第六次看護職員需給見通しに関する検討会報告書(案)


 1. はじめに
 看護職員の需給については、昭和49年以来、5回にわたって需給計画及び需給見通しを策定し、その時々の社会経済情勢に応じた看護職員確保対策が講じられてきた。平成4年には「看護師等の人材確保の促進に関する法律」が制定され、同法に基づく基本指針を踏まえ、離職の防止、養成数の確保、再就業の支援等の総合的な看護職員確保対策が実施されてきたとことである。
 平成12年に策定された第五次需給見通しは、第四次医療法改正等医療提供体制が大きな変革期にあることを踏まえ、平成13年から17年までと初めて5カ年の見通しとされた。同見通しにおいては、平成16年末の看護職員の需要数は約128万5千人であるのに対し供給数が約127万1千人と約1万4千人の供給不足と見込んでいたが、実際の平成16年末の就業者数は129万3千人と同見通しを上回っている状態である。
 しかし、医療技術の進歩、患者の高齢化・重症化、在院日数の短縮などから、看護職員の業務密度、負担が高くなっているとの指摘がある。また、「医療提供体制の改革のビジョン(平成15年8月)」に沿って、医療安全の確保、適切な在宅医療の提供など、患者本位の質の高い医療サービスを実現するためには、時代の要請に応えられる看護職員を質・量ともに確保することが求められている。
 看護職員の需給を取り巻く状況を見ると、少子化の進展により、新卒看護職員の大幅な増加を期待することは難しい。他方、資格を持ちながら看護業務に従事していない、いわゆる潜在看護職員数は就業者数の4割強に当たる約55万人と見込まれ、労働市場の流動性の高まりもあり、重要な供給源として期待される。
 このような状況を踏まえると、現行の需給見通しが平成17年末までとなっていることから、看護政策を考える上で重要な基礎資料として、引き続き需給見通しを策定する必要がある。
 このため、当検討会は、平成16年6月の設置以来、都道府県における調査、算定の作業を挟み、延べ7回にわたって検討してきたが、今般、平成18年以降の看護職員需給見通しを取りまとめたので報告するものである。

 2. 策定の方法
 これまで、需給見通しの策定方法については、看護の必要量について、その測定方法やそれに見合った看護職員の配置数の算定方法が確立していないこともあり、都道府県による就業場所別の推計作業のみでは各施設が本当に必要としている数が需要数に反映されていないのではないか、との問題が指摘されていたところである。このため、今回の需給見通しについては、看護職員の確保を促進する責務を有する都道府県を通じて各医療機関等に対する実態調査を行った上で策定することとし、本年4月、当検討会において「第六次看護職員需給見通し策定方針」及び標準的な調査票を取りまとめた。
 各都道府県においては、上記策定方針及び調査票を踏まえ、関係団体、有識者、住民代表等の参加協力を得て需給見通しに係る検討の場を設置し、地域の特性を考慮した独自の調査項目を追加するなど、都道府県ごとに調査方法及び推計方法について検討した。また、各医療機関等が現状及び今後の運営方針を踏まえて記入した調査の結果を集計し、算定作業を行った。
 国においては、都道府県に対するヒアリングを実施し、各都道府県が算定した需要見通し及び供給見通しを把握し、それらを積み上げることにより全国の需給見通しを策定した。
 なお、策定方針の概要は以下のとおりである。
 ・  需要については、保健医療福祉政策推進の観点から望ましいと考えられる事項を提示した上で、各医療機関等の判断を踏まえ把握することを基本とする。具体的には、勤務条件の改善に伴う需要について、前回同様週40時間労働、産前・産後休業、育児休業の全員取得を基本とするほか、年次有給休暇については法定休暇日数、介護休業等の取得に必要な需要を見込むとともに、夜勤体制については複数夜勤と1人月64時間以内を基本とする。また、在院日数の短縮による看護業務密度の高まりに対応した看護職員配置を見込むとともに、新人看護職員研修など適切な研修が行われるよう考慮する。
 ・  供給については、現状及び今後の動向を踏まえて把握するが、その際、各都道府県において、一定の政策的効果も加味する。
 ・  算定に当たっては、看護職員全体を積み上げることとするが、助産業務については業務独占であることを踏まえ、助産師については別掲とすることとした。
 ・  需要見通し・供給見通しとも、短期労働者(パート、アルバイト等)については、実労働時間を踏まえて常勤職員数に換算する。
 見通し期間については、医療提供体制等の変革期にあることから、第五次と同様、平成18年から平成22年までの5年間とすることとした。

