資料1


医師の需給に関する検討会報告書(案)



医師の需給に関する検討会報告書(案)


 はじめに
医師の需給については、昭和45年には、「最小限必要な医師数を人口10万対150人とし、これを昭和60年を目途に充たそうとすれば、当面ここ4〜5年のうちに医科大学の入学定員を1,700人程度増加させ、約6,000人に引き上げる必要がある」とされた。

このことを目標とし、その後昭和48年から「無医大県解消構想」いわゆる「一県一医科大学」設置が推進され、昭和56年には医学部の入学定員は8,360人となった。その結果「人口10万対150人」の医師の目標は昭和58年に達成された。

その後も依然として毎年8,000人を超える医師が誕生していくことが見込まれる状況の中、将来の医師の需給バランスについて検討し、所要の措置を講ずるべきとの指摘がなされるようになったことを受けて、昭和59年5月に「将来の医師需給に関する検討委員会」が設置され、昭和59年11月に中間意見が、昭和61年6月に最終意見が取りまとめられた。その内容は、昭和100(平成37)年には全医師の1割程度が過剰となるとの将来推計を踏まえ、「当面、昭和70(平成7)年を目途として医師の新規参入を最低限10%程度削減する必要がある。」というものであった。旧厚生省はこれを受けて、医学部の入学定員の削減について関係各方面に協力を求めてきた。

その結果、平成5年には医学部入学定員は7,725人(削減率7.7%)となったが、当初目標の10%削減には達していない状況にあった。平成5年8月には「医師需給の見直し等に関する検討委員会」が開催され、平成6年11月に意見を公表した。その中で、将来の医師需給について推計を行ったところ、将来医師が過剰になるとの推計結果を得たため、「若干の期間をおいて推計値を検証して、必要であるとすればその適正化のための対策を立て、できるだけ速やかに実行することが望ましい」と提言した。

この報告書が発表された後、医学部の入学定員はほとんど変化しなかったが、介護保険制度の創設等新たな要素を勘案した上で新たなデータが得られる時期となったこと、また、平成9年3月に医師数を抑制する旨の閣議決定がなされたことから、平成9年7月新たに「医師の需給に関する検討会」を設置し、平成10年5月報告書を公表した。これによると、医師の需給に関する認識としては、「地域的にみて医師の配置に不均衡がみられるものの、現在の医師数の状況は全体としては未だ過剰な事態には至っていないが、診療所医師数の増加がある程度続いた後は医師の過剰問題がより一層顕在化し始める」というものであった。

一方、新聞報道で医師不足が取り上げられた件数について年次推移をみると、平成12(2000)年以降、徐々に件数が増加するなど、近年、特定の地域や診療科について医師の不足を指摘する声が強まった。これらを背景に、「へき地を含む地域における医師の確保等の促進について」(平成16年2月26日。地域医療に関する関係省庁連絡会議)において、「医師の養成・就業の実態、地域や診療科による偏在等を総合的に勘案し、平成17年度中を目途に医師の需給見通しの見直しを行う。」とされた。これを受け、平成17年2月より新たな「医師の需給に関する検討会」(以下、「本検討会」という。)を開催した。

本検討会では、平成17年7月、中間報告として、「当面の医師確保対策」を取りまとめた。厚生労働省では、これに並行して、総務省および文部科学省とともに関係省庁連絡会議を開催し、平成17年8月には「医師確保総合対策」が策定された。また、本年6月に成立した「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部改正」において、都道府県を中心に地域の医師確保を図るための枠組み(地域医療対策協議会)が創設されるなど、制度、予算、診療報酬の各般にわたる取組みを行った。

この後、本検討会において新しい医師の需給見直しを作成するには、医師の勤務状況を把握することが必要ということになり、平成17年12月から18年1月にかけて、医師の勤務状況に関する調査を行った。

平成18年4月以降、国会において、上記法律案の審議が行われたが、この中でも、地域や診療科に関する医師の確保方策が大きな論点となった。

本検討会報告書は、国会等における議論も踏まえて行われた1○回の議論を踏まえてまとめたものである。

 医師の需給に関する現状
(1)全体の状況
現状では、年間約7,700人程度の新たな医師が誕生している。また、2年ごとに行われる医師・歯科医師・薬剤師調査では、7,000〜8,000人程度が増加していることから、退職などを差し引いた、医師の増加数は年間3,500〜4,000人程度と概算される。

