06/10/10 第30回労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会議事録 1 日時 平成18年10月10日(火)10:00〜12:00 2 場所 厚生労働省13階職業安定局第一会議室 3 出席者    有識者 東京大学大学院法学政治学研究科教授 岩村正彦氏        一橋大学国際・公共政策大学院教授  田近栄治氏    委員  公益代表  :諏訪委員、大沢委員、林委員        雇用主代表 :塩野委員、中島委員、原川委員、輪島委員        労働者代表 :栗田委員、長谷川委員、古川委員、三木委員    事務局 鳥生職業安定局次長、生田総務課長、宮川雇用保険課長、田中雇用保険        課課長補佐、金田雇用保険課課長補佐、戸ヶ崎雇用保険課課長補佐、長        良雇用保険課課長補佐 4 議題 雇用保険制度の見直しについて 5 議事 ○部会長(諏訪) ただいまから第30回の雇用保険部会を開催させていただきます。 議事に移る前に出欠状況でございますが、中馬委員、中窪委員、相川委員、豊島委員が ご欠席です。また、林委員が交通機関の関係で少し遅れてご到着の予定です。  それでは、議事に移ります。本日の議題は「雇用保険制度の見直し」でございます。 財政運営を中心とした雇用保険制度について有識者からヒアリングを行うことになって おります。第23回雇用保険部会で配付いたしました「雇用保険制度のあり方に係る議論 の整理」をまとめられました雇用保険基本問題研究会の参集者でいらっしゃいますお2 人の先生からヒアリングを行いたいと思います。ヒアリングでは先生方からそれぞれ15 分から20分程度お話をお伺いいたしまして、その後20分程度の質疑応答をさせていただ こうと思っています。また、これらヒアリングが終了しました後には委員だけによる意 見交換を行いたいと考えております。最初に、東京大学大学院法学政治学研究科教授で、 労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会委員を務めていらっしゃいます岩村正彦先 生からお話をお伺いいたします。どうぞよろしくお願いいたします。 ○岩村教授 ただいまご紹介にあずかりました岩村でございます。先ほど部会長からご 紹介がありましたように、この「雇用保険制度の在り方に係る議論の整理」ということ で、雇用保険基本問題研究会のメンバーであったということもあって今日話をせよとい うことを仰せ付かりました。簡単に15分ほどお時間を頂戴してお話をさせていただきた いと思います。お手元に、1枚紙の簡単なペーパーで恐縮ですが、今日私からお話させ ていただこうと思う内容を簡単にまとめてございます。それに沿う形で少しお話をさせ ていただこうと思います。  最初に、雇用保険制度あるいは外国一般に失業保険制度と言われるものがどういう特 質があるかということを私なりにまとめてみました。もちろん、この特質はいくつかあ るわけですが、1つ2つ重要なものを挙げております。1つは、皆様ご承知のように、 どうしても失業という問題は景気動向に非常に左右されるものでありまして、景気がい いときには失業率が下がり、他方で、景気が悪くなれば失業率が上がるということにな ります。ですので、仮に失業保険という仕組みをつくったときには、失業率の低い時期 と失業率の高い時期との間で失業のリスクをある程度分散して平準化しておくというこ とがもともと必要な仕組みであるということが言えようかと思います。もしこのリスク を時期によって見ながら分散して平準化するというメカニズムを欠くと何が起こるかと いうと、実は、失業保険というのは、本当にその失業保険に働いてもらわなければいけ ない失業率が高くなった時期にはうまく動かなくなってしまうのです。  これは考えていただくと非常に簡単なのですが、失業率が高くなって受給者が増える と、当然のことながら、それだけ財政支出をしなければいけないことになり、それを賄 うために結局は保険料率を上げなければいけない。保険料率を上げると、それは雇用費 用の増大につながって、かえって、また失業を悪化させるという悪循環に陥ってしまい ます。ですので、とりわけ、失業率が非常に高くなって、特に大量の長期失業者などが いるような状況になると、失業保険はうまく機能しなくなってしまうという問題をもと もと内在して抱えております。  もう1つは、本来は、失業保険は社会保険の1つでありますから、失業という保険事 故、リスクに備えて保険料を出して、失業した人が出たときには所得保障などの目的を 持つ給付を支給するという、もともとはそういう仕組みだと考えられます。ところが、 これは他の社会保険と少し違うのですが、この失業という保険事故が純粋の偶発的な出 来事ではないというところにもう1つの特徴があるように思います。つまり、本来です と、その被保険者なり何なりの個人あるいはその法主体の意図によって保険事故が引き 起こされるようなケースは、社会保険でもほとんどカバーしないはずなのですが、失業 保険に限ってそうではないというところがあります。  したがって、他の社会保険と若干違うのは、この失業というものを発生させる原因者 に費用負担をさせる仕組みであるという見方もできます。ですので、例えば事業主に保 険料を負担させる理由というのは、失業のリスクは事業主にも何らかの形であるでしょ うということから考えるのでしょうが、実際には、事業主側の理由によって失業も発生 しますよね、だから費用負担をしてもらいましょう、という感じになってしまいますし、 労働者側が保険料を負担するということについても、もちろん、労働者は使用者の都合 によっていつクビを切られるかわからないということで言えば、それは偶発的な出来事 ですが、我が国とかいくつかの主要国でもそういう所がありますが、労働者が自分で辞 めてしまった場合にも失業保険の給付を出す場合があります。そうしますと、これは偶 発的な事象とは本来言えないわけですが、給付を出すことになれば、それは労働者側の 理由によって発生する失業であってもカバーするというところから、費用を出してもら いましょうね、という話になるのだと思います。  日本の場合はさらに国が費用負担をしているわけですが、おそらく、これも雇用保険 制度などがつくられたときの理由から見ると、国の経済政策によって失業が発生すると いうこともありますよね、というところから国の財政負担が説明されているところはあ ると思います。現に、最近の例を考えてみても、規制を緩和したり強化することによっ て企業の経営環境が激変することがあって、その結果として失業が生じることはあり得 るわけですし、長い歴史を見れば、国の産業政策の変化によって構造的に失業が生じる こともあったわけですから、そういうことから、やっぱり国も失業にかかわっているよ ね、ということで財政負担をさせるというようなことから、少し本来の保険として言わ れるようなものとは違う論理がこの費用負担のところに入っているのではないかと思い ます。  それから、今日の中心的な問題である財政負担の問題、特に国庫負担ですが、私自身 は、おおむね、以下これからお話するような形で考えております。1つは、大前提とし ては失業保険制度に国が財源を投入するかどうかということです。失業保険だから論理 的に国が財源を投入すべきであるということになっているわけでは必ずしもありません。 これは国によって事情が異なります。その国のそれぞれの制度の沿革であるとかものの 考え方によって左右されるわけです。失業保険だから国の財源投入が必要なのだという ことでは必ずしもありません。したがって、国が国庫負担等でお金を入れるかどうかと いうのは、あくまでもその国ごとの立法政策の問題だということになります。  では、具体的に立法政策を国がどのようにとっているかということを見るときの視点 ですが、これは国と国の比較をどうするかというやや方法論にもわたる問題なのであま り立ち入りませんが、確かに、我々がやった雇用保険基本問題研究会の議論の整理の資 料などにもあるように、主要国の中には失業保険で国の財源投入をしていない国もあり ます。