06/12/27 労働政策審議会労働条件分科会第72回議事録 第72回労働政策審議会労働条件分科会          日時 平成18年12月27日(水)          17:00〜          場所 厚生労働省18階専用第22会議室 ○分科会長(西村) ただいまから第72回「労働政策審議会労働条件分科会」を開催い たします。本日は久野委員、奥谷委員、平山委員が欠席されています。本日の議題に入 ります。本日は労働契約法制及び労働時間法制について、「今後の労働契約法制及び労働 時間法制の在り方について(報告)(案)」が事務局から提出されております。まずは、 事務局から資料の説明をお願いいたします。 ○監督課長 お手元の資料No.1「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方につい て(報告)(案)」でございます。  1頁。今後の労働契約法制の在り方については、労働政策審議会労働条件分科会にお いて平成17年10月4日以後、今後の労働時間法制の在り方については、同分科会にお いて平成18年2月9日以後、合わせて 回にわたり検討を行い、精力的に議論を深めて きたところである。少子高齢化が進展し労働力人口が減少する中で、我が国の経済社会 の活力を維持するため、就業形態の多様化、個別労働関係紛争の増加、長時間労働者の 割合の高止まり等の課題に対応し、労使双方が安心・納得した上で多様な働き方を実現 できる労働環境の整備が必要となっている。  まず、近年、就業形態・就業意識の多様化等が進み、労働者ごとに個別に労働条件が 決定・変更される場合が増えるとともに、個別労働関係紛争も増加傾向にある。一方、 個別労働関係紛争解決制度や労働審判制度など、個別労働関係紛争の事後的解決手続の 整備が進んでいるが、個別労働関係を律する法律としては、最低労働基準を定める労働 基準法しか存在しないため、体系的で分かりやすい解決や未然防止に資するルールが欠 けている現状にある。  このため、労働契約の内容が労使の合意に基づいて自主的に決定され、労働契約が円 滑に継続するための基本的なルールを法制化することが必要とされている。  また、労働時間の状況についてみると、労働時間は長短二極化しており、子育て世代 の男性を中心に長時間労働者の割合の高止まりや健康が損なわれている例も見られる。 仕事と生活のバランスを確保するとともに、労働者の健康確保や少子化対策の観点から、 長時間労働の抑制を図ることが課題となっている。  さらに、産業構造の変化が進む中で、ホワイトカラー労働者の増加等により就業形態 が多様化している。このような中、企業においては、高付加価値かつ創造的な仕事の比 重が高まってきており、組織のフラット化等を伴い、権限委譲や裁量付与等により、自 由度の高い働き方をとる例が見られ、このような働き方においてもより能力を発揮しつ つ、長時間労働の抑制を図り、健康を確保できる労働時間制度の整備が必要となってい る。  このため、仕事と生活のバランスを実現するための「働き方の見直し」の観点から、 長時間労働を抑制しながら働き方の多様化に対応するため、労働時間制度について整備 を行うことが必要である。  このような考え方に基づき当分科会において検討を行った結果は、別紙のとおりであ るので報告する。  この報告を受けて、厚生労働省において、審議の過程で出された労使各側委員の意見 も十分斟酌しつつ、次期通常国会における労働契約法の制定、労働基準法の改正をはじ め所要の措置を講じることが適当である。  3頁の別紙です。I「労働契約法制」。労働契約の内容が労使の合意に基づいて自主的 に決定され、労働契約が円滑に継続するための基本的な考え方として、次のとおりルー ルを明確化することが必要である。1「労働契約の原則」。(1)労働契約は、労働者及び使 用者の対等の立場における合意に基づいて締結され、又は変更されるべきものであるも のとすること。(2)使用者は、契約内容について、労働者の理解を深めるようにするもの とすること。(3)労働者及び使用者は、締結された労働契約の内容についてできる限り書 面により確認するようにするものとすること。(4)労働者及び使用者は、労働契約を遵守 するとともに、信義に従い誠実に権利を行使し、義務を履行しなければならず、その権 利の行使に当たっては、それを濫用するようなことがあってはならないこととすること。 (5)使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができる職場 となるよう、労働契約に伴い必要な配慮をするものとすること。なお、使用者代表委員 から、労働契約が双務契約であることにかんがみ、労働者の義務についても規定するこ とが必要であるとの意見があった。  労働条件に関する労働者間の均衡については、労働者代表委員から、就業形態の多様 化に対応し適正な労働条件を確保するため均等待遇原則を労働契約法制に位置付けるべ きとの意見が、また使用者代表委員から、具体的にどのような労働者についていかなる 考慮が求められるのか不明であり、労働契約法制に位置付けるべきでないとの意見がそ れぞれあった。このため、労働条件に関する労働者間の均衡の在り方について、労働者 の多様な実態に留意しつつ必要な調査等を行うことを含め、引き続き検討することが適 当である。  なお、労働者代表委員から、労働契約法制が対象とする労働者の範囲について、経済 的従属関係にある者を対象範囲にすることについて引き続き検討すべきであるとの意見 があった。  2「労働契約の成立及び変更」。(1)合意原則。労働契約は、労働者及び使用者の合 意によって成立し、又は変更されることを明らかにすること。  (2)労働契約と就業規則との関係等。(1)就業規則で定める基準に達しない労働条件 を定める労働契約は、その部分については無効とし、無効となった部分は、就業規則で 定める基準によることを、労働契約法において規定すること。(2)就業規則が法令又は労 働協約に反してはならないものであり、反する場合の効力について、労働契約法におい て規定すること。(3)合理的な労働条件を定めて労働者に周知させていた就業規則がある 場合には、その就業規則に定める労働条件が、労働契約の内容となるものとすること。 ただし、(1)の場合を除き、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働契約の内容 を合意したの部分(特約)については、その合意によることとすること。  (3)(1)のイ、就業規則の変更による労働条件の変更については、その変更が合理的 なものであるかどうかの判断要素を含め、判例法理に沿って、明らかにすること。ロ、 労働基準法第9章に定める就業規則に関する手続が上記イの変更ルールとの関係で重要 であることを明らかにすること。ハ、就業規則の変更によっては変更されない労働条件 を合意していた部分(特約)については、イによるのではなく、その合意によることと すること。(2)就業規則を作成していない事業場において、使用者が新たに就業規則を作 成し、従前の労働条件に関する基準を変更する場合についても、(1)と同様とすること。  3「主な労働条件に関するルール」。(1)出向(在籍型出向)。使用者が労働者に 在籍型出向を命じることができる場合において、出向の必要性、対象労働者の選定その 他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、出向命令は無効 とすること。  (2)転籍(移籍型出向)。使用者は、労働者と合意した場合に、転籍をさせることが できることとすること。  (3)懲戒。使用者が労働者を懲戒することができる場合において、その懲戒が、労 働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社 会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする こと。  4「労働契約の終了等」。(1)解雇。労働基準法第18条の2(解雇権の濫用)を労働 契約法に移行することとすること。  (2)整理解雇(経営上の理由による解雇)。経営上の理由による解雇が「客観的に合 理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」に該当するか否かを判 断するために考慮すべき事情については、判例の動向も踏まえつつ、引き続き検討する ことが適当である。  (3)解雇に関する労働関係紛争の解決方法。解雇の金銭的解決については、労働審 判制度(平成18年4月施行)の調停、個別労働関係紛争制度のあっせん等の紛争解決手 段の動向も踏まえつつ、引き続き検討することが適当である。  5「期間の定めのある労働契約」。(1)使用者は、期間の定めのある労働契約の契約期間 中はやむを得ない理由がない限り解約できないこととすること。