06/04/11 労働政策審議会労働条件分科会 第54回議事録 第54回労働政策審議会労働条件分科会 日時 平成18年4月11日(火) 17:00〜 場所 厚生労働省17階専用第21会議室 ○西村分科会長 ただいまから第54回労働政策審議会労働条件分科会を開催したいと 思います。本日は、久野委員、小山委員、奥谷委員、平山委員、原川委員が欠席されて おります。荒木委員は少し遅れるとの連絡をいただいております。また、山下委員の代 理として君嶋さんが出席される予定です。  本日の議題に入ります。本日は事務局に論点を整理した資料を用意してもらっており ますので、それの説明をお願いいたします。 ○大西監督課長 資料No.1ですが、いままで当分科会で御審議いただいた内容等を踏ま えて、「労働契約法制及び労働時間法制に係る検討の視点」という形で整理したものを 説明させていただきます。なお、ブルーの太いファイルについては、従来お出しした資 料等を整理しておりますので、こちらの説明は省略させていただきたいと思います。  1頁の「第1 検討の趣旨」です。最初のところは現状認識ということで、産業構造 の変化の中で、ホワイトカラー労働者が増加していること、あるいは就業形態、就業意 識が多様化していること、あるいは少子化の進展といったことで、雇用労働環境を取り 巻く状況が変化して、労働条件の小グループ化、労働条件の変更の増加が見られている ところです。こうした中で、個別の労働関係に関するルールが明確でないために、解雇 に係る紛争、労働条件の引下げに係る紛争という形での個別労働関係紛争も増加してい るということです。  また、同じような共通の就業形態、就業意識の多様化の中で、創造的・専門的能力を 発揮して、自律的な働き方をする労働者が見られるようになっている一方で、長時間労 働者の割合も高止まりしており、過労死防止や少子化の観点から、長時間労働の抑制策 を講ずることが喫緊の課題となっているのではないかということです。  そのあと2つの・がありますが、1つ目の・としては、労使の継続的な関係を規律す る労働契約が公正なルールに則って締結され、それが遵守されるようにすること、労働 契約の内容になっている重要な労働条件の変更の際には、労使において十分な話合いを していただくことが必要なのではないか、あるいは長時間労働を抑制するとともに、労 働者が健康を確保しつつ、能力を十分に発揮した働き方を選択することができるように するため、労働時間制度の見直しも必要なのではないか。こういった視点で労働基準法 を遵守していただきながら、円滑かつ良好な労働契約関係を継続させるようにすること が必要ではないかというのが検討の趣旨です。  「第2 検討の視点」ですが、労働契約法制の在り方、あるいは労働時間法制の在り 方ということで、御議論いただいてきております。まず、労働契約法制について、基本 的事項ということですが、「労働契約が労働者と使用者との継続的な関係を規律するも のであることにかんがみ、労使両当事者の契約に対する自覚を促しつつ、労働契約が円 滑に継続するための基本的事項を明らかにする」ということです。1つ目の○は、「労 働契約は、労使が実質的に対等な立場で締結するべきものであり、労使双方が労働契約 の内容に納得し、良好な労働契約関係を維持するよう努めるべき」という考え方を整理 することが必要ではないか。「労働者および使用者は、良好で継続的な労働契約関係を 維持しつつ、紛争を予防する観点から、労働契約の内容についてできるだけ書面で確認 する」ことが必要ではないか。3つ目の○ですが、「労働契約の両当事者は、各々誠実 にその義務を履行しなければならず、その権利を濫用してはならない」と、これも当然 のことですが、そういうことが必要ではないかということです。  2頁のいちばん上の○ですが、「使用者は、労働者が安心して働くことができるよう に配慮するとともに、労働契約において、その実態に応じ、均衡を考慮するものとする ことが必要ではないか」ということです。こういう基本的な考え方です。  個別具体的なところですが、1つ目として、就業規則をめぐるルールなどを明確化す ることが必要ではないかということです。我が国では、就業規則により労働条件が統一 的かつ画一的に決定されるということが広範に行われており、慣習として定着をしてい るという判例もあるわけですが、個別の労働契約との関係は実は明確ではなく、また就 業規則による労働条件の変更の際、どういう場合に合理的な変更になるのかというのが、 例えば具体的にどこかに書いてあるなどということで明らかではないので、これを明確 化するという考え方があるのではないかということです。  2つ目の○ですが、就業規則と個別の労働契約の関係の明確化ということで、労働契 約の締結の際に就業規則を周知していただいていることと、その内容が合理的でない場 合を除くといった要件の下で、当該事業場で労働している労働者の労働契約の内容は、 就業規則の定めるところによるといった合意が成立しているのが推定されるということ で、明確化が必要ではないかということです。上記の明確化と併せて、明示された労働 条件と事実が異なる場合に、労働者が即時に労働契約を解除できるという労働基準法15 条2項、就業規則と法令、労働契約等との相互の関係を明らかにしている労働基準法92 条1項、93条等も、併せて整理していくことが必要ではないかということです。  次に就業規則の変更の場面でのルールの明確化ということです。ここは○が3つあり ます。1つ目の○は、就業規則の変更等により、労働者の労働条件が変更される際に就 業規則の周知をしていただくことと、その内容が合理的であること、具体的には判断要 素として、就業規則変更の必要性、その内容、あるいは労働者が被る不利益の程度とい ったことを判断要素として、そういう要件の下で個別の労働者と使用者との間に従前の 労働契約の変更に係る合意が成立したものと推定することが必要ではないかということ です。  2つ目の○は、就業規則を変更する際に、当該事業場の過半数組合と使用者との間で 合意した場合には、その変更が合理的なものとして個別の労働者と使用者との間の従前 の変更に係る合意が成立したものと推定するといった法的効果を与えることが必要では ないかということです。  3つ目の○ですが、この場合において、なるべく多数の労働者の意見をくみ上げてい くという観点から、例えば「特別多数労働組合」、これは当該事業場の労働者の3分の2 以上で組織される労働組合などということで、これが3分の2なのかどうかというとこ ろも含めて議論はあると思いますが、そういったこととすることが必要ではないかとい うことです。「特別多数労働組合」というのは、2つ目の○の過半数労働組合というと ころを置き換えるのかどうかという御議論です。また、そういう契約をした場合、「特 別多数労働組合」でない過半数組合との合意については、どういう考え方で整理するの がいいのかということも御議論になると思います。  就業規則の整備です。就業規則については、現在、労働基準法に書いてあります。こ こは労働基準法の話になるわけですが、就業規則の必要記載事項を、例えば転居を伴う 配置転換、出向、休職、懲戒の事由といったことを追加するなどの整備が必要ではない かということです。  3頁ですが、こちらも労働条件の明示の話ですので、労働基準法の関係の話です。労 働契約締結の際の労働条件の明示事項の追加ということで、転居を伴う配置転換、出向、 どの労働時間制度が適用になっているのかといったことを追加するという整備を行うと ともに、特に重要な事項に係る明示の方法、書面の交付を法律で明らかにしていくとい うことが必要ではないかということです。  続いて、労働者が意見表明できる仕組みの整備ということで、労使委員会というもの があります。労使の実質的な話合いを進めることは、この労働契約の円滑な継続に非常 に重要であるということで、多様な労働者が意見を表明できる仕組みを整備していく必 要があるのではないかということです。1つ目の○ですが、過半数組合がない事業場に おいても、実質的な労使協議が行われることが望ましいということで、こういう事業場 における労働条件に関して、調査審議を行う機関として、労使委員会の設置を促進する ことが必要ではないかということです。  2つ目の○は、就業規則の変更の場面において、前の頁で過半数組合との合意があっ た場合には、いわゆる労働条件の変更の合意があったという推定をするということが書 いてあったわけですが、推定という法的効果を過半数組合との合意に与えるということ で、付与することとしたときに、過半数組合のない事業場で労使委員会で決議、調査審 議をしたときに、どういう法律効果を与えることがいいのか、一定の法律効果を与える ことが考えられるのではないかということが2つ目の○です。  3つ目の○は、もしそのような法的効果を与えるという場合であれば、労使委員会の 労働者代表の委員の民主的な選出手続、例えば直接無記名投票における選出、就業形態 に応じた委員枠の確保などアイディアがあると思いますが、そういった民主的な選出手 続を確保することが必要ではないかということが3つ目の○です。  大きな括りの2つ目ですが、重要な労働条件に係るルールの明確化ということです。 労働者にとって重要な労働条件の変更が円滑になされることは、労働契約が円滑に継続 していくということで、非常に重要なことですので、そういったときのルールを明確化 するということです。  1つ目は、重要な労働条件に係る事項の説明ということです。継続的な労働契約にお いて、労働者にとって特に重要な賃金、労働時間等の労働条件の変更です。例えば後ほ ど説明する自律的労働時間制度を適用するかどうかということも、ここに含まれるので はないかと思いますが、こういったことが行われる際には、使用者は労働者に対して書 面で明示の上、説明することが必要ではないだろうか。また、そのような手続を経た場 合に、一定の法的効果を与えることが適当ではないかということです。  個別の内容です。まず、入口の採用内定と試用のところですが、採用内定取消や試用 期間中の解雇は、解雇に関する一般ルール、現行法で言えば労働基準法18条の2が適用 されることを明確化する必要があるのではないかということ。  2つ目の○は、試用期間であるために、現在、労働基準法では、試用期間中の解雇予 告を一部除外している規定があるわけですが、あるいは最低賃金法で最低賃金を一部除 外している規定があるのですが、引き続きそういう規定を置いておく必要性があるのか どうか、検討する必要があるのではないかということです。  出向、転籍、転勤ですが、使用者が出向や転居を伴う配置転換を命じ、又は転籍の申 し出を行うことに当たり、労働者の意向打診、あるいは労働条件の書面明示等を行うこ とが考えられないかということです。