05/12/06 労働政策審議会労働条件分科会 第47回議事録           第47回労働政策審議会労働条件分科会                  日時 平成17年12月6日(火)                     10:00〜                  場所 厚生労働省17階専用第21会議室 ○西村分科会長 ただいまから第47回労働政策審議会労働条件分科会を開催いたしま す。本日は今田委員、久野委員、渡辺章委員、小山委員、島田委員、山口委員が欠席さ れております。また、渡邊佳英委員の代理として尾形さんが出席されています。平山委 員からは少し遅れるとの連絡を、奥谷委員も少し遅れて来るようです。  本日の議題に入る前に委員の異動がありましたので、事務局から説明をお願いします。 ○大西監督課長 前回の労働条件分科会以降、労働政策審議会労働条件分科会の臨時委 員の交代がありましたので、御紹介いたします。11月30日付けにて須賀恭孝委員が辞 任され、後任として同日付けにて、日本労働組合総連合会総合労働局長の長谷川裕子様 が労働者代表の臨時委員に就任されましたので御紹介いたします。 ○長谷川委員 日本労働組合総連合会の長谷川です。よろしくお願いいたします。 ○西村分科会長 それでは本日の議題に入りたいと思います。本日は前回と同様に、労 働現場の実態をどのように認識しているのか、またその認識に立って、労働契約法制と いうものを必要と考えるのか、あるいは考えないのかといったことを中心に、議論を続 けていくこととして、引き続き労働現場というか、労働環境の実態について、さらに詳 細に見ていくことにしたいと思います。  それでは事務局から資料が出されていますので、説明をお願いします。 ○大西監督課長 それでは資料No.2には、参考資料1、参考資料2、参考資料3と続い ていますが、順次御説明をさせていただきます。資料No.2の労働条件の設定・変更につ いてです。労働条件を何によって設定しているかについて、まず、就業規則の作成状況 についてですが、企業規模10人以上の企業についてはほぼ就業規則を作成していただい ています。零細企業における就業規則の作成状況については、労働者9人以下の企業を 見ると、現在適用の就業規則のある企業36.4%、古いものがある企業は33.9%という結 果になっています。  2頁です。就業規則の周知方法としては入社時に説明しているものが53.4%、各職場 に掲示したり備え付けたりして従業員が自由に見られるとしているものが34.2%です。 この就業規則についての労働者に対する調査を見ますと、就業規則があると回答した企 業の労働者のうち、就業規則の内容をおおむね知っている者についてはグラフにあるよ うに、どの企業規模においても6割強になっています。また、知りたいときはいつでも 知ることができるという項目を見ますと、企業規模の大きい所では61.3%ですが、順次 減っていきまして、企業規模の小さい所、9人以下では23.7%となっています。  3頁です。労働条件等について企業と労働者が話し合う労使協議機関について見ます と、設置しているのが29.3%で、企業規模が大きくなるほどこの割合は高くなっている というものです。また、労働者側に労使協議機関の設置状況を30人以上の規模の事業所 について調べたところ、約半数の労働者から、うちの会社には労使協議機関があるとい う回答をいただいています。これは第44回のときに岩出委員から組合側から聞いた設置 状況についての資料をということで用意させていただきまして、平成11年度の数字もあ りましたので、併せて出させていただいています。  4頁です。この労使協議機関が有効に機能しているかどうかということで、平成11 年の統計ですが、非常に有効であるが15%、ある程度有効であるが49.6%というような 状況になっています。労使協議機関についての今後の希望についてもあったほうがよい というのが、平成11年の労働者に対するアンケートですが、60.0%というような結果に なっています。  この労使協議機関の下部組織としてどんな専門委員会があるのかということを、平成 16年の調査で尋ねていて、いちばん多いのが安全衛生委員会で87.3%、その次が休日・ 労働時間委員会、続いて福利・厚生委員会といったものが下部組織としてあるというも のです。  4頁の下から5頁です。労使協議機関の開催形態としては定期及び必要のつど開催す るという企業が34.0%ということです。必要のつど開催というのは、5頁のグラフの真 ん中の黒枠の部分で32.7%で、これは企業規模が少なくなっていくと、この必要のつど というのが徐々に増えていっているという感じです。  労使協議機関の従業員代表の選出方法では、労働組合がある場合と労働組合がない場 合で分けて書いてあるのですが、労働組合がない場合には従業員で互選された者が 72.8%、使用者が指名した者というのも32.9%あるという状況になっています。  6頁です。労使協議機関の付議事項とその取扱いです。付議する割合として多いのは 労働時間・休日・休暇に関する事項が92.6%という具合に多くなっているということで す。続いて賃金・一時金についてが86.3%となっています。6頁のグラフですと、左端 の薄い網掛けの部分が同意まで得るというもので、真ん中の黒い枠の部分が協議をする というもので、その右側が意見聴取という順番に並んでいます。  6頁から7頁にかけて、就業規則の紛争の事例をいくつか挙げさせていただいていま す。また裁判例についても7頁に最高裁の判決を2つ挙げさせていただいています。最 高裁の判決を御紹介させていただきますと、7頁の上のほうにあるのが秋北バス事件と いう昭和43年の最高裁の判決で、判決内容は定年制についてで、判決では「就業規則は、 当該事業場内での社会的規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに 至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および 内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与え たかどうかを問わず、当然に、その適用を受ける」、「新たな就業規則の作成又は変更に よって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則 として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ 画一的な決定を建前とする就業規則の性格からいって、当該規則条項が合理的なもので ある限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒 否することは許されない」という具合に判示されたものです。  下のものについては電電公社帯広局事件という昭和61年の最高裁の判決です。判決で は、上記秋北バスの判決を引いた上で、「就業規則が労働者に対し、一定の事項につき使 用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、そのような就業規則の規定内容が 合理的なものであるかぎりにおいて当該具体的労働契約の内容をなしているものという ことができる」という具合に判示されているものです。  8頁です。就業規則を作成している企業のうち、就業規則とは別に労働者との間で、 個別に労働条件を設定することがあるとした企業は32.1%で、ない企業は59.5%です。 これについては44回の分科会で新田委員から組合があるとき、ないときのクロスについ てとってほしいという御要望があり、確認したところ、労働組合があるところで個別の 労働条件設定があるとしたのが下から2番目の棒グラフの46.7%で、労働組合のないと ころでは30.4%という結果が出てきていますので、報告させていただきます。  8番目は個別に労働条件を設定すると回答した企業の中で、どのような労働者に対し て個別に労働条件を設定するかについて聞いてみた結果です。いちばん多いのがパート タイマー等の非正規従業員で51.8%、2番目が支店長、部長クラスの16.1%、3番目が 職種限定社員の12.4%という順番になっています。  9頁です。個別に設定されている労働条件の中身ですが、賃金が78.9%、労働時間が 76.0%という順番になっています。過去5年間における労働条件の個別的決定の対象と なる労働者の割合が増加した事業所は12.8%となっています。前々回、谷川委員から個 別的決定が増えているのかどうかという御指摘をいただきまして、経年で同じ調査が2 回あるというパターンはなかったのですが、5年前に比べて増えているかどうかという ことで、こういう調査があり、御紹介させていただきます。それで増えているものが 12.8%で、ほぼ変わらないが51.8%で多いということです。  10頁です。就業規則の規定と異なる合意の効力が問題となった例で、これは再掲とい うことになっていますが、退職金に関して退職金の変更について、各労働者と覚書は交 わしたけれども、就業規則の退職金規定は変更しなかったという例で、労働者側は十分 な説明がなかったから、就業規則のとおり支払うよう求めたもので、会社側は覚書を各 個人別に記名捺印の上交わしているのだから、有効に変更されているということで争い になったというケースです。  11頁です。ここ5年間において労働条件を変更したという企業は42.6%で、その変更 手続の内容を見ると、就業規則を変更したというのが69.8%で最も多いということでし た。  11頁の下段で90年度半ば以降に、人事・労務管理制度に関する何らかの制度改定を 行った企業は90.4%にのぼっています。内訳ですが、大部分の従業員の利益になるとい う改定を行ったのが34.9%、一部従業員の利益にならないこともあるというのが46.5%、 大部分の従業員に利益にならないというのが10.5%という状況になっています。  