ただ、気をつけなければいけないのは、そういう国の場合も税財源によって失業 保険とは別の枠で失業扶助というものを置いていることが多いのです。その失業扶助で もって、必ずしも生活保護のような日本と同じような制度があるわけではありませんが、 失業保険と公的扶助との間をつなぐ役割を失業扶助によって行っていることがむしろ多 いのではないかと思います。  それから、ほかの国との比較をする場合の視点ですが、たぶん、法律学者はこう考え るのだと思うのですが、失業保険であれ失業扶助であれ、機能としてはいずれも失業者 に対する所得保障という仕組みでありますので、国際比較をする場合には、失業保険は 失業保険、失業扶助は失業扶助という形で比較をするよりは、両者を一体として見て比 較をする、というふうに普通は考えるだろうと思います。  その後、[4]と[5]ですが、これはそれほど詳しくお話することもないのですが、[4]はあ る意味で自明のことであって、仮に来年度から国庫負担を廃止すれば何が起こるかとい うのは考えてみればすぐわかることでありまして、一方で給付水準を維持しようとすれ ば保険料率が上がるという話になりますし、逆に、保険料率を維持することになれば給 付を切り下げるということになるわけで、それぞれに問題を引き起こすことになります。  [5]ですが、国庫負担を仮に廃止しても、失業状態が悪化したときには国庫負担を投入 する仕組みを用意しておけばいいではないかという議論もあります。これはこれで論理 的にはそうかなと思えるわけです。確かに、論理としては通っているのですが、実際に それが制度として動くかということを考えると、私はやや疑問だと思っております。1 つは、そもそも、失業状態が悪化したかどうかという基準をどこに置くかという大問題 がある上に、その失業状態が悪化したということを当局の側で把握するまでの時間差が 当然出てくるでしょう。  さらに、失業状態が悪化しているということを当局が把握したとして、今度は、政策 決定として国庫負担を投入しましょう、ということが必要になるわけですが、当然のこ とながら、そこの間でタイムラグが生じるでしょう。したがって、迅速に国庫負担を投 入するという決定が行われる保障はあまりなく、タイミングがずれる可能性が結構大き い。  もう1つは、私はこれが決定的だと思うのですが、国庫負担を廃止してしまうという ことを1回すると、当然のことながら、もう1回国庫負担を入れてくれと言っても、財 政当局は非常に強く抵抗をするということは当然考えられるわけです。そうしますと、 ますます政策決定が遅れることになろうと思います。そういう意味では、理論としては 非常にきれいですが、あまり現実性がないのではないかと思います。  あとは、保険料率の弾力条項ですが、私個人としては、いちばん最初に申し上げた雇 用のいいときと悪いときの間で失業のリスクを平準化しておく必要性があるということ を考えると、あまり弾力性を高めるのはどうかなとは思っております。景気がよくなっ たときには皆、保険料率を下げたいのでコンセンサスは非常にとりやすいのですが、逆 に、失業率が高くなったときに保険料率を上げるというのもそれはそれで抵抗があるだ ろう。しかし、論理的には、下げるほうに弾力化を高めるのであれば、上げるほうも弾 力化を高めないとバランスがとれないだろうと思います。それから、育児休業給付です が、これは大きな問題ではありますが、私自身は雇用保険で扱うべき問題かどうかとい うことについては前から疑問を持っておりまして、制度としては適切な時期に家庭政策 なり児童政策のほうに移していく。何かそういう制度を考えて一貫した枠組みの中でや るほうが適切だろうと思っています。  最後ですが、雇用三事業についてはいろいろな見直しが言われていますが、その中で、 私としては、特に若年者の雇用対策について雇用三事業の中でもう少し考える必要があ るのではないかと思っています。特に、1回入職した人についてはいいのですが、今の 問題は、学校教育から職業選択に入るところで皆つまずいてしまってなかなかうまくい かないという人たちが若年層に多いわけです。そういう人をターゲットにした雇用政策 がこの雇用三事業の中でもう少しうまく展開できればと考えております。これで大体15 分ほどですが、大変簡単ではございますが、私のほうからは以上とさせていただきたい と思います。 ○部会長 非常に手際よくご説明いただきましてありがとうございました。ただいまの ご説明をめぐってご意見、ご質問はございますか。 ○大沢委員 若者の雇用対策の問題について、現段階として失業ではないけれども能力 が十分に活用されていないアンダーエンプロイメントという問題があるかなと思うので す。要するに、そういう人たちが雇用形態の多様化という形でパートタイマーとかフリ ーターとか、そういう人たちになっているわけですが、そういうことに対して諸外国で はどういった対応をしているのか。雇用保険との関係でいくと、そういう人たちが要件 を満たさない場合には、雇用保険の制度から排除されている場合も出てきているわけで す。そうしますと、雇用保険のもともとの目的は失業もそうですが、そういうリスクを 回避しながら一人ひとりの能力を最大限に活用して経済発展を遂げていくのが一つの役 割だとすると、そこの部分での雇用保険の在り方の見直しということについてはどのよ うにお考えでしょうか。 ○岩村教授 大変難しいご質問なのですが、私が主として見てきたというか、最近は少 しサボっているのですが、フランスなどは若年者については非常に困っているというの が実際であろうと思います。フランスの場合も日本と同じようなシステムをとっている ところがありますので、学校を卒業した人については直ちに失業保険が適用できるわけ ではないのです。一時期、少し特例的に適用していた時期もあったのですが、たぶん、 財政的な問題だと思いますが、それもカットしてしまってなくなってしまっている。最 終的には、そういう人たちについては、1990年に入るころですが、最低所得制度という か、日本で言うと生活保護に近いのですが、非拠出性のものを導入して、そこで最低所 得は何とか面倒を見る。他方で、可能な人については、そこで職業訓練、その他のこと をやって自立した職業生活が営めるようにするという方向をとったりしました。あとは、 職業紹介の活性化というか、フランスも同じようだったのですが、私も見に行きました が、従来は、パタパタと求人票が張ってあるだけで、気に入ったものを取って窓口に行 くということしかやっていなかったのです。それでは特に就職が困難な人に対してはど うしようもないということで、非常にパーソナライズ、個別化された職業カウンセリン グのシステムを入れてやっていくという方向に、いま大きく変わってきているというこ とは言えると思います。  ただ、保険というシステムをとっている限りは保険料拠出要件等がかかってしまうの で、保険のメカニズムをとっている所では、若年者で職業経験のない人についてはうま い解決策があるわけではなくて、結局、扶助なり、最低所得制度の中でリンクさせて考 えるという方向でやっているということになると思います。 ○林委員 先生のお話では失業保険と失業扶助制度を一体化して考えるべきだというこ とだったのですが、ペーパーなどを読みますと、失業扶助のほうには100%出ている国 でも、イギリスのようにたくさん出ている国と、フランスのように一体と考えても13% というふうに、合わせてみると開きがかなりあるように思えるのですが、そこら辺の違 いというのは、例えば受給要件の定め方とか国の歴史的な制度の在り方とか、どういう ところが主なる原因なのでしょうか。 ○岩村教授 そこも、どういう形でどのような論理でどの程度入れているかというのは それぞれの国の制度設計の在り方によって決まってくるので、何か共通の指標があって、 それによって決まってくるというものではないと思うのです。歴史的な経緯もあります が、1つは、失業問題の程度の大きさにも依存するし、もう1つは、そういうときにど ういうスタンスで政策を形成するかという考え方の違いによって財源の投入の仕方が変 わってくるのだろうと思います。