主な裁判例

 <期間の定めのある労働契約に関する裁判例>
 東芝柳町工場事件(昭和49年最高裁第一小法廷判決)
 日立メディコ事件(昭和61年最高裁第一小法廷判決)



<有期労働契約に関する裁判例>

東芝柳町工場事件(昭和49年最高裁第一小法廷判決)

(事案の概要)
 Xらは、Yに契約期間を2か月と記載してある臨時従業員としての労働契約書を取り交わした上で基幹臨時工として雇い入れられた者であるが、当該契約が5回ないし23回にわたって更新された後、YはXに雇止めの意思表示をした。
 Yにおける基幹臨時工は、採用基準、給与体系、労働時間、適用される就業規則等において本工と異なる取扱いをされ、本工労働組合に加入し得ず、労働協約の適用もないが、その従事する仕事の種類、内容の点において本工と差異はない。基幹臨時工が2か月の期間満了によって雇止めされた事例はなく、自ら希望して退職するもののほか、そのほとんどが長期間にわたって継続雇用されている。Yの臨時従業員就業規則(臨就規)の年次有給休暇の規定は1年以上の雇用を予定しており、1年以上継続して雇用された臨時工は、試験を経て本工に登用することとなっているが、右試験で不合格となった者でも、相当数の者が引き続き雇用されている。
 Xらの採用に際しては、Y側に長期継続雇用、本工への登用を期待させるような言動があり、Xらも期間の定めにかかわらず継続雇用されるものと信じて契約書を取り交わしたのであり、本工に登用されることを強く希望していたという事情があった。また、Xらとの契約更新に当たっては、必ずしも契約期間満了の都度直ちに新契約締結の手続がとられていたわけではなかった。

(判決の要旨)
 原判決は、本件各労働契約は、当事者双方ともいずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったものと解するのが相当であり、したがって、期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならず、本件各雇止めの意思表示は右のような契約を終了させる趣旨のもとにされたのであるから、実質において解雇の意思表示にあたる、とするのであり、また、そうである以上、本件各雇止めの効力の判断に当たっては、その実質にかんがみ、解雇に関する法理を類推すべきであることが明らかであって、上記の事実関係のもとにおけるその認定判断は、正当として首肯することができ、その過程に所論の違法はない。
 就業規則に解雇事由が明示されている場合には、解雇は就業規則の適用として行われるものであり、したがってその効力も右解雇事由の存否のいかんによって決せらるべきであるが、右事由に形式的に該当する場合でも、それを理由とする解雇が著しく苛酷にわたる等相当でないときは解雇権を行使することができないものと解すべきである。
 本件臨時従業員就業規則8条はYにおける基幹臨時工の解雇事由を列記しており、そのうち同条3号は契約期間の満了を解雇事由として掲げているが、本件各労働契約が期間の終了毎に当然更新を重ねて実質上期間の定めのない契約と異ならない状態にあったこと、Yにおける基幹臨時工の採用、雇止めの実態、その作業内容、Xらの採用時及びその後におけるXらに対するY側の言動等にかんがみるときは、本件労働契約においては、単に期間が満了したという理由だけではYにおいては雇止めを行わず、Xらもまたこれを期待、信頼し、このような相互関係のもとに労働契約関係が存続、維持されてきたものというべきである。そして、このような場合には、経済事情の変動により剰員を生じる等Yにおいて従来の取扱いを変更して右条項を発動してもやむを得ないと認められる特段の事情の存しないかぎり、期間満了を理由として雇止めをすることは、信義則上からも許されないものといわなければならない。しかるに、この点につきYはなんら主張立証するところがないのである。
 もっとも、前記のように臨就規8条は、期間中における解雇事由を列記しているから、これらの事由に該当する場合には雇止めをすることも許されると言うべきであるが、この点につき原判決はYの主張する本件各雇止めの理由がこれらの事由に該当するものでないとしており、右判断はその適法に確定した事実関係に照らしていずれも相当というべきであって、その過程にも所論の違法はない。そうすると、YのしたXらに対する本件雇止めは臨就規第8条に基づく解雇としての効力を有するものではなく、これと同趣旨に出た原判決に所論の違法はない。



