資料5


医療計画作成ガイドライン(たたき台)について


医療計画作成ガイドライン・たたき台
(平成17年11月30日)


 この「医療計画作成ガイドライン」は、あくまでも現段階における議論のたたき台として提示するものであり、本検討会における御意見を踏まえ、技術的な修正を行い、本年末までに公表することとしたい。



【目次】

I.はじめに

II.医療計画の作成に向けた政策立案の流れ

 1 医療計画作成の準備

  1)基本的考え方
 (1)3つの課題
 (2)3つの視点

  2)体制づくり
 (1)予算
 (2)組織
 (3)情報

 2 医療計画作成までの過程

  1)基本的な情報の収集と整理
 (1)既存の統計の整理
 (2)補足的情報の取得
 (3)これまでに作成された医療計画の評価

  2)課題の抽出
 (1)医療計画作成のための作業部会の設置
 (2)課題の整理
 (3)課題の発見

  3−1)課題分析(必要な医療資源の把握)

  3−2)課題分析(医療資源の確認)

  4)解決方法の検討

  5)解決方法の決定

  6)最終確認と意思決定

  7)事業の実施と評価

III.おわりに



I.はじめに

 地域の保健医療提供体制の確保に関しては、医療法(昭和23年法律第205号)第1条の3に基づき、国及び地方公共団体が、国民に対し良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を確保するよう努める責務を有している。
 地域の保健医療提供体制の確保に当たっては、患者の傷病を治療するために医療があるということ、すなわち患者が医療サービスの基本に位置しているということ、また、そのような中で、患者の治療のため、医療提供者が専門家として、患者とともに治療という共同作業を進めていくことが求められる。もとより、その際には、限られた医療資源を地域の保健医療提供体制の中でどのように有効に活用していくのかという視点も忘れてはならない。
 あわせて、地域で望ましい保健医療提供体制を確保していくためには、住民自らが健康づくりについて普段から意識して、保健医療提供体制の理解を深めていくことも重要である。行政はもとより医療提供者をはじめとする関係者は地域社会における日頃の取組を通じて、より一層、健康づくりに関して住民が学ぶ環境を整えていくことが必要である。
 こうした上で、住民・患者、医療提供者そして国・都道府県が、共通した問題意識を基に、住民・患者が安心して日常生活を過ごすために必要な患者本位の医療サービスの基盤づくりに取り組む必要がある。
 具体的には、自分が住んでいる地域の医療機関で現在どのような診療が行われており、自分が病気になったときにどのような治療が受けられ、そして、どのように日常生活に復帰できるのか、また、地域の保健医療提供体制の現在の姿はどうなっており、将来の姿はどう変わるのか、変わるためには具体的にどのような改善策が必要かということを、住民・患者の視点に立って数値目標を立てて分かりやすく示すことを原則とした医療計画を作成することが求められる。

 これらを踏まえ、また、平成17年7月の「医療計画の見直し等に関する検討会」の中間まとめに基づき、今般、都道府県が具体的に医療計画を作成するためのガイドラインを示すこととした。


II.医療計画の作成に向けた政策立案の流れ

 1 医療計画作成の準備

  1)基本的考え方
 今後の医療計画は、従来の病床数という量的な観点のみに限らず、地域医療の質を把握し改善するものであること、住民・患者に分かりやすいものであること、数値目標を示し事業の評価が可能なものであること等が求められる。また、医療サービスの提供側だけでなく、医療サービスを受ける住民・患者側の視点を加味したものとすることが重要である。さらに、医療計画に記載された数値目標を達成するために、交付金・補助金、政策融資そして診療報酬の評価などを通じて、都道府県は国と医療関係者と共同して質の高い効率的な保健医療提供体制を構築していく必要がある。