イギリスの場合に非常に難しいのは、国民保険の中に 失業保険も入ってしまっていまして、どの程度の部分が失業に充てられているかという ことが必ずしもはっきりしないところがあるので注意をして見る必要があるのかもしれ ません。  フランスの場合は、長期失業問題が出てから失業保険と失業扶助を切り離して、失業 扶助制度を別途組み立てるという形にしていった。従来は、特に長期失業者を中心とし て、ある一定年齢以上になってしまうと求職要件を外してしまったのです。したがって、 事実上それで早期引退をやっていたというような経緯もあって、お金をかなり投入して いたということがあろうかと思います。あとは、こう言ってはいけないのですが、失業 者に対してフレンドリーに考えるのか、もっと尻をたたいて早く就職せよとやるのか、 その考え方の差が影響してくるだろうと思いますし、当然のことながら、そういう失業 の問題にどの程度の金を注ぎ込むかという政治的決定の部分もありますので、そのとき どきの政権のスタンスにもよります。ですから、社会党政権になると、どちらかという とフレンドリーになりますが、保守党になると、今のやり方だとアメリカ流に近い考え 方になったりして、ぶれるということが起きてきます。すみません、あまり的確なお答 えになりませんが。 ○中島委員 先生の資料の2の[5]なのですが、先生ご自身も非常に判定が難しいという お話でしたが、失業状態が悪化したときというのは例えば失業率が5%以上ということ なのだと思いますが、それもさることながら、負担する側から見れば、失業状態が悪化 したときと雇用保険財政が悪化したときというのは若干の時期の違いがあるだけでほと んど近い時期に重なると思うのですが、少なくとも、いま上限で2倍ぐらいの積立金が あるわけですから、1年か2年ぐらいもって財政がおかしくなってくるということなの だと思います。その失業状態が悪化したときには国庫負担を投入する仕組みを用意して おけばいいということのようですが、そうは言いつつも、結局、弾力条項がある限りは、 不足前が若干出たときは今でも借入れできる仕組みになっていますから、その保険状態 のタイムラグが経って悪化したときに保険料率を上げると言われてしまえば借入れをし て、それは後で返してもらうのですよと言われるだけで、国庫は実質的な負担はせずに 保険料だけが上がる。それで、財政としてはプラスマイナスゼロなりになってしまうと いうことだと私は思うのですが、5番目の国庫負担を投入する仕組みというのは具体的 にはどんな仕組みになるのですか。 ○岩村教授 これは私が考えているのではなくて、そういう議論があるというお話でご ざいます。ですから、いまおっしゃったようなメカニズムを組み込んでおいたとしても、 先ほど申し上げたように、失業率が悪化して雇用保険給付がどんどん出ていくという話 になったときに、財政的には積立金のレベルをどこまでとるかということにもよります が、そのバッファがなくなりそうだということになれば保険料を上げなければならない という話になるわけです。そのときに、保険料を上げてしまうことによって生じる景気 へのマイナス面について政策的にどこまで判断するのか。それを上げてしまうとさらに 冷や水を浴びせますよね、ということで、財政出動をする、国庫負担を入れましょう、 という決断を本当にしてくれるかどうか。それはかなり怪しいのではないかと私は思っ ているということです。  論理的には、財政が悪化したときには国庫負担で投入をして、制度を維持して財政均 衡を維持すればいいというのはあると思うのです。では、実際の政治あるいは行政の全 体のプロセスの中でそういうふうに動くかといったら、私はそうは動かないのではない かと思う。まさに、先生がおっしゃったとおりになって、保険料を上げますよと。ただ、 一応、国は金を出すけれども後で返してねとか、そのような話になるのではないかとい うことを申し上げたかったということでございます。 ○部会長 それでは、岩村先生へのヒアリングは以上をもちまして終わりにさせていた だきます。お忙しい中をわざわざいらしてくださいまして、的確なご指摘をありがとう ございました。 (岩村教授退室) ○輪島委員 国庫負担のいまの会計ですが、国庫負担が入っていくというのは失業給付 等に支出した金額等に充当されるのであって、そこが足りなくなったからどうのこうの というのは、いまの指摘とは少し違いがあるのではないかと思うのです。そこだけ事務 局からもう一度ご説明いただきたいと思うのです。 ○生田総務課長 雇用保険の国庫負担につきましては、失業等給付の給付額の基本的に は4分の1を充当するという考え方でございまして、とにかく、出ていった額について 4分の1を恒常的に充てていくという考え方でございます。いまの日本の仕組みはそう いう仕組みでございますので、足りなくなったから一般会計を入れるというやり方には なっていないということでございます。まさに、岩村先生がご指摘になったのもそうい うところにポイントがあって、仮に雇用状況が悪化して雇用保険の給付が出るようなと きというのは、政府の財政としても非常に厳しい時期ですので、一般会計でお金を緊急 的に投入するというのは現実論としてはなかなか難しいのではないかというご指摘でご ざいまして、私どもも、いまの仕組みは恒常的に4分の1を安定的に投入するというや り方ですので、そのほうが安定的な財源確保ができるのではないかという考え方に立っ ております。 ○長谷川委員 それは輪島委員が前からずっとこだわっていたところで、給付に対する 国庫補助であって、積立てに対する国庫補助ではないですからね。だから、ここは労使 は注意して聞いておかないといけない。 ○部会長 次の先生との関係で、この間にご質問なりご意見がありましたらどうぞ。 ○輪島委員 別の観点からですが、国の一般的な雇用対策の中に三事業のシェアという のはどれぐらいあるのかということを知りたいのです。「雇用対策をやります、やりま す」と言われていますが、結局は事業主の財源でほとんどの雇用対策がやられているの ではないか。錯覚なのか誤解なのかよくわからないのですが、大体、一般会計からくる ものはそんなにないような気もするのですが、シェアはザックリどれぐらいなのかとい うことがわかれば教えていただきたいのです。 ○長谷川委員 私もそう思っているのです。国が雇用対策を打つというときの国会など の議論を聞いていると必ずそうなのだけど、私は雇用対策というものについて雇用保険 でやっているものと三事業でやっているものと一般会計でやっているものを全部書いて くれと言っているのです。そうすると、実際は一般財源から投下されているものは少な いはずなのです。雇用対策と言われているものはほとんど三事業でやられているのだと 思うのです。だから、そこは、雇用社会で80何%が雇用労働者で、この社会で雇用対策 が非常に重要だと言われつつ国の財政支出が少ないということについて、もう少しわか るような資料のつくり方が必要なのではないか。重点事項の予算要求のときも、一般会 計でいくらで、三事業からいくらで、雇用保険本体からいくらでというのを全部書いて いただきたいと思うのです。そうするとはっきりするのではないかと思います。 ○部会長 その点はいますぐというわけにもいかないと思いますから、事務局で以降に 資料等を出せるかどうかご検討いただきたいと思います。 ○生田総務課長 資料は精査させていただきます。雇用保険三事業の予算が占めるのは 間違いない事実でございますので、その辺りについて詳細な資料を準備してお配りでき るようにしたいと思います。 ○部会長 それでは、引き続きまして、一橋大学国際・公共政策大学院教授で、財政制 度等審議会委員及び政府税制調査会委員を務めていらっしゃいます田近栄治先生からお 話を伺いたいと存じます。田近先生におかれましては、お忙しい中をわざわざいらして いただきまして大変ありがとうございます。よろしくお願いしたいと思います。なお、 全体で40分ほどの時間を予定しておりますので、15分から20分ぐらいご説明いただきま して、その後で質疑応答をさせていただければと考えております。 ○田近教授 一橋大学の田近でございます。よろしくお願いします。今日は雇用保険部 会にお招きいただきましてありがとうございます。