05/11/29 労働政策審議会労働条件分科会 第46回議事録            第46回 労働政策審議会労働条件分科会                   日時 平成17年11月29日(火)                      17:00〜                   場所 厚生労働省17階専用第21会議室 ○西村分科会長 ただいまから第46回労働政策審議会労働条件分科会を開催いたしま す。本日は久野委員、島田委員が欠席されております。また奥谷委員からも急遽御欠席 の連絡がありました。また山口委員の代理として長谷川さんが、山下委員の代理として 君嶋さんが出席されております。  それでは本日の議題に入ります。本日は、前回時間がなかったため、資料のみの配付 となりました労働契約法制の関係を御議論いただきたいと思います。前々回の分科会で は、労働現場の実態をどのように認識しているか。その認識に立って労働契約法制が必 要と考えるのか考えないのかといったことを中心に御議論いただいたわけですが、今回 も引き続き労働現場ないしは労働関係の実態について、さらに詳しく見ていくことにし たいと思います。それでは、この点について事務局から説明をお願いします。 ○大西監督課長 お手元に資料No.1と資料No.1の参考資料を配付いたしました。資料No. 1については、11月11日の分科会において提出させていただいた資料を深掘りすると いう形で11月11日にすでに提出している分も含めて作成したものです。参考資料のほ うは、11月11日の分科会のときに御指摘いただいた事項について、現時点で御用意し たものを提出しておりますので、後ほどご覧いただければと思います。それでは、資料 No.1について御説明いたします。11月11日の部分と説明が重複する所は多少省略しな がら御説明いたします。  資料No.1の1頁です。平成15年の1年間に中途採用を行った企業は全体の71.2%で、 管理職、事務職、技術・研究職では企業規模が大きいものほど、現業職では企業規模が 小さいものほど、中途採用を行った企業の割合が多くなっているという調査結果が出て います。2頁は前回と同じ募集・採用に関する民事上の個別労働紛争に係る相談件数で す。  3頁です。事例は前回と同じもので、裁判例について、使用者には採用の自由がある とされた例を1つ加えています。会社側は、「労働者が、採用試験の際に提出を求めた身 上書の所定の記載欄に虚偽の記載をし、または記載すべき事項を記載せず、面接試験に おける質問に対しても虚偽の回答をしたことを理由として、試用期間の満了直前に本採 用を拒否する旨の告知をした」と主張している事例です。  裁判では判決文の下から2行目に、「企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえ をもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない」とされ た事案です。  4頁の採用内定の関係では、新規学校卒業者の採用内定を行っている企業は、全体で 23.9%あり、企業規模の大きいものほど、採用内定を行っている割合が高くなっていま す。下のグラフは、ここ5年間に採用内定取消を行った企業は、全体で7.3%あるとい う結果になっています。  5頁は採用内定の取消の理由です。本人の非違行為43.8%、本人の事情、経歴詐称な ど本人の虚偽の申告が続いています。  3は、ここ5年間に採用内定取消を行った企業のうち、採用内定取消事由の定めのあ る企業は全体で24.6%、これも企業の規模の大きいものほど、そういう割合は高くなっ ています。  定められている採用内定取消事由の内容を聞いたところ、いちばん多いのが本人の事 情、2番目が本人の非違行為、3番目が経歴詐称など本人の虚偽の申告という順番にな っています。  5頁の下ですが、採用内定者に対して、あらかじめ採用内定取消事由を知らせている 企業は、新規学卒者の場合は34.2%、中途採用の場合は25.5%という結果が出ています。  6頁は前回と同じで、7頁上の2つの事例も前回御紹介したものです。新しく追加し たものは7頁下の採用内定取消がなされた際に、その事由に食い違いがあったという事 例です。労働者は准看護師ですが、資格について確認したところ、正看護師・准看護師 関係なく経験を重視すると言われたと主張していますが、事実としては、医師との協議 の結果、准看護師であることを理由に採用内定を取り消すこととなった旨の通知を受け た。会社側は理由が違っていて、准看護師であることが理由ではなく、前職の勤務先に 問い合わせたところ、この労働者はまだ退職をしていないということだったので、トラ ブルを回避するため、採用を見合わせたということで、それぞれ主張が異なっている事 例です。  8頁は裁判例ですが、会社側が採用内定当時知っていた事由による採用内定取消が認 められなかったケースです。これは、大学生が卒業直前に突然内定取消を受けた。この 際、会社側は、学生がグルーミーな印象なので、当初から不適格と思われたが、それを 打ち消す材料が出るかもしれないと思っていたから、採用内定としておいたところ、そ のような材料が出なかったと主張したものです。  判決は、「グルーミーな印象であることは当初からわかっていたことであるから、会社 側においてその段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性の有無を判断することが できたのに、不適格と思いながら、採用を内定し、その後右不適格性を打ち消す材料が 出なかったので内定を取り消すということは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会 通念上相当として是認することはできず、解雇権の濫用というべき」とされた裁判例で す。  9頁です。企業が採用内定時に採用内定者に労働条件を知らせている方法としては、 就業規則の配布が26.8%、説明書の配布が41.2%、その他口頭が67.8%となっていま す。  10頁です。下の事例ですが、入社時に明示された労働条件を労働者が主張して明示の 内容が問題となった事例です。これは7年前に入社した労働者が、自己都合退職をした ところ、退職金が非常に少なかったということです。労働者は、退職金は賃金×勤続年 数だという説明を受けていたということですが、会社側は、労働者の入社1年前に退職 金制度を改定し、退職金は賃金×一定率×勤続年数であると主張して、その規程も社員 はいつでも閲覧可能になっていたはずだと主張しています。労働者の入社時に、そのよ うな説明を行ったはずであると会社は言っていたのですが、労働者は、旧規定に基づく 資料をいただいたと主張しています。  11頁です。試用期間を定めている企業の割合は73.2%で、3か月程度よりも短く設定 している企業は、そのうちの86.5%、6か月程度よりも短く設定しているものは99.1% です。試用期間の設定についてはグラフにありますように、どの規模の企業も比較的高 い割合で設定しています。下のほうには、試用期間のある企業のうち、就業規則におい て、これを定めている企業は71.1%です。特に文書の規定等はないとする企業は19.6% です。  12頁です。あらかじめ労働者に試用期間中の解雇事由を通知している企業は43.5%で、 本採用を拒否する事由を通知している企業は36.2%となっています。本採用の有無につ いて聞いたところ、ここ5年間に事例がない企業は58.0%です。一方、本採用しないこ とがあり、ここ5年間に事例がある企業は13.1%です。これは下のグラフにありますよ うに、どの企業規模でも大体同じような感じなのかと思います。  13頁は、試用期間中の賃金です。本採用になる際に賃金を昇給させる、または手当な どが増えると言っていた企業は、全体の35.3%となっています。  14頁と15頁はあっせん事例と裁判例が載っています。14頁の真ん中の段の事例です が、試用期間中に経費削減を理由として解雇された例です。労働者は期間の定めのない パート社員として採用されて、試用期間が3か月とされていた、と。ところが、採用2 か月後に経費削減を理由として解雇されたのは納得がいかないということです。会社側 の解雇理由は、労働者の勤務状況等ではなく、会社全体の経費削減であることを認めた 上で、試用期間中なので、解雇についての裁量権は会社にあると考えていると主張した ということで紛争になった事例です。  16頁です。配置転換を定期的に行っている企業は全体の3.4%、定期的ではないが行 っている企業は全体の32.8%です。企業規模が大きいほど、配置転換を行っている企業 は多くなっています。配置転換の目的としては下のグラフですが、「従業員の処遇・適材 適所」が70.1%、「異動による組織の活性化」が62.5%と続いています。配置転換の発 令に先立って、対象者本人に意向打診を行う企業は52.1%、一定の場合に行うことがあ る企業は26.8%で、計78.9%の企業は何らかの場合に意向打診を行っています。  17頁です。真ん中の段で、組合員の配置転換につき、同意、協議等の何らかの関与を 行っている労働組合は、全部足すと73.8%になっています。  