資料5−3

平成18年10月20日
独立行政法人
労働安全衛生総合研究所
前田節雄

「検討課題に対する考え方」

下記の検討への回答には、下記のことが前提です。

工具の振動のラベリングの実施の前提には、1日2時間以下という作業時間規制の見直しも関連してくると思います。どちらを考えますときに、わが国として、EU Directiveが定義しているEAV(暴露対策値)あるいはELV(暴露限界値)の考え方を取り入れることが前提でないと駄目だと思います。このEUの考え方をアメリカが取り入れたように、わが国も取り入れるのかどうかを知ることができればと思います。

また、この検討会のスタートの時の考え方は、作業者や事業主が手腕振動暴露による振動障害を発症しないように、購入時に工具別のリスクが事前に把握できるようにすることが初期の目標であったと思います。そのためには、そのリスクを把握するための振動の基準をEU Directiveの値を取り入れ、その値を基にしたラベリングやその工具を現場で使用したときの事前リスク評価が出来るようなものを考えることであったと思います。実現場での工具使用によります暴露評価に関しては次の段階であると考えて、スタートしたと思います。

(表示)

・ 表示の対象とすべき振動工具をどう定義づけるか。

振動工具を定義づけしましても、その工具の振動値をメーカーから宣言してもらう場合に、メーカーが振動を共通に宣言できるためには試験規則が必要になると考ますが、全ての工具に対してそのような試験規則は存在していないのが現状である。このような現状であるので、振動工具を「機器およびワークピースから振動が発生し人体の手腕に振動を伝達するもの」と定義する必要があると思います。そして、わが国で取り入れるEAVかELVの考え方で、表示を考える必要があると思います。

・ 日曜大工等職域以外での使用が主用途なものを表示の対象とすべきか。

表示は必要と考えます。

・ 海外からの輸入品についてどうすべきか。国内中小メーカーについてはどうするか。

全て表示は必要だと思います。国内中小メーカーも、作業者を振動障害から守る義務はあると思いますので、それなりに表示のためのデータを出していただく必要はあると思います。試験方法は、ISO 5349-1とISO 53490-2などの方法ですと、中小メーカーでも対応は可能と考えます。

・ 表示すべき事項は何か。どういった表示方法とすべきか(記号等の表示は必要か)。

EAVやELVが設定された時点で、作業時間の閾値を設定すれば、「カラー表示」がいいように思います。数値ではなかなか伝わりにくいと思います。ただ、カタログや工具の使用説明書には、数字とそれに対応するようなカラー表示の説明を付け加える必要があると思います。

・ 騒音レベル、振動レベル等を表示すべきとして、騒音レベル、振動レベル等の測定、評価方法をどうするか。どういった国際・ 国内規格に準拠させるべきか。複数の規格を併用(一定の換算評価により、複数の国内・ 国際規格による準拠)を容認すべきか。

わが国には、もうほとんど国際整合性の取れますJIS規格がありますので、問題は少ないと思います。JIS B 7761-1,-2-3:JIS B 7762-1〜-14などがメインの規格になると思います。

・ どこに表示すべきか。機器に表示する以外に表示することが望ましい箇所があるか。

カタログや取扱説明書にも、その機器からの宣言値に対しての説明が必要であると思います。

・ すでに構造規格で表示が義務付けられているチェーンソーについては、どうすべきか。

この構造規格内容は非常に古いので、内容の見直しが必要であると考えます。国際整合が取れておりませんので。

・ 構造規格の適用外である40CC未満の排気量のチェーンソーについても、表示制度を導入すべきか。

導入は必要です。

・ 表示制度が導入されたとして、ある種類の振動工具が、いずれも高い振動レベルのものしか流通しておらず、このため、より低振動工具の選択ができないということは生じえないか。生じうるとして、この事態にどう対応すべきか。

これまでこのような事が考えられずに作業が実施され、作業改善方法などを考えるきっかけがありませんでしたので、今回、わが国がEAVやELVを取り入れることにより、作業者や事業主が振動工具のリスクを理解し、作業改善のためのきっかけになることが、今回の表示システム取り入れの目的だと考えております。メーカーも考えるきっかけになると思います。

・ すでに流通している振動工具についてはどう取り扱うべきか。

表示のスタートは新しい工具に対してと考えます。現在、現場で使用されている工具については、現場での暴露評価の方法で管理することになると思います。そして、古い工具に関しては、使用期限を設け、その時までに使用を制限する必要が出てくると思います。猶予期間の設定です。

今回の表示システムを国として実施していくためには、上に示します図のようなシステムを考える必要があると思います。このようなシステムを構築することにより、事業主・ 作業者・ 工具メーカー・ 組合などが、工具のリスクを理解し、安全な工具の選定と購入を考えることが可能になると考えられると思います。工具のリスク評価には、評価の基準になりますEAVやELVの値をいくらとして考えるかの国の決定が必要になると思います。基本的にはEU Directiveのわが国への取入れが必要と考えます。

(作業管理)