12頁です。就業規則を変更した企業について行政官庁への届出に際しての意見聴取の 状況ですが、過半数組合の意見を聴いたのが10.4%、過半数代表者の意見を聴いたのが 69.1%になっています。労働組合がある場合には66.8%が過半数組合の意見を聴いた、 労働組合なしの場合には過半数代表者の意見を聴いたというのが77.0%です。労働組合 なしの場合には特に意見を聴かなかったというのも少し増えて16.9%あるという状況 です。就業規則の変更にあたり、意見を聴いた過半数代表者の選任方法としては、選挙 が16.9%、信任が16.0%です。  13頁です。上のグラフでは企業規模が大きくなると選挙や信任が増えてきているとい うものです。企業規模が小さいと全従業員が集まって話し合いにより選出するという項 目とか、社員会や親睦会等の代表者が自動的に労働者代表となる慣行になっているとか、 そういったものがやや増えてきている感じです。13頁の下のほうから、選挙する企業に 対して、選挙の方法を聴いたところ、無記名投票が53.0%、挙手が42.3%です。投票し た従業員の範囲については係長クラスまで含むというのが33.0%で多く、次に課長クラ スまで含むというのが26.6%という状況になっています。  14頁です。信任の方法が書いてあり、挙手が27.5%で、特段の異議の申出がない限り 信任が21.6%という順番になっています。投票した従業員の範囲については一般の従業 員のみが35.5%でいちばん多いということです。また、信任について候補者の定め方で すが、従業員会等の代表者が自動的に候補者となる慣行があるが36.3%でいちばん多く、 事業主が指名するというのも26.5%あるということです。  一定の従業員が集まって話合いにより過半数代表を選出する場合の話合いをする従業 員の範囲については、各職場の長が64.7%で多いということです。最後は過半数代表者 となった従業員で、就業規則の変更に当たり過半数代表者の意見を聞いた企業を対象に 集計したのですが、その従業員の役職については、係長・主任クラスが39.1%でいちば ん多いという状況になっています。  15頁です。ここ5年間において就業規則の変更した企業で、法定の意見聴取手続のほ かに従業員の意見を反映させるための措置を何か行いましたかというものについては 78.1%がしたということで、組合がある場合には88.2%となっています。措置の内容は 労働組合ありの場合にはその労働組合と事前協議するが77.1%でいちばん多く、労働組 合なしの場合にはその都度従業員の代表と協議するとか、原則として従業員全員を集め て説明し、意見を聴くとか、周知して意見を募るという具合に、手法が異なってきてい ます。  16頁です。就業規則の変更をめぐって個別の従業員との間で紛争が起こったことがあ った企業は2.6%、労働組合ありの場合は1.4%、労働組合がない場合は2.8%と分かれ ています。  16頁から17頁は具体的な事例の紹介です。裁判例がいくつかあり、17頁の上ですが、 就業規則の変更の合理性が認められた例として、定年を55歳から60歳に延長する代わ りに給与等の減額、特別融資制度の新設等を内容とする労働協約を締結した上で、就業 規則を変更したという内容のものです。これについては「賃金、退職金など労働者にと って重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更につ いては、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容するこ とができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、そ の効力を生ずるものというべきである。右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の 変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更 後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、 労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我 が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである」、「本件就業規則の変 更は、行員の約90パーセントで組織されている組合との交渉、合意を経て労働協約を締 結したものであるから、変更後の就業規則の内容は労使間の利益調整がされた結果とし ての合理的なものであると一応推測することができ」るとされた判決です。  次の裁判例は、多数組合の同意があった就業規則の変更の合理性が否定された例です。 73%が加入する労働組合の同意は得たが、少数組合の同意を得ないままこれを実施し、 就業規則を変更したという事例です。  18頁です。これについて判決は「上告人らの被る前示の不利益性の程度や内容を勘案 すると、賃金面における変更の合理性を判断する際に労組の同意を大きな考慮要素と評 価することは相当ではないというべきである。」、「専任職制度の導入に伴う本件就業規則 等変更は、それによる賃金に対する影響の面からみれば、上告人らのような高年層の行 員に対しては、専ら大きな不利益のみを与えるものであって、他の諸事情を勘案しても、 変更に同意しない上告人らに対しこれを法的に受忍させることもやむを得ない程度の高 度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるということはできない」とされたみち のく銀行事件の判決です。  19頁です。ここ5年間に労働条件の変更を受け入れなければ退職を余儀なくされるこ とを説明した上での労働条件の変更があった企業は3.4%あった。労働組合の有無で言 いますと、労働組合ありの場合は1.6%、なしの場合は3.6%という結果が出てきていま す。  20頁です。前々回の審議会で提出させていただいた事例について紹介しています。21 頁、22頁、23頁については個別労働関係紛争の事例の件数で、これは前回御説明させて いただいたものと同じなので省略させていただきます。  資料No.2の参考資料の説明に移らせていただきます。参考資料1というのは、労働関 係の実態について、前回お出しした資料を、本日の議論の参考のために、再度提出させ ていただいたものです。参考資料2と3が前回長谷川委員の御指摘を受けて作成させて いただいたもので、あっせん事例の詳細なもの、どういう具合にやっているのかという お話を少し御紹介させていただいたものが参考資料2です。  比較的詳しく経緯が把握できたものを4件紹介させていただきますと、採用内定に関 する例で、准看護師として労働者が面接を受けて、採用内定して1か月後に勤務を開始 することとされていた。資格については正看護師・准看護師は関係なく、経験を重視す ると明記されていた。しかし、2週間後に連絡があり、准看護師であるということを理 由に、採用の内定を取り消すということの通知を受けたけれども、労働者としては会社 側の主張する理由は前言と異なり納得できないということで補償を求めたものです。こ れについてはあっせん委員が会社側の主張を確認したところ、会社側は准看護師である ことは内定取消の理由ではない。前職の勤務先に問い合わせた際に、この労働者はまだ 退職していないという回答であったため、トラブルを避けるために採用を見合わせたと いうような主張をしており、ここで内定取消の理由が何だったかというのが、労働者が 不満に持った理由と、会社側が主張している内定取消の理由が異なっていたので、理由 がよくわからなかったということで少し苦労したとのことです。そして、労働者側は会 社側から早急に勤務を開始してほしいと言われたという主張もしているということでし た。  あっせん委員の方は会社側に対してこういうことをしてきたので、補償金について会 社側の意見を聴き、会社側は経済的損害に対して支払いは考えていないが、精神的な損 害に対しては一定額を支払うとの回答をしたというものです。結局、会社が解決金を支 払うということで合意は成立したわけですが、この内定取消の理由がどこにあったのか というのと、どういう場合に内定取消があるのか、できるのかできないのかというとこ ろが、なかなか決められずに苦労したという事例です。  続いては試用期間についての例です。これは採用時に交付された労働条件通知書には 試用期間が3か月というのが明記されていたところ、1か月半後に経費削減を理由とし て解雇されたというものです。この事案の場合、まず、あっせん委員は労働者に対して 解雇の経緯と会社側への要求を確認して、次にあっせん委員は会社側の主張を確認した わけです。会社側は解雇の理由が労働者の勤務状況等ではなくて、会社全体の経費削減 であることを認めた上で、試用期間中の解雇についての裁量権は会社にあると考えてい る、法的な手続は守っているという具合に主張したわけです。  これに対してあっせん委員は会社側に対して経費削減や事業縮小の場合の解雇であっ ても、法律には書いていないのですが、踏むべき解雇の手順があるので、解雇以外の手 段をとることについて検討せず、この労働者一人のみをいきなり指名解雇するのは妥当 ではないということ、そういう整理解雇の際に考慮すべき事項や取るべき手続があると いうことを説明したわけです。その上で会社の都合だけで解雇したものであるから、一 定額の補償が必要であるということを指摘して、労働者が請求した額と同額の支払いを 会社側に提案したところ、会社は納得したということで、こういう手続き等を踏んでい ただくということが紛争の防止につながるのではないかということです。  3番目が配置転換に関する例です。これは親会社から子会社に転籍するにあたり、親 の介護のため通勤時間約10分の支店に勤務するという約束で転籍した労働者が、通勤時 間1時間程度のB支店に異動を通告されたというものです。