資料5−4

【振動障害等の防止に係わる作業管理のあり方:検討課題】
に関する意見・考え

2006/10/23 株式会社マキタ 畝山

(表示)

・表示の対象とすべき振動工具をどう定義づけるか。

昭和57.3.24付け事務連絡「振動工具一覧表の送付について」にて『振動工具』とされるものに一部変更がなされていますが,S42 安発第8号,S49 基発第45号,S50 基発第608号,S63 基発第11号,H5 基発第203号 等に記載されている工具が『振動工具』とされていると考えています。

一方,ISO規格・EN規格等では工具群に対して振動測定方法を規定していますが,『振動工具』と一致するものがある一方,何れか一方にしか含まれない,又は振動を発生する工具であるにかかわらずいずれにも含まれていない工具があります。

『振動工具』と定義付けするならその定義を明らかにする必要があると思いますが,「工具が振動を発生し,その振動が使用者の健康や安全に悪影響を及ぼす可能性のある工具」又は「工具が発生し人体の手腕に伝わる振動が一定レベル以上の工具」と考えるなら,『振動工具』の範疇に入れるべき工具(群)の全面的な見直しが必要と考えます。

現在行われている分類については,別紙添付の“振動工具の分類状況”をご参照下さい。


普通「手持ち式」「手誘導式」工具とされていますが,可搬形も含め据え置き形で工具の振動を伝えうる部分(ハンドルなど)を操作する工具(JIS B 7762等に記載されていない卓上マルノコ,スライドマルノコ,切断機など)は,使用時の振動は大きくはないものもあるが,どのような分類とするか。


意図する工具の使用で発生する振動が明らかに小さいものである場合(例:ドリル,マルノコ,スライドマルノコ,マルノコ盤,振動クラッチ機構のないスクリュードライバ,シャーレンチ,切断機,バンドソー,ベルトサンダ,ポリッシャ,ブロア,等が考えられます)このような工具については「振動工具」の分類から除外する必要があると考えます。EU機械指令では,型式試験における振動値が2.5m/s2未満のものはその旨を記載することが義務付けられていますが,そのような方法を採用するのか,除外工具を指定するのか(メーカーにおいて確認のための測定は行う必要はありますが)を「振動工具」の定義付けとともに明確にしておくことで「振動作業」をはっきりできると思います。


動力工具には,膨大な種類があり新しい機構機能を持つものが次々と発生しています。それらに対し,工具名称をもって区分するのは適切でないと考えます。工具の動作機構で分類するなら,「振動障害HP」の次のような分類が参考になるかと考えます。基本的には「工具の意図する使用で発生する振動の大きさがある値以上のもの」をもって分類するのが適当ではないかと考えています。

1) 振動障害を起こすような局所振動を発生させる工具

[1] ピストン内蔵工具(打撃工具)

内蔵するフリーピストンの往復運動でたがね等を打撃し、この衝撃で金属、岩石等の穿孔、切削、ハツリ等の加工またはつき固め等を行う工具です。代表的な工具として削岩機、エアハンマー、電動ハンマーなどがあります。

[2] 内燃機関内蔵工具(可搬式のもの)

内燃機関(主として2サイクルガソリンエンジン)を動力源として回転するエンドレスチェーン、カッター等により加工物等を切断する工具です。この種の工具の振動は、主にエンジンの回転に伴い発生しますが、切断の際にも発生します。チェーンソー、刈払機、エンジンカッターなどがこの範ちゅうに入る代表的工具です。

[3] 振動体内蔵工具

偏心モーター、振動子等を内蔵し、これによって発生した振動を利用して、つき固め、充填または打抜き、切断等の板金加工等を行う工具です。 タイタンパー、バイブレーター、振動シャーなどが代表的な工具です。

[4] 回転工具

電動モーター、エアモーター等により回転するカッター、砥石等により研磨、研削、ハツリ、切断等の加工を行う工具をいい、工具それ自体は振動を発生しないが作業に伴い振動が発生します。代表的な工具としてはスインググラインダー、固定グラインダー、カッター 類などがあります。

[5] 締付工具

ナット、ビス等の締め付けに用いる工具であり、締付機構のクラッチの作動に際し、振動が発生します。各種エアレンチが代表的工具です。

・日曜大工等職域以外での使用が主用途なものを表示の対象とすべきか。

工具の発生する振動による人体への障害を防止するために,表示は販売されるすべての工具に対し表示が必要と考えます。しかし,市場の製品を考えると困難な面も予想されます。必ず表示しなければならないものは,職業的に工具を使用する人たち(プロ)が使用する工具であると考えます。(日曜大工等のアマチュアの工具使用は使用時間・使用期間とも非常に短くかつ継続して使用するケースは考えにくく,手腕振動障害発症の可能性は極めて低いと考えます。)

工具製造業者・販売業者とも,プロ使用を前提としたものか,アマチュア使用を前提としたものかの認識は持っており,その判断は可能と考えます。

ただ,プロがプロ用のもの,アマチュアがアマチュア用のものしか使わないと言う保証はありません。問題はプロがアマチュアを対象とした工具を購入し職業的に使用する場合となります。

販売されるチャンネルも考える必要があります。従来のように,プロは金物店などの専門店で,アマチュアはホームセンターなどで,という区分は無くなりつつあります。米国では大手ホームセンターがプロ用の工具を取りそろえて販売し,従来インダストリアルショップやハードウェアショップで工具を調達していたプロがホームセンターで調達する場合も増えています。

