治験を含む臨床研究基盤の整備に係る専門作業班 報告書


 文部科学省と厚生労働省は、平成15年4月30日に「全国治験活性化3ヵ年計画」(以下「3ヵ年計画」という。)を策定し、わが国における治験の現状及び課題等とともに、平成15〜17年度における治験活性化策について、そのフォローアップの在り方も含め提示した。

 一方、さらなる治験の実施環境や実務上の負担軽減等の課題が指摘されるとともに、国内未承認薬の使用について、治験制度の活用により保険診療との併用が可能となり、治験制度の一層の普及を図る必要があることから、厚生労働省は、平成17年3月「治験のあり方に関する検討会」を設置することとした。

 同検討会において、平成17年3月から計4回にわたり討議が行われ、平成17年7月に「治験のあり方に関する主な論点」がとりまとめられた。この中で、「A-1.治験を含む臨床研究基盤の整備について」は、専門家による作業班を設置して具体的に検討することされたため、平成17年8月、「治験を含む臨床研究基盤の整備に係る専門作業班」(以下「専門作業班」という。)を設置し、「A-1.治験を含む臨床研究基盤の整備について」に係る論点について検討を行った結果、今般、ア)平成18年度中に実施すべき事項、イ)次期計画の策定も含めて平成18年度に検討すべき事項について以下のとおり取りまとめた。

 注)本報告書においては、「治験」及び「臨床研究」を合わせて、「治験等」という用語を用いることとする。



1. 治験を含む臨床研究の活性化のための新たな計画の必要性及びその内容の検討

 平成18年度は、3ヵ年計画の目標達成度合いの評価を行い、3ヵ年計画に盛り込まれた事項のうち、さらに取り組みを深化させるべき事項について、計画終了後においても引き続き実施するとともに、「医薬品産業ビジョン」の改定の動きと併せて、次期計画策定のための検討を行う。

 特に、次期計画策定に向けては、臨床研究基盤の整備に重点を置くとともに、治験を国際的に共同して行う基盤の整備についても検討する。


2.  医療機関の治験実施体制の充実

(1)  治験に係る医療機関ネットワーク及び個々の治験実施施設のさらなる質の向上方策の検討

 3ヵ年計画において、治験の効率化のために、各医療機関のネットワーク化を推進し、治験の症例数を速やかに確保する体制を整備することとしている。

 現在、治験に係る医療機関ネットワーク(以下「治験ネットワーク」という。)としては、大規模治験ネットワーク、国立病院機構ネットワーク、大学及び大学間ネットワーク並びに地域ネットワーク等が存在している。

 このうち、大規模治験ネットワークについては、厚生労働科学研究費補助金「治験推進研究事業」により、社団法人日本医師会治験促進センター(以下「治験促進センター」という。)を中核事務局として、1090の登録施設に対し、治験に関する情報の提供等を行っている(平成17年12月6日現在。)。
 平成15年度には、登録医療機関が参画して、「がん」、「循環器」及び「小児疾患」の3疾患についてネットワークを構築し、現在それぞれ1課題の医師主導治験を実施中である。平成16〜17年度には医師主導治験のモデル研究8課題(医薬品)を採択し、うち2課題について治験届を提出した(平成17年12月1日現在)。

 治験ネットワークの中核事務局には、治験依頼者に対する、登録医療機関に関する情報提供を通じ、実施施設の選定や治験依頼者からの相談等の対応を行う「治験依頼者窓口機能」並びに、実施医療機関と治験依頼者との連絡・調整、治験実施に当たっての被験者リクルート及び医師及び治験コーディネーター(Clinical Research Coordinator;CRC)(以下「CRC」という。)への支援等を行う「実施医療機関支援機能」を果たすことが期待される。

 被験候補者を事前に登録する「患者パネル(または被験者パネル)」については、個人情報の保護の観点から特段の配慮の必要性が指摘されており、今後、患者パネルのあり方について検討がなされるべきである。