(2)使用者は、その労働 契約の締結の目的に照らして、不必要に短期の有期労働契約を反復更新することのない よう配慮しなければならないこととすること。(3)「有期労働契約の締結、更新及び雇止 めに関する基準」第2条の雇止め予告の対象の範囲を拡大(現行の1年以上継続した場 合のほか、一定回数(3回)以上更新された場合も追加)することとすること。  また、有期契約労働者については、今回講ずることとなる上記(1)から(3)までの施策以 外の事項については、就業構造全体に及ぼす影響も考慮し、有期労働契約が良好な雇用 形態として活用されるようにするという観点も踏まえつつ、引き続き検討することが適 当である。  なお、労働者代表委員から、「入口規制」(有期労働契約を利用できる理由の制限)、 「出口規制」(更新回数や期間の制限)、「均等待遇」の3点が揃わない限り本質的な 解決にはならず、これらの問題も含めて引き続き検討すべきであるとの意見があった。  6「労働基準法関係」。(1)労働契約の即時解除に関する規定を労働契約法に移行するこ とすること。(2)就業規則の相対的必要記載事項(当該事業場において制度がある場合に は明記することが求められる事項)として、出向を追加することとすること。また、労 働基準法第36条等の「過半数代表者」の選出要件について明確にすることとし、その民 主的な手続について引き続き検討することが適当である。  7「国の役割」。(1)労働契約法に関する国の役割は、同法の周知を行うことにとどめ、 同法について労働基準監督官による監督指導を行うものではないこと。(2)個別労働関係 紛争解決制度を活用して紛争の未然防止及び早期解決を図ることとすること。  7頁、II「労働時間法制」。仕事と生活のバランスを実現するための「働き方の見直し」 の観点から、長時間労働を抑制しながら働き方の多様化に対応するため、労働時間制度 について次のとおり整備を行うことが必要である。1「時間外労働削減のための法制度 の整備」。(1)時間外労働の限度基準。(1)限度基準において、労使自治により、特別条 項付き協定を締結する場合には延長時間をできる限り短くするように努めることや、特 別条項付き協定では割増賃金率も定めなければならないこと及び当該割増賃金率は法定 を超える率とするように努めることとすること。(2)法において、限度基準で定める事項 に、割増賃金に関する事項を追加することとすること。  (2)長時間労働者に対する割増賃金率の引上げ。(1)使用者は、労働者の健康を確保 する観点から、一定時間を超える時間外労働を行った労働者に対して、現行より高い一 定率による割増賃金を支払うこととすることによって、長時間の時間外労働の抑制を図 ることとすること。なお、「一定時間」及び「一定率」については、労働者の健康確保の 観点、中小企業等の企業の経営環境の実態、割増賃金率の現状、長時間の時間外労働に 対する抑制効果などを踏まえて引き続き検討することとし、当分科会で審議した上で命 令で定めることとすること。本項目については、使用者代表委員から、企業の経営環境 の実態を企業規模別や業種別を含めてきめ細かく踏まえることが必要であるとの意見が あった。(2)割増率の引上げ分については、労使協定により、賃金の支払いに代えて、有 給の休日を付与することができることとすること。  なお、労働者代表委員から、割増賃金率の国際標準や均衡割増賃金率を参考に、割増 賃金率を50%に引き上げることとの意見が、また使用者代表委員から、割増賃金の引上 げは長時間労働を抑制する効果が期待できないばかりか、企業規模や業種によっては企 業経営に甚大な影響を及ぼすので引上げは認められないとの意見があった。  2「長時間労働削減のための支援策の充実」。長時間労働を削減するため、時間外労働 の削減に取り組む中小企業等に対する支援策を講ずることとすること。  3「特に長い長時間労働削減のための助言指導等の推進」。特に長い長時間労働を削減 するためのキャンペーン月間の設定、上記1(1)の時間外労働の限度基準に係る特に 長い時間外労働についての現行法の規定(労働基準法第36条第4項)に基づく助言指導 等を総合的に推進することとすること。  4「年次有給休暇制度の見直し」。法律において上限日数(5日)を設定した上で、労 使協定により当該事業場における上限日数や対象労働者の範囲を定めた場合には、時間 単位での年次有給休暇の取得を可能にすることとすること。  