アマチュアがプロ用の工具を購入し,それにラベリングがあっても注意を喚起することにはなれ,不都合はないと思われますが,プロがアマチュア用に工具の購入しラベリングがないため不適切な使用を行う場合が問題となります。プロが職業用としてではなく家庭などで工具を使う場合も考えられますが,この場合,職業的使用に加え家庭などで同一日に長時間使用することは無いのではないかと考えられます。

この問題は,規制に当たって「家庭での使用などを前提とした工具についてはラベリングは必ずしも必要としないが,その場合は表示しない理由を記載する」等の内容を明確にし,製造・販売者にもその旨を徹底することで,相当部分回避できるのではないかと考えます。

すべての工具を対象とする場合,ホームセンターなどで廉価で販売されている開発途上国製品のメーカーが対応できない,又は虚偽表示をするといった恐れもあります。(虚偽表示については欧州市場で経験あり。一流海外メーカーは,欧州で対応しているため日本への対応は可能と考えます)

日曜大工等に使用される工具についても,その使用時間等についての注意を,予想される振動に関連させて取扱説明書に盛り込むことは必要であると考えます。

・海外からの輸入品についてどうすべきか。国内中小メーカーについてはどうするか。
<海外メーカーについて>

(1) 日本のメーカーも欧州への輸出については,機械指令・振動指令に従った対応をとっており,屋外機器騒音指令については指令に従ったラベリングを実施しています。

(2) 海外メーカーも,チェーンソーに関しては「チェーンソーの規格」を順守し,日本での検査・表示を行っています。

(3) 中国等,安価なアマチュア対象製品を製造・輸出しているメーカーの多くは対応できないところがあると推測します。そのようなメーカーについては,前記のような製品のランク付けを行い,表示をしなくてもよい分野とその条件を設定するのが良いのではないでしょうか?
測定設備を有するメーカーは多くはないと考えますが,測定が可能なメーカーは製品が該当すれば表示義務に従うことに異論を唱えることは無いと思われます。

(4) 海外メーカーが,日本の規定する測定方法に従えること(国際整合性を持つ測定規定であること)が重要になります。

したがって,日本で法的に実施することになれば,輸入品に対して規則(日本独自の規則で海外での対応が困難なものでない限り)に従うことを要請することは問題ないと考えます。

<中小メーカー>

中小の製造業者で,振動騒音測定設備を持たず,測定・表示が行えないところがあることが想定されます。それに対しては,

などが考えられます。いずれにせよ,行政レベルでの対応が必要と考えます。
・表示すべき事項は何か。どういった表示方法とすべきか(記号等の表示は必要か)。

振動(騒音)に対しては,表示すべき事項は [1] 振動値(騒音値):型式試験により得た値[2] 人体に対する危険度が推測できる表示の二つとなると思います。

[1] 振動値を表示する場合は,別に述べますが,表示値がどのようなものであって,どのように用いることで(リスクアセスメント等に)有効に活用できるか,手腕振動の基本・概念・人体への影響などの徹底した啓蒙教育を行うことが必須となると考えます。

[2] EU圏で用いられているトラフィックライトシステムに類似したものが適当かと考えます。これも,その表示内容とそれへの対応につき,徹底した啓蒙教育を行うことが必須となると考えます。

表示にあったっては,一見して何の表示であるかが理解できるような記号(絵記号)を併用できればよりよいと思います。

・ 騒音レベル、振動レベル等を表示すべきとして、騒音レベル、振動レベル等の測定、評価方法をどうするか。どういった国際・国内規格に準拠させるべきか。複数の規格を併用(一定の換算評価により、複数の国内・国際規格による準拠)を容認すべきか。
<測定>

振動については,9月に制定されたJIS B 7662シリーズを基本に置くことが出来ます。ただし,JIS B 7762は単軸測定ですので,

  • 測定値に係数(1.4〜1.7)を掛けて表示振動値とする,あるいは
  • JIS B 7762に準拠するが,測定は3軸で行い振動合成値を求める
ことで,評価値A(8)に適合できるようにする必要があります。

JIS B 7762に規定していない工具については,類似工具であれば参考に出来ますし,類似工具の規格がない場合は,測定詳細を明示させる必要があります

工具に表示する工具振動測定<案>

1)工具がJIS B 7762第2部〜第14部に規定するものに該当するもの,又はJIS B 7762第2部〜第14部に規定する工具と機構・構造が同等と考えられるものについては,JIS B 7762に従って測定を行う。

2)工具がJIS B 7762第2部〜第14部に規定するものに該当しない場合は,JIS B 7762第1部に準拠して測定を行う,又はJIS B 7761-2に従った実作業での測定で振動値を求めてもよい,これらの場合はその測定条件を明記する。

3)測定はJIS B 7762に規定する測定位置,又は通常作業者が工具使用時に保持する位置でx,y,z の3軸で行い,その3軸値からJIS B 7761-2に従い振動値をもとめる。

4)3軸測定が困難な場合は,JIS B 7762に規定する1軸で測定を行い,得た値を1.5倍したものを工具振動値とする。この場合,測定軸及び工具振動値が単軸値から求めたものであることを明記する

5)工具がエンジンチェーンソー又はエンジン刈払い機である場合,ISO 22867:2004に従い測定して得た振動値を工具振動値とするする。(ISO 22867を日本で利用できるようにすることが必要)

