06/12/21 労働政策審議会労働条件分科会第71回議事録 第71回労働政策審議会労働条件分科会           日時 平成18年12月21日(木)           10:00〜           場所 中央労働委員会7階講堂 ○分科会長(西村) ただいまから「第71回労働政策審議会労働条件分科会」を開催い たします。本日は久野委員、島田委員、奥谷委員、山下委員、平山委員、渡邊佳英委員 が欠席されています。また、山下委員の代理として君嶋さん、渡邊佳英委員の代理とし て根本さんが出席される予定です。  本日の議題は、労働契約法制及び労働時間法制について、今後の労働契約法制及び労 働時間法制の在り方についての報告(案)が、事務局から提出されていますので、これ についてご議論をいただきます。まず、事務局から資料の説明をお願いします。 ○監督課長 資料No.1についてご説明します。前回の労働条件分科会で、今後の労働契 約法制及び労働時間法制の在り方についての細かい報告を提出して、それをいくつか修 正したもので、主要な修正点についてご説明します。  1の労働契約の原則、(6)「使用者は、労働契約において雇用の実態に応じ、その労働 条件について均衡を考慮したものとなるようにするものとしてはどうか」という部分に ついては、前回の資料と同じです。その他の部分も一緒です。この部分については同じ になっています。  2の労働契約の成立及び変更について、(1)は前回と同じです。(2)(2)と(3)は少し 表現が変わっていますが、内容的には同じです。(3)と(4)は連結して1つの文にしていま すが、これは内容をわかりやすくするためですので、変更はありません。  2頁の(3)は前回と変更はありません。3の主な労働条件に関するルール、これも 基本的には前回と変更はありません。4の労働契約の終了等、(1)も前回と同じです。  3頁の(2)と(3)は、前回と異なっていますので読み上げます。(2)整理解雇(経 営の理由による解雇)、「経営上の理由による解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会 通念上相当であると認められない場合に該当するか否かを判断するために考慮する事情 については、判例の動向も踏まえつつ、引き続き検討することが適当である」。(3)解 雇に関する労働関係紛争の解決方法、「解雇の金銭的解決については、労働審判制度(平 成18年4月施行)の調停、個別労働関係紛争制度のあっせん等の紛争解決手段の動向も 踏まえつつ、引き続き検討することが適当である」。  5の期間の定めのある労働契約、(1)(2)(3)は前回と同じです。「また、有期契約労働者に ついては、今回講ずることとなる上記(1)から(3)までの施策以外の事項については、有期 労働契約が良好な契約形態として活用されるようにするという観点も踏まえつつ、引き 続き検討することが適当である」。  6の労働基準法関係、(1)(2)は同じです。「また、労働基準法36条等の過半数代表者の 選出要件について明確にすることとし、その民主的な手続について、引き続き検討する ことが適当である」。  7の国の役割は従来と同じです。  次は、4頁の労働時間法制についてです。1の(1)(1)(2)は同じです。(2)(1)「使用 者は、労働者の健康を確保する観点から、一定時間を超える時間外労働を行った労働者 に対して、現行より高い一定率による割増賃金を支払うこととすることによって、長時 間の時間外労働の抑制を図ること」、この部分は前回と同じですが、その後の部分が前回 と異なっています。「なお、一定時間及び一定率については、労働者の健康確保の観点、 企業の経営環境の実態、割増賃金率の現状、長時間の時間外労働に対する抑制効果など を踏まえて引き続き検討することとし、当分科会で審議した上で命令で定めることとす る」。(2)は同じです。  大きな2、3、4も同じです。  5頁の5の自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設、(1)(1)iからiVは同じです。 iVのあとに、「なお、対象労働者としては管理監督者の一歩手前に位置する者が想定され ることから、年収要件もそれにふさわしいものとすることとし、管理監督者一般の平均 的な年収水準を勘案しつつ、かつ、社会的に見て当該労働者の保護に欠けるものとなら ないよう、適切な水準を当分科会で審議した上で命令で定める」、この文章が付け加えら れております。(2)は同じです。(2)(1)と(2)は前回と同じです。(3)(1)「確保しなかっ た場合には罰則を付すこととする」、となりました。(2)は前回と同じです。  6頁の6の企画業務型裁量労働者の見直しは、前回と同じです。7の管理監督者の明 確化も前回と同じです。8の事業場外みなし制度の見直しは、前回と同じです。以上で す。 ○分科会長 資料No.1、今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方についての報告 (案)についてご議論をお願いします。 ○田島委員 1頁の労働契約の原則についてですが、いわゆる労働者性の定義は、労働 法によって定義が違います。労働基準法と労働組合法では、対象範囲が違います。そう いう意味では、労働契約の対象、いわゆる労働者の範囲で、最近ことに増えているのは 社会保険料を逃がれるために労働契約ではなく、事業契約でやっている労働者もいます。 そういう意味では、しっかりと労働者の定義を図る必要があるのではないか。「労働者」 ではなくとも経済的な従属性を持った人たちも、対象範囲に含めることを明記すべきだ と前回も発言しましたが、これが全く考慮されていない問題があります。  (6)は相変わらず斜体文字になっている「均衡考慮」ですが、労側としては、多様化し ていく中で、やはり均等処偶や均等待遇は切実な課題になっていると思います。その均 等性がないために、非正規といいますか、パート、契約、臨時、あるいは派遣という形 で賃金などに格差がある人たちが増えていますので、「均等」は入れる必要があります。 ここだけ斜体文字になっているのはちょっと解せないので、原則については、この2点 を出しておきます。 ○石塚委員 労働契約の成立及び変更については、労側として何度も意見を申し上げて きましたように、労側の基本的な立場としては、就業規則で労働契約の内容の決定や変 更ができるルールを、労働契約法に持ち込むことに関しては反対です。  ただし、実務上、最高裁判例の積み重ねという格好で、就業規則を使った労働条件の 変更が、機能し定着してきた事実は労側としては認めています。したがって、学説上の 疑問はありますが、最高裁判例の法理の積み重ねとして、実務的な意味における定着は 冷静に意識する必要があると思います。  就業規則を使った労働条件の変更について、労働契約法の世界に仮に盛り込むとすれ ば、それは最高裁判例の流れを忠実に踏まえなくてはならないということが、労側の基 本的な立場です。  したがって、原則的には反対ですが、実務上定着しているという現実を踏まえれば、 それはそれとして有効に機能しているのは事実ですから、それは大事にしていきたいと 思います。これは昭和43年の秋北バス事件以降、労側としては第四銀行に至るまでの経 過の中で、かなりはっきりと定着していると思います。そういう意味における議論は大 事にしたい。  わかりやすく言えば、最高裁判例の法理の流れに対して、何も足さない、何も引かな いものでなければならないと思います。そういう基本的な観点を踏まえた時、このペー パーはかなり大きな問題点を持つのではないかと思います。私どもが理解している最高 裁判例法理の流れから言えば、逸脱して見える点がいくつかあります。まず、その点に ついていくつか述べたいと思います。  1点目は、2の(2)(3)の2行目「その就業規則に定める労働条件が、労働契約の内 容となるものとすること」。気になっているのは、「なる」という表現です。これは就業 規則に定める労働条件が、労働契約の内容と自動的にすり替わってしまう印象を受けま す。これは印象の問題かもわかりませんが、就業規則に定める労働条件の内容と労働契 約の内容は幅の広さ、対象領域が違うと思います。労働契約の内容はもっと広い話で、 就業規則の定める労働条件は、主要な部分ですが一部分ではないかと思います。したが って、これはあたかも就業規則、労働条件、労働契約が自動的に等身大にすり替わるよ うであり、この表現はおかしいのではないかと思います。  事実、最高裁判例の流れにおいても、就業規則と労働契約の内容との関係を言ってい る判例は2つあります。1つ目は、電電公社帯広局事件、もう1つは日立製作所武蔵工 場事件です。この中身は別にして、「内容をなしている」とか「内容となっている」とい う表現をそこで使っていますが、私どものいちばん素直な理解は、「労働契約の内容をな している」の表現のほうが、最高裁判例の法理に忠実ではないかと思います。これは私 の意見ですが、「内容となる」ではなく、「内容をなしている」の表現のほうが忠実では ないかと思います。これは非常に気になる点です。  2点目は、2頁の(3)(1)が、基本的な問題点ではないかと思います。