06/09/29 労働政策審議会労働条件分科会第63回議事録 第63回 労働政策審議会労働条件分科会 日時 平成18年9月29日(金) 17:00〜 場所 厚生労働省7階専用第15会議室 ○分科会長代理(廣見) ただいまから、第63回「労働政策審議会労働条件分科会」を 開催いたします。本日は、西村分科会長が都合によりご出席できないということですの で、分科会長代理の私が司会を代行することにさせていただきます。本日は、荒木委員、 西村委員、新田委員、山下委員、谷川委員が欠席です。山下委員の代理として君嶋さん が出席しておられます。  早速議題に入ります。 ○長谷川委員 本日の議題は労働時間なのですが、その議論に入る前に申し上げたいこ とがあります。前回は労働契約法についていろいろ検討しました。法律や判例の専門的 な知識がないと、議論の理解を深めることができなかった部分もあったのではないかと 受け止めております。そこで、法律や判例の専門的な知識についてアドバイスをしてい ただくような仕組みはとれないのかというお願いなのですが、いかがでしょうか。 ○分科会長代理 趣旨はわかりました。これは、事務局で検討していただくことが必要 なのかと思いますが、いかがですか。 ○監督課長 ただいまのご指摘の点については、事務局で検討させていただきます。 ○分科会長代理 そういう要望を受けて、事務局で検討していただきます。 ○岩出委員 昨年9月15日の労働契約法制の最終報告があります。提案内容はいろいろ 議論はあると思いますけれども、論点の整理として、判例状況の整理という点に関して あれを使うことは差し支えがあるのでしょうか。論点はかなり客観的に整理されている と思っていますが、いかがでしょうか。 ○分科会長代理 いまのご趣旨は、論点の整理はある程度進んでいるから、いまのよう な形は必ずしも必要ないのではないかということですか。 ○岩出委員 そうではないです、それは議論したらいいのではないですか。論点整理は されているわけですから、完全に無視するのはおかしいと思うのです。そういう趣旨で す。 ○監督課長 いまの点も含めまして検討させていただきます。 ○田島委員 いまの点を含めて検討する、というのはちょっとおかしいと思います。昨 年に研究会報告が出された後に、労側委員も使用者側委員もこぞって、あの研究会報告 はベースにしないということを確認しているわけです。それぞれの委員が参考にすると いうことは当然あるだろうと思いますけれども、しかし、いまの岩出委員の発言を踏ま えて検討しますというのは、ちょっとおかしいのではないかと思います。今回の審議会 そのものはあれをベースにしないで、いままで論議してきた積み上げがあるだろうと思 います。それはおかしいのではないかと思います。 ○監督課長 すみません。ちょっと言葉が足らなかったようなので補足させていただき ます。いまのは判例の趣旨ということで、研究の中身ということではないというのでは ないのかなと思ったので、そう申し上げたわけです。研究会報告の取扱いについては、 いま委員ご指摘のとおりであるということについては理解しているつもりですので、そ の点を補足させていただきます。 ○分科会長代理 それでは、そういうことで長谷川委員のご発言を受けて、事務局で検 討していただきます。それでは議題に入ります。本日は労働時間法制のうち、「就業形 態の多様化に対応し、仕事と生活のバランスを確保しつつ、新しい働き方ができるよう にするための方策」についての議論を深めていただきます。この項目の論点については、 既に事務局のほうで整理していただいていますので、事務局から資料の説明をお願いい たします。 ○監督課長 資料No.1−1は労働時間法制関係です。就業形態の多様化に対応し、仕事 と生活のバランスを確保しつつ、新しい働き方ができるようにするための方策です。  左側は「今後の検討」の方向です。(1)は高付加価値の仕事を通じたより一層の自己実 現や能力発揮を望み、緩やかな管理の下で自律的な働き方をすることがふさわしい仕事 に就く者が、健康を確保しつつ、その能力を一層発揮しながら仕事と生活の両面におい て充実した生活を送ることができるようにする観点から、ホワイトカラー労働者の自律 的な働き方を可能とする制度を創設することについて検討を深めてはどうか。  これについて使用者側からは、裁量性の高いホワイトカラー労働者については、労働 時間の長短ではなく、成果を評価することで処遇を行う必要がある。あるいは労働者の 公平性、労働意欲の創出、生産性の向上、企業の国際競争力確保等の点から、ホワイト カラー・エグゼンプションを早期に導入すべきである。その際、各企業の労使の自治に よる健康確保措置を図りつつ、法律の要件は、中小企業等多くの企業が導入できるよう なものとすべきである。  労側の意見としては、変形労働時間制、フレックスタイム制、専門業務型裁量労働制、 企画業務型裁量労働制があり、労働時間規制が適用除外される新制度を創設する必要性 はない。このような制度は長時間労働を助長するので反対。  右側の「論点」ですが、1つ目の○で、ホワイトカラー労働者の自律的な働き方につ いて、時間と成果との関連についての議論。2つ目の○で、そのような働き方に対する 労働者保護について、健康確保、休日確保の在り方、長時間労働の抑制。3つ目の○で、 制度の導入及び運用に係る要件、手続についてということで、労使委員会の決議・届出、 本人の同意、年収。4つ目の○で、制度の法的効果について、労働時間に関する規定の 適用除外の中身。  資料No.1−1の2頁で「今後の検討の方向」です。現在あります企画業務型裁量労働 制について、中小企業においても多様な働き方の選択肢の一つとして有効に機能するよ う、対象業務の範囲やその手続について、制度の趣旨を損なわない範囲において見直す ことについて検討を深めてはどうか。また、苦情処理措置について、現行裁量労働制が さらに有効に機能するように見直すことについて検討を深めてはどうか。  これに対して使用者側の意見として、専門業務型裁量労働制は、対象業務の範囲が明 確であり、本人同意を要件にする必要はない。裁量労働制は、特に中小企業については、 対象業務の範囲を広げるなど、活用できるようにすべき。また、手続を簡素化し、導入 要件を弾力化すべき。  労側意見としては、専門業務型裁量労働制は、本人同意を要件にすべき。企画業務型 裁量労働制は、労使委員会の設置は要件として維持すべき。また、対象業務の安易な拡 大は行うべきではない。中小企業の特例措置は反対。  「論点」としては、企画業務型裁量労働制の対象業務の範囲及び手続について、この 「中小企業の特例」をどのように考えるか。  それぞれについて補足ということで資料No.1−2、資料No.1−3を用意いたしました。  資料No.1−2の「ホワイトカラー労働者の働き方について」というところの表は、労 働力調査から作ったものです。ホワイトカラー(専門的・技術的職業従事者、管理的職 業従事者、事務従事者、販売従事者)の割合は、概ね増加傾向をたどっており、平成16 年現在4つの分類を足すと55.2%ぐらいになります。  2頁は「成果に応じた賃金及び年俸制の状況」です。これについては、業績や成果に 対応する賃金部分を拡大する賃金制度の改定を行っている企業数の割合です。これは、 賃金制度の改定をしましたか、という問いに対する答えです。過去3年間に業績・成果 に対応する賃金部分を拡大する賃金制度改定を行った企業数の割合が、平成8年と平成 16年を比べて、平成16年のほうがそういう改定を行ったとする企業数の割合が伸びて いるということが言えます。この棒グラフは、企業規模別に書いたものですが、いずれ の企業、規模においても伸びているということが言えます。  3頁は、成果主義的賃金制度の導入状況です。これは、資本金の階級別で分けている 調査です。資本金が多いほど概ね成果主義的賃金制度を導入している。棒グラフのほう では、管理監督者、営業従事者、専門的・技術的職業従事者、販売従事者、事務従事者 というそれぞれの所の成果主義的賃金制度の導入割合を示しているもので、こういう所 は比較的多くなっています。  4頁は、年俸制の導入企業数です。これも企業数の割合ということで、平成6年と平 成16年を比べておりますが、こういう企業数の割合は増えています。企業規模ごとに区 分しておりますが、それぞれの区分で増えてきているということが読み取れます。  次は「労働時間管理を受けない働き方に対する希望」です。5頁は、裁量労働制を入 れている企業と入れていない企業に分けて聞いています。上のほうは、裁量労働制を入 れている企業に聞いたものですが、労働時間規制を受けない働き方の導入というのは、 希望として43.9%、現行のままでよいが39.1%、裁量労働制の拡大については38.7%と いう結果になっています。裁量労働制を入れていない企業では、現行のままでよいが、 43.8%、労働時間規制を受けない働き方の導入が30%、裁量労働制の拡大が28.5%で す。いずれの場合にもこの3種類の理由のところでそれぞれ比較的多くなっています。  6頁は労働者に聞いたアンケートです。「労働時間管理を受けない働き方に対する希 望」です。これは、労働者の区分ごとに専門業務型をやっている人、企画業務型をやっ ている人、管理監督者、一般の労働者と分けて聞いていますが、そのグラフが一緒に重 なっていますのでちょっと読みにくくなっています。例えば、企画業務型のグラフを見 ますと、これはそれぞれのブロックごとの上から2番目の黒い点々が薄くまばらに打っ てあるところです。これを見ますと、労働時間管理を受けない働き方の実現が24.9%、 年次有給休暇の容易な取得が22.1%となっています。一般の労働者は、黒地に白い点々 が打ってあるところを見ますと、年次有給休暇の容易な取得が28.1%で多くなっていま す。労働時間管理を受けない働き方の実現は8.1%で少なくなっています。概ね年次有 給休暇の容易な取得のところは大体棒が長い、パーセントが高いということになってい ます。  資料No.1−3は「企画業務型裁量労働制の制度及び実態について」です。参照条文と いうことで、労働基準法38条の4に企画業務型裁量労働制が書いてあります。