 平成18年度においては、以下の事項を実施する。
大規模治験ネットワークにおける中核事務局(治験促進センター)の機能を強化する(例:依頼者窓口機能の強化、実施医療機関支援機能の強化 等)。
国立病院機構ネットワークの機能強化を図る(例:依頼者窓口機能の強化、実施医療機関支援機能の強化 等)。
大学及び大学間ネットワークの現状に関する調査を行う(例:ネットワーク内の体制及び中核事務局の役割 等)。
地域ネットワークの現状に関する調査を行う(例:個別事例の分析 等)。
個人情報の保護に留意した患者パネルのあり方について検討する。
モデル研究の実施を踏まえ、医師主導治験を実施する際の課題を調査し、その対応策を検討する。

 さらに、次期計画の策定に向けては、以下の事項を検討する。
既存の治験ネットワーク(大規模治験ネットワーク、国立病院機構ネットワーク、大学ネットワーク及び地域ネットワーク等)の連携方策を検討する。
患者パネルのあり方に関する検討を踏まえ、公的に支援すべき分野がどこかを検討する。
「治験のあり方に関する検討会」における中央治験審査委員会(Central Institutional Review Board:以下「中央IRB」という。)制度に関する検討を踏まえ、治験ネットワークにおける中央IRBの支援方策について検討する。
医療機関における治験の位置づけを明確にするための方策を検討する(例:組織や業務の明確な位置づけ 等)。

(2)  治験に関与するデータマネジメント担当者等の研修等を行う制度の検討

 質の高い治験を効率的に行うためには、治験実施医療機関において、データの収集や整理の体制が整備されていることが望ましい。この点で、治験データの作成等に当たって、その基となる臨床情報の収集や整理を担当するデータマネジメント担当者(以下「データマネージャー」という。)と高度な生物統計学的知識に基づいてデータ解析作業を行う生物統計専門家(以下「生物統計家」という。)の果たす役割は大きい。

 生物統計家の養成過程(例:東京理科大学及び北里大学等の大学院の臨床統計履修コース並びに国立保健医療科学院の専門課程 等)で養成される生物統計家の人数及び提供される教育カリキュラム等に関する現状把握は行われていない。また、データマネージャーについても、その業務や組織における位置づけ等の現状は把握されておらず、これらについて調査を行う必要がある。

 平成18年度においては、医療機関において治験に従事するデータマネージャー及び生物統計家(以下「生物統計家等」という。)に関する以下の課題等について調査する。
例)
生物統計家の現段階における人数(企業、医療機関、大学、行政(審査担当))とその養成課程の現状(講座設置数及び年間修了者数 等)
医療機関における生物統計家等の業務の実状(例:職種、業務内容、研修 等)及び望ましい配置の姿
生物統計家等になるインセンティブ及びその向上方策
医療機関におけるデータマネジメント機能強化によるデータの品質及びモニタリングへの影響

 さらに、次期計画の策定に向けては、これら生物統計家等に係る課題等の調査を踏まえ、効果的な養成方法及び質の向上方策を検討する。


3.  治験に関与する関係職員等の養成・確保

(1)  さらなる医師の治験参画意識とインセンティブの向上方策の検討

 3ヵ年計画において、医師が治験に参画するインセンティブの向上を図るために、(1)治験受託費の研究費としてのより柔軟な活用方策、及び(2)治験に関わる業績の評価方法について検討することとしている。また、治験の課題の一つとして、医師をはじめとした医療関係者に治験の意義等に関する認識が希薄である面がみられるとして、これを改善するための具体的施策の充実が必要であるとしている。

 現状では、臨床に従事する医師の多くにとって、治験を行うインセンティブは乏しい。その理由は、(1)治験の意義等を学ぶ機会が少ないため、その重要性自体が認識されていないこと、(2)診療行為に多くの時間が費やされ、時間的余裕がないこと、及び(3)治験は基礎研究に比べて学問的評価が得られにくいこと等が挙げられる。

 このような状況を打開し、研究マインドを持った医師の積極的な治験参加を促すためには、(1)医師の間で治験の意義等が広く認知されること、(2)治験の実績が学問的に高く評価されること、並びに(3)治験を行う医師に対する時間的及び経済的な自由度を高めることが重要である。

