05/11/02 石綿に関する健康管理等専門家会議 第5回議事録            第5回石綿に関する健康管理等専門家会議                      日時  平成17年11月2日(火)                          14:00〜                      場所  経済産業省別館827号会議室 ○労働衛生課長  ただいまから第5回石綿に関する健康管理等専門家会議を開催いたしたいと思いま す。毎回のことでございますが、傍聴の皆様にお知らせをいたします。傍聴に当たりま しては、すでにお配りしております注意事項をお守りの上、傍聴してくださいますよう お願い申し上げます。  まず最初に、労働基準局安全衛生部長が交代いたしましたので、少しお時間をいただ きまして、ご挨拶をさせていただきます。 ○安全衛生部長  安全衛生部長の小野でございます。どうぞよろしくお願いいたします。委員の皆様方 には、8月以来、非常に精力的にこの検討会でご議論いただいているというようにお聞 きをいたしております。引き続き取りまとめに向けまして、大変お手数をおかけすると 思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。 ○労働衛生課長  それでは報道のほう、カメラの方々のご退席をお願いいたします。  本日の出席委員ですが、鏡森委員、岸本委員、祖父江委員、名取委員、本田委員でご ざいます。土屋座長がご出席で、成田委員と森永委員から欠席の連絡を受けています。 今回は委員の先生方にまたご議論を尽くしていただき、次回の第6回には会議の報告書 を提出し、最終的な詰めを行いたいと事務局としては考えていますので、よろしくお願 い申し上げます。では土屋座長、お願いいたします。 ○土屋座長  早速、議事に入りたいと思います。まず初めに、資料の確認を事務局よりお願いいた します。 ○労働衛生課長  皆さまのお手元に、資料1から番号が付いています。専門家会議の名簿。2が前回の 専門家会議における意見を要約したもの、次は別添です。資料3は、住民に対する検診 の考え方(案)です。本日は、この内容を中心にご議論をいただきたいと考えていま す。資料5は、10月26日現在の自治体及び企業による健診結果です。これは、私どもで 自治体並びに企業で行った健診の結果を、この時点で取りまとめたものです。資料6 は、市町村事業としてのがん検診についての解説と、指針の一部改正についての老健局 老人保健課長通知です。その次に「新たながん検診手法の有効性の評価報告書」があり ます。これはコピーで申し訳ございませんが、平成13年3月、日本公衆衛生協会の取り まとめになるもので、老健局の資料です。  資料7−1は、健康局からのがん登録についての資料です。現行のがん登録制度につ いての解説文です。資料7−2は、イタリアの「中皮腫登録制度」と「中皮腫登録と石 綿救済法(仮)」、その後に英語版のものがあります。これは名取委員からの提出資料 です。本日ご欠席ですが、資料7−3は森永委員提出のもので「疾患のサーベイランス と登録制度」です。今日は、森永委員は海外出張でこの内容についてご説明できません が、読んでいただければお分かりになります。各国で、こういう登録制度がありますと いうことと、人口ベースのがん登録制度の表です。  資料8は、私どもが行ってまいりました事業場周辺における健康相談の実施状況につ いての取りまとめの表です。資料9は、報告書の骨子(案)です。前回と若干変わって いるのは、2の(2)で、「住民に対する検診の考え方」のところです。この部分を本 日ご議論いただき、それを踏まえ、また委員の方々からご意見があれば、この骨子の内 容を中心に必要があれば変更した上で、これに対する肉付けを行って、次回の専門家会 議に提出させていただきたいと思います。 ○土屋座長  どうもありがとうございます。委員の先生方、欠落はございませんか。では早速、こ の資料に沿って進めてまいります。  最初は、資料2「第4回専門家会議における意見」です。事務局からご説明をお願い いたします。 ○労働衛生課長  資料2をお開きください。前回の「住民の健康管理の方法について」、委員の方々の ご意見を簡単に要約したものです。まず若年には配慮するけれども、初回はレントゲン とCTを撮影して、胸膜肥厚や線維性変化を見たほうがよいは、名取委員、岸本委員、 本田委員、成田委員。CTの費用はどうするのか、成田委員からご指摘もあります。岸 本委員から、心配だから、不安だからと言って来る患者さんの場合は、過去にCTを撮 っても何も所見はなかった。問診で問題がないと思われる、このようなケースでは、い まではCTを撮っていないというご指摘です。それから問診でばく露ありと判断する閾 値をどこに設定するかが大切だ、本田委員からのお話です。ばく露の定量化は、ばく露 濃度のばらつきが大きいために、数値化は非常に難しい、名取委員です。最初の1年 は、ある程度の範囲で検査をして結果から絞込みをするのがよいのではないかも、あり ます。  それから「その他」石綿関連疾患に関する医師の研修を公的に行っていただきたい、 名取委員からのお話です。「検討します」という答えがありますが、公的と申します か、準公的と申しますか、その次に別添で付いています。それに対するこちらの答えと いう意味になるかと思います。  各労災病院において、アスベスト疾患センターを置いていますが、そこでアスベスト と健康管理、疾患との関連性について講習会をやってまいったわけです。対象は基本的 に医師で、産業医の先生方です。岩見沢から関東、横浜、燕、新潟、旭、神戸、岡山、 筑豊の労災病院ということで、10月最後が19日の横浜労災です。参加者数はこちらで す。産業保健、産業衛生に関わるドクターを中心に、このような形でやってはおりま す。さらには、これからの議論ですが、一般の全体の健診に関与するドクターや、産業 とは関係なくても一般の内科、外科関係の先生方には必要だというご意見もあるかもし れません。資料2については以上です。 ○土屋座長  ありがとうございます。それでは、前回の第4回の専門家会議の意見について、何か 委員の先生方から追加あるいは訂正がありましたら、お願いいたします。検診について は、今日また改めて詳しく議論があるかと思いますが、よろしいですか。講習会の一覧 を示していただきましたが、何かご意見ございますか。名取委員、よろしいですか。 ○名取委員  はい。但し私が前回申しあげたのは、2泊3日位の医師等研修による石綿関連疾患の 標準化の研修の意味ですので、今後のご検討を御願い致します。 ○土屋座長  続きまして、本日のいちばんの命題であります検診について、資料3「住民に対する 検診の考え方(案)」、資料4「これからの健診の流れ(案)」、資料5「自治体及び 企業による健診結果」、これら3つについて事務局からご説明をお願いいたします。 ○労働衛生課長  今日はこの3つがメインの議題になるかと思います。資料3、資料4、資料5につい てです。  資料3は前回までの議論を踏まえ、私ども実際に現地で企業検診、自治体検診の胸部 エックス線写真をご覧になった先生方、それから現地でアスベスト関連の疾患を診断さ れてきた先生方にご相談をして、先生方のご意見も踏まえ、このような検診の考え方は いかにということで、1つの提案として出させていただいたものです。もとより、この 専門家会議は、1つの目的として住民の健康管理、住民検診をいかにするかについて専 門家のご意見を伺うものです。  まず1「住民に対する検診の意義」です。書きぶりが少し滑らかでないところもあり ますが、ご容赦いただきます。要するに、一律に誰にでも石綿に関する検診を行うこと は適切ではない。検診を行うに当たっては発見率、延命効果、費用対効果、メリットと デメリットの比較などを検討の上、有効性についての判断が必要になるのではないか。 意義そのものに対して、こういうご意見が大体多かったように考えています。  次に、2「石綿に関する検診の有効性について」です。1)石綿の健康影響に関する 胸部エックス線検査についての、これは「エックス線検査等」だと思います、例えばC Tや何かも入ると思いますが、についてのエビデンスは現時点ではない。つまり、きち んと科学的に証明された有効性の部分については、まだはっきり確立してないではない かというご意見が多かったように思います。  そこで2)です。いろいろと初回から、こういうご意見も確かにありました。石綿に よる環境汚染のリスクが高いと考えられる地域について、調査研究としての問診や検診 を行う。この「調査研究としての」というのが、いろいろと委員の方々とご相談の上、 事務局で入れさせていただいたものです。いちばん最初のときに、確か森永委員だった と思うのですが、尼崎辺りは非常に特殊で、環境汚染があったであろうという所につい て、きちんとした検診をしないのは行政の怠慢だというご意見があったわけです。環境 汚染ということでありますが、そのリスクが高いと考えられる地域については検診をざ っとやるのではなく、きちんと科学的な調査研究の部分を持った検診をするべきではな いか、と集約させていただきました。  3)この調査研究としての検診を行う対象です。これは労働者の家族、やはり家族の 問題のご指摘があります。それから住民に中皮腫等が出ている特定の地域に一定期間以 上居住した住民等として、そのほか取扱い石綿の種類や量など、地域ごとの実情を考慮 して決めていったらどうか。個別に特定地域については、やはりきちんと考慮していか ないといけないのではなかろうかという話です。具体的には、例えば青石綿は非常に危 険である。したがって、青石綿を使っていた所は集中的にきちんと評価しなくてはいけ ない、というご意見もいただいています。4)調査研究に当たっては、対照地域も選定 してきちんと比較を行うべき、というご意見もあります。  3「具体的な調査研究の進め方」です。まず石綿による環境汚染が疑われる地域を選 定しなければならない。