JIS B 7762ISO 8662IDTですので,国際整合性は保てます。測定にあたってはJIS B 7761-1-2ISO 8041:2005,ISO 5349-2:2001)及びISO 5349-1:2001(JIS B 7762-3として近く制定見込み)も参照することを明記することが必要です。

エンジンチェーンソー・刈払い機については,ISO 22867:2004に準拠するのがよいと思います(和訳を準備する必要あり,早急なJIS化検討の要あり)。

電動工具では,EN 60745(又はEN 50144)準拠も可能ですが,JIS B 7762での測定値と異なった値が生じる恐れもあります。これが準用できれば一部メーカーへの負担が低減される可能性がありますが,国際規格でないため適用は慎重に行うべきでしょう。


騒音については,現在日本で具体的な工具に対する騒音測定規定は,チェーンソーに対するS52 告示第85号及び騒音障害防止のためのガイドライン H4基発第546号であると思いますが,基発第546号は作業場での測定を規定したものであり,工具自体から発生する騒音を測定し,評価基準として工具に表示するためには適用できません。

国際規格では,ISO 15744:2002がNon-Electric power toolsの騒音測定を規定しています。工具測定条件はISO 8662に準拠したもので,EN 60745(次に記載)と同様マイクロフォン5本により,Noise Emission値を測定し不確かさKとともに宣言するための規格です(グラインダ,のこ,低回点のインパクトレンチなどの振動測定を無負荷で行う等,疑問点はありますが)。宣言は A補正放射音圧レベル・A補正音響パワーレベル,C補正ピーク音圧レベルとなっています。音響関係の引用国際規格は,ISO 3744,ISO 11203,IEC 60651,IEC 60804です。

林業用機械(エンジンチェーンソー,エンジン刈払い機)については,ISO 22868:2005があります。振動測定規定のISO 22867と一対をなすものでエンジン工具の特殊性を考慮した測定を規定しています。この規格は屋外機器騒音指令2000/14/ECに対応するものです。

EUでの電動工具に対する具体的な騒音測定規定はEN 60745になります。EU騒音指令では,音響パワーレベル・ピーク音圧レベルの対策値・限度値を規定していますが,これに準拠すべき具体的な工具に対する測定方法を規定しています。この規格は,振動測定と同じ測定条件で簡易化した騒音測定方法を規定しています。引用規格として,ISO 3744JIS Z 8733:MOD),ISO 11203(対応JIS無し)があげられ,ISO 4871EN ISO 4871)(対応JIS無し)に従って騒音放射値を宣言するとしていますが,振動測定を無負荷又は模擬負荷で行う工具については検討を要すと考えます。

(作業管理)エクスポージャーをどう考えるべきか。に記載した意見も参照願います。]

これら規格が引用しているISO規格に関連するものとしてISO 3745JIS Z 8732:IDT),ISO 11200(対応JIS無し),ISO 11201JIS Z 8737-1:IDT),ISO11202JIS Z 8737-2:IDT)があり,参照JISとしてはJIS Z 8737-1,JIS Z 8737-2,JIS Z 8732などが利用できるのではないでしょうか?

ただ,いずれも測定方法はかなり複雑で所用マイクロフォンも多数(若しくは移動可能式であること)必要なため,ISO 15744EN 60745のごとく簡易的な測定方法(マイクの数・配置)を規定するのがよいと考えます。個別工具への対応は,ISO 15744EN 60745のごとくJIS B 7762の振動測定と同じ条件とするのがよいと考えます。

騒音の人体への影響の基本的な概念を規定した国際規格としては,ISO 1999:1990(対応JIS無し),があり,このISO規格で8時間等価騒音値が定義されています。

工具の発生する騒音の人体に対する影響を評価するための騒音測定については,現在日本に存在する規格類で完全に対応することは難しいのではないかと思います。

日本産業衛生学会「許容濃度等の勧告 V 騒音の許容値」では測定はJIS Z 8731:1983による,とされていますが,JIS Z 8731:1983「騒音レベル測定方法」は1999年に改正されJIS Z 8731:1999「環境騒音の表示・測定方法」(ISO 1996-1:1982,ISO 1996-2:1983 MOD)となっており,工具の発生する騒音からの作業者への影響を測定するための規格としては適用に疑問があります(5. 測定)。[JIS Z 8731:1983では5.(4)作業環境における測定がありましたが,1999年改正版では削除されている。]また,この規格は現場での測定を規定したものであり,(型式試験とする場合)工具のどのような状態で測定すべきかが不明です。



振動測定とリンクさせ,適用できるJIS規格を応用した測定方法を規定する必要があるのではないでしょうか。(ISO規格のJIS化も視野に入れ,告示等で定めることは可能なのではないでしょうか?)



