資料2

平成18年版労働経済の分析
概要


【白書のポイント】

 ○  平成18年版労働経済の分析のポイント


【本文の構成】

 ○  第1章 労働経済の推移と特徴

 ○  第2章 就業形態の多様化とその背景

 ○  第3章 勤労者生活の課題

 ○  まとめ



平成18年版労働経済の分析のポイント

分析テーマ: 就業形態の多様化と勤労者生活
 日本経済は、現在、景気回復局面にあり、企業部門で先行した回復を勤労者生活の充実へとつなげ、社会の安定を基盤とした持続的な経済発展を目指していくことが重要。今年の白書は労働者の多様な個性を活かすことで人口減少社会での持続的な経済発展を実現することができるよう、就業形態の多様化を分析し勤労者生活を充実させていく方策について検討。

第1章  労働経済の推移と特徴
景気回復局面にある労働経済の動きを分析
 雇用情勢は、厳しさが残るものの、改善に広がりがみられる。完全失業率は高水準ながらも低下傾向で推移し、賃金も緩やかに上昇、個人消費も総じて堅調な動き。
今回の景気回復局面の特徴
 景気回復の成果が労働者に一律に配分される姿は次第に変化。パート、アルバイト、派遣労働者、契約社員、嘱託など非正規雇用の増加。賃金制度では、業績・成果主義の広がりなど労働関係は個別化の動き。

第2章  就業形態の多様化とその背景
進展する就業形態の多様化の状況と背景について分析
 就業形態の多様化は、グローバル化に伴う厳しい市場競争や産業構造の高度化、生産・サービスの柔軟な供給体制をとる企業の経営戦略、高齢化等に伴う労働力供給構造の変化、勤労者意識の変化など複合的な背景のもとで進展。
就業形態多様化の見通し
 労働力供給制約のもとで高年齢層や女性の就業希望に応え就業率の向上が不可欠。労働環境の整備に取り組む中で、今後も就業形態の多様化は進展の見込み。

第3章  勤労者生活の課題
就業形態多様化のもとで勤労者生活の充実に向けた課題を検討
 就業形態多様化の中で、就業形態間の均衡処遇を確保し、職業能力開発の機会を充実させ、さらに正規雇用への門戸を広げるなど、特に、若年者が未来に向かって希望を持ち果敢に挑戦していくことができる環境を整備していくことが重要。
就業形態多様化の課題
 若年層で非正規雇用割合が大きく上昇、収入格差は拡大の動き。今のところ世帯単位でみた所得格差の明確な拡大傾向は認められないが、今後に懸念。

まとめ: 人々の持つ多様な個性を経済・社会発展の原動力とするために
公正な処遇が確保され誰もが安心して働くことができる労働環境の整備
格差の固定化を招かないための職業能力開発の充実
自立した職業生活を営むための若年者への社会的支援
 人口減少のもとにあっても、労働者がその能力を十分に発揮し高い労働生産性を実現し、より多くの人々が社会を支えるという視点から就業率を高めることで、持続的な経済発展を実現
職業能力の適正な評価を通じて実力主義の企業風土を培い、挑戦する気持ちを持った人が何度でも再挑戦することができる柔軟な雇用システムを実現(「新しい日本型雇用」の創造)



第1章  労働経済の推移と特徴

完全失業率は低下し、有効求人倍率の緩やかな上昇傾向が続くなど、雇用情勢は厳しさが残るものの改善に広がりがみられる(図1)。
賃金は、所定外労働時間の増加に伴い2003年には所定外給与が増加に転じ、2005年には所定内給与、特別給与がともに増加に転じ、現金給与総額は5年ぶりに増加に転じた。
景気回復が持続し雇用情勢が改善するに伴って、雇用の増加や賃金の改善がみられるが、従来の景気回復のように成果が労働者に一律に配分されるという姿は次第に変わってきている。
パート、アルバイト、派遣労働者、契約社員、嘱託社員など、様々な名称をもった非正規雇用が増加し、就業形態は多様化するとともに、雇用に占める正規雇用の割合は低下傾向にある(図2)。
企業収益の賃金への配分は、業績連動型で賞与に反映される傾向が強まり、賃金制度においても業績・成果主義の広がりがみられ、今まで集団主義的とみられていた我が国企業の労働関係も次第に個別化する方向にある。