 3. 新たな看護職員需給見通しについて
 需給見通しの概要及び各都道府県からのヒアリングを通じて把握した傾向等については、以下のとおりである。なお、平成18年以降の看護職員に係る全国及び都道府県別の需要と供給の見通しについては、別表1〜4のとおりである。
(1) 需要見通し
 ・  看護職員の需要見通しとしては、平成18年の約131万4千人から、平成22年には約140万6千人に達するものと見込んでいる。
 ・  病院については、81万4千人から約87万5千人に増加するものと見込んでいる。伸び率(約7.5%)は前回(約3.3%)の2倍以上となっているが、これは、望ましいと考えられる事項について、勤務条件の改善や医療の質の確保等の観点から、各医療機関等は必要と考える数を記入するとともに、同じく各都道府県においても必要と考えられる需要を考慮したことによるものと思われる。
 ・  診療所については、約24万6千人から約25万3千人になると見込んでいる。
 ・  助産所については、新たな開設を見込んでいる都道府県はほとんどなかったこともあり、約2千人で現状維持となっている。
 ・  介護保険関係については、約17万3千人から19万4千人に増加するものと見込んでいる。各都道府県の介護保険事業支援計画を踏まえて算定したものであるが、前回に比べて伸びが低いのは(前回約32.8%、今回約12.5%)、前回策定時は介護保険が制度化されて間もなかったため高めに算定していたものと思われる。
 ・  社会福祉施設については、ほとんどの都道府県で増減要素がないとしたことから、約1万6千人から約1万8千人への微増となっている。
 ・  保健所・市町村については約3万7千人、教育機関については約1万6千人、事業所、学校等については約1万2千人で、それぞれほぼ横ばいとなっている。また、養護学校については、多くの都道府県で各施設に1名配置予定となっている。
 ・  助産師数については、分娩件数、産前・産後のケアを踏まえて見込むと算定し、約2万8千人から約3万人に増加すると見込んでいるが、助産師不足といわれている産科診療所の調査結果においても、採用を見込んでいるところは少数であった。また、助産師が不足しているとする都道府県も少なかった。
(2) 供給見通し
 ・  看護職員の供給見通しとしては、平成18年の約127万2千人から平成22年には約139万1千人に達するものと見込んでいる。
 ・  当初就業者数については、平成18年当初就業者数は約125万1千人であり、平成22年当初は約135万6千人となった。平成18年の当初就業者数が現在の就業者数(平成16年末約129万3千人)を下回ったのは、供給見通しを実数で算定することは実態を伴わないとの指摘により常勤職員数に換算したことによる。
 ・  新卒就業者数については、看護師等学校養成所の新設、廃止等の予定、学生・生徒の入卒状況、進学、就業動向を踏まえた結果、約5万1千人から約5万3千人となっている。
 ・  再就業者数については、ナースバンク及びハローワークの実績、実態調査結果により把握した再就業者数を基に推計した結果、平成18年の約8万5千人から平成22年には約9万8千人と増加している。前回に比べて増加している要因の一つとして、介護保険にかかる事業において看護職員の移動が増加したためと思われる。また、策定方針にあった政策的要素については、現実的な供給見通しを把握したいとの理由で加味している都道府県は少なかった。なお、今回の調査結果や従事者届のデータを見ると、ナースバンクやハローワークだけではなく、個人間のつながりにより就職先を見つけることが多い。
 ・  退職者数については、11万5千人から11万6千人とほぼ横ばいである。多くの都道府県においては、調査結果をそのまま積み上げており、団塊世代の影響や政策的な要素を加味したところは少ない。なお、再就業者数の傾向と同様、前回と比べて数的には増加しているが、5年間の増加率は前回と比べてかなり低くなっている(前回約6.6%、今回約0.9%)。
 ・  助産師数については、約2万6千人から約2万9千人への微増となっている。新卒就業者数はほとんど変化がなく、また、再就業者数、退職者数に関し、政策的要素を加味した都道府県も少なかった。
(3) 課題
 (1)  策定方針について
   今回の需給見通しについては、各都道府県が実態調査を実施し、その集計結果を踏まえて算定することとしたが、実態調査の回収率が全体としては7割を超えたことは、医療機関等における看護職員の確保や労働条件の改善に対する関心の高さを反映しているものと考えられる。
 他方、医療機関等や都道府県によって、勤務条件の改善の見込み具合、看護職員の確保対策の取り組みとその効果の見込み具合が異なっていることなどから、同じ条件での算定とはなっていない。
 例えば、需要見通しに関し、年次有給休暇について、策定方針においては法定休暇日数を消化することを基本とすることとしたが、達成した方が望ましいと考える日数をもとに算定した医療機関等や都道府県があった一方で、実現可能な数値をもとに算定した都道府県もあった。手術部門など勤務場所の特性に対する配慮についても、同様であった。
 また、供給見通しにおける政策効果についても、今後の政策課題を明らかにするために、現実的な供給数を把握したいとする都道府県がほとんどであり、政策効果を見込んだ都道府県についても、その見込み具合は様々であった。さらに、医療機関等に対して行った実態調査については、項目数が多いことや、今後の5年間の予定を見込むことが非常に難しいとの理由から、未記入の項目や記入誤りの項目があった。このため、大部分の都道府県では改めて照会、確認等を行う必要があったほか、調査を活用できずに独自の推計により算定せざるを得ない都道府県もあった。
 看護職員は多様な職場で働いており、また、その勤務条件等も様々であることから、現場の実情に即した需給見通しを算定する上では実態調査は必要である。しかし、今回の実態調査については上記の課題があるほか、在院日数の短縮や重症患者の増加により看護業務が複雑多様化し、その業務密度も高まっていることも踏まえると、看護業務をより正確に把握し、見通しに反映させるようにする必要がある。
 (2)  看護職員確保対策について
   供給見通しにおいて新卒就業者数は微増となっているが、今後、少子社会が続くことを踏まえると、看護師等学校養成所における学生を確保することが重要であり、啓発普及などにより看護の魅力や重要性を積極的に若年層に伝える必要がある。また、新人看護職員の離職が多いことが指摘されており、離職を防止し定着を図る観点から、基礎教育の充実及び新人看護職員研修のあり方について検討する必要がある。
 他方、労働市場が流動化していることもあり、約55万人いるとされる、いわゆる潜在看護職員の就業促進を図ることは有効かつ効果的である。再就業者数の算定において、ほとんどの都道府県で政策的な効果を加味していなかったが、今後、再就業者への啓発普及や研修の充実等ナースバンク事業を強化する必要がある。特に、定年後及び定年を控えたベテラン看護職員の経験を、看護現場や教育等様々な分野に再活用(「セカンドキャリア」の活用)していくことも、重要である。
 また、前回の見通しよりも退職者数が大幅に増加しているが、増加数が再就業者数の増加数と同じ程度であることから、これは労働市場が流動化していることの反映と思われる。一方、結婚、出産等でやむなく離職していく場合も多いと考えられ、引き続き労働条件、勤務環境の改善に取り組む必要がある。
 業務範囲の観点からは、現在、必ずしも看護職員でなくてもよい業務に従事している看護職員もいることから、効率的な人材の配置、活用を進めることが重要である。また、在宅医療の一層の進展に伴い退院調整などに係る業務が増加することに加え、今後、医療機能の分化・連携が進むと予想されることから、これまで以上に他職種との連携、協働できる体制を整備する必要がある。
 助産師については、今回の実態調査では産科診療所における需要が少なかったが、「医療安全の確保に向けた保健師助産師看護師法等のあり方に関する検討会」では、助産師が絶対的に不足しているという意見があったことから、助産師の確保に取り組むとともに、産科医、助産師等関係者の連携を図り、助産師の産科診療所への就業促進を図るなど、分娩数に応じた助産師の配置が求められる。
 近年、新卒就業者数の県外の流入・流出は増加傾向にあり、今後、地元で教育した看護職員を定着させることも課題である。なお、看護職員の地域や医療機関における偏在については、今回の調査では検証できなかったが、都道府県からも特定の地域、特定の医療機関において看護職員の確保が非常に難しいと指摘があった。
 平成4年に策定された「看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」に沿って、養成力の確保、離職防止、再就業等の支援等の総合的な看護職員確保対策が実施されているが、同指針の策定後10年以上が経過しており、社会情勢に沿った今後の看護職員の確保を進めるためには、中長期的な視点に立った見直しをすることについて検討が求められる。