(1)3つの課題
i.病床数の量的管理から医療の安全・質を評価する医療計画へ
 これまでの医療計画は、基準病床数制度などを通じた地域の医療資源の適正な配分といった量的な整備が主たる目的であった。これからは、こういった量的な観点のみならず、医療機能や、医療の質の改善を目的とした医療計画に見直す必要がある。

ii.住民・患者に分かりやすい医療計画へ
 これまでの医療計画は、ひとつひとつの政策課題が誰に対してのものであり、そして誰が実施するものであるのかについて、十分明確にされてこなかった。このため、新しい医療計画では、住民・患者が医療サービスの利用者であることを十分認識して、都道府県が住民・患者に対し、現在の保健医療提供体制の姿と将来の保健医療提供体制の姿を客観的に提示できる内容に見直す必要がある。これによって、国・都道府県そして医療関係者がどのような役割と責任の中で対応しているのかについて明確になるとともに、住民・患者に対する政策立案の透明性も確保される。

iii.数値目標を示し評価できる医療計画へ
 これまでの医療計画は、数値目標を示すことが少なく、医療計画の事業の達成状況を客観的に評価できる内容ではなかった。このため、これからは、医療計画の事業を適切に評価し、次期医療計画の作成に役立てるということも医療計画を通じた政策立案の過程として位置付ける必要がある。また、地域医療を把握するための指標として客観的なデータを公表し、すべての住民・患者が利用できるような環境を整備することが重要である。

(2)3つの視点
 今後の医療計画は、医療サービスの提供側だけでなく、医療サービスを受ける住民・患者側の視点を加味し、「住民・患者」「医療提供者」そして「都道府県」の3つの視点から作成されたものである必要がある。
 具体的には、患者を中心とした地域の医療提供者の医療機能と医療提供者間の医療連携の状況を医療計画に明示することによって、住民・患者が、自身の診療のために地域の医療提供者がどのような連携体制を組んでいるのか、更に、患者の病態に応じて適切な他の医療提供者にどのように紹介するのかといった仕組みなどを分かりやすく理解できるようにし、その結果として、住民・患者が安心感をもてるようにする必要がある。また、かかりつけ医が患者に他の医療機関を紹介する際、また、患者がかかりつけ医から紹介をしてもらう医療機関を選択する際、有用で、かつ客観性や検証可能性が担保された医療の実績情報(アウトカム指標)が提供できる体制を構築しなければならない。
 こういった取組により、医療連携体制を通して医療情報が患者と医療提供者との間で共有されることによって、患者自身も自分の病気を治すために努力するという医療への参加意識が持ちやすくなるとともに、かかりつけ医から納得して適切な医療提供者の紹介を受けることができるという、患者とかかりつけ医の信頼関係に基づく質の高い効率的な保健医療提供体制が構築できることになる。
 医療連携体制とは、一つの医療機関だけで完結する医療から、地域の医療提供者が医療連携によって患者の治療を分担、完結するという医療を推進するものである。そして、医療連携体制は、患者が受診する医療機関を選択することができ、かつ、医療機関相互の協力と切磋琢磨による医療サービスの質の向上につながるものである。このため、医療機関は患者の退院に際し、他の医療あるいは介護提供者に円滑に引き継がれるよう退院患者に対する支援を行うことが重要である。
 新しい医療計画では、医療サービスを受ける住民・患者、医師・歯科医師・薬剤師・看護師など直接診療に関与する者、保健事業を実施する者、保健・介護・福祉サービスを担う市町村、医育機関や臨床研修病院の代表など地域医療に関与する者が参加し、それぞれの役割を果たしながら、一定の理解の下に合意し作成していくことが求められる。
 なお、その際、都道府県の役割は、自治体立病院の設置を通じたこれまでの直接医療サービスを提供する役割から、医療サービスに係るルールを調整する役割、医療サービスの安全性や医療サービスへのアクセスの公平性を監視する役割等へ転換しなければならない。その上で、医療計画の作成に当たっては、(1)住民・患者に対し各医療提供者の適切な医療機能の情報が提供される基盤整備を推進するとともに、(2)すでに各地域で自主的に取り組まれている医療連携をより一層推進するためにどのような支援ができるのかという視点に立って検討する必要がある。

  2)体制づくり
(1)予算
 具体的に医療計画の作成に要する費用は、作成のための部会の設置やそこでの検討に要する諸経費、医療計画の作成に資する情報を集めるための調査費用などが考えられる。また、医療計画の作成過程で要する費用だけでなく、医療計画に基づく事業の実施過程、事業の終了後の評価過程についての費用も勘案する必要がある。

