06/07/21 看護基礎教育の充実に関する検討会第4回議事録 照会先:医政局看護課 岩澤(2599)柴田(2599) 電話:03−5253−1111                  直通:03−3595−2206 第4回看護基礎教育の充実に関する検討会                  日時 平成18年7月21日(金)                      14:00〜                  場所 経済産業省別館1028会議室(10階) ○事務局 ただいまから「第4回看護基礎教育の充実に関する検討会」を開催いたします。 委員の皆様方におかれましては、ご多忙にもかかわらず当検討会にご出席いただき、あり がとうございます。初めに、この7月に医政担当審議官の交替がございましたので、課長 から紹介させていただきます。 ○看護課長 看護課長の田村です。今日はお足元の悪いなかを当検討会にご出席を賜りま して、ありがとうございます。医政局担当審議官の交替を紹介させていただきます。宮島  俊彦審議官でございます。 ○審議官 宮島でございます。よろしくお願いいたします。 ○看護課長 本日、堀内委員は欠席という連絡をいただいております。また、西澤委員は 15分ほど所用で遅れるとの連絡が入っております。それでは座長、よろしくお願いいたし ます。 ○遠藤座長 それでは最初にお手元に事務局よりいくつかの資料が出ております。それで は、資料説明から簡単にお願いします。 ○事務局 それではお手元に配付させていただいている資料の確認をお願いします。 議事次第、座席表、検討会メンバー、資料です。資料1は「保健師助産師看護師就業場所 別就業者数」で3頁。資料2は「新卒保健師就業場所別就業者数の推移」で1頁。資料3 は「保健師養成所・助産師養成所教育内容別単位数」で7頁。資料4は「第3回看護基礎 教育の充実に関する検討会 主な意見」です。また、本日は小山委員、村嶋委員、堀内委 員、南委員から資料が提出されています。乱丁、落丁があります場合は、事務局までお知 らせください。 ○遠藤座長 議事次第にありますように、本日は3つ、「その他」を入れれば4つですが、 これについてご議論をいただくということです。ここにあるように、看護師教育、保健師 教育、助産師教育の充実という点でご議論を賜るということです。これまでにいろいろな 議論を賜っていたわけですが、当初のこの検討会の目的というか、ミッションは現行のカ リキュラム改正を念頭に置くことであったわけですので、今までは非常に幅広い議論もさ れていたわけです。それを踏まえながら、できるだけこのカリキュラム改正という方向に 話を少し収束していきたいと思います。当初お話にありましたように、ワーキンググルー プにまた依頼をしなければいけないということもありますので、どういう内容を依頼する かということも固めていきたいと思います。そのような視点から、本日のご議論をいただ ければと思います。  本日は4名の委員から資料が提出されています。そのうち小山委員には看護教育につい ての議論をするときに、あるいは村嶋委員については保健師教育について議論をいただく ときに、それぞれご説明いただきたいと思います。また、南委員には全体の議論の後に発 表いただくことになっていますので、よろしくお願いします。  まず、この3つの議題についての議論に入る前に、前回の検討会で委員の先生から資料 請求のあったものがありますので、事務局から説明をお願いします。 ○看護職員確保対策官 資料1です。資料1は「就業場所別就業者数」です。前回の議論 の中で、保健師については行政の場だけではなく、様々な場所、特に企業なり病院などで 働いているのではないかというご指摘がありましたので、看護職員全体について用意した ものです。まず、1頁ですが、これは看護職員全体で、平成16年には129万人の看護職員 が働いており、保健所に9,000人、市町村に3万人が働いています。これは、看護職員全 体なので、病院、診療所が多くなっていますが、近年の動向としては介護や社会福祉施設 が増えているのではないかと考えられます。  なお、真ん中に社会福祉施設とありますが、これは平成14年から統計方法を変え、さら に区分して脇にあるような介護老人福祉施設、居宅サービス施設等と分けましたので、こ の14年から下がっているということです。  2頁です。前回質問のあった保健師は、総数については12年から16年の間に4,000人 増えており、多く増えているのが主に市町村保健センターで2,000人弱、さらに病院でも 700名前後、診療所でも同じく700名ほど増えています。もう1つは事業所で、800名弱増 えています。そういう意味では医療機関、事業所です。ただ、統計の関係で、先ほど申し 上げた診療所には企業内診療所も含まれているようで、事業所といったときにどちらに入 るかというのは、多少どちらで包括されるかで影響されるようです。  助産師はここ5年、1,000人程度の増加しており、いちばん増えているのが診療所で、 やはり1,000人程度増えています。また、病院も200ないし300人増えているのですが、 助産所で働く助産師のほうが減っているということです。  3頁です。看護師・准看護師で総数が122万人の方が働いています。看護師は総数で 5年間に10万人程度増えていますが、病院、診療所が増えており、介護保健や保健事業と いうことでしょうか、介護関係、福祉関係の施設が増えています。  准看護師については統計では15年がピークで、16年は多少下がっていて、42万人が働 いていて、働いている場所としては病院が減少傾向にありますが、診療所は6,000人から 7,000人近く増えています。  資料2です。前回、保健師として働く新卒の方が少なくなっているということでしたが、 そのときに出した資料では新卒者が大学を出たか、養成所を出たかという区分があって、 働いている場所はどこかというご指摘がありました。それを働いている場所を色別に分け たものです。平成17年では8,000人近くの方が合格しているのですが、新卒の保健師とし ては800人弱で、行政関係保健所がブルーで74人、市町村が茶色で376人です。これを見 ますと多少変化はありますが、病院なり事業所で働くのは平成8年とさほど変わりはない のですが、行政関係が減っていることが伺えるかと思います。  資料3です。資料3−1と3−2があり保健師と助産師養成所の教育内容別単位数です。 これは、前回、教育課程について1年で教育している者と、半年で教育している者につい て、実際に行われた単位数を示したところ、6カ月以上となっている保健師、助産師につ いて、それぞれ実際に1年課程ではどのようなことをやっているのかという指摘がありま したので、用意したものです。  資料の見方としては、いちばん左が指定規則にある教育内容と単位数で、地域看護学概 論については3単位、トータルでは21単位やってくださいというものです。この1、2、 3と横にあるのは学校の整理番号で、例えば3については40名定員のところで、トータル で見るといちばん下、56単位とあり、これは今日用意した資料の最大単位数です。この資 料を見ますと、いちばん下の欄に、「指定規則以外」とあります。これは議論のあった養 護教諭に関する科目で、保健師は養護教諭2級が取得できますが、養護教諭1級を取得す るために追加的に行っている内容と聞いています。その網掛けがそうです。  そうすると、例えば56単位というのは、指定規則外で27単位やっていますから、保健 師に必要な部分は29単位という内容です。全体を見ると、基本的に地域看護学概論9単位 に対して、例えば、1の学校であれば19単位、2の学校であれば15単位と多くなってい ますし、実習は地域看護実習の3単位に対して5単位、8単位と多くなっています。これ を見ると、いちばん少ないのが1頁の7の学校でトータル49単位ですが、指定規則以外を 28単位やっていますので、これが21単位で最少ということです。  次頁の8番の養成所です。これは全体で46単位やっていますが、指定規則以外で3単位 なので43単位です。保健師の部分では多くて、これを見ると地域看護学活動論9単位を 28単位やっていて、この辺が増えています。  資料3−2、助産師です。同じように見ていただきますと、これは指定規則以外につい ては保健師のような要素がないものですから、研究とかコンピューター、なかには学会参 加、学校行事ということで単位を設けていますが、これはさほど影響は受けていません。 2番目の学校が必要単位22単位のところを27単位といちばん少なく、ほかにも27単位の 学校があります。基本的にはそれぞれ満遍なく増えているかと伺えます。最大が2頁の10 番目の学校の54単位で、指定規則以外の4単位を引くと50単位、つまり22単位を50単 位にされております。ここは、何が多いかと見ると、基礎助産学6単位を12単位やってお り、助産診断・技術学が6単位を21単位やっているということです。これはほかの学校に もいえるのではないかと思います。 ○遠藤座長 いまのことについて、何か質問はありましょうか。よろしいですか。それで は早速、看護教育についての議論を進めたいと思います。小山委員から資料を提出されて いますので、先に資料説明を小山委員、お願いします。 ○小山委員 この会議では、最初のころから教育と臨床のギャップということが話題にな っていました。今日は私どもが17年度の厚生科学研究で行った「看護基礎教育卒業時の看 護技術の到達目標についての教育と臨床の合意」を得ることによって、そのギャップを少 しでも減らすことができるのではなかろうかという仮説の下に研究した結果を報告させて いただきます。  資料に書いてある「看護職の働く場」をご覧ください。看護基礎教育ではその表に示さ れた、保健、医療、福祉のどの職場に就職しても、あらゆる年齢のあらゆる健康レベルに ある人々に看護ケアを提供できるための基本的な知識、技術、態度、能力を習得するため のカリキュラムが組まれています。卒業してその職場ですぐに、一人前として働けるので はなく、その職場での技術を習得するためにはその職場での継続教育が必要です。私ども の研究で基礎教育卒業時の到達目標というときには、前提としてどこの職場に就職しよう とも、最低限、看護師として身に付けておく技術はどういう技術であるかについての、臨 床と教育の合意を得るためのものです。  今日の看護基礎教育の技術教育における課題は、看護師は知識だけではなくて、実践力 が重視されますが、今日の国家試験は主として知識を評価しており、技術や実践能力の国 家試験は今のところありません。技術教育の卒業時の到達目標は、各教育機関に任されて いるために、卒業時の技術の習得では、それぞれの卒業生個々によっても異なっています。 新人の技術習得度が異なるために、継続教育をきちんとしている大きい病院などでは、新 人教育プログラムに、基礎教育で行うべき日常生活援助行動なども、継続教育プログラム に入れざるを得ないという現状です。  技術は実習の場で経験を積み重ねて習得されるものですが、実習の場での学生が実施で きる技術には制限があります。後でデータをお示ししたいと思います。  新卒看護師に求められる技術と、基礎教育卒業時の技術の習得度にはギャップがあると 長い間言われていますが、このギャップをどうやって改善できるだろうかということに、 私たちは前向きに取り組む時期ではないかと思っています。  資格取得と同時にできる技術は何なのか、卒業後の教育に期待しながら習得する技術は 何なのかということを明らかにし、新卒を「育てる」という指向に変わっていかなければ いけないのではないかと思っています。  本研究の目的は、「教育と臨床の合意により、看護基礎教育卒業時にすべての学生が習 得しておく必要がある技術の種類と到達目標を明らかにする」ということでした。  大きくは3つの調査を行っており、最終的には有識者でその妥当性を検討しました。