06/12/15 第2回社会保障審議会人口構造の変化に関する特別部会議事概要 社会保障審議会人口構造の変化に関する特別部会 ○ 日 時  平成18年12月15日(金)16:00〜18:00 ○ 場 所  厚生労働省 省議室(9階) ○ 出席者  〈委員:五十音順、敬称略〉        阿藤 誠、大石亜希子、小塩隆士、貝塚啓明、鬼頭 宏、榊原智子、        佐藤博樹、樋口美雄                      〈事務局〉        薄井康紀 政策統括官(社会保障)        北村 彰 参事官(社会保障担当)、山田 亮 参事官(労働政策担当)        香取照幸 雇用均等・児童家庭局総務課長        城 克文 政策企画官、佐藤裕亮 社会保障担当参事官室長補佐        高橋重郷 国立社会保障・人口問題研究所副所長 ○ 議事概要 1.開会  (城政策企画官)  議事に入る前に、本日初めて出席の佐藤博樹委員を紹介します。東京大学社会科学研 究所日本社会情報センター教授です。また榊原委員は遅刻、前田委員は所用により欠席 との連絡がありました。本日の出席委員は3分の1を超えておりますので、会議が成立 となります。それでは、以後の進行は貝塚部会長にお願いします。  (貝塚部会長)  お手元にあるように議事次第にあるように、議事の1は人口構造の変化をめぐる論点。 議事の2は、潜在出生率に基づく仮定人口試算のイメージということで、一括して最初 に事務局から説明をお願いします。  資料1−1は、前回いろいろ議論した点を多少整理して、問題意識を含めて、私がこ ういうものをつくってほしいということを事務局にお願いしました。これについて議論 し、さらに追加する論点があれば、指摘をお願いします。事務局から説明をお願いしま す。  (城政策企画官)  資料1−1は人口構造の変化を巡る論点です。これは前回の議論を整理して、また事 務局の側の問題意識も含めて整理したものです。本日は、これについてさらに追加・修 正等の議論をお願いいたします。  続いて、資料1−2、人口構造の変化をめぐる論点の補足資料です。1ページ目は前 回お示ししたものを少し修正しました。社会保障の議論がありましたので、支え手とし て前回は生産年齢人口を15〜64歳としていたのを、今回は20〜64歳という世代で切って 整理しました。これを見ても、2005年の実績としては3.0人で1人を、2030年には1.9人 で1人を、2050年には1.4人で1人を支える社会になっているといえます。また2030年、 2050年の20〜64歳の世代の中に占めるこれから生まれる世代は、2050年になると相当に 大きな比率を占め、影響を与えることになります。  2ページ目は、前回お示しした労働力率を総人口との関係で比較しました。1人当た りの経済成長を考えたときにどのようになるかということで、いずれの場合も、2030年 以降は同じ線という形にしています。この表から2030年までは、労働市場への参加が進 む場合、労働力人口は総人口の減少率と同じくらいの状況で下がってきますが、2030年 以降については、総人口の減少よりも労働力人口の減少が大きくなることが予想されま す。よって2030年以降については、1人当たりの経済成長についても影響が出てくる可 能性があります。  3ページ目は、出生率の低下と労働力人口について整理したもので、大きく影響が出 て変わってくるのが2030年以降。仮に低位で行くと、労働市場への参加が進んだとして も、労働市場への参加が進まないケースと同じくらいに2050年段階では下がってくる。2 030年以降の状況を考えるとき、ここは重要な視点としてお示ししました。  4ページ目は、労働力率の変化の指摘があったので、示しました。男性については、 今のニート、フリーター、20代前半が上がってくるという前提。また、60代前半につい ては、定年延長の観点から、相応の労働力率になるとの推計を行っています。  女性については、いわゆるM字カーブと言われていますが、その一番へこんだ30代前 半の女性の労働力率が61.4%から80.4%。40代前半が70.4%から83.3%と、全体に相当 就労率向上の努力をするという前提で、推計を行っています。  5ページ目は、女性の労働力率の変化です。女性全体でごらんいただくと、年々労働 力率は上がっています。特に20代、30代にかけては大きく上がっています。  これを未婚と有配偶に分けて見たのが右です。未婚も有配偶もそれぞれ確かに年を追 って上がっているのですが、全体の形としては大きな変化はありません。このことから 考えられることは、女性の労働力率の上昇というのは、有配偶から未婚への全体的な人 数の移動、率の移動があって、結果として全体としての平均が上がっているということ です。未婚化によって、労働力率が上がっているのではないかということです。  6ページ目も同じことを別の切り口で見たものですが、やはり年を追って各世代とも に未婚が上がってきているという状況がわかります。  7ページ目は前回お示しした資料ですが、出産1年前に有職の方が73.5%おられまし た。出産半年後には74%になっていますが、その母数を有職の方で見ると、元々有職だ った方で出産半年後の状況を見ると、有職の方は32.2%になっているという状況です。  8ページ目は、第1子出産前後の就業経歴です。これを見ていただくと、一番左の19 85〜89年では就業継続されていた方が25%くらい。それが途中、多少の増減があります が、2000〜2004年のところを見てもやはり25%くらいになってきている。  育児休業の利用自体は上がってきているのですが、育児休業なしで就業継続していた 層が育児休業を利用するようになったこと表している可能性があると考えられ、実際に 就業継続をしておられる方の比率が全体に占める割合はあまり変わらないかと思われま す。  9ページ目は、実際にそういった方がどのような希望を持っているかという調査で、 未公表ですが、調査結果です。一番上は、子供が生まれるまでの間にどのような状況に あったかを表しており、常勤が67.5%、パート・アルバイトが15.5%になっています。  子供が1歳になるまでの間はどのような就業形態をとりたいかについては、常勤が4. 2%、アルバイトが3.1%。50.6%が育児休業で子供を育てたいという希望のようです。 全部を足すと、6割近くの方が就業継続したいということだと思われます。  その下の子供が3歳になるまでの間は、常勤とパート・アルバイトが増え、育児休業 は少し減りますが、やはり6割くらいの方が就業継続を希望されています。その後、小 学校に入学するまでの間、子供が小学生の間、中学校に入学して以降と次第に常勤の希 望が増え、最終的には常勤を希望する方が61.7%という状況です。ですので、6割は、 子供が1〜3歳のあたりで就業継続を希望いるという状況ですが、先ほどのように実際 には、3割くらいしか就業継続していないというのが現実かと思われます。  10ページ目は人口構造の変化の見通しについて、支え手と支えられる人口の比率をみ たものです。最初の2010年を過ぎてから2020年くらいまでの間で、それぞれ傾斜が急に なっています。これは、団塊世代が高齢者になり、65歳を越え、10年たって75歳を越え てくるということで、ここで傾斜が急になります。もう一つ、団塊ジュニアの世代が高 齢者になるところで、もう一つ大きな傾斜があります。  これは前回推計ですが、高位推計と低位推計がさらに分かれていくところをみると、2 025年とか30年くらいから分岐が始まって、50年くらいから大きくなるという予測になり ます。  したがって2030年までは、年金制度のようなものに対する今後の出生の変化の影響は、 2030年くらいまではほとんど出てこないといえます。ただし、それ以降については、出 生率の変化によって大きな影響が出てくるということがいえます。  11ページ目は同じように、支え手の側と支えられる側を少し動かしてみたものです。 これは介護保険の制度をイメージしていただくものです。下のグラフは、高齢者医療制 度をイメージしていただくものです。40歳以上を支え手とするような制度についても、 今後の少子化の影響が大きく加わってきたとしても、2050年くらいまではほとんど影響 が出ず、それより先の状況が変わってくるということになります。また下のグラフにお いても、2030年以降というような状況だということです。  ですので、当面2030年と2040年まで、介護、医療のような制度についてはそれほど影 響を受けないのかなと。ただいずれにしても少子化の影響は先で大きく出てくるだろう ということがみえるかと思います。  12ページ目は、社会保障の話になりましたので、示させていただきました。今のよう な状況を踏まえてこれまでの制度改革を既にやってきている部分があり、人口構造の変 化についてはおおむね、2030年くらいまでについてはほぼ固まっていますので、このこ とを前提として、制度の持続可能性を高めるための改革を進めてきました。  これは年金、介護、医療について、それぞれ給付の伸びを抑制する取組、公平性を図 るために負担面の調節をする取組、制度間の重複を排除する取組、そういった取組を行 うことで、2030年までは大丈夫と言える制度になっていけるのではないかということで す。  2030年以降については、社会保障制度全体を視野に入れて、給付と負担を一体にとら えた改革が必要であり、人口構造の変化を緩和するための少子化対策も、やはり社会保 障制度からみても必要ということになります。なお、年金制度についてはマクロ経済ス ライドを導入していて、これは中長期的な人口構成の変化と経済状況の変化にも対応す ることを目指した制度の導入を行っています。  13ページ目は、それらの改革効果を示した社会保障の給付と負担の見通し。  