06/10/05 労働政策審議会労働条件分科会 第64回議事録 第64回 労働政策審議会労働条件分科会 日時 平成18年10月5日(木)  13:00〜 場所 厚生労働省17階専用第18、19、20会議室 ○分科会長(西村) ただいまから、第64回「労働政策審議会労働条件分科会」を開催 いたします。本日は久野委員、島田委員、奥谷委員、山下委員、平山委員が欠席です。 また、島田委員の代理として中村さんが、山下委員の代理として君嶋さんが出席されて おります。  本日は、労働時間法制のうち「働き方を見直し仕事と生活のバランスを実現するため の方策、現行制度の見直し等」について議論を深めていただきます。この項目の論点に ついては、既に事務局に整理してもらっておりますので、資料の説明をお願いいたしま す。 ○監督課長 資料No.1−1「仕方と見直し仕事と生活のバランスを実現するための方策、 現行制度の見直し等」です。左の列は、今後の検討の方向です。仕事と生活のバランス を確保するためには、長短二極化している労働時間について、特に長時間労働となって いる者への対策が必要ではないか。このための1つの考え方として、時間外労働の実態 を考慮して設定した一定時間数を超えて時間外労働をさせた場合の割増賃金の割増率を 引き上げることについて、経営環境や中小企業の実態も踏まえつつ、検討を深めてはど うか。  これに対応する論点として、右の列の○で、長時間労働の抑制について。○があり、 割増賃金の割増率の引上げについて。ポツがあり、「一定時間数」及び「割増率」の水 準について。ポツがあり、経営環境及び中小企業の実態について。このような論点があ るのではないかと思います。  左の列に戻り、この場合に、長時間労働の後には労働義務を一定時間免除して、健康 の確保にも役立てるという新しい考え方の下、労使協定により、割増率の引上げ分につ いては、金銭での支払いに代えて、有給の休日を付与することを選択できるようにする ことについても併せて検討を深めてはどうか。これに対応する論点として、労使協定に よる有給の休日の付与についてだと思います。  労使各側のご意見は書いてあるとおりです。使用者側のご意見として、割増賃金がど の程度長時間労働の抑制に資するのか疑問。企業のコスト競争力が落ちることにつなが るし、中小企業の負担増に直結するため、反対。労働側のご意見として、メンタルヘル ス不調者や過労死の増加、少子化など長時間労働がもたらす弊害が顕在化しており、ワ ーク・ライフ・バランスの視点から労働時間のあり方を検討すべき。諸外国の割増率や 均衡割増賃金率との関係も踏まえ、時間外割増率はすべて50%に引き上げるべきという ことです。  2頁は、現行制度に関連して今後の検討の方向です。(1)の1つ目のポツは、仕事と家 庭生活の両立に資するため、子の看護等突発的な事由でも、年次有給休暇制度本来の目 的に沿った利用を阻害することなく年次有給休暇を活用できるようにするため、労使協 定により上限日数や対象労働者の範囲を設定した上で、時間単位での年次有給休暇の取 得を可能とすることについて検討を深めてはどうか。論点としては右の列の○で、時間 単位での年次有給休暇の取得について、労使協定による上限日数や対象労働者の範囲の 設定についてがあろうかと思います。左の列の(1)の2つ目のポツで、仕事と生活のバラ ンスを確保するために有効な方策について検討を深めてはどうかということで、右の列 の○で同じことが書いてあります。  これらについて労使のご意見です。使用者側のご意見として、企業運営に障害が生じ る懸念があり、中小企業では対応が難しい。労働側のご意見として、制度化に賛成だが、 暦日単位での取得を阻害しない措置や上限日数の設定等が必要である。  資料No.1−2は、労働時間のデータの関係です。1頁は、全体の方で週の労働時間が 60時間以上の者が12%から11%ぐらいで推移している。2頁は、先ほどと同じデータ で30代の男性だけを取ったもので、週60時間以上の者は23、24%と高止まりしている 状況にあります。  3頁は内閣府の調査ですが、少子化対策で特に期待する政策として、マルチアンサー ですが、仕事と家庭の両立支援と働き方の見直しの促進が51%、そのほかに子育てにお ける経済的負担の軽減が50%という状況です。  4頁は、時間外・休日労働に関する労使協定の締結状況です。現行制度では、法定労 働時間を超えて残業をさせる場合に、時間外協定あるいは休日労働協定(36協定)の締 結が必要なわけですが、全体では37.4%の事業場が締結しており、事業場規模が大きい ほど36協定を締結している事業場の割合は増えています。  5頁は、特別条項付きの36協定の締結状況です。この特別条項というのは、36協定 を結んで、しかも1箇月45時間の限度基準を超えて残業させる場合には、この特別条項 付きの36協定を結ぶわけです。この特別条項があるが27.7%で、これも事業場規模が 大きいほど、締結している事業場の割合は高くなっています。  6頁は、法定時間外労働の実績です。1箇月の法定時間外労働の実績で、平均的な者 が6頁の上の表で、その事業場で最長の者が下の表です。平均的な者は、右の列のいち ばん上のところで15時間13分です。最長の者は右の列のいちばん上のところで25時間 26分です。この45時間というのは1箇月の限度基準で、この限度基準との関係で申し ますと、平均的な者は95.8%が45時間以下、最長の者については85.2%が45時間以下 になっています。  7頁は、割増賃金の定めがあるかどうかです。割増賃金を払っている企業は上の表の とおりです。上の表のうち、割増賃金率の定めがあるか、あるいは割増賃金を払ってい る方について、何割払っているのかを聞いたのが下の表です。25%というのが法定の割 増率の下限で89.3%です。30%払っているというのが5.3%あります。これは、企業規 模が大きくなると、5.3%の中でも30%払っている企業の数は増えています。右側の列 で、平均だと25.7%というのが割増率の平均であるということです。  資料No.1−3は参照条文です。先ほど申し上げました、時間外労働の協定については 労働基準法36条に書いてあります。「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織 する労働組合がある場合においてはその労働組合、ない場合には労働者の過半数を代表 する者と書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、その協定で 定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる」という ことです。限度基準については後ほどご紹介いたしますが告示です。37条については割 増賃金です。これは2割5分以上5割以下の範囲内で政令で定める率ということが第37 条第1項で決められております。  2頁の真ん中辺りの○で、政令が実際に決められていて、その2行目に、時間外労働 については2割5分、休日の労働については3割5分が最低であるということが決めら れております。労働時間の延長の限度等に関する基準については告示でやっております が、実際の数字については5頁の表に書かれています。期間が1箇月で、限度時間45 時間というのが限度基準です。  資料No.1−4は年次有給休暇関係です。年次有給休暇での取得率及び取得日数は近年 減少傾向が続いており、平成16年度で46.6%、取得日数は8.4日という状況です。  2頁は、年次有給休暇の望ましい取得方法です。1日単位の取得が42%、なるべくま とめて取得が31.7%というのが多いです。下の表の左から2つ目は、時間単位での取得 は、男性は大体1桁のパーセント、女性の30〜49歳のところは一定割合といいますか少 し高くなっているということが言えます。  3頁は、年次有給休暇取得の労働者の意見です。ためらいを感じるとややためらいを 感じるを足すと7割近い方になります。その理由としては、左下の棒グラフのように、 みんなに迷惑がかかると感じている、後で多忙になる、職場の雰囲気で取得しづらいと いうことが挙げられています。  4頁は、年次有給休暇の主な取得理由です。全体を見ると、休養、病気の療養・体調 不良が多くなっています。1日単位での単独取得の欄を見ますと、病気の療養・体調不 良が50.9%、休養が36.3%、家事・育児・子供の行事が21.4%というところが多くなっ ています。連続取得のところでは海外旅行、国内旅行が増えている状況です。  資料No.1−5は、年次有給休暇に関する労働基準法の関係条文です。基本的には労働 基準法第39条があり、「雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以 上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければ ならない」と書かれています。  4頁は、半日の年次有給休暇の取得に関する解釈例規です。これは古いものですが、 年次有給休暇というのは、一労働日を単位とするものであるという趣旨のことが書かれ ています。以上、資料のご説明です。 ○分科会長 意見交換に入ります。資料No.1−1の右側の欄の1つ目の○の「長時間労 働の抑制について」、仕事と生活のバランスを確保するために対策を講じる必要性など についてご意見をいただきます。また、そのための1つの方策として、2つ目の○に「割 増賃金の割増率の引上げについて」というのが論点として挙げられております。この点 について、一定時間数や割増率の水準はどのようにあるべきか、ということについてご 意見をいただきます。さらに、割増率を引き上げる場合に、3つ目の○で、割増率の引 上げ分の支払いに代えて、「労使協定による有給の休日の付与」をすることで、労働者 の健康の確保にも役立てることについてもご意見をいただきます。 ○新田委員 私はずっと言い続けているのですけれども、長時間労働というのは諸悪の 根源だと体験的にも思っています。これから、提起されている議論をしていく上で、「現 実の長時間労働のあり様をどのように認識しているのか」ということをできるだけ委員 の間で一致させないと、提起されている解決策というか、それ以外の解決策についても 議論が噛み合わないのではないかという気がしてしようがないわけです。  