病院・診療所別にみても、それぞれ増加傾向が見られる。病院と診療所に勤務する割合の推移を年齢階級別にみると、各年齢階級での大きな変化は見られない。近年の診療所に勤務する医師の増加は、前述の医学部入学定員の増加に伴い、診療所勤務の割合が高い高年齢層での医師数が増加していることによるものと考えられる。

都道府県別に医師数の変動をみると、平成10年と比較して、すべての地域で人口当たりの医師数の増加がみられる。

これらから、医師数全体の動向としては、充足の方向にあると考えられる。

(2)病院における状況
病院に従事する医師数を、平成14年及び平成16年医師・歯科医師・薬剤師調査で比較すると、平成14年159,131人、平成16年163,683人と2年間に約4,600人が増加している。

このように病院における医師数が増加しているにもかかわらず、一方、病院における勤務の繁忙感が経年的に強まっていることが医療現場から強く指摘されている。そこで言われる主な理由は次の通りである。
(1) 患者の入院期間の短縮による診療密度の上昇
(2) インフォームドコンセント、医療安全に対する配慮の強化
(3) 医療技術の向上
(4) 1年365日24時間どんな時間でも専門医に診てもらいたいという患者側の要望
(5) 医師が作成する文書量の増大
(6) 医師の専門性の細分化による医師相互での診療依頼(コンサルテーション)の増加 等

入院患者に占める65歳以上の割合は平成2年には32.5%であったが、平成14年には45.2%となるなど、入院医療における高齢者の割合が増加している。

また、上記のような病院における繁忙感に加え、勤務に見合う処遇が与えられていないこと、さらに訴訟のリスクにさらされていることも含めて社会からの評価も低下しつつあるという感覚が病院診療の中核を担う中堅層に広がり、病院での勤務に燃え尽きるような形で、病院を退職する医師が増加しているとの指摘がある。

(3)診療所における状況
診療所に従事する医師数を、平成14年及び平成16年医師・歯科医師・薬剤師調査で比較すると、平成14年90,443人、平成16年92,985人と2年間に約2,500人が増加している。一方、各年齢階級別に診療所に勤務する医師の割合を見ると、あまり変化は見られない。その増加は主として昭和40年代後半から50年代の医学部入学定員増の影響を受けた50歳代の医師の増加によるものとなっている。

各年齢において人口当たりの外来受療率は低下しており、医師一人当たりの患者数は一貫して減少傾向にある。

今回の医療制度改革においては、入院から在宅医療まで切れ目のない患者本位の医療を提供できるよう医療機能の分化・連携を推進している。こうした中で、診療所は、かかりつけ医機能を発揮し、一次救急医療の提供や、病診の役割分担、在宅医療の実施に際し受け皿となること等が期待される。

(4)診療科における状況
1)小児科
小児科については、この数年、新たに就職する医師が増加し、安定して増加している。平成16年医師・歯科医師・薬剤師調査では、臨床研修制度の開始直前の平成15年に医師となり、小児科に従事している者は556名であった。これは平成15年に医師となり、医療機関で勤務している医師全体の7.7%に当たる。

平成18年3月に実施した「臨床研修に関する調査(中間報告)」においても、臨床研修2年次生で研修修了後の進路を決めている者のうち、約8%が小児科を志望しており、減少する傾向は認められない。

小児科については、対象年齢の受療率の低下が見られるなど、少子化と相まって、全体としての医療の必要量は低下傾向にあるものの、核家族化の進行、共稼ぎ家庭の増加等にも起因して、休日や夜間の救急受診が増加し、さらに専門医志向も伴って、小児救急医療を実施する特定の病院への患者の集中など、患者の受診行動が変化している。これらの休日夜間における小児患者は9割以上は入院の必要がない軽症の患者であり、救急医療の対象者となるものは限られているのが実情である。こうした傾向に効率的に対応するためには、小児科の医師数の増加によるよりも、他職種と共同で小児患者の保護者向けの電話相談体制を整備することを含め、地域における診療所に勤務する医師が参加する休日夜間の小児医療提供体制の確立が優先されると考えられる。このためには、開業医で休日夜間診療を行うための動機付けを行うことが必要であり、地区医師会のリーダーシップが期待される。