最高裁判例法 理に忠実に何も足さない、何も引かないということで、それを労働契約法の世界に持ち 込むならば、原則的な観点としていちばん気になるのは、秋北バス、大曲、第四銀行に 至るまでの判例では、「就業規則の変更により、一方的労働条件の変更は、原則できない」 と明確に書かれています。ただし、その例外として就業規則を使った変更が、労働条件 の変更で出てくる。できないのが原則であって、例外として「労働条件における変更」 が書かれています。原則と例外との関係は、少なくとも最高裁判例法理の流れを見る限 りにおいては、秋北バス、大曲、第四銀行に至るまでは一貫しており定着していると思 います。  この原則がある以上は、最高裁判例法の流れに従って忠実に、原則をまず明確にすべ きだろうと思います。  その上で、このペーパーで言いますと、(3)(1)ロのi、ii、iiiに要素を掲げています。 この要素の問題は、最高裁判例法理の流れからいけば、第四銀行事件において、7つの 合理性判断要素が出ています。それも忠実に丸めたとか、丸めないという話があります が、第四銀行事件の判断は、就業規則の変更によって、労働者が被る不利益の程度、使 用者による変更の必要性のバランスが肝ではないかと理解しています。ここが肝であっ て、そこを大事にすべきではないか。  労働組合との交渉経緯云々、これは第四銀行事件において最後から2番目に出ていま す。そうしますと、7つの要素をまとめたと取れないこともないわけですが。肝の部分 の使用者側による変更の必要性と、労働者が被る不利益の程度とのバランスを極めて明 解に出すべきではないかと思います。  仮に事務局提案の格好で労働契約法を作ると、労働組合による変更、プロセスが際立 って第1番目に出てきますので、そこは重視されるという裁判所の判断が出てこないか と危惧していますので、そのバランスはあるのではないかと思います。  少なくともその判例の流れを大事にする以上、基本的には判例の判断を変えることに つながる要素はできるだけ排除すべきだと思います。以上、基本的な立場で3点申し上 げました。  判例の表現が、労働契約法の条文に馴染むのかという問題はあるにせよ、労働契約法 に持ち込むことによって、判例の法理自体が変わってしまう要素は、基本的には避ける べきです。仮にそういうことをやってしまったら、これからの判例の流れを曲げてしま うことにつながる可能性があり、労働側としては重大な懸念を持っていることを表明し たいと思います。 ○山下委員代理(君嶋氏) 先ほど田島委員が指摘された労働者性の話と均衡について、 使用者としての意見を述べさせていただきます。  労働者性については、労働者の定義をここで規定するべきではないかというご意見で すが、私どもの考え方としては、ご指摘のとおり、労働者性については議論があるとこ ろだと思います。ただ、それはいまに始まった話ではなく、むしろ労働基準法でもそう いった議論はありますので、ここであえて労働者の定義を入れる必要があるのか、若干 疑問があります。  一人事業主でも経済的に依存して、実質的には労働者と言える方々もいるのは事実で す。他方でそうではなく、本当に一人事業主で、別に経済的に依存していない方もおり ます。前者の経済的に依存している、もう使用関係がある方については、解釈において、 いままでもこの人は労働者ですと裁判所でも認めているわけです。労働者性の解釈でこ の人はそうです、この人はそうではないとしていけばいいわけで、法律で定義するのは なかなか難しいと考えます。  2点目の均衡の点も、審議会でずっと議論があるところだと思います。やはり均衡・ 均等については、一概に内容を規定することは難しいのではないか。均衡・均等といっ たときに、比較対象が誰なのかというのは、まだ議論があると思います。  労働契約法は、そもそも契約法について定めようということで、果たしてここで均衡 論について一般的に否定する必要があるのか。むしろ、パート労働者といった別の法制 できちんと議論していますので、ここではあえて一般の話として入れる必要はないと考 えています。 ○小山委員 先ほど石塚委員が言われたことに重ねて申し上げたいと思います。就業規 則変更による労働条件の変更については、あたかも最高裁の判例をそのままといままで 議論してきたようでいて、実は根本を変えようとしているのではないかというようにし か受け取れないわけです。それは就業規則の変更によって、労働契約の内容を変更して いくというもので、就業規則の変更による労働条件の変更という項目を立てて、こうい う場合は就業規則の変更でできると言っています。  しかし、最高裁判例は、就業規則の変更によって、労働者に不利益な労働条件変更を 一方的に課することなどは原則として許されないと明確に言っています。そのことを明 確にせずに、むしろ逆転して、就業規則の変更によって、労働条件変更ができることを アナウンスするような書き方になっているとしか思えないのです。ですから、これとこ れはしっかり書いてもらわないと、こんな書き方では絶対に合意できません。そのこと を改めて申し上げます。 ○長谷川委員 2頁の(3)就業規則の変更による労働条件の変更ですが、審議会は公 開にしていますから皆さんは見ているわけです。2、3週間ぐらい前、経産省の審議会 である著名な学者が、今回の労働契約法で労働条件の変更と賃金切下げが就業規則でで きるようになりますねと発言したと聞いています。ですから、これを見た人は、就業規 則で賃金切下げができると思ってしまうわけです。もっと言う人は、就業規則による変 更による労働条件の変更というのは賃下げ促進法ではないかと言っている人もいます。 何でそういうものに見えるか。本来は就業規則は使用者が一方的に作るものだからでし ょう。民法の特別法である契約法には馴染まないので入れるべきではありません。ただ し、この意見交換の中で、そうは言っても、労働条件の変更が、就業規則を使った場合 の判例が確立している。秋北バス事件から第四銀行事件まで言いましたが、そういうこ とがもう実務的には確立しているではないか。それを足しも引きもしないで、現状を何 ら変えることなく、法律化することはやむを得ないというのが私どものギリギリの考え 方です。  ところがこれを見た人は、就業規則で全部賃下げができるではないか、と受け取って しまいます。労働条件の主たるものは、賃金と労働時間です。これならば就業規則で一 方的にできてしまうと言われたわけです。まず、判例は就業規則による労働条件の不利 益変更は原則できないのです。「できる」とは書いておらず、「できない」と書いてあり ます。ただし、合理的であればということで、合理性の判断要素として、例えば労働者 の被る不利益の程度、必要性、内容と書いてあり、第四銀行事件には7つぐらい出てい ますが、それが本来の判例なのに、これは順番も違いますし、「原則できない」も書いて いない。ですから、皆さんは賃金切下げが就業規則でどんどんできると思ってしまうわ けです。これは問題です。  いま労側が言ったように、判例を足しも引きもしないで、実務で定着しているのをそ のまま法律化することが重要ではないかと思います。読んだ人が、一方的に変更できる と見えるということは、私が言っているのではなく、労側だから言っているのだと思わ ないでください。有名な研究者や著名な研究者、弁護士もみんな言っているわけです。 弁護士何人かに聞いてみたら、「長谷川さん、原則できないと読めないよ」とおっしゃる わけです。ここは問題があるのでしっかりとした内容にしていただきたいと思います。 ○田島委員 前回も申し上げたことですが、主な労働条件に関するルールで、(1)が出 向になっていますが、最初の素案が出されたときは、安全配慮義務が、(1)で明記され ていたわけです。その明記がなくなり、原則の5に若干詳しく「安全で配慮」と出てい ます。主な労働条件に関するルールで、たとえ労安法にあっても、労働契約法の各論、 つまり具体的なところで、やはり安全配慮義務をしっかりと入れるべきではないか。  (2)転籍で、労働者と合意した場合についても、包括的な合意なのか、あるいは具 体的、個別的な場合に本人合意が必要だというのか明確化されてません。この転籍は、 当然企業籍を離れて別の籍にいますので、やはり本人の個別的な合意が必要だと明記す べきではないかと思います。  もう1つ、君嶋委員の発言から、経済的な従属性がある中で、やはり法律できちんと 明記しないと予見可能性がないわけです。したがって、予見可能性を高めるためにも、 やはり経済的に従属的な労働者の場合には、いわゆる事業主扱いであっても、労働契約 法上の労働者として明確に規定づけることが必要ではないかと思います。  均衡・均等については、パート法でやればいいと言いましたが、均等分科会でどんな 論議がされているのかというと、ここはパートだけの均衡・均等を論議して、有期につ いては労働条件分科会ですよと振られるわけです。有期労働についてはここでしっかり とやる必要があります。  それから、あとの議論にも関係してきますが、ヨーロッパなどでは、解雇ルールをし っかりと作る。解雇ルールを作ったとき、解雇規制からのがれるための有期は許されな い形で、しっかりと均等、あるいは入り口規制をしています。  そういう意味では、原則のところに「均等」の問題をしっかりと入れる必要がありま す。それをしないと、いま格差社会とか二極化と言われていますし、取り分け働く女性 の5割以上は非正規です。