その根拠としては、アスベスト事業場が存在、これは多数存在 という地域です。少数でも大量のアスベストを使ったという所だと、問題になるかもし れません。それから1つの指標として労災認定者が多数出ている事業場の週辺地域につ いて、調査する必要があるだろう。さらには、結果として住民等に中皮腫の発症がもう 見られている地域については、きちんとその地域として選定すべきである。その他、地 域に個別の事情がある、例えば、家族の方々で発症例が実際に確認されているような地 域です。  これらの地域についてはどのような検診の方法がよいのか、いままでも何回か議論し てきまして、その流れが資料4に案としてあります。健診の流れ図として、フローチャ ートで書いています。これに沿って健診を実施します。もう1つ、これもいままでの議 論から私ども集約しまとめたものです。これらの調査研究の面を持った検診ですが、こ れらについては専門家グループが胸部エックス線写真等をきちんと読影する。CTも含 まれますが、これによって読影と申しますか、診断の質をきちんと担保しなければなら ない。それらの結果について、科学的な評価を行うということです。  次の4「他の検診結果の活用」があります。これはいままでの1、2、3のところと 少し趣が違うかと思いますが、それにしても現在、市町村で肺がん検診あるいは結核検 診と、たくさんの検診でレントゲンの撮営等が行われています。一部にはヘリカルCT を導入して肺がん検診を行っている所もあります。これらについては、自治体において 撮影された肺がん検診等の胸部エックス線写真、これももちろんヘリカルCT写真も入 るわけですが、これらについて胸膜肥厚とアスベストの影響をきちんと評価する必要が ある。これについては、ただそういうものをきちんと診断できる医師を育成する必要が ある、というものです。  つまり、いままでの議論を集約しますと、まず非常にリスクの高い特定の地域につい ては、調査研究ベースでしっかりした検診を専門家がきちんとコントロールしてやるべ きだということです。もう1つは、全体としていろいろなレントゲン写真を撮る、検診 の機会のある、そういうことを読むドクターたちに対して、きちんとアスベストのもの も評価できるように、教育研修をしっかり行うべきである、あるいはマニュアルなども 全部含まれると思います。大体のところで、事務局がまとめた検診の考え方です。  次の資料4が、それに対する流れ案です。初回は「胸部X線&胸部CT」です。これ については、本当にリスクが高く、ある程度のアスベストばく露の可能性が極めて高い という所であれば、初回については胸部エックス線のみならず、CTをきちんとかけた ほうがよいのではないか、というご意見は確かにあります。例えば診断率です。要請率 と診断精度の問題から、どちらのほうがよいかという話も、当然ここで議論を深めてい ただきたいと思います。ここには、若年者には配慮するということもあります。対象を どのようにして持っていったらよいのか、議論をしていただきたい部分です。  資料5は、現行の自治体及び企業による検診の取りまとめです。これは自主的に行っ ていただいたもので、企業の検診については私どもが通知を出し、過去の労働者、辞め た方々、極力きちんと検診をしてくださいということでやっていただいております。さ らには、地元への企業の協力ということから、労働者の家族、周辺住民に対してもやっ ているところですので、これらを集計したものです。これは、まだ現在進行中です。  かなりたくさんの数になっていますが、九州の佐賀県鳥栖市です。元従業員44名の申 込につき、有所見者24名です。まだ1次健診の段階です。関連企業では201名の申込に つき、有所見者21名、家族では53名の申込のうち5名です。全部エックス線検査の結果 で、有所見者については2次精検を実施中です。周辺住民583名検診に来られています が、12名の有所見者が出ています。ただ、有所見と申しますと、どのような有所見かと いうのは情報源によって私どもも把握している範囲がありますので、有所見と書いてあ る部分には、これ以上のものは分かりません。  尼崎市です。表でご覧のとおりです。1次健診の要精検率が、職業歴のある方につい ては50.9%、周辺住民では23.0%、両方、職業であって周辺住民になっている方では 37.7%、その他の方は31.8%です。その1次健診結果についても、それぞれの所見ごと にあります。「硬膜肥厚」とありますが「胸膜肥厚」の間違いです。このうち1次健診 で「要精検」となった者で、精検を行った人たちは、この下の「精査終了者」です。職 業歴がある人は、54名中「要医療」1名です。この要医療の1名が、何と中皮腫です。 この右側に書いてあります。これは職業歴があった方ということです。おそらくこれで 中皮腫が見つかったということになるかと思います。  次頁は、企業検診の結果です。各地域についていくつかの企業検診についてのものを 事務局で取りまとめているものです。検診実施企業は11社で、企業の労働者のみなら ず、周辺住民、それから労働者の家族も対象にしています。10月26日までの申込で、お そらく検診しているのだろうと思います。全体で2,828名、1次有所見率がここでポン と出ています。1次は結構広く取っています。2次精査終了者でアスベスト起因が、 272名です。2次精査が終わり、アスベスト有所見率が周辺住民では0.3%、元従業員で は52.9%、関連企業で12.7%です。今度は診断名などが書いてあります。「中皮腫」1 名は、元の従業員です。  これは11社分の事業場の全部の総計です。これに意味があるのかないのかというとこ ろですが、それぞれの事業場の状況も違いますし、使っていたアスベストの種類や量、 それから時期についても当然差異があるわけですので、終了次第、全部細かくまとめて みないとわからないのですが、一応事務局としてデータを収集し整理したところでは、 こういう状態ということです。 ○土屋座長  どうもありがとうございました。いまの資料のご説明をうかがって、順番に資料3の 住民に対する検診の意義と、2番目の石綿に関する検診の有効性について、最初の概念 について何か追加、あるいは訂正ご意見ございましたら、委員の方々からお願いしたい と思います。 ○鏡森委員  公衆衛生の立場からですが、ちょっと私の理解が不十分かもしれませんが、要する に、中身を見ていますと、今回のものはあくまでも調査研究として対応していくという ことになるのですか。 ○労働衛生課長  いままでの議論を踏まえまして、例えば全国民のべつ隈なく全部レントゲンを当てて 検診するというのは、エビデンスもないし、それこそ予算的な状況もある。全然アスベ ストを浴びてない人に放射線を当てるデメリットも相当大きいということで、意味がな いというお話があります。しかし、その一方で極めてハイリスクの部分については、や はりちゃんとやるべきだ、というのは最初からご意見としてありました。これらを勘案 し、やはりハイリスクのエリアをきちんと選定してやるべきだという案として、事務局 が整理してお出ししたということです。 ○鏡森委員  そうすると、調査研究として現実的な不安にも対応していく、エビデンスも取ってい くということですね。 ○労働衛生課長  そういうことです。 ○鏡森委員  そうすると、この「住民に対する」という、「住民」という言葉にちょっと引っかか るのです。これまでの流れを見ていると、相談会に「心配な人」が来るという形で来て いますから、心配な人ということで、もうある意味では一線を超えているわけですね。 つまり、もうある意味では限りなく灰色に近いところに入ってくるわけです。そこで、 このCTなどの必要性がよく理解できるのですが、このような人たちの立場から、この スクリーニングということを考えると、まずハイリスクの地域の所で、心配で来た人 は、本当のばく露を受けている人たちのどれくらいなのかは、疫学上必要になるので す。  そうしますと、せめて子どものころ遊んだような、最も重点地区にあっては、全部と はいいませんが、一定の地域で心配になって来た人たちというのは、どれくらいアスベ ストのばく露を受けている可能性のある人たちが来ているのかということは、どこかサ ンプリングでもいいですからやっておいていただきたい。ですから全部やる必要はあり ません。どこかの地域を選んでアンケートだけやる。そこで、ばく露があるかどうかと いうことが、一応振り分けますね。そのばく露のあった人たちのうち、どれくらいが心 配で来ているのか。そこだけはもし調査研究なら、将来のために是非押さえておいてい ただきたい。  逆に、どうもアンケートで全員調べていても、ばく露がないのに心配で来ているとい う人もいるわけです。そういう辺りのところは、是非これからの議論の基礎なので、疫 学上は是非貴重な集団なので押さえておいていただきたい。これはやっておかなくては いけないと思っています。 ○労働衛生課長  分かりました。もう1つは、前、確か2回目ぐらいの議論で出ていたかと思うのです が、本当は各事業場で、アスベストを大量に扱っていた、いつからいつまで、どんな種 類のアスベストをどのくらい扱って、どんな作業をしていたのかが、実は非常に重要だ という話があったのです。例えば、住民の方の心配を取りさるのに、この事業場は1970 年には、青石綿とかは何も使っていませんでした、というような話であれば、1972年に 生まれた子どもがそこで遊んで、「私、不安です」と言っても、ほとんど意味がないと わかるでしょう。事業場に関して、環境からくるものはまた違うかもしれません、とい うようなことも分かるはずなので、本当はそこもきちんとこの調査の中に入れてやらな いと、検診も最後の科学的評価に耐えられるのかどうか、分からなくなるのではないか と、事務局としては考えるわけです。 ○土屋座長  いまのご議論は、この3番目の「具体的な調査研究の進め方」の1)どういう地域あ るいはどういう方を対象にするのかという、選定の作業にも係ることですね。この点、 また課長がおっしゃったように、事業場ごとのデータというものもこれに加味して、選 定していく必要があると思います。 ○岸本委員  これは前のときも言ったのですが、「ほとんどばく露していないが心配だ」、と言っ て来られる方が、どうしてもCTを撮れと言われて、撮った方もかなりたくさんいるの です。そういう方は所見はないのです。我々は、職業性ばく露、もちろん近隣ばく露、 環境ばく露も含めて、問診を2段階でやろうということになって、専門医等による詳細 な聞き取りというのが2段階目にあり、必要であればCTを撮影する。詳細な問診を行 えばCTの適応は決まります。  私の外来に紹介される方も、検診で来られる方も、問診票を渡して、なるべくきちん と書いてください、と申します。書いていらっしゃるところに、もう一度私を含めた専 門医が、どういう所でどのようなばく露なのかということを聞いて足すことをやれば、 かなりの職業歴等は分かりますから。例えば「よく分からないけれど、子どものころに アスベストで出来てた建物の下で、私は遊んだことがある」とか、そういう程度の方に は胸膜プラークがないという結果が出ています。  問診をきちっと取った上で、CTをやることになると、いわゆる問診とCTを含むレ ントゲン所見がかなりの精度で層別化ができるのではないかとは思っております。明ら かな職業ばく露だとか、尼崎の近隣ばく露された方というのは、私も診させていただき ましたが、はっきりアスベストのエビデンスがあります。その辺りの詳細な問診を落と さないということを明記していただけるといいと思います。 ○土屋座長  私も、座長であまり発言して申し訳ないのですが、この会が国民の不安を解消するの がいちばんの目的だと思うのです。こういうものを私どもはよく作るのですが、4角で 囲んだ下のほうが強調されるあまり、ここがすべてかというような印象を持って。むし ろ多くの方、四角の上のほうで、九分九厘ばく露歴なし、ということでほっとなさると ころが、いちばんの基幹なところではないか。  むしろ「ばく露歴あり」で、そういう方は当然この下の四角になるわけです。きちっ と補償というか、その後のケアをしますということなのですけれども。皆さんの不安を 解消するという意味では、むしろこの枠外のほうがはるかに大事で、この問診をきちっ とやって、専門家がご意見を聞けば、不安がない線が引けるのですということをお知ら せすることは、大変大事なことではないかと思います。岸本委員がおっしゃったとおり ではないかと思います。  どうしてもこういうものを我々も強調すると、不安を解消するはずが、実は皆さん不 安になってCTを受けたいと。CTを受ける併害がむしろ多くなってしまうことが、ち ょっと心配される気がいたします。ほかにご意見は、名取委員どうでしょう。 ○名取委員  最初に質問ですが、まず資料の5の尼崎の胸膜肥厚とプラーク(胸膜肥厚斑)です が、本来ならば石綿と無関係な胸膜肥厚は胸膜肥厚で、石綿に関する胸膜肥厚斑(プラ ーク)は違うもとする定義で示していただかないと困るのです。この資料ではごっちゃ になっていると、理解したほうがよろしいのでしょうか。 ○労働衛生課長  要は、定義がよく分からない、プラークがどんなのか。 ○名取委員  つまりアスベストによる胸膜肥厚斑(プラーク)以外のもののみを、胸膜肥厚として 定義し統計したのかが、ちょっとよく分からないのです。胸膜肥厚斑が少なくて、胸膜 肥厚が大変多いので。 ○労働衛生課長  向こうから来たのを、その所見をそのまま載せてきただけなのだと思います。 ○名取委員  今回にかかわらず、自治体や企業からの報告そのままでしょうか? ○岸本委員  名取委員、よろしいですか。これは課長も言われましたけど、やはり我々専門医が一 度見て、この胸膜肥厚とか胸膜肥厚斑(プラーク)あり、という決定をしましょう。やは りきちっと決めなければなりません。 ○名取委員  それは了解しました。 ○岸本委員  そうしないと、こういう曖昧な表現はもう誤解のもとになるので。やはりいつもここ で話題になる、専門医が少ないというのが1つだろうと思うので。やはり専門医が複数 集まって、決めることがいいのではないでしょうか。 ○名取委員  はい。同じく、資料5の2頁目の、周辺住民の、周辺住民に胸膜肥厚斑が出るのは、 これは当然なことですが、周辺住民で石綿肺が3人出ているという結果なのです。これ がもし真実ならば、この方々を、言ってみれば新しい法律で救済する対象に石綿肺を入 れなくてはいけないことになってしまうのです。そのくらいのことになりますので、こ れはどういうことですか。 ○中央じん肺診査医 実は、前回の資料では、家族の方に石綿肺が1人いたというのが ありまして。今回は、周辺住民に3名石綿肺がいる、とあったのですが、一応確認でき たものについて言います。前回の家族1名石綿肺と言われたものについては、胸部のレ ントゲンではプラークがある、しかし肺野には何もない。ただCTを撮ってみると、線 維化病変が少しあった、それを「石綿肺」というふうに、ドクターが診断された、それ が家族です。  今回の周辺住民の3名について、1名は先ほどの家族と同様、レントゲン写真でプラ ークはあるが、ほかに肺の所見はない。ただCTでは線維化病変が少しあると言われた 人が1人。もう1人は、レントゲンで胸膜プラークはあるが肺野には何もない、実はC Tを撮っても何もない。けれども「石綿肺」と診断をつけられた先生がいらっしゃる。 残りの1名に関しては、まだちょっと調査が及んでおりませんので、まだ不明というこ とでお願いいたします。 ○名取委員  はい、分かりました。こういうようなことが、仮に後段の地域についてとか、同等の ところがあれば、出てもおかしくないので、出るなら出るでしっかりとした調査をして いただければということです。  あともう1つは「これからの健診の流れ(案)」のところで質問です。この問診票の 私の最初のイメージは、専門医等による詳細な聞き取りの専門医は誰がするのか。石綿 工場のある地域の保健所の所長さんのような方なのか、保健所に嘱託で見える呼吸器専 門医なのか、一般的な地域の住民健診では医師会に委託されたり、違ってしまいます ね。このイメージがもう少し分かると、医師研修の話も含めてイメージが固まるので す。専門医というのが、保健所医師、所長なのか、いわゆる住民検診を全般的に担当さ れる胸部レントゲン写真をどんどん見る呼吸器医師なのか、誰かがちょっと分からない のです。 ○労働衛生課長  よろしいですか。要するに、事務局の考えでは、先ほど申し上げましたように、やは り特定の環境汚染、あるいは家族ばく露があったと考える地域については、すでに研究 ベースで、この検診という言い方が正しいかどうかまた別にして、きちんとしたレベル を保ってやって、データをきちっと集めていかないと、そもそも評価できないというお 話だったのです。であればですね、まずそういう所について、何箇所か場所を選定し、 範囲を決めてやるということになると思います。基本的には委員の方々のクラスの、専 門家の先生方にお願いした研究組織としてやるのが最も効果的と申しますか。検診の制 度、それから科学的評価、そういうものをきちんとやれるのではないか、事務局として は考えておるわけです。  それに、いままでの、例えば労災の認定の数の多い事業場とか、あるいは新聞や各マ スコミ等による地域住民の中皮腫発症の場所とか、全国のべつ隅無くというわけではな く、いくつか限られていると思いますので、そういう所を中心に専門家集団による研究 組織として、きちっとした検診をまずやっていく。そうしないと、そもそも何かあった ときに、次の検診のレールが敷けないではないかというふうに、事務局としては考えて います。ですから、そのレベルの先生方が、それにトレーニングされたチームに入って 実行する先生方、もしくはその保健婦さんたちと、そういうものを考えているわけで す。 ○名取委員  では、まずそれは一般的な住民検診の手前の、研究的な調査検診の流れであるという 理解で。 ○労働衛生課長  そういうことでどうでしょうかということで、ご理解いただきたい。 ○名取委員  そういうことであれば、それならよくわかります。 ○岸本委員  課長が言われるように、例えば横須賀だったら三浦先生と名取委員とか、やはりきち んとやるというような形ですね。問診もきちっとやるし、レントゲン、CTの読みもや はり専門家が読んで、それでプラークそれから石綿肺があるかどうかを判定する。実は 石綿肺と胸膜プラークとが一般医で混同していまして。この間、クボタの神崎工場の前 に住んでいたという方が石綿肺があるということで私の所に来られて、診たのです。実 際は石灰化胸膜プラークがあるだけで、石綿肺はございませんでした。  いま、中央じん肺診査医がおっしゃられましたように、胸膜プラークがあって、軽い 線維化ですね。小葉間隔壁の肥厚とか、サブプロイラルカービリニアールシャドウと か、こんなのがあるだけで、これを石綿肺とやはり言ってはいけないと私も思います。 所見はそれぐらいはあっても、本当の石綿肺というのはやはりハニーカミングあって、 レントゲンでPR1/0以上あるようなものを言うべきであります。フォローアップは しなくてはいけないが、本当にそれでいいのかどうか。いわゆる非特異的な線維化とい うのもかなり年を取った方には見ますから。胸膜プラークがあって、それだけの軽い所 見だけで石綿肺と言っていいのかどうか。これは議論があるところだと思うのですが。 ○名取委員  そこはちょっと、違いますね。ハニーカムというのは、重度な石綿肺になってしまっ て軽度の石綿肺所見ではない訳です。石綿肺の初期CT所見は、サブプレウラルカービ リニヤーシャドウ(胸膜直下カーブ線状陰影)というレベルが認められるというのが決 まりです。石綿肺のCT所見としてはその所見があれば当然石綿肺ですね。 ○岸本委員  サブプロイラルカービリニアルシャドウも、石綿肺に特異性があるかというと、そう じゃないから。 ○名取委員  もちろんです。ただ特異性がないのは重度のハニーカムも同様です。 ○岸本委員  もちろんそうだから、その辺りは経過を見ていって、本当にそうなのかどうなのか。 