この場合に会社側の主張を 確認したところ、支店の人心一新、顧客の信頼回復等の転勤の必要性のほか、最初は1 時間半程度の支店転勤を内示したところ、本人はちょっとそれは無理だということで、 通勤1時間程度のB支店勤務を命じたというもので、会社側としても一定の配慮はして いるという主張があったわけですが、この場合どの程度配慮すれば会社側としていいの か、あるいはどういう協議をすればいいのかというのがうまくいかずに紛争になったの ではないかということです。  また、会社側は就業規則には転勤の根拠規定があり、A支店から移動させないという 約束をした事実はないという具合に主張したわけです。個々の点についても当事者間に 配置転換、勤務先の変更に伴う転勤をするのかどうかというところまでは、就業規則を 見ても、あるいは合意の内容について多少不明確な点があって、こういう特約があった のかどうか、労働者側はあったと主張し、会社側はそうでないと主張しているという点 で紛争になっているということの事例です。これは最終的には一旦異動を受け入れて体 調を整えてから転職を検討するというあっせん案で合意が成立したというものです。  3番目は就業規則に関する例です。管理職について、内規によって57歳到達時以降賃 金が減額となる制度があるけれども、これにより賃金を8%減額された労働者が、当該 減額制度が無効なものであるとして、賃金減額分の返還を要求したものです。これは会 社側が制度は20年前に57歳定年を60歳定年に延長した際に制定したものであり、5年 前にも説明を行ったし、内規もあると主張したものです。ただ、この場合にどういう形 で説明したのかどうか、あるいは就業規則によって労働者はそういう労働契約になるの ですよという理解をお互いにしていれば、もう少しスムーズに話がいったのではないか と思うわけですが、そういった主張が、なかなかお互いに噛み合わずに、内規のような ものはあるけれども、というような形で、双方の歩み寄りが見られずに打ち切りになっ たという事例です。  以上が個別のあっせんの事例、具体的にどういうことをやっているかを少し細かく見 たものです。  最後になりますが、参考資料3です。現在、労働契約のそれぞれの場面でどのような 条文があるのかということを御紹介させていただくものです。まず、目次と本文が別綴 じになっていますが、募集・採用の段階では職業安定法、職業安定法施行規則と、ある いはその指針で労働条件の明示と個人情報の取扱いについての条文があります。年齢に 関する機会均等については3頁で、雇用対策法第7条があり、そのほかに指針と高年齢 者の雇用の安定等に関する法律があります。男女の雇用機会均等については4頁です。 男女雇用機会均等法と指針があります。派遣労働者についての雇用の申込み等という形 で6頁、7頁にありますが、派遣労働法があります。採用内定については、大原則の民 法の規定があります。採用内定のルールについては新規学校卒業者の採用に関する指針 が8頁、9頁にあります。労働条件の明示については、10頁、11頁ですが、労働基準法 と労働基準法施行規則があります。有期の方に対する明示に関しては、有期労働契約の 締結、更新及び雇止めに関する基準ということで告示が12頁にあります。また、建設労 働者、派遣労働者、短時間労働者についてはそれぞれ法律と指針が12頁、13頁にあり ます。試用期間については労働基準法の21条と最低賃金法があります。紹介予定派遣と 試用期間については労働者派遣に関する指針等があります。  配置転換については育児休業法とその指針があります。出向、転籍のところは、民法 の一般法があります。人事については再掲の形になりますが、労働基準法と労働基準法 施行規則があります。人事に関する男女の雇用機会均等については男女雇用機会均等法 があります。懲戒、休職については同じ条文が並んでいますが、労働基準法と労働基準 法施行規則にあります。そのほかの労働契約に伴う合意や義務については、あえて言え ば、民法ということになると思います。  個人情報保護法については、最近いろいろ規定が整備されており、職業安定法と職業 安定法の指針、個人情報の保護に関する法律とその関係政省令、あるいはその指針等が あり、ここのところはたくさんあるという状況です。  そのほかの項目として、賠償予定については労働基準法16条、17条に規定があり、 損害賠償責任は民法しかないということです。事業主の責務については労働安全衛生法 にあります。職場環境は指針で、女性の就業に関する配慮については男女雇用機会均等 法が、営業秘密に関しては不正競争防止法があります。そのほか、労働条件の明示、就 業規則、労働条件の設定・変更については一応労働基準法の89条の辺りということです。 労働契約の変更の部分についてはこれも特に労働基準法というよりも、民法のほうに戻 るということです。短時間労働者については短時間労働者の雇用管理の改善等に関する 法律という感じで、何回も同じものが引いてあるところもありますし、場所によって濃 いところと薄いところがあるという状況ですが、御紹介させていただきました。以上で す。 ○西村分科会長 いま事務局から資料の説明をいただいたわけですが、こういう資料に ついてどういったところに、どういうルールが必要なのかという観点を踏まえて、委員 の皆様方から御質問、御意見をお願いしたいと思います。 ○岩出委員 いちばん最後にいただいた条文がまとまった資料の意図というか、確認な のですが、労使協議の話が出ているにもかかわらず、協議に関する条文が一切引用され ていないのですが、具体的に言いますと、例えば労働契約承継法とか、会社法の附則の 問題とか、はたまた今回の改正高齢者安定法の経緯の問題とか、さまざまな協議に触れ た実体法があるのですが、それにあえて触れていないのはどうしてかということが一点。 それから合意に関して、具体的にいうと、裁量労働制の有無と個人同意の問題、労働者 派遣法の同意の問題、これが外れているのはどうしてかということの二つです。 ○大西監督課長 承継法については説明をしなかったのですが、労働契約の承継のとこ ろを今回御紹介するのは、まだ労働契約の終了の検討が始まっていませんので、もしか したら次回かと思いまして、今回は労働契約の承継と労働契約の終了の部分についての 事例や法律については御紹介しなかったという経緯がありますので、御了承いただきた いと思います。次回に御紹介させていただきます。 ○岩出委員 同意ということに関して、同意を明らかに謳っている条文というのが、裁 量労働制の企画型の場合と、派遣労働の場合、個別同意がちょっと書かれています。先 ほど個人情報のことには触れられたのですが、それがあえて入っていないのはどうして ですか。 ○秋山調査官 あえて外したという意図では全然ありませんで、一応前回の御指摘を踏 まえまして、いま労働契約に関して、例えば成立とか変更とか、配置転換など、さまざ まな場面に関して、どういう一般法理があるのかというものを資料として出したらどう かという御指摘をうけまして、一応今回までカバーしている、今回でいいますと労働時 間の設定変更のところまでの範囲で、一応これぐらいが一般法理かなというものを出し ております。もし、各委員から御指摘がありましたら、それは資料として追加でお付け する分には厭いませんので、言っていただければと思います。 ○石塚委員 資料2なのですが、単純な質問です。資料2は労働条件の設定・変更につ いて本体の、今日御説明があった資料の2頁目です。真ん中辺に3とあり、日本労務研 究会「中小企業における就業規則等の労働者への周知に関する調査研究」(平成11年) と。この御説明ですが、これは就業規則があると回答した労働者に限定されていますね。 就業規則があると回答した者であれば、結構高い割合で就業規則に関していろいろ知っ ていますという調査結果が出ているわけですが、同調査で「就業規則があるかないかわ からない」という質問項目がなかったのでしょうか。実は私たちからして、この就業規 則の周知徹底というのは極めて大きな問題になっていて、その辺の情報があれば、就業 規則があるというのは本当でしょうけれども、よくわからないというケースについて、 どのような回答状況になっているのか、いまお手元にあればお教えいただきたいという 質問です。 ○秋山調査官 お答えいたします。この平成11年の日本労務研究会の調査研究ですが、 労働者に対する調査と事業主に対する調査の両方をやっています。ここで3番は労働者 に対する調査で、労働者に対して就業規則があるかどうかを尋ねたもので、ここで紹介 していなくて申し訳ありません。ここで書いたのは84.4%で、その内訳は現在適用の就 業規則があるというのが75.2%、古いものであると答えた方が9.2%、足すと就業規則 があると答えた方が84.4%、わからないと答えた方が11.4%、ないと答えた方が3.6% という就業規則の有無についての調査がありまして、これを受けて就業規則があると答 えられた84.4%の方に、3番で聞いたという流れです。労働者調査の回答は1,889人で、 事業所の回答数は1,648です。 ○石塚委員 関連して平成11年以降、新しい調査はされていますか。 ○大西監督課長 行っていません。 ○田島委員 ここに出ているデータではないのですが、いわゆる労働基準法がこの間、 ずっと変わってきていますね。法律が変わって、就業規則もきちんと変えられているか どうかを監督署がきちんと点検をしているのかどうか、あるいは20年前に出た、10年 前に出た就業規則がそのままで放置されている割合というのは分かりますか。就業規則 をきちんと監督署が点検できているのかどうか、基準法の変遷に合わせて監督署が点検 をしているかどうか、これらの点についてどうなっているか、教えてください。 ○大西監督課長 全体の割合というのはなかなか把握は難しいわけですが、当然就業規 則が労働関係法令の改正に伴って変更が必要となれば、その変更の周知をして、集団的 に指導をして就業規則の変更をお願いするわけですし、就業規則の作成義務がある事業 場に対しては、臨検監督を行った場合には、就業規則が現在の法制度に沿っているもの ではないことがわかれば、当然その場で労働基準監督官は、その指導を行い、周知徹底 を図っているという状況です。一応労働基準法89条違反という就業規則を変更していな かったことで、平成16年に定期監督で違反をした件数は、約1万7,700件程度というこ とです。 ○田島委員 何件中ですか。 ○大西監督課長 臨検監督した件数は12万2,700件ぐらいです。 ○田島委員 高い率ですね。 ○大西監督課長 高い比率かどうかというのは、これだけの数字で高い低いというのは 断定しにくい面がありますが、基本的には臨検監督に行く場合には、少し問題とは言わ ないまでも、全く大丈夫な所よりは、少し違反の可能性が高い所に行っていますので、 そういうような形で通常の平均的なものよりは、多少高めに違反が出る傾向にあるとい うことを御承知いただければと思います。 ○新田委員 同じようなところですが、12頁の13で、行政官庁への届け出に際しての 意見聴取の状況で、労働組合ありで5.2%、なしで16.9%が特に意見を聴かなかったと いう調査が出ているわけですが、こういう場合にも届けられているわけですね。それで 聴いていないということがわかったときには、どのように対応されるのですか。 ○大西監督課長 労働基準監督署は届け出に来た方に、当然就業規則を見て、意見が付 いていなければ、意見を聴いたのですかと言って聞いて、意見を聴いていなければ原則 として意見を聴いてくださいと言って、もう一回お願いしますというような形で、窓口 では対応しているのが原則であると聞いています。 ○新田委員 意見を聴いた証はどう取るのですか。もう一遍持ってくるわけですね。持 ってこないと届け出られないわけですね。 ○大西監督課長 持ってくるということになりますね。 ○田代主任監察官 その点について補足してお話します。いま課長がお話したような形 で、実務的には進んでおります。返戻した場合には、当然またしかるべき時期に意見を 聴いていただいて、意見書を添付していただいて確認を必ずするようにしております。 調査のほうはその辺が必ずしも監督署との関係でリンクした形にはなっていないと思い ます。監督署の実務ではいまお話したような形で受理業務を進めているということにな ります。 ○新田委員 労働組合の有無は別にしても、届け出られたときに意見を聴いていないと いうのは、監督署のほうでは数値としてもこんなものですか。それはとっていないので すか。実質的にはどうなのですか。 ○田代主任監察官 別に監督署では統計を取っておりませんで、個別に届けられたもの に対して、個別にいまお話したような形で指導という形で進めています。したがって、 必ずしも届け出られたうちの何パーセントに意見書の添付がなかったということは、い まのところ判然とはしていません。 ○新田委員 一回戻されて、持ってこなかったケースはあるのですか。 ○田代主任監察官 そこまではちょっと確認はしていません。基本的に就業規則を一応 署のほうで受理する場合には事業場名を含めて確認はしていますので、当然提出の確認 ということはやっていると考えています。 ○西村分科会長 12頁の13番のケースですが、過半数組合の意見を聴いたのが10.4% という、これは過半数組合があるにもかかわらず、もちろんこれだけだというわけでは ないのでしょうね。 ○大西監督課長 これは合計で両方足したもので、ある場合、ない場合の合計したもの でこのような形になっています。  すみません、過半数組合ではなくて、労働組合がある場合とない場合の合計で、その ような形になっています。 ○西村分科会長 組合があるかないかはこれではわからないのですね。 ○大西監督課長 このグラフではわからないわけです。 ○岩出委員 いま現在の判例を眺めますと、当初は労使協定、三六協定とか、あるいは 就業規則の意見聴取という一回きりの形だったものが、先ほど申し上げましたように労 働契約承継法のときの協議とか、あるいは高齢者安定法の協議が整えられたときは云々 とか、という実体法的な規定も整えられてきた。いま出た就業規則の不利益変更の場合 の協議、あるいは整理解雇の場合の協議についても、少し整理していただいたほうがい いと思うのです。あるいは通達の中で個人情報保護法の管理指針に出ている協議、その 他諸々あると思いますので、そのようなものを整理していただくと、現在一回きりの意 見聴取か何かで済まない実質的な議論を、少ししなければならないというものの実体法 上の例も多々あると思うので、ここで一回整理をしていただくと論点の整理になると思 うので、お願いしたいと思います。 ○大西監督課長 次回までに整理させていただきたいと思います。 ○新田委員 資料2の判例を見ていて、昭和43年の最高裁判例の秋北バスの判決の要旨 が合理的なものであれば、個々の同意がなくても適用を拒否することは許されないと出 ている。第四銀行の判決では行員の90%を組織する組合と合意しているので合理的なも のとして一応推測することができると根拠付けされている。また、みちのく銀行の判決 では行員の73%を組織する組合の同意を得たのだけれども、少数組合をおいてけぼりに したうえ、特に著しい不利益だからこれは無理なのだと、合理的な内容のものであると いうことはできないという判決が出ているということなのですね。  このように就業規則が労働契約なのだということを言われているわけですが、こうい う経過がある。法律の専門家の先生方にお伺いしたいのですが、就業規則のこのような 判断の分かれ目とかについて、どのような議論が学界ではあるのでしょうか。私たち労 働組合側としては、きちんと合意したものだとなっていればこそだと思うのですが、ど のように受け取っていけばいいのか、ここが大きなポイントではないかと考えています。 労働契約という意味合いにおいても、周知もされていない、合意もしていない就業規則 を持っているところもあるようなケースも出ていて、引き返させるというのがあります が、どのような議論がされているのかお伺いしたいのですが。 ○荒木委員 まず就業規則というのは何なのかというのが問題になりますが、基本的に 現行の労働基準法では過半数代表の意見聴取をしなさいということは決まっていますか ら、意見を聴かないといけません。しかし、意見を聴いたところ、過半数代表、これは 組合の場合もありますし、ない場合は過半数を代表する者ですが、これが内容に反対で あるという意見を聴いても、それでもう意見聴取をしたことにはなります。過半数代表 は反対であるという意見聴取の結果を添えて、監督署に持って行けば、それで適法に受 理されるということになります。したがって、就業規則の内容については、究極的にい うと使用者のほうで一方的に作ることができる。それは手続的に過半数代表の意見を聴 くということにとどまっているというわけです。したがって、そういう就業規則がどう やって労働契約の内容になるのかについては大変な議論があり、個々に労働者が同意し た場合だけ契約内容になるという古典的な考え方と、就業規則というのは労働基準法93 条などで最低基準としての特殊な効力を与えられているのだから、これは法規、法律と 同じような効力を持っているので、個人が同意したと否とにかかわらず適用されるのだ と、大きく契約説と法規説の対立があります。これは収束していなかったのですが、そ の中で出たのが先ほど言及された昭和43年の秋北バス事件の最高裁大法廷判決だった わけです。その中で、必ずしも労働者が具体的に同意を与えていなくても、その就業規 則の内容が合理的なものであれば拘束されるということをまず言いました。これは、知 っていると否とにかかわらずという感じで拘束されるということです。  それともう一つ言ったのは、就業規則を不利益に変更して労働条件を変えるという場 合にも拘束されるのかという問題があって、それについても就業規則の変更によって、 不利益な労働を一方的に課することは原則として許されないと解すべきであるけれども、 労働条件の集合的処理、特に統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質から いって、当該規則条項は合理的なものである限り、個々の労働者においてこれに同意し ないことを理由として適用を拒否することは許されない。すなわち、就業規則変更が合 理的なものであれば、反対する労働者も拘束されるという法理を、この大法廷判決が立 てたということになります。  したがって、現在、これは何度も確認されている最高裁判決ですが、就業規則の変更 が合理的なものであれば拘束力をもつというのが、判例法上確立しております。もちろ んこれについては、理論的にはおかしいという批判もなおございますが、これはもう、 最高裁で繰り返し確認されたルールということで、むしろこれを知らずに実務を動かし ていくと、かえって混乱すると言ってもいいように、確立したルールになっていると思 います。  そういう状況を、まさにこれから、労働契約を考える場合に、そういう確立したルー ルがあるのであれば、それはきちんとした形で明示したほうがよいのではないかという ふうに議論が発展するのかなと私どもは考えておりますが、現状は、就業規則と契約の 関係については、そういうルールが確立しているという状況だろうと理解しております。 ○田島委員 いまのに関連して、就業規則そのものは従業員の過半数代表や多数派組合 が反対しても、法律に反していなければ、受理するし、有効性をもっている。結果的に は、やはり経営者のほうに専権的な決定権がありますよということなのですが、諸外国 の場合に、そういう形で一つの一定のルールなり労働契約で、経営者側が専権的にでき ますよという国などあるのですか。ヨーロッパなどはどうなのですか。  