資料8
韓国ソウル大学調査委員会による調査結果について

平成18年1月27日
文部科学省
生命倫理・安全対策室

1.  平成18年1月10日、韓国ソウル大学調査委員会は、ファン・ウソク教授を中心とした研究チームが行った人クローン胚研究について、研究成果の捏造疑惑、卵子提供に係る経緯等に対する調査結果を取りまとめたところ、主な内容は以下のとおり。

(1)  研究成果の捏造疑惑について
 (1) 平成17年5月にサイエンスに発表された論文について
 論文提出時点で存在した細胞株は2株であり、残り9株のデータは具体的実験結果なしに捏造されたものである。
 当該2株も受精卵由来のES細胞であり、患者の体細胞核を移植した人クローン胚から樹立されたES細胞は存在しない。
 核移植に使用された卵子個数が縮小して報告されている(273個→185個)ことから、胚盤胞形成成功率(約17%)は誇張されたものである。
 (2) 平成16年2月にサイエンスに発表された論文について
 論文に報告された細胞株は、人クローン胚から樹立されたものではなく(核移植の過程で不完全脱核等によって誘発された処女生殖過程で樹立されたES細胞である可能性が高い)、論文は捏造である。

(2)  卵子提供に係る経緯について
 (1)  ファン教授チームに提供された卵子は平成14年11月から平成17年11月までに4つの病院(ミズメディ病院、ハンナ産婦人科病院、漢陽大医科大学産婦人科、サムソン第一病院)で129名から採取した総数2,061個である。
 (2)  ファン教授チームに卵子を提供した病院は、漢陽大IRBが承認した同意書様式を使用せず、ほとんど卵子採取による合併症等危険性に対する記述がない略式の同意書を使用した。
 (3)  漢陽大IRBは研究計画書の承認の際、卵子採取による合併症等危険性に対する記述が不十分な同意書様式の問題点を指摘しておらず、合併症等危険性を記載した同意書様式とそれに伴う比較的厳格な同意取得手続が適用された例は平成17年1月に2次研究計画変更した後の6名のケースのみである。
 (4)  卵子採取機関が同意以前に提供者に採取の危険性に対して充分な説明を行ったかどうか、卵子を採取した人の中から卵巣過剰刺激症候群等で診療を受けた人が何人いるのか、排卵誘導のためのホルモン投与量が適正だったのか等に対しては資料を確保できず、これからさらに正確な調査が必要である。
 (5)  1名から最大で43個の卵子が採取され、5名は2回、1名は3回にわたって卵子を提供した場合もある。また、ミズメディ病院では卵子提供者のほとんどに金銭が支給されていた(他の卵子採取機関において実費補償の次元を超える金銭支給があったのか等は把握されなかった)。
 (6)  研究員1名による卵子提供は、卵子の不足問題等により実験不振であることに悩んだ研究員が、自身の意思により申し出、ファン教授が承知した上で行われた。また、研究チームは女性研究員に卵子提供に関する同意書を配布し、現研究員7名、前研究員1名から署名を受けた。
 (7)  獣医学部IRBはファン教授主導で委員を選定するなど、その構成や運営面において多くの問題点が所在している。


2.  報道等によると、本件については、現在、検察が捜索を行っているところであり、卵子提供に係る問題については、国家生命倫理審議委員会における調査も行われている。
 また、韓国では現在、「生命倫理及び安全に関する法律」(平成17年1月施行)により卵子の有償提供が禁止されているが、同法施行後も卵子の提供に伴う金銭の授受があったかどうかについても、調査が実施されているところ。


3.  本件に係る生命倫理上の問題は、以下の3点と考えられる。

  (1)  医学研究の倫理上留意すべきとされている強制下で同意を求められるおそれのある部下の研究員からの提供が、研究責任者が承知した上で行われたこと。

  (2)  卵子提供に伴う金銭の授受があったが、明確な基準に従って実費として支払われたかどうかは明らかではなく、必ずしも卵子提供に対する報酬ではないと言い切れない部分があること。

  (3)  卵子提供について同意を受ける前に、卵子採取に伴う合併症等のリスクの説明を十分に行っておらず、卵子提供の際のインフォームド・コンセントの手続き等を含めた研究計画書について、提供医療機関のIRBにおける審議が不十分であったこと。

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