06/09/21 第8回医療用医薬品の流通改善に関する懇談会議事録について      第8回「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」議事録                   開催日:平成18年9月21日(木)                   場 所:厚生労働省17階専用第18〜20会議室 (照会先)医政局経済課 担当・内線 笹子(2524)   代表 5253−1111 直通 3595−2421        ○笹子経済課長補佐  定刻となりましたので、ただいまから「第8回医療用医薬品の流通改善に関する懇談 会」を開催いたします。  まず、本日の委員の出欠について事務局の方から御報告させていただきます。本日は 日本医薬品卸業連合会の松谷会長から御欠席の連絡をいただいております。代理といた しまして、流通近代化検討委員会専門委員岩崎恒夫様に御出席いただいております。  また、本日は他業種の流通実態等の有識者をお招きしておりますので、御紹介いたし ます。有限会社システムズ・リサーチ代表取締役の吉田繁治様です。拓殖大学商学部教 授の根本先生につきましてはおくれられているようですので、後ほどまた御紹介させて いただきたいと思います。  まず医政局長の方からごあいさつをお願いいたします。 ○松谷医政局長  医政局長の松谷でございます。医療用医薬品の流通改善に関する懇談会、今回が8回 目になりますが、前回までに流通に関する幾つかの課題について、それぞれ御討議、そ して必要な処理をさせていただいたところでございます。ちょうどこの通常国会で医療 に関する改革の法案が成立したところでございまして、来年4月に医療提供関係につい ては施行を予定してございますが、その区切りでもございますので、流通関係につきま しても、また、この秋から新しい体制、課題ということで、まずきょうはヒアリングを させていただきますが、それぞれの課題をまた点検して進めていきたいと考えておりま すので、どうぞよろしくお願い申し上げたいと思います。  申しわけございませんが、私はきょうの午後に出張予定がございまして、11時半、こ の会議終了まではおるつもりでございますが、万一この会議が延びますと途中で失礼す ることになるかもしれませんが、よろしくお願い申し上げます。 ○笹子経済課長補佐  次に、前回6月23日の開催以降の事務局の異動について御報告させていただきます。 9月1日付で着任いたしました、医政局経済課長の武田でございます。 ○武田経済課長  武田でございます。よろしくお願いいたします。 ○笹子経済課長補佐  同じく経済課課長補佐の近澤でございます。 ○近澤経済課長補佐  近澤でございます。よろしくお願いいたします。 ○笹子経済課長補佐  申しおくれましたが、私、事務局を担当させていただくことになりました、経済課課 長補佐の笹子でございます。どうぞよろしくお願いいたします。  お手元に拓殖大学の根本先生とシステムズ・リサーチの吉田先生のプレゼン資料を配 付させていただきましたので、御確認ください。脱漏等がございましたら、事務局にお 申しつけいただきたいと思います。  それでは、以降の議事進行につきましては嶋口座長にお願いしたいと思います。よろ しくお願いいたします。なお、御発言いただく場合には、お手数ですがマイクのスイッ チのオンとオフをその都度切りかえていただければと思いますので、よろしくお願いい たします。では座長、よろしくお願いいたします。 ○嶋口座長  座長の嶋口でございます。きょうは残暑大変厳しい中をお集まりいただきまして、本 当にありがとうございます。前回はノーネクタイでいこうという話をしていたのですが、 季節の変わり目でして、事務局もきょうは全部ネクタイをしていて、ばらばらでござい ます。ネクタイがなくても一向に構いませんので、一番気楽な格好でお願いします。私 もきょうは大変迷ったのですが、やっておいてとればいいかなと思ってきました。暑い ですから、もしよろしかったらどうぞ上着を脱いで、気楽なスタイルで聞いていただけ れば結構かなと思います。  毎回確認ですが、各団体を代表する方々ばかりでございます。普通なら「先生」とか、 いろいろ呼ばれるのでしょうが、この場では「さん」づけでいきたいと思いますので、 その点、よろしくお願いいたします。  第8回はまた新しい事務局の体制でスタートいたしますが、きょうはどういう形が一 番いいかということで、一度またここが区切りでございますので、流通一般について、 きょうはお2人の流通エキスパートの方々からお話を伺って、そしてフリーディスカッ ションをしようと。そういうセッションにしたいと企画いたしました。  ということで、きょうは先ほど御紹介がございましたように、有限会社システムズ・ リサーチ代表取締役の吉田繁治様と拓殖大学商学部教授の根本重之様にお願いしている のですが、根本先生がちょっとおくれているようでございますので、最初に、大変恐縮 でございますが、吉田繁治様から30分ほど、まず流通のお話をお話しいただくと。その 後で、まず事実についての簡単な質問をして、その後、根本様からのお話を伺った後、 事実確認の後に全体のフリーディスカッションをすると。そんな形で進めたいと思いま す。よろしくお願いいたします。どうぞ一番気楽な格好で、もしネクタイをとられる方 はとっていただいても一向に構いません。  それでは早速ですが、吉田先生、お願いいたします。 ○吉田先生   御紹介いただきました吉田繁治でございます。初めて出席させていただきますが、 きょうは実は出てくれと言われたときに、私は医薬のことをほとんど知らないんだけれ どもと。医薬ではなくて、他の業界の流通のことを話してほしいということで、きょう はそれについてお話ししたいと思います。  個人的なことですが、約25年、実務的な立場からいろいろな流通にかかわって、情報 システムですとか、ネットワークシステムですとか、あるいは物流システムですとか、 そういったことに携わってまいりました。  最初に私の観点、スタンディングポイントを申し上げます。実は医薬の流通も、こと しになって調べてみたのです。わからないところがいっぱいありまして、半年間も1年 間も値段が決まらない取引があるとか、アローアンスといわれるものも、あいまいでよ くわからない。どういう基準で価格や割引が決まっているのか、その基準は調べてみる とあるようですが、そういう理解しにくいことがあるようです。  もう一つ、一番びっくりしましたのは、例えば流通を合理化するということは、卸売 が、病院とか調剤がお客様になるわけです。卸は一生懸命に合理化し、安く卸すという ことになると思うのですが、安く卸すと、それがR幅とか、加重平均とかいう方法で、 2年ごとに薬価が下げられる。卸売業、あるいは流通業、場合によってはメーカーも、 普通の業界では同じ品質で価格を下げれば下げるほど競争優位で勝っていくわけです。 ところがこの業界では価格を下げれば下げるほど自分の利益をどんどん減らしてしまう といったところがあって、これはなかなか難しいなと。政府の保険で7割払うというこ とが絡んでいるからそういったことになるんだろうと思いますが、そういった特殊な点 があるなと思いました。  きょうの観点は、そういった中で、日米の流通というのは非常に幅広いものでござい ますので、まとめることはなかなか難しいのですが、100年くらいの歴史をたどりなが ら、現在、日米の流通が、現在どういったところに至っているか。長い目で見れば流通 の合理化がずっと図られてきたわけですが、合理化が図られてきたという観点から、医 薬品業界の現在の問題点を見るとどういったことが合理化という観点、あるいはコスト ダウンという観点から見てあるんだろうか。それを最後のところで提言したいと思いま す。  レジュメは別紙に「日米の、他業界の流通の変化及び今後の医薬品流通への参考情報」 ということでまとめております。資料としては細かい字で書いてあると思うのですが、 流通は定義がされないで、学者の方とかコンサルタントが勝手に使う量が余りに多過ぎ ます。これにはコンピューターのシステム用語も絡んでいるのですが、わけのわからな い3文字略語などがそれぞれ勝手に使われて、同じような意味なのに違っているという ことはたくさんあります。私はこの中で、主要な用語は全部こういった意味で使ってい ますよと定義しています。そのため少しごちゃごちゃした資料になっています。  最初にセクション1でございますが、歴史的背景から申し上げます。こういったこと を理解するには、過去から現在に至るまでどういった推移をたどって、どういったこと があったのかというのが一番わかりやすいからです。  突然現在のことを言いますと、何でそんなことになっているんだということになると 思います。日米も、実は似たような歴史をたどっていますが、一つだけ大きな違った点 があります。まず、最初にそれを申し上げたいと思います。  3ページでございます。まず米国流通の歴史的トピック、その1、戦前ということで す。100年も70年も前のことですが、これはアメリカのことを書いています。まず、ア メリカも地域帳合い代理店及びSales Representativeの時代から始まります。小売は小 さな独立店、日本ではパパママストアと言われます。(今でもわが国小売業では130兆 円の売上のうち約半分、65兆円ぐらいはパパママストアの売上でございます。そういっ た独立店の取引です。)  地域帳合いという言葉もまた特殊な流通用語でございます。ある地域はあるメーカー の商品について、ある代理店、あるいは卸売業しか取り扱いができないという慣習的な 制度です。それを、帳合い制度と言っています。  まず、どういった特徴があったかと言いますと、メーカーは自社の販社、つまり自社 の営業と物流、または契約した地域代理店を通じて独立店、主に家業店に販売していま した。そのとき、ナショナル・ブランド商品、これはどういった意味かと言いますと、 全国的に名前の知られた商品という意味です。日本でもアメリカでもこういったものが 今主流なのですが、ナショナル・ブランド商品はメーカーが決めた定価、要するにサジ ェスティッド・プライスと言いますが、推奨価格です。その価格で絶対売らなければい けないということではないけれども、そういった価格をメーカーが提案し、それに掛け る何%かで取引をすると。  卸価格の何%の部分に取引量、金額、その他不明瞭な要因を原因とする差別的リベー トがアメリカでもあったわけであります。現在でもこれはあって、いつも大きな問題に なるのですが、そのときに戦前の事業家的な、いわばアントルグルナーとしてのイノベ ーションが起こります。まずは大規模チェーン店シアーズです。(シアーズは一時、1960 年代、日本の国家予算と同じような売上がありました。今は4兆円ぐらいで、伸びてい ませんが。今はウォルマートが年商30兆円と大きくなっています)。  シアーズはまず通販でPB、プライベート・ブランドと言われるものを開発しました。 PBとは何かと言いますと、ナショナル・ブランドに対抗して、店舗側、小売業側が開 発する商品という意味合いでございます。  このときは約3割から5割安い商品を主に通販、アメリカは広大な国でございますか ら、店舗をつくるより通販の方が効率的だということで、通販で販売した。シアーズは 非常に大きく伸びたわけであります。  次はA&P、これは食品スーパーでございます。これが部門別経営という方法、部門 別管理という方法をとります。これはデパートメントマネジメントというところにずっ とつながっているのですが、部門をそれぞれ独立した損益単位として管理するという方 法でチェーンストアをつくりまして、A&Pは現在でも5,000店ほどございます。今は 余り勢いはよくないのですが、最も古いチェーンストア、最初のチェーンストアと見て いいでしょう。  こうしたチェーン店は、ナショナル・ブランド大量仕入れを理由にリベートを確保し 廉価販売をした。そうすると、NB価格、ナショナル・ブランド価格の値崩れその他、 いろいろな問題が生じます。  たくさん量を売るチェーンストアの方が仕入れ価格は安くなるのは合理的なのです が、合理的であるにせよ、やはりこれは問題があるということで、画期的なことだと思 うのですが、1936年、戦前でございますが、ロビンソン・パットマン法が制定されます。  この法は現在も生きておりまして、内容を読んでみますと非常に厳しい法律です。日 本ではごく一部の人にしか知られていないのですが、厳格な、SECの証券取引上の規 則のようなルールです。独禁法の一つです。これが公正取引を促したということです。  法の目的は、大量販売・大量仕入れのチェーン店に対する独立店の保護でした。同時 に、不公正な廉価販売を廃し、メーカーの定価も保護するというものだったのです。  法の主な内容を述べます。  同じ取引条件、品目、数量、支払い条件、物量方法であれば、卸やメーカー販社は小 売店に対しリベートを含み、同じ価格で売らねばならないという趣旨の法です。これは fair priceと言いまして、fair priceというのは原因が同じであるということです。結 果として同じ値段で売るということ、つまり一物一価で売るということではない。  卸価格の結果は違うかもしれないけれども、その原因となるもの、条件は同じにしよ うということです。卸はこうしたfair priceで販売しなければならない。結果の平等で なく、原因の公正というものを求めた法律でございます。  具体的に言います。  例えば1年に2億円仕入れるところには、5,000万円の取引より2ポイント%割り引 くという取引は、実際に2ポイント%の配送費や生産コスト、または受注コスト、その 他すべての中で、それが数字で安くなるということが証明できない限り、ロビンソン・ パットマン法は現在に至るまでこれを認めておりません。  