使用者は、当該企業内で普通の配置転換と同視し 得る出向については、不合理なものでない限り、労働者の個別の承諾を要せずして、出 向を命じることができると考えられないかということです。次の○は、労働者の個別の 承諾がなければ、転籍をさせることはできないとすることが必要ではないかということ です。また、基本的な事項において、権利濫用をしてはならないと1頁で御紹介させて いただきましたが、転居を伴う配置転換等についても、その権利を濫用してはならない ということが考えられないかということです。  続いて懲戒ですが、労働者を懲戒または降格しようとする場合には、あらかじめ労働 協約あるいは就業規則の根拠が必要ではないか。また、懲戒権濫用法理を明らかに定め ていくことが必要ではないかと考えられるのではないか。  続いて、労働条件の変更に係るルールです。これは、ある労働条件の変更の申入れに 対して、労働者が異議をとどめてというか、不満を述べながら、一旦は承諾した場合に、 当該労働条件の変更について異議をとどめたことを理由とした解雇はできないこととす ることが考えられないかということです。労働者は異議をとどめているわけですので、 雇用を維持しつつ、労働条件の変更について争うことを希望する場合には、労働審判制 度等において、解決を促すための必要な改善策が考えられないかということです。  その他の事項としては、競業避止、兼業禁止、秘密保持、個人情報保護に関するルー ルについて、明確化を進めていくことが考えられないかということです。  3番目の大きな括りですが、労働契約の終了の場面におけるルールの明確化です。解 雇をめぐる紛争は非常に多いわけですが、こういう紛争を未然防止、早期解決するため に、解雇に関するルールをできる限り明確化し、労使の予測可能性を高めていくと。ま た、解雇無効の判決がなされても、実際には原職に復帰できないといった場合について、 円満に解決する仕組みも、併せて検討する必要があるということです。  解雇に関するルールの明確化ですが、解雇をめぐる紛争の未然防止・早期解決に資す るため、現行労働基準法第18条の2にある解雇に関する一般的なルールに加えて、整理 解雇に関する判例法理といいますか、4要素と呼ばれている、人員削減の必要性、解雇 回避措置、解雇対象者の選定方法、解雇に至る手続といったものを明確化することが必 要ではないかということです。また、解雇をめぐる紛争の未然防止の観点から、いわゆ る普通の解雇に関する手続として、例えば事前の警告、是正機会の付与、解雇理由の明 示、弁明機会の付与なども明らかにしていくことが考えられないかということです。  4頁の解雇の金銭的解決の仕組みの検討ということで、裁判において解雇が無効とさ れた場合であっても労働者の原職復帰が困難な場合があるわけですが、これを円満に解 決できるような仕組みが必要ではないかということです。その場合、どのような論点が あり、それを解決するためにどのような手法があるのかを整理する必要があるのではな いか、あるいは解雇をめぐる紛争が長期化すると労使にとってコストが増えるというこ とに鑑みて、労働審判制度等においてこの解決を促すための必要な改善策も考えられな いかということです。  その他の労働契約の終了の場面でのルールの明確化ですが、労働者の軽過失により使 用者に損害が発生した場合には、使用者は労働者に対して求償できないこととすること、 あるいは留学・研修費用の返還については労働基準法16条に抵触しない場面があるとい うことも明らかにすることが考えられるということです。また、使用者からの働きかけ による退職の場合について、労働者が納得しない退職を防止するためのルールを検討す ることが考えられないかということです。  4番目の大きな括りとして、有期労働契約をめぐるルールの明確化です。有期労働契 約については、労使双方が良好な雇用形態として活用されるように、ルールを明確化し ていくということです。  1つ目の○では、労働契約の締結に際し、有期労働契約とする理由を示すこと、ある いはその期間を目的に照らして、適切なものとすることを求める等、有期労働契約につ いてのルールを定めることが必要ではないかということです。  2つ目の○は、有期労働契約においては、契約期間中の解雇は極めて限定的であるこ とを明確化することが必要ではないかということで、これは民法628条の関係です。  3つ目の○は、有期労働契約が更新されながら一定期間を超えて継続している場合に、 労働者から請求があった場合には、次の更新のときに期間の定めのない契約が締結され ることとなるような方策は考えられないか。これは一定期間で区切るのか、あるいは一 定回数、更新回数が何回以上ということで区切るのかという御議論があるかと思います。  「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」については、労働基準法の告 示という形でこういう基準があるわけですが、これにおいて雇入れの日から起算して1 年を超えて継続勤務している方については、雇止めの予告をしましょうと告示に書いて あるわけですが、この1年という期間を短縮する、あるいはここも一定回数以上の更新 という形で、対象者を整理していくことが考えられないかということです。  次の○は、有期労働契約の締結に際しての労働条件の明示事項として、労働契約の始 期及び終期並びに契約期間満了後の更新の有無を、労働条件の明示事項ということで追 加していくことが必要ではないかということです。  最後に国の役割ですが、労働契約関係が円滑かつ継続的に維持されていくよう、国が 必要な助言、指導等を行う必要があるのではないかということです。  6頁からは労働時間法制で、こちらは労働基準法という形になるわけですが、1番目 は時間外労働の削減等です。少子化対策ということで、次世代を育成する世代の男性を 中心に、長時間労働者の割合が高止まりしており、過労死の防止、少子化対策の観点か ら、労働者の疲労回復のための措置を講ずるとともに、長時間にわたる恒常的な時間外 労働の削減を図ることが必要ではないかということです。1つ目の○は、労働者の健康 確保のための休日です。一定時間数を超えて時間外労働させた場合、労働者の疲労回復 を図る観点から、時間外労働をした時間数に応じて算出される日数の労働者の健康確保 のための休日の付与を義務付けることが考えられないかということです。また、時間外 労働の抑止政策としての割増賃金の引上げですが、長時間にわたる恒常的な時間外労働 の削減を図るため、一定時間数を超えて時間外労働をさせた場合の割増率を引き上げる ことが考えられないか。これは有給ですが、この場合、事業所ごとのニーズに応じて、 労使協定等で割増賃金の引上げ分に代えて、労働者の健康確保のための休日を付与する こととしてはどうかというものです。その他、実効性の確保としても罰則を引き上げて いくことも考えられるのではないかということです。  労働時間法制の2つ目のテーマとして、年次有給休暇の見直しということで、年次有 給休暇を確実に取得させ、疲労回復を図る方策を講ずるとともに、仕事と生活の調和や 少子化対策に資する観点から、もっと利用しやすいものとすることができないかという ことです。1つ目は使用者による時季指定ですが、使用者は、年次有給休暇のうち一定 日数については、労働者に対し、あらかじめ使用者の側から「いつにしますか」と時季 を聴いた上で休暇を付与しなければならないということが必要ではないか。また、時間 単位の年次有給休暇ですが、子供の看護等突発的な事由で年次有給休暇を活用すること ができるよう、労使協定により、年次有給休暇の本来の制度の目的である、休養をとる という利用を阻害しない限度で、時間単位の取得を可能とするといったことも必要では ないかということです。また、使用者は、退職時に未消化の年次有給休暇がある場合に は、何らかの手当を支払わなければならないとすることも考えられないかということで す。  その他の現行労働時間制度の見直しとしては、事業場外みなし制度等について、必要 な運用の見直し等をしてはいかがかということもあります。  自律的労働時間制度の創設ですが、産業構造が変化して、就業形態、就業意識が多様 化している中で、高付加価値の仕事を通じたより一層の自己実現や能力発揮を望み、緩 やかな管理の下で自律的な働き方をすることがふさわしい仕事に就く人について、一層 の能力発揮をできるようにする観点から、現行の労働時間制度の見直しをするというの はいかがかということです。  そうした自律的な働き方をすることがふさわしい仕事に就く者としては、例えば次の ような者ということです。1つ目の*ですが、使用者から具体的な労働時間の配分の指 示がなされていないこと、及び業務量の適正化の観点から、使用者から業務の追加の指 示があった場合、既存の業務との調節、例えば一定範囲で拒絶できるようにすること、 あるいは労使で業務量を計画的に調整する仕組みを設けている、そういった調節の仕組 みができるようになっていること。2つ目の*ですが、健康の確保は重要であることか ら、週休2日相当の休日、あるいは一定日数以上の連続する特別休暇があることなど、 相当程度の休日が確保されることが確実に見込まれること。健康確保のために健康をチ ェックし、問題があった場合には対処する仕組み、例えば面接指導を行うことなどが整 っていること。あるいは、年間に支払われることが確実に見込まれる賃金の額が、自律 的に働き方を決定できると評価されるに足る一定水準以上の額であること、といったこ とが考えられるのではないか。  上記の事項については、対象労働者と個別の労働契約で書面により合意していくこと が必要ではないかということです。また、ネガティブリストとして、物の製造の業務に 直接従事している人などについては、論理的に言っても、こういう制度の対象にならな いことを明らかにしておく必要があるのではないかということです。  導入要件ですが、労使の実質的な協議に基づく合意により、新しい制度の対象労働者 の範囲を具体的に定めることとするのが適当ではないか。また、年収が特に高い労働者 については、協議を経ずに対象労働者となるということとしてもいいのではないかとい うことです。対象労働者の範囲を労使合意で具体的に明確にしていく際には、当該事業 場の全労働者の一定割合以内ということが必要ではないかということ。あるいは、就業 規則において、例えば適用される賃金制度が他の労働者と明確に区分されている、ある いはどの範囲で対象になっているかが賃金台帳で明示されていることも必要ではないか ということです。  効果としては、労働基準法35条の法定休日と39条の年次有給休暇の部分は適用され、 そのほかの部分は適用しないということです。  