男性でも、若者の非正規が増えている中で、何でこのような 非正規が増えるかというのは、安上がりですし、繁忙期に雇用調整が容易という問題が あるからだと思います。そういう意味で、原則は斜体文字ではなく、しっかりと「均等」 と謳うべきではないかという主張です。パート法の審議会ではパートだけになってしま うので、有期についてはここでしっかり議論する必要があると発言しておきます。 ○八野委員 3頁の5に「期間の定めのある労働契約」とありますが、これは労働側か らは常に言ってきていますが、有期雇用の不安定さ、または処遇格差の問題がクローズ アップされています。その中でも、その労働者がいないと企業も、または私たちの業務 運営もなかなか回らないことも、実態として出てきています。ここで働いている有期の 期間の定めのある労働者に対しては、入口規制、出口規制、均等待遇の3点をセットで 入れていくべきではないかと思います。  「均等待遇」については、同一価値労働と同一賃金の基本原則があり、そこに則った 考え方を入れていくべきです。均衡は、通常労働者と比べて「均衡」と表現していると 思います。ですから、労働契約の考え方の場合、「均等」をきちんと入れていく。  ○紀陸委員 労側からいろいろ意見が出ましたが、この法律は何なのかという認識が 必要です。個別紛争が増えているから、できるだけ労使の話し合いなり、労使の自治を ベースに基本的なルールを定めるのが、そもそものねらいだったと思います。  会社の業容が急速に変化する中で、人事労務管理の中身を細かく法律の要件でギリギ リ決めて、それが果たして紛争解決の予防になり得るのか。最低限の基準は基準法の中 に盛り込まれています。  片方で、全く契約自由の民法の世界があり、この法律はどこに位置づけられるのか。 あとあとこの法律が出来たあとに、いろいろな法体系の項目に整合性がとれるような中 身にしておかないといけないと思います。この際いろいろなことを手続の点まで入れて いくのは、この法律の性格とは違うのではないか。これは手続を決める法律ではないの です。そういう法律ならば、こういう論議ではないのではないですか。ですから、でき るだけ基本的なことだけ決めておく。あとは労使の話し合いになります。それがいつも 押し切られてしまうと言うのであれば、それは基準法の論議です。契約自由の論議を受 けずに柔軟な運用を決めていこうという法体系の趣旨にそぐわない感じがします。  そもそも論に戻るのはよくないかもしれませんが、この法律をどのように位置づける か。これを整理をした上で、あるいはしながら論点を詰めていく必要があります。これ は逆に公益の先生方からご意見を賜りたいと思います。 ○新田委員 基本的な考え方、どうしてこれが必要なのかというのは、最初のお互いの 議論で確認できているようにルールを作ろうということです。いま日本の働く現場でど んなことが起きているのかを考えれば、それこそ個別紛争がびっくりするほど増えてい ます。その個別紛争の中身を見ても、雇い方や解雇の仕方、賃金と様々なことがあり、 特に約束が違うとか、その種のことが起きています。我々労側が申し上げている基本原 則、この法律の基本をきちんと決めていこうということを盛り込んでも、何ら差し障り はないのではないか。おっしゃるように、安上がりだから契約を何回も替えていくわけ ではないのですし、これまでの議論を聞いてくれば、基本的な約束事をこの法律に入れ ることは個別紛争を自ずと減らしていく、お互いに気持ちよく働いていける、こういう ところを作っていけるのではないか。そういう意味で申し上げています。  私もずっとこだわっていますが、合意の問題と就業規則の問題は繰り返しませんが、 ここは、これまで出されている判例をきちんと盛り込んで位置づけることは重要ではな いかと考えます。  3頁(3)解雇の紛争解決については、削除してもらいたいと思います。労働紛争を 解決する場で、解雇は無効だと言っているのに金銭的解決というのを法律で明記するの は、やはり大変乱暴な法律を作ってしまう気がしてなりません。金銭的解決は取り入れ るべきではないと考えます。 ○渡邊佳英委員代理(根本氏) いままで労働契約の議論に応じて、何度となく商工会 議所として意見を述べましたが、この際、また改めて申し上げます。  これまでの議論を総括しても、労働契約に関するルールの整備について、必ずしも法 制化の必要性はないのではないかという考えは、商工会議所内部でも何度も議論して、 いまでもずっと続けていますが、いまだ必要ないのではないかという意見が根強くあり ます。なぜならば、労働契約は双務契約であり、使用者だけに一方的に義務や手続を課 すものであってはならないと考えます。労使自治や労使の合意を基本とすべきであると 考えるからです。  1頁の1の「労働契約の原則」の(5)安全に配慮、(6)均衡考慮については、報告書(案) から削除すべきではないか。3頁の7の「国の役割」については、法律の解釈は司法の 範疇で、厚生労働省が解釈を明らかにするのは、労使の契約の在り方の趣旨等に馴染ま ないので削除すべきではないかと考えます。 ○田島委員 いま使用者側委員から「労使自治」が強調されました。労使自治を強調す ればするほど、就業規則の変更法理には矛盾が出てきます。就業規則そのものは使用者 側が一方的に定めることができますよ、意見聴取だけです。それに対して、労使自治を 言うならば、使用者側委員としても異議を出す必要があると思います。労使自治なら一 方的変更はおかしい。  前回、整理解雇については4要素的な書きぶりでした。4つの要素、あるいは要件は、 いままでの案に明記されていましたが、「判例動向を踏まえつつ引き続き検討する」とい うように流されているのは残念です。やはり、整理解雇については4要件を明記しない と、18条の2を契約法に移しても、解雇問題についてははっきりしてこない。明確にな らないと思います。  3頁の6の「労働基準法関係」の(1)労働契約の即時解除に関する規定については、い ろいろな所で意見を聞いていますと、例えば20条の予告手当もこちらに移り、強行規定 から外れるのではないかという危惧をおっしゃる方がいます。即時解除に関する規定は、 そういうところも含むのか含まないのか、はっきりしたらと思います。これは確認です ので、事務局にお答えをお願いします。 ○監督課長 解雇予告の部分は含まれておりません。 ○小山委員 労働時間の問題に移ります。いちばん議論になっている「自由度の高い働 き方にふさわしい制度の創設」の項は削除すべきであると改めて申し上げます。なぜな らば、一定要件を満たすホワイトカラー労働者について、労働時間に関する一律的な規 定の適用を除外するという全く新しい制度を労働基準法の中に導入しようという必然性 は一体何なのかという説明も、何らいただいておりません。  いままでも議論をしてきましたが、日本には様々な働き方が出てきて、それに対応し た柔軟な労働時間制度が必要ということで、すでに裁量労働制やフレックスタイム制度、 変形労働時間制など、様々な制度をすでに導入してきています。ですから、働き方の対 応化に対応するルールはこれまでも作られてきましたが、なぜ新たに一定要件のホワイ トカラーについて、労働時間規制の適用除外を設けるのか、すでに色々な制度があるで はないかというのが我々が反対している大きな理由です。  制度の要件を見ますと、4つの要件を記載しています。1、2、3の要件は、ホワイ トカラーの労働者の多くに適用し得る表現になっています。  私は製造業の労働組合ですが、営業から研究開発、技術系、管理部門、サービス関係 と様々な形でホワイトカラーの労働者はいます。そこでの働き方が一体どうなっている のかを考えれば、1、2、3の項目はみんな当てはまり、何ら除外する項目はない。  具体的にはどのような人が自由度の高い働き方なのか、自律的な働き方なのか再三い ままで議論してきました。製造業全体のホワイトカラー労働者には自由に働ける人はい ないのです。なぜかと言いますと、まず仕事量についての裁量がない。仕事量を自由に 調整できる人ならばいいです。しかし実際に、ものづくりでは製品の開発のサイクルは 非常に短くなっています。開発から製品化までは、昔は1年がかりでやりましたが、い まは半年や3カ月というサイクルで新しいものづくりが進んでおり、そこで長時間労働 が起きているのが実態です。その管理者であっても長時間労働になります。そうした実 態を本当にわかってこの法律を作ろうとしているのか。  もう1つはグローバル化が進んでいます。確かに多くの職場は24時間体制です。海外 からの連絡もあれば、国内でも24時間稼働している中で、いつクレームがくるかわから ない。そういう対応の中でホワイトカラーも働いています。しかし、人間は24時間で生 活していきますので、こうしたグローバル化の中の24時間体制では、労働時間規制をし っかりしていかないと、健康を守れない時代になっていることを自覚すべきではないか。 「自由に」という自由はないのです。それならば健康を守るためには24時間の中でどう 働くかというシステムを労使で工夫して作っていかなければならないときで、自由にす る時代ではないのです。  資料に「管理監督者の一歩手前」と書いてありますが、現行の管理監督者が本当に自 由な裁量を持って働けているのか。厚生労働省発表の、脳・心臓疾患による労働災害の 認定の昨年の状況を見ますと、管理職の62名の約19%が脳・心臓疾患で労災認定をさ れていますので、管理職が自由な働き方を通じて自分の健康を管理できる実態はないと いうことです。  