つまり、単にたくさん取引するから安くしろという取引、あるいはたくさん買ってく れるから安くいたしましょうという取引は、米国では独禁法違反になるのです。  どういうコストがどう低減するかを、生産コスト、物流コスト、営業コスト、すべて のコストを含めて計算した上で、こう安くなりますということを裏づけとして計算し立 証しないといけない。これが現在のアメリカの流通を決めた法律でございます。ロビン ソン・パットマン法は、非常に大きな働きをしたと思います。  零細店を保護するということが目的であったわけですが、この法は裏腹な効果を生み ます。1品大量の大ロット取引があれば、コストダウンで卸価格は安くなることが経済 原理でフェアであるということになると。この当時から勃興していたチェーン店は商品 を、いろいろたくさん置くのではなくて、ある用途のものは絞り込んで、それを定番化 する、常時陳列する、1品大量ロットで合理的に安く仕入れる、そしてナショナルブラ ンド商品に安い店頭価格をつけるということが正当に要求できるようになって行きま す。  このロットという概念ですが、ロットというのは小売店からの1回発注量、またはメ ーカーが出荷する1回出荷量という基準となるものです。これが恐らくチェーンストア による、現在に至るまでの、つまりウォルマートに至るまでの流通コストの合理化に弾 みをつけたと私は考えております。日本にはこういった法律はございません。  公正取引法での監視はあっても、これはない。日本では大量に取引すれば安くなるの が当たり前だろうと漠然と思われていますが、その数値的な根拠があやふやでございま す。それをきょう申し上げるわけです。  その2、チェーンストアの取引方法はどう変わっていったか。今述べたような条件、 これらは基盤条件ですが、そういった条件のもとで補充発注がロット発注になる仕組み づくりを米国のチェーンストアつまり大規模店はしてまいります。  チェーンストアでは標準店を数多く出店し、小売側が補充発注をする。補充発注はバ イイングというのですが、この補充発注は売れたものを定期的に補充するという概念で す。補充発注は、そこに書いてございますように、〔店舗販売数〕±〔店在庫の一定値 維持〕±〔物流センター在庫の一定値維持〕。店在庫の一定値維持というのは、回転日 数の一定値維持、何週間分もつということです。こういった計算をしまして、数式は定 期発注法の数式などがあるわけですが、そういったものに基づいて、大規模チェーンが 発注する。  仕入れ価格を合理的に下げるために1品目で大量のロット発注を、小売側で実行する。 そのために標準店を多くつくる。標準店というのは共通品ぞろえの店舗ということです。 これは日米で大きな違いがございまして、今例えば医薬の業界で言いますと、最もアメ リカで医薬を売るのは、最後に申し上げますウォルグリーンというところです。これは 5,000店舗のチェーンストア、ドラッグストアです。日本では最大のチェーンが実はセ ブンイレブンでございます。1万1,000店舗あるわけですが、これは医薬の業界ではな い。コンビニは4万4,000店舗もあるわけですが、ほかの業界ではチェーンストアと言 われるのは大体数百店が限度です。わが国の調剤薬局では恐らく200〜300店が、現在の 最大だと思います。ウォルグリーとは相当な規模の違いがございます。  このチェーンストアが何をやったか。物流センターには、TCとか、DCとか、クロ スドックとか、いろいろな種類があります。このうちDCはディストリビューションセ ンターと言いまして、一般的な物流センターです。常備在庫を持って店舗分割を行う物 流センターのことです。ロット発注をDCで個店の必要補充数に分割する。  何を言っているかというと、メーカーに対する取引は大量ロットで発注し、DCで個 店単位に分割するという仕組みです。何百店、何千店に分割する。そういったところで 個の取引、つまり個店に対する取引と対メーカー、あるいは卸、ベンダーとの量の取引 を同居させる仕組みが、このディストリビューションセンターの仕組みでございます。  NBの代表的な品目をプライスの目玉商品にして低価格を訴える。ハイ&ローと言い ますが、期首は高くして後は安く売る方法で、いわば価格を崩したのがチェーンストア でございます。  では、そのチェーンストアに対して店舗数が1店舗や数店の独立店はどうかというと、 日本の調剤は独立店が多いと思うのですが、売れ数予測に応じた合理的な補充発注をや ると、1品ごとには極めて少ない量になってしまうのです。1品ごとに1カ月ごとで一 回ぐらいしか品目単位では発注できないということになりますので、とんでもなく流通 コストが高いことになる。かといってケース単位で取引すれば、店舗の在庫が物すごく 多くなって困ってしまうということになって、これはできないです。  次は70年代、今から30年くらい前、まず米国でPOSが普及します。これによって 補充発注の方法がより精緻化されます。店頭の在庫管理、倉庫の在庫管理と結びついて、 POSによって計算された補充発注数をDCで大量にまとめ、メーカーに発注するとい う取引が出てくるわけです。  ここで仕入れ価格が合理的になってまいりますが、独立店向け価格、これが一番高い わけです。これをフルサービス価格とも言います。  仕入れ価格=独立店向け価格−(ロット割引+個店物流の代行割引+ノー返品割引+ 営業合理化割引)。こういった方法で、どういうコストがかかっていて、例えば個店へ の配送は店舗側でやるから、メーカー側、あるいはベンダー側としてはそれを割り引く という形の取引になってまいります。  他方、少ない店舗の独立店の方は販社や卸の個別店サポートによるフルサービス取引 価格である。仕入れ価格は高くなる。しかし多くの店舗を作るチェーン店は工場出荷価 格の裸原価へ限りなく近づくことを目標として取引をやっていくわけです。  このフルサービス価格というのが、流通を理解する一つの鍵となる概念です。返品も 含めた、ベンダー側、卸側のあらゆるサービスが込みになった価格がフルサービス価格 です。日本の取引はフルサービス価格がほとんどです。そのフルサービス価格に対して、 チェーンストアがどういった流通の合理化を果たしていくかというのが米国流通だった とお考えになるといいでしょう。  我が国の戦後流通をそれに対照して申し上げます。まず、駅前商店街と百貨店の時代、 日本型流通革命論がございます。POSを利用する1980年代から、アメリカの大体10 年おくれで進んできたわけでございますが、駅前商店街と百貨店の時代は帳合い取引で、 それぞれメーカーの商品を定価で販売することを前提として、駅前商店街とか百貨店に 売るというものでございます。それから日本型流通革命論が登場して、東京大学の林周 二先生がカウンター・バランス論というのをお唱えになりました。  カウンター・バランスとは何かと言いますと、メーカー定価は非常に強い。それに対 して小売側は消費者サイドに立って価格を下げていくんだと。  この主張に協賛したのが中内功さんや伊藤雅俊さんですが、小売業は代理購買だとい うことで、商店街の外れに売り場面積を500坪ぐらい、それまでの10倍ぐらいにして、 量販店というのをつくります。長崎屋、ダイエー、イトーヨーカ堂、マイカル、ジャス コ(イオン)、西友、こういったところです。この中で長崎屋とダイエー、マイカル、 西友は大手5社とか、6社とか言われていたのですが、このうち4社もが実質破綻した ということを思うと、今昔の感がいたします。  量販店は部門の複合化、つまり食品とか衣料とか住関連も全部入れた部門の複合化プ ラス量販によって、卸からの大量仕入れを志向した。これによって、卸の流通マージン を吸収します。簡単に言いますと、日本の量販店は卸の流通マージンを吸収したのです。 結果として現在、量販店に対するほとんどの卸が、今は実は赤字です。対大手の取引は、 卸にとっては赤字が多い。  米国型の品ぞろえ標準化チェーンと日本型の量販は何が違うかというと、1品大量と いう概念が日本にはなかったのです。日本は取引金額での割引であります。ロビンソン パットマン法があるアメリカでは1品ずつのコスト計算をしなければいけない。1銘柄 ずつ、1ブランドずつ、そして発注と物流方法ごとのコスト計算をしなければいけない。 単に大量に、100億円取引するから安くしろという論理だけでは認められないです。   しかし日本の場合は、たとえば去年の仕入れは90億だった。今年は100億で10億ふ やす。2億円ぐらいのリベートをくれと言っても応じる問屋は多いです。けれども、ア メリカではそれは非合理的な要求ということになって、もし提訴されると、その取引は やめなければいけないということになりますので、そういう取引は行わないわけです。 そこが大きく違う点です。  一方、1980年からPOSの利用によって補充発注がタンピンバラ発注に変わってまい ります。これはイトーヨーカ堂の中のセブンイレブンが最初にやったわけですが、例え ばチューインガム1ケースに24個も入っている。小さなコンビニではそんなに売れない から、1個ずつ持ってこい、ケースをばらしてタンピンで持ってこいというのがコンビ ニの取引です。これは大変だったわけです。ケース単位を、卸はばらさなければいけな い。だからコストは上がるわけです。  でも鈴木敏文さんは、1個ずつばらすよりも、ケース単位発注のものが売れなくなっ て不良在庫になるコストの方が大きいということを見抜きまして、タンピンバラ発注で やった。だから仕入れ価格は高い。今は1万1,000店もございますので安くなっており ますが、店舗が少ない最初は、仕入れ価格は高かった。けれども、売れ残りがない。売 れ残りがないということは新しい商品をどんどん入れることができるわけでありまし て、そうすると、そのお店の方がいいということで、それが成功したのがセブンイレブ ンでございます。  ケース単位の納品を全部について否定し、タンピンバラ発注を行います。タンピンバ ラ発注というのは日本独特の習慣でございます。アメリカでは、今もケース単位が普通 です。  POSの導入とともに多くの店舗が売れた都度のタンピンバラ発注+フルサービスを 志向します。タンピンバラ発注であるのに、卸売り業にはフルサービスを要請したので、 日本は営業コストが高い、流通コストも高い国になったわけです。これがトヨタのJust in time理論と結びついて、あたかも日本の流通が合理的であるかのごとく言う一派も ございます。  その次は、我が国流通の1980年代からの変化です。80年代から少し変わってくるわ けですが、駅前商店街と、事実上百貨店もシェアは半分以下になっています。商店街も そうです。  卸価格の面では店頭へのフルサービス価格、つまり(返品受諾+DSD物流+営業支 援)−取引金額割引ということでやってきたわけです。DSDとはダイレクト・ストア ・デリバリーと言いますが、卸が直接一店舗ごとに、タンピンバラで商品を持っていく。  ここで制度の変化が起こります。1991年に内需拡大策として大店法が事実上廃止され ます。今は売り場面積をつくるのは自由になってきたわけですが、このときのバックと しては、物価が日本はアメリカの2倍であると。これは円高のために2倍に見えるよう になっただけのことですが、言われれば、確かに現在の為替レートからすればそうだっ た。  それから、中国は1994年に元をドルに対して2分の1に切り下げました。そうすると、 中国は日本の賃金の30分の1というような賃金に変わってまいります。小売業による開 発輸入で価格ディスカウントが起こったのが1994年からでございます。その代表がユニ クロでございます。1店舗で7割も8割も、既存店売上を伸ばします。デパートでは 6,000円だったポロシャツを1980円にしたのです。  加えて地価下落が追い風になって、新しく店舗をつくる方がコストが安いという事態 が初めて90年代に生じます。80年代までは古い店舗の方がコストは安かった。今は新 しい店舗の方が、地価が下がり、建築費も下げて、店舗の設備コストは安いということ になってきたわけです。  価格面では、店頭価格はメーカー希望小売価格制から、小売が店頭売価をつけるオー プン化に向かいます。これも90年代です。現在は、ほとんどの商品価格がオープン化し てまいりました。通常価格という概念がなくなってきた。ただし、取引方法は従来のタ ンピンバラ発注を続けます。  卸側は、流通の合理化のためにチェーン店向けに複合帳合いの大規模流通センターを 展開しました。卸側はチェーン店が志向したメーカー直取引価格に対し、卸マージンの 上乗せの合理的な説明が必要だった。つまり、卸と取引するということはメーカーと直 に取引するよりも価格は高い。しかし卸が介在することでこれだけの合理化メリットが あるんだということを作らねばならない。  メーカー直取引よりも卸取引が店舗の営業利益の面では有利である仕組みをつくって きたのが現在の大手卸でございます。店舗のタンピンバラ発注、卸の大規模DCでまと める。簡単に言いますと、卸が、チェーン店へのディストリビューション・センターの 代行をしていたと考えたらいいでしょう。店舗へのDSD納品まで果たしていく。  さらに時代が進み、アジア・中国直輸入がますます増え、店頭価格が2分の1になる。 このときに日本型、先ほどの量販ですが、ダイエーが経営困難になり、卸もメーカー直 取引より流通合理的な卸価格を提示できないところはどんどん統合・合併、退出してま いります。そういった歴史を経ております。  