06/12/08 労働政策審議会労働条件分科会第70回議事録 第70回 労働政策審議会労働条件分科会 日時 平成18年12月8日(金) 13:00〜 場所 厚生労働省7階専用第15会議室 ○分科会長(西村) ただいまから、第70回労働政策審議会労働条件分科会を開催いた します。本日は岩出委員、島田委員、平山委員が欠席されております。また島田委員の 代理として中村さんが出席されております。それでは、本日の議題に入ります。  本日は、労働契約法制及び労働時間法制について、「今後の労働契約法制及び労働時間 法制の在り方について(報告)(案)」が事務局から提出されております。これについて ご議論をいただきたいと思います。まずは事務局から資料の説明をお願いいたします。 ○監督課長 お手元の資料No.1をご説明いたします。これまで労働契約法制、労働時間 法制の在り方についてご議論いただきました。これまでの議論を整理して、分科会の報 告の案を事務局において作成いたしました。   資料No.1の「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)(案)」 です。Iの労働契約法制ですが、労働契約の内容が労使の合意に基づいて自主的に決定 され、労働契約が円滑に継続するための基本的な考え方として、次のとおりルールを明 確化することが必要である。1は労働契約の原則です。(1)労働契約は、労働者及び使用 者の対等の立場における合意に基づいて締結され、又は変更されるべきものであるもの とすること。(2)使用者は、契約内容について、労働者の理解を深めるようにするものと すること。(3)労働者及び使用者は、締結された労働契約の内容についてできる限り書面 により確認するようにするものとすること。(4)労働者及び使用者は、労働契約を遵守す るとともに、信義に従い誠実に権利を行使し、義務を履行しなければならず、その権利 の行使に当たっては、それを濫用するようなことがあってはならないこととすること。 (5)使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができる職場 となるよう、労働契約に伴い必要な配慮をするものとすること。(6)使用者は、労働契約 において雇用の実態に応じ、その労働条件について均衡を考慮したものとなるようにす るものとすることとしてはどうか。ここの部分は活字が斜めになっていて、最後は「ど うか」という文末になっていますが、報告書の案として、まだ定まっていない部分です。 普通の活字の所は、事務局として案を提示しているわけですが、イタリックの部分に限 らず、その他の部分も含めて、全体のご意見は今日頂戴しますので、このようなご理解 でお願いしたいと思います。イタリックの部分がいくつかありますが、その都度ご説明 したいと思います。(6)の部分については、11月28日の素案と同様の表現になっていま す。  2の労働契約の成立及び変更についてです。(1)合意原則で、労働契約は、労働者及 び使用者の合意によって成立し、又は変更されることを明らかにすること。(2)労働契 約と就業規則との関係等ですが、(1)就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める 労働契約は、その部分については無効とし、無効となった部分は、就業規則で定める基 準によることを、労働契約法において規定すること。(2)就業規則が法令又は当該事業場 について適用される労働協約に反する場合には、その反する部分については無効とする ことを、労働契約法において規定すること。(3)合理的な労働条件を定めて労働者に周知 させていた就業規則がある場合には、その就業規則の定める労働条件が、労働契約の内 容となるものとすること。(4)ただし、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働 契約の内容を合意した部分(特約)については、(3)によるのではなく、その合意による こととすること。(3)就業規則の変更による労働条件の変更です。イは、使用者が就業 規則を変更し、その就業規則を労働者に周知させていた場合において、就業規則の変更 が合理的なものであるときは、労働契約の内容は、変更後の就業規則に定めるところに よるものとすること。ロは、上記イの「合理的なもの」であるかどうかの判断要素は、 次に掲げる事項その他の就業規則の変更に係る事情とすること。i労働組合との合意そ の他の労働者との調整の状況(労使の協議の状況)、ii労働条件の変更の必要性、iii就業 規則の変更の内容です。ハは、労働基準法第9章に定める就業規則に関する手続が上記 イロの変更ルールとの関係で重要であることを明らかにすること。ニは、就業規則の変 更によっては変更されない労働条件を合意していた部分又は特約については、イによる のではなく、その合意によることとすること。(2)就業規則を作成していない事業場にお いて、使用者が新たに就業規則を作成し、従前の労働条件に関する基準を変更する場合 についても、(1)と同様とすること。  3の主な労働条件に関するルールですが、(1)出向(在籍型出向)ですが、使用者が 労働者に在籍型出向を命じることができる場合において、出向の必要性、対象労働者の 選定その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、出向命 令は無効とすること。(2)転籍(移籍型出向)は、使用者は、労働者と合意した場合に、 転籍をさせることができることとすること。(3)懲戒ですが、使用者が労働者を懲戒す ることができる場合において、その懲戒が、使用者の行為の性質及び態様その他の事情 に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合 は、その権利を濫用したものとして、無効とすることとなっております。  4の労働契約の終了等です。3頁の(1)解雇ですが、労働基準法第18条の2(解雇 権の濫用)を労働契約法に移行することとすること。(2)整理解雇(経営上の理由によ る解雇)です。経営上の理由による解雇(以下、「整理解雇」という)は、使用者が使用 する労働者の数を削減する必要性、整理解雇を回避するために必要な措置の実施状況、 整理解雇の対象とする労働者の選定方法の合理性、整理解雇に至るまでの手続その他の 事情を総合的に考慮して客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認めら れない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とすることとしてはどうか。  (3)は、解雇に関する労働関係紛争の解決方法で、労働審判制度の調停、個別労働 関係紛争制度のあっせん等の紛争解決手段の状況も踏まえつつ、解雇の金銭的解決の仕 組みに関し、さらに労使が納得できる解決方法を設けることとしてはどうか。(2)と(3) の部分もイタリックになっておりますが、これについては11月21日に示した資料と同 様の中身になっています。  5は期間の定めのある労働契約です。(1)使用者は、期間の定めのある労働契約の契約 期間中はやむを得ない理由がない限り解約できないこととすること。(2)使用者は、その 労働契約の締結の目的に照らして、不必要に短期の有期労働契約を反復更新することの ないよう配慮しなければならないこととすること。(3)「有期労働契約の締結、更新及び 雇止めに関する基準」第2条(労働基準法の関係の告示)の雇止め予告の対象範囲を拡 大(現行の1年以上継続した場合のほか、一定回数(3回)以上更新された場合も追加) することとすること。  