実は、やはり基本的には労働協約があるべきだろうと思いますが、労働協約を結んで いる所が少ないという問題、あと、監督署では、例えば労働基準法に反しているか反し ていないかは点検するけれども、ではそこの当該労使の労働協約に反しているか反して いないかという点検もして受理しているのか、していないのかということを、併せてお 聞きしたいのです。  あと、そういう契約にかかわる事項が、経営者側が専権的に決定権をもちますよとい うことについて、ほかの国はどうなっているのですか。そういうものがあるのですか。 ○荒木委員 日本のような、使用者が一方的に作成変更する就業規則に、ただちに拘束 力を認めるような国はほとんどないと思います。しかしその場合、どう処理しているか というと、それは契約で合意しなければいけないという原則に戻るのですが、その場合 に、経営状況が厳しくて、契約内容を変更しなければいけない場合には、合意しない労 働者は整理解雇することができる。そういう処理、すなわち解雇問題として処理してい る国がほとんどだと思います。  そういう経営状況が厳しい場合の整理解雇については、これは人によって評価が分か れますが、私などは日本のほうが整理解雇は厳しく、アメリカはもちろん自由にできま すが、ヨーロッパでも、整理解雇は日本よりも緩やかになされていると理解しておりま す。すなわち、日本のこの就業規則法理というのは、確かに合意しないのになぜ拘束さ れるのかというのは、契約行為としておかしいと言われますが、日本の最高裁などは、 ではこの問題に合意しなかった場合には、それでは整理解雇を認めるという方向で処理 したほうがいいだろうか。それとも、いや、大部分のところはこういう現状でいいけれ ども、この労働条件を変えたほうがいいということで就業規則を変えた。それについて 反対するということを理由に解雇を認めるというのは、かえって労働者にとって適切な 処理ではない。むしろ合理的な変更であれば、雇用関係を維持したまま、雇用関係をむ しろ存続させる。解雇の問題にせずに合理性があれば拘束力を認めるということで処理 するのが、雇用システムの安定のためにはよいと、おそらくそう考えられたのではない か。  言い換えますと、契約の原則に反しているようなのですが、それは、片方で将来の労 働条件について合意ができなければ、長期的な契約はいつでも解約できる。これが契約 のもう一つの大原則です。ところが、そちらのほうを解雇権濫用法理で縛っている。そ のために、合理的に調整する必要が生じた。そのために最高裁はこういうルールをつく ったのではないかと考えております。 ○尾形氏(渡邊佳英委員代理) 就業規則を事業所ごとに届けるということについて、 一言申し上げたいと思って手を挙げたのですが、就業規則は、御承知のように事業所ご とにそれを管轄する監督署に届け出なさいというルールになっています。それは、ちょ っと無駄なことをしているのではないかという感じがしております。  こう申し上げますと、何を言っているのだと言われる方もおられるかもしれませんが、 当然、その仕事の内容とか待遇の条件が違えば、事業所ごとにそのルールが必要なのは よくわかります。しかしながら、同じルールで、同じ就業規則でいろいろな事業所を一 括して管理しているという所では、それを管轄する監督署に、同じ就業規則を、それこ そ事業所が多い企業になると、1,000を超えるような事業所に届け出なければならない。 そういう会社もございます。  もちろん、その前提条件として、各事業所ごとに従業員の、あるいは労働者の意見を 聴取する、あるいは同意を得る。そういうことは当然必要、また周知徹底するというこ とは重要なことではありますが、その届出というその一点で、法律違反であると一方的 に言われることに対して、それはちょっと困るなと考えている企業はたくさんあると思 うのです。ですから、届出という一つの行為は、当然、例えば本社を管轄するような事 業所で統一して届け出る。それが応用できる就業規則であるなら、それを備え置く、そ の各事業所に備え置くということでも十分対応できるのではないかと思います。  話は少し広がってしまいますが、就業規則はとても大切なものですし、周知徹底した り、意見を聴くというのは大切なことですが、企業側からすると、必ずしもそれだけで 済むとは思ってはおりませんで、例えば過半数代表の意見を聴きました。それだけでは 足りないと思ったときには、全員を集めて話をする。あるいはそれ以上に、個別に呼ん で、個別にどうかという話をするところまで踏み込んでやっております。そういうふう にしなければ、コミュニケーションがとれないと考えて行っている会社は多々あると思 います。  それを法律で縛ろうとするときは、どうしても届出というような文書の形でしか表現 できない。必要最低限のところということで、そういう表現にしかならない。しかもそ れで、届け出なかったという一点でもって、法律違反ですべてが御破算になってしまう ようなスタイルというのは、いまの運用ではちょっと辛いなということを、常日頃思っ ておりました。先ほど、届出のお話がありました。会社、企業の立場で申し上げさせて いただきました。 ○田代主任監察官 先ほどの御質問にございました、署に就業規則が提出された場合ど んな具合にチェックをしているのかという点についてお答えしますが、法令にも書いて あるとおり、就業規則を届け出なければならないとあり、労働協約を添付するというこ とは、必ずしも法定の要件にはなっておりません。したがって、その就業規則をまず原 則的には、労働基準法をはじめ各種法令の書き方とチェックをして、問題があれば改善 していただく。場合によると返戻をして、改めてお出しいただく。こういった指導もし ております。  ただ、一方労働基準法の92条には、就業規則は法令あるいは労働協約に反してはなら ないということもありますので、この辺については通常、説明会とか、私どもでいう集 団指導とか、そのような形の場で、労働基準法の説明を行う場合に、折に触れ、こうい った趣旨も説明をし、徹底を図っておりますので、労働協約との関係で申し上げますと、 そういう形で基準法の考え方を周知していることになろうかと思います。 ○大西監督課長 就業規則の届出に関しては、現在でも法律には書いておりませんが、 通達等で一括届出というような形の制度もございますので、そういうものを利用してい ただくと、一括で届け出ればいいということになりますので、企業の負担は相当程度軽 減できると思います。現行の制度にも利用可能な制度がございますので、その方面も御 利用していただきたいということではないかと思います。  それともう一つ、届け出なかっただけで法律違反になるとの御指摘がございましたが、 実際に、就業規則の場合、事業主の方が作成して労働者の意見を聞いていただいて、そ れを形にしてもらって、そのほかいろいろ、事実上の御納得いただくような、紛争予防 のための諸々の手続をしていただいているわけですが、それを監督署としてどの程度見 させていただくかというようなことを考えると、それを1から10まで全部見るというの は、とても現実的ではないわけで、やはり一連の流れの中のどこかのポイントを押さえ て、ここはちゃんとやっていれば、あとのところは大丈夫なんでしょうねというような 形で、届出ということで、最後のところで示させていただいているということで御理解 いただければと思います。全部見ていくとか、そういう話になると、それはとてもでき ない話ですので、そういう、法律事象のいろいろなプロセスのうちの一部で押さえさせ ていただいているということでございます。  ただ、いまの御意見については、またこれからの御審議の中で、いろいろ発展的に御 議論いただければ大変ありがたいことと思っております。 ○石塚委員 一つ前に戻るのですが、この資料について、先生の御意見をお聞きしたい のですが、秋北バス事件という有名な判決があって、先ほどの御説明では、個別労働者 の合意がなくても、それが合理的なものである限りにおいては拘束するという、趣旨は そういうことだと承っておりますが、個別の合意がなくてもという前に、むしろ就業規 則が労働契約たり得るというときに、その事業所内において、労働条件というものがそ もそも就業規則に拠るという慣行が成立しているというのがあって、それで、合理的な 就業規則がある場合については、それが個別労働者を拘束するというふうに私どもは解 釈しているのです。就業規則と労働契約の中身について、この事業所においては就業規 則が労働条件を決定するという慣行が事実としてあるというのが前提条件だと思ってい ますが、そういう解釈でよいのかどうか。それともむしろ、いまの解釈は、そこから外 れてしまって、合理性だけでも解釈を進めているのかどうか、これが質問の一つです。  もう一つは、その合理性をめぐってですが、当然合理性というのは時代時代に応じて 揺れ動いていくものだろうと思いますが、とりわけ最後のほうに出てくる、第四銀行事 件と、みちのく銀行事件で、この合理性をめぐっての要件は同じことは言っているので しょうけれども、解釈は全く別の判決になっていますね。それで、新しい順番からいく と、第四銀行のほうが古くて、みちのく銀行のほうが新しい年次になっているのですが、 この辺の合理性をめぐる判断基準というものが、要素としては列挙されているけれども、 どのように変わってきてしまったのか。その点について、いま学説上から見たときに、 どういう御見解をおもちになっていらっしゃるか、お聞かせいただければありがたいと 思います。 ○荒木委員 就業規則によるというのが事実たる慣習になっているというのが前提では ないかということですが、そのように書いてありますが、この「事実たる慣習」という のは、当該企業内においてそういうことになっているという趣旨ではなくて、日本社会 全体において就業規則を契約の内容とするというような、黙っていれば就業規則の内容 を契約の内容とする、そういう慣行が成立している。そういう趣旨ではないかと理解し ております。  それから第四銀行とみちのく銀行の関係、御質問の趣旨は、とりわけ多数組合の合意 がある場合に、第四銀行のほうはそれを尊重したような判断をし、みちのく銀行のほう はあまりそれを重視すべきではないと言っている。