現行基準において、ガスによる消毒方法は[1]ホルムアルデヒドガス、[2]酸化エチレンガスの2種類であり、ガス消毒を行う場合の注意事項として、ガスが寝具類に残留しないこと、作業所内の換気に注意すること及び引火性があるので火気に注意すること、が記載されている。
  オゾンガスについても、現行基準の注意事項を含め、以下の事項に沿って安全性の検証を行った。
(1)寝具類の残留毒性
  オゾンガス消毒を行った寝具類に残留毒性がある場合は、その寝具類を使用する患者等に支障を来すおそれがあることから、寝具協会において、実験装置を用いて実際のオゾンガス消毒と同様の工程により、[1]ウオッシャブル掛布団、[2]毛布、[3]枕(ビーズ製)の3種類の寝具類の消毒を行い、それぞれの残留濃度を測定する試験を行った結果、どの寝具類も残留濃度は検出限界(0.001ppm)以下であった。
 この試験結果から、オゾンガス消毒後は、消毒庫内のガスをオゾン分解触媒を通し、酸素に分解して排気するという作業工程を適切に行うことにより、オゾンガス消毒後の寝具類にガスが残留しないことが確認できた。
  したがって、オゾンガス消毒後は、オゾン分解触媒を通して適切な排気等を行う必要がある。

(2)人体(作業従事者)への影響
  オゾンガス消毒を行う作業従事者は、消毒庫内やオゾンガス発生装置からガスが漏洩した場合、高濃度のオゾンガスを被曝する恐れがあることから、ガス漏れを検知するセンサーを設置し、作業環境基準(0.1ppm)を遵守する必要がある。
  その際、オゾンガスは空気より重いので、検知センサーを設置する場所は消毒庫等の床から1.0m以内など、適切な場所に設置することとし、併せて、定期的に作業所内の換気を行う必要がある。
  なお、作業従事者のより一層の安全性を図るためには、手袋や活性炭マスクなど、作業に必要な防護服等を装着することが望ましいと考える。

(3)オゾンガスの発生装置
  オゾンガスを発生させるためには、空気中の酸素と電気が必要であるが、空気中には窒素も含まれており、オゾンガス生成時に有害な窒素酸化物が排出される危険性があることから、大気中から取り込んだ空気をPSA式酸素発生装置を用いて、この装置に内蔵されている窒素吸着剤を通すことにより窒素と高濃度酸素(90%以上)に分離する。
  この高濃度酸素(90%以上)と電気によってオゾンガスを生成することにより、オゾンガス生成時に窒素が含まれることは殆どないことから、有害な窒素酸化物が排出される危険性は非常に少ない。仮に、わずかであるが窒素酸化物が排出されたとしても、その排出量は検出限界(0.04ppm)以下であることから、環境や人体に影響はないものと考える。
  よって、オゾンガス消毒を行う場合は、PSA式酸素発生装置を有するオゾンガス発生装置を用いて、オゾンガスを生成する必要がある。

(4)設備の安全機能
  消毒庫内にはオゾンガスが充満しており、事故等が発生した場合は高濃度のオゾンガスが大気中に排出される可能性も考えられることから、オゾンガス消毒設備は、(2)及び(3)で指摘したガス漏洩の検知センサーの設置、PSA式酸素発生装置はもちろんのこと、高気密性扉や扉ロック機能、濃度測定モニター、停電時の対応など、多数の安全機能を有する必要がある。
  なお、これらの安全機能については、オゾンガス消毒を行う前後において正常に機能することを確認することとし、オゾンガス消毒設備については、(1)で記載した分解触媒の交換を含め、定期的に保守点検を行うなど、常に安全性を確保することが必要である。

  その他
  諸外国における寝具類の消毒の状況を把握するため、参考人を招致して意見を聴取したところ、熱水消毒が主であり、ガスによる消毒は殆ど行われていないという実態が確認できた。
  又、日本における寝具類の消毒の状況については、現行基準や寝具協会からの説明等により、熱水消毒が基本であると考える。
  しかしながら、寝具類の素材等の特性などから熱水消毒が困難な場合があるが故、低温によるガス消毒がいまだ必要とされているものである。

  おわりに
  以上、寝具類洗濯業務におけるオゾンガス消毒について、文献や研究報告、試験結果等に基づき、その有効性や安全性について検討してきたところである。
  厚生労働省においては、オゾンガス消毒の追加にあたり、この報告書を踏まえ、患者等に対して安全で安心なサービスの提供を図るため、寝具類洗濯業務の委託基準について、必要な見直しを講じられたい。

 【用語の解説】
    ※1   消毒: 対象とする微生物を、感染症を惹起しえない水準まで殺滅又は減少させる一定の抗菌スペクトルを持った処理方法である。
    ※2   殺菌: 微生物を死滅させる操作のことである。(対象や程度を含まない概念)
    ※3   滅菌: すべての微生物を対象として、それらをすべて殺滅又は除去する処理方法である。



「寝具類洗濯専門部会」委員名簿

【五十音順】

  氏        名 役        職        名

  上  寺  祐  之    東京大学大学院医学系研究科医療環境管理学客員助教授

大久保      憲    東京医療保健大学医療情報学科感染制御学教授

斧  口  玲  子    北里大学病院看護部中央滅菌材料部看護係長

倉  辻  忠  俊    国立成育医療センター研究所長

榛  葉  紀久雄    社団法人日本病院寝具協会理事

関  口  令  安    財団法人東京都保健医療公社大久保病院院長

中  嶋       昭    財団法人日産厚生会玉川病院院長

 
※ ○は座長
計 7名



「寝具類洗濯専門部会」開催経過


区  分 開  催  日 検    討    事    項
第1回 平成18年10月27日 ・寝具類洗濯業務の現状について
・寝具類洗濯業務の委託基準の見直しについて
第2回 平成18年12月13日 ・諸外国における寝具類の消毒等について
・寝具類洗濯業務におけるオゾンガス消毒に関する報告書(素案)
第3回 平成19年1月19日 ・寝具類洗濯業務におけるオゾンガス消毒に関する報告書(案)

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