騒音レベルを表示する場合

騒音値の表示は,A特性音響パワーレベルLwA,A特性音圧レベルLpA及びC特性ピーク音圧レベルLpCpeakとする。

騒音レベル測定<案>

1)JIS B 7762に準拠して振動測定を行うものは,振動測定と同じ条件で行う。

2)エンジンチェーンソー及びエンジン刈払い機はISO 22868に準拠して行う。(ISO 22868を日本で使えるようにすることが必要)

3)1),2)以外は,その工具の典型的な使用条件で行う。この場合その条件を明記する。

<振動の評価>

振動の評価はISO・欧州・米国に準拠し,日振動曝露量A(8)を用いるべきです。

規制値については,欧州及び米国で採用されている,対策値2.5m/s2・限度値5m/s2を基準に,日本産業学会の勧告値2.8m/s2を考慮して設定するのが適切であろうと考えます。

具体的には,トラフィックライトシステムのようなカラー識別表示については,
欧州で行われているように限度値を基準に

[1] 1日8時間(以上)使用可能と考えられるレベルahw<5m/s2未満(対策値に対しては2時間)

[2] 1日2時間以上8時間未満使用可能 10m/s2>ahw≧5m/s2(対策値に対し30分〜2時間)

[3] 最大2時間までで,危険を考慮し十分な対策が必要 ahw≧10m/s2(対策値に対し30分未満)

が適当なのではないでしょうか。

日本では,A(8)・対策値・限度値の概念が普及するまでは,各上限値が許容値ではないことを

[1] 2時間までは問題なく使用可能であるが,それ以上は危険を伴う場合がある。

<2時間OK,8時間までは作業時間に注意>

[2] 30分までは問題なく使用可能であるが, それ以上は危険を伴う場合がある。2時間を超える場合は十分な注意が必要(振動値に応じ使用時間を考える)。8時間以上の使用は禁止。

<30分OK,2時間までは作業時間に注意,8時間以上禁止>

[3] 30分までの使用でも危険を伴う場合があるため使用注意(振動値に応じ使用時間を考える)。2時間以上の使用は禁止。

<作業時間に注意,2時間以上使用禁止>
のように対策値を意識した注意を喚起する必要があると考えます。

日本産業衛生学会勧告値2.8m/s2を,安全側に対策値の2.5m/s2で置き換えると考えれば,勧告値を盛り込んで対応できるのではないでしょうか。


騒音については,型式試験で得た値と実作業で暴露される値とが作業場の音響環境などにより異なりますので,型式試験値を持って規制することには疑問を感じます。

規制は,基発第546号のような作業場での実騒音に基づき行うのがよく,型式試験値は工具選定の際の比較のための参考とすべきでしょう。

(作業管理)エクスポージャーをどう考えるべきか。に記載した意見も参照願います。]

・どこに表示すべきか。機器に表示する以外に表示することが望ましい箇所があるか。

表示は,工具本体へのマーキング(ラベリング:ネームプレートに記載することは困難<現状でもネームプレートへの表示を規定された項目は多い>であるため,別ラベルを設けることになると考える),取扱説明書への記載(初期はその数値がどのようなものでどのように用いるべきものかの解説も加える又は解説書を同梱するのがよいと思います)の二つは必須,そしてカタログへの記載も考えるべきでしょう。その他,製品カートンへの表示等についてはメーカー裁量で出来るようにすべきと思います。

本体へのラベリングは,デザイン上の問題もあり現存機については困難もありますが,ぜひ実施すべきと考えます。

メーカーにとっては,工具ハウジングの金型修正が必要となる場合も考えられ,ラベルの製作,取扱説明書の版修正,等々,コスト・時間を要することになりますが,実施しなければならないことと考えています。

・すでに構造規格で表示が義務付けられているチェーンソーについては、どうすべきか。

構造規格の振動騒音の項目自体が国際整合性のない陳腐なものになっている現在,他の工具に整合させて改正すべきものと考えます。表示義務は当然継続(他の工具は新規になる)とすべきと考えます。

・ 構造規格の適用外である40CC未満の排気量のチェーンソーについても、表示制度を導入すべきか。

小型の(40cc未満の)機械について,どのような理由で除外されたのか理解しておりませんが,実際にこのような小型のものも職業用途に用いられているものがある以上,除外すべきでないと考えます。

ホビーユースや家庭使用目的のものは,先に述べましたように「職域以外での使用を目的とする工具」同様の扱いが可能かと思います。

・ 表示制度が導入されたとして、ある種類の振動工具が、いずれも高い振動レベルのものしか流通しておらず、このため、より低振動工具の選択ができないということは生じえないか。生じうるとして、この事態にどう対応すべきか。

生じえます。基本的には製造業者の新しい機種開発を待つこととなりますが,メーカーの事情(生産量・開発負荷・技術レベル・コスト等々)で早急な対応が不可能というケースも想定されます。

猶予期間措置である程度の対応は可能かと考えます。

基本的には,猶予期間を過ぎれば許容できない振動レベルの製品は使用を禁止すべきでしょう。

しかしながら,振動障害低減のために,危険であるという表示をした工具が市場に存在することで注意を喚起することもやむを得ないのではないでしょうか?

・すでに流通している振動工具についてはどう取り扱うべきか。

経過措置(移行期間措置:猶予期間)は必ず必要と考えます。

猶予期間内に,市場に投入される工具にラベリングを行うようにします。

猶予期間後も,市場(販売業者など)に,在庫で未表示のものが残っていることも十分考えられますが,これにつきメーカー又は販売業者が対応する(ラベル貼付等)ことは極めて困難です。

一定期間後は,該当工具の振動値がネット上等で公開され入手できるようにすることで,情報を利用できるようにする必要があると考えます(後述)。

(作業管理)

・ 作業管理の対象とすべき業務をどう位置づけるか。

『職業的に「振動工具(見直しが必要)」を使用する業務』,となると考えます。

『職業的に』の定義が必要となります。ある職業では振動工具を業務に使用するが,週に5日間使用することはない,といった場合もあり,仕事を行うために『振動工具』を使用することがあるものと規定すべきと考えます。