ま ずAとして、臨床の専門家と教育の専門家といわれる方々に、デルファイ調査により、卒 業時の到達目標の合意を得ました。デルファイ調査というのは、多くの専門家の意見を総 合することによって意見に客観性を与える方法で、全体の合意が得られるまで数回にわた って調査票への回答と分析、フィードバックを繰り返していく研究方法です。  デルファイ調査は計3回行いましたが、全国の3年課程養成所、短期大学、大学から91 名、また臨床の専門家としては病院機能評価の認定病院の看護教育師長あるいは教育担当 者98名の参加者が得られました。  第1回調査では158項目の看護技術項目案をこちらで作成し、「卒業生の約80%が身に 付けておく技術として適切か否か」ということを問いました。適切でない場合は×をして、 より適切な目標表現に自由記述で修正していただきました。第1回調査で「80%の卒業生 が到達する目標」として「適切でない」ことへの同意率が20%以上の差があったのは11 項目でした。一般的に臨床の現場のほうが高い能力を期待しているとばかり思っていまし たが、このデータに見るように、実践の方々のほうが、私どもが挙げた目標をもっと目標 を「新卒の現実に合わせて下げるべき」という意見が大方でした。自由記述の結果を丁寧 に分析し、今度は「全ての卒業生が卒業時に到達できる目標」表現として、第2回調査表 を作っております。  第2回調査は145項目を作り、「卒業時点では全ての学生の到達度としてどのくらいか」 を聞きました。看護技術を世間に安全な技術として担保するための技術ですので、「全て の卒業生が身に付けている技術」としました。  最終的には第3回調査で5項目を除く全てに80%以上の同意率を得て、138項目が残り ました。ここでは時間がないので省略しますが、後の最終的なところで説明したいと思い ます。このデルファイ調査で残った5項目も、最低の同意率は74%で、ほかは79%という レベルでした。  Bとしては、「学生調査」として、今日の看護基礎教育機関を卒業する学生たちは、 どれくらいの技術に対する経験をしているのだろうか、そして、自分たちがどれくらい習 得していると認識しているかということを3年課程養成所、大学、短大の学生に調査し、 合計1,275通の有効回答を得ました。資料1には学習経験で、臨地実習で実施した度合い が高いものから低いものに並べてあります。見学した技術、講義だけの技術についてそこ にデータとして示してあります。習得度については「ひとりでできる」技術についても調 査していますが、「ひとりでできる」と回答した率は、臨地実習で実施した率が高い技術 が多くありました。  Cとして、「病院調査」を行い、「5名の学生があなたの病棟に行ったときに、何人以 上の学生が実施できるか、過去2週間以内に受け入れたとして考えてください」という設 問をしました。これは資料3にあります。5人中「4人以上可能」「2〜3人可能」とい うのは卒業時の到達目標に含めてもいいかと思うのですが、「1人可能」あるいは「実施 できない」という技術は黄色で書いてあります。これらは特に診療の技術に関しては 「与薬」、次頁の「症状・生体機能管理技術」「呼吸・循環を整える技術」等については 「できない」という回答が多くありました。できない理由としては、「病棟としてはやら せていない」「患者の同意が得られない」あるいは「学校側が許可していない」というこ となど、いろいろありました。  デルファイ調査結果、学生調査結果、病院調査結果の3つのデータを合わせて、最終的 に有識者で一つ一つの到達目標が妥当であるかどうかを討議した結果を資料4として出し てあります。  例えば「食事の援助技術」の中で、到達度Iは「ひとりで実施できる」、IIが「看護師 や教員指導のもとで実施できる」、IIIは臨床実習ではとても実習不可能であるが、卒業し た後、患者のケアに直接出会う機会が非常に多いので、「学内演習では行っておく必要が ある」というものです。そして、臨地実習でも出会わない、学内演習でも難しい死後のケ アなどは「知識としてわかる」レベルIVとして4段階に分けて整理しました。  「食事の援助技術」は観察、アセスメントのレベルはできますが、「患者の栄養状態を アセスメントできる」とか、「食事内容の指導ができる」の部分は「指導のもと」でにな っています。  患者の安全に関連あるような技術、特に与薬の技術ですと、臨地実習ではほとんどでき ないので、IIかIIIのレベルになっています。ということは、これは卒後教育で新人を受け 入れたときには、ここのII以上の技術は新人教育に含め、そこから継続教育を始め、到達 度IIIやIVのところは、教育を計画的にする必要があるということを示しています。  4頁のレジュメに入れておきましたが、到達度を明確にするということは、新人教育プ ログラムを作成するのに役立ちますし、教育機関にとって卒業までには全ての学生がこれ を履修していなければならないという最低基準の到達度に向けて努力ができるということ で、有効ではないかと考えています。 ○遠藤座長 小山委員は前回、また別な報告をしていただいて、それについての質疑もし ていませんが、本日お話されたもの、前回のものも含めて、あるいは小山委員の報告とは 関係なくても結構ですので、看護教育について幅広いご意見を賜りたいと思います。30分 ぐらいを目処にディスカッションしていきたいと思いますので、自由にご発言いただけれ ばと思います。 ○石垣委員 これまでの検討会でも話されましたが、看護学校(大学)に入って、卒業ま でに約1割がドロップアウトしており、また、新卒のナースは1年以内に9.3%が退職し ているという現状があります。せっかく看護師を目指しても、約2割の人たちが専門職と しての力をつける前にドロップアウトしているということになります。18歳人口は年々減 少していますし、逆に医療を受ける高齢者や障害者、生活習慣病のほうが増えています。  このような状況のなかで、看護専門職の安定した確保は国家的な課題であり、看護基礎 教育の充実を図ることは、国民にとっても大変関心のある問題だと思います。これまでも 発言してきましたが、基礎教育の中で臨地実習を充実するということは今や切実な問題で す。基礎教育と現場のギャップは、これまで何度もいろいろな視点から話されてきました。 実践能力を向上させる、それには臨地実習の場でしかできないということがたくさんあり ます。いまの臨地実習の時間数は、平成元年の改正で1,035時間に短縮されました。しか も、平成8年には、1,035時間の上にさらに在宅看護と精神看護の臨地実習が加わりまし た。この2つの実習は非常に重要です。なぜなら学生は在宅の実習で、初めて患者の生活 に触れる体験をするからです。しかし、臨地実習の総時間数のなかで学ばなければならな い課題が多すぎます。看護というのは病棟でしか学べないということを最初から申し上げ てきました。ですから、病棟で、あるいは病院でなされている看護の基本的なこと、例え ば複数の患者を受け持つとか、患者の24時間の生活を見るとか、基本的技術の習得をする など、臨地実習の充実をどのように図っていくかを、是非強調して入れていただきたいと 思います。そうでなければ、これは医療を受ける側が本当に不利益を被るということにな ります。臨床と基礎教育の双方が協力し合って、看護を目指す人たちが、本当に看護を続 けていけるような体制を整える。それには臨地実習の時間を増やすということを真剣に考 えていただきたいと思います。 ○遠藤座長 同種のご意見を何度か伺っておりますので、ご主張はよくわかります。次は 菊池委員どうぞ。 ○菊池委員 看護師の基礎教育においては3つの側面を重視する必要があると考えてい ます。その1つが人格陶冶の教育で、人間を深く理解する教養の涵養(かんよう)などです。 また、患者の人権を尊重し、患者本人の意思を尊重したサービスを提供する観点から、イ ンフォームド・コンセントの理念に基づく医療を推進する必要があり、信頼関係に基づい て自分たちの看護を説明し、チーム医療を組む人たち、あるいは患者とコミュニケーショ ンがきちんとできることが大事だと思います。人格陶冶の教育の中で、そういう点を強化 する必要が1つあると思います。  側面の2つ目として、知識や思考力を培う教育が重要かと思います。看護は看護過程と いうことで展開していますが、これは基礎教育で学ぶわけです。生涯学習の基礎になる知 識、思考力を培う教育として患者の個別性をきちんと踏まえて、アセスメントする能力が 必要だと思います。  特に、最近では病院において、急性期の患者が短期間で退院して、重症者だけが入院し ているという中で、看護職員が主に患者を看ていて、何か異変があったときに医師を呼ぶ という状況で患者を看ているので、患者の病態がきちんと把握できることが大事です。そ ういう点でフィジカルアセスメントの能力の強化も必要かと思います。  また、最近では、地域の中での切れ目のないサービス提供や、予防的な視点が重要とい われているので、医療従事者に求められている予防的視点や地域ネットワークの視点が確 立するような内容を含める必要があると思います。  側面の3番目として、先ほどから出ている一定の看護技術を習得するための教育が必要 と思って、療養上の世話の食事、排泄などの部分については、学内で教授方法を工夫して 教育するということで、推進できると思うのですが、診療の補助に関する医行為の部分に 関しては、なかなか難しい。できる範囲が限られていて難しい部分もあるかと思いますが、 それにしても、今、医療安全が求められていますので、学生が卒業して新人として入った ときに、安全に医療提供できるようになるための最低限の知識や技術は、やはり基礎教育 の中で教育しておく必要があると思います。  今、医療事故の中で最も多いのが与薬で、注射や点滴と医療機器の取扱いに関する医療 事故を新人が起こして、実際に行政処分されているという実態もあります。そういうこと を考えると、臨床薬理学や間違うと重大な結果をもたらす薬品や投与時の手技などについ ても、基礎教育の中である程度は教えておく必要があります。  また、看護師が操作する医療機器も、人工呼吸器や輸液ポンプ、シリンジポンプなど、 特に臨床で用いられる頻度の高い医療機器については、機器類のメカニズムも含めて、知 識を習得しておく必要があるのではないかと考えています。 ○山内委員 菊池委員からもご説明がありましたが、いま、医療の現場は病院だけではな く、地域も含めて医療の現場が広がっています。そうしますと、いろいろな患者の情報を きちんと取り交すことが不可欠になり、患者の状態をお互いにきちんと説明できることが 大事な要素のひとつになると思います。その中のひとつで、ただいまの菊池委員のご発言 の中にもありましたし、石垣委員が第1回の、小山委員の前回の調査の中にもご発言があ りました、身体に現れる情報をどう診るか、この基本中の基本であるフィジカルアセスメ ントが大切であると思います。  私どもも昨年度全国調査をしましたが、実際に科目名はありませんが、皆さんがいろい ろなところから時間を捻出して、何とか科目として教えているという実態が現実にありま した。そうであるならば、もはやこれを裏付けるような科目名として明示をして、これは 是非必要であるということを明記したほうがいいのではないかと思います。  例えばこのような技術に関しては、先ほどの小山委員の資料にもありますが、患者で学 べるものもありますが、その前に学生同士で学ぶとしても、学生同士が例えば異常な状態 を再現したりすることはできません。そしていきなり今度病棟に行って患者でやろうとし ても、そこにまた学生の間でも学内演習と病棟実習でのギャップがある可能性があります。 そこでシミュレーターを活用し、そのような技能習得をセルフラーニングできるようなラ ボのようなものも充実させる必要があると思います。  