日立メディコ事件(昭和61年最高裁第一小法廷判決)

(事案の概要)
 Xは、昭和45年12月1日から同月20日までの期間を定めてYの柏工場に臨時員として雇用され、同月21日以降、期間2ヶ月の労働契約が5回更新されてきたが、Yは不況に伴う業務上の都合を理由に、昭和46年10月21日以降の契約の更新を拒絶した。
 Y柏工場の臨時員制度は、景気変動に伴う受注の変動に応じて雇用量の調整を図る目的で設けられたものであり、臨時員の採用に当たっては学科試験や技能試験等は行わず簡易な方法で採用を決定していた。
 Yが昭和45年8月から12月までの間に採用した柏工場の臨時員90名のうち、昭和46年10月20日まで雇用関係が継続した者は、本工採用者を除けば、Xを含む14名である。
 柏工場においては、臨時員に対し、一般的には前作業的要素の作業、単純な作業、精度がさほど重要視されていない作業に従事させる方針をとっており、Xも比較的簡易な作業に従事していた。
 Yは、臨時員の契約更新に当たっては、更新期間の約1週間前に本人の意思を確認し、当初作成の労働契約書の「4雇用期間」欄に順次雇用期間を記入し、臨時員の印を押捺せしめていたものであり、XとYとの間の5回にわたる労働契約の更新は、いずれも期間満了の都度新たな契約を更新する旨を合意することによってされてきたものである。
 なお、Yは雇止めをXら臨時員等に告知した際、柏工場の業績悪化等を説明した上で、希望者には就職先の斡旋をすることを告げたが、Xはそれを希望しなかった。

(判決の要旨)
 本件労働契約の期間の定めを民法90条に違反するものということはできず、また、5回にわたる契約の更新によって、本件労働契約が期間の定めのない契約に転化したり、あるいはXとYとの間に期間の定めのない労働契約が存在する場合と実質的に異ならない関係が生じたということもできないというべきである。

 原判決は、本件雇止めの効力を判断するに当たって、次のとおり判示している。
 柏工場の臨時員は、季節的労務や特定物の製作のような臨時的作業のために雇用されるものではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、Xとの間においても5回にわたり契約が更新されているのであるから、このような労働者を契約期間満了によって雇止めするに当たっては、解雇に関する法理が類推され、解雇であれば解雇権の濫用、信義則違反または不当労働行為などに該当して解雇無効とされるような事実関係の下に使用者が新契約を締結しなかったとするならば、期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となるものと解せられる。
 しかし、臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上、雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである。
 したがって、独立採算制が採られているYの柏工場において、事業上やむを得ない理由により人員削減をする必要があり、その余剰人員を他の事業部門へ配置転換する余地もなく、臨時員全員の雇止めが必要であると判断される場合には、これに先立ち、期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかったとしても、それをもって不当、不合理であるということはできず、希望退職者の募集に先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないというべきである。
 原判決の右判断は、本件労働契約に関する前示の事実関係の下において正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

 そして、原審は、次のように認定判断している。
 すなわち、Yにおいては柏工場を一つの事業部門として独立採算制をとっていたことが認められるから、同工場を経営上の単位として人員削減の要否を判断することが不合理とはいえず、本件雇止めが行われた昭和46年10月の時点において、柏工場における臨時員の雇止めを事業上やむを得ないとしたYの判断に合理性に欠ける点は見当たらず、右判断に基づきXに対してされた本件雇止めについては、当時のYのXに対する対応等を考慮に入れても、これを権利の濫用、信義則違反と断ずることができないし、また、当時の柏工場の状況は同工場の臨時員就業規則74条2項にいう「業務上の都合がある場合」に該当する。
 右原審の認定判断も、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らしていずれも肯認することができ、その過程に所論の違法はない。

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