いわゆる、非特異的なものも入ってくるわけだから、だからその辺りはやはりスタンダ ードなレベルで、石綿肺という言葉は私は使ったほうがいいのかなとは思うので。それ がまた、各研究グループでのディスカッションで考察していったらいいと思うので。だ からやはり1つの典型的なもの、プラーク、石綿肺という、古典的なところで各研究グ ループで出していけばいいのではないかとは思います。 ○名取委員  石綿肺のCT所見としてハニーカムというのは高度に進行した像ですね。初期はドッ トシャドー(点状陰影)とかサブプレウラルカービリニヤーシャドウ(胸膜直下カーブ 線状陰影)ですから、石綿ばく露があれば石綿肺です。石綿肺は、労働省で標準写真を 定めていて、その写真に対応するCT所見は石綿肺だと思います。当然石綿肺が疑わし いと考えなくてはいけない。逆に、それで死んだ人がいるわけです。 ○岸本委員  これはまだ議論ですから。 ○名取委員  ちょっといまの点では、大きな誤解のもとになってしまうので重要です。 ○岸本委員  だから、これはいまはちょっと置いておきましょう。 ○鏡森委員  これも公衆衛生の立場からお願いしておきますが、研究ということでやっていただく ということなので、精度の高いもので是非やっていただきたいと思います。でも、その 後、先生方が津々浦々行くわけではないですから、やはり一応ILOの標準写真などが あるので、そういったもので現在の法体系で一般医がちゃんと出来る、ということのパ イプを作っていただくのが専門家なのです。私たちがやるから正確であとのは駄目だと いう、そういう発想ではもちろんないと思うのですが、いまのじん肺法や石綿肺はその 労働衛生法上どの地域の先生も、職業歴があって、胸部の写真をILOか標準写真で読 んで、あった場合にはそれで認めると言っている。ここがあまり突出して、そういう何 か専門的な者が判断しなくてはいけないというのはちょっと物議を醸しますので、慎重 にやってほしいです。 ○岸本委員  そのとおりです。 ○土屋座長  話を元に戻しますが、この検診の流れの中の専門医の認識というのは、いまほぼ共通 になったと考えて。そうしますと問題は、この資料3の「石綿による環境汚染が疑われ る地域を選定する」、これの選定によって、例えば、今日事務局からお出しいただいた 事業場の検診の尼崎市で456、これはいま言ったような専門医でも当然賄いきれる。これ が万単位になると、とてもいま言ったレベルの専門医では足りないということになりま すので、その辺の選定がかなり難しくなるのではないか。その点について何かご意見が あれば、お聞かせいただきたいのですが。 ○名取委員  そこを分かった上ですが、私は基本的には尼崎であるとか、佐賀県鳥栖市であると か、そういう青石綿を使っている地域というのは1つ大事な所であろうと思います。逆 に、家族ばく露なら家族ばく露の地域としての横須賀というのも1つでしょう。基本的 にきちっとやっていくためには、青、それから家族プラス白ですね。クリソタイルとい う部分のみを使った地域というのを入れておくのと、コントロールとしてほかの全くそ ういうものがないと思われる地域、その集団をきちんと分けた研究デザインを最初にし てやることとが大事です。あとは調査を、極力健診を希望される方(ボランテイア)主 体にしない事です。先ほど健診希望者の参加の比率を出すというご意見があったと思う のですが、極力ある一定地域の住民検診に付加して、そこの地域の500人なら500人全員 に極力健診をお願いするというような、強制はもちろんできませんが、そこをしない と、いわゆる健康意識の高く不安意識の高い方だけの集団をみては意味がなくなってし まうので。周辺数百メートルの地域の住民全体に、町内会も含めてお願いして、今年は 住民検診を詳しくやりますみたいな、そういう制度をしたほうがいいなという意見で す。 ○土屋座長  そういう意味ではボランティアというのを、研究ベースでやって、検診の費用はこち らで持つという形でないと、なかなか少ない数でも皆さんにご協力いただくというの は、難しいですね。 ○労働衛生課長  事務局でいろいろ考えているのですが、地域の選定とか、この会議ではちょっと間に 合わないのではないかと。実際にやる段になって、専門家の集団でお願いするというと きに初めてやるようになる、具体的にです。でも選定した場所によって、コントロール やクリソタイルの所も全部含めて、実際上はそれぞれ性格が違うと思うのです。尼崎は おそらく環境汚染で、平均的に住民エリアがやられているだろう。ところが横須賀と か、玉野や呉とか造船関係のほうは、むしろその地形からしても、住宅地域とアスベス トの事業場というのは一応セパレートされている。そうすると、そちらは家族にどうや って持ち込んだのか。実際に事例も出ています。住民よりも、むしろ労働者の家族に呼 びかけて、そちらのほうを検診でやっていって、きちんとデータを取っていく。そうい う作業が必要になると思うわけです。  ですから、エリアによってターゲットが少しずつ変わってきたら、手法も変わる。そ うしますと、先ほどの委員の方々がおっしゃっていた、検診の流れの中の聞き取りの内 容がやはり少しずつ違うのではないか。その聞き取りの内容については、そこで使って いた事業場やアスベストの状態、青なのか茶なのか、いつからいつまで使っていて、い つからいつまで住んでいた人なのかというようなことも、全部微妙に変わってくると思 う。それは基本的にはこういう案でやるということになれば、個別の事情を斟酌して、 それぞれの研究グループがそれぞれの検診、調査検診と申しますか、そういうものをプ ランニングした上でやっていくのが妥当な方法かなと。  ただ、医学的な所見については、一応専門家集団で、先ほどの議論にも、ある所はや はり統一していただかないと、後の評価に差しつかえるということになるのかなと思っ ているわけですが。 ○土屋座長  ありがとうございます。ほかに地域の選定、あるいはどういう住民の方を対象にした らいいか。地域特性ということ、この辺に関して何かさらにご意見ございましたら。 ○岸本委員  課長がおっしゃられたとおりだと思います。背景が違いますから、特に横須賀は家族 で中皮腫が出ていますから。私が診てきた呉も、玉野も、確かに海をバックにして、尼 崎の工場とは違いますので。そういう所では家族を中心とした、過去のばく露者、現在 あるかもしれない従業員等という形の、やはりデザインを考えたほうがいいと思いま す。周辺にもばく露が疑われる所は、元の住民も含めた検診をやっていくということ で、問診票も、問診のやり方も変わっていくと思います。 ○名取委員  基本的にこの調査研究をして、その結果により、この地域ではほとんど石綿関連所見 の方が出ない、この地域では何パーセント出るといった結果が出たら、それを同等の地 域にいずれは広げる、そのもとになるという考えで、よろしいですね。 ○労働衛生課長  そういう考えです。 ○土屋座長  その調査結果を回収していくということですね。よろしいでしょうか。そうしました ら、先ほど4番目で、他の検診結果の活用というお話がありましたので、資料6です。 がん検診について、老健局からお願いできますか。 ○老健局  労働衛生課から現行のがん検診事業についての概要を説明してほしいという依頼があ りましたので、資料の6に基づきましてご説明いたします。1頁目の1番にあるように 「老人保健事業におけるがん検診の経緯」ということでまとめています。昭和57年度に 老人保健法が施行され、以来老人保健法に基づいて、がん検診が実施されてきました。 これは法律上、市町村の義務としてがん検診を実施するということになっていまして、 実施した場合には国、都道府県、市町村が3分の1ずつ経費を負担するという制度のも とで実施されてきました。肺がん検診については、昭和62年度に第2次計画の際に、肺 がん検診が追加されています。ただ平成10年度に一般財源化され、これにより老人保健 法に基づかずに、一般事業として市町村が自ら企画立案し実施する事業ということで、 実施されるようになっています。  これに合わせて、2番目にありますが、国としては「がん予防重点健康教育及びがん 検診実施のための指針」ということで、技術的な助言として市町村に対してアドバイス をしているということです。これは地方自治法に基づいてやっていますが、強制力はな いということで、市町村の立場に立ってみますと、これに縛られるものではないという 性格のものです。肺がん検診については、3つ目にあるように、問診、胸部エックス線 検査、喀痰細胞診ということで、40歳以上を対象に実施してきているということです。  2頁に指針を載せています。老人保健課長名で今年の4月1日付けで出しています が、これは結核検診のほうの対象年齢が変わったということを受けて、一部改正をした 際の通知です。3頁は、指針の肺がん検診部分の抜粋を載せています。第2「がん予防 重点健康教育」の1項目として、肺がん予防健康教育を入れているということです。4 頁目の第3で、がん検診の項目を挙げています。胃がん、子宮がん、肺がん、乳がん、 大腸がん、5つのがんについて実施しているということです。  肺がん検診については5頁目です。目的、検診の実施方法等をまとめています。内容 としては、問診を実施し、また胸部エックス線検査を行う。このエックス線検査につい ては、従来は結核予防法に基づく結核検診で撮った写真を、この肺がん検診で活用する ことで実施してきましたが、結核予防法が改正されたことを受け、65歳未満については 肺がん検診として写真を撮るということになっています。65歳以上については、従来ど おり結核検診で撮影した胸部エックス線写真を用いて読影をするということです。ウの 喀痰採取の方法ですが、これは問診で対象者を絞り込み、肺がんのリスクの高そうな人 について、喀痰細胞診を行うことになっています。(3)で、読影方法を書いています が、2名以上の医師で読影をすることになっています。  11頁をご覧ください。