いただいている課題は雇用保険制度 の見直しについてということで、財政運営の在り方を中心にということで依頼を受けて います。それで、何について話そうかと思ったのですが、資料No.2を見ていただきたい のですが、その報告のねらいについてお話をして、私の考えていることをこの機会に紹 介させていただきたいと思います。  自己紹介ですが、ずっと財政学をやっていまして、税制とか社会保障とか地方財政と か、内外の仕事も多少しています。特に関心がある問題は、社会保険というか、保険の 議論に関心がありまして、いまは簡易保険にいちばん関心を持っているのですが、年金、 医療、介護をやっています。実は、この後も地震保険の話を財務省に聞きに行くという ことで仕事をしています。その一環で、これまで不慣れというか、あまり勉強してこな かった雇用保険のことも少しずつ考えています。というのは、生田さんがいらっしゃい ますが、勉強会を1年ぐらいやらせていただいて、耳学問ですが多少勉強させていただ きました。  早速ですが、「報告のねらい」です。今日ご招待いただく前に、雇用保険制度の中間 報告が今年の8月4日に出ているということで、それをざっと見させてもらいました。 その中で、日本の雇用保険制度の現状と見直しというものが書かれています。景気回復 とともに雇用情勢も改善され、今後の課題として求職者給付における国庫負担など、財 政問題も取り上げられている。印象的には、何か、これが少しハイライトされすぎてい るのかなと個人的には思いました。ただ、今日の話のポイントは、我々個人からすれば、 役所の縦割行政ではなくて、社会保障の中での所得面のセーフティネットというのは、 少なくとも、税・年金・雇用というものがあって、それらがばらばらでは困る。それを 統合的にとらえる。かつ、個人の一生涯の焦点から負担と給付の在り方を考えるべきな のではないかということをかねがね思っています。その中で、今日は雇用保険の問題を 取り出してみたい。したがって、問題意識としては税・年金・雇用保険全体で個人の所 得のセーフティネットがどうなっているのか。雇用保険の中で国の在り方、関与はどう あるべきかという観点で話してみたいと思います。  それで、あまり論点がないからというわけでもないのですが、実は、昨年、その研究 会でドイツに行かせてもらいました。その後も、この3年間、毎年ドイツに行っており まして、社会保険という仕組みで社会保障の運営をしようという意味では、我々にとっ てはドイツが参考になると思うのですが、そのドイツとの比較で日本の問題を考えてみ たいと思っています。  与えられた時間は短いですから、制度的なことは簡単で、日本の問題をどう摘出する かということです。もちろん、ドイツがお手本だと言っているわけではなくて、なぜド イツかといえば、社会保険というスタンスで社会保障を考える。それはイギリスとも違 いますから、アメリカとも違いますから、その意味で参考です。この書いたものは昨年 の報告書で、この間3月にドイツに行ったときに専らハルツIV改革ということでそれば かり聞かされたのですが、それも紹介しながらということにしたいと思います。  それで、日独の雇用保険の比較ということで、最初に、失業給付の認定とデータベー スということです。日本の場合はここで言うまでもないのですが、被用者要件は週何十 時間以上働いてどのぐらい雇用見込みがあるのか。受給のほうは、被用者の場合は離職 1年前に1カ月14日以上の労働月がどうか、短期の場合にはどうかというわけで、ある 意味で、慣れていればこうかもしれませんけれども、若干おかしいと。保険ではないか と。保険というのは払った保険料に対する給付であって、何カ月働いたとか働かないと いう要件ではないだろうと思います。  次の頁ですが、ドイツは受給要件として、離職前3年のうち12カ月の保険義務の関係 にあったことが受給要件となっている。日本と同じようにというか、建設業の特別措置 がありますが、マルチジョブホルダーへの給付がある。なぜそういうことが可能になっ ているかといえば、1.の2なのですが、「ドイツ受給資格認定の方法と日本の認定方 法改善への含意」と書いてありますが、ドイツでは被用者はすべての社会保険料、年金、 医療、介護、雇用保険を「疾病金庫」に払い込む。疾病金庫が納入された保険料を各保 険に納入する。このときに、疾病金庫には個人の賃金、保険料などの情報が入り管理さ れる。一方、年金、雇用、介護の各保険者には被保険者の賃金、保険料情報などが提供 される。財政的に言うと、しばらくそこの金庫にお金が留まるのでその部分の利鞘も稼 げるようなところはありますが、いずれにしても、そこで一括的に取っている。そして、 雇用保険において失業者となり失業保険を申請するときには、上に書いたことが受給要 件ですが、受給要件をチェックするときに、いくら保険料を払っていたかと。つまり、 賃金がいくらだったか、保険料をどのぐらいの期間払っていたか、いくら払っていたか ということは、その疾病金庫から当該の雇用保険を担当している部署あるいは組織にデ ータベースとして送られてくる。ですから、この人がマルチジョブであろうとどうであ ろうと、それは支給もできるというわけです。  その次に、3/7に「公平性」ということを書きましたが、今日は公平性はあまり関 心がなくて、給付をどう払うかというときに、これは保険なのだと。ドイツは年金でも 割り切っていますが、保険なのだから払い込んだ保険料に対して一定の割合をもらえば いいではないかというわけです。それ以上に何か付加したいときはほかの仕組みでやっ たらどうですか、という形になっています。  時間がないので私が思うポイントだけを報告させていただきますが、その3/7の3. は、今日の重要な話題の1つである国庫負担はどうなっているかということで話をしま す。ドイツは社会保険に国庫負担が入ることを非常に嫌がっていました。つまり、保険 は自分たちで運営したいわけで、そこに国家の干渉が入ることは建て前として非常に嫌 がっていた。ところが、これは耳学問に近いのですが、雇用保険と年金にお金が入って きた。ちなみに、介護保険は入っていない。1.7%か何かの保険料で、運営できるものが 介護保険なのだと。しかし、さすがに雇用保険と年金には水漏れが起きてきた。  これはこういうことです。年度というのは、2005年に行きましたから2004年度ぐらい ですが、年間500億ユーロ、いまはユーロは上がっていますから6兆円超の雇用保険料は どう使われているかというと、300億ユーロが失業給付費、150億ユーロが能力向上費等 々の付帯事業費です。ちなみに、彼らは三事業と言わなくて、これは雇用促進なのだと いうことでこの中で使っています。50億ユーロが事務費です。これで500億ユーロですよ ね。それでは雇用保険財政に赤字が生じ、保険料総額の10%の額は一般会計から補填さ れる。すみません、この数字はもう少し精査しなければいけませんが、確かなことは、 申し上げたいのは、尻拭いというか、最終的な財政調整というか、その財政赤字が起き たときはその尻拭いとして国庫負担が入っているというわけです。事後的赤字補填とい うわけです。ある意味で、財政の観点から見れば財政のソフト化といいますが、事後的 な赤字が出たら国が救済してしまうという、結果的にはそういう形になっていました。 実は、そのぐらいドイツの雇用情勢が厳しいということは皆様も私よりもご承知だと思 います。  それが、次の頁の4/7の4.の2です。我々にとって信じがたいのですが、ドイツの 雇用保険料は6.5%です。そのほか、公的年金19.5%、医療が13.6%、介護保険が1.7% と。足し合わせると41.3%です。ドイツにおいては、社会保険料をビタ1%でも0.1% でも上げることはできないというのが社会的なコンセンサスになっているわけです。そ の中で、経済学者としては若干面白いし、また、わからないところがあるのですが、雇 用保険料を下げる代わりに付加価値税を上げるという政策提言も出ています。これはキ リスト教民主同盟から出たわけです。  そういうわけで、何を申し上げているかというと、雇用保険というのは失業に対する 保険で、賃金はある、保険料を何カ月どう払ってきた、ということを基にして、個人が 失業という事態が生じたときにしかるべき要件に従って所得の一定割合を一定期間払う、 そういうものだということを言っているわけです。