医療用医薬品の流通改善に関する懇談会

2006年9月21日


日米の、他業界の流通の変化
及び
今後の医薬品流通への参考情報



文責:システムズリサーチ 吉田繁治



§1. 歴史的背景


1. 米国流通の歴史的トピック・・・その(1):戦前

(1) 地域帳合い代理店(及びSales Representative)の時代・・・小売は独立店
(1) メーカーは、自社販社または契約した地域代理店を通じ、独立店(家業店)に販売
(2) NB(ナショナル・ブランド)商品は、メーカーが決めた定価(小売売価)×(*)%で取引
→取引量や金額、その他の不明瞭な要因を理由とする「差別的リベート」があった
【事業家的イノベーション】
(1) 最初の大規模チェーン店シアーズが、まず通販で「PB(プライベート・ブランド)」を開発
 (注)PBの小売売価= 同等のNB商品より、30%〜50%低い価格=委託生産コスト+小売マージン
(2) A&Pが「部門別管理」の方法で、食品スーパーのチェーンを作る
(3) チェーン店は、NB大量仕入を理由にリベートを確保し廉価販売→NB定価制の崩れが生じた

(2) 1936年にロビンソン・パットマン法が制定され、公正取引を促す
【法の目的】
(1) 大量販売のチェーン店に対する、独立店の保護
(2) 不公正な廉価販売を廃し、メーカー定価も保護

同じ取引条件(=品目、購入数、支払い条件、物流方法)であれば、卸やメーカーは、小売店に対しリベートを含み、同じ価格(fair price)で販売しなければならない→[結果の平等でなく原因の公正]

例えば、1年に2億円仕入れるところには、5000万円の取引より2ポイント%割引くという取引は、実際に2ポイント%の配送費や生産コストが安くなるということが証明できない限り、ロビンソン・パットマン法はこれを認めない。単に大量取引ではダメであり、正当なコスト計算が必要。

【裏腹な効果】
(1) 1品大量の大ロット取引があれば、コストダウンで卸価格は低くなることが経済原理ではフェアである。

→チェーン店は、商品を絞り込んで定番化し、1品の大ロット仕入で安く仕入れ、安い店頭価格をつける。
 (注)ロットの概念= 小売店からの、1回発注数量(または発注予約仕入数量)

(2) チェーンストアによる本当の流通合理化と、チェーンの発展に「はずみ」をつけることとなった。


2. その(2):米国チェーンストアの取引方法・・・補充発注がロット発注になる仕組みづくり

(1) チェーンストア=「標準店」を多く出店し、小売側が「補充発注(バイイング)」をする
(1) 商品構成の標準化」を図り、商品陳列を定番化(=常時陳列)する。
→多数の店舗で売れた商品を、小売側の発注によって補充する→[定番陳列の維持+1品大量の販売力]

補充発注=[店舗販売数]±[店在庫の一定値維持]±[物流センター在庫の一定値維持]=バイイングと言う

(2) 仕入れ価格を下げるため、タンピン大量のロット発注を小売側で実行する。そのために「標準店」を多く作る。
小売側物流センター(DC)の設置→ロット発注を、DCで個店の必要補充数に分割。
NBの代表的な品目をプライスの目玉商品にし、低価格を訴える。
NBをハイ&ロー(シーズン当初は通常価格、売れ残った品は、値下げのクリアランス)で販売
 (注)DC(Distribution Center): 店舗への補充在庫を常備する小売側や卸側の物流センター

店舗数が1店舗の独立店は、チェーンストア型「補充発注法」では、タンピンバラ発注(1個単位発注)になって、仕入れ価格が「fairに」高くなる。しかし、「ケース単位取引」では余剰が出て、店頭の品揃えが、売れ行きを反映しなくなる。

(2) 70年代から販売数と在庫数を管理するPOSが普及→小売発注の精度化を促す
(1) [多数の店舗のPOS販売数を集計]→[週間販売数(=必要補充数)を発注ロットにまとめる]
→[ケース単位のロット発注]→[DC納品]→[DCから各店舗の棚に、必要数に分割し補充する]

仕入価格=独立店向け価格−(ロット発注割引+個店物流の代行割引+ノー返品割引+営業合理化割引等)

