(資料2)

今後の児童家庭相談体制のあり方に関する研究会
報告に向けて


 はじめに(研究会設置の趣旨、報告書の位置付け)

<研究会設置の趣旨を簡潔に記述>

 平成17年8月に、都道府県(児童相談所等)における児童相談体制の整備を中心に「中間的な議論の整理」を行い、8月以降「市町村における児童相談体制の整備」のあり方を中心にさらに議論を進め、今般、研究会としての「報告」を取りまとめたものである。


 都道府県(児童相談所等)における児童家庭相談機能の強化

○児童相談所の必要な職員体制の確保

<中間的な議論の整理>
 ・ ここ数年、児童虐待相談件数の大幅な増加や困難事例の増加など児童相談所を巡る厳しい状況を踏まえ、職員配置の充実が図られてきているが、それでもなお、ほとんどの児童相談所の現場および本庁所管課においては現下の児童相談所の体制についての厳しい認識が共有されている。また、児童虐待に関する相談のみならず、非行相談などについても十分な対応が求められている。こうした状況を踏まえ、地域の実情に配慮しつつも、引き続き、児童相談所の体制の充実に向けた努力が求められる。
 ・ 首長のリーダーシップにより、大幅な体制強化が図られたという実践例もあり、行財政改革の大変厳しい状況下において、首長を含めた全庁的な理解の下に進められることが望まれる。
 ・ 他方、現在の児童相談所業務においては、直接の対人援助以外のケ−ス記録作成などにかなりの労力がかかっており、IT化の推進など業務省力化の工夫も求められる。
 (児童福祉司)
 ・ 児童福祉司は、本来、虐待ケ−スであれば、初期の緊急対応から、子どもの自立支援や家族再統合に向けた親子の支援に至るまでの支援を行うことまでがその役割であるべきであるが、抱えている相談ケ−ス数の多さや相談内容の困難化から、初期対応で手一杯な状況にある。こうした状況に対応し、近時、児童福祉司の増員が図られているところであり、また、児童福祉法施行令の改正により児童福祉司の配置基準の改善が図られたところであるが、現場においては、引き続き、配置の充実が必要との認識が強い。17年4月から市町村が児童家庭相談の第一義的な窓口となったことも踏まえても、児童福祉司の不足は依然深刻な状態にあり、今後、政令改正も踏まえたより一層の児童福祉司の配置の充実が望まれる。たとえば、児童福祉司の担当ケース件数など、人口以外の要素を基本とした標準を示すことについても今後、検討すべきである。
 ・ 児童福祉司の大幅な増員が図られた自治体においては、その増員効果として、初期調査の充実や予防的取り組みの充実により、早期対応が図られているほか、複数対応が可能となり、職員のストレスが軽減されるなど大きな効果を挙げていることが報告されている。こうした取組実践に学ぶことも期待される。
 (児童心理司(心理職))
 ・ 児童心理司には、従来の判定業務に加え、一時保護中の子どもの心理療法、心理面からの援助方針の策定、施設入所後のケアの評価などにも積極的に関わることが求められていることから、配置の充実が必要である。児童心理司については、児童福祉司と異なり、配置基準が明確になっていないが、国による配置基準の明確化は、多くの自治体からも要望されており、今後検討すべき課題である。
 ・ 児童相談所が介入と支援の両方の役割を担わなければならない中で、特に子どもを分離保護した後の親指導・支援には、心理職の関わりが重要である。このため、支援の部門では、基本的に、児童福祉司と児童心理司がチ−ムで対応できる体制であることが望ましい。
 (医師・保健師)
 ・ 虐待かどうかの判断や重症度判断に当たっては、医学的判断が不可欠であり、また、虐待ではないケ−スを虐待として判断してしまう「虐待の誤診」を防止する観点からも、児童相談所に医師(児童精神科医や小児科医)を配置することは不可欠であり、求められる迅速性等を考慮すれば、常勤で配置されることが強く求められる。
 ・ 医療機関や保健機関との連携強化の観点からは、連携の窓口として、児童相談所に配置された(常勤)医師が担うほか、児童相談所の中に保健師を配置することも有効と考えられる。児童相談所に配置された保健師には、一時保護中の虐待を受けた子どもに対し、健康面の初期評価を行うことも期待される。
 (弁護士)
 ・ 弁護士についても、法的な観点からの判断をバックアップする存在として、少なくともサポ−トを得られる体制を構築することが不可欠である。

