児童相談所と関係機関・専門職種との連携強化

 児童虐待事例を始めとする複雑な問題を抱える事例に適切に対応していくためには、関係機関・専門職種との連携強化が不可欠である。しかしながら様々な形でネットワ−クは形成されているものの、援助の基本方針の違いなど、必ずしも相互理解に基づく有機的な連携が十分に図られているとは言いがたい状況にある。今後、相互理解に基づく実質的な連携確保をいかに形成していくかが課題である。

 地域における関係機関の有機的な連携を促進するため、平成16年改正児童福祉法により、要保護児童対策地域協議会が設けられたところである。今後、市町村において、この要保護児童対策地域協議会の設置促進、及びその活用が図られる必要がある。

 以下の関係機関・専門職種との連携については、児童相談所との直接的な連携とともに、市町村を中核とした同協議会を通じた連携強化が図られることも期待されている。児童相談所はそうした市町村を中核とした関係機関の協議会の構築に向けた環境づくりについて積極的に支援していくことが求められる。


(1) 医療機関
 医療機関は、産科においては妊娠産褥期におけるハイリスク者の発見、産科・小児科においては親への養育支援、診療を通じて虐待が疑われる事例の発見など、その役割はきわめて大きい。

 例えば、虐待が疑われる事例の判断において、医学的診断は極めて重要であるが、虐待の確定診断を下すためには、家族背景なども含めた総合的判断が不可欠である。こうした点からも、しっかりとした連携体制を構築することが必要である。

<実践例>
 北海道札幌市では、児童虐待に結びつく可能性の高い要因を有する妊婦及び親子を医療機関と連携し情報提供を依頼することによって早期に把握し、保健センター等が育児を支援する体制を整備している。連携がとれている医療機関は25か所に上っている。

 医療機関からの虐待の通告については、ためらいが見受けられる事例も報告されている。特に、開業医などの場合、通告者が特定されてしまうことなどの問題が指摘されている。こうした課題に対し、例えば、広島県の「子ども虐待等の相談・診療に関する協力基幹病院」などの先進的な取組も参考にしながら、それぞれの地域において医療機関とのスム−ズな連携を可能にするようなシステムづくりが期待される。

<実践例>
 広島県では「子どもの虐待等の相談・診療に関する協力基幹病院」として、小児科を有する県内32病院を医師会に登録している。地域の一般医療機関(かかりつけ医)からの相談に応じ、協力基幹病院を通じた通告、診断書作成、虐待が疑われる子どもの入院を受け入れるなど地域の医療機関や児童相談所と連携したネットワークを構成している。

 先駆的な医療機関においては、様々な診療科や多様な専門職種による児童虐待予防と治療のための院内チームを構築し、協議とアセスメントの手順を定めて対応しているところもある。現時点ではこうした体制を構築している医療機関は数少ないが、養育支援や虐待対応には複眼的な視点での判断を要し、地域の関係機関とのつながりを確保しながら対応していく必要性があることを考慮すると、こうした取組をさらに進める必要がある。

 これらの業務には多くの時間と人手を要することも事実であり、これを支援するため、診療報酬上の評価などについて検討すべきである。

<実践例>
 国立成育医療センターでは、院内に子どもの虐待対策委員会を設置し、その下にSCAN(Suspected Child Abuse & Neglect)チームという多職種(内科系・外科系医師、放射線科、看護師、MSW)からなるチームを置いている。職種は問わず、スタッフが虐待を疑ったらMSWに連絡を入れ、MSWが事例に応じて必要なメンバーを集め、そこからSCANチームが緊急の活動を開始する。
 具体的には、(1)必要な検査に関する主治医へのコンサルト、(2)必要な情報収集、(3)リスクの判定、(4)通告の必要性の決定、(5)告知への参加、(6)地域との連携、(7)フォローの方法の決定、(8)司法への対応、などを迅速に行っている。また、月1回定例ミーティングを行い、事例の振り返りと介入方法の改善などを行っている。

 国においては、医療機関における虐待事例の具体的取り扱いについての詳細なマニュアルをつくり、示していくことも必要である。


(2) 弁護士、弁護士会
 弁護士、弁護士会は法的な観点からの判断をバックアップする存在として、少なくともサポ−トを得られる体制を構築する必要がある。弁護士、弁護士会との連携は、進みつつある。とりわけ一部の地域では相当程度連携が図られてきているが、地域によっては児童家庭福祉に関心のある弁護士が限られているなど、全国的な協力システムづくりが課題である。

<実践例>
 大阪府では弁護士47名、医師16名からなる「大阪府児童虐待等危機介入援助チーム」を設置し、子ども家庭センター(児童相談所)と連携しながら、子どもの権利擁護を図っている。具体的には、このチームを通じ、(1)立入調査、一時保護、児童福祉法第28条申し立て等に関し適宜助言を得ることで虐待事例への適切な対応ができる、(2)警察への告発、児童福祉法第28条申し立ての際の代理人を依頼することにより迅速な手続が行えるなどの効果が現れている。