6の労働基準法の関係ですが、(1)労働契約の即時解除に関する規定を労働契約法に移 行することとすること。(2)就業規則の相対的必要記載事項(当該事業場において制度が ある場合には明記することが求められる事項)として、出向を追加することとすること。 (3)労働基準法第36条等の「過半数代表者」の選出要件について、民主的な手続にするこ とを明確にすることとすること。  7の国の役割です。(1)労働契約法に関する国の役割は、同法の解釈を明らかにしつつ 周知を行うこととし、同法について労働基準監督官による監督指導を行うものではない こと。(2)個別労働関係紛争解決制度を活用して紛争の未然防止及び早期解決を図ること とすること。  4頁です。IIの労働時間法制です。仕事と生活のバランスを実現するための「働き方 の見直し」の観点から、長時間労働を抑制しながら働き方の多様化に対応するため、労 働時間制度について次のとおり整備を行うことが必要である。1は、時間外労働削減の ための法制度の整備です。(1)時間外労働の限度基準。(1)限度基準において、労使自治 により、特別条項付き協定を締結する場合には延長時間をできる限り短くするように努 めることや、特別条項付き協定では割増賃金率も定めなければならないこと及び当該割 増賃金率は法定を超える率とするように努めることとすること。(2)法において、限度基 準で定める事項に、割増賃金に関する事項を追加することとすること。  (2)長時間労働者に対する割増賃金率の引上げ。(1)使用者は、労働者の健康を確保 する観点から、一定時間を超える時間外労働を行った労働者に対して、現行より高い一 定率による割増賃金を支払うこととすることによって、長時間の時間外労働の抑制を図 ることとすること。「一定時間」と「一定率」がイタリックになっていますが、これは具 体的な数字の議論がまだなされていないということで、時間とか率を示さずに、従来と 同じという意味でイタリックになっています。もちろん普通の活字になっているほかの 部分も含めて、本日はご意見、ご議論をしていただきたいと考えています。  (2)割増率の引上げ分については、労使協定により、金銭の支払いに代えて、有給の休 日を付与することができることとすること。  2の長時間労働削減のための支援策の充実で、長時間労働を削減するため、時間外労 働削減に取り組む中小企業等に対する支援策を講ずることとすること。  3は、特に長い長時間労働削減のための助言指導等の推進ですが、特に長い長時間労 働を削減するためのキャンペーン月間の設定、上記1(1)の時間外労働の限度基準に 係る特に長い時間外労働についての現行法の規定(法第36条第4項)に基づく助言指導 等を総合的に推進することとすること。  4は、年次有給休暇制度の見直しです。法律において上限日数(5日)を設定した上 で、労使協定により当該事業場における上限日数や対象労働者の範囲を定めた場合には、 時間単位での年次有給休暇の取得を可能にすることとすること。  5は、自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設です。一定の要件を満たすホワイ トカラー労働者について、個々の働き方に応じた休日の確保及び健康・福祉確保措置の 実施を確実に担保しつつ、労働時間に関する一律的な規定の適用を除外することを認め ることとすること。(1)制度の要件ですが、(1)対象労働者の要件として、次のいずれに も該当する者であることとすること。i労働時間では成果を適切に評価できない業務に 従事する者であること。ii業務上の重要な権限及び責任を相当程度伴う地位にある者で あること。iii業務遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしな いこととする者であること。iV年収が相当程度高い者であること。「年収の相当程度」と いう部分がイタリックになっており、これもまだ具体的な議論はなかったのでイタリッ クのままですが、他の部分も含めて、本日ご意見をいただければと考えています。(2)制 度の導入に際しての要件として、労使委員会を設置し、下記(2)に掲げる事項を決議 し、行政官庁に届け出ることとすること。  (2)は、労使委員会の決議事項ですが、(1)労使委員会は、次の事項について決議し なければならないこととすること。i対象労働者の範囲、ii賃金の決定、計算及び支払 方法、iii週休2日相当以上の休日の確保及びあらかじめ休日を特定すること、iV労働時 間の状況の把握及びそれに応じた健康・福祉確保措置の実施、V苦情処理措置の実施、 Vi対象労働者の同意を得ること及び不同意に対する不利益取扱いをしないこと、Viiその 他で、決議の有効期間とか、記録の保存等です。(2)は健康・福祉確保措置として、「週当 たり40時間を超える在社時間等がおおむね月80時間程度を超えた対象労働者から申出 があった場合には、医師による面接指導を行うこと」を必ず決議し、実施することとす ること。  (3)は制度の履行確保ですが、(1)対象労働者に対して、4週4日以上かつ1年間を 通じて週休2日分の日数(104日)以上の休日を確実に確保できるような法的措置を講 ずることとすること。(2)対象労働者の適正な労働条件の確保を図るため、厚生労働大臣 が指針を定めることとすること。(3)(2)の指針において、使用者は対象労働者と業務内容 や業務の進め方等について話し合うこととすること。(4)行政官庁は、制度の適正な運営 を確保するために必要があると認めるときは、使用者に対して改善命令を出すことがで きることとし、改善命令に従わなかった場合には罰則を付すこととすること。  (4)その他ですが、対象労働者には、年次有給休暇に関する規定(労働基準法第39 条)は適用することとすること。  6は、企画業務型裁量労働制の見直しです。(1)中小企業については、労使委員会が決 議した場合には、現行において制度の対象業務とされている「事業の運営に関する事項 についての企画、立案、調査及び分析の業務」に主として従事する労働者について、当 該業務以外も含めた全体についてみなし時間を定めることにより、企画業務型裁量労働 制を適用することができることとすること。(2)事業場における記録保存により実効的な 監督指導の実施が確保されていることを前提として、労働時間の状況及び健康・福祉確 保措置の実施状況に係る定期報告を廃止することとすること。(3)苦情処理措置について、 健康確保や業務量等についての苦情があった場合には、労使委員会で制度全体の必要な 見直しを検討することとすること。  7は、管理監督者の明確化です。(1)スタッフ職の範囲の明確化ですが、管理監督者 となり得るスタッフ職の範囲について、ラインの管理監督者と企業内で同格以上に位置 付けられている者であって、経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当するも のであることという考え方をより明確化することとすること。  (2)賃金台帳への明示ですが、管理監督者である旨を賃金台帳に明示することとす ること。  8は、事業場外みなし制度の見直しです。事業場外みなし制度について、制度の運用 実態を踏まえ、必要な場合には適切な措置を講ずることとすること。以上です。 ○分科会長 いま読み上げていただきました資料No.1の「今後の労働契約法制及び労働 時間法制の在り方について(報告)(案)」ですが、ご自由に議論をお願いします。 ○田島委員 まずこのペーパーの書き方の問題ですが、斜体部分のみ対立していて、あ とはまとまったような形で、いま監督課長が発言しましたが、斜体になっていない部分 もまとまっていない部分がたくさんあると思います。そういう意味では、この斜体の書 き方は、極めて意図的ではないかというのが1つの感想です。  