 平成18年度には、医師に対する卒前教育及び卒後臨床研修における到達目標の達成を促すこととする。

 さらに、次期計画の策定に向けては、以下の事項を検討する。
治験実施医師に対するインセンティブを高めるための方策を検討する(例:学問的評価向上へむけた学会・関係機関等への働きかけの実施、治験等の意義の啓発の推進、治験実施に伴う研究費の弾力的な活用 等)。
卒後臨床研修における治験等に関する到達目標達成の成功例を収集・紹介する。
医師に基本的な生物統計学の知識を持たせるための方策を検討する(例:医師の卒前及び卒後教育における生物統計学の位置づけの明確化 等)。

(2)  治験関係者の養成等と質の向上方策の検討

1)  CRCの養成及び質の向上方策

 3ヵ年計画において、CRC研修終了者数5000人を目標に掲げ、CRCの養成確保を図っており、平成17年度中に当初の目標がほぼ達成されようとしている。

 CRC業務には、多くの医療機関において、薬剤師や看護師等がキャリアパスの一環として従事しており、数年毎に院内ローテーションを行うため、CRC業務を継続して行うことができないケースがある。また、薬剤師や看護師の過半を占める女性は結婚や出産等による離職率が高いことに加え、CRCの雇用形態としては雇用年限を区切られた非正規雇用が多いことからCRC業務の継続性が確保されないとの指摘もある。

 CRCは、被験者へのケア、治験スケジュールの調節及び治験責任医師等の支援等重要な業務を行っている。これらの業務は、被験者の保護のみならず、治験実施計画書の遵守等を通じ、治験の円滑かつ適切な実施において欠かせないものである。

 現状では、CRCは職種要件が課されていないが、CRC業務の専門性及び公益性を鑑みると、行うことができる業務の範囲及びその責任の所在を明確にした上で、CRCの認定制度等のあり方について検討する必要がある。養成研修に関しては、CRCの活動実態に合わせて実働数を確保するという観点から、養成計画を再検討すべきである。この場合、CRCとしてのキャリアパスの確立とともに、レベルに応じたきめ細かい研修(経験年数別教育研修及び電子的なデータ管理に対応するためのIT技術等)の実施等、質の向上に資する研修の充実が望まれる。

 平成18年度においては、CRC養成研修を継続し、CRC実働数の増加を図るとともに、CRCの現状に関する調査を行う(例:職種、離職率、業務内容 等)。

 さらに、次期計画の策定に向けては、これらの現状調査を踏まえ、今後のCRCのあり方について検討する(例:認定制度及び研修カリキュラムの統一化、上級レベル研修、業務内容 等)。

2)  その他の治験に携わる関係者(医療関係者、治験事務局員、IRB委員等)の養成等及び質の向上方策

 治験に携わる関係者としては、薬剤師や看護師をはじめとした医療関係者の他、治験事務局員、IRB委員等が挙げられる。質の高い治験が広く行われるためには、これら関係者の養成等及び質の向上が不可欠である。

 医師に加え、治験に携わる医療関係者については、その養成課程等において治験に関する教育が施されるとともに、実際に治験に関与する者には、基本的な生物統計学的知識等の必要な事項に関する教育を受ける機会が提供されることが望ましい。

 治験事務局員は治験の実務に大きく関与しており、円滑な治験の遂行のためには、治験事務局員がGCP等の治験に関する事項を理解できるような教育・研修の充実が望まれる。また、必要以上の業務及び書類の作成を治験依頼者に課している事例も指摘されており、治験依頼者と実施医療機関の双方の協力により業務分担の適正化が図られるべきである。

 IRBにおいて、治験の倫理的・科学的適格性について質の高い審議を行うためには、ふさわしい資質を有する人材をその委員として確保する必要がある。IRB委員の受けるべき教育等については、「治験のあり方に関する検討会」における審議を踏まえ、治験の活性化の観点からも、これを充実させる必要がある。

 平成18年度においては、以下の事項を実施する。
治験に関与する医療関係者への治験に関する教育の充実への取組と現状調査を行う。具体的には、看護師の卒前カリキュラム見直しに際して、治験に関する事項を盛り込む旨の要望並びに医師、薬剤師及び看護師以外の医療関係者の養成課程における治験に関する教育の現状把握を行う。
治験事務局員その他の治験関係者への教育を開始する。
「治験のあり方に関する検討会」におけるIRB制度に関する議論を踏まえ、治験の活性化の観点からIRB委員への教育を開始する。