東京労働局の昨年度の過重労働による健康障害を発生させた事業場に対する監督指導 の結果という資料によると、厳密な意味での管理監督者の立場にある者が、過重労働に よって過労死や過労自殺を発生させて労災認定が行われた比率が約23%です。ですから、 管理職一歩手前の自由度とは全然高い実態ではないことが、これまでの労災認定の結果 からも明らかです。そういうことから、いま新たにこんな制度を入れますと一体どうな るのか。結局、長時間労働を温存させ、さらにそれを助長させることになるのではない か。  年収が相当程度高いところで押さえればいいのか。これは、使用者側は400万円と主 張しています。仮に少し高めに設定しても、金額は変動しますのでそちらに引っ張られ ていくことは目に見えています。本当に年収が一定程度高ければ、自由な働き方ができ るのか。管理監督者の実例を見ても、そんなデータはどこにもないのです。  そこで厚生労働省の案では「休日をきちんと担保しているではないか、週休2日程度 の休日」と言っていますが、4週4日以上、かつ1年を通じて週休2日分、104日は4 週4日ですので、28日の最後の4日間を休日にして、あるいは年間のトータルで104日 でいいという意味合いに読めます。ということは、4週のうちの前半の24日間は24時 間働き続けても、法的な規制は一切かからないとしか読めないのです。あらかじめ休日 を特定すると言っていますが、これも、いままでここは休日と決めてきたが前日に変更 してもいいと読めます。そうしますと、休日を確実に確保すると言われながらも、1日 の時間でみんなが長く働くということは、睡眠時間を保証しないということにもなりか ねません。週休2日相当の休日の確保が、あたかもこれによって長時間労働を抑制する かのように言っていますが、実態としてはそうはならないとしか言いようがありません。  健康を確保措置について、週当たり40時間を超える在社時間等が概ね80時間を超え た対象者から申し出があった場合には、医師による面談指導と言っています。「申し出が あった」というのは、申し出がなければしないということです。当該の労働者が医師の 面談指導をあえて申し出るときはどういうときか。自分の健康に自信がなくなり、どこ かが壊れ始めたときしか申し出ません。みんなギリギリで働いていますので、これで健 康確保できるなどというのは、まさに実態を知らない大間違いな政策だと重ねて申し上 げます。以上のことから、自由度の高い働き方にふさわしい制度は、まさに長時間労働 を助長し、過労死等を促進する法律になりかねないので、この部分については、全面的 に削除することを主張しておきます。 ○長谷川委員 自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設については、この審議会で 随分議論してきましたが、私は、いまなぜこの制度を導入しなければいけないのか理解 ができません。ここに書いてあるペーパーを読む限り、このことでホワイトカラーの、 要するに事務職、日本の労働者の長い労働時間が短くなるとは、どこを読んでも見えま せん。いまの労働時間の問題は何かと言いますと、バブル崩壊以降、正規労働者を非正 規に置き換えて、結果的に残された正規の人たちの労働時間が延びたわけです。ですか ら、30代の労働時間が完全に二極化して、30代の若手の労働時間は延びて、年休は取れ なくなっています。この何年間で年休の取得率は悪くなり、労働時間も延びた。そして 国民がはたと気付いて見たら、過労死や過労自殺、メンタルヘルス障害の人たちが増え てしまった。どこの職場を見てもそういう問題は抱えていますし、地域を見ても、家庭 を見てもそういうことになったのです。  それならば、労働時間はどうあるべきかという議論をもっときちんとやるべきだと思 います。しかし、今回の議論は、自由度の高い働き方とか自律的といろいろ言っても、 これは残業をやっても残業代を払わない制度です。要するに、どうぞ24時間働いてくだ さいという制度にしかならないのです。この制度を入れれば、いままでこの人たちは1 日8時間、週40時間でしたが、その規制が外れますので、1日24時間労働になってい きます。確かに管理監督者と比べれば、365日ではないので104日の休暇はあると言う かもしれませんが、1日で見れば24時間労働がここではっきりしてきたわけです。  私はあえて言いますが、それは「奴隷的」働き方だと思います。自由時間がないこと は奴隷的な働き方です。やはり24時間の中で、自由時間がどれだけ確保できるのかとい うのは、労働時間の法制の中の必要性であって、何のための労働時間法制なのか。  いま日本の労働者が抱えている状況を改善しないままに、この制度ありきで議論して、 この制度を入れることは、将来に問題を残すことになるのではないか。その一例として、 職場にこの制度が入ったときの風景を見ても、管理監督者、いわゆる労働基準法上の管 理監督者は、休日も働きますよ、時間外もしますよと。この制度が適用になる人たちは 休日はお休みしますよと。これでは職場はバラバラです。  部下は36協定があれば、休日労働もできます。上と下は働いて、真ん中だけは、俺は 休むからなと。それでいまの企業のモラルがちゃんと確保されるのか。80時間もそうで す。この人たちは健康確保措置で、面接指導を行うことが義務です。上と下は努力です。 こんな作りの法律はどこにありますか。  むしろ重要なことは、どうやって長い労働時間を縮めるのか。そのためにはどのよう な方法が必要なのか、本当に議論すべきだと思います。この制度が入れば、職場でどう いうことが起きて、日本の労働者がどういうことになるのか明らかです。過労死や過労 自殺、メンタルヘルスで休職している家族の話を聞いてみますと、本人たちは真面目に やっています。それこそ真面目に働いてきて、結果、過労死や過労自殺になったり、メ ンタルヘルス障害を起こしています。こういう問題はこの審議会できちんと扱うべきだ と思います。 ○田島委員 管理監督者にかかわって、「一歩手前」に非常に危惧します。厚労省の委託 調査の「管理監督者の実態に関する調査研究報告書」では、現在でも第41条の2項の管 理監督者、適用除外の人たちの8割が時間管理されています。53%の人たちが、いわゆ る遅刻をすれば制裁を受けるということです。報告書のまとめそのものは、課長以下の 範囲が広くなり過ぎています。この人たちは管理監督者です。しかし、法の趣旨の範囲 からははずれていると言って、残業代が支払われない裁判例で、これは管理監督者に当 たらないという裁判例はたくさん出ています。  今回、ホワイトカラー・エグゼンプションときれいな名前で出ていますが、本来管理 監督者でない人たちを合法化するために範囲を広げようという形になると思います。  ものすごく危惧するのは、不払い残業がここ3年ぐらい高水準で続いていますので、 不払い残業を一掃するためには、労働時間規制の概念を取り払うことで不払い残業を一 掃するつもりなのではないかということです。労働者のための制度として、あるいは自 由度の高い働き方としてふさわしい制度なのかと言えば、やはり長時間を助長するよう な、あるいは過労死を招くような制度ではないかと思います。  制度の対象者の4週4日については、休日確保が担保できるのだということですね。 労基法の第36条の「対象外」だから、休日労働は本来できないので、104日は必ず休む と出ています。4週4日というのは、4週間に4日休めばいいという意味で書いてあり ます。いわゆる1週間に1回休みなさいということではなく、4週間に連続の労働日の 規制も一切ない形で書いてあると読んでいいわけですね。これは事務局にお聞きします。 ○監督課長 現行法と同じです。 ○田島委員 現行法の適用除外にすると言っているわけでしょう。 ○監督課長 これは立法技術の問題ですが、4週4日は第35条と同じ取り扱いですので、 現行法と同じ取り扱いです。 ○谷川委員 自由度の高い働き方に関しての制度の創設については小山委員が背景を説 明されましたが、そういう世の中を背景として、労働契約法の法制化をしようかという 中で、多くの実態はそうだと思います。労働者と使用者が対等の立場で合意契約する、 労働が対等だということを法制化するので、いまの実態をさらに明文化していくわけで す。そういう中で、仕事というのが遂行されている部分はかなりあります。仕事もかな り多様化していますし、労働を通じて得る成果についても、いろいろな成果を期待する 部分があります。  そうなると、必ずしも使用者側だけが一方的に成果に対するプロセスがわかっている のではなく、実際にはそこで働いている人たちが、自分がこの成果を達成するためには、 どのような手順や時間配分でやればいいのかということが実態にはありますので、実状 も踏まえて主体的に労働に取り組めるような要素を新設することは意義のあることだと 思います。それに合わせ、当然それに伴う障害もないわけではありませんから、私とし ては、やはり健康管理なくしてこういう制度の創設はないわけですから、ここにありま すような健康管理、苦情処理、福祉確保というような付帯的な事情も合わせながら制度 の創設をしていくべきではないかと思っています。 ○長谷川委員 今回の労働契約法を作るというときに、労働者と使用者が対等に交渉し て、そして合意だ、という話をしました。