<18年度予算(案)における対応>
 ○ 児童相談所における親支援強化のための「家族療法事業」の実施
<論点(例)>
 ○ 児童相談所の機能強化と業務の効率化
 平成15年度からモデル的に実施しているIT化促進事業の評価と今後の方向性。
 ○ 人口規模以外の児童福祉司の配置標準
 個別のケースの軽重、地域の児童福祉施設など社会資源のありようにも留意。
 ○ 児童心理司の配置基準の明確化
 児童福祉司3人に対して2人程度の配置が行われている例。
 ○ 児童相談所への医師の配置
 児童相談所に隣接した場所への子どもの心の診療所を設置している例。
 子どもの心の診療ができる医師の養成についての方向性。


○児童相談所職員の専門性の向上
<中間的な議論の整理>
 (採用・研修)
 ・ 児童相談所の業務を遂行するために必要な専門性を確保するために、  児童福祉司や児童心理司などについては専門職採用が望まれる。
 ・ ただし、専門職採用だけで職員の専門性を確保しようとしても不十分であり、継続的かつ実践的な現任研修を充実させることが必要である。専門職採用は現任研修が効果を上げるためにも必要であり、専門職採用を行っていない場合であればなおのこと、現任研修の充実は不可欠である。
 (人事ローテーション)
 ・ 現場においては、児童福祉司に必要な専門性を確保するためには、5年から10年程度の経験が必要との声も多くある。採用のあり方とあわせ、人事ロ−テ−ションのあり方についても、各自治体において、積極的な検討がなされることが望まれる。ただし、大変ストレスの大きい業務であることから、適度な異動をはさむことを考慮することも必要である。

<論点(例)>
 ○ 人事ローテ―ションのあり方
望ましい事例、モデルとなるような事例
 ○ 人材育成のあり方
 指導的立場に立てる職員の育成のあり方


○児童相談所の組織体制
<中間的な議論の整理>
 ・ 最近、虐待対応については、従来の地区担当制によらず、専従の組織を設けて対応する児童相談所が増えている。こうした組織体制のあり方については、職務上のストレスが高すぎる、個人の経験が狭まるというキャリア形成上の課題などがあるものの、担当する職員が子どもとその家族全体を支援する上で十分な専門性や経験を備えていることを前提に、虐待対応の緊急性・困難性からは特化することも有効と考えられる。
 非行のケ−スへの対応についても、担当する職員の専門性や経験を前提に、ある程度、専従化することも有効と考えられる。
 ・ 児童相談所における専門性を確保する観点からは、基本的には、後述する(郡部)家庭児童相談室の関係なども含め、専門職員を分散配置するのではなく、できる限り、児童相談所に集約化していくことが望ましい。


○児童相談所の適正配置
<中間的な議論の整理>
 ・ 現在、児童相談所は全国で187か所設置されているが、国が策定した児童相談所運営指針で示されている「人口50万人に最低1か所程度が必要」という目安にしたがった設置数を下回っている状況にある。
 ・ 児童相談所の設置か所数については、最終的には、地域の実情を踏まえた地域の主体的判断にもよることや、本年4月から市町村が児童家庭相談体制の第一義的な窓口となったことを踏まえる必要があるものの、全体として見れば、児童相談所設置数の増加が必要である。
 ・ 設置の目安としては、先の児童福祉法改正において、中核市規模の市について、児童相談所の設置が可能とされたことを踏まえれば、おおむね人口30万人規模を念頭に、緊急対応やケ−スワ−クの効率性を考慮し、たとえば1時間程度で移動が可能な範囲を管轄区域として想定するなど、人口以外の要素も加味した標準を具体的に示すべきである。
 ・ 設置(増設)されるべき児童相談所は、本所の指揮の下に動く支所、出張所のような形態ではなく、あくまで、自立的に措置権を行使できるものであることが望ましい。
 ・ 児童相談所に求められる専門性を確保していく観点、また、本年4月から市町村が児童家庭相談の第一義的な窓口となったことを踏まえると、上記のような意味での支所、出張所を設けることは、地域の特殊事情から必要な場合もあり得るが基本的には好ましくなく、支所、出張所への人員配置よりも、自立的に措置権を行使できる児童相談所の設置数を増やしつつ、かつ、そこに職員を集約化する方が望ましい。