この条文 は長いのですが、これを分解したものを4頁からに載せております。どういう仕組みに なっているかはこちらでご覧ください。  企画業務型裁量労働制を企業で導入する場合には、ステップ1で労使委員会を設置し ていただく。ステップ2で労使委員会で決議をする。決議の要件は、委員5分の4以上 の多数決です。必要的決議事項としては、(1)対象業務として、事業運営の企画・立案・ 調査・分析の業務、使用者が仕事の進め方・時間配分を具体的に指示しないこととする 業務、この対象業務を決めていただく。(2)で対象労働者の範囲を決めていただく。(3)で 1日当たりの労働時間数、みなし労働時間を決めていただく。(4)で対象労働者の健康・ 福祉確保措置を決めていただく。(5)で苦情処理措置を決めていただく。(6)で労働者の同 意を得なければならないということ。あとは、不同意労働者に不利益な取扱いをしては ならない、ということを決めていただくというステップになっています。こういうこと を決議していただきますとステップ3で、その決議を労働基準監督署長に届けていただ きます。ステップ4で対象労働者の同意を得たら、ステップ5で対象労働者が実際に仕 事をすることになります。ステップ6で、対象労働者の労働時間の状況及び健康・福祉 確保の実施状況を定期的に所管の労働基準監督署長に報告する。決議は有効期間が付い ておりますので、ステップ7で有効期間が満了したらワンラウンド終わりになります。  6頁は、こうした制度の導入状況です。最新の数字で、導入事業場数が2,107で、適 用労働者数が5万1,999人です。  こうした企画業務型裁量労働制に対する評価について労働者に聞いたアンケート調査 です。「自らの能力の有効発揮に役立つと思った」とか、「仕事の裁量が与えられるこ とにより仕事がやりやすくなると思った」というところについては、概ね期待どおりと いうことで、一部期待どおりも含めてわりと高い評価を得ているのではないか。一方、 「仕事を効率的に進められるので労働時間を短くすることができると思った」というこ とについては、概ね期待どおり、一部期待どおりと、あまり期待どおりではないが3分 の1ずつぐらいになっているような状況です。  8頁で、企画業務型裁量労働制の適用について、満足か不満かということです。大い に満足が11%、普通が60%、大いに不満と一部不満を合わせて2割強です。不満のある 方に何が不満かを聞いてみますと、「業務量が過大」、「在社時間が長い」というとこ ろが多くなっています。  9頁は健康・福祉確保措置の実施状況です。実施した健康・福祉確保措置として、年 次有給休暇の連続取得を含む取得促進措置、心とからだの健康相談窓口の設置、産業医 等による助言・指導又は保健指導が36.9%、38.8%、36.1%です。続いて、一定時間数 以上の勤務や休日労働が行われた際の健康診断の実施が30.2%です。  10頁は、健康・福祉確保措置についての要望です。いちばん多いのが年次有給休暇の 連続取得を含む取得促進措置、2番目は休日・休暇を組み合わせた連続休暇制度の導入、 3番目は4つぐらい並んでおりますが、定期的な特別休暇付与、一定時間以上の勤務が 行われた場合の特別休暇付与、一定時間以上の勤務が行われた際の代償休日付与、心と からだの健康相談窓口の設置。どちらかというと、休日や年休に関する要望が多い状況 があると見て取れます。以上が資料No.1のご説明です。  資料No.2は9月11日に出したものと同じですので説明は省略させていただきます。以 上簡単ですが、資料のご説明を終わらせていただきます。 ○分科会長代理 本日は、労働時間法制の中の2つの問題についてです。1つは、ホワ イトカラー労働者の自律的な働き方を可能とする制度の創設そのものの問題、それから 企画業務型裁量労働制の問題の2つについて議論を深めていただきます。最初は、ホワ イトカラー労働者の自律的な働き方を可能とする制度の創設の関係ですが、いま説明が ありましたように○が4つ論点として整理されております。それぞれ相関連するところ もあろうかと思いますので、この4つを念頭に入れていただき、論点についてそれぞれ ご議論をお願いいたします。 ○島田委員 その前に1つ確認させていただきます。いま資料説明がありまして、ホワ イトカラーといわれるのはこういうものだというのは分かりますけれども、第3次産業、 いまからいうホワイトカラー・エグゼンプションとか裁量労働というのは、このホワイ トカラー全部が適用されるわけではないので、ある意味でこの中身が本当に増えている のかどうか見せていただきたい。  この調査の中で、裁量労働制が導入されている中で、「労働時間規制を受けない働き 方の導入」といわれているのは、要するにもっとフリーな制度を作れというのか、逆に 言ったら裁量労働は入れられているのだけれども、企業側からあるいは上司からある部 分制限を受けている働き方をしているという不満なのか、これはどっちなのかよくわか らないのです。どっちの意見を言っているのか、それは両方あるのかもしれないのです けれども、その部分があるのかなということがあります。  それを見ていったときに、今回提案のホワイトカラーの関係といろいろな裁量労働の 改正というか改善みたいな提案を受けています。事務局として、要するに労基法の中に 例外規定をいっぱい作ってきた、裁量労働の企画型も作った、みなしも作った、いろい ろ作っていますと、36協定もありますと。また、新しくこれを新設するか、創設するか は別にしてできたとして、また別のものができてくる。  経営側もおっしゃっているのは、ホワイトカラーを含めていろいろな働き方がある中 で、ちょっと特殊な分野は別の労働時間制度でやりたいというのがご意見だと思うので す。そうしたときに、もう一遍すべてをチャラにしてしまって、そういう働き方に対し て、こういう制度が要るのではないですかと。一本化するわけではないですけれども、 いろいろ作るよりも、それを1つにまとめ直してもう一度検討し直しましょうという考 え方があるのか、あるいはいまの方針に出されているように、各種裁量労働の問題点を 経営側から言われているわけですけれども、この部分について改善しながら、ホワイト カラー・エグゼンプション的なものをもう1つ新設するのだよ、ということでこの議論 をするのか、そこをまずお聞かせ願いたいと思います。それによって質問の仕方は全部 変わってくると思います。 ○監督課長 3つご質問がありましたけれども、1つ目のホワイトカラーは本当に増え ているのかということについては、細かい資料がありますので別にお出しすることがで きると思います。最後におっしゃいました販売従事者がホワイトカラーかどうかという ような議論と、自律的な働き方に販売従事者が入るのかどうか、という議論はまた別の 議論だと思いますので、そこのところは区分けして本日はご議論いただけるものであれ ば、そのようにご議論いただけると大変ありがたいと考えております。  2つ目の、もっとフリーなのか、制限があるのかどうかということについては、確か に労働時間の規制を受けない働き方の導入ということだけですと、どちらかわからない というのは多少あるのかと思います。次のところで「現行のままでよい」という設問も ありますので、そういう点を考えると、比較的広げる方向に働いているのではないかと 考えております。もう1つ同じ調査の中で、企画業務型裁量労働制の適用について不満 な点として、業務量が過大である、在社時間が長いという指摘も受けております。こう いうところは、制限が事実上かかってきているということが反映されている、というこ とがアンケート結果に出てきている部分ではないかと考えられます。  それから、制度をもう一遍チャラにして一本化するのか、また別に組み立てるのかと いうのはまさに核心を突く問題です。いまの時点で、事務局としてこれこれをというよ うな結論のようなものは持ち合わせていません。ただ1つご紹介させていただきたいの は、労働時間に関する研究会報告のときには、報告書にも多少触れられていたかと思い ますが、いわゆるホワイトカラーの新しい適用除外制度と企画業務型裁量労働制につい て、新制度ができたら企画業務型裁量労働制は廃止してもいいのではないか、という学 者の意見はありましたので、それはご紹介させていただきます。 ○田島委員 関連していまの調査表ですが、いまのデータそのものは平成17年度の裁量 労働制の施行状況等に関する調査表で、研究会に示されたデータだと思うのです。そこ の部分を私は本日持ってきています。例えば、裁量労働制でありながら、専門型では 32%、企画型では22%が一律の出退時刻があります。一律の出退勤時刻があるのに、そ れ遅れたら、裁量であるにもかかわらず賃金カットされるのが、専門では10%、企画型 では8%、適用除外である管理監督者では6.8%がカットされる。それから、勤務評定 に反映されるのが26%もいるような形で、これはいわゆる裁量労働でありながらも、実 質的には裁量労働になっていないという意味合いの答えではないかと思うのです。  この点については部分的に出さないで、アンケートの概要なり結果について、もう一 度委員なら委員に配布していただいたほうが意向は正確に反映できるのではないかと思 うのですが、いかがですか。私は、この結果を見ると、裁量といいながらも裁量ではな くて、実際には管理されている労働者があまりにも多いから、こういう自由という問題 が出てくるのだろうと思うのです。 ○監督課長 資料の配布につきましては、もちろんご要望に応じて配布させていただき たいと思います。ここに分厚いファイルがありまして、何頁にあるかということは直ち には言えないのですけれども、過去に出させていただいた資料についてはこの中に入っ ているものもありますので、議論していただくときにそれらを参照しながらご議論して いただければ大変ありがたいと考えております。 ○紀陸委員 時間の制約もありますが、この問題については私ども経営側からも要望し ております。論議の入口として、この制度の導入を私どもが望んでいる背景や現状認識、 特に狙いをいままでにも何回も申し上げてきたと思います。