技術を繰り返して身体で覚えることもすごく大事ですが、その技術について納得するこ とが肝心であると思います。まず、「ああ、そうなのだ」とわからないと、身体だけが真 似ても身につかないということがあります。納得するというのはその人なりのスピードが 多少あるので、集合教育だけでこの時間を何時間教えたからということではなく、伝える ものと学生が納得するための時間的余裕を組めるような、セルフラーニングを含めたよう なカリキュラムの工夫が必要だと思います。そういうことを踏まえて、科目への構築を考 えていきたいと思います。 ○榮木委員 臨床で見ていますと、新人を受け入れるとき、採用のオリエンテーションを する前のときから見ていても全く自信がないのです。そのデータが小山委員の資料にあり ますが、資料1では臨地実習で実施した50項目の経験した者というのは非常に高いのです が、1人でできるかというパーセントを見ると、非常に低くなっています。この実態が自 信のなさにつながっていて、入っても追い付いていけないという、ナースとして働くこと に不安が強くて、辞めていってしまうという実態なのです。  それをどうやってカバーするかといったら、やはり経験させるしかないのです。今の臨 地実習の時間では、実施したことはあっても、経験をもう少し積むという時間の余裕がな さすぎるのです。ですから、もう少し、1人の患者を看ることも重要なのですが、たくさ んの患者を看ながら経験を積み、優先順位を考えていくような臨地実習の中でのカリキュ ラムの組み方などは、非常に重要だということを、臨床で見ていてとても強く感じており ます。 ○坂本(す)委員 私も4月から教師になっているのですが、少し先生方は勘違いしてい るのではないかと思います。前回もお話したのですが、技術を到達させると、到達させる ことばかりを学校ではやる。それは大変効率が悪いのです。なぜかというと、百聞は一見 にしかずと、見てもいないのに看護の過程の展開をさせる。それは先生方はやらないと現 場に行って問題を起こすと大変だから一生懸命にやる。学生はとにかく頭で想像したこと を一生懸命にやることばかりになっていく。  では、技術はどこまで到達させればいいのですかという話が出ますが、臨床側が技術に 対してそう期待をしていないという実態がわかったという意味は、技術はできたからとい って、そこに行って患者にすぐできるものではなくて、統合された患者の状況を見て、技 術を提供するわけですから、そんなに技術ができたから私は自信を持って何でもできます、 これは絶対にできますというものではないということを知っているからなのです。  だから、この2つの乖離をどうやって合体させるかということは、これからの実践教育 として大変重要なことだと思います。だからカリキュラムを改定するときには、実践をた くさん入れないと。そして先生方の効率の悪い、ものすごく努力をしていることを、もう 少し効率的にしてあげないと、部分的に教えることばかりやっていて、学生は大変疲れて いる。あるいは、そうしていると挨拶をすることを教えていない。患者にどうやって関わ ればいいのかということばかりをやっているから、患者とまずはコミュニケーションを取 ることを教えていないという批判が出てくる。大変難しい問題です。  おそらく持っている目的が少し違ってくるのではないかと思います。それを解決する方 法は、榮木委員が言ったように、体験をさせるカリキュラムにしていくということを、病 院側にもそれを求めてやっていくべきだと思います。技術は簡単にできたからいいという ものではなくて、総合的に提供するものだということをわかっていないと、先生方はただ ただ1つの技術を教える。2つを教えるということでは、学生はいつまで経っても、現場 に行ったら自信がないということだと思います。 ○遠藤座長 貴重なご意見をありがとうございました。 ○浅田委員 看護技術というその技術が、私には2つの層があるように思うのです。例え ば器械を扱うような意味の技術というものと、対人関係の技術とはやはり違うと思うので す。ここで小山委員がやられた調査の最初に非常にずれているものというのは、24とか、 逆になっていますが、ほかはほとんど患者の状況を見て何かするという、つまり判断過程 を含むものなのです。それを小山委員が考えている意味での技術、つまり「交換ができる」 というように力点を置くのか、「患者の状況を判断する」かでは全然違うのです。要する に人対人というのは判断過程を含む技術でしょう。それはやはり教えられないのです。 それは人によって違うわけですから。  ここで技術、技術といっているのは、要するに人形であっても何でもいいのですが、そ れができるという意味での技術をおっしゃっているのか、もっと判断過程を含む技術をお っしゃっているのかで全然議論が違うと思うのです。そこのところを少し教えていただけ ればと思います。 ○遠藤座長 小山委員、お答えください。 ○小山委員 当然、判断過程を含めて、その患者の状況に合わせた技術ができるというこ とが、技術教育だと思っています。もちろんこれ以上のことが出来ても良いのですが、卒 業時の到達度がどのくらいまでを最低限できるように、また、このいくつかの技術を1人 の患者の事例を通して、どのように統合して適切に状況に合わせて提供するかということ が重要になります。 ○浅田委員 ちょっとよろしいですか。 ○遠藤座長 手短にお願いします。 ○浅田委員 まず、判断をするといったときに、例えば私が患者を見て判断しろと言われ ても判断できないのです。それはなぜかといったら、技術を持っていないからです。技術 を持たないと見えないことがあるのです。同時に見えるから技術の必要度を感じるのです。 そのように考えると、1個1個がどうという問題ではなくて、まず、何を技術として持っ ていないといけないのか、それがあってはじめて患者のある部分は最低限判断できるので す。それはたぶん基礎教育できちんとやらないといけないし、実習でやらないといけない はずです。  それと同時に、患者を見てどう判断するか、その技術をどう使うかというのは別問題だ と思うのです。そこのところの区別がつかないと、技術、技術といったときに、ものすご く混乱を起こしてしまって、先ほど言われたように何かシミュレーションをやってみたい とか、何とかすれば技術はつくのだというような、非常に短絡的なものになると充実する のではなくて、逆に技術が非常に矮小化されてしまって、対人という技術を考えなくなっ てしまうのではないか。そのところをきちんと充実させる議論をしていただきたいと思っ ています。 ○遠藤座長 では、関連ということで小山委員どうぞ。 ○小山委員 今日は看護技術に絞りましたが、技術は「看護学教育の在り方に関する検討 会報告書」に書かれている看護実践能力の中の19項目のうちの一部です。ここでは学生た ちが卒業時に身に付ける基本的な技術に焦点を置いていますが、実際の看護教育ではその ほかに多くの視点から教育しているということを付け加えさせていただきます。 ○遠藤座長 山内委員のお名前も出ましたので、山内委員いかがですか。 ○山内委員 たぶん技術という言葉が表(おもて)に見えるパフォーマンスレベルのサイ コモータースキルということと、その背景を含めたものを、いわゆる技術というか、ある いは技能というかなど言葉の区別がなかなか難しいものですから、同じ技術という言葉で 違う層のことを話しているのだと思います。確かに目に見えてこちらから働きかける、動 作をするような技術もありますが、例えばこの人は前の状態と変わっていないということ をきちんとモニターするのも、何も動いて見えませんが、その人の頭の中では観察する方 法と、その背景を知るという知識を統合させて判断しているわけです。そういうのも技術 だと理解しています。 ○坂本(す)委員 1つだけ具体的に最近あった話です。大腿骨頚部骨折の看護過程をず っと教えていました。今日、私は学生に「大腿骨を骨折した人って知っていますか」と聞 いたら、1人も知りませんでした。これって、なんて効率が悪いのだろうか。病院が近い ので、イメージするために、病棟に行って患者さんを見てもらいました。そうしたら大変 びっくりしていました。わかったことを知るということが次のスキルが出てくるのだけれ ども、わからなくて、想像しながら教えていくことは、苦しいと思います。先生方はそれ に気付いているのかどうかわからないのですが、教えなくてはということで、とにかく必 死になっている。それが私は大変な問題だと思います。 ○太田委員 技術的なもののことを考えていくときに、前段階としては学内できちんと、 おそらくそのレベルでは技能的なものが中心になるかもしれませんが、多数に適応できる ような基本的な技術をまず学ぶ段階があって、そして実際に病棟に行った段階で、特定の 患者の状況等を判断しながら、その患者にそれを実践で知識と統合しながら使っていく段 階、その2つの段階があると思うのです。いまの学生の傾向というのは、やはり1つは基 本的な生活能力的な、従来やってきた部分の日常生活能力的なものも落ちているという状 況では、学内での技術修得にも時間がかかります。それと同時に、実際に臨床に出ていっ たなかで、非常に多様な現場のなかで判断していくという充分な時間も少ない。時間的な 問題もありますが、もう1つ、学生はすぐに体験を重ねれば学習していくためには、そこ でかなりサポートが必要という状況では、一人ひとりの学生に対して、きめ細かな習熟度 に応じたプロセスを踏むことが、自信にもつながり技術の習得にもつながっていくという ことになります。現実に私も専門学校で日々教えていますが、やはりかなり教員数の問題、 一つ一つの習熟度に応じて個別に指導していく制約性も大きいと思います。 ○遠藤座長 ありがとうございます。どうでしょうか。少し医師、あるいは医療機関の経 営というスタンスで、今の話を受け取ってではなくて結構ですが、看護教育についてご意 見があれば賜りたいと思います。 ○西澤委員 今、非常に興味深く聞いたのですが、看護師の中でも教員の方々の認識と、 現場の方の認識がこれほど違うのかと思って、実はびっくりして聞いていました。ですか ら、それを今後、どう擦り合わせていくかが、この委員会の最大の役目であり、今後きち んと議論することによって、いいものが作られていく。これで看護教育の本当のいい形が できるのではないかと、ざっくばらんにそういう印象を持ちました。どうも今の議論は先 ほどから噛み合っていない印象を受けています。是非噛み合うような議論をしていただき たいと思います。 ○遠藤座長 貴重なご意見をありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○村田委員 意見ではなくて、感想です。今の看護教育にあたる方々のご意見を聞いてい て、教育を受けて学校を出て現場に出る若い看護師が、何だかとてもかわいそうになりま した。きっとおどおどして、自信もなく、何か失敗をすると上司に叱られるのではないか と、患者よりも上司や医師のほうばかり見ている若い看護師像が見えてきて、せっかく夢 を抱いて社会に出ていった人たちの現場が、こんなので本当に気の毒だなという実感がま ずあります。  私は3回入院経験があり、いろいろな看護師さんにお世話になりました。先ほど挨拶も できないというご意見がありました。そのことはものすごく患者に与える影響は大きいと 思うのです。看護技術の話が随分出ていましたが、例えばシーツ交換が下手であろうが、 清拭が下手であろうが、明るい声で「おはようございます」と言ってくれれば、それだけ で元気になるといった、すごく慰められるという面があるわけです。  私が6年前に大腸がんを手術したときの看護師さんは、「村田さんが私にとって2人目 の患者です」とおっしゃったのです。その2人目の患者ということは、いかにも学校出立 てで、若い看護師さんとすぐわかりますし、経験もないのだろうなと。