適正な運用を確保するための措置等については、1つ目の○として、苦情処理制度を 設けるといったことを義務付ける、重大な違背があった場合には、労働者の年収に一定 の割合を乗じた補償金を対象労働者に支払うものとすること。あるいは、要件違背の場 合、行政官庁は改善命令を発することができる。改善命令にも反した場合には、当該労 働者を通常労働時間管理に戻す命令、制度全体の廃止命令も発出できるといった仕組み も考えられるのではないかということです。また、要件違背があった場合に、労働基準 法32条の労働時間の違反として整理するのか、あるいは別途、自律的労働時間制度の手 続違反等として厳正な履行確保を図っていくことも考えられるのではないかということ です。  これに伴い、管理監督者の範囲等の見直しということで、管理監督者については、労 働条件の決定その他労務管理について事業主と一体的な立場にある人として明確化する こととしてはどうかということ。また、管理監督者の範囲を賃金台帳上、明確にするこ ととしてはどうかということです。管理監督者についても、健康確保措置を講じた上で、 深夜業の割増賃金に関する規定の適用を除外することとしてはどうかということです。 管理監督をしていないスタッフ職については、新しい自律的労働時間制度、現在の労働 基準法38条の4の企画業務型裁量労働制の対象にすることを明確に位置づけていくこ とも考えられるのではないかということです。  これに関連して、現行の裁量労働制の見直しですが、現在、企画業務型裁量労働制と 専門業務型裁量労働制があるわけですが、苦情処理措置に関しての改善、過度に業務の 追加指示があった場合の対象業務や対象労働者の範囲の見直し、こういったことができ るようにする仕組みも必要ではないかということです。専門業務型裁量労働制について は、個別の労働者の同意を要件に追加することの検討が考えられるということです。ま た、これらの裁量労働制のみなし労働時間の設定については、労働者の疲労の状況や苦 情処理の結果を踏まえて改善を図ることとしてはどうかということです。企画業務型裁 量労働制の導入要件については、労使の実質的な合意を担保した上で、中小企業でもよ り活用されるような方策を検討してはどうかということです。以上ですが、検討の視点 ということで資料の説明をさせていただきました。 ○西村分科会長 ただいま事務局に、労働契約法制および労働時間法制に係る検討の視 点を説明していただいたわけですが、今後7月ごろを目処に、中間取りまとめをするこ とを念頭に議論を進めることにします。今回と次回と次々回におきましては、労働契約 法制の部分について、御議論をいただきたいと思います。労働契約法制の部分の前のほ うから御議論をと思いますが、いかがでしょうか。 ○長谷川委員 前のほうからと言われましたが、ひとまず今日は労働契約法のところだ け議論するということですか。 ○西村分科会長 そうです。 ○長谷川委員 労働契約法についての私の感想というか、全体感想ですが、とってもが っかりしております。これを冒頭述べておきたいと思います。がっかりして、何とも言 えない気分であります。いくつか指摘しておきたいと思っています。第1点はこの「検 討の視点」でありますが、労働者と使用者の労働契約の内容の確定、労働契約内容の明 確化の際に、事実、実務上、就業規則が大きな役割を果たしてきたことは否定しないの ですが、そもそも労働契約とは何かということを考えるときに、いきなり就業規則が出 てくるというのは、これは何なのかと私は不思議でしょうがありません。  就業規則に依拠して、労働契約についていろいろな問題を解決しようとしてきたこと が、労働契約法理の健全な発達を妨げてきたとも考えられるのではないかと私は思って おります。  例えば契約法上は、契約というのは当事者双方の合意であり、合意がなければ法的効 果は何も発生しないはずなのに、就業規則をめぐる判例法理は労働者の個別的な合意は なくとも、作成・変更した就業規則に拘束されるとしているわけですが、この根拠は明 らかにされていないわけであります。それゆえに判例法理の解釈をめぐっては、見解が 依然として統一されていないのではないでしょうか。就業規則は4派13流だと言われる ように、就業規則に関してはいろいろな見解があることは事実だと思っています。  この労働契約法の制定を議論するに当たっては、まず契約法上の基本的なルールを確 認するべきだと思っています。私の勉強不足なのかどうかわかりませんが、私は市民社 会のルールの基本的な契約のルールというのは当事者の合意だと思ってきたわけですが、 なぜこのことがきちんと出てこないのか、とても不思議です。その上で、労働者と使用 者の非対称性だとか、労働者と使用者の関係の特徴をちゃんと考察して、その関係が民 法の想定する自然人との関係でどのように異なるのかということを、きちんと明確化す べきだと思っております。  このような作業をした上で労働契約が適正なものになるために、契約法上の基本的な ルールを労働契約法にふさわしいものになるよう修正することが必要なのではないかと 思っております。私は、労働契約法の研究会の中間報告が出されて以降、労働組合の中 で労働契約法の勉強会を随分やってきました。全国をブロックに分けて勉強をしました が、その講座でいちばん先に何を言うかというと、市民社会のルールとして、契約自由 の原則がありますねとか、契約締結の自由だとか、相手方選択の自由だとか、契約内容 の自由だとか、契約方式の自由などというのはありますねと。それから合意が適正さを 欠く場合には、その契約は無効ですよね、成立しませんよねということなどを勉強して きたわけです。  それと契約関係にある当事者間のルール、例えば信義則、権利濫用などです。それか ら、契約は、契約変更をすることがあるわけですが、その契約変更というのは、相手側 が納得したときには変更が可能であって、相手方が納得しない場合には、変更を諦める か、契約を終わりにするかしかないというのは市民社会の契約のルールです。これらの ことを全然抜きにした今回の提起は何なのかということであります。  それゆえに、厚生労働省提案の案のように、就業規則の合理性を媒介に、労使の合意 を即座に認めるような考え方には、私は納得もできませんし、むろん反対いたします。 新しい労働契約法は、現状を正当化するために作業するのではないわけです。労働契約 とはそもそも何なのかということと、労使の合意というのは何なのか。そのためのルー ルをどうすべきかということについて、しっかりと議論すべきであると思っています。  なお、統一的労働条件の設定には、集団的労使関係との整合性がとれることだとか、 複数組合併存主義に影響を及ぼすようなものであってはならないとも考えておりますの で、就業規則の合理性推定に特別多数組合を強力に関与させることについては、非常な 懸念を持っているということについても述べておきたいと思います。これが総論です。  個別の検討項目についてはいろいろありますので、それについては改めて述べたいと 思っています。とにかく冒頭に就業規則が提起されているということに対しては、本当 にびっくりしております。 ○田島委員 就業規則というのは、何度もこの間の分科会で確認されてきたとおり、労 使合意ではなくて、過半数組合か過半数代表者の意見聴取義務でしかなく、したがって、 経営者が一方的に労基法に違反していない部分では定められますよ、ということですね。 しかも、10人以上の事業所では作成を義務付けているのに、「我が国では就業規則は慣 習として定着している」なんてことを言ったら監督課長、あなたの部下は怒りますよ。 労働基準法の規定に基づいて、就業規則がない場合はつくれということを指導してきた わけでしょう。慣習でできているわけではないわけですよ。法に基づいて、各事業所で やっているわけです。しかも、その法において労使の合意事項ではないということは、 ここで確認してきているにもかかわらず、それを契約法の柱にするというのは、やはり おかしいのではないかと思うのです。  1頁の基本的な考え方においては、労働契約の内容に納得し、いわゆる労使双方が納 得しという基本的な考え方に基づいたものになっていないのではないかと思うのですが、 なぜ就業規則が表に出てくるのかというのは、全く解せないですね。労使委員会も関連 してきますが、これはまた別途、意見を述べていきたいと思いますが、これは私自身も 納得できない「検討の視点」です。いままでの議論を無視しているのではないかと思い ます。 ○新田委員 いまお二人からもありましたけれども、趣旨とか基本的な考え方と書かれ ているのですが、労働契約法を新しく考えようという今、私が本当にがっかりしたのは、 いろいろなことが戦後、労働基準法で始まって、規制緩和などいろいろなことがあって 今に至っているところで、さまざまなことが起こっている。そして、産業構造も、働く 者の意識も変化してきており、生活と働くことの調和など新しい時代に向けたことが言 われているというときに、どうしてこんな形なのかと。新しい時代の労働契約というも のを考えようというときに、なぜいまの就業規則を中心に考えるのか。さまざま議論し て、あの手この手を尽くして議論してみても、どうしようもない、つくりようがないと いうならば別ですが、議論の入口からしていまの現状を前提に考えようというのは、ど うしても私は解せない。  だいいち、新しい時代の新しい労働契約法を考えようという発想はないのですか。そ れは長谷川委員からも話があったのですが、やはり合意ということではないのですか。 「検討の視点」で言えば、文書で示して説明する。説明されたら合意だというのは強要 ではないですか。提示があって、協議があって、そして双方が譲ったり、諦めたり、さ まざまなことがあって、妥協、合意するわけですよね。そういうことが触れられていな くても契約ですかというところに、やはり戻ると思うのです。  労働契約法の学習会であちこち行っても、必ず民法の契約というところが入っている のですね。やはり働く者と雇う者との契約は、合意というものを基本にしようではない かということがベースにないと、新しい展開は開けないのではないでしょうか。働く側 も雇う側も、新しい責任感というか、新しい意識を発揮して、働く場というものに臨め ないのではないか、そのように思います。 ○石塚委員 いまの意見と関係して、いきなり議論が就業規則から入っているところに 関して、やや集中している感がありますが、その手前の議論があるのだろうというのは 同じ労働側委員が述べた点であります。そもそも1頁の検討の視点の基本的事項、基本 的な考え方ですが、労働契約法の基本原則をどのように考えるべきかという議論が、や やサラサラッと済まされてしまっているなという感が、印象として否めません。  