そのときに、座長のほうから、長谷川さんは 18世紀、19世紀の完全な「契約自由の原則」に戻るのですか、と言われたことは、終始 一貫して自分の頭と心に刻み込んでいます。私は、そういうことではなくて、使用者の 人も是非そこはもう少し勉強していただきたいと思うのです。労働者と使用者というの は、対等ではないのです。例えば、1,500万円の部長と1,500万の職員が全く同じ力を 持っているということは、わが国の企業社会ではないのです。労働者と使用者というの は対等ではないというのは、こういう法律を作るとか労働政策を考えるときには、当た り前なのです。対等ではない。もともと持っている情報とか交渉力というのは、使用者 のほうが絶対に多いのです。管理監督者とか経営主というのは、情報もたくさん持って いますし、数々の経験を持っていますから、労働者と使用者では圧倒的に力が違います。 そういうものが同じであれば、対等合意なのです。労働問題というのはそこが違うから、 それをどうやって補強していくのかということが重要なのです。ここは絶対忘れないで ほしいのです。合意とか対等といっても、もともと持っているものが違うわけです。持 っているものを同じものにして、対等な関係を作るということです。私は、こういうと きに何が必要なのかということが、こういうところで労働政策を考えるときの重要な柱 だと思っています。対等合意とか対等交渉というのはそういうことだということを踏ま えて言ってもらわないと、大きな問題を残すと思います。労働者と使用者の力の違い、 情報量、持てるものが違うことをどうやって補強するかということは、常日ごろ考えて おかなければならないのではないかと思います。  もう1つ、自由度の高い働き方にふさわしい制度では、労働者の同意を得ることとい うことで、合意があるからいいではないかと言うのですが、職場を見ればわかるわけで、 次に課長になるという課長一歩手前のときに、「あんたも次は課長だよな。さて、あんた を今度は自由度の高い労働者にしたいと思うんだけど、どうかね」と言われたときに、 「嫌」と言う労働者は本当に少ないです。「ああ、私も今度やっと課長か。ここから真面 目に働こう」というのは、働く者の持っているものだと思います。私だって、「次は、あ んたは課長だよ」と言われたら、その前のときは一生懸命働きます。そして、やはり次 は課長になりたいと思う。だから、そこで健康を壊す人が出てくるわけです。その意味 で、私は、対等な労働者の合意というのはむろん必要なのですが、本当にそうかどうか というところは、もっときちんと見る必要があると思っています。  それから、苦情処理制度ですが、わが国の企業労使の中でいちばんできていないのは、 この企業内苦情処理制度です。外国から来た人たちが、「日本の企業の苦情処理制度はど うかね」と聞かれると、「形式があって内容がないのではないですか」とすぐに答えます が、それはお互いにわかっていることなのです。ですから、法律でこのように書くので しょうが、私たちがこれから努力しなければならないのは企業内の苦情処理制度である ということや、本当に労働者が合意するときのやり方というのは、もう少し研究が必要 なのではないかと思います。そう簡単な、美しいものではないと思っています。 ○小山委員 いま長時間労働の実態について言ってきましたが、実際に長時間働いてい る人は、上司から「お前、これだけ長く働け」という指示があって長く働いているわけ ではないわけです。ある意味では自主的に、自分の仕事をしっかり完成させようと思っ て、みんな長時間労働をやっているのです。例えば、労働組合でいえば、不払残業をな くすために、36協定の範囲内できちんとやれよ、ということが職場に回るわけですが、 一生懸命仕事をする人は、組合員であっても、「これは仕事に必要なんだ。もう少し時間 がほしいんだ」ということで、いくら組合が説得しても、自主的に仕事をやろうとする わけです。それはなぜか。そこが、ある意味では日本人の勤勉さでもあるのですが、一 面では、それだけの業務量があるということなのです。納期があって、お客さんがいる わけですから、できるだけお客さんに応えようと思って、みんな仕事をするわけです。 会社から指示されたから仕事をしているのではないのです。お客さんに応えようと思っ て、みんな必死になって働くわけです。それが日本の長時間労働の実態なのです。会社 から指示されて長時間労働をやっているのではない。それが、いまの職場の実態なので す。そう考えたら、時間の規制を外すということがどれほど問題か、ということを理解 していただけるでしょう。  成果主義、成果型賃金制度だから、成果に応じて時間に関係なく自由に働ける。言葉 触りはいいですよ。しかし、実態は、自由に働けば働くほど長時間になっているという のです。お客さんにいい仕事をしようと思ったら、みんな長く働くわけです。少しでも 早くものを完成させよう、クレームについても少しでも早くそれを解決しようと、みん な必死で働いている結果が、過労死や過労自殺を生んでいる現実ではないですか。過労 死や過労自殺をされた家族の方の手記などを読むと、本人は本当に一生懸命働こうとし ていて、自分で止められない。自分で止めることができなくて、家族が心配して「もう やめたら」と言っても、なお働き続けて、お亡くなりになっている。そんな例ばかりで す。こんな制度が入ったら、日本の社会は一体どうなるのですか。絶対にこんな制度は 認められません。 ○原川委員 労働時間の件ですが、先ほど谷川委員がおっしゃいましたように、自由度 の高い働き方にふさわしい制度については、我々中小企業も導入について賛成をしてい るところです。年収要件については、法律に一律に書く場合には、最低基準というよう な、その後、実際の年収要件を適用する年収要件については、企業で労使委員会によっ てある程度任意に決定できる、労使委員会の決定に委ねる余地を与えていただきたいと 思います。特に、中小企業の場合には、大企業と賃金格差がありますので、企業が年収 要件を見て、それで導入を断念するというようなことが起きないように、是非配慮して いただきたいと思いますし、この制度をつくる以上は、規模等でも広く活用されるよう にするべきだと考えます。  それから、時間外の割賃の問題ですが、割増賃金の引き上げが長時間労働の抑制に直 接つながるかということについては、前々から申し上げていますとおり、効果に疑問が あると考えています。ただ、労働者の健康確保というのは非常に重要である、というこ とは認識しています。そういう健康確保の観点から何らかの対策を立てるということを 否定するものではありませんが、そういう場合にも、企業規模とか業種によっていろい ろな実態があるということをよく考慮して、きめ細かな必要な対策というものをとるべ きであると考えます。是非この点もよろしくお願いしたいと思います。 ○八野委員 いろいろ労働側のメンバーも意見を言っていますが、「自由度の高い働き方 にふさわしい制度の創設」というところで、ずっと一貫して言っていることがあると思 います。やはり、これを見たときに、私たち労働者としては、経営側のコストの削減と、 時間に関するマネージメントを不在にするということしか見えません。労働を通じて成 果を上げるというのは、企業として、また働く者として当たり前なことですので、その 点を強調されても、この制度を入れる根拠には全くならないと思っています。  あとは、仕事を通じて過労死、過労自殺が起きている今の現状が、本当にこのままで いいのか。手記を見せてもらいましたが、非常に真面目な方たちが、それこそ、ここに ある「対象労働者の同意を得る」という中で、それを断り切れなかったと。いまは、業 務の範囲も拡大していますし、業務も高度化しています。そういうところで、真面目に 働かれている方が、グローバル化の影響を受けて、海外出張なども継続して行われ、さ まざまな長時間労働をしたり、ストレスを感じることによって、過労死などが起きてき ている。ここの中で、文章では、同意を得ることとか、さまざまな条件が出ていますが、 まず、長時間労働によって過労死や過労自殺が起きる今の日本の企業社会というものを、 そういうものがない社会にしていかなければいけないのではないかと思います。  そのときに、労働時間というものは、そこにかかわる意味では非常に大きなものです。 また、管理職一歩手前というところで見ていきますと、先ほど長谷川委員からは、管理 職一歩手前にいる人たちが上に上がれるようなことで言われていましたが、いまは企業 側もかなり厳しい評価を付けていますから、全員が上に上がれるというわけではなく、 ここにいるメンバーが、いまいちばん仕事の負荷がたまっている現状でもあると思って います。いま、こういう制度について組合員に説明をしても、こんなマネージメント不 在のものを入れていいのか、という意見が非常に多く上がってきているということをご 理解いただきたいと思います。最後に言いたいのは、仕事による過労死、過労自殺、ス トレス障害が起きない企業社会にしていくことが非常に重要なのではないか、というこ とです。  もう1つは、割賃のことです。割賃だけで長時間労働が減るとは労働側は一つも言っ ていない。いま、時間管理に関する労使での協議、協力、協定の遵守があっても、不払 労働や長時間労働がある。経営側は、グローバル化とよく言われる。