 さらに、次期計画の策定に向けては、以下の事項を検討する。
医療関係者の養成課程における治験に関する教育の現状調査を踏まえ、治験に関与する医療関係者に対する治験に関する教育を充実させるための方策を検討する。
生物統計家等以外に治験に関与する医療関係者に基本的な生物統計学の知識を持たせるための方策を検討する。

(3)  CRO及びSMOの健全な育成と適切な選択の促進方策の検討

 3ヵ年計画においては、CRO及びSMOによる治験の円滑な実施や質の確保等への貢献を前提に、SMOに関しては、平成14年11月の「SMOの利用に関する標準指針策定検討会報告書」を踏まえ、SMOの位置づけや業務内容の明確化を図り、それらの育成を図るための環境整備について検討を行うこととしている。

 現状では、治験の実施に際し、CRO及びSMOの果たす役割はますます大きくなっており、参入する機関も多様化している。一方で、個別機関の経営の問題等により、治験の実施が影響を受ける事例等があり、SMOの現状に関する把握が必要であると指摘されている。

 平成18年度においては、以下の事項を実施する。
「治験のあり方に関する検討会」でのCRO及びSMOに関する議論を踏まえ、SMOの現状把握を行う(例:事務局が院内にある場合とSMOに依頼した場合での医療機関が行う業務量及び負担する費用の違い 等)。

 さらに、次期計画の策定に向けては、この現状把握を踏まえCRO及びSMOが果たしている役割を評価した上で、その健全な育成方策について具体的な検討を行う。


4.  患者等の治験等への参加の促進

(1)  治験等の意義等についての効果的な啓発方策の検討

 3ヵ年計画に基づき、国民に対する治験の意義等に関する普及啓発及び被験者に対する治験の実施状況の事前・事後の情報提供等に取り組んできたところである。

 治験に対する国民の理解を深めるためには、厚生労働省のホームページにおける「治験ホームページ」の開設をはじめ、治験促進センターが主催した「産官学合同フォーラム(平成16年度)」、「治験促進啓発シンポジウム(平成17年度)」及び関係団体等による治験に関する啓発活動等が行われている。

 学校教育等の活用、医療機関、関係企業及び公的機関による啓発活動により、広く国民に治験等の意義が浸透することが望まれる。これは、専門知識を有する者のサポートを受け、自らの意思に基づき治験に参加するという本来の治験の姿の実現には不可欠である。

 平成18年度においては、以下の事項を実施する。
治験等の啓発活動に関して、その現状及び実績(例:実施主体、活動内容、対象等)やIT技術によらない啓発手法及び対象を絞った啓発活動の方法論等の調査を行う。

 さらに、次期計画の策定に向けては、以下の事項を検討する。
学校教育等で、一般国民に対して医療の提供(医薬品・医療機器の開発等を含む)に関する教育を行うことについて諸外国との比較も含めて検討する。
治験に参加した被験者に対し治験全体の結果をフィードバックする制度について検討する。

(2)  患者や被験者への情報提供の拡充のための治験等登録制度の整備の検討

 3ヵ年計画においては、国内における新薬開発状況を網羅的に情報提供し、治験薬の最新情報について患者が容易にアクセスできるようにすることとしている。

 平成15年10月、WHOは、治験等の実施にあたり、出版バイアスの防止及び被験者への情報公開等を目的として、国際的治験等登録プラットフォームプロジェクトを立ち上げた。

 平成16年秋には、医学雑誌編集者国際委員会ICMJE(International Committee of Medical Journal Editors)が、治験等の結果の論文掲載に際しては、一定の条件を満たした登録制度にあらかじめ登録することを必要条件とすると表明した。

 現在、WHOにおいては、登録すべき項目、その公開時期及び登録制度の属性等について、登録制度の認定に当たって各国からの意見聴取を行っている。(わが国からは、保健医療科学院や日本製薬工業協会から意見を提出している。)

 現在、わが国では大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)、日本医薬情報センター(JAPIC)及び治験促進センターが登録制度を立ち上げ、登録の受け付け及び情報の公開を行っている。ただし、これら登録制度において、公開する情報の質をどのような形で保証するかという点に関しては今後の課題である。