もう一点は、労働契約の原則のところに、私自身も審議会の場で何度も発言してきま したが、労働契約といった場合に、使用者なり労働者をどのように定義づけるのか。最 近、雇用なり労働の多様化ということで、労働契約ではなく、業務請負とか、経済的な 形での従属性を強める個人事業主的な形が増えていると思います。そういう人たちも労 働契約法の中にきちんと含めるべきだと思います。  なぜかというと、1頁の1の(6)の均衡あるいは均等の問題で、まだ斜めになっていま すが、では誰と誰を均等にしようとしているのかというときに、単に雇用ではなくて、 経済的な従属性を持った個人事業主の問題もしっかりと入れないと、労働契約をこれか らやっていこうというときに、本当に尻抜けになってしまう問題があるだろうと思いま す。その点について、労働者の定義づけをしっかりとやるべきだと思いますので、その 点だけ発言させていただきます。 ○石塚委員 私は時間があって、今日は早く出なければいけませんので、私が気になっ ているところだけを申し上げておきたいと思います。契約法における労働契約と就業規 則との関係等の部分です。私はこの分科会でも何遍も発言をしてきましたが、理屈の問 題だけからいきますと、就業規則の法的な性格をどのように考えるべきか、時間をかけ て議論すべきです。民法における約款の考え方も参考になりますね。  就業規則の法的性格を、そのように押さえたとしても、約款の変更に反対する者に対 しての法的な拘束力をどのように導き出すのかという問題は、理屈の問題としては今で も残っているし、たぶん最後まで残る問題だろうと勝手に思っています。したがって、 この就業規則を使って労働条件の不利益変更を行うということは、そのままの格好でこ の契約法に持ち込むことに対して、私は基本的に疑念を持つという立場を依然として脱 しておりません。たぶん労働側は全部そうだと思っています。  ただし、私が何度も言っているように、理屈の問題はそうなのだが、最高裁での判例 の法理は理屈を超えてしまい、いわば実務として定着しているという厳然たる事実があ ります。したがって私どもとしても、就業規則の変更という問題で、最高裁の判例は実 際上の、いわば実務的なツールとしては、この間是認されてきているし、しかも就業規 則が職場における1つのルールを形成するものとして機能している面があることも認め ます。  そういう意味では、割り切れない部分がありますが、就業規則というものをベースと して労働条件の変更、あるいは労働協約との関係を論じることに関して、全面的に否定 するものではないという立場をとっています。  そうであれば、我々としては理屈の問題は置いておくにしても、とりわけこの間の最 高裁の判例法理を大事にすべきだろうと思っています。最高裁判例は昭和43年の秋北バ ス事件以降、幾多の判例がありますが、秋北バス、大曲農協、第四という基本的な判例 の流れがあると私どもとしては思っています。ですから、とりわけ秋北バス以降、第四 に至るまでの主要な判例に対して、その趣旨を曲げることは、基本的に我々としては反 対であると思っています。仮に労働契約法に持ち込むにしても、判例の言っている意味 合いを忠実に再現すべきで、曲げることはおかしいだろうと思う立場でおります。  とりわけ原点たる判例というのは秋北バスにあるわけで、我々としては極めてこれを 重視しています。具体的要素として、かなり影響してきたのは第四だと思っています。  そういう意味において秋北バス事件における判例の基本的物事の考え方に立ち返った 場合に、これは労働条件の変更は、まずできないというのが原則になるわけです。原則 と「ただし」という例外で判例が始まったわけですから、秋北バスで最初の原則という ものを、まず我々は大事にすべきだろうと思っています。  その上で、ではどうなるかということで、いろいろなものがあります。例えば、私は この前も言ったことですが、あたかも就業規則が労働契約の内容にすり替わるがごとき の、いわゆる「労働契約の内容となる」という表現に関しては、おそらく秋北バス事件 以降の判例の中においても一言も出てこない表現ですので、就業規則が労働契約の内容 に置き換わってしまうがごとき表現はとるべきではないし、これは明らかに判例の基本 的な考え方から逸脱している考え方だろうと思っています。  もう1つ気になる点は、確かにいろいろな要素をここに挙げています。(3)のほうの (1)のロですが、i、ii、iiiと挙げてあります。労働組合というのが特記されているわけ ですが、労働組合側のほうから見れば、一見して歓迎すべきことかもわかりませんが、 判例の法理という理屈に立ち返った場合に、第四銀行事件においては判断要素の一つと しては入ってはいますが、特段にこれが目立った形で出てきているわけではない。そう いう意味で、書きぶりがこの点についても、この間における最高裁判例法理の流れから 逸脱しているのだろうと思います。  そういう意味において何度も強調しますが、依然として理屈の問題としてはおかしい。 就業規則というものを約款と理解しても、それを不利益変更すれば、それに反対する人 間に対して、何故をもって法的拘束力を導き出すかについては、依然として我々は疑問 である。  ただし、この段階に至って労働契約法を作るべきだという立場に立ったときに、厳然 として、この就業規則が現に機能しているし、しかも最高裁の判例法理として実務的な ツールとして、これが機能したことも認めるわけですので、認めたという前提の上であ れば、忠実に秋北バス事件以降、第四銀行事件に至るまでの、最高裁判例法理の精神及 び中身について、きっちりと、最高裁判例法理に対して何も足さず、何も引かずという ことで作るべきだろうというのが我々の立場です。繰り返しになりますが、以上、私が いちばん気になる点だけを申し上げておきます。 ○長谷川委員 2頁の3の「主な労働条件に関するルール」の転籍です。この転籍は労 働者と合意したとなっていますが、「その都度合意」なのではないかと思います。ですか ら、ここは転籍についての判例とは若干異なっているのではないかと思います。  労働契約の終了で、3頁の(2)の整理解雇ですが、この書きぶりだと整理解雇「4 要素」の書き方ではないか。私どもとしては整理解雇については、整理解雇の「4要件」 で書くべきだと思っています。  (3)の解雇に関する問題です。依然としてここに金銭解雇の仕組みに関して、さら に労使が納得できる解決方法を設けることにしてはどうかということですが、これも私 は何度か言ったように、労働者が解雇されて、解雇は不当である地位確認の訴訟を起こ して勝利したとしても、金銭で解決ができるというようなものを作れば、金さえ払えば どんどん労働者のクビを切ることができるとなるわけで、大きな問題だと思いますので 削除すべきだと考えています。  次に、期間の定めのある労働契約ですが、今日、正規と非正規、典型労働と非典型労 働ということが格差の問題で非常にいろいろな所から指摘されております。非正規、非 典型の問題というのは、期間の定めのある雇用がそもそも問題を生じさせる大きな原因 になっています。これが非常に雇用の不安材料にもなっているわけですし、所得の上で も非常に大きな格差を生み出しているわけです。したがって(1)、(2)、(3)というのは、今 までよりは少し前進した書き方ですが、いま世の中で言われている非正規、非典型のこ とを考えるならば、労側が以前から主張していたように、「入口」で期間の定めのある雇 用である理由をきっちり明記する。「出口」では更新回数を繰り返したり、1年という長 い期間を超えたら、期間の定めのない雇用とみなすという法律の規定が必要ではないか。 さらに均等処遇がなければ、ここの期間のある定めの労働者の労働保護にはつながらな いと思っています。