5「自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設」。一定の要件を満たすホワイトカラ ー労働者について、個々の働き方に応じた休日の確保及び健康・福祉確保措置の実施を 確実に担保しつつ、労働時間に関する一律的な規定の適用を除外することを認めること とすること。(1)制度の要件。(1)対象労働者の要件として、次のいずれにも該当する者 であることとすること。i労働時間では成果を適切に評価できない業務に従事する者で あること。ii業務上の重要な権限及び責任を相当程度伴う地位にある者であること。iii 業務遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする 者であること。iv年収が相当程度高い者であること。  なお、対象労働者としては管理監督者の一歩手前に位置する者が想定されることから、 年収要件もそれにふさわしいものとすることとし、管理監督者一般の平均的な年収水準 を勘案しつつ、かつ、社会的に見て当該労働者の保護に欠けるものとならないよう、適 切な水準を当分科会で審議した上で命令で定めることとすること。  本項目については、使用者代表委員から、年収要件を定めるに当たっては、自由度の 高い働き方にふさわしい制度を導入することのできる企業ができるだけ広くなるよう配 慮すべきとの意見があった。  (2)制度の導入に際しての要件として、労使委員会を設置し、下記(2)に掲げる事項 を決議し、行政官庁に届け出ることとすること。  (2)労使委員会の決議事項。(1)労使委員会は、次の事項について決議しなければな らないこととすること。i対象労働者の範囲。ii賃金の決定、計算及び支払方法。iii 週休2日相当以上の休日の確保及びあらかじめ休日を特定すること。iv労働時間の状況 の把握及びそれに応じた健康・福祉確保措置の実施。v苦情処理措置の実施。vi対象労 働者の同意を得ること及び不同意に対する不利益取扱いをしないこと。viiその他(決 議の有効期間、記録の保存等)。(2)健康・福祉確保措置として、「週当たり40時間を超え る在社時間等がおおむね月80時間程度を超えた対象労働者から申出があった場合には、 医師による面接指導を行うこと」を必ず決議し、実施することとすること。  (3)制度の履行確保。(1)対象労働者に対して、4週4日以上かつ1年間を通じて週 休2日分の日数(104日)以上の休日を確実に確保しなければならないこととし、確保 しなかった場合には罰則を付すこととすること。(2)対象労働者の適正な労働条件の確保 を図るため、厚生労働大臣が指針を定めることとすること。(3)、(2)の指針において、使 用者は対象労働者と業務内容や業務の進め方等について話し合うこととすること。(4)行 政官庁は、制度の適正な運営を確保するために必要があると認めるときは、使用者に対 して改善命令を出すことができることとし、改善命令に従わなかった場合には罰則を付 すこととすること。(4)その他。対象労働者には、年次有給休暇に関する規定(労働基 準法第39条)は適用することとすること。  なお、自由度の高い働き方にふさわしい制度については、労働者代表委員から、既に 柔軟な働き方を可能とする他の制度が存在すること、長時間労働となるおそれがあるこ と等から、新たな制度の導入は認められないとの意見があった。  6「企画業務型裁量労働制の見直し」。(1)中小企業については、労使委員会が決議した 場合には、現行において制度の対象業務とされている「事業の運営に関する事項につい ての企画、立案、調査及び分析の業務」に主として従事する労働者について、当該業務 以外も含めた全体についてみなし時間を定めることにより、企画業務型裁量労働制を適 用することができることとすること。(2)事業場における記録保存により実効的な監督指 導の実施が確保されていることを前提として、労働時間の状況及び健康・福祉確保措置 の実施状況に係る定期報告を廃止することとすること。(3)苦情処理措置について、健康 確保や業務量等についての苦情があった場合には、労使委員会で制度全体の必要な見直 しを検討することとすること。  なお、企画業務型裁量労働制の見直しについては、労働者代表委員から、二重の基準 を設定することは問題であり、また、対象者の範囲を拡大することとなるので、見直し を行うことは認められないとの意見があった。  7「管理監督者の明確化」。