18頁です。転居を伴う配置転換ですが、全体では転勤はほとんどない又は転勤が必要 な事業所はないという企業が65.0%あります。1,000人以上の規模では、正規従業員の ほとんどが転勤をする可能性があるという企業は54.9%となっています。転勤のルール については、就業規則で定めている企業が48.7%あり、慣行でやっているが32.9%です。  7の転勤の対象者選定に当たって考慮する事項としては、本人の健康状態が58.1%で いちばん多く、続いて親等の介護が45.1%になっています。意向の打診については、「必 ず行う」又は「行う場合がある」を足すと78.8%となっています。  20頁に紛争の事例をいくつか御紹介しております。上から二つ目で、勤務地の限定が 問題になった場合ということで、ある労働者が転籍に当たり、定年までは通勤時間10 分程度のA出張所に勤務できるという約束で転籍したが、通勤時間1時間程度のB工場 への異動を通告されたというものです。会社側は、最初は通勤1時間半の所を内示した が、それはいかんということで、医師の診断書や主治医の話も聞いて、通勤1時間程度 のB工場に勤務を命じたもので、十分な配慮をしていると主張したものです。就業規則 に転勤の根拠もあるので、A出張所から異動させない約束をした事実はないという主張 も併せてしています。  裁判例については20頁の終わりから21頁にかけて、配置転換命令権の濫用は許され ないこと、濫用の判断基準が示された例です。  21頁の8行目からですが、「当該転勤命令について業務上の必要性が存しない場合、 または業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的 をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく越 える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該 転勤命令は権利の濫用になるものではない」とされたケースです。  22頁です。出向者の送り出し又は受け入れを行っている企業は全体の27.2%、出向の ルールを就業規則で定めている企業は47.0%となっています。出向の規定で定めている 事項については、いちばん下のグラフで、必要な場合出向させる旨が81%、出向中の労 働条件について書いているものは35.1%です。出向期間の長さについては、ケースによ ってまちまちで`一概にいえないという企業は42.4%になっています。  23頁の4ですが、出向者の賃金水準については、出向元の賃金水準とする企業が 82.0%で、最も多くなっています。同じ頁の5ですが、出向することになった従業員に 対し、事前の意向の打診を行う企業は68.2%です。同意がなければ出向を行わないとす るのは52.9%、同意が得られなくても、配慮はするが出向させるというのは33.1%とな っています。  24頁の6ですが、組合員の出向につき、同意、協議等の何らかの関与を行っている労 働組合は70.7%あります。  転籍について、送り出し又は受け入れを行っている企業は、全体の11.4%となってい ます。  25頁ですが、転籍者の賃金水準については、転籍先の賃金水準とする企業が60.0%で、 転籍元の賃金水準とするのは35.3%となっています。転籍をすることになった従業員に 対し、事前の意向打診を行う企業は69.4%です。このうち同意がなくても転籍をさせる 企業は13.2%あります。その他は書面で同意を得るのが34.4%、口頭で同意を得るのが 50.0%あります。  26頁です。転籍者に対して、転籍先企業に関する情報提供をしている企業が61.7%と なっており、転籍先企業での労働条件等を説明している企業は59.1%となっています。  出向・転籍に関する紛争の事例については28頁と29頁です。28頁の上から二つ目の 出向中の労働条件が問題となった事例で、出向先の所定労働時間は出向元の労働時間よ りも1日30分多いことから、その部分の賃金の支払いを求めたものです。出向元は、現 在の賃金は出向先の所定労働時間全体に対するものであると主張しています。  下から二つ目は、転籍に同意するための条件を覆されたことが問題となった事例です が、業績不振を理由に転籍をしてくれということで、転籍元での早期退職優遇制度の適 用を条件に同意したが、その適用がないという話になった。転籍元にとどまるように話 が転々としたということで、結局会社への信頼を失い、辞めることになったので、こう いう優遇制度を適用してくれという事例です。  いちばん下は、転籍先での労働条件が問題になった事例です。これは転籍後も転籍元 会社と同様の給与レベルの維持はされるということで行ったのですが、転籍先から提示 された賃金は転籍元の会社の半額以下になっており、よくよく話を聞いたら転籍ではな く、退職勧奨であることが判明し、トラブルになった事例です。  30頁からは人事についてです。人事考課制度がある企業のうち、昇進・昇格に「考課 結果を重視して反映させている」あるいは「一定程度反映させている」企業は、全体の 83.8%に当たり、給与・賞与については96.3%が反映するということです。  31頁です。過去5年間に懲戒解雇を行ったことのある企業は8.4%、減給を行ったこ とのある企業は13.0%です。この頁の真ん中ですが、80.5%の企業が懲戒処分の規定を 有しており、そのうちの96.8%は就業規則に懲戒の根拠を置いています。  32頁の5では、いずれの懲戒処分についても、対象従業員にその理由を開示する企業 は全体の8割弱、弁明の機会を付与している企業は7割を少し超えています。  33頁の6では、組合員の懲戒処分につき、同意、協議等何らかの関与を行っている労 働組合の割合は82.7%になります。  33頁の7は休職制度についてで、何らかの休職制度を有しているのが69.3%で、休職 の種類は病気休職が多くなっています。  34頁、35頁は民事上の個別労働紛争の件数で、36頁、37頁は事例です。36頁の上か ら二つ目は降格の根拠が問題になった事例です。中途採用で入社した労働者の降格の話 で、就業規則の降格の規定の有無については不明でした。労働者側は、業績評価はあく までも2年度目以降からという約束であったし、当初は契約以上に兼務を課せられたた め、5か月では業績を上げるために十分な時間がなかったということで不満を申し立て た。会社側は、労働者が降格に合意していたと主張しています。  その次は、降格・降給の手続が問題となった事例です。年俸950万円の課長職として 採用された労働者が、部長兼務で1,000万円になり、さらにその1か月後に部長兼務を 解いて課長に専念することになり、その際、降給の辞令は交付されていなかったという ことです。労働者側は、部長の兼務は解かれたが、年俸が下がるとは理解していなかっ た。会社側は、部長職の兼務を解くのを労働者が同意した際に、年俸も元に戻ることに ついて、当然了解されていたものと考えていたということで争いになったものです。  37頁は、懲戒理由の明示がなかった事例ですが、タクシーの運転手が20日間の自宅 待機を命ぜられ、労働者側は、その運転手が自宅待機を命じられた際に、十分な理由の 説明がなかったことと、待機期間は親睦会の代表が窓口になって会社と話し合って、1 週間から10日ぐらいとするのが通例であるのに、そういう手続も踏まずに20日間とい うのは長いと感じられたということです。会社側は、労働者の追突事故について注意し たところ、反省の色が見られず、安全運転が危ぶまれることから、やむなく自宅待機を 命じたと主張しているケースです。  37頁の一番下からは裁判例ですが、懲戒には、あらかじめ就業規則の規定が必要とさ れた例です。38頁の上から7行目ぐらいからですが、「使用者が労働者を懲戒するには、 あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する」とされ、 「就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、そ の内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要する」 と判示された事例です。  38頁の一番下は、休職後の完全復職・慣らし勤務が問題となった事例です。病気休職 中の労働者が復職しようとしてきたときです。会社側としては、以前から半日勤務等の 慣らし勤務について労働者と合意したが、労働者は半日勤務ができずに欠勤を続けてい る状態なので、そのような段階での完全な復職を希望されたことから、勤務ができるか どうか判断できないため、再度の慣らし勤務を提案したものであると主張した事例です。  39頁からは、その他のものをいろいろ並べております。一つは二重就職者ですが、15 年前に比べて1.5倍に増加しています。正社員の副業を禁止する企業も、10年前に比べ ると増えています。正社員の副業に関する取扱いは、下のほうのグラフで50.4%が禁止 しています。  