第1図  有効求人倍率及び完全失業率の推移(季節調整値)
第1図 有効求人倍率及び完全失業率の推移(季節調整値)

資料出所  厚生労働省「職業安定業務統計」
(注)  グラフのシャドー部分は景気後退期


第2図  雇用形態別雇用者数
第2図 雇用形態別雇用者数

資料出所  総務省統計局「労働力調査特別調査」(2月調査)(1995年〜2001年)、「労働力調査(詳細集計)」(2002〜2005年)(1〜3月平均)
(注)
 1)  ()内は役員を除く雇用者数に対する非正規雇用の割合である。
 2)  2005年の非正規雇用1,591万人(32.3%)の内訳は、パート758万人(15.4%)、アルバイト337万人(6.8%)、労働者派遣事業所の派遣社員95万人(1.9%)、契約社員・嘱託277万人(5.6%)、その他124万人(2.5%)である。


第2章  就業形態の多様化とその背景

就業形態の多様化は、1980年代以降、卸売・小売業、飲食店、サービス業で進展してきたが、近年では、製造業でも進展している(図3)。
製造業は、今回の景気回復局面において国際競争力をとりもどしつつあり、製造業雇用者は増加に転じているが、こうした製造業の復調には、非正規雇用を活用したコストの抑制や柔軟な生産体制の構築も貢献している(図4)。しかし、生産工程で働く請負労働者には若年者が多く、技能継承やキャリア形成の観点から解決すべき課題が少なくない。
人口減少社会では、労働生産性と就業率の向上が不可欠であり、職業能力開発の充実や就業形態間の均衡処遇の推進などを通じて、労働者がその持てる能力を発揮し、より多くの人々が様々な形で社会を支えていくことが大切である。
公正な処遇が確保され、誰もが安心して働くことができる労働環境の整備に取り組む中で、今後も、就業形態の多様化が進展していくものと見込まれる(図5)。

第3図  主な産業別非正規雇用比率の推移
第3図 主な産業別非正規雇用比率の推移

資料出所  総務省統計局「就業構造基本調査」、「労働力調査特別調査」、「労働力調査」をもとに、厚生労働省労働政策担当参事官室にて作成


第4図  製品のライフサイクル別にみた請負労働者の比率
第4図 製品のライフサイクル別にみた請負労働者の比率

資料出所  電機総研「電機産業における請負活用の実態に関する調査」(2003年)


第5図  雇用者数の見通し(労働市場への参加が進む場合)
第5図 雇用者数の見通し(労働市場への参加が進む場合)

資料出所  (独)労働政策研究・研修機構「労働力需給の推計」(2005年)、総務省統計局「労働力調査詳細結果」をもとに、労働政策担当参事官室にて推計
(注)  推計は、「労働力需給の推計」に基づく性・年齢階級別就業者の変化と同じ比率で雇用者が変化するものとし、2004年労働力調査詳細結果による、性・年齢階級別非正規雇用比率(雇用者数に占める非正規職員・従業員の割合)によって、雇用者全体での非正規雇用者数及び非正規雇用比率を計算した。


第3章  勤労者生活の課題

非正規雇用の仕事についた者は、正規の雇用に転職しようとしても容易ではなく、職業能力開発の機会も相対的に乏しい(図6)。また、勤続してもあまり賃金は上昇せず収入は低い水準にある。特に、就職氷河期世代の「年長フリーター」には滞留傾向がみられ、就業意欲に欠けるいわゆるニートの数も近年高止まりしている。
非正規雇用では若年者の職業的自立が難しいため、親からの独立も難しく、有配偶率も低い(図7)。これらは少子化傾向を促進する要因になっている。
我が国社会全体の所得格差の動向については、高齢化、世帯の小規模化などの影響を除けば世帯単位でみた所得格差の明確な拡大傾向は認められないと考えられる。しかし、若年層では非正規雇用割合の上昇が大きく(図8)、この層で収入の低い労働者の割合が増加し、収入格差の拡大の動きがみられる(図9)。今後、これらの層が独立していくと、所得格差が拡大したり固定化することが懸念される。