本日はこの問題が焦点にな りますので、まずその点について申し上げます。  なによりも、労働側からもいろいろご懸念がある点は、この制度を入れる目的が、時 間外労働の手当をできるだけ抑制する、払いたくないがためにこういうものを入れるの ではないかという指摘をよくされます。経営側としては、全然そんなことは考えており ません。あくまでも狙いは、労働環境が従来と比べて様変わっている、働く人の意識も 様変わってきている。そういうことを踏まえて、大げさに言うと、新しい働き方にチャ レンジできるような制度の仕組みを選択肢の1つとして入れておいたほうがいいであろ う、という趣旨であります。  資料No.1−1の真ん中の、まさに労使各側の意見の中に全部要約されているわけです。 いま統計もデータもありましたけれども、確実に賃金体系が従来の形から、何らかの業 績なり成果なりを評価する形に変わってきている。業績とか成果を評価するということ は、時間につながった賃金管理ではなくて、あくまでアウトプット評価ということです。 これは前回も申し上げましたけれども、賃金制度自体の管理が労働時間管理と変わって きているという現実です。これをどのように見るか。それを望んでいるホワイトカラー の人たちの層が増えているということです。これは現実として組合の方々も、そういう 賃金体系を容認している組合の人のほうが多くなりつつあるのではないでしょうか。そ れが1点です。  使側のポツの2つ目にあるのが、まさに私どもの制度導入の意図であります。労働者 の公平性というのがあります。いろいろな労働者がおられる。労働意欲の創出。まさに 労働意欲というのは働く意欲ですから、家庭の心配があったりしては、労働意欲も阻害 されてしまいますので、家庭と仕事の両立をなんとか図ろうではないか。  生産性の向上とか企業の国際競争力確保と書いてありますけれども、本当に企業の競 争というのが国内にはもちろん、国際的にもすさまじい勢いで激しくなっています。こ れは企業もそうですし、その中にいる従業員もまさに身に染みて感じている。従来より、 本当の意味で生産性を上げないと、企業も存続できないし、労働者も長い職業生涯をず うっとぶら下がったままで安閑としていられる時代ではないわけです。ますます企業も 厳しくなるし、働く人も厳しくなる。その場合に、どのようにしたら会社も従業員もハ ッピーになるか、ということを狙う1つの制度としてこれを導入してはどうか、という のが本当の趣旨なのです。  先ほど玄関の所で、労働者の生活を守るのは労働組合だと言っていましたが、実はそ うではなくて、会社も従業員の人たちの雇用の場を守る。いちばん大事なのは、雇用で すので、雇用の受け皿になるのは企業です。企業が雇用を維持できるような状況に持っ ていかないとどうにもならないので、やはり組合だけではないわけです。従業員の雇用 を守るのは、やはり会社の大きな責務でありますので、そういうのがこの生産性の向上 とか競争力の確保という言葉の中に含まれているとご理解いただきたいと思っておりま す。決してエグゼンプションを入れたからといって、非常にたくさんの労働者が残業代 を貰えないとか、あるいは長時間労働になってしまうということではないわけでありま す。  私どもは、不払残業だとか長時間労働というのはきちんと取り組まなければいけない 問題だと思っております。決してそれを蔑ろにするがゆえにこういう制度を入れようと いうのではなくて、それはそれできちんとやらなければいけない。でも、先ほど申し上 げましたように、確実に労働者の意識は変わってきています。会社の競争力はもっと厳 しくなる。そうすると、どうしても会社のニーズと働く人のニーズを噛み合わせたとこ ろに、何か1つ制度を入れる必要が客観的に出てきているのではないか。これは、経営 側だけの一方的な願望でできる制度ではないわけです。どうしてもそういうニーズがあ れば、これは新しい働き方の選択肢として入れるべきではないか、それを検討しようと いうことです。  確かに従来から変形労働とか裁量労働が出てきていましたけれども、この裁量労働の データの中にもありますが、これではちょっと使い勝手が悪い部分もある。どう考えた ってみなしですから、時間規制がガシッとかかっているわけです。企画型にしても専門 型にしても、その枠の中での多少の変更です。これを飛び越えて、こっちでやっていっ たほうが両方にとって望ましいという部分があれば、そういうところにはそれなりの制 度を作りましょうというような趣旨なのです。あるいは、そういう程度の趣旨といって もいいかもしれませんけれども、そういう問題なのです。  だから、我が社は企画型でいいです、専門型でいいですと言えば、それで話は終わり です。ところが、それで不満足だ、あるいは不十分だというニーズがあれば、もう1つ 新しい制度を脇に作っておく。後で細かい要件や運用をどうするか、という話は出るか と思いますが、基本の認識はそこにあるのだと。その点に誤解があると、いつまで経っ ても話が先へ進まないと思います。いま申し上げた部分については誤解を解いていただ くようにお願い申し上げます。 ○奥谷委員 いまのことに関連してかもしれませんが、雇用の促進という部分で、これ からは衰退産業もかなり出てくると思います。競争に負けて、そして倒産していくよう になっていきますと、ベンチャーといいますか、起業するといいますか、そういう所が たくさん出てこないと、その雇用の受け皿にならないわけです。ベンチャーというのは、 大体が中小企業です。そのベンチャー企業で働いている人たちというのは、ある程度I POを狙っているわけです。その結果としてストックオプションなり何なりが貰える。 そういう中で、時間も何も関係なく、労使がある部分協調して1つの企業を起こしてい こうという夢に向かってやっていくわけです。  先ほどありましたように、働き方の多様性というか、時間に制約されない、そして最 近のベンチャーというのはほとんどが知的創造、IT関連、ソフト関係といった所がか なりIPOに上場していくわけです。そういう新しい働き方とか、新しい価値観といっ たものを取り入れていかないと、日本のこれからの経済の衰退というか、企業の在り方 というのは、従来どおりずっといくのではなくて、どんどん新しいものが生まれてこな いと雇用の受け皿になってこないわけです。  そういう意味でも、従来どおりのきつい基準法に縛られた働き方でないといけないと いう部分というのは、やはり難しいのではないか。労使が納得して、協調していろいろ な働き方があればそれでいい、という考え方というのは持っても構わないのではないか という気がします。 ○渡邊佳英委員 ホワイトカラー労働者の自律的な働き方についての、商工会議所とし ての意見を述べさせていただきます。配布資料にもありますとおり、ホワイトカラー労 働者は既に全労働者の過半数を超えていて、さらに増加していると考えております。こ うした中で、仕事を通じた自己実現や、能力発揮を望み、自律的な働き方にふさわしい ものについて、ホワイトカラー・エグゼンプションという制度は創設すべきだと考えて おります。  導入にあたり、本人の同意が必要であるかないかということでは、必要はないのでは ないかと考えております。働き方が自律的かどうかは区別するのではなくて、個人の合 意は関係なく、働き方が自律的であれば必然的に適用の対象とすべきであると考えます。 そうしないと、同一の業務で時間管理をする労働者としない労働者が混在して、会社と して管理が難しいだけでなく、職場が混乱するおそれがあると思います。  また年収要件についても、私どもとしては必要ないのではないかと思っています。仮 に年収要件が、例えば1,000万円などという高い数字になってしまいますと、多くの管 理監督者の年収を上回るだけではなく、中小企業の場合は社長の年収よりも多くなって しまうというようなことも考えられます。企業に混乱が生じ、いたずらに年収要件は設 けるべきではない。本来は働き方で区別するべきものであり、年収で区別するのは馴染 まないと考えております。  ホワイトカラー・エグゼンプションの内容については、時間の長短ではなく成果によ り処遇する趣旨からして、すべての労働時間規制の適用を除外するのは当然であると考 えております。 ○八野委員 いま、さまざまな見解をいただきましたが、ホワイトカラーの捉え方をこ のようにしていけば、いまこれだけサービス業が増えてきているところで見ていけば、 ホワイトカラーの人口が増えてくることは見えた事実であります。これが、そこでの適 用者を、いま言われているような制度の前提にしていくということの、名前を使ってい るからかもしれませんが、それはちょっと違うのではないかと思います。  いま、企業の方向性であるとか、そういうものが示されました。その中には、労働者 の公平性、労働意欲の創出、生産性の向上、企業の国際力の確保という観点、又は雇用 の場を守るという経営者として当り前の、また責任を持ってやらなくてはいけない、そ れは労働時間法制とは直接に結び付くというよりも、企業の在り方がどうあるべきか、 ということを示している言葉ではないかと思っております。  そういう中で、先ほど成果主義という話が出てきましたが、我々労働組合が成果主義 を認めてきたのは、それは与えられた時間の中で、いかに成果を出していくかという制 度だと考えたからです。企業が目標を設定し、その目標を共有化し、それを人事制度上 成果主義という中で落としていき、それに対しての目標の提示、それに対する明確な評 価というものがあることによって、実は働く者が自己実現や能力発揮を望んでいるので はないか。それのツーウェイが非常に重要なのではないかと思っています。  何が言いたいかというと、成果という言葉はよく使われますが、成果と時間というこ とについて、もう少し議論をすべきではないかと思います。労働組合が求めてきた成果 主義というのは、先ほどから何度も言っておりますように、与えられた時間の中でいか に成果を上げるか、いかに生産性を上げるか。そこに企業としての管理監督者としての マネジメントが存在する。  そのように考えますので、いま言われたものをいきなり労働時間に結び付けていくと いうところは、本当に経営の方たちは現場を見ているのかという疑問を抱きます。