さて、歴史を見たところで、取引価格決定の方式を抽出してまとめて見てまいります。  それを図示するのが8ページでございます。  要点の1として、米国型チェーン数千店と日本型チェーン、トップクラス数百店の取 引方法の違いでございます。上が米国型チェーンの数千店の取引方法、下が日本型チェ ーンの取引方法です。一見では似ています。形は似ているわけですが、よく見てまいり ますと、取引方法を見れば、大きく違います。  まず上(米国)では、卸へはケース×数量のロット発注が基本です。日米ではチェー ンの店舗数が全く違います。米国でチェーン店といったら一般的に大体1,000店舗以上 をチェーン店と言います。チェーンストアの場合は、1店舗で1週間に1個売れたとし ても、1,000店舗分ですから、1,000個売って、それが発注数になる。  アメリカでは、実は物流センターが13カ所から20カ所ぐらいで全米物流ができます。 日本はアメリカの国土の25分の1、カリフォルニア州と同じ大きさなのですが、日本で 全国物流をやるとすると、やはり13カ所ぐらいの物流センターが要るのです。わが国は 地形がややこしく、交通がややこしい。店舗も零細です。道路がまっすぐじゃない、曲 がりくねっている、大型トラックがなかなか通れないといういろいろな条件がございま して、不思議なことにそういうことになっているのです。  ですから、アメリカの場合は、物流網を広くでき、大型のチェーンストアがどんどん 拡充しやすい。一方日本では、店舗が零細で各地域でまとまりやすいという性格を持っ ていまして、そういったことが違うことは背景としてございます。  ただし取引で、きょう提案申し上げたい一つのものは、経済発注単位、Economical Ordering Quantityです。計算した上で最も合理的なコストになるということを計算し た上で発注する仕組みを持つ米国チェーンと、日本はタンピンバラ発注で卸のサービス を求める発注で、そこが根本的に違う。  日本では、店舗を大きくし、店舗を増やす目的は、仕入れ金額を実際ふやして、それ によって数%から10%のリベートを確保して、利益を上げていくとなるわけですが、ア メリカの場合は、そういうことももちろんあるわけですが、それに合理的な裏づけが必 要である。先ほど申し上げたロビンソン・パットマン法が厳として生きているわけです。  米国では、卸価格の決定方法がちょっと違うのです。卸価格=独立店へのフルサービ ス価格−(フォワードバイイング割引+ロット割引+物流方法割引+ノー返品割引+支 払い方法割引+営業支援(リテイルサポート)割引)です。  フォワードバイイング割引というのは生産予約でございます。3カ月後生産するもの を幾つ予約する。ロット割引は、数量割引です。それから物流方法割引。どんな物流方 法をとるか。ノー返品割引は返品をしないというときの割引。支払い方法割引は3カ月 のサイトじゃなくて1週間のサイトで払ったらどうなるか。1週間サイトがアメリカで 一般的です。それから営業支援、リテイルサポート。例えば品ぞろえ支援とか、何とか コストがかかるわけで、営業の支援もコストがかかる。そういったものをするとすれば、 これだけ卸価格は高くなりますよということです。こういったことがあるわけです。こ れをコストプラス取引とも言います。  日本の卸価格は独立店へのフルサービス価格−(取引金額割引+センターフィー)。 センターフィーは議論がありますが、それは後で申し上げます。センターフィーという のはここに書いていますように、小売がDCを作ります、これは店舗別への仕分け機能 配送機能を持ちます。店舗別にメーカー、あるいはベンダーから来た商品を仕分けする 機能です。店舗別仕分けの配送で、今までは、卸が店舗までDSD、ダイレクト・スト ア・デリバリーで持ってきたけれども、今度は自店のDCから店舗に行くから、3%か ら5%、その店舗配送料を下さいという取引です。  こうした、卸からセンターフィーをもらう取引を日本の大型チェーンのほとんどはし ております。去年は、ジャスコもこれを始めました。だから卸は陰で文句を言っていま す。合理的にはコストが下がっていない。しかし3%から5%ものセンターフィーが要求 される。ジャスコは、昨年の小売部門は赤字だったのですが、今年度は利益がプラスに なった理由は、本当のことを言いますと、このセンターフィーをもらったためです。そ ういったような取引です。卸価格の3%から5%が卸から徴収されると考えていいでし ょう。こういう違いがございます。  それをさらにコストの面から中身を見てまいりますと、9ページでございます。だん だん核心に迫ってまいります。  日米の卸価格決定方式の違いを抽出すればということですが、米国流は、品目別コス トプラス、これはメニュープライスとも言われます。コストプラスと言われる理由は、 工場出荷の裸原価がベースになって、それにいろいろなコストが上乗せされていく取引 方法だからです。  メニュープライスというのは、そのコストを明示して、どういう組み合わせの取引で やりますかということによって1品ごとに価格を決めていく方式でございます。  どういう内容が主にあるかと言いますと、例えば独立店に対するフルサービスの卸価 格を1,000円とします。小売マージンが500円ぐらい入って店頭売価は1,500円ぐらい になるかもしれません。  卸価格は1,000円である。それの中で工場の裸原価が800円である。それに対して、 工場の裸原価を下げるのはフォワードバイイングという、生産数量予約発注である。次 に個店DSDコストが5%ぐらい、50円かかるだろうと。返品処理があるとすれば、全 部が返品されるわけではありませんが、返品割合が仮に1割もあるとすれば、1品当た りに換算すると20円、2%はかかるであろうと。売掛金の金利コストも、アメリカは金 利が今6%ぐらいでございますので、5円ぐらいかかるだろうと。営業による店舗支援 コスト、つまり営業マンがいろいろ店舗を支援するコストが40円ぐらいかかると。その 他サービスコストが25円ぐらいかかるだろう。そうすると、こういうのをやるかやらな いかでコストがこういうふうに変わりますと提示して、米国の卸は店舗と取引している というのが普通なのです。  次に我が国のチェーンストアはどうなっているかと言いますと、今はまだ発展段階、 過渡的時期だと思いますが、まず独立店に対するフルサービス卸価格は何種類かありま す。4種類ぐらいあります。それに対してセンターフィーが1,000円の卸価格に対して 30円から50円。力の強いところは50円です。5%といったら大きいです。あとは取引 金額割引があります。決算リベートというものです。ダイエーあたりが赤字で苦しいと いうときは、卸に奉加帳が回ってきて、「あなたのところは1億円」とか、「10億円」 とか、それに対して「しょうがない」なんて言って出す。このリベート金額にあまり根 拠はないのです。しょうがないなというお金です。取引金額割引と見ていいでしょう。  つまり、根拠があやふやなことで決定されている流通コストが非常に多いということ です。もし米国でこの取引をやると、独禁法違反であげられてしまいます。日本ではそ うなっていないのです。  ただし長期的に見ますと、私は米国風に進むと見ているのです。非常に非合理的なと ころがありますので。卸会社で、どうしてここの会社はこの価格で、どうしてこの会社 はこの価格なんですか言うと、これは、小売からの要求でそうなっているということが 結構あります。価格やリベートにどんな根拠があるのか、よくわかりませんけれども。  10ページです。短絡的な流通革命論で「卸は余分」で中抜きした方がいいと。これは 実は誤りだと私は考えているのです。  例えば、卸の社会経済的な流通合理化機能ということで、左側を改善前とします。左 側は帳合い卸です。これは業種縦割り型です。例えば製造業と小売業が4店舗4社ずつ 取引しているとします。この帳合い卸では1対1とします。16本の取引ルートになりま す。こうした帳合いで3,000の帳合い卸と3,000の店舗が取引すると、合計の物流ルー トは掛け算で900万ルートになります。  それに対し右側が、名前をつけたのですが、業態型卸の帳合い複合機能です。つまり 系列的な帳合い卸ではなくて、卸がいろいろなメーカーに取引ができるという仕組みを つくる。店舗側からすれば、1つの配送車でいろんなメーカーの商品がまとめて配送さ れます。これが業態卸です。その定義は過去のメーカー系列の帳合いではなく、店舗の 品ぞろえに必要な、複合帳合いに進化した卸です。  現在の他業界の卸では、卸の大手が向かっている主流はこうした業態卸です。こうし ますと、取引ルートは4+4の8本で半分です。3,000社のメーカー製品と3,000店舗 では6,000ルートでありまして、帳合い卸の3000分の1に合理化します。これが意味す るのは総物流回数も、帳合いで系列型取引の3000分の1になるという意味です。  現在では、私は日本の薬業界は、左側の流通系列型、つまり帳合い型の取引に近いと 見ています。これは後で申し上げます。そうすると、これは物流コストも流通コストも 絶対に高くなる。何をやっても高くなると思います。  次に卸を見ます。大規模チェーンストアの国である米国における卸のポジションは、 製造販社の卸の営業・リテイルサポート・物流機能が経済的でなければ、存在が許容さ れません。大規模なチェーンストアの小売のディストリビューション・センター(DC)、 物流センターより、卸の物流・店舗支援・商品補充機能が経済的でなければ、卸は存在 できない。  つまり、5,000店を持つチェーンストアが自分ですべてをやったとき、つまり卸を抜 いた直接メーカー取引のときよりもよりコストが低く合理的であり、コストダウンされ なければ卸は存在できないというところから現在のポジションを組み立ててきたのが米 国卸です。  それの典型がスーパーバリューでございまして、これは最近、大手食品スーパーマー ケット(アルバートソン)を買収いたしましたが、卸の年商が2.3兆円です。現在の到 達点を申し上げます。どんなことをやっているかと言うと、取引コストの計量をし、取 引先、つまり取引先は小売とメーカーの両方あるわけですが、要するに、流通コストの 数字をすべてオープン化するということです。  Activity Based Costing(ABC)というやり方ですが、活動ベース原価計算です。これ は日本でも90年代の半ば、95年ごろ私も関与しながら紹介したわけですが、要するに 1品ごとに、取引方法別、物流方法別にコストを計算して割り振る仕組みです。本当に 正確には出すことはできない。しかし±20%ぐらいの誤差で出すことはできます。  取引先別、店舗別にこうしたABCでコスト計算をし、小売へコスト提案をする。品 目別にABCでコスト計算をする、対メーカーへも流通コストの提案をするということ です。  先ほどのフルサービス価格、つまりすべて込みの卸価格に比べて、フォワードバイイ ング価格が幾ら、DSDのコストが幾ら、返品処理のコストが幾ら、売掛金の金利コス トやリスクコストが幾ら、営業による店舗支援が幾ら、その他サービスコストが、おた くの場合幾らか。これを一律ではなくて、個別の企業ごと、メーカーごとに計算してい くわけです。それを出した上で、計算結果をオープンにして、卸のマージンはこれで3 %いただきますと。卸の利益として3%いただきます、総コストはこれだけかかります というような取引を現在していています。  現在スーパーバリューの粗利益率、つまりマージン率は12%でございまして、その中 で私は8%から9%ぐらいがコストだと見ています。マージン率は日本の卸とほぼ同じ です。日本の大手卸も12%ぐらいのマージンです。  非常に大事な原則は、A社との取引の損失をB社への価格上乗せでカバーしないこと です。つまり、ほかのところとの取引では損したから、こっちで高く売るということは 絶対してはならない。これをしたらロビンソン・パットマン法違反です。  小売と卸取引の支援メニューとメニューごとの必要コストを提案し、コストへの合意 によって取引をする。メニュー・プライシング方式、これが現在の米国流通が達した到 達点です。スーパーバリューがこれをはじめたのは1998年からです。ですからかなり古 いです。8年ぐらいたっている方式です。これは、革命的な方式だと思います。私は日 本もこういった方式になると実は考えております。今後RFIDが使えると、作業コス トが計算でき、そうなるということです。  最後に、以上を前提として、医薬品流通のための参考情報。病院の取引とか、調剤と か、いろいろあると思うのですが、私は今回は論点を絞るために、ほかも同じことだと 思うので、医薬品の取引のうち、調剤薬局との取引に限定して申し上げます。  観点はコスト合理化という観点です。ただし、この後で示します米国モデルも100% そうなっているわけではなくて、対独立店のいろいろな取引もあるし、流通というのは 不明確な部分がありながら進んでまいりますが、それの中で大事なことは、年商規模で 最上位が合理化すれば、ほかも競争上それに倣うという原則があることです。  ですから、どこに基準を置くかです。最上位のところがやりますと、業界もそうなっ てしまうのです。アメリカがそれで進んできたわけです。ボトムアップ的なことをやっ ても実は余り変わらないのです。上位から変えていくと変わっていきます。これが自由 競争における原理だと思います。  次に9番目です。現状の我が国調剤薬局・卸との取引モデルを申し上げます。これは あるところからデータをいただきまして、私の方でまとめたもので、内容については私 の責任でございまして、出したところの責任ではないということをお断りしておきます。  