私の個人的意見としては、労働契約法制は絶対必要だと思います。思いますけれども、 労働契約法制に託する役割というものをどのように考えるべきかという点を、しっかり そこから入っていかなくてはいけない。その上で、どういうロジックをとっていくべき なのかということだと思うのです。その際に、1頁の第2の最初の○に書いてあります が、「労使が実質的に対等な立場で締結すべきものであり」云々「納得し、良好な労働 契約関係を維持するように努めるべき」と抽象的に書いてありますよね。やはりこれは 労働契約法なのですから、ほかの労働側委員が述べているように、実質的な合意という のがキーワードであって、しかも契約ですから、労働者と使用者が対等な立場で交渉し て、十分な情報と自由意思に基づいて実質的な合意によって締結すべき、これが契約の 基本的な大前提というか、「労使が対等な立場で交渉して、十分な情報と自由意思に基 づいて実質的な合意に基づく」、私はこれがすべての契約の出発点だと思っております。 したがって、その議論を蔑ろにして、いきなり、かなりサラサラッとした格好で入って しまうのはいかがなものか。その議論が必要だろうと思います。  先ほどから出ている意見ですが、実質的な合意に至るため労使が対等な立場でといっ たとき、当然、労働者と使用者側というのは非対称性があるわけですから、そういうこ とに対してきちんと配慮しなければいけないこと、それから、後ほど申し上げますが、 そもそも労働契約とは何なのか、労働者とは何なのか、使用者とは何なのか、基本的な 概念を基本原則の中にわかるように織り込むべきです。  いろいろなことを言いましたが、私の言いたいのは最初の点で、とにかく労働契約法 たる以上は、労働契約の最も基本的な原理から規定すべきだろう。そのキーワードは実 質的な合意だろうと思っています。これは私の意見であります。 ○紀陸委員 最初に質問をさせていただきたいのですが、審議のやり方というのですか、 どういう段取りでということについてですが、西村分科会長から7月までに中間取りま とめ、その間に契約3回、時間1回と、この内容の進め方は、ここで合意されたという ことで理解してよろしいのでしょうか。あるいは、それも含めて今後議論をする、ある いは今日ですね。その辺はいかがなのですか。 ○西村分科会長 一応、予定を8回とってもらっておりまして、前半で中間取りまとめ に至る議論をしたいと。あとの4回で、まとめに入る議論をしたいと。そうすると、最 初の4回のうちの3回ぐらいで労働契約法制というのがいちばん妥当なのではないかと、 そういう目論見でありまして、別にここで違った方法がいいということであれば、提案 していただければと思いますが。 ○紀陸委員 率直に申し上げまして、私どももこの検討の視点を拝見させていただいて 間がないのですが、昨年の秋の報告書の内容を相当要約して、一見、議論がしやすいよ うな形にこのペーパーをまとめていただいた点は評価をいたしますが、実は大きな問題 に絞っていただいて、しかもその中を大括りにしたがゆえに、かえって掘り立てていく と、全部報告書というわけにいかないでしょうけれども、かなり細かく検討しなければ いけないような課題はいっぱいあると思うのです。それがゆえに、私どもとしても個々 の問題について、しかもいずれも大事な問題ですから、軽々に結論を出しにくい点がた くさん交じっていると思っています。私どもの中でも少し検討が必要な項目が多々ある というように感じております。その場合に、特に契約の問題と時間の問題をどういう比 率で、あるいはどういう段取りでやるかというのは非常に大事だと思っているのです。  これは私の個人的な意見なのですが、仕掛り品の問題が前からありますよね。金銭解 決の問題とか時間の問題ですね。こちらを最初にやっていただいて、契約の問題はあと からにしていただいたらありがたいと、勝手に思っているのですが、そういう順序の変 更というのはいかがでしょうか。そのほうが労働側の方々も話に乗りやすいのではない かと思っておりまして、その間に平行して、契約の問題はそれぞれ大きな論点を抱えて いるでしょうから、それぞれのサイドの中で積み上げていくということを思っているの ですが、いかがでしょうか。 ○西村分科会長 ほかの使用者の方、いかがですか。 ○紀陸委員 特に労働時間の問題ですね。このエグゼンプションだけではなくていろい ろな論点がありますが、そういう問題や金銭解決の問題ですね。これは前から引っ張っ ている問題で、これを先に解決すべきだと、そちらのほうが議論がしやすいのではない かと思うのです。契約の問題はいろいろな視点からの課題がありますので、ここは少し いろいろな観点から検討しないと、それこそ答えが出ない問題があるのではないかと思 っているのですけれども。 ○長谷川委員 いま議論が手続の話と内容の話になって、ちょっと混乱しているのです が、紀陸委員からの議論の進め方の提案ですが、私は本当は労働契約法の次に労働時間、 次に労働契約を議論して労働時間、というやり方がいちばん良いと思うのです。個人的 意見だということで、紀陸委員は前回からの解雇の金銭解決と労働時間だけを指摘され ていますが、私たち労側はそうはできません。そうはならないですよ。解雇というのは そもそも労働契約の最後の、労働契約の最後の出口の問題ですから、ワンセット、フル セットなわけですね。  労働時間を契約法制の中でどう扱うかというのは、労働契約法制の研究会のときから 言っているのですが、いちばん最後に労働時間が出てきているわけです。そういう意味 では、今回のこの審議会の出し方も、労働契約と労働時間、フルセットで出てきている わけですから、やはりワンセットですよね。ただ、もう少し議論していくと、労使委員 会なるものが出てきた場合に、労使委員会でいいのか、それとも我が国に労働者代表制 をつくろうかという話になってくると、主要なのは労働契約と労働時間と労働者代表制 の3つになる可能性もあるのです。だから、そこはやはり議論の進展の仕方で変わって くるのではないでしょうか。  議論の仕方ということで言えば、内容に入っていって、労使委員会のところに入れば、 私どもはやはり労働者代表制の提起をしたいと思っていますので、労働者代表制の議論 をどこでやるか、という議論にもなってくると思います。  それと中間報告、中間報告と言うのですが、中間報告はまとまらないこともあると想 定できますよね。かつて純粋持株会社懇談会は中間報告で、そのまま凍結しているとい う例もあるように、中間報告に引き続き議論するという方法もあるだろうし、ここでし ばらくお休みしようとか凍結しようなどという話もあるわけです。だから、それは少し 審議してみないとわからないのではないかと私は思っています。 ○田島委員 進め方ですが、紀陸委員が言われたのは、いわゆる使用者側の立場ですね。 いままでの主張を見たら、使用者側はそうなのかなという気はします。ただ、今回の労 働契約法というのは、労働基準法に並ぶ、労働関係で重要な労働立法です。そういう意 味では7月までに中間報告でと、先に日程ありきではなくて、やはり労働契約なり労働 時間について、しっかりと議論をしていく。したがって7月の中間まとめ云々というの は前提にしないで議論していこうということを、是非分科会長としては確認してほしい です。21世紀、今後のワークルールを考える場合に、極めて重要な法案ですし、この重 要法案の冒頭に就業規則なんか出てくるのは、本当に真面目に考えているのかなと私は 思ったのですが、結論ありきではなくて、しっかりと議論をしていくということを確認 してほしい。それから、例えば金銭解決で本当に議論するのだったら、前回、建議まで まとまったのに、何で法案のところでつぶれたのかも明らかにすべきです。  労働契約法というのは重要な課題なのだから、結論をいついつまでにという形で、拙 速には進めないでほしい。しっかりと労使双方が意見があれば十分にぶつけ合うという ことを、進行に当たって配慮していただきたいと思います。 ○渡邊佳英委員 随分頁数は少なくなったのですが、昨年の研究会報告の論点というの は、そんなに変わっていないと思うのです。そういう面で、先ほど田島委員も言ったよ うに、いわゆる7月の中間ありきではなくて、やはり十分な議論を尽くすことがいちば んいいのではないかと思っています。私のほうの視点としては、いわゆる労働契約法と いうのは、労働紛争の解決のために必要だということですが、それが本当に必要かどう かは、私としては若干疑問だというように思っています。 ○廣見委員 議論の進め方の問題ですが、いま紀陸委員のほうから労働時間の問題と、 基準のほうは別にして契約法制、労働時間のほうは先からどうなるという話ではありま すが、いま長谷川委員からもあったとおりで、労働側の委員の方はやはりこの順番だと、 こういうことのようでもあります。なお、全体として議論をしなければならないボリュ ーム、表現が適切かどうかわかりませんが、所要時間等を考えてみますと、やはり労働 契約法制のほうが時間がかかるだろうと。それは非常に基本的な問題も含んでいますし、 そういう意味では必ずしも論理必然的なものではないと思いますので、やはり労働契約 法制全般から少し議論をしていって、労働時間という順番のほうが適切なのかなと、私 は思います。  もう一つ、いま非常に重要な問題としては、7月ごろを目処にということについては、 あまり制約せずにというお話も出ております。確かに重要なことは大変重要な問題であ ります。ただ、これは過去の審議会その他の進め方でもそうでありますが、一つの目安 みたいなものを持ちながら議論していかないと、なかなかうまくいかない。エンドレス というわけではありませんが、そういうのはありますから、私もそれで絶対ということ ではないと思いますので、会長からお示しいただいたようなことは一つ念頭に置きなが ら、しかしそれは労使、公益委員も含めて議論は尽くすと。これが基本であることは否 定できないわけですから、そういう立場で議論をしていって、コンセンサスづくりを可 能な限り早く目指すと、こういうスタンスでお互いに努力をする。それが議論の進展如 何によってはどうなのか。これはまたその都度その都度考えなければならない問題であ るとは思いますから、基本的にはそんな考え方で、まずは議論をしていってみるという ことなのかなと思います。 ○西村分科会長 しっかり議論をするということについては、全然問題はないわけです。 ただ全く時間の制約なしにと言っていいのかどうかということだけです。やはりある程 度の目安の目標ぐらいあったほうが、議論がしやすいだろうと思います。もし、紀陸委 員に非常に強い異論がなければ、先ほど示したような形で議論を進めさせていただきた いと思いますが、よろしいですか。 ○長谷川委員 今日、使側も言っていますし、労側も言っていますが、労働契約法とい うのは、なかなか難しいと思います。