そういうことを言 われると、「あっ、この人を失敗させてはいけない。上司に叱られないように、何とか私 のほうでも応援しなければ」と、患者はそういう気になるわけです。患者が育てるという か、この人を応援してあげようという。ですから挨拶というか、コミュニケーションの取 り方は、人間として当たり前のことだと思うのです。看護という専門職ではなく、ひとり の仕事をする職業人として、社会人として当たり前のことができているか、いないかがも のすごく患者との関係で、技術のほかに大きな影響を与えてくる。そこにもう少し力を入 れて、とにかくおどおどしないで明るい希望を持って仕事ができるような職場にしてほし いなと思います。 ○羽生田委員 今、村田委員から看護教育以前の問題の指摘だと思って聞いていました。 私自身も看護教育に携わっていたころから思っているのですが、それがたぶん現在ではも っとひどくなっていると思うのは、コミュニケーションが取れなくなってきていると思い ます。これはいまの看護師の話だけではなく、医師においても患者とのコミュニケーショ ンがきちんと取れないという状況が非常に増えてきているように感じているのです。  ですから、これは看護教育、医学教育以前の問題として、今日は文科省の医学教育の方 が来ていますが、もう少し小学校、中学校といったところから、人とのコミュニケーショ ンをきちんと取れる教育を基本的に考え直さないと、看護師だって、いきなり看護を習っ たからといって患者とのコミュニケーションが十分に取れるというのは非常に難しい。医 師もそういうところが増えているので、その辺を我々の段階から、もう少しそれ以前のと ころからきちんと教育に力を入れてほしいということを発信していかなければいけないと 思っています。 ○武委員 日本だけで考えていても結論は出ないと思います。日本とアメリカと比べてみ ますと、医師の場合、アメリカの医学生は卒業と同時にかなりの臨床の実力を持って、日 本の研修を1年したぐらいの力を持って卒業します。看護師も同じです。アメリカの看護 師の免許を持って病院の現場に来た者のほうが、日本の看護師よりもずっと臨床の力を持 っている。これは厚労省にも外国の経験者がおられると思いますが間違いない事実です。  外国では、学生であっても臨床を教えられるわけですから、そういうようなものに近づ くにはどうしたらいいかということを考えていけば、ある方針が出てくるのではないかと 思います。 ○坂本(憲)委員 看護師に求められる能力や基礎教育で、随分細かなデータを示してい ただきまして、1人でできること、できないことの基礎的なものまで言及されています。 本当に看護師に不足している能力とは、私はある病院で伺ったのですが、新卒の看護師が 来ると必ず1人の人がマン・ツー・マンで2年間か3年間、きちんとその人がある程度で きるまで見てあげるという、そういう病院に入った看護師は、基礎の上に積み上げていく ことができるわけです。そうすると、いま皆さんから足りないと聞いているのは、ほとん ど看護の教育をやっていらっしゃる方とか、現場でやっていらっしゃる方が足りないと認 識されています。実際の医療機関の看護師に要求することというのが、ここの委員会では まだ一度もお聞きしていないのですが、どのような対応で、どう育てていらっしゃるのか。  一般社会でも、大学卒のいわゆるサラリーマンを一人前にするには、それなりの教育を 全部その企業がして、育てていって一人前になっていくという、どこの社会もそうだと思 うのです。  看護師は特に人間を扱うというところで特殊な考え方があるかもしれないけれども、そ の足りない部分と、医療側が何かが足りないのかという、その部分をうまくミックスさせ ないと、何が足りないのか、私たちは病院で受けても何だか全然わからないというのが実 態なので、今の基礎的なものはもちろん、足りない部分を実践で学ぶこともあるし、その 後の補助的なものがきちんと確立しないと、なかなか看護師はうまくやっていけないのだ と思います。 ○武委員 医療界でない方にちょっと誤解があるようですが、一般の大学の卒業生は、会 社に入る人や官庁に入る人は、入ってから教育して一人前にするという考えがあるわけで す。医師と看護師は免許が取れたら、そこで一人前なのです。つまり、人命に関わるいろ いろな難しい操作をしてよいという法律があるわけです。だから、人命に関わるようない ろいろなことをさせるからには、このレベルがなければならないというものがあるから、 これは浅田委員にも言っておきたいのですが、1年目であろうとも訴訟で罰せられるよう になっています。だから、そういうほかの仕事とは違った免許、ある意味では特権という か、何でもやってもいいと許す代わりに、それだけのトレーニングが臨床的になされて、 免許が取れるということでないと、それは医療を受ける国民も不安でたまらない。  それは、例えば公共のバスの運転手、公共の電車の運転士に求められるようなものがあ るのです。 ○遠藤座長 ありがとうございました。ちょっと時間がないので最後に、看護教育につい て菊池委員と坂本委員のお2人にお願いいたします。それでは菊池委員から手短にお願い します。 ○菊池委員 これから充実すべき看護師教育の内容ということで、1つ在宅看護論をもう 少し強化したほうがいいと考えています。病院や診療所、福祉施設や在宅において地域連 携クリティカルパスを用いた体制が求められている中で、看護師も病院の中にいても退院 調整など退院後のことを考えたケアをする必要があります。また、訪問看護師として役割 をとる場合のケアコーディネーションなどの知識習得も必要になると思います。例えば在 宅がん末期患者の場合には、疼痛のコントロールや栄養管理、排泄、清潔、褥瘡、呼吸ケ ア、口腔ケア、また亡くなられた後の家族の方のグリーフケアなども重要な役割になりま すので、看護師の教育の中で在宅看護論をもう少し強化する必要があるのではないかと思 います。 ○遠藤座長 坂本委員、手短にお願いします。 ○坂本(す)委員 私たちはみんなナースを選んで頑張って仕事をして、楽しくやってい るわけですから、ナースを非難しているのではなくて、カリキュラム等の改正の中で今ま で問題がないのかどうかやっているのです。それで問題は出ているのです。というのは、 医療事故は新人が多いことと、現場に行くとショックで辞めていくし、看護学校の時にも う辞めていく人が出てきているので、これは大変で何らかのことはしなければいけないと いうことです。現場は求め過ぎて、お互いに非効率なことでどんどん個人的に求めていっ ているのではないかということを、今、反省しているのです。だから乖離しているという ことも認めていることです。それに基づいて、ではどうしましょうかという話合いをして いるのであって、ナースを大変苦しめているというふうにあまり考えないで、ここで考え てもう1回、いい方法をやりましょうということです。 ○遠藤座長 草間委員、手短にお願いします。 ○草間委員 先ほどの武委員のご発言に関係するのですが、ここでは指定規則の改正とい うことで教育をお話いただくわけですが、看護師、医師の場合も同じで法律的には一人前 であっても、卒業時点で必ずしもすべて一人前であるわけではありませんので、それぞれ の病院が努力して看護師に対しても新人研修という形でやっています。だからこのカリキ ュラムを考えるときに必ずしも100%卒業の時点で終了するのではなく、教育機関でやる べきことと研修でやらなければいけないことがあります。医師と同じように看護師につい ても研修制度を設けるべきだということを、看護協会では強く厚労省に要求しています。 そういう意味では、教育機関でやるべきことと卒後研修でやることを組み合わせてやって いかないと、直ちに一人前の看護師や医師ができるとは私たちも思っていないし、一般の 方たちも是非、その辺はご理解いただかなければいけないと思います。 ○遠藤座長 若干、当初の予定よりもオーバーしています。まだまだお話はあるかと思い ますが、保健師教育のほうに移りたいと思います。初めに村嶋委員より資料が出されてい ますので、資料説明を手短にお願いします。 ○村嶋委員 1頁目をご覧ください。これからの保健師に求められる役割と能力を示した ものです。保健師の役割、活動の方向性に関しては、地域保健法の制定に伴い活動指針が 出されて改訂されてきています。直近の平成15年に出された活動指針では、市町村保健師 の活動として保健サービスの提供、健康問題の把握、保健計画の策定等が示されています。 また、都道府県保健師の役割として、広域的な健康課題の把握・解決、健康情報の分析・ 提供、調査研究実施、健康危機管理などが挙げられています。さらにここ2、3年、新た な役割として求められているのが生活習慣病予防、介護予防、地域包括支援、またメンタ ルヘルスの対応です。これらの対応は今後も必要となると考えられます。  このような保健師に求められる役割を考えると、右にお示ししたような能力として、A. の個人・家族支援機能、B.の地域支援機能、C.の地域健康開発・変革・改善機能ごとに 必要になると考えられます。これらの能力は教育の中で充実させなければならない能力で す。  次の表をご覧ください。これを科目や実習項目として整理しますと、この表になります。 A.の個人・家族支援機能としては生活習慣病予防に今後重点が置かれますので、行動変容 を促すための行動科学、小集団活動論が必要です。また、実習としては個人・家族に継続 的に関わり、支援をしながら、その技量を磨いていく実習が必要です。  B.の地域支援としては、地域診断に基づく活動展開(事業企画力・運営・評価能力)や 地域包括支援を行うために、さまざまな組織と関わりますので組織論を学ぶ必要がありま す。また事業を効率よく行い、評価しながら改善するために、管理論(マネジメント論)、 コミュニティ・ソーシャルワークを学ぶ必要があります。実習としては、自分たちで実際 に地域診断を行い、それに基づいて活動を展開、評価、改善していく実習が必要です。  C.の地域健康開発・変革・改善機能は、地域に潜在している健康問題を目に見える形に 顕在化させて人々と共有し改善のために施策化したり、新しい資源を開発することが求め られます。また、地域サービスの質の評価をする役割、さらに健康危機をもたらす環境問 題を分析する役割が求められますが、そのための能力をつける科目として調査・研究、情 報処理科学、政策学、環境科学等が必要となります。実習としては地域全体のケア資源を、 質を含めてマネジメントするような地域看護管理実習が求められます。いずれにしろ看護 職の専門教育は、講義で得る新しい知識と、それを習得して技術を磨いていく実習がセッ トになって進むものです。  次をご覧ください。しかし、現行の6ヶ月という保健師の指定規則では、臨地実習が3 単位、3週間しか設定されていません。3週間でどのような実習がなされているかを示す ために、ある大学の例をお話します。3単位の臨地実習は、通常、保健所や保健センター でなされます。しかし、大学では学生全員が、保健師だけでなく同時に看護師免許も取得 しますので、保健所実習の前後にはそのための実習がびっしりと組まれています。例えば 成人看護、母性看護、老年看護、小児看護等々です。そのために3週間まるまる保健所に 行かせると、実習の学びを学生全員で共有し、体験を広げることができません。そこで実 習所に行くのは月曜日から金曜日の2週間のみとなります。  次をご覧ください。これがその2週間の保健センターでの実習例です。これは母子を中 心とした例です。1週目は月曜日から金曜日まで、すべての授業の見学もしくはオリエン テーション準備です。2週目に入り、水曜と金曜の午前中には1歳6ヶ月健診と乳児健診 で、見学だけでなく問診を1、2例とらせてもらっています。これは1週目に3歳児健診 を見学していますので、その見学が基盤になって一歩進んで問診をとらせてもらうもので す。