資料3−4

「振動障害等の防止に関わる作業管理のあり方検討会」
第3回資料
「振動や騒音に関する諸外国の取り組み状況」

1:背景
 EU Directive and Physical Agent Directive (Vibration)が、平成17年7月にEU加盟国でスタートした。EU加盟国(例:イギリス、フランス、イタリア、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、スエーデン等)では、このEU Directive and Physical Agent Directive (Vibration)を各国の法律に取り入れてきている。その中で、最も熱心に推進を図っている英国の状況をもとに、今後の我が国のあり方について報告する。

2:施行されたEU Directive and Physical Agent Directive (Vibration)
ここでは、簡単に7月より施行されているEU DirectiveとPhysical Agent Directive (Vibration)がどのようなものであるかを簡単に説明する。

(a)Directive 98/37/EC of the European Parliament and of the council of 22 June 1998 on the approximation of the laws of Member States relating to machinery. (Machinery Safety Directive)
“Vibration: Machinery must be designed and constructed that risks resulting from vibrations produced by the machinery are reduced to the lowest level, taking account of technical progress and the availability of means of reducing vibration, in particular at source.”
“振動:機械の設計・製作は、特に振動源での振動低減技術の発展とその方法の利用可能性を考慮の上、振動による危険を最低レベルに抑えるようにすること。”
“Apart from the minimum requirements set out in 1.7.4 of this Directive, the instruction handbook must contain the following information:
(1)regarding the vibration emitted by the machinery, either the actual value or a figure calculated from measurements performed on identical machinery:
 -the weighted root mean square acceleration value to which the arms are subjected, if it exceeds 2.5 m/s2, should it not exceed 2.5 m/s2, this must be mentioned.
 -The weighted root mean square acceleration value to which the body (feet or posterior) is subjected, if it exceeds 0.5 m/s2, should not exceed 0.5 m/s2, this must be mentioned.
 暴露対策値である2.5m/s2を越しているかいないかの表示が義務付けられている。
Where the harmonized standards are not applied, the vibration must be measured using the most appropriate method for the machinery concerned.
The manufacturer must indicate the operating conditions of the machinery during measurement and which methods were used for taking the measurement;
(2)in the case of machinery allowing several uses depending on the equipment used, manufacturers of basic machinery to which interchangeable equipment may be attached and manufacturers of the interchangeable equipment must provide the necessary information to enable the equipment to be fitted and used safely.
(3)
(b)Directive 2002/44/EC of the European parliament and of the council of 25 June 2002 on the minimum health and safety requirements regarding the exposure of workers to the risks arising from physical agents (vibration)
この指令は、評議会指令89/391/EEC第16条(1)の目的における個別指令であり、機械的振動曝露から生じる、あるいは生じる可能性のある安全と健康への危険から労働者を保護するための最低必要条件を定めている。
EC指令 (2002/44/EC)
 Directive 2002/44/EC of the European Parliament and of the Council of 25 June 2002 on the minimum health and safety requirements regarding the exposure of workers to the risks arising from physical agents (vibration)では、手腕振動について次のように規定している。
1)加盟国は,2005年7月6日までに、この指令に適合するために必要な法律・規則・政令を実施しなければならない。
2)1日8時間の等価振動加速度として、振動暴露限界値(exposure limit value)を5 m/s2 rmsとし、振動暴露対策値(exposure action value)を2.5 m/s2 rmsとする。
3)測定はISO 5349-1:2001に従い、周波数補正加速度(rms)の3軸合成値の8時間等価暴露量で評価する。