資料1−2については以上です。  続いて資料2の潜在出生率に基づく仮定人口試算のイメージについて。前回議論いた だいたことを受けて整理したものと、もう少しどういうふうにしたらよいかということ について論点が少しありますので、整理しています。  1ページ目は、試算の位置づけ、基本的枠組みを記しています。  仮定値ですが、出生の仮定については前回も御議論いただいたように、国民の希望が 実現した場合の出生率(潜在出生率)に基づいて仮定値を設定します。これについては、 複数の仮定を設定するということです。その他の仮定については新しく作業中です。  2ページ目は試算のイメージです。今申し上げたように、新人口推計の中位をまず置 いて、それから国民の希望がすべて実現した場合を緑色の線で示しました。その間に複 数の前提を置いて、一定程度国民の希望が実現した場合を置いています。これはどうい うことかというと、結婚や出産の障壁がある程度除去されれば、それに応じて一定程度 希望が実現する。潜在出生率があるので、それを超えるということはないと思いますが、 どのくらいの潜在力があるのかということがこれでわかりますし、どこに壁があるのか ということもわかってくるだろうということです。  そうしたときに、幾つかの前提について少し論点があるので、それを下に記していま す。1ですが、国民の希望が実現した場合、最大限の出生率の水準をつくるときの希望 をどういう形でとるかということです。これは理想とか予定、希望といったものがあり ましたが、これについて幾つかある中でどのくらいの水準をとるのがよいのか。これに ついては、いろいろなものがありますが、統計調査から得られる国民の結婚・出生の希 望について、現実的な希望を基準にするということでよいのかと考えています。  それから、希望がかなうという2ですが、それがいつどの世代でかなうというふうに 置くかということです。今既にある程度、出生行動に入っておられる世代でかなうとす るのか、それとも50年後100年後にはかなうだろうとするのかということはありますが、 私どもとしては、これから出生年齢に入る、いわゆる参照コーホートという世代、1990 年生まれのところで変わったとした場合という置き方をしてはいかがかと考えています。  それから、国民の希望が一定程度実現した場合の「一定程度」をどのように置くかと いうことです。これは、何かよりどころが明確にあるわけではないので、新人口推計の 中位との乖離の3分の1、2分の1、3分の2と前回例示させていただきましたが、特 に御要望はなかったようですので、こういった形を仮定してやってはいかがかと考えて います。  3ページは潜在出生率を分解して見たときの置き方のところで、一つ二つ気になると ころがあったので載せています。潜在出生率を分解するときには、前回の例えば平成14 年中位推計の場合では、生涯未婚率を16.8%、夫婦完結出生児数は1.72人、離死別効果 係数は0.971として1.39と出したわけですが、今回の人口推計ではどうなるかというのは これからですが、潜在出生率でどうするかということがあります。特に未婚率や出生率 はデータでとれますが、離死別効果係数をどうするかというのが少し気になっていて、 それを下に書いています。  離死別効果係数ですが、下にあるように1とする考え方。それから、離死別の効果を 一定程度織り込むという考え方があるかと思っています。離婚・死別を望んでいる方は おられないだろうということがあって、希望を反映するというやり方を徹底するのであ れば、離死別なしという希望を置く、1.0という考え方もありますが、やはり現実的なと ころを考えると、一定程度は避けられないということで、これは実態を持ってくるとい うことで、次回の人口推計の仮定値を置くということがよいかというふうに考えていま す。  後ほど資料で説明しますが、希望がすべて実現した場合は生涯未婚率は10%以下、夫 婦完結出生児数は2.0以上という数字になるかと考えていて、そうすると下のように、離 婚・死別がない場合には1.8以上というような数字になりますが、果たしてそうなのかと いうところがあるので、お示ししました。  なお、上にある1〜3はそれぞれ相関するもので、人口推計の中ではそれぞれが独立 の変数ではなくて、相関するものということになっているのですが、希望値をとると、 それぞれの相関が整合的でないということもあり得るということはありますが、そこは 希望をとるということなので、ある程度、過去の実態とそれほど大きくかけ離れていな いのであれば、希望値をとるということになるかと思っています。  4ページは生涯未婚率の関係です。平成14年の生涯未婚率は16.8%と置いていました。 結婚意欲のある未婚者、それから既に結婚している人はデータとしてとれます。既に結 婚している人は生涯未婚率から外れますし、今未婚の方の中でも結婚したいという希望 のある方がおられますが、そこを組み合わせてとるのかなということです。  左側のデータをごらんいただくと、18〜34歳までをならすと、女性の場合は未婚者の うち90%は結婚意欲がある。さっきも申し上げたように参照コーホートの15歳の方で見 ると、そういうデータはないのですが、18〜19歳がそれに近いということがあります。 ただ、ここは89.5というふうに低い状況ですが、このあたりは後で少し説明しますが、 まだそれほど結婚そのものについて意識がないので、この世代も年を追ってくるにした がって90%を超えてくるような状況があるので、それは90%くらいになるのかなと思っ ています。  この数字と、既に結婚経験のある方を組み合わせると、右にあるように同世代の人口 の中の既婚者、それから結婚意欲のある方、未婚者の割合が全体で93.9で、18〜19歳で は89.6、それぞれ92.4、95.2ということですので、希望がすべて実現した場合というの は大体、未婚率は10%以下になるという置き方をしてはどうかと考えています。  5ページを先にごらんいただけますか。5ページは過去の調査を順に追って見ていま す。下の黄色いところで見ていただくと、女性の場合、1987年、92年、97年というふう に調査してきていますが、87年のときの18〜19歳、それから92年のときの18〜19歳はそ れぞれ次の調査の次の世代に上がっていくと。斜めに同じ世代が回答しているとお考え いただければと思います。  女性の18〜19歳は90を切るような傾向がずっと続いていますが、次の調査で世代が上 がると、やはり9割を超えて希望があるということなので、これはまだ意識が低いとい うことで89%あたりにとどまっているということかなと思いますので、先ほど申し上げ たように、参照コーホートの世代でも90%以上と見てよいのかなということです。  戻っていただいて4ページですが、右下に書いてあるように、参照コーホートの結婚 の希望を考えると、生涯未婚率は10%以下と置いてみてはいかがかということです。  6ページは、子供数に関する希望です。これは平成14年の中位推計のときには、1.72 人と置いていました。左側の結婚意欲のある未婚者の希望の子供数を見ると、18〜34歳 の女性で見ると2.10、18〜19歳の世代では2.23。年が上がるにしたがってこれは下がっ てくるのですが、これは自分の年齢とその後の自分の生活パターンなどをきちんと考え ると、やはりたくさんということは余り言えないという影響かなとも思われますが、い ずれにしても2人以上という形の回答が得られています。30歳を超えると、2を切って1. 84という形かと思います。これは未婚の方です。  下の表は、既に結婚されている夫婦の女性に聞いた子供数です。これは理想の子供数 と、より現実的と思われる予定の子供数があります。いずれにしても、2.4前後と2.1あ たりのところにあって、予定の方が低くはなっていますが、いずれにしても2以上はあ ると見ています。こういったことから考えると、かたいところから見るということも含 めて考えると、希望がすべて実現した場合は、夫婦完結出生児数は2.0以上と置くのはい かがかと思っています。2.0以上と設定したいということです。  7ページは検証的に用意したものです。左側の上のグラフは、結婚意欲のある未婚者 の希望の結婚年齢がどのくらいかということです。女性を見ていただくと、18〜19歳は 年を追って上がってきていますが、上がったり下がったりは若い女性ではありますが、 全般としては上がってきていますが、25.2、25.5というふうに少しずつ上がっています。 これは、30歳の方に質問した場合には25歳という回答はないということの反映なので、 高い世代の方が高くなるのは仕方がないと思っています。  未婚者が多いところで考えると、20代前半あたりで見ると、2005年の段階で26.5とい う数字です。前回の平均初婚年齢は27.8歳だったのですが、26.5という数字もそれほど 外れた数字ではないのかなと思っています。これは希望ですので、これがかなうという ことではありませんが、そういったものかと思います。  それを前提に、下の参考にあるグラフです。これは、初婚年齢と夫婦完結出生児数と の関係に相当に強い相関があるので、これを対比したもので、仮に今の26.5というとこ ろを見ていただくと、縦軸で見れば夫婦完結出生児数は2.0を少し超えるくらい。仮に前 回の平均初婚年齢である28歳の手前あたりで見てみると、2前後ということで、平均初 婚年齢が若返るということはないのかもしれないので、これを希望値に使うということ ではないのですが、ただ、先ほどの未婚率の希望が10%以下で、子供の数の希望が2人 以上というのが現実離れした数字かどうかを見るときには、それほど現実離れしている ということでもないのかなと。そこそこ希望が実現し得る妥当な範囲にあるのかなとい うことを、違う切り口で見てみたものです。  これに照らしても、そういうふうに言えるのかなということです。