経営 の本当に一部の、ごく高度な仕事をしている人たちのことだけを見て、全体のいまの問 題点を捉えられているのではないかと感じます。それは、先ほども紀陸委員が言いまし た、長時間労働の問題ですが、これはいま企業が進めていっている、企業の社会的責任 の法令遵守が守られていないから、不払労働などがいまだに起きてきている。そういう 実態の中で、また時間外の規制のない枠を、少しの人なのかもしれませんが増やしてい くことについては、かなりの問題があるでしょうと思います。要するに、まだ成果主義 の人事制度の理解が根付いていない中では、かなりの問題点があると思います。  その中の一例で本日出された、企画業務型裁量労働制のところを見ても、給与は低い、 人事評価は不透明、適切な評価を受けていないというところでも、ある程度の数字が取 れています。そういうのを見たときに、本当にそういうものを、いまの実態ではできて いない。それが、緩やかな管理下というなんだかわからない管理の中で、自律的な働き 方というものを目指したときに、こういう所で働いている人たちが、本当に快く働き、 成果を出していけるのかどうか。時間の枠だけを外してしまうだけなのではないかと思 います。  もう1点は、管理監督者のところで、出退勤の記録をきちんと取っているという人た ちが90何%いるというのがいまの実態です。管理監督者のところの規制というのは、こ こでも前に議論されたことだと思います。そのように日本の風土の中で、比較的管理監 督者という重要な役割を企業の中で果たしている方たちも、時間というところについて は管理されている、している、又はチェックされているというのが実態なのではないか と思います。  新しい働き方ということの提示はありますが、いま問題になっているワーク・ライフ・ バランスや長時間労働の問題というのをきちんと片付けて、その中でホワイトカラーと いう言葉ではなく、いまは職務型賃金ということで企業もやられているわけで、こんな 大きな括りはしていないわけです。もっと細かく見て、そこのところが適材適所なのか、 どういう評価制度でいこうかということをやっているわけです。  そういう意味では、いまここで出されている、本日も説明をいただきましたけれども、 そことこの新しい労働時間を結び付けることは非常に難しい問題なのではないか。なか なか受け入れられないと思います。 ○小山委員 重ねて申し上げたいのですけれども、こういう働き方が本当にあるのか。 自律的な働き方というのが、いま日本の中で実現しているのかどうか。当初からその論 点がずっとあったと思うのです。私も、いつも申し上げてきたのですが、本当に自律的 に、仕事量も自分がすべて調整しながら働いているなどという人はいないのではないか、 というのが私どもの主張でした。本当にそういう人がいるというのでしたら、具体的な 職場なり働き方の方においでいただいて、ヒアリングでもしてみたらどうかと思うので す。この審議会に来ている皆さんに話を聞いていただくこともできるのではないかと思 います。それは、事務局にご検討いただきたいと思います。  そこで申し上げたいのは、この問題を議論するときには、管理監督者の問題とも切り 離せない問題です。それはなぜかというと、管理監督者については、労働時間規制の適 用除外をされて働いているということです。そこで、管理監督者が長時間労働等、過重 な労働によって過労死だとか過労自殺に遭っている事例が多くあるわけです。  これは以前に私が、東京労働局の資料にそうした資料はないかということで申し上げ たところ、ご努力いただいて出していただいております。これについては、東京労働局 だけではなくて、全国の集計をまとめていただければありがたいと思います。この点も 事務局にお願いしておきたいと思います。  管理監督者にとっても時間は関係ないのかというと、いわゆる過労死、過労自殺の要 因として、長時間労働というのが直接そうした発症に結び付くという研究は既に社会的 に認知をされ、厚生労働省もそれに沿った対応をされているわけです。管理監督者であ っても、あるいは専門的な技術者であっても、むしろそういう方のほうが労災認定され ている事例が多いという実態があるわけです。  昨年、この間厚生労働省がやっている脳・心臓疾患の認定事例、あるいは精神障害等 の認定事例の数値を見ても、管理職あるいは専門技術職の被災が他に比べて多いという 実態があります。先ほどの調査だけでは管理監督者という限定がされていないから、先 ほど申し上げた東京労働局の調査等を出していただいたわけです。いずれにしても、労 働時間の長さが、こうした過労死、過労自殺に結び付いているという実態があるという こと。このことをいくら時間と関係のない働き方といっても、既にそういう現実が管理 監督者の中にあるのだ、ということをご承知いただいた上で、この議論を進めていかな ければならないのではないかと思います。  特に、管理監督者の範囲の見直しの問題もあって、この間研究会報告等の中では、管 理監督者の範囲を厳密にして、対象にならなかった人についてはこのエグゼンプション の制度を使えばいいのではないかというご提言もあったかと思います。まさに実態とし ては、そこに自由な働き方、自律的な働き方などというのはないのだと。むしろ長時間 働きすぎて、それによって過労死や過労自殺が生じているのだという実態を踏まえてい ただきたいと思います。  そこで紀陸委員に質問させていただきます。先ほど来のお話の中で、健康への配慮措 置というのは必要だというお話があったと思います。いま申し上げた長時間労働などに 対する規制は必要だというご認識だろうと思うのです。日本経団連さんが昨年出された ホワイトカラー・エグゼンプションに関する提言の中で、健康配慮措置の1つとして、 ホワイトカラー・エグゼンプション制度の適用対象者の一定期間の在社時間や、拘束時 間の上限を取り決め、その時間を超えないようにするという文章があります。  さらに、一定期間において、一定の在社時間や拘束時間を超えた者に対して、所定の 休暇を与えるということで、これは次のような例が考えられるということで例示されて います。健康配慮措置からいくと、やはり時間としての管理とは言わないのかもしれま せんけれども把握、在社時間の把握、拘束時間の把握ということをきちんとして、それ を超えないようにするということは、紀陸委員のご意見としてもそのように考えている、 この提言のとおりだと私どもは承知しておいてよろしいのかをお聞きします。 ○紀陸委員 提言をした紙で残っているとおりです。私どもこの制度を入れる場合に大 事な点を前から2つ申し上げています。1つは健康管理の面です。これは、自分で仕事 のやり方と時間の管理をやる、というのが建前ですけれども、そうは言っても組織の中 でやる場合には、自分で自分のエンジンはかけるけれどもブレーキは踏めないという場 合だってあり得ます。そこは働きすぎないように、その会社の中で、その組織にふさわ しい健康管理の仕組み、いまのほかにいろいろな形があると思いますけれども、そうい うものを入れるのは絶対に必要だと思います。これが第1です。  もう1つは、先ほどお話が出ましたけれども、成果の評価です。きちんとした人事制 度がないと、それはアウトプット評価の物差しを作らないと制度はうまく回っていかな いであろうという懸念があると思います。こういうものがないと、やはり制度は根付か ないと考えております。  先ほど小山委員から、対象労働者云々の話がありましたけれども、これは現行の裁量 労働制、それから専門業務型、企画業務型という所の人たちが既にかなり高度の専門的 な仕事をやる方がおられます。そういう方なりの所を全部でもいい、一部でもいい、そ れはその会社会社の判断によって、裁量からエグゼンプションの世界に入れていくとい う話です。ですから、全然イメージが湧かないとか、対象者が思い浮かばないという話 ではないと私どもは思っております。  例えば、番組報道をやるクリエーター、研究開発、SEの方は、自分の仕事の量にど のぐらいの時間をかけて、やり方をしてこなすかということです。1日は24時間しかな いわけですから、エグゼンプトをやるとしても、1日を30時間にしたり40時間にした りできるわけがないわけです。これは決まりがあるので、その配分といいますか割振り を自分でコントロールするという意味です。  時間配分の義務云々とおっしゃいましたが、安衛法上管理監督者だって時間把握しな ければいけない、これは健康確保の面からもそういうのがありますので、私どもはこの 制度がいままでなかったものですから、どうなるのだろうとか、どういう運用をしたら いいのだろうか、などという心配や懸念はいろいろあるかもしれませんが、新しく入れ る場合に、今言ったような基本的なところはちゃんとおさえておいて、本当の運用、応 用動作はその会社の中で、労使できちんと話し合っていただく。基本的に納得がいかな いものは無理だと私たちも思っております。号令一下、こういうふうにやりますと言っ ても、制度に対する従業員の同意というものがないと根付かないと思っております。新 しいチャレンジをするについては、きちんとした歯止め措置みたいなものを設けた上で、 細かい要件は会社ごとに決められればいいと思っております。 ○小山委員 先ほどのお話で、時間にとらわれずに働くと一方で言いながら、時間の制 限は必要であるとおっしゃっているわけですよね。 ○紀陸委員 自分で管理をする、裁量する。自分の時間を自分で差配するということで す。 ○小山委員 健康配慮措置として、一定期間の在社時間や拘束時間の上限を決めて、そ の時間を超えないようにするというのは、労働時間についての1つの管理の在り方です。 ○紀陸委員 それは個別に。 ○小山委員 自由に働くと言っても、そういう時間的拘束を受けないことはあり得ない。 そうしないと、それこそ1人で仕事をしているわけではないからブレーキが掛けられな いというようなお話もありましたが、その方は本当に、先ほどから言われている自律的 な、自由な働き方というのと違うのではないですかと申し上げたいのです。 ○紀陸委員 いや、ちょっと話がおかしいのではないですか。 ○小山委員 結局、時間と関係ないと言いながら、時間で制限せざるを得ないという自 己矛盾に陥らざるを得ないのがこの制度なのです。 ○奥谷委員 死ぬまで働けなどと、経営者は誰も思っていませんし、そんなことは誰も 言っていません。要するに、働き方は自分で管理しろということであって、健康に関し ても、経営者側はある程度きちんとチェックするということです。死ぬまで働けなどと 誰も言っているわけではなくて、仕事の中身を自分の裁量で考えて成果を出しなさいと 言っているわけです。死ぬまで働けみたいなことをおっしゃる、というのは大きな勘違 いです。 ○平山委員 先ほど田島委員から、企業のありようそのものの話であって、労働時間管 理がテーマではないのではないか、非常に高度な人だけのビヘイビアという話であって、 労働者に及ぶ話ではないかというお話でしたが、企業のありようそのものの話だという のは、そのとおりだと思います。別に経営者だけが戦略を練って商品を作り出したり、 考え出したりして、あとはみんなそのとおりに働きなさいなどと言って成り立っている とは、皆さんおよそ思っておられないと思うのです。企業の中でそれぞれの組織をつく り、どういう働き方をするのか、それを考える人もいる、作る人もいる。いろいろな役 割を担いながら、1つの企業集団は運営されているのです。これから先ということだけ ではなくて、今すでにそうなっているのだろうと思うのです。企業のありようそのもの だということで言えば、そのとおりだと思うのです。  日本のこの国の中に、雇用と言うとあまりにもボーッとしてしまっていて、みんなが どこかで働ければいいではないかと、そんな感じに聞こえてしまうので、働く場所、そ して、いちばん自分の力を発揮できる所で働ける条件というものをこの国でどうやって、 防衛的に言えば維持しながら、積極的に言えば創出しながら、日本の中の働く場所を失 わないでつくり出す、そういうことをやっていけるか。経営側も労働組合も、特に労働 組合の幹部になればなるほど、同じような視線でいつも考えられているのだろうと思う のです。  国際競争力とここに書いてあったのですが、これは別にコストが強ければいいという だけではなくなっているのだと思います。私は物を作っていますが、コストだけで勝負 しても今はとてもかないません。世界の先端、それから、どの世界に対してどういう戦 略で何を営業していくのか。製造業に限らず、サービス産業もこれから国際化していく 中で、いろいろな商品で競争をすることになると思うのですが、そういうものを本当に 維持できるかどうか。世界の先頭でやれますかというのが、今すごく足下から問われて いると思います。  時間と成果との関連で言えば、成果のアウトプットとが、この国に働く場所を創出し ていくのだという条件は、すごく大事になっていると思います。すぐには分かりにくい かもしれないのですが。  例えば、私は鉄鋼にいますが、日本の鉄鋼というのは今1億トンです。しかし中国は 10年前に日本と同じだけ作り、今は4億トン、10年間で日本の4倍を作っています。私 は新日鉄ですが、新日鉄はつい3年ぐらい前までは世界一だと言われていました。それ が今は世界第3位で、うちの3〜4倍規模の会社が出来上がっています。そういう中で、 なぜ日本の鉄鋼業がきちんと世界でプレゼンスを保っているかと言うと、先端の商品を 世界に提供し、世界中のいろいろなユーザーがその中で日本の鉄鋼メーカーの材料を使 いながら競争力を保てる。この産業連関の1つの輪に入っている、こういうことで保た れているのだと思います。たぶん、今4倍の規模を持っている中国と同じ条件の品物し か出せなければ、日本の鉄鋼メーカーは相当きついことになるだろうと思います。  そういう意味で、国際競争力ということで言えば、もちろん、つくる強さがないとい けないということはありますが、アウトプットの質が変わってきているし、これからま すます変わってくる。そういう意味でも、ホワイトカラーの仕事に対して成果を求める し、仕事の仕方に対する成果の求め方、その中で働いている人も成果を出すという意味 で価値観を持つ。そういう働き方が今も現実的には大事になっているし、これからもっ と大事になるのではないかと思います。  長時間労働については、健康障害に及ぶことを避けなければいけないというのは、基 本的には労使変わらないと思います。 ○島田委員 私がいつもここで言っているように、すべてが例外規定だから、働くのは 8時間としたら、それ以降はペナルティーを払って働かせなさいということですよ。今 紀陸委員が、残業代カットは考えていないと言うけれど、コストを考えるときには考え ている、なくなるのは事実なのです。  全部聞いていてどうしても分からないのは、最後は賃金の制度と労働時間の関係に入 ってきていると思うのです。要するに、企画業務型裁量とか、どの裁量であれ「みなし」 でやっているだけ。賃金をそういう払い方をしているから、そうなんでしょうねと。た だ、本当に成果主義でいったときに、いま言われる自律型の働き方でアウトプットで評 価しますと言ったときに、では仕事の与え方はどういう与え方をするのかというと私た ちには分からないのです。  3カ月間でこういうものを何か考えなさい、こういうものを仕上げてきてアウトプッ トしなさいと言ったときに、そのときの賃金は3カ月間ので決めるのか、年間で決めて 割っているのかどうかは別にしても、3カ月間でこれをやりなさいとかと何か与える。 しかし、もし自律的な働き方によって1カ月で終わった、その成果が出たと言ったら、 その後の2カ月は休養していいのですか。3カ月間でやりなさいというノルマを出され て、普通だったら、3カ月でできたら当たり前かプラスか知らないけれども、契約上は できている。ただし、1カ月ワァッと頑張ってやって、あとはフリーだからゆっくり休 みながら、次のために考える時間が欲しいからずっと休ませてもらいますと言ったとき に、企業側は本当にそれでいいと言うのですか。  実際に今、裁量型労働、企画業務型裁量労働というのは、一つの仕事が終われば、あ なたは能力が高いですから次の仕事に行けますよねということでやっている。みんなが 不満を言うのは、普通にやる人は100%の賃金で、私も、頑張ったら110%かもしれない けれど、賃金しかくれない。要するに、通常の賃金制度が違うから。年俸制でやってい る、成果主義で請負で、これが出来たらなんぼ与えますなどという制度にしてないから 出てくるだけの話で、通常の働き方をしていたときに、それが本当に今の企業で可能な のかどうか。  それが本当に可能だと言うのだったら、私もある程度ホワイトカラー・エグゼンプシ ョンというものは考えざるを得ないと思います。本当に一つの仕事を与えて、それが終 われば最後は休養させてあげるよ。いいよ、自由に働いてくださいと言うのなら分かり ます。でも、現実の賃金制度は単に通常の月給制でやっていて報酬制度がない。要する に通常の1対1の個別契約における労働者みたいな形がとれない限り、契約社会におい て、この仕事を請け負って全部やりますよという話でない限りは違うような気がして、 その辺が私たちはどうしても理解できないのです。  また、裁量労働とどこが違うかが分からないのです。裁量労働は賃金の関係だけ、み なし労働で賃金を決めているだけで、正直に言って、ホワイトカラー・エグゼンプショ ンと違うのは深夜業の割増を払わなければいけないということはありますが、現実的に は、働くほうからいったら、そんなことは関係なしに働いているわけです。そのときに 成果と賃金が合ってないからおかしいですという話が出ているだけで、裁量労働のいろ いろなものとどこが違うのか。それは賃金の違いなのか、賃金体系なのかということを 聞きたいし、その辺がどうも私にはわからないですね。  小山委員が言ったように、どういう人がエグゼンプションを必要としているのか。紀 陸委員は、裁量労働でも、もう少し高度なことで働きたい人も出てきますと言ったとき に、労働時間の制限なしにすると。しかし、今でも裁量労働は制限がないのです。お金 を払う払わないは別にしても、働いても管理していないのです、働いて成果を出そうと しているわけだから「あんた、やめときなさい」とは誰も言えないわけでしょう。どこ が違うのか、その部分が私たちはどうしても理解できないのです。 ○小山委員 本当に自由に、自律的に働ける人がいるのだったら、私もその制度はいい と思います。なぜかと言ったら、そのほうがストレスもぐっと減るし、時間も自由にで きるし。しかし、現実にそれがないから、ないところでこういう制度を作ろうとしてい るからおかしいと私は言っているのです。結局、みんないちいち経営者から指示されて 仕事をしているわけではないのです。自分の業務は、お客さんがいて、納期があって、 そこで業務量が出てくるわけです。そして、お客さんから仕様変更を言われたとか、納 入するときに何かトラブルがあったとか、そういうことでどんどん長時間の労働になっ ていったりするわけです。そのときに自分の裁量で、労働時間が長くなるからもうこの 客の受注を切ってしまおうというような判断は、管理監督者だってできない。これが今 の多くのホワイトカラーの、それも管理職クラスの働き方ではないですか。お客さんが いるし、納期があるのです。その業務量があって、どこに自由な働き方ができるのか。 そこを時間できちんと制限をして管理していかないと、業務量はコントロールできない。 現実の職場は、業務量のコントロールを時間という形でコントロールするしかないので す。きれいな理屈はわかりますが、現場はそんなことになってない。  システムエンジニアもそうです。納期なしでやっている人なんかいますか。あるいは エンジニアリング。プラント建設を取り仕切る高度の技術者はいます。いろいろな機械 を集めてきて設計をして最後の、そのプラントが完成するまで責任を持ってやるエンジ ニア、そういう人も、決して会社から業務命令で何時間働け、死ぬまで働けと言われる のでなくて、お客さんがいて、そして、自分の能力を最大限発揮して良いものを作ろう と思って、みんな一生懸命働いているわけです。  では、その中で誰がコントロールするのか。時間でコントロールしておかないと、際 限なく働いてしまうわけです。