図


Definition
For the purpose of this Directive, the following terms shall mean:
‘hand-arm vibration’: the mechanical vibration that, when transmitted to the human hand-arm system, entails risks to the health and safety of workers, in particular vascular, bone or joint, neurological or muscular disorders;
「手腕振動」:人の手腕系組織に伝達し、労働者の健康と安全に対する危険性、特に血管、骨、関節、神経、筋肉の障害に対する危険性を伴う機械振動。
‘whole-body vibration’: the mechanical vibration that, when transmitted to the whole body, entails risks to the health and safety of workers, in particular lower-back morbidity and trauma of the spine.
「全身振動」:全身に伝達し、労働者の健康と安全に対する危険性、特に腰部障害や脊柱傷害に対する危険性を有する機械振動。
(1)振動曝露量は、事業所や職場の設計に予防対策を組み込む、また発生源で危険性を減らすことを優先させて作業の設備、手順、方式などを選択することによって、より効果的に削減することができる。作業設備と作業方式に関する規定は、関係する労働者の保護に貢献するものである。
(2)この指令は、職場における労働者の安全衛生を改善する奨励措置の導入に関する1989年6月12日の評議会指令89/391/EEC第16条(1)の目的における個別指令であるため、この指令に含まれるより厳格で特有の規定は損なわれることなく、評議会指令89/391/EECは労働者の振動曝露にも適用される。
Exposure limit values and action values
1. For hand-arm vibration:
(a)the daily exposure limit value standardized to an eight-hour reference period shall be 5 m/s2;
(b)the daily exposure action value standardized to an eight-hour reference period shall be 2.5 m/s2.
Workers’ exposure to hand-arm vibration shall be assessed or measured on the basis of the provisions of Point 1 of Part A of the Annex.
1.手腕振動について
(a) 8時間に標準化された1日曝露限界値(1日8時間暴露限界値)を5m/s2とする。
(b) 8時間に標準化された1日8間曝露曝露対策値(1日8時間暴露曝露対策値)を2.5m/s2とする。
労働者の手腕振動曝露は、付録のA、第1項目の規定に基づいて評価や測定される。

2. For whole-body vibration:
(a)the daily exposure limit value standardized to an eight-hour reference period shall be 1.15 m/s2 or, at the choice of the Member State concerned, a vibration dose value of 21 m/s1.75.
(b)the daily exposure action value standardized to an eight-hour reference period shall be 0.5 m/s2 or, at the choice of the Member State concerned, a vibration dose value of 9.1 m/s1.75.
Workers’ exposure to whole-body vibration shall be assessed or measured on the basis of the provisions of Point 1 of Part B of the Annex.
2.全身振動について:
(a) 1日8時間曝露限界値を1.15m/s2、関係加盟国の選択によっては振動量値21m/s1.75とする。
(b) 1日8時間曝露曝露対策値を0.5m/s2、関係加盟国の選択によっては振動量 9.1m/s1.75とする。
このように、Directive 98/37/EC(Machinery Safety Directive) とDirective 2002/44/EC(Physical Agent Directive-Vibration)が平成17年7月に施行され、手腕振動においては、手腕振動工具メーカーに振動低減の努力目標値を示すとともに、国際整合性のある試験規則でメーカーにて測定した工具それぞれの振動値を宣言するようになってきた。

3:施行されたEU Directive and Physical Agent Directive (Noise)
(a)Directive 98/37/EC of the European Parliament and of the council of 22 June 1998 on the approximation of the laws of Member States relating to machinery. (Machinery Safety Directive)
附属書I 機械及び安全関連部品の設計並びに構造に関する保険及び安全性に対する不可欠要求事項
はじめに
1.保険及び安全性に関する不可欠要求事項において規定した責務は,製造業者が予見できる状態で機械を使用したときに,当該機械に付随した危険性が存在する場合にのみ適用する。いかなる場合にも,1.1.2項,1.7.3項,1.7.4項は,当指令の適用を受ける機械すべてに適用する。
  注:1.1.2項,1.7.3項は騒音には関係していない。
1.7.4 取扱指示書
(f) 取扱説明書には,実測値又は同じモデルの機械について実施した測定値をもとに作成した値のいずれかにより,機械が発生する大気を介した騒音に関する以下の情報を盛り込むこと:
ワークステーションにおけるA特性等価音圧レベルが70dB(A)を超える場合は,その音圧レベルを;当該音圧レベルが70dB(A)未満の場合には,その旨記載すること。
ワークステーションにおけるC特性瞬時音圧尖頭値が63Pa(200mPaを130dBとする。)を超える場合,その音圧尖頭値。
機械から発生する騒音がワークステーションにおけるA特性等価音圧レベルとして85dB(A)を超える場合,機械から放射される音響パワーレベル。
非常に大きな機械の場合には,音響パワーレベルの代わりに,機械まわりの規定の位置における等価連続音圧レベルを記載してもよい。
整合規格が適用にならない場合には,当該機械に最も適した方法を用いて騒音レベルを測定すること。
製造者は,測定中の機械の動作条件及び測定方法を記載すること。
ワークステーションの指定がない場合又は指定をすることが出来ない場合には,機械の表面から1m離れた点で床又はアクセスプラットホームから1.60mの高さのところで音圧レベルを測定する。位置及び音圧の最大値を記載すること。
 (b)Directive 2003/10/EC of the European parliament and of the council of 6 February 2003 on the minimum health and safety requirements regarding the exposure of workers to the risks arising from physical agents (noise)
DIRECTIVE 2003/10/EC
は,騒音曝露による作業者の健康障害を防止することを目的としたものである。
 聴覚障害を引き起こす騒音は,機器そのものの騒音よりも,機器の使用により発生すする騒音の方が格段に大きく又作業内容による差異が大きい,DIRECTIVE 2000/14/EC:屋外使用機器の騒音指令のように,規定された条件下で測定された騒音を持ってしては,障害防止の効果が大幅に低下することは明らかであり,かつ曝露時間と暴露量が重要な要因となるため,騒音の基準を,作業時の作業者の耳元での
  C補正瞬間騒音値:ピーク音圧 PPEAK [単位 Pa];C特性瞬間音圧ピーク値
  8時間等価騒音曝露値:LEX,8h[単位 dB(A)];A特性音圧レベルをベースに計算する値
で規制するものである。