昨今、非正規とか、非典型労働者の労働保護を行うべきだというこ とが指摘されており、ここについてもさらなる検討が必要ではないかと思います。  6の労働基準法関係です。ここに36条等の「過半数代表者」の選出要件について、民 主的な手続にすることを明確にするとあります。このことそのものは確かに良さそうに 思えるのですが、そもそも労働基準法にある過半数組合があるときは過半数組合、過半 数組合がない場合は過半数代表者なるものの民主的な選び方、手続についてもっときっ ちり透明性などを担保することが必要なので、ここでこのような書き方で逃げるのでは なく、きちんとした「労働者代表制」の在り方について、別途きっちりとした検討を行 うべきだと考えます。  1頁で田島委員から、均等考慮、均衡考慮のことが指摘されましたが、私は(6)には雇 用・就労形態の多様化が進んでいる中では、均衡考慮よりも、均等待遇について明確に しながら、雇用・就労形態の多様化なるものに対応することが重要なのではないかと思 います。契約関係については以上です。あと労働時間があります。 ○田島委員 契約法についてです。1つは、2頁の3の「主な労働条件に関するルール」 で、前回のペーパーでは、出向は(2)のはずでしたが、(1)の安全配慮義務が、この 項目から消えて、1頁の原則の1の(5)に移っていると見受けられるのです。具体的に主 な労働条件に関するルールで、安全配慮義務というのは、極めて重要問題だろうし、働 く上で、いま過労死、過労自殺、労働災害などさまざまな形でありますし、今日も参加 するために、菅野和夫さんの『労働法』の第7版を読んできたら、やはり安全配慮義務 そのものは学説的にも全体が一致しているのだと。使用者がそのことを負うのだという ことが書かれていました。そういう具体的な事項を総論に入れることは必要ですが、各 論の主な労働条件に関するルールでしっかり入れておくことが必要だろうと思います。  (3)の就業規則の変更に関する労働条件の変更のi、ii、iiiで、労働組合との合意 とありますが、私たちが労働運動を始めたときに、会社と労働組合の合意は、すべて労 働協約で、就業規則ではないと学んできたのです。なぜ就業規則が変更のルールの中心 に入ってくるのかというのは、いまだに解せない内容です。これはやはり労働組合法と もかかわってくる問題だろうと思いますし、就業規則の手続についても重要ということ で、労基法で求められている意見聴取なり届出なり周知が書きぶりとしてしっかりなっ ていないという思いがしています。労働組合との合意というのは労働協約ではないので すか、教えてほしいのです。いわゆる覚書であろうと何であろうと合意は労働協約でし ょう。 ○監督課長 労働協約との関係ですが、Iで、労働協約の法理、労働組合法との関係で 労働協約の関係を侵害するとか、否定するとか、そこに何かを持ち込むなどということ は一切ないわけで、当然労働協約は労働組合法の規定に則って労使で合意して記名捺印 してできるというのは、いささかも変わるところはありません。  (3)のロのiで書いたのは就業規則が変更する場合、労使の協議の状況などは、も ちろん判例でも見ているわけですので、よく話し合いをしていただくという考え方をこ こに明らかにするのが適当ではないのかということで提案した次第です。これで田島委 員ご指摘の労働協約の効力などにいささかの変更もあるものではないということです。 ○小山委員 労働時間について私のほうから申し上げたいと思います。最初に時間外労 働削減のための法制度の整備ということで。 ○分科会長 ちょっと待ってください。労働契約について分けていたします。 ○渡邊佳英委員 これも何度も発言しているということですが、労働契約の原則の1に ついての(1)の「労働者及び使用者の対等の立場における合意」とあり、そもそも契約の 合意をすることと、立場が対等であるかどうかは関係なく、これらは全く別の問題だと 思います。労働基準法の概念を引きずりすぎていると思っています。契約に当たって対 等でないと思えば、契約を結ばなければよいわけで、対等の立場という考えは不要では ないかと思います。  (3)ですが、労使の契約は書面ではなく、口頭でも成立するものですし、これだけイン ターネット等々、電子媒体が発展しているのに、なぜ書面だけにこだわるのか大変理解 に苦しみます。何が何でも書面で確認するということは、中小企業等々にとって実務的 に負担が大きく、大変無理であるということで、この項目に関しては削除すべきではな いかと考えております。  2の労働契約の成立及び変更についての(3)の就業規則の変更による労働条件の変 更の(1)のハは、そもそも就業規則の変更は、労使がその契約内容に合意していれば成立 するものであって、労使合意で契約が成立、変更するのが労働契約法制の基本であるな ら、就業規則の変更の考え方に、労働基準法上の考え方を持ち込むことは馴染まないの ではないかと思います。この項目についても削除すべきではないかと思っています。  以前の審議のやり取りで就業規則の届出を失念した場合は、就業規則の変更は無効に ならないと理解しておりますが、本日の資料では就業規則に関する手続は変更ルールと の関係で重要とあるのは、何を言おうとしているのかよく分かりません。  5の期間の定めにある労働契約ですが、(1)について、やむを得ない理由とは誰が判断 するのか理解に苦しみます。そもそも紛争になった場合、やむを得ない理由かどうかは 司法で判断するしかないはずで、労使の契約に「やむを得ない」という抽象的な表現を 持ち込むことは、かえって解釈をめぐって紛争を助長しかねないので、この項目につい ても削除すべきと考えております。  (2)です。「不必要に短期の有期労働契約を反復更新することのないように配慮」とあり ますが、労使契約なのに誰が不必要と判断するのか分かりません。そもそも不必要とい う表現は、非常に情緒的、抽象的で、解釈をめぐってトラブルになるのは火を見るより 明らかで、この項目に対しても削除すべきと考えています。  (3)の雇止め予告の対象範囲、現行1年以上継続した場合ですが、拡大する必要はない と考えています。今回の案では、3回以上更新された場合も対象となっておりますが、 3回に本当に合理的な理由があるのか、現行の1年以上継続の場合だけで十分であると 考えています。  7の国の役割の(1)です。以前の分科会で、国の解釈を明らかにする必要のある法律な らば一切不要であると主張し、前回の資料からは、この項目は削除されておりましたが、 今回の資料でまた復活しており、大変残念です。そもそも法律の解釈は司法の範疇で厚 生労働省が解釈を明らかにするのは労働契約の在り方、趣旨にも全く馴染まないと思い ます。したがって、この項目も削除すべきと考えています。 ○紀陸委員 いまの発言に対して補足と強調したい点があります。1つは、契約の原則 ですが、私どもとしては安全に配慮云々というのがありますが、現行法上の安衛法で非 常に詳細な使用者の義務を定めておりますので、そこにおいて十分ではないかと思って います。安全対策を法に取り上げて、前回の使用者側から申し上げましたが、使用者側 として、どういう日常的な措置をとればいいのか。その範囲は非常に不明確になるとい うことは、このようなことでも依然として消えていないと思っています。  (6)の均衡云々ですが、これもパート法で、あるいは指針で非常に細かい方向性が出さ れております。何だかよくわからない均衡考慮などという言葉を使っても、一体どうい うことなのか、本当によくわからない。どういう範囲で、誰とどこを比べているのかが 全然定まらないような文言を、こういう所に入れても、果たして意味があるのか。かえ ってこういうことを根拠に逆にトラブルが起きかねないという懸念を持ちます。  