06/09/06 第3「院内感染対策中央会議」議事録            第3回「院内感染対策中央会議」議事録 1.日時   平成18年9月6日(水) 14:00〜16:00 2.場所   厚生労働省専用第17会議室(16階国会側) 3.出席者  (構成員)  荒川 宜親、大久保 憲、岡部 信彦、賀来 満夫、               木村  哲、切替 照雄、倉田 毅、倉辻 忠俊    小林 寛伊、 (五十音順、敬称略)        (厚生労働省)佐藤医政局指導課長、針田医療計画推進指導官ほか 4.議題      (1)医療法改正に関連する院内感染対策について   (2)多剤耐性緑膿菌(MDRP)に対する院内感染対策について   (3)その他 ○針田医療計画推進指導官  定刻になりましたので、ただ今から、第3回院内感染対 策中央会議を開催いたします。私、厚生労働省医政局指導課医療計画推進指導官の針田 でございます。構成員の皆様方には、本日はお忙しい中、ご出席いただきまして、誠に ありがとうございます。開催にあたりまして、最初に指導課長の佐藤からご挨拶申し上 げます。 ○佐藤指導課長 指導課長の佐藤でございます。院内感染対策の推進については、日頃 より関係者の皆様からのご尽力を賜り、厚く御礼申し上げます。医療機関と住民の接点 でもある院内感染対策は、安全で安心できる医療の確保に係る重要な対策であり、国民 の関心が高い分野となっています。厚生労働省におきましても、院内感染対策への取組 みとして、医療機関からの技術的な相談を受けつける相談窓口事業、医療従事者に対す る講習会事業、院内感染対策サーベイランス事業等、各種の院内感染対策関連施策を講 じてきたところです。また、平成15年の「院内感染対策有識者会議報告書」や、これ まで2回の院内感染対策中央会議において検討いただきました内容等を踏まえ、対策に ついて検討を続けているところです。今回の第3回会議では、先の通常国会において成 立しました「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する 法律」に関連し、一般の感染症対策から遅ればせながらではありますが、院内感染対策 について盛り込んでゆくつもりですので、事務局より現段階での大まかな方向性を報告 させていただき、各構成員の先生方からのご意見を踏まえ、今後の施策に反映してゆき たいと思います。また、院内感染対策全般の取り組みを検討していただく中で、多剤耐 性緑膿菌(MDRP)による院内感染症に関する検討が進められておりますので、この点 に関しましても専門的な立場からご意見等をいただければと思います。甚だ簡単ではあ りますけれども、開会の挨拶に代えさせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上 げます。 ○針田医療計画推進指導官 続きまして、本日お集まりいただいております構成員の皆 様をご紹介申し上げます。本日は、武澤構成員より、欠席の御連絡を頂いております。 また、ご所属が変わられた構成員が2名の方がいらっしゃいます。国立感染症研究所細 菌第二部長、荒川宜親構成員でございます。東京医療保健大学医療情報学科科長、大久 保憲構成員でございます。国立感染症研究所感染症情報センター長、岡部信彦構成員で ございます。東北大学大学院医学系研究科教授、賀来満夫構成員でございます。東京逓 信病院長、木村 哲構成員でございます。国立国際医療センター研究所感染症制御研究 部長、切替照雄構成員でございます。富山県衛生研究所長、倉田毅構成員でございます。 国立成育医療センター研究所長、倉辻忠俊構成員でございます。東京医療保健大学学長、 小林寛伊構成員でございます。それでは、小林座長よろしくお願いいたします。 ○小林座長 院内感染対策中央会議の座長の小林でございます。構成員の皆様方のご協 力をいただき、当検討会の円滑な運営に努めて参りたいと存じますので、よろしくお願 いします。早速、議事に入らせていただきますが、まず議事に入る前に通例のように、 当検討会の議事や資料の公開の取扱いについてのルールを確認しておきたいと思います ので、事務局より説明してください。 ○針田医療計画推進指導官 ご説明いたします。運営に関しましてあらかじめお断り申 し上げますが、本検討会については公開で行い、議事録につきましても、事務局でまと めたものを各構成員にお目通しいただいた後、厚生労働省のホームページで公表するこ ととしたいと思いますので、この点につきまして御了解お願いいたします。 ○小林座長 それでは次に、本日の議事資料について、事務局より説明をお願いいたし ます。 ○針田医療計画推進指導官 では、資料の確認を申し上げます。資料は議事次第にあり ますように資料1から資料7まであります。欠落等がございましたら、お申し出下さい。 ○小林座長 それでは、議事の方に入りたいと思います。本日の進行についてですが、 まずは事務局から、議題に関して説明いただき、そのあとで、それぞれの議題に沿って、 院内感染対策に関する認識やお考えなどについて、各構成員からご意見をいただきつつ 議論したいたいと思います。事務局の説明資料に関する質疑につきましても、その際に お願いしたいと思います。それでは、議題1「医療法改正に関連する院内感染対策につ いて」に入りたいと思います。議題1について、まず、事務局から説明して下さい。 ○事務局 ご説明致します。先の通常国会において成立しました「良質な医療を提供す る体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律」は、良質な医療を効率的に 提供する体制を確立するため、医療に関する情報提供の推進、医療計画制度の拡充強化、 医療従事者の確保及び資質の向上の他、医療安全対策の更なる推進もその内容としてい ます。医療安全対策については、今回、資料1をご覧下さい。改正医療法第6条の10 におきまして『病院、診療所又は助産所の管理者は、厚生労働省令で定めるところによ り、医療の安全を確保するための指針の策定、従業者に対する研修の実施その他の当該 病院、診療所又は助産所における医療の安全を確保するための措置を講じなければなら ない。』と規定が設けられ、医療機関の管理者に医療安全の確保が義務づけられたところ です。今後は、この規定に基づき、安全管理体制の整備や院内感染対策のための体制の 整備をすべての医療機関に義務づけるなど、医療機関における医療安全の確保のための 取り組みの具体的な内容を検討していくこととなります。その方向性につきましては、 資料2「院内感染対策有識者会議報告書」および資料3「『今後の医療安全対策について』 報告書」を基に、今後、検討していく予定です。現段階の検討状況を簡単に申しあげま すと、「医療の質の向上」を図り、「医療安全」を一層推進すると言う考えから、資料3 の5ページ目にありますように、「(2)医療機関における院内感染対策の充実」とあり、 院内感染の防止に関する医療機関の義務としては、現在、特定機能病院に対し専任の院 内感染対策を行う者の配置が義務づけられているのみであるが、これに加え、病院その 他の医療施設(有床診療所、無床診療所、歯科診療所、助産所)等において、次のよう な院内感染制御体制を整備することにより、医療を提供するすべての施設における安全、 安心で質の高い医療を確保する。全ての病院、診療所及び助産所について(1)院内感染防 止のための指針とマニュアルを整備する。(2)医療従事者に対し院内感染対策に関する研 修を実施する。(3)医療機関内における感染症の発生動向等の院内報告等により情報を共 有し、それに基づき必要な対策を講じるとあります。また、(4)病院または有床診療所に おいては院内感染対策のための委員会を開催する、と院内感染対策に関しまして当面取 り組むべき課題として述べられております。また、特定機能病院等、高度な医療を提供 する医療機関に対しましては(5)院内感染対策のための委員会で決定された方針に基づき、 組織横断的に院内感染対策を行う部門を設置する。(6)医療機関の規模や機能に応じ院内 感染対策を行う担当者の配置を順次進めるとあります。このうち、(6)の院内感染対策を 行う担当者につきましては、資料2「院内感染対策有識者会議報告書」の10頁、4の 1の3に「特定の医療機関への専任院内感染対策担当者の配置」とありまして、「高度な 医療を提供する大規模な医療機関(特定機能病院)及び重篤な感染症を担当する医療機 関(第1種感染症指定医療機関)等においては、専任の院内感染対策担当者を配置し、 これらの担当者は医療機関内で一定の権限と責任を与えられ組織横断的な活動を行うと ともに、各地域の院内感染地域支援ネットワークに協力する」とあります。