都道府県(児童相談所等)における児童家庭相談機能の強化

(1) 児童相談所の必要な職員体制の確保
 ここ数年、児童虐待相談件数の大幅な増加や困難事例の増加など児童相談所を巡る厳しい状況を踏まえ、職員配置の充実が図られてきている。今後、市町村の児童家庭相談体制の充実も期待されているが、それでもなお、児童虐待に関する相談のみならず、非行相談などについても十分な対応が求められている中で、ほとんどの児童相談所の現場及び本庁所管課においては、現下の児童相談所の体制についての厳しい認識が示されている。こうした状況を踏まえ、地域の実情に配慮しつつも、引き続き、児童相談所の体制の充実に向けた努力が求められる。

 首長のリーダーシップにより、大幅な体制強化が図られたという実践例もあり、行財政改革の大変厳しい状況下において、首長を含めた全庁的な理解の下に児童家庭相談体制の整備が進められることが望まれる。

<実践例>
 青森県は、平成8年から平成14年にかけての6年間で、児童福祉司が16名から57名に、また児童心理司は7名から22名に増員された。これは当時の知事が児童問題に非常に力を入れ、「県内から虐待をなくそう」という目標を立て、「そのためには児童相談所の体制強化が必要である。」という知事の考えが大きく反映された結果と言われている。

 〔1〕 児童福祉司
 ○  児童福祉司は、本来、虐待事例であれば、初期の緊急対応から、子どもの自立支援や家族再統合に向けた親子の支援に至るまでの支援を行うことまでがその役割であるべきであるが、相談事例数の多さや相談内容の困難化から、初期対応で手一杯な状況にある。こうした状況に対応し、児童福祉法施行令の改正により児童福祉司の配置基準の改善が図られたことなどにより、近時、児童福祉司の増員が図られているところであるが、児童虐待等困難事例に対処する現場においては、引き続き、配置の充実が必要との認識が強い。平成17年4月から市町村が児童家庭相談の第一義的な窓口となったことを踏まえても、児童福祉司の不足は依然深刻な状態にあり、今後、各都道府県は、政令改正も踏まえ、また相談内容なども加味しながら、より一層、児童福祉司の配置を充実させることが望まれる。
 その際、相談件数や児童福祉司の担当事例件数、児童数など、人口以外の要素を基本とした標準について、国で示すべきである。

 ○  児童福祉司の大幅な増員が図られた自治体においては、その増員効果として、初期調査の充実や予防的取組の充実により、早期対応が図られているほか、複数対応が可能となり、職員のストレスが軽減されるなど大きな効果を挙げていることが報告されている。こうした取組実践に学ぶことも期待される。

<実践例>
 青森県は、児童福祉司及び児童心理司が増員された効果として、(1)「初期調査の充実」については、複数での訪問調査が可能となり、ひいては48時間以内の安否確認が可能となったこと、(2)「職員の精神的ストレスの軽減」については、複数で相談に当たることによって職員一人ひとりのリスクが分散されたこと、(3)「予防的取組の充実」については、児童環境づくり担当の児童福祉司の配置により、地域支援活動が充実されたこと、(4)「関係機関との連携強化、指導の充実」については、施設訪問を毎月行えるようになるとともに、ネットワーク会議の充実・スーパーバイズ機能の強化などが図られたこと、などが報告されている。

 〔2〕 児童心理司(心理職)
 ○  児童心理司には、従来の判定業務に加え、一時保護中の子どもの心理療法、心理面からの援助方針の策定、施設入所後のケアの評価などにも積極的に関わることが求められていることから、配置の充実が必要である。

 ○  児童相談所が介入と支援の両方の役割を担わなければならない中で、虐待を受けた子どもの支援をする際に子どもの発達や子どもの心理状況を丁寧に把握する上での心理職の重要性とともに、特に子どもを分離保護した後の親指導・支援には、心理職の関わりが重要である。

 ○  児童心理司については、児童福祉司と異なり、配置基準が明確になっていないが、国による配置基準の明確化は多くの自治体からも要望されている。基本的に、正規職員の児童心理司と児童福祉司がチ−ムで対応できる体制であることが望ましいことから、少なくとも児童心理司:児童福祉司=2:3以上を目安に、さらには児童心理司:児童福祉司=1:1を目指して配置すべきである。

<実践例>
 島根県では4か所の児童相談所に、児童福祉司13名、(常勤の)児童心理司11名という体制である。また、福井県でも2か所の児童相談所に、児童福祉司12名、(常勤の)児童心理司8名という体制であり、児童心理司の配置割合が高くなっている。