それでは、労働条 件のグローバル化という考え方を持ってもいいのではないか。そういう中で、時間外の 割増しというものを国際的な平均を考慮した一定の条件に上げていく必要もあるのでは ないか。そういうことを考えて言っているわけです。  例えば、国連が出しているグローバル憲章を見ても、日本が主張しているところは非 常に少ない。それと、グローバル化ということでグローバル戦略に則ってやっている企 業の中でも、グローバル協定をとっているところは非常に少ない。皆無に近い。ある方 が言うには、ヨーロッパ系のところはそういうところが多いけれども、アメリカはそう いうことをやっているところが非常に少ないということです。そういう意味でも、日本 が今後を考えていくときに、過労死、過労自殺という長時間労働の問題の是正もあるし、 グローバル企業として襟を正すのであれば、グローバル協定化ということも考えていく 必要があるのではないか。そういうことを本当に考えていただきたいと思います。そう いう意味で、自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設に関しては、反対をもう一度 表明させていただきたいと思います。 ○新田委員 この自由度の高い働き方についてですが、もう我々労側の意見というのは 出尽くしています。これまでの議論で、経営側は、「使い勝手のいい」という言い方を何 度もされています。そして、片一方で、グローバル化だ、競争だ、コストだとおっしゃ る。  私がここで申し上げたいことは1つです。いま、不払残業、過労死などさまざまな問 題が起こっています。経営側に対する不信がこんなに高いときにこの制度を持ち込むと いうことは、また経営側にとって使い勝手のいいものをつくるのか、ということになる。 この感覚をどう受け止めるのかということなのです。派遣法を作ったら、それこそ法律 を越えてまで派遣をやるような事態で、これはやはり信用されないと思います。そうい う意味で、こういう世の中の動きの中でこの制度を持ち込むということは、とてもでき ない。そういう意味で、私は、この第5項を私たちのまとめから外すと申し上げたいと 思います。  時間外のところですが、時間外は割増賃金50%にしよう、休日出たら100%にしよう、 深夜は働いてもらったら50%にしようというのが片一方にあるのかと思えば、そういう ものはない。ワークライフバランスとか、長時間はどうかということは、認識としては おっしゃる。本当にそう思っておられると思いますし、健康の問題もそう思っておられ ると思うのですが、そういう意味で、具体的に長時間労働を抑制する効果はないと先ほ どおっしゃいましたが、私は、やはりここで、割増賃金は100%、50%と、枠外の働き についてきちんと打ち出していくべきだと思います。そうすることによって、長時間労 働は問題なのだ、よくないのだ、それは生活全般にかかわる問題なのだという意思を見 せていくことが、大変重要なときではないかと思います。一定期間、一定率というのは、 何か階段を踏むようなことなのでしょうが、そのような中途半端なやり方でなく長時間 労働を抑制するという意思を明確にすることが、大変重要な時期ではないかと考えます。 ○山下委員代理(君嶋氏) 自由度の高い働き方にふさわしい制度に関しては、これま で皆さんからご意見がありましたとおり、やはり長時間労働の問題がフォーカスされて くるのかなと思います。もちろん、長時間労働、過重労働、過労自殺の問題というのは、 企業としても撲滅すべくいろいろ努力をしているところですし、その辺りに関しては全 く異議のないところです。ただ、この自由度の高い働き方にふさわしい制度イコール長 時間労働の促進をする制度だというネガティブな捉え方ではなくて、ここの制度の要件 のところに書いてある労働者層のような、時間で測れない、成果で測るべき人たちとい うのは確実に増えていると思います。むしろ、長時間労働につながるというようなネガ ティブな捉え方ではなくて、うちの会社の場合は7.5時間ですが、8時間という時間の 枠で働くという硬直した発想ではなくて、ある程度自主性を持たされて、自分たちでリ ーダーシップをとって働けるような人たちに対してこういう制度を入れたらどうかとい うのが、使用者の意見なのだと思います。もちろん、ご指摘のような問題がある職場で は、労使委員会で入れるべきではないと思います。そうではなくて、それを入れるべき だという職場で入れられるような制度を1つオプションとして増やしたいというのが、 使用者側の考え方だと思います。 ○田島委員 使用者側から、労使委員会で範囲や年収要件を決めるという意見が出され ていましたが、先ほど長谷川委員が言ったように、労使が対等でない中で労使委員会で 決議をすれば、結果的には使用者側の意図を追認する機関になってしまいます。5の(1) の「制度の要件」に4つ挙がっていますが、具体的な要件というのは年収だけなわけで す。そうすると、対象労働者が際限なく広がってしまう。いわゆるホワイト労働のとこ ろで、9時5時だけではなくて、もう少し自由度を、と言うのですが、自由度があった としても、いまではフレックスタイムがあるのですが、ほとんど活用されていないし、 適用除外労働者も、先ほども言ったように、8割が時間管理をされているわけです。時 間管理をなぜ外さなくてはいけないのかというのは、私は理由にならないだろうと思っ ています。もう1点、この対象労働者の範囲などを労使委員会で決めるということに対 しては、結果的には、労使の対等性がしっかりと担保できないまま、使用者側の追認機 関になるのではないかと思っています。  長時間労働者に対する割増賃金の引上げのところですが、(2)の「一定時間」「一定 率」というのはきわめて曖昧です。これは、限度基準を超えたところは労使協定で法定 を超える率であるということと、さらに長いところに対して、健康確保、企業の経営環 境、割増賃金の現状、長時間労働の抑制、いわゆる時間外労働の抑制という4つのこと を言っています。私は、この4点をきちんとクリアするためには、ヨーロッパのように 休息時間規制をすることも検討するべきだと思います。11時間、あるいは、1週間に1 回は35時間ということで、労働時間規制ではなくて、休日をしっかりと担保しましょう ということにする。そうすれば、使用者側の経済的な負担もないわけです。こんな超長 時間労働で一定率を何パーセントにします、などということが本当に抑制になるのかと いう思いがしています。こんな形で、一定時間を超えるところに一定率などということ ではなくて、この際、休息時間規制を入れて健康確保措置をしようと持っていくのが当 然のことではないか。この4点をクリアするためには、私はそれしかないと思います。 ○渡邊佳英委員代理(根本氏) 労働時間法制についての意見を述べさせていただきま す。まず1つは、企画業務型裁量労働制を中小企業にも浸透させるためにも、対象業務 の拡大や、柔軟な対応ができるような仕組みづくりを早急に行っていただきたいと思い ます。また、先ほどからいろいろご意見が出ていましたが、時間外労働削減の目的とし ての割増率引上げについては反対です。割増率の引上げは企業へのペナルティだけで、 問題の本質的な解決にはならないと考えます。いわゆる日本版ホワイトカラー・エグゼ ンプションの導入ですが、これは是非導入していただきたいと思います。最後に、割増 率の引上げ、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入、労働契約法制の3つの議論に ついては、別々ではなく、3つ一体として今後議論を行うべきであると考えます。 ○石塚委員 自由度の高い働き方の問題以外にもいろいろな議論が出ていますので、6 頁目の6の「企画業務型裁量労働制」について申し上げたいと思います。いま使用者側 から触れられた点は、この間の議論の中で何遍も私のほうから主張してきた点です。ま ず、「中小企業については」が最初に気になります。大企業と中小企業で基準というもの が違っていいのか。最低労働基準を定めるという労働基準法の精神から言って、やはり これは逸脱ではないか。段階的にある規制に持っていくために、大企業は即実施する、 時間的猶予を持って中小企業は移行していくということは、移行規定がありますから、 労働基準法の世界においてもあったわけですが、端から大企業と中小企業の基準を違え てしまうというのはそもそもおかしいのではないか、というのが私どもの基本的な考え 方です。すなわち、労働基準法においてダブルスタンダードを持ち込むというのはいか がなものか、というのが1点目です。  それから、中小企業についてはとか、使い勝手云々という主張がこの間だいぶされて いるわけですが、これは、中小企業の概念規定をどうしていくのかによって違ってくる と思います。従業員の規模などを考えると、少なくとも企業数でいえば、日本は圧倒的 に中小企業が多いわけです。圧倒的に多い中小企業に特例的なものがあって、少ない大 企業においては特例ではないというのは、これは変な姿であろうと思います。したがっ て、ダブルスタンダード的なものを持ち込むことに関しては、労働基準法からいって基 本的におかしいのではないかというのが、私どもの主張の1点目です。  2つ目は、これは随分議論した点ですが、6の(1)に「企画、立案、調査及び分析の業 務に主として従事する労働者」とあります。