<論点(例)>
 ○ 児童相談所の設置の目安
 中核市における設置(18年度は横須賀市、金沢市)
 ○ 支所、出張所の必要性


○家庭児童相談室(福祉事務所)のあり方
<中間的な議論の整理>
 (都道府県(郡部)家庭児童相談室)
 ・ 都道府県福祉事務所の大半に設置されていた家庭児童相談室については、これまで郡部(町村部)における身近な児童家庭相談窓口としての役割を果たしてきたが、児童福祉法の改正により、市町村が児童家庭相談の第一義的な窓口となったことから、基本的な役割が重複する面がある。
 ・ こうした状況を踏まえれば、機関としての(郡部)家庭児童相談室は、基本的には整理される方向にあると考えられるが、これまで家庭児童相談室が担ってきた町村のサポ−ト機能や福祉事務所と児童相談所との連携機能の必要性そのものがなくなるわけではなく、こうした機能やこれまで蓄積されてきた(郡部)家庭児童相談室のノウハウを何らかの形で継承していく必要がある。
 ・ たとえば、(郡部)家庭児童相談室の職員を児童相談所に集約(配置換)する、市町村に出向あるいは転籍させる、(郡部)家庭児童相談室の体制を強化し、児童相談所とすることなども考えられる。また、当分の間、児童相談所とともに、市町村サポ−トの拠点機関あるいは市町村における相談機関として活用することも考えられる。
 (市家庭児童相談室)
 ・ 市部における家庭児童相談室は、児童家庭相談の重要な役割を担っており、近年、新たに設置する自治体が増加している。こうした市家庭児童相談室については、これまでの児童家庭相談の経験を基に、市の児童家庭相談の中核となることが期待される。

<論点(例)>
 ○ (郡部)家庭児童相談室のノウハウの継承法
 都道府県から市町村への職員派遣の例


○一時保護のあり方
<中間的な議論の整理>
 ・ 虐待を受けている子どもを保護者から分離して保護するほか、虐待の重症化を抑えながら在宅で支援を実施していくためにも一時保護機能の充実が求められる。
 ・ 一時保護所では、虐待・非行など様々な背景や問題を抱えた子ども、年齢層も幅広い子どもを保護しなければならず、男女の問題も含め生活援助の場面での分離対応が必要であるが、設備的にも体制的にも不十分な状況であり、職員配置の充実をはじめとした改善が急務である。特に、非行の問題(とりわけ触法少年による重大事件)について、児童福祉の観点を踏まえ、児童福祉の機関が引き続きしっかりと関わっていく観点からも、対応力の強化が望まれる。その際、行動の自由の制限のあり方についても、さらに十分な検討が必要である。
 ・ 一時保護の期間は、単に保護を行うのみならず、その後の子どもの自立支援や家族支援に向けたアセスメントを行う期間である。そのため、一時的な保護のみが目的ではなく、子どもの心身のケアをしつつ、個々の子どもの状況に応じた最適の支援内容を判断するアセスメント機能を充実させるべきであるという認識の下に、一時保護所の機能の充実・強化が必要である。
 ・ 現下の一時保護所の状況を踏まえれば、施設や里親への委託一時保護についても、ある程度進めていく必要があるが、その際には、施設や里親との十分な連携の下、しっかりとしたアセスメントを実施することが必要である。また、委託一時保護を推進するためには、一時保護委託費のあり方についても検討が加えられるべきである。
 ・ なお、職権による一時保護のほか、柔軟で多様な形態の受け皿を拡充することにより一時保護の機能を充実していくことも必要である。たとえば今後、市町村が児童家庭相談の第一義的な役割を担う中で一時保護の目的によっては、ショ−トステイ事業や一時保育の実施など、市町村の子育て支援事業の活用も考えられる。

<18年度予算(案)における対応>
 ○心理療法担当職員を全ての一時保護所に配置
 ○一時保護(委託を含む)における一般生活費について新たに乳児用単価を設定
<論点(例)>
 ○ 一時保護所における行動の自由制限のあり方
 ○ 一時保護委託費のあり方
 ○ 機能を集約していく具体的方策