 ■ 独立店=販社や卸の、個別店サポートによる「フルサービス取引」=仕入れ価格が高くなる
 ■ チェーン店=工場出荷価格の「裸原価取引」への、限りない接近を志向する
 (注)フルサービス価格= 卸が、タンピンバラ納品、返品受諾、店頭営業支援、販売支援、金融支援等の、対店舗サポートをフルに行ったときの価格卸の取引コストが高いので、卸価格ではもっとも高くなる。


3. わが国の戦後流通:その(1)

(1) 駅前商店街と百貨店の時代
(1) 卸は「代理店帳合い制度」=商品流通は「メーカー系列」
(2) NBの店頭価格は、定価制(メーカー希望小売価格)が基本
(3) 卸価格は、返品受諾、営業支援、個店へのタンピンバラ納品を含む「フルサービス価格」
(4) 代金支払いは、90日手形制=卸が、店頭の在庫資金を負担する仕組み
 (注)帳合い= メーカーと卸が商品取引について提携し、他の卸と取引しない仕組み

(2) 日本型流通革命論(1960年代:林周ニ氏『流通革命』)
 ┌→
 │
 │

違いが
ある
「メーカー定価に対するカウンター・バランス論(小売業=消費者の代理購買を行う対抗勢力)」

(1) 商店街のはずれに、売り場面積を大きくした「量販店(日本型スーパー=部門複合店)」
長崎屋、ダイエー、イトー・ヨーカ堂、マイカル、ジャスコ(現イオン)、西友・・・等
(2) 「部門の複合化&量販」によって、卸からの大量仕入れを志向し、卸の流通マージンを吸収した
当時の一般的卸価格=百貨店及び家業店向けの、フルサービス価格
量販店の仕入価格=フルサービス価格−取引金額による割引=価格差を作る
 │
 │
 └→
【米国型の「品揃え標準化」チェーン店との違い】
(1) 「日本型量販=金額大量取引」であり、「品目単位のロット発注」ではなかった
(2) 卸の営業と物流網による「店頭フルサービスを前提」とするものだった。
「品揃え標準化と地域ドミナント」が形成されず、「卸のDSD物流に依存」していた
 (注)DSD(Direct Store Delivery): 卸のDCからの、(一般には)ケース単位ではなく、タンピンバラによる個店直納入

(3) 1980年代からPOSの利用によって、補充発注法は「タンピンバラ発注」へ
(1) 嚆矢がセブン・イレブン→「ケース単位納品」を否定し、売れた結果を利用する「タンピンバラ発注」
取引価格が高くなっても、販売結果でタンピンを補充発注するほうが、最終利益は大きくなると考える
(2) POS導入とともに、多くの店舗が、売れた都度の「タンピンバラ発注+フルサービス」を志向
(3) タンピンバラ発注は、トヨタのJIT(Just in Time)論と結びつき、80年代からEOSへと展開された
 POS(Point of Sales): 品目別の販売・在庫を記録:
 EOS(Electronic Ordering System): 品目別発注データを電子情報で送信


4. その(2):わが国流通の1980年代からの変化

(1) チェーンストア志向企業の多店舗化で、駅前商店街(業種縦割り店)は凋落
(1) 地域帳合い卸は、[多店舗化するチェーンストア志向企業]の増加で、合併統合へ
(2) 「地域帳合い卸」→「合併・統合で帳合いを複合化」→店舗に一括納品する「業態卸」へ向かう
卸価格=店頭フルサービス価格(返品受諾+DSD物流+営業支援)−取引金額割引
 (注) 米国ロビンドン・パットマン法では、単に[取引l金額が大きい]ことによる割引は認めない。取引が合理化され、コスダウンされたという数値的証明が必要。

(2) 米国要請の内需拡大策として、大店法(売り場面積規制)を廃止(1991年)
(1) 日本の物価は米国の2倍・・・1985年のプラザ合意によるドル切り下げ($1=220円→120円)
(2) 1994年:中国元の対ドルで2分の1へ切り下げ・・・中国元が円に対し4分の1(1元=15円水準へ)
開発輸入による価格ディスカウントが起こった。代表がユニクロ(6,000円のシャツ→1,980円へ)
(3) 地価下落が追い風→専門店チェーンと郊外ショッピングセンターの出店が激増→商店街と百貨店は凋落