この「主として」というのは非常に曖昧で す。後ほど指針あるいは労使それぞれ、いろいろなやり方があるのだとおっしゃるので しょうが、この「主として」の何が主なのかというのは実際上たぶんわからない。おそ らく、これは拡大していくことがそもそもの目的なのだと思います。そうなりますと、 もともと企画業務型裁量労働制の趣旨があったはずなのに、実際上はそこからかなり逸 脱をする。すなわち、対象層がかなり拡大するし、日本で圧倒的に多い中小企業におい てこれが入ってくるとすると、中小企業においてはすべて企画業務型裁量労働制でいい のだということになって、端境が全然わからなくなってしまうという姿が想定されるの ではないかと思います。そういう意味で、この間の主張の繰返しになりますが、労側と してはこれに対しても反対だということを、明確に申し上げておきたいと思います。 ○山下委員代理(君嶋氏) 企画業務型裁量労働制に話がいきましたので、一言申し上 げたいと思います。私も、石塚委員がおっしゃるように、「中小企業について」という形 でダブルスタンダードを設けるのはいかがなものか、と個人的には思っています。むし ろ、企画業務型裁量労働制に関しては、これまで、制度の使い勝手が悪いということで 導入を足踏みしている企業が非常に多いと思います。むしろ「中小企業について」とい うことだけではなく、もちろん大企業も入れた全般的な裁量労働制の見直しとして、手 続的な要件を緩和するとか、業務の対象を広げるといった形の検討をすべきなのではな いか。そういう方向性は入れていきたいと考えています。 ○小山委員 企画業務型裁量労働制ですが、現行制度が使い勝手が悪いとよく言われま すが、本当に裁量を持って仕事をしている人が実態としてどれだけいるか、という問題 があるわけです。先ほど、自由度の高い働き方のところで申し上げましたが、結局、仕 事量に対する裁量、自由度がないものだから、みんな長時間労働になってしまう。そし て、実際の裁量と言うけれども、ちっとも裁量労働ではない。要するに、時間管理を曖 昧にすることにしかならないという実態が、多くのところであるわけです。ですから、 これは制度の問題ではなくて、働き方の実態の問題なのだという認識をすべきだと思い ます。それと同時に、特に中小企業という言われ方をしていますが、これはとんでもな い話です。むしろ中小企業は、そんなに自由度のある働き方はないのです。多くの場合、 朝の定時からみんな一緒に働いているわけです。「俺は昼から行く。夕べ遅くまで働いた から」という働き方はできないのです。業種、業務によっては、いろいろあるのかもし れません。でも、これは一般的な制度として入れようとしているわけです。こんな曖昧 な拡大の仕方をしたら、大混乱といいますか、裁量労働制の意味もなくなってしまう。 ですから、ここは絶対に認めることができません。是非、削除していただきたいと思い ます。  もう1つ、6の(2)で「労働時間の状況及び健康・福祉確保措置の実施状況に係る定期 報告を廃止する」と言っています。これはなぜ廃止しなければいけないのか。いま大事 なのは、労働時間が一体どうなっているのか、健康確保がどうなっているのかです。そ このところをきちんと把握していかなければいけないというのは、みんなの共通認識で はないですか。いかに過労死や過労自殺をなくしていくのか。そういうことを共通認識 としながら、この議論をしてきたはずです。なぜこれを外す意味があるのですか。何の 積極的意味もない。マイナスのイメージしかない。議論の経過にも全く反する。ですか ら、この6の項については、全面的に削除することを求めたいと思います。 ○長谷川委員 使用者側も意見が割れているのですね。みんな言っていることがばらば らです。一方は、自由度の高い働き方、ホワイトカラー・エグゼンプションを入れてく れと言っている。中小企業側は、こんなものが入っても自分たちの会社で使えなければ ダメだから、年収要件を下げてくれと言っている。年収要件が比較的高いものであるか ら、企画業務型裁量労働を緩めてくれと言って、今度はこっちで、中小だけでなく、大 企業でも緩和しろと言う。何を言っているのか。  図を書いてみるとわかるのですが、管理監督者もずるずると実態的に下がっているわ けです。労働基準法の管理監督者よりずっと下がっている。今度は自由度の何とかとい うものをつくるわけでしょう。それで、これがずっと下がってきて、今度はこちらから 裁量労働がくる。そうすると、時間外をやって、残業をやって、残業代を払う労働者と いうのは全然いないではないですか。年収400万以下の労働者は残業代を払うけれども、 400万以上はもう払わないという話を、いま大合唱しているのです。  中小は自由度の高い制度がこれでは入らないから、裁量労働制をずぶずぶにして、こ っちをやらせてくれと言うわけです。裁量というのはもともと見なし労働時間制で、ほ とんどのところは8時間を大体9時間で見なしていますから。そして、今度はこちらで 自由度でずっと下げてくる。ここに残っているものなど、ごくごく普通のわずかなもの で、これなら400万以下しか残らない。そんな企業側だけ使い勝手のいい話などないで しょう。これは、みんなばらばらのことを言っているのではないですか。 ○紀陸委員 何遍も申し上げてきたのですが、裁量労働制とかエグゼンプションの論理 を、現状の過労死が多いとか、不払残業が多いという観点からだけ現状評価をしている という感じがしてならないのです。グローバル化とか競争激化などは現実に起きている わけですから、我々は、その現実に起きたものにどうやって合わせていって、いい状況 をつくっていくか、どういう手立てを打ったら実現できるかというところに目を置いて いるつもりなのです。過労自殺とか、メンタルヘルスはどうだというのは事実です。で も、それがあるからといって、そのほかの問題について現状のまま放置しておいていい のかというのが、私の基本的な認識です。確かに、そういうところのマネージメントが 悪い。そこは個別的に直さなければいけない。だからといって、新しく問題が起きつつ あるようなところに全然目線を当てなくていいのか。広く高く、いろいろなところから この問題を見ないといけないと思うのです。いろいろなところで日本の労働状況は遅れ ているわけでしょう。先にいかせるように、何かやらないといけない。  先ほど、労使の情報が対等でないから問題だ、というお話がありました。そんなこと は当たり前ではないですか。そのために労働組合があるわけでしょう。基本的に労使自 治というものをどう理解するかが大事なのです。労使自治というのは、自分の会社のこ とは自分でやるということなのです。自分の会社が成果を上げたら、それは労使ができ るだけ対等に分配しましょうと。付加価値の中の6割、7割、8割は人件費のほうに回 るわけです。その中で、いろいろな問題を労使が自分の会社の状況に合わせて解決して いこうと。これが労使自治というものでしょう。エグゼンプションもそうです。自分の 会社でどういうものがいちばんいいかというのは、自分の労使がいちばん知っているわ けですから、そこはお任せでいきましょう、最低限だけを法律で決めましょうと、それ が法律の役割ですよね。問題が起きるから、何でもかんでもすべて法律でやりましょう というと、いつでも逆のことが起きてきますよね。何か決めれば、そこから逃げようと する。そのリアクションも考えてものを決めなければいけないというのは、我々も一緒 だと思うのです。ですから、最低限のことだけ押さえておいて、あとはその中でやれる ようにする。いつまで経ってもやれないから、労使委員会の機能があるわけです。でも、 そうしてしまうと、次の展望が開けようがないではないですか。組合の中でも、エグゼ ンプションの制度いきましょうとか、成果主義を望んでいる組合員の方が多くなってい るわけでしょう。それにどう応えるか。  前から言っているように、賃金と労働時間というのは別々ではないのです。朝8時か ら帰りの5時までホワイトカラーがいても、そのアウトプットが違うわけでしょう。そ うしたら、その処遇をどうするのか。処遇を変える、それでは労働時間をどうしましょ うか、という話になってくるのは当たり前なのです。そこをどう変えていくか。しかも、 その場合に、いろいろな意味で齟齬がないように、同時に健康確保の問題や処遇の評価 の問題をやりましょうと。それは、その労使で話し合ってもらえばいい。いろいろなも のを追加して、積み上げていくだけですよね。企画裁量云々と言いましたが、大企業と 中小企業のやり方が違えば選べるようにしましょう、というだけの話です。このモザイ クが狂っているのではなくて、その中でもっと自分が選べるようなモザイクを作りまし ょうという話ですから、それは本当の労使自治だと私は思っているのです。労使自治を 基本でやっていくとすれば、いろいろなオプションがあったほうがいい、というのが基 本的な考え方です。長谷川委員もそういうことをご存じだと思うのですが、誤解される といけないので、付足しのようなことを申し上げさせていただきます。 ○田島委員 労使自治だけに任せていたら駄目ですよということで、労働基準法と各種 の労働者保護法があるのだろうと思います。公正競争の側面からも、例えば労働時間に ついては40時間という形のルールがあるわけです。