解雇の金銭解決です。これはまだ問題が非常にたくさんあると思いますが、被解雇者 のためにも、また争いの相手になった事業主のためにも問題の早期決着は依然必要だと 思います。労働審判制度ができましたが、問題の重要性は審判程度では解決できないも のが訴訟に上がってくると思いますので、こういう仕組みは引き続き検討する必要があ ろうかと思います。  その上の整理解雇ですが、先ほど労働側からご発言がありましたが、最高裁の判例自 体が固まっているものではないかと思います。そういう意味でこれから世の中がいろい ろ変わってくる中で、こういう要素だけ条文に書いておいていいものかどうか。判例云々 と言われたら、それが固まった上での話であって、そこまで至っていなければ削除すべ きだと思っています。以上、主な点を重ねて申し上げました。 ○八野委員 私のほうからは1点です。労働契約の原則の(6)ですが、いま経営側、労働 側からもさまざまな発言がありましたが、労働契約法の労働者の範囲はどのようになっ てくるのか。今までの労働基準法とか、そういうものよりも労働者の範囲を広く見なけ ればならないという意見が審議会の中でも出ていたと思います。ここに均衡と出ている のは、前にいただいた資料の均衡考慮については、短時間労働者ということで、通常労 働者と比べて均衡だということで、こういう表現を使っていたという概念があるかと思 います。  ここで出てくるのは、今の日本の実態として雇用形態が多様化している、就業形態が 多様化しているという人たちに対しての労働契約という概念をどのように持っていくの かというときに、基本は同一価値労働、同一賃金の原則を取り入れるべきであろうと思 っています。  その中で見たときに、その労働条件について均衡を考慮したものということについて は、非常に不足した表現であり、本来は同一価値労働、同一賃金の原則に則るのか、も しくは均等待遇、均等処遇を明確にすべきであろうと考えております。この考え方がな いと、あとで出てくる有期契約のところに付いた文言、文章についても、これの根底に ある考え方が引き続いて出てこないと思います。ですから、労働者の範囲を明確にする ということは、基本的には均等の原則が入るべきだろうと思います。 ○田島委員 紀陸委員の発言に関連してですが、1の(5)の原則の中の安全配慮の事項で、 安全衛生法にあるからいいではないかという発言もありましたが、かつて紀陸委員が、 労働契約法というのは、労働基準法や労働組合法に匹敵する労働関係法なのだと語られ ていましたし、そういう意味では安全衛生法にたとえあったとしても、労働契約という 概念の中に安全配慮は決して欠いてはいけない事項だと思います。  もう一点は、ほかの法律にあるからいいではないかと言ったら、権利濫用法理などは 民法にあるわけで、労働法で要らないのかといったら、そうではないでしょうというこ とで論議しているわけですし、ほかの法律にあるからここにはなくてもいいとはならな いと思います。  1の(5)の安全配慮そのものは、もちろん原則にも書く必要がありますが、2頁の主な 労働条件に関するルールの(1)で、素案のときのように復活すべきだと主張しておき たいと思います。  期間の定めのある労働契約に関わって、先ほど長谷川委員が「入口」の規制が重要だ という発言をしました。今の格差の問題は雇用形態が違い、賃金や労働条件が違って当 たり前という風潮の中で、いかに均衡にやるかという問題があります。  もう一点重要なのは、更新の問題で解雇ルールをしっかりと作れば作っただけ解雇規 制逃れを許さないために理由のある有期雇用あるいは更新をルール化することが解雇ル ールとセットで考えなければいけない問題だと思いますし、そういう意味では3頁の5 の(2)の反復更新で配慮が出ていますが、反復更新だけではなくて、採用時に労働契約締 結の目的なり理由が、なぜ有期なのかをしっかり明記することが必要だろうと思ってい ます。 ○新田委員 私もずっと強調してきましたが、合意ということが明記されて労働契約な のだというのは、まさにそのとおりだと思っています。そういう意味でいえば、今日も 議論が出ていましたが、働き始めるときに、どれだけしっかり契約内容を分かっている かは大変大事なことだろうと思います。  ここにありますように、労働者の理解を深めるというのは、本当にそのとおりだと思 いますが、その上で、なおそのことはどういうことかというと、十分な情報というか、 条件の説明を丁寧にするとか、書面できちんと説明しなければいけません。今の個別の 紛争を見ても、入口での条件が本当に曖昧なので、使用者が言っていることと、働く側 が受け止めたことと全然違って、あとになってもめるという話がいっぱいあるわけです から、そういうことのないように条件を提示して、説明し、やり取りをして合意に至る ということを、きちんとここで明記していく。折角労働契約法を作るわけですから、そ ういうことをはっきりさせていくということを、改めて申し上げておきたいと思います。 ○奥谷委員 紀陸委員が言われた1頁の均衡考慮という文言ですが、かなり曖昧な文言 で、こういうものをあえて書く必要性があるのかという感じがします。  3頁の解雇ですが、労働基準法18条の2に、最初に解雇ができるということをきちん と書いていただいて、その上での話ということではないのかという感じがします。これ ですと、今までどおりのイメージしか受けないという感じがします。  5の(3)の期間の定める労働契約も、現行1年の部分で3回以上の更新云々ということ は、あまり必要性はないという感じがしますので、ここも削除していただきたいと思い ます。 ○谷川委員 整理解雇ですが、これもこのような要因で整理はされていますが、これら の要因のほかにも、「その他の事情を」という、「その他の事情」というのは何を想定し ているのかが非常にわかりにくいことと、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上、 相当であると認められないという判断要素は、実際の実行する立場の者にとっては、な かなか判断しにくい表現だと思っています。  先ほど来、紀陸委員も言っておりますが、最高裁の法理もまだ必ずしも安定化されて いないことは、これから社会情勢なり経済情勢やいろいろな情勢の中で、やむを得ない 状況の判断というのは、少し動いていくのではないかという感じもします。権利を濫用 することは好ましくないことはわかっているわけですが、これらの要件で整理をするこ とは、必ずしも的確ではないのではないかと思います。 ○分科会長 ほかに契約法に関わってのご意見等がございませんでしたら、労働時間法 制に移りたいと思います。 ○小山委員 労働時間についてですが、この間、労働条件分科会でもさまざまな議論を してきたと思います。共通の認識は、今はみんな長時間労働をし過ぎているのではない か。過労死や過労自殺、あるいはいま本当に職場の中で増えているのはメンタルヘルス の問題で本当に深刻です。そういう意味では、長時間労働をどう抑制していくのかとい うのが、労働条件分科会として共通の前提条件としての合意はあっただろうと思います。 その上で、では、どうしていくのかということですから、その観点に立って、ここに出 されている報告がどうかということを申し上げたいと思います。  働き方の問題としては、確かにいろいろな働き方があるだろうと思います。柔軟な働 き方は、これまでも言われてきましたし、そのことを私どもはすべて否定したつもりも ありません。ですから、今まで裁量労働制、フレックスタイム制などの制度を導入して きたわけです。既に柔軟に働ける制度が整っているのではないかということを前提とし て1つ申し上げておきたいと思います。  