○児童福祉施設の適正配置・里親委託の推進
<中間的な議論の整理>
 ・ 児童相談所からは、虐待を受けた子どもの保護の受け皿となる児童養護施設や情緒障害児短期治療施設などの児童福祉施設の不足を訴える声も大きい。一時保護所の体制充実とあわせ、児童福祉施設の適正配置により、保護の受け皿が適切に確保されることが必要である。あわせて、家庭的養護の担い手である里親の登録数を増やすとともに、研修等の充実により養育技術の向上を図り、積極的に里親への委託を進めていくことが必要である。

<18年度予算(案)における対応>
 ○ 児童養護施設等で家族療法を実施
 ○ 児童相談所に「里親委託推進員」を配置
<論点(例)>
 ○ 児童福祉施設の適正配置
児童養護施設の受け皿の拡大方策
情緒障害児短期治療施設の設置促進方策
 ○ 里親委託の推進


3 児童相談所と関係機関・専門職種との連携強化

<中間的な議論の整理>
 ・ 児童虐待ケ−スを始めとする複雑な問題を抱えるケ−スに適切に対応していくためには、関係機関・専門職種との連携強化が不可欠である。しかしながら様々な形でネットワ−クは形成されているものの、援助のスタンスの違いなど、必ずしも相互理解に基づく有機的な連携が十分に図られているとは言い難い状況にある。今後、相互理解に基づく実質的な連携確保をいかに形成していくかが課題である。
 ・ 地域における関係機関の有機的な連携を促進するため、今回の児童福祉法改正により、要保護児童対策地域協議会が設けられたところである。今後、市町村において、この要保護児童対策地域協議会の設置が進められることが期待される。以下の関係機関・専門職種との連携については、児童相談所との直接的な連携とともに、市町村を中核とした同協議会を通じた連携強化が図られることも期待されている。児童相談所はそうした市町村を中核とした関係機関の協議会の構築に向けた環境づくりについて積極的に支援していくことが求められる。
 (医療機関)
 ・ 虐待の判断において、医学的診断は極めて重要であるが、虐待の確定診断を下すためには、家族背景なども含めた総合診断が不可欠である。こうした点からも、しっかりとした連携体制を構築することが必要である。
 ・ 医療機関からの虐待の通告については、依然として医療機関側のためらいが見受けられる。特に、開業医の場合、通告者が特定されてしまうことなどの問題が指摘されている。こうした課題に対し、たとえば、広島県では、「子ども虐待等の相談・診療に関する協力基幹病院」を指定し、地域の一般医療機関(かかりつけ医)からの相談に応じ、協力基幹病院を通じた通告、診断書作成、虐待が疑われる子どもの入院を受け入れるなどのネットワ−クを形成している。こうした先進的な取組も参考にしながら、それぞれの地域において医療機関とのスム−ズな連携を可能にするようなシステムづくりが期待される。
 ・ 基幹的な医療機関においては、虐待ケ−スに対応した病院内システムが確立されていることが望まれる。しかしながら、虐待対応には、相当の時間と労力を要するため、不採算にならざるを得ない。このため、こうした病院内システムづくりを促進していくために、診療報酬上の配慮などについても検討が望まれる。あわせて、医療ソーシャルワーカーや担当保健師など病院内システムの窓口や他の機関との連絡調整を担う人材の配置も望まれる。
 ・ 国においては、医療機関が虐待ケ−スについて、具体的にどう動いていくか、ということについての詳細なマニュアルをつくり、示していくことも必要である。
 (弁護士、弁護士会)
 ・ 弁護士、弁護士会との連携は進みつつある。とりわけ一部の地域では相当程度連携が図られてきているが、地域によっては児童福祉に関心のある弁護士が限られているなど、全国的な協力システムづくりが課題である。
 (保健所、市町村保健センタ−)
 ・ 市町村保健センターの保健師等は、乳幼児健診などの場で周産期・出生時から親子に向き合う機会も多い。このことをいかし、児童虐待のリスクの高い家庭への支援などを行う過程で児童相談所と連携を深めることにより、児童虐待の発生予防、早期発見や重症化防止が期待される。
 ・ 保健指導面では、精神保健相談に応じるとともに、精神科医療機関との日常的な関係を構築していることから、児童相談所との連携を深めることにより、虐待を行った家族等への支援の一翼を担うことが期待される。
 (児童家庭支援センタ−)
 ・ 児童家庭支援センタ−は、児童相談所からの指導委託を受けて、ケ−スに対応することができる機関である。しかしながら現状では、十分な活用が図られているとは必ずしも言い難い状況にある。
 ・ 市町村が児童家庭相談の第一義的な相談機能を担うこととなったことも踏まえ、今後は、夜間の相談を中心に対応したり、一時保護機能を充実させるなど、児童福祉施設に附置される機関としての特性を活かした相談援助活動を展開するなどその役割・位置付けについて、さらに検討を深めることが必要である。
 (里親、児童福祉施設)
 ・ 里親委託や施設への入所措置を行った子どもについての自立支援計画の見直しについては、多くの児童相談所では、年1〜2回程度の訪問、相談といった対応にとどまっているのが現状である。今後は、子どもの自立支援や家庭復帰支援に向け、児童相談所が積極的に里親や児童福祉施設と連携を図り、本人の意向も踏まえつつ、適時の自立支援計画の見直し、自立支援計画に基づく支援を行っていくことが必要である。
 ・ 特に、里親については、児童相談所が指導担当者を定期的かつ継続的に訪問させることなどにより、委託した子どもの養育について必要な指導を行う機能を強化することはもとより、里親が困難に直面した場合の養育相談や里親養育をサポートする者の派遣、レスパイト・ケアなど里親自身への支援の充実が望まれる。
 (学校、教育委員会)
 ・ 学校の教職員には、虐待の早期発見に努めることが特に期待されており、児童相談所への通告についての意識を高めるとともに、責任の明確化を図ることが必要である。たとえば、滋賀県においては、県内の全ての小中学校に児童虐待対応教員を配置するとともに、児童相談所に通告する際には、学校での子どもの状況などを文書で送付することを定め、学校側の責任の明確化を図っている。こうした取組も参考に、連携強化に取り組むことが期待される。さらに、学校の教職員においては、虐待の通告にとどまらず、これを契機に他機関とともに、虐待を受けた子どもと家族への支援を連携して行っていくことが必要である。
 (警察)
 ・ 立入調査や緊急対応を要するケ−スなどについては、警察との積極的な連携が重要であることはいうまでもない。しかしながら、福祉と警察では、ケ−スのとらえ方や視点が異なる面があることから、たとえば、非行ケ−スの調査などにおいて、どこまでを警察が対応し、どこまでを児童相談所が対応するのか、といったガイドライン的なものを検討するなど、その線引きについては、十分に議論を深めることが必要である。
 (児童委員・主任児童委員)
 ・ 児童委員・主任児童委員については、虐待の通告ケ−スにおける周辺調査や在宅支援ケ−スにおける見守りなどで一定の役割を担っているが、個人の力量差が大きい、守秘義務の徹底が課題、との問題も指摘されている。
 ・ 地域でもっとも身近な関係者として、果たすべき役割は大きく、研修の充実等を通じた積極的な連携・活用が望まれる。
 (民間(NPO)団体)
 ・ 各地において、民間(NPO)団体のそれぞれの特性を活かした様々な連携の取組が進められている。今後とも、より一層の連携の強化が望まれるが、虐待防止のための電話相談などを行っている、いわゆる児童虐待防止の民間ネットワークのほか、つどいの広場事業など親子や親同士の交流、一時預かりなどの子育て支援事業を実施しているNPOなども含めた幅広い団体との効果的・具体的な連携が期待される。