 香川県では、児童相談所が立入調査や一時保護を行う際に、内容に応じて弁護士の立ち会いや助言を得るため、平成17年3月に県弁護士会と協定を締結し、県から協力要請があった場合には、県弁護士会は特別の理由がない限り協力するものとされている。これまで実際の事例はまだないが、35名の弁護士が賛同し、双方の勉強会なども開催されている。

 埼玉県では、法的対応強化事業として、弁護士会の協力の下、各児童相談所に顧問弁護士を配置し、月1回の相談日を設けるとともに、訴訟等には顧問弁護士の協力を得ている。


(3) 保健所、市町村保健センタ−
 市町村保健センター等の保健師は、母子健康手帳交付時、新生児訪問、乳幼児健康診査等母子保健事業の場で周産期・出生時から親子に向き合う機会も多い。これを活かし、児童虐待のリスクの高い家庭への支援などを行う過程で児童相談所や保健所等の保健師と連携を深めることにより、児童虐待の発生予防、早期発見が期待される。

<実践例>
 高知県中村市(現四万十市)では、もともと医療機関と保健所、保健センター職員の自主的な交流会を開催していたことを活用し、妊婦のハイリスク者へ対応するために、医療機関、児童相談所、保健所、福祉事務所が連携し、母子健康手帳交付申請時や妊婦健康診査時に要支援妊婦を把握し、育児支援家庭訪問事業を実施している。

 保健所等の保健師は精神保健相談に応じるとともに、精神科等の医療機関との日常的な連携体制を構築していることから、児童相談所との連携を深めることにより、虐待を行った家族等への支援の一端を担うことが期待される。さらに、市町村保健師への情報提供等を含めた、指導、支援も期待されるところである。なお、こうした精神保健分野の問題については、各都道府県におかれた精神保健福祉センターの活用も期待される。


(4) 児童家庭支援センタ−
 児童家庭支援センタ−は、児童相談所からの指導委託を受けて、事例に対応することができる機関である。しかしながら現状では、全国51か所と絶対数が少ないこともあり、活動が地域に限定されがちであるなど、十分な活用が図られているとは必ずしも言いがたい状況にある。

 市町村が児童家庭相談の第一義的な相談機能を担うこととなったことも踏まえ、今後は、センターの相談・支援機能の一層の充実を図るべく、夜間対応など24時間相談体制を強化するとともに、心理療法担当職員等による個別心理療法・グループワークや子育て支援セミナー等の地域支援事業をさらに充実していくことが期待される。また、本体施設のトワイライトステイ・一時保護・ショートステイ等を積極的に活用するなど、児童福祉施設に付置される機関としての特性を十分に活かした包括的で継続的な相談・支援活動の展開が期待される。児童家庭相談に関する市町村との役割・位置付け等については、さらに検討を深めることが必要である。

<実践例>
 埼玉県加須市の愛泉こども家庭センターでは、平成10年の開設以来、(1)地域を限定しない24時間365日の電話相談受付、(2)同一法人の地域子育て支援センターと共同でグループ相談等を実施、(3)隣接市町への幼児健診への職員派遣などに取り組み、地域密着型の相談援助事業を展開するとともに、地域子育て支援の機能を発揮している。


(5) 里親、児童福祉施設
 里親委託や施設への入所措置を行った子どもについての自立支援計画の見直しについては、多くの児童相談所では、年1〜2回程度の訪問、相談といった対応にとどまっているのが現状である。今後は、子どもの自立支援や家庭復帰支援に向け、児童相談所が積極的に里親や児童福祉施設と連携を図り、本人の意向も踏まえつつ、自立支援計画を適時見直し、自立支援計画に基づく支援を行っていくことが必要である。

 特に、里親については、児童相談所から指導担当者を定期的かつ継続的に訪問させることなどにより、委託した子どもの養育について必要な助言・指導を行う機能を強化することはもとより、里親が困難に直面した場合の養育相談や里親養育をサポートする者の派遣、レスパイト・ケアなど里親自身への支援の充実が望まれる。


(6) 学校、教育委員会
 学校の教職員には、虐待の早期発見に努めることが特に期待されており、児童相談所等への通告についての意識を高めることが必要である。また、学校の教職員においては、虐待の通告にとどまらず、他機関とともに、虐待を受けた子ども等への支援を連携して行うことが必要である。