企業が副業を規制している理由は、業務に専念してもらいたいからが78.1%で一番多 く、その他の理由については40頁のグラフで、業務に悪影響を及ぼすからが49.3%で 2番目になっています。二重就職者が副業やアルバイトをしている時間帯については、 2番目のグラフで、本業の仕事がある日の就業時間後が45.2%でいちばん多く、本業の 仕事のない日が41.9%と続いています。  40頁の3は、退職後の秘密保持義務ですが、秘密保持を義務付けている企業は33.7%、 競業避止については3.7%で、これらの義務について47.9%の企業においては、就業規 則でそういう規定を設けていました。そのグラフは41頁にあり、就業規則に次いで多い のが形式を定めておらず慣行によるが19.0%です。  41頁の4は、留学制度で、早期退職した労働者から費用の返還を求めている企業は 40.9%で、5年以内の者に求めているのは88.9%です。会社数が8社、1社というよう に少なくなっています。  42頁です。仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる労働者が6割 を超えているという調査結果が出ています。ストレスは3つまでの複数回答で、いちば ん多いのが、真ん中のグラフで、職場の人間関係の問題が35.1%、仕事の量、仕事の質、 会社の将来性と続いています。  それに対して、会社に期待する内容は下のグラフで、いちばん多いのが休養施設・ス ポーツ施設の整備、利用の拡充、がん検診や人間ドックの受診費用の負担の軽減あるい は健康指導の実施と続いています。  賠償についての事例は45頁以降に続いています。裁判例としては、46頁の上から二 つ目ですが、使用者は労働者の安全に配慮する義務があった事例として、「労働者が労務 提供のために設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労 務を提供する過程において、労働者の生命及び身体を危険から保護するよう配慮すべき 義務を負っている」とされた事例です。  47頁は、労働者の損害賠償義務が問題となり、使用者の請求が制限された事例として、 損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対 し右損害の賠償または求償を請求することができるとされた事例です。これはタンクロ ーリーで追突事故を起こした場合の事例です。以上、簡単ですが、資料No.1の説明を終 わらせていただきます。 ○西村分科会長 いま募集・採用から、労働契約に伴う合意ないし義務についてまで労 働関係の実態ということで資料の説明をいただいたわけですが、今後の議論を深めるた めに、委員の皆様から、いま提出されたその部分の、どういうところで、どういうルー ルが必要なのかも含めて、御質問あるいは御意見をお願いしたいと思います。なるべく 資料の前のほうから御意見、御質問をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。 ○長谷川氏(山口委員代理) どういうルールが必要なのかということよりも、前々回 に引き続いて、民事上の個別労働紛争の状況と労働相談の内容について詳しく御説明が あり、現実に起きている個別の労働紛争で、いま募集・採用から、仕事の配置転換、出 向、労働契約に伴う合意や義務について、どういう紛争があるのかという紛争の特徴的 なものが報告されました。そこで、現行法でどのようなルールがあるのか、いくつかを 説明していただきたいと思います。例えば、募集・採用について、現行はどのような法 律があるのか、どういうルールがあるのか。採用内定を取り消す場合に、一般的なルー ルは存在するのか。出向や転籍について、現行の中でどういう法律があるのか。  最後のほうに労働契約に伴う合意や義務の話が出ていますが、現行法の中で、例えば、 秘密保持義務、兼業禁止義務、研修費用の返還、損害賠償請求、安全配慮義務などがあ るのだと思いますが、どのような一般的な法律があるのか説明していただきたいと思い ます。 ○大西監督課長 それでは、簡単に御説明いたします。 ○長谷川氏(山口委員代理) 理解できるように丁寧に説明してください。 ○大西監督課長 それでは、次回までに全体を含めて整理して御説明させていただく機 会を是非いただきたいと思いますが、今日の時点では、前のほうから順次御説明させて いただきたいと思います。  まず募集・採用について、労働基準法の関係では大きなものとしては、労働条件の明 示というのが労働基準法第15条に「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して 賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」と書かれています。採用 内定については特に労働基準法上、条文があるというわけではございません。  採用内定の取消についても、どういう場合に取り消せるかどうかについて、労働基準 法上の条文があるわけではありません。  試用期間については、労働基準法で申しますと、第21条ですが、解雇の予告という条 文が20条にあって、「労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にそ の予告をしなければならない。」とされていますが、その例外として21条に「前条の規 定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない」ということで、その内容 として、試用期間であっても、それが14日を超えて引き続き使用されている者について は、解雇の予告が適用されるが、それ以前については適用されない旨の規定があります ので、労働基準法上、いわゆる試みの使用期間中の者というのが存在するということは、 法律の前提としてあるようですが、試用期間そのものについての規定については、これ 以上の規定はございません。  配置転換、出向・転籍については、特に規定はないのですが、転籍の場合には、雇用 主が変わるわけですので、それは一般原則に基づいて、事業主が変わった場合のやり取 りが法律上なされる必要があると考えております。  人事考課制度についても、特にこういうことをしなければならないという規定はござ いません。兼業の禁止も特に規定はありません。  これはこの規定になるのかどうか微妙なところもありますが、労働基準法第16条で賠 償予定の禁止というのがあって、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、 又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」という条文があり、留学費用の返還 が、これに当たるのかどうかは、議論があるようです。  全体を通じて、現在、労働基準法で、ここはこうしなければならないという形で規定 されている部分は、あまり多くないわけですが、その他の法律も含めて、全体を整理し た資料を次回までに御用意したいと考えております。 ○石塚委員 いまの御説明ですと、基準法上で明示されているとがっちりしている。そ れに違反するかしないかははっきりしている。でも実際の事例からすると、基準法で仕 切れない世界が増えている。次回までにその他の法律との関係とおっしゃいますが、そ れは一般的な民法などとの関係になりますよね。「その他の法律との関係」というときに、 どの法のことをイメージされているのか。まず一つお聞きしたいと思います。  次に基準法で明示されていないが、いま縷々御説明があった例えば募集・採用といっ たときに、三菱樹脂などは有名中の有名な判例ですし、採用内定では大日本印刷で、私 のころに一般的に教え込まれるのは有名中の有名な判例で確立されているのですが、現 実は3頁目にもあるように、三菱樹脂の事件の判例だけで判断できないような事例や、 その次の採用内定に関しても、最高裁判例だけで判断できない事例が増えているのでは ないかと思います。  その辺に関して、いま御説明があったのですが、判例というものをどのように考える べきかも大きな論点だと思います。三菱樹脂事件は昭和48年の判例で、30年前の事例 です。それを今の段階で、これは判例としてきっちりとそのまま新しい形に発展させる べきだと思ったのか。判例だけでは制御し切れないわけですから、もっといろいろなこ とを加えてやろうと思っているのか、その辺の事実を見る目線として、どのように考え ておられるのかという質問が二つ目です。 ○大西監督課長 前半については、当然労働基準法のほかに、民法も原則としてありま すし、そのほかに雇用機会均等法などの法律もありますので、民法の他にも労働関係の 各般の法律について整理をさせていただきたいと考えております。  後半の判例をどのように扱うのかという御質問について、現場の実態として、現在は 判例を参考にしながら、皆さん考えています。例えば個別の労働関係紛争の相談場面で も私どもの総合労働相談コーナーにおいては、「こういう判例がありますから、皆さん方 の場合、大体こういう感じではないでしょうか」という形で御相談に答えているケース はあります。