医薬品卸の必要コストが高くなる理由の一つは、超多頻度配送です。調剤薬局は8,000 万円から1億6,000万円、1人の薬剤師がいるところで年間大体8,000万円です。2人 いると1億6,000万円が平均的なところです。平均的なところで月商1,000万とします。 粗利が35%です。いろいろな技術料が35%ありまして、月商の65%、つまり650万が 1カ月の仕入れ金額ということです。  卸は大手4社か5社あるわけですが、小さな調剤も大手卸4社か5社ぐらいの取引に なっています。卸の1カ月の配送回数が、信じられないことですが平均19回です。最初 私は1つの調剤に対して19回の卸配送だと思ったのです。ところが5社がほぼ全部19 回なんです。これは物すごい回数です。  卸1社平均で1調剤へ月19回の配送。19回×5社で、1ヶ月に95回の配送です。合 計では1日4回から5回も配送されています。  1社のMSの定期配送が10回で、緊急配送が2回で、MS配送が12回。配送係の定 期配送が6回で、緊急配送が1回、配送係が7回。つまり1ヶ月に19回です。配送金額 の平均は薬価で7.3万円です。調剤の、35%の技術料込みの日商が40万円、公定薬価を 65%と見て薬価28万円に対して、4社から5社の卸から1日4〜5回の配送がされてい る。これは、合理的に考えれば、あり得ない配送回数です。これでは調剤側も卸側も、 両方ともコストがかかってしょうがないのではないかと思います。  なぜこのように流通コストが高く、過剰な多頻度配送になっているのか調べてみます と、健康と生命にかかわる医薬は欠品が許されないと。調剤は在庫を持つことを非常に 嫌います。理由として1品が8,000円とか1万円とかして高いものがあることが絡んで いると思います。  今の調剤薬局では、情報化された在庫管理システムは十分に使われていません。卸が 調剤に提供している情報システムも、コードの関係で、ある会社のものしか管理できな いということで調剤在庫の全体は、ほとんど管理されていないのです。調剤薬局は、ど ちらかと言いますと独立店的でありまして、自分自身ではそういった情報システムの開 発とか購入をしていないということもあると思います。  しかし原理で言えば、医薬の使用頻度分析を行えば、上位20%で使用量の80%が普通 です。上位10%で90%ぐらいになっているのではないかとも思います。残り90%の医 薬というのは、調剤で800から多い調剤で2,000ぐらいの医薬銘柄をそろえていると言 われますが、これは低い使用頻度になる。1カ月95回も配送する意味があるんだろうか と考えます。  コスト原理的に考えていきますと、こういうことになってきます。図に示したのは経 済発注量の計算式でございますが、まず人的な在庫管理コストと物理的な在庫管理コス トのカーブをとります。例えば発注回数をふやして1回の発注量を減らすということは、 在庫を少なく持つということです。そうすると在庫コストは少ない。A点です。逆に人 的な在庫管理コストは高くなります。人的な在庫管理コストはそこに書いてあるように 卸のコスト、店舗のコスト、両方のコストです。  考えていただきたいことは、調剤が1日4〜5回の配送を卸から受けるということは、 調剤側もその相手をしなければいけないわけです。同じ時間を使っています。つまり調 剤側も卸側も、両方が1対1の関係で同じコストを使っているのです。ですから、配送 回数の多さは卸側のコストだけではないのです。  一方、在庫をたくさん持って、1回発注量をふやして、配送頻度を減らしますと、逆 に今度は在庫コストが多くなって、人的な管理作業のコストは下がるという関係がござ います。トータルコストカーブは、その両方を足したものでありまして、最適点という のは必ずあるのです。このコスト最適点は、ABCで計算すれば、計算式、数式で計算 が可能でございます。つまり、コスト最小発注ロットは√×2×云々という、こういっ た式で、これは私が別に考えたわけではない。昔から在庫管理であるEOQ、つまり最 適経済発注量の公式です。これが使われていないだけです。  これを例えば、1品当たり発注量、つまり販売量がどれぐらいであるということを予 想した上で使えば、かなり有効なものになる。もちろん、売上が上位の医薬品について 有効であって、数量の少ないものについては誤差が大きく有効ではありません。  つまり、8割の需要量を占める、上位20%の医薬については、このEOQが極めて 有効になってくる。こうした事実を、数字で示せば、取引も変わってくるのです。コス トがこんなに変わりますよということを数字で示せば変わってくるわけで、今はまだ、 コストが数字で示されていないのではないか、業界では、単に感覚で言われているので はないかと実は私は思うのです。  そういった意味で、わが国と対比される医薬品流通の到達点はウォルグリーンでござ います。ウォルグリーンに卸しているカーディナルヘルスという大変な卸がございます。 6月に行ってまいったのですが、びっくりしました。とんでもない会社です。医薬品卸 のマージンが2.95%です。日本の30%くらいでとんでもなく低いなと思ったのですが、 さらに驚いたのは、カーディルヘルスの営業利益は1.7%でコストが1.25%というので す。そんな卸、あらゆる業界で見たことがありません。  出荷額に対するコストが1.25%の卸あるのかと。  よくよく見ると、ケース1個が20万円なのです。卸をケース単位でやっていますから、 そうするとそこまで行くかもしれない。逆に言うと、コストを、合理的に考えてどんど ん下げてきたのがこのカーディナルヘルスです。  同様にウォルグリーンです。アメリカでも調剤の粗利益率、マージン率は、80年代に は、40%から35%あったわけですが、現在のウォルグリーンの調剤の粗利は、約20%で す。調剤の価格をどんどん下げ、ウォルグリーンは急に伸びてきたのです。アメリカで は薬価は自由取引で、保険会社がそれを監視しています。  卸のカーディナルヘルスは年商8.6兆円で、これには医薬以外のものも入っています が、National Logistics Centerを1カ所、イリノイ州に持っています。そこから全米 の22カ所にDC、FDC、Forward Distribution Centerですが、そちらの方に持って いくわけです。カーディナルヘルスはこのFDCからウォルグリーンの全米12カ所のDC に持っていって、ウォルグリーンは12カ所のDCから自社店舗に配送するという仕組み をとっているわけです。  もちろん、この間はEDIで結ばれていまして、調剤医薬の使用頻度分析から欠品分 析、在庫分析、お互いに在庫交換をした上で、どういうふうにすればお互いにコスト最 適の取引ができるか、これを一生懸命考えながら提案し、やっている。  カーディナルヘルスは一店舗一店舗を回る卸ではなくて、例えばウォルグリーンとの 取引の仕組みをより合理的にするための提案をするのが営業の仕事ということで、営業 の人員数も極めて少ないです。年商8.6兆円に対して、日本では卸のMSに相当する営業 は500人ぐらいしかいないのです。そういう取引をしております。  カーディナルヘルスはメーカーに対してもABCの活動ベース原価で流通コストを計算 して、大手メーカーの例えばファイザーならファイザーに対して、ファイザーが直接店 舗と取引するよりも、我々カーディナルヘルスを通じて売るほうが、こんなふうに安く なりますという計算をします。  同時に、3rd Partyの物流業者との比較コストの計算書を、メーカーや調剤チェーン に持ってきまして、3rd Party LogisticsのA社と我が社カーディナルヘルスの取引コ ストはこうであります、我々の方がこういうふうに安く合理化できますという提案をし た上で取引をしているというふうな方法です。これをFee For Serviceと言っています。  Fee For Serviceとは何かと言いますと、医薬の仕入れ価格差のマージンではなくて、 在庫を買って持つことのマージンで粗利をとるのではなくて、物流業者的な配送サービ スによって利益を確保していくという取引を行います。カーディナルヘルスは2004年の アニュアルレポートに、順次そういうふうに変えると書いていましたので、現在、その 方向に向かい変わりつつあると思います。  調剤薬局に対しても、同じく活動ベース原価計算で集荷・店舗配送コストを計算して いるということです。まとめて言いますと、ロビンソン・パットマン法がずっと生きて、 それが方法としてActivity Based Costing(ABC)という流通コストの計算法に結びつき、 それが情報システムでの自動計算、コストの自動計算と結びついて現在の方式に至って いると。  日本ではそういったことを現在行っているところは、他の流通小売業においてもほぼ 0でございます。そういったような違いがございますが、日本は大体10年おくれでアメ リカを追いかけます。オープンプライスもそうでしたし、そういった方向、アメリカ風 の方向に向かうのではないかと私は考えているわけでございます。  時間を超過して申しわけございませんが、私からはこういったことをお話しさせてい ただきました。何か御参考になった点があるとすれば大変光栄に存じます。ありがとう ございました。 ○嶋口座長  どうも吉田さん、ありがとうございました。非常に明快で、最初は私も資料を見たと きに、直接の当事者以外には、流通は言葉が独特ですから、難しいかなと思いましたが、 吉田さんから非常にわかりやすく御説明いただきまして、しかも大変簡潔で、日米の違 い、今回は医薬品流通にかかわるところまで踏み込んでいろいろ分析した成果を見せて いただきました。  早速これから質問に入りたいと思いますが、もう一人の講師である根本さんがちょっ と事情があって、早くても11時ごろになりそうだということでございますので、場合に よっては、きょうは吉田さんのこの資料が大変充実しておりますから、ここを中心にデ ィスカッションしたいと思います。  まず、わからなかった事実関係についての質問からいきたいと思うのですが、ここの ところをもう少し詳しく教えてくれないかとか、このあたりはどういうふうな意味かと か、何かそこの事実についての御質問はございますか。  よろしゅうございますか。事実のところについては大体理解したということで、しか しそうは言ってもなかなか複雑でございますので、全部というわけにいかないと思いま すが、これから少しフリーディスカッションをする中で内容を深めていきたいと思いま す。  まず、こういう日米の違い、アメリカあたりはかなり経済合理性で卸のオペレーショ ンが進んでいる。日本はちょっと違うスタイルではないかという、そういう御指摘があ ったわけでございますが、一般的な質問、あるいは意見で結構でございますが、どうぞ 御意見を出していただければと思います。  意見がないというのはあり得ないと思うのですが、この中には直接の当事者がおりま すので、私の知っている限りでは、きょうの話に直接関連するのは卸連のメンバーの方、 薬剤の団体の方、学者では、この会には上原さんと三村さんという2人の日本を代表す るような流通のエキスパートもいらっしゃいますので、そこからまずちょっと質問なり、 意見なりを出していただいて、全体の方のディスカッションに行きたいと思いますが、 まず直接の卸の立場から何か御意見がございましたらいただきたいと思うのですが、い かがでございましょう。卸連の方から何かございますか。どんな御意見でも結構でござ います。もっともだという意見もあるし、日本はそうは言ってもなかなか大変なんだと か、何でも結構でございます。 ○禰宜委員  13ページに出ています多頻度配送は、先ほど来、少し問題点として出ていたと思いま すが、どちらかと言いますと調剤薬局は受け身で、処方箋に基づいて薬剤が出ていくと いうような観点からしますと、例えば生活習慣病薬など、ルーチンに出ているものは、 ある程度使用量を読むことができ、在庫を管理することができると思います。そういう 面からは非常に合理的というか、効率的な運用が図れると思いますが、それ以外の品目 は、いつ処方が出てくるかわからないですから、在庫を置いておくこと自体が合理的と いう面からは問題があるのではないかということで、現実問題として多頻度配送はある 程度避けられないのではないかと考えるのですが、その辺のところはアメリカと比較し てどういうふうに理解すればよろしいですか。 ○吉田先生  調剤薬局が普通の小売業の店舗と違う点は、自分で品ぞろえの主体性を持つのがなか なか難しいと。つまり、何の医薬を使われるかというのはお医者さんが決めるわけであ りまして、調剤薬局が決めるわけではないですね。調剤薬局はお医者さんが決めたもの を置いておかなければいけないということになるわけで、そうすると、例えば近所にあ るとしても、あるところが胃腸科で、あるところが内科、あるところが別の面分業をし たとしても、医薬の内容が全然違うということになると思いますので、重なる部分はあ ると思うのですが、その違いがあるだろうと私は考えます。  つまり、現在、実際に95回という月間配送、1日3回ないし4回という配送が行われ ているのにはそういった理由が当然あると思います。理由がなければこんな配送にはな らない。ただ、理由があるのはわかるわけですが、最初に申しましたように、合理化の 観点からこれを考えていく。合理化するという観点。現状はすべて理由があるのです。 あらゆるものに、現状はこうだからという理由がすべてあるのです。現状の理由を挙げ ることは可能です。けれども、それを合理化という別の観点から考えていった場合は、 その中で調剤が、少ないところで200銘柄、多いところで800銘柄、チェーン調剤で、 本部で2,000銘柄と言われていますが、その中で使用頻度分析を実際に行ってみますと、 1割で9割というようなことになるわけです。