それは多くの調査でもあるように、働きすぎてしまうの です。前にも申し上げましたが、労働相談や過労死の電話相談で相談してくるのは、本 人ではなくて、家族であったり友人であったりするわけです。本人は、自分の仕事を本 当に完成させたい、良いものをつくろうと必死になって働いているわけです。それこそ、 死ぬまで自分で働いてしまうわけです。  その現実が多くあるから、いま過労死のことがこれほど問題になり、厚生労働省とし ても、時間できちんと制限をしなければならないということで様々な規定を作ってきた わけでしょう。業務量を時間でしかコントロールできないわけで、そこのところが、あ たかも自由に働けるみたいなことを言われると。本人ではコントロールし切れないとこ ろを、時間というもので業務量自体もコントロールしていく。そうした強制力を持たな いと、過労死や過労自殺はますます増えていくし、ましてや今、過剰なストレスでうつ 病になる若い人が私たちの職場では本当に多い。そのことをきちんと解決していく法制 度を作っていかなかったらば、この労働条件分科会は何のためにあるかということにな ると思います。 ○分科会長代理 今までかなり労働側あるいは使側の委員でご議論をいただいておりま す。主として自律的労働時間制の問題について、その趣旨を中心にご議論いただいてい るのだと思います。使用者側委員がお話になる趣旨、狙いみたいなものに対して、労側 委員は、私の理解によりますと、少しそれは抽象的、理念的すぎるのではないかという ような観点から、現実に、例えば裁量労働制との違いをどう考えるのだとか、現実にそ ういう対応が現場であるのだろうか、というお話もされているのではなかろうかと思う わけです。  その辺りも少しコメントもいただきながら、もちろんそれは非常に大切な問題ですが、 時間の関係もありますので。具体的なイメージとして、1つの論点は、こういう制度を 作ったときに過重労働につながり、それが現実的にいろいろある問題に更にその問題を 重ねることになってくるのではないか、というような趣旨ではなかろうかと思うわけで す。そして、その辺りの具体的な対応として、論点にも出ているように、例えば健康確 保の問題や休日確保をどのように現実的に考えるか。あるいは、仮にこういう制度をと ったとしても、長時間労働を抑制するイメージがどういう形で描けるのか、制度設計が できるのか。このようなことにつきましても少し触れていただければ大変ありがたいと 思いますので、座長代理としてその辺りの希望を申し上げましたが、いかがでしょうか。 ○紀陸委員 過重労働の件は盛んに言われていますけれども、先ほど平山委員からお話 があったように、これは非常に大事な話なので、その企業に合った形の措置を入れる。 これは業務、業態によりますから、休日重視でいくのか、あるいは1日の時間に上限を 設けたらいいのか。それは労使で実情に即して入れていただくことが絶対に必要だと私 たちも思っています。  もう1つは裁量労働との絡みで、エグゼンプションの導入意義というのですか。先ほ ど資料1−3の説明がありましたが、7頁に「企画業務型裁量労働制に対する評価」の データがあります。確かに企画業務型裁量労働制の導入バリアはまだ乏しいわけですが、 この中に裁量労働制を入れて、当初思ったものが結果的にどうであったかということが 7頁に入っているわけです。「自らの能力の有効発揮に役立つと思った」という回答が 55、「一部期待どおり」というのが約37、「仕事を効率的に進められるので労働時間を 短くすることができると思った」が30.3と35.4です。それから「仕事の裁量が与えら れることにより仕事がやりやすくなると思った」、これも58と32と非常に高い割合で す。自分に裁量権が与えられて非常に回しがやりやすくなった。「能力や仕事の成果に 応じた処遇の向上や公平な処遇が期待できると思った」も41と37です。  特に「概ね期待どおり」のほかに「一部期待どおり」の割合も結構高い。これは裁量 労働ですから、小山委員はご承知の上で質問されていると思うのですが、極端に言って、 1日4時間やる人もいる。今日は1日4時間、そしてその翌日は10時間やりましょうと 山谷をいろいろと自分で裁量するわけです。1日は8時間、残業を入れても9時間とか、 この1週間とか、ひと月の毎日の中での割振りを自分でやるのが裁量です。この中で「一 部期待どおり」という割合が結構高い。  例えばこういうものを、上限8時間とか9時間とか、そういうこともなしに、あとは ご自分でやりなさいよと言ったら、「一部期待どおり」ではなくて「概ね期待どおり」 の割合が高まっていくかもしれない。そういうことが期待できるような会社にはエグゼ ンプションを入れたらどうですかというような話です、イメージとしては。何度も繰り 返しになりますが、1日の時間というのは限られているわけですから、その塩梅、差配 を自分でやれるような人たちを対象にこういう制度を入れて、ご本人も会社も良い関係 が出来ればそれでいいではないかと、そういう話であります。  世の中がひっくり返るような大きな話ではなくて、本当に選択肢を広げる。労使がど うしても納得できないものというのは無理でしょう。納得ずくで入れるわけでして、そ の運用も納得ずくで回していくわけですから、そこの点の誤解は本当に解いていただき たいと思うのです。裁量労働でいいと言うのだったら、もちろんそれでいいでしょう。 しかし、これだけ「一部期待どおり」という割合が高ければ、もっと期待度を高めたい と思います。それが両方にハッピーであれば、そういう選択肢を入れてもいいではない かという話です。 ○君嶋氏(山下委員代理) 先ほど小山委員から、現場にはホワイトカラー・エグゼン プションにふさわしい労働者なんていないという話があったので、私どもの会社の例を 紹介させていただきたいと思います。  私どもGEグループは日本で広く事業を行っておりまして、工業系では医療機器のC TやMRIをつくっている会社もありますし、プラスチック原料をつくっている会社、 さらに原子力燃料をつくる会社もございます。金融業系では、会社向けのリースや消費 者金融も行っております。本社はアメリカですので、かなりアメリカ的な発想が入って いる会社だとは思いますが、もともとは日本の会社を買収して大きくなってきた会社で す。  裁量労働制、あるいは既成の労働時間では満足しない元気な労働者というのがおりま して、非常にプロフェッショナル意識を持って、時間に関係なくやっております。もち ろん、使用者に雇われて働いている限りはあらゆることに締切りがあって、いつまでに やらなければいけないということはたくさんありますが、例えば大きなM&Aのディー ルがあって、いつまでにクロージングで、いろいろなことをやらなくてはいけないとい うことで、そこまでは猛進して働くわけです。ですが、それが一段落すれば、その後は 平坦ペースに落ちます。私は法務部に所属しておりますので、M&A関係のものもござ いますし、契約書をいつまでにやらなければいけないというようなこともありますが、 こちらは早くやらなくてはいけないと自分でコントロールして優先順位をつけていま す。そして、急ぎのものが収まれば、今日は4時ぐらいに終わって買い物をして帰ろう、 というようなライフスタイルもあるわけです。  裁量労働制というのは、基本的にはみなし労働時間で、8時間あるいは8時間+時間 外何時間を働きましたとみなしますという制度でして、何時間働いたとみなされるとい うことについて満足を感じない労働者もいる、というところはご理解いただきたいと考 えております。 ○小山委員 2つのことだけ申し上げます。裁量労働制に対する先ほどの調査がありま したが、今年労働政策研究研修機構が行った「日本人の働き方総合調査」の中で、裁量 労働制に対する働く人の評価というのが出ています。裁量労働制に対する自己評価で「つ い働きすぎてしまう」が「どちらかといえばそう思う」と併せると53.4%、「過労にな りやすい」が52.3%。過半数を超える人がつい働きすぎてしまうという結果が出ていま す。それが過労に通じているというデータです。ですから、こういうデータも是非ここ に出していただければいいと思うのです。  確かにいろいろなケースはあると思うのですが、ここで議論しているのは、労働基準 法をどう変えるかということなのです。労働基準法というのは、国の最低基準を決めて、 その線で公正な競争をしましょうということで、市場経済での競争のルールを、労働条 件についてここで決めているわけです。そこで最低限決めているいまの労働時間規制の 在り方について適用除外をしてしまったらば、あとは労使にお任せしますということで、 労使の合意があればいいではないかと紀陸さんはおっしゃるわけですが、労使の対等性 というのはどこにあるのか。  労働組合の組織率はわずか18.7%です。それでどうやって労使が対等にものを決めら れる仕組みがあるのか。組合のない所で、残業代は払わないという制度が入ってきて、 コストも安くなってとなると、社会的な競争のルールからいくと、水は高い所から低い 所へ流れていくわけです。労働組合がある所も、このまま行ったら、うちの会社は負け てしまうということで、コスト削減策としてそういう措置をとらざるを得なくなるわけ です。だから、労働基準法でのルールというものが必要になり、公正な競争を担保して いるわけです。あたかも労使が決めればいいのだ、ごく限られたところにしか入れよう と思っていないのだと紀陸委員はおっしゃいますが、それは労使で決められることでは ないし、法律上きちんと押さえておかないと。まさに労使合意があるからというのは、 まやかしにすぎない。公正な競争も担保されなくなるということで、そのような考え方 は是非改めていただきたいと思います。 ○八野委員 経営側からもいろいろな事例を出していただき、実態も聞きましたが、こ れ自体が、どうも曖昧なホワイトカラーという労働者に対して、労働時間から完全に切 り離した成果主義賃金制度を導入しているとしか見えないのです。それはそうではない、 ということはあるかもしれませんが、完全にこれは労働時間と、皆様が今まで言われて いた成果主義という賃金制度を導入して、この2つを完全に切り離しているわけです。 