これは感覚的なところですけれども、自分は悪いことをしているわけではないのだ、 大丈夫なのだという考えを持っている人が多くなっているのではないでしょうか。意識 が薄いというか、感覚が乏しいというか、やってはいけないことなのだという意識が乏 しいということを感じてならないわけです。だから繰り返すようなことがあるのではな いか。職場のセクハラ問題もそんなところが強くあるのではないかという気がしていま す。そんなつもりはなかった、ということに象徴されると思うのですが、そんな認識と いいますか意識の薄さがあるのではないか。  そういうことの並びで時間外、特に残業のところの捉え方として、残業することが悪 いという意味ではなくて、例えば残業しているのに払わないというところをどのように 捉えるのか。やろうと思って一生懸命やっているのだからとか、やってくれているのだ からというような軽い思いで捉えられているとしたら違うのではないかという気がして いるわけです。意識としてそんなにとやかく言われることが、というようなところがあ るのではないかという気がしてしようがなかったわけです。最近というかここに来て、 10月3日の報道でもありましたけれども、5年度の不払い残業の状況の報告がありまし たようにそういう意識の高まりが出てきています。  私が思っている諸悪の根源という捉え方はここでもずっと議論されていますし、(1)の 最初にも、仕事と生活のバランスという意味合いでも書いてありますけれども、バラン スを確保するためにということできちんと書いてあるわけです。そうしたことを考える 上で、残業や時間外の高止まり傾向をどのように捉えているのか。特に、使用者側の皆 さんの所では、いまの時点をどのように捉えているのかということをお伺いしたいと思 います。報じられている不払い残業の実態をどのように考えているのか、というところ をひとつ聞かせていただきたいと思います。  どちらにしても、そうした意識をきちんと持たないとということ、現状を互いに確認 し合って次に進まないと議論が噛み合わないという思いが強くするものですから、最初 に、使用者側の皆さんの所ではどのように、いまの長時間労働の実態を捉えておられる のかを聞かせていただきたいと思います。ざっくばらんのところで結構ですから聞かせ ていただきたいと思います。 ○分科会長 いまのご意見についていかがでしょうか。 ○紀陸委員 2点あるかと思います。1点は不払い残業に対する考え方ですが、これは 本当の意味で時間外労働をしたら、それに見合う残業代を払わなければいけない、とい うのは法律上の義務ですので、それは論外だと思います。決してやってはならないこと であって、何らかの制裁を受けるべきだという点で、どの経営者も認識は同じだと思っ ております。  もう1点は、資料No.1−2の1頁とか2頁にある実態をどのように評価するかという ことだと思うのです。実際問題として、バブルがはじけて以降、ずっと長期に日本全体 の景気が低迷して、その間いろいろなリストラが行われてきているわけです。人減らし というだけではなくてです。  それを経過してきて、多少景気の山谷があって、最近はそれがだんだんと回復の勢い に乗ってきて、産業によって違うのかもしれませんけれども、いろいろな会社で仕事の 量が増えてきている。そうすると企業の対応としては、増える仕事に応じて人を増やす か、あるいは現有人員で手いっぱいだから仕事の量自体をカットしてしまう、あるいは 時間当たりの効率を上げていくか、現実の対応としては3つしかないわけです。あるい は3つを組み合わせるか、ということしか選択の余地は基本的にないと思っております。 ほかにもあるのかもしれませんが、基本的にはその3つです。  仕事の量をカットするというのは容易ではないことでありまして、全体としての受注 の量という意味でですが、それは会社としては成長のあれですから、それは受け入れる としても、その場合に人を増やせるかというとなかなか簡単にはいかないし、しかも一 旦正社員として人を採用すると、容易にはいろいろな意味での協調性はできにくいわけ です。そうすると、それこそさまざまな形で正規従業員の雇用を守るためにも、雇用形 態の多様化に取り組まざるを得ない。  それが、トータルとして企業の競争力を上げていくことになるのだろうと。この辺の 循環というのは、従業員の方も組合の方もご存じだと思います。結局それはトータルで 日本の産業とか企業の雇用を守ることになっているのだと思うのです。そうすると残る 手は3つ目、いかに個々人の働き方の効率を上げていくか、それによって時間を縮減し ていくかということだと思うのです。時間当たりの効率が上がれば、仮に仕事の量が増 える以上時間当たりの効率が上がれば、労働時間の量は比例して延びなくても済むわけ ですから、そこをどのようにしてやっていくかということだと思うのです。  効率の上げ方というのはそれこそさまざまであり、設備投資を増やすかとか、仕事の 按分をどうするか、1人の仕事をできるだけ2人に散らしてやっていけるかとかさまざ まなことがあるかと思うのです。いずれにせよ、効率を上げていって、ということにか かってくるのだと思うのです。これは後の話にも通じるかと思うのですが、その効率を 上げる手立てとして、コストプッシュの形で割賃を上げたところで、私どもは問題の解 決にはならないと思っております。  いろいろな形で、労使が働く人の健康のあり方も考えて、効率を上げるための工夫を やっていく、というのがいちばんの手だと思うのです。それが、急激に景気が立ち上が っている中で、いろいろな企業が、前からの話ですけれども、仕事と生活の調和という ことに取り組み始めて、どうするかということでいま模索しながら走っている状況だと 思っています。  それは、従業員と、本当の意味で職場の関係をよくする形の中で、いろいろな話合い を続けていくことによって解決できる問題、それが解決のいちばん早道ではないかと思 っております。おそらく、これは大企業だけではなくて、規模如何にかかわらず、産業 の如何にかかわらず同じ認識ではないかと私どもは理解しております。 ○八野委員 言われている趣旨がよく理解できないので本当に申し訳ないと思うのです が、いま新田委員からは、「長時間労働というのはいまの日本が抱えている大きな問題 なのではないか。それに対してどういう認識を持っているのか」ということを聞いたの であって、企業の経営の仕方を聞いているわけではありませんでした。  それと、不払労働は論外であると言われて簡単に片付けられましたが、不払労働が発 生しているというのは、かなり使用者側の責任によるところが大きい。これは法律違反 であるわけです。前回も言いましたが、企業側がよく言われているCSR、コンプライ アンスの観点で、労働時間ということに対して企業の経営のモラルが非常に落ちている。 そういう認識を持たれているかどうかというところかと思います。  確かに、私たちの傘下の労働組合の企業の中でも、今回労働基準監督官が入ってその 調査を受けた所があり、実態開示に取り組んでいる事実があります。これは経営だけで はなく労使の問題であるかもしれませんが、時間の管理ということに対しては、いわゆ る管理監督者がどれだけ従業員のところをマネジメントできるかが重要なポイントで す。「不払労働は論外であり、何かの制裁を加えていかなくてはいけない」というそれ だけの問題で片付けられるというふうに労働側は全く思っていない、大きな問題として 捉えている、ということの認識を新たにしていただきたいと思います。  もう1つリストラということでお話がありました。いま労働者の賃金は減ってきてい る。ただし、ある意味株主に出している配当はここ数年非常に上がってきている。経営 として、どこにコストをかけるのか、従業員もステークホルダーの1つとして考えるの であれば、株主だけの配当ではなく、従業員に対してどれだけのものがかけられるのか、 ということもいま問われているのではないかと思います。  そういう中で、実際に長時間になってきたのは、先ほど紀陸委員からもありましたが、 経営側が求める目標の問題であるとか、スピードの問題、量の問題があるかもしれませ ん。しかし、長時間の問題でいちばん大きい原因は要員の問題ではないのか。いままで、 雇用の多様化という素晴らしい言葉を使いながら、私たちの産業ではパートのところが 増えてきておりますし、請負、派遣という中で業務を回している。そういう中で、正社 員に対する業務量の比重が非常に上がっている、そういうものの中で長時間という問題 が出てきているのではないか。  単純に仕事の効率を上げるというキャパを超えているから、長時間労働になっている。 そういう認識を本来は持つべきなのではないか。そういう中で、長時間労働をどうやっ て是正していくのか。過労死又はストレスという精神的な問題をどうやって解決してい くのかというものが、この時間のところに問われている労使の課題なのではないか。効 率だけ又は成果だけを求める、それだけで労働時間のところは解決できないということ を認識していただきたいと思います。 ○渡邊佳英委員 長時間労働抑制というのは、やはり健康管理の観点から非常に重要だ と考えております。長時間労働を抑制する目的として、時間外労働に対する割増賃金の 割増率を引き上げることに関しては反対したいと思います。労働者の仕事と生活のバラ ンスに役立つかどうかということにしても疑問がありますし、長時間労働を抑制するど ころか、かえって長時間労働を助長しかねないと考えております。  また、長時間労働とうつ病などの精神疾病との因果関係を指摘する意見もありますけ れども、そもそも総労働時間という観点からいうと減少しているわけです。因果関係と いうのはないというよりも、それを指摘するのはなかなか難しいのではないかと思いま す。むしろ、そういう精神疾病というのは、働き方が変化している中で、制度や環境が 追いついていないということが原因ではないかと考えております。  労働時間に関しては1950年代から1960年代というのは、2,300時間で推移していた わけですけれども、ピークの昭和35年には2,432時間あったわけです。平成17年度は 1,802時間となっております。政府の目標の1,800時間は達成しつつあるということです。 