(3) 店頭価格は「メーカー希望小売価格制」から、店舗が売価をつける「オープン化」へ
(1) 取引方法は、POSの品目別販売データによる「タンピンバラ発注
(2) 卸側は、チェーン店向けに「複合帳合いの大規模物流センター」を展開
卸側はチェーン店が「志向した」メーカー直取引価格に対し卸マージンの上乗せの合理的説明が必要
メーカー直取引よりも、卸取引が店舗の営業利益の面で有利である仕組みを作る
店舗のタンピンバラ発注→「卸の大規模DCでまとめる」→店舗へのDSD納品

(4) アジア・中国輸入で、消費財店頭価格が、80年代の1/2に向かう(現在は92年価格の53%)
(1) 日本型量販店(シンボルがダイエー)の経営困難→理由=店舗が全国散在で地域ドミナントがない。
 (注)地域ドミナント= セブン・イレブン(1万1000店)のように、地域でナンバーワンシェア(=コスト合理化)を得るためのチェーン展開を言う

(2) メーカー直取引より、流通合理的な卸価格を提示できない卸は、全業界で統合・合併された



§2. 卸価格決定方式の要点


5. 要点1.:米国型チェーン(数千店)日本型チェーン(数百店)の取引方法の違い

米国型チェーン(数千店)と日本型チェーン(数百店)の取引方法の違いの図


6. 要点2:日米の卸価格決定方式の違いを抽出すれば・・・

(1) 米国流の、品目別コストプラス(=メニュープライス)
米国流の、品目別コストプラス(=メニュープライス)の図  
卸価格は、品目別に、どんな取引(How)をするかで決める。

オーバーオールで差別的な取引価格は、許容されない。

品目単位での発注量を増やす誘引が働く方式である。
 (注) 左の金額は説明のための仮のもの。
実際には、より正確に明細化されている
 (注) 西欧流もほぼ同じである

(2) わが国チェーンストア(数百店規模)の発展段階(=過渡的時期)
わが国チェーンストア(数百店規模)の発展段階(=過渡的時期)の図  
卸価格は、品目別に決めるが、取引方法との合理的相関が見えにくい。

オーバーオールで差別的な取引価格も、許容される。

品目単位での発注量を増やす誘引が働きにくい方式である。
 (注) 日本のチェーンストアは、中国での開発輸入を行ったとき、ベンダーが流通で負担しているコストの大きさに気がついた。
 ● 日本流のセンターフィーと、取引金額割引は、多くが米国では違法になる。
 ● 多くの卸は、対チェーンでは、フルサービスが必要で、割引があるため赤字取引になっている
 (注) メーカーや卸側が特定商品の販促のために出す「販促費」も、割り引きと同種のものである。


7. 短絡的な流通革命論=『卸は余分』という一般認識には、誤りがある

(1) 卸(ベンダー)の、社会経済的な流通合理化機能
帳合い卸(=業種縦割り型)の図
合理的
進化
─→
店舗の必要品揃えを起点とする「業態卸」の図
系列(帳合いまたは代理店)型取引では
取引と物流ルートは4×4=16本

製造3,000社と店舗3,000店なら 900万ルート
地域帳合い卸は、
80年代、90年代で
多くが退出・合併・統合された
系列を統合した[業態型卸]を介する取引では
取引と物流ル−トは4+4=8本

製造3,000社と店舗3,000店なら 6,000ルート
 (注) 業態型卸は、メーカー系列の帳合いではなく、店舗の品揃えに必要な、複合帳合いに進化した卸を言う

(2) 大規模チェーンストア国、米国における卸のポジション
(1) 製造販社(製造の営業・物流部)より卸の営業・リテイルサポート・物流機能が経済的でなければ、卸の存在は許容されない。
(2) 大規模チェーンストアの小売DCより、卸の物流・店舗支援・商品補充機能が経済的でなければ、卸は存在できない。


この経済性を、ABC(Activity Based Costing)で追求した卸が、米国のスーパーバリュー


8. 米国卸スーパーバリュー(年商2.3兆円:06年)の到達点

1. 取引コストの計量をし、取引先(小売とメーカー)に対しオープン化(1998年〜)
ABC(Activity Based Costing:活動ベース原価計算法)
 ・ 取引先別に、ABCでコスト計算をする→小売へのコスト提案
 ・ 品目別に、ABCでコスト計算をする→メーカーへのコスト提案