(2)組織
 医療計画を作成する組織体制については、都道府県においていろいろな選択肢が考えられる。様々な地域の関係者の意見集約を通じて、医療計画を着実に作成していく組織づくりが求められる。
 また、今後のわが国の保健医療提供体制に関しては、患者と医療提供者との信頼関係の下に、患者が自らの健康の保持増進に努力するという姿勢を基礎として、患者に医療への参加意識を持ってもらうとともに、疾病予防(保健)から治療、介護(福祉)までのニーズに応じた多様なサービスが地域において一貫して提供される患者本位の医療を確立することを基本とすべきであり、疾病予防(保健)に係る地域の計画や介護(福祉)に係る地域の計画とも整合性のとれた医療を提供する体制の確保に関する計画(医療計画)を作成する必要がある。このため、都道府県が医療計画を作成するに当たっては、地域住民の意見を十分踏まえながら、健康増進計画や介護保険事業支援計画等保健や福祉に関連する計画と連携し、一貫したサービスの流れを地域で確立することを念頭に、都道府県内部の組織が連携することが求められる。

(3)情報
 医療計画の作成過程においては、情報の収集分析と整理は不可欠である。医療計画の作成過程、実施過程、評価過程どの段階においても情報の収集分析と整理が重要である。
 また、情報の収集に当たっては、国や医療関係団体の調査内容と極力重複することなく、効率的に実施する必要がある。このためにも、国や医療関係団体あるいは過去の都道府県や市町村で行った調査内容をまず収集し、整理することとし、その上で足らない情報を自ら補うことによって費用対効果の高い調査を行うようにすべきである。なお、情報収集や調査の過程においては、把握した情報について、事後的に評価・検証することとなることを念頭において進めていくことが重要である。

i.作成過程の情報
 医療計画の作成過程で必要となる第一の情報とは地域の医療機能と患者の疾病動向である。このため、既存の統計調査結果等を通じて、医療計画作成に関する議論の材料となるような情報を多く収集しておく必要がある。

ii.執行過程の情報
 医療計画に基づく事業の執行過程では、実施される事業の進行管理のための情報が必要となる。このため、あらかじめ、医療計画に記載された内容の経過状況を把握できる体制が必要である。

iii.評価過程の情報
 都道府県が具体的に設定し、医療計画に明確に記載した数値目標がきちんと実現されているか評価しなければならない。このため、数値目標を設定した当時の状況と現況について比較できるようにしておく必要がある。また、ここで得られた情報は次回の医療計画の作成にとって貴重な情報となりますので、適切な評価体制が必要である。

iv.住民・患者に対する情報の開示
 医療のような住民・患者に関心が高く、かつ、その内容が専門的であるものについては、情報の発信者(専門家、行政機関、事業者等)と受け手である住民・患者の間の情報の格差を最小化する仕組みが必要である。医療計画を住民・患者の意向を十分に反映させて作成するためには、地域の医療関係団体や学会、行政関係者等が有している情報を住民・患者に分かりやすい内容にしていく必要がある。このため、都道府県において把握した情報については、住民・患者と医療関係者の間の情報の格差に配慮しながら、開示・公開を進めていくことが求められる。


 2 医療計画の作成までの過程

  具体的な医療計画の作成に当たっては、まず地域にとっての課題とは何かを発見するための「基本的な情報の収集と整理」の段階から始まる。医療計画の作成過程においては、様々な利害関係者による活発な議論を踏まえて行われる。また、この前段階として議論の前提となる地域の現状に関する情報の収集が求められよう。
 次に、地域の保健医療提供体制で見られる様々な課題の中から、どれが医療計画で取り組むべき課題なのかという「課題の抽出」の段階に入ることになる。課題が抽出されたら、その課題がどのような背景によって起こっているのかを分析しなければならない。その上で課題解決のために改善すべき点は何かを明確にする。これが「課題分析」の段階である。
 さらに、抽出された課題を改善するための方法を検討するのが「解決方法の検討」の段階である。課題解決に必要な医療資源は何かを考え、そして医療資源の現状について情報を集め、どういった対応が必要になるのかについて検討する。なお、課題によっては、当然のことながら、改善のための最適な方法は異なる。医療関係者等の議論を参考にしつつ、地域の医療資源と照合しながら解決方法を検討する必要がある。その上で、最も効果的な解決方法を選択するのが「解決方法の決定」の段階である。
 そうした経過を経て、「最終確認と意思決定」によって医療計画が作成される。
 その後は、医療計画に基づく「事業の実施と評価」である。医療計画に基づいた事業の経過を把握し、次の医療計画の作成につなげるためにも、事業の実施状況を管理することや、随時評価を行って計画の進行管理を行うということも求められる。
 以下では、具体的なそれぞれの段階について述べていくこととする。