これを受け まして、特定機能病院及び第1種感染症指定医療機関につきましては、資料1の参考部 分にありますように、すでに配置が義務づけられているところです。(5)にある院内感染 対策を行う部門の設置につきましても、同様に特定機能病院及び第1種感染症指定医療 機関に義務づけることについて現在検討中です。以上が今般の医療法改正に伴います院 内感染対策に関する現段階での検討事項ですが、どこまでの内容を各医療機関に求めて いくかということに関しましては各先生方のご意見をいただきながら今後詰めていく考 えでおります。 ○小林座長 ありがとうございました。最初の私の説明が悪くて、いまご検討いただい ておりますのは議題1の医療法改正に関連する院内感染対策についてということでご説 明いただきました。全般的なことをご説明いただいたわけですが、資料2の院内感染対 策有識者会議報告書において我が国における新たな院内感染対策及びグランドデザイン を出していただくとともに、医療機関、自治体、国、関係団体、学会がそれぞれの立場 で取り組むべき事項を整理し、取りまとめております。これは、先ほど指導課長からの お話がありましたように、こういった中央会議をスタートする基になっている報告書で すが、それは夙にご存じのとおりです。資料3は今後の医療安全対策についての報告書 でありまして、具体的に当面取り組むべき課題として指針の整理、従事者に対する研修 の実施、発生動向等の院内報告等による情報共有及びそれに基づく対策の実施などが記 されております。本日ご検討いただきたいのは各医療機関に対してどういった対応が必 要かということで、各構成員の先生方に具体的なイメージに対してご意見があればお伺 いしたいと思います。 ○荒川構成員 今、医療現場で、非常に深刻な事態になっている。これに対しては、例 えば最近問題になっているVRE、MDRPについてもそうですが、MRSAも、基本 的には原則的な対応をしていけばかなりの部分は制御できる。特別のことをするという のではなくて、原則をきちんとすれば、全くゼロにはできませんけれども、さらに制御 していけるということはこの前の個別の議論でも明らかになっております。ただ、そう いうことがすべての医療機関に対して十分に周知されているかどうかということになる とそうでもないということもありまして、こういった厚生省のいろいろな文書等をよく 見ながら、参考にしながら改善を進めている最中ですが、さらにこの内容について、先 ほど座長が少しおっしゃられたように、医療法の中でこういう問題を位置づけていくと か、そういうことをされていくと今後徹底が図られていくのではないか。国内では、欧 米と比べまして、いろいろな耐性菌の状況、あるいは院内感染の状況も違っております。 具体的にはまた後で何らかのご意見があるかもしれませんが、VREなどはまだ国内で 非常に少ない状況で、状況的には非常に理想的な状況で管理されています。韓国などで は非常に増えてきていまして、欧米並みになって問題になっていますが、幸いなことに 国内では非常に少ない状況で推移しております。これから増えていくような耐性菌につ いても、原則をきちんと徹底しながら対策をとっていくことによって、その他の耐性菌 においても良い状態が維持できるのではないか。そのためには、病院の中でやるべきこ とについて明確にして、どういうことをすればいいのか、そういうことをすべての職員 の方々に周知できるようないろいろな政策とともに、あるいは病院での取り組みの様子 が外から見える仕組みも重要だと考えています。 ○小林座長 いま荒川構成員のご指摘のように、VREの問題は世界的に問題になって おりますが、日本ではそれほど大きな問題になっていない。それから、MRSA感染症 にしても、あまり問題にしていなかったアメリカ合衆国で最近は大きな問題になってい ますが、日本では安定した状態にある。それから、MRSAに関しては市井感染がアメ リカやヨーロッパで大きな問題になっておりますが、それは少し違った株によって起こ ってきているようですが、これもまだ幸いなことに日本では大きな問題になっておりま せん。そういった意味におきましても、確かに、ある面では日本の対策は非常にうまく いっていると思うのですが、一方で、まだまだ考えなければならない問題が残されてい るということを考えたときに、規模の大きな病院は大きな病院でいろいろな問題を抱え ていると思いますが、さらにこれを中小の病院まで広げていかなければいけないという のがこの中央会議が持たれた基の理由でもあります。そのために地域支援ネットワーク を構築していこうという話になったわけですが、この辺を第3回の本日辺りでは、どの ように進めていったらいいか、どのようにそれぞれの施設に考えてもらったらいいか、 ということを具体的にご意見をいただきながら、それを今後の資料にしていきたいと思 いますので、どうぞご遠慮なくご意見を頂戴したいと思います。 ○賀来構成員 2点ほどあります。1点目は、荒川構成員と小林座長からお話がありま したたように、現時点では米国にくらべ我が国におけるVREの感染制御は比較的うま くいっていると思われます。だからこそ、成功しているその理由や要因をきちんと検証 していく必要があると思われます。すなわち、その検証を確実に行っていくことは、こ れから新しく出てくることが予想されるさまざまな院内感染の原因菌の感染対策にも有 用な情報となりえるからです。2点目は、我が国の医療現場、特に比較的規模の大きい 医療施設ではインフェクションコントロールチーム(ICT)が結成されており、この ICTによる活動が院内感染対策の中心的な役割として機能していると思います。IC Tの中核はもちろんICD、ICNなどの実務担当者ですが、大久保先生が主任研究者 を勤められた平成14年の厚生労働科学研究調査報告書および有識者会議の報告書にも ありますように、比較的規模の大きな病院でありましてもこのような実務担当を専任と して任命している医療施設は79%であるという報告があります。また、ICTの最も重 要な仕事の1つで病棟のラウンド(感染管理についての回診)というものもありますが、 このラウンドの実施率におきましても当時の調査時点では約40%ということで、ICT のさらなる機能強化が必要ではないかと考えております。特に、各施設内で実務担当と なるべき感染制御の専門家の養成が是非必要であると思われますし、併せて地域支援ネ ットワークの活動を担う人材の育成も同時に必要ではないかと思っています。 ○大久保構成員 すでに賀来委員のお話の中で、地域支援ネットワークとか、病院領域 での対応についての話が出ているわけです。この厚生労働省関係ではすべて院内感染と いう言葉を使ってきたと思うのですが、医療関連感染と申しますか、院内だけでの原因 ではなくて、持ち込みも含めて広い範囲、すなわち介護老人保健施設とか訪問看護ステ ーションとか、そういう所も含めた形で今後の話をしていかないと、院内感染だけの定 義で話していると少し違ってしまいますので、まず、その言葉そのものについて少しご 検討いただきたいと思っています。 ○小林座長 この問題に関していかがでしょうか。 ○倉田構成員 いま大久保さんが言われたことはまさにそのとおりで、例えば施設内感 染とか、そういう事があると思うのですが、医療関係者がそれを感染させないように使 うところには、こちらのチャンスは非常に有効に作用すると思うのです。ところが、あ る所で起こっていること、これは2週間ぐらいするとオフにされることですから言いま せんが、持ち込まれたものは外から持ち込まれる。その点は誰も知らないわけです。こ れは、調べた遺伝子でパッとわかった、結果として何日か経ってしまって、これはここ にあったものだということがわかった、そこを誰が持ってきたかという追及の段階です からまだ言えませんが、要するにそういうことが起きているわけです。もう1つは、あ る宿泊施設で起こったノロの大学生というのは、食品を調べても何も出ないのです。3 週間分を調べても何も出ないのです。しかし、患者はバッバッと施設の中で出た。これ はみんな接触感染なのです。そういう問題は今後どんどん増えてくると思うのです。  2年前ですか、あの福山の福寿園から始まった、全国にオープンになった四千何百人 感染者がいましたね。あの中で食品が特定されたものは1つもなかったですよね。だか ら、今度起きたのもそういうことなのですが、食品ではないのです。それで、おかしい と思ってずっとフォローしていくと、症状がザーッと出てウイルスがわかった。