その使用時間,使用継続時間などで枠を決めると,漏れが生じる恐れが大きくなります。

ある一連の工程で一部のみ『振動工具』を用いる工程があれば,対象とすべきです。

また,事業者に雇用されている被雇用者群のみでなく,自営業者も間違いなく含めるような設定とすべきと考えます。

・指針で示されている作業管理項目に修正が必要か。

規制が決まれば,それをどのように実施させるかですが,具体的な内容については現在ある指針の見直しも含め別途検討する必要があろうと考えます。

・ 労働者に対する安全衛生教育にあたって、追加すべき教育項目があるか。

どのような基準を採用するかによりますが,現在テキストに用いられている,中災防・林災防などの振動作業についてのテキストの改正が必要となるであろうと考えます。

・メーカーの振動レベル表示値を作業時間規制にどう関連づけるべきか。

初期アセスメントのために,メーカーが表示する型式試験による振動レベルを,その工具を用いる標準的な作業で発生する振動と見なし,そのEmission値と工具使用時間とで作業者のExposure値の参考値が求められると考えます。その表示値から想定される人体への影響度に応じ,一日の延べ作業時間を制限することになると考えます。

基準は“振動値”“使用時間”から計算する日振動暴露量A(8)になります。

また,その作業が極めてまれであり,継続して行われることがないような場合には,日振動暴露量でなく,英国で考えられているような週振動暴露量A(8)weekのような概念を考える必要があるかも知れません。

“振動値”“使用時間”“振動暴露量”の関係を対象者に理解して貰うことが必須となります。

・ 林業において主に使用されているチェーンソーについては、大幅な作業時間の延長許容が考えられるが、前田先生の実態調査によると、チェーンソー取り扱い労働者の1日使用時間は2.7時間程度であるが、なおも新規振動障害が発生している。このような現状下で作業時間2時間規制を取り払うことが妥当か。

前田先生のレポートは,長期・広範囲に渡る調査ではなく,使用時間にしても「アンケートで書いていただいたときに,ほとんどの人が2時間規制の2時間以内でやっていますと言う答えが返ってきました。中には4時間とかかれる方もおりました。その平均を取ると2.7時間でした」とされています。第2回検討会での報告でも窺えることですが2時間規制は相当意識されており,アンケート等だと「2時間以内で使っている」にもかかわらず実際には2時間を大きく超えているケースが存在することが推測されます。この第3回でも「森林組合」で行ったアンケート調査での時間であり,「森林組合」の2時間規制への姿勢が回答に影響を及ぼしている可能性があります。また,この森林組合での振動障害発症については「白指的なことがありますか,と言う質問に対する答えとしては,どなたも「なかった」という回答でした。」とあります。

このことから,[1]本当にほとんどの人が2時間以内なのか?という疑問が生じますし, [2]白指的なことが全員になかったのであれば「平均2.7時間のこの森林組合では振動障害は発生していない」ということになり,2時間規制を取り払える可能性があるのではないでしょうか。[3]この森林組合で「平均2.7時間が間違いなく,かつ実は振動障害発生があった」ならば『このような状況下で作業時間2時間規制を取り払うこと』に妥当性はないことになりますが,実際にどうなのかは前田先生のレポートでは判定できないと思います。

ISO,日本産業衛生学会,EU指令,米国ANSI共にA(8)を判断基準に置いており,それは疫学的なデータの裏打ちがあるから,ということであれば,2時間規制に替えて日振動暴露量A(8)を基準にした規制に切り替えることに問題はないのではないかと考えます。

新規に振動障害を発症しているチェーンソー作業者が,間違いなく2時間以内しか作業をしておらず,かつ使用したチェーンソーの振動値(作業環境も考慮した上で)が2時間で問題を生じないはずのレベルのA(8)値になるものであれば,今までの議論を全面的に見直す必要が生じることになりますが,それについてのデータはあるのでしょうか?

・逆に、振動レベルが大きいものだと、1日当たりの作業時間が数秒というケースがありうるが、こうした場合に、1日あたりの作業時間規制以外に例えば1週間当たりの作業時間上限を許容する等の対応は必要ないか。

実際に「ある日に限り暴露限度値を超えるような作業が必要である(代替工具・工程が無く,その時にその作業者がその工程を行うことが必須)」ケースは想定されます。

EU振動指令を英国国内法とした,2005 No.1093 HEALTH AND SAFETY The Control of Vibration at Work Regulation 2005 では,特定の条件の場合,日振動暴露量A(8)に代え,連続した7日間における週振動曝露値A(8)weekを評価基準に用いることが出来る,とされています。

該当法令SCHEDULE I 及び6 (5)参照
特定のケースにおいては,このような評価を考慮する必要があるかもしれないと考えます。

しかし,1日あたり数秒間で規制値を超えるような作業が,何日も継続するならばA(8)weekは当然規制値を超えることになりますし,そのような作業は許容できるものではないことを明記し,どのような場合に適用できるのか,またそのような作業を避ける手段を見つけだすことが最重要であることを明記した上で,例外的適用として認めることを検討すべきと考えます。

・ 振動レベル以外に作業時間規制に影響させるべき要因はあるか。

健康診断結果,作業者の慢性病など??