  1)基本的な情報の収集と整理
 議論を始めるには、地域の現状についての情報が必要である。これは、医療計画作成の最初の一歩になる。このため、情報を収集する体制は非常に重要である。

(1)既存の統計の整理
 国をはじめとした様々な公的機関や関係団体等による統計は貴重な情報である。具体的には以下の統計が医療計画においては役に立つ情報を含んでいると考えられる。死亡率や、高齢化率、死因順位、医療費など地域の医療の状況を把握するために、基本的なデータを揃えることが必要となる。
人口動態統計
国民生活基礎調査
学校保健統計
患者調査
国民健康・栄養調査
  保健・衛生行政業務報告
(衛生行政報告例)
保健福祉動向調査
地域保健・老人保健事業報告
  介護サービス施設・事業所調査
医療施設調査
病院報告

など

(2)補足的情報の取得
 (1)の調査の内容は、医療サービスの提供体制、患者のニーズ等といった現状に関して基礎的で全国的な情報である。このため、より詳細に地域の現状について調査をする必要がある場合は、以下の方法によって把握することができる。

i.アンケート調査
 各種の医療関係団体に協力していただくアンケート調査や、住民を対象としたアンケート調査によってどのような課題が地域で重視されているのかなど、これまでの限られた情報では分からないものを得ることができる。

ii.ヒアリング
 住民や医療関係者を招いたヒアリングといった情報収集の方法もある。医療計画作成のための作業部会などに個別に招くということのほか、公聴会など公開の場を通じて広く意見を聴くことも可能である。

iii.その他
 近年、多くの自治体でも実施されているインターネットを通じてパブリックコメントを求めることなども有用な手段である。また、住民だけではなく都道府県の中で他の部局が持っている情報も有用な情報であるため、積極的に連携をとるべきである。

(3)これまでに作成された医療計画の評価
 従来の医療計画は、目標も明確でないばかりでなく、実現するための手段や関係者の役割もはっきりとしない面があった。
 このため、既にこれまで改訂を重ねている医療計画について、前回の医療計画に関する評価や、評価結果を通じた次回に活かそうという流れを確立し、これまでの医療計画について何が問題だったのか、または何がうまくいったのかについて、検証をして次回につながるようにする必要がある。

i.これまでの目標の達成度の評価
 従来の医療計画でも目標を掲げているところは多いが、実際の評価に不可欠な定量的な数値目標を載せているものは非常に少ないことが明らかになっている。事後的に比較評価するための数値目標がないと主観的な評価になってしまう危険性があり、評価は非常に難しくなる。このため、定量的に現状と理想像のギャップをとらえることが必要である。

ii.達成に役だった要因・達成を阻害する要因の検証
 医療計画に関して評価する際、どういう手法が目標達成に資するのか、逆にうまくいかなかった場合では、何が達成を阻害する要因だったのかについて検証してみることも重要である。

iii.医療計画の本体書の評価
 医療計画の本体書を評価することも考えられる。近年では、最終的にウェブ上で公開するという場合も多いと思うため、分かりやすさに配慮した医療計画づくりも大事な要素である。医療計画は都道府県が発信する医療関係の貴重な情報媒体であるため、内容の見やすさや、利用のしやすさについてよく確認し、作成された医療計画をどのように見てもらうのかについても、検証するべきである。

  2)課題の抽出
 課題の抽出に当たっては、医療計画の作成について検討する作業部会の設置を通じて行うことも考えられる。集めた情報について、作業部会において認識を共有する作業がまず議論の前段階として必要であろう。さらに、医療計画作成の第一歩として、地域の「課題」は何かについてまず議論すべきである。