このような現状について、では、これでいいのかどうかというのは、事務 局がというよりは、是非この場で御議論していただきたい事項と考えております。  先ほど法律について整理すると申し上げましたが、労働法の体系の中でも、法律に書 いてあったり、省令に書いてあったり、告示だったりするものなどいろいろありますの で、それらも含めて整理させていただきたいと思います。 ○西村分科会長 三菱樹脂事件は昭和48年(1973年)で、30年以上も前の話ではない かということですが、こういった判例の見方について、公益委員の方はいかがでしょう か。 ○荒木委員 三菱樹脂については大法廷判決で大変話題になったのですが、この判決が 出たころは、大企業では一度採用した者は定年まで面倒を見るという長期雇用慣行が前 提となっていて、そういう人を選ぶのは、企業側が相当自由な裁量で選ばざるを得ない だろうという社会的背景もあったのではないかと思いますが、現在のように長期雇用が 揺らいでいる中で、思想、信条などを理由として採用を拒んではいけないということを、 現時点でどう評価するかは、現在考えるべき問題ではないか。このように判例法として 確立しているものもありますが、それは常に見直す必要もあろうと考えています。  ちなみに雇用機会均等法では、募集に当たって、性を理由とする差別は認められてい ないわけです。3頁の最高裁判決の下から5行目ですが、「法律その他による特別の制限 がない限り、原則として自由」であると言っており、まさにどういう場合に、このよう な自由を制限するかは法律事項ですので、ここで議論して決めていくことが十分あり得 る問題ではないかと考えております。 ○須賀委員 実際の法実務上、つまり、弁護士として仕事をなさっているときに、岩出 委員などはどのようにお考えですか。 ○岩出委員 いまの問題ですか。 ○須賀委員 いまの問題だけではなく、判例をどのように活用なさっていますか。 ○岩出委員 いま議論している内定や採用内定の辺りに関しては、例えば内定取消の事 由として研修を与えて、それが学業に影響を与えるから駄目だという議論もあったりし て、私は違う意見を持っているのですが、そういう問題が実は判例で起こっています。 それから内々定の問題も実際に判例にも出ていますから、その問題についても踏み込ん だ枠組みを作っておかないと、従前の議論だけでは解決できないのではないかと思って います。  三菱樹脂事件に関しては、JRの事件で再確認されてしまった気配があって、法律に 定める制限をどこまで考えるかについては、かなり問題点があるのではないかと思って います。不当労働行為もいいというように判決が書いてありますから、その辺も議論し たほうがいいとは思っています。当面の問題については、実務的には内々定の問題。ま た、内定取消の事由として合理的な基準が明示されていて、例えば一定の資格を取って それで来てよと言って、取れなかったらさよならと言っても、私はいいと思っているの ですが、そういうところをもう少し明確にできたらと思っています。 ○田島委員 その点で、こういう労働相談で公的な場としては労働局と労働委員会があ ると思いますが、こういう相談事例については、こういう形だという指針、あるいは判 断材料はあるのですか。法律に基づかないものは相談者の裁量に任せている感じですか。 ○大西監督課長 基本的に法律に基づかないものについては、判例などを紹介するとい うケースがありますが、判例では間に合わないケースもあれば、当事者で相談していた だくというウエイトも確かにあります。そのほか総合労働相談コーナーで工夫している ものとしては、週に何回か日を決めて、特に難しくて問題の多い案件を選んで、弁護士 に相談していただくという形でやっております。「パターンはこうです」というものは、 なかなか難しい面があります。 ○新田委員 私も田島委員と同じようなことを伺いたかったのですが、それぞれの所で 相談窓口などが開かれますが、法律があればそれに基づいて行政としてもものが言える というのもあるのでしょうが、そうではないものの場合、どのように振り分け、どのよ うに処理していくのですか。結局どのように解決するのかです。 ○大西監督課長 具体的には相談の手順の話だと思います。まず最初に事例を聞きます。 そうすると、多少法律的にこういうことをやってくださいというのが書いてあるケース もあります。そういう場合にはそれで済むことが多いのですが、解雇の話が相談事例と して多く、納得いかない理由で解雇を言い渡されたなどという場合には、「事業主とよく 御相談してくださいね」と申し上げるしかないわけですし、もし事業主が自由に解雇で きると思っているのであれば、判例でこのような制約がありますという説明をするわけ です。  その中に何パーセントとは言えませんが、感情的に対立がある事例も少なからずあり ますので、そういうものは私どもの相談員が中に入って、両者からじっくり話を聞いて、 少しお話をしていただくケースがあります。これについては、我々も類型的にまとめら れればいいという気もしていますが、個別の事例は千差万別で、こういうパターンで解 決していますというのは、うまく出てこないという状況です。 ○新田委員 事例を見ると、事前の約束が片方の思い込みというか、言った、言わない というものがすごく多いのです。具体的に相談窓口へ来たときに、きちんと言っていな いのが本当に多いのですか。こういう約束で入ったはずなのに全然違うというのが出て きます。そもそも約束が違うときに、具体的に持ち込まれるのは、実態としてはどのぐ らいで、どのようなものですか。 ○大西監督課長 これについては統計的に、そういう観点からは分類していないので、 多いか少ないかという判断になってしまいますので、いまの時点では申し上げられない というのが正直なところです。確かに何回か聞かないと、お互いがどういう主張をして いるのか分かりにくいケースはときどき聞きますが、それが統計的に多いかどうかにつ いては、いま資料がありませんので分からないという状況です。 ○田島委員 採用などについて、自分は正社員として入ったつもりが、入って働いてみ たら有期だった、あるいは臨時だった。つい最近、マスコミでも報道された、あるコン ピューター会社に採用されたら、実質的には派遣会社だったというケースもあります。 そういう意味では、いまは非正規がどんどん増えている中で、雇用形態にかかわる問題 点も事例として是非お願いしたいと思います。  どのような相談内容があり、判断をしているのか。先ほどのようなケースの場合には 採用時の契約内容が問題になると思いますし、一番問題になるのは、契約内容を伝える 方法が口頭によっているということです。この点について、きちんとルール化をしてい かなければいけないだろうと思います。これは働く者にとっても会社にとってもそうだ ろうと思います。雇用形態の問題について何か事例はありませんか。 ○大西監督課長 いま把握している限りでは、今日お出ししているものですので、少し 調べてみたいと思います。個別労働関係紛争の場合、採用そのものを争う本当の入口は 対象に入らずあっせんまで行かないというケースがありますので、把握しにくい状況で すが、引き続き調べてみたいと思います。 ○紀陸委員 資料No.1で個別相談の件数やいろいろな項目について挙がっていますが、 このデータは地方課の労働紛争処理業務室調べというのが基本的なデータですが、これ は内部資料なのでしょうね。大体項目的にこのような相談件数があるというのが、これ で把握できるのでしょうが、このほかにどのような調べをしているのか、調査項目は詳 細になっているのですか。相談室調べという要綱があるのか。 ○秋山調査官 毎年各地方局で相談等を実施している企画室から、本省の地方課に各年 の状況を、民事上の相談件数が何件とか内訳などは報告してくれということを示してい ると思います。それをまとめた形で年に一度全国集計し、この年度の個別労働紛争の解 決施行状況はこうだったということでまとめています。どこまで細かく公開しているか は確認していませんが、全体をまとめた資料は地方課で新聞発表の形で公開しています。 ○紀陸委員 いま田島委員が言われたように、相談している人が、どういう属性か、相 手先の企業の規模はどうかとか、43頁に賠償の相談件数があって、非常に多いのですが、 原因があって、どういう賠償内容なのかまで調べておられるものがあるのかどうかです。 ○秋山調査官 いま言われた賠償の個々の内容までは報告させていないと思います。 ○紀陸委員 これだけの数ですからある程度分類があるのか、規模別にどちらかという と、大企業より中小企業から原因が発生しているとかですね。 ○秋山調査官 紛争の内容としては、解雇や採用内定取消など、30ぐらいの分類を掲げ て、どれに当たるかを報告してくれという形です。例えば、賠償だったら賠償で挙がっ てきますが、賠償の中で何の損害賠償なのかは挙がってきません。 ○紀陸委員 相談を申し込まれる方の属性というのはわかるのですか。 ○秋山調査官 今回は参考資料で付けているかと思いますが、例えば、相談があった年 間件数のうち、正社員からの件数がどのぐらいで、パートの件数がどのぐらいという分 類はとっていますが、個々の例えば損害賠償の事案について、この相談が正社員だった かどうかは、すべて1件ずつ報告することになりますので、そこまではとっていないか と思っています。 ○大西監督課長 例えば、参考資料の1頁の下のほうに「民事上の個別労働紛争の相談 に係る就労状況の経年変化」という項目があって、いちばん左の白い枠が正社員で、そ のあとはパート・アルバイト、派遣労働者、期間契約社員、その他、不明という形で、 このぐらいの粗さではとっているという状況です。経年変化も平成13年度から4年分で すが、一応このような状況になっているということです。 ○紀陸委員 4年間というか、参考資料No.1は年次によって、そんなに変わっている傾 向はなく、当然ながらそういうことになるのでしょうね。  ただ、いま言われた1頁の下の所で、正社員の方、パートの方、派遣の方、期間契約 社員の方々で、どういう紛争が多いのか、それがマトリックスみたいな関係で出ればい いのでしょうけれども。そういうものには多少差異があると思いますね。 ○大西監督課長 いま手元にありませんので、それができるかどうか確認してみたいと 思います。 ○原川委員 調査の関連ですが、資料1で労働政策研究・研修機構の調査が出ておりま す。例えば22頁では、「労働条件の設定・変更と人事処遇に関する実態調査」(平成16 年)。あるいは、31頁では、同機構の「従業員関係の枠組みと採用・退職に関する実態 調査」(平成16年)。機構の調査はこういうように、それぞれの場面について調べている ものを使っていると思います。私が伺いたいのは、この中に規模別のグラフがあります。 例えば22頁に、出向・転籍で50人未満、50〜99人、100〜299人、300〜999人、1,000 人以上と。サンプルは全部でどのぐらいで、例えば299人以下とそれ以上の割合はどの ぐらいなのか、分かったら教えていただきたいのです。これは労働条件と従業員関係の 2つの調査で結構です。 ○秋山調査官 手元の資料でお答えいたします。労働政策研究・研修機構が行った調査 は、基本的には連続した月に、同じ目的でやりました。この審議会の議論に先行して労 働契約法制の在り方を研究会で検討しています。その基礎資料として、労働政策研究・ 研修機構の要請研究ということで、労働契約の実態に関するデータが必要だと思うので ちょっとやってほしいと、お願いしたわけです。分量が多くなった関係で、2か月連続 して質問表を2つに分けて、基本的に制度設計は同じやり方でやっています。  いま手元にありますのは、従業員関係の枠組みと採用・退職に関する実態調査の回答 企業です。回答企業の属性は、従業員規模別では、50人未満が80%、50〜99人が10.5%、 100〜299人が6.7%、300〜999人が2.0%、1,000人以上が0.6%で、回答していただい た企業規模はこういった形になっております。 ○原川委員 回答数の全体はどのくらいですか。 ○秋山調査官 有効回答は2,765社です。10人以上の企業1万社を選定して、郵送で調 査表を送り、有効回答が2,765社から得られています。規模別の分布は先ほど申し上げ たとおりです。 ○小山委員 先ほど御説明いただいた中でいろいろな事例が出されていますが、これは 都道府県労働局で相談を受けて、あっせんまでいった事例でしょうか。どういう事例と してここに出されているのか、出元を教えていただければと思います。 ○大西監督課長 出元は都道府県労働局で、実際にあっせんした事例です。 ○小山委員 どういうあっせんをしたのかという中身は公表しないのでしょうけれども、 どういうあっせんをしているのかがよく分からないわけです。例えば28頁の出向・配転 の事例が判例にあるような事例かというと、必ずしもそうではない。そういうときにど のように判断をされて、あっせん案が出されるのかについて、現場ではどうやっておら れるのかをお聞きしたいのです。 ○大西監督課長 現場では、基本的に法律、制度でこういう具合に決まっているとか、 指針ではこういう具合に決まっている、判例でこうなっているというのがない場合の話 ですが、その場合は、基本的には両当事者によくお話を聞くのがあっせんですので、そ ういう形でやっています。解決する多くの場合は両者で折り合いがつくというか、お話 し合いがまとまった場合には解決します。両者の主張が平行線のままですと、解決に至 らなかったということです。 ○渡辺(章)委員 東京労働局のあっせん委員で、ここ2年ほどで数十件、ほぼ100%、 1回2時間ぐらいであっせんは成功しています。そういう経験で言うと、例えば試用期 間を1か月と定めて10日目に解雇されたケースがありました。それで、就業規則はどう なっていますかと聞くと、試用期間は2か月と書いてあるのです。1か月という契約が そもそも無効ですよと私は言うわけです。何で10日目に解雇したのだと言うと、21条 に14日以内は予告は要らないというから、その能力を見定めて10日目で駄目だと分か ったから解雇したという事例です。法律の中には、その判断基準は何も書いていないわ けです。そういうときには、判例、判例と皆さん言いますが学説も大切です。試用期間 は適性を判断すること、能力を判断すること、従業員としての適格性、会社の業態その 他について知識・経験を積んでもらうという3つの目的があるけれども、能力不足だけ を言って、ほかの2つの点についての評価をしていないのですかという話をして、少な くとも2か月間は能力不足と言ったって、あなたが面倒を見なければいけないのではな いですかと。訓練もして、教育もしてと。そういうことをしないで即時解雇できる期間 内に、手早く片付けるのはどこへ行っても通りませんよという話をして、それで会社の 方に分かっていただいて、それでは2か月分の給料を出して、本人も大変感情を害しま したので、もうこの会社にいたくないということですから、それでは金銭で解決しまし ょうと。労働基準法の中に一部分は判断の基準はありますが、10日目で、能力不足で解 雇することについては何の判断基準もないのです。そういうような形で1件、1件あっ せんしています。  そのほかに、例えば健康を害してしまったという場合には、それは最高裁判所の判決 がありますから、軽勤務の可能な場所がありますかということを聞いて、あると言った ら、そこで続けることを考えなかったのですかというようなことから話をしていくとか。 まだほかにもありますけれども。要するに、実際の紛争を解決するときに、あまり役に 立つ法律がないと。  法律というよりもルールが、会社の方も一読してこうしなければいけないのかという ルールが、労働契約について大変乏しいということは、実際にあっせんをしていて痛感 しています。 ○新田委員 例えば、28頁のいちばん下に事例が出ていますが、この顛末はどうなった のですか。  お伺いしたいのは、転籍を伴う出向・配転とありますが、例えば18頁の上の図表では、 就業規則で定めているのが48.7%とありますが、慣行であり特に文書の規程等はないと いうのが32.9%と。あるいは、出向ルールの図表では、特に文書の規程はないが32.2% と。こういう相談が持ち込まれたときには、文書による規程の有無について何か言及さ れているのですか。  要するに、決め事はあるようで無いケースがあるわけですよね。しかし、慣行だとい うように言われて、労働者は多分納得しないのだろうと思いますが、この場合はどのよ うなことをあっせん時に言われるのですか。 ○大西監督課長 通常就業規則とか、いわゆる書いているものがあるかどうか。そうい うものがあったら出してくださいとなります。事例の中にもありましたが、就業規則に は書いていなかったとか、そういう事案もあるにはあるので。あればあったで、それを 見ながらどうするのかということになるのですが、実際には無い場合もあるわけです。 事業主の方は、うちは前からそうやっているのだと言っているわけですし、労働者の方 は、そんなのは知らないよと言うから、それで紛争が起こっているわけです。そのよう な場合、これこれこういう手続を取ればうまく解決するという、そういうパターンのよ うなルールは正直言ってありません。 ○新田委員 持ち込まれた事案については決め事が明確に見えていないわけですから、 そこでは解決できないけれども、その事案が解決というか、一つの区切りをつけるとき に、何もないような所の事業主に対しては何か言うのですか。 ○大西監督課長 就業規則ではないけれども内規みたいな書類があったという事例では、 これは拘束力はないのですが、事業主の方に、こういうトラブルが起こらないようにす るためにこの内規をきちんと就業規則に書いたほうがいいですよ、というアドバイスは しております。これはあくまでも一例としてです。 ○田島委員 ちょっと趣旨は違いますが、いまの就業規則に関する問題で言えば、11頁 に就業規則はありますよというのが71.1%。同じ資料の9頁では、就業規則を配布して いるのが26.8%というようなことで、そういうのを周知している率が極めて低い。これ は労働組合の労働相談でも感じる内容です。こういうデータがありますよというだけで はなくて、行政として、こういう形で就業規則が周知徹底していないことへの対応が必 要ではないか。