そういうことで右 下にあるように、20代前半の未婚者の希望等で考えるときには、2人と置いてもそれほ どおかしくないのかなということです。資料の説明については、以上です。  (貝塚部会長)  どうもありがとうございました。最初に前回の御議論の問題提起のようなものをある 程度、出していただいて、それに関する統計的な補足資料。それから、後の資料は今後 の出生率をどういうふうに置いて人口の試算をして、将来の大分先の話になるのですが、 どういう要素が重要で、どの辺のところで仮定の差というか、悲観的、楽観的の差異が どういう形で出てくるか。私の印象では、当たり前の話ですが、かなり人口の問題は現 在のところで将来を予測した場合に、違いが出てくるのはある意味ではかなり先の方に なってくるという感じなのですが、一応、2つの議論で説明していただいたわけで、御 自由に御発言を。それぞれ分けて御議論いただく必要は必ずしもないと。  (佐藤委員)  この前欠席したので、既に議論されているのかもしれませんが、今回、新人口推計を するということで、今説明があったように、結婚や出産の障害が除去されたときにどう いうような出生率になるのかということを推計すると伺っています。  推計の仕方を説明いただいたのですが、それと同時に、障害が何かということをきち んと理解しておくということがないと、推計した結果を実現するためには、その障害を 取り除く政策的な取り組みができないことになります。それが多分、論点で整理された ペーパーだと思います。  これを拝見すると、結婚したカップルが子供を希望しただけ持ちにくいことに関して は、かなり要因が明らかになり、効果がどの程度あるかは別として、例えば地域の子育 て支援策とか、企業の両立支援策ということが進められてきているわけですが、もう一 つ、少子化の要因として未婚率の上昇と言われているわけですが、なぜ未婚率が高まっ ているのかということについては、きちんとした要因が明らかになっているわけではな いのではないかと思います。  論点ペーパーの中にももちろん書かれていて、非正規の働き方がふえていることや仕 事に就けない人たちがふえていることが要因として指摘されています。安定した働き方 なり、安定した収入を得られるような働き方につけないと、結婚しにくいというのは、 一つの論点だと思います。  私はこれらの指摘が間違っていると言うつもりはないのですが、実際に仕事に就けて いる人たち、いわゆる正規雇用の人たちでも、ある年齢層をとると未婚率が高まってい るのです。ですから、若い人たちが安定した働き方をして安定した収入が得られれば結 婚できるのかというと、そうではない部分も相当にあるのではないかなと思っています。 例えば国立社会保障・人口問題研究所の調査で、未婚の人の中で結婚したいと言う人が 9割くらいを占めています。なぜ結婚できないのかと尋ねた設問の回答で、一番多いの は出会いの機会がない。2番目は、出会いの機会はあるけれども、コミュニケーション 能力がないという回答が挙がってきています。  例えば、出会いの機会がないという回答が多い背景要因がはっきりしないと、政策的 な対応ができません。なぜ出会えないのか。それは本人の問題なのか、あるいは構造的 な問題があるのかということを区分けする必要があると思っています。  国立社会保障・人口問題研究所の岩澤さんの研究では、日本では70年代までは職場が 出会いの場だったけれど、80年代以降になると職場が出会いの場ではなくなってきた。 それにかわるような出会いの場がないということが明らかにされています。では、なぜ 出会えないのか、あるいはなぜうまくコミュニケーションがとれないのかというところ をある程度議論しておかないと、推計はできると思うのですが、その後の対策が打てな いのではないでしょうか。  もう一つ大事なのは、例えば未婚の人についても、今、パートナーはいるけれど結婚 に一歩踏み出せないという人と、パートナーがいないという人たちがいるわけです。私 などが35歳までの未婚者に関する調査をした結果によると、一度も女性と付き合ったこ とがないと言う人が4割くらいいるというような結果があります。  ですから、未婚の背景要因をもう少し議論して書き込んだらどうか。さらに未婚者の 類型毎にも少し議論をしないと、推計はできたけれども、対策はどうするのかというと ころが議論できないのではないかと思います。  (貝塚部会長)  今のお話はかなり微妙な社会状況というか。私はもうアメリカは最近行っていないの ですが、アメリカなどではやはりパーティなどが出会いの場であるということはそうで すし、多分、大学の学生時代というのもかなり重要なチャンスですよね。そういう機会 は、日本はやはり昔と違って、その機会が減ってきたというふうに考えられますか。  (佐藤委員)  客観的に見ると出会いの機会が変わってきたというデータはあるのですが、未婚者に 聞くと、「いつか出会える」と言う人が圧倒的なのです。出会う努力をしているかとい うとほとんどしていなくて、いつか出会えると思っているのです。ところがデータを見 ると、客観的な構造が変わってきている。企業に勤めて職場にいても出会えないわけで す。ところが、出会えると思っている人が多い。例えば本人が構造的な変化を自覚して いないところも問題かなというふうに思っています。  (貝塚部会長)  今の佐藤先生の問題提起に対して、何か御発言があればどうぞ。  (鬼頭委員)  今の問題というのは、実は非常にとらえるのは難しい部分があるかと思うのです。現 実に私が接している40歳くらいの男性ですが、聞いてみると、出会いの場はあるのです。 サークルとか、職場以外にいろいろあるのですが、それがなかなか結婚に結びつかない。  どうもこれは、本人の意欲の問題もあるのかもしれないのですが、もう一つは、そう いう人たちの中には、「大人の皆さんが紹介してくれないからいけないのだ」というよ うなことを言う人もいるわけです。大人というか、彼らより10とか15くらい上の人たち ですよね。アメリカの社会にはパーティなどのチャンスがいろいろあって、交際のきっ かけがあるのかもしれないけれど、日本の場合に、そういうチャンスがあっても踏み込 めない人たちがいる。これは日本人の社会的な性格なのか、あるいは今までのように、 お見合いとか、だれか第三者が間に立って引き合わせてくれるのを待っている人がいま だにいるのですね。 統計がありますね。国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基 本調査だったと思いますが、見合い婚と恋愛婚の変化。1960年代後半に逆転して、それ 以来、見合いが大きく減ってきたのですが、ただ、恋愛と言っているものの中にも、男 女が偶然出会って結婚したというのではなくて、その間には、見合いとは違うけれども、 間に介在している人たちがいる。例えば友達であるとか、兄弟であるとか、恐らくある と思うのです。  ですから、そういうものは、もちろん制度化されたものではないけれど、皆が努力し なくなったのか。そういうものがどうなったのかということについて、実は私はよくつ かめないのです。だから、統計ももう少し踏み込んで読んで、結婚のきっかけは何なの かということを見直すと、佐藤委員がおっしゃったような問題がはっきりしてくるので はないかと感じています。あくまで感想です。  (阿藤委員)  なかなか出会い、結婚の問題というのは難しいのと、なかなかそれを政策に転換する というのは微妙なところがあって、難しい問題があると思うのですが、国立社会保障・ 人口問題研究所の調査を引き合いに出されたのでもう1点つけ加えると、そういう出会 いの場の問題もあるのですが、それ以前に、いわゆる年齢重視というか、何歳までにと いういわゆる結婚規範というものが、70年代くらいまでは非常に強くて、それがずっと 崩れてきて、今は理想のパートナー、理想の相手があらわれるまではというのが。%と して大変に上がっているわけです。  そうなると、本当にこれはまさに本人の主観ですから、そういう人が仮に高望みして いれば、ずっと相手が見つからないというか、そういうことになりがちで、それがずっ と高年齢に上がっていくと、ますます基準が高くなってくるというふうなことがよくあ るわけですから、そういう結婚適齢期規範、もっと言えば結婚をめぐる社会的な規範そ のものが非常に緩んで、個人の選択になったけれど、今度は自分でそれができるかとい うと、欧米ほどのデート文化が未成熟だと。そういうことのあらわれではないかと思う のです。  さらにその背後に、「理想のパートナーがあらわれるまでは」というふうな余裕があ るという、ある意味では豊かな社会になって、もう一つはそれが親のところにいても何 とかいさせてもらえるというか、そういうことにもなっている。それから、豊かな社会 になって消費主義というか、遊びのオルタナティブが非常にふえていると。海外旅行と かいろいろな楽しみが結構できる。結婚にかわるものがあるということが、結婚を伸ば している理由ではないか。  もう一つは、女性と労働と家庭のいろいろなデータを見てわかるように、やはり両立 の難しさということも考えておく必要があると思うのです。明らかに、結婚しても出産 しても、そして子育てしているときでも、できれば最後にはもう一度フルタイムに戻り たいと。あるいは育児休業を取って仕事を続けたいと言っているにもかかわらず、現実 にはそれは非常に難しいと。7割が辞めてしまうとか、そういう状況で、結局残った2、 3割の人は未婚のまま、仕事を続けているというのが圧倒的なわけです。そこのところ は何とかしないと、この問題も解決しないのではないかという話につながってくると思 います。  (樋口委員)  今の御指摘いただいたところと関連するのですが、質問が1点と申し上げたいことが 2点あります。  