資料3


長谷川委員提出資料



医師需給新モデルの提案

国立保健医療科学院
政策科学部長
長谷川敏彦
2006年2月8 日

1.モデルの2つのレベル
 全国の必要医師数は「国レベル」で決定し、医学部入学定員の見直しや、外国人医師導入、診療の効率化等、国全体に影響する政策の意志決定が必要とある。(図1)
 一方、地域や診療科の偏在は個々の医師の意思決定が積み上げられた結果による。「個人レベル」でのキャリアの決定は職業人生の節目で「地域」病院、診療所等の「職場」、そして「診療科」を選択する。(図2)偏在是正の為には、これらの意思決定を誘導する政策が想定が必要である。
 「個人レベル」の誘導はこれまで別に検討されて来たので、今回は「国レベル」のモデルを扱う。

    レベル1「国レベル」日本全体に必要な医師数
  医学部定員増、外国人医師の導入、医療システムの効率化
    レベル2「個人レベル」個人の決定
  医師の研修・教育・専門分野(診療科)、就業地域の選択

図1 国レベルモデル

図2 個人選択モデル(5段階モデル)


2.従来のモデル
1)国際モデル (資料1参照)
  (1)クーパーモデル:どれだけの医療サービスへの支払いができるのか、という経済的成長を中心に考慮した手法 “Trend (or planning) model”
  (2)WHOモデル:需要と供給の両側面から人的資源を推計、計画、生産、管理の3つを柱とした概念、枠組みで構成
  (3)GEMNACモデル:“あるべき(essential and appropriate)”医師による医療サービスを想定して、必要な医師数を想定する手法
2)国内モデル (資料2参照)
  (1)前川モデル:外来患者1人あたり診療時間の延長、医療施設での医師配置充実、在宅要介護老人へサービス提供・救急医療・臨床研修の充実のための医師確保
  (2)井形モデル:供給側要素、入学定員、国家試験合格率、高齢医師や女性医師の活動性需要側要素、人口構造の変化、入院・外来患者数、要介護老人数、医師一人当たりの診療患者数、大学病院・救急医療における医師需要、臨床研修医やその指導医数、基礎医学に従事する非臨床系の医師需要、


3.前回モデルとの相違
 供給、需要、需給の3側面について大きな変更(表1)

表1 前回モデルとの相違点

図3


4.新モデルの内容
1)供給モデル
  (1)人数:現在(1998-2004)の就労状況を基本とし、性、年齢、1才階級、男女別、病院、診療所別に推計
  (2)時間:性、年齢別労働時間を加味する
2)需要モデル
  (1)入院(退院)外来患者数:人口構成に受療率を掛け将来推計
  (2)疾病構造:慢性疾患のみ受診率を考慮
  (3)重症度:重み付けによる入院、外来の予測を行う
3)需給の考え方(図3)
  (1)種々の条件を勘案:労働時間、疾病構造を動かして感度分析を行う
  (2)緩衝帯を設定:数パーセントの差はスキルミックスや生産性の向上で吸収可能


5.シュミレーション 結果と予定
1)供給シュミレーション
(1)全体
 免許取得後の就業率パターンは過去6年間殆ど変化無し(図4、図5)

図4 就業割合

図5 就業率

 井形委員会と比較すると、定年70歳を勘案したものと類似、但し5年のずれ。(図6)
 2030年頃まで順調に増加、その後横ばい。しかし人口当たりでは増加継続(図6、図7)

図6 供給シュミレーション

図7 全人口当医師数

(2)男女別
 女性医学部入学者が現在(過去5年)のままの場合と、2050年に50%となる場合を推計(図8、図9)

図8 女子医学生将来推計

図9 女性医師将来推計

(3)年別階級別
 2030年以降パターン安定、高齢医師増加(図10)
 免許取得年後の詳細分析では若年者で女性が、高齢者で男性が増加(図11)

図10 医師数将来推計、年齢別

図11 医師数将来推計性年齢構成

(4)病院診療所別
 現在の免許取得別就業場所の率が不変とすると病院医師は伸び悩み診療所医師が増加する(図12、図13)

図12 就業率

図13 医師将来推計−病院、診療所

(5)医学部定員増
 15%、2007年から増員しても増加は2015年までを待たねばならず、2030年を経てやっと5%増加となり、その後はむしろ増加が持続する。(図14、図1)

図14 医師数将来推計医学部入学定員増による変化

図15 医学部入学定員増による将来推計

(6)重み付け
 男性医師40−44歳までを参照。年令として労働時間で重み付けして推計。
2)需要シュミレーション
(1)入院外来患者数
 過去の動向を勘案し、受療率を回帰(1984-2002)したものと、固定(2002)したもので、将来推計する。
(2)未受診患者の勘案
 高血圧や糖尿病の未受診患者を診療する場合を想定する。
(3)重み付け
 患者の重傷度を年令階級別医療費等を使って重み付ける

