○ 労働契約に伴う合意や義務について

 1 二重就職者の数は15年前に比べて約1.5倍に増加している。(総務省「就業構造基本調査」)
 一方、正社員の副業を禁止する企業も、10年前に比べて増えている。(労働政策研究・研修機構「雇用者の副業に関する調査研究」(平成16年))

  ・二重就職者数(本業が雇用者であり、かつ、副業が雇用者である者の数)
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  ・ 正社員の副業に関する取扱い(単位:%)
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 2 企業が副業を規制している理由としては、「業務に専念してもらいたいから」が78.1%である。(労働政策研究・研修機構「雇用者の副業に関する調査研究」(平成16年))労働者が副業を行っているのは、本業の就業時間後や、本業の仕事のない日が約4割である。(三和総合研究所「二重就職に係る通勤災害制度創設のための調査研究」(平成16年))

  ・ 正社員の副業規制理由(複数回答 単位:%)(副業を禁止していない企業を除き集計)
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  ・ 二重就職者が副業やアルバイトをしている時間帯(複数回答 単位:%)(副業やアルバイトをしている労働者を対象に集計)
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 3 退職する従業員に対して秘密保持を義務付けている企業は33.7%、競業避止を義務付けている企業は3.7%である。また、これらの義務は47.9%の企業において就業規則で規定されていた。(労働政策研究・研修機構「従業員関係の枠組みと採用・退職に関する実態調査」(平成16年))

  ・ 退職する従業員に課す義務(複数回答 単位:%)
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  ・ 退職者に義務を課す規定の形式(退職する従業員に何らかの義務を課す企業を対象に集計)
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 4 海外留学制度を設けている企業のうち、早期退職した労働者から費用の返還を求めている企業は40.9%。そのうち、留学後5年以内に退職した者から返還を求めることとしている企業が88.9%である。(厚生労働省労働基準局監督課調べ(平成17年))

  ・ 早期退職者に対する海外留学費用の返還制度の有無(単位:%)(海外留学制度がある企業を対象に集計)
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  ・ 返還を求める対象者(単位:%)(留学費用の返還制度がある企業を対象に集計)
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 5 仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる労働者の割合は6割を超えている。ストレスの内容をみると、職場の人間関係のほか、仕事の質、仕事の量の問題が多い。(厚生労働省「労働者健康状況調査」)

  ・ 強いストレス等を感じる労働者の割合(単位:%)
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  ・ 強い不安、悩み、ストレスの内容(平成14年)(3つまでの複数回答 単位:%)(強い不安、悩み、ストレスのある労働者を対象に集計)
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  ・ 健康管理やストレス解消のために会社に期待する内容(平成14年)(3つまでの複数回答 単位:%)(会社に期待することがある労働者(全体の65.1%)を対象に集計)
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 6 賠償に関する民事上の個別労働紛争の相談件数、助言・指導申出受付件数、あっせん申請受理件数は、平成15年度と平成16年度を比較すると、ともに増加している。(厚生労働省大臣官房地方課労働紛争処理業務室調べ)

  ・ 賠償に関する民事上の個別労働紛争相談件数
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  ・ 賠償に関する助言・指導申出受付件数
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  ・ 賠償に関するあっせん申請受理件数
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(単位:件)
 ※「賠償」については、平成15年度から集計対象項目となった。


 7 いじめ・嫌がらせに関する民事上の個別労働紛争の相談件数、助言・指導申出受付件数、あっせん申請受理件数は、ともに増加している。(厚生労働省大臣官房地方課労働紛争処理業務室調べ)

  ・ いじめ・嫌がらせに関する民事上の個別労働紛争相談件数
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  ・ いじめ・嫌がらせに関する助言・指導申出受付件数
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  ・ いじめ・嫌がらせに関するあっせん申請受理件数
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(単位:件)


 8 労働契約に伴う合意や義務に関する紛争の事例としては、例えば、次のようなものがある。

労働者の兼業が問題となった例】
 アルバイトとして、2か月契約を更新して約7か月勤務していた労働者が、契約期間中に解雇(会社側は雇止めを主張)された。
 会社側は(1)経歴詐称、(2)労働者の兼業(昼間は別の企業で働き、深夜に当該会社で働いているため過重労働となること)、(3)勤務態度等を解雇理由としたが、労働者は(1)経歴詐称については以前の話合いで問題にしないとされており、(2)兼業も入社当時から了承を得ていたものであり、(3)有給休暇の申請をしたことが理由としか考えられないとして、復職や有給休暇の付与等を求めたもの。