したがって、昨年の時短促進法が廃止になったこともあり、企業が着実に労働時間を抑 制している、削減に取り組んでいます。これからも、その流れで労働時間は減らしてい こうという流れは変わるものではないわけです。割増賃金の割増率の引上げは、企業に とってのペナルティの意味合いが非常に強いと思います。これは、経営者のこれまでの 努力や取組みを全く評価していないのではないかと考える次第です。 ○新田委員 いま、意見というか見解を述べられたのですけれども、労側委員の2人が 聞いたのは、「長時間労働という実態をどのように捉えているのですか、どのようにし ようとしているのですか」ということです。しかし、使用者側からは回答をいただけま せんでした。ここで私の団体の意見を言っておかなければという話は、それはそうなの でしょうけれども、その前に本当に大事な議論をここに託されているわけですから、そ のことを議論する土台を確認しようと言っているのに、どうしてこんな議論になるのか、 どう言えばいいのかわからないぐらいに不満です。  端的にお伺いしたいのですけれども、例えば昨日「クローズアップ現代」で不払残業 について放映していましたが、顔を出して意見を言っている人はいいのですが、顔を出 さずに、実はこれだけ残業しているのに、これだけしか払ってもらえないのだ、という 人が2、3人出ていました。60時間やっているのに20時間だとか、数字は正確かどう かわかりませんけれどもその種のことがある、ということで問題は捉えられて放送もさ れているわけです。そこで、あれを聞かれてどのように思われるのかということと、紀 陸委員は明確に「払うべきなんだ」と言われるのはそのとおりなのですけれども、しか し、払っていないのがたくさんいるからあの番組が成り立つわけです。  そこでもう1つお伺いしたいのは、不払残業というのは強いているのか強いられてい るのか、自ら進んでやっているのかいろいろな側面はあると思います。不払残業だとい っても、自分が納得した仕事の仕上げをしたいために少し残って仕上げる分については いえないということはあるかもしれない。それは置いたとしても、あの実態をどう捉え ておられるのか、というところの認識を合わせたいのです。それはどうでしょうか。そ んなことはないのだとおっしゃるのでしょうか、一部だとおっしゃるのでしょうか、ご くごく一部だとおっしゃるのでしょうか、どうなのでしょうか。そこの議論を合わせて から進みたいのです。 ○紀陸委員 資料No.1−2のデータもそうですけれども、世の中の実態を本当につかむ 場合に、サンプル調査とか全数調査とかいろいろなことがあります。だから、「クロー ズアップ現代」がどういう人を出したかよくわかりませんが、要するに実態が一部なの か全部なのか、そのデータがどのぐらいまで世の中の本当のところを反映しているか、 それは把握しろといっても難しいです。  冒頭に申し上げたように、私どもとしては、長時間労働というのは決して好ましいこ とではなくて、不払いというのももちろんあってはいけない、というのはみんな認識し ていると思うのです。問題は、それをどういうふうにしたら抑制していけるか、という ことを論議しましょうという話ですので、その論議に入りましょうということですから、 問題の論議の必要性については労使とも差異はないと思っております。実態というのは、 企業によっても産業によっても違うと思います。それを、ここがこうだから、こっちは こうだからという論議をしていてもしようがないのです。そうではなくて、そういう状 況を踏まえた上で、どうやったら出っ張っている所は引っ込められるかという論議をし ていけばいいのではないかと思っています。そういうことで、論議を進めていけばよろ しいのではないでしょうか。 ○長谷川委員 資料の読み方について労使で異なるところがあるので、ここは少し統一 しておいたほうがいいのではないでしょうか。先ほど使側の委員がおっしゃった、年間 総実労働時間の推移の見方は以前から別のことが言われているわけです。総実労働時間 というのは、平成16年のところで1,840時間、それから所定内労働時間が1,691時間と いう形で推移しています。しかし、総実労働時間の中には、パートタイム労働者も含ま れています。ここはもう1つの資料で、一般労働者とパートタイム労働者の労働時間の 推移の表もあるわけです。現実に一般労働者の総実労働時間は増えています。1,800時 間など切っていないわけです。だから、ここはきちんと見て、パートタイム労働者の労 働実態と、フルで期間の定めのない一般通常労働者の時間を分けて議論しなければいけ ない。  いま労側が言っているのは、一般通常労働者の労働時間のことを言っているわけで、 ここは依然として長い労働時間であるというのは、現実的にそうだと思うのです。一方、 この長い労働時間の結果、例の時短促進法の改正のときに議論したように、いろいろな 問題が起きています。その問題について、ある意味では仕事と生活のバランスをとるた めに、まず1つは健康障害が起きているので、健康問題を考えましょう。それから少子 化で、労働力人口もどんどん減っていきます。やはり、労働者が家庭生活をきちんとす ることが必要ですね、ということで労働時間を減らして、そういうことにも考慮するよ うにしましょう。  能力開発というのは、企業にとってはいやな話かもしれませんけれども、最近、企業 は職業能力開発に以前ほど力を投入していない。そうすると、そういう能力開発が個人 のところにかなり負担がかかっているわけです。でも、自分のスキルアップをしたいと 思っても、日ごろは仕事に追われて、土日だって休めない状態、夜だって残業したいか ら、例えば夜学の大学へ行きたいとか、大学院に行きたいとか、専門学校へ行きたいと いっても行けないから、そういうのをどうしましょうかという議論をしました。  それと、地域活動も、最近は家族というのは、昔のようにおじいちゃん、おばあちゃ んが子育てに参加していないわけで核家族になっている、地域コミュニティも崩壊して いるので、地域に参加するためにどうしましょうかと。大体この4本の柱で議論したと 思うのです。そういう問題がありますね、労働時間はそういう問題を含んでいますね、 というのはそのときの議論で、労使お互いにそこのところの認識は一致していたと思う のです。  本日労側が言いたいのは、特に健康の問題なのです。健康の問題でいえば、2001年の 脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討委員会の報告で、いろいろな要因はあるけれ ども、労働時間というものに着目すれば、発症1箇月前におおむね100時間を超える時 間外労働が認められる場合だとか、発症2箇月ないし6箇月経って、1箇月当たりおお むね80時間を超える時間外労働を認める場合は業務と発症との関連性は強いと判断さ れる、とされています。  2004年の精神疾患発症と長時間残業との因果関係に関する研究会報告書の中で、長時 間残業による睡眠不足が、精神疾患発症に関連があることは疑う余地もなく、特に長時 間残業が100時間を超えると、それ以下の長時間残業よりも、精神疾患症が早まるとの 結論が得られたとされています。健康と労働時間には非常に強い関連性があるのです。  もっと平たく言えば、私たちの身の回りで、過労死だとか、過労自殺だとか、いろい ろな心の病気という人が、私たちが想像したよりも確実に増えているという現実があり ます。これらをどうしようか、というのがこの間ずっと議論したと思うのです。そのい ろいろな所で、労働時間とそれらの関係は、非常に因果関係があると専門家会議からも 指摘されているので、そこは誰も否定できないことだと思うのです。  こういう中で、労働基準法をここで審議するわけですけれども、労働時間というのは 本当にこれでいいのだろうか。労働時間というのはどうあるべきかという議論をするこ とが、いま私たちに課されている課題ですから、長くなってしまった労働時間をどう縮 めていって、労働者の仕事と生活のバランスを図らせるのかということについて、私は 企業の責任だとか、労側の責任ではなくて、労使が一緒になってどうすればいいかとい う方策を出すことだと思うのです。  長時間労働を短くするための方策として、労側はいくつかのメニューがあって、1つ が割賃を引き上げることですと言っているわけです。割賃を引き上げるとどういう効果 があるかということも、なにも私たちが感情で言っているのではなくて、これまでの研 究報告の中で、例えば、これは既に仕事と生活の調和に関する検討会議報告書の資料の 中にも入っているわけです。  連合総研の平成10年の研究ですけれども、割増率が引き上げられた場合に考えられる 労働者自身への影響については、割賃を引き上げればコスト増になるので残業が抑制さ れる、という人が47.3%で最も多いという結果が出ています。したがって、私たちは割 賃を引き上げると残業は抑制されるということがあるんだと。そうすると、いまの25% で、このような残業の状態だったら、この残業時間を抑制させるとすれば、割賃を上げ るということが1つの方策ですということを言っているわけです。  もう1つは、それ以外に事務局が出しているいろいろな休日を付与することについて も、どうしていくのかということは検討していく。割賃を引き上げることの前提として、 基本的にこれは労使が努力しなければいけないのですけれども、割賃は25%、残業した ら25%引き上げることになっているから、それは払いましょうと。だから、割賃を支払 うのは当然ですねと。ところが、相変わらず割賃を払わないということがいっぱいある けれども、これは困ったものですね。これは、お互いに努力していきましょうと。やは り、法律を守っていきましょうということだと思うのです。それは前提の話です。  割賃は払う、これは法律を守るということだから、次のところでどうやったら時間外 を縮小できるか、削減できるかという方策で、連合総研の当時の調査ですけれども、割 賃を引き上げれば残業は抑制される、ということが1つ検討する課題になるのではない か。もう1つは、均衡割増率という考え方がありますけれども、これも均衡割増率の当 時の資料にも入っているように、時間外を抑制する方策として考える場合に、均衡割増 率というのは考え方の1つになり得るだろうと。