10人以上雇っている企業は就業規則がなければいけないし、そこに働く 者に対して周知しなければいけない。行政としてこれはきちんと、働く者一人一人に、 就業規則はきちんと渡しなさい、開示しなさいと指導しているのかという問題が、ある だろうと思います。  もう一点は、この設問で少し疑問に思ったのは転籍のところです。13.2%が本人の同 意がなくてもやりますよとあります。転籍というのは、雇用を一旦切って別の所へ行く わけですから、本人の同意なしはないだろうと思っていたのが、10%も超える企業が、 本人の同意がなくてもやりますよということに対して、行政側としてどう対応している のか、お聞きしたいのです。 ○大西監督課長 最初の就業規則については、ここの統計データに出ているように、就 業規則を渡す率は低くなっております。ただ、必ずしも就業規則の周知が就業規則を渡 しなさいという形以外にも、例えば事業所に備え付けて置いて見ていただくということ もあります。 ○田島委員 実際に相談に対応していないから御存知ないのだろうと思いますが、相談 に来る事案では、本人が就業規則を見ていない例が非常に多いのです。 ○大西監督課長 それは多いでしょう。私どもとしては集団指導という形で、とにかく 就業規則を見られるようにしてくださいよということはやっています。いま委員が言わ れたように、実際には私は相談に対応していないですから相談に対応された方にお話を 聞くだけですが、よく見たの、見ないのと議論になる。そういうのがあるからこそ紛争 になるわけです。確かに就業規則をよく見ていただくのが基本にあると思います。ただ 実態としてそういうことが行われていないこともありますし、そこは順次改善していか なければいけないと考えております。  もう一つの転籍のときに合意があるかどうかについてですが、確かにこういう結果が 出ております。この数字が直ちに何かの法律違反になるかどうかについては、合意がな くてもその後、新しい契約を結ばないと転籍は起こらないわけですから、転籍先の企業 とは何らかの形で契約を結んでおられるのかどうかといった詳しい中身が分からないの で、これだけでもって直ちに、13.2%の企業をどうこうするというのは、ちょっと申し 上げにくいのかなと。委員の言われることは何となく分かるような気はするのですが、 非常に答えづらいと感じております。 ○須賀委員 先ほど渡辺委員が非常に示唆に富んだ話をされました。運、不運という言 い方はいいのかどうか分かりませんが、いい調停委員に当たると非常にいい解決策が見 い出せると。だけど別のケース、悪いケースも私どもは聞くわけです。こういうときに はどうしたらいいのでしょうか、という電話相談も受けたりするのです。委員の質のこ とを言っているのではなくて、あっせんの体制を行政的にどう整備しておられるのか。 できるだけ質を上げていくことは多分なさっていると思いますが、どのようなことをさ れているのか教えていただければと思います。  あっせんを行う方は、渡辺委員のようにいろいろな知識も経験も、あるいは、これま でそういう実務経験がある人が当然あっせんをされているわけですから、それなりのレ ベルはあると思います。でも、人によってだいぶ違っている部分もあるような話もチラ ッと聞くものですから。 ○大西監督課長 人によってどのぐらい違っているのかというのは、ちょっと、なかな か。 ○須賀委員 そういう意味ではないのです。 ○大西監督課長 それはなかなか難しいと思います。基本的に労働関係のあっせんをや っていただくわけですから、その方面に詳しいと思われる人をお願いするわけです。受 けていただく方も、具体的にこういう業務をやりますよということで、当然自分ができ ると思って受けていただくわけですから、基本的にはそういう方にお願いしていると承 知しています。  あと、研修などもやっていると聞いておりますが、具体的な内容については手元に資 料がありませんので、それは後ほど説明をさせていただきます。 ○須賀委員 研修は都道府県に任せていると理解してよろしいのですか。 ○大西監督課長 基本的に都道府県に任せているはずです。 ○須賀委員 そうすると都道府県ごとにバラつきが出てくる可能性もあるわけですね。 ○田代主任監察官 つい最近まで地方におりましたので参考までに申し上げますと、基 本的には、あっせん委員の先生方は、いま課長が申し上げましたとおり、資質と申しま すか、まさにその専門家として適任の方ということでやっていただいておりますので、 当たり外れと言われるのはおそらく、思うとおりのあっせんの結果がなかったとか、そ ういうことはあるのかなと思います。したがいまして、そのような資質と専門的知識、 経験を備えた方に委嘱をしておりますので、立派なあっせんをやっていただいていると 思います。  いま課長が申し上げましたのは、そのほかに労働紛争解決制度では、総合労働相談員 の日常的な相談業務があります。この辺りは一定の水準を保つ必要があります。もちろ ん、相談員も一定の資質と申しますか、そういう方々にお願いをしているわけです。た だ、いまお話をしましたとおり、最新の判例なり、最新の法令の動きなり、最新の労働 事情といったものは、個々の方々の修得というよりも、むしろ研修という形で知識など を付与しなければならないということで、各局、ほぼ同様のことをやっていると思われ ます。 ○小山委員 先ほど渡辺委員の具体的なあっせんの事例は大変勉強になりました。さす が渡辺委員、やっていらっしゃるなというのはよく分かります。それは一つの学説なり、 また委員の今までの経験なりを含めて、きちんとあるべき労使関係、労働契約のあり方 があってお話されていると思うのです。ところが、あっせんというと、先ほど課長の言 われる、両当事者の話をよく聞いてという言い方でいくと、足して2で割ったところで まとめようかというようになりがちではないかという心配を持っています。現にそうい うようなお話も時々聞くことがあります。何をもって判断をし、あっせんをしようとす るのかというところが、あっせん委員の方の資質に任せられるような形というのは良く ないのではないかと、つくづく感じているわけです。  そういう意味で、先ほど言ったルールの必要性が改めて、これらのあっせんの事例か らも問われているのではないかと思います。先ほど委員のお話を聞いた感想も含めて、 申し上げておきたいと思います。 ○長谷川氏(山口委員代理) 私は、先ほどの渡辺委員の話をもっとお聞きしたいと思 いました。今日出された厚生労働省の個別労働紛争の事例のところで、募集・採用に始 まりいろいろな場面で個別労働紛争が起きてきて、それを解決するときに、厚生労働省 の個別労働紛争の解決の促進に関する法律に基づいた機関で行っている相談や、あっせ んの話が書いてあります。そういうところで紛争解決するときに、一つは基準法、均等 法、職安法といった関連する法律があれば、その法律に抵触しているかどうかと。抵触 しているとすれば、これは法律に抵触しているからこういうように直せとか、こういう ことができると思うのです。  法律がない場合については、前々回のとき岩出委員が御質問したことと関連するので すが、判例があります。JILPTでつくった分厚い手引などを使ってやっているのだ と思います。今日、渡辺委員が判例だけではなく学説なども活用すると話され、なるほ どと思いました。私はもう少しここを聞きたいのです。労働契約法研究会を行っている ときに、地方からあっせん委員の方と事務局の方をお呼びしたときに、私はあの話が非 常にためになったのです。例えば解雇のとき、どうするのかとか。雇い止めの問題が相 談されたときに、どう解決するのかが非常に分かりやすかったです。  要するに、法律がないときに個別の労使紛争に対してどう解決しているのかというの は、現実が分からないと、理解できない。一般的にルールが必要だと言っても、ルール が必要だと思う人もいれば、ルールは必要ではないと、判例でいいのではないのかと思 う人もそれぞれだと思うのです。  今日、厚生労働省の事務局から出されたものには、募集・採用から事例は書いてあり ますが、そういうものについてどう解決していくのかを、もう少し分かるようにしてほ しいのです。渡辺委員の話はとても参考になりまして、今みたいな話をもう少し深める ことが大切なのではないか、重要なのではないかと思っています。その場面が分からな いと何が必要なのかが分からないと思うのです。  募集・採用のときにはこういうようにしているというようなことを言ってほしいので す。先ほどは法律のことばかりを言いましたが、本当は法律プラスどのようにしてそれ らの問題を解決しているのかを私どもは認識したいのです。 ○荒木委員 いろいろ議論を聞いておりますと、要するに法律には何も書いてない、判 例でもどう処理するか分からないというときに、どうやって処理しているのだろうかと。 そこのイメージがよくつかめないという御質問だと思います。こういう紛争を裁判所に 持ち込まれますと、裁判官はルールがないから困りました、判断しませんというわけに はいきませんので判断するのです。その場合、最終的には契約、契約といっても契約書 ではないのですが、当事者が何を合意したのかと。