 〔3〕 医師・保健師
 ○  虐待かどうかの判断や重症度判断に当たっては、医学的判断が不可欠であり、また虐待ではない事例を虐待として判断してしまう「虐待の誤診」を防止する観点からも、児童相談所に医師(児童精神科医や小児科医)を配置することは不可欠である。求められる迅速性等を考慮すれば、常勤で配置されることが強く求められる。

<実践例>
 児童相談所に医師を常勤で配置している自治体として、東京都、三重県、広島県、高知県、札幌市、横浜市、名古屋市、大阪市及び神戸市が挙げられる。

 ○  児童相談所に隣接した場所に子どもの心の診療を担う診療所を設置してこのような医学的な機能を果たしている事例もあり、こうした工夫も検討する価値がある。

<実践例>
 隣接して子どもの心の診療を担う診療所が設置されている児童相談所として、宮城県中央地域子どもセンター、仙台市児童相談所、静岡県中央児童相談所、京都市児童相談所、和歌山県子ども・障害者相談センター、広島市児童相談所がある。

 ○  医療機関や保健機関との連携強化の観点からは、連携の窓口として、児童相談所に配置された(常勤)医師が担うほか、児童相談所に配置されている保健師が担うことも有効である。

 ○  児童相談所に配置されている保健師は、その専門性を活かし、(1)相談に来た子どもや一時保護されている子どものアセスメントとケア、(2)性的虐待を含む虐待によるPTSDや発達障害のある子どものアセスメントとケア、(3)市町村や医療機関など関係機関への情報提供や連絡調整を行い、児童福祉司等と共同して一人ひとりの子どもについて支援計画の立案、実施、評価に関わること、などが期待される。

 ○  厚生労働省において別途「子どもの心の診療医の養成に関する検討会」が開催されており、先般、その方向性が取りまとめられている。今後は、この検討会取りまとめに沿って、子どもの心の診療医が養成、確保されることが期待される。


(2) 児童相談所職員の専門性の向上
 〔1〕 採用・研修
 ○  児童相談所の業務を遂行するために必要な専門性を確保するために、児童福祉司や児童心理司などについては専門職採用(福祉職としての採用を含む)が必要である。

 ○  ただし、専門職採用だけで職員の専門性を確保しようとしても不十分であり、継続的かつ実践的な現任研修を制度化することが必要である。専門職採用は現任研修の効果を上げるためにも必要であり、専門職採用を行っていない場合であればなおのこと、有資格者の配置及び現任研修の充実は不可欠である。

 〔2〕 人事配置・人事異動
 ○  現場においては、児童福祉司に必要な専門性を確保するためには、5年から10年程度の経験が必要であり、さらに、指導的立場に立てる職員を育成するためには、より多くの経験が必要との声も多くある。

 ○  採用のあり方とあわせ、人事配置・人事異動のあり方についても、各自治体において、積極的な検討がなされることが望まれる。特に、指導的な立場に立てる職員を育成することは容易ではなく、実践を積むために、活発な活動をしている自治体の児童相談所において、長期の現場研修を経験するといった方法も考えられる。なお、大変ストレスの大きい業務であることから、適度な異動をはさむことを考慮することも必要である。


(3) 児童相談所の組織体制
 最近、虐待対応については、従来の地区担当制によらず、専従組織を設けて対応する児童相談所が増えている。こうした組織体制のあり方については、職務上のストレスが高すぎる、個人の経験が狭まるというキャリア形成上の課題などの指摘があるものの、担当する職員が子どもとその家族全体を支援する上で十分な専門性や経験を備えていることを前提に、虐待対応の緊急性・困難性から専従組織に特化することも有効と考えられる。

<実践例>
 各児童相談所に虐待対応の専従班を設けている事例としては、宮城県の虐待対応推進チーム、茨城県の児童虐待対応チーム、東京都の虐待対策班、滋賀県の虐待・DVサブグループ、京都府の未来っ子サポートチーム、大阪府の虐待対応課などがある。

 非行対応については先般「児童自立支援施設のあり方研究会」において、「児童自立支援施設は、少年非行全般への対応が可能となるセンター機能を設け、非行問題等に対する総合的なセンター施設として運営されることが望まれる」との報告がなされており、今後、児童自立支援施設の動向を見据え相互理解のもとに連携・協力体制を強化していくことが望まれる。