そうい うことがわかってきまして、それがまた途中で遺伝子の変化もある。そうすると、後で わかったときに、この人はソースが違う所というのは、実はそうではないのです。同じ 所のものが2、3カ月経つと遺伝子が変わってきてしまうことがだんだんわかってきた のですが、そういうことで、そうなると感染源の特定基準物が違う。だから、そういう データを一生懸命にこま目にとっていかないと、施設の間の感染もわからない。  私は、医療関係者の努力というのはもう限界で、もっとやるとすれば、外来から来る 人、外の人ですね。この人たちを、病室に入る人も、徹底的にガウンを着せて、手を徹 底的に消毒する、マスクはさせる。トイレでは1人ひとりが出た後は全部何かする。こ れは、当然、医療のコストに上がってきますが、そういうことまでやらなければ感染の リスクを下げる、ゼロにはできない。これは絶対にゼロとは入っていません。ミニマイ ズリスクというのは今後の対応ですから、そこのところは、そこまでやらないと本当は できないのではないか。  医療費に跳ね返ることまで承知の上でやるかということが1つ出てくる。トイレを徹 底的にきれいにする、毎回きれいにする。ある所で起こったのは全部ノブです。トイレ の中です。1995年でしたか、カイワレのO-157が出て、そういうものが便からいくと いうことがわかって、長野県のある地域は、民宿、山小屋から地域全部のトイレの中に アルコールを置いたのです。チュッと押すと、巻き紙でやって便器を拭けと。自分が終 わった後は自分の手も拭いてからノブに触れとか、非常にきめ細かいことがあらゆる所 にある。これも減らすための1つの方法なのですね。何か、そういうところで一つひと つのことをやるのはものすごくコストがかかるだろうと思うのですが、その辺のところ は、医療安全と言うからには医療の中のコストに反映できるかどうか、その辺は厚労省 あるいは医師会、国も含めて対応を考えていかなければいけないと思うのですが、減ら すならばそこまでやるかということを覚悟してやるべきだと思うのです。  というのは、前は食品から来ると言っていたものが、食品の中は何を調べてもなくて、 ヒトの間に完全に行きわたってしまっているのです。それで、先ほど言ったように、症 状がなくても伝播する能力があるというときにそれをどうするのかと。そういう人たち が病院に来る。トイレに入ってその汚れたままの手で出てくる。私は、中央衛生研究所 の講習会で、副所長、所長の挨拶のときに目をつぶってもらって、失礼だけれどもトイ レへ行って大便をした後で手を洗わないで出てくる人はいますかと聞くと、女性、男性、 必ず10%ぐらい手が挙がります。プロなのですよ。ですから、私、雑居ビルのレストラ ンでよくそういうのを見かけるのですね、コックさんが。あいつはどこへ入った、その 店は行かないぞ、ということもよく若い連中に注意するのですが、そういうことがある のです。ですから、皆への、国民一人ひとりへの注意喚起もあるのですが、病院の自己 防衛には、先ほど言ったように、外来者は手を洗ってガウンを着せてからしか病室に入 らせないということを本気でやるかやらないか。当然金はかかる、安全には金がかかる ということを本気でやらないと、この問題は減らない。医者、看護師、医療の関係者の 間でどんな努力をしても減らせる部分は非常に限られているということではないかと思 うのですが、先ほど大久保さんが言われた施設内という問題で最近いろいろな経験をし て非常によくわかります。 ○小林座長 貴重なご意見をありがとうございました。いま倉田構成員のご指摘になっ たことには2つの要素があると思うのです。1つは、環境汚染、糞口感染を起こすよう なものがヒト・ヒト感染を起こす。その原因が環境の汚染に基づいているということは、 アウトブレイクを起こしている事例がいろいろな菌に関して、微生物に関して、世界的 にいくつも報告されているわけでありまして、そういうものに対する対策というのは大 中小のいずれの規模にかかわらず、医療施設またはその外であっても今後の課題として 十分考えていかなければいけない。もう1つは、いかにハンドハイジーン、手指衛生が 重要かということを最後のほうでおっしゃってくださいましたが、手を介しての汚染を どのように防止していくか。その手指衛生のコンプライアンスをどうやって上げていく かということはいろいろな所にとって問題ですし、日本だけの問題ではなくて、進んで いるようなアメリカ合衆国においても、手指衛生のコンプライアンスがなかなか上がら なくて非常に苦労しているという現状があるわけです。非常に強調してお話くださいま したが、非常に重要な医療関連感染対策のポイントを突かれたご意見だったと思います。 ほかにいかがでしょうか。 ○倉辻構成員 1つには、いま言われたようなヒトからヒトへの感染が起こるのにはそ のハイリスクのポイントがあるということで、必ずいろいろな行為の中において何がハ イリスク、感染のポイントになるのかということをはっきりと見極めて感染防御のため にメリハリの付いた対策を立てていくことが大切ではないかということです。  2つ目は、その知識をいかに実行に結び付けるか。例えば、手洗いの仕方は知ってい るといっても、ほとんどの方が手を洗うときに手を10秒も洗っていないということで、 有効な手洗いがなされていないことがあるのです。ですから、そういう意味で、知識を 実行に結び付ける方法を開発していくことが必要ではないか。  3つ目には、いろいろなことを医療施設でブロックすることよりも、地域の生活、先 ほど言いましたように環境汚染ということも多いわけですから、国民一人ひとりが正確 な知識を持つように何か方法をとったほうがいいのではないか。専門家のいない施設、 あるいは中小規模の施設でも気軽に相談できる体制というものを整備していくことが非 常に大切なことではないかと思っております。 ○小林座長 コンプライアンスと環境の問題は、倉田構成員のお話とも重複するところ ではありますが、もう1つ、ホストサイドのリスクを考えて対策を考えていくことも非 常に重要なことで、最後のほうに、倉辻構成員がおっしゃった中小の病院を考えたとき の対策という点で、実は、私の研究班の仕事にもからんでくることなのですが、この辺 の問題をどのようにやりやすいように整理して試案をつくりマニュアル化していくかと いうことがこれから課題になると思いまして、後ほど少し触れさせていただきますが、 これも1つ重要な課題かと思います。 ○木村構成員 ほとんどの病院と言っていいと思うのですが、そのマニュアルをつくっ ている、あるいは多くの病院がICTを立ち上げているという状況にありますが、大事 なのはそういうマニュアルがどのように活用され、ICTがどのように機能しているか という中身だと思うのです。マニュアルがある、対策委員会があるけれどもそれがうま く利用されたり機能していないと無いも同然ということなので、そういう機能を評価す るような対応が必要なのではないか。これを何万とある医療機関を評価していくのは難 しいので、まずは自己評価を定期的にきちんとやってもらうのと、一部について病院機 能評価のような形で感染対策が守られているか、機能しているか、という辺りの評価に もう少し力を入れていくといいのではないかと思います。 ○小林座長 東北地区で賀来先生が地域とのネットワークを非常に熱心に構築しておら れますが、機能評価ということは非常に重要で、木村構成員がご指摘のように、これを 全部やるとなると大変なのですが、地域としてのネットワークの中で相互の、いわゆる 本来のピアレビューということを活用すればお互いに評価していくことが可能かと思う のです。その辺も含めて、賀来構成員からお願いしたいと思います。 ○賀来構成員 先ほどから先生方がお話なさっていることがまさにポイントだと思われ ます。すなわち、ガイドラインやマニュアルはあるのですが、実際にはそれが本当にど れぐらい守られるかというと、手洗いという行為も含めて、守られていない場合が多い のです。例えば、汚物処理室における便や尿などへの対応や取扱いなどを具体的にラウ ンドさせていただき、チェックさせていただきますと、きちんとした対応がなされてい ないことが判明してきます。ですから、1つは、共同でマニュアルなど、特に現場での 具体的なプロセスをビジュアル(視覚的)に示したベストプラクティスマニュアルなど を作成し、それをお互いに共有することが必要ではないかと思います。成功事例といい ますか、そういった感染防止に実際に有用であった事例集といったものをお互いに共有 できるようなシステムを作り上げていくことが大切であり、特に規模の小さな病院では そのような有用な情報をなかなか収集することもできませんので、まず、感染制御に関 する基本的なことの確認はもちろんのこと、本当に実践的な部分での重要なことがらを 確認できることが非常に重要だと思います。  