第6図  教育訓練の実施状況
第6図 教育訓練の実施状況

資料出所  (独)労働政策研究・研修機構「多様化する就業形態の下での人事戦略と労働者の意識に関する調査」(事業所調査 2005年)
(注)  該当無し、無回答を除く事業所数に対する割合。


第7図  有配偶者の占める割合(男性 2002年)
第7図 有配偶者の占める割合(男性 2002年)

資料出所  総務省統計局「就業構造基本調査」を厚生労働省労働政策担当参事官室にて特別集計
(注)  在学者を除く。


第8図  年齢階級別非正規雇用比率の変化
第8図 年齢階級別非正規雇用比率の変化

資料出所  総務省統計局「就業構造基本調査」を厚生労働省労働政策担当参事官室にて特別集計
(注)  非正規雇用比率は、雇用者に占める非正規雇用者の割合。在学者を除く。


第9図  収入階級別雇用者割合(20歳台)
第9図 収入階級別雇用者割合(20歳台)

資料出所  総務省統計局「就業構造基本調査」


まとめ

 人口減少社会では、労働者がその持てる能力を十分に発揮することで高い労働生産性を実現し、より多くの人々によって社会を支えるという視点から就業率を高めていくことが重要。
 人々の持つ多様な個性を経済社会の持続的な発展に向けた原動力としていくため、労働政策の積極的な展開が課題。

労働政策の3つの主要課題

 就業形態が多様化する中で、就業形態間の均衡処遇を確保し、職業能力開発の機会を充実させ、さらに正規雇用への門戸を広げること、特に、若年者が未来に向かって希望を持ち、果敢に挑戦していくことができる環境を整備していくことが重要。

(1)  公正な処遇が確保され誰もが安心して働くことができる労働環境の整備
労働者がどのような働き方を選んでも意欲を持って働けることが大切である。公正な処遇が確保され、誰もが安心して働くことができる労働環境の整備を行うこと。

 就業形態間の処遇の均衡確保に向け法的整備を含めた取組みの一層の推進(有期労働契約をめぐるルールの明確化、パート労働者の正規との均衡ある処遇、社会保険の適用拡大など)
 働きに見合った非正規雇用の処遇の確保に向けた企業への働きかけ(非正規雇用の正規雇用への転換制度の導入、短時間正社員制度の導入、非正規雇用における職業能力開発機会の充実など)
 長時間労働の抑制など仕事と生活のバランスのとれた働き方の推進

(2)  格差の固定化を招かないための職業能力開発の充実
就業形態が多様化し、働き方に違いが生じていけば、労働者の間の賃金格差も次第に拡大する。こうした中で格差が固定化することがないよう、労働者のキャリア形成をより充実させていくこと。

 意欲を持って職務に取組むことができるよう職業能力開発を充実(多様な職業能力開発機会の提供など)
 非正規雇用の職業能力開発の充実(自己啓発の機会や社会的な職業能力開発の機会の充実、企業内での人材育成の機能を非正規雇用に広げる取組み)
 派遣労働者、請負労働者の職業能力開発の充実(派遣元企業、請負事業者の取組みに加え、派遣先企業、請負の発注企業と連携した技能習得に向けた支援)

(3)  自立した職業生活を営むための若年者への社会的支援
若年層では非正規雇用から正規雇用へ移行することが難しく、就業への意欲を持つことができない無業者も少なくない。これらの人々の職業的自立を社会的に支援していくこと。

 正規雇用への移行促進に向けた採用・人事制度の柔軟化(フリーターやボランティアの経験を企業の採用評価に反映させる仕組みの整備、新規学卒者にとらわれない複線型採用の導入、採用年齢の引上げ)
 「年長フリーター」の再挑戦の支援(キャリア・コンサルティングや職業能力評価の実施、本人の能力を判断するために企業実習を行い、適宜、座学の職業訓練を組み合わせる取組みなどの推進)
 若年者の職業的自立に向け、学校、企業、地域、社会が相互に連携し、働くことの理解を深めさせ、若年者が仕事に挑戦し活躍できる社会を実現するため広範な支援や取組みを推進

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