質問ですが、補足資料の8ページ、先ほど丁寧に御説明いただいたものですが、子供 の出生年別で1985〜89年、2000〜2004年。育児休業が普及するにつれて、確かに育児休 業を利用して就業継続する人はふえている。しかしその一方、育児休業なしに就業継続 する人たちがそれ以上に下がっていると。その結果として、継続就業はふえていないと いうことですよね。  これはすごくショッキングな話で、育児休業法は何をしたのかというような話になり かねないのです。特に出産退職というのは、時系列的にすごく上がっているように見え るのです。35から41.3までというようなことで、6%も上がっているということは、実 は継続就業は相当に難しいということなのですが、この第1子出産前後の妻の就業経歴 は、継続就業というのはどのくらいの後を言っているのか。例えば、第1子を産んでか ら2年後を見ているという話なのか。それによって、大分解釈が。直後の話なのか、そ れで大分違ってくるだろうと思うので、そこを識別されているようであれば、教えてい ただきたいのが1点です。  それと関連して、労働力率は確かに日本の場合はM字で、30〜34歳のところは上がっ てきているというようなことがあるわけですが、もしかしたら育児休業を利用する人が ふえてきて、育児休業は労働力の中に含まれている。ですから、労働力と言うと大きく、 失業と有業。有業の中が、就業している人と休職中の人。  休職中の人でも、例えば労基法の定義上、給与が全く払われていないという休職中の 人は非労働力の方に入れると思うのです。所得を得ているという育児休業のような有給 休暇の部類に入るものは、労働力というふうに入っているわけですが、もしかしたら、 労働力はずっと上がってくる、労働力人口は大丈夫だと言っておきながら、休んでいる 人がいっぱいふえてきて、実質的には働くことができない人が労働力人口の中に相当に 含まれてきているのではないかという気がするのですが、多分データをさかのぼって細 かく見ると、労働力の中も分けて見ることができると思うのです。実際に就業している 人、休んでいる人、そして職探しをしていて失業者としてカウントされている人という ふうになって、実はそれを見ると、このM字は大分変わっているのではないかと思うの です。  よく北欧で言われるM字が崩れたというのは、就業率で見ると全然崩れていないと。 休んでいる人が多いだけということが出てきたりするわけで、そこを少し区別して、本 当に働いている人と、休んでいる人と、非労働力になった人と考えていくと、国際的な 図というのは相当に違ったものが出てくるように思うのです。多分、厚生労働省ではそ の辺をいろいろ検討していると思うので、何かあったら教えていただきたいと思います。  私が知っているのは、かつて21世紀財団にいたオオタさんが北欧に調査に行って、M 字が崩れたプロセスを追ってみたら、実は就業している人に限定したらM字は全然崩れ ていなかったと。皆、休んでいましたと。休んでいるところを加えて労働力を描くと、 崩れたように見えただけだと。そういうような話があるので、そこのところがどうなっ ているか教えていただけたらというのが質問です。  続けて願望を言ってもよいですか。佐藤委員がおっしゃった点、あるいは阿藤委員が おっしゃった点と共通するのですが、ここで仮定値を置いて、希望を出生率というふう にとっているわけです。それが潜在出生率というふうに呼んでいるわけです。まず一つ は、潜在出生率というふうに希望出生率を呼んでよいのかどうか。何ら弊害がなくなっ たらこれは達成できるのだということで、「潜在」と呼んでいるのだろうと思いますが、 そこの関係をどういう対策をとれば、ここで考えている仮定値が実現できるのだろうか。  100%実現する場合、あるいはケースが分けてありますね。これはどのような対策に対 応して、この数字が出てくるのかということが見えないと、それを「潜在」と呼んでよ いかどうかというのは気になるので、政策対応とか、あるいは経済環境と関連している ということが、非常に重要になってくるのではないかというふうに思います。  というのも、先ほど見てきたような子供の出生によって第1子出産後の出産退職が近 年ふえているという背景には、やはり経済的な問題が相当にあって、育児休業を取って いる余裕はないというプレッシャーで辞めるというようなこともあるわけですから、そ ういう経済要因、あるいは社会要因、政策要因というものと、ここで考えている理想を 実現するためにはどうしたらよいかということを対応させて考えていかないと、「それ は理想ですね」で終わってしまう可能性があるのではないかということです。  2番目のお願いは、仮定値が成立した社会は一体どういう社会を考えるのだろうかと。 例えば、出生率が1.8などになると、もしかしたら労働市場で女性が、現行のままでは労 働力率が下がってしまうというようなことがあるとすると、今の労働力率を重視して働 き続けてもらって、子供は少ないのか。それとも、将来を重視して子供をたくさん産め るような環境をつくるけれど、今はその分だけ労働力率は低いというような、トレード オフの議論をやっている可能性があるのです。  今回のここでの部会の重要性というのは、そこの相互依存関係を明らかにするという のも重要なポイントだと思うのです。今まではどちらかというと、人口を与件にして女 性の労働力率がどうなるかということで言ってきたわけですが、今回は逆のこともある し、さらにはまたここで、希望したものが実現したとしたら労働市場はどうなっている のか、あるいは労働需給はどうなっているのかというようなフィードバック。  これは、推計式を旧労働省が持っていると思いますので、それにこれを全部入れれば、 必然的にモデルが回るようになっていると思いますので、どういうふうになっているか というのを回していただけたらと思います。  (佐藤委員)  今の樋口先生が言われた8ページのデータに関する質問です。簡単なことなのですが、 8ページの第1子出産前後の変化ですが、これは妻が家族従業員とか自営というのも、 多分入っていますよね。その辺がどうなっているのか、教えていただければと思います。  (貝塚部会長)  サンプルの性格ですね。  (城政策企画官)  まず、8ページの調査のいつの時点での就業継続、退職などをとったかということで すが、育児休業を利用して就業継続というのは、第1子が1歳になったときに就業して いると。就業継続で育児休業なしというのは、第1子が1歳のときにも就業していると。 要するに、1歳の時点を見ています。同じように出産退職も、第1子が1歳のときに無 職であると。そういう1歳時点を見ています。  それから、自営が入っているかというお話については、これは入っている調査になっ ています。  (大石委員)  8ページは私も集計にかかわったので、お答えしようかと思いましたが、事務局から 完璧に御回答いただきましたので、特につけ加えません。  (樋口委員)  これは1歳時ということだから、育児休業を取って就業継続というのは、育児休業中 あるいはそれが終わった段階。1年間の育児休業ということで、まだ実際には働いては いない。  (大石委員)  まず結婚を決めたときに働いているか、第1子の妊娠がわかったときに働いているか、 それから第1子が1歳のときに働いているか。それぞれの時点での働いているかどうか を聞いているのです。  (樋口委員)  一番下の13.8%というのは、休業中の人ですね。  (佐藤委員)  1歳時だから、復帰した人も入っているんじゃない。  (大石委員)  育児休業から復帰した人のことです。  (佐藤委員)  6カ月の育児休業を取る人がいるわけですが。  (大石委員)  1歳に達したときに復帰していれば、育児休業を利用して継続就業していることにな ります。  (佐藤委員)  育児休業を取っているかどうかを聞いているので、6カ月間も取らない人もいるし。  (大石委員)  そうですね。育児休業を取ったかどうかも別に聞いています。  (佐藤委員)  それから、転職する場合もあり得るわけですね。  (大石委員)  それはあり得ますが、把握できないですね。  (佐藤委員)  とにかく1歳時点で働いているということですね。  (大石委員)  同じ会社で働き続けているかどうかまでは把握できません。  先ほど樋口先生がおっしゃいましたように、実際のところ、継続就業する人の中で育 児休業を利用する人の割合は上がっている半面、女性全体で見た場合には継続就業者の 割合は増えていないということがこちらでお示ししていることなのです。継続就業者の 割合が増えない主な理由としては、育児休業を利用できるような就業形態にないという ことがあると思うのです。  法律が改正されて、現在では一定の条件を満たせば非正規就業者でも育児休業を取得 できるようになりましたが、少なくともこの調査が実施された時点ではそういう状況で はありませんでした。妊娠時点で既に正社員ではないなど、育児休業が利用できない立 場の人がかなりの割合になる。そういう人たちは子供ができると雇いどめになったりし て、就業継続ができなくなる。  M字の底の上げ方については、樋口先生がおっしゃった点に私も全く同意いたします。 このビジョンで出したような形でM字の底が上がる可能性は2つしかありません。第1 は、30〜34歳層女性のほとんどが未婚者となるといった、異常なまでの晩婚化・未婚化 が進むケース。第2は、30〜34歳層の有配偶女性の労働力率が70%程度まで上昇するケ ース。つまり、再生産なしで労働力の底を上げるか、それとも子育て期の女性の就業を 促進するか、どちらかを選ばないといけないということになります。30〜34歳の有配偶 女性の就業を促進してM字の底を上げるとなると、場合によっては今よりもっと少なく 産んで、早く復帰する形になるかもしれず、夫婦の完結出生児数がさらに減る可能性さ えあります。  