 都道府県(児童相談所等)と市町村との連携の推進、都道府県(児童相談所等)による市町村に対する支援

<中間的な議論の整理>
 ・ 今般の児童福祉法の改正を受け、各都道府県においては、地域の実情を踏まえた都道府県独自の市町村向け相談マニュアルの作成や市町村向けの研修に取り組んでいる状況にある。
 ・ しかしながら、市町村の取組や意識には相当のばらつきがあることから、個々の市町村の力量に応じ、当面は、市町村において対応が困難と判断したケ−スについては、積極的に児童相談所が対応する姿勢が必要である。
 ・ また、ケ−スの当初の振り分けは、高い専門性を必要とし、その後の援助にも大きく関わることから非常に重要である。これについては、市町村におけるケ−スへの主体的関わりを維持しつつ、児童相談所が積極的にケ−スの見立てや進行管理などの支援を行うことが必要である。
 ・ 児童相談所と市町村を始めとする関係機関との連携をうまく機能させるためには、各機関が同じような枠組みでアセスメントや援助方針のプランニングを行うことが必要である。
 ・ 市町村における相談体制の整備や要保護児童対策地域協議会(ネットワ−ク)の設置について、児童相談所長が中心となって、各市町村の首長に働きかけを行っている例もある。こうした働きかけ、特に自治体のトップに対し、理解を求めていくことも有効と考えられる。