・エクスポージャーをどう考えるべきか。作業現場における測定の必要性は。また、測定手法、測定頻度、評価方法は。測定評価結果をどう作業時間規制と関連づけられるか。

振動については,工具が発生する振動の大きさEmission と 工具を操作する人がそれに暴露される量Exposure の関係を明確にしておく必要があります。

Emission値と暴露時間との関係でExposureを計算する(日振動暴露量A(8)を求める)というのが,欧州の規格ですが,同様な基準を採用すべきです。

把持部分で測定するEmission値(型式試験で得るメーカー提供値と,現場で実際の作業を測定する現場測定値がありますが)とそれへの暴露時間をもって評価の基準日振動暴露量A(8)を求める方法しかないと考えます。

メーカーが提供できるのは,出来る限り工具が意図した使用方法で使用されるときに発生する振動を再現した“型式試験”での振動値に過ぎません。何度も議論されておりますが,この数値は,同じ分類の工具の振動の相互間の比較に用いることを主目的にしたものですが,振動暴露に係わる人体への影響(振動障害)の事前アセスメントに用いることも可能であろうと考えています(欧州では「製造業者が提供する数値による評価」がアセスメントの中で大きな比重を占めています)。

型式試験値に代え,個別作業での実際の振動値を得る現場測定値は,非常に現実的なアセスメントが行えることになりますが,この実施は極めて困難であろうと考えます。

実状に即したアセスメントを行う場合には現場での測定が必要になりますが,それはその特定の作業工程に対してのみ適用可能なものであり,作業・工程が異なれば又改めて測定を行う必要が生じます。現場での測定はそのような場合に行うものとしてはどうでしょうか。

現場での測定については,JISB 7761-2:2005によるものとなります。測定頻度は状況により決まるものと考えています(基本的には,測定後施設・設備・作業工程・作業方法などが変わったとき必要でしょう)。測定結果の評価はA(8)で行います。現場での測定により得た評価結果は,その作業に対し最優先で適用すべきものになり,作業時間はこの結果から導かねばなりません。

騒音については,工具が発生する振動を理想的に測定できたとしても,そのEmissionと作業者が受けるExposureに関係を見いだすのは困難ではないかと考えます。これは,作業者が暴露される騒音が工具から発生する騒音と作業場の音響環境の両方に影響されるからです。同一の工具で同一の作業者が同一の作業を行ったとしても,作業場の音響環境で暴露される(Exposure)騒音は大きく異なることが考えられるからです。

又,振動の場合は,同じ作業場所で複数の工具が使用されていたとしても,Emissionについては作業者へのExposureは使用している工具からのEmissionのみに影響を受けますが,騒音の場合は使用している工具からのEmissionに加え,周囲で使用されている工具からのEmissionも付加した暴露を受けることになります。工具単体のEmission値のみで騒音暴露の評価を行うことはこの意味からも問題があります。

騒音に関しては,H4基発第546号のような,実際の使用現場での測定を行うことが適切な評価を行うために必要なのではないでしょうか。

EU機械指令98/37/ECの規定 1.7.4 Instructions

(f) The instructions must give the following information concerning airborne noise emissions by the machinery, either the actual value or a value established on the basis of measurements made on identical machinery:

- equivalent continuous A-weighted sound pressure level at workstations, where this exceeds 70 dB(A); where this level does not exceed 70 dB(A), this fact must be indicated,

- peak C-weighted instantaneous sound pressure value at workstations, where this exceeds 63 Pa (130 dB in relation to 20 μPa),

- sound power level emitted by the machinery where the equivalent continuous A-weighted sound pressure level at workstations exceeds 85 dB(A).

In the case of very large machinery, instead of the sound power level, the equivalent continuous sound pressure levels at specified positions around the machinery may be indicated.

Where the harmonised standards are not applied, sound levels must be measured using the most appropriate method for the machinery.

The manufacturer must indicate the operating conditions of the machinery during measurement and what methods have been used for the measurement.

Where the workstation(s) are undefined or cannot be defined, sound pressure levels must be measured at a distance of 1 metre from the surface of the machinery and at a height of 1,60metres from the floor or access platform. The position and value of the maximum sound pressure must be indicated.

EN 60745は,ISO 3744JIS Z 8733:2000 MOD)に準拠し,反射面状の準自由音場(半無響室)での測定を規定しており,測定マイクロフォン位置は工具重心を中心とした半径1mの半球上5ヶ所としています。
 そして,半無響室での測定の問題を意識してか,6.1.2.1にて次を明記してあります。

NOTE It is not possible to simulate all conditions of practical use. A statement of process noise could therefore

  • be misleading and cause faulty assessmsnt of the risk in individual case,
  • discourage the development of more silent machine,
  • lead to low repeatability of measurements and thus cause problems when verifying declared noise values,
  • make the comparison of the noise emission from different tools difficult.

メーカーが工具の放射騒音値を提供できるのは,振動の場合と同じく「ある定められた条件下での型式試験で得た値」であり,実作業条件での騒音放射値を代表するものとはなりません。

騒音について工具表示又は取扱説明書記載を行う場合,その値はあくまでも型式試験で得たものであり,実際の作業現場での放射騒音は記載値と同等であるよりも大きい場合が多いことを周知させる必要があると考えます。

・作業時間規制以外に、小休止時間、連続作業時間に着目した対策は必要か。

第4回検討会で井奈波先生が指摘されたように,レイノー発症の恐れはないものの,他の障害の恐れ(頸・肩・筋骨格系等)に影響を及ぼす恐れのある長時間継続作業については,別途規制が必要と考えます。

現行のS50基発第608号(一連続昨行時間は,おおむね30分以内とし,一連続作業の後5分以上の休止時間を設けること)のような,連続作業時間の規制は必ず付帯すべきものと考えます。