当事者の合意は契約法上の大原則で、 何に合意したのだろうか、当事者がどういうことで了解したのかという合意を探るとい うのは、最終的な処理基準です。そこで当事者がどういう合意をしたかをはっきり、明 示的でなくても黙示的に、そう、仕方がないな、と言って黙示的に合意したと言えるだ ろうかと。そういうことで、両当事者の合意を探っていく作業になっていくと思います。  困るのは、両当事者の意見が対立していて、一体どちらの言い分をとればいいのか分 からないということがあります。そこで立法なりでそれを解決するためには、「こういう ことはきちんと書面に書いてないと言ったことになりませんよ」ということを決めてい れば、紛争が起こったときに、書面で提示したのですけどと言って、提示したのであれ ばその書面を出してくださいと。書面を出さずに、そんなことは労働者は聞いていませ んと言えば、これはそういう合意はなかったのだという処理になります。  契約内容の確定のときに困る場合には、当事者が何も決めていない場合は、こういう ことにしましょうというルールが書いてあれば、裁判官や判定者はそれによって問題を 処理します。もしそのルールで困る場合は別の合意をきちんとしておきなさい、という 対処の方法があると思います。 ○長谷川氏(山口委員代理) 私は集団的労使紛争が減ったことについては、労働組合 が寄与していると思います。これは使用者と組合の努力の結果だと思っています。個別 労働紛争が非常に増加している、その紛争を予防するとか、解決を迅速にやることを考 えると、例えばいま個別の労働紛争の場合は、ある意味では法律が、次回はいろいろな 法律が出されてくると思いますが、その法律では不足です。そのため個別労働紛争のと きは、判例を活用しているということなのですが、その判例が、もっと世の中にルール として目に見えるようにするためにはどういう方法があるのですか。  例えば判例というのは、私たち労働組合の役員は、たまたま私は雇用法制担当局長で すから判例に触れることが多いわけですが、その前までは、ほとんど判例に触れること はなかったわけです。普通一般の人たちというのは、まず判例に触れないと思うのです。 ○渡辺(章)委員 おっしゃるとおりですけれども、例えばイギリスにエーカス(ACAS) という労働紛争の調整機関があります。ここは法律や判例を十分咀嚼した上で「コード・ オブ・プラクティス」、つまり実際の行為準則をその機関で作って、そこで紛争調整をす るときには、この準則に基づいて、権利紛争でも、利益紛争でも処理しますよというこ とをしているわけです。それは法律の中に書いてあることを分かりやすく書いてあった り、裁判所で安定したルールになっているものを分かりやすく書いてあったり、あるい は、最近の紛争について、条理というか、道理に基づいて一つのルールを作ったりする。  例えばこういうことです。勤務成績が悪い、能力が低いというときには、必ず事前に ワーニング、警告を発しなさいと。それで、警告期間中に直ったら、それは解雇理由に なりませんと。このようなことは法律の中に何も書いていないのです。でもエーカスに 来たら、何も警告なしに、いきなりそのことを理由に解雇だと言っても、それは有効な ものとは考えませんということです。私もそれを知っていましたので、この件について いつ注意をしましたかと、いや、一度も注意したことはありません、それは駄目です、 というような形であっせんしたこともあります。そういうコード・オブ・プラクティス といいますか、行為準則みたいなものが、法律を下支えするような実践的ルールという ようなものを公的な紛争調整機関がパンフレットにして、たくさん発行しております。 そういう話も参考になるのではないかと思います。 ○岩出委員 いま準則ということが出ましたので確認いたします。38頁に休職、復職の 問題があります。例の労働省が出しているメンタルヘルスの指針では職場復帰にも触れ られています。あるいは46頁に、個人情報の取扱いの問題が出ております。これに関し ても労働省が平成12年に「個人情報保護に関する行動指針」を出しています。それも今 回、俎上に乗せていただければと思います。実際、日々メンタルヘルスだけではなくて、 内臓疾患も含めて、復職問題は非常に頻発しておりますし、何らかの支援が必要だと思 っています。  例えば、どのベースで軽減しそうなのか。はっきり言って現在の基準では、軽減され たものの基準ではなく、本来できた線をきちん基準とすべきとか、必ずしも明確ではな いわけです。そのようなところまで掘り下げた議論をしていただきたいと思います。  あと、先ほど申し上げた手引なり、基準なり、指針なり、まだ効力を発揮しませんの で、ある程度定着しているものなら立法化して明確化すれば、まさに準則になっていく だろうし、そういう観点も是非。例は出ていませんが、雇い止め基準なども含めて、俎 上に乗せて議論をいただければと思っております。 ○松井審議官 あっせんの実情をもう少し皆さんに理解していただいたほうがいいとい う議論が進んでいるようなのですが、前々回のときに審議会にお出しした資料に、あっ せんの申請件数に関わる資料を出しております。平成16年度にあっせん手続終了件数が 全体で5,878件ありました。そのうち44.9%はあっせんを受諾した。つまり合意が成立 し問題解決があった。ところが45.9%は打ち切りでした。8.2%は申請の取下げでした。 この数字を見て皆さん共有できないかなと思うのです。もしかしたら、あっせん委員の 方がもう少し手際よく、両者の関係を取り持つような一定のシステムがしっかりしてい れば、合意件数が増えるかもわからない。打ち切りがあるということで正確に分析でき ない統計になっていまして、打ち切りがあった後はフォローできない、なぜなのか、ど うなったのか分からないのですが、打ち切りということは、あっせんを申請された方に 対して、しっかりしたお答えができていないのではないかと思うのです。つまり紛争が、 ひょっとして解決していないのではないかということもあり得るとすれば、合意成立件 数の割合をもっと増やすためにも、何らかの措置が必要であるとか、そういう視点もあ るのではないかと思うのです。  うまく合意が成立した事例がどうかということを、もちろん検証はいりましょうが、 それがもっとうまく機能するように、どんな仕組み、どんな違いがあるとか、こういう 視点で議論していただくと、もう少し議論が進むのではないかという気がします。 ○岩出委員 それに関連して、現実問題、あっせんは1回で終わってしまいます。それ は法律には書いていません。法律がいろいろな勧告、調査、権限があって、あっせん委 員にもっと権限を与えて、何回かやってもいいような気もしているのですが、これを変 更する予定はないのでしょうか、運用として。 ○大西監督課長 全部把握しているわけではないのですが、確かにルールでは、1回で やらなければいけないということはないわけでして、ただ早く解決したほうがいいとい う要請もあり、その辺の兼ね合いを見ながら回数は少なくしているのではないかと思い ます。実際に1回で終わっていないというケースもあると聞いておりますので、その辺 もよく調べてみたいと思います。  もし委員が、ルールとして1回というのが、どこかに内規としてあるのかという御質 問でしたら、それは。 ○岩出委員 運用としてです。 ○大西監督課長 早く解決したほうがいいというのはありますが、1回で終わっていな いケースもあります。 ○田島委員 あっせんの件ですが、いまの論議だと、解決することがいいことであって 打ち切りがよくないような雰囲気があります。私は低い水準というか、労働者のほうが、 不満ながらも低い水準で解決するのだったら、打ち切って、また別の場で争うのも一つ の道だろうと思います。いわゆる解決することがすべていいことですよ、という前提に 立たないでほしい。相談者の立場に立つと、そういう思いもあるということだけ知って いただきたいと思います。 ○荒木委員 私も似たようなことを考えております。あっせんで長く引っ張っても、結 局解決しないということもあるわけです。あっせんというのは、最終的には両当事者が 受け入れて初めて解決するのであって、両当事者が受け入れなければ何の解決にもなら ず、紛争がただ長引いただけ、もつれただけということになります。きちんとした権限 を持った機関で判断していただきたい、という当事者の要望が一方でありますので、そ れは忘れてはいけない点だと思います。  今日はあっせん、個別訴訟の話ばかりが出ておりますが、来年4月から労働審判制が 始まりますと3回の期日で一定の判断を下します。もちろん、当事者がそれを受けなけ れば通常の訴訟に移行しますが、そこでは労働審判官と審判員という機関で一定の判断 を下す仕組みができているわけです。その中で、今日の議論から分かりますとおり、判 例が一定のルールを定めているようですが、これはどこにも書いていないわけです。そ うすると、一体判例が言っていることというのはどういうことなのか、それを本件に適 用するとどういうことになるのか、そこから議論していけば、とても迅速に判定を下す ことはできないわけです。