 4. おわりに
 今回の需給見通しの調査や算定の方法などの策定方針は、医療現場の声を反映させるとともに、国民の望む医療を実現する観点から作成したものである。需要見通しと供給見通しとの差が、見通し期間を通じて前回の需給見通しよりも大きいことは、一定程度、策定方針の意図が実現したものと考えられる。
 他方、需給見通しの期間を5年とするとともに、算定に際して具体的な勤務条件等を考慮することを求めたことから、医療機関等や都道府県は、同じく一定程度、実現可能性を意識したのではないかと考えられる。
 さらに、平成18年医療制度改革の検討が進められており、その内容は、患者・国民の選択の支援、医療安全の確保、在宅医療の充実による生活の質(QOL)等の向上を目指すものであり、看護職員の業務や役割に大きく影響するものと思われる。しかし、医療制度改革の議論に先行して需給見通しに関する実態調査や算定が行われたことから、需給見通しに反映されていない。
 安全、安心の医療提供体制を構築するためには、看護職員の果たす役割は大きい。今回の需給見通しを踏まえ、国や都道府県においては、それぞれの責務に応じた看護職員確保対策を一層進める必要があるが、その際、今回実施した実態調査を通じて把握した看護職員の業務や勤務条件の実態を分析、活用して現場の実情に即したものとするとともに、医療制度改革等を踏まえた適時的確なものとすることが求められる。なお、看護職員の配置について検討することは当検討会の目的とするところではないが、看護職員の勤務条件、医療安全の確保等に大きく影響するとともに、ひいては確保対策にも関係することから、そのあり方について検討する必要性が指摘されたことを最後に付言しておきたい。

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