 児童相談所における専門性を確保する観点からは、基本的には、後述する(郡部)家庭児童相談室の関係なども含め、専門職員を分散配置するのではなく、できる限り、児童相談所に集約化していくことが望ましい。

 現在の児童相談所業務においては、直接の対人援助以外の事例記録作成などにかなりの労力がかかっている。
 平成15年度から北海道、大阪府及び神戸市においてIT化促進事業を実施しているが、こうしたIT化の推進による事例の進行管理や記録のデータベース化など、業務省力化の工夫も求められる。

<IT化促進事業の概要>
 児童相談所における子ども虐待への対応力を向上させるため、IT(インフォメーション・テクノロジー)を活用したモデル事業を実施。(1)情報を入力する際、対応プログラムに沿って事例の情報を入力することができ、さらに、その際に、援助の方向性を示すガイド的機能(ナビゲーション機能)を持っている、(2)個々のPCから簡単な操作で入力することができ、その情報が、サーバーに吸い上げられ、整理され、実践にフィードバックしやすいデータベースとして蓄積される、という特色を持っている。


(4) 児童相談所の適正配置
 平成17年4月1日現在、児童相談所は全国で187か所設置されているが、国が策定した児童相談所運営指針で示されている「人口50万人に最低1か所程度が必要」という目安にしたがうと設置数は依然として不足している。

 児童相談所の設置か所数については、最終的には、地域の実情を踏まえた地域の主体的判断にもよることや平成17年4月から市町村が児童家庭相談の第一義的な窓口となったことを踏まえる必要があるものの、全体として見れば、児童相談所設置数の増加が必要である。

 設置の目安としては、先の児童福祉法改正において、中核市規模の市について、児童相談所の設置が可能とされたことを踏まえれば、おおむね人口30万人規模を念頭に、緊急対応やケ−スワ−クの効率性を考慮し、例えば1時間程度で移動が可能な範囲を管轄区域として想定するなど、人口以外の要素も加味した標準を具体的に示すべきである。

 中核市においても、児童相談所を設置することができることから、該当する中核市においては、積極的に児童相談所設置に向けて検討することを期待する。

<実践例>
 平成16年の児童福祉法改正において、子育て支援から要保護児童対策まで一貫した児童福祉施策の実施という観点から、中核市程度の人口規模(人口30万人以上)を有する市を念頭に置きつつ、政令で個別に指定した市については、児童相談所の設置を認めることとしたところである。また、児童相談所設置市に指定された市については、従来、都道府県・指定都市が行っていた児童福祉法等に基づく事務(施設の入所措置等)を行うこととされたところである。
 これにより、平成17年11月には、横須賀市と金沢市の2市が児童相談所設置市として指定されている。

 設置(増設)されるべき児童相談所は、本所の指揮の下に動く支所、出張所のような形態ではなく、あくまで、自立的に措置権を行使できるものであることが望ましい。

 児童相談所に求められる専門性を確保していく観点、また平成17年4月から市町村が児童家庭相談の第一義的な窓口となったことを踏まえると、支所、出張所への人員配置よりも、自立的に措置権を行使できる児童相談所の設置数を増やしつつ、かつ、そこに職員を集約化する方が望ましい。


(5) 都道府県(郡部)家庭児童相談室のあり方
 都道府県福祉事務所の大半に設置されていた家庭児童相談室については、これまで郡部(町村部)における身近な児童家庭相談窓口としての役割を果たしてきたが、児童福祉法の改正により、市町村が児童家庭相談の第一義的な窓口となったことから、基本的な役割が重複する面がある。

 相談機関としての都道府県(郡部)家庭児童相談室は、基本的には整理される方向にあると考えられるが、これまで家庭児童相談室が担ってきた町村のサポ−ト機能や福祉事務所と児童相談所との連携機能の必要性そのものがなくなるわけではなく、こうした機能やこれまで蓄積されてきた都道府県(郡部)家庭児童相談室の知見を何らかの形で継承していく必要がある。

 例えば、
〔1〕 都道府県(郡部)家庭児童相談室の職員を児童相談所に集約(配置換)する、
〔2〕 (郡部)家庭児童相談室の体制を強化し児童相談所とする、
〔3〕 児童家庭相談の第一義的な窓口となった市町村に出向あるいは転籍させるなどの職員派遣を行う、
ことなども考えられる。また、当分の間、児童相談所とともに、市町村サポ−トの拠点機関あるいは市町村における相談機関として活用することも考えられる。