火曜日の午前中には、3歳児健診で来所した母親たちを対象に健康教育を実施してい ます。以上、2週間、午前と午後を1コマとして20コマの臨地実習の中で事業見学、家庭 訪問に同行(見学)するのが、11コマと過半数を占めます。オリエンテーションやカンフ ァレンス等々があり、学生が直接対象者に接して自分の保健指導技術を使ってみたのは、 健康教育と健診の問診の合計3コマにしか過ぎません。前回の資料から、10日間という実 習は、大学における典型的な例ということがいえます。  これに対し、次の頁をご覧ください。短大専攻科や専修学校といった1年課程の保健師 学校での実習例を示したのが、この図です。この学校では2つのタイプの実習をしていま す。1つ目が家庭訪問実習です。これは継続的に家庭訪問し対象者に働きかけて、その行 動変容を目指すものです。毎月1回、学生1人で家庭訪問し、訪問前後には担当教員と面 接していろいろな指摘やアドバイスをもらい、自分の働きかけを振り返りながら保健指導 の技術を磨いています。最初は家庭に行ってもその人の病状を見ることしかできなかった のが、だんだん対象を理解し信頼関係を成熟させ、それが行動変容に結び付いています。 ここまで到達させるには、最低5回必要だと担当教員は申しています。  もう1つのタイプが、地域診断に基づく地域活動の展開実習です。これは合計4週間を 2回に分けて実施しています。最初は6月に1週間行き、自分たちで住民に会って分析を し、それを住民と共有する中でいろいろな指摘を受けて、活動計画を立案し直し、それに 基づいて3週間、10月に実習をしていきます。この成果は地域で報告会を開いて共有しま すし、ここで生じた疑問は課題として抽出し、公衆衛生看護研究として取り組んでいきま す。こういう実習は、1年間という期間があるために可能になりました。  しかし、現実には次に示すように施設側のマンパワー等々の問題があり、特に大学が増 えて保健師の学生がたくさん出てきた関係もあって、4つ目に示されていますように東京 23区では、衛生部長会として平成20年以降、「保健師学生は10日、看護師学生は1日」 という方針が出されています。このような地域保健の場で学生に体験させ得る事業は月1 回しか実施していないことが多く、短期間の実習では初めて体験する授業ばかりになり、 見学実習にならざるを得ないという現実があります。  では、どのような実習が、保健指導の技術を身につけるために必要かというと、3つの タイプをご提案申し上げます。A.は継続的個人・家族支援実習で、先ほど申しましたよう に月1回の家庭訪問や健康相談を6ヶ月以上実施するものです。B.は地域診断・活動展開 実習で、一定のコミュニティを受け持ち、総合的な保健活動戦略を立案・遂行する能力を 養うもので、先ほどのような例でやると4週以上の実習が必要になります。最後にAとB の実習だけでは地域のケア資源の配分、その質の保証、不足資源の開発等が学べませんの で、C.の地域ケアマネジメントの実習が必要だと考えます。看護師には病棟看護師長に付 いて学ぶ看護管理実習がありますが、保健師の場合も管理的立場の保健師係長などをプリ セプターとして、その保健師が地域の問題をどのように捉えているか。将来展望をどのよ うに描いているか。また連携・調整をどのように図っているか。資源の開発のためにどの ような手を打っているかなど、施策化の実際を学ぶ必要があります。管理的立場の保健師 がさまざまな連絡調整、啓発活動をしている意味がわかってくるためには2週間以上は必 要だと思います。今後、保健事業の民間委託が進む中で、その質と量の確保に責任を持っ ていくためには、このC.が必要不可欠な実習だと考えます。以上です。 ○遠藤座長 カリキュラムの内容を主にご説明いただいたわけですが、いかがですか。こ れに対する質問でもご意見でも結構ですし、幅広く保健師のカリキュラムについてのご意 見を賜わればと思います。ご自由にどうぞ。 ○坂本(す)委員 実習というのは東京23区とか、そういうふうに限るのですか。それ とも、例えば地方に行って自分で下宿してやるとか、そういうのは作らないのですか。 ○村嶋委員 私どもは修士課程で保健師コースを開いていますが、そこでは出身地に行っ てやるということをやっています。ただ、それは学生の人数が限られているから可能なわ けで、今みたいに看護大学の学生全員が保健師の実習をやっていく場合には無理です。特 に看護系大学では看護師の実習とローテーションしながらやりますので、限られた期間内 に、限られた場所や地域でお願いしてやっていくことになります。 ○草間委員 それぞれ地域看護の実習は大学のある地域でやっていただかないと、例えば 東京の方が大分に来てやられると困ってしまいます。なぜかというと、先ほども村嶋委員 からお話がありましたように、大学がほとんど保健師の教育をしているわけですし、専門 学校も在宅看護論の実習をやりますので、4月の初めに必ず県が中心となり地域看護の実 習を実施する保健所と市町村を学校ごとに割り当てるのです。だから県内で割り当てます ので、そこによその県の人たちが入って来られると大変困ります。指導する教育の立場か らも、自分の所の保健所、市町村でやるということが原則だろうと思います。 ○遠藤座長 ほかに、どなたかございますか。 ○村田委員 保健師は活動の場が地域だというふうに言われますし、そうなわけです。私、 取材をしていても、これまで保健師というのは一体どういう役目を担っているのか、わか っているようで全然わからないというか、よく見えなかったのです。阪神・淡路大震災の とき、支援が避難所から在宅に移って、保健師が在宅支援に行くのに同行させていただい て取材し、なるほどと分かったことがあります。それまで私の認識は、保健師というのは 役場のデスクに座っているお偉い方という印象が強くて、何か分かっているようで分から ないというところがありました。  ところが、大変手前みそで恐縮ですが、一昨日のNHKの「クローズアップ現代」をご 覧になった方はいますか。テーマは「メタボリックシンドローム」だったのですが、尼崎 市の保健師の活動が出てきました。それで「保健師というのはこういうことだ」と非常に 私は腑に落ちたのです。  簡単に言うと、尼崎の職員が健康診断を受けているのですが、7年間で10人も心臓病で 亡くなったという事実があり、保健師が、これはどこに原因があるのだろうと考えたら、 みんな健康診断で悪いと言われても何の行動も起こさない。ここに原因があるだろうから、 一人ひとり個別にその人たちの何が悪いのか、生活パターンはどういうものか、きちんと そこを点検したら減らせるのではないかという問題意識を持って行動するわけです。一人 ひとり、例えばお寿司ばかり食べている人には、寿司ねたの脂肪が何グラムで、それはど うのこうのと指導するわけです。休み時間に缶コーヒーばかり飲んでいる職員には、缶コ ーヒーの中にお砂糖がどのくらい入っているか、スティックシュガーだとこれだけあるん ですよと見せて納得させるわけです。そうすると健康診断で悪いと言われた人はものすご く納得する。「ああ、そうか、私はこういうところが悪いんだ」と、その人の行動が変わっ ていくのです。保健師にいろいろアドバイスを受けながら自分の生活様式あるいは食生活 を変えて、結果的には年数がかかっていますけれども、完全に数値が良くなっていくとい うこと。最終的に、尼崎市の職員で心臓病で亡くなった人は、その後は1人も出ていない という結果を保健師は出したわけです。  私はこれを見て、なるほど、こういうのが本当に保健師の仕事なんだとものすごく納得 したし、こういう保健師は全国津々浦々にいてもらわなければ困ると思ったのです。これ が1点です。  今までの意見で、保健師で就職する人が少なくなっているから、そんなに教育する必要 があるのかという意見が出ていましたが、これはとんでもないことだと思います。保健師 は津々浦々、きちんとプロの保健師にいてもらわなければ困るということです。ただ、結 果を出すまでに長い年数がかかるから私たちに非常に見えにくい。  実は午前中、市町村の首長さんの何人かとお話する会に出ていたのですが、そこで保健 師のことを聞いてみたら、保健師の仕事の重要性をわかっている人と、わかっていない人 にものすごい違いがありました。保健師のほうも、保健センターにいる保健師で首長の顔 も知らない人がいる。これも事実なわけです。だから保健師の業務が現場ですらあまり理 解されていない実態が、ひとつあるなということも午前中に感じてきたわけです。  もう1点、先ほど看護師教育でも申し上げましたが、専門能力のほかに一社会人として、 職業人としてきちんと持つべき資質・能力というものは付けてほしい。それは何かという と、患者をわかってほしい、私をもっとよくわかってと患者側からは言いたいのです。十 人十色ではない。個別指導というけれど、本当に個別にわかってくれているのですかとい う不満は、やはりある。もっと私という個をよく見てということ、そういう教育をしてい ただきたい。そういう人を養成していただきたいということをお願いしたいと思います。 ○武委員 理想と現実、夢と現実はきちんと区別してディスカッションしなければならな い。いただいた資料2が示すグラフは現実です。平成12年から平成17年までの間に保健 師就職者は半減しているわけです。どこが半減しているかというと、この間私が言いまし たように地方自治体の分が半減している。これは地方自治体の財政が破綻しかかって、そ れで今後どうなるか、私はここに出る前に3つの県や政令都市に聞いてみましたが、今後 減ります。今から4年の間に地方公務員を4.6%減らすという大綱が先の国会で決まりま した。そうすると減りますが、その中で先ほどジャーナリストの代表の方が言われたよう に、保健師に対して、一般住民の理解があまりないところから減らされるのです。だから、 現実的には今より増えることはないと思って、いろいろな方策を立てるときは冷静に立て ること。平成17年のこの現状を踏まえて、それから4.6%は減るだろうと考えるのが冷静 な判断だと思います。 ○南委員 私も先ほど村田委員が言われたプログラムを見て、これこそ保健師だと思いま した。村嶋委員から出していただいている保健師の新たな役割に、保健師がどんどん取り 組んでいくような教育の仕組みを作らないといけないだろうと思います。しかし、保健所 を中心とした行政中心の保健実習を考えていくと、どうしても保健所は悲鳴を上げている というのはそのとおりだと思います。実際の需要が1,000人で学生数が1万人ですから、 この落差というのは非常に大きくて、現場の保健師が悲鳴を上げるのは当然だろうと思い ます。  だから、保健所実習が担わなければいけない事柄と、例えば私どもの大学は「まちの保 健室」を定期的に開いていますので、利用者はリピーターがすごく多くて、先ほどのよう な生活習慣病を持った人たちが必ず来られて、それの指導をするということをしています。 こういういろいろな場があります。診療所や外来だとかいろいろあって、保健指導のでき る所というのはかなり広がってきています。メンタルヘルスなどは本当に福祉サービス施 設を使って保健師が是非やっていただくことで、一人ひとりの生活デザインに関わってい ける保健師の実習の仕方を、是非工夫していただきたい。規則上で行政保健の実習だけを 実習場所としないような検討を、これからワーキンググループを作ると思いますので、是 非検討していただきたい。ただ、行政を見ないわけにはいかないので、行政の保健所へ実 習に行くとは思いますが、そこでしかできない実習とは何なのかを検討してほしいと思い ます。 ○榮木委員 保健師の役割というのは大きなものがあって、特化した業務があるというこ とでそれは必要なことなのですが、4年制の大学の学生がなぜ全員必修なのか、現場にい る者としては理解できないのです。