3)需給シュミレーション
 2005年を基定年とし、受診の変化をシュミレーションする。各種の条件の異なったシナリオを想定する。緩衝帯を想定し需給を比較する。



資料1−1.Cooperモデル 2000 (米国)

 Dr. Richard Cooper(Health Policy Institute, Medical College of Wisconsin)の医師数予測モデルは、現存のCOGMEのモデルのような“Quantitative model”と比較して“Trend Model”と称される、Qualitative modelに代わりうるモデルとして注目されている。
検討される因子:Supply, Sufficiency, Major Economic Trends, Sector Trend, Governors

Supply = 現在の医師数(診療科の混合、生産性などにかかわりなく)
 データ: American Medical AssociationのMaster File
 Specialty society records (専門学会の記録)
 Re-certification data(専門免許の更新記録)
Sufficiency = 医師の利用パターン (雇用機会、追加的な仕事への意欲など)
適切なサービス(待ち時間、不足しているニーズ、過剰なサービス)
 データ: National Health Interview Survey(患者調査)
Major Economic Trends = GDP、可処分所得、個人消費
Sector trends = 8つのセクタートレンド
供給  1. Attrition(減少):死亡率、退職年齢、実務から離れている期間
  2. Productivity(生産性):勤務時間と労働量のアウトプット分析
(性別、年齢、生活スタイル、雇用身分などが関係する)
  3. Substitution(代用):専門外の医師や医師以外の臨床医療従事者の貢献
  4. Geographic distribution(地理的分布):各州の医師分布、エスニックグループによる違い。経済的潜在力、医師密度と患者のサービス使用量比較。
需要  5. Technology(技術):医薬品、医療機器、IT
  6. Demographics(人口):総人口の伸び、年齢別・人種別人口変動、各人口のサービスへのニーズ
  7. Health systems(システム)アクセス、市場状況、医療保険払い戻し
  8. Economic dependency(経済依存性)
Governors = 技術、専門性、量、コストのコントロール

< Cooper Modelまとめ >
Current state of affairs
現在の状況
将来を考える
ベースライン
Supply × Sufficiency
Future state of affairs
将来の状況
将来の医療システムの中で求められる数 Supply × Sufficiency × Major Economic Trends × Sector Trend
Alternative state of affairs
代替の状況
将来の好ましい医療システムでの望ましい数 Supply × Sufficiency × Major Economic Trends × Sector Trend × Governors



資料1−2.WHOモデル(Simulation for Health Workforce Planning, WHO 2001)

 人的資源推計モデルとして、WHOではP.HornbyらによるConceptual ModelやThomas L.HallらによるScenario Modelを発表。後者は需要と供給の両側面から人的資源を推計、”Coordinated Health Human Resource Development”と呼ばれるモデルとされ、計画(Planning)、生産(Production)、管理(Management)の3つを柱とした概念、枠組みで構成したものである。コンピューターキットでは、これらを需要(Supply Model)、供給(Required Model)とそれを組み合わせたモデル(Combined Model)として概算が推計できるようになっている。

1.Conceptual Planning Model
 医療のニード(Needs and Demands)とケアの供給(Care Provision)、労働力(Workforce)についての関係を、3段階に分けて考察する。
 第1段階では主として現状分析であり、社会経済状況や人口動態統計、疫学パターンなどの情報を踏まえ、ニード、デマンドを測る。このとき、対GNP比をチェックするとともに(大まかな社会経済状況の把握)供給される公衆衛生サービスを調べ、それを提供する労働力の職種、人件費などを把握する。これらの情報は、全て第2段階の基礎情報となる。第2段階では、サービスプランの開発、展開を行うが、このとき将来のニードを測り、予測されるGNP変動、公衆衛生サービスを私的セクターの拡大を含めて検討する。
 第三段階では必要とされ、供給する労働力を決定するが、このとき利用可能にするための賃金や人材に対する政策を加味した上で、スタッフの標準・規範・原則を定めて将来の労働力を推計する。

2.コンピュータキットに使用されているモデル
1)Supply Model:過去の各年卒業生数から、10年毎の人口の伸び率 を調整、維持される率(retention rate:つまり、高齢・退職による医師数減少と新規養成医師数の増加を考慮した値)を加味して将来推計する。
2)Required Model:人口動態(人口とannual growth rate)を把握し、国・地域レベルでの病院とプライベートセクターのベッド数、外来、都市部(urban area)の割合などの情報を必要とする。供給モデルに用いられた病院の種類別数、診療以外の職(公衆衛生、教育、研究)に従事する数や経済的指標(収入、コスト)、サービス指標(専門医数等)を加味している。分布指標として該当地区の位置、実用性の指標として損失と生産活動、仕事時間、ベッド数、スタッフ数、伸び率、医療の種類(公衆衛生的プライマリケア、周産期ケア)、標準労働量、外来達成目標などの情報を付け加えることになる。