 これら治験等登録制度は患者及び被験者に対して治験等に関する正しい情報を提供する手段として、積極的に活用されるべきである。同時に、国内で実施される治験等の情報を広く集積できるよう、WHOにおける検討に留意しつつ、国内登録制度への支援を行っていく必要がある。

 平成18年度においては、以下の事項を実施する。
WHOにおける検討に留意しつつ、登録基準及び公開基準について最小限の必須条件を定め統一を図る。
既存の登録制度の連携を図り、国民・患者にとってわかりやすい情報提供のための手段を構築する。また、広く情報を提供するため、パンフレット等の紙媒体を用いた方法論を検討する。

 さらに、次期計画の策定に向けては、以下の事項を検討する。
治験等登録制度に登録される情報が、国民・患者へ情報として提供されることに鑑み、登録された内容の保証をどの程度、どのように行うかをWHOによる登録制度認定の動きと併せて検討する。
国内で行われる治験等が広く登録されるようにするための方策を検討する(例:研究者への周知等)。


5.  治験実施企業における取り組みの促進

(1)  治験業務に係るIT化、手続き及び書式の標準化など企業負担の軽減方策の検討

 3ヵ年計画において、企業の治験に係る負担の軽減策のために、医療機関と治験依頼者との治験契約の適正化、施設間での治験関連書類の書式の標準化を推進するとともに、治験実施契約書等の治験に関する情報の電子化について検討することとしている。

 わが国の治験の高コスト化の一因として、モニタリング・監査業務の非効率性によるものが指摘されている。欧米と比較して、わが国ではモニターの施設訪問回数が非常に多く、それに要する人件費がコスト増の要因となっている。その原因としては、治験データの確認作業及び治験情報の伝達作業等が、過重な業務として課せられているのみならず、本来は医療機関側で行うべき業務が治験依頼者側の業務とされている等のわが国独特の慣習も挙げられている。

 モニタリングの効率化の観点からは、治験を実施する医療機関自身のデータマネジメント機能の強化(データクリーニングの実施等)も重要である。(関連2−(2))

 医療機関と治験依頼者との間で取り交わす治験書類の書式については、一部で標準化(国立病院機構の書式、国立大学病院の書式 等)が図られているが、未だに多くの医療機関が独自の書式を使用しており、書式が標準化されている場合でもその運用が徹底されていないケースが多いとの指摘がある。これら治験に関係する手続きの煩雑さ及び書類作成上の非効率さも、治験のコスト上昇の要因である。

 わが国の治験の非効率性の原因の一つである治験に関する手続き及び書類の煩雑さについては、医療機関側と治験依頼者側との役割分担の明確化、治験手続きの効率化(治験窓口の一元化等)、及び治験関連書類の書式の標準化(医療機関共通の書式の採用等)等について、治験依頼者側と医療機関側双方の協力により、改善を図ることが望まれる。

 企業における治験負担の軽減を図るために、IT技術を用いて、治験データの安全性及び信頼性が確保された状態で、治験依頼者が医療機関から治験データを電子的に収受する(いわゆる「治験のIT化」)取組が行われている。平成16年度には厚生労働科学研究費補助金特別研究において、治験のIT化のための課題と解決策について予備的な検討が行われ、治験情報を電子的に収受するためには、電子カルテの普及のほか、医療機関毎の検査システム又は電子カルテシステムの違いに対応するシステムを構築する必要があると報告された。将来的には治験のIT化が進み、必須の治験情報をミニマムデータセットとして設定することにより、各医療機関の書式又はシステムに依存しないデータ交換が可能となることが期待される。

 平成18年度において、以下の事項を実施する。
治験書式の標準化及び運用方法について現状を調査し、医療機関側及び治験依頼者側による、(運用方法を含めた)治験書式の標準化への取組を促す。
治験書式の標準化及び運用方法について現状を調査し、医療機関側及び治験依頼者側による、(運用方法を含めた)治験書式の標準化への取組を促す。
治験のIT化に係るデータ変換様式の標準化等に係る海外の動向を把握する。
医療機関側が行うべき業務(治験書類の作成等の業務を含む。)を治験依頼者側が行っている状況の有無について現状把握を行い、医療機関側及び治験依頼者側による適正化への取組を促す。
これら取組により、モニター・監査担当者の負担の軽減を図る。