取引コストの計量をし、取引先(小売とメーカー)に対しオープン化(1998年〜)の図

2. 原則=A社との取引の損失を、B社への価格上乗せでカバーしない
小売と卸取引の、支援メニューとメニュー毎の必要コストを提案し、コストへの合意によって取引をする。[メニュー・プライシング方式

(方向)長期的には、わが国の流通取引も、この方向に向かうことが想定される。

(理由)商品タグとしてRFID(無線認識タグ)が付けられると、作業単位でコスト計算ができるから



§3. 今後の医薬品流通の検討のための、参考情報

(注1) 卸と調剤薬局の取引と流通に限定します。
(注2) 観点は、コスト合理化です。
(注3) 米国の流通モデルも、以降で図示するものが100%ではありません。
手間とコストのかかる独立店流通も、当然に、残っています。
ただし年商規模で最上位が合理化すれば、他も競争上、それに倣います。


9. 現状の、わが国調剤薬局と卸の、取引モデル(2003年)

卸の必要コストが高くなる理由のひとつの要素は、(超)多頻度配送(調剤年商2億円でも同じ
卸の必要コストが高くなる理由のひとつの要素は、(超)多頻度配送(調剤年商2億円でも同じ)の図
 (注) 配送では、
 ● 調剤側(顧客の要請が独立変数であり、
 ● 卸の配送回数はその要請に応じる従属変数
 ■ 配送回数が多ければ卸と調剤双方のコストが増える

(1) 卸1社平均で、1調剤へ月19回の配送→19×5社=95回/月・・・・1日4回〜5回
(2) 1社のMSの[定期配送=10回/月+緊急配送=2回/月]=MS配送12回
配送係りの[定期配送=6回/月+緊急配送=1回/月]=配送係り7回
(3) 配送金額の平均は、10.5万円(公定薬価で7.3万円)
  ・ 調剤の日商40万円(公定薬価で28万円)に対し、1日4回〜5回の配送
 (注) 正確ではないが、
 (1) MSの定期配送コストは3千円/1回の配送
緊急配送は5.5千円/配送
 (2) 配送係りの定期配送コストは1.3千円/配送
緊急配送は4.6千円/配送
 ◎ 正確なABCコスト計算をすればもっと高くなっているはず。

【なぜ流通コストが高い、過剰な、多頻度配送になっているのか?】
(1) 健康と生命にかかわる医薬は、欠品が許されない。しかし、調剤内の在庫量は最小に削減したい。
(2) 情報化された在庫管理システムが、十分に使われていない。
情報システムによる発注であれば、1日4回〜5回の発注は、普通は、管理作業コストの観点からありえない。
(3) 医薬の使用頻度分析を行えば、上位20%で使用量の80%(または上位10%で使用量90%)のはず。
 (注) 卸が、調剤の在庫を、ネットワークで管理するCRP(継続的補充管理)VMI(Vendor Managed Inventory)も考えられる。


10. 店舗の発注(=配送)回数とコストの、原理的な関係

店舗の発注(=配送)回数とコストの、原理的な関係の図

コスト最小発注ロット= √{2×一定期間の売上数×(ロット当たりの発注と入荷処理作業費+ロット当たり配送費を含む原価低下額)(ロット当たりの在庫維持費用率%+ロット当たりの在庫リスクコスト率%)×仕入原価}
流通コスト最小化する発注ロットをEconomical Ordering Quantity(EOQ)という

鍵:ABC(活動ベース原価計算)


11. (参考)カ社とウォルグリーン(5000店:06年)の流通モデル

(参考)カ社とウォルグリーン(5000店:06年)の流通モデルの図
【対メーカー】 カ社は、メーカーには活動ベース原価で流通コストを計算し提案
メーカーの流通代行=Fee For Serviceで、取引方法別に必要コストを提案
3rd Party Logistics業者より、カ社がFee For Serviceのコストで下回る

【対調剤】 調剤薬局にも、同じく活動ベース原価で集荷・店舗配送コストを計算し、提案

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