06/06/27 労働政策審議会労働条件分科会 第59回議事録 第59回労働政策審議会労働条件分科会          日時 平成18年6月27日(火)          16:00〜          場所 厚生労働省5階共用第7会議室 ○西村分科会長 ただいまから、第59回労働政策審議会労働条件分科会を開催します。 本日は久野委員、新田委員、奥谷委員、平山委員が欠席されています。事務局から資料 No.1、労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)が出されています。11頁 の「管理監督者の範囲の明確化」、「現行裁量労働制の見直し」の所、そこは前回空白 になっていましたが埋めてあります。この点について御意見等がありましたらどうぞお 願いします。 ○紀陸委員 まず労働契約法制と労働時間法制の在り方について、使用者側の考え方を 冒頭で申し上げさせていただきたい。前回と本日は、この分科会に厚生労働省事務局の 素案が示されています。この素案がこれまでの労・使の検討を十全に反映したものであ るかどうか、甚だ疑問であります。  翻って考えてみると、昨年9月の段階で、研究会の報告が出されました。その報告の 内容について、労使の反対が非常に大きかった。それが故に、昨年秋からの本分科会で は、あまり報告にこだわらずに、実態的な採用から解雇に至るまで白紙で検討論議が行 われてきた経緯であると思われます。それを受けてこの春、実質的に審議をしようとい うことで、厚労省の事務局から検討の視点が出されました。そこに記載された論点をテ ーマに、その後の審議が行われたわけですが、実際に内容に踏みこんだ、本当の意味で 議論が十全に重ねられたかというと、そうではないだろうと思っています。  それのみならず、この段階になって従来の審議会の中で、ほとんど論議の俎上にも上 っていなかった有期労働契約を巡るルールの明確化。さらには長時間労働の削減という 趣旨で、健康確保のための休日あるいは割増賃金の引き上げ、こういう内容の問題がい きなり出てきたという経緯であったと思います。しかも、かなり細かい内容になって示 されたことが、私どもとしては意外だという感じが強くします。  この契約に関するルール、もちろん基準法や組合法に匹敵する重要なものであります し、かつ労働時間法制と共に、十分に時間をかけて検討すべき事柄でありますが、今後 の状況を見て論議を重ねることについては、非常に拙速な論議を招かざるを得ないので はないかと思います。審議会の場で、取りまとめに値する内容的な論議すら十分にでき ていない段階で、この素案を踏まえて、追いかけて7月にこの中間取りまとめを出され ることについては、使用者側としては断固反対をしたいと考えています。以上です。 ○渡邊佳英委員 若干補足をさせていただきます。先ほど紀陸専務が言われたとおりで して、残念ながらこの分科会で労・使による議論らしい議論を尽くしたかというと、ま だまだ尽くしていないのではないかと思います。また、議論すべき項目は非常に広範囲 であり、事務局の案では、7月までの間に3、4回開催して、そして中間取りまとめを するということですけれども、到底この3、4回の委員会では議論が尽くせるとは思っ ていません。まず中間取りまとめが先にありきの進め方に関して、私どもは絶対に反対 しています。  こういう機会ですので、労働契約法制についての意見を私として若干申し上げて、具 体的には別の機会に表明することにしたいと思います。いままでも言っているとおり、 労働契約に関するルールの整備というのは、必ずしも新法による必要はないと考えてい ます。労働基準法のように、使用者側のみ罰則を設けている法律とは根本的に考えが異 なるものであり、ルールの明確化と称して、使用者に一方的な義務や手続きを課すもの であってはならない。あくまでも労使の合意に基づく契約が重要であり、双方が契約を 締結しようとするインセンティブがなければ、実効性というものは全く上がらないと思 います。  また、労働契約法の総則項目について3つほど意見を述べたいと思います。1番目は、 労働契約に関するルールの整備は、あくまでも労・使が合意できる契約の在り方を議論 すべきであり、労働者への配慮や均等待遇等々を議論するのは極めておかしいのではな いか。こういう均等待遇等は他の法律で議論をすべきだと思っています。  2番目は、労使の契約は書面でなくても成立するものであり、労働基準法で規定され た必要最低限の事項だけは書面化するとしても、何が何でもできるだけ書面で確認する ことは、中小企業にとって実質的に無理であり、不要であると考えております。  3番目は、労働契約法制の対象範囲は、あくまでも労働基準法の労働者に限定すべき であり、個人請負などは、自らリスクを負って業務を行っているので、保護すべき労働 者ではないと考えています。以上です。 ○原川委員 いま渡邊委員が言われたこととほぼ同じですが、私ども中小企業としても、 なかなか得るものは少ないというか、前向きの経営に活用できるものがあまりにも少な い。それに対して、書面化ということを初めとして、中小企業の実務にとっては非常に 厳しい。果たして中小企業が対応できるのだろうかというようなものが、あれもこれも とかなりたくさん並べられているような感が強くします。  私どもは新しい労働時間制度、あるいは解雇の金銭解決のルール化について要望して きました。