現在、荒川先生や切替先生が薬剤耐性菌に関し、注意すべき情報を発表なさっておら れますが、実際には、地域によってはそのような薬剤耐性菌に関する重要な情報を確実 に受け取ってはいない施設も数多くあるのが現実です。ですから、そのような貴重な疫 学情報を地域ネットワークを利用して伝えていくこと、そして併せて各現場での実際的 な問題点に関する情報収集も行うなど、双方向性で、より密接なコミュニケーションを はかっていけるネットワーク作りが不可欠ではないかと思われます。現在、東北厚生局 とも共同でネットワーク参加の地域の病院をラウンドさせていただいているのですが、 医療監視ということではなくて、お互いに情報の共有化と協力体制を構築し連携をはか るという姿勢を持つことが、より強いネットワークの絆を作ることとなり、そのような 地道な活動が地域における感染制御、感染症対応のレベルアップを確実に後押しするこ とにつながっていくことになるのではないかと思っております。最後にもう1点は、小 さな規模の医療施設でありましても、責任体制を明らかにして、この責任ある立場とな る人材の育成、感染制御に関する教育システムを地域で作り上げていくこともキーポイ ントになるのではないかと思います。 ○小林座長 ほかにいかがでしょうか。 ○岡部構成員 前の有識者会議のときにも文章を入れていただいたのですが、職員側の 問題で言えば、現在例えばHIV感染、あるいはHBに関しては十分に行きわたりつつ あると思うのですが、あらかじめ予防接種で防げる病気に対しては予防をしておくとい うことが院内感染対策上重要であると思います。インフルエンザが流行してくると、イ ンフルエンザ接種者がかなり増えているということもありますが、その他にも予防接種 で防げる病気について、院内で広がり得る疾患としての認識と取り組みが必要であると 思います。もう1つは、お見舞いに来る方、あるいは外来に来る方に対する予防策の徹 底というのはなかなか難しいのですが、事あるごとにこういう方々に対して感染予防に 対する呼びかけをしていったり、簡便にその道具が手に入るようにしておく。例えば医 療センターの入り口の所にマスクの自動販売機を最近置いていますが、そういうものを すぐに付けていただくようにしておく。いわゆるレスパイラトリーエチケットというも のがありますが、そういうことで患者さんを守るということは、結局、周りへの広がり も防いでいくわけで、そういうことに関する普及も必要だろうと思っています。もう1 つは、診る側の問題で、SARSのときは一斉に医療関係者がパッとマスクを付けて手 をシュッシュッアルコール等で消毒をやっていたのがまた見られなくなってきていると いう状況でもありますので、私たちも十分に反省をして、ときどきネジを巻かなければ いけないというか、刺激を与えなければいけないのではないかと思います。  最後なのですが、インフルエンザの流行期になるとどこでも悩むのは、病院勤務者が 休んだときにどういうローテーションを組むか。実際にはそれがなかなかできないので 無理をして休んでいくということがありますので、この会の目的とは多少ずれてしまう とは思いますが、病院に勤務する者の労働環境あるいは勤務環境というものは院内感染 の予防にも結び付いていくのだということは留めておいていただければと思います。 ○小林座長 特に、最後でご指摘のインフルエンザの流行事例のところは本当に問題が ある職員が全部休んでしまうと病院が成り立っていかないような現状が起こり得る。岡 部先生がいろいろご検討なさってくださっている高病源性のトリインフルエンザが万一 アウトブレイクが起こってくれば、これは大問題になることだと思いますので、そうい った大きな観点からの対策も課題になるかと思います。  ひととおりご意見をいただきまして、後から出てくるいろいろな議題も関連してくる と思いますので、その都度またご意見を賜ることにして先に進めさせていただきます。 その次に、厚生労働科学研究班がいろいろつくられておりまして、感染制御、感染対策、 医療関連感染対策に関連するお仕事がいろいろやられておりますので、これに関しまし て事務局からご説明いただいて、それぞれのご担当の主任研究員から少しご説明いただ ければと思います。 ○事務局 各厚生労働科学研究班についてご報告申し上げます。平成18年度は院内感 染対策の関係の研究班は5班あります。主任研究者のお名前と各研究班の研究課題は、 この中央会議の構成員の先生方から申し上げますと、荒川構成員の「薬剤耐性菌等に関 する研究」、倉辻構成員の「院内感染地域支援ネットワーク及び相談体制の改善・普及や データベース及びバックアップ体制の構築に関する研究」、小林座長の「安全性の高い医 療環境及び作業環境の確立に関する研究」、武澤構成員の「医療の安全性及び安全対策の 評価指標の開発と有効性の検証」。まだこの会の構成員ではありませんが、国立病院機構 熊本医療センターの芳賀先生の「諸外国における院内感染対策の応用に関する研究。以 上、5班となっております。 ○小林座長 これは非常に関係の深いところでございますので、どういうことがやられ ているか、または企画されているかということに関しまして、順次、各主任研究員の方 から簡単にご報告いただければと思います。荒川構成員からお願いします。 ○荒川構成員 ご紹介いただきました薬剤耐性菌等に関する研究班ですが、大きく3つ のグループに分かれて研究を進めております。1つは、この後のほうの資料にもあるよ うなJANISサーベイランスを学術的な側面からサポートし、あるいは支援をしてい くということです。2つ目は、MDRPを含めてさまざまな耐性菌が問題になってきて おりますので、そういうものの監視をしていく、あるいは分子機構を解明し、あるいは 検査法を開発するというグループです。3つ目は、結核も非常に大事な感染症の一つに なっておりますので、結核に関して細菌学的な視点あるいは免疫学的な視点、あるいは 治療なども含めた視点からさまざまな取り組みをするグループがあります。多岐にわた る研究活動を進めることになっておりまして大変荷の重い研究班ではありますが、特に このJANISのグループ、サーベイランスの支援グループは11名の先生方にお願い しておりまして、日本国内のいろいろな耐性菌や院内感染の状況を詳しくわかる資料が 蓄積されてきております。この最後の資料もまた後ほどご説明があると思いますが、そ のような情報を国民の方々あるいは医療関係者の方々に提供するような研究活動を進め ております。 ○小林座長 この研究班の活動に関しては、本日は資料を用意しておりませんのでご了 解いただきたいと思います。この研究班では切替構成員も少し違った立場でやっていた だいておりますので、少しお話いただけますか。 ○切替構成員 これは後での課題になると思いますが、私は多剤耐性緑膿菌についての 研究をさせていただいております。多剤耐性緑膿菌の院内感染対策といたしましては、 吉倉廣先生、その後を引き継いだ倉辻先生が主任であった平成15年から17年の厚生労 働科学研究院内感染の発症リスクの評価及び効果的な対策システムの開発に関する研究 で取り上げまして、高度多剤耐性緑膿菌の院内感染多発事例の解析をする一方で、東北 大学の賀来構成員と共同で、特定地域内の医療施設に多剤耐性緑膿菌が伝播しているか どうかを調査いたしました。  これらの調査研究は、いま荒川先生からご紹介がありましたように、荒川先生が主任 の薬剤耐性菌等に関する研究に引き継がれて、現在、実態の把握に努めているところで す。これまでの厚生労働科学研究による院内感染事例解析から多剤耐性緑膿菌は比較的 規模の大きな医療施設で分離されております。したがって、比較的規模の大きな医療機 関などに協力をお願いして、全国433医療施設と医療検査受託事業所4施設を対象に多 剤耐性の分離株に関するアンケート調査をいたしました。7月下旬にアンケートをお願 いして、現在、精査しております。このアンケートでは、全国の一般的な病院で多剤耐 性緑膿菌が通常どの程度分離されているのかといったベースラインが具体的な数字とな って明らかにされることが期待されております。  また、本年度は関東地方の一部の医療施設や全国院内感染サーベイランスのネットワ ーク参加医療施設に協力いただきまして多剤耐性緑膿菌を収集しております。どのよう な性質の菌株が多いのかを調査する予定でおります。