2)産婦人科
産婦人科については、この数年は、新たに就職する医師は年間約300名程度と、相対的に低い水準で推移している。「臨床研修に関する調査(中間報告)」においても、進路を決めている者のうち、約5%が産婦人科を志望しており、臨床研修制度開始の前後で、新たに産婦人科を志望する医師の傾向に変化は見られない。

「臨床研修に関する調査(中間報告)」においては、専門として産婦人科を選択することを希望している者のうち、約7割が女性となっており、急速に女性の進出が進んでいる。女性医師全体からみると、小児科についで2番目に志望者の多い専門分野となっている。今後、女性にとって働きやすい環境の整備に特に配慮する必要があると考えられる。

出生数の減少に伴って、出生数当たりの産婦人科医師数は横ばいで推移しているものの、このままの状況が続けば、産婦人科医の減少傾向が続くため、地域によっては、妊婦にとって産科医療の利便性が損なわれることが想定される。

一方、医療においては、利便性より安全性がより重視されるべきであり、緊急事態への対応を図るためにも、相当の産科医師の配置が可能となるよう産科医療を提供する医療機関の重点化・集約化を進める必要がある。その際、集約される側の医療機関の役割分担と共に当該地域の医療提供体制のあり方にも十分配慮する必要がある。

また、産婦人科医師については、比較的早期に病院を離れる傾向があるため、新規の就業者の確保に加え、退職を抑制するための方策を講じる必要がある。

周産期医療では、可能な限り適切な医療を提供しても、一定の患者が不幸な転機をたどることがあり、このことについて国民・患者に周知が図られる必要がある。また、患者と産婦人科医の良好な関係を維持するため、中立的な機関により医療事故の原因究明を行う制度などが必要であるとの指摘があった。

3)麻酔科
麻酔科については、平成16年医師・歯科医師・薬剤師調査では、臨床研修制度の開始直前の平成15年に医師となり、麻酔科に従事している者は 339名であった。「臨床研修に関する調査(中間報告)」においては、進路を決めている者のうち、約6%が麻酔科を選択しており、堅調である。

麻酔科は、基本的に病院で勤務を続ける診療科であり、現在の状況が続けば、全国的には堅調に増加傾向が続くものと考えられる。

 医師の需給に関する見通し
 医師の需給に関する見通しの概要は以下のとおりである。なお、詳細は、別添報告書のとおりである。診療科別の見通しについては前述した。

(1)医師の需給についての基本的考え方
今回の推計も、前回と同様に、将来の受療動向を推計し、これに人口構成の将来推計を併せて、基本的な医療需要の変動を推計し、この変動に見合う医師数を将来の必要医師数としている。

前回は、医療需要の変動に合わせた医師数を推計するに当たり、医療法に定められた患者当たりの標準となる医師数を基礎として検討したが、今回は、実際の医師の勤務状況を調査し、これと将来の医療需要の変動推計を併せて検討したものであり、実際の医療現場の状況をより反映したものとなっている。

また、入院需要の変動を検討するに当たり、前回は入院受療率(ある時点での人口当たり入院患者数)に基づいていたが、現状では入院期間の短縮化が進んでおり、これに基づいて今後の入院需要を推定すると、将来の入院需要を実際の負荷よりも軽く評価することになるとの指摘もあった。そのため、今回は一定期間内に入退院する患者数(入院患者数および退院患者数)の動向に基づいて推計することとした。この方法は、医療処置の密度が高い急性期医療を重点的に評価するという特徴がある。

さらに、年齢ごとに1回ごとの入院や外来にかかる医療処置の量が異なっていることを考慮するため、年齢階級ごとの1回当たり医療処置の量の比を推計し、これに基づく調整を行うことにより、人口の高齢化等の影響を考慮している。今回の推計では、入院・外来とも年齢階級別1回当たり医療費を用いている。