そこで矛盾しているのではないか、 そういう質問ではないかと思いますが、これも学説は分かれております。これは矛盾し ているという考え方をとられる学者もおられますが、いや矛盾はしていないという考え 方も有力であると理解しております。  と申しますのは、一つにはみちのく銀行のほうは、ここにも引用してありましたが、 18頁の上から10行目くらいでしょうか。「しかし上告人(労働者)らの被る前示の不利 益性の程度や内容を勘案すると、非常に大きな不利益がある」ということを言っている のです。その不利益の非常な大きさから、「もはや合理性を推測できない」と言ったにす ぎないのではないかという解釈。  もう一つは、「専ら大きな不利益のみを特定の高年層に与える」という点に着目して、 要するにこれは、多数がこれでいいだろうという多数決原理のような考え方が妥当しな いような、つまり多数が得をするけれども、少数の者に皺寄せをしている。そういう場 合には多数で決めてもいいということでは多数決の横暴ということになりますので、そ ういう特殊な事例だったのではないか。それを除けば、基本的に、将来の労働条件をど う決めるかというので、多数が合意したところであれば、その内容は合理性があるので はないかという、第四銀行の示した考え方自体は、否定されていることにはならないの ではないか。そういった理解をする学者も少なくないと理解しております。 ○西村分科会長 使用者側の方はいかがですか。こういう判例について、どうご覧にな っていますか。 ○田島委員 みちのく銀行の場合には、少数組合というのがございますね。少数組合と の合意ができなかったことは、裁判所の判断に大きく影響したのでしょうか。 ○荒木委員 少数組合はもちろん、組合として独自の団体交渉権をもっておりますので、 少数組合の団体交渉権、これは完全に尊重されることになります。しかし、ここで議論 しておりますのは、実際には少数組合と団体交渉したけれども、そこで不誠実団交とい うことではなくて、団交を尽くして決裂したという場合、そういう場合に企業としては、 統一的に事業場全体の労働条件を変更する必要がある。そこで多数組合の合意した協約 に従って就業規則の内容も変更する。これが多くのパターンですが、そういう場合には、 多数組合の合意から、就業規則内の合理性を推測する。そういう考え方を示したのが第 四銀行ではないかと考えております。  仮に少数組合が独自に団体交渉をして、就業規則と異なる協約を結んだとすると、当 然その少数組合との協約は就業規則に優越することになる。これは92条の結果、そうい うことになるということだと思います。 ○尾形氏(渡邊佳英委員代理) どうしても形といいますか、結果だけに捉われますと、 多数の組合の合意を得ればOKだとか、あるいはそれが否定されたという、形だけで見 ると全く極端な例なのかもしれませんが、この後半の例でいうと、実際に不利益を被る 人たち、そういう少数のグループに対してきちっと話合いなり合意を得るような行動が、 この企業の場合にはとられていなかったのかなという印象を受けます。  例えば、管理職のほう、企業の場合には、非組合員のほうに不利益なことが起こるよ うな制度変更をするようなケースもあります。その場合には当然のことながら、その組 合の合意を得て就業規則を変えましたというだけではなくて、その人たちに説明する義 務、説明責任はありますし、そこで、もしその人たちに向かって説明した上で合意を得 られなければ、また個別にというような、いくつものコミュニケーションをとる方法は あったと思うのです。そういうものがここにはきっと欠落していて、それによって裁判 官は合理的な判定をしたのだろうと思いますが、形としては、過半数組合がどうのとい うところで、正反対の結論になったかもしれませんけれども、中身はよく考えてみると、 コミュニケーション不足だったのだろうというところで、決して整合性がない話ではな いと私は思っております。 ○岩出委員 みちのく銀行事件と第四銀行事件の差というのは、いろいろ議論があると か、そういうことで、結果的には、いまおっしゃったように、ある階層の利益が反映さ れていないということが起こっていることは事実だと思うのです。例えばパートタイマ ーに関しては、パートタイマーの就業規則の場合に、望ましい事項として、努力義務と して、意見の調整というのが出ていると思うのですが、それと同じような発想で、いま の体制だと、過半数代表というのは管理監督者から出ないわけですね。管理監督者層の 利益を代表する方がいないわけです。そこにまた矛盾があると思うのです。その意見を 何らか反映させるようなものを制度として、少なくとも何らかの努力義務を、最低限設 けないと、同じようなことが繰り返されてしまうという気がしております。  ですから、労使委員会の発想にしても過半数代表の発想にしても、いまのところは、 その管理監督者層が排除された形で、彼らの利益を反映するものがない。実際に運用で やっているとおっしゃいましたが、それをもっと制度化する努力も必要ではないかと思 っております。意見です。 ○田島委員 全く別のところで、12頁から13頁の、過半数代表者の選出についてです が、これは本当に、職場の代表者を民主的に、あるいは公平公正に選ばれたのかという と、13頁の上の表でいうと、例えば事業主が指名が13.1%もあります。それから、選挙 は16.9%で、それ以外はほとんどが、信任とか慣行とかという形で、本当に公平に選ば れているなと感じるのは、極めて少ない。その選挙も、13頁の真ん中辺ですと、無記名 が本来あるべき姿だろうと思いますが、記名とか挙手だとか、やはり管理監督者なり管 理職も含めた中で選出すると、どうしてもそちらに配慮した挙手になってしまいます。 私どもの組合でも、やはり従業員代表の選挙のときに、会社側の代表と争った経過もあ るのですが、こういう過半数代表者の信任の中で、いまの形でいいのかどうか。この点 については、本当に、例えば労働組合の役員を選ぶ場合には、事業主が介入したら不当 労働行為に当たりますが、こういう労働契約、あるいは就業規則、ルールにかかわる事 項の、過半数代表者の選び方で、こういう現実について、厚労省はどういう見方をして いるのか。これが一点です。  もう一つは、労働相談で来られた方に、「では就業規則はありますか」と尋ねると、「そ れはわかりません」、あるいは「見たことはありません」と答える例が多いのです。もう 一つには、では届出があって、その人が選ばれたというのが、みんなに本当に過半数代 表者として周知されているのか。誰が代表だかわかりませんという例も多いのです。  そういう意味では、「誰が代表になっているかということがきちっとわかっています か」というような調査があれば教えてください。多分ないだろうと思うのですが、そう いう事例が意外と多いのです。したがって、過半数代表者の選び方の問題、あるいはそ の人がやっている重い任務があるにもかかわらず、あまりにも明確ではないなという気 がするのですが、その点について、いかがでしょうか。 ○大西監督課長 過半数代表者の選任方法については、御指摘のとおり、労働基準法施 行規則の6条の2のところに規定があるのみで、そのほかの部分については、現状では このような形になっているということでございます。  それで、それがいいのかどうかは、私どもがお答えしてもいいのかもしれませんが、 まさにこの場で、それをいいと考えるのか、あるいは何かしなければいけないのかとい うのは、私どもとしてはこういう資料をお出しして、是非御議論いただければありがた いと考えております。  後半の調査については、いまの時点ではないのですが、あるかどうか、さらに引き続 き勉強させていただいて、また後ほど御報告させていただきたいと思います。 ○奥谷委員 最近は組合のない会社がかなり多くなってきていると思うのです。ですか らそういった意味で、組合の、代表の選び方をどうしろこうしろなどということは、か えって必要ないのではないでしょうか。むしろそこの会社の人たちが考えればいいこと であって、組合をつくらないという会社というのは、これからもかなり増えてくると思 いますし。だから、あえてそういうことを決める必要性というのはないのではないかと 思います。 ○紀陸委員 繰り返しになりますが、私どもは旧来から、労使協議の要請ということを 言ってまいりまして、いま田島さんから、過半数代表の選び方にいろいろ問題ありとい う御指摘もございましたが、この5頁の表ですね。組合がなくても、何らかの従業員代 表の組織があるということですよね、これは。  いずれにせよ、組合のあるなしにかかわらず、日本の場合、労使協議のシステムとい うのはかなり円滑に機能している。特に中堅中小においてはですね。しかも協議の事項 は、かなり広範にわたっているということが、日本のこの労使協議の特徴だと思うので す。これは6頁の表に出ていると思うのですが、選出の仕方だとか協議の内容をどうす るかとか、その他いろいろな運用の点について、論議はあるかと思うのですが。会社の 中でこの協議のシステムがうまく回っていないと、一般の従業員の人たちも、関心がな いわけですね。  しかし、ある程度そういう形ができて、何か機能しているなというと、ではその運用 にみんなが関心をもって、選任の方法とか話の内容をどうするかとかということが徐々 に改善してくるとか、そういう経緯が実際だと思うのです。  だから、何らかの労使の間のコミュニケーションのパイプがあったほうが、このいろ いろな規則の改定とかという問題だけでなく、企業経営全般にかかわる点で、お互いに メリットがある場合がたくさんあるのだと思うのです。そういう意味で私どもは、何ら かの形で、できるだけ会社の労務構成とか仕事の内容とかによって、どういう協議の仕 組みをつくるか、全く自由にしてやっていったほうが、現実に時間はかかるかもしれな いけれども、経営者の意識も変わるし、従業員の方々の意識も変わるというようなこと を、従来から申し上げていまして、特に私どもは、各県、経営者協会がございますから、 そういうところを通じて、いろいろな形でPR活動をしてきているつもりです。  