しかし、中小企業がそういうものを活用できるかどうかは、はっきりしない ところであります。中小企業が使えるような期待がほとんど持てないような感じもしま す。  現実にそういう批判もあり、私どもとしてはその内容次第という姿勢で臨んできまし たけれど、現在の状況では、なかなか中小企業の理解を、報告する場合に得られないの ではないかと私どもとしても大変に心配しています。そういうことで、もう少し実質的 な議論をすべきであると考えるわけです。  いまの時点では、この審議会において十分に議論を尽くしていることにはならないと 考えています。そういうことで、私も紀陸委員、渡邊委員と同意見であると申し上げて おきます。 ○紀陸委員 いま渡邊委員と原川委員から補足がありましたけれども、本日は使用者側 のお二人、奥谷さんと平山さんは御欠席ですが、冒頭で私が申し上げた内容については、 いわば使用者側全員の合意であることを申し添えます。 ○長谷川委員 使用者側の意見が出されましたので、労側を代表して私から意見を申し 上げます。6月13日に開催された第58回の労働条件分科会において、厚生労働省事務 局は労働契約法制及び労働時間法制の在り方についての案を提示しました。事務局は、 これは本年7月の中間取りまとめに向けての議論のベースとして、在り方について案を 作成したと、この分科会において答弁しています。  この労働条件分科会では、使側からも意見があったように、昨年10月から労働契約法 制に関する議論が開始されました。労働契約に関わるルールが必要であるということに ついては、この議論の中で労使の認識は一致しました。  では労働契約法を制定するとすれば、そこに盛り込む項目についてはどうなのかとい う議論を行ってきましたが、労使の主張の乖離が非常に大きかったこともあり、そうい う意味ではこの労働契約法を制定するに当たって、「労使が合意する項目について、 法制化することを検討してはどうか」ということを、我々もその会議の中で述べてきて、 今日まで続いてきたわけです。  しかし、この審議会で、労働者側は在り方について、かなり様々な意見を述べてきま した。では、この在り方について我々の意見が反映されているかというと、大変疑問に 思うのです。とりわけ就業規則を労働契約法に盛り込むこと、そしてその合理性の推定 に労使委員会を関与させること、解雇の金銭解決制度、そして労働時間で言えばホワイ トカラー・イグゼンプション制度の導入を、我々労働側委員は強く反対してきました。 しかし、この「在り方について」では、このことは全然反映されていません。  さらに本年4月に、厚生労働省事務局が提示した「検討の視点」に、様々な論点が記 載されています。それらの内容について、踏み込んだ実質的な議論は満足に行われなか ったと、思っています。このような状況やこれまでの事務局の対応の中で、労働基準法 や労働組合法に比肩する重要な法律である労働契約法を、このままの状況で引き続き議 論していくことに、大変な疑念を持っています。  議論不足の上、労使の意見を反映していない「在り方について」に沿った中間取りま とめを、事務局主導で行えば、我々労側が主張する、労働者のための労働契約法は実現 できないと思っています。したがって、労側委員は労働条件分科会に対して、労働契約 法の審議を一時的に中止することを求めたいと思います。なお、この意見は私個人の意 見ではなく、労側全員の意見であることを申し添えておきたいと思います。以上です。 ○西村分科会長 労使の意見が出ました。公益の廣見委員どうぞ。 ○廣見委員 いま労使それぞれから意見がありました。両側の委員の御意見は、この形 での議論をいまのまま、あるいはいままでのままと申しますか、そういう形で進めてい くことには反対であると、結論的にはそういうことを言われたのだろうと思います。趣 旨としては、実質的な議論のかみ合いがない、一言で言えば議論が十分に尽くされてい ないというところにあるように思います。  ただ公益委員の一人として、労側も使側も、お話ですと、それぞれ全員の合意を得て いる御意見であるということですので、これは大変に重い御発言であるという気がしま す。しかし、公益委員の一人として、率直な感想を一点だけ申し上げるとすれば、確か に、いままでそれぞれの側で合意しておられない点も多々あると思いながらも、それぞ れ議論も進んできているのかと思っていたわけです。そういう意味では、本日この段階 で、これ以上このままの審議継続には反対である旨の御意見の表明が冒頭でありました が、私は率直に言うと、やや唐突の感もあるし、驚いているというのが正直なところで す。  繰り返しになりますが、こうして振り返ってみると、それぞれかみ合った議論がなさ れていたかと言えば、確かに不十分な点があるという気もします。ただ、まだ予定され ているこの分科会もありますし、議論を十分尽くしていくことは大切なことであると思 いますので、そのようなことが必要なのではないかと思います。これ以上、このままの 形で審議することに反対であるという労使の御意見を、さて、どのようにしたらいいの か私もにわかには分からないのですが。  しかし冒頭に申し上げたように、それぞれ各側全員が揃っておられるということであ れば、これは相当に重いものとして受けとめざるを得ない。かといって、せっかくいま までこうして議論をしてきた積み重ねもあるわけです。