(1)スタッフ職の範囲の明確化。管理監督者となり得る スタッフ職の範囲について、ラインの管理監督者と企業内で同格以上に位置付けられて いる者であって、経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当するものであるこ とという考え方により明確化することとすること。(2)賃金台帳への明示。管理監督者 である旨を賃金台帳に明示することとすること。  8「事業場外みなし制度の見直し」。事業場外みなし制度について、制度の運用実態を 踏まえ、必要な場合には適切な措置を講ずることとすること。以上でございます。 ○分科会長 それでは、いま読み上げて説明がありました報告案について、ご議論をお 願いしたいと思います。いかがでしょうか。 ○渡邊佳英委員 商工会議所として、異論を申し立てたいと思います。前回の分科会の 後に商工会議所内部で改めてこの問題について検討を重ねてきましたが、その結果を踏 まえて改めて意見を申し上げたいと思います。この分科会では1年以上の長きにわたり まして、労働契約法制の議論をしてまいりました。その間、商工会議所としても幾度と なく法制化する必要はないと主張してきており、いまでもその考えは変わりはありませ ん。なぜならば、この報告(案)はルールの明確化と称しまして、使用者にばかり義務 や手続を課す内容となっており、第2の労働基準法となる懸念があること。また統一的、 画一的な法制化は企業経営の足枷になる懸念や、企業にとって将来にわたって規制強化 につながるおそれが強いことが理由であります。  また、我々中小企業の代表といたしまして、中小企業の実情を無視して手続や要件を 強化しても、労使間の紛争を未然に防止するどころか、かえって紛争を誘引する危険性 があることも指摘してきたはずです。こうした意見を主張してきたにもかかわらず、本 日この内容で取りまとめるのは甚だ遺憾であり、やはりこの内容には賛成ができかねる と思います。そういうことで、本日の取りまとめに関しては反対という意見を読ませて いただきます。  次に労働時間法制については、まず割増賃金率の引上げについて申し上げます。この 割増賃金率の引上げについては、長時間労働の抑制にはつながらないどころか、現行確 保の観点からも効果が判然としないので、強く反対の意見を表明してきており、いまで もその考えは変わりありません。我々の意見が反映されず、報告(案)に残っているの は非常に残念です。また、ホワイトカラーイグゼンプションについても、本来であれば、 自由度の高い働き方をする労働者に適応できるようにすべきであると主張したにもかか わらず、年収要件という働き方とは全く関係ない項目が盛り込まれ、これもとうてい納 得ができません。中小企業にとってはこうした要件があると、その水準次第では、本来 ならば十分適用できる労働者であっても適用できない可能性が出てくると思います。自 由度の高い働き方と関係のない年収要件は削除すべきと考えております。  以上、これまでの分科会で繰り返し申しました内容でありますが、多くの中小企業に とって非常に影響の大きい内容が多いし、分科会においてもまだ労使間の意見の隔たり は大きいと考えております。もっと議論を尽すべきではないか、中途半端な内容のまま で取りまとめると将来に禍根を残すことになりかねないと。繰返しになりますが、本日 の取りまとめは時期尚早と考えております。以上です。 ○分科会長 そのほか、何かございませんか。 ○田島委員 いま使用者側からご意見がありましたが、この審議会そのものが、特に契 約法については、労使が合意したことについてルール化を定めようというのが、そもそ もの出発点だったろうと思います。そういう意味では、今回の2頁に書かれている冒頭 の「労働契約の原則」の「労働者及び使用者の対等な立場における合意に基づいて締結 され、又は変更されるべきものであるものとすること」という原則は、私どもしっかり と支持したいと思っております。そこに基づいて今回の契約法がルール化されているの かといったら、甚だ疑問だと思います。  この間労働者側から意見を言っている、例えば原則のところに、いまこれだけ不安定 雇用、非正規雇用労働者が広がっている中で、いわゆる処遇の格差が大きな問題となっ ているというところに、契約法のルール化の中で、やはり待遇の問題あるいは有期雇用 のしっかりとした規制を入れないといけないと思います。