在職中の秘密保持義務に関する合意が問題となった例】
 会社から、機密情報の保持や著作物の取扱いについての同意書に署名を求められ、労働者がこれを拒否したところ、退職を勧奨され、また、社内ネットワークやメールの使用を停止された。このため、労働者が、「同意書に署名しなかったことを理由に解雇等の不当な取扱いを行わないこと」の確認を求めたもの。

退職後の競業避止義務に関する合意が問題となった例】
 A社を自己都合退職した労働者が、A社の下請であったB社に再就職した。A社は、労働者の退職から約1か月後に、労働者に対して、(1)A社在籍中に得た情報・ノウハウを漏洩・使用しないこと、(2)A社の取引先であるC社に対して営業行為を行わないこと等を内容とするに誓約書に署名を求めた。労働者が既にB社でC社の業務を受注・実施していることから署名を拒否したところ、A社は、労働者が署名をしないことを理由に退職金を支払わなかった。
 このため、労働者が退職金規程に基づく退職金の支払いを求めたもの。
 会社側は、在職中から会社のデータの持ち出しがあり、また、得意先であるC社を持っていく形となっていることから、退職金を満額支給することはできないと主張した。

研修費用の返還が問題となった例】 入社1年後に退職した労働者が、在職中に受けた研修の費用約200万円の返還を求められた。入社時に交わした雇用契約書には、入社後2年以内に退職する場合には、教育研究費を返金する旨の規定があったが、金銭消費貸借の契約書はなかった。約1か月の研修期間中は、通常業務には従事しなかった一方、賃金は支払われていた。
 労働者は、社会保険労務士に相談したところ、研修費用の返還は労働基準法第16条違反であり返還の必要はないと言われたとした上で、会社の業務をする上で必須の研修であること、本人に自発的な受講の意思がないこと、研修費用を会社側に立て替えてもらったという認識がないこと、雇用契約書に署名したのは署名しなければ入社させてもらえなかったからであること、また、他の労働者の退職が相次ぎ会社の将来性がなくなり、1年間で退職せざるを得なくなるとは思わなかったことから、返還には応じられないと主張した。また、労働者は、研修費用が高額であることは承知していたものの、金額は知らなかった。
 会社側は、通常は資格を持った労働者を採用しており、労働者の採用は異例であるが十分に相談の上採用したものであって、資格を得るための研修は労働者自身が受講を決めたものである、労働者が取得した資格は他社でも通用可能なものである、研修費用は立て替えたものである以上、返還請求は正当であると主張した。

裁判例:使用者は労働者の安全に配慮する義務があるとされた例】 反物、毛皮、宝石の販売等を業とする会社において、以前当該会社で就労していた者が宿直中の労働者を殺害して反物類を盗み逃走したため、殺害された労働者の両親が、会社側に対し損害賠償の請求をしたもの。
 判決では、「雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つている」とされた。(川義事件 昭和59年最高裁判決)

いじめ・嫌がらせに対する会社の措置が問題となった例】
 労働者が、職場責任者から無視をされ続ける等のいじめを受け、事業主にも相談したものの有効な措置が取られないため退職せざるを得ないとして、会社都合退職としての退職金の支払いを求めたもの。
 会社側は、労働者の申出を受けて調査をしたがいじめの事実は認められなかった、労働者と職場責任者を交えての話合いの場を設け、その場で職場責任者が謝罪したことから、和解したものと考えていたと主張した。

労働者の個人情報の取扱いが問題となった例】
 労働者が病気休職中に、上司が労働者に無断で労働者が通院する病院に症状を確認するための電話をした(病院は守秘義務を理由に回答しなかった)等として、精神的苦痛に対する補償金を求めたもの。
 会社側は、病院と接触を取ったのは、(医師の就労可能との診断書を受けて、)業務について医師に理解を求めるためであったと主張した。

労働者の損害賠償義務が問題となった例】
 総務担当者が退職したところ、在職中に会社会計に不足を生じさせたとして損害賠償を請求され、いったんは全額を支払った。しかし、そのうちの一部(約15万円分)については自分だけの責任ではなく総務部門全体の管理体制の問題であり、自分のみが負担することには納得いかないとして、当該部分の返還を求めたもの。

裁判例:労働者の損害賠償義務が問題となり、使用者の請求が制限された例】
 石油等の輸送・販売を業とする会社で運転業務に従事する労働者が、業務上タンクローリーを運転中、追突事故を起こした。このため、会社は、使用者責任に基づき、追突された車両の所有者に対してその損害賠償を支払い、また、破損した会社のタンクローリーの修理費及び修理のための休車期間中の逸失利益としての損害を被った。
 そこで、会社側は、労働者に対し、追突された車両への損害賠償分の求償と、会社が直接被った損害に対する賠償を請求した。
 判決では、「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償または求償の請求をすることができる」とされた。(茨石事件 昭和51年最高裁判決)

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