セクションI
一般的な規定
第1条
目的及び適用範囲
1.指令89/31/EECの第16条(1)の趣意中の第17番目の個別指令であるこの指令は,騒音に曝される又は曝される可能性からの健康と安全への危険性,特に聴覚への危険性からの労働者の保護のための最低限の要求事項を規定するものである。
2.この要求事項は,労働者がその労働の結果として騒音からの危険性に曝される又は曝される可能性のある行動に対して適用しなければならない。
3.指令89/391/EECは,第1節に言及するすべての分野を偏見なく,より厳しく適用し,そして/又はこの指令に含む特別な条文を適用しなければならない。
第2条
定義
 この指令の目的のために,危険予測値として用いられる物理的要因を下記のように定義する。
(a)ピーク音圧(Ppeak) : “C”周波数補正した瞬時騒音音圧の最大値
(b)日次騒音曝露レベル(LEX,8h)(20μPa基準のdB(A)) : 国際規格ISO 1999:1990 3.6項に規定される,公称1日8時間労働の騒音曝露レベルの時間加重平均。瞬間的な騒音を含むすべての騒音に適用する。
(c)週次騒音曝露レベル(LEX,8h) : 国際規格ISO 1999:1990 3.6項(注2)に規定される,1日8時間の公称1週間に対する日次騒音曝露レベルの時間加重平均。
第3条
曝露限界値及び曝露対策値
1.この指令の目的のために,日次騒音曝露レベル及びピーク音圧に関する曝露限度値及び曝露対策値を定める。
(a)曝露限界値:それぞれ,  LEX,8h=87 dB(A)  及びPpeak=200Pa (1)
(b)上限曝露対策値:それぞれ  LEX,8h=85 dB(A)  及びPpeak=140Pa (2)
(c)下限曝露対策値:それぞれ  LEX,8h=80 dB(A)  及びPpeak=112Pa (3)
2.曝露限界値を適用するときは,労働者に影響を与える曝露の測定は労働者が着用する個別の聴力保護具による減衰を考慮しなければならない。曝露対策値については,いかなる保護具の効果も考慮してはならない。
3.正当と理由付けできる環境において,日次騒音曝露が1労働日と次の労働日で著しく異なる行動に対して,加盟国は,曝露限界値と曝露対策値を適用する目的のために,労働者が曝される騒音のレベルを評価するのに日次騒音曝露レベルの代わりに週次騒音曝露レベルを,次の条件下で用いてもよい:
(a)適切な監視下で示される週次曝露が87dB(A)の限界レベルを超えることがなく;かつ
(b)その行動に関係を持つ危険性を最低に減少するための適切な測定が行われること。
-------------------
(1)20μPa基準の140dB(C)
(2)20μPa基準の137dB(C)
(3)20μPa基準の135dB(C)


4.英国の状況
 英国では、労働者や事業主が工具の振動の管理・保守などが出来ないことから、工具をレンタルしている会社やその組織(EPTA)などが中心になり、工具メーカーから提出されている宣言値に基づき、1日8時間の等価振動加速度として、振動暴露限界値(exposure limit value)5 m/s2 rmsを基準にして、交通信号(Traffic Light System)と言う名のシステムを導入し、工具の振動の危険性と使用時間の簡易的な表示方法を考え、その表示を工具それぞれに行っている。Traffic Light Systemの目的が下記に示されている。

図

そして、各工具レンタル会社は、工具メーカーの宣言値に基づいて、赤・橙・緑の分類を行い下記のような表を独自に作成している。

図

そして、その分類に基づいて、下記のような工具それぞれに明示するためのラベルを作成してきている。その工具へのラベリングの方法はレンタル会社により多少違いはあるが、考え方は同じである。