また、たとえルール化して、 以前の審議会でも発言しましたが、解雇ルールをしっかりと作ったとしても、解雇ルー ル逃れのために有期雇用で更新拒否や雇止めが広がったら、解雇ルールは意味がなくな ってしまうわけです。そういう意味では、しっかりとした、いま起きている問題に焦点 を当てたルール化をすべきであろうという意味で、冒頭の原則に均等という、あるいは 均衡ということが全く外れていることが遺憾であります。  もう1点、対象労働者について、いまの非正規労働者との兼合いでいえば、一人事業 主で事業契約の形態を取った形の労働者というのが非常に増えています。これらの人た ちは結果的には社会保険料とか、様々な諸経費を全部自分持ちで働いている現状なわけ です。  では、賃金や労働条件に相当する分がきちっと保障されているのかといえば、かなり 劣悪な条件で働かされている労働者が広がっているという意味では、やはりしっかりと 対象労働者についてもそういうところに範囲を広げて明確にしないと、契約法をたとえ 作ったとしても、結局は網を洩れるような現状になってしまうのではないかと思います す。やはりこの間労側が主張してきた、労働契約の原則について容れられていないとい うことは、問題ではないかと思います。最初の3頁にかかわって、ちょっと発言させて いただきました。 ○分科会長 どうぞ。 ○石塚委員 4頁目の(3)で(1)の関係した中身です。就業規則の変更による労働条件 の変更に関してであります。この点について労働側の意見としては、何遍も言ってきた ことでありますので、繰返しは避けたいと思いますが、ただ私ども主張してまいりまし た原則論に関しまして、去る12月21日に労働法学者35名の連名による声明文が出され たわけであります。私自身も理屈としてはこの労働法学者が出された声明文に関しまし ては、正しいといまでも思っております。すなわち、労働法学者の声明文の中にある言 葉でありますが、「契約の一方的当事者による契約内容の変更を認める法理は、契約法と してきわめて特異」という認識であります。これに関して、理屈としては全くそのとお りであろうと思っています。  片や、そうした理屈は理屈としてありながらも、この間の労働側の主張の中には、そ うした学説、理屈はあるけれども、一方において判例の作った法理というものが、事実 として実務上定着してきている。しかもそれは多大な集積を伴っている。そうした実態 については、やはり冷静に認識せざるを得ないであろうというふうに思っているわけで す。そうしたことから主張してまいったわけです。  前回までのこの報告書の書きぶりについては、そうした最高裁判例と大きくかけ離れ て、かなり問題がある中身であったと思います。そうしたことも踏まえて、労働法学者 のほうからも、同じような危惧が表明されたわけでありまして、その表現によれば、就 業規則を用いた使用者の一方的な変更方法だけが、しかも判例法理と異なる形で成文化 されようとすることに関しては危機意識を表明したい、というのが労働法学者の声明で ありました。  以上の経過を受けて今日のペーパーを見ますと、4頁の(3)の(1)と(2)ですが、今回 につきましてはその変更が合理的なものであるかの判断要素も含めて、判例法理に沿っ て明らかにするという表現に改まっているわけであります。この間何遍も申してきてい るわけですが、就業規則を使った労働者、使用者側における一方的な労働条件の変更は 原則として認められないというのが、この間の最高裁判例法理の最初にくるものであり ます。ただ、その原則として認められないけれども云々という格好で、例外としてこの 就業規則による労働条件の変更が認められている。これが最高裁判例法理の流れで、秋 北バス、大曲市農協、第四銀行にいたる流れであります。したがって、今後の作業に当 たりましては、以上のような原則と例外及び最高裁判例法理に対して、前回言った私ど もの表現でいえば「何も足さない、何も引かない」ということを大事にして、今後作業 すべきであると思っていますし、この主張は今後とも私どもとして強調しておきたいと 思う点です。以上です。 ○島田委員 9頁の企画型裁量労働の関係なのですが、今回これがまた載っているとい うことに大変怒りを感じています。まだ労働側の委員として、二重規制ということを言 っております。これはどういうふうに学者の方が考えるかは別にしても、労働条件の最 低基準を定める労働基準法によって、この二重規制が本当に正当化されるのかというの が疑問だと思います。