生涯未婚率に関しては、なかなか理想の人に出会わないというようなお話が出る際に、 とかく女性のほうが注目されますが、実際には結婚における希望と現実のギャップとい うのは男性において激しいのです。人口試算のイメージの4ページをごらんいただいて もおわかりになりますように、男性の方が女性よりも生涯未婚率は高く、その半面、結 婚経験者の割合は女性よりも男性の方が低いのです。結婚したいと思っているけれども できない男性についてその原因を分析することも重要なのではないでしょうか。  また、女性がとかく男性に高所得を求める背景には、子どもを産むと一たん仕事を辞 めなければいけないという現実があり、子育て中の経済的な保証が得られるような男性 でないと選び得ないということがあるのだと思います。  (小塩委員)  私からも幾つか申し上げます。まず一つ目は、潜在出生率という概念そのものについ てですが、これは非常に新しい概念で、ほかの国でも余り例がない非常に重要な概念だ と思いますので、ある程度、がっちりとした裏づけなり、バックグラウンドにしておか ないと誤解を招く可能性があります。  その点については先ほどから、いろいろな御意見があったと思うのですが、ただ、先 ほどの事務局からの少子化や人口減少をめぐる御説明を聞いていると、社会的に見て出 生率が少し低過ぎるというマクロ的な議論と、個人あるいはカップルから見てなかなか 子供が産めないというミクロ的な個人的な議論が、非常にごっちゃになっている。  ごっちゃになっているのは当然のことなのですが、もしこの会議から潜在出生率とい う概念を外に出す場合は、どちらかというとマクロではなくてミクロ的な発想で出すと いうことを、やはりはっきりしておく必要があると思うのです。ただ、その場合も、マ クロ的な議論を全然無視してよいかというと、そんなことは決してないと思うのです。  どうしたらよいかということですが、先ほど樋口先生が指摘されたのですが、労働市 場への影響を考える必要があるとおっしゃいました。私もそれは非常に重要だと思うの ですが、もう一方で社会保障への影響も何らかの形で示しておく必要があると思うので す。これから具体的にどういう数字を潜在出生率として出すかというのは議論があるか と思いますが、例えば1.75というような数字が出たとします。そうしたら私の感じです が、私も今までいろいろ言ってきましたが、公的年金の問題とか、高齢者医療と介護の 問題もかなりの程度、軽減できるはずなのです。  そういうイメージを、仮にミクロ的な満足が達成されたときにどうなるかというイメ ージを外に出すというのは、よいアイディアではないかと思います。皆が満足したら、 世の中全体がどれだけハッピーになるかということを見るというようなことですね。そ れが1番目です。  2番目のポイントも、先ほど樋口先生がおっしゃったと思うのですが、潜在出生率を 出すとしても、それをどういうふうな政策パッケージで実現するかというのは、ある程 度イメージを持たせる必要があると思うのです。実はきょうまさしく、午前中に別の会 議で出生率をどうやって引き上げたらよいかという話を諸外国、特にアジアの国の例を アジアの方々と勉強してきたのですが、国立社会保障・人口問題研究所の研究員の方が、 日本で行われている今までの実証研究をサーベイされて、個表を使った実証研究による と、出生率を0.1引き上げるだけでも、相当の例えば育児支援が必要になるということで す。月に何万、場合によっては10万を超えてしまうというようなことです。0.1上げるだ けでもそれだけのお金がかかるというサーベイをされていました。  ところがその一方で、ある別の研究者は、個表ではなくて都道府県別のデータを使っ て、出生率と夫婦の所得などの経済的要因の関係を調べてみると、ある程度の、北欧並 みの児童手当を日本でも提供したら、出生率が1.5から2くらいまで上がってしまうとい うようなシミュレーション結果も得られるわけです。やり方によっていろいろな数字が 出てくると思いますが、そこまでがっちりした結果を出せとは私は言いませんが、ある 程度のイメージが必要ではないかと思います。  そういうことを考えると、例えば先ほど潜在出生率の要因分解の式がありましたが、 完結出生児数を引き上げるような政策は、ひょっとすると人々の結婚を促進するような ところに働いてしまうかもしれない。そういうことがあります。例えば、児童手当を拡 充したら、カップルが「結婚しようか」と思うかもしれない。そういういろいろなシナ リオというか可能性を提示する必要があるのではないかと思います。それが2つ目のポ イントです。  3番目は少し意地悪な質問になるかもしれませんが、先ほど夫婦完結出生児数が今の 数字で1.72。それを2くらいに上げることが選択肢として考えられないかということで すが、どういうふうに上げるかというイメージがわからないのです。そこで、資料2の 7ページに初婚年齢別に見た夫婦の完結出生児数があります。これは先ほどの御説明の ように、若くして結婚すれば子供はふえると。年を取ってから結婚すれば、子供が産ま れなくなると。その関係は非常に安定的だとおっしゃいましたが、1.72という今の平均 の完結出生児数を2に上げるときに、例えばこの曲線を0.28だけ上方シフトするという イメージなのか。それは、物理的にあり得ないと思うのです。  何らかの形で、このカーブをゆがめることになるかもしれないし、あるいは、実際問 題として30歳少し前に結婚する女性がこれからもふえるということであれば、その辺の カーブを少し上に引き上げるような政策が必要になると思うのです。そういう議論をし なければいけないし、あるいはむしろ早めに結婚していただくと。20〜30歳ではなくて、 大学を出たらすぐに結婚できるようにしましょうというふうに、初婚年齢を前倒しする ということも考えられます。  そういうことを考えると、先ほど潜在出生率の要因を3つに分けましたが、その2つ 目が非常に、1.72から2以上にするというのはわかりやすいことはわかりやすいのです が、具体的にどうやったらよいのかというのは、少し考えるとよくわからなくなる。そ の辺をもう少し明確にする必要があるかなと思いました。  (貝塚部会長)  大分、議論が錯綜してきていますが、潜在出生率とはそもそも政策目標的な意味を持 っているのか。それとも、私の感想として、この数字を使っていろいろ議論すると、一 体どういう性格を持っているのか。ここに書いてあることは、希望がすべて実現した場 合と書いてあるのですが、希望がすべて実現した場合を「潜在」と呼ぶのかどうかとい うあたりも、やや微妙。ネーミングが一つの問題で。  潜在出生率というのは非常に重要な概念で、少なくともこれから先に議論するときに ある種の重要な手がかりなのですが、そこのところの概念規定、ないしはそこをはっき りさせておく必要があるという気がします。  (鬼頭委員)  全くそのとおりで、この定義によると、変数は希望の子供数を達成できるかどうかと いうことになってしまうので、小塩委員が今おっしゃったような、結婚年齢を下げると いうことについては手を触れないという考え方でできていると思うのです。  本来、潜在出生率と言うのであれば、恐らく日本女性の年齢別の自然的な妊娠確率が フルに生かされたとしたら、最大限どのくらい産まれるかということになるのではない ですか。ただ、現実的には結婚がどこから始まるかということとか、避妊の効果とか、 いろいろな要件が入ってくる訳ですが。だから潜在出生率というのは、何度も皆さんが おっしゃっているように、少し誤解を受ける感じがするので。  結婚については、特に結婚年齢については何も手をつけなくてよいかどうか、検討し なくてよいかどうか。冒頭でそのことが問題になったくらいですから、これも考えてよ いのではないかと思っているのですが。  (阿藤委員)  結婚の点ですが、実際に結婚年齢は、新人口推計の高位の仮定ほどは行かないのか。 要するに、現状でストップなのかどうかということを確認したいのです。もう一つは、 完結出生児数、先ほど御指摘のあった1.72という数字も、現在1.72でそれを2.0に上げる のは大変だという話でしたが、現実に夫婦の完結出生児数が1.72まではまだ下がってい ないわけです。実際は少し高いし、まだ実績としては2.0とか。夫婦なら、多分2を超え ていると思います。  だから、それは将来こうなるという新人口推計の仮定値であって、そういうふうにな らないということをここで仮定するというだけの話なのでしょう。だから、仮想の世界 の話ということで、その点は余りそういう意味では、プロセスを心配する必要はないの ではないかということがあります。  もう1点だけ。仮に早婚化をしないという仮定であっても、今はコーホートごとに出 産の先送り、結婚もそうですが、先送りが順番に進んでいるという中で、最終的に例え ば1.8まで上がるということになると、生涯未婚率は非常に低く見積もると。そうすると、 かなり急カーブで結婚したり出産していくということで、ある種の早婚化効果のような ものは出てくるのです。  そうすると、仮にコーホート的には1.8を守るというか、それで行くということになる と、恐らくすごいベビーブームが起こって、一たんぐっと上がって、また1.8に戻るとい う、そういうスウェーデンで起こったようなことが起こる可能性があるのではないかと。 これは試算してみなければわかりませんが、そういうプロセスをたどる可能性もあるか なと、少し印象として持ちました。  (佐藤委員)  潜在出生率に関してですが、確かに「希望がかなったら」ということを推計の基礎に 置くのは一つの考え方だと思います。しかし、もう一つ大事なのは、いろいろ議論され ているように政策との関係で、こういうことをやればある程度の可能性があるというも のを幾つか、それを潜在的な出生率というのが目標かもしれませんが、それはあり得る かなと思いますが、希望のかなったものが潜在出生率と言うのは、少し誤解を招くかな というのが一つです。  