これらの調査と並行いたしまして、 多剤耐性緑膿菌事例を経験された医療施設に協力いただきまして、院内感染対策マニュ アルを作成し、国立国際医療センター等のホームページで公表しようと考えております。 ○小林座長 次の議題2のほうともかなりオーバーラップして、議題2の先生のやって おられるところをご説明いただいてしまった形になりましたが、そういうことでご検討 いただいております。それから、私、小林の班でございますが、ここでは特に300床以 下、有床診療所までを対象として、この感染制御ということを広げていくためにどうい うことをやっていったらいいかという、具体的にはやるべきことのマニュアルというと 具体的になりすぎるかもしれませんが、それぞれ、300床でも有床診療所でも条件が違 いますので、それに共通したものにはならないかもしれませんが、何らかの道標をつく るべく、特に先ほど構成員の皆様からいただいたご意見は大変参考になりました。そう いうものを基にして試案をつくり、また改めて協力者として構成員の皆様方にお願いし たいと思っておりますので、試案にご意見をいただいて、それを組み立ててやってみて、 その成果を見ながらまた次にそれを改定していくというような、あまり最初から細かい ものをつくらずに取り組んでいく。特に、今日ご指摘いただいたことはそれぞれ非常に 重要なポイントですので、これを具体化するのにどうしたらいいかということを検討し ていきながら、皆様方のご意見を賜りつつ進めていきたいと思っております。  特に、最近は医療安全といいますか、安全管理という問題との関連性がいろいろ議論 されておりまして、かなりの部分はオーバーラップしておりますが、感染制御は独自の 対策が必要なところもあります。そのいちばんの違いは、片や人間だけが対象なのに、 感染制御においては微生物と人間という2つの生物が対象になっているというところが 大きく違う点です。その他いろいろ違う点がありますが、その辺を踏まえて、共通でで きることは共通で行いながら、特殊なものは特殊なものとして感染制御の観点から追及 していくことも含めまして、そういった仕事を進めていきたいと考えております。  これは議論はまた後ほどしていただくとしまして、次の議題2「多剤耐性緑膿菌、マ ルチ・ドラッグ・レジスタンス・シュードモナス(MDRP)に対する院内感染対策に ついて」に入らせていただきます。先ほど、切替構成員がご説明いただいたことですが、 これまでの厚生労働省の取り組みを含めまして事務局からお話していただいて、さらに 切替構成員から補足していただければと思います。 ○事務局 院内感染対策につきましては、通知等によりまして感染制御の組織化、院内 感染対策委員会の設置等に関しまして、標準的予防策の実施、手洗い等の徹底などを行 い予防方策が講じられてきているところです。また、厚生労働科学研究班におきまして は、従前より、そのときどきに応じた課題に対しての研究を各研究班にお願いしている ところです。多剤耐性緑膿菌につきましても、本年度より荒川班の分担研究者として切 替構成員に研究をお願いしているところでございます。 ○切替構成員 先ほどご説明させていただいたことに尽きるのですが、特に強調したい ところは、多剤耐性緑膿菌に対する適切な院内感染対策マニュアルというものがありま せん。多剤耐性緑膿菌は現時点で適切な治療薬があまりないという菌ですので、例えば ほかの2剤耐性緑膿菌とは別に考えて、院内でそのような感染菌が分離されたときにほ かの患者さんや医療従事者に伝播していかないようなきちっとした院内感染対策マニュ アルを本年度中に作成し、できるだけ公表して現場の方に使っていただくようにという ことを心掛けようと思っております。 ○小林座長 議論は後ほどしていただくことにいたしまして、先ほどお触れいただきま したが、東北自方で賀来構成員がこの問題も積極的に取り組んでおられますので、その 辺のお話を賀来先生からお願いいたします。 ○賀来構成員 資料5をご覧ください。資料5に宮城県での取り組みについてまとめて おります。簡単にご説明いたしますが、宮城県でのネットワーク活動は1999年の11月 から始まりまして、現在、東北全域で約200施設が参加し、さまざまな実践的な活動を 展開しているところです。2002年前後に、ネットワーク活動に参加している施設のIC DやICNから私どもに多剤耐性緑膿菌(MDRP)が検出されることや、また時には感 染症症例についての御相談が次第に見受けられるようになってきていました。  そのようなことを受け、2003年の7月にネットワークでのワーキンググループの活動 の一環として、MDRPについての現状を把握する目的でアンケート調査を実施いたし ました。アンケート実施の理由は前後しますが、ネットワーク参加施設からのMDRP に関する相談が多くなってきたこと、そして国立病院機構仙台医療センターの三木先生 から自施設での御経験も含め、MDRPの動向に注意する必要があるのではないかとい う指摘を受けてのことでした。アンケート参加施設は、20施設でそのうち定点医療施設 は8施設です。  さらに同2003年の9月には、MDRP調査ワーキンググループの立ち上げを行いま したが、この際に切替先生の研究班からの指導も受けさせていただくこととなり菌株を 収集することになります。  切替先生よりMDRPに関する中間報告も受け、さらにMDRPへの注意を喚起する 意味からも2004年の1月、7月、2005年の2月、さらに2006年の7月に、MDRP に関する講習会を開催させていただきました。そして、本年8月29日に多剤耐性緑膿 菌対応ワーキンググループを結成し、さまざまな事柄について協議を行ったという次第 です。  8月29日に、実際に20施設に集まっていただき、各施設からこれまでの経過と現状 報告をいただいたのですが、2003年から2006年まで経過が判明している13施設から の報告をまとめてみますと、MDRP検出例(必ずしも感染例ということではない)は、 2003年が200例、2004年が235例、2005年が186例、2006年の1月から6月が72 例ということで、13施設中2施設が2003年がピークでその後は減少、6施設が2004 年がピークでその後減少、5施設が2005年がピークでその後減少となっています。  この間多くの施設でそのMDRPに対するさまざまな対応がとられてまいりました。 MDRPが検出される検体の多くは尿検体で、特に尿道カテーテル留置例が多いこと、 一部、喀痰検体が増えてきている傾向があることがわかってきております。そして、定 着例が非常に多いということも判明してまいりました。ただ、いずれにしましても、リ スクが高い患者さんに伝播した場合には、感染を起こすこともあり、その際には難治化 することになりますので、注意が必要です。ですから、MDRPの減少という成果に結 び付いた具体的な対応について再確認あるいは情報を共有化していくことが重要です。  例えば、標準予防策や接触伝播予防対策の徹底、特に尿道カテーテル留置の管理のマ ニュアルを改定することやMDRPが検出された尿を取り扱う際にはガウンの着用そし て確実な手袋の使用を徹底することが重要です。さらに、汚物処理室における手洗い設 備、ペーパータオルの設置や液状石鹸を用いた手洗いの徹底をはかることが必要です。 そして、そのような事項をすべてのスタッフに周知徹底していくことが重要となります。 このような対応をとることで、現在、宮城県ではMDRPが増加している傾向は認めら れておりません。すなわち、施設内での伝播は確実に防げているということが言えると 思います。ただ、問題は、先ほど倉田先生が少しご指摘なさいましたように、持込み例 の増加です。例えば、私どもの施設では今年はすべて持込み例ということで、そのよう な持込み例に対してどう対応するか、この点につきましても今後、地域全体の医療施設 で取り組んでいかなければならない課題になると思うのです。さらに、介護施設からの 持込み例も報告されておりますので、今後は介護施設や老健施設を含めた対応も地域で 取り組んでいく必要があるということになります。  今後の対応としましては、MDRPに対する具体的な対応、すなわち汚物処理室にお ける具体的な汚物処理の方法などを事例集としてまとめ、ネットワークの参加施設に配 布する予定です。また、加えて地域での薬剤耐性菌のモニタリング体制を構築していく 予定にしております。これは東北大学で菌株を収集し継続的な薬剤耐性菌のモニタリン グを実施していく、いわゆる地域のコアラボ機能を発揮して、MDRPだけでなく他の 薬剤耐性菌も含めたモニタリングや遺伝子解析を実施し、その疫学情報も確実にフィー ドバックすることを計画しております。