時間外でやらせたほうがいいのか、そ れとも人を投下したほうがいいのかというときに、やはり時間外でやったほうが安いと なればそっちへ流れてくる。したがって、均衡割増率に従って割賃を上げるということ は、その方策のもう1つではないかと思います。  我が国ではバブル崩壊後、企業は非常に大変な状況だったわけですが、これは使側も 頑張りましたけれども、労働者も頑張ったわけです。賃金も下げられましたし、退職金 も下げられましたし、リストラもされましたし、随分失業者も出しました。しかし、現 在では、それなりに企業の動向も良くなってきているわけです。そうすると、ずうっと 疲れきった、そして精神疾患も多くなってきて、過労死も過労自殺も多くなっている労 働者の働き方をどうするかと考えるのが、今回のこの時間帯の中で労使の知恵の出しど ころだろうと思います。  したがって、この均衡割増率などを使いながら、割賃を引き上げていくということは、 時間外で業務量に対して対応するよりは、むしろ人を投下する方法が効率的となるなら ば、それも考慮の1つではないか。絶対に反対だとか、それは無理だということではな くて、どういう方策があるのかということを、もう少し使側の方に是非意見を言ってい ただきたいと思います。 ○谷川委員 長時間労働の抑制については、いま長谷川委員が言われたとおり、私たち も長時間労働の状態が続いていいとは思っていないわけです。ただ、このような問題と いうのは、かなり継続的に、組織的に管理していきませんと、これをやればいいという 特効薬的なものはないのではないかという感じがしているのです。  おそらくそういう中で経済も波があるように、おそらく企業もそれぞれの業務量とい うのは波があるでしょうし、職場によってもいろいろな波があるわけです。問題は、業 務量が適正に配分されているかということなのだろうと思います。適正に配分されてい るかどうかというのは、個人対個人の問題ではなくて、やはり組織全体で考えていかな ければできない問題ではないかと思います。そういう中では、お互いにそういう問題意 識を持って、労使で、何が課題で、何を解決すべきかというようなことに取り組んでい くことではないかと思っています。  実は私どもも、当社の例でいえば、いわゆる労使で長時間にならないようにというこ とで、それぞれの職場で目標を決めて、お互いに時間管理をするというような管理の仕 方をしています。そういう中で意見として出てくるのは、どうしても仕事の中に無理と か、無駄とか、斑というのがあります。だから、無理、無駄、斑というのは、管理監督 者が見る無理、無駄、斑という部分と、そこで実際に従事する人たちが見ている部分、 あるいは周りが見ている部分によって、みんなの意見を聞きますと、仕事が精査されて くる部分があり、お互いにそのようなことを通じながら、少し息長く管理をしていくべ きではないかと思っております。 ○田島委員 いまの割増賃金の問題なのですが、先ほど紀陸委員からは上げる必要はな いと、渡邊委員からは上げれば逆に残業が増えて長時間化するのではないかという意見 がありました。私としては、きちんと引き上げるべきだと思います。これは長谷川委員 が言ったように、均衡割増率で52%で、それより低いわけですから、新しい人を採用す るよりは残業をさせたほうが安上がりで済む、というのは歴然としたデータとして出さ れているだろうと思っています。  労基法第37条で、いわゆる25%の割増し、先ほど渡邊委員はペナルティだと言った けれども、ペナルティではなくて、逆に美徳になっているのではないかと思うのです。 どういうことかというと、先ほどの均衡割増率との関係もそうですけれども、もう1点 は年間の報酬から見ると、一時金は、例えば今年の労働白書で2005年の一時金について、 夏が1.2箇月、年末が1.32箇月、合わせて2.52箇月が全産業の平均ですよ、というのが 毎勤統計です。これを加算してみますと、実質的には2割5分増しではなくて、年間報 酬ベースでいえば1.0にほとんど近い時間外労働の手当でしかないのです。というのは、 現実的にそういうことを考えた場合に、人の採用よりは残業をさせたほうが企業にとっ ては非常にメリットがある。仕事の繁閑といいますか、業務量が増えて一時的なときに 残業はあり得ると思いますが、恒常的な残業をいかになくしていくかというのが課題で す。もう1点は本日も示されているデータで、資料No.1−2の2頁で30歳代の男性の4 人に1人が60時間以上働いているというのはあまりにも異常だろうと思います。つい先 日も、日本生産性本部のメンタルヘルス研究所で、30代がうつ的な精神疾患が非常に増 えているというデータも出されています。そういう意味では、残業させたほうが企業に とってもメリットがあるよというのは、安い割増しではなくて、やはり1.5をしたとし ても、実質的にいまの実効の割増しでは1.25ぐらいにしかならないだろうと思っていま す。そういう意味では、いまの1.25はあまりにも安すぎる。  本日、ホームページから引き出してきたのですけれども、厚生年金とか健康保険など は、双方修正が2003年に取られて、そのときの計算では、従業員1,000人以上だと、年 間の賞与で見ると、1,000人以上が35.6%を占めている。100〜999人は28.4%、10〜99 人は20.3%、したがって全産業を見るとほぼ3割ですねという形で、その3割を掛けた 形での社会保険料の徴収は始まっているわけです。労働者にとれば、徴収のほうは始ま っているのに、時間外の割増は月例賃金だけで1.25で2割5分増しのようだけれども、 実質的に年間の収入ベースで見れば1.0にほぼ近いような、全然ペナルティにも何にも なっていないような割増が、時間外がなくならない大きな要因ではないかと思います。  そういう意味では、一定時間数を超えたら割増を引き上げましょうなどというけちな ことを言っていないで、時間外の場合には割増は5割なら5割ですという形で、これは 企業の努力、労使関係の努力でやったら、やはり企業間競争があるから、どうしても引 き上げられないし、これは最低線を法律で定めるのがいちばんいいだろうと思います。 これを上げたからといって、国際競争力が落ちる問題ではないだろうと思います。また、 国内の企業間競争のレベルでいえば、一斉に引き上げれば競争ベースは一緒ですねと。 ただ、それを抜け駆けしようとしているのが不払残業で、これは労使・行政が一体とな って一掃していくことをやっていかなければいけないだろうと思います。  引き上げることが、競争力が落ちるのだとか、上げるのは反対だという経営者の論理 はムシが良すぎるな、という思いを強くしているものですから、意見として述べさせて もらいました。 ○分科会長 いまの点についていかがですか。 ○原川委員 中小企業の実態を申し上げたいと思います。私どもは、毎年労働事情実態 調査という、労働全般に関する項目を扱った調査をしております。対象は、全国5万企 業で、回収は大体4割程度という調査です。その回収の3分の2は30人以下という小規 模が占めている調査です。したがって、より小規模の色彩を色濃く出している調査だと いうことで、厚生労働省の調査とは若干趣・結果が違うというものです。  1人当たりの、月平均残業時間は、今年の4月1日時点で調査したものでは、全体の 平均時間は厚生労働省のほうは15時間程度という結果ですが、私どもの約2万近い回答 企業の平均は10.52時間となっています。内訳を見ますと、0時間が28.9%、1〜10時 間未満が26.5%、10〜20時間未満が20.5%、20〜30時間未満が13.6%、30〜50時間未 満が9.8%、50時間以上が0.7%という結果になっております。  この時間外労働時間については、小規模のほうが短い。規模で見ますと、中小企業の 中でも、例えば100〜300人よりは、30人以下の所のほうが残業時間が短いという結果 が出ています。ただ、4月1日現在での調査ですので、中小企業の場合には特殊事情が ありまして、取引先との関係があります。取引先というのは、大体、中小企業は自分の 規模より大きい所と取引をしている企業が多いわけです。特に、物づくり関係等では下 請制の企業が非常に多い。そういう所では、取引先自体、例えば大企業自体が国際競争 の中で激しい競争をやっていますので、取引先の中小企業に対しては非常に厳しいコス トダウンを要求してくるということがありまして、そういう点から、非常に悪い収益構 造が慢性化しているということがあります。  また、短納期発注が常態化しておりまして、企業として生存していく、従業員を雇用 していく、雇用を守っていく、そのためには赤字覚悟で仕事を受けざるを得ない。一旦 逃がした仕事は戻ってこないというような厳しい現実の中で経営者と従業員が一体とな ってやっているわけです。そういう厳しい一面がありまして、そういう構造的な取引の 状況というものがあって、限られた人数で、ある時期に突発的あるいは集中的に仕事が 入る。そういうところで中小企業は息をついているといっても過言ではない、そういう 状況に置かれているということでございます。したがって、そういうときには従業員あ るいは新しい人を雇用してその仕事に対応していく状態が続いている、ということでご ざいます。  もう1つ、先ほど言いましたような労働事情実態調査の結果を見ると、中小企業でも いろいろな努力をしているということをご紹介しておきたいのですが、従業員の生活に 配慮した労働時間制度あるいは休暇制度について、どのようなことを行っているかとい うことを今年の4月時点で調査をした結果が出ております。この結果を見ると、企業と してもさまざまな努力をしているということが結果として出ておりまして、例えば半日 休暇の付与が2万弱の回答企業のうちの40.8%あります。教育訓練あるいは研修休暇の 付与は33.7%、時間外労働の免除は31%。そのほか、これは3割近くのパーセントを示 すわけですが、週または月の所定労働日数の短縮、週または月の所定労働時間の短縮、 1日の所定労働時間の短縮、家族の介護休暇の付与、あるいは有給休暇の取得の勧奨と いうところが28%から30%ぐらいあるわけです。いま申し上げたように、さまざまな施 策を企業として努力で行っているということでございます。割増賃金を上げればそれで 解決するかというと、私もそうは思いませんけれども、こういう実態として企業が努力 をしているということも非常に重視する必要があると思います。 ○八野委員 いま素晴らしい制度を聞いたのですが、それは制度があるということでは ないですか。運用実態はどうなっているのですか。よくあるのが、さまざまな制度を労 使の中でつくりました。または、組合のない所は企業が独自に従業員代表の所と話をし てつくりましたと。ただし、その運用実態がどうなのか。いまのが全部100%使われて 非常に効率よく回っているということなのか。例えば、そういうものがあれば、運用が きちっと行われていれば、長時間労働とかもないかもしれませんし、非常に働きやすい 環境にあるのかもしれません。いまのものはすべての企業であるわけではなくて、そこ で言われた何パーセントかの所がやられているということで、実際は運用が伴っていな いかもしれない。だから、その辺のところがはっきりしなければいけないのだと思うの です。  労使の中ではそういうさまざまな取組みが行われていますが、その中で、問題は、こ の法律の中でどのようにしていくのかということなのではないかと思います。これは、 組合がある所と組合がない所、そういう所についても法律で決めていくということでは 均等に見ていくわけなので、そういう形の中で、日本の労働時間、長時間労働というも のをなくしていこうということなのだと思うのです。それぞれの企業がやっている制度 の議論をここでするわけではなく、努力をしているということは労使の中、企業の中で 進めていく。そして、その運用を上げていくということはもちろんのことなのだと思う のです。ですから、そういうものがありながらも長時間という実態があるものに対して どのようにしていくのか、ということをここで議論していかなくてはいけないのではな いか。そのように感じます。  そういう中で、割増賃金というところについて、いま法律の中でこれから決められて いくものがあり、経営が言われる経営のグローバルスタンダードを目指すのであれば、 労働条件のグローバルスタンダードを目指すべきなのではないか。アメリカンスタンダ ードではなくですよ、グローバルスタンダードを目指すべきなのではないかというふう に考えます。 ○原川委員 いまの調査は企業としてそういう制度を設けているかということで、なお かつ、それが行われているということが前提の調査でございます。それから、労働組合 の有無ということで、あたかも、労働組合がない中小企業は時間外が多いというように 聞こえましたが、私どものデータで労組有りと無しの所を比較しておりますので少しご 紹介したいと思います。月平均の先ほど申し上げたような従業員1人当たり残業時間で、 回答企業の9割は労働組合がないわけです。そこで見ると、労働組合がない所は平均が 10.05となっております。労働組合有りは1割ですが、企業数にすると1,367ですが、15.90 という時間になっております。中小企業は労働組合がないからといって労務管理がいい 加減だということには必ずしもならないということで一つ申し上げました。 ○八野委員 全くそんなことを言っているわけではなくて、私は労働組合が有る無しの 話をしたわけではありません。労使関係の中でつくられているでしょうし、会社として も進められている所があるでしょうと。そういう中で長時間労働ということが問題にな っているのだからという話なので、そのように受けとめられるのは非常に心外です。  それと、運用実態ということを言ったのは、その運用がかなり恒常的に多くの方たち が使っているというのであれば、それは素晴らしい制度なのではないかと評価いたしま す。次世代何とか法ではないですが、1人でも取ると、それは会社の実績です、という ような男性の育児休職の問題などもありましたが、経営に近いところの管理課の人が取 られている所が多いように報告では聞いておりますが、それでも1の運用ということで はなくて、もう少し運用を高めているのであればそれは素晴らしい制度なのではないか。 だから、運用実態がどうなのかということをお伺いしたということですので、受けとめ 方を間違えないようにしていただきたいと思います。 ○小山委員 先ほど原川委員がおっしゃられた中小の非常に厳しい状況というのは、 我々も中小の所が多い組合ですのでよくわかります。実際にコストダウンあるいは短納 期発注等で、その皺寄せが労働者が過重に働くというところで解消されるみたいな実態 があるわけです。また、この間、そのコストダウン要請の厳しさの中で、4、5年前な どは賃下げを労使で認め合って賃金を下げたり、所定労働時間も短くしてきたものを逆 に延ばすというような対処をしながら、厳しい企業環境の中で生き延びようと労使でや ってきましたから、その実態の厳しさというのはよくわかりますし、それこそ、こうい う実態の中でどういう労働時間の制度があるべきかということを、同じ土俵の中で議論 していかなければならないと思います。  その実態ですが、産業構造上の問題というのは、これまた公正取引の問題も含めて違 う観点からきちっとやるべき問題も1つあるだろうと思います。もう1つは、労働条件 等の問題でいけば、それを一つずつの企業の競争だけに委ねると、際限なく安売り競争 に行かざるを得ない実態になるわけです。それをどう社会的な公正な基準で担保するの かという観点から考えていかないと、弱いのは事実ですから、より引下げで対応するし かなくなるわけです。その社会的な公正競争をどうするかというところが、労働条件で 言えば、この労働基準法の中でしっかりと最低の基準を押さえていかないと、企業の努 力だけではどうにもならない実態にあるのがいまの日本の中小企業だろうと思います。  その意味で、ただ「特殊事情だから、厳しいから」ということでいつもおっしゃられ ますが、そうではなくて、むしろ、全体を引き上げていくための努力を、こうした労働 基準法を通じて底上げをしていくような取組みをしていかないと、永遠に特殊事情で終 わってしまうと思うのです。是非、そうした観点で割増賃金の問題あるいは年次有給休 暇の問題を含めて議論をして、共通の土台でお互いの労働条件を良くしていくことの努 力を進めていきたいと思います。被害者意識で基準法改正を考えるのではなくて、もっ と前向きに是非考えていただきたいということをお願いしておきたいと思います。 ○原川委員 別に被害者意識ではございませんで、我々も取引改善については中小企業 の団体として努力しているわけですが、結局、現実に中小企業というのはぎりぎりのと ころで生きている。雇用も、我が国の2次産業全体の7割の雇用になっているというこ とですから、企業はそうそう悠長なことは言っていられないということもあるわけです。 改善をすることはもちろん必要なのですが、じゃあ毎日毎日をどうするか。そういうこ とを考えながら冷や汗と必死の努力でやっているということであろうかと思います。で すから、その日生きていくことが先ず重要であるというような状況ですから、そう甘い ものではないと思っております。 ○廣見委員 先ほど来、考え方の問題あるいは実態の問題等について議論がなされてい るわけですが、私は、この機会にこの分科会として長時間労働の問題をきちっと問題と して押さえ、それに基本的にどのように対応していったらいいのかという具体的な案を 提示していくという非常に大切な機会ではないかと、基本的にはそのように思っていま す。その基本認識につきましては先ほど来お話が出ていたわけですが、確かに残業一般 の問題はあるのかもしれませんが、この機会に我々が認識し対応する必要があるのは、 二極化している非常に極端な長時間労働をしっかりと認識して、それにどういう有効な 手立てを講ずるべきなのかという観点からの議論がどうしても必要なのではなかろうか と、このように思っています。  そういう意味では、田島委員からだったでしょうか、先ほど紹介もありましたけれど も、この調査によりますと、30歳代の男性で週60時間以上働いている人が23.4%、約 4人に1人がそういう状態になっている。週60時間働くということは、40時間として、 残業が週20時間、月にすると80時間以上の長時間残業をやっているわけです。こうい う人たちが4人に1人という状態が、はたしていまの社会で許容されるものなのかどう か、ということを考えてみたときに、これは少し真剣に受けとるべき状況なのではなか ろうかという気がしてくるわけです。  30歳代といえば働き盛りであるし、これからの社会の担い手の中核であるわけです。 もちろん、いままでに少子化の問題との関連も縷々議論されております。そういうこと を考えると、これは一つの象徴的なデータなのかもしれませんが、そういうものをきち っと認識し、それに対して必要な手立てを講ずる必要があるのではないかという認識に 立ったときに、一体何ができるのか。確かに、いまここに出ているのは割増賃金と、そ れに代えての休日の付与、こういうものを検討してはどうかということが出ております。 私は両方とも検討が必要だろうと思いますし、それなりに大切な問題だと思っています。  もう1つ、いまここで具体的に申し上げるつもりはありませんが、全体としての状況 を考えるときに、ここにも資料が出ておりますが、36協定には限度基準が示されてい るわけです。しかし、その限度基準をどのように受けとめ、実際にどのように真剣に取 り組んでいくのかという問題を考えると、我々はもう少しその問題にも考慮していいの ではないかという気もしております。トータルとしての残業の問題、それに取り組むと すればそういう視点も必要なのかなという気もしております。  いずれにいたしましても、非常に長時間の労働に対してどういう手を打っていくのか ということに少し焦点を当てて、あるいは問題意識の中核はそこに置いて、それに対し てどうやっていったらいいのかということが必要なのかと思っております。もちろん、 使用者側委員の方々がいま縷々おっしゃっておられる厳しさというものはあろうと思い ます。しかし、もしも割増賃金に全く反対であるということであれば、それに代わって、 いまのような状況認識をするとすれば、どのような対応をして極端な長時間労働に対応 していったらいいのか、というものも少し考えていく必要があるのではなかろうかとい う気もいたします。そういう意味で、噛み合う議論ができれば大変結構なことではなか ろうかと思います。 ○分科会長 資料No.1−2の2頁に「30歳代男性の週60時間以上の者が4人に1人で ある」と。