現物を持ってきていますが、研究班報告書、この分厚いものが ありまして、いま申し上げたがん検診の指針については、この研究班報告書がベースに なっています。この研究をした背景を若干申し上げますと、一部マスコミ等において、 がん検診の有効性についてかなりセンセーショナルに報道されるようなことがありまし て、がん検診百害あって一利なしみたいな、そういうことも言われたことがあったので すが、それを受けて、がん検診の有効性についてしっかりと研究班を組織して、整理し ようということでまとめたものです。  12頁に、研究組織として班員の名簿を付けています。13頁、14頁に、総論からの抜粋 ですが、がん検診事業の理念ということで、14頁をご覧いただくと、先ほど資料3で説 明があったとおりですが、がん検診の目的は何かというところで、下線を引いている部 分を読みます。このがん検診の目的というのは、多数の無症状者に対して検査を実施し て、前臨床期、症状が出る前の段階で発見をして、治療をして、臨床期への移行あるい はがん死亡への進展を防ぐことを目的としているということです。  中ほどで、公的制度に基づいてがん検診を実施する以上は、十分な重要性と効果がな ければならないということで、当然のことながら、このがん検診を実施することによる 利益は、検診に伴う不利益を凌駕するものでなければならないということです。具体的 な条件が、その下の下線にあり、これは先ほどの資料3にもありましたが、対象疾患の 罹患率、有病率、死亡率が高いとか、あるいはスクリーニング検査の妥当性、信頼性が 高い。検査が簡単で、費用も適正である。また、早期発見後の早期治療効果が明らかで あること、そういった条件をクリアしてはじめて、公的な事業としてがん検診を実施で きるだろう。そのようなことが、この総論の中で整理されています。  15頁以降、肺がん検診部分を抜粋しています。15頁の目次にありますように、かなり 詳細な検討をしています。例えば、精度がどうなのか、精密検査の方法あるいは検診に 伴うリスク等々を整理し、またIIで、国内外の論文等を検証しています。その中で、こ れも抜粋で載せていますが、16頁で、上の下線部ですが、世界的にみた場合にはRCT 等が実施されているが、有効性については否定的な成績が多い。中ほどの下線部につい ては、これは国内の調査ですが、1つの症例対照研究と、集団検診を評価した4つの症 例対照研究について整理しています。1つを除いて、4つの研究において統計的に有意 な死亡リスク減少効果が示されたということで、検診を実施しない場合の41%〜60%程 度減少するというようなことが、まとめられています。  これを受けて18頁で、結論としては(1)で肺がん検診については、適切に行うならば、 死亡率減少に寄与する可能性が高く、継続して実施する相応の根拠があるということ で、そのような結論が出されたということを受け、老人保健課長名で、先ほどご説明 した指針に盛り込んだということです。  したがいまして、検診事業を行うに当たっては、検診という言葉については慎重に使 う必要があるかと思っています。資料4では、検査の検ではなく、健康の健ということ で、ちょっと書き分けているようですが、こちらの検診も含めて、やはりケンシンとい う言葉を使うにあたっては、しっかりとエビデンスがあるのかどうか、そこら辺を整理 した上で用語として用いたほうがいいのではないかと考えています。  ちょっと離れますが、老人保健法の中で基本健康診査も行っており、その基本健康診 査についてもいろいろと、有効性云々ということを言われることがありますので、その 点を踏まえた上で、検診という言葉を使うのかどうか、決めていただく必要があるので はないかと考えております。説明は以上です。 ○土屋座長  ここで言われる肺がん検診の受診率、対象者の受診率というのはいまどのくらいです か。 ○老健局  平成14年度の数字で22.8%です。 ○土屋座長  読影の基準が肺がん学会などで示されていますが、あれは、例えばここで他の検診の 流用となると、中皮腫とか胸膜プラークのことが何か基準というか、その辺のチェック は通常やられているのですか。 ○老健局  これは肺がんを対象にしているので、中皮腫等については含まれていないと理解して います。 ○土屋座長  わかりました。どうもありがとうございました。いまの説明で何か質問ありますか。 ○名取委員  肺がん検診のときにABCDEと、結果のランク付けをしますね。つまり全く異常な いとBで写真が不適切とかですね。肺癌はEで、所見はあるけれど変化がないとCだ、 他疾患が疑わしいDでと、他疾患の項目に胸膜肥厚斑は例えばD疾患とか。ああいう所 に入れるとか、そういう工夫はできるような気もするのですが、そういうあたりはどう なのですか。 ○土屋座長  私もちょっとそういう気がしました。いまの肺がんという基準線でいくと、肺がん以 外はみんなオミットされてしまうというか、所見はあって他疾患はあるけれども、肺が んではない。 ○名取委員  その場合、例えばDとつけて他疾患要精査という項目がありますね。そういう中に例 えば胸膜肥厚斑というのを入れていただくと、それによって一応CTだけ1回撮ろうか と、そんな流れはできるような気がするのですが。 ○土屋座長  いまは意識して、それをあまり拾い上げていないきらいがありますね。 ○老健局  老人保健事業報告ということで、一般財源化された以降も結果等は取っています。そ の中で肺がん疑い以外のものも一応、その他の疾患の疑いということで情報は上がって きていますし、当然読影の結果、影が映れば放置しておくということではなくて、そこ は適切に、治療が必要であればそちらにつなぐということではあります。ただ、この肺 がん検診事業としては、あくまでも肺がんによる死亡を減らすということを目的として いますので、そこの整理は必要かなと思っております。 ○名取委員  そのときに胸膜肥厚斑がある群が、基本的に肺がんが非常に多いリスク群になるわけ ですね。ですから要するに、胸膜肥厚斑をDレベルでちょっとチェックしていただい て。そうすると、あなたは胸膜肥厚斑が出ていますとCTの結果言われて、その方は肺 がんとか、もちろん中皮腫もそうですが、そのリスクを注意する格好になって、そうな ら毎年受けようかということにもなっていくので、そういう点では、D疾患の所に胸膜 肥厚斑というのを付け加えていただくことで、よりその意識は高まるのかなという気が するのですが、その辺はいかがでしょうか。 ○老健局  もともと結核検診の写真を借りてやっている事業で、それをさらに再利用というわけ ではありませんが、活用して中皮腫関係の検診なりをやる、あるいは研究をやるという ことは、十分あり得るとは思います。ただ、繰り返し申し上げますが、肺がん検診事業 としては、ちゃんとエビデンスに基づいて整理した上でやっていますので、その外で活 用するという整理にしてもらったほうがよろしいかと思います。 ○土屋座長  私も長年肺がんで苦労していて事情はよくわかるのですが、今回、中皮腫鑑定からみ ると、そういう配慮があるとありがたいかなという気がしました。ほかにありますか。 よろしいですか。22.8%という数字を聞くと、中皮腫の実態を見るという意味では、ま ず研究ベースで、たとえ数が少ない領域でも可能性の高いところをしっかり見るという のが必要そうですね。 ○岸本委員  座長のおっしゃるとおりですので、いわゆるハイリスクのグループをまずやるという ことですね。名取委員がおっしゃられたとおり胸膜プラークは、いままではこれは病的 ではないということで確かに見落とされていた。知っているがチェックはないというこ とで、結局、胸膜プラークは要精査にもならないということになっていました。今後 は、ついでにやっているのだったら胸膜プラークを意識して、チェックしていただける といいなと思います。 ○祖父江委員  いままでの議論を聞いていますと、アスベストに関してはとにかく、アスベストばく 露の評価をするために、レントゲン検査をするなりヘリカルCTをやるなり。それも問 診専門家による聞き取り、さらに検査という形での一連の流れによってばく露を正確に 評価しようということが、一義的な目的であり、疾患を早期に発見するということは、 それはできるけれど二義的な目的である、というように私は思うのですが、その辺のコ ンセンサスはいかがですか。  この肺がん検診に関しては、あくまで、肺がんを早期発見することによって、救命し ようというのが目的であるわけであって、そのこととアスベストばく露評価ということ は、ちょっと別に考えたほうがいいと思うのです。 ○土屋座長  お言葉を返すようですが、肺がんの場合には、早期の発見にはかなり確立した手法が あって、検診という方向に行っているのだけれども、中皮腫の場合にはまだそのエビデ ンスが、少なくともいままでの4回の討議では出てきていない。 ○祖父江委員  中皮腫に関しては、早期発見をしても救命効果はないというスタンスで、はっきりい ったほうがいいように思うのですが、肺がんに関してはある程度、一般の人に対しての 証拠がある。中皮腫に関してはいまのところ早期発見をしても、救命に至るような治療 が積極的にはできない。 ○名取委員  おっしゃるとおりで、本来の検診の目的からして、ばく露の評価にとどまるわけはな くて、言ってみれば祖父江委員がおっしゃるとおりです。肺がんや中皮腫、ばく露のリ スクの1つの指標としての胸膜肥厚斑のチェックがまずありますが、基本的に中皮腫に ついては、残念ながら現時点では早期発見ということは、健康診断ではあり得ないと言 わざるを得ない。逆に言うと、早期発見でのエビデンスがあり得そうなのが肺がんであ ると。  ただ、肺がん健診の効果が十分かというとここもやや問題です。私たちもずっとこの 間、アスベストと喫煙というリスクを背負った集団を診てきています。岸本委員もお悩 みだと思いますが、明確に喀痰細胞診及びCT検診をやっていて、これはハイリスクの グループだというのと、そうでないグループと比べてはっきりと差が出るか。