毎年採用の折に面接すると、「保健師資格取得見込み、 看護師取得見込み」ということで書いていますから、「保健師になるつもりなんですか」 と聞くと、「全くその気はありません」と大学で教育を受けている方は皆さんがそうおっ しゃるのです。では「何で取るのですか」というと、「必須になっています」ということ なのです。助産師教育と同じように、どうして選択にならないのかなというのが、現場と しての素朴な疑問なのですが、どなたに伺ったらよろしいのでしょうか。 ○遠藤座長 いまの榮木委員の言われたことに対して、何かご意見がある方はいらっしゃ いますか。 ○坂本(憲)委員 私も同じく本当に訳がわからなくて、何で看護師教育が3年で足りな いと言っているのに、その上に必須のものが入ってくるのかというのはいつも思っていま す。本当にそれぞれの資格というのは、そういう求められたニーズがあってきちっとした 資格になっているわけですから、それが十分に活用されるような状況に持って行っていた だかないと、私たちも本当に困るということ。時代がどんどん動いていて、本当に生活習 慣病の個別指導なども必要になってきています。私は人間ドッグの認定施設で評価委員会 に出ているのですが、その評価の項目の中に保健師の指導をやっているかどうかというの があります。まだ施設で保健師の指導が必須とはなっていないのですが、ただ数値だけで みるのではなく、その人の背後の生活習慣をきちっと把握できるような能力と、きちっと した指導ができる人の育成というのは、今後、大きく求められると思いますから、看護教 育の上に、より良くいい状況で、プラス資格が取れるというのではなく、もっと保健指導 ということの本質的なものを確立したような教育体系が、いま求められているのではない かと思っています。 ○遠藤座長 いまの事柄に関連して、どなたかございますか。 ○草間委員 榮木委員の言われたのは本当にクリティカルな問題だと思います。今、大学 生がすべて保健師と看護師の免許が取れてしまうというのは、統合カリキュラムで行うと 保健師と看護師の資格が取れますということを入学要項などで案内しており、大学に入っ て来るときに学生がそのつもりで入って取得できる資格は両方取るという形になっている のだと思います。従って実習施設も今のままでやると、それこそパンクしてしまうという こともあったりするので、今日、新卒の保健師の就業者数等を示していただいていますか ら、本当に必要な人たちを必要なだけ育てるという形でやることが、これからは本当に求 められるのではないかと私も思います。  ただ、この表に関して、ちょうど増えたところが減ってしまっているというのは、要す るに地域保健法ができて、対人サービスについては市町村の保健センターでやりましょう ということで、法律が変わったために市町村の採用が増え、一気に増えたのです。それが 固定したので、保健師の場合は今まで看護師ほど離職しませんから。定員を満たしている ということで、決して削減されているというふうに受け取らないほうがいいと思います。  今日、村嶋委員から説明がありましたように、今度、介護予防で地域包括支援センター では保健師を雇わなければいけない。民間委託等で、これから少し介護保険の改正によっ て若干は保健師が増えるのではないかと、私は期待しています。いずれにしても大学卒業 生が全部保健師資格を取らなければいけないという状況はもうないと思いますので、その 辺は大変重要な問題ではないかと思います。 ○菊池委員 保健師の役割として、個人の健康水準を高めることと、地域全体の健康水準 を高めるという、両方を見ながらやっている特徴があるのではないかと思います。そうい う意味で保健師に対する役割の期待が、当初は行政が中心だったのですけれども、学校、 病院、産業保健の場にも広がってきているということがあるかと思います。  村嶋委員が地域を中心にまとめてくださったのは、これまでの保健師の歴史的な役割の 経緯から、結核や母子保健などで個へも対応し、集団、地域全体の健康水準を高める役割 を果たしてきたという経緯の中で、行政における保健師の活動というのは1つのモデルに なっていることから、その辺が非常に重視されているのではないかと思います。ただ、こ れからは行政だけでなく、保健師の活動の場は広がっていくと思います。  介護予防や生活習慣病予防ということで、保健師の役割が期待されているわけですが、 先ほどの尼崎市の活動のようなことができる保健師を育てるためには、基礎教育のところ から充実する必要があると思います。生活習慣病予防で、ボーダーラインの人に気づいて もらって、自分の生活行動を変えてもらうところまで指導できる能力は、先ほどのように 実習をきちっとやり、教育の方法や指導の方法を学ぶと同時に、それを実習の中で確認し ながらやってみて身に付けていくことができる。そのためには、ある一定期間の教育期間 が必要になると思います。そういう期待されている役割ができるようになるためには、村 嶋委員の資料の2つ目の表に書いてあるような科目、個人に対する指導のための科目から、 地域・集団全体への支援や地域・集団全体の健康開発・変革・改善のための科目を充実し ていく必要があるかと思います。 ○遠藤座長 まだまだご意見はあるかと思いますが、助産師教育の話が残っていますので、 恐縮ですが助産師教育の話に移りたいと思います。本日はご欠席ですが、堀内委員から資 料が提出されていますので、それも参考にしていただいてご意見を賜わりたいと思います。 ○石垣委員 看護基礎教育の中で母性看護や地域看護の充実は、これからますます重要に なってくると思います。それには臨地実習を広げなければいけないと思いますが、前回の 助産師教育の現状を伺っても、今回の村嶋委員の発表を伺っても、助産師も保健師もより 高い専門性が求められています。そうすると先ほどからお話がある助産師や保健師という のは、看護基礎教育をきちんとした上で積み重ねていくことを考えていかなければならな い。ですから、看護基礎教育の充実を図るために臨地実習を増やして、その上に保健師、 助産師の教育を考えるという方向で、是非、カリキュラムを考えていっていただきたいと 思います。 ○遠藤座長 ほかに何かございますか。菊池委員、どうぞ。 ○菊池委員 助産師の教育については、この前、国会の附帯決議でも示されていましたが、 産科医不足の中で、助産師が正常分娩については責任を持って役割を果たすことが期待さ れていると思います。そのために基礎教育のところできちっと能力を身につけるための教 科の内容が必要だと思います。特に実習について、この前の資料にもありましたが、実際 に分娩の介助ができるようになるためには、ある程度の実習を経験し、妊娠の時から産褥 や新生児のケアまで一連のケアをすること、分娩そのものの件数をきちっと実習の中で経 験して、ある程度の判断ができるようになることが大事です。そのためにも正常分娩10 例は実習できるような環境をちゃんと整備して、それができるような教育内容にしていく 必要があると思います。 ○遠藤座長 ほかに助産師に関して、武委員、どうぞ。 ○武委員 日本のお産のやり方の歴史を見れば、昭和30年まではほとんど助産師がお産 をやってきたわけです。医師がお産をやるのは非常に難しいケースだけでした。それが今 度は極端に右に振れてアメリカそっくりになり、医師がやって助産師がやるのはほとんど ないぐらい、世界でも異例なことになったわけです。  今から10年か15年ぐらいは産婦人科の医師不足は続きます。福島県とか東北地方では、 産婦人科医師1人の病院は全部産婦人科を引き揚げていますので、皆さんは女性だからわ かると思いますが、出産というのは突然起こるわけです。そういう時に何十キロメートル 離れた拠点病院に運んで出産といっても、間に合わないことはたくさんあります。あるい は現実に隠岐島や鹿児島の南の島に産婦人科医が1人もいない所が出てきた。そういう所 で本当に助産師が力を発揮しないといけない場面が2、3年後に待ち構えているわけです。 だから保健師の問題などより、この助産師の問題は日本の今の現状として喫緊の解決して おく課題だと申し上げておきます。 ○遠藤座長 それに関連して、榮木委員、どうぞ。 ○榮木委員 お産というのは10ヶ月かかるわけですが、4年間の教育の中で助産学を専 攻する場合、助産学の教育が始まるのが大体4年生の夏休み以降なのです。そうするとそ の間で10例の分娩をとり、10ヶ月近い経過を見ていくというのはとても無理な状況にな っています。ですから看護基礎教育がベースにあった上で、その後きちんと最低1年かけ ての助産学の教育があって、それから、いま分娩件数が減っていますから、10例の分娩を きちんととれるだけの期間を置くということが、重要なことではないかなと感じています。 ○遠藤座長 ほかに、村田委員、どうぞ。 ○村田委員 医師や看護職、いわゆる国家資格のある人たちは一般の仕事と違うのだとい うご意見がありました。そうだと思います。だからこそ国家資格があるのだと思います。 その時に、いまカリキュラムの問題が出ていますが、カリキュラムの内容をどうするかと いうことと同時に、国家資格を与える職業として時間数がこれでいいのかという議論も必 要なのではないか。カリキュラムの内容の検討と同時に、それをこなす上でどの程度の履 修をしたほうがいいのか、それも併せて検討していかないといけないのではないかと思い ます。 ○遠藤座長 重要なご意見だと思います。草間委員、どうぞ。 ○草間委員 一部、村田委員の発言に関連しますが、カリキュラムの内容を私どもがお話 するときに、念頭には、いまのままも時間数でいいのかどうかというのを考えつつ発言し ていますので、期間がどうでしょうという発言があったときに、また、直ちにお答えでき るのではないかと思います。  それと、先ほどの保健師の教育もそうですし助産師の教育についても、平成15年に厚労 省の医政局長から、「看護師等の養成所における運営に関する指導要領」というのが出て いるわけです。本当にそれに沿った実習をしようとすると、いまの実習では分娩を10例と ればいいということで、分娩の介助についての実習だけなのです。本来でしたら、助産師 というのは妊娠の診断から産褥のケアまでできなければいけないわけですので、そういう のを考えると妊娠というのは10ヶ月あるのに、いまの指定規則は6ヶ月で妊娠から産褥ま で、すべてみようというのはもともと無理な話なのです。そういう意味では保健師につい てもそうですし、助産師教育についても、平成15年に厚労省の出された指導要領に沿って カリキュラムを作っていただくことを考えると、実習も含めて、特に助産師に関しては助 産だけでなく女性の一生についてきっちりケアができる、あるいはコンサルテーションが できるようにと言っているわけですから、その辺も含めた教育内容を考えなければいけな い。女性の一生というのは、すなわち思春期も、閉経、更年期の指導もできなければいけ ないとなります。そうなると、いまのカリキュラムに対してかなりの内容を足していかな ければいけないのではないかと思います。 ○坂本(す)委員 つい大学のことになっていくのですが、実は大学のこと以外に保健師、 助産師の1年コースがあるし、看護の養成学校の看護師がいちばん多いわけです。だから、 ついつい大学のことに話が引きずられていくのですが、村嶋委員の出された保健師学校の 1年コースの人たちの教育はどうなのかといったら、ずいぶん充実した実習をしています よね。だから、まずどこに起点を置くかというと、大学の問題もありますけれども、基礎 の教育をどうするかということに戻らないといけないと思います。  私は助産師にしろ保健師にしろ、機能として活躍するには助産師のほうが先だ、保健師 のほうが先だと言われる先生もおられますが、とにかくそれぞれの地域における機能を果 たすわけで、いかに妊産婦さんをヘルプするかという話ですから、カリキュラムを変える ときに、もう少し実習に視点を置くということを、ここでは論議していただきたいなと思 います。