なお、医師の養成には、6年間の医学部における教育と、2年間の臨床研修に加え、専門分野における数年間の時間が必要となる。そのため、医師数全体、特に臨床に従事する医師について増加、または減少させるという議論を行う場合、医学部入学定員による調整は、実際にそれが一人前の医師の誕生という効果を得るまでに少なくとも10年程度の時間が必要となることを認識しておく必要がある。さらに、いったん養成された医師の専門性を転換する場合にも多くの労力と時間が必要となる。

(2)医師の供給見通し
わが国では、海外からの医師の移動はほとんど無いため、わが国における医学部の卒業生数がほぼそのまま新たな医師数になる。したがって、ほぼ大学医学部の定員により、将来の医師数を見通すことが可能となる。

年齢階級毎の分布をみると、40歳代前半以下の世代では、医師の養成数がほぼ一定となっていることを反映し、各年齢はほぼ7,000人程度で一定となっている。医学部の定員が一定であるとすると、今後は医学部定員が大きく増加した昭和40年代以降に入学した50歳以上の医師が、増加数の中心となる。

女性については、子育て等が理由であると推測される若年層における人数の低下が、一般女性より少ないものの認められる。女性の就業割合は、医籍登録以降徐々に低下し、11年目には、男性に対して82.9%となる。医籍登録後12年目以降は上昇し、30年目以降は再び低下するが、35年目には、男性の就業率も低下するため、男性と女性はほぼ同等になる。医籍登録後45年目まで累積した男女の就業割合は、女性は男性の92.4%となる。

これらを考慮した見通しとしては、現状の医学部入学定員で推移すれば、医師数は、平成27年(2015年)には29.8万人(人口10万対 236人)、平成37年(2025年)には32.4万人(人口10万対 268人)、平成47年(2035年)には33.2万人(人口10万対 296人)となると推定される。また、医療施設に従事する医師は、平成27年(2015年)には28.5万人(人口10万対 226人)、平成37年(2025年)には31.0万人(人口10万対 256人)、平成47年(2035年)には32.1万人(人口10万対 282人)となると推定される。

なお、平成10年に行われた検討では、医師の労働力提供を70歳までとしていたが、医師・歯科医師・薬剤師調査による現在の就労状況にかんがみ、今回は上限を設定していない。

(3)医師の需要の見通し
今回の需要の見通しの検討においては、国民皆保険とフリーアクセスが確保されている中、現状で総量としては、基本的には国民が必要としている医療を提供しているものと仮定し、医師の勤務時間の現状と、勤務時間のあるべき姿とのギャップを現状の医師数に上乗せした人員を現在の医師必要数と置いた。必要医師数の算定に当たっては、医師の勤務時間を週48時間とおいた。なお、調査によれば、医師の勤務時間には大きなばらつきがあるが、長時間労働を行っている者について週48時間に短縮することとしつつそれより短時間の者については、48時間まで勤務時間を増加するとはしていない(短時間労働の者については、現状のままと仮定)。これによれば、平成16年(2004年)において、無職や保健医療関係以外の業務に従事している医師を除いた全ての医師が26.8万人であるのに対し、必要医師数は27.7万人と推計される。

なお、上記の推計は、医師が医療機関において過ごす時間のうち、診療、教育、他のスタッフ等への教育、その他会議等の時間を勤務時間と考え、これを週48時間までに短縮するのに必要な医師数から求めたものである。また、仮に、休憩時間や自己研修、研究といった時間も含む医療機関に滞在する時間を全て勤務時間と考え、これを週48時間までに短縮するには、必要医師数は32.4万人と推計される。しかしながら、休憩時間や自己研修は、通常は勤務時間とは見なされない時間であり、これらを含んだ時間を全て勤務時間と考えることは適切ではない。

また、仮に、診療を行っている時間のみを勤務時間とすると、これを40時間までに短縮するには、必要医師数は27.9万人と推計される。

将来の医療需要を推計するに当たっては、まず、外来受療率、退院患者発生率について、以前の値から指数曲線によって回帰した場合(回帰法)、現在の値を将来にもそのまま当てはめた場合(固定法)、回帰による変動幅を3割までに限定した場合(限定法)といった方法でそれぞれ将来推計を行った。