財政的には、尻拭いというか、ドイ ツでは事後的な国の補填が行われている。  追記ですが、これは最近の話ですが、ハルツ改革のハルツというのはフォルクスワー ゲンの重役の名前みたいですが、2005年1月から、ドイツでは失業すると失業手当が出 て、我々で言う失業給付があって、その次には失業扶助があって、それが駄目ならば社 会扶助がある。実は、社会扶助は失業扶助と同時に出たりするということで、いくら何 でも、いつまでもウェルフェアに依存していては困るよということで、ここに書いてあ るのですが、[1]の中ぐらいからで「失業扶助を廃止、[2]就労可能な者には、給付を失業 手当に限定し」と。そして、「就労できない者に対してだけ、社会扶助を支給する」。 これは私は興味深いと思ったのですが、1ユーロジョブですね、つまり、時給が低い人 はある程度その時給をもらってもいいよ、そして働いてくださいよという形で、アメリ カのEarned Income Tax CreditsやイギリスのWorking Family Creditという給与所得税 額控除に近いようなものを入れています。これは、私は上のほうで、ドイツではないと 言ったのですが、ドイツでもそういうことになってきた。ポイントは、ドイツは失業扶 助をやめたということで、国を挙げてものすごい議論をしているわけです。  最後に、社会保険として雇用保険を運営していくという観点に立って、日本でどうい う改革が必要なのだろうということで、いま考えていることをごく簡単にまとめたもの です。もちろん、高齢者の雇用をどうするかとか、いろいろな雇用保険自身の問題があ ります。今日はそれは私の課題ではないし、また、私自身も生田さんに伺った範囲ぐら いの知識しかありませんから、ポイントは保険としてどう運営するかということで2点 お話したいと思います。6/7ですが、「日本の雇用保険改革」ということで、必要な 改革ということで、私は是非これをすべきだと思うのは、被用者の給与情報の捕捉とそ れをデータベース化することです。  データベースは、少なくとも、個人の生涯賃金データベースとして年金行政と共有す べきである。できれば所得税データと一元化すべきである。ここまでいくと歳入庁構想 になりますが、イメージはこうです。ドイツはすでになっているわけですが、ある人が、 私ならば私が、いままでにいくつか仕事を変えていますが、私の賃金と払ってきた保険 料の情報が、年金も含めて、できれば所得税も含めて、それが一元的に管理できている。 私が失業したとき、あるいは離職するときには、そのデータが当該の所で開けばすぐわ かる。それを基に失業認定、給付認定もするべきである。  右側にその現状を書いたわけですが、日本では被用者の個人賃金データは労働局では 把握されていない。被用者賃金は、1つは所得税の源泉徴収、社会保険庁による年金保 険料徴収でも捕捉されている。ちなみに言うと、私が知る限り、国税庁でも賃金の個人 データは捕捉していないかもしれない。この辺はあまりよくわかりませんが、それは企 業の申告から払ってもらっているわけですけれども、今日はそこはポイントではなくて、 被用者賃金というのは所得税の源泉徴収でも把握されているし、社会保険庁の年金徴収 でも把握されている。私が知る限り、このデータは雇用保険行政では断絶しているわけ です。  どうやっているかというと、雇用保険では事業者に「あなたの所の総賃金支払いはい くらですか。それに1.6%を掛けたものをくださいよ」というストーリーになるわけで す。したがって、[1]ですが、失業認定や失業給付額の決定に被用者の賃金データが利用 されていないのです。だから、離職前に、1カ月何日働いたとか云々の話になってくる。 これは考えてみるまでもなく、雇用保険はお金の問題ですから、おかしな不自然な仕組 みになってくる。また、現実的には非正規雇用やマルチジョブホルダーに対応できない。 そして、これはいろいろ議論されているようですが、その給付も本来は定率性にすべき なのだろう。就職斡旋においても、離職前の賃金データが一目瞭然でわかる。それを見 ながら、その人の生涯の働きぶりを見て就職の斡旋もすべきなのだろうと思います。  次に、本題の1つの国庫負担はどう考えるか。私の考えは、国庫負担は廃止して、国 は通常の保険では負えないリスクの分担者となるべきだ。具体的にはこれだと思うので すが、失業給付が増えて保険料より多い、そういう緊急時には国が貸出しをする。その 場合は、おそらく、そういう事態ですから国自身が借金を抱える。そういう形でリスク をシェアすべきである。そのアイディアは、基本的には国はこの保険の再保険者になる べきだということで、これについては後で一言述べます。  そして、右側で「原則」ですが、一般的には保険自身に公費負担を行うべきではない。 どこで国が関与すべきかということでは、保険料を支払えないような個人に対して救済 を行うべきである。制度に対する救済ではなくて、個人に対して救済すべきである。例 えば、保険料を払えない人、子どもを育てている、あるいは外国で言えば兵役に出てい るというときには、国によって代替的に保険料を払うということなのだと私は思ってい ます。そして、国が負うべきリスクというのは、雇用保険であれば、通常の失業を想定 した保険制度では財政破綻を招くような事態におけるリスク、こういうときのリスクを 負担すべきである。  次頁の、これは他人のホームページをコピーをしただけなのですが、そういう考え方 というのは社会保険ではありませんが、あらゆる保険がそうなのですが、我々の身近な 国が関与をしている大きな保険でやられています。地震保険というのは再保険ですが、 ここの上の人が契約をする保険契約者です。実は、我々は何とか海上とか何とか火災に 保険料を払う。それが日本地震再保険株式会社にお金が入ってくる。その次のポイント は、それをさらに国がリスクを背負うのだというわけです。  次の頁ですが、いま申し上げたいのは地震保険の説明ではなくて、地震自体が大きな 災害ですが、カタストロフィックな災害が起きたら国がどう関与するかということです。 そうすると、下だけ見ていただけばいいのですが、この場合には1回の地震で5兆円ま で払います。しかし、それはlayerということで、3層になっています。最初の750億円 までの支払いは民間が全部やってください、次の750億円から1兆3,118億円までは国と 民間が折半ですよ、1兆3,118億円以上の支払いが生じたときには国が95%を負担しま すよ、という仕組みになっているわけです。  支払いが5兆円を超えたらどうするかということが上に書いてあって、5兆円を超え たときには足切りをします、ということが書いてある。もちろん、これが雇用保険にそ のまま当てはまるわけではないと思いますが、国が関与する日本の地震保険でもこうし た形で再保険者として国が機能しているというわけです。もちろん、これはいままでの 日本だったら最初から国庫負担という形でフラットに入れることもできるわけです。で も、マーケットあるいは保険自身が負えるリスクの範囲は保険が負う。それ以上の、こ この場合だったら1兆3,118億円を超えるような被害の場合には、国がリスクを負うと いうことになっているわけです。  したがって、私はそのようにあるべきだと思うし、あとは現状認識ですが、雇用保険 の財政収支自身も好転している。そして、足下を見ると、おそらく、団塊の世代が数年 後にドッと退職していくということで、日本において雇用状況は特にこれからカタスト ロフィックなことが起きることでもなさそうだというわけですから、これは保険の基本 的な原則に従って国庫負担は廃止すべきである。そして、国が負うべきリスクを私が申 し上げたような形で保険に書き込むべきだと思います。以上です。 ○部会長 ありがとうございました。ただいまのご説明をめぐりましてご質問、ご意見 がありましたらお願いします。 ○大沢委員 最初の所で被用者要件を日本とドイツで比べられていて、これは被用者の 側が払う負担としておっしゃったのですが、雇い主側のほうはどうなっているのでしょ うか。 ○田近教授 これはマッチングして払っているはずだと思います。 ○大沢委員 折半して事業者が払っているということでしょうか。 ○田近教授 そうだと思います。ただ、面白かったのは疾病金庫が取っているのです。 彼らに対してはいい話なのです。消費税と同じように、業者がしばらく3カ月持ってい られるとか、そういうのがあってやっているみたいです。すみません。 ○大沢委員 育児休業なりのお話で、例えば保険料が払えない個人に対しては国が補助 する。これを育児休業の負担のような議論に当てはめると、そこの部分は国が払うべき ということになるのですか。 ○田近教授 国が払うのです。 ○長谷川委員 大変貴重なご意見をありがとうございました。先生の今日のお話から想 像すると、雇用保険は失業給付だけでいいと。現在の雇用保険の中に、例えば高齢者の 給付とか継続給付とか教育給付とか、三事業でもいろいろなものがあるのですが、それ は本来は国がやることだから国の一般財源でやればいい。いま起きている失業給付につ いては、労使の折半でそれだけやればいいのではないかと。そういうことでいいのでし ょうか。 ○田近教授 今日はそこまで話す時間がなくて、いただいたのは、あまり余計なことは しゃべるなということで、財政運営の在り方を中心にヒアリングと書いてありますから、 基本的には失業給付を制度としてどうやっていくのかと。あるいは、高齢者とか、いま ふうに言えば若年のNEETの対策をどうするか、それを保険の中でやるかやらないか というのは一つの考え方で、ドイツでその話をしたら怒られましたが、ドイツは保険の 中でやっているのです。これは失業給付ではなくて雇用機会をつくる雇用保険なのだと いうことを言っていましたが、その辺はあると思います。ただ、話としては、失業給付 の部分とそれ以外の部分は分けられるだろうと。それ以外の部分を保険料で取って運営 するというのはその是非はあると思います。 ○長谷川委員 現在、国庫負担は3つぐらいしか入っていないのですが、積立金は給付 の4分の1ですね。そうすると、国庫はほかのものにはビタ一文入っていないわけです。 そうすると、例えば国が雇用政策をやるというのは、いままで失業保険から雇用保険に なってきていろいろな政策がとられてきたし、今日はハルツ報告も紹介されていました が、ハルツ報告は最近のEUは就労へと、意欲と能力がある人はみんな働いてもらいま しょうと。日本も、この間の雇用保険の見直しなどではそういう制度を導入してきたわ けですね。でも、そういうものに対して国庫は一切かかわっていないのですよ。だから、 国が金を投入しているところというのは、失業給付のとのころの4分の1と高齢者のい くつかと、限られているわけです。もし国庫負担をやめるということになると、国の雇 用政策というのは何をするのかなと思いながら私は聞いていたのです。あと、例えば失 業給付だけでやるとすれば、ヨーロッパの国の中で労使だけで自分たちで独自に運営し ている所もあって、必ずしも国が関与しないような制度などもあるわけです。日本の特 徴は、ある意味では国と労使とがお互いに関与しながら制度設計をしているのですが、 そういうのはどのような感じかなと。 ○田近教授 何か、申し訳ないけれども、視野が料簡が狭いというか、私たちだけがこ れだけやっていて国はこっちにいるのだというようなご指摘ですが、でも、ポイントは こうだと思うのです。失業給付に関しては保険なのだというのはいいと思うのですが、 その他、雇用機会をどうつくっていくかと。それは、1つは一般会計で全部やる。もう 1つは、これは雇用関係なのだから、ここの場合は保険料といえば賃金税で、賃金税と して取ったお金を原資としてやるのだと。だから、その意味では雇用保険がある意味で は1つの特別会計的な発想になるわけです。三事業の部分があまりにも脚光を浴びてし まっていますが、雇用保険特会自身の役割、私はそこで国が関与していると思うのです。  つまり、どういう意味で関与しているかというと、雇用保険の仕組みの中で賃金税を 取っていいよと言っているわけですよ。それでもって、一部は本来の保険に使いなさい、 一部は雇用創出という形で使いなさいと。もう1つの考え方は、もしそれが望ましくな いというのであれば、失業保険のところだけ保険でやりますよ、それ以外のところは切 り離しますよ、それを一般会計としてやりますよ、という形でも構わない。ポイントと しては、おっしゃるところのポイントは、雇用開発というところになぜ賃金税を相対で ぶつけるのかというところだと思います。その意味では目的税になっているというわけ です。だから、国は関与していないわけではなくて、そういう形で取られた税を実質的 には目的税化したものとして使っている。ただ、それが三事業のときには、あまりにも いろいろなことで広がっていったりして範囲が不明確だった等の理由だったと思います。 ○長谷川委員 そうすると、先生は、何らかの形で国が一般財源、税から雇用政策に金 を出すことは必要だということですよね。全くなしではなくて、国はもっと積極的に。 ○田近教授 国がやっているというか、ある意味でこれは言葉の綾なのですが、我々は 社会保険料と言っているけれども多くの国では賃金税で、アメリカは賃金税として、I RSというか、日本の国税局みたいな所が取っている。取っただけではなくて、そのお 金をアメリカの赤字国債の購入に充てているわけです。だから、最初に申し上げたよう に、大切なのは我々の視点であって、我々は給付に関しては保険として払うけれども、 我々は強制的に入れと言われているわけですから、それ自身は税としての性格も持って いるのだろうということです。だから、その部分ですでに国は関与していると私は思い ます。 ○中島委員 ドイツのこの仕組みについてはいろいろと関心があるところですが、それ はそれとして、先生が保険ということで、加入したら翌日からでも出すのが普通ではな いかと。まさに、自動車保険にしろ生命保険にしろ、加入して翌日死ねば満額保険が出 るわけですし、事故を起こせば保険も出るわけです。本当の保険はそういうことなのだ と思います。地震保険なども、いつ起こるかわからない事故のために備える。ただ、負 担が非常に大きくなったら無理だから再保険という国の制度があるということだと思い ます。そういう意味では、雇用保険も厳密な意味で自動車保険や生命保険と同じ保険だ と考えるとすれば、まさに、加入者は保険料を払うだけで民間の保険会社が運営して成 立しているわけですから、そういう仕組みも選択の一つではあると思います。  そのときに事業主が半分負担しろと言われれば、それもそうなのかもしれません。た だ、問題は、本当の事故しか保険の対象にしないという大前提がなければ駄目なわけで す。つまり、これも前から私が主張していますが、自己都合による退職などというのは 保険の対象にならないというのが大前提にならざるを得ないと思うのです。非自発的失 業しか保険の事故の対象にならない、民間の保険はそういうことですから。  ということで、保険の考え方をいままでの考え方から変えて、雇用保険は民間の何と か生命保険という会社、あるいは何とか自動車保険という会社にやらせますと言って、 破綻したときは地震保険の再保険のようにそのときだけ国が一般会計からお金を入れる という仕組みならば、それはそれで、全く新しい発想にすれば考えられなくはないので はないかと思います。  それと、いまの長谷川委員のご発言と関係して、まさに、これも前から申し上げてい たのですが、失業保険の部分は保険料で賄っていいのですが、雇用促進などの部分は税 で取る。税で取るというのは、事業主も労働者も税金を払っているわけですが、その税 金で本来やるべきです。つまり、失業保険以外は税金でやったらどうかというのも非常 にわかりやすいご説明ではないかと理解しました。 ○田近教授 ただ、社会保険というのはなぜ民間ではなくて社会保険かというのは、今 日は時間がなくて申し上げませんでしたが、医療保険というととんでもない保険なわけ です。払った保険料に関係なく給付は皆がもらえますから、それはヨーロッパの人たち はソリダリティだと言っているわけです。先ほどのご質問でもそこを言いたかったわけ で、雇用保険は民間マーケットではできないというのは教科書の最初の最初ですからそ れはいいとして、保険料で取ったものを本来の失業給付に使う。