たまにしか使われない医薬も当然含まれ るのだから、それは極めて頻度が少ないわけです。  そうすると、8割ぐらいの部分は、私は自動発注が可能であると見ています。ただし、 これは1つの調剤について8割が可能だということではないのです。例えば、その1つ の調剤の在庫を20店舗、30店舗管理する卸売業において、VMI、Vendor Managed inventoryという考えがございます。最近は、コンピューターは家庭でも無線ランで結 ばれているぐらいですから、ベンダー、つまり卸が小売業の店舗の在庫をリアルタイム で観察することは、店舗側と情報システムを結べば可能です。つまり、今売れたという ことは可能です。その仕組みは今できていませんが。  そうすると、卸側でチェーンストアの100店舗分、あるいは10店舗分、それぐらいか ら合理化効果は出ると思いますが、10の調剤分ぐらいを確保する仕組みをつくれば話は 変わってくるだろうと。つまり、統計的に管理できる在庫の方が急速にふえていくに違 いない。  ただし、現在はそういった仕組みではなくて、卸は自分の医薬を卸すと。だから4社 から5社ぐらいの卸が1つの調剤に行っていると。現状の中での合理化というのと、も う一つはもうちょっと長期的な関連で見た合理化というのを私の方では提案したわけで す。 ○渡辺委員  吉田先生、ありがとうございました。今のお話を聞いておりまして、3ページ目の米 国の歴史の中で、1936年にロビンソン・パットマン法が制定されたことによって、法の 目的の大量販売のチェーン店に対する独立店の保護と、不公正な廉価販売を廃し、メー カー定価も保護というのとが大きなキーワード、変化だったと思うんですね。日本の独 禁法は、このロビンソン・パットマン法の考え方を取り入れようという雰囲気はあるの でしょうか。 ○吉田先生  行政関係の方は御存じでしょうか。流通関係で意外と知られているのですが、内容ま で御存じの方は少なくて、今、インターネットなんかで出ていますので、これを引きま すと、物すごいファイルが出てきます。ただし、英語が大変難しいです。わけがわから ないぐらい難しくて、1ページぐらい英文が続きます。法律用語はあんなのかなと思い ますが。ただし、非常に厳格に適用されている。これは小売業界保護だったんです。零 細店保護だったんだけれども、その保護を合理的にやるためには大量販売するところか らの不当な安売り要求を排除するという目的でできたんですね。大量販売するところは 合理的に一個一個コスト計算をして、こうだこうだと言ったら、そっちの方が強くなっ てしまったという結果を生んだのです。そういったことなんです。ですから、私はこう いったのが日本でも制定されると変わるのではないかなと思いますが、ただ、大手小売 業界は大反対するかもしれません。中小は賛成すると思います。 ○渡辺委員  もう一点は、日本にはフルサービスという商慣習がございますでしょう。これは日本 では互恵取引というか、お互いに恵んで、ある意味では恵みましょうよと。フルサービ スというのは全部を包含するわけですね。これが日本の商慣習の中で基本的にはあるわ けですよね。先生も先ほどおっしゃったように、卸売業の中でアローアンスが不透明だ というものと、もう一つは、最後に何とかお願いするよというふうに、ダイエーさんが とられた方式が出ていたのですが、そういう要素を容認する商慣習というのが日本には あるのではないかと思うのですが、それはいかがですか。 ○吉田先生  思います。これは最近、卸売業では取引先別にABCコスティング、つまりActivity Based Costingで計算をするところがふえてまいりました。そうすると、結果として出 るのは、大手取引はほとんど事実上赤字であるという結果が出ます。ただしそれは、例 えば大手卸売業が大手小売業と取引しているから、メーカーに対する仕入れ価格がこれ だけ安くなっているということも勘案しているかどうか。そういったような正確さの度 合いがあるのですが、今の雰囲気としては、ベンダー側も合理化、つまり卸側も非常に 合理化を迫られていますので、やみくもなリベート要求にはほとんど応じなくなってい ます。ですからよほど正当な理由か、よほど何かの義理ですよね。何かの過去、例えば 10年前にこんなふうにして助けてもらったと。これだって経済合理性があることかもし れませんね。1年ごとで考えるとおかしいけれども、10年単位で考えれば合理的なこと かもしれない。  ということで、例えばチェーンストアが1店舗、2店舗しかないときに安く価格を卸 して、そこと一緒に成長していくという方針もございますので、スパンをどれぐらいで 考えるかということではあると思うのですが、ただしそういった取引も次第に公正なも のに変わりつつあると私は見ています。 ○嶋口座長  上原さん、ロビンソン・パットマンを含めたところでちょっとコメントをいただけれ ばと思います。 ○上原委員  日本の独禁法も思想的にはロビンソン・パットマン法に依拠しています。一つの例を 申し上げて、日本とアメリカの違いをちょっと申し上げます。  例えば、あるメーカーからAという企業が1万個仕入れ、Bという企業は5,000個し か仕入れていない。だから日本で言えば、Aは割引率10%でBは5%となる可能性が高 い。これは吉田先生がおっしゃったのと全く同じです。アメリカでは、そういう場合は B企業が不公平だという論拠があれば訴訟を起こし、Bが勝つときがあるのです。なぜ 勝つかと言いますと、1万個仕入れているA企業が3個ずつ配送してきたら、それだけ コストがかかるわけです。ところがBは5,000しか仕入れないけれども、2回の配送で 終えたとなると、Bの方がコストは安くつく。そういう訴訟の仕組みが日本にはないの です。向こうは刑事罰にもなり得ます。日本の場合は公正取引委員会が勧告する程度で 終わります。日本ではなかなか運用上アメリカのようなインセンティブが作用しないの ではないかと思います。これは三村先生の方が詳しいかもわかりません。 ○嶋口座長  では御指名ですので、三村さん、一言お願いいたします。 ○三村委員   考え方としては、基本的には差別対価ということでありますので、当然、独占禁止 政策の中でも重要な項目として規定されています。ただし、価格差異というよりリベー トにおける著しい累進性というような面を重視してきたと思います。今後の流れという ことですが、もともと日本の独禁政策は基本的にはメーカーの再販売価格維持というメ ーカーの不公正な取引行為に主たる焦点を合わせていたのですが、根本先生のお話の中 に優越的地位の濫用とか購買力ということを入れていただいているように、近年、大型 小売業側からの不当な取引条件の要求を問題視するというように、独禁政策の軸がシフ トしていると思います。ですから、ロビンソン・パットマン法の精神というものはその まま生きるというよりも、むしろ両方の力関係の中で公正な取引はどうあるべきかを考 えるべきであり、日本の独禁政策の軸の変化にも注目すべきと思います。   ○嶋口座長  ありがとうございました。 ○宮内委員  吉田先生の大変貴重な御意見、ありがとうございます。お話の中で、10年後、きっと 日本の医薬品流通もこのように変わっていくだろうというお話でございましたが、今、 消費者から生活者ということに流通の変化が生じていると思います。そうすると医療の 方でも、患者さんから予防を重視した健常者への予防治療という習慣が出てくると思い ます。そういう点をかんがみて、10年後も同じ体制、例えば14ページの発注のトータ ルコストというのは消費者というレベルでとらえていると思いますが、その辺の御意見 はいかがですか。 ○吉田先生  これはセルフメディケーションというあれがございますが、今度、スイッチOTCも 大分ふえるようでございますし、そうすると、例えば病院に行くというのは、現役の人 たちにとっては実は非常につらいことで、仕事を休まなければいけないし、できれば近 所の調剤薬局あたり、あるいは薬局あたりで売薬を買って済ませたいという需要が非常 に多いのではないかと私は思うんですね。これは保険にも関係しませんし、保険の財政 にとってもいいのではないかと思うんですね。  ところが、そういった機能を今の薬局は実は果たしていないと私は思うんです。そう すると、ちょっと悪かったら、風邪でも病院に行くという習慣はどうなのかなと私は思 っていますので、ほとんどの病気で、重要な病気はしょうがないのですが、大したこと のない病気で病院に行くような習慣というのはなくなった方が私はいいと思っているん ですけどね。それは調剤薬局の機能拡充。それから、調剤薬局に行きますと、我々はほ とんど何も選択が実はできないです。何も選択できない。言われたことをやる。安くも できないし、高くもできないし、何もできないです。消費者が選択できるように、例え ばウォルグリーンに行きますと、消費者が自分の予算をこれぐらいだと言ったりして、 そうするとこっちの薬剤だというふうに選択していますし、投薬歴を聞いて、あなたの 場合はこの医薬とこれに相互作用があるから、この相互作用がないのがこっちだから、 これはお医者さんは知らないで出しているから、こういうふうに変えましょうというこ とも電話しながらやっているようですね。  というところに変わってくると、今の院内調剤をそのまま院外にしただけの調剤とい うものとこれから大分違ってくるのではないかと思っています。そのためには取引の仕 組みとしてウォルグリーン型の取引の方に向かってくるだろうと私は考えています。 ○江口委員  2点ほど質問したいのですが、ウォルグリーンというドラッグストアは全米の調剤薬 局、一般的には薬局だと思うのですが、チェーンストアの数と一般の個人での薬局の数、 この比率というのはどのぐらいですか。 ○吉田先生  これはデータを私は持っていて、きょうは持ってこなかったのですが、日本が6兆円 で、米国の医薬は1ドル115円換算で24兆円です。24兆円で、ウォルグリーンが4.6 兆円のうち3兆円ですから、24兆円で十何%ぐらい最大シェアを持っている。あとはセ イボンとか、ロングスとか、いろいろありますので、独立系の調剤はたしか20%未満で す。アメリカではまずこういったドラッグストアが半分近くを占めていて、例えばウォ ルマートという全く医薬と関係のないようなところも調剤部門を持っています。食品ス ーパーも調剤部門が中にあります。そういった普通のお店の中に調剤部門があるのがア メリカでは普通ですし、プラスドラッグストアでやっていますので、件数は日本の調剤 が、院内、院外あわせてたしか4万6,000件だと思ったのですが、アメリカもちょうど 同じ件数でした。ということはどういうことになるかというと、医薬の量が日本は6兆 円に対してアメリカが24兆円で4倍ありますよね。件数が同じですから、平均的に見る と1件の調剤あたり販売額がちょうど4倍であると見ていいと思います。 ○江口委員  私は株を上場している調剤薬局さんの数はまだまだ少ないのではないかと。まだここ の薬局さんの方が多いのではないかというふうに思っているわけですが、それによって の流通も違ってくるのではないかと。それともう一点、先ほど先生がおっしゃった、安 く売れば勝つと。一般流通業においてはですね。ところが薬業界では、安く売れば薬価 は基準が下がってだめになるという基本的な問題ですね。薬価制度そのものが、この流 通をアメリカとは同じにしていない部分があるのではないかと。アメリカの制度と日本 の制度の大きな違いが流通にも影響を与えているのではないかと思うんです。このこと が今後の流通の大きな課題になるのではないかと思っているのですが、いかがでしょう か。 ○吉田先生  私も一番最初に調べたときに、卸売業には卸売業、メーカーならメーカー、企業の努 力というのは、いい薬を開発する、流通させるということと、もう一つは価格を下げる という、この2つだと思うんです。その価格を下げるということをやっていくと、自分 で自分の首を絞めるので余り合理化しない方がいいという話が出てくるんですね。 ○江口委員  その結果に薬価防衛というようなことでの仮納入というようなものが出てきているの ではないかと思うんです。アメリカではその辺、いかがでしょう。 ○吉田先生  これは日本の医薬とアメリカの医薬、アメリカでは薬価というのがありませんが、保 険会社が認める払い金額というのがあるわけですが、これは日本の方が圧倒的に安いで す。平均で半分です。例えばアメリカですと、カーディナルヘルスへ行きますと、カー ディナルヘルスはアメリカの会社ですが、イリノイ州のそばのカナダから同じ医薬を3 分の1か4分の1で入れています。ということがあって、私は日本の医薬は決して高く はないと。ただし、高くはないけれども、アメリカでなぜ高いのかよくわかりませんが、 多分これは医薬メーカーのロビーイングが物すごく強烈なんだと思います。その意味で 言うと、日本は非常に合理的に安いわけですが、その中でさらに日本が世界最先端であ ろうとすれば、その中でさらに合理的な仕組みをつくればいいのではないでしょうか。 日本が世界の先頭を切って悪いという法律はどこにもないわけで、そうしたら輸出もで きますし。 ○江口委員  もう一つ。私はジェネリック医薬品販社協会の人間ですが、アメリカではジェネリッ ク医薬品の使用が多いと。高い安いというのは、結局先発品の高さという意味での高さ なのか、それともジェネリック医薬品の価格的なものかどうなのかと。 ○吉田先生  これは保険制度の違いもちょっと関係しているようでございまして、例えば安い保険 だと、ジェネリック医薬しか使えない保険というのもあるんですね。