また,環境等不適当な要因(寒冷・喫煙・医薬品の服用等)下では何らかの配慮を促すような内容を,現在行われていると同じく盛り込むことも必要でしょう。

・振動レベルの異なる振動レベルの振動工具を使用した場合の、作業時間規制への当てはめ、評価方法はどうすべきか。

複数の工具による振動暴露の総合評価(総合A(8)の計算方法)については,JIS B 7762-2,-3に規定されています。

この計算は多少複雑になりますので,英HSEなどがネット上で提供している“Vibration Calculator”のようなもの,又は現場で容易に用いることの出来るチャート等を無償で提供する方法を考えるべきと考えます。

A(8)の平方根を含む計算の煩雑さを逃れるため,欧州ではA(8)に代え,暴露量を点数で表す方法が取り入れられようとしています。一般ユーザにとってはA(8)を計算するよりも簡便に加算のみで暴露量評価が行えるこの点数制が受け入れられるかもしれません。

・振動工具管理者がなすべき作業時間管理方法はなにか。

作業者毎の,対象工具の振動レベル・使用時間把握とそれに基づく日振動曝露値の算出並びに評価 (もしくは,既知の工具振動値からの使用可能時間の算出)

その結果に基づく,作業時間の設定と作業管理

・表示制度が導入されたとして、当該制度開始前に製造・使用されている工具については、作業時間規制とどう関連づけるべきか。
移行期間(猶予期間)を設け,その間に
・騒音管理に関しては、現状の法規・ガイドラインに修正が必要か。修正が必要な場合、どういった事項か。

全体的な見直しが必要であろうと考えますが,具体的な点についてはまだ検討していません。

・騒音レベル(の表示)を作業時間規制に関連づけられるか。

振動は,個別使用工具の発生する振動(Emission)と作業者が暴露される振動(Exposure)に直接的な関係があり,型式試験で得た振動値を基に人体への影響を評価することは可能と思いますが,騒音は工具が発生する騒音とともに,作業環境(作業場)の音響特性が大きく関係してきます。工具が発生する騒音を型式試験で得たとしても,作業場で作業者が暴露される騒音との相関が想定できるとは考えられません。作業場の音響環境が類似していても,そこで使用される工具が複数あるばあい,騒音Exposureは大きく異なってきます。

騒音表示を行うなら,それは「工具間の比較」あるいはより低騒音の工具の選択の参考のために用いるべきであり,作業場の環境を考慮せずに,型式試験で得た騒音値を作業時間を規制する根拠に用いることは出来ないと考えます。

(その意味で,チェーンソーの規格に規定されている“無響室”での測定にどのような意味があるのか疑問です)

また,騒音については個人用保護具(イヤマフ,遮音ヘッドホン,耳栓など)を着用することにより暴露量を低減することが可能であり,振動に比べ低減対策がとりやすいのではないでしょうか。その意味でも,騒音値は作業時間を規制するために用いるより,騒音値に応じた保護具の着用を義務付けるための基準とすべきと考えます。騒音値を時間制限の根拠に使用するのは疑問です。

・ 作業時間が一番の振動予防の要因たりうるならば、その加除増減要因は取り入れられるか。例えば、保温服を着させているときは、作業時間をある程度のばしていいとか。そうはいかず、重畳的に措置を講じさせるべきか。

個人用保護具,例えば防振手袋を着用した場合作業可能時間の延長は可能か,といった議論を時々聞きますが,答えは「ノー」となると考えます。

保護具を着用した場合,Exposureがどれ程低減されるかという具体的なデータは現在存在しないと思います。

手袋の例で言えば,ISO 10819JIS T 8114としてJIS化される見込み)に適合する手袋であっても,ある周波数帯域に対する振動減衰率と別の帯域に対する減衰率とは異なるるわけで,着用の結果どれだけ人体への影響が緩和されるかは実験室的には推測できても,実作業においてそれがどのように実現され,どれ程の効果があるかに言及することは困難と考えます。

ISO 10819にも7.2Note

“The fulfillment of these criteria does not imply that the use of such gloves removes the hazard of vibration exposure.” また,“However, if such gloves fulfill the requirements regarding vibration transmissibility, they may have a beneficial effect when used in situation involving no contact between fingers and vibrating surface.”

と明記されているように,着用することによりHazardが無くなるものではなく,「可能性のあるHazardを軽減する可能性を持つが,その効果が確実に期待できるものではない」との認識が必要であろうと考えます。

したがって,作業時間をのばし得るものではなく,より安全を期すための手段(手袋には別に“保温”という効果も期待できますが,これとて,だからどれだけリスクを低減できるとはいえません)として,重畳的にとるべき措置とすべきであると考えます。

「防振手袋を着用させているから,2時間規制は関係ない。ずーっと使わせて構わないのだ」と話していた現場監督がいて説得に苦労した経験があります。

騒音用のイヤマフも,騒音暴露低減効果は認められるものの,着用によりどれ程の低減が確実になるかは,着用状態や方法でその効果は変わってきますので,あくまで「騒音暴露をより少なくする」ことを目的に重畳的にとるべき措置とすべきであると考えます。

・万が一、作業時間規制を超えた場合に施すべき追加対策は何か。あるいは、そういった対策は盛り込むべきではないと考えるべきか。

障害発症を予防するための措置である以上,定めた限度値を超えての使用は絶対に認めるべきではなく,規制値を超えたならば直ちに作業を中止しなければならず,その作業の継続又は他の振動作業に就くことを厳格に禁止すべきです。