仮に判例のルールが固まっていたとしても、それが明文で法 律に書いてあるのと、書いてないのでは大きな違いがあると思います。  渡辺委員が言われたように、判例の確立したルールを周知徹底する方法はいろいろあ ると思います。それは労使団体自身が大いに努力して、周知する余地のある課題だと思 っております。しかし、それでも限界があります。労使団体に入っていない方々は、ど うやってそういう情報を得るかということもあるように思います。これから個別紛争が 増えてくる中では、透明なルールを法律で定め、一旦ルールが決まりますと、当事者は それに従って行動する。こういう規範にもなってくるということで、紛争の予防にも資 することになっていくのではないかと、私は考えております。 ○岩出委員 いま弁護士会と裁判所で労働審判の実際の運用について協議していますが、 進行のやり方、証拠調べのやり方など、かなり厳しい面があります。そうすると、当初 予想した運用とはだいぶ違ってくることも予想されます。そういう意味では、あっせん に課せられた課題はまだ持っていると思います。あっせんが長引けばいいというもので はないというのは分かりますが、例えば、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律 の第17条に、関係行政庁への協力要請など、当初立法構想としてはそのようなことは考 えていたはずです。証拠調べとかはなしに、簡易・迅速にできるという制度で、行政で 解決できるようになったわけですから。だけど、審判と両方が車の両輪として動いたほ うが私は機能的だと思っていますので、検討していただきたいと思います。 ○長谷川氏(山口委員代理) そもそも個別労働紛争解決促進法を立法するときの意思 というのは、とにかく増加する個別労使紛争に対して解決するところをつくろうと。先 ほど荒木委員が言われたように、長引かせないように迅速にやろうと。1回というのは どこにも書いてないのですが、私の記憶では、おそらく、どこかで誰かが1回でやろう と言ったのだと思うのです。それでなるべく1回でやって、ダラダラと長くもっている のはやめようと。それは労働契約法研究会のときに、大阪の人だったと思うのですが、 あっせんの仕方を聞いたら、やはりそうでした。この制度をどうするかというのは、ま た別の問題だと思います。  私は今日議論しなければいけないのは、都道府県労働局でやっているのもそうですし、 来年4月から発足する労働審判制もそうですが、何らかのルールがないと紛争処理機関 が拠って立つところがないのではないか。いちいち判例を出すとか、渡辺委員のように 学者で、研究者ですごく詳しい人がいればいいわけですが、そうでない人がたまたまな ったりすることもあるので、そういうときは大変なわけです。そういう意味でルールを 作ることは必要ではないかと思います。ただ、どういうルールを作るかは別ですけれど。 この時期、個別労働紛争の解決機関はできたが、拠って立つ法律がないといいますか、 明文化されたものがないことは、紛争解決に携わる人たちは戸惑っているのではないか という気はします。 ○西村分科会長 個別紛争に関連して労働側の委員からいろいろ御意見が出ていますが、 使用者側は、いかがでしょうか。 ○谷川委員 私たちも実際現場で労使紛争にならないような取組みをする上で、当然法 にあることは守ります。それから、判例であったり、その会社の労使慣行がどうであっ たかというようなものをできるだけ客観化できて、それが極めて常識的に理解できると いう立場で紛争の未然防止をするというようなことは心掛けております。そういう部分 を法で決めるのがいいのか、あるいはルール化されることによって、決めるのがいいの かというのは、手続の仕方については工夫があるのではないかと思いますが、現実には、 そうやって解決していることは事実です。 ○平山委員 今日は事例も裁判例等も出していただいていますし、渡辺委員の話もあり ました。私も中央労働委員会の委員をやったこともありますが、先ほど課長がお話され たように、いろいろな事例が千差万別で一律にはなかなか言えないというのは、多分当 たっているのだと思います。双方の事情を聞かないといけない場合もあります。労働委 員会は組織対組織ですが、個別紛争になれば、多分、感情の問題とかいろいろ難しい問 題が入ってきます。そういう中で短期間に解決しなければいけないことがあります。  どのような場面で問題が起こったのかというのは、会社の事情もあるし個人の事情も あるということがあるのだと思うのです。一律にどうだということ、縛るという意味の ルールで一つ一つのことを規定できますかというと、1件1件見ていけば、なかなか難 しいことがある。同じ採用にしろ、同じ配置転換にしろ、背景はずいぶん違うところで 起こる、こういうことだろうと思います。  この議論をどうしていくのかというのはなかなか悩ましいのですが、一律にこうです ね、として何かのルールを規定するのは、それぞれの項目についてすごく難しい部分が ある。項目別に議論をしていくのでしょうけれども。  先ほどお話がありましたが、予防的に意味があるということの意味合い以上に、個別 に見たときに、それぞれ何か意味合いが出てくるのかなというところは、よく議論して いかなければいけないところなのだろうなと。仮に契約法制ができたとしても、個別紛 争自体はいろいろな事情の中で起こってきている。劇的に減りますか、解決がものすご く早くなりますかというと、これはまた別の要素がかなり入って、一点ごとにはあるの だろうなと思います。だから、大元を予防するという意味合いで、法制が役に立つのか どうかみたいな、そういうことで議論するのかなという気はします。多分、1件ごとに 相当事情の違いがあるということを、今日お話いただいたのだろうと思っております。 ○渡辺(章)委員 先ほど長谷川委員代理の要望で、次回、各項目に関連する現行の法 律を整理するというお話がありました。大西課長もちょっと触れられましたが、労働基 準法施行規則、あるいは、契約期間に関する14条についても、ほぼ数年にわたって定着 している規則や指針におけるルールのようなものを、もう少し分かりやすくするために 格上げをするようなものもかなりあるのではないかと思うのです。私がいちばん考えて いるのは、過半数労働者の代表者について不利益扱いをしてはいけないというのは規則 に置くべきことではなくて、法律に置くべきことだと思っているのです。行政の規則よ りも、もう少し分かりやすい法的ルールにしたほうがいいと思われるようなものもあろ うかと思うので、現行の規則や指針や告示など、いろいろな形で出ている今日の項目に 関連するものを少し総ざらいをしてみて、これはもう少し別の形でルールと考えたほう がいいではないかという議論がここでできれば、非常にいいことではないかと思います ので、そういう観点から整理をしていただければと思います。 ○廣見委員 いまそれぞれの方々から、特に個別紛争の問題を中心に適正に解決してい くためには、透明な、分かりやすいルールが必要であろうと。こういうところまで話が いっているのかなと思います。具体的な資料といいますか、もう少し分かればと思いま すのは、先ほど来、これも皆様方からも出ておりますが、渡辺委員のお話のような、ま た、松井審議官からもお話が出たような、それぞれの現場において紛争のあっせんに努 力しておられる方々が、判例、その他のルールがはっきりしないために、いろいろと御 苦労なさっておられる。そういう姿と、解決に至ったものと解決に至らなかったものは 先ほどの数字の紹介のようにあるわけです。そういう場面で、具体的な姿みたいなもの、 またルールがないことによって、あっせんなりに携わる人が苦労している実態というも のが、私どもにも現場の姿として、よりはっきり理解できるようなもの、何かそういう 資料というのは難しいかもしれませんが、お話なり何でもいいのですが、現場の方から 実態をお聞きになってからでもいいのですが、そういう形で少し紹介していただければ、 より有難いという感じもいたしますので、その点も併せて、お願いしておきたいと思い ます。 ○西村分科会長 大体予定の時刻がきております。次回も今回に引き続き労働関係の実 態について、その認識を深めるために事務局から直前に資料を出していただきたいと思 います。それでは次回の日程について、事務局からお願いいたします。 ○大西監督課長 次回は、12月6日(火)、午前10時から12時まで。場所は、厚生労 働省17階第21会議室の予定です。よろしくお願いいたします。 ○須賀委員 私、辞任いたしますので、一言御挨拶をさせていただきたいと思います。 今月末をもって、組織の事情も踏まえ私自身辞任させていただくことになりました。大 変長い間、聞きにくい話もたくさんあったと思いますけれども、お世話になりましたこ とを、この場をお借りして、お礼を申し上げて辞任をさせていただきたいと思います。 大変長い間、お世話になりました。 ○西村分科会長 本日の分科会はこれで終了いたします。本日の議事録の署名は、石塚 委員と紀陸委員にお願いいたします。                    (照会先) 労働基準局監督課企画係(内線5423)