ですから処方する ときにお医者さんはまず、あなたの保険はどの保険を掛けているんだと。そうすると、 それが使える範囲の医薬品と量が決まっています。病院にかかる回数も決まっています ので、それに応じてジェネリック医薬品を処方していることもあるようです。ただし、 これはやはり処方の仕方の違いで、日本の場合は銘柄処方がずっと長かったわけで、ア メリカの場合はもともと効能処方でしたから、選択肢があったということです。それと、 医療費の負担がアメリカは非常に高いので、医療保険も年間、企業部分が負担するのが 100万円ぐらいかかります。ゼネラルモーターズの経営がおかしくなったのも実は医療 保険が原因なんですけどね。1人雇用すると100万円ぐらいの医療保険がかかる。これ はそれこそフルサービスの医療保険です。  こういったものに守られてきたのですが、アメリカもだんだんそれだけではだめだと いうことで、ジェネリックをたくさん使ったりして、お互いに業界として利益を上げな がら、例えばカーディナルヘルスはこんなことを言っていました。ジェネリックを使う と5分の1、場合によっては10分の1に医薬がなる。売上は下がるけれども、ジェネリ ックは粗利益率が30%も40%もある。だから単純に、調剤にとってマイナスだとは言え ないということを言っていました。ですから、そういうインセンティブがジェネリック について働いている。ジェネリックを使うことが全部にとって不利だとするとだれも使 わないわけですが、利益率が高いと有利なインセンティブが組み込まれているというこ とだと思います。  私が医薬について申し上げている部分はあくまでにわか勉強でございまして、間違い があるかもしれません。 ○大塚委員  14ページについてお尋ねいたします。私、医療機関でございます。この発注回数と配 送回数との関係でございますが、回数が少なくなれば、多くの在庫を持たなければなり ません。現在、日本の薬価算定方式の中には薬剤の管理料は入っておりません。ここに 書いてありますように、廃棄のロスとか、あるいは金利のコスト、薬価改定のときのコ ストダウン、こういうふうなものを全部医療機関が負担しております。これに対する手 当は全くないです。したがいまして、最近、トレーサビリティとか、あるいは医療の安 全の面から患者さんにリストバンドをはめまして、だれがいつどういう薬剤をというの を、バーコードを使って電子カルテの方に入れております。使った薬剤の量が毎回きち んと出てまいります。それで使った分だけを発注すれば、卸の方は頻繁に薬剤を運ばな ければならなくなります。ただし、病院側は薬剤の管理のコストが0になります。倉庫 も要りません。現在、薬剤を夜間に運んでいただいた場合も、昼間に運んでいただいた 場合も、卸からの納入価格は変わりません。現在の薬価算定方式、納入価格の方式が続 いていくならば、デリバリーの回数がふえてくる。病院は在庫管理をしないということ になっていくだろうと思いますが、いかがでしょうか。 ○吉田先生  今おっしゃったようなことであるとすると、それはなるべく自分のところで何もやら ないで、相手に全部やらせて、果実だけを得た方がいいということにインセンティブが 働くでしょうね。私がもし病院長だとしても、そういう決定を下すと思います。 ○大塚委員  実は昨日も、四病院団体というのがございまして、そこの医業経営・税制委員会の委 員長をしているものですから、東京の都立病院も、さっき私が言ったような方向で運営 をしようという方向に向いておりますので、そういう点をしっかりと議論して、薬剤の 流通を決めていただきたいと思っております。 ○嶋口座長  ありがとうございました。それでは、まだいろいろ質問があるかもしれませんが、根 本さんがいらっしゃいましたので、もう一つの方のお話を早速いただきたいと思います。 拓殖大学教授の根本重之さんから、もう一つの資料の方でお願いいたします。 ○根本先生  根本でございます。おくれまして大変失礼いたしました。申しわけございません。 きょうは最寄品分野のメーカーと卸売業の機能分担関係のことについてお話をさせてい ただきます。  まずシート1をご覧下さい。食品ですとか、日用雑貨とかをお考えいただければいい だろうと思いますが、最寄品というのは消費者が近くの店で買う商品、あるいはその商 品を買うために遠くまで店をいくつも買い回ったりはしない商品といった意味合いで す。したがってそれら商品を生産・販売するメーカーは、消費者が近くの店で買えるよ う、なるべく多数の小売店に商品を配荷しなければなりません。しかしそれら商品は、 一般的には低単価ですから、メーカーは、多数の小売店に自ら直接商品を配荷するのは 困難です。したがって、メーカーはその流通経路政策として卸売流通を活用する。自分 ではやれないので、全国の各エリアごとに卸売と特約店契約という販売契約を結んで、 特約店と呼ぶことになるそれら卸売業を通じて商品を供給するわけです。しかも商品は 低単価ですし、卸売業、小売業とも特定メーカーの商品だけで商売はできませんから、 そこでは卸売業も、小売業も系列化されておらず、複数のメーカーの商品を販売するの が普通です。メーカーの直接の販売先は、あくまでも各地域単位で販売契約を結んだ卸 売業、その卸売業がいわばメーカーの販売代理人となって、多数の小売業に商品を供給 しようというわけです。  そこでメーカーが卸売業に対して取引制度というのをつくります。よく知られたもの としては建値制やリベート制などが含まれます。もちろん各メーカーがつくる制度です ので、これはあくまでも私的な制度であって、建値制による価格というのも公定価格で はありません。これがどんなものなのか、図で見てみましょう。メーカーは水色の4つ の箱の示したような制度を持っています。  まずはじめはものは「基本取引条件」と呼ぶもので、直接の販売先となる特約卸売業 への取引ロット基準ですとか、決済の条件等がここに入ってくる。  つぎに「基本価格制度」として「3段階建値制」があり、御存じのように、希望小売 価格、希望卸売価格、生産者販売価格、略して生販という3段階の標準的な価格を標示 しています。ただし、これはあくまでも私的な建値でありますので、価格交渉のスター トラインというふうになって、ここから値引き交渉が始まることを暗黙の前提としてい ます。この2つは基本的な制度で、判りやすいですね。  それに対しまして図の右側に財布1、2、3、4と書いてありますが、メーカーは建 値を引き下げていくために4つの財布を持っているのが一般的です。第1の財布は「卸 売業向けの補完的価格制度」で、一般的にはリベートなどと呼ばれます。詳細は時間の 都合省きますが、これは卸売業が仕入れますと、その仕入れに対して一定率の支払いを するリベートが組まれています。ただその中に少し性格が違うものとして量販店手数料 というのがありますが、これは大きなスーパーマーケットチェーンなどは、向こうの交 渉力は高いので卸売業の納価(小売業に売る値段)がどうしても下がる。その分をメー カーが補填するというものです。  さらに2番目の財布として「小売業向け補完的価格制度」というのもありまして、こ れは小売業がどれぐらい売ったら何%割り戻すといったようなものです。  上記2つの財布は制度的な財布です。営業マンに裁量権はありません。しかし小売段 階の価格競争が厳しくなると、価格の下落は制度的な財布ではとても対応できないとい うことで、販促金というふうに呼んでおりますが、これは小売価格を下げる費用をメー カーが負担するため、卸売業を通じてですが、小売業の納価を下げるために支払われま す。特売などを行うための値引き原資で、制度的にではなく、交渉的に支払われます。 これが第3番目の財布で、どんどん大きくなっています。  さらに不合理な支出として、例えば大手チェーンの何十周年記念といったときに、大 安売りが行われる。メーカーにとっては余り理由がないのですが、協賛金を求められて 出していく。あるいは物流センターを経由することについて、その物流センターフィー といったようなものを小売業とられるのですが、医薬品の業界でも発生しておりますで しょうか。もちろん物流センターフィーも合理的なものなら悪くはないのです、こうい ったものを実際にかかるコスト以上に小売業がとっていきますと、一種の寺銭をとるよ うな仕組みになる。こうしたものもメーカーが負担せざるを得ないため、もう一つの非 制度的な財布ができ上がっている。この財布からの支出については、公正取引上、様々 な問題があることがご想像頂けると思います。  ここで次のシートに進みます。メーカー・卸売業間の取引制度の本質は何なのかを考 えます。取引制度を考える場合、メーカー・卸売業間両者の機能分担関係が非常に重要 です。私はこれをするので、あなたはエージェントとしてこれをしてほしいという機能 分担関係です。そしてそれに応じて私はあなたにこれだけの利益、あるいはマージンを 保証するといったようなことになっているわけで、それを制度的に記述するのが取引制 度だと見ることができます。しかしメーカー・卸売業間の機能分担関係は、歴史的に見 るとかなり大きく変わってきている。第1期から第5期ぐらいまでに分けて見ることが できそうです。  第1期(総代理店制)というのは、例えばキリンビールが明治屋という卸売業を総代 理店にいたしまして、自らは生産に専念し、すべて販売は明治屋に任すというものです。 はじめはそれでいいのですが、しかしそれでは総代理店から先の流通経路はコントロー ルできないわけです。にせものが出たとしても、コントロールできないですし、総代理 店の販売力が弱い地域の市場は開拓できない。そのためにメーカーは全国のエリアごと に特約接契約を結んだ販売エージェントである卸売業を置くようになります。第2期(特 約店制構築期)で、メーカーは各エリアの卸売業にそのエリアの2次卸売業および小売 業への販売代理機能を求めることにしたわけです。そのようにしてある時期に特約店制 を敷いたメーカーが全国制覇をしていって、ナショナル・ブランドメーカーになってき ました。そして実はメーカーの取引制度というのは、この特約店制構築期に作られ、そ のでのメーカー・卸売業間の機能分担関係をベーストするものです。  しかしここでは特約店制完成期と読んでいますが、第3期になりますと、2次卸店と いう1次卸の先についている卸に対する営業活動というのは本来、特約店という1次卸 の仕事なんですが、メーカー間の競争上、ここにもメーカーは人を出して営業活動をす る。メーカーは卸売業の機能発揮領域を侵すかたちでどんどん前に出てしまうのです。  さらにチェーン小売業の出現が期を画すのですが、第4期、特約店制成熟期といった 時期を迎えますと、チェーン小売業が台頭する。そのチェーン本部への営業というのは、 これも本来、卸売業の活動ですが、メーカー自身が出ていって、営業活動をしないと競 合メーカーに負けてしまうといったようなことになります。  さらに第5期は、特約店制末期というふうにここでは名前をつけているのですが、チ ェーンの個々のお店で、どういう値段で、どのぐらい商品を大量に陳列するかという交 渉をしないと売れないということになりまして、どんどんメーカーが実は流通段階の前 に出ていって、その分、実は本来卸売業の業務スタンダードが低下させていまっていま す。本来は、卸売業がやらなければいけないことをメーカーが代替してやるようになっ てしまっている。しかし古い取引制度が生きていますから、それでもメーカーは卸売業 に従来と同じマージンを保証しなければならない。しかも流通段階に出て行った分、メ ーカーの人件費は当然増える。それがけならばまだいいのですが、小売との商談を直接 すれば、さきほどの販促金がどんどん出てゆくことになります。市場が成長していれば いいのですが、成熟し、しかも価格が下落基調に入ってしまうとメーカーは苦しくなり ます。そこでメーカーその状況を何とか改善しようとするのですが、一度出たリベート や販促金というのは既得権になってしまいますので、出してしまうと戻せない。しかし 人口減少やこれから原材料価格とかを想定すると、すでに放置できる状況にない。そこ で少なくとも販促金を抑制し、卸売業に対する補完的価格制度も改革しようというよう な動きが多数出ています。しかし、メーカーと卸売業の本来的な機能分担関係という本 質的な領域に対しては必ずしもメスが入っていないのです。医薬品の場合には、価格形 成にメーカーは関与しないといったことになっているんだと思いますが、その機能分担 関係というのはおそらく非常に重要だろうと見ております。しかしここではさらに最寄 品の分野での検討を続けさせていただきます。  シート3です。ここではチェーン小売業台頭後のメーカーと卸売業の機能分担関係を 大きく商流系と物流系の2つに分けて見ています。これをどうメーカーと卸売業が分担 しているか、3つのタイプを識別します。一番左は大手チェーン・ルートの場合で、こ こでは商流はすべてメーカーが行っています。小売業との価格や特売条件に関する商談 をすべてメーカーが行っていて、卸売業は物流等だけを行っている。こういうモデルが 一つありまして、有名な大手のチェーン・ルートは大体こうなっていると考えていただ いていいと思います。  さらに2つ目のタイプを識別しますと、商流機能の大半はメーカーが担っているが、 一部は卸売業も担っているというものです。中小規模のチェーン小売業ルートで見られ るタイプです。第3番目は、伝統的な小さな小売店ルートに見られる形態ですが、基本 的に卸売業が商流・物流両機能を果たしています。  このように、最終的な販売先によって卸売業とメーカーの機能分担関係が変わってい るのが現実です。