労働時間法制や労働基準法の議論については、私 たちも随分慣れてきたというか、よくできるのですが、労働契約法というのは新しい法 律です。ある意味で基準法、労組法に次ぐ法律だという言い方もされているわけですか ら、月に2回の開催はやはりきついのです。なぜかというと、私たちもただここに来て 座っているわけではなく、今日も今日でそれなりに、ちゃんと反省会もしなければいけ ないし、もしかしたら間違ったことを言ったことに対しての訂正もしなければいけない わけですから、次のための勉強もしなければいけないので、月2回は本当にきついと思 います。  それと、私がすごく心配しているのは、私は労働法の専門家でもありませんし、民法 の専門家でもありませんし、弁護士でもありません。例えば今回、労働条件の変更や解 雇のところで、労働審判との連携のことが書かれています。それと訴訟の問題があるわ けです。そうすると、やはり私たちの議論を補強してくれるプロフェッショナルがほし いわけです。公益の先生たちもいらっしゃいますが、皆さん得意分野があって、訴訟の 場面についての補強もしてほしいのです。就業規則も4派13流と言われているわけです から、いろいろな見解の御意見も聞きたいのです。そういう意味では専門家の関与の仕 方や時間などを、もう少し十分に取っていただきたいと思います。どうやってやるかは、 次回までに事務局から検討してもらえればいいと思います。 ○西村分科会長 紀陸委員、進め方については一応労働契約法制の問題をまず議論して から、労働時間法制という話ですが、いかがですか。 ○紀陸委員 労働時間の問題をきちんと御議論いただけるという担保が得られれば、私 も順序にはこだわりません。 ○西村分科会長 当然のことながら労働時間の問題についても、しっかりと議論をする わけで、後に回ったからそれはパスということには、絶対にならないと思います。それ では1頁ぐらいから、議論あるいは御意見をお願いいたします。 ○渡辺章委員 労働契約法制の議論の具体的な制度にかかわる問題として、まず真っ先 に就業規則の問題が出てくることについては、大変な抵抗感があるというお話でしたが、 私は、就業規則の問題を潜り抜けなければ、日本の労働契約法制の構想は出てこないと 思っております。そのぐらいの重要問題ですから、まずここを議論するという最優先の 課題だと思います。まず真っ先に就業規則論が出てくることについての抵抗感というの は、それくらい大きな問題で、しかも判例法理によって相当程度がっちりと仕組まれて いる問題について、立法的観点からもう一度レビューしてみるというのがここの課題な ので、この問題をこういう位置づけで扱う限りにおいて、私は違和感がないので、そこ のところがなぜそうなのかということを、労働側の方々にもう一度お伺いしたいと思い ます。それが一つです。  また、基本が合意だということには全く異議はありませんが、日本だけではなく、世 界の国々で一人一人とそれぞれ契約をして、あなたはこういう条件でやっておりますと いうことで労働契約が行われているかというと、そうではなく、労働条件がいわば制度 として企業なり事業場の中で出来上がっていて、その中に労働者が入っていくというこ とにならざるを得ないのです。それが統一的・画一的決定ということですが、それをつ くるのは使用者ですから、契約の原則に則ってそれをできる限り、あらゆる意味で合理 的なものにしていくと。  就業規則は一つあるけれども、手段としては個々の労働契約を書面化したり、事前に 明示したり、内容的合理性のチェックが必要なものはするということです。そして、で きる限り実質的な合意に近づけていくというのが、法制の基本的な態度なのです。そう いう意味で就業規則と個々の労働契約との関係を整理していくというのが、1頁から2 頁までの課題だと思います。そういう目で見ると、少なくともこの順序で議論をしてい ってよろしいのではないかと思うのですが、長谷川委員、そこのところのお考えを聞か せてもらいたいと思います。 ○長谷川委員 むしろ私は渡辺委員にお聞きしたい。就業規則というのは、そもそも何 なのかを教えていただきたいのです。 ○西村分科会長 今日は奥谷委員が来ておられませんが、昭和22年にできた労働基準法 というのは、就業規則法制を持っていますよね。もし、ああいうものはもう古いモード なので、脱ぎ捨ててやめてしまったらどうかとおっしゃるのだったら、奥谷委員もすご く喜ぶのではないかという感じがするのです。最初に市民社会のルール、契約自由のル ール、相手側選択の自由、内容選択の自由という話をおっしゃいましたが、昭和22年に 労働基準法をつくったときには、市民社会のルールというものを労働関係の中にそのま ま持ってくると、非常に難しいだろうということで、労働基準法で使用者に就業規則の 作成義務を課したわけです。この作成義務を課すということは、別に実質的な対等な労 働関係を無視するということではなく、やはり労働者保護の観点からつくられたわけで す。そういうことで50年、60年やってきています。それを全く違った新しいモードで やろうとするには、それなりに相当の準備が要るだろうと思います。  労働契約法制については、いままでに随分たくさんの判例法理が積み重なっておりま す。もちろん少しのプラスアルファは入ってくるだろうと思いますが、そういう判例法 理を踏まえて、できる範囲で労働契約法制を考えようと。そして10年経って、20年経 った後で、新しいモードを考えることは、もちろん可能だと思いますが、一挙にいまの 法制度を脱ぎ捨ててやれるのかといったら、ちょっと難しかろうと思います。我々が労 働法の授業をやるときには、市民社会のルールというところから出発するわけで、まず は出発点なのですが、その出発点は21世紀ではなく、18世紀と言うか、19世紀と言う か。それは労働者にとってはハッピーではなく、どちらかというと不幸ですよね。  先ほど石塚委員がおっしゃった、実質的に対等な立場で労働契約を締結するというの は、アルファにしてオメガの話で、いかにして実質的に対等な労働関係を形成するかと いうのが、やはりポイントなのです。迂遠な方法かもしれないけれども、労働基準法は 就業規則という法制度を選択して、我々はその恩恵というのを随分被っていると思うの です。ですから私などは、それは古いモードなので脱ぎ捨てようとはあまり考えないの です。渡辺委員のお話もありましたが、長谷川委員がそこから出発するのはおかしい、 がっかりすると言われたら、本当にそうかなと思います。 ○渡辺章委員 就業規則とは何かと聞かれましたので。一つは、労働基準法にある制度 ですから、労働基準法にある労働条件の基準が、それぞれの事業場でどのように具体化 されていくかということを、監督行政の手段として用いるというのは、明治の工場法時 代からそういうものであって、就業規則というのは、効果的に基準監督をするという機 能や性質を持っていることは事実です。しかし同時にその中に、労働基準法で定める基 準の適用関係だけではなく、当該事業場にこういう労働条件がさまざま定められるわけ です。  労働基準法2条にも、「労使は誠実にこれを守らなければならない」と書いてあります。 それと個々の労働契約の内容をどう結び付けるかということで、内容的な合理性のチェ ックをしよう、あるいは締結の際に労働条件を明示して、労働者が納得できるようにし ようという形になっているわけです。ですから判例法理だけに任せておくのではなく、 ここで法制度上きちんと改善すべき点は改善するとして、その基となる就業規則を検討 するというのが、私はまず真っ先の課題だと思います。 ○長谷川委員 反論だけしておきます。私は何も18世紀や19世紀の契約自由に戻せと 言っているのではないですよ。確かに契約自由にしておくと、労働者に不利益であり、 労働条件がどんどん低下するので、それを補強するために労働基準法で最低基準を設け たり、労組法で労働組合と使用者が交渉して、労働条件を決めていくというシステムを つくったわけです。しかし労使が対等で実質的にものを決めていくときに、労働者と使 用者とでは情報量もいろいろな意味でも対等ではないし、経済的にも対等ではないので す。それをどうやって補強するのかということで、集団的な関与の仕方をつくってきた と思うのです。ですから、そこを否定するものではありません。私は、19世紀に戻れと は全く言っていませんので、そこは誤解のないようにしていただきたいと思います。  就業規則というのは、いま渡辺委員が言ったように、そもそも労働条件の明示ですよ ね。それを労働基準法の最低基準効として持っているものではないかと、私は思ってい たのです。それが時代の中でだんだんと、労働契約に関するいろいろな裁判例で、就業 規則に対して労働条件変更の機能などを与えてきたのが、就業規則だろうと思うのです。 だからといって労働者と使用者の合意もないのに、就業規則がそのまま、これは労働契 約だと本当に言えるのかと思っているのです。ですから労働契約というのは、どうある べきなのが理想なのか、まずそこを議論しましょう。あるべき論をちゃんと議論して、 その上でどうすればいいのかということをしてもらわないと、最初から就業規則という のは問題です。  最初に職場に入ったときに、就業規則1条からザーッと暗唱させられたものは、いま 30年経っても覚えています。「職員は、無闇に職場で飲酒・酩酊してはならない」など、 就業規則の中にはいろいろなものがいっぱい入っています。そういう就業規則をどのよ うに考えるのか。私は、就業規則が事実上、労働契約になっているというこれまでの判 例を持ってきて、厚生労働省が労働契約だと言われたときに、そもそも労働者と使用者 の合意のないものを、どうやって労働契約と言うのかと思うのですが、間違いなのでし ょうか。私はとても不思議な世界を見たような気がします。 ○石塚委員 いまの御意見と似たり寄ったりかもしれませんが、就業規則が非常に大き な役割を果たしてきた、実質的な労使の対等にとって、非常にプラスアルファの役割を 果たしてきたという、歴史的な経過があることに関しては存じています。したがって就 業規則自体を否定するとか、肯定するという議論をしているつもりはないのです。ただ 実質的にその中身について、就業規則が大きな役割を果たしたというのはいいのですが、 新しく労働契約というものを、労働契約法で議論しようというわけですから、まずは労 働契約とは何なのかというところから入るべきでしょう。  その際の就業規則というのは、大きな意味で労働契約の中における一つの雛形という か、契約論から言えば約款だと思います。もっと大きなところから入って就業規則を議 論するのなら、そこでしてみるということで、いきなり就業規則からというのはいかが なものでしょうか。