その感じ はあるのですが、確信までのものは、私などは出せないでいるところはあるのですね。 だからそこで言うと、私は、これはそういう可能性を考えながらの調査研究だという捉 え方をしています。中皮腫についてはあり得ない。肺がんについては喫煙もあるし、ア スベストばく露もあるようなハイリスクグループなので、ばく露ということももちろん あるけれども、いずれは、基本的に肺がんの早期発見ということも考えた意味での検診 の始まりという、そういう感じで私は捉えています。 ○労働衛生課長  確認させてください。いまの祖父江委員のお話は非常に大事なところだと思うので す。普通、検診と言えば、基本的には早期に発見して、早期に治療に結びつけて、救命 率を上げるということを目的にして、その有効性を確認した上でやっているという建て 前になっているわけですね。 ○祖父江委員  建て前というか、それが目的ですよ。 ○労働衛生課長  すみません、目的としてやっているわけですね。だけども、実際に中皮腫に関して は、ばく露をしてから30年やそこら、私どもの労災の平均だと37、8年かかっています。 要するに35年目から出始めるのか、45年目になって出るのか、あるいは、それが出る前 に別の病気でどこかの病院に行ってしまうのかわからないという状態で、そこに1回ポ ンと検診をしても、それはほとんど早期発見という意義はないと思います。だけども、 基本的にこういう考え方。要するにそこでばく露の証拠としての胸膜プラークであると か、あるいは石綿胸水とかいろいろな所見があるかもしれない。その聞き取りの分だけ で、それでチェックされて、フォローしなければならないような方々については、さら にまた別の健康管理の方法を、その後また準備していくということにつなげることは必 要である。そのためにまず、ここの中皮腫アスベストについて、労働者について結構あ るのですが、住民や家族については知見が全然ないというところから、まず調査研究と してそういうところをきちんとやっていこうということだと、私は思っています。  だから、これで調査をしてこれでおしまいというわけではなくて、そこで引っかかっ た人をどうやってフォローするのかというようなことも、次の課題としては当然出てく る。これは私ども、労災のところでは健康管理手帳という制度を持っていて、これもち ょっと見直しをしなければいけないと考えておりますが、毎年2回ずつレントゲンを撮 ってフォローするというようなこと。これが本当に発症したときに救命率を上げるかと いうようなことにも、いずれは評価の対象になってこざるを得ないと思っていますが、 そういうような感じなのかなと。だから、検診ということは確かに別かもしれません。 住民疫学調査とかそういう形にしたほうが。 ○鏡森委員  そこのところは、祖父江委員の原則はやはりはっきりしておかないと。専門家が集ま ってこういう形でやってもらうと、この形であちこちでやりましょうなんていう話にな ってくると、これは困る。そうならば、このCTというのはやはり祖父江委員が言うと おり、これはそういうことをはっきりさせておかないといけないと思うのです。CTを やるのは、結局胸膜プラークというのは、石綿ばく露が確実に、量的にも期間的にも25 年経っているわけですから、ありましたというインデックスなわけです。疫学調査はよ く読んでみると、胸膜プラークを持った人がハイリスクといっても、そのコントロール は、CTまで撮ってあるかないかとか、本当にばく露があったかなかったか。コントロ ールにばく露のない人が入っている可能性もあるのです。だから、悪いけれど、差が出 るのは当たり前なのです。  かつて英国の造船所で、いまから10年前にエッジが北イングランドでの疫学調査を発 表しています。あそこは同じ造船所で同じ時期で、あのときは胸部の単純写真でした が、それで20年間追いかけても、胸膜プラークのある人とない人の差がなかったという 話もあることはあるので、祖父江委員がおっしゃるように、このCTあるいは調査研究 で、確実にアスベストばく露があるという人たちが出てくるということでやっていると いうこと、そこは押さえておかないと。これが中皮腫の発見、予防につながるという、 短絡的なことが起きないようにしていただきたいと思います。 ○土屋座長  老健局がおっしゃったように、検診という言葉を安易に使うと誤解を生むというのは たしかだと思いますので、その辺は今後気をつけて進めていきたいと思います。 ○労働衛生課長  説明は難しいかもしれませんね。受ける側からみれば、同じではないかという話にな るのでしょうけれど。 ○土屋座長  やる検査自体が同じだから、同じように捉えられるとまずいので慎重に進めていきた いと思います。  そうすると、いまのからいきますと、これが調査研究でやると同時に、中皮腫は見つ かったときの登録がきちんとされていなければいけないということで、この登録につい て資料7−1、がん登録について説明をお願いします。 ○健康局  取りまとめ事務局をしている労働衛生課から、がん登録について現状の、いわゆる一 般的ながん登録についてご紹介するようにという指示がありましたので、資料7−1を もとに説明させていただきますが、祖父江委員などは非常にお詳しいと伺っております ので、もしお気づきの点がありましたら補足いただければ幸いです。  資料7−1は、今年4月に取りまとめいただいた「がん医療水準均てん化の推進に関 する検討会」の報告書の抜粋ですが、この検討会においてがん登録についてもご議論を いただき、現状についてまとめていただいた部分です。以下この資料に従い御説明いた します。  「がん登録」は、医療機関ごとに行われる院内のがん登録と、自治体が実施する地域 のがん登録の2つに分かれます。院内の登録をベースにして、全国もしくは都道府県と いった大きな集団において、それらのデータの蓄積を行い、がんの発生や死亡の増減傾 向等の把握を行うというのが、基本的ながん登録の中身ということで整理をされており ます。  (1)は院内がん登録についてまとめられております。院内がん登録の現状として、 各医療機関で診療したすべてのがんの患者について、診断もしくは治療の内容などにつ いて登録をし、予後調査を行って生存率を計測するというものです。現在のところ、一 部の医療機関でしか行われていない、さらには、標準化が進まず精度が担保されていな いといった現状があるということです。  その理由としては、がん登録は非常に専門的な知識を持ったスタッフによって行われ なければ、正確な登録がなされないというような問題があって、そういったスタッフ等 の問題。さらには、標準様式等が未だ普及していないといった問題があるということで す。このスタッフの養成研修もしくは標準化等について、がんセンターを中心にいろい ろとご努力をいただいていると承知しております。  次に(2)は地域のがん登録についてですが、こちらも歴史は古く、1950年代後半か らいくつかの自治体において、順次、疫学調査を主要な目的として開始されてきて、現 在は34の道府県と1つの市において実施されているということです。現状の地域のがん 登録は医師や医療機関の自主的、ボランティア的な届出ということになっていて、登録 漏れもしやすいということが問題点として挙げられております。  がんの罹患率が、がん登録により得られる最も基本的なデータということですが、罹 患率の全国値については、比較的登録精度が高いということで知られている限られた地 域である11府県1市のデータを用いて推計が行われているという現状で、現在、全国あ まねくということではないということです。  地域のがん登録についても、この検討会の報告書などを踏まえて、今後、がん登録全 体を推進する中で様々な取組みを行っていく必要があるということになっております。  以上、がん登録についての説明でございます。よろしくお願いいたします。 ○土屋座長  ありがとうございました。祖父江委員、何か追加がありますか。 ○祖父江委員  いま、国のがん登録の制度としては地域がん登録、それを支える院内がん登録という 形で進められていますが、これとは別にと言いますか、それを補足するようなもので、 特定のがんに関して学会フェースとした、臓器別のがん登録というのがいくつかありま す。中皮腫の登録を考える際には、この臓器別がん登録というのもいいモデルになっ て、これは専門の先生方がかなり詳細な情報を集めるという仕組みですので、そのこと もちょっと考えておく必要があるかと思います。 ○土屋座長  ありがとうございます。いまの発言は私にとってはドッキリで、肺がん学会に振られ るのではないかとちょっと心配したのですが。それと、ちょっと余談ですが、いまの健 康局の説明ですと、皆さん、がんセンターが非常に整っているようにお聞き及びかと思 うのですが、実は専門的知識を持ったコメディカルスタッフの不足、専任化が進んでい ないということは、「がんセンターをはじめ」というように解釈していただきたいです ね。その点強調しておきたいと思います。やはりこの登録のことが、肺がん・胃がんを はじめ、我が国もなかなか進まないといういちばんのところだと思います。その点ちょ っと、余談ですが、お披露目をさせていただきます。  いまの登録について、一般的ながん登録について何かご意見はございますでしょう か。よろしいですか。では中皮腫に特異のということで、名取委員から、イタリアの場 合ということで説明をお願いします。 ○名取委員  英語で申し訳ないのですが、昨年の国際中皮腫研究会に出席したときに、2つイタリ アの中皮腫登録について報告されていた例がありますので、それを簡単に説明して、そ のあとで私が書いた文章の説明をしたいと思います。  最初の“LIGURIA MESOTHELIOMA REGISTRY”と書かれたものは、Monica Neriという疫 学の関係の方が発表していたものです。これはリグリア地域の住民が164万人いる地域 で、1994年もしくは96年からこの登録を始めて2004年までに1193人の悪性中皮腫の患者 が登録されて、そのうち20%が女性でした。