そうした場合、実は1つの制度ですべてフォローすることはできない のです。機能分担関係が大きく異なる3つのタイプがある場合には3つの制度をつくら ないとならないのですが、実はこれを1つでやろうとするところに取引制度の根本的な 矛盾があります。制度と流通構造がずれてしまっているのです。  そうした中でメーカーがどんどん卸売業の機能発揮分野侵すかたちで小売業の本部と か店舗まで出てくる。そういうところで生き延びようとする卸売業がどういう環境適応 行動をとったかということを次のシート4で見てみたいと思います。顕著な環境適応行 動が見られたのは、大手チェーン・ルートです。そのルートでは、メーカーが小売業に 対する営業活動のほとんどすべてを果たします。価格交渉も含めてです。最近の医薬品 とは恐らく大きく違うところだろうと思います。その結果、卸売業は、はじめはいやい や、しかし優秀な者は次第に意図的・戦略的に物流を中心に、オペレーショナルな付帯 業務だけを担当するに至るのです。このときに実は卸売業は、仕入れ、価格形成をして 再販売する伝統的なマーチャント・ホールセラーからその存在形式を変え、実質的に取 引のサードパーティ化したと見ることができるでしょう。商流系の取引は、メーカーと 大手チェーンが直接行う。だから卸売業はみずからそこから身を退きまして、物流や付 帯業務だけをやって、その代わりに安定したマージンをとろうとするようになります。 価格下落の圧力は大手チェーン小売業とメーカーにかかります。そして卸売業は価格形 成リスクを巧みに回避し、その回避した中で効率的な物流システムをつくってきたとい うわけです。  卸売業の環境適応行動、戦略としては、非常に適切だったと考えます。そしてその結 果、日本の最寄品の卸売業というのは、中小小売ルートではマーチャント・ホールセラ ーとしての性格、つまり仕入れて売るという性格を残すと同時に、もう一方、大手チェ ーン・ルートでは、サードパーティ化し、コミッション・エージェントに近いスタイル を持つようになっている。つまりそのような二重性を持つような形に進化してきている と考えております。  シート5に進みます。2003年のデータで、ちょっと古くて恐縮ですが、上記の結果を 見てみましょう。つまり適切な環境対応行動をとった大手卸売業の収益はどうなったか を見るわけですが、実は非常に収益力を高めている卸売業というのがふえているわけで あります。これはシンプルな格付を考えているのですが、売上総利益の何分の1を経常 利益として残せたかという見方です。売上総利益率というのは、自社がメーカーである か、卸売業であるか、小売業であるか、自社の所属するところによってどうしても違っ てくる。これに対して経営の力というのは、売上総利益率の何分の1を経常利益として 残せるかだといったような見方をしているわけです。例えばこの値が5分の1のところ をAAAとしてありますが、これは例えば売上総利益率30%の小売業を想定しますと、 5分の1残せるということですから、6%の営業利益率を残せることと同じなのです。 イトーヨーカ堂が最も業績がよかったころの数値です。  これを見ていただきますと、AA格、AAA格といったような卸売業がkなり出てき ている。必ずしも売買には関与しないで、物流に引くことで、あるいは付帯業務に引く ことで、こういったような収益を確保してきている。価格下落リスクを小売とメーカー が負い、卸売業がヘッジしたときの一つの姿だと考えているわけであります。ただし、 これで本当に今後もいいのかというと疑問なわけですが、このような状況が、私が見て いる業界では発生しているということを御報告させていただきます。  次のシート6に参りまして、卸売業の二重性についてもう少し考えてみましょう。先 ほど申し上げましたようにこの業界の大手卸売業は、マーチャント・ホールセラーとし て仕入れて売ると同時に、コミッション・エージェントとして安定したフィーをとって いるようです。ここで少し非常に大きな返品問題を考えておきましょう。大手小売業が 卸売業に返しますと、かなりの場合、卸売業はそのままそれをメーカーに返品します。 おかしなことだと見たくなって来るわけですが、他方、卸売業がそのルートではコミッ ション・エージェント化していると見てしまうと、在庫リスクを負う必要はないわけで すから、当然の行動だとも見なければならないでしょう。商談は、メーカーと大手小売 業が直接しているわけですから、その結果責任を負う必要はないのです。したがって、 上記のような返品が普通のこととして生じてしまう。そして卸売業は返品のバッファに ならないのです。そのような問題も起きてまいります。  そして二重人格を持った人というのは容易に多重人格化するわけです。時間の都合上、 細かい話は飛ばしますが、大手チェーンに対しては、卸売業は実質サードパーティです。 中小チェーンに対してはマーチャント・ホールセラーとコミッション・エージェント、 両方合わせたような性格。一般の小売業に対してはマーチャント・ホールセラーとして 動く。さらに複雑怪奇なところは、この卸売業はメーカーの販売代理人としてメーカー からも収入を得る。ですからメーカーのエージェントなのか、小売業のエージェントな のか、そこもまた二重性を持ってくる。さらにチェーン小売業の物流センターの運営を 受託して、同業や異業種の卸売業からも手数料をとる。また店舗フォローなどの新たな サービスを行う子会社を設立し、そのサービスに対してメーカーからフィーをとるとい った動きも見られる。このように日本の卸売業は多重化している。  そういう形で卸売業というのは実はメーカーと小売業の間に挟まれまして、その人た ちの中間者としていろいろな形で機能を変え、多機能化して進化していく存在であるよ うな気がするわけです。したがって、アメリカで言うホールセラーと日本の卸売業とい うのは、分類の上位概念では一緒なのですが、その後の進化の形態だと別の科を設定し ないとならない。そういったような存在になっている。こういうようなことが、この分 野の卸売業で起きていますし、医薬品でもメーカーと小売、そしてもう一つ行政という のがある中で、卸売業は独特な適応行動をとってきており、これからもとってゆく可能 性があるだろうと見ているわけであります。  次のシート7に参ります。そういう中で非常に大きな問題は、小売業による優越的地 位の濫用です。それが、卸売業を動かし、メーカーを動かしてくるということです。最 終的な価格が下がれば下がるほど、それを転嫁しようというインセンティブは小売業に 対して非常に強く働きます。そして去年の11月に公正取引委員会が大規模小売業告示と いうのを出したわけです。  例えば、先ほどもお話にあったんだと思いますが、返品の問題ですとか、不当な値引 きといったようなこと。例えば不当な値引きというのは、小売業が価格を勝手に修正し てしまうのです。請求書が来た段階で、その請求書の単価を変えてしまうとか、発注単 価を一方的に変えてしまう。そういったようなことは常時実は起きています。このよう な問題が他にも本当にいろいろある。これは実は日本の流通の最大の問題の一つだろう と思います。自分がやらなければならない仕事を優越的地位に基づいて売り手に押しつ けるとか、自分が非常に強い場合には値段を、契約を無視して変えるといったようなこ とが、随時起きているのです。これは実は上場企業の免れない最大のリスクの一つだと 考えているわけであります。これを何とかしないとならないのです。  そこで次のシート8ですが、我々はこうした取引問題をどんなふうに考えていったら いいのだろうか。実はメーカーというのは何とか取引を正常化しようということで、古 くなってしまった取引制度というのを時代に合わせて新しくしていこうとしています。 皆さん御存じの例としては、2005年1月1日にビールメーカーが、伝統的な売上高に累 進するようなリベートをやめまして、もう少し合理的なものに変えております。たとえ ば物流を適切にやったら0.何%、電子的な受発注をやったら0.何%といったような 取引制度に変える。それとともに、やや小売価格と小売納価を上げるといったようなこ とを行ったわけです。  これは公的なバックアップがあって行うことではないですから、それぞれのメーカー がみずからの売上が落ちること、チャネルのメンバーと大きなコンフリクトが発生する こと、場合によっては競争メーカーは必ずしも値段は上げないため、みずからは競争劣 位になるおそれもあるといったような、非常に厳しい競争環境の中でかなりの努力をし て行うわけであります。  ところが、実はメーカーの取引制度というのはあくまでも卸売業に向けての取引制度 なのです。したがって、流通段階の取引を正常化するためには、実はメーカーが、そこ にある薄い紫のような取引制度をつくりましたら、それときちんと形の合う取引制度を 卸売業がつくらないとならないのです。ところが卸売業というのは伝統的、歴史的に、 もう既に明治以降、流通あるいは取引のプリンシパルになったことがないのです。基本 的に主にメーカーのエージェントとして生きてきた。江戸時代の、「そうは問屋が卸さ ない」の問屋は流通経路のプリンシパルだったと思うのですが、それはもうずっと過去 の話です。明治の中半以降、特約店制が成立すると、どんどんメーカーのエージェント になっていった。そのエージェントとしてメーカーからお金をとる。しかしチェーン小 売業が台頭すると、メーカーのエージェントであると同時に、小売の仕入れのエージェ ントとしての機能発揮が求められます。そして卸売業は、何よりも両者の愛顧が欲しく、 またそれを得なければ存立不能となるのです。特に小売業は売り先ですから、その愛顧 が欲しい。そうなると、どうしても小売業が突きつけてくる優越的地位を濫用した取引 条件、例えば不当な返品などを容易に受けてしまうのです。そしてそれをメーカーに転 嫁するのです。本来はしっかりした卸売業としての取引制度をもっと早くに持ってほし かった面があるのですが、そうするリスクが大き過ぎるので、むしろそうしたその制度 は持たず、折々の変化に対応していくということで生き延びて、独特な進化の仕方をし てきたと考えるのです。  しかし、医薬品、日用雑貨、食品のいずれを見てもそうだと思いますが、卸売段階の 上位集中度というのは、この20年ぐらいで非常に上がったわけです。そしてそれら業界 の卸売業の中から、従来であれば考えにくかった上場企業、つまりパブリックに責任を 負うべき企業も出てきたわけであります。そうであれば、そろそろ卸売業に小売向けの 取引制度というものをきちんとつくってもらいたいというのが実は私の非常に強い願い なわけです。もういいだろうと思うのです。  その場合の取引制度というのはどんなものかということが下に黄色の枠で書いてあり ます。まず一番初めにクリアにしたいことは、実は基本取引条件です。取引制度と言い ますと、どうしても価格の問題に入っていきがちです。ところがそうではなくて、むし ろ所有権移転時点はどうするのかというような基本取引条件が重要なのです。例えば物 流センター着で所有権が移転するか、店舗着時点で所有権が移転するかがまず重要です。 物流センターと店舗の間の物流コストをどちらが持つかで、価格は変わるはずだからで す。ところが卸売業はそのあたりを不明確にしていまして、所有権移転時点が明確にし ないまま適当にやっている。物流センター着でロットをまとめて納入しても、店舗着で 非常に細かいロットで多頻度納品しても、値段は一緒なのです。であれば、小売業はよ り自分にとって都合のいい方を選ぶのは当然でしょう。  所有権移転時点というのは非常に重要だと考えます。例えば宅配便のドライバーは極 力玄関に入らないのではないでしょうか。個人宅に対する配慮というのもあるでしょう が、おそらく一歩でも入ったら、大きなコストになるはずです。その所有権は、その家 の誰でもいいから渡してしまえば移転する。これが伝票に書いてある個人に渡すとなっ たら、遙かに高い別料金が必要です。ですから、基本は、玄関先渡しで、その家の人で あればだれでもいいという取引条件を設定し、渡してしまい判子をもらって帰ります。 できたら、判子を持って玄関の前にサンダルを履いて出てきてもらうというスタイルを とっているわけです。ここら辺をしっかりしないと、本当のサービス業というのは成り 立たないはずです。しかし、卸売業はメーカーからコストを補填してもらえるというこ とがあって、そこら辺を小売業に対して、ということは自分のビジネスに対してどうし ても甘くしてしまってきたことがあります。こういうことをもう一遍見直したい。そし て実は、この所有権移転に対する感覚の鈍い人は、当然ながら返品に対する感覚が鈍く なってくるわけです。価格体系よりずっと以前の問題なのです。  その他、協賛金はどうするか。また売場や店への従業員派遣というのがありますが、 多くの場合、卸売業自身は従業員を出さないのです。メーカーが大手小売業と直接取引 を、実質的に商談をやっていますから、メーカーの営業マンが駐車場整理のために開店 のときに旗を振っているのです。メーカーの営業マンが陳列作業をやっているのです。 卸売業は小売業の命にしたがってメーカーの差配をしているのです。少し話が跳びます が、医薬品では、メーカーは再販売価格の交渉をしてはいけない。そうなると、ストレ ートな競争が抑制されますから、裏にいろいろな問題がきっと発生するでしょう。たと えばお医者さんに対するサポートというのは、いろいろな形で異常なまでに出やすくな る。そういったようなことがあるのではないかという気がいたします。実は価格以上に 重要なのは、こしたことも含めて、基本取引条件なのです。ここがしっかりしてこない と、価格制度をこの上に立てても、容易に崩れる。