60時間を超えるということは、大体、帰るのが10時過ぎですよね。通勤時 間が1時間とすれば、11時過ぎにならないと帰れないという生活状況なのです。君島さ ん、こういう若い男性というのはいかがですか。 ○山下委員代理君島氏 私の主人もちょうど30歳代後半に差しかかったところですが、 問題意識に関しては全く同感でございまして、はっきり言って、長時間労働は悪である と認識しております。ただ、それを是正するにあたって割増賃金の率を上げるのがいち ばんいい手段なのかということに関しては、躊躇を感じています。と申しますのは、先 ほど谷川委員からも話がありましたように、企業内の自主的な努力はまだまだ足りない 部分があるのではないかと。特に、不払残業などは論外ですけれども、その長時間労働 に関しても、労使の話合いがまだまだ十分にされていない企業が多いのではないかとい う感じを持っております。  私どもの企業の一例を申し上げますと、長時間労働の問題はまだあります。過去2、 3年前ですか、これは抜本的に良くないということで是正手段を講じました。その1つ としては、労使が職場で話し合うということが非常に意味のあることで、従業員がなぜ 長時間働いているのかという声を聞くということです。聞いてみると、無駄が多いので す。例えば、15分会って対面で話をすれば済む話が、ホワイトカラーの弊害だと思いま すが、IT技術のあれですか、Eメールを延々と不耗に交換し続けて無駄に時間を使う。 あるいは、関係者が多すぎて意思決定に時間がかかるとか、上司が帰るまではなかなか 帰りづらい職場の雰囲気とか、そういうことが挙がってきた。  それを次から次へと叩いていこうということで、どんどん行動を起こしまして、例え ば週に1回は社長が職場を歩き回って「お前ら、帰れ」と言ったりする。あるいは、私 どもの中ではワークアウトなどと申していますけれども、いかに1つのプロジェクトを 効率的にやることができるかというのも、上司、部下に関係なくフランクな形で話し合 う、あるいは、上司に一時抜けてもらって部下だけで話し合って、効率的な仕事の仕方 を考えていくということをいたしましたら、時間は減るのです。  従業員のほうも非常にいろいろな労働者が出てきていますし、今日でもワーキングマ ザーですとか、あるいは、ワーキングマザーに限らず、ワーキングファーザーも家に帰 って家庭にも責任を持ってほしいということで、企業でもいろいろな努力をしているか と思います。ワーキングマザーなどですと、お尻が切られてこの時間までに帰らなけれ ばいけないということがあるので、その時間はますます集中して仕事をするわけです。 そうすると、労働時間が短く収まったりするわけで、企業側の努力もまだまだ足りない し、労働者側の意識改革もする余地がまだまだあるのではないかと考えております。 ○小山委員 長時間労働なりが与える健康への障害ということを考えると、制度として ほかに考えられることは何なのかということも検討しなければいけないと思うのです。 この間、労働側も何度か申し上げていますが、勤務時間から勤務時間のインターバルに ついて、一定の休息時間を義務づけるような制度を具体的に検討してみたらどうかとい うことです。  実際、先ほど座長もおっしゃられたとおり、夜11時に帰れればまだいいほうで、終電 車で帰って、あるいはタクシーで夜中に帰って、また朝出てきてということを連続して 繰り返しているとか、下手をすれば、家に帰らずに事務所で寝てまた仕事をしているな んていう実態がかなりあるわけです。やはり、勤務から勤務までの間にきちっとした時 間を置く。これは深夜労働等の場合は一定のルールがあると思うのですが、ホワイトカ ラーの働き方になると無制限にそこのところが行われていて、なおかつ、残業代が払わ れているか払われていないかわからないような実態が多いわけですから、是非、労働基 準法の中でそうした休息時間をしっかりと義務づけるという制度の検討を、いまの議論 の中の素材として検討していただきたいと思います。 ○谷川委員 事務局への質問も含めてなのですが、私も、先ほど廣見委員が言われたよ うに、この際に労働時間管理のあり方を徹底的に議論するのは極めて価値のあることで はないかと思うのです。そのときに、こういうような長時間労働になっている要因はど ういう要因か、あるいはその特徴があるのか。たまたま今日出ているデータでは、年齢 区分でこうですということですよね。30歳代だけが出ていて、4人に1人だということ ですが、年代層によって特徴があるのか職種によって特徴があるのか、これが何によっ て起因されているのか。それから、これは週で出ているのですが、これで全体を律する ように見られると非常に誤解が大きいと思うのです。  この前に委員会で出されたデータによると、1カ月以上の法定外労働時間の長いもの、 あるいは1年以上の長いものがあって、しかもこれは厚生労働省が調査結果をしていま す。これらについて、それらの要因分析みたいなものをされているのでしたら、それを 出していただくと共通的な課題として解決すべきこと、あるいは国が解決すべきこと、 企業が解決すべきこと、労使が解決すべきこと、その辺の解決する視点が見えてくるの ではないかという感じがするのです。そういうような解析をされたものはおありなので しょうか。ありましたらお教え願いたいと思います。 ○監督課長 いま手元に直ちにお示しできる資料はございませんので、その点につきま してはこちらのほうでまた検討させていただきたいと思います。 ○長谷川委員 先ほどの廣見委員が提起した話と、事務局がここに書いてある今後の検 討の方向の(1)で割賃が出されていて、割賃は労使の意見がかなり隔たりがあるようです が、これは検討してもらわなければいけないのですが、もう1つ、当該割増率の引上げ 分について、金銭での支払いに代えて有給の休日を付与することを選択したらどうかと いうことも書かれています。これは、例えば時間外をやりますね。この若い男の人で60 時間だとすると、60時間の時間外、残業代に25%の割賃を払わないで休日を与えるとい うわけですか、こういうことを提起しているのですか。廣見委員のもそういうことです か。時間外を払わないで休日を与えるということですか。 ○廣見委員 私が答えるのは適切かどうかわかりませんが、私がこれを見て思ったのは、 1つは一定の割増賃金を払う、上げる。それと、そういうことで対応するか、あるいは それに代えて有給の休日を付与する。それはどういう形で計算するのかはいろいろあり ますが、一定の残業時間が多くなったときに一定の換算方式でもって一定の有給の休日 の付与を義務づける。そういうことを検討してはどうかと書かれているのではないかと 私は理解しております。 ○長谷川委員 夢物語ですよね。というのは、大体、この世のものではないぐらい年休 の取得率が悪いわけでしょう。そうすると、いまの状態は何が起きているかというと、 分析するまでもなく、自分の職場を見ればわかるように、時間外はどんどん増えている。 やはり、働き盛りのところが増えているのです。私みたいな56歳の人に働けと言ったっ て無理だから、それは30歳代のところにしわ寄せがいくようになるのです。その人は結 果的に土曜日も日曜日も働いているわけですよ。夏休みもない。最初は計画年休で2週 間ぐらい入れるのだけれども、結局、間に合わなくなってみんな出てきて働いている。 これが現実です。  だから、今日の資料の1頁に出てくる60時間以上の人、30歳代、事業所で誰だか大 体わかる。これは誰と誰と誰だというぐらいはわかる話で、もしわからないとしたらも う少し自分の職場を見てほしいのだけど、9時出勤で、2時間の時間外だと夜の8時で すよね、3時間だと9時だと思うのです。そうすると、月火水木金を毎日2時間ずつ残 業して、これで10時間労働です。もし土曜日に働いたら、これは8プラス2だから10 時間なのです。60時間するということは、この人は土曜日も働いているのですよ。土曜 日が9時から8時間やって、時間外が2時間やって9時だから、この人は、結局、月曜 日から土曜日まで働いている。これで週の残業時間が20時間ですよね。1カ月で80時 間で、年間で960時間ですよ。そうすると、特別条項を使ってやっているのだと思うの です。1カ月で45時間で、360時間が限度だから、特別条項を使って960時間ぐらいや っているのだと思うのです。  これは60時間超ということは、1日3時間ぐらいの残業はやっている。職場で見るの は9時ぐらいではないですよね。10とか11時までやるから、実際はもっとやっていて、 960時間ではなくて1,000時間を超えていると思うのです。そういうのはよく職場で見 られる話で、それは中小は意外とないのだと私は思うのです。中小というのは労働者の 顔が見えるから、そんなふうに働いたら明日出てこれないだろうとか、1週間ぐらいや ったら具合が悪くなってしまうということがわかるから、意外と中小はそうはいないの だけれども、中小ではない所で特別条項を使っている所では必ず起きてくるのです。  そういうふうに、週休2日だといっても土曜日も働いていて、おそらく、こういう人 というのは、祝日なんかも働いているのです。そういう人たちにどこで休日を与えるの かといったら、今日事務局が出した話も、労側が全部ああでもないこうでもないと言う とあれなのですが、実際に休日を付与すると言ったって、どこでやるの、ないではない のとなってしまいます。 ○廣見委員 大方は、長谷川委員がおっしゃった点は、確かに実態としての問題がある と思うのです。ただ、休日を付与する余裕がどこにもないとすれば、問題の解決は全然 進まないのです。1つの違いは、おっしゃった例で言えば、年休の問題はまた別だろう と。年休は権利ベースの話でありますし、この代償あるいは代替としての休日をどう考 えるか、どう構成するかという問題にもつながるのですが、これはきちっと一定の期間 内に与えなければならないという構成をしないと、あまり意味がないような気がするの です。まさにそういう議論が必要なのでしょうが、これも使用者側委員の方がどのよう におっしゃるかというのはありますが、そういう形にして休日の付与を罰則で担保する か否かという議論もしなければいけません。そういう強制的な代替休日の付与という案 もかなりあり得るのではないか。  