次に、外来受療率、退院患者発生率の推計値に将来人口を乗じてそれぞれ外来医療および入院医療の需要について将来推計を行った。さらに、患者の実際の医療ニーズを反映させるため、これに年齢階級別1回当たり医療費の比率による調整(重み付け)をおこなった。次に、医師の勤務状況調査から推定された、外来と入院に医師が費やす時間の総計の比率(外来対入院=6:4)に基づき、外来医療と入院医療を合わせた将来の医療需要の変動を推計した。必要医師数の変動はこの将来の医療需要の変動に一致すると仮定した。

年齢階級別の受診1回当たり医療費による重み付けを行った外来診療の需要の動向は、これまでの動向に基づいた回帰法では、平成52年(2040年)には現状の約7割の水準まで低下する。また、現在の受療率が続くとした固定法では平成40年(2028年)頃に現在の約1.2倍の水準でピークとなりその後は緩やかに減少する。回帰による受療率の変動幅を現状の3割までとすると(限定法)、平成52年(2040年)には現在の約9割の水準まで低下する。

年齢階級別の入院一回当たり医療費による重み付けを行った入院診療の需要の動向は、これまでの動向に基づいた回帰法では、今後上昇を続け、平成52年(2040年)には現状の約1.7倍に達する。また現在の退院率が続くと仮定した固定法では、平成42年(2030年)には現状の約1.3倍に達し、その後、ほぼ横ばいに推移する。回帰による退院患者発生率の変動幅を現状の3割までとすると(限定法)、平成52年(2040年)に約1.4倍となる。これらのいずれの推計においても平成27年(2015年)頃までほぼ一致して約1.2倍まで上昇する。

外来診療と入院診療を診療時間の比率である6:4で合わせた需要の動向については、固定法では、平成44年(2032年)に現在の1.24倍でピークとなり、その後は徐々に低下する。回帰法では、平成52年(2040年)に1.16倍となるまで増加する。固定法では、平成52年(2040年)に1.15倍となるまで増加する。回帰法と固定法は平成52年までほぼ重なって推移する。この動向に、現在の必要医師数を併せて変動させると、例えば限定法では、徐々に必要医師数が増加し、平成52年(2040年)には医療機関に従事する必要医師数は31.0万人となると推計される。

(4)病院・診療所別に見た医師数の需給予測
1)病院・診療所別に見た医師の供給予測
医師は、就業開始後、時間が経過するに従い、病院勤務から診療所勤務に徐々に移行する。仮に、病院勤務から診療所勤務に移行する割合が一定であるとした場合の将来の病院・診療所別に勤務する医師数を予測すると、今後の医師数の増加は、50歳以上の医師が中心となるため、診療所に勤務する医師の増加に比べ、病院に勤務する医師の増加は限られたものとなり、平成37年(2025年)には、病院で勤務する医師は約17.6万人、診療所で勤務する医師は約13.3万人になり、病院で勤務する医師についてはこれ以降横ばいになる。平成47年(2035年)には、病院で勤務する医師は約17.6万人、診療所で勤務する医師は約14.5万人になりその後安定すると予測される。
(平成47年の病院従事者 対 診療所従事者=55:45、現在は64:36)

2)病院・診療所別に見た医師の需要予測
病院における医師の需要予測を行うと、病院における医師は、診療時間のうち、6割の時間を入院診療に費やしており、入院医療の需要予測に従って、例えば限定法を当てはめると、平成52年(2040年)には現状の約1.4倍となる。一方、病院に勤務する医師数は、現在の16.4万人から17.6万人まで7%程度増加すると推計される。このような状況から長期的に見て、病院に大きな負荷が生じる可能性がある。ただし、病院で勤務する医師の診療時間の4割が外来に費やされていることの是非は別途論じられる必要がある。

(5)医師の需給の見通し
将来の医療需要の推計に当たってこれまでの推移と現状とのバランスをとった「限定法」を用いると、医師の需給の見通しとしては、マクロ的には必要な医師数は供給されるという結果になった。しかし、需要は、医療政策をはじめとして様々な要因の影響を受けるため、確定的ではない。したがって、これは、今後ある程度医師の需要が増大した場合にも、必要医師数が確保できることを示していると理解すべきである。