<論点(例)>
 ○ 市町村の判断能力を高めるための道筋


 市町村における児童家庭相談体制の整備

(1)市町村の相談体制、都道府県との関係

<論点と議論の整理>
○市町村の相談窓口について
 ・ 市部については、昭和39年から福祉事務所に家庭児童相談室を設置できることとされており、この組織を中核に体制整備するなど、福祉事務所又は福祉事務所機能を有する児童福祉主管課に窓口を設置しているところが多い。また、自治体独自に「子ども家庭支援センター」等を設置しているケースもある。
 ・ 町村部においては、法施行に対応して役場に相談窓口が設置されたケースが多いものと推測される。
 ・ 指定都市においては、区福祉事務所等の窓口と児童相談所が重層的に対応しているところが多い(7割)。
 ・ このように、市町村によって相談窓口はいくつかのケースがあるが、いずれにせよ、「主たる相談窓口」が児童家庭相談を責任を持って受け止める体制の構築が必要。
 ・ 市町村の相談窓口において、相談室の整備などハード面についても整備を進める必要がある。
○受理会議、ケース検討会議などの体制について
 ・ 受理会議やケース検討会議について、不開催が半数程度の市町村に上っており、特に町村では相談に関して相談担当者個人に委ね、組織的な判断や対応がなされていない。
 ・ 各市町村、特に町村部においては、組織的な判断や対応を行えるような体制を早急に整備する必要がある。
○夜間・休日等の体制について
 ・ 夜間・休日の対応について、半数の市町村が対応していない。夜間・休日の対応体制の整備が急務。
 ・ 体制の整備に当たっては、相談件数の多寡や相談内容、自治体の規模、職員体制等を勘案して、それぞれの自治体に応じた体制を整備することが重要ではないか。
 ・ また、各自治体の住民が、その自治体の夜間・休日等の連絡先を把握できるよう、周知を徹底することが重要ではないか。
○都道府県との役割分担・連携について
 ・ 業務マニュアルの作成は5割程度にとどまっており、それぞれの自治体に適した業務マニュアルの作成が必要。

<論点(例)>
 ○ 当面、児童相談所が一定程度の役割を果たすとしても、市町村の判断能力を高めるための道筋。
 ○ 市町村から児童相談所に連絡・報告するタイミング
 ○ 受理会議、ケース検討会議等の「会議」の位置づけ


(2)市町村の児童家庭相談の役割

<論点と議論の整理>
○市町村が担う機能について
 ・ 市町村は、単なる児童相談の初期窓口の役割を果たすだけではなく、個別ケースの処遇(方針)を関係者と決め、実際に援助を行っていく役割を果たすことが求められる。すなわち、(1)相談・通告の受付、(2)受理会議(緊急受理会議)、(3)調査、(4)ケース検討会議、(5)市町村による援助、児童相談所への送致等、(6)援助内容の評価、相談援助活動の集結といった、児童家庭相談におけるすべての過程において、市町村が第一義的な役割を担うことが重要。
 ・ 要保護児童対策地域協議会の調整機関・事務局は市町村の児童福祉担当課や福祉事務所が担っている場合が多く、地域協議会として、これらの過程に取り組むことも考えられる。
○相談種別ごとの対応について
 ・ 相談種別ごとの相談件数をみると、非行相談などが少ないのが現状。
 ・ 市町村で行う児童家庭相談について、虐待はともかく、障害や非行は緊急性が低く、担いにくいとの声もあるが、市町村ですべての種別の相談をまず受け止めることが原則ではないか。