その場合に、自己都合 で辞めた人を入れる入れないということが大きな問題になると思います。ただ、社会保 険でやるのだから、その他のところは賃金税ではないかと。だから、保険の対応ではな くて、賃金税でNEET、高齢者、日雇いの人だとか何とかの人に特別な形で助け合う のだと。それは保険の原理ではないから、そこは切るべきだ、そこは一般会計だという のも、それはそれでいいし、議論としては歯切れがいいのだろうなと。  ただ、賃金税で取ったものが三事業のほうに結果的に行ってしまったことは残念です が、問題が起きたことは残念ですが、使途を非常に限定して使うことはあり得るのでは ないか。そこは社会保険と民間保険の違いである。個人的には、いまご指摘のとおり、 割り切ったこともそのスタンスでしゃべりたいのですが、現実的には、すでにある制度 を考えるとそこはあるなと。ただ、保険のところは保険なのだから、自己都合のところ も含めて管理すべきだと思います。 ○輪島委員 私どもの基本的な考え方で、雇用保険制度は失業のリスクに備えて事業主 と労働者が折半をする保険だと思っています。ただ、これは言葉の綾なのかもしれませ んが、先生がおっしゃる国の関与というよりは、もう少し強烈に国の責任というものが あるべきだろう。その点において言うと、国の経済政策の失敗によって失業が発生する リスクはあるわけですから、その点について関与というようなイメージではないという ふうに私どもは基本的に思っています。  その点から言うと、2番目に、雇用失業情勢を今後どのように見るのか。私どもはあ まり楽観視はしていなくて、人手不足にはなると思っていますが、雇用失業情勢が何か の原因によって悪化するということはわりと簡単なことなのだろうなと。そういう強烈 な問題意識から、平成15年の雇用保険法の改正においては給付と負担を大幅に見直した と思っていて、それは労使で痛みを分かち合った。労働側は給付をかなり大幅に切って いますし、双方で負担の割合を増やしているということを鑑みれば、雇用保険財政がい つ破綻のとば口に来るかどうかということについて言えば、そういうリスクは大きいだ ろうと思っています。  3点目は、3/7のドイツの所で見ると、結局は最終的にドイツも事後的に国の関与 があって、先生は尻拭いとおっしゃいましたが、そういうことになればシステムとして は国の関与もしくは国の責任がドイツの中でも明確に入っているのではないかと思うの ですが、その点についてはどうなのか。地震保険のところで言っても、5兆円を超えた ところで足切りという意味合いがよくわからなかったのですが、雇用失業情勢のところ でいって、国の責任があるところで給付がないという意味合いであれば、私どもとして はそれはとんでもない話で、5兆円を超えようが国の責任として国庫の負担を入れてす るべきだと。その前提は、いちばん最初に戻りますが、雇用保険は事業主と労働者が折 半をしていて、その給付に対して国庫がリバウンドしているわけですから、その積立金 等々に入っているということではないので、その点について国の責任は明確だろうと思 っています。 ○田近教授 だから、社会保険にならざるを得ないわけですよね。民間に任せるわけに はいかない。そして、そこで起きてくる大変なリスクがある。ただ、ご指摘の中で私も 重要だなと思うのは、そういう大変なことが起きたときには国が大変なことになってい る。つまり、1996年、1997年ぐらいに我々は経験したわけですよね。銀行も今は立派に 見えますけれども、結局、国が資金投入をしてリスクを背負って、景気がよくなったか ら利息を付けて返してもらった。だから、ある意味で、それはバブルの対峙の仕方が悪 かった、それは国が失敗したわけですが、どういう失敗があるのかわからない。そうい うときに国は責任を社会保険としてとるべきですが、私が申し上げたように、地震と違 うのは5兆円で足切りをすることはできない。もっと大きなリスクが起きるかもしれな い。そのときに、国もお金がないわけですから、日本が1990年にやったみたいに借金を してやるのだと。  だから、「国、国」と言うけれども、国は何か大きな金持がいて払ってくれる。こっ ちの人たちは700兆円も借金を抱えてどうやっていこうかと言っている状態なわけです。 そういう中で国がとるべき責任というのは本来のところに戻って、そういう大きなカタ ストロフィックなことが起きたら国が借金をして払う。ただ、借金した部分は時間をか けて将来返済してくださいと。そして、それは景気がよくなれば戻ってくる。そういう 仕組みなのだろうなと。まさに、不良債権を解決したような形だと思います。そういう 意味で、モラルハザードの問題はありますが、不良債権のお金の注入ももっと早い段階 でやったほうがよかったのかもしれません。そういう考えです。 ○長谷川委員 輪島委員は、失業というものをどう見るかという話で3点あると。1つ は、事業主の経営上の失敗です。それで失業をする。あとは、本人の自発的な失業があ る、本人の都合によってある。もう1つ輪島委員が言ったところで非常に重要なのは、 国の経済政策によって発生する失業もある。これは過去にもたくさん経験してきたこと です。そうすると、雇用保険そのものは、労働者と使用者の折半になっていますが、失 業という現象を見たときに、実は、その3者が微妙に原因をつくっているわけなのです が、そのときに失業給付には労使と、国が4分の1を出しているわけですが、それは制 度として皆が比較的納得しているのではないかと思うのです。それはどうなのでしょう か。 ○田近教授 少し違う次元で言うと、ほかの所ではたくさん書いているのですが、例え ば医療だと、国保の給付の半分を国が払う、政管健保の14〜15%を払う。だから、リス クを国がどう引き受けるかだと思うのです。健康保険のこと等は今日はあれですが、我 々が引き受けるべきリスクは組織に対してのリスクではなくて、医療保険ならば、国は 払えない人に対して関与すべきである。雇用保険の場合に国が関与すべき責任というの は、経常的に摩擦的に起きている失業に対して国が関与する必要はない。だから、国が 宣言すべきなのは、どう定義するかは専門の方がやられると思いますが、カタストロフ ィックなリスクのときには関与するという形で整理していくべきだと。この話は決して 雇用保険だけの話ではなくて、医療保険、介護保険等にも全部に言える話だと思ってい ます。 ○大沢委員 保険が個人のリスクに対してかけられるものであると、それ以外のものは 税負担でということですか。実際には若年者の失業の問題、能力開発、訓練などがこれ から必要になっていくわけですが、そういうものに対しては税負担という形でやってい く。 ○田近教授 それは先ほど議論した点だと思うのですが、一つの割切りは、失業保険は 失業に対する所得の保障なのだという形で切ってしまう。ただ、先ほど申し上げたよう に、これは社会保険で、有無を言わさず全員を入れる保険で、その意味では強制的に保 険料が取れるわけです。そうすると、保険料として取って、それを保険の仕組みに従っ て失業のときに払うということが1つある。ところが、幸か不幸か、強制的に保険料で 取ってしまっているのですが、実は、そうではない部分は税です。5人以上の事業者は 全部払えということになっているわけですから、実質的にはほとんど税と同じように取 る。それを保険の仕組みではなくて右から左に使う、雇用開発などの形で使うというこ ともあり得るだろう。だから、そこは議論の仕方だと思います。経済学者の割切りとし ては、そこは一般会計からやれよと。あるいは、立て直して賃金税で対応させるならば、 そこはきっちり目的を定めてやれよという形だと思います。 ○大沢委員 もう1点ですが、被用者要件というのがドイツと日本の場合は違うわけで す。もし雇用保険を失業保障のような形で考えるならばこの被用者要件も見直すべきだ と。 ○田近教授 今日あえて出張ったことをしゃべらせていただいたのは、まさに、これが いまの格差社会でいちばん重要な点だと思っていて、データベースを見ると田近栄治が 賃金いくらでずっと働いてきて失業した、この人にどうするかというのはその生涯賃金 データがあるかないかということでものすごく違うと思うのです。