その間に非常に大きな役割を果たしてきて、そこから実際上、労働 契約になっているというところから入ってしまうから、そもそも議論に入りにくいと私 は思っているのです。  労働契約法を新しくつくろうというわけですから、そこからまず議論をしてみて、労 使対等の原則というところからやってみて、その中で就業規則論を議論していっても十 分できるのではないでしょうか。実際にこの間の歴史的な現実を踏まえれば、そうなの かもしれないけれども、いきなり労働契約のそもそも論をやらないで、就業規則論に入 ってしまうから、ちょっと間口が狭く、しかも入りにくいという感じを私は持っている のです。 ○松井審議官 事務的な説明の補足ということでお聞きいただきたい。労働契約を考え るときに、労働契約の役割や使命というものはありますが、手続的にどのようになって いるかというと、いわゆる労働条件を設定するものだというように判断しました。実際 にいまの法体系での労働条件というのは、就業規則が決めるというやり方もありますし、 労働協約で決めるという局面もあります。さらに、個別の労働契約でも決めている。つ まりこのルールの決め方は、いろいろなツールでみんな労働条件設定に機能しているの です。  そこで提案の2頁を見ていただくとわかりますように、労働契約を議論するときに、 労働契約で定めるべき労働条件について、就業規則はどういうようにかかわっているの か、就業規則と労働契約の関係を明確にして、労働契約の議論に入らないかというつも りで書かれているということを、まず分かっていただきたいと思います。労働契約と言 われていますが、あくまでも労働条件を設定する道具です。そして基準法には、いま言 われた基本原則がすでに書かれているのです。多分、これを直せということではないだ ろうと思います。  すなわち労働条件の原則というのは、基準法1条にも書いてありますし、労働条件の 決定というのも、2条に書いてあるわけです。そこで「対等の立場において決定する」 とか、「労働者は使用者と労働協約、就業規則及び労働契約を遵守して、誠実にその義 務を履行する」という位置づけがあるわけですから、この辺は基本を外さないで議論した ほうがいいというぐらいの意義づけで出しているのです。いま言われたものを取り外し て、我が国においては労働契約ですべてを決める、就業規則も労働協約も使わないとい う議論であれば、また全然別の話ですから、そういう提起の仕方もあろうかと思います が、いまある基準法を仲介にしながら、基本原則を見ながら位置づけをやるというのは、 決してがっかりされるような議論展開ではないと我々は思っています。 ○田島委員 いま松井審議官が説明した就業規則と、労働協約と、労働契約のうち、労 使での合意事項はどれですか。私の理解ですと、労働協約や労働契約は合意です。就業 規則は、意見聴取義務だけですから、例えば組合が就業規則のこの改正は反対だという 意見を述べたとしても、法に反していなければ、労働基準監督署では受理されます。そ れが労働契約法の中心軸になるというのは、結果的に経営者の一方的な変更権を追認し てしまうのではないかという疑念があるわけです。  もう一点は質問事項です。私は今日初めて見たので、まだしっかりと読んでいないの ですが、例えば労組法と労基法で労働者の対象範囲が違いますよね。雇用の多様化とか 就業形態の多様化と言っているけれども、ここで言っている労働者の対象範囲をどうす るのか。就業規則でカバーする範囲を対象にした労働契約法案なのか、と直感的に思う のですが、その点についてはどうなっているのですか。これは就業規則問題とかかわっ てくるのです。 ○松井審議官 後者のほうは議論の対象なので、前者のほうの説明をさせてください。 労働契約はおっしゃるように契約ですから、労使が合意をして成立するという範疇だと 考えます。就業規則については、手続的に意見聴取というのは書いてありますが、労使 が合意をしてつくるものではないと思います。使用者がつくるものです。労働協約の典 型例は、組合と使用者間での合意はあるのです。しかし個々の方との合意はありません。 ですから、そういった三つのいろいろな労働条件にかかわる手続が、いま併存している わけです。  労働契約を議論するときには、いちばん直近の就業規則、全く合意をしないでルール が設定できるものとの関係を整理した上で、契約を考えようという提案だというように 説明したつもりです。労働組合と使用者がやる協約は集団的な合意で、個々の合意では ないから、個々の合意をする議論をするときに、手続はあるけれども、使用者が一方的 に定められる労働条件設定ツールとの関係を、まず整理した上で議論をしようというよ うに提起した、ということで御了解いただきたいと思います。その議論の仕方がどうか ということを言われていると思いますが、そういう整理で、労働契約を議論するために 避けて通れない論点だということで提起しているわけです。  労働者の範囲について、基準法や労組法といったものをどうするかというのは、基本 的な問題です。ここでは明確に触れておりませんから、むしろいろいろな意見を言って いただいて、整理をしていくというのが肝要かと思います。 ○長谷川委員 私は、就業規則というものが、いつも不思議に思うのです。今回、高齢 者雇用安定法の改正で、年金支給開始年齢と退職年齢に差があるので、そこを接続させ るために、事業主、使用者は希望する者全員を継続雇用しなければならない、ただし労 使協定があれば、希望する者全員でなくてもいい、かつ労使協定が不調に終わったとき は、使用者は就業規則でその基準を定めていいというようになりました。そうすると、 そこには合意など全然ないわけです。私は労働者と使用者の合意というのが、労働契約 だといつも思ってきたのですが、労使協議も不調に終わって合意もできないようなもの が、なぜ労働契約になるのですか。 ○紀陸委員 長谷川委員は就職先の就業規則を暗記させられていたから、偏見を持って いるのではないですか。いまの高齢者雇用安定法だって5年の猶予期間だけでしょ。ま た労使協定をちゃんと結ばないと、再雇用延長の方々の対象は絞れませんよね。だから 労働契約の内容になるのが就業規則の定めである訳です。  基本的な事項として、このペーパーの1頁に労働契約法の総則事項がありますね。こ この議論から入るわけですよね。例えば3番目の項では、「労働契約の内容について、 できるだけ書面で確認するようにするものとすることが必要ではないか」というように、 サラッと書いてあるけれども、必要だと言った場合に、果たしてここの意味するところ でどこまでの法的効果が付与されるのか、この辺から議論が始まるように思います。い きなり就業規則云々からではなく、第2の検討の方向の前にある、第1の検討の趣旨の 中段の2つ目の・から議論が起こされているのです。  ここの議論も、実は私どもにとってはすべて「はい、はい」と言えるものではないも のも、いま確認する必要性のあるものも含まれていると思っています。かつ、この就業 規則の議論は、労使の委員会の議論とも絡んでいるわけです。そういう意味ではこの議 論をすると同時に、いろいろなことが絡まって出てくる、そういう建て方になっている と思いますので、組立て方としてはうまいわけです。非常にうまいけれども、いろいろ な論点が入っている。したがって就業規則云々だけであまり議論をしないで、多角的に 議論をするというペーパーになっている、という感じで受けとめているのです。ですか ら逆に冒頭に申し上げたように、私どもとしてもいろいろな準備の時間も確かに必要で すので、慎重かつ合理的、効果的に議論したいなという感じでいます。 ○松井審議官 先ほどの長谷川委員の質問については、所管が違うので、正確な答えに なるかはわからないのですが、定年年齢に絡めての話は社会保障制度の支給開始年齢と、 民間企業における定年年齢制等の整合性を取るということが、一大命題という設定で政 策を展開しました。そのときに社会保障制度にかかわる支給開始年齢と、企業における 雇用の最終年限を調整することが必要だ、調和させることが必要だということが世の中 に認知されると、その定年年齢を調整するやり方というのは、そこの現場で支配的な組 合と、使用者がちゃんと話し合ってやるということが大前提だろうということで、最初 に協約を書いているのです。  さりながらいろいろな意見があって、その調整が着かないとしても、使用者は自らの 責任において就業規則といった手段を通じてでも、企業における定年年齢を調整してほ しいというぐらいの政策的な判断で、いま言った順番で整理をしているわけです。長谷 川委員が経験された使用者が、どんな使用者かはわかりませんが、そのときに就業規則 を作成する使用者の経験則的な意図。例えば悪意があるということであれば、一定の色 が付くのですが、法体系上は当該事業場におけるルールを決定できるだけの権限がある 使用者に対して、定年年齢については法令で直接に、年金支給開始年齢と調整しなさい という命令を与えるならば、合意できなくてもそこだけはやらせるといった判断で、協 約、就業規則という並びにしたはずです。そういう意味ではその評価と、ここでやろう とするものは違うということを理解いただきたいのです。契約内容に労働条件が書かれ ておりましたが、その労働条件を設定するときのいろいろな道具立ての関係を、しっか り整理して契約というものを考えていきましょうと、あくまでもそういった視点で提示 しております。 ○谷川委員 これは労働契約の内容に対して、就業規則がどういう位置づけにあるかと いうことだろうと思います。しかし、この2頁の「基本的な考え方」の1番目の項では、 労働契約の内容は就業規則の定めるところによるとの合意が成立したものと推定するこ とが必要ではないかと言っているのです。ですから就業規則が労働契約の内容とイコー ルということが実態的であり、これらをベースに考えてはどうでしょうか。  戦後の労働三法ができてから、就業規則が労使の完全な合意に至っているか至ってい ないかは別としても、今日までそれぞれの企業で実践的に使われてきています。それに よって広く従業員に理解・解釈されるように、企業側も努力をし、労働組合側もお互い に努力をしてきています。そのような中で、その内容ですべて個人が納得しているかど うかは別としても、いまの実態論から言えば、就業規則というのは働く人たちにとって も、統一のルールとしてかなり使われてきているのではないかと思います。そういうこ とからすれば、「成立したものと推定する」というこの推定は何かということになるの だろうと思います。ですから就業規則のあり方論から議論に入ることは進め方として意 味があると思います。  契約の内容について、就業規則の位置づけというのはどういうように位置づけるのか、 それを位置づけられないのなら、本当に個々に決めるのか、どうするかというような、 いくつかの選択肢の中の議論にしていかれたらどうでしょうか。