もう一つ、2番目は、希望がかなったらということの「希望」も変わっていくわけで す。だからそのことを組み込む必要があるので、それをどう考えるかということ。  最後に、そういう潜在出生率が実現したときに、できあがる社会の像が大事だと思い ます。実現できた社会像というのは今とは相当に距離があるわけです。先ほどの5ペー ジでも、今は有配偶者の労働力率は非常に低いのですが、これが相当に上がる。  私は人事管理が専門ですが、企業の人材活用で言うと、今までは結婚・出産で辞めて いくわけで、その人たちが働き続けるわけです。そうすると、常に一定比率で育児休業 を取る人がいるというような職場になるわけです。そのときの人材活用はどうなるのか というイメージなどをある程度出しておく必要があるだろうと思います。  また政策的にも、社会保障への影響というのは出ていますが、そういう社会ができた ことによるコストも発生するわけです。例えば、産前・産後休業を取っている人がふえ てくると、育児休業を取れば、育児休業の給付金もふえるわけです。ですから、社会保 障でプラスになる部分と、一方ではコストもかかるわけですから、マクロのできあがっ た像と、ミクロの例えば企業での人材活用がどんな像になるのかを見せていくというこ とがないと、これを出したときに、どういう社会ができるのか、あるいはどういう手立 てをもってそこを目指すのかというイメージがわかないのかなというような気がしまし た。  (鬼頭委員)  今のことと関連で、労働力率がどうなるか最終的な姿を見せることになると思います が、もう一つ、新推計とのかかわりもあるかもしれませんが、どのくらいの時間をかけ て実現するかということも重要ではないでしょうか。先ほどの小塩委員のどれだけつぎ 込めば効果がこのくらいあるということにも影響してくるので、そういうターゲットの 期間を考えなくてよいかどうかということについてはどうなのでしょうか。  (貝塚部会長)  事務局、今までに幾つか御質問があって、結構難しい問題だと思いますが、とりあえ ずコメントをお願いします。  (城政策企画官)  諸々に関連するのかもしれませんが、一つには、これは今までにやったことのない試 算なので、まずこういう形で希望ということで置いてみて、それが全部かなうというこ とを前提に置いてよいかどうか。前回もお話ししましたが、そういうこともあるもので すから、幾つかの場合分けということで「3分の1かなったら」「2分の1かなったら」 「3分の2かなったら」という形を置いてみて、そのときの姿を示すということと、も う一つは、どこに障壁が大きいのか小さいのかといったことがまずわかるということが、 まず第一歩かなと私どもは最初に思ったということがあります。  ですので、さらにそれがわかれば、その後にどういった政策によってそれを実現する かという議論。そこまでパッケージで全部できればよいということがありますが、その 資料というか、まず議論の題材にできるだろうということもあります。そういったこと もあって、こういう形をまず考えていたところです。  ですので、いつ達成するかということについても、全部達成されるのはいつかという ふうに置くのがどうかというのはなかなか難しいのですが、とりあえず、どこで置くか ということについては、参照コーホートの今15歳の人たちがコーホートとして一生過ぎ たときに、そういった形になっているというところをターゲットに置いてやってみると。  ただし、それが相当に急激な変化になるかもしれないので、それで3分の1の場合と か、2分の1の場合とかいう形が、やってみないとわからないところもあるのですが、 そういったところを置いてみるというのはどうかなというふうに考えているというのが、 今の正直な状況です。それ以上は、なかなかまだということがあります。  (薄井政策統括官)  補足になりますが、先日の議論でも、こういうふうなもので出したものが目標かどう か、押しつけのようなものになってはいけないということが、この場でもあったと思い ます。ですから、私もあの場で申し上げましたが、いろいろな希望があって、かなった 場合にこうだということをお示しすると。それも100%ということではなくて、城が今申 し上げたように3分の2、2分の1、3分の1ということを示しながら、やはり壁がど こにあるかということを少し分析する。  この場でどこまで分析できるかということがありますが、問題意識をある程度整理し ていって、さらなる議論につなげていくということができればと思っているというのが、 正直なところです。  それから幾つか、それが実現したときの姿がどうなるかという話がありました。今実 は足元のところを見たときも、例えば夫婦完結出生児数は先ほど阿藤先生がおっしゃっ たように、まだ1.72よりは高い数字だと思いますので、そういう意味からすると、仮に 2が実現したときの経済社会がどうなるのか。昔は2だったわけです。  ですから、そのときをある程度イメージすればよいけれど、やはり時代も変わってき ているからどうなるのかということがあると思います。その辺がどれだけ定量的に分析 できるかということもありますが、労働局とも相談して分析用ツールにどのようなもの があるのかということも含めながら、限られた時間でどこまでできるかということはあ りますが、いろいろな検証、それからそれを受けた、目標ではないのですが、壁を取り 外すための取り組み。それに何が有効なのかというのができるような材料というのは、 我々も研究していきたいと思っています。  (城政策企画官)  先ほどの現状がどうなっているかという数字ですが、昔、1940年代は4.27というよう な数字だったのが、下がってきていますが、13回の調査ということで2005年の段階では まだ2.09。落ちてきていて、その前が2.2くらいの数字だったということもありますが、 2005年には2.09という実態がどこまで下がるかというのは、先ほどおっしゃったように1. 72まで落ちるというのがどこまででとまるかというようなイメージを持っていただけれ ば、その数字についてはよいのかなという状況だと思います。  (貝塚部会長)  この問題はエコノミスト的に考えると、大体、目標というのがあって、現在望ましい 目標があるけれど、それには障害があるわけです。どの種のバリアがあって実現できて いないかという。そうすると、そのバリアを直すためにはこういう対策があるというの が、エコノミストの割とシンプルな考え方なのです。  だから、そういう話も入っていないわけでもないのですが、だけどそれほど潜在出生 率というものが、希望するとか、うまくいけばこういう感じになってほしいとか、そう いうものもかなり織り込んだ数字でもあるのです。だから、このあたりは非常に難しい というか。障害が何であるかということも、私は余り専門ではないから、どの障害が一 番作用しているかということも、それなりにある程度、定量的にできればよいのですが、 定性的にある程度の判断ができれば、そうするとある種の政策のパッケージのようなも のが出てくるのです。できたら、そういうふうになったらよいという感じがあるのです が、それが私のとりあえずの印象です。  (阿藤委員)  前回もお話ししましたが、今の部会長のお言葉ですが、希望するのは政府ではないの です。経済でもない。やはり希望するのは個々の男女であり、カップルだということは きちんとしておかないと、非常に反発を招くと思うのです。つまり、政府が目標を出し ていると。それに対して努力せよという感じに、どうしてもとらえるわけです。  ですから、先ほどおっしゃったマクロとミクロ。やはりミクロの願望をどこまで実現 できるか、その障害をどう取り除くかというところは徹底しておいて、そのインプリケ ーションとしてマクロの話を出すのは結構だと思うのです。小塩先生がおっしゃったよ うにマクロ経済の労働力、あるいは社会保障についてどういうメリット、デメリットが あるか。私はデメリットは余りないと思いますが、そういう点について触れるのはよい と思うのですが、そこの仕切りはある程度、はっきりしておいた方がよいのではないか というのが私の意見です。  (貝塚部会長)  今おっしゃったのは、どちらかというと基礎のところはミクロの部分にあって、個々 の家庭で願望ないし望ましいものがあって、それは実際には実現しないケースも結構あ って、そこにバリアがいろいろあると。そこを克服すれば、ある程度までは行きますよ と。その段階で多分、話は標準的な仮定をとったとして、それを経済全体に拡張したと きにマクロではこういう話になりそうですねといったところ。  私は、阿藤先生が言われるような、皆さんもある程度そう思われていると思うのです が、ミクロを基礎にして、だけれどもそれを全体としてながめたときに、結果としてこ ういう感じになるのではないかという話に持っていった方が穏当という気がするのです が。  (樋口委員)  皆さんがおっしゃっていることは、多分同じではないかと思うのです。潜在出生率と いう言葉がよいかどうかということもあります。我々経済をやっている人間は、潜在と 言うと潜在成長率を思い出して、供給サイドがフルに稼動したと。そこで需要が不足し ていて、需要不足を補えばこれだけの成長がありますよという話ですよね。ある意味で、 そういった面もこの考え方にもあって、個々人の希望というものがフルに達成されたと。 それを障害が何かあって、現実は違っている。その障害をどれだけ取り除けばよいかと いうような話ですから、多分考え方は同じで、経済学の考え方を応用しても同じことが 言えるのかなと思います。  少し気になったのは、前回の議論をまとめていただいたときに、女性の話が中心に書 いてあって、男性の働き方の問題はワークライフバランスのところに少し出ている。