ただし、これは、現在の医師の勤務状況について、診療や教育など医師の勤務として必須と考えられる時間を基礎としており、自己研修や研究、休憩時間などを含め、各医師がゆとりを持って勤務するためには、各病院や各地域の医療提供体制・医師の業務を見直し、医師が限られた時間の中で本来の業務に専念できるような体制づくりが必要であることを前提としていることに留意が必要である。

また、病院と診療所との関係については、今後、入院医療の需要が増大する可能性があり、これに対応するためには病院と診療所の間で医師の配置と業務の分担を調整する必要がある。

 今後の対応の基本的考え方
まず、現状をまとめると、病院、診療所とも、医師数は一貫して増加しており、また、地域でみても全ての地域で増加している。ただし、地域間の格差は必ずしも減少の方向には向かっていない。

地域における医師配置の問題は、地方を中心に、大学病院における卒後臨床研修医を始めとした若手医師が減少するとともに、研修医に対する指導体制や医療提供体制の確保に努める必要が生じたことから、大学が従来のように地域の医療機関等からの医師紹介の要請に応じることが困難になりつつある一方、それに代替する医師の紹介・派遣システムが確立していないことに大きく起因するものと考えられる。また、大学からの紹介・派遣に依存してきた病院では、医師の募集に不慣れなことや、医師の処遇への配慮が欠けているとの指摘もある。したがって、医師に対してキャリアパスを示して地方勤務の動機付けを行うことが重要である。

医師の養成には時間がかかること、また、多額の国費が投入されていることを踏まえれば、医師数が大きく過剰になるような養成を行うことは適当ではない。一方で、医師の繁忙感や不足感に対応しつつ、増大する国民の期待に応えるためには、医師の定数のあり方にかかわらず、業務のあり方の見直し等による生産性の向上を図ることが必須となる。まず各病院内を含む医療提供体制の改善・効率化から取り組む必要がある。効率が向上することにより、患者に対し十分な医療の提供ができるだけでなく、医師の勤務環境の改善にもつながることが期待できる。

また、医療資源と医療従事者が限られていることを考えれば、医療の受け手である国民・患者に正しい情報を提供し、必要に応じてその意識を改革することが重要であり、今後、行政、保険者、医療提供者、マスコミ等各般の主体による早い段階からの国民・患者への啓蒙活動を行うことが重要である。

(1)医師の配置の調整
現在起こっている地域・診療科における医師不足は、従来からの地方医大における地元出身者の割合が限られていることに加えて前述のとおり近年の医師の流動化等により、大学により大きな差はあるが大学が従来のように医師紹介の要請に応じることが困難になったことによって生じていると考えられる。

そのため、まず、大学を含む地域内の医療機関や関係者が参加して、地域の医療ニーズをきちんと把握した上で、医師配置について認識の共有と、調整を行うシステムの構築が急務である。これは、医療法の改正に盛り込まれた地域医療対策協議会がその役割を果たすこととされており、都道府県が運営の中核を担うことが求められる。

地方公共団体が設立・運営する病院では、組織内のみならず地域内での医師の効果的な配置・相互の異動を実施することが期待される。

また、傘下に多数の病院を有する国立病院機構、日本赤十字社、済生会等の団体にあっては、組織内の医師の効果的な配置・異動の取組みが行われており、一層の成果が期待される。

(2)持続的な勤務が可能となる環境の構築と生産性の向上
医師不足の声が上がっている診療科や地域では、医師の人数が少ないために、長時間拘束されることなど、元来、勤務の継続が困難であることが指摘されている。地域で集約化を行い、医師への負担を軽減することや、他の職種のサポートなどで、持続的な勤務が可能となる環境を構築する必要がある。また、今後女性医師の比率が上昇していくことも踏まえ、出産や育児といった多様なライフステージに応じた働き方が可能となる環境の整備も必要となる。併せて、いつでも相談に応じるという安心感で患者とかかりつけ医が結ばれ、地域におけるかかりつけ医の機能を強化することにより、病院への過度の患者集中を軽減することも求められる。