いま長谷川委員がおっしゃった大変基本的な問題は、たぶん、働き盛りの人の職場に おける要因の問題なのです。谷川委員が要因はどんなものがあるだろうとおっしゃいま したが、それはいろいろあるのでしょうけれども、想定されるのは、ベースは労働者数 とこなさなければならない仕事との関係なのだろうという気がするのです。だから、こ れはそう簡単ではなくて、罰則でそういうことを強要さえすれば状況が解消するのだろ うか、割賃を上げればそれで解消するのだろうかという問題にもつながるわけです。こ の割増賃金あるいは残業時間の問題は、非常に経済的なといいますか、全事業所の行為 や行動にもつながってきているわけですから、あるいは経済的な非常に重要な問題でも ありますから、そういう要因なりそういう問題もにらみながら、どのように問題に対応 しようとするのかということをやらない限り、なかなか解決策が見出だせない問題だろ うと。正直言ってそう思います。  ただ、残念ながら、そういう実態にあるからということで、割賃は1つの方法でしょ うが、割賃だけでもってそういう状態を抑え得るのかと考えたときに、そこは実態の問 題とすれば、いま言ったような代替休日も十分に議論に価すると思いますし、あるいは その他の手段も考えながら、あるいはまた、いま言った経済的な諸問題への配慮という ことも必要だろうと思うのです。そういう意味では確かに難しい問題ではありますが、 議論に価する1つの問題であるし、休日を表立てて対応できないのかなという気持は、 私個人としては持っているということだけは申し上げておきたいと思います。 ○岩出委員 お手元の資料に、53回の主要項目の労働時間法制研究会報告書の労働時間 に関する現状追加資料が行っていると思うのです。その11頁に、まさに、いま廣見委員 がおっしゃったように、人手不足が原因であるということが統計的に出ていると思うの です。我々もそう思っています。それから、今日の資料No.1−2ですか、結局、月に換 算すれば80時間というのは、はっきり言って、過重労働の労災の認定要件、あるいは面 接指導の努力義務の要件ですから、30歳代の約4分の1がほとんど過労死、過労自殺に なりかねないような異常な事態だということは認識しなければいけないと思っていま す。  そういう意味で、いろいろな判例を見ていても、人手不足をもって責任を転嫁できな いという言い方をしている判例もありますので、人員の問題は影響を与えざるを得ない と思う。それを最も導入しやすいのは、もちろん割増賃金の増減もそうでしょうし、休 日の付与なり、何らかの形で人員をケアするような方向に誘導しないと解決しないので はないかと私は思っております。 ○紀陸委員 1つ申し上げたいのは、企業経営への影響をどのように考えるか。これは 経営側からの視点から当然なのですが、先ほどグローバル化云々という話が出ましたけ れども、一時期、産業空洞化とか、盛んに言われましたよね。その動きが景気回復に伴 って声としては大きさが減ってきているような状況なのですが、実態は規模が小さけれ ば小さいほどぎりぎりで経営をやっている状況というのは変わっていない。相対的に労 働分配率も上がってきていますし、時間外労働の割合も高まっている。いろいろな意味 で企業経営を圧迫する要因が、ますます大きくなっているわけです。かつ、日本の賃金 水準の高さというのは依然として変わっていないわけですから、産業や企業によって差 異はありますが、総じて景気の悪い所は結構ありますから、空洞化の懸念というのはい つでも引き金を引けばすぐ起こり得る。  そんなに複雑な機械や設備を持って行かなくても、いまのままで行こうと思えばすぐ 行けてしまうし、行かざるを得ないような状況に置かれている企業が非常に多いのだと いうことは、私どもも認識しておくべきだと思うのです。この国だけでずっと会社が生 きていけると考えている企業はそんなにたくさんないはずです。大企業だから分けて部 分的に出て行けるでしょうが、中堅・中小になると分けて出て行けないから丸ごと行っ てしまうか、あるいはやめてしまうか、そういう選択肢しかないわけです。そういう企 業はたくさんある。  資料No.1−2の7頁に割増賃金の率があります。要するに、ここでは301人以上にな っているのでしょうが、中堅・中小だと2割5分で、こういうところを引き上げていく ことによって、いかに経営的なインパクトが出てくるか。それは非常に大事な話で、我々 はこの率をどのぐらい上げるかという論議をしているけれども、実は、これは雇用に非 常に大きな影響が出てくるかもしれない。大企業の時間外労働の割合が高くて割増率が 高いとなっていますが、おそらく、大企業は中小と比べて総体的に所定外が短いから時 間外労働が多いとか、あるいはホワイトの比率が高いとか、そういうことが原因で法定 時間外労働が高いのでしょうし、かつ、そこの部分の割増率を仮に中小より25%以上上 げてもいいなというこのゆとりがある部分ですよね。ところが、日本の大多数の場合に、 そうではない所がこういうところを上げていくとどうなるのか。雇用維持の圧力という のは非常に強いのだと思うのです。  正社員を抱えていくのも精一杯だし、逆の意味で、違った形の雇用の多様化といいま すか、非正社員を活用せざるを得ない。そこは、おそらく、割賃の対象外でしょうから、 そういうような働き方は大企業だって出てくるかもしれないのです。正社員のほうはい まの率を変えない。あるいは、確実に労働力供給が減ってくるわけですから、人数的に 比率的にどんどん抑えてしまって、あとは、非正規という言い方は悪いけれども、正社 員ではない方の働き方のあれに依存していくほうが高くなってくる。そういうことをき ちんと考えてこの問題を論議しないといけないと思うのです。  抽象的にこうだと考えて、一時期的にプレッシャーをかければ企業行動が変わるかと いったら、それこそ、企業経営はベトナムに行くか中国に行くかということを考えざる を得ないということはありますからね。先ほど言ったように、こけるか存続するかどっ ちかしか選べないような場合に、手は3つぐらいしかないですね。現実に、その仕事を すると雇用の多様化か効率化しかないわけです。そうすると、その場合に、結果的には 良かれと思ったことが逆の効果に出てきて、働く人にも企業にもダメージが出てくる。 私どもは、仮にですが、25を35に引き上げようという話が出ていますが、この数字を 見ても、おそらく、中小企業の人で時間外労働のあれを25にしてくれとか30にしてく れとか、そういう切実な要求をやっている所が本当にあるのか。そういう話ではないだ ろう。  25を35に上げようというのは、あくまで、企業に対してお金の面でプレッシャーを かけようとしているだけの数字にすぎないと思うのです。中小に行けば行くほど、個別 労働者が時間外割増を上げてくれということはないと思いますよ。だから、ここのとこ ろは、いま申し上げた雇用や経営への影響などを真剣に考えていただかないと、私ども はこの率をどのように上げるかという論議には乗れない。私どもは企業の代弁をしてい る立場ですが、雇用の代弁もしていると思っているのです。両面からは決して良い影響 が出てくるとは思えない。  しかも、割賃を上げることによって、長時間労働が是正されるということがあればい いですよ。そういう道筋は因果関係として見えない。健康管理の面で80とか100という 数字が出ていますが、あれだって医学的にどうのこうのといえば切りがない話ですよね。 どこかの学者さんがこうだと言ったら、その数字が独り歩きしているという、ちょっと 言い過ぎですが、意外とそういうことはあるでしょう。医学的に40とか70とか80とか 100とか、それと体のダメージというのは、そんなに因果関係でピシッと数字的に出る わけがないではないですか。いろいろな意見がありますよね。だから、こういう論議も 含めて、私どもはこの割賃の引上げについては非常に懸念を持っているということを最 後に繰り返して申し上げさせていただきます。  それから、廣見委員からお話が出ましたように、時間単位とか、ああいうものはニー ズがあればやればいい話で、管理が面倒くさくなったらやらなければいい話でして、結 局は個別の企業とニーズにおいてやっていただく、ということで行かざるを得ないよう な話だと思っているのです。女性の多い職場で地域の限られたような所では、ある程度 の管理が自由であれば、面倒くさくなくてニーズがあればやられればいいというぐらい の話だと思うのです。ところが、たくさんいる場合にはこれはちょっと面倒だと。確か に面倒になるのだと思うのです。そういうところは、その職場職場で話合いで変えられ るようにするような変更ならば是だ、という感じにならざるを得ないのだと思うのです。 ○廣見委員 いまの紀陸委員からのお話は、使用者側として、特に国際的視点からする 競争力の問題は、非常に重要な視点として考えておられることはよくわかります。日本 企業だって大変な状況の中で努力しておられる、それは私も重々承知しているつもりで す。ただ、この割賃の問題は、仮に上げるとすればそれだけコストアップになるのは当 然なことになってきますが、それは人件費の中のどの程度のウェイトを占め、他の人件 費との相関関係はどのようにして処理されるのかという実際の問題もあるわけです。そ ういう中で使用者側は、どのようにして全体の労務政策を展開していかれることになる のか。それと、先ほど来言っているような、非常に重要な、あるいは厳しい現状に対し てどう対応していこうとするのか。こういうところが視点としても重要なのではないか という気がするわけです。ですから、そこの辺りは、確かにコストの問題はそう簡単な 問題ではないと思いながら、幅広い視点からご検討されることを期待したいと私は思う のです。  もう1点は、それよりも実際に考え方をまとめなければいけないのは、おっしゃると おり、割賃を上げたときに本当に減るのか、抑止力になるのかという問題は、先ほど来 お聞きしていると労と使は真っ向から意見が違っているわけです。この辺りは実証しよ うのない問題かもしれませんが、少なくとも考えた整理はやるべき一つのポイントだろ うと、私もその点はそう思っています。 ○石塚委員 時間の制約があるので言うのを控えていたのですが、基本的な認識の問題 にかかわることで1点だけ申し上げておきたい点があります。