(3)市町村の職員体制の確保・専門性の向上

<論点と議論の整理>
○必要な職員の確保について
 ・ 相談担当職員の7割は兼務。
 ・ 相談担当職員の37%は一般行政職。25%は保健師、児童福祉司は5%強、社会福祉士は2%であり、各市町村とも人材確保に腐心。特に小さな町村では、一人が他の業務と兼務により対応している例も多く、相談窓口の人事ローテーション、専門性の確保が難しいとの声も。
 ・ 当面、市町村において現有勢力で対応せざるを得ない場合には、保健師、保育士など子どもとその家族に対する直接援助について基礎的な素養のある者を優先的に充てることもひとつの方法ではないか。
 ・ 一方で、市町村の母子保健担当保健師は若い人が多く、介護など他分野に中堅以上が配置される傾向がある。市町村は、母子保健分野に一定程度の経験を積んだ保健師を配置することを検討すべきではないか。
○専門性の向上、対応力の強化について
 ・ 相談担当職員の資質向上のための研修について、4割の市町村が未受講。
 ・ 少なくとも、市町村の相談担当職員に対し、研修を受講する機会を確保すべきではないか。
 ・ 研修を行っても市町村の担当職員がすぐに人事異動してしまうという課題も指摘されており、都道府県が市町村職員向けに研修を行う場合には2〜3年周期で研修プログラムを組む必要があるのではないか。
 ・ 市町村職員が児童相談所で数日間、短期的な研修を行うことや、児童相談所の処遇方針会議に参加することに取り組む市町村もある。
 ・ 市町村と県児童相談所との人事交流(1〜2年程度)が市町村の相談担当職員の人材育成に効果的ではないか。
 ・ 市町村と児童相談所とが共通のアセスメントツールを用い、活用することが重要ではないか。
 ・ 外部人材の活用は町村では9割以上が、市部でも約8割が行っておらず、外部人材の活用にも取り組むべき。
 ・ 民間有識者の任期付き採用も検討すべきではないか。

<論点(例)>
 ○ 異動の多い市町村職員への研修のあり方
 ○ 兼務と専任
 ○ 市町村合併の状況(18年4月1日には市町村数が1,820)との関係。
 市において求められる最低限の対応


(4)要保護児童地域対策協議会(ネットワーク)による取組

<論点と議論の整理>
○要保護児童地域対策協議会の設置等について
 ・ 要保護児童地域対策協議会の設置率は4.6%。協議会又は児童虐待防止ネットワークのいずれかの設置率で見ても50%強。
 ・ 協議会又はネットワークを設置していない理由として「人材の確保が困難」とする自治体が多く、調整機関のコーディネータなどの人材確保や資質向上が課題ではあるが、重大な児童虐待事件などが起きてからでは遅いので、各市町村は早急に要保護児童地域対策協議会の設置を検討すべきである。少なくとも、児童虐待防止ネットワークを組織すべきである。
 ・ その際、小さな市町村においては、合同開催や事実上の共同設置も検討すべきではないか。
 ・ 協議会やネットワークを設置した後も、具体的なケースを扱っていないところが見られるが、児童相談所の協力も得て、事例研究会を行うなどにより参加者間でケースの取扱いについての共通認識を形成していくことが、ネットワークを機能させることとなるのではないか。
○要保護児童地域対策協議会の役割について
 ・ 役割として7割弱の市町村が「発生予防」「早期発見・早期対応」「保護・支援」のすべてに対応しており、これらの市町村を含め「保護・支援」に対応しているところは7割強となった。
 ・ 代表者会議や実務者会議よりも、個別ケース検討会議を開催している市町村数が多く、個別ケース対応をネットワークで行っている様子がうかがえる。
 ・ 要保護対策地域協議会等が担うべき役割や、要保護地域協議会等と市町村の相談窓口との関係については、一様に定められるものではなく、各市町村の実情に応じて組み立てていくべきことが基本。例えば、個別のケースについて地域資源を総動員しながら対応することが良い結果をもたらすことが多いと考えられることから、市町村の相談窓口でケースを受け付けた上で要保護対策地域協議会等で個別ケース対応についての役割を担うことが効果的ではないか。
 ・ 一方、児童相談所との役割の明確化なども課題として挙げられており、個別ケースを要保護対策地域協議会等が担う場合でも、児童相談所との関係に留意する必要がある。
○要保護児童地域対策協議会の人材について
 ・ 協議会設置済市町村のうち、要保護児童対策調整機関に常勤職員のコーディネータ−を配置しているのは約6割。コーディネータ−の配置が活動の鍵になることから、適切な配置が必要ではないか。また、スーパーバイザーの確保は、コーディネーターや直接援助者の力量アップには不可欠。
 ・ 守秘義務の規定についても4割弱が評価。
 ・ メリットとして、連絡調整や情報共有がスムーズになった、虐待問題の認識・関心が高まった、各関係機関の役割が明確になった、などが挙げられている。
 ・ 専門職の雇用等の人材確保も、要保護対策地域協議会等の課題として挙げられている。