・ 作業管理の対象とすべき業務をどう位置づけるか。

手に振動が伝達する作業全てを対象業務とするべきであると考えます。

・ 指針で示されている作業管理項目に修正が必要か。

わが国がEU Directiveを取り入れるかどうかによって修正事項が出てくると思います。

・ 労働者に対する安全衛生教育にあたって、追加すべき教育項目があるか。

これの上記の項目と同じで、わが国が何を取り入れるかによって変わってくると思います。

・ メーカーの振動レベル表示値を作業時間規制にどう関連づけるべきか。

この図に示すように、メーカーから宣言され、中災防などにより作成されたデータベースがあれば、工具別の作業時間や各作業でのリスクを事前に把握することが出来ると考えます。どの値をわが国として設定するかが問題ですが、それが決まり、EU DirectiveやISOのような時間依存性を取り入れるとしますと、おのずと作業時間が工具の振動値や使用工具の種類により作業時間が決まってくると思います。

・ 林業において主に使用されているチェーンソーについては、大幅な作業時間の延長許容が考えられるが、前田先生の実態調査によると、チェーンソー取り扱い労働者の1日使用時間は2.7時間程度であるが、なおも新規振動障害が発生している。このような現状下で作業時間2時間規制を取り払うことが妥当か。

この調査は非常に限定されました森林組合での結果ですので。チェーンソーもエンジンの大きさで振動値が異なりますので、林業作業で使用されますチェーンソーについても今回取り入れようと考えております表示や作業管理は必要と考えます。

・ 逆に、振動レベルが大きいものだと、1日当たりの作業時間が数秒というケースがありうるが、こうした場合に、1日あたりの作業時間規制以外に例えば1週間当たりの作業時間上限を許容する等の対応は必要ないか。

可能性として考えられると思います。これも、わが国としてどのように考えるかで異なってくると思います。

・ 振動レベル以外に作業時間規制に影響させるべき要因はあるか。

いろいろ考えられると思いますが、現状のEU Directiveなどでは、手腕振動障害の発症を抑えるために振動値でしか考えておりませんので。当面は、振動値の規制でOKだと思います。

・ エクスポージャーをどう考えるべきか。作業現場における測定の必要性は。また、測定手法、測定頻度、評価方法は。測定評価結果をどう作業時間規制と関連づけられるか。

今回の検討会では、表示がメインであるので、エクスポージャーのことは考えておりません。ただ、将来的には、作業現場での測定の必要性はあると考えます。これも、わが国として、エキスポージャー値を各作業現場でこのように測定管理するように事業主に義務付ける必要があると思います。この部分は、国としてどうするかを決定する必要があると思います。

・ 作業時間規制以外に、小休止時間、連続作業時間に着目した対策は必要か。

これまでのEU DirectiveやISOの疫学的データは、作業者の従事年数期間での振動暴露量と影響との関係から得られた基準値であるので、小休止時間や連続作業時間に関しての対策は困難である。ただ、添付の論文にありますように、小休止時間や連続作業時間に関して、小休止の必要性も明らかになっていますので、多少、入れる必要はあると思います。

・ 振動レベルの異なる振動レベルの振動工具を使用した場合の、作業時間規制への当てはめ、評価方法はどうすべきか。

これに関しましては、下記のような複数の工具を使用した場合の計算が出来ますカリキュレーターを作成しておりますので、これを配布することにより、リスク評価は可能であると考えます。

・ 振動工具管理者がなすべき作業時間管理方法はなにか。
・ 表示制度が導入されたとして、当該制度開始前に製造・ 使用されている工具については、作業時間規制とどう関連づけるべきか。

これも、わが国決定に依存すると思います。古い工具に関しては、作業現場での測定値により規制するとして、リスク管理をすると決めれば、作業時間規制と連動できると思います。

・ 騒音管理に関しては、現状の法規・ ガイドラインに修正が必要か。修正が必要な場合、どういった事項か。

これもわが国の決定内容によって決まってくると思います。

・ 騒音レベル(の表示)を作業時間規制に関連づけられるか。

騒音値に関してもEU Directiveの考え方を取り入れるかどうかに依存すると思います。

・ 作業時間が一番の振動予防の要因たりうるならば、その加除増減要因は取り入れられるか。例えば、保温服を着させているときは、作業時間をある程度のばしていいとか。そうはいかず、重畳的に措置を講じさせるべきか。

アメリカでは、防振手袋の有効性を書きの論文で示している。そして、この内容をANSI S2.70-2006規格に引用している。また、防振手袋の評価には、ISO 10819を用いている。また、アメリカはこれを、ANSI S3.40/ISO 10819として取り入れている。わが国もISO 10819をJIS T 8114に取り入れる改定作業を平成17年度に実施している。従って、わが国でもこのJIS T 8114が改定発行されれば、使用できる防振手袋の推奨を実施することが可能である。

Jetzer, T., Haydon,P., and Reynolds,D., “Effective Intervention with Ergonomics, Antivibration Gloves, and Medical Surveillance to Minimize Hand-Arm Vibration Hazards in the Workplace,” Journal of Occupational Environmental Medicine, Vol.45.pp.1312-1317, 2003.

・ 万が一、作業時間規制を超えた場合に施すべき追加対策は何か。あるいは、そういった対策は盛り込むべきではないと考えるべきか。

作業時間規制を超えた場合は、作業をストップさせるようにするべきである。

・ その他現状の指針による作業管理項目に追加修正すべき事項はあるか。

わが国として、どのような方針で行くのかにより、追加修正事項が異なってくると思います。


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