そうですね。そして、相対的に見たら、それは今までの企画業務型だとかの裁量労働を している人たちはもちろんのこと、それを上回る働きすぎの人たちの集団をつくろうと いうことです。企業内ではわずかな人たちかもしれませんが、そこで働いている人たち はそういう形になっている。  先ほど、元気のいい社員が増えてきているというお話がありましたが、それはそこで 報酬を上げたり、評価をきちんとすればいいわけで、それと労働時間とは何ら関係はな いわけです。紀陸委員は24時間が限られた時間と言っていますが、労働時間は8時間と いうのが法律で決められた「限られた時間」です。そこでいかに成果を出していくかが まず基本にあって、企画業務型裁量がある。  ここに書いてある企画裁量型に対する評価の読み方について、そこに期待できると思 ったということですが、思ったができなかったのか、思ったからできたのか。こんなも のでは読めませんよ。だから、そういうことを事例に出して言うのではなくて、いま問 題になっている、労働側が言っているのは、ホワイトカラー労働者ということと、時間 と成果主義というものを切り離すような労働条件は今ここで入れられない。それは先ほ どから言っているように、長時間労働が是正されていない、不払労働がコンプライアン スという面からもできていない。こういう状況の中で、労働時間の緩和だけをやってい くことはできない。  それと、成果主義というのはありますし、増えてきてはいますが、一部の企業だけで すし、導入している所も、管理職以上にだけ導入しているとかということがあるわけで す。それで今回は、管理監督者の下の人たちを狙おうということも出てきますが、いま 裁量労働で業務量が多いというアンケート回答が多く出ています。裁量労働ならまだ時 間の規制があるからそれでいいのかもしれませんが、時間に規制がない、業務量が増え るかもしれないという中に労働者を出していくことはできない。  先ほどから出てきている素晴らしい企業の在り方、または、ここに書いてある労働者 の公平性、そういう基本的なポリシーを労使で守るのであれば、1つ1つの問題点が改 善されて、今ここに不払労働がない、長時間労働がない、それで企業が新しい働き方を 求めると言うのであれば、それは議論する余地は大いにあるかもしれません。これは労 使ともにいけないところかもしれないけれど、よく言われるコンプライアンス、企業の 社会的責任というものが守られていないという中で、ここに書いてある「緩やかな管理 下、ふさわしい仕事、自律的な働き方」こんなきれいなことばかり言われても、私たち はそれを新しい働き方として受け入れることはできないと思ってしまいます。方向性と してはわかっていても、制度として入れることは不可能であり、その辺をもう少し明確 に議論していただきたいと思います。 ○田島委員 いま八野委員が発言したとおり、この表の読み方、紀陸委員が言われた7 頁の適用労働者の意思について、私たちにとっていちばん大きな問題は、「仕事を効率 的に進められるので労働時間を短くすることができる」と思ったが期待どおりでない、 思わないというのが3分の1以上いるわけです。結果的に裁量労働制では満足しない人 たちがいるのだ、元気な労働者がいるのだと言いますが、何で裁量で満足できないのか が分からない。適用除外にすれば満足できるのかと言ったら、それは労働時間関係が同 じでしょう。裁量というのは、自分自身に裁量権を与えられているわけです。ところが、 裁量労働者と言いながらも、結果的には裁量権があまりにも与えられていないというこ とが、現実にほかのデータでも出ているという問題があります。  もう1点。今日連合が集会を前でやったときに撒いたビラに、こういうデータがあり ます。ILOが作った2000年時点で、世界のワーストワンの長時間労働であると。日本 の場合、1週間当たり50時間以上働いている労働者の割合が28%、断トツなのです。 次がアメリカの20%、それからイギリスの15%。ほかのヨーロッパの国々は6%以下な わけです。あまりにも日本が長時間労働であるという現実があるのです。  こういう現実の中で、適用除外にすれば、何時間働いたかというデータは消えていく わけです。データ的には確かに長時間労働が解消されるかもしれないけれども、そこに 大きな狙いがあるのです。もし本当に裁量権を与えて自律的な労働者に任せようと言う のだったら、28%も週50時間以上働くような労働者を無くすという問題を先に解決すべ きです。9月に出された『労働新聞』に、長時間労働と精神障害の関係が日本産業精神 保健学会のデータとして出されています。精神障害に陥っているのは、あまりにも長時 間働きすぎているのと、ホワイトカラーが多数を占めているということが現実問題とし て出されているわけです。そういう中で、労働時間管理をしっかりして、これ以上働か せたら駄目なのだ、原則は8時間労働である、それ以外は本来は例外なのだ、しかも、 適用除外というのは例外中の例外なのだ、したがって厳密に規制しましょうというのが 当たり前の世界だと思うのです。  何で裁量労働で駄目なのか、自律的ということで適用除外することがそんなに求めら れる理由は何なのかと言ったら、経営者のほうが結果的には責任逃れ、いわゆる労働時 間管理から責任逃れになってしまうことになるのではないかと思うので、その点につい てお聞かせいただければと思います。 ○分科会長代理 先ほど来、裁量労働制ではなぜできないのかということを何人かの労 働側委員からご指摘いただいておりますので、なるべく論点がダブらないような形でお 願いできればありがたいと思います。なお簡潔に、よろしくお願いします。 ○島田委員 いっぱい働きたい人がいる、これは分かります。労働時間を何で管理しな いかということで今いろいろ言われましたが、正直に言うと経営が面倒くさいからかも しれない。何しろ働ければいい。要は36協定の上限を外せばいいわけでしょう。いくら でも外してください。やりたいときは、やってください。そして、仕事が終わったらゆ っくり休んでくださいということにして、年間トータルの労働時間が2,088時間を超え ているか、いないかとやってもいいわけです。そして、それを超えた分については残業 代を払いましょうと。はっきり言ったら、要はコストを削減したいから残業代を払いた くないだけではないですか。それでも同じ働き方でしょう。自分の働きたいときにどん どん働かせてもらいます。年間トータルしたらこれでした、与えられた仕事に対してど れだけやったんですか、仕事が早めに終わったんで休んでました、でもいいではないで すか。どちらにしても、健康管理というのはある程度はせざるを得ないので、自己申告 させてやったらいいではないですか。そして2,088時間とか、労基法以上に働いていた ら、残業代を払えばいい。要するに、それを外せないからやっているわけでしょう。今、 労使で何か特別のことがあったら外せるというルールになっていますが、それをいちい ちやっていられないといいます。でも、働く人がそのことを感じてやっているかといっ たら、自分の意識でこれをやりたいから働いているだけなのです。労働時間を管理され ているとか、いないに関係なくやっているわけです。現実の問題として、経営がそれを 払いたくないから言っているだけではないですか。払えばいい、私はそう思います。 ○奥谷委員 先ほどからのご意見で、個人の自律ということがありましたし、自分で働 きたい元気な人もいるということもありましたが、モチベーションアップというか、自 分で頑張って自分の能力を上げたいと言ったら、24時間と紀陸さんは言いましたが、8 時間という枠を云々というのは、夜中の8時間でも朝の8時間でも昼の8時間でも構わ ないわけで、8時間と限定する必要性もない。二千何百時間という部分も、何もコスト を下げたいということではなくて、経営者側は成果を出してほしいわけです。いい成果 を出せば、それでちゃんと給料を払えます。  ところが、そういう成果を出せないような人たちがあまりにも多くいすぎる中に、不 公平さが出てきてしまうという現実があるということを、労働者側も理解するべきです。 組合の方々だからそういったことを言えない、能力に差がある、全部平等だと言いたい ということも分かります。しかし、そういうところの区別というのはきちんと押さえて、 できる人には賃金を払わないと。いま企業は人材だと言っているわけです。いい人材を 確保しなければ会社はつぶれてしまうわけですから、できる人にはそれなりにちゃんと 給料を払います。しかし、できない人にはそれなりの給料しか払わないというのは当た り前のことです。ですから、そこの部分を全部公平に、二千何百時間働いたからその残 業代も全部払ってというときに、成果というものに対してはどう考えていらっしゃるの ですか。全部同じようにしろということですか。それでは、まるで共産主義ではないで すか。 ○紀陸委員 時間管理と賃金管理は全然別物みたいなことで何かおっしゃられているの ですが、今の管理監督職はみんなそうですよね、もう、大体年収が増えてきて。時間管 理と賃金管理は全然別だとか一緒だとかと、そういうイメージが湧かないような話です が、すでに日本の管理監督職の賃金体系が年収なり成果評価の形になり、かつ時間とリ ンクしていない働き方がすでに現実に目の前にあるわけです。いろいろな会社の管理監 督職がそうです。そこの要件が一緒であれば、その枠を広げていこう、会社の中の従業 員と会社のモデルが合えば枠を広げてそれも入れましょうという話であって、一歩進む のが難しいということではないと思うのです。いまある賃金制度をもう一度きちんとす るとか、物差しをきちんと作るとか、健康管理の仕組みをきちんと入れるとか。だから、 そんなにジャンプしなければいけないというような話ではなくて、その会社でニーズが あれば入れましょうというような話です。  いまお帰りになった渡辺委員も、中堅中小の企業でもそういうものは入れられるだろ う。問題は、労使の納得をどういう形で担保するか。労働組合だけなのか、あるいは労 使委員会の仕組みを使うのかというようなところが非常に大事な話になってくると思う ので、そこで合意ができるようなものであればいいだろうということです。  