何かといいますと、一般 的に、使用者側の主張は、ある制度改定を問題にするときに、雇用との関係を強調され るわけです。労働組合としても、制度改定を考えるときに雇用が大事だということは重々 承知しているわけであって、ある意味で、企業が倒産してしまえば労働条件もなくなっ てしまうわけですから、当然なことだと思っています。実際問題として、労働組合側の 行動様式も、ある決定的な局面においては、雇用を守るために労働条件の切下げを呑ん できたということだってあり得るわけです。  ただ、そういう経過に立ちつつもこの時間外労働を議論するときに、雇用との兼合い で議論するのにいろいろな回路があると思うのです。昔よく言われていたのは、日本は クビを切る自由はない、であるが故にある程度の時間外労働は必然なのだと。それをバ ッファーで持って、時間外労働の長さで景気のサイクルに挑戦して雇用を守るという機 能があるのだということはかなり言われてきたし、現実にそう信じている経営者も結構 いると思います。たぶん、そういう点もあると思いますが、現実を見ますと、この長期 不況の過程の中でも時間外労働は上がり下がりはありますけれども、激減という格好で 減っていませんよね。ということは、一定の機能があることは間違いないけれども、時 間外労働があるが故にそれに依存して、雇用調整機能がバッファーとしてあるというこ とは、少し落ちてきているのではないかというのは、現実認識としてやっていく必要が あるという点が1つです。  もう1つは、日本の企業は非常に雇用を大事にして守ってきている。これは我々も認 めます。ただ、1988年の例の金融危機以降、企業業績が悪くなるということと、現実に 希望者退職等々の雇用に手をつけるという距離が、近くなってきてしまっているのです。 ですから、雇用との兼合いで労働条件のいろいろな諸問題を考えるときにあまり抽象論 で考えないでほしい。確かに、そういう基本的な要因がいろいろな雇用を守るという意 義について、全面的に否定するものでも何でもないけれども、いざ現実というのは、明 らかに1988年以降の企業の行動様式と雇用調整のやり方、それから、この間における雇 用の多様化の問題、これは現実と違ってきていると思っていますので、その辺の認識を 冷静にする必要があるだろうという点が1つあります。  同じように、時間外割増率を上げれば雇用を失うぞという言い方をよくされるのです が、そんなに単純に結び付く問題ではないでしょう。おそらく、経営者としてはいろい ろな経営施策を打って最善の施策をやるはずですし、労働組合のほうもまともに議論を すれば経営施策に対していろいろな提言をするでしょうし、もっといろいろなことがあ り得るのだろうと思います。ですから、時間外労働25%を50%に上げたら、いきなり産 業がなくなって、企業がなくなって、アジアに行ってしまうぞという言い方は、プロパ ガンダとしてはいいわけですが、現実の中で個別労使の真剣な議論としては、ちょっと 次元が違うかなと思っていますので、その辺を強調しておきたいと思います。  ですから、何を言いたいかということですが、結果的に、ある産業にとってみれば、 時間が割増されたことによって産業基盤が揺らぐということに直結するかもわかりませ んが、おそらく、個別労使の労使交渉にとってみれば、そのことによって決定的な競争 力のマイナスになるのであれば、それは施策としてやりません。それ以外にも多様な経 営施策があるわけだから、それをやろうではないかという問題だと思います。  もう1点だけ申し上げておきたいことは、いまや、長時間労働という問題は、一企業 の合理性という観点から見ても、日本全体の合理性という観点から見ても、目に余ると いうところまできているのだと思います。ですから、一企業の合理性の問題のみならず、 日本全体の合理性を考えたときに、異常な長時間労働をどうやったら抑制できるのかと、 議論を展開するのがこの場ではないかと思っています。私としては、そういう基本的ス タンスでこれからも議論に参加したい。あえて蛇足でありますが、使用者側のご発言が 相当強烈なものでございますので、私のほうとしてはそのように考えたいと思います。 ○分科会長 資料No.1−1の2頁の時間単位の年休取得等についてはいかがですか。 ○石塚委員 しゃべってばかりで恐縮ですが、時間がなくなってしまうものですから、 申し上げておきたいと思います。時間単位の年休の話ですが、率直に言って、労側とし て建前論と本音とがありまして、建前論を言わせていただけば、もともと年次有給休暇 なのです。労働基準法の制定されたときの経緯からきますと、年次有給休暇であります から、まさに、年次における休暇制という問題が労基法で入ったときのベースの問題だ ったと思います。そういう意味において、そもそもが分割して与えること自身いかがな ものかというのが出発点、大昔にあったような気がいたします。ただ、現実問題として、 一括及び分割してという格好で分割されてきているという歴史的な経過がある。  したがって、労働組合としては、この年休というものを100%きっちりと権利として 取り、しかもそれが連続して取れるということが重要だと思っています。思っています が、悲しいかな現実は、私が言っていることと沿うのでありまして、現実はずれている わけであります。何かというと、非常に忙しい状況の中で、いろいろな環境の中で、時 間単位、半日単位にやってよかったという意見が結構あります。それから、率直に言っ て、時間単位で取れればなという意見もあります。  ですから、基本論からすれば、年次有給休暇の趣旨からすれば、もともとは連続だと 思いますが、1日単位が原則でありますし、せいぜい半日だということがあります。現 実の我々組合のニーズからすれば、時間単位だとありがたいというのが率直なところで す。ですから、一括して計画的に連続してということと時間で取るということは、やや 矛盾することを言っているかもわかりませんが、時間単位で取ることが推奨されていっ て、結果的に1日ないしはまとまって取ることが阻害されないようなことをきっちりと 考えるべきなのだろうし、施策として打つべきなのだろうと思っています。  それで、私どもが問題意識を持っているのは、年休の異常な取得率の低下です。ここ に出ているように約半分になっているわけであって、確かに、この10年間、15年間、 付与日数は拡大してきました。統計的にも15日ぐらいが18日ぐらいに上がってきてい るはずです。しかし、それに伴って、実際に取っている実日数は下がってきているわけ です。したがって、取得率も下がってきているということです。建前といいますか、労 働側の基本論から言えば、そうした我々のいろいろな取組みなり国の行政によって付与 日数が増えてきているにもかかわらず実行が伴っていない。すなわち、取得の実際の日 数が増えるどころか減ってきてしまっている。この問題に対して我々は真剣に考えなけ ればいけないだろう。  であれば、それは労側として、いわば建前論として、計画的にやるべきだとか、一括 でしか認めないということだけを言ったのが、結局、取得の現実的な日数を増やすこと になかなかつながっていかないのだろうということだと思っていますので、そこをもう 一歩踏み込んだ格好で取得日数を上げていかなければいけないのだろうと思います。こ う言いながらも、たぶん、この審議会の議論というのは、諸外国の一定のレベルの人間 から見れば、一体何をくだらない議論をしているのかと笑われそうな議論を我々はやっ ているのだろうと思っています。ですから、年次有給休暇というのは一括して取るのが 当たり前だし、計画的に取る、連続して取るのが当たり前だと。そして、その残余の日 数として小さい単位で取るということが出てくるのでしょうけれども、そうした少し恥 ずかしい面もありますが、もうすでに付与日数を拡大したということもありますが、現 実的に取れる日数、取る日数というものを一歩でも二歩でも上げていく施策を考えてい くべきなのだろう。いま政策的な見地からすれば、そちらのほうにやや軸足を移してや るべきことなのだろうと思っています。 ○渡邊佳英委員 年次有給休暇の時間単位の取得ということですが、そもそも、年次有 給休暇は労働者を休ませるという目的でありまして、時間単位で休日を付与するのは、 本来の目的からいうと若干馴染まないのではないかと思っています。また、多くの中小 企業は従業員の出退勤の管理はしておりますが、時間単位での管理はほとんどしていな いのが現実ではないかと思います。労使協定で導入するといいながらも、中小企業では 人事労務管理上、この導入は対応が非常に難しいということでして、この制度そのもの の導入には若干消極的にならざるを得ないということだと思います。 ○分科会長 それ以外に特にご意見ありませんか。そろそろ時間がまいりました。次回 の分科会からは、労働契約法制及び労働時間法制の関係の残りの部分についてご議論い ただきたいと思います。最後に、事務局から報告がございます。 ○監督課長 前回の9月29日の分科会で、「労働契約法制の検討の際、法律や判例の専 門的知識について、アドバイスをしてもらえるような仕組みは考えられないか」という ご指摘がありました。労働政策審議会令を見ますと、「専門の事項を調査させるために 必要があるときは、専門委員を置くことができる」こととされておりますので、労働契 約法制に関する法律や判例の専門的知識についてアドバイスをしていただくため、労働 契約法制の具体的な内容について検討を行うときに限って、新たに専門委員を労使1名 ずつ任命してはいかがと思いますが、いかがでしょうか。 ○分科会長 いまの事務局の提案につきましていかがですか。 (異議なし) ○分科会長 それでは、そのようにさせていただきたいと思います。次回の日程につき まして、事務局から説明をお願いします。 ○監督課長 次回の労働条件分科会は10月13日金曜日17時半から19時半まで、場所 は厚生労働省17階専用18、19、20会議室、ここの会議室で開催する予定でございます。 よろしくお願いいたします。 ○分科会長 本日の分科会はこれで終了いたします。本日の議事録の署名は、長谷川委 員と渡邊佳英委員です。よろしくお願いいたします。それでは、これで終わります。                  (照会先)                     労働基準局監督課企画係(内線5423)