もし、これが法制化したとしたときに、前にも述べましたが中小 企業という枠を決めたときに本当に大丈夫なんですかと。  経営側の方がどうされるかは別にしても、何百人以下が中小企業というのがもし300 人であるとしならば、それが適用されましたと。裁量労働を個人の同意を取って入れま したと。それが301人になったときにそれはどうするのですかとなります。中小企業で はないですよねと。それは監督署を含めて、どういうふうに整理できるのか。  また、そのときによって人数はぎりぎりの所では変わりますね。あるいは中間の所を 隣が見て「あそこは中小だからいいけれども、うちは2人多いために大企業」。中小企業 じゃないからというので、本当にいいのかどうかというのが1つあります。これは法律 化したときに本当にこれがちゃんと守れるのかどうか、不思議だなと思います。  もう1つは、これが労基法でもし許されたなら、他の項目について、自由度の高い労 働時間制で先ほど経営側からあった年収要件もあります。いろいろ入れようと言ってい ますが、労基法の中ですべてが二重要件オーケーですよと、中小が使えないからこうい う基準に変えましょうということが、これを突破口にして言えるのではないかと思いま す。裁量労働は認めたけれども、ほかは認めませんという話を本当にできるのかどうか、 この辺を非常に我々としては危惧しています。これだけで収まるのだったらまだいいけ れども、これがもっと広がるということが言えます。ほかから言われたときに、何でで すかと反論できないということが私はあると思います。そういう意味で、これを入れる こと自身もともとおかしいと思っています。以上です。 ○分科会長 小山委員。 ○小山委員 労働時間の問題に関連して、自由度の高い働き方にふさわしい制度につい て、改めて申し上げたいと思います。再三議論をし、私どもが主張し、この項について は削除すべきだという主張をしてまいりましたが、こういう形で入ったのはきわめて残 念だと思っております。ただ、この間の議論で、本当に自由度の高い働き方というのは どうあるのですかと。なおかつ今までも自由度が高い働き方に対応した裁量労働制とい う制度があったじゃないですかと。フレックスタイム制もあったではないですかと。な ぜこれを入れなければいけないのかという問いに対して、使用者側からのご意見も、あ るいは取りまとめをする公益の皆さんからのご意見も、また厚生労働省事務局からのご 意見も明確なものは一切なかったというふうに私は思っております。  本当にこの制度が必要なのか、ではどういうところに入るのか、その具体的な実証は ほとんどされないままこれらが法案化しようというのは、私はきわめて遺憾なことだと 思います。私は少なくとも製造業においては、こういう現場で、こういうことで、こん な制度は似つかわしくはないんだ、こんな働き方はあり得ないんだということを何度も 言ってまいりました。  この1つ目の要件で言われている点などは、今日の賃金制度からいって、こんな「労 働時間では成果を評価できない業務」なんていう、こういう表現自体がそもそも間違っ ているんだということを、もう今年の 春の段階から繰返し申してまいりました。しかし、それに対する何らの説得力のある答 えはいただいていません。そういうことで、改めて、こうした制度の創出について認め られないということを強調して、意見とさせていただきます。 ○新田委員 私からも一言申し上げたいと思います。この審議会を長くやってきました が、議論の入口としては長時間労働を何とか抑制しなければいけない。ライフワークバ ランスというものが重要だというようなところは、やはり議論は一致したのではないか と思います。個別労働紛争が増えているということも、ルールをきちんと作って事前に 予防できるものは何とか予防していこう、ということも一致したと思います。  そのことが報告(案)で「さあ、どうですか、皆さん」と言ったときに「審議会での 共通認識が反映できた」と言ってもらえるものかといえば、全然言ってもらえるもので はないと私は思うわけです。  特にこの審議会で常に大変引っかかった言葉があります。これは使用者の皆さんがよ く使われた言葉ですが、「使い勝手のいい」という言い方です。これは本当に引っかかり ました。なぜかといいますと、個別紛争が増えているということがありますし、もっと 言えば、不払残業の問題とか偽装請負の問題、そういう違法行為も含めて大変広がって きていて、世間的にも大変大きな批判が出ているというときに、私はいま議論されてい るこの場から出すものは、きちんとしたものでなければいけないのではないかと思いま す。  