超えた場合への追加対策を盛り込むことは,抜け道を作ることになりかねず,検討している規制の意図から逸脱するものとなりかねませんので,考えるべきではないと思います。

超えた場合への対策は,EU指令のごとく適切なアフターフォローを行うことしかあり得ません。

・その他現状の指針による作業管理項目に追加修正すべき事項はあるか。

全体的な検討を要するであろうと考えていますが,具体案はまだ考えていません。

意見・要望・その他

振動(騒音)障害低減のためにその暴露量を制限する場合,最も重要なのは「そこに用いられる言葉の意味」を関連する人たちが共有し認識することであろうと考えます。

振動について言えば,用いられるであろう言葉

    振動値 ahw
    作業時間
    日振動暴露量 A(8)
    手腕振動補正値 Wh
    振動加速度実効値
    振動合成値 ahv
    『振動工具』
    『振動作業』
そして,   振動暴露
    振動の人体(手腕)に与える影響とその理由
    振動障害
    振動障害を避ける方法

等々が正しく理解され,認識されることが重要です。

特に,振動値(振動レベル):m/s2,振動暴露量A(8):m/s2,3軸振動などは,日本の工具使用者/事業者にとっては新しい概念であり,これらが理解されない限り暴露を制限する規制が作られてもその効果は期待できないのではないでしょうか?


従来,中災防・林災防等から発行されている「振動工具通り扱い」に対するハンドブック・テキスト等が用いられてきていますが,これらは,最新の関連するJIS規格で整合性を確保所用としている現在の国際標準(ISOなど)とは整合性を持たない古いJISを基礎とした基発等に基づいたものであり,これらのテキスト類は,早急な改正が必要になります。


欧州では,振動(全身・手腕とも)に関し,多くの資料が発行され,その内の多くはネット上から無料でダウンロードできるようになっています。

英国HSEがVibration Home Pageで多くの資料などを無償提供し,また多くの参考図書・CD等を有償提供していますが,最近,EU内の各種団体が共同で開設した The VIBGUIDE project からも有用な情報が提供されています(EU Good Practice Guide HAV : Guide to good practice on Hand-Arm Vibration:無料でダウンロード可能な61ページに及ぶ解説書)。

欧州では,これら公的な資料をベースにし,メーカー・供給業者・業界団体などが,雇用者・ユーザーに情報を提供しています。情報源が公的なものであり,かつ公的機関もそれを用いた民間の情報提供をバックアップしているため,市場には多くの情報が提供されているに係わらずすべてが整合性の取れたものになっています。

日本では振動作業管理・教育用のテキストなどは中災防・林災防などから発行されているものが多く,これらが講習会等の教材として用いられていますが,広範囲に振動問題の啓蒙を行うためのはより広く情報を(安価に,出来れば無償で)入手しやすい形で提供することが必要になると考えます。その内容の更新も必要です。

当然,工具メーカーもそれに貢献すべきですが,基準となる公的な啓蒙・指導書に基づき行うべきであり,メーカーの独自判断に委ねると,一貫性を欠き不適切な競争を煽る原因となりかねないことに注意が必要です。


何よりも必要なのは,振動の概念・評価方法・評価結果をどのように適用するか等々につき,行政側からの徹底した啓蒙教育宣伝を行うことではないのでしょうか。


規制実施においては,振動暴露量の算定がいつでも容易に現場で行えることが重要になります。HSEのVibration Calculatorのように,パソコン上で数値を入力すれば即座に結果が得られるようなソフトの無償配布あるいは手計算の補助となるHand-arm vibration exposure nomogramのようなものを大規模に提供することも必要になるかと考えます。

工具の発生する振動については,メーカー側から提供する(ラベリングされる)型式試験値と,実際の使用における振動値に差異がある可能性にも言及する必要があり,どの数値を用いて評価するかの指針も必要でしょう。

<提案>

工具の振動値は,工具へのラベリング・取扱説明書への記載等でなされることになると思いますが,ユーザーが工具購入時に類似機種との比較を行おうとする場合,該当する工具現物又は取扱説明書を見なければ比較できないこととなり,購入前比較に不便あるいは困難となることが想定されます。又購入した工具や使用中の工具と市場にある工具との振動値比較も同様に困難を伴います。

各社のカタログに記載されていれば抽出比較は比較的容易になりますが,必要なカタログがすべて揃うとは限らず,ここでも不便又は困難が生じる恐れがあります。

これを解決するために,市場で販売されている工具の振動値のデータベースを公的機関などで一括管理し,インターネット上で公開するシステムを提案します。

私の知っている範囲でも,ドイツとスウェーデンにそのようなサイトがあり,そこでは各社各種の工具の振動値がデータベースとして公開されており,ユーザーはインターネット環境さえあれば居ながらにして目的の工具の振動値を知ることが出来ます。

日本で行うとすれば,中災防などが各社の工具の振動値を収集してデータベースを作成し公開するような方法がとれるのではないかと考えています。ここで,手腕振動に関する各種資料の公開やQ&Aなども行えれば,おおいに有効に利用されるのではないでしょうか。

また,国内で入手可能な振動測定器・防振手袋などの保護具の情報も提供できると思います。

HSEが公開しているような,振動低減を実現した事例,時々のトピックスなども公開できれば更に有用性が高まるものと思います。


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