その1193人中987人に確定診断としてはっ きりと胸膜中皮腫という診断がついた。つまり、登録されても実際に病理検査をすると 若干はじかれたりしてしまうケースがあり、987人中86%、850人から何らかのアスベス トばく露の情報が得られたということです。  そのアスベストばく露の情報が得られた方のうち、それがはっきり記録された方は78 %、664名いたということ。ほかには、造船所が多いとか、どういう職種が何パーセン トあるということが書いてあって、最後に非職業性の石綿ばく露、環境とか趣味とか、 そのような方が50名いて、そのうちの20%が女性だった。こんな形で登録をしたあとの ものについて、いろいろな分類をした報告でした。  次は1枚めくって“MALIGNANT MESOTHELIOMA AND THE WORKING ENVIRONMENT”これ は、産業医のStefano Porruが発表した、ブレシア地区という所の発表です。最初のほ うは省略して、いちばん下から10行目ぐらいのExperience from the Provinceという所 ですが、この辺での中皮腫の発症は10万人当たり3人ぐらい出ていて、そこでは産業医 が非常に重要な役割を果たしているというような発表です。簡単に言うと、登録にそう いう報告がくると、それに精通したスタッフ及びこの方は専任の産業医なのですが、そ のレジスターという所でかなりやっている産業医がいろいろと動くということでした。  発表のあとでイタリアの中皮腫登録はどうなっているのか伺ったものをまとめたのが 資料7−2です。私も十分な英語力があるわけではないので、不確かなところがあるか もしれません。基本的にはがん登録の1つである、中皮腫を担当した主治医がいると、 とにかく一定の書式に記載して、全国その地域にある登録委員会に報告しなければいけ ない、それは義務づけられているということです。その登録委員会というのは公の制度 としてあって、そこには常勤の医者がいて、特に大事なのは、職歴や環境ばく露歴の調 査に精通した数名の常勤職員がいる。ここがポイントです。  そこにくると、普通はその常勤医や職員の段階で、これは職歴が足りないとか、病理 歴を追加調査しなさいという指示を出して、主治医とやり取りをする。大事なことは、 必要に応じて調査にすぐれた職員が、生前の本人と面談して情報を収集してくる。これ をやっているそうです。月に1回以上検討会議があって、そこには病理医やほかの産業 医や石綿濃度測定の専門家がいたり、石綿関連物質の小体や電子顕微鏡の専門家も参加 して議論をする。そういう所で原因の区別をして、これは労災に該当とか環境ばく露と か、建物ばく露とか家族ばく露とか、そういうことを決定しているし、補償制度の区別 をしたり、診断精度の向上をはかっているというような話を会場で伺ってきました。  こういう中皮腫登録のような制度が諸外国は入っているのですが、なかなかこの間、 この議論があまりされていないですね。こういう調査機能がない中日本で新しい法律を つくってしまうと、実際に職業性の起因の中皮腫がかなり高い訳ですが、ヘルシンキク ライテリアで言われている中皮腫の80%は職業性という、本来労災保険に該当する方 が、自分や医療機関で職歴調査できない中で、いわゆる石綿の今回の新しい法律の該当 者にされてしまう。本来は環境の被災者を救済する法律のはずなのですが、仕事による 方がこの法律の対象になってしまったりするような、そんなこともあるのではないのか なと思っております。  これは今後の調査如何にもよると思うのですが、本来家族のばく露というのがどのく らいいるのかと言うと、いまのところ日本では約10数名ぐらいしかいないのかと思っ たり、公害的ないわゆる環境ばく露と言っても、いままでの通算で100名ぐらいしかい ってないような気もします。今後もっと増えるのかもしれませんが、いまのところです よ。建物のばく露というのは、私が報告した1人ぐらいだと思うのです。労災の時効と いう方はたくさんいらっしゃって、特別加入未加入の方の数は、私はよくわかりませ ん。そうすると基本的には、純粋な環境ばく露として中皮腫の5〜10%、そういう方を 救う新しい法律であるのが本来の姿なのかなと思うのですが、中皮腫登録制はきちんと しておかないと、職歴とかそういうのがよくわからない方が、みんなこちらになるよう な法律になってしまうのではなかろうかという気が、私はしております。  私どもはこの2年間、アスベストセンターで電話相談の活動をしているのですが、実 はイタリアの話を聞いたときに、同じことを民間で私達がやっているような気がしてき たのです。実際に相談があると個人票を作って、病理検査の報告書を確認して、追加で 聞き取りをしてくださいとか、追加の病理検査をしてくださいとか、免疫染色してくだ さいとお願いしたりしていて、必要に応じてなるべく生前に相談員を全国に派遣してい ったりしています。月に1回カンファレンスをやって、産業医であったり、病理の先生 に来ていただいたり、ナースであったり、石綿測定の専門家が参加していたりして、実 際に、そういう中から建物ばく露の方とか、環境ばく露の方が出ています。  私たちなどは本当に数名の民間の団体でやっていて、実際に相談員的にお手伝いして いただく方は全国で20名ぐらいおります。きちんとした聞き取りをする方、非常に詳し い方が数名いるとできてしまう。通常は簡単な部分の聞き取りで終わってしまうので す。難しい例の方だけは本当に、全国に有数のプロ数名を飛ばさないとわからない。簡 単なものは調査票でできてしまうのです。調査票でできないようなところの聞き取り は、本当に精通したプロに行ってもらわないと駄目なので、こういう公的な中皮腫登録 と、我々のような先進的なNPOの、共同的な活動をミックスしながらやっていくこと が、今後の法律の中に必要なのではないか。これは是非、登録制を考えながらやってい ただきたいと思います。 ○土屋座長  大変実務的なお話、ありがとうございました。いまの名取委員の説明にご質問ありま すか。 ○岸本委員  名取委員が言われるとおりだと思います。私もいま10人ほど病院で中皮腫を診ていま すが、患者のほうに、自分はアスベストと関係ないというように、思い込みというのが あるのですね。いわゆる職歴を聞くプロが絶対に要るのです。あるだろうと思って聞く のか、ないと思って聞くのかで全然違ってしまう。私の部下にいくら言っても職歴を聞 かないで、いまでも私が聞けば出てくるというようなことで。例えば家を設計する方 は、自分は全然関係ない世界だから関係ありませんというように思い込みというのがあ って、それでも、例えば30年前に何かなかったですかとか、40年ぐらい前はどうですか と言うと、そういえば16歳のときに海軍工廠に1年いたというようなこともあるので、 やはりそういういわゆる聞き取りの専門家が必要です。診断の専門家も必要なのです が、聞き取りの専門家を養成するというのが、名取委員が言われるとおりで非常に大切 だと私も思いました。 ○土屋座長  登録の中枢機能は公的でやるにしても、その手足はかなり遊軍的に動けないと難しい ですね。よろしいですか。課長は何かありますか。 ○労働衛生課長  この後ろに森永委員からの提出資料「疾患のサーベイランスと登録制度」。その中に 中皮腫登録制度に基づく中皮腫パネルとか、大阪での実例、中皮腫登録制度が各国でい つ立ち上がったかなど。こういう資料がありますのでご説明します。 ○中央じん肺診査医 資料7−3を説明させていただきます。実は、森永委員から提出 された資料は英語で、それを事務局で訳して簡単にまとめたものです。  この資料においては、やはり疾患のサーベイランスをする上で登録制度は必要である というような内容が書かれています。それは1頁の1に書かれていますように、中皮腫 も、中にはちゃんと診断をしないと中皮腫でないものも含まれているので、まずは、疑 われるものは中皮腫の登録制度に登録をして、それから専門家による中皮腫パネルのよ うなものをして確定診断をしていく必要があるというのが1点目。  2点目は登録をするに当たって、どのように患者を拾い上げていくかです。死亡診断 書では中皮腫である方でも、例えば交通事故で亡くなった場合は、死因は交通事故とな ってしまうわけで、診断書だけから中皮腫の患者を全員拾い上げることには少し限界が あるので、別の情報源等を用いて登録をする必要があるのではないかということ。  3点目は諸外国の中皮腫登録制度が、何年から始まって、その運営はどのような団体 を主体としてなされているかということです。運営団体は見ていただくといろいろあり ますが、じん肺部会、大学や研究所。先ほどお話があったイタリアでは、イタリア病理 学学会というのが運営団体として登録制度を行っているということです。  次の3枚目のTable2においては、アジアにおけるがん登録制度はこういう地域で取り 入れられているというものです。簡単ですが、資料の説明を終わります。 ○土屋座長  どうもありがとうございました。この資料に関して何かご意見はございますでしょう か。 ○岸本委員  大阪は中皮腫パネルというのは非常に歴史がある所で、私もかなり前から参加させて いただきました。ただ残念なことに大阪中皮腫パネルはもう中断してしまっています。 3年前からがん助成金のほうで年2回、中皮腫パネルを復活させて広島大学でやってい まして、私も計5回、全回出席させていただいたのですが、やはり、病理の先生のあい だでもその診断にかなりの差がある。かなり甘い診断をする先生と、厳しい診断をする 先生がいるということで、温度差が非常に大きいなと、私も臨床家として実感しており ます。ですから、この登録制度というのを意識したときに、この中皮腫パネル、まず在 りきではないかと思っています。  私もあとで報告させていただきたいと思っていますが、いまの日本の現状は、組織を 取って、きちんと組織診断で中皮腫というような体制をとっている施設が非常に少ない と思います。今後これは、いろいろ補償の問題にも、新法ができても問題にもなりま す。