意 図したのかどうかわかりませんが、男女という言葉は出てきませんが、実は男性の働き 方が問われている。  後ろに行くと、夫の育児参加という言葉が出てくるのですが、これは私もあるところ で使って怒られて、「参加とはどういうことなのか」と。「なぜ担わないのか」と言わ れて、何となくそういうところも心配りしていただいた方がよろしいのではないかと思 いますし、特に男性の働き方のところは対策のところでも重要だし、多分ワークライフ バランスという言葉の中に含まれているのだろうと思いますが、やはりそれはヨウヒョ ウ的に書いた方がよろしいのではないかと思います。  (貝塚部会長)  つけ加えて言えば、男性側の意識というものも結構重要なのです。それが本当に昔と 変わったのか、変わっていないのかということがあって、要するに日本の伝統的な家族 の考え方は確かになくなっているわけで、潜在的には相当に残って、一部の男性は依然 としてそれを持っている可能性はあって、我々の世代が持っているのは不思議ではない けれど、若い世代の人でもそれなりに影響を受けていることは間違いない。  その辺のところも非常に、意識の問題というのはすごく難しくて、しかしそれもやは り非常に重要な要素であることも確かであるという気もします。  (榊原委員)  おくれて来て申しわけありません。大事な議論を聞き逃してしまったので、皆さんの 流れと外れてしまうことになるかもしれないのですが、お許しください。  潜在的出生率をどう考えるかという議論があると理解したのですが、この言葉は確か に誤解されたり、一人歩きしたりということは問題があると思うのですが、ただ、子産 み・子育て世代の方たちの希望と現実社会のあり方に乖離があるということを、一種の 数値で出すというのは、これまでになかったあり方で、一つの刺激にはなるかもしれな い。  ただ、この言葉をもし使うのでも、枕詞として、「産みにくい・育てにくいと言われ る社会の問題があり、かなえられていない希望がある。その数値というものをできる限 りの範囲で拾ってみると、こういう数字である」というふうに、説明と限定をきちんと つけた上で使うのだったらよいのかもしれないと。それが、今のこの社会に非常に乖離 の大きくなってきているのだと言って、背中を押すために使われるのだったらよいのか なというふうに聞いていました。  ただ、この潜在的出生率を出すための精緻な計算式をどうやったらつくれるかという ところにエネルギーを注ぐのは目的ではないはずで、先ほどできあがる社会の像が大事 だという指摘があったというふうにお聞きしたのは、そのとおりだと思います。私たち が目指すべき社会の姿というものはどういうものなのかと。それをクリアにして、そこ にたどり着くためにはどんな工程が必要なのかというところを、とにかく早くきちんと 議論を詰め、動きだすと。そこに向けての一つのステップとしてだったら、この話もよ いのかなというふうに思います。  既に実は、こういう数字を出さないまでも、希望と現実の乖離というものはさまざま なところで各種行われている世論調査、政府が行われているいろいろな調査の中でも明 らかになっていて、例えば労働時間のあり方にしても、家族時間の持ち方にしても、女 性の働き方にしても、地域の子育て支援についての希望にしても、さまざまなところで 大きな乖離があるということはわかっているのに、手をつけずに来ていて、出生率も結 果として落ちているというところを総合的に反省し、総合的にプランをつくるための一 つのインパクトにするというふうな、議論の展開のさせ方で使うということはよいし、 やっていただきたいと思います。  では、潜在的出生率が開花するというか、満たされるような社会は一体どんな社会な のか、どんな絵柄になるのかというところが大事になるわけですが、結局それは、社会 がもっと持続可能になったり、個々の人たちが持っている希望と、社会全体が持続可能 でありたいと思っているところが、どうマッチングできるかというところになるのだと 思うのですが、そのときに、何のためにあるべき社会というものを描き、そこにたどり 着くための改革の努力をしなければいけないのかというときの視点の持ち方というのも、 実は大事なのではないかと思っています。  今行われている少子化についての議論とか、人口減をめぐってのいろいろな議論、シ ンポジウムなどを聞いていても耳につくのが、「年金がもたなくなるから」とか「社会 保障制度が困るから」「企業が労働力人口を確保できないから」といったような視点で の議論が非常に多いように思うのです。  それは確かに、今生きている私たちにとってすごく重要な課題ではあるのですが、こ れから継続的に人口減が始まって、かつ加速していく中では、30年後、50年後に生まれ、 生き、この社会を担ってくれる人たちの利益としてどうなのかという視点が、非常に落 ちているという気がするのです。  今、いろいろな予測が出されている中でも、2030年にはこうなります、2050年にはど うなりますと出ているのですが、2050年に生きている人が例えばこのテーブルについて いる中で何人いるのかと考えても、私たちはやはり将来世代のためにどんな社会を残す べきか、そのために今の社会のどこを手直ししてバトンタッチしなければいけないのか という、将来世代に対して果たすべき責任は何なのか、どういう社会を残すべきかとい う視点から議論しておかないと、30年後、50年後の人たちからはきっと、「自分たちの 年金を心配してそこだけの手直しをした」と指摘されて、終わってしまうことになって はつまらないという気がしています。  (貝塚部会長)  私は財政学者で片寄っている面もあるのかもしれませんが、ただ、平たく言えば、日 本社会というのは相当に長い期間をとってみると、私どもが若い時期は生活水準は低か ったけれど、皆、結構頑張っているというか。別の言い方をすると、生きがいが結構あ りそうだと思い込んでいた時期がかなりあって、そして生活水準があるとき達成されて、 次は何をしようかと考えたときに、どうやら目標が必ずしもはっきりなくなってしまっ たことが、恐らく1980年代くらいかな。それから不況もありましたし。  ですから、日本の今後の社会的な変動がかなりあって、どういう社会像、家族という のはかなり重要な問題であってよいのですが、今とどういうふうになっているかという あたりのところも、ある程度のイメージが持てれば本当はよいのです。それに即応して、 潜在的な出生率というものもあるような気がするのですが、私は余り苦手な分野ですが、 そのイメージと言ったときに、やや今までの社会とどこがどういうふうに違いそうかと いうあたりのところも、ざっくばらんに議論して、それを加味して先ほどの議論と結び つける必要があるのではないか。これはまた、私の個人的な意見ですが。  (阿藤委員)  榊原委員のお話につけ加えること、去年だったか、内閣府で5カ国の比較調査をやっ て、私も主査でかかわったものですから、日本、韓国、スウェーデン、アメリカ、フラ ンスという5カ国の調査で、20〜50歳の男女1000人ずつ。そういう調査をやって、「あ なたの国は子供を育てやすい国だと思いますか」という質問をしたら、スウェーデンは 「非常にそう思う」「ある程度そう思う」を足すと98%くらいがそう答えたのです。ア メリカは8割、フランスは7割、日本5割、韓国2割か3割という状況です。  これは、現実に結婚、子育て、あるいはパートナーシップ形成にかかわっている人た ちが、実感として5割しか満足していないというか、5割は不満に思っていると。しか も、いわゆる出生率の高い国、あるいは女性労働が進んでいる国と比べてそれだけの差 があるということ。マクロデータではなくて、そういう意識調査からもやはり出てくる わけです。そこのところは何とかしなければならないというのが、個人的な意見でもあ りますし、そのために何ができるかということを、やはり真剣に考えていかなければい けないと、そのときにつくづくと思った次第なのです。  (貝塚部会長)  とりあえず、きょうはいろいろな資料を出していただいて、今後つけ加えるべき論点 もある程度、今まで出てきたと思いますが、何かほかに。かなりざっくばらんなところ でよろしいのですが。  (鬼頭委員)  ざっくばらんにということなので、今までのご意見を引き継げば、どういう家族像が 考えられるかということはここでの議論ではないけれど、社会全体で考えていかなけれ ばいけないことなので、いろいろ可能性を提案していくということは必要ではないかと 思うのです。  伝統的な直系家族制が崩れて、核家族化した。最終的には高齢者の単身世帯がたくさ んふえてきて、20%を超えたという状況ですよね。  そうすると、核家族というのはとてもつらいものなのかということなのですが、今は 日本で核家族化が本格的に始まってまだ50年たっていないところですから、世代の交代 のことを考えても、まだ十分に定着していないと思うのです。しかも同時に、寿命が大 幅に延びて老後期間が延びましたから、昔の家族に戻せばよいかというと決してそんな ことはないし、核家族化でも、高齢者のシングルの時代が長くなったり、子育てが難し いという問題を抱えております。そうすると、何か新しい家族の形を考えていく必要が あるのではないか。「こうですよ」と言うことはできないので、ここしばらくの間は一 種の実験の段階なのではないか。その中から何か日本的なものができてくるのだと思う のですが、その辺をいろいろ考えていただけるように、提案していくことが必要なので はないかと思っています。  (貝塚部会長)  ほかに今までなかった論点や、こういう点はつけ加えたらどうかとか、そういう御議 論があれば御自由に議論していただければと思います。  (小塩委員)  少し余談のような話なのですが、今の鬼頭先生のお話に触発されて簡単に申し上げる と、新しい家族の形がこれから出てくるかもしれないということについてですが、日本 や韓国、あるいはほかの東南アジアの国と同じように、今までイタリアやスペインなど の南欧の国の出生率は非常に低かったのですが、最近回復しているのです。特に昔に比 べて子育て支援をしているわけでは、決してないのです。何が原因なのかよくわからな いのですが、要するに婚外子がふえているということなのです。  今まではそういう国でも、婚外子に対して非常に否定的な社会的な見方があったので すが、だんだんと崩れてきて、最近、急速にその比率が高まっています。それが恐らく、 合計特殊出生率の回復の底入れにつながっているのではないかという気がします。  それから、北欧やフランスでも婚外子が多い。非常に乱れた男女間の関係ではなくて、 正規の結婚前に同棲して、そこで第1子が生まれて、結婚してから第2子が生まれると いう、未婚から結婚への非常に流動的と言ってもよいかもしれないのですが、昔とは違 う非常になだらかな移行過程が出てきています。  私は、この可能性は日本でもあるのではないかという気がしてならないのです。その 兆しが、「できちゃった婚」の高まりではないかというふうに思います。まだ「できち ゃった婚」というのは、社会的な規範の強さを逆に物語っているところがあるかもしれ ませんが、ひょっとすると、若い世代の間で前と違ったような、未婚から既婚への移行 過程が出てくるかもしれません。  そうなると、今我々は当然の前提としているような既婚と未婚の関係というのは、少 し崩れてしまうかもしれないのですが、それは余談として申し上げたいと思って申し上 げました。  (阿藤委員)  経済学者の小塩先生から非常に正確な知識をいただいたのですが、私も大体そういう ふうに思っていますが、ここで潜在出生率の仮定のイメージの中で、「既婚者には事実 婚を含む」というときに、今おっしゃったようなそういう同棲まで含めて考えるのかど うかということに、多分なってくると思うのです。  今のお話にあったように、イタリア、スペインの場合はEUという中で影響が出てく るのです。ですから、孤立しているわけではない。今までの自分の文化に、北欧や中欧 の影響が来て、そういう同棲や婚外子を認めるようなパターンに変わっていくわけです。 しかし、アジアの場合にはそういうふうには進まない。例えば婚外子はふえてはいるの ですが、非常に微々たる低水準の感じです。  しかし現実には、そういう同棲・婚外子が多い国ほど、出生率も高いという現実があ ることはあるわけです。ですから、それがこれからどう変わっていくかという中で、「結 婚を希望」というときに、そういうものまで含めて考えるかどうかということが、一つ のポイントになってくるかもしれないと思います。  (樋口委員)  ついでに私も、この間、この問題についてのイタリアのコンファレンスがあって、イ タリア、スペインから提案されたのは、確かに意識も変わったりしている。ただ、ある 意味では、社会実験をやっているようなものだと。文化的な背景というのは、それほど 大きく10年で変わったわけではなくて、やはりEUの統合による家族政策とか、そうい ったところをEUの基準から指令が出てきて、それに準拠したように国内でも対応して いかなくてはいけないと。  こういうことをやることは、日本よりも、かつて2000年くらいでは日本よりも出生率 が低かったわけです。イタリアなどは1.1という。それが完全に逆転して、1.3を超えて 日本よりもずっと高くなってきているというようなことを考えると、ある意味では社会 実験だというふうに、政策担当者が威張ってというか。それを分析するということもや っているので、その辺を考えていくと、すごくおもしろい分析はできるのだろうと思い ました。  (榊原委員)  今の結婚の話ですが、今のイタリアのお話で、EUの家族制度が適用されているとい うのは非常におもしろいと思ったのですが、日本でも多分EUの家族制度を適用しなさ いというふうに影響を受けたら、実は似たような変化が起こるのではないかと思うよう な節があります。  それはなぜかというと、制度をつくる世代と制度を使う世代のギャップというか、例 えば政策決定をしている日本の自民党の国家議員は、ついこの間まで平均年齢が60歳で したよね。小泉改革で若干若返りましたが、その中で発言力を持っている人たちは70代 くらいの人たちで、90何%が男性。男性で高齢の人たちが決めている制度に対して、結 婚にこれから参入していこうという20代くらいの人たちの持っている意識、希望とは、 すごい乖離が今起きているというところを、例えばEUの制度が適用されてくると、さ っと流れるトレンドというものがあるのではないかと思って、興味深く伺いました。  もう一つ、結婚についてですが、離婚をどう考えるかという問題も実はあると思うの です。日本は離婚率は先進諸国と並ぶくらい高くなっていますが、よく聞くのは、再婚 した後に子供が生まれることが非常に多いと。フランスの出生率が高いのは、婚外子も 多いけれど再婚が多くて、愛し合ったカップルで「私たちの子供が欲しい」というイン センティブが非常に再婚によって働いて、再婚になると生まれる。  日本では結婚がずっと続いていても、カップルが愛し合わなくなったら、結婚という 関係はずっと続いているけれど、子供はつくりたくないという関係になっていって、む しろそれよりは、愛し合う同士の再婚というカップルの組みかえをして子供をつくった 方が、出生率は上がるのではないかという指摘を、ある専門家の方から聞いたことがあ ります。  それは別に何かのデータに基づいた話ではないのですが、再婚によって子供がよく生 まれているというのは、この間、インドネシアのアチェに行ったときに、大災害の後で たくさんの人が死んだので、今はすごく再婚が起こっていて、すごい出産ラッシュにな っているのです。そういう話をしていたら、阪神大震災の後でも結婚ラッシュ、再婚ラ ッシュが起きて、それで出生率がぐっと上がったということがあったという話を聞いて、 再婚というものをどう考えるのか。カップルの組みかえというものをどう考えるのかと いうのも、本当は出生の動向にも影響があるのだろうなと。  それを今の議論に組み込む必要があるかどうかというのはまた別の話なのですが、今 の結婚制度や、社会の中での規範としての結婚意識というものを前提に、これからの潜 在出生率を議論していくと、多分ずれをつくってしまうから、そこも少し注意すべき点 かなと思います。  (鬼頭委員)  日本も、かつては離婚率が非常に高かったですよね。明治期、1890年代くらいまでは 今くらいの水準、あるいはそれ以上に高かった時代がある。江戸時代は、初婚者の15% くらいが離婚します。非常に離婚率が高い社会だった。だけど、再婚も非常に頻繁に行 われていて、再婚がなければ家系が維持できないとか、村の人口も維持できないという ことでした。今の日本で再婚しても子供が余り生まれないとすれば、離死別年齢の問題 もありますが、かつての日本人の行動パターンとは変わっているのではないかと思いま す。  ただ、阪神大震災の後に出生率が上がったという話があるとすれば、やはり基本的に は変わっていないのかなと思いますが、そうすると離死別効果係数はどうなってくるの かというのが、次の問題になってくると思うのですが。  (樋口委員)  これは冗談ということで聞いていただきたいのですが、離死別を1に置くのが希望だ とおっしゃいました。確かに、結婚する前は離死別ゼロというのが希望かもしれないけ れど、結婚した後について離死別、特に離別がゼロが希望だとは言えない面があるわけ で、そこはやはり考えていく必要はあるだろうと思います。  (阿藤委員)  これはミックスした数字ですから、1ということにすれば、今おっしゃったような再 婚とかそういうものも、全部入ってくる。  (大石委員)  再婚のことはかなりポジティブにとらえられていますが、やはり日本ほど婚外子差別 が激しい国はなかなかないですし、離別した母子家庭の貧困も大きな問題となっていま すから、つまり結婚が破綻したらどれだけ生活水準が低下するかということを目の当た りにしている段階で、それほど離婚リスクが高まっている中で、それほどポジティブに 考えられないということを見通したことも、晩婚化の一因になっているかもしれません から、そういったところの制度的な枠組みをしっかりさせておかないと、「離婚した女 が悪い」とか、そういった形のスタンスで、先ほどの政治家の年齢の話がありましたが、 そういった考え方を全く変えていかないと、結婚に内在するリスクも含めた上で結婚に 入ろうというふうに、若い人たちが思わないのではないかと思います。  (貝塚部会長)  もう時間が来ました。まだいろいろな御意見があるかと思いますが、きょうのところ は、前回の議論につけ加えてかなり複雑な問題がこの話の背後にあって、そこのところ はそれなりにちゃんと意識して、これからの議論を組み立てていく必要があるという趣 旨のお話が非常に多かったと思いますので、そういう形で、なるべくそれを生かして話 を進めたいと思います。  きょうのところは、きょうの議論をつけ加えて、また論点の整理をお願いして、今度 はまさに人口推計が出てくるので、人口推計を踏まえてまた議論を再開したいと考えて いますが、事務局から何か。  (城政策企画官)  それでは、我々の試算の作業はやっていくということにして、人口推計が出たら速や かに各委員にお届けするような形にさせていただきたいと思います。  (貝塚部会長)  それでは、きょうの会合は終わります。どうもありがとうございました。  (城政策企画官)  次回の日程ですが、また御連絡して調整させていただきますが、1月の中旬くらいに お願いしたいと思います。 (終了) 照会先 厚生労働省政策統括官付社会保障担当参事官室 代)03−5253−1111(内線7714、7692) ダ)03−3595−2159