裏から優越的地位を使って取り出せ ばいいわけです。多頻度小口配送レベルを上げろ。在庫管理は、先ほどお話に出てきま したように、私はやらないと。あなたがやりなさいと最後の再販売社は言えるのです。 もちろんそれでも何ら値段は上がりませんよというわけです。  基本取引条件と今ここで呼んでいるところをクリアにしたい。物流・納品条件といっ たようなこと、ロット、あるいはリードタイムといったようなことも基本取引条件なの です。なかなか価格に一気に踏み込むことは難しいと考えております。情報システムを 活用していくというのは、これは絶対必要なことだろうと考えています。あるいは営業 としても、どれだけ小売業の支援をするのか。どこまで無料でやるのかということなの です。これを決めておきませんと、何とか小売業の愛顧が欲しい、ましてや小売業は仕 入先を変更することができますから、その変更の圧力をちらつかされた場合に、卸売業 はどうしても無理を飲んでしまうわけです。  ただ、ここで無理を飲むことを完全に規制するのはいいかというと、そうではない部 分もきっとあります。その無理をシステム的にこなせるようになることで先ほど見てき た大手卸売業は成長して進化し、きたのです。そのようにして成長し、進化してきた卸 売業、つまりこの国の卸売業というのは、世界に誇れるサービスレベルをもっている。 恐らくこれから日本の最寄品がアジアの市場を開拓していくときに、メーカー、あるい は商社とセットになってそれら卸売業が出ていって、非常に大きな力を発揮するだろう とも考えております。  最後のシートです。これは吉田先生のお話を少しいただきながらまとめたりしている 部分があります。流通システムをA型、B型と分けているわけですが、A型の方はルー チン業務を売り手が買い手に転嫁が可能なのです。こういうシステムとして、実は日本 は非常にサービスレベルの高い流通システムができ上がってまいりました。返品とかも 容易に受け入れる。こういったような日本型の流通システムをA型とここでは仮に呼ん でみたいと思います。血液型のABO分類ですと、日本人はA型が多いこともあって、 そのように呼んでおきます。その隣はB型で、高度に効率を追求する米国、とくにウォ ルマートのやり方です。ルーチン業務はみずからやって、それをシステム化してコスト ダウンし、競争力を強化して行くタイプです。  では、我々はこれからどちらを選択していくべきか。あるいは我々が目指すべき流通 モデルというのはどちらなんだろうかということを考えるわけですが、日本の流通シス テムが完全Bになることではないだろうと考えております。それは既に進化の過程が違 いますので、その進化の過程の全面否定をすることはできないからです。したがって、 一方の足をAに置きながら、Aの問題点をBに学ぶことによって改善して、AB型とい ったような次のモデルを考えていきたいということです。余りにも不合理な部分がある ので、それは是正し、もう少し合理的にいこうというようなことであります。  後ろは宣伝となっておりますが、参考文献ということで、今のような領域について、 しばらく前に書いた本がありまして、8章目の欧米型直接取引モデルと日本型間接取引 モデルの比較検討といったようなところが今お話をさせていただいたところのベースを まとめたところです。  本日はおくれまして、まことに申しわけございません。月曜日が休日だったこともあ り、頭の中で日にちが1日ずれておりました。改めておわび申し上げる次第であります。 大変失礼いたしました。 ○嶋口座長  どうも根本さん、ありがとうございました。また大変わかりやすく説明いただきまし たので、状況がわかった方は多いと思いますが、それでも一番の基本の最寄品とは一体 何だという、そういうところからわからなかった方もいらっしゃるかもしれません。そ ういうことを含めて結構でございます。何でも質問をしていただきたいと思います。 ○大塚委員  2ページですが、流通の変化、メーカー・機能分担関係と取引制度問題ということで、 メーカーが特約店の方に、ずっとコスト決定にかかわっているというのは、再販制度に は違反しないのでしょうか。 ○根本先生  メーカーが再販売価格はいくらというふうに明確に言ってしまうと、これは再販価格 維持になるだろうと思います。したがって、そのリスクは上手に回避しながらも、売り 場をどういうふうにつくっていくとか、あるいはポスターを張るとか、そういうような ことに関与してだんだん前に出てきているということだと思います。メーカーの営業マ ンの交渉項目は価格だけではありません。1つの特約卸売業に何社ものメーカーが商品 を売ってもらっているわけですから、特約店は、特定メーカーの商品だけを売り込むこ とはないでしょう。ですからメーカーは、特約店制を敷いていながら、例えば2次卸と か、チェーン小売業の本部とか、本来は特約店が行くべきであり、自分が行かなくても いいところにも、自社商品を拡販するよう促しにゆくわけです。成長する2次卸という のは、ある時期に1次卸よりも大きくなったりするわけです。そうすると、そこは直接 押さえたくなります。流通秩序上はあくまでメーカー、1次卸、2次卸となって、メー カー2次卸店には直接さわらないことになっていたわけですが、魅力的なものが出てく れば、直接アプローチせざるを得ない。しなければ競合他社にとられてしまう。さらに その下にチェーン本部というのが出てきますと、ここにもいろいろな卸売業が営業活動 をしてはいますが、個々の卸売業はAメーカーのものも、Bメーカーのものも、Cメー カーのものも扱っていますので、Aメーカーとしてはチェーン本部に、その中でもうち の商品をメインに売ってくださいということを言いにいくわけです。もちろん値引きの 話も出ますが、それだけではないということです。   ○大塚委員  メーカーの機能分担の一部。 ○根本先生  はい。メーカーは営業組織を拡張していくということです。 ○渡辺委員  卸連の渡辺ですが、ありがとうございました。先ほどの吉田先生と今の根本先生の話 を聞いていて私なりに認識したのは、2ページ目で、5期の部分はまさしく今の米国の 医薬品卸売業とメーカーの関係ではないかと思うんですね。メーカーさんがダイレクト ・コンシューマーというか、消費者に対してテレビコマーシャルをやる。HMRとか、 TPOとか、そういうところに直接MRさんが行くとか、そういうことがあって、そう なってきますと、4ページ目のところで、卸の機能が、先ほどの説明の中で物流機能と 付帯作業の安定マージン化ということは、マージン率は低くなるけれども経費がかから なくなるという形ですね。そういう形を日本の卸が模索したらどうなんだろうというの が5ページ目なのかなと思うのですが、そうすると、医薬品卸は米国型のホールセラー というか、物流業者的な形ではない形をつくりたいと思った場合、先生の8ページ目の、 卸売業が取引制度をつくるときに、メーカーと卸の取引制度に今度は卸が小売店用の制 度をつくらなければいけないとおっしゃったように私は思ったのですが、そういう理解 でよろしいですか。 ○根本先生  結構です。1つだけ補足をさせていただきたいのは、4ページのようなスタイルにな ることを必ずしも将来的にもリコメンドしているわけではないということです。優秀な 経営者の意思決定、戦略、判断として、今まではこうした方が得であったと考えている わけです。ただ、これは医薬品の世界とは違うかも知れませんが、こういう効率化だけ で卸売業が支持を得られる時代というのはそろそろ終わろうとしているように思えるの です。人口が減少していく中で、さらに売上をつくらないと生きていけない。小売業が そうだとすると、卸売業が改めて営業力、販売力を持たないとならないというようなと ころに少し行きかけているかなと思っております。それに致しましても卸売業が力をつ けてまいりましたので、小売向けの取引制度、特に基本取引条件という部分をクリアに してほしいと考えております。 ○大塚委員  サードパーティ化されたとき、薬剤の流通の場合に、現在ある卸という存在はディス トリビューションだけにかかわることになるわけですか。 ○根本先生  そうではないです。 ○大塚委員  やはり現在の卸が持っている機能はそのままに残して、そしてメーカーの中にインク ルードされるわけですか。 ○根本先生  そうではないと思います。メーカーが、卸売業がやっていた営業活動を行うようにな ってしまいますから、例えば卸売業としてその部分の組織というのはもうこれ以上拡大 させないか、徐々に縮小する方向に持っていって、みずからが持っている投資の原資を 物流システムをつくる方に、ある時期差し向けたということです。そしてサードパーテ ィ化したというのも、大きく重要なものではありますが、特定のルートでのことだと見 ておくべきでしょう。 ○大塚委員  究極的には卸がなくなると。 ○根本先生  そのようには考えていないわけであります。というのは、卸売業がなくなりますとど うなるかと言いますと、大手のメーカーと大手の小売業が直接取引の仕組みをつくりま す。あるいは大病院と医薬品メーカーでもいいのですが、一たんそこで直接取引が可能 なシステムができ上がる。例えば物流システムができ上がります。そしてそのチェーン がどんどん多店舗展開していって規模が大きくなると、この固定資産の回転率が高くな って、非常に物流コストが下がるはずです。そのときに卸売業が諦めて死んでしまいま すと、中小の小売業、あるいは中小のスーパーというのはもう競争できなくて、滅びる しかなくなっていくのです。そうすると、どんどん小売段階の上位集中度は上がってい くんですね。しかし幸いなことに、大手チェーンも卸売業を排除しませんでしたし、ま た卸売業は問屋無用論という論を突きつけられる中で、日本の卸売業は、自分たちの存 在意義というのを追求してきたのです。そのために必死になって生きる努力をしてきた わけです。だから独自の進化を遂げてきたのでしょう。  その結果、そうした卸売業があるので、身近な例を挙げますと、例えば小さなスーパ ーマーケットで肉や魚や野菜がとても鮮度がいいというところは、そこをコアビジネス として自分でやるんですね。これは必死にやります。他方、最寄品の説明をしないとい けないと思いますが、加工食品、味の素ですとか、ハウスですとか、ああいったような ところがつくっているような商品ですとか、江崎グリコのお菓子ですとか、そういった ようなものについては加工食品卸売業や菓子卸売業にアウトソーシングしてしまうこと ができるのです。しかもそのアウトソーシング先は、大手小売業とも取引をし続けてい る優秀な卸売業です。ですからそこでコアビジネスは自分で、ノンコアはアウトソーシ ングすると、非常に強いビジネス・モデルができるのです。このようなかたちの方が、 流通が大手のスーパーに集中しないで、多様性というのは確保されます。流通の多様性 が確保されると、消費と生産の多様性が確保されるだろう、その方が単純な集中と効率 よりもいいだろうというふうな考え方を実は私は持っております。  これからの日本の食品流通ですが、それは効率的に運び、安さを実現するだけでなく、 安全ですとか、今申し上げました多様性を確保できるようなことがむしろ重要でしょう。 この多様性を確保していくといったようなことが起きれば、食の業界の場合に、卸売業 の存在意義というのは高まることはあるにせよ、なくなることはないだろう。またその 卸売業が頑張ってローカルのメーカーやローカルの小売業というのを残していってほし いと考えているわけです。その方が高齢化社会にもきっといいと思います。 ○嶋口座長  吉田さんの方から何か根本さんの今のプレゼンテーションに対して、かなり近いとこ ろもたくさんあったと思いますが、一言コメントいただければと思います。 ○吉田先生  特にコメントはないのですが、根本先生の方から、現状の卸がどういうふうに進化し てきたかということでお話しいただいて、私の方が少し観点を変えまして、合理化する ためにはどうするかという観点でお話ししたものですから、くしくもその先のところは、 全く打ち合わせをしていませんが、同じようなことを言っていますね。ただ、多様性と いうことについて申しますと、私も多様性は好きなのですが、多様性でコストが上がる と困るものですから、多様性でコストダウンする仕組みをつくらなければいけないなと 思っています。 ○嶋口座長  それでは、まだまだいろいろな御質問はあると思いますが、時間が参りましたので、 これで終わりにしたいと思います。こちらはあくまでも医療用医薬品の流通改善にかか わる懇談会でございますが、過去にも何回か、他の業界はどうなっているんだとか、欧 米はどうなっているんだとか、そういう御意見がメンバーの先生方からあったので、今 回は新事務体制の第1回ということで、一般的な流通、我々はいろいろな業界に出ます と必ず言われるのは、うちの業界は特殊ですと言われるんですね。では特殊じゃないと ころはどこですかといって、ここですと言われるので、ではそちらに行くと、いや、う ちの業界は特殊ですと。全部が特殊だと言うんですね。しかし、よく考えてみますと、 日米の場合でも、あるいは医薬品、それ以外の場合でも、非常に共通点が高いと。そう すると、流通改善をこれから考えていくというときには、そういう全体的なものの中か らより効率的な医薬品流通のあり方を考える。そのためにきょうは一つの勉強会のよう な形で、お2人の大変わかりやすく説明いただいたエキスパートからのお話ですが、ぜ ひこれからの懇談会のベースにしていただければありがたいと思っています。  それでは、以上で第8回懇談会は終わりでございます。どうもありがとうございまし た。お2人の先生、ありがとうございました。 (了)   - 1 -