それから、薬剤耐性菌に関する相談窓口を設置 することも予定しております。 ○小林座長 後で議論はしていただきたいと思うのですが、問題になっているモニタリ ングをきちんとやっていくとそれだけ分離頻度が高まる可能性は当然あるわけですが、 その中で減っているというのは非常に貴重なデータかと思いますし、緑膿菌感染という のは、私が現場を知っている1960年ごろからでもずっと問題になっていた菌でありま して、決して今に始まったわけではない。ただ、薬剤の感受性、耐性の傾向はもちろん 変わっていますが、これもそういう意味でどのように評価されるのかわかりませんが、 個別の名前を申し上げてすみませんが、何らかのことで埼玉医科大学が一つの問題とし て取り上げられました。これに関しましては、木村構成員が多剤耐性緑膿菌検出にかか わる外部調査委員会を混じえた調査委員会の委員長をやっておられますので、お許しい ただける範囲内で何かご発言いただければと思います。 ○木村構成員 外部調査委員を依頼されまして、8月2日に、いまお話があったような 外部委員6名と埼玉医大の内部委員2名を混じえての調査会を開きました。新聞報道の あった2004年と2005年の事例について検討したのですが、6例の方が亡くなっている ということで、その6例とMDRPの感染と死亡の因果関係というところを最初に議論 いたしました。内部調査にあるとおり、1例は関連が否定できない。もう1例は内部委 員会では関連がないとされていたものですが、関連性はかなり低いけれども否定はでき ないという結論に至りました。残りの4例については直接的な因果関係はないという判 断に至りました。  その後、発生状況等について埼玉医大のほうで整えられた資料を基にいろいろ議論い たしましたが、埼玉医大は1,385床ですか、非常に大きな病院でありまして、しかも病 棟数も36と大規模な病院で、まさに、地域の中核的な病院として重症患者も多いし、 院内伝播を受けやすいコンプロマイズドホストが非常に多いという状況にあるというこ ともよくわかりました。2004年には52例、2005年には74例の発生、コロナイゼーシ ョンを含めてMDRPが検出された。その36ある病棟と検出された時期等を見てみま すと、ある程度のクラスターを形成しているというか、ある病棟である時期に限って何 例かまとまって分離されているという状況がありました。  そして、そういうところは院内伝播も否定できないのではないかということで、そう いうクラスターが2004年には4つ、2005年には8つぐらい見受けられるということが わかりまして、院内伝播の可能性については第三者の調査、FETPなどにお願いして 調査をしていただいたらいいのではないか。また、分離されたMDRPについては、ま だパルスフィールド電気泳動、その他、分子疫学的な調査をされていないということで したので、これもできれば第三者にお願いしてはということで、これについては荒川先 生に内諾をいただいて、プラスミドの解析を含めてお願いすることになりました。FE TPについては岡部先生を通じて内諾をいただきまして、手続上は県から正式に依頼し ていただいたほうがやりやすいということで、8月31日付で県から依頼書が発せられ たと伺っております。FETPについては、昨日か一昨日、すでに現地に赴いていただ いたということを伺っております。 ○小林座長 貴重な調査結果に関しましてご紹介賜りましてありがとうございました。 少し時間をとって議論していただきたいと思うのですが、最初に倉田構成員が環境の問 題を取り上げられましたが、緑膿菌の感染が、いまクラスターが起こってくるのが、元 が環境菌なのか、その中で耐性になって、ヒト・ヒト感染をしてその中に環境がからん でいるのか。まだスペキュレーションになってしまうかもしれませんが、その辺は多少 こうではないかということがあればご紹介いただけたらと思います。 ○切替構成員 実は、医療センターでも、一昨年の9月中旬に初めて多剤耐性緑膿菌が 患者さんから分離されました。いちばん最初の事例ですので、あっという間に3人ほど 院内感染を起こしてしまいましたが、先ほど賀来先生がご紹介になったように、すべて 尿路カテーテルの留置例でした。 ○小林座長 それはクロスコンタミネーションと再評価されているわけですか。 ○切替構成員 はい。パルスフィールド電気泳動で精査いたしまして、すべて同じ菌で あること。それから、通常はあまりしないのですが、緑膿菌であるということで環境調 査をいたしまして、いろいろな環境から緑膿菌を比較検討いたしました。その結果、そ のときには風呂場のシンクと、尿量測定器から同じ株の多剤耐性緑膿菌が高頻度に出た こと。それから、賀来先生の東北大での仙台地区でのいろいろなご経験を聞かせていた だきましたので、尿路回りの留置カテーテル管理の徹底的なマニュアルをつくって管理 をしていく、プレコーションしていくということで、その感染はそこで一応収まりまし た。おそらく、その尿から環境、環境からヒトというような伝播がいちばん考えられた 事例でした。 ○小林座長 尿と便との差はあるかもしれませんが、そういう環境を介してということ になるとVREとかクロストリジウム・ディフィシルのクラスターと同じような経路が 考えられることになりますが、ほかの構成員の先生から何かありますか。 ○木村構成員 先ほどの大学病院の例でもほとんどが尿路のサンプルから検出されてい るということで、大部分がカテーテルを留置されている方です。それから、残りの大部 分は喀痰です。人工呼吸器などを装着されている患者さんということで、こういうコン プロマイズドホストで非常に伝播しやすい。そして、病棟の中も見せていただきました が、蓄尿器、蓄尿するための尿のカップ、こういうものの管理にも注意が必要なのでは ないかという気がいたしました。先ほど、FETPとパスフィールド電気泳動の調査を お願いすると同時に、15項目にわたる緊急の感染対策の充実の項目を提言してきたわけ ですが、その中にはすでに埼玉医大で実行されているものもありましたが、その後、提 言に従い、患者、職員の手洗いの徹底とか、採尿カップの取り扱いなどを充実されてお られます。それから、非常に大規模であるだけにICTのラウンドはしょっちゅう回っ ていくことが難しい状況にあったようで、MDRPが検出されたときには必ずその病棟 に行って注意をするのだけれども、その後は回れていない状況がある。あるいは、あそ この病院は患者さんの病院内の移動が非常に多いのですが、移ったときにきちんと先の 病棟に伝わって指導が行われていなかったという状況もありましたが、その点などを充 実させたということで、このごろは新規の分離が新聞報道にあった時期の2分の1に減 ったということを言っておられました。 ○小林座長 お二方のお話と、賀来先生のお話も加わりますが、蓄尿というか、最近は 導尿システムそのものは閉鎖型のものになっていると思うのですが、現状はどうなのか、 そこに問題があるかないかということと、そこが完全にやられているとすれば蓄尿スペ ース辺りからのクロスコンタミネーションということになると思うのです。これは、1 つ大きな問題は、本当に蓄尿の必要性があるところで蓄尿しているのかどうか、これが 考え直さなければならない問題だと思いますが、具体的にこれは中小の病院などに対策 を考えていくときに非常に重要になるかと思うのです。 ○大久保構成員 この緑膿菌はブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌及びセラチアを含めて親 水性のグラム陰性桿菌といわれ、どうしても尿に関するものや、環境で言うと水場や湿 った所を好むということになりますので、その環境をいかに整備するかということが大 切になります。これは決して環境の消毒ではなくて、まず、清掃と乾燥に気をつけるこ と。それから、いま座長が言われましたように、習慣的な蓄尿を減らすことも非常に大 事なことだと思います。そういう水場を好む菌に対する特別な、従来のVREとはまた 違った意味での環境整備が必要となってくるのではないかと思います。 ○小林座長 ほかに何かございますか。これは結論の出ることではなくて、それぞれの お立場でいろいろサーベイランスをやっていただき、また、改善をやっていただいて、 その中で次の会議辺りに1つの方向性が出てくるかもしれませんが、私の所の研究班の 仕事の中で案をつくったときにそこで実際的なことをアドバイスしていただければと思 います。また何かあれば後でご意見をいただきますが、よろしければ議題(3)その他 に進めさせていただきたいと思います。議題(3)に関して事務局から何かございます か。 ○事務局 資料7をご覧ください。第2回の院内感染対策中央会議でお諮りいただいた 院内感染対策サーベイランス事業の年報・季報(案)のそれ以降の一般公開に関する資 料となっております。皆様にご覧いただきまして特に問題等がなければ一般公開の作業 を進めていきたいと思います。 ○小林座長 前回ご検討いただいたものの続報という形なわけですね。 ○荒川構成員 前回ご検討いただいたものはすでにホームページに掲載されております。 今回の分はそれ以降の集計分でありまして、ICU、検査部門、全入院患者部門、今年 の3月ぐらいまでです。ICUについては昨年12月までとなっております。SSIと NICUも昨年の12月までの分の集計が終わりましたのでこのような形でまとめさせ ていただきました。これについては、概要はこれまでとほとんど変わっておりませんの で、安定した状況が続いていると感じております。特に、MDRPについても、全般的 にすべての病院を足して見てみますと、最近それが非常に増えているという状況にはな いようです。ただ、このJANISは個別の病院をターゲットとしたサーベイランスで はありませんので詳しい解析は事業ベースではしておりませんが、私のほうに個別に全 国のいろいろな病院から依頼がある状況を見てみますと、いくつかの病院でMDRPが クラスター的に分離されるようなこともありまして、これについては引き続き監視と対 策を講じていく必要があると考えております。 ○小林座長 見てくださいと言われても細かい点はすぐにご覧いただけないかもしれま せんが全体的にご了解いただければこれを公開する方向で作業を進めてもらいたいと思 います。よろしいでしょうか。また問題を見つけられたら事務局へ後ほどご連絡いただ ければと思います。まだ少し時間に余裕があるようですので、全体的なことに関してご 意見をいただきたいと思います。1つご意見をいただければと思うのは、先ほど私から 申し上げさせていただきましたが、いま非常に問題になっている安全管理と感染制御、 院内感染対策というものの位置づけの今後に関して構成員の皆様方のご意見があればお 聞かせいただきたいと思うのですが、いかがなものでしょうか。 ○荒川構成員 MRSAとかVREも含めまして、病院の中でいろいろな耐性菌に関連 して感染症が起きるのはなかなか避けがたい部分もあります。ですから、対策を講じる、 特に医療法等でいろいろなことが検討されるように聞いていますが、本来やるべきこと をきちっとやっているということであれば、これまでのいくつかの事例から、全くゼロ にするのは難しいのですが、かなり制御できると考えております。そういう、すべての 病院がするべきことをきちっと実施ししていくということを推進するような手立てみた いなもの、そういうことを整備していくことは非常に大事ではないか。医療安全の中で、 何か、この院内感染を起こすと犯罪として取り締まられるような形になっていくと、病 院経営とかマネージメントが非常に難しくなってきますので、そういう観点が必要では ないかと考えております。 ○小林座長 有識者会議でいちばん問題になった点が荒川構成員が最後にご指摘になっ た点でございまして、それをなくするためにこの地域支援ネットワークをつくろうとい うことで、本当に異常な発生なのか常識的な範囲の発生なのかということをアドバイス するためにも地域支援ネットワークということで賀来先生にいろいろとご活躍いただい ているわけです。大久保構成員、いまのリスク管理との観点でいかがですか。 ○大久保構成員 これは第2回の中央会議のときにも提案させていただいたのですが、 院内感染というのは医療安全の中に完全に包含されるものではなくて、異なった概念で 考えなければいけない点もあると思うのです。いわゆるリスクマネジメントとしての基 本的な概念は一緒なのですが、院内感染、感染制御も含めて、これは人間と微生物の関 わりがとても重要だというだという2面性があるということです。それから、患者様自 身が持っている菌、すなわち内因性感染もかなりあり、抵抗力が弱ったときに悪さをす るなど、外因性のものとは限らないということもあります。したがって、そういう意味 では一種の不可抗力的なものも入りますので、そこへ医療安全という概念を持ち込むと 少し無理がある、間違って解釈され、評価されるということにもなると思うのです。  もう1つは、医療関連感染制御ということを先ほど言いましたが、退院してから発生 してきたりすることもあるわけですので、医療安全の範疇で言うアクシデント・インシ デントという概念からはみ出るものがかなりあると思いますから、その辺を一般の市民 の方にそういう認識をしていただいた上でこういういろいろな公表を見ていただくこと も必要だと思います。 ○小林座長 木村先生、東大においでのころから東大はわりあい危機管理のことを取り 上げていたと思うのですが、その辺を含めてその関係はいかがでしょうか。また、賀来 先生はいろいろネットワークを組んでおられて、先ほどの必要以上に問題化されるよう なことを含めて何かございますか。 ○木村構成員 危機管理との関連で言うと、院内あるいは地域も同じことだと思います が、情報をいかに迅速に窓口の部門に伝え、それを受けた所がいかに迅速に反応して対 応策を立てるかという辺りが1つの初動体制としてのキーになるところだと思って、大 学でやっていたころはその辺の連携を強化しようということでだいぶ力を入れました。 1つの例としては、細菌検査室というのは検査部に所属しているわけですが、それを検 査部から切り離して感染制御部に位置づけるという形でその細菌検査の結果と感染制御 のメンバーとの情報交換をスムーズにする、これは効果が結構あったのではないかと思 います。そういう組織的な面での改革も必要なのではないかと思います。 ○賀来構成員 薬剤耐性菌の問題が出てきますと、それはすべて病院の中で伝播した、 あるいは病院の中で発生してきたというふうにとらえられがちなのですが、先ほど倉田 先生が言われたように、地域社会の中から薬剤耐性菌が施設内に持ち込まれてきた場合、 それを完全に防ぐことは非常に難しいことも現実としてあることも考えていかなければ ならないと思います。患者さんを入院させないなどということは医療の現場では絶対に 無理でありますし、医療そのものに感染のリスクを内在しているという事実も見据えて いかなければならないと思います。先ほど大久保先生も指摘されたように、感染症の問 題は医療安全の域を超えているようなところがあるのです。それは事実であり、医療従 事者がそのようなことを発言すると何か責任を逃れているように言われるのですが、そ うではなく、努力をしても防げないものもあるのだという事実、そのようなリスクがあ る現実を正しく伝える、いわゆるリスクコミュニケーションを通じて一般の国民の方に も地域の住民の方にも理解していただかないといけないと思います。そうでなければ、 感染症の問題に直面した場合に、医療従事者はただ体が硬直してしまうことになります。 何か起こったら自分たちが責められるということだけになってしまう、そのような思い にとらわれることはやはり避けなければいけないと思うのです。医療そのものに一定の リスクはあり得ますし、だからこそ手洗いなどの予防処置を徹底をしていくのだという 姿勢や取り組み、努力も一方ではきちんと評価していただくということをやっていかな いと、何か、常に犯人探しのような議論になっていくことは避けなければいけないと思 います。 ○小林座長 これは最初に倉田構成員もご指摘になったことで、ゼロにするのは非常に 難しいのだということをおっしゃっておられましたし、賀来構成員もおっしゃったよう に、急性期の病院内で起こってくる感染症というのは、緑膿菌感染を含めまして世界的 にも数パーセントから10%は起こってきているというのが現段階での医療での偽らざ る状況でございます。これをゼロにすることは不可能に近いわけでございまして、そう いう現状の中で少しでも感染率を下げる努力をするためにこういった委員会がつくられ ているわけであって、先ずその事実を認めろということが賀来構成員のご指摘されたこ とだと思います。倉辻先生、お待たせしました。 ○倉辻構成員 地域の支援ネットワークのことなのですが、現在の体制で効果があがっ ている所とあがっていない所の比較。現在、10の道県でモデル的にやっておりますが、 そこの中で保健所や地方衛生研究所が中心になって協力している所には相談事例が非常 に少ないのです。一般の市中の病院の職員側から考えると、相談というよりも、管理、 指導されてしまうのではないかという認識だろうと思うのです。