個人にとっても違う。 そうすると、言いたいのは、NEETやフリーターの人たちもそういう賃金データを持 っていて、そういう人たちに対して還付すべきだろう。マイナスの税ですが、税以上の ものを還付してやりたい。そういうときには彼らの賃金データが一目瞭然でないと駄目 だし、何年も見ていきたいわけですから、そこが残念だなと。社会保険庁で取っていて、 国税庁で取っていて、ここで取ってということで、雇用保険の賃金データと社保庁のも のはこれから一元化していくような話を伺いましたが、是非それで個人のデータベース として賃金データベースをつくってもらいたいと思います。それでもっていろいろなこ とができるだろうなと個人的には思っています。 ○長谷川委員 例えば、雇用保険のところに国庫負担で4分の1ありますよね。それは、 先生がおっしゃるように、国がそれを負担しないということであるとすると、いまは労 使折半で1,000分の8・1,000分の8ですから、自ずとそれは労使が負担する、労使の保 険料が上がるということですよね。いまの給付で言えばぎりぎりでしょう、私たちの保 険料がまた上がるという話。 ○田近教授 いつもそれを授業でやるのですが、君がイチローか普通の新卒サラリーマ ンかというと話が違うだろうと。イチローだったら、アメリカの所得税は5割だぞとい ったら、俺は1億円欲しい、マリナーズに2億円払ってくれよと言う。俺はそれで1億 円を手取りでもらえるのだということで交渉ができると思うのです。つまり、何を言っ ているかというと、所得税はマリナーズが払えと言えると思うのです。だけど、入団テ ストで受かったプレーヤーが、俺の所得は500万で所得税が何割だから国が800万を払え よと言ったら、もうお前はやめていいよ、どこかへ行っていいよと。会社が払うのは500 万ポッキリだと。  つまり、何が言いたいかというと、経済学者のいつもの話ですが、5割・5割という のは制度の話で、最終的に誰が払っているかはわからない。イチローの場合にはマリナ ーズが払ってくれるけれども、僕の場合だったら自分が払っているのだろうと思う。た だ、企業の場合にはその部分が損金算入されますから、個人もされているわけですけれ ども、そこは手当はされているので企業は多少は払いやすい。それから、何よりも、社 会保険料を企業に追っ被せるような時代はもう終わった。ただでもそれが上がっていっ て日本企業の足カセになるわけですから、そのラインでの議論は日本でも弱いだろうな と思います。 ○部会長 それでは、田近先生には、大変長い時間、熱心にご説明いただきましてあり がとうございました。時間を過ぎておりますので、以上をもちまして田近先生へのヒア リングを終了させていただきます。どうもお忙しいところをありがとうございました。 (田近教授退室) ○部会長 それでは、お2人のお話を伺ったところで皆様もいろいろと思いの丈があろ うかと思いますので、意見交換に入りたいと思います。どうぞご自由にご意見をお出し ください。 ○中島委員 長谷川委員から最後に出たポイントですが、結局、国庫負担を減らしたら、 ゼロにすることも含めてですけれども、そうなったらどうするのかという話は、その分 を事業主と労働者の保険料でそっくり賄う方法か、あるいは先ほど私が言った非自発的 失業以外は支給対象にしないとか、給付のカットをしない限り成立しないわけです。そ このところは同床異夢のところがいろいろあるのではないかと思いますが、相談はして いませんが、たぶん、使用者側のイメージは国庫負担がなくなったらその分は給付カッ トだというのが一般的なイメージだと思います。 ○長谷川委員 国庫負担の4分の1がなくなったときに何が起きるかというのは、いま 中島委員が言ったように、給付のカットなのですね。しかし、本当に給付のカットをし ていいのか。そういう意味では、これは雇用政策全般にかかわることなので、今日の岩 村先生と田近先生お2人の話というのはどのように受け止めていいのかというのはこれ からよく勉強しないと難しいなと思いますよね。給付の制限をするとなったら、これは 大議論になって、そもそも雇用保険とは何なのか、という議論をやらないと落ち着かな いのではないかと思います。本当に、我が国の雇用政策はどうあるべきかという「そも そも論」ではないかと感じました。 ○三木委員 今日の話を聞いていて、ある意味では全く両極端の意見だと思うのです。 その中で、もう1つ重要な点は、これまでも審議会の中で議論されていましたが、ヨー ロッパと日本の場合、あるいはアメリカの場合などを比較しても、失業給付だけではな くて失業扶助の制度があるのとないのとでは意味合いが全然違うと思うのです。そのこ とを含めてどう考えるかということを整理していかないと、単に、国庫負担をなくせば いいとか確保すればいいとかいうことではなくて、一旦それがなくなってしまうと生活 保護に追い込まれてしまうということ自体、これからの失業率が完全雇用に近い状態が 想定されるのであればいいけれども、現実的にはそうはならないだろうという状況の中 で、これからの将来不安をなくすための安定的な制度をどう考えるかということで、こ の中では両極端の議論は避けたほうがいいのではないか、そのためにどうあるべきなの かということを議論していく必要があるのではないかという気がするのです。 ○部会長 今日の話の続きは明日すぐこの部会がありますので、一晩頭を冷やしたらい ろいろなアイディアも出るかと思うのです。皆さんのお話を伺っていると、ヒアリング との間でいくつかの部分で共通の割り切れなさ感があるのだろうと思うのです。1つは、 能力と意欲がある人が失業したときの失業給付を出すという保険制度の問題。それから、 失業の予防とか能力開発とか、その他いろいろなものを含めての雇用政策の部分、それ を担う三事業の保険料の部分。さらには、保険制度ではカバーできないような、まだ労 働市場に入ってきていないような若者たちをカバーする部分とか、我々の周辺にいろい ろな守備範囲があって、それぞれが雇用保険の運用や失業情勢などに影響を与えていく。 それに対して、これまである一定の分担、補完関係のシステムをつくってきた。善い悪 いは別ですが、一応のシステムをつくってきて、とりわけ、雇用政策に関しては、明日 までに正確な図は出ると思いますが、三事業の部分などがかなり大きくかかわった。し かし、かかわると保険ではカバーできない部分にはお金を使えなくなりますから、そこ から若者のような、まだ労働市場に参入する前の人への政策が後手後手に回ってしまう ことがある。  このように考えると、今度、国庫が4分の1を仮に引きあげてしまったら、別の分野 へ原資が行ってしまって、この雇用政策の範囲の中に返ってこないということに対する 皆さんの不満といいますか、割り切れなさがここにはあるのだろうと思うのです。そう しろと言っているわけではありませんよ。つまり、こうやって国庫から引きあげてしま った我々の広い意味での雇用政策、正確に言うと消極的雇用政策、労働市場政策と呼ば れる失業給付に対する国庫の負担の割合が消えたときに、これが積極的市場政策、積極 的雇用政策と呼ばれるような部分に回るのならばいいけれども、そっちのほうは全然ど こかへ行ってしまうというのでは、そこら辺がペアで議論されないと、どう見てもこの 部会としては割り切れなさが残る。それから、現実にそのように回ってくれるような今 の日本の財政状態にあるのだろうかとか、いろいろな思いがあることと存じます。それ らを明日ご議論していただければと思っております。  それでは、今日は少し早いですが、これ以上ご意見がないようでしたら早目に終わっ て鋭気を養い、明日また朝10時にこの場で議論をさせていただこうと思います。以上を もちまして第30回の雇用保険部会を終了させていただきます。本日の署名委員は、雇用 主代表の塩野委員並びに労働者代表の栗田委員にお願いしたいと思います。本日はお忙 しい中をご参集いただきまして大変ありがとうございました。明朝もまたよろしくお願 いいたします。 照会先:厚生労働省職業安定局雇用保険課企画係     03−5253−1111(内線5763)