しかも、この検討の案 文も、そういうように書いてあると理解しています。 ○君嶋氏(山下委員代理) 先ほどから労働側から提起されている問題というのは、労 働契約というものの中で就業規則をどうとらえるべきかという御議論だと思うのです。 ですからいま谷川委員がおっしゃったように、就業規則というのは実質的に明確な合意 ではないと思いますが、ある程度の労働条件の設定、労働契約の一内容という形で機能 してきたというのは、やはり無視できません。また判例上もいろいろな議論があって争 いのあるところですから、そこをルールとしてある程度明確にするというのは、建設的 ではないかと思います。 ○岩出委員 私の意見も同じです。労働契約法制の体系、それから就業規則というよう にいくのではなく、論点として出していくと。大方の判例で集約されている内定や試用 などは、ある程度決まっているので、あえていちばんの争点であるものを出して議論を 深めたいという配慮で出されたと、私は理解しているのです。この議論から入っていっ ても、時間を有効に使えると思います。むしろ逆に、決まり切った言葉で長々とやるよ りは、この論点を整理した上で先に進んだほうが機能的だと思っています。 ○長谷川委員 この2頁で言えば、就業規則の内容が合理的であれば合意したものとい うことで、合意も推定しているのではないかと思うのです。ですから就業規則の内容が 合理的であれば、合意したものも推定できるというのは、なぜできるのか、どうしてそ ういうように理解することができるのかが、私にはわからないのです。合理的であれば、 労働者と使用者の契約の合意が推定できるというのは、どういう理論でこういうように できるのかと思っているのです。 ○田島委員 それに関連して、先ほど紀陸委員もおっしゃった、1頁の第2の「検討の 視点」の上の○ですが、「労使が実質的に対等な立場で締結するべきものであり」、あ るいは「労働契約の内容に納得し」云々と書いてありますね。この精神に基づいて、で はなぜ各論で就業規則なのか。審議官は、この就業規則を定めるのは経営者であり、こ れは合意ではないと言っておりますが、「検討の視点」では、これからは合意を前提に して作業しようと冒頭で謳っているのに、各論ではなぜそうならないのかと思うのです。 そういう意味では、いま公益の岩出委員がおっしゃいましたが、納得できないのです。 ○松井審議官 1頁について正確に言いますと、「労働契約は実質的に対等な立場で締 結するべきものである」ということで、理想はそういうものなのです。そこで労使双方 が契約の内容で労働条件を定めますと、それに納得する、もうわかったということが本 当に重要だろうということを申し上げたわけです。ではそういう目で就業規則が実際に 定めているかどうかを見ようということで、2頁に飛ぶわけです。そして、そこで本当 にこれがいいかというのが、まさに長谷川委員の言われた問題で、就業規則で定めた労 働条件を契約として取り込むというときに、どう取り込もうかと考えたわけです。そう すると、ここにありますように、契約を締結するときに就業規則について、必要な就業 規則を十分相手に見せるという周知手続をやると。 ○田島委員 しかし今までも周知義務は基準法で定められています。 ○松井審議官 ですからそれを今、どうしようか確認しようと言っているのです。それ と、内容が合理的でなければいけません。たぶん合理性というのは、労使双方がいろい ろなものを納得する上で、いちばん重要なエッセンスなのです。不合理なものを当事者 が納得するわけがないので、当事者が納得するためには、その中身が合理的であるとい う要件を満たすことで、個の就業規則に定めている要件が、労働契約の内容として取り 込まれるのです。  そのときに法律用語でもっと厳しく言えば、就業規則で定めた内容が、契約内容とな ると完璧に見なすというぐらいのやり方もあるのです。しかし、それだと個別に「いや、 納得いかない」と言う方がいるかもしれないから、推定するというように考えたらどう かということでつながりを付ける。そこに何もなく、就業規則で書いたことは書いたこ と、契約は契約というようにやってしまうと、就業規則と契約の関係を明確にしようと いう問題提起にならないのです。そこで、あえて推定するというように考えてはどうか、 そういう効果を与えることに皆さん、納得いただけますかというように問題提起をし、 こうすることで対等で納得のいく契約をつくることに役立つのではないかということで、 問題提起をしているのです。それが駄目というのなら、駄目という御意見もあるでしょ うし、それはいいというのもある。そういう形で議論をしていただきたいという問題提 起です。 ○長谷川委員 要するに内容の合理性と、契約ですから合意があるわけですね。ですか ら、どこで誰が何をもって内容の合理性を言うのか、また労使が合意をしたというのは、 何をもって合意をしたとするかを聞きたいのです。 ○大西監督課長 1頁と2頁の関係が非常に議論になっていますが、1頁に書いている ことについては「基本的考え方」として、労働契約というのがどういうものであるのか という議論をさせていただきたいのです。ここで一つ押さえるポイントは、継続的な関 係というのが大きなポイントになるということと、その労働契約が円滑に継続するため に、そういうことが必要だろうということです。  では、それはどういうことなのか。繰り返し議論になっていますが、労働契約という のは労使の実質的な対等な立場で締結するものであり、その労使双方が労働契約の内容 に納得していて、お互いに良好な契約を継続しようというのが基本的な考え方です。分 科会長からも御指摘いただいたように、私どもの国の労働関係がどのような関係に立っ ているかということで、2頁に太字で書いてある「基本的考え方」に、御議論の素材と して提起させていただいているわけです。就業規則により労働条件が統一的、かつ画一 的に決定されているということが広範に行われており、広く慣習と言えるほど行われて いるということが定着している。そういうことによって世の中というのは、多くの場合、 うまくワークしているのではないかという事実を踏まえ、就業規則と労働契約がどうい う関係に立っているのかということを整理するのが、労働契約が何であるかというのを 考える上でも非常に有意義ではないかという具合に考えています。  そこに書いてある1つ目の○に尽きるわけですが、就業規則ですから当然、中身を知 っているというのが基本です。内容が合理的であるということは、やはり契約の両当事 者から見て、これは納得できる、これはそうだというのが合理的な場面です。合理的で ない場合というのは、契約締結の場面ですので、どちらかが違うことを言うのではない かということも、当然考えられるわけです。そうした上でどうするのか。いわゆる就業 規則は周知されているということと、合理的でないというときは、それは除いて、その 労働者がそこの事業場で働いているという現実を考えると、やはりそういう方々は就業 規則の内容を理解した上で働いているのであれば、それは労働契約の内容ということで 推定するという論理構成が取れないだろうかと。  必ずしもこういう具合に、パチパチと明確に書いていない部分もありますが、いまの 日本の労働関係や就業規則の果たしてきている役割などを踏まえ、1頁の理念的なとこ ろと、2頁の就業規則と労働契約はどういう関係に立っているかというのを考えると、 そこの4行にありますように、就業規則の周知と合理的でない場合を除くということと、 そこで円滑に働いているということで、推定というものがあってもいいのではないかと いう関係に立っているのではないかと思います。 ○岩出委員 飛躍があるかもしれませんが、例えば労基法18条の2の解雇権濫用の法理 を導入したときも、条文上は合理的という理由を使っていて、現実的には判例も集積し ており、当然そういうものを踏まえた判断がなされているわけです。同じように現在、 就業規則の変更に関する判例にも膨大な量が出ておりますし、最高裁を含めて、判例法 理が形成されているわけです。そういうときに、そういうものを踏まえた合理性を要件 とする変更のルール化をする、条文化をするということは、また意味を持っています。 その中で言っている合理性というのは、そういう判例を踏まえたものになっているとい うのは、当然の前提だと考えています。  そういうことがたぶん事務局から出されていると思っていますし、18条の2に関して も指針や通達で、その内容を具体化するようにこれからなされていくと思います。そう いう方向で現状として判例がバラバラに出てくれば、一定ルールを示して、使用者に対 してもその拘束を持った認識をしてもらう、不合理なものには拘束力がないのだという ことをわかってもらう、そういった啓蒙的、啓発的効果も出てくるわけですから、その 当時行われた18条の2と同じような議論を、ここで展開しても構わないと私は思います。 ○松井審議官 長谷川委員の先ほどの御質問に、遠回りで答えて恐縮ですが、周知手続 がやられたのか、合理的かどうかという判断をどうやるかというのは、たぶん手続論に 入ってしまったと思うのです。合理性についての手続論は、いま岩出委員が言われたよ うに、判例の集積等を見ながらチェックします。では周知手続にはどのようなことが必 要で、それをやったかどうかをどう検証するか。もし訴訟でもめたときに証明するとい ったこともあるでしょうし、日常的な場面でそういうことが徹底されるかどうか、そう いう運用が図られるかといった観点ができて法律ができても、それが着実に施行される かどうかをどういうように担保するかといったぐらいの問題意識であるならば、その辺 は5頁を見ていただくと分かりますように、最後にまとめて「国の役割」に入れていま す。  労働契約関係が円滑かつ継続的に維持されていくよう、国が必要な助言、指導等を行 う必要があるのではないかという視点で、どんなことをやればいいかということも、そ の辺で手続を考えてもらえればと思います。つまりここのテーゼというか、こういうこ とをすべきであるという法律をつくり、それをきっちり実行していくための国の役割や やり方も、こういったところで併せて考えてもらうというように、総合的に考えられな いかという設定にしています。 ○長谷川委員 もう一つ聞きたいのは、事務局は就業規則で書いてきたのですが、最初 の労働者と使用者の契約について、いままでの研究会報告でも、日本はずっと就業規則 の異常な発展について触れて、就業規則を使っているわけです。他の国での労働契約と いうのは、どういうようになっているのか、少し研究者の皆さんから教えていただきた い。 ○田島委員 その答えをいただく前に、私から言いたいことがあります。