図

左側のラベリング方法は、工具に輪ゴムなどで取り付けるタイプである。右側のラベリング方法は工具自体に貼り付けるタイプである。実際に工具に貼り付けられている場合を下記に示す。

図

このラベリングにより、作業者や事業主は、それぞれの工具の危険性や、1日の使用時間を用意に理解することが出来ると考えられる。

ここで、英国のレンタル会社が考えているTraffic Light Systemの振動工具の振動レベルと作業時間の関係には次のような関係を想定している。

図

1日の等価振動加速度レベル(A(8))と工具の振動レベル(ahw)と作業時間(T)の間に上記の式を考え、A(8)=5を1日の許容できる振動の大きさの最大としている。そして、この値よりも振動レベルが低い工具であれば1日8時間の使用は可能であるという考え方に基づいている。そして、A(8)が5以上10以下であれば、2時間の以内の振動工具の使用が可能であると考えている。そして、A(8)が10以上の場合は、使用に関して工具のリスクを再評価するとともに、使用方法に関して企業内の安全管理者に相談することになっている。また、上式の工具の振動レベル(ahw)は、下記の工具のハンドルの3軸振動値から決められている。

図

工具メーカーの宣言値が工具振動の1軸の場合は、その値を1.4倍して、3軸値として、使用時間等を評価していた。これらの値は、ISO等の試験規則に基づいて各メーカーにて測定評価され提出された工具から発生される振動値(Emission Values)である。

5.今後の日本の対応について

 わが国には、振動工具の使用に関して2時間規制の考え方が存在していたが、この2時間規制では、振動工具の振動のレベルについての規制は含まれていなかった。すなわち、どんなに大きな振動レベルの工具でも2時間、また、どんなに振動レベルが小さい工具でも使用時間は2時間に限定されてきていた。

この考え方には大きな疑問点があるので、わが国でもEU諸国で取り入れられている下記の考え方の導入が急がれると思われる。

図

この考え方を導入することにより、工具の振動レベルの大きなものの使用時間は短くなり、振動レベルの小さなものは、使用時間が長くなる考え方である。そして、1日等価振動工具の振動の暴露限界値を5m/s2rmsと考え、下図の考え方を許容基準の基準として考える必要があると考えられる。

図

そして、わが国でも、英国で考えられてきているようなTraffic Light Systemの導入が急がれると考えられる。わが国でも下記のような考え方を導入することにより、作業者や事業主に情報を与えることが可能と考えられる。

A(8)値 1日許容作業時間 カラー
A(8)<5 最大8時間
5<A(8)<10 最大2時間
A(8)>10 再評価

このような事を実施するにあたり、今後考えなければならない事がいくつかある。わが国には、労働者や事業主が、英国のような工具レンタル会社から工具をレンタルして使用するような経験は少ない。また、わが国のレンタル会社に、労働者や事業主に工具の安全性などを伝えるような工具のレンタル時の考え方はないように思われる。


6.導入の問題点

従って、上記のようなシステムを取り入れるためには下記のような事を解決しなければならないと思われる。

1:わが国の工具メーカーは、国際整合性のある試験規則による振動工具別の宣言値を出すことが可能か?
2:わが国には、そのような試験規則のJIS規格は存在しているのか?
3:わが国には、英国のようなレンタル会社がないので、工具メーカーからの宣言値をどこが窓口になり受け取り、評価し、ラベリングするのか?
4:工具メーカーにラベリングをさせるのか?(工具メーカーのカタログ表示は可能であると思われる)
5:また、零細企業で、自社にて宣言値を出せないような企業に関しては、どのように対応するのか?


7.結論

1:ラベリングを実施することが望ましい。
2:EUと同じ考え方のA(8)=5を1日の暴露限界値として、3段階のシステムを取り入れる。
3:工具メーカーに宣言値を提出してもらう。そして、その値を3段階システムにあうような形でカタログ表示と工具に表示してもらう。
4:零細企業で試験規則に準拠した測定が出来ない場合は、ISO 5349-1に準拠した方法で代表的な作業での振動値を測定していただき、そのデータをEmission値と考える。
上記のようなシステムがわが国でも実施されると、労働者や事業主に対して、振動工具の使用限界を示すことができ、それを作業者や事業主が守ることにより、手腕振動障害への罹患率を減少できると考えられる。

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