いまのグローバル競争とか、いろい ろな競争時代に、自治だけに任せて、ルールはそこで決めれば何でもいいですよ、24時 間オーケーですよ、というようなことは絶対駄目ですし、いわゆる公正競争の側面から も競争の土俵が必要ですよ、ルールが必要ですよ、ということで本来議論しているはず なのです。それを、労使自治に任せればいいということだったら、法律など必要なくな ってしまうだろうと思います。しかも、その労使自治で労使対等性が担保できないとい うような状況の中では労働者の生活はズタズタになってしまいます。 ○紀陸委員 基本的に、日本の労使協議制は、ヨーロッパでもアメリカでも評価が高い でしょう。設備投資をどうするかとか、作業場の経験者をどうするかとか、いろいろな ことを論議しています。やっているところはやっているのです。やっているところをど うやったらもっと広げていけるかとか、そういうことを本当はやるべきであって、その 中に、情報の対等ではないものを対等にしていこうなどという努力が入っているわけで す。そういうことを、規模のいかんにかかわらず、業種のいかんにかかわらず広げてい こうというのが、本当の狙いだと思っているのです。いろいろなところで労使が話し合 えるところをつくっておかないと、それこそ現状とか状況が改善されないわけです。現 状が悪かったら、現状をどうやって変えていくのか。法律で変えるのではないのです。 法律でやるといっても、監視役がいなければ、いつまで経っても潜りでやるところがい っぱい出てくる。自発的にどうやって変えられるか。格好よく言っていますが、そうい うものを最初から駄目だと言ったら、どうしようもないではないですか。そこは、労使 でやっていけるように法律の中にそういうものを残しておくというのは、いろいろな政 策において、特に労働関係の政策においては当然のベースになることだと思うのです。 そこは当然、労側の方も否定されてはおられないのでしょうが、現実をどう変えるかと いうこと、規制を強めることだけでは絶対駄目だということは、本当の意味でご認識い ただかないと、先に進まないと思っています。 ○原川委員 使用者側の意見が割れているとおっしゃいましたが、私どもは、そういう ことではなくて、いま紀陸委員もおっしゃいましたが、中小企業としては、折角新しい 時代にふさわしい制度をつくるということなので、大企業だけではなく、中小企業もこ ういう制度を活用したいと考えています。大きい組織、小さい組織と組織の実態は違い ますが、組織である以上は、自由度の高い働き方をする職種は同じですし、その必要度 の大小はあるかもしれませんが、必要であることには変わりはないと考えています。こ ういった新しい労働時間の制度、あるいは企画業務型の裁量労働制について、中小企業 においても広く活用されるようにすべきであるということを言っているのです。広く国 民の前に法律というものがある以上は、広く国民が誰でも望むものに活用され得るもの でなければならないというのは、当然のことであると思います。今回は広く活用される ような制度にしてほしい、ということで意見を申し上げておきます。  企画業務型裁量労働制で中小企業の特例を設けるのは反対だ、という意見がありまし た。中小企業の場合には、雇用の実態が、一人ひとりが複数の職務を兼務しているケー スが非常に多くありますので、企画業務型裁量労働制についてはなかなか導入しにくい ということがあります。そういう中小企業の実態を考慮して広く活用できるようにして いただきたい、と申し上げているのであって、中小企業だけいいようにしてくれとか、 負けろという意味ではありません。それを申し上げておきたいと思います。 ○長谷川委員 中小企業の人は、今回の自由度の高い労働時間制度は、マスコミ報道に よるとどうも年収要件が高いようで、自分たちは使えないと。だから、この審議会で400 万円と言いましたよね。なかなか使えないから、自由度の高い労働時間制度を使わせて くれと言って、それから裁量労働を緩和してくれと言ったわけです。本当は裁量労働と いうのは、企画、立案、調査、分析の4点セットなわけです。それだけではなくてプラ スアルファにしてくれと言って、挙句の果てに、基準監督署に届けるものも緩和してく れと言っている。労側から見ると、これで裁量労働がズルッと入ってしまうのです。裁 量労働というのは見なし労働ですから、1日9時間働いたとか、10時間働いたと見なし てやるわけです。  一方、先ほど山下委員代理が、中小のように私たちのほうにも緩和してください、使 いやすくしてくださいと、いみじくも本音をおっしゃいました。だから、中小のところ で特例として作ったものが、普通の企業にもずるずるといってしまうわけです。これで、 企画業務型裁量労働もずぶずぶだと思うのです。4プラス1と要件が緩和されるのです から、今度は本当に何でもできてしまいます。  自由度の高いものというのは、要するに残業代を払わないものです。紀陸委員のとこ ろのような大企業は、「年収要件もそれにふさわしいものとすることとし、管理監督者、 一般の平均値から年収水準を勘案し」ということを考えれば、これは、労働問題をやっ ている人から見れば、何の統計で、どのあたりの労働者を考えているかというのはすぐ にわかる話です。労側委員は何のことか大体想像できる話です。この間は400万と言っ た。そうすると、何だ、と労側はなってしまうわけです。それでは残るのはどこかとい ったら、日本の企業がピラミッドになっていると仮定すると、ここだけです。それは年 収400万以下の労働者しか残らないのではないか。ですから、5の「自由度の高い働き 方にふさわしい制度の創設」と6の「企画業務型裁量労働」はセットだと言っているの です。あたかもばらばらのように見えますが、実はセットなのです。セットだから、残 るのは400万以下の労働者で、時間外割増が払われる労働者はそこしか残らないではな いですか。これはそんなふうにしか見えません。何かちょっと違うのではないですか。 皆さん、詳しくご説明してきたからよくわかったと思うのですが、これはそういうこと なのです。結果的に何が起きるかということなのです。  もう1つ、紀陸委員からも言われましたが、私は、日本の労使関係というのは非常に 良好で、労使協議制とかいろいろなことで、日本経済が大変なときも労使でいろいろな 知恵を出してやってきたと思っています。そのことについては自分たちも否定するもの ではありません。ただ、圧倒的に労働組合がないところが多いわけですから、そういう ところの労使委員会がどうあるべきかというのは、この短い時間で検討するのは無理で すが、もう少し議論したほうがいいのではないかと思っています。だから、それを否定 するものではありません。労働組合がないところでの労使委員会というのはどうやって 行われているのか、本当に民主的なのか、本当に労働者代表なのかということについて は議論したほうがいいし、労働組合でない労使委員会が本当に対等にできるかどうかと いうことについても、次期のときにでも議論すればいいのではないかと思っています。  労働法は、この10何年間ずっと規制緩和されてきました。規制緩和するときに必要な のは、事後チェックだと思います。規制緩和するということは、事前チェックから事後 チェックに移るわけですから、事後チェックをきちんとやることだと思うのです。今回 の労働時間を話すときには、いろいろなことをやってきましたねと。変形労働時間制も つくってきたし、フレックスもつくったし、裁量労働もつくったし、企画専門などいっ ぱいつくったと。さて、どうなのでしょうかねと言ったのが、何回も言われて嫌だと言 うけれども、労働時間問題でいろいろなことが起きているでしょうと。その認識は一緒 だと思うのです。その規制緩和をした結果何が起きたかということをきちんと丁寧に分 析して、いま労働基準法の労働時間というのは何をしなければいけないのか、という議 論が必要なのです。労働基準法というのは、我々日本人が、わが国社会で文化的で幸せ な生活を送るための基本的な権利が、具体的に労働の分野の中での最低基準としてある わけですから、そこをいつも私たちは意識して議論しなければいけないのではないかと 思います。私は、企業の皆さんの置かれている状況は思っています。日本企業が世界の 中でどういう戦い方をしているかとか、日本がいま何をしなければいけないかと。しか し、労働基準法という性格から見たときに、これはどういうところで規制をかけるかと。 日本に働く労働者というのは北海道から沖縄までいるわけだし、いろいろな労働者がい るわけですから、そこをきちんと認識することが必要なのではないかと思っています。 ○分科会長 時間もまいりましたので、ほかにご意見がなければ、本日の分科会はこれ で終わりたいと思います。次回は、本日提出された報告案につきまして、事務局で必要 な修正を行って提出していただき、最終的な取りまとめをお願いしたいと思います。次 回の日程について、事務局からお願いします。 ○監督課長 次回の労働条件分科会は、12月27日(水)の17時から19時まで、厚生 労働省18階の専用第22会議室で開催する予定です。よろしくお願いします。 ○分科会長 それでは、本日の分科会はこれで終了します。本日の議事録の署名は、田 島委員と紀陸委員にお願いしたいと思います。お忙しい中、ありがとうございました。                  (照会先)                     労働基準局監督課企画係(内線5423)