実習ができなかったら、例えば看護学校のほうで実習が大変困難になってリアリ ティショックを起こしてくるような状況から、そのまま助産師学校や保健師学校に行った ときに、また同じような状況が起こっていないのかどうか。実習場の問題は一体どうなっ ているのかということも、論議して入れていただくということです。  それと、基礎をどこに置くかということも、はっきりしないと、保健師教育の基礎はど うなのという話になってくると大変ややこしくなるので、こういう看護職ということに対 して、どこにベースを置くかということをちゃんとしておかないと、どっちもどっちとい うことになってくると思います。 ○太田委員 保健師教育、助産師教育のベースになる看護師教育という意味では、実習の 問題というのは地域での実習の問題、助産師看護教育につなげていくためには、看護師の 基礎教育の充実をというのがあるのですが、実際に看護師の基礎教育の中での母性看護学 実習の環境的な問題、期間の中でどのくらい実際に実習内容を充実させるかの問題です。 保健師教育の基礎になる看護師教育も、先ほど村嶋委員の資料にあったように23区の場合 ですと実施日数が非常に制約されてきています。保健師学生が増えているというところで、 看護師の基礎教育の中でも地域理解、集団健診等の知識は重要で、その部分を学べる唯一 の機会である保健センター等の実習は、将来的には1日と言われています。以前は5日で、 それが3日になり2日になり1日と、そうするとベースになる看護師の基礎教育の中で助 産師や保健師につながる部分の内容というのが、一体どうなっていくのか。そこら辺はす ごく大きな問題だと思います。 ○遠藤座長 実は「その他」として既にお話になっている内容なのですが、それぞれ看護 師、保健師、助産師は現状のようなカリキュラムでいいのかどうかということで、例えば 議事録を読むと、「保健師、助産師、看護師ともに基礎教育でいいのか。看護師の教育を ベースに考え、保健師、助産師をアドバンストコースと位置付ける議論をしてはどうか」 とか、「看護基礎教育のあり方をグランドデザイン的に書いてみてはどうか」という話で、 つまり先ほどから話が出ていますように、看護教育とその他のものとどういうふうに組み 合わせるのがいいのか。もう既に榮木委員や石垣委員がお話をされていることですが、そ の点に少しフォーカスを絞って、ご意見を賜りたいと思います。  1つ共通点として、内容的に実地研修を増やすべきだというのは皆さんがおっしゃって いる話です。今、申し上げたような看護師教育と、あと2つのものとの関係をどういうふ うにするのかという点についてお聞きしたいと思います。どうあるべきかという議論で結 構です。 ○南委員 後ほど世界の動向の中でお話させていただきたいと思っていますが、保健師の 教育を看護師のほうに付けるとか、助産師の教育を看護師の上に付けるとかいうことは、 いまは実際に、看護師にプラス6ヶ月なので、その6ヶ月が適切かどうかは今後の議論に なっていくと思います。大学の中のあり方で統合教育がどうこうという問題は、厚労省の この委員会でやるのはいかがかと思います。文科省の中で、結果的にここで指定規則等の 提案が出てきたとき、実際、統合カリキュラムが成立するのかどうかの議論になっていく わけで、私はもう少しワーキンググループ等で具体的に時間数等のことが見えてくると、 結果として、外へ出て行くのか中に入るのかということが出てくるのではないかと思いま す。 ○菊池委員 看護師の教育と、保健師、助産師の教育の位置付けということかと思います が、基本的には看護師の基礎教育をベースにして、その上に保健師や助産師の教育を積み 重ねていく。日本の保助看法ができた時から、そういう基本骨格で考えられているのでは ないかと思います。  昨年度の厚生労働省の保助看法のあり方に関する検討会の中間まとめで、そういうまと めがしてあります。あの中の議論では、保健師の業務や助産師の業務の中に看護業務が内 在しているという位置付けで、今回の保助看法改正で、看護師国家試験の合格を保健師や 助産師の免許交付の要件とするという改正もされています。戦後、日本の法律がそういう 形で作られてきていて、私は今後もその考え方で組み立てればいいのではないかと考えて います。保健師や助産師を看護師のアドバンスコースのより専門性を高めた資格として考 え、そういう考え方で教育を考えてはどうかと思います。 ○小山委員 今のご発言についてですが、養成所の教育の場合は3年プラス1年の教育で したので、そのような発想ができるのですが、大学教育の場合は、到達目標を保健師の国 家試験受験資格と看護師の受験資格を得るためのカリキュラムということで統合して考え ます。  保健師の業務は保健指導ですが、保健指導は保健師だけがやるのではなく看護師も相当 の部分を担います。それを大学教育ではどのようにカリキュラムに組みあわせればよいか ということで、1、2年生のころから地域に出たり、集団という発想で教育しようと、カ リキュラムを統合しています。村嶋委員が挙げられた「新たな役割」の部分は、従来の行 政に関する業務についてはそのように言えますが、そのほかの保健指導では看護師と重な る部分がありますので、大学の教員たちにとっては発想として保健師教育と看護師教育を 明確に分けるのが難しいということがあります。 ○村嶋委員 私が今日出しましたように、いろいろな地域での実習は母子や成人、老年を すべて終わった段階で、その基礎知識を基に保健指導することが必要です。その基礎知識 がない看護師の教育と一緒にローテーションしながら行っていく保健指導の実習は、大変 効率が悪いと申し上げます。 ○草間委員 大学で統合カリキュラムはどうするかというのは、まさに運用上の問題であ って、今回、看護師の基礎教育はどうあるべきかの基本を決めていただくのが先だと思い ます。いまの保助看法でいくと看護師の教育があって、それに保健師あるいは助産師があ るわけですので、そこのところをきっちり決めていただければ、あとは大学がどうやるか ということを考えるべきで、まず、最初に、ここではきっちりベースとなる看護師の教育 をどうすべきかを考え、保健師はどうすべきか、助産師はどうすべきかというのを保助看 法上の規定にそって決めていただいて、あと大学がどう運用していくかというのは、また 別に考えなければいけない問題だと思っています。 ○遠藤座長 駆け足の議論になって申し訳ありませんでした。本日、南委員から資料が提 出されていますので、南委員からご説明いただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○南委員 お時間をいただきましてありがとうございます。本日申し上げますのは、国際 看護師協会の会長として、国際的な動向がどうなっているかということをお示しするもの です。資料等に関してホームページでご覧になりたい方は、ここに示したアドレスでお入 りいただければと思います。  看護教育を語る前に、背景として世界がどう動いているかということを少しお話させて いただきます。看護職員が不足しているのは世界的動向で、今、不足していない国は2、 3カ国で、あとは非常に不足しています。  一方、もう1つ起こってきていることがグローバリゼーションです。国境を越えた動き というのはご存じのとおりですが、例えばヘルスサービスというのは、日本でも臓器移植 を外国に行って受ける方がいるように、いろいろな医療サービスを、国境を越えて受けて いる。また看護職は特に数が多いので、労働力として国境を越えて移動しているというの は、世界では当たり前のことになってきていることを申し上げたいと思います。  教育も、ITの革命等があって教育の提供の仕方もいろいろな工夫があり得るので、教 育も国境を越えている。つまり国を越えて単位認定をしたり、国を越えて卒業したりして いるということが起こっています。つまり、世界は国境を越える動きがかなり活発になっ てきているということが言えるかと思います。  もう1つ、看護教育を語るときに非常に重要なのがNursing regulationで、これは看護 制度をどう管理していくかというものです。世界には看護制度管理の団体というのがたく さんあって各国にそういう団体があります。世界的な考え方でいくと、看護職だけではな いのですが、医師も含めて全ての職業が日本では国家免許が当たり前で、それがおそらく 世界的動向だとお考えの方が多いかと思います。私もそうだったのですが、実はそうでは なくて看護職の免許の問題、またその管理の問題はいろいろな組織が行っているというこ とがあります。考え方としては、看護職の問題は看護職で自律的に行うべきだということ です。看護職全員が入っている団体においてそれを行うということです。もちろん、その 場合、国との強い連携の中で行う必要があります。、  看護制度管理は、日本のように小さな国ですと国レベルでやりますが、アメリカ、オー ストラリア、カナダ等は、国レベルでは看護制度の管理はできませんので、州レベルで行 っています。したがって、州の看護制度管理者が違っていますので、かなりそれぞれの州 が違うということがいえると思います。  免許の要件も様々ですが、大きくいって教育が終了したら自動的に免許がもらえるのが イギリスタイプです。これはフローレンス・ナイチンゲールの精神がそのまま生きている のですが、教育機関が卒業生をしっかりと責任を持って送り出すことが、国家試験をペー パーで課すよりももっと重要だとしています。これは技術試験も含めて教育機関でやると いう考え方が一方であります。もう一方では国家試験を課すという動きがあります。  第4として、EUまたはカリブ海、あるいは最近はASEANでもそうですが、国を越 えた免許をそれぞれの国で獲得した人たちは、その免許を他の国でも認めましょうという 動きが非常に活発になっています。これをどう考えるかは、それぞれの国が考えなければ いけないことだと思いますが、そういう動きが教育の背景として起こっています。  ICNが考えている看護教育に対する指針として、入学要件はその国の専門職と同等の 教育水準であることが第1です。これは日本でいえば高卒ということです。第2として、 特定の能力を保証するのに十分な期間の教育、すなわち3年間以上と考えていますが、こ の3年というのは学士号を出すのに3年で出している国が結構多いので、このことが基準 になっています。それ以上はそれぞれの国がお考えになるということです。看護教育の内 容については、一般のナースとしてのコンピテンシーをまず考えるというのが第3の指針 です。どんな能力を持っているかということを考えていくほうが、どんな科目が必要かと いうことより重要ではないかという考え方をICNはしています。先ほど技術能力の話だ けが出てきていましたが、それだけではなく、卒業時の看護能力はどれだけにするかとい うガイドラインをICNは作っていて、各国が活用しています。また、教育内容は研究成 果に基づいたもの等のことが必要というのが第4の指針です。もう1つ、ICNが強調し ているのは、看護教育機関は看護者によって管理されるべきだという考え方です。  各国によって看護教育はかなり違いますので、わかる範囲内でお話すると、ヨーロッパ の場合は、1970年代からヨーロッパの間での同意事項というのがあります。ダイレクティ ブと呼んでいますが、看護教育は3年以上又は4,600時間という数字が示されています。 そのうち理論は3分の1以上から2分の1以内ということで、UKの場合はこの2つをク リアーすることが大事で、3年間で、かつ4,600時間で理論と実習が半分の2,300時間ず つという方針を示していて、これを実際にやっているのだそうです。  