それに対しまして、地 方の大病院の感染症の専門家とか大学病院の感染制御部が中核になっている相談体制、 あるいは病院協会が相談体制の中核になっている所に関してはかなり有効に働いている のです。そういうことから、相談体制というのは安全な医療を提供すると同時に、国民 がそれを得るために、指導や調査、監査ということではなくて、自分たちも直接参加し て防止するのだということをもう少し徹底したいと思っております。それが1つです。  それから、諸外国ではどうなっているかということを調査いたしましたところ、外か ら感染の持込みという問題もかなり重要ポイントとしています。その対処の一つとして 例えば、患者及びその家族、付添いあるいは介助者、そういう方々に対してペイシェン トリレーションズすなわち患者相談部というセクションがありまして、そこで毎月、あ るいは施設によっては毎週、感染に関する研修の講座を持っているのです。そこに患者 あるいはその家族、付添いさん方も気軽に一緒に参加しまして、院内感染とその防止を 理解する。院内感染あるいは施設感染に関する知識の共有、どういうところが問題なの か、何をすればいいのかということを、医療提供者側だけではなくて、受ける側も積極 的に参加してそういうものを理解していくということが大切ではないかと思っておりま す。 ○小林座長 前半のお話は、有識者会議のときにそういう問題があるから地域支援ネッ トワークをつくろうということで、そのためには地方行政の窓口になっている保健所で はなくて、そこに報告するとそれがすぐセンセーショナルに報道されるところに結び付 くのでそれが問題だということが、保健所からの代表の方もメンバーにおられたわけで すが、そういう議論がかなりなされまして、それでは地域支援ネットワークを構築しよ うと。そして、そのバランスを調整していく、または、支援していくためにこの院内感 染対策中央会議を組織しようということになったのが、本日の報告の資料にもあります が、そのとおりでございまして、その結果、いろいろな試行がなされていますが、その 事実がまた再確認されたというのがいまの倉辻構成員のお話でございます。これは今後 のこの地域支援ネットワークを調整しながら、バランスをとらせながら、かつ、とるよ うに支援するというこの委員会の重要な役割になっていくのではないかと思いますので、 これは事務局にもお力添えいただいてより効果的な地域支援ネットワークを構築してい かなければいけないと思います。  それから、後半の教育の問題は今日はあまり出ませんでしたが、教育というのは大小 の教育を含めて、事例は賀来先生からいろいろ示されましたが、これをどのように教育 していくかということは、今日話題になったコンプライアンスを上げるためにどういう 指導をしていくかという話は随分出ております。これも結論の1つとして非常に重要な 今後の課題と考えるべきかと思います。 ○荒川構成員 先ほどの賀来先生のご発言の中で、最近は持込みがあると。確かに、持 込みはあると思うのです。ただ、MDRPについては、例えば昨日まで自宅で何かお仕 事をされている方が突然入院されて、MDRPを持って入ってこられるという事例は、 私の個人的なルートで調べた限りでは聞いた事がなく、持込みがある場合には必ずその 方は前にどこかの医療機関で治療を受けていて、そこでその菌を保菌して持ってこられ たという事例がほとんどなのです。ですから、そこが例えば普通のインフルエンザとか、 はしかとか、そういうものの持込みによる病院の中での感染とMDRPの病院の中での 感染の拡大というのは少し違ってくると思うのです。ですから、持込みが多くなってき ているということは、逆に言うと、その地域全体の多くの病院でMDRPの汚染率が少 しずつ高くなってきているという可能性のほうを考えるべきで、持込みが多いから仕方 がないのだということではないと私は思うのです。 ○賀来構成員 私が申し上げたかったのは、持込みがあるからしょうがないということ ではないのです。当然、大学病院のような基幹病院では基礎疾患の重い患者さんが入院 なさる場合が多いわけですし、そういう患者さんが地域の病院から入ってこられるわけ です。ですから、その入院なさってくる事実を止めることはできないからこそ、情報の 共有化や連携・協力といった地域ネットワークを充実させることがまさに有用であると いうことを言いたかったのです。決して、持ち込むことでお手挙げということではなく て、それを防ぐことができないからこそ、市民の方々あるいは介護施設の方々も含め、 ネットワークを構築していかなければ真の意味での感染症対策、感染制御にはならない ということを申し上げたいのです。だからこそ地域ネットワークで中小の病院も含めた 対応が望まれているのだろうということを実感しております。 ○小林座長 要するに、先ほどのインフルエンザのお話ではありませんが、市井感染の ものではなくて、何らかの医療施設の中でコロナイゼーションが起こって、それが持ち 込まれる可能性ですね。いまは小から大というお話が出ましたが、その逆の大から小の ルートもかなりあるわけで、これは中小の病院にとっては非常に厄介な問題で対策も大 変になると思いますので、これも非常に大きな問題として、特にこの委員会は中小の病 院を考えていかなければいけないわけですから、東北大学のような大きな病院で困るこ とは小さいほうへ行くともっと困るわけですので、是非この対策も含めて今後の課題に していきたいと思います。 ○木村構成員 埼玉医大は2003年がいちばん多かったのですね。その年に感染対策室 が設けられたり専任のICNが来られて、2004年、2005年はその2003年に比べてだ いぶ減っているのですが、埼玉県全体は、定点が9つだったと思うのですが、その動き が埼玉医大の動きと似ていて、2003年が突出して多い。その解釈としては、医療機関同 士での患者さんの行き来があって、周りにも広がってくるし周りからも持ち込むという ことも増えている。そうなると、賀来先生が言われるように、地域での対策、対応とい ったことが重要になってくるのではないかと思います。 ○小林座長 まさに、整理していただきましたが、中小を含めた地域での対策というこ との重要性が今日の最後に出たわけです。 ○切替構成員 先ほど来から多剤耐性緑膿菌の話が少し出ていますが、例は全く違うの ですが、例えばベトナムでSARSがアウトブレイクになって、逸早く情報公開をして、 きちっと周りに説明しながら世界に先がけてSARSを制圧したという歴史があります。 現時点で、多剤耐性緑膿菌に関しては、いままで日本になかった多剤耐性という菌が進 行してきたという状況だと思います。進行してきた段階では、おそらく、予想されるの は、ある特定の病院やある特定の地域施設がワッと少し大きく出て、ほかの所は全然な いという状況が出現する可能性もあると思います。その現状は荒川構成員の研究班で私 も一緒に調べさせていただいていますが、そういう状況になったときに、万が一これか らいろいろな施設で多剤耐性緑膿菌がたくさん出ますよ、という情報を公開したときに、 いろいろな報道とか我々も、それをきちっと冷静に受けとめてお互いに対策を考えてい くような姿勢が国民も含めて必要ではないかと思います。 ○小林座長 これもこのネットワークに非常に関係しているわけで、情報が正しく伝わ るかどうかということが問題になるというのは、先ほどの倉辻先生の保健所云々という 話とも共通するところがあるかと思います。もしよろしければ、予定していた時間もそ ろそろ迫っておりますので、事務局から今後のことを含めてご発言いただければと思い ます。 ○事務局 貴重なご議論をいただき、本当にありがとうございました。冒頭にも申し上 げましたように、先の医療法改正でもこの院内感染の部分の規定ができましたので、今 後、政省令なり通知なりに反映させていただくという作業が残っておりますので、当面 はそちらに力を尽くしたいと思いますし、また、後半に大変熱心にご議論いただきまし たMDRPを含めた問題につきましてはまた引き続き対策は続けていきたいと思います。 どうか、委員の先生方におかれましてはご指導をよろしくお願いしまして、感謝をいた しまして事務局からの言葉といたします。 ○小林座長 長時間にわたりましてご協力ありがとうございました。非常に時間を有効 に使っていろいろな議論ができたことを座長として感謝いたします。またいろいろメー ル等での意見交換になるかと思いますが、今後ともよろしくお願いしたいと思います。 どうもありがとうございました。 (以上) 照会先:厚生労働省医政局指導課     院内感染対策担当(コ本) 電話 :03-5253-1111(内線2771)