ただ、それがなかなか口で言うほど簡単に進まないのですが、でも、といって駄目だ からというようなことですと、なかなか実際に増えていかないのです。だから、問題が あっても、少しずつそれを改善していくという方向で、コミュニケーションのパイプを 太らせていく。そういうことが必要だというふうに考えておりまして、本当の意味でそ れが形になるには、ちょっと時間がかかるかもしれませんが、私どもの基本的な考え方 はそうなのです。 ○廣見委員 いま就業規則の問題について、特に意見聴取あるいは届出の問題も出まし たし、あるいは内容の合理性をどのように受け止めるかというお話も出ているわけです が、私は、就業規則というのは、これは誰も異論がないところだと思いますが、極めて 重要なものである。したがって、この論点の整理というのはこの場でもきっちりする必 要があると、基本的には考えています。  現段階、基準法を中心に、就業規則をめぐる既成の条文というのはごく少ないわけで す。そういう状況から考えてみると、二つ側面があって、一つは手続的な面と就業規則 の効力をどのようにかかわらしめていくかという視点と、就業規則の内容の合理性をど のように透明性の高い、みんながわかり得るルールというものをはっきりさせていくか。 この二つが重要なのではないかという気がしております。  手続的な面では、届出をどのようにしていくか。届出と、例えば行政官庁への届出、 具体的には監督署への届出と、効力要件をどのように考えるかという問題もありますし、 またもう一つの重要な問題としては、やはり何といっても意見の聴取の問題があるだろ うと思っています。就業規則は基本的には使用者側が一方的に作るものというのが基本 であるわけですが、これに対して労働者側がどの程度この内容に意見を反映させていけ るのか。これは極めて重要なポイントであるだろうという気がしています。  したがって、そういう観点から、あるいはそういう視点から現状を見ると、今日の御 説明の資料でも、やはりそこには過半数代表制といわれるいまのシステム、これも必ず しも十分に機能しているかどうかということになると不十分なものがあると、私は見て いるわけですが、そういうふうに見てみると、過半数代表を中心として、どういう形で それを考えればいいのか。これは一つのポイントであるだろうという気がしております。  先ほど来、岩出委員のほうからも、いろいろ労使協議を規定した規則その他の諸規定 といいますか、それも出していただいてという要求もありますが、そういうものも含め てみながら、やはりこの労働者側の意見なり考えなり、そういうものをどのように反映 させていくべきなのか。どの程度、それをどういうふうに仕組んだらいいのか。  もちろん、使用者側のいまの意見ですと、基本的には自由がいいのではないかという 御意見も表明されているわけですが、しかしそれで本当にいいのだろうかということか ら、やはりこの労使の協議、労働者側の意見の反映、その仕組み、そういったようなも のも大きな論点としてここで議論をし、整理すべきではないのだろうか。それは手続と 就業規則の内容にかかわる極めて重要なポイントなのではないかという感じがしており ます。 ○岩出委員 関連してです。先ほどから出ている労使協議会における過半数代表、ある いは労使委員会といった基本制度を促進する前提で議論させていただきますが、前々回 に渡辺委員からも出ていましたように、例えば現在、労基法施行規則第6条の2第3項 とか、あるいは同規則第24条の2の4第6項、つまり過半数代表者の不利益取扱禁止と か、労使委員会の委員の不利益取扱禁止とか、そういうものが担保されないとですね、 というか、法律化するとか、罰則もないわけですから、そういうものが担保されること で、実のあるというか、労使一致で労使委員会とか労使協議会とか、そういうものに任 せていくことが可能となる。規制緩和というのは、それ自体は間違っていないと思いま す。その代わり、一定の民主的な手続で選ばれて、実のある、労使対等の協議がなされ る必要がある。それを担保するための制度として、不利益取扱禁止等の制度は、もっと 精緻化するというか、実効性あるものにしていくということは必要ではないかと思うの です。それを前提にして、はじめて労使委員会そのものが成り立ってくるのではないか と思っております。意見ですけれども。 ○尾形氏(渡邊佳英委員代理) 確かに個々の一人一人の労働者、弱い立場の人たちを 守るという意味で、いろいろな規制を加えようということは必要なことかもしれません し、また、先ほど言いましたような過半数代表だけでは少数の利益が損なわれるケース もあるかもしれません。  一つ考えていただきたいのは、いろいろな規制を加えることによって、企業活動の活 力が失われないように、是非そういうルールづくりをしていただきたいということです。 どうしても法律は、つくろうとしてつくると、本来意図したものと違って、形にこだわ るのです。あるいは手続にこだわることが多くなってくるわけです。その手続とか規制 を、弱い労働者を守るためというその一点で、こと細かにやっていくと、先ほど言いま した、企業としての活力がどんどん失われていく。あるいは煩雑な手続にエネルギーが 注がれるということが起きてきますので、そことのバランスを是非とも考えていただき たい。  私などは、10年以上、人事労務関係の仕事をしてきたのですが、社内でルールづくり をするときは、なるべく簡素化したもの、わかりやすいもの、誰でも読んだらパッと見 れるようなもの、そういう言葉遣いとか、そういうふうに心がけてまいりました。  それで、あとはそこで先ほど言いましたようなコミュニケーション、そのルールで外 れたところはコミュニケーションをとりながら、運用でやってまいりました。それで一 度も、いわゆる労使紛争というようなものも起こらないで過ごしてきましたし、そうい う意味では、不自由を感じておりません。いまのルール、基準法で不自由というものを 感じておりません。  したがって、そうは言っても、何か個別紛争がだんだん多くなってきて、ルールづく りをしてというような方向でいまお話が進められていると思いますが、できるだけ簡素 化したもの、わかりやすいもので、手続はできるだけ必要最低限のところで押さえてい ただきたいということを申し上げたいと思います。よろしくお願いします。 ○原川委員 中小企業の現状について数字を挙げて申し上げたいのですが、いま資料2 で、3頁の労使協議機関の設置状況というところで、50人未満の設定されている、ある いは設定されていないが必要があるという回答が、大体37%くらいありますが、中小企 業の現在の数は、468万9,609、これは中小企業庁の白書に掲載されている数字で、事業 所企業統計調査を再編加工したものということですが、約470万あって、全体では470 万3,039、我が国にはこれだけの企業があるわけですが、その99.7%を中小企業が占め ている。  さらに見ますと、そのうちの小規模企業というのがあって、その小規模企業というの は、常用従業員が20人以下、それで卸とか小売・飲食店・サービス業、これは5人以下 という定義がなされておりますが、この小規模企業といわれるものが約410万ございま す。これは我が国全体の企業に占める割合は87.2%という数に上っております。  これが、いま言いましたような常用従業員が、例えば製造業等でいいますと20人以下、 あるいは卸・小売・飲食店・サービス業でいくと5人以下というような、そういう小規 模な企業がたくさんあり、大部分を占めているということです。  先ほど紀陸委員から、労使協議機関の話が出ましたが、私も、形式にこだわるという よりも、現在の状況を見れば、この3頁のような50人未満の所は、比率が低いという状 況ですし、なかなかそういう労使協議の場というものが促進されていない。普及の努力 はしているけれども、なかなかそういう効果が出ていない。これは、いま申し上げたよ うな現実、小規模企業が大部分を占めているということ、その組織は非常に脆弱ですし、 マンパワーも少ないというようなこともございます。そういったことが実情だというこ とを念頭に置く必要があると思います。労使が話し合う場を設けることが、まずもって 重要なのではないかと思うわけです。  したがって、労使委員会というような形式にこだわらずに、もう少し現実的に機能す るようないろいろな選択肢、紀陸委員もおっしゃいましたが、いろいろな選択肢を揃え て、そういう労使の話合いの場というものが促進されるように、そういう考え方でいく 必要があるのではないかと考えます。 ○田島委員 いまの中小企業ですが、例えば現行の法令がどうなっているのか、あるい は判例が中小企業の経営者にどれだけ理解されているかについて、確か、ちょっと古く なるかもしれませんが、京大の村中先生の研究室が、関西の中小企業者に対して調査を したデータがあると聞いています。是非、いま現実的あるいは形式的とおっしゃいまし たが、では中小企業の経営者の人たちが、どれだけ法令なり判例なりを理解しているの かというデータがあれば、次回で結構ですから、出していただきたいと思います。  現実問題として、そういう法令さえ、なかなか理解されていないよという中で、現実 的対応がされてしまうと、また困るよなという思いがしていますので。 ○新田委員 いくつかの話も出たのですが、労働契約ですから、労使対等というものを どうつくり上げていくのかということが、やはり大原則として担保されていなければい けないのではないか。そのときに、田島委員も言ったのですが、これがいちばん大事な 問題で、その場をどのように民主的につくり上げていくのかということだと思うのです。 不当労働行為とか、さまざまな問題がありますが、そういうことは何で起こるかという と、やはり基本的に対等なところを損なうような行為があるからだというふうに考える のです。