<実践例>
 滋賀県では、平成16年度から全ての公立小中学校に児童虐待対応教員を配置し、各学校において、早期発見、通告、関係機関との適切な連携を図るため、児童虐待対応教員担当者連絡協議会を開催し、研修を行っている。
 また、各学校からの児童虐待の通告については、県教委が作成した様式に基づき、学校での子どもの様子や家庭の状況などを含め、文書による通告を行う。それともに、各校長が、児童相談所や福祉事務所など関係者を招集してスバック会議(学校問題行動対策会議)を開催するなどの取組を行っている。


(7) 警察
 立入調査や緊急対応を要する事例などについては、警察との積極的な連携が重要であることはいうまでもない。しかしながら、福祉と警察では、事例のとらえ方や視点が異なる面があることから、例えば、非行事例の調査などにおいて、どこまでを警察が対応し、どこまでを児童相談所が対応するのか、といったガイドライン的なものを検討するなど、その線引きについては、十分に議論を深めることが必要である。


(8) 家庭裁判所
 家庭裁判所は、児童相談所と家族を平等に扱い、公平な判断を下す機関であるが、家庭裁判所及び児童相談所における一般的な児童虐待事例の取扱いの実情について定期的かつ積極的に情報交換するほか、児童福祉法第28条第1項、第2項の申立について、必要であれば、申立の前後を問わず積極的に意見交換を行うことが重要である。


(9) 児童委員・主任児童委員
 児童委員・主任児童委員については、虐待の通告事例における周辺調査や在宅支援事例における見守りなどで一定の役割を担っている。しかしながら、近年、家族をめぐる問題の複雑化や地域のつながりの希薄化などに伴い、地域でもっとも身近な関係者としての、期待と役割はますます大きくなってきており、研修の充実等を通じた積極的な連携・活用が望まれる。

 児童相談所の地域担当と児童委員・主任児童委員が日常的な情報交換を行うことのできる関係になることにより、地域の関係機関や住民から相談される存在になることも重要である。


(10) 民間(NPO)団体
 各地において、民間(NPO)団体のそれぞれの特性を活かした様々な連携の取組が進められている。今後とも、より一層の連携の強化が望まれるが、虐待防止のための電話相談などを行っている、いわゆる児童虐待防止の民間ネットワークのほか、つどいの広場事業など親子や親同士の交流、一時預かりなどの子育て支援事業を実施しているNPO団体なども含めた幅広い団体との効果的・具体的な連携が期待される。

<実践例>
 NPO法人「子どもの虐待防止ネットワークあいち(CAPNA)」は、児童虐待防止に関わる関係機関向けのセミナー開催を愛知県・名古屋市から委託されるとともに、愛知県内(名古屋市を含む)の児童相談所が受けた児童虐待相談に係る法律上の問題についてCAPNAに関わる会員弁護士が助言を行っている。

 NPO法人「子どもNPO和歌山県センター」は、つどいの広場キッズステーションを和歌山市から委託され開設しているが、その常設のメリットを活かし、子どもからの電話相談(チャイルドライン)にも応じるなど、虐待の予防に積極的に取り組むとともに、市の子どもの虐待防止協議会にも参加し、児童相談所、保健所などとの連携も密に行っている。

 NPO法人「エンパワメントみえ」は、三重県との協働事業として、(1)子どもへの体罰がやめられない、(2)子どもの体や心を傷つけている、(3)子どもを虐待していると感じている親のための回復支援プログラム「MY TREEペアレンツ・プログラム」を実施している。


(11) 都道府県児童福祉審議会
 平成9年改正児童福祉法により、児童相談所における子どもの権利擁護機能を強化し、援助決定の客観性の確保と専門性の向上を図るため、都道府県児童福祉審議会の意見聴取規定が盛り込まれており、援助決定の客観性・透明性の確保には一定程度、効果を発揮している。

 都道府県児童福祉審議会は児童家庭相談に関心・見識を持つ委員から構成されていることが通例であることから、委員に医師や弁護士を含めて構成し、定例的に開催するなど、児童福祉法第28条措置に関する意見等を聞くだけにとどまらず児童相談所をバックアップする機関として活用することも各都道府県において検討すべきである。

<実践例>
 滋賀県では、児童福祉審議会を年5回程度開催し、事例の概況報告と困難事例の対応方法についての検証を行っている。また、ケース・マネジメント・アドバイザーとして、滋賀県弁護士会から弁護士14名、滋賀県臨床心理士会から臨床心理士8名、その他学識経験者などを登録し、事例に対する専門的な検証を行っている。

 三重県では、社会福祉審議会児童福祉専門分科会措置部会を定例的に毎月1回開催し、児童虐待等重篤な事例で、児童相談所において処遇方針が定まらない事例の審議を行い、助言・指導を受けている。

 埼玉県では、児童福祉審議会養護部会を年4回開催し、里親登録に係わる審議を行うとともに、児童相談所における困難事例や法的対応事例について審議・報告を行っている。

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