前提の3つ目ですが、日本社会、あるいは労働現場、日本の労働者、日本の国民性を どう考えるのかです。1点目で申し上げたいのは、働きすぎるというのは、ある意味で は日本人の非常な勤勉性を現したものですし、そこが日本的良さであったはずです。  また個人の能力ではなく、集団としての能力、いわゆるチームプレーで仕事をしてい く能力も日本的な特性として、日本企業の国際競争力の源泉になっていると思います。 そういうことをしっかり前提として押さえながら、労働基準法、労働時間法制の在り方 を全体で議論して1つの方向を出すべきだろうと思います。  そうした前提の上で、具体的な項目について申し上げていきたいと思います。1点目 の時間外労働削減のための法制度の整備の中で、時間外労働の限度基準、そして長時間 労働に対する割増賃金の引上げの問題があります。この限度基準の特別条項を上回った ところについてというか、こういう制度というのは、非常に複雑で分かりにくくするの ではないかと思います。ですから、割増賃金を一本できちんと定めていくべきだろうと いうことです。  そこでどういう割増賃金率が必要なのかですが、私どもは、もっとお金が欲しいとい う観点で申し上げたことは一度もありません。いかに長時間労働を抑制していくのかと いうことが必要で、お金と引き換えにしようという問題ではないのです。「それだけ長時 間労働が必要だとすれば、もう1人雇ってください」というように、日本の企業の皆さ んには考えていただきたい。そこからいけば割増率の設定は現行25%を思い切って50% で設定をしていくという英断が必要ではないかと申し上げておきたいと思います。  次に、いちばん問題の自由度の高い働き方にふさわしい制度についてです。これも何 度も申し上げてきたことですが、「なぜこの制度がいま必要なのかと」いうことです。前 提として申し上げたように、ある意味では柔軟な働き方の制度は既にあるわけですから、 ここで改めて労働時間規制の適用を除外するということは、全くもって不適切なことだ ろうと思います。  時間規制を除外することの問題はどこにあるかというと、1日は24時間しかないとい うことです。体、健康あるいは日常の生活の中で、そうした24時間を単位とした1日の 周期で人間は生きているわけですし、社会もそれで動いているわけです。それに反する ルールは、体、健康をも破壊することになりますし、家庭生活や社会生活自体も破壊す ることになるわけです。ですから、適用除外というのは、現行の管理監督者の問題もあ りますが、新たに作る必要は全くないということを、重ねて言っておきたいと思います。  そもそも仕事量を調整するという自己裁量がなければ、ここに書いてあるような自由 な働き方などはできないわけです。私どもは製造業ですから、納期があって、お客さん がいるという中で仕事をするわけです。仕事がつまっている時にはその受注を勝手に断 ってもいいなどという権限を持っている労働者はいないわけです。ですから、あたかも 自由な働き方という美名の下に、業務量の裁量もない中で、こうしたことを導入すると どういうことになるかというと、本来、今回の議論の中で実現すべき長時間労働の抑制 には全くならずに、むしろ長時間労働を助長することになりますし、いわば過労死や過 労自殺を促進することになりかねないのです。ですから、自由度の高い働き方にふさわ しい制度の創設については、5の項については全文削除することを、改めて求めておき たいと思います。  次に、企画業務型裁量労働制の見直しについてです。中小企業については、企画、立 案、調査・分析に主として従事する労働者で、当該業務以外も含めた全体についてみな し時間、ということがここに書かれています。裁量労働制というのは、本来裁量をもっ て仕事をしていることが前提条件です。その他の仕事もあってとなれば、それは裁量労 働とは言えないわけです。裁量労働制の本来の趣旨からも反することです。  また、中小企業とそうでない企業のダブルスタンダードを作るのは、労働基準法の中 であってはならないことです。この企画業務型裁量労働制のみなおしについても、全面 的に削除することを求めます。 ○奥谷委員 日本が伸びてきたのは組織とかいろいろおっしゃいましたが、現実には労 働の質が変わったというか、特に日本のホワイトカラーの生産性が低いのは言われてい るとおりです。いまは知的労働のほうへどんどんシフトしていく中で、組織というより も個人の能力の生産性をどう上げるか、どこの企業も重要な課題になっています。そう いうところで時間で管理してどうのというのは合わないことになっています。ホワイト カラー・エグゼンプションの問題が出てきているわけです。それで長時間で過労自殺を 促進することを考えていて、企業側が思っているなんていうことは全くナンセンスな発 想です。働く人たちがどんどん減少していく中で、どうやって人材の優秀な人を確保す るかというのは、企業の大きな課題になっていますので、そういった方向にはまず行か ないことが前提です。ホワイトカラー・エグゼンプションのこういった問題を早急に取 り入れるべきであって、マイナス要項ばかり並べて、それは駄目だと言ってしまうと、 本当の意味で日本の競争力といいますか、知的創造労働力をどう作っていくのかという 方向にはなっていかないのではないでしょうか。ずっと工業社会の概念で、時間で物事 を捉えてそこに留まって、これから働く人たちの概念が変わらないことがいちばん大き な問題になると思います。 ○山下委員 労働時間法制ですが、長時間労働の抑制というのはまさに問題としてある と思います。今回の時間法制については、それと同時に働き方の多様性に対応するため ということも同じく、もしくはそれ以上に重要なポイントで、そのあり方の基本のフィ ロソフィーであるべきだと思います。  ですから、「働き方の多様性に対応」と書いてありますが、単に対応するだけではなく、 こういう働き方が将来10年、20年と続きますので、むしろ促進していくぐらいの書き 方にしていただければと思います。  そういう観点から、働き方の多様性、もしくは長時間労働の抑制については、割増賃 金をやれば規制されるという、単純な問題ではないと思います。先ほど日本人は非常に 優秀で勤勉であるという話がありましたが、勤勉であることは素晴らしいことです。本 当にそんなに細かく勤勉に緻密にやらなければいけないのか、それ自体を見直していく という、根本的な働き方に対する考え方自体を、これは使用者側だけではなく、労側の 皆さんと一緒に考え方を変えていく、姿勢を変えていくほうがより重要なのではないか と思います。  私の回りには日本人だけではなく、いろいろな国籍の人と一緒に働く機会があります が、やはり日本人の勤勉さ、優秀さはあると思います。本当にそこまで細かくやらなけ ればいけないのか、と思うことをついついやりがちなのが日本人の特質だと思います。 そういう観点から、働き方に対する姿勢自体を、お互いに教育していくことが本当はい ちばん大切なことだと思います。ですから、金銭だけで解決できる部分は非常に少なく、 小さい部分ではないかと思います。  2番目の長時間労働削減のための支援の充実に関しては、中小企業だけではなく、ど んなサイズの企業で働く者でも、そういう働き方に対する考え方に対して、いろいろ働 きかけていく余地はたくさんあると思います。  5番目の自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設についても、働き方の多様性に 対応する、もしくはそれを促進していくという意味で、時間の概念を取り払って、時間 ではなく違う基準で働き方を評価していくという、いまの方向性に照らし合わせても、 この導入については是非お願いしたいと思います。 ○原川委員 先ほど企画業務型裁量労働制の話が出ましたので、中小企業の立場から1 つ申し述べます。中小企業の場合には、組織は大企業と比べて未分化な部分が多い。未 分化と言うのか、不分化と言うのか。  これが活力の基と言われることもあるように、これが機動性や創造性、あるいは柔軟 性の基になっていると思います。強いて言えば、これが中小企業の特徴であり、良い点 です。  従業員は複数の業務を兼ねている場合が多いです。それから、ワーク・ライフ・バラ ンスの普及を我々もやっておりますが、例えば育児休業で休む人がいた場合には、会社 が困らないように多能工化も進められているようです。そういう実態を考えますと、や はり中小企業の実態に合った制度の形にしていただきたいと思います。これは中小企業 について負けろと言っているわけではありません。現実を踏まえた形で制度が活用でき るようにしていただきたいと思います。  時代の変化の中で、中小企業も大企業も競争にさらされていますので、同じ環境で競 争できることが必要です。したがって、前向きな姿勢で努力する。中小企業に対しては こういう企画業務裁量労働制、それからホワイトカラー・エグゼンプションもそうです が、中小企業にも現実的に使える制度にしていただきたいとお願いします。  もう1つは、割増賃金の問題です。中小企業の場合は、取引構造上、突発的な発注が 常態的に行われています。それから国際的にもコスト競争が激しく、東アジアとの競争 ということで取引先からもコストダウン要請を受けています。そういう中で、中小企業 はギリギリのところで操業しています。先ほどもう1人雇ってもいいではないかという 意見が出ましたが、1円のコストを下げるためにあらゆることをやって、そういった厳 しいギリギリの経営状況の中でやっていますので、そういうわけにもいかない。復活企 業の中には生き残るために一生懸命工夫してやっています。それが結局従業員の雇用の 安定につながるわけです。  割増賃金の引上げについては、仕事は減らないわけですからこれは完璧にコスト増に つながり、中小企業の経営に大きな影響を及ぼす恐れがあります。これについては私ど も中小企業は反対です。 ○渡邊佳英委員 まず割増賃金の引上げについては、これまで何度も申し上げたとおり、 法律で割増率を引き上げることが、長時間労働の削減に役立つとは到底思っておりませ ん。長時間労働を抑制するどころか、かえって長時間労働を助長するようなことにもな り兼ねないと思います。  そもそも長時間労働の問題は、一時的に使用者の責任だけでなく、さまざまな問題が 複雑に絡んでいると考えています。割増賃金を引き上げたからと言って、本質的な問題 の解決にはならないと思います。  本質的な解決にもっとも良い方法は、個別の企業内の労使双方からさまざまな観点か ら分析して、その対策について労使で知恵を出し合うことしかないと考えています。そ のためにも、いままでも企業は労働時間削減のためにあらゆる努力をしておりますが、 そういう面でいままでの努力を評価しつつ、これからも労使で長時間労働の削減に対す る方針、方策を検討することが重要だと考えています。  5番の自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設については、その中で資料には「年 収は相当高いもの」とありますが、年収要件は一切必要ないと考えています。本来は働 き方で区別するもので、制度で該当する働き方を労使で提議すればよい話で、年収で区 別するのは馴染まないと思います。中小企業の課長クラスでも、年収は600万円に届く か、届かないのが現状です。年収要件がそれ以上になってしまうと、中小企業は使うな と言っているようなものです。大企業も中小企業も、一律に規定する労使法の考え方か らも許されないのではないかと思います。  6番の企画業務型裁量労働制の見直しについては、いままでの審議では労働側の委員 や、公益委員から多くの反論がありましたが、現実としては企画業務型裁量労働制が浸 透しておらず、特に中小企業のほとんどが制度ができないのはまぎれもない事実です。 それは制度や仕組みが現状にあっておらず、使い勝手が悪いと考えております。  また、中小企業では裁量業務がないという労働者側のご意見もありますが、それはず れているのではないか。中小企業だからこそ、従業員は時には経営者なみの裁量を持っ て仕事をしないと会社が回らない。最小限の人数で業務を行っているので、庶務的なこ ともしないと回らないのでいろいろとやっています。したがって、企画業務型裁量労働 制の多くの中小企業に制度を浸透させるためには、企画、立案、調査及び分析に関係す る業務に従事する労働者にすべきだと考えています。  現行ではまだ本社・支社の企画部門にしか適用されていないので、現状よりもさらに 踏み込んだ形で使えるような仕組みにすべきであると考えています。そうすれば、もっ と多くの中小企業でも使える制度になるのではないかと思います。  最後に、7番の管理監督者の明確化の中で、管理監督者の範囲については、現行の規 程で十分です。要件等を見直す必要は一切ないのではないかと考えています。現行の労 働基準法のもとでも、法律としては監督者の他に管理者も管理監督者に含めています。 スタッフ職の一部を管理監督者から外すことに関しては断固反対します。 ○中村氏(島田委員代理) この社会のルールというのは、基本的にはシンプルである ことが望ましい。特に労働関係にかかるルールというのは、まさしく中小企業、大企業 を含めてさまざまな実態があります。その中で、やはり雇われている力関係は厳然とし てある。したがって、労働者がたとえ裁量をいかに与えられると言っても、それは中身 的にいかに取れるかということはほとんどできていないのが実態です。そういう意味で は、最低限のルールは一本できちんとして、当然人を使うということですから、そこの ルールは最低限使用者の責任としては明確にする。もちろん使用者の努力で、大いに良 い事をどんどんやっていくことは素晴らしいことだと思います。最低限のルールはきち んと定めておく必要があると思います。  働き方の見直しの観点については、この間の議論で問題になったのは長時間労働が厳 然としてある。景気回復して、企業によっては競争力が苦しい部分は、コスト削減で一 生懸命頑張れる所もあると思いますが、結果として、労働が長時間になっていることは 否定できません。それなら長時間をどう是正するか。なおかつ働き方の多様化が進んで いますが、多様化というのはある意味で非常にもやもやしたものです。やはり働く最低 限のルールをきちんとシンプルに作って、それは誰でも守る。そういうことをきちんと 根底に置かないといけないと思います。  長時間の原因は過労もありますが、やはりシンプルなのは割増率の引き上げです。こ れはそれぞれ経営者の努力で当然やるべきことです。これは共通で当然やるべきルール ですので、1本で法定割増率をきちんと引き上げていく。長時間労働にはもちろん要因 はさまざまあると思います。これが決め手になるという、それを特定することではない と思います。少なくともこの状況の中で、労使を含めて頑張って減らしていくかという ことで、シンプルで共通の部分の目標として、それをルールで作るべきであるというこ とです。 ○八野委員 まず、労働コストに近い表現がたまに出てきますが、労働は商品ではなく、 労働者であり、そこには人がいて、生活があることをお話しておきます。  労働時間で時間外の労働の削減ということは、ここに出ている労働側も割増賃金を引 き上げただけで、これが片付く問題ではないと思います。これには労働時間等設定改善 法や労働安全法などが行われ、またこういうものをやることによって、総合的に、また はそれぞれの企業の中で問題を解決していくことによって労働時間が削減してくると思 います。