資料2 過去の医師需給の将来推計(前川・井形委員会)

1)前川委員会(平成5年8月 〜 平成6年11月)
上位推計)一定の施策でのあるべき姿:
外来患者1人あたり診療時間の延長、医療施設での医師配置充実、在宅要介護老人へサービス提供・救急医療・臨床研修の充実のための医師確保
下位推計)現行の医療状況の継続
医療法の標準定員を充足するもので、その他の要素を勘案しない
中位推計)下位推計から上位推計に次第に移行

2)井形委員会(平成9年7月 〜 平成10年5月)
1.基本的な考え方
前川委員会を踏襲し、条件の修正と追加を行う
供給側要素:入学定員、国家試験合格率、高齢医師や女性医師の活動性
需要側要素:人口構造の変化、入院・外来患者数、要介護老人数、医師一人当たりの診療患者数、大学病院・救急医療における医師需要、臨床研修医やその指導医数、基礎医学に従事する非臨床系の医師需要、

2.供給医師数 推計方法
(ある年次医師数)−(当該年次の志望医師数)+(新規歳入医師数)
入学定員=7,705 人
国家試験合格者比率 0.98 (S58〜H9までの実績から)
性・年齢に伴う活動性の変化:三師調査から推計 ⇒ 上位推計
高齢医師: 70歳以上は2010 (H 22) 年以降活動性が0 ⇒ 下位推計
2025 (H 37) 年以降活動性が0 ⇒ 中位推計

3.必要医師数 推計方法(需要)
1)上位推計「あるべき姿」
(1)外来患者数(精神疾患含):将来人口構成の変化を考慮、外来受療率を標準となる人口構成下の受療率(年齢調整外来受療率)に補正
・医師数=患者数 / 42
(説明)医師1人当たり1日患者数: 患者1人当たりの平均診療時間数10分
医師1人当たり1日患者数42人
 例) 平均診療時間10分の場合、初診:再診=1:6 ⇒ 初診患者に30分の診療時間(インフォームドコンセントの実践が可能)
(2) 入院患者数
65歳未満:3ヶ月未満、3-6ヶ月、6ヶ月以上の入院期間別入院受療率を外来受療率と同様に年齢調整(年齢調整入院受療率)し、年次推移のトレンドから将来の年齢階級別入院受療率を推計、将来の入院患者数を算出。
65歳以上:3ヶ月未満及び3−6ヶ月の入院期間別調整率を算出。6ヶ月以上は療養型病床群、老人保健施設、在宅等を想定(2000年(H12)までに「社会的入院」の解消を仮定)
精神疾患入院患者:年齢調整入院受療率の年次推移のトレンドから推計
医師数:入院患者を一般病床と療養型病床群に区分し、勤務医師数を医療法の標準定員を1割程度上回る数に設定
(3)要介護老人に対応する医師数
要介護老人100人当たり医師数1人と仮定
在宅要介護老人100人あたり医師数1人((1)外来診療の一部であるが、在宅にかかる医師数を計上)
(4)救急及び僻地医療に対応する医師数
救急:2次医療圏毎に専従医師15人配置(2025(H37)に全国5,000人計上)
僻地:現在無医地区997ヶ所に1人配置(1,000人計上)
(5)医学部付属病院医師数
34,000人計上(1996(H8)医師数の1割)
(附属病院の果たす役割の特性から、医師1人当たり診療患者数は一般の医療機関に比して少ないと考えられ、今後の卒然教育の充実等も考慮し別途計上とする)
(6)臨床研修に対応する医師数
臨床研修医15,000人(研修に専念)
臨床研修指導医5,000人(2010(H22)までに研修医3人につき1名配置)
(7)基礎医学に対応する医師数
年間100人増加(基礎医学教員、研究職、行政職等)
治験・製薬分野(2025(H37)に1,000人)
国際協力(1,000人)
検診医(2025(H37)に2,000人
以上の需要合計15,000人(2025(H37))

2)下位推計(現状の医療提供体制下で推計)
  ・患者数:上位推計と同様
  ・
(1)外来患者に対応する医師数(医師1人1日当たり)
診療所:1996(H8)実績のまま推移すると仮定
病院:  医療法の準定員
病院・診療所比率:1996(H8)のまま推移すると仮定
  ・(2)入院患者に対応する医師数:医療法の標準定員
  ・(3)老人保健施設等:要介護老人100人当たり医師1人
  ・(4)・(6)在宅要介護老人、救急医療、僻地医療、臨床研修医は診療従事医師に含まれるとする。
  ・(5)医学部附属病院医師数41,000人(1996(H8))実績から)
  ・(7)基礎医学・研究・行政職は年間80人増加(過去トレンドより)

3)中位推計(現状の医療体制から徐々に医療の「あるべき姿」が実現すると仮定)
  ・1996 (H8)を下位推計値、2025(H37)に上位推計値に移行

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