そのことを、どういうふうに無くしていくのか。これは意識の問題もありまし ょうけれども、枠組みとしてきちんと決めていかないと、やはり無理だろうという思い を大変強くもっています。これは私の意見です。  そういう意味で、より民主的にといいますか、要するに働く者の意見をどう代表して 反映していけるのかということを、どう担保できるのかということが、やはり何かにつ けていちばん基本にある。  だからいまお話しされているようなケースの方々であれば心配はないのだろうと思い ますし、各企業で自由にやっていけるのがいちばんいいのだと思いますが、それだけで は済まないからこういう議論というか、揉めごとがたくさんあるわけです。そこのとこ ろをもう一度きちんと確認し合った上でつくり上げていく。同じことを言いますが、そ のことができないと駄目ではないかと考えます。 ○奥谷委員 いまの労使対等という意味で、多分これは対等になっているということだ と思うのです。先ほど労働者は弱いものだとおっしゃっていましたが、別に労働者は決 して弱いものではないと思いますし。ですから、その既成概念が、やはりどうしても労 働者側といいますか、そういったものの中に根強く残ってしまっています。ですから、 まず対等にしていかなければならないということ自体もナンセンスですし、また、企業 側からしますと、先ほど言いましたように、ある程度自由にいろいろなことをできるこ とが、活性化につながっていきます。不当労働行為云々といいますが、労働者の側にも ひどい労働者がいる場合もあるわけですから、使用者側が悪であって、労働者側が善で あるという前提はやはりおかしい部分があると思うのです。  ですから、特に中小企業でおっしゃっていた、いろいろ経営者がわかっていないとい う部分があるかもしれませんが、基本的には、労働者側の、労働者が弱であるという部 分というのは、やはり変えていかないと、これも、経営者側が悪であるという部分を変 えていかなければいけないのと同じことだと思うのですが、既成概念を崩していく努力 をどうしていくのかというのは、これからの大きな課題ではないかと思います。 ○新田委員 奥谷委員にお伺いするのですが、就業規則を一方的に決められて、定年が 前倒しになって、ここに出ているようなことを被る労働者というのは、弱くないのです か。どうなのですか。奥谷委員の認識はどこにあるのか。あるいは自由というものの認 識はどこにあるのか。例えばどんなシステムを考えておられるのか。 ○奥谷委員 私は働く選択の自由があると思います。だから、就業規則を見て、自分が そこの会社に納得しなければ、違う所を選べばいいわけであって、別にそこで何が何で も働かなければならないという強制というものはないわけですから、自分でそこの会社 の労使協約の中身を見て合わなければ違う所に替わればいいわけであって。強制されて いるということ自体がおかしいと思うのです。 ○新田委員 強制とは。 ○奥谷委員 だから、そこで働かなければならないと。選択の自由があるわけですから、 そこの労働条件を見て合わなければ、ほかを選択すればいいわけですから、いくらでも 仕事はあるわけですから。それこそ職業選択の自由ではないですか。だから、そこで働 かなければならないからという強制的なものを感じとっている労働者側がおかしいとい うことです。 ○西村分科会長 荒木委員、いかがですか。 ○荒木委員 確かに労働者が転職できる、コストがなく転職できるような世界であれば、 いまお話になったようなことだと思うのですが、日本に限らず諸外国も、転職のコスト というのは低くないわけで、どの企業でも、固有のトレーニングをしているわけです。 つまり、その企業でしか活かせないような訓練を企業からやらされて、そのためにいろ いろなエネルギーを使って、その技量を磨かないと、その企業の中ではうまく仕事がで きない部分があります。  転職するということは、それをまたゼロからもう一回習得し直さなければいけない。 参加コストというのですが、そういう労働者自身が投資した部分がまたゼロになって、 もう一回ゼロから始める。これは転職が自由なアメリカであってもやはり同じような問 題が生ずるということはあります。  その点日本の場合は、歴史的な経緯もありますが、長期雇用システムということで、 企業は従業員がずっとそこにいるだろうという、これは既成概念かもしれませんが、そ ういうことで、労働者もずっとこの企業に勤めようと思って、お互いに投資をしてきた。 その中で、問題があれば転職によって解決する。それは、そういう傾向が強まってきて いるということはあると思いますが、そのルール、つまり転職によってすべて解決する ということでうまくいく労働者というのは、やはり現状では非常に少ない。その点はや はり全体の政策では考慮する必要があると考えております。 ○奥谷委員 いままではそうかもしれませんが、これからはむしろそういったキャリア とか、そういったものが高く評価されて、よい条件で転職できる場合も、労働市場では できつつありますから。ですから、いままでの環境と今後の環境とはかなり違ってきて いると思うのです。そこのところを、やはり法律の解釈を変えていかないと、いままで の長期雇用、終身雇用で、組合があって云々というような、そういったものから、やは り違った時代にといいますか、知的労働の部分にどんどん移行していくわけですから、 そういうことを考えていくと、やはりいままでの概念と、これからの概念とは大きく違 ってくると思うのです。そこのところの解釈は、どう捉えていらっしゃいますか。 ○荒木委員 ですから、まさに、どういう規制をするかということだと思うのです。す べての労働者に一律の最低基準を強行的に規律するということになれば、かえってそれ が足かせになって、自由な働き方ができないという人も出てくるでしょう。したがって そういう人については、特定の規制を解除するとか、要らないという自由を認めるとい うことは必要だろうと思います。  しかしそのためには、一切の手続的な規制が要らないかというと、そこはやはり必要 ではないか。つまり、これまでは実体規制をずっと法律がやってきたのです。これから は、企業、それから労働者の働き方が多様化してきましたから、実体を国が全部決める というのは合理性がなくなってくると思います。  しかしながら、1個人と企業との間では、やはり交渉力の格差は否定できません。情 報量の観点からいってもそうですし、参加コストの点からいってもそうだと思います。 したがって、さあ、労働者と企業が取り引きしなさいと言った場合に、どうしても押し つけられた合意というものはあり得る。そこで当事者が、これでいいのだと納得したも のに、国や裁判所が介入しなくていいような環境が整った場合に、そういう自由を認め るということで、そういう環境は何なのかというのを、これから議論しなければいけな い。  その一つの方法として、実体は規制しないけれども、こういう手続を踏んで当事者が 納得して、これでいいといった場合には、それを認めようというのが一つのあり方とし て考えられて、そのためにはどういう手続が必要かという、そういった観点。実体を規 制するのではなくて、どういう手続を踏めばいいかということを議論していくのが、生 産的ではないかと考えております。 ○岩出委員 確かに多様な労働者がいると思うのです。すでに現在の労働基準法でも、 例えば管理監督者、それからキャド・キャム型とか、専門職の期間雇用の5年間とか、 すでにいろいろな能力とか収入とかで分けているわけです。これから起こってくるだろ う、ホワイトカラー・エグゼプションの問題も、そういうことに絡んでくると思うので す。  そういうグチャグチャの概念だったりしますから、それを何か縦の線で切って、整合 性のある対応で、ある一定の階層なら自由度を広げる対応をする。それでグルーピング をして整理する方向に向かうべきではないかと思っているのですが。これも意見ですが。 ○西村分科会長 ほかに御意見御質問ございませんか。 ○山下委員 いまの点とも関連しますが、いただいている資料の最後のほうの頁で、労 働条件の引き下げに関するあっせん申請の受理件数が示してあって、明らかに毎年増え てはいますが、その後に示していただいた資料の中でも、あっせんで解決したものもあ れば、解決しなかった、打ち切りであったというものもあったという事例が示されてい ます。  次回で構わないのですが、こういうあっせん件数の中で、種類は書いてあるのですが、 例えばうまくいった例とか、いかなかった例、もしくは労働者の種類というか、そうい うところで細かくデータを見せていただくことが可能であれば、一つのデータになるか とは思いますが。 ○大西監督課長 資料のうち、一部は前々回くらいにちょっとお出ししたものもありま すので、また整理させていただきたいと思います。 ○西村分科会長 時間がきましたので、もし御質問御意見がございませんでしたら、今 日はこれで終わりたいと思います。次回も引き続き労働関係の現場といいますか、労働 関係の実態について、認識を深めていきたいと思います。  それから、次回の分科会では、「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」に基づ く指針についても、併せて議論をいただくことになっております。  それでは次回の日程について、事務局から説明をお願いします。 ○大西監督課長 次回の日程について御説明申し上げます。次回の労働条件分科会は12 月20日火曜日、午後5時から7時まで、場所は厚生労働省17階の専用第21会議室で開 催する予定でございます。よろしくお願いいたします。 ○西村分科会長 本日の分科会はこれで終了いたします。本日の議事録の署名は長谷川 委員と山下委員にお願いしたいと思います。本日はお忙しい中ありがとうございました。                    (照会先)                     労働基準局監督課企画係(内線5423) 1