UKではご存じのように2000年プロジェクトというのがあり、もともと日本には保健師 と助産師というのが免許でありますが、UKでは成人看護、小児看護、障害者看護という のは他の免許でありました。2000年に向けてこれらの基礎教育を統合することが起こりま した。助産師だけは別ですが、この資料のようになっています。この成人看護というのは 一般ナースのことを指しています。基礎教育の中でスペシャリゼーションを行えるように、 4,600時間の中で工夫されているということがいえます。  看護教育は大学化が進行していますので、大学では4年目でpost-basic教育をやってい ます。例えばディストリクトナースというのはこの4年目に入りますし、UKの中でもス コットランド系はパブリックヘルスナースと呼びますが、公衆衛生看護の分野は4年目で post-basicでやっています。  もともとEUは実践家を育てるということで、ディプロマのコースだったのです。ディ プロマというのは専門学校制度だったのですが、EUができることになり、労働力が各地 を移動する可能性を持つことになりましたので、教育の均質化というのが非常に重要な課 題になってきています。その流れの中で看護教育だけではなく大学もヨーロッパはずいぶ ん違い、3年課程から6年まで学士課程といいながら、すごく幅があるわけです。そうい う意味で大学教育をどうするか、大学院をどうするかということが、1998年から継続審議 としてEU各国で議論されています。ヨーロッパでは、どのレベルを大学・大学院と呼ぶ かという議論が、2010年までに決着することになっています。  そういう流れの中で、ボローナ(Bologna)、同意書があります。同意書には看護教育 は高度の教育機関、すなわち日本でいえば大学ということです。しかし、post-basicと 4,600時間をどのようにして大学に移行ができるのかという議論が、今、起こっています。 その中心になっているのがヨーロッパ看護協会連盟(FEN)と呼ばれる組織です。 30カ国の看護団体が所属していて、ここはEUの国家の組織と直接的につながりながら教 育の制度を考えていっています。  アメリカの事例ですが、アメリカの看護師不足はシビアで、いま12万6,000人が不足し ていますが、近い将来、80万人から100万人不足する危険があると予測されて国としての 対策が始まっています。もう1つの看護職としての特徴は高齢化が進んでいることです。 看護職の平均年齢は46.8才です。日本は34才ぐらいでしょうか。ずいぶん高齢化が進ん でいます。州ごとに看護教育も管理しています。  USAの看護師の基礎教育のデータですが、1980年代は3分の2が専門学校でしたけれ ども、いまは短期大学と大学が中核になってやっています。でも看護者というのはどこの 国も非常に向上心がありますので、最終学歴を見ると、いま働いている看護者で専門学校 卒業者のままでいる方は18%未満で、あとは大学・大学院修了者が非常に増えています。 つまり、看護者自身の大学への志向が非常に高いことを示しています。  ワシントン大学の例を見ると、4年間で180単位です。日本は125単位を目指していま すが、ワシントン大学は180単位です。最初の2年間は一般科目と専門基礎です。専門基 礎の中には自然科学分野としてanatomyやphysiology、いわゆる解剖・生理学が入ります。 または、人との付き合いかた、挨拶の仕方、コミュニケーション論も含めて入ります。こ れが92単位で、あとの2年間が専門教育で88単位です。この傾向は看護教育だけでなく 他の分野においても、大体基礎の2年間教育のほうが単位は多いのがアメリカの特徴です。 看護専門の88単位のうち20単位が実習になっています。  オレゴンの場合は、看護学部というのは2年課程ですが、大学に入学して3年生になっ た人が入って来るのです。看護学部では卒業までには93単位です。日本では指定規則で 93単位になっていますが、その93単位をアメリカでは2年間でやっています。その中に は一般教育的なものは含まれていません。基礎教育も含まれず、狭義の看護専門教育を2 年間で93単位やっているということになります。うち実習は33単位です。  アメリカは入院期間が非常に短縮しているために、看護師の卒業時の技術力がある程度 求められるということがありますので、臨床家と看護教育者が話合いをして、どういう技 術を持っていないといけないかが確定されています。その確定されたものに関しては、か なり学内演習にいろいろな技術を取り込んできて、学内で蘇生術やかなり高度な医療技術 ができるような仕組みができています。  カナダは州ごとに制度管理していますが、今、統一したものが必要なのではないかとい う動きが出てきています。看護師は非常に不足していて、今の看護師の50%が次の15年 間で退職し、2016年には11万3,000人が不足するといわれています。トロント大学看護 学部もアメリカと同じように2年間の専門教育ですが、単位数ではなくて細かく時間数に 分かれていますので、省略させていただきます。  オーストラリアの例を申し上げますが、オーストラリアも州ごとに看護管理制度があり、 それを統轄するものとしてCouncil制度がありますが、いまのところCouncilのパワーは そんなに強くありません。ただ、国家の指導があって2007年に報告書が出る予定ですが、 それによると、Councilが看護制度の、いわゆる州(province)の連合体みたいなものを 作っていく方向になっています。オーストラリアの特徴は、教育を売りに出していますの で、国際的な市場の中で教育をやっていくということで学生の5人に1人は外国人です。 日本の人もかなりここで教育を受けています。大学での教育は3年間ですが、医師教育を 外して他のヘルス・プロフェッションは4年から5年かけていますけれども、看護の場合 は数が多いということで3年間です。実習時間は調査によると600時間から1,100時間、 学内実習がプラス50から400時間ですが、学校によってかなり格差があります。この国の 看護教育は大学で行われていますので、他の職種と一緒にある程度のところまで教育をし ましょうという動きが、オーストラリアでは盛んになっていて、これはカナダも同様です。  ここの検討会で非常に重要な課題である、教育と現場のギャップはどうなっているかに ついて述べます。世界の動向ですが、基本的には同じような問題が世界でも起こっていま す。今年の5月に世界的な会議がありました。そこで、話題になったことを紹介します。  教育と現場のギャップというのは、非常に古典的な課題であり現代的な課題でもありま す。ギャップというのはなくせない、ある程度やむを得ないのだという認識が1つです。 それはなぜかというと、医療現場と教育現場の変化が起こってきているということもあり ますが、免許取得前の実習には限界があるという考え方があるからです。ただ、一方では 医療現場と教育現場の変化があり、このギャップが拡大していて、従来以上の大きな問題 があるので何とかしなければというところにきています。  解決策としては、理論と実践の接点を強化するということが挙げられていました。教育 者と実践家の両者の話合いが必要だということが強調されてました。また、先ほどから出 ている卒業時の能力水準を明確にすること。実習は臨床現場と教育現場の協力がないとで きないし、現場の協力がないとできませんので、それをもっと強化しないといけないとい うこと。日本でも約1年間のプリセプター制度をやっている所が多いですが、これをさら に強化していくことが必要だという認識です。医学教育と違って看護教育は専門学校でも 大学でもそうですが、教員が現場に出ない。つまり自分の患者さんを持っていない。それ がこういうギャップを大きくしていくのではないか。だから教育と現場のjoint appointment、いわゆる看護世界でではよくユニフィケーションと呼んでいますが、そのよ うな体制を創設し強化しなければいけないという案もありました。  学内でできる実習はできるだけ学内でやり、学外でも実習教育機器のようなものをもう 少し開発すべきということや、看護教員は免許の更新制との絡みもあり、現場の人は講習 を受けないといけないのですが、教員の場合は現場に例えば1年のうち何カ月間かは行っ て、現場の研修をオブリゲーションするとか、そういうことをつけたらどうかという話が あります。  オーストラリアは3年課程ですが、今は新卒看護者の大半が自費で実務の研修プログラ ムを受けているということです。したがって結果的に4年間になっているのですが、病院 側が1年間の研修を受けてきなさいとか、6ヶ月間の研修を受けてきなさいというふうに 義務化しているところもあると聞いています。そうでないと就職できない。本当は医師と 同じように研修の必須化というのを制度化したかったらしいのですが、看護職の場合は数 が多いのでそれはできないようです。だから看護師が自信を持って仕事ができるような仕 組みづくりというので、こういうことがやられていて、特に、助産師、精神看護師などの 分野では必修にしているとのことです。ここらあたりも学べる1つかなと思います。  まとめとして、ヘルス問題とその対策は世界規模で起こっていますから、日本の看護教 育を考えるときも、その視点が必要だろうと思います。世界的な看護者不足が看護者の移 住を促しているために、教育の均質化というのが図られていくことはこれからも進むと思 います。つまりそれぞれの国が、それぞれお互いを見ているということです。ASEAN はタイの看護界がものすごい指導力を持って、看護教育を均質化していく方向に向けて指 導的役割を果たしています。また、ITの技術等の開発に伴い看護教育自体が国際化して います。  日本の看護教育は、移行教育あるいは一部放送大学を使うこと以外は、通信教育に馴染 まないというスタンスをずっととってきたのですが、世界的な経験の中ではそれは可能だ とわかってきました。もちろん看護教育はそれだけではできないことは分かっているので すが。  国家間の相互認証制度が動いていることと並行して、国際的な認証制度を作ったらどう かという動きがあります。例えば、ラテンアメリカはスペイン語で共通ですので、国家間 の柵を外した免許の認定制度を国際機関がやってはどうかということで、ICNは免許更 新制度を睨み、卒後教育の国際的な認定はやっています。  今日は先進国だけを申し上げましたが、アジアも看護教育は大きく動いているというこ とで、大学化が必修化になっている国も増えてきていますし、また看護教育の充実という ことが十分に議論されている段階で、それは日本と同じだというふうに思います。ありが とうございました。 ○遠藤座長 ありがとうございました。短い時間で申し訳ありませんでした。おそらくこ の後、質疑というお気持ちがあるかと思いますが時間的に余裕がありませんので、この話 を承ったという状態で、次回以降、これに関して、もしご質問、ご意見があれば展開して いくという形にしたいと思います。本日は大変活発なご意見を頂戴しましてありがとうご ざいました。これで、本日予定していた議題についての検討はすべて終了したと考えてい ます。  これまで4回にわたるご議論で、ひと通り皆様からのご意見をいただけたと考えていま す。本検討会の確定している日程はあと2回あるわけですが、次回以降は秋からのワーキ ンググループの検討につながる議論をしていきたいと考えています。次回は、これまでの 議論の中間的なとりまとめの議論に入りたいと思いますので、その旨ご承知おきください。 次回以降の日程について事務局から説明をお願いします。 ○事務局 次回、第5回検討会は8月4日(金)15時から、第6回は9月4日(月)14 時から開催する予定です。場所等については決まり次第、別途正式なご案内をお送りいた しますので、よろしくお願いします。お忙しいところご出席いただきまして、ありがとう ございました。 1