<実践例>
 三重県では、平成10年4月に、県民局の充実強化・組織の総合化の流れの中で、11か所の保健所、7か所の福祉事務所、5か所の児童相談所を統合し、9つの生活創造圏ごとに県民局保健福祉部を設置。その際、家庭児童相談室が廃止された。また、組織のフラット化による意思決定の迅速化、組織を出来るだけ大括りにすることによる柔軟な組織運営、職員の能力を活かすためにグループ制が導入された。
 平成14年には、9つの県民局のグループのうち、要保護性の高い相談に専門特化した児童相談チーム等が設置された。さらに平成17年度から、急増する児童虐待等困難事例に適切に対処し、児童福祉法改正に伴う市町村支援を的確に行うため、(1)全児童相談所を一体的、地域横断的にマネージメント可能な、(2)児童相談現場を助言・指導できる、(3)子どもの安全の確保と保護を効果的に行い、(4)職員の人材確保と資質の向上を図り、(5)子どもの新たな問題に対応できる組織として、三重県児童相談センターを設置した。


(6) 一時保護のあり方
 虐待を受けている子どもを保護者から分離して保護するほか、虐待の重症化を抑えながら在宅で支援を実施していくためにも一時保護機能の充実が求められる。

 一時保護所では、虐待・非行など様々な背景や問題を抱えた幅広い年齢層の子どもを夜間も含め24時間保護しなければならず、男女の問題も含め生活援助の場面での分離対応が必要であるが、設備的にも体制的にも不十分な状況であり、職員配置の充実をはじめとした改善が急務である。特に、非行の問題(とりわけ触法少年による重大事件)について、児童福祉の観点を踏まえ、児童福祉の機関が引き続きしっかりと関わっていく観点からも対応力の強化が望まれる。その際、行動の自由の制限のあり方についても、具体的な指針を策定することも含め、さらに十分な検討が必要である。

 一時保護の期間は、単に保護を行うのみならず、その後の子どもの自立支援や家族支援に向けたアセスメントを行う期間である。そのため、一時的な保護のみが目的ではなく、子どもの心身のケアをしつつ、個々の子どもの状況に応じた最適の支援内容を判断するアセスメント機能を充実させるべきであるという認識の下に、心理療法担当職員を配置するなど職員体制の強化をはじめとした一時保護所の機能の充実・強化が必要であり、そのためには名称の再検討も含め、一時保護所独自の設備・運営に関する基準を作ることについても検討すべきである。

 現下の一時保護所の状況を踏まえれば、施設や里親への委託一時保護についても、ある程度進めていく必要があるが、その際には、施設や里親との十分な連携の下、しっかりとしたアセスメントを実施することが必要である。また、委託一時保護を推進するためには、一時保護委託費の充実を図るべきである。

 職権による一時保護のほか、柔軟で多様な形態の受け皿を拡充することにより要保護児童を一時的に保護する機能を充実していくことも必要である。例えば今後、市町村が児童家庭相談の第一義的な役割を担う中で一時保護の目的によっては、ショ−トステイ事業や一時保育の実施など、市町村の子育て支援事業の活用も考えられる。


(7) 児童福祉施設の適正配置・里親委託の推進
 児童相談所からは、虐待を受けた子どもの保護の受け皿となる児童養護施設や情緒障害児短期治療施設などの児童福祉施設の不足を訴える声も大きい。例えば、児童養護施設については入所率が全国平均でも90%を超え、自治体によっては定員を超える受け入れを要請しているところもある。また、情緒障害児短期治療施設については、子ども・子育て応援プランで全都道府県での設置を目標に掲げているにもかかわらず、平成17年2月現在で19府県の設置にとどまっている。このため、一時保護所の体制充実とあわせ、児童福祉施設の適正配置により、支援の受け皿が適切に確保されることが必要である。

 ケアの個別化・小規模化、治療機能の強化、家族全体を視野に入れたケアなど児童養護施設等の児童福祉施設に期待される役割が変化しつつある。このような状況に対応した児童福祉施設最低基準の見直しも検討すべきである。

 市町村等との連携を図る観点から地域住民に開かれた地域子育て機能を発揮することが求められている。こうした変化等に対応できるよう、児童福祉施設の機能が強化されることも期待される。

 家庭的養護の担い手である里親の登録数を増やすとともに、研修等の充実により養育技術の向上を図り、児童相談所に里親委託推進員を配置する等により、積極的に里親への委託を進めていくことが必要である。

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