(5)福祉事務所(家庭児童相談室)、児童家庭支援センターの扱い

<論点と議論の整理>
○福祉事務所<論点と議論の整理>
(家庭児童相談室)について
 ・ 市部における家庭児童相談室は、近年、新たに設置する自治体が増加しているが、市町村合併により一定の人口規模の市が多く誕生することに伴い、更に設置を促進すべきではないか。
 ・ 郡部における家庭児童相談室は、市町村合併の影響等から年々減少していくものと考えられるが、これまで家庭児童相談室が培ってきたノウハウを活かすことを考えれば、例えば、家庭児童相談室の体制を強化し児童相談所とする、市町村サポートの拠点として活用するなどの検討も必要ではないか。
○児童家庭支援センターについて
 ・ 児童家庭支援センターは、全国51か所であり、絶対数が少ないので、活動が地域に限定されてしまう。児童家庭支援センターを今後どう位置付けていくのか更に議論し、方向性を出すべきではないか。
 ・ 北海道のように児童相談所の機能を地域的にも補完するように整備されているところもあり、児童相談所との関係を地域ごとによく整理すべきではないか。

<論点(例)>
 ○ 児童家庭支援センターのカバーすべき範囲


(6)子育て支援サービスの活用による総合的支援の実施

<論点と議論の整理>
 ・ つどいの広場や「子育てサロン」「ふれあい親子サロン」などが相談の機関としてどれくらい可能性があるのか評価は必要だが、決まったプログラムを強制されず、相談も可能なため親子で行きやすく、虐待の早期発見・予防、問題点の把握では有効な位置づけができるのではないか。
 ・ 地域子育て支援センターに市町村の児童家庭相談体制の一翼を担わせている自治体もあり、専門職の少ない自治体には有効ではないか。
 ・ 母子保健活動は新生児訪問や母子手帳交付時から親子と関わりがあるため、早期発見、重症化予防という役割は大きい。
 ・ 育児支援家庭訪問事業も、家庭に入って個別具体的かつ連続的に支援することにより、対象者の課題解決を目指すことから、効果的。
 ・ 民生委員・児童委員についても、地域の把握という観点から、役割が期待される。
 ・ 一時保育やファミリー・サポート・センターの紹介、更には緊急一時保育、ショートステイ、トワイライトステイといった在宅福祉サービスを提供しながら児童家庭相談に対応している市町村もある。
 ・ しかしながら、市町村の児童相談窓口や児童相談所に、こうした子育て支援サービスからどのように繋げるかが課題。
 ・ 特に、保健サイドと児童相談所などの福祉サイドには、同じ土俵に立てない、言語が違うなどとの指摘がなされている。
 ・ 要保護対策地域協議会等の活用もひとつの方法ではないか。

<18年度予算(案)における対応>
 ○ 分娩に関わった産科医療機関の助産師等による訪問支援の推進など育児支援家庭訪問事業の推進
<論点(例)>
 ○ 民生委員、児童委員の活用
 児童福祉施設を退所した子どもの地域援助の役割


(7)政令市の扱い

<論点と議論の整理>
 ・ 政令市と「区」の関係は、同じ自治体であり、本庁・児童相談所・区の職員の人事交流が可能。
 ・ 各「区」が設置する「子育て支援室」等を、住民に身近な児童家庭相談機関として活用している自治体もあり、効率的な児童家庭相談を進める上では、「区」を第一義的な相談窓口して活用することが重要ではないか。
 ・ 「区」の人材の基本は保健師。本来は、ソーシャルワークの基礎がある児童家庭相談担当の責任者を確保したいところ。保健師等の保健部門は、児童相談所等(福祉部門)との言語に差違があるとの指摘がある。児童相談所が支援しながら、「区」を担う保健師が中心になって研修・マニュアル作りを行うことが効果的。
 ・ 児童相談所においても、区を支援する専門部署(区の啓発、研修、個別支援などを担当)が必要ではないか。


(8)その他

<論点と議論の整理>
 ・ 市町村が、各種の調査を進めるに当たって、個人情報保護法を盾に調査を拒否する機関や個人がいる。個人情報保護法の趣旨(児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるときは、個人情報の利用の制限から除外されている。)を周知することが必要ではないか。

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