岩出委員がお っしゃった内容というか、いわゆる労働条件の不利益変更や就業規則の変更で、合理性 や社会的な相当性、必要性など、労使で争いがあるわけで、合理性ということで今回謳 っていることは全く変わらないのです。ただ次の労使委員会とのかかわりの中で、そう いうものが協定化されれば、あるいは多数派組合が協定化していれば、合理性を推定し ようという形で、いままでの判例法理を大きく転換しているのではないかと思うのです。 いままで説明した内容での合理性云々だけだったら、私は就業規則はいまの労働基準法 で十分ではないかと思います。  例えば周知については、いままでも規定しているわけです。しかし実際に見せてもら っていない労働者や未組織労働者はたくさんいます。「あんた、労働騒動が起きたときに 就業規則を見たか」と言ったら、「いや、見たことありません」とか、「欲しいと言った けれどもらえません」と言う労働者もいっぱいいます。そういう意味でいま周知させよ うと思ったら、労働行政としてはいくらでもできるわけです。しかし今回の労働契約法 の中で就業規則が出ているのは、いままでの労基法から変えて、やはり多数派や労使委 員会との間で協定化されれば、合意させられれば、それで合理性を推定しようという形 で、大きく転換していることにつながるのではないかと思うのです。そういう意味では いままでとは全く違うでしょう。同じだと岩出委員は言いましたが、私は違うだろうと 思います。 ○長谷川委員 私は、就業規則の話を質問したのです。そもそも労働契約法という新し い法律をつくるというところで、研究者でも事務局でもいいのですが、日本は就業規則 が異常に発達したと思うけれども、ほかの国の労働契約はどのようにしているのか、教 えていただければと思います。 ○荒木委員 諸外国それぞれありますので、とても一言では御説明できません。最初の ほうで労働契約も契約だから、合意というのが中核にあるべきだという議論がありまし た。それはそのとおりですが、そこで想定されている合意というのは、すべての契約が そうであるように、明示的な合意だけが合意ではなく、労働関係以外にも黙示的な合意 というのはたくさんあるわけです。そこで当事者間の黙示の合意は何だろうかというの が、契約の解釈になってまいります。労働関係において、日本には就業規則というもの があって、当事者は採用に当たって就業規則を見せられて、特段異議を述べていなけれ ば、就業規則の内容が労働契約の内容になるということに黙示的に合意をしたのである、 そういうものとして就業規則は機能してきたのです。ですから就業規則を議論するとい うのは、まさに労働契約の合意の内容は何かということを考える上で、不可欠の問題だ と思っております。  この文章表現がいいかどうかは、ちょっと留保を付けますが、2頁の「基本的な考え 方」の上の部分について、私の理解するところでは、労働者が雇われるときにその人の 労働契約内容がどうなっているかという場合、不合理なものでない就業規則の内容が、 契約内容になるというように推定していいのではないか、ということを議論していると 考えております。後半のほうは、やはり労働条件の変更の問題です。就業規則論を議論 する上で問題だと言われているのも、おそらく変更の問題だと思います。これは少し場 面を分けて、問題が違うということを認識して議論をしたほうが、議論が混乱しないと 考えております。  そこで外国の話です。確かに諸外国では就業規則が、とりわけ合理的な変更のものが 労働契約を禁止するかどうかという議論はありませんが、雇われるときに統一的な労働 条件を使用者が提示して、それに異議を唱えなければ契約内容になるという前半部分は、 どこの国でもそうです。ただ日本では企業別組合ですから、その雛形が就業規則となる のに対して、ドイツやフランスでは産業別組合が結んだ労働協約が、いわば雛形となっ て個別の労働契約となります。その限りでは機能的には同じで、その雛形を誰がつくっ たかと。協約で労使が結んだものであることもあれば、全く協約がないときは、使用者 が一方的につくったものが、そのまま契約内容になることもあります。これは就業規則 よりも、もっと悪いと言いますか。日本だと就業規則法制でもって、労基法に違反して いないか、チェックや届け出、周知の義務などがありますが、例えばイギリスなど、そ ういうものがない場合には使用者が一方的に言ったことが契約内容になるということは、 大いにあるわけです。ですから前半部分については、諸外国と比べておかしな議論をし ているということは全くないと考えております。  議論があるのは後半部分、労働条件を不利益に変更するときに、意見聴取はしますが、 使用者が一方的に変更したものが合理的であれば、当事者を拘束するかという問題です。 これについては最高裁がいくつもの判例で、完全に確立したルールとして、合理的なも のであれば反対する労働者を拘束するというルールをつくっております。それをどう考 えるかということで、おそらく岩出委員などがおっしゃったのは、関係内容法理と同じ ように確立したルールであるので、それを明文化するというのが、ルールの透明性の観 点からもいいのではないかという御指摘だったと思います。ここに書いてある内容が最 高裁の判例法理と同じかというと、そこには議論があるかもしれませんが、問題として はそういう問題が書かれています。したがって前半の部分と後半の部分は、分けて議論 をしたほうがより議論が先に進むのではないかという気がしております。 ○長谷川委員 自分自身は分けて考えています。先ほどからずっと話したのは、前半の 契約の部分です。先生から雛形の話が出ましたが、我が国では就業規則が、他の国で行 われている雛形的なものの役割を果たしているというときに、それをどうとらえるかと いうことが一つあるわけです。それと変更の問題は、また別途の議論だと思います。最 初の、契約とは何なのかというところを、一つ整理しようかと思ったのです。変更のと ころは、おそらくもっともっと意見があると思います。 ○石塚委員 学説的に言えば、今まさに荒木委員がおっしゃった議論になってしまうの でしょう。私は学者ではないのでよくわかりませんが、黙示的な合意があったというよ うに見なすというのは、いかにもそうなのだろうとしか言い様がないのです。問題は、 これは私の話ということですが、新しく労働契約法というものをつくって、労使両当事 者に契約に対する自覚を促しつつと書いてあるのです。しかも、はっきりそれを労働契 約法として謳おうと。少なくとも1頁の下の表現を見る限りにおいては、不十分かどう かは別として、基本原則を謳おうではないかという基本的な精神が感じられるわけです。 そうであれば、いままで行ってきた就業規則をベースとした実際の労働条件の合意とい うのを、もう少し明示的な、自覚的なものに、もっと明るい世界に、オープンの世界に 変えていくという立場から、まず議論があるのではないかと思うのです。  黙示的な合意というのは、確かにそのとおりで、就業規則を見せられた、一応それに ついて特段の文句は言わなかった、しかも事実として働き続けてきた。この働き続けて きたということが、同意したのではないかというように見なされるということですよね。 このような関係だけで本当にいいのかなと私は思うのです。これは少し理想論かもしれ ません。ただ契約法というように銘打つ以上は、そこの議論をしてみないと、いままで の判例法理がいいから、それでいいのではないのか、事実上機能してきたのだという議 論であれば、契約法などという概念は要らないのではないでしょうか。もっとそちらの ほうから入ってみないと乗れないのです。  先ほどから私が言っているのは、合理性の問題と労働者が同意しているということと を、もう少し分けて考えたらどうかということです。黙示的な合意というか、黙示的な 同意があればいいではないかということではないのではないか。仮に就業規則を議論す るにしても、合理性を推定するという問題と同意という問題とは、少し段階を分けて考 えるべきではないかと私は思っています。したがって黙示的に同意されているのでいい ではないかと言っても、働いている労働者が不満を持って裁判に訴えて、「わしは一遍 同意したけれども、実は不満に思っているんだ。だから裁判に訴えます」と言わない限 りにおいては、「お前は黙示的に同意したではないか」と言われてしまうわけです。 ですから就業規則全体の合理性の推定の問題と、労働者がそこで働いている同意の問題 とは分けるべきではないでしょうか。これは就業規則の変更法理の問題以前の段階の話 だと思っています。  この間やってきた最高裁判例が重いというのは、確かに事実だけれども、それありき ではなく、もともと労働契約法というものをつくろうではないかという基本的な精神が 脈々と出ているわけですから、そこから議論をしていって、もう少し明るいというか、 明示的な労働契約概念に持っていきたいわけですから、もう少し明示的な姿のほうに持 っていくという議論をやってみると。それと現実との折合いをどういうように考えるの かという議論の立て方ならわかるけれども、いきなり今までの労働契約の最高裁判例法 理があって、しかもそこには学説上こういうものがありますと言われれば、労働契約法 という名前が少し寂しいのではないかと私は思います。 ○岩出委員 変更の法理ですが、もともとの最初の設定のところからいっても、実態か らいけば多くの労働契約書で、就業規則によるという誓約書を出させていますよね。そ れで就業規則が渡されていれば、これはむしろ慣習によるものではなく、明示の合意が なされているわけです。ですから私は最近、あまり実益がないような気がしています。 むしろ変更のほうに論点があります。従前性の解雇に関して、大企業は別ですが、多く の中小企業や零細企業の経営者は、予告さえすれば解雇ができると思っていたのが、今 回変わってきましたし、同じように就業規則に関しても、現地聴取さえすればいい、反 対があっても通ると思い込んでいる人もいるわけです。それを今回、合理性の要件や追 記要件などを決めることによって、かなりの効果があると私は思っております。具体的 な中身は、これから議論しなければと思いますが。 ○西村分科会長 残念ながら時間がきてしまいました。いろいろな論点がありますので、 引き続き次回にも議論を詰めていきたいと思います。次回の日程を、事務局からお願い します。 ○大西監督課長 次回の労働条件分科会は、4月25日の火曜日、17〜19時までです。 場所は厚生労働省6階、共用第8会議室で開催する予定ですので、よろしくお願いしま す。 ○西村分科会長 本日の分科会はこれで終了いたします。本日の議事録の署名は石塚委 員と谷川委員、よろしくお願いします。今日はお忙しい中、ありがとうございました。 (照会先) 労働基準局監督課企画係(内線5423)