 さらに、次期計画の策定に向けては、以下の事項を検討する。
治験のIT化を目的としたロードマップを検討する。
医療機関側のデータマネジメント機能の強化(データクリーニング等)によるモニタリングの効率化の方策を検討する。
国際共同治験への参加を踏まえ、治験書類で用いられる言語・用語のあり方についての検討を行う。

(2)  ベンチャー企業の育成及び企業の研究開発の促進方策の検討

 平成18年度には、次期計画の策定に向けて、画期的な医薬品・医療機器の開発促進を目的としたベンチャー企業等に対する支援策について、その推進方策を検討する。


6.  医薬品・医療機器の開発に係る研究開発の推進

(1)  画期的な医薬品・医療機器の開発のための基盤研究及びトランスレーショナルリサーチを含む臨床研究のさらなる推進方策の検討

 3ヵ年計画において、治験を推進するためには臨床研究全体を推進する必要があるとの認識の下、根拠に基づく医療(いわゆるEBM:Evidence-based Medicine)の実現のために、臨床研究の推進の重要性を指摘した。また、臨床研究全般を対象として、その倫理性や科学性を担保する指針がないことが、臨床研究が進まない一因であるとした上で、被験者の権利擁護の観点からも、早期に臨床研究全般を対象とする基本的な指針を策定する必要があるとした。

 その後、臨床研究全体を対象とする指針として、平成15年7月に、厚生科学審議会科学技術部会「臨床研究の倫理指針に関する専門委員会」における審議を経て、「臨床研究に関する倫理指針」を告示・施行した。また、平成16年12月には、翌17年4月の「個人情報の保護に関する法律」(平成15年法律第57号)の施行に関連して、臨床研究における個人情報の適切な取扱いに配慮して、同指針を改正した(平成16年厚生労働省告示第459号)。

 「臨床研究に関する倫理指針」においては、当該臨床研究に係る資金源や起こりうる利害の衝突等について、事前に被験者に対し情報を提供することが求められているが、その運用に関しては医療機関毎に違いがあるとの懸念があり、臨床研究を行う現場における「臨床研究に関する倫理指針」の遵守状況に関し、情報収集をする必要がある。

 臨床研究の実施基盤の整備は、早急に取り組まなければならない。特に、医師等の臨床研究者その他の医療関係者等の人材の充実は、なかでも喫緊の課題である。臨床研究に関与する医療関係者等(医療関係職種、IRB委員等)に対しては、臨床研究全般及び生物統計学等の必要な基礎的知識を習得できる機会を提供する枠組みが構築されていることが望ましい。これら人材育成の強化及び産学官連携の強化等による臨床研究を支援する枠組みの構築により、臨床研究全体の活性化が図られるべきである。

 平成18年度において、臨床研究のさらなる推進を目的に、以下について実施する。
臨床研究を行う現場における「臨床研究に関する倫理指針」の遵守状況に関し、予備的調査を行う。
医師への卒前教育及び卒後臨床研修における到達目標の達成を促すなど、医師への臨床研究に関する教育を充実する。

 さらに、次期計画の策定に向けては、以下の事項を検討する。
医療機関の臨床研究実施体制の充実(医師等の臨床研究者の育成等)、患者等の臨床研究への参加の促進及び臨床研究を支援する枠組みの構築(産学官の連携強化等)等の観点から、臨床研究基盤の整備に重点を置いた検討を行う。
生物統計家等以外に臨床研究に関与する医療関係者に、臨床研究及び生物統計学に関する基礎的教育を行うための方策を検討する。

(2)  臨床研究に関与するデータマネジメント担当者等の研修等を行う制度の検討

 臨床研究を行う医療機関においては、生物統計家等の活用により、自施設のおけるデータマネジメント機能の強化及びそこで行われる臨床研究の信頼性の確保が求められる。

 平成18年度には、臨床研究に関与する生物統計家等に関する課題の調査を行う(調査内容は項目2−(2)における調査と同様のものとする)。

 さらに、次期計画の策定に向けては、以下の事項を検討する。
平成18年度に行う調査を踏まえ、生物統計家等の効果的な養成方法及び質の向上方策を検討する。

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