ですから、この中では割増賃金率の引き上げだけが出てきますが、そういうト ータルな取組みをやっていくべきだということを言っている、ということももう一度こ こで確認させていただきます。  自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設については、先ほど知的労働や個人の価 値、その価値を高めていくことが非常に重要だと言われていました。これについてはも ちろん働く者側もそれを考えているわけです。それにおいては、先ほど労使の中でとい う話がありましたが、労働者と使用者がよく話し合うことによって、実は職務基準が明 確ではないとか、公正な評価がされていない、人材育成がいままでバブル崩壊後きちん と行われていない。または要員の確保がとれていないということに大きな問題があると 考えています。  労働時間に関しては、裁量労働制、フレックス制といったものがいかにうまく使われ ていくのか。現行の制度の中でも、知的生産性を上げることは十分可能です。そういう ものをやるべきことが、いま企業労使で求められています。この適用除外を定める労働 者の範囲を決めて、自由度の高い働き方を入れていくことが求められているのではない と考えています。労働者、使用者の中で、または経営者がもう少し考えるべきこともあ りますし、働く個人も考えるべきものは、労働時間法制の見直しではなく、企業と労使 の話し合いの中でやっていくべきことがあるのではないかと思います。  いま日本の中で問題になっている長時間労働の問題をいかに是正するのか焦点を置い て、労働時間法制の見直しを行うべきであると思います。ですから、自由度の高い働き 方にふさわしい制度の創設は削除すべきであると考えています。 ○田島委員 4頁、5頁の割増賃金のところで、使用者側委員の原川委員や渡邊委員か ら、中小企業の厳しさを語られましたが、本当に中小企業は厳しい現実があると思いま す。来年の春闘へ向けて労働組合も準備していますが、ここ3年ぐらいの厚生労働省の 統計を取っても、中小では2割以上が定昇制度もなく全くゼロという、賃金を上げる余 力もないよという企業がどんどん増えています。一方で、大企業だけは史上最高の収益 を上げています。中小企業の厳しさよりも、コストダウンでその矛先を労働者へ向ける のではなく、やはり取引問題や正当な価格というところに持っていかないと、圧倒的多 数の中小企業労働者は救われないと思います。そういう中で、最低規制の底上げをして いくことがいま求められています。もう1つは割増賃金についてですが、人を雇入れる よりは残業代25%割増しを払ったほうが安上がりという構造が、長時間労働の温床にな っています。時間外は割増賃金を引き上げれば、余計中小企業が疲弊してしまうのでは ないかと渡邊委員は言っていますが、労働者が勝手に残業できるわけではなく、仕事量 があって、会社の業務の指示があって初めて残業が発生するのです。割増賃金が欲しく て残業しているわけではないのです。中小企業の労働者の中で、「やはり残業代が欲しい」 という根底には、月例賃金があまりにも低いので生活費のために残業しているという現 実はあります。しかし、残業しなくても、生活が当たり前にできる構造をつくる。残業 がなくてもいいような形で割賃そのものを、残業代そのものはゼロからで、いわゆる 25%ではなくて、法定給率は35%、あるいは連合は50%を要求していますが、50%出し ても、私はいまの取引問題では正常にいくと思います。これを引き上げることを抵抗す る根拠にはならないと思います。  自由度の高い働き方にふさわしい制度については、5頁の(1)のiV「年収」だけが斜め になっていますが、私は語そのものを斜めにしたり、あるいは削除すべきだと思います。 本当に自由度の高い働き方と言っても、納期、仕事量の問題、クライアントの関係など で、なかなか自分では仕事量を調節できないわけです。自由度の高い働き方というのは、 労働者にとっての自由度ではなく、経営者にとって自由度の高い働き方ではないかと思 います。1日8時間の規制がなくて、あるいはヨーロッパのように休息時間11時間がな くて、もう24時間働かせてオーケーですよと。その代わり年間104日の休日を保証しま しょうと。いまでも年間休日104日を保証するための施策を取ろうと思えば、適用除外 しなくても取れるわけです。そういう意味では、自由度の高い働き方というのは、ホワ イトカラー・エグゼンプション、あるいは日本型エグゼンプションと言われていますが、 労働時間規制というのは、労働者にとって労働時間問題、賃金、安心、安全に働くこと は本当に必要不可欠な事項です。この適用除外については削除すべきだと思います。 ○谷川委員 この自由度の高い働き方については、労働というものを通じて、そこから 生み出す価値がどうであるかということは、いまの競争条件の中で争われていますので、 そういう価値を生み出すためにはやはり現場で働いている人たちがいちばんよくわかっ ているわけです。それは必ずしもこの提議にあるホワイトカラーの労働者だけではなく て、生産現場にいる人たちも併せて知恵を出し合いながら、世界で競争できるような状 況を作っていきましょうということだと思います。  中でも、比較的そういう仕事をしていく上での裁量権のある人たちの処遇のあり方を グルーピングして、労働の価値に対する報酬のあり方を見直してはどうか、というのは 1つの視点ですよね。  長時間労働の問題とか時間軸を中心に、すべての条件を決めていくのは、常に片一方 だけからしかものを見ていないので、なかなかいい改善案は出てこないわけです。ホワ イトカラー・エグゼンプションを入れることによって、違う側から見るほうがお互いに 相互作用があって、労働の質を高め、価値を高めていく方向につながっていくのではな いかと思います。そのためにこれらのことは労使委員会の決議事項にもあるように、セ イフティ要素を噛み合わせながら働く環境の整備であったり、ワークバランスであった りということで、是非こういう制度をこの機会に導入されてはどうかと思います。 ○長谷川委員 労側は今日示されている労働時間の自由度の高い働き方にふさわしい制 度の創設と、中小の企画業務型裁量労働制についてセットで議論しています。いま使側 から意見がありましたが、私は是非、こういう新しい制度を導入する前に、現行の長い 労働時間を使用者が使用者責任の中で、労使自治と言うのであれば労使自治の中で是正 してきてほしいと思います。それから、ずっとこの間延びている労働時間が2,000時間 を切ることと年休の取得率を上げることだと思います。それを何年かで労使が本当に労 使自治で努力して年休の取得率も上がった、労働時間も減ったということで、じゃあど うしようかと言うならば、みんなで議論できると思います。しかし日本の現状はそうい う状況ではないと思います。もし言うのであれば、まず労使自治でこの状況を打破して からにしていただきたいと思います。 ○分科会長 他にご意見はありませんか。ないようでしたら、本日の分科会はここまで といたします。本日のご議論を踏まえて、次回におきましては本日提出された報告案に ついて、事務局で必要な修正を行って、引き続きそれに基づいて議論をやっていきたい と思います。次回の日程について、事務局から説明をお願いします。 ○監督課長 次回の労働条件分科会は、12月21日(木)10時から12時、場所は中央労 働委員会の7階です。よろしくお願いします。 ○分科会長 それでは本日の分科会はこれで終了いたします。本日の議事録の署名は長 谷川委員、谷川委員にお願いします。よろしくお願いします。                  (照会先)                     労働基準局監督課企画係(内線5423)