そういう意味で、私は経営者の皆さんの経営文化がきちんと出されるというものが見 えない限り、難しいという思いがしているわけです。どうしても自由度というような言 い方でいっても心配しているのは、こういう制度を手に持たせてはならないというよう な思いが。いろいろ聞かされるわけですが、そういう意味で、私はやはりこの報告では 納得できないという思いを強くしています。 ○八野委員 自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設について、意見を言わせてい ただきたいと思います。いろいろ審議会の中でも議論をさせていただきました。その中 で、やはりこの働き方が、結論から言いますと本当に必要な制度なのかどうかというと ころです。確かにここに書いてある自由度の高い働き方、または高付加価値、創造的な 仕事というものにつきましては、これは企業側からいま従業員が求められているもので あって、従業員が求めているものではないというふうに考えております。  長時間労働による原因の中では、要員の減少があると。そこで非常に仕事に対する負 荷が高まっているということは否めない事実だと思います。それと、人事制度の急激な 改定によって、いま制度の成果に対する比重が非常に高まって、それに応えるために従 業員はいま必死で努力しているということをわかっていただきたいと思います。いま考 えていきますと、自由度を高めるというのではなくて、現行の時間法制の中でいかに生 産性を上げていくのか、または人材を規制していくのか、またはどのようなマネージメ ントをしていくのかということが求められているのだと考えております。  そういうことで考えていきますと、企業が人に対する社会的責任をどう果たしていく のかということがいま求められているのではないかと思います。そういう観点から言っ ても、現段階で求められているのはこのような制度ではないということを、ここで言わ せていただきたいと思っています。  もう1点、よく労使自治、労使対等という言葉が審議会の中でも出てまいりました。 これは確かに労使関係の中では重要な要素と捉えておりますが、労使関係は皆様ご承知 のように労使対等、相互不介入、労使自治、相互の信頼または相互理解という4つが重 なって労使関係は出来ています。何か一方的に使いやすいときにだけ、労使自治または 労使対等という言葉が出てきたように思います。もう一度、この審議会の中での議論の 中でも労使関係というものを見詰め直して、適切な使い方、または適切な考え方を持つ べきだということを付け加えたいと思います。以上です。 ○長谷川委員 本日、今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方についての報告の 1頁、2頁で出されたわけですが、ここに書いてありますように、2頁の最後に「この 報告を受けて、厚生労働省において、審議の過程で出された労使各側委員の意見も十分 斟酌しつつ」というふうに書いてあります。私は本日も労側委員からも使側の委員から も縷々この契約法と労働基準法に関する意見が述べられたわけでありますので、この意 見を十分に踏まえて次の作業をしていただきたいと思っておりすますし、必ずそうであ ろうと思いますので「労使各側委員の意見も十分に斟酌しつつ」ということをきっちり と分科会長のほうでも受け止めていただきたいと思います。 ○分科会長 いまの長谷川委員のご意見を踏まえて、次の作業をしていただくように思 っております。今日も随分たくさんのご意見がありました。また、これまで当分科会で は随分長い間議論を重ねてきたところであります。ということで、審議の過程で出され た各労使、各側委員の意見も十分斟酌して、これからの作業をやっていただくというこ とで、本報告(案)及びいまから配付するかがみ文により会長に報告をし、審議会の答 申としたいと思いますが、よろしいでしょうか。 (異議なし) ○分科会長 それでは、本報告書(案)及びかがみ文にて会長に報告し、審議会の答申 とさせていただきたいと思います。本日の分科会はこれで終了いたします。議事録の署 名は島田委員と渡邊佳英委員にお願いしたいと思います。本日はお忙しい中、ありがと うございました。                  (照会先)                     労働基準局監督課企画係(内線5423)