もう1つは、先ほど法律で一律にと言いましたが、法律で決めるものと労使で決める もの、そこは組合せだと思うのです。確かに基準法は「あまねく」ですから「あまねく」 の所は決めた上で、応用動作として個別企業でやっていただくようなものを、労使委員 会なり労働組合と話し合うような仕組みを作ればいい。現行制度でも、そういうものは いっぱいあるわけで、そういうものを活用すればいいのではないですか。 ○原川委員 いま紀陸委員から少し出ましたが、中小企業からも一言いわせていただき たいのです。新しい働き方に対する期待は、もちろん中小企業にもあるわけです。普通、 会社ですと、どのセクションについても管理職というのはいると思うのですが、むしろ 管理職の手前の中堅的な、現に会社を支えているような勢力というものがどの会社にも あると思うのです。そういうセクションの人たちというのは、目標を持って、それを達 成することを使命とする、そういうポジションだと思うのです。  使用者のほうも、特に中小企業の場合には労使一体といいますか、先ほどの平山委員 のお話のように、どういう組織でどういう力を発揮していくかということが非常に重要 であるわけです。「人が財産」と言われるのもそういうことであると思うのです。  一方で従業員のほうも、ここが中小企業の良いところだと思うのですが、中小企業で 働きたいというような人は、能力を存分に発揮して自己実現をしたいという人が多いわ けです。私は、いろいろな企業の中堅の従業員にも聞いたし、経営者にも聞いたのです が、自律的に働く、自分で遂行手段や時間の自律的な管理、時間の使い方を自分で裁量 的にできればいい、例えば仕事が終わったら素直に帰れるとか。ところが今ですと、人 がやっていれば、なかなか帰りにくいということもあって、そういうことがサービス残 業の1つの原因にもなっているというような指摘も現実にございます。ですから、すべ てが長時間労働になって健康を害するということではないでしょうし、もちろん長時間 労働を防ぐ手だては必要だし、健康管理の措置もきちんと行うことは必要だとは考えて おりますが、労使ともに新しい働き方についての希望や期待が大きいということですか ら、これから新しい時代に向かって、そこに何とかそういう道をつけるということをし ていただきたいと思います。 ○分科会長代理 繰り返しになるかもしれませんが、先ほど来、趣旨等につきましての それぞれのご意見が出ておりまして、そういった議論を更に深めるという意味からも、 論点等で書いてあること、これは先ほど渡辺委員から触れられましたが、労使の合意は 当然としても、本人の同意は必要ないのではないかと。あるいは認識の問題にも触れら れましたが、そういったことについてもご意見があれば出していただいて、より具体的 なイメージを持ってこの制度の議論が深まればと思います。 ○久野委員 私は医師として意見を述べさせていただきます。論点が4点出ています。 特に資料No.1−3の7頁の企画業務型裁量労働制に対する評価は、「概ね期待どおり」 あるいは「一部期待どおり」とを入れれば非常に多くの方が、実際に適用労働者はわり と賛成しているというのが出ています。また、そのような働き方に対する労働者保護は、 労使双方とも、健康確保の在り方、休日や長期休暇に関するもの、また長時間労働の抑 制ということがあれば、これで概ね妥当かなと思います。  3番目の本人の同意に関しては、やはり本人の同意があったほうがいいと私も思いま す。年収に関しては、そこまで決めると企業によっては問題があると思いますが、本人 の同意は絶対に要るかと思います。そのようなことで、この論点の整理でかなり妥当な 線になっているのかなと思います。しかし、特に健康について、長時間労働の抑制策は 必要であると考えます。 ○原川委員 これは先ほど渡邉佳英委員が述べたことと同じことですが。中小企業とし ては是非こういう制度を作っていただきたいのですが、その場合、新しい時代に合った 働き方というのは大企業も中小企業も同じであります。従業員に区別がついているわけ ではないし、働き方に区別がついているわけではないのです。ですから、現実的な制度 を、年収にしても、その他の導入要件にしても、別にまけろと言っているわけではあり ませんが、中小企業も現実に対応できるような年収なり導入要件というものを、是非考 えていただきたいと思います。 ○島田委員 いま分科会長代理から年収や本人同意の関係を聞かれましたが、労働側と しては、今たくさん質問なり問題提起した中で1つも答えられていませんし、もし、答 えないままエグゼンプション導入に議論が行ったら、私たちはこれを認めるつもりはあ りません。したがって、本人同意なり年収の関係について議論するつもりはありません、 この制度は、もともと考えられないわけですから。 ○分科会長代理 裁量労働制そのものについては様々な形で触れられておりますが、こ こで出されているような趣旨の企画業務型裁量労働制の問題については、いかがですか。 ○石塚委員 時間がないのですが、労働側の意見を申し上げておきたいと思います。い きなりエグゼンプションの話に飛んでいますが、論点として、中小企業においても企画 型裁量制が有効に機能するようにということで、対象業務の範囲や手続について云々と 出ています。いまの企画業務型裁量労働制は使い勝手が悪いとよく言われますが、本当 に悪いのかどうかです。中小企業においては尚更それが使いにくいと言うのだけれど、 何が問題なのか、この審議会においても、どこかでもう一遍きちんと議論しないと。い きなりこの問題を一言で片付けられて、何が悪いのかよく分からないうちに、いきなり エグゼンプションの話に飛んでいってしまうという問題があります。今日もそれは議論 になっていましたが、どこかで時間を改めてこれをきちんと議論すべきだというのが基 本的な立場です。  特に我々が気になっているのは、中小企業といっているのだけれど、どの範囲を中小 企業というのかというのは、ここでは全然議論されていません。いろいろな統計を取っ てみたときに、企業数からいったら、日本の場合は中小企業が圧倒的なのです。資本金 で切るのか、従業員で切るのか分かりませんが。しかも、2頁の右のほうに「中小企業 の特例」と書いてあります。これは事務局の論点整理ですが、特例なるものがよく分か りません。圧倒的な数を占める中小企業において、しかも特例的にこれを認めましょう、 という考え方で論点が出ているわけです。  仮にそういう方向で議論が飛んでいってしまいますと、日本における圧倒的多数の中 小企業において、いわば特例が主流になってしまうみたいな感覚で議論になってしまう のではないか、私どもとしてはそのことを非常に懸念しています。エグゼンプションの 議論で私たちも熱くなっていますが、その手前の議論として、企画業務型裁量労働制を めぐる冷静な評価、及びそれに対する不足の点がいかにありやという議論をもう少しす べきだろうと思います。  最後に、私の意見を1つ言わせていただきます。特例という発想自体は、基準法の世 界からいきますと少しおかしいのではないかと思うのです。ある一定の制度を入れて、 経過措置として何か物事を考える。過去の例として、中小企業に対して週40時間労働制 をいきなり入れると大変だ、だからソフトランディングという観点から見た経過措置を 持っていったということ、これはよく分かるのです。分かるというか、そのようにやっ てきたわけです。  しかし、特例というのは恒常的に例外をつくってしまうわけですから、ある基準を示 したときにそこからドロップアウトさせてしまうので、法の精神から言って、これはい かがなものか。したがって、事務局の整理だと言えばそうですが、いろいろな議論で経 過措置はもちろんあるのでしょうが、特例で、しかも中小企業全部という発想は、議論 としては乱暴ではないかという基本的な危惧を持っている、この点だけは申し上げてお きたいと思います。 ○紀陸委員 いろいろな意味合いがあって、「仕事と生活の調和」「ワーク・ライフ・ バランス」など様々に言われていますが、ああいうものの捉え方だとか評価をどのよう に考えますか。 ○島田委員 働き方自身は考えざるを得ないし、働き方を規制する、しないについて、 考え方はいろいろあるでしょう。そして、長谷川委員が言ったように、24時間あるいは 年間働いた中でどれだけを自分や家族のリフレッシュに使うか、これについてもいろい ろ考え方はある。睡眠時間が4時間という人も8時間という人もあるから、それはある と思うのです。だから、労働組合側も、極端な範囲ではなくて、ある範囲内でそれは認 めているし、そうなっていかなければいけないのだと思っています。ただし、その中で 何で今回のこういう、全部外していっていいのかというのは、本当にいいのですか、経 営理論だけではないですかと非常に疑問です。私たちには、どうしてもコストにしか見 えないのです。なぜなら、現実的に言えば、今の制度でできるのですから。こっちは無 視して現実的にやっているものから言ったら、できているわけですから。 ○分科会長代理 ちょうど時間がまいりました。本日は、労働時間法制の関係の主要な 部分についてかなり議論をしていただいたと思います。もちろん、今それぞれお話があ りましたようなことで、十分尽くされていない面もあろうかと思いますが、一応時間で ありますので、本日はこれくらいにさせていただきます。次回の分科会は、労働時間法 制の関係の主要部分のうち、本日中心的にご議論いただいた以外の残りの部分について、 ご議論をいただければと思います。次回の日程について、事務局から説明をお願いしま す。 ○監督課長 次回の日程についてご説明申し上げます。次回の労働条件分科会は10月5 日(木)13〜15時まで、場所は厚生労働省17階の専用18・19・20会議室で開催する予 定ですので、よろしくお願いいたします。 ○分科会長代理 本日の分科会はこれで終了します。本日の議事録の署名は、島田委員 と平山委員にお願いいたしたいと思います。お忙しいところ、ありがとうございました。                  (照会先)                     労働基準局監督課企画係(内線5423)