本当に中皮腫である方には補償をしなければいけませんが、画像だけで中皮腫だと か、細胞診で本当に中皮腫の細胞かどうかわからないものにも、細胞診がクラス5でレ ントゲンが中皮腫だから合わせて一本というような感じの中皮腫という診断を、まだや っていらっしゃる機関が多いと思います。日本全体の中皮腫の診断のレベルアップのた めにも、中皮腫パネルという病理組織学的な検討も医学的にやっていく必要があるので はないかと思っています。 ○土屋座長  エックス線診断だけではなく病理の講習会というか、パネルを開かないといけないと いうことかと思います。ほかにご意見ありますか。かなり問題点が明らかになってきま した。 ○労働衛生課長  中皮腫登録制度については岸本班でも1つの研究課題として、どのような形がいいの かということで調査して、いずれおまとめいただくことになるのかなと思っています。 今回の骨子にはまだ出ていませんが、中皮腫の登録制度、診断パネルが必要だというこ とは、いまの議論を踏まえて報告書にも入れておく必要がありますね。 ○土屋座長  そうですね。是非お願いします。ほかにご意見ありますか。よろしいですか。ではそ の次の資料8「事業場周辺における臨時健康相談実施状況」について事務局から説明を お願いします。 ○労働衛生課長  これは要するに住民の不安解消という意味で、もう何回も、8月からやってきたもの です。ご覧になったとおりで、第1回は9月22日までに全部終わっていまして、広島、 呉でも相談会は13人、講演会はありませんでした。ただ、もう1回やってくれという住 民側からの要望があり、2回目をやった所があります。それが下の所ですが、神奈川 は、横須賀のあと鶴見になっていますが、鶴見の場所がちょっと違います。講演会は88 名、相談会は25名。兵庫は60名の58名、29、13と。岡山はなしで20名。やはり2回やっ ても、尼崎は住民も多いし、エリアも広がっているというようなことで、この辺は、常 設の相談システムも、これから見て必要ですが、一応は、労働基準局や近くの労災のア スベストセンターに行けば、相談には応じるという形にはなっていますので、一応、こ ちらの方々には紹介しているはずです。 ○土屋座長  ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。最後に、5回にわた ってやってきましたので、次回、報告書をまとめないといけないということで、報告書 の骨子について事務局から説明をお願いします。 ○労働衛生課長  これは、今日議論していただくほどのこともなかろうかと思いました。一度お出しし ていますが、住民の健康管理についての(2)住民に対する検診の考え方という所は、 今回議論していただいた内容に変えております。(3)具体的な検診の進め方というと ころです。「石綿健康被害の実態調査について」というのが3にありますが、この課題 の所でしょうか。先ほどご議論がありました中皮腫登録制度の創設と中皮腫診断パネ ル、これを課題として是非やるべきだということを書き込ませていただくことになろう かと思います。今回のご議論を踏まえて、肉付けしたものを次回には出させていただき たいと思っております。 ○土屋座長  それと、検診に何か変わる呼び名ができるといいですね。確かに誤解を生むと、かえ って不安も。 ○労働衛生課長  実態は検診と同じことをしているわけですが、これは疫学調査なのですね。 ○土屋座長  対象となる方にもわかりやすく、また誤解を生まないというような何か。次回までに 委員の先生方も是非知恵を絞っていただいて。こういう呼び名だと皆さんが理解しやす いというのがあるとよろしいかと思います。これは宿題といたします。その他あります か。 ○名取委員  直接今回のことには関係しないのかもしれませんが、厚生労働省で石綿に関する健康 管理の委員会は、たぶんこれしかないと思いますので、ちょっと発言だけさせておいて いただきたいと思います。今後、建物の解体に伴うアスベスト飛散というのがいちばん 懸念されるわけです。そうすると、その労働現場については労働安全衛生法で縛りがあ るのですが、その建物自体の法律というと、ビル管理法で、これは厚生労働省の管轄に なるのですね。あとは建築基準法で一定のそういうこともできるのですが、ビル管理法 についてやはり一定の改訂が必要です。  例えばシックハウスなどの問題のときも、建築、国土交通省のほうで検討すると同時 に、厚生労働省のほうでも、健康管理上一定の指針を出して検討したという経緯が、た ぶんあると思うので。国土交通省のほうは、建築基準法の改正を含めて一生懸命取り組 もうとしていると伺っております。ビル管理法の観点から石綿の濃度、建物の中で健康 に暮らす石綿濃度というのが必要です。一酸化炭素とかいろいろな粉塵等の物質とか、 ネズミとかが入っていたりする法律ですが、ビル管理法の中に、アスベストの規制が全 く入っていないのです。ビル管理法の講習会では、石綿の説明がノートに書いてはある のですがね。  その辺是非、ここでお話するのは適当かどうかわからないのですが、厚生労働省の中 で、ビル管理法を、アスベストの対策としてどういう形で改正するのかということを、 是非ご理解いただきたいなと。これは大事な問題になってくると思うので、その点を、 是非課題として追加できれば大変助かると思います。今後検討する課題とかですね。 ○労働衛生課長  要するに名取委員のお話は、各環境においてアスベストの計測、並びに環境基準と言 いますか、そういうものをきちんと設定して作業すべきではないか、なければ、調査研 究でもなんでも、きちんと順序を追って始めるべきだというように解釈します。それで ビル管理法について、これは現在、健康局生活衛生課が管轄していると思いますので、 それは教えてあげたいと思います。一般大気環境については環境省大気部門の所轄にな るかと思います。ただ、そこにも全然入らない部分もありますので、これは。要するに 私ども労働基準局労働衛生課としての。 ○名取委員  ただ、国民のほうからみると、すきまのない対策をしてほしいのでビル管理の件、ち ょっと頑張っていただきたいと思っていますので、是非よろしくお願いします。 ○土屋座長  すきまがないように。 ○労働衛生課長  わかりました。地下道とか吹き抜けになっている駐車場、あそこにはアスベストの吹 き付けが結構あると思うのですが、あそこは管轄ないのですね、実際は。 ○土屋座長  国土交通とかではないのですか。 ○労働衛生課長  国土交通は駐車場の、屋根付きの屋根の所まで私は知りませんと言いますね。あれは ビルの中に入らないですね。 ○土屋座長  そうなるとね。うちの管轄ではないと言い張って。そういうのは困るということで、 特にビル管理法は大きな法律なのでそこはきちんと。 ○労働衛生課長  それはビルに入らないのです。 ○労働衛生部長  委員のご要望ということで。 ○労働衛生課長  伝えます。 ○土屋座長  連携をよくしていただいて。 ○労働衛生課長  ただ、管轄に曖昧な部分があって。だから、縦割りが悪いというように言われます が、縦割りをきちんとさせないと。 ○土屋座長  そこは内閣府などが責任もっていただかないと。 ○労働衛生課長  わかりました、それは。 ○土屋座長  よろしくお伝えください。 ○岸本委員  先ほどの資料9の3の(2)人口動態統計を利用した中皮腫の死亡者調査というのが 私の研究班の命題で、総務省の許可をもらって平成15年に亡くなられた方878例の、死 亡者名と主治医の名前をいただいて、遺族の同意の手紙を801枚送ったところです。兵 庫県は、俵木室長の所の許可がまだ得られていないということで、74例はまだ送ってお りません。現在、遺族の方から同意が得られた例が67例で、拒否された例が11例。もう 住所がなくて、遺族がいなかった所が11例。このデータは昨日までのデータです。遺族 の方には、11月10日までに返事をいただきたいということでお出ししております。同意 が得られた方々に関しては、担当された病院のほうへカルテ、レントゲン、病理組織等 をお貸しいただくような依頼状をお出ししておりますが、まだ病院からの返事は返って いないというのが現状です。今後、是非協力をしていただいて、この追跡調査をやって いきたいと思っております。  また、現在治療中の中皮腫患者についての情報収集ということで始めております。中 皮腫という診断に関しては、先ほど私が申しましたとおり、組織診断が必ずしもできて いないという現実にいま当たっていまして、この問題があろうかと思っています。現在 生きていらっしゃる方は、やはり問診が大切で、主治医も本人も、アスベストとは関係 ないだろうという方を面接させていただくと、実はアスベストばく露歴が出てきたとい うようなことがありますので、やはり現在治療中の患者の職歴調査というのが、今後大 切になるだろうと思いますので、対象を広げて頑張っていこうと思っております。  中皮腫パネルに関しては、この878例と現在治療中の患者の病理組織は、分担研究者 の広島大学第2病理学教室の井内康輝教授の所にすべてお送りして、組織標本を散逸さ せずに、1カ所で検討していただく。ただ病理の先生は専門医数人で集まって、パネル 的なものを開いていただくという予定にしております。まだ研究は始まったばかりであ まりデータがありませんが、鋭意努力していきたいと思っています。 ○土屋座長  どうもありがとうございました。ほかに何かご意見ありますか。よろしいですか。で は事務局から次回の予定をお願いします。 ○労働衛生課長  次回の日程はこれから調整させていただきます。ただ、もう11月に入りましたので、 次回は今月末か来月初めぐらいに設定させていただきたいと思います。本当はもう少し 早くてもいいのか、3週間ぐらいですから。あればこちらも少しは作業ができるかなと 思っておりますので、またよろしくお願いいたします。 ○土屋座長  ご協力ありがとうございました。これで閉会いたします。             照会先:労働基準局安全衛生部労働衛生課(内線5493)