そういうものをベースにしなが ら、何とかさらに話を深めていくことができないものか。この辺りも考えながら、若干 思いつきではありますが、公益委員の私とすれば、それぞれ労使各側の委員と必要な調 整等もしながら、次回の分科会をどのように持っていけばいいか。今日こういう重い御 意見が出された以上は、本日このまま議論を進めていくのは難しいという感じがします。  そういう意味では、公益委員も少し間に立って、それぞれの御意見や思い等もお伺い しながら、できることならば次回以降の何らかの運び方というものを摸索して、少し整 理した上でやったらどうかという感じがします。というのが私の感想めいた意見です。 ○岩出委員 私は先ほど使用者側委員の言われた点は、特に議論されていなかった点、 あるいは議論がかみ合っていない点等について、今回在り方についての案等では「検討 する」という表現になっていて、集約された点だけを提起する。そういう意味では、決 して一方的な案になっていないと思っています。事務局方としては相当努力された案だ と思っていますので、これを一つのたたき台として、本来であれば審議を継続して何の 問題もないと思っています。検討すべきところは検討する。つまり、結論が出ていない 部分は結論が出ていないこととして書いてあります。  労働側委員に関しても、先ほど来自分たちの意見を反映していないと言われることに ついては、逆に反発を覚えます。かなり労働側の意見が反映されているものと考えてい ます。とりわけ最終報告と比べれば、むしろ労働側に肩入れしているのではないかと思 われるぐらい、いろいろな意見が反映されています。もちろん根本的な就業規則の議論、 解雇の金銭解決の議論についてはかなり問題があることは承知していますけれども、そ の分は例えばこの検討課題として提起されていますので、これを中止するということに ついては、国民に対する裏切りではないかと思います。  審議の進め方については、廣見委員の言われたような方法もあると思いますが、基本 的に、ここで中断することについて私は反対します。 ○荒木委員 長谷川委員が言われたように、昨年10月にこの分科会を開始したとき、ま ず労働契約法は必要かどうかということで随分議論したと思います。先ほど長谷川委員 が言われたように、とにかく雇用関係についてきちんとしたルールが必要だということ については、大方の合意があったのではないかと思います。  現在、雇用関係を取り巻く環境が大きく変化していて、個別紛争が非常に増加してい る。こういう雇用関係の中に、きちんとした法の支配というのを及ぼしていこうと、そ れが労働契約法を作ろうという理念だと理解しています。まさに労働基準法と並ぶ大立 法に我々は現在従事していると考えています。この作業を相当期間かけてやってきてい るわけで、これまで積み上げてきた議論のプロセスを、この段階で中断するのは非常に 残念なことであるし、あってはならないことではないかと私は考えています。  したがって、このままの状態で進めることには反対であるという意見がありましたが、 先ほど廣見委員が示唆されたかもしれませんが、もし可能であれば、例えば労側と公益 委員、使側と公益委員という形で、実質的な内容についてさらに論点を深めるというこ とで、これまでのプロセスを継続するための、何らかの道を探れないかを検討していた だければと考えています。 ○渡辺章委員 私は一つだけ。この検討会の始まりは、国会の附帯決議が根拠になって いるわけです。立法府の国会における決議というのは、労使、行政、我々国民としても 重く受けとめるべきであり、誠実に履行すべきことであると思います。  そういう意味で、紀陸委員からは素案を7月に出すことには強く反対であると。長谷 川委員からは一時的に中断するということで、契約法を作っていこうという基本的なと ころに反対をされているわけではないので、改めてどのようにしてこの分科会を継続し ていくかという視点で、物事を考えるべきではないかと思います。  他国の場合においても、労働契約法というのは数十年かけてやっている所もあります。 拙速はよくないということは共通の認識だと思います。しかし、作業をやめたり中断し たりすべきではないと思いますので、運び方について分科会長に特段の配慮をお願いし たいと思います。 ○西村分科会長 いま各委員の方から御意見がありましたが、労働契約に関わるルール が必要であることについては、認識は一致しています。その内容について、十分な議論 がまだないということです。労使の側からこのような形で審議を継続することに重大な 異議が出されている段階では、廣見委員の御意見にもありましたように、公益委員の側 において労使各側と少し調整をした上で、次回の分科会を開催するのがいちばん妥当か という感じがします。  淡々とした議論というには、少し白熱したところもありますけれども、少し中断をし てでも労働契約法制、労働時間法制の在り方について議論は続けていくべきであろうと 思います。労使各側との調整のために少し時間をいただいて、次回はそのあとで開催す るということでいかがでしょうか。それで特に御異論がなければ、随分時間が早いです が、本日はこれで終了したいと思います。本日の議事録の署名は、八野委員と紀陸委員 にお願いしたいと思います。お忙しい中をありがとうございました。                   (照会先)                     労働基準局監督課企画係(内線5423)