持続的な勤務が可能となる環境の構築は、産婦人科など不足が指摘される診療科で、退職者を抑制する効果が期待できるだけでなく、新たに就業する医師数を増加させるためにも必要である。

また、医師が行っている事務作業など業務の内容を確認し、事務職や看護師など他の職種で対応できる業務については、見直すことにより、医師が本来の業務に専念できるような体制をつくる必要がある。これにより、患者に対し十分な医療が提供できると共に、医師の過度の負担が軽減されることが期待される。

(3)手術等の医療を担う地域の中核的な医療を担う病院の位置付け
病院の役割としては、手術等や救急医療のための入院医療を適切に実施することが最も重要である。医師をはじめとした、病床当たりのスタッフ数は、諸外国に比較して限られていることが指摘されており、人員の配置や効率的・有効的な病院内のシステム、資金の配分等について、他の医療資源も含めて、地域において中核的な医療機能を果たす医療機関の位置付けが必要である。

医師の勤務状況調査によると、病院では、若年の医師ほど勤務時間が長く、一面では、「病院では若い医師だけが不足している」と見ることもできる結果となっている。今後は、中堅層のキャリアの形成を視点に入れ、勤務体系の短時間勤務や交代勤務等による多様化などにより、出産・育児といった多様なライフステージにも対応し、さまざまな年代の医師が病院において長期に勤務できるシステムを構築する必要がある。

(4)医師の確保に関する取り組み
大学医学部の入試における地域枠の設定や、地方公共団体が取り組んでいる9年間程度の勤務地を指定した奨学金の設定、さらには地域枠と奨学金の連動は、地域における医師の確保に一定の効果が期待される。

「臨床研修に関する調査(中間報告)」では、研修修了後の進路選択に当たって、十分な情報に基づいて判断していないことが推測される結果が示されている。医師の確保を希望する各主体は、研修内容や処遇について十分な情報提供を行うことが求められている。

(5)臨床研修制度の活用等
臨床研修制度により全ての医師がプライマリ・ケアのための基本的な診療能力を身につけることは、中長期的には専門細分化された非効率的な医療提供の解消に資するものであり、今後とも推進することが必要である。なお、臨床研修制度については、施行5年以内の見直しが規定されているが、それを待たずに地域別、診療科別の医師偏在緩和に資することができるよう、補助制度の見直しを含めて、適切な措置を講じることが必要である。また、臨床研修修了後のいわゆる後期研修において、特定の大学・病院に医師が集中しないような措置を検討することが必要である。

(6)診療科別必要医師数の検討
国会で議論されたように、全体の医師数が不足か足りているかという議論は、現実と遊離したものになりやすい。一方、診療科別の必要医師数については、その算定方法等個々の困難はあるが、今後、病院機能の再編成、病診の役割分担、専門医の位置づけ・役割等を踏まえ、また効果的な誘導策等も考慮しつつ検討することが望まれる。

(7)医学部定員の暫定的な調整
前述のように、医学部定員の増加は、短期的には効果がみられず、中長期的には医師過剰をきたす。一方、医師数の地域間格差は、必ずしも縮小しておらず、(へき地を含む)地域における医療体制の確保は喫緊の課題であることから、すでに地域において医師の地域定着策について種々の施策を講じているにも係わらず人口に比して医学部定員が少ないために未だ医師が不足している県の大学医学部に対して、さらに実効性のある地域定着策の実施を前提として定員の暫定的な調整を検討すべきとの意見があった。

 おわりに
国民の医師充足感は、全体の医師数のみではなく、国民の医療に対する期待感をはじめ、時代、環境の変化を含めた多くの要因によって影響を受けるものである。

今回の推計では、マクロ的には必要な医師数は供給されるという結果になった。しかしながら、これは地域や診療科といったミクロの領域での需要が自然に満たされることを意味するものではない。

4で記述した基本的考え方を実現するためには、国、都道府県、医師会、病院、学会、大学等がそれぞれの役割を果たすことにより、国民・患者とこれに実際に接する医師との良好な関係を築くことが不可欠である。

特に、国にあっては、今回の医療制度改革で示した方針、施策を着実に実施することが求められる。

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