(1)医療計画作成のための作業部会の設置
 作業部会を設置する場合には、メンバーの選定が最も問題となる。メンバーの人数のバランスはもとより、議論の進行においてはパワーバランス、つまり対等にどの参加者も意見を述べることができるように配慮することが重要である。特定の専門家ばかりが発言をしたり、議論の中心となったりすることは避ける必要がある。
 また、作業部会の設置に当たっては、議論の過程においても、透明性を確保することや公開で開催することが求められる。広く議論の過程を様々な人々に開示し適宜意見を募ったりすることも考えられる。

(2)課題の整理
 この段階では最終的に課題を特定する段階ではないため、自由にそれぞれの立場から率直に課題を出し合うことが重要である。住民を入れた作業部会を開催するならば、直接的には医療に関すること以外の課題であっても、住民の発言は十分に地域の問題を知るためのヒントになる。

(3)課題の発見
 他の地域との比較によって、自分の地域だけを見ていては分からない問題が発見されることもある。1)の「基本的な情報の収集と整理」の段階で集めた情報を他の都道府県や全国平均と比較することによって気がつかなかった課題が見えるため、これらについても検証する必要がある。

 3−1)課題分析(必要な資源の把握)
 課題がある程度抽出された場合は、その課題の解決方策を考える必要がある。一方で、解決方策を考える前に、現在の医療資源がどういう状況なのか把握することも必要である。

(1)必要な医療資源の確認
 課題について医療関係者、専門家などが中心となって解決に必要な医療資源は何かについて議論しなければならない。一方で、課題の解決のために必要な医療資源については、どのように効率的に配分するかについても念頭においた上で話し合う必要がある。

(2)何が、どのくらい足りないのかに関する明確化(定量化)
 課題とされた状況については、現状との間にどれだけギャップがあるのか、どの程度改善されることが望ましいのか、そして、いつまでに改善されるべきかに関して、明確にする必要がある。これが医療計画の中で「数値目標」となるものである。当然、後に評価ができるように、数値化した目標とすることが不可欠である。

 3−2)課題分析(医療資源の確認)
 課題の解決のために必要な医療資源が分かった場合、利用できる医療資源が今地域にどれくらいあるのか、また、どのような状況であるのかについて、確認する必要がある。
 医療資源に関する情報は、実際の医療提供者や地域の医療提供体制の整備に責任を有する都道府県が持っているが、ここでは、単純に数が不足しているといった量的な観点だけではなく、医療サービスの質や効率性といった観点を持つ必要がある。
 また、それぞれの医療提供者がどのような医療サービスを提供しているのかといった医療機能に関する状況や実績なども合わせて情報として収集できれば、なおよい。

 4)解決方法の検討
 課題の解決には様々な方法が考えられる。現在、地域にない医療資源を補うという方法で解決しようとする場合には、都道府県自らが予算をつけ、医療資源を調達することが必要である。また、既にある医療資源を配置し直すというような現状修正型の場合には、例えば医療機関の行動を変容させるような誘因、つまりインセンティブを設定するということもひとつの方法である。これらの選択肢の中から、最も有効と思われる方法を医療計画では用いることとなる。

 5)解決方法の決定
 ここでは、最終的な医療計画に記載する事業を決定する段階になる。それぞれの課題への対応策について、実現性、費用対効果分析、費用対便益分析などを通じて絞り込んでいく。予算など事業の実施のために動員できる行政の資源は限られており、より効果的で効率的な方法を選び出すことが求められる。また、インセンティブとしてどのような手段が有効なのか、医療関係者からも意見を聴くなどして最適な手法を選択するように努める必要がある。

(1)政策科学的分析
 医療計画に記載する事業については、客観的に政策の有効性、効率性を分析することが大切である。投入した予算とそれによって産出する効果を主に効率性の視点から分析する費用対効果分析や、政策が与えるインパクトを社会全体の視点から分析する費用対便益分析などは、既に多くの政策領域で使用されている分析方法である。

(2)医療提供者・都道府県からの分析
 地域の課題として優先度が高いと思われるものについて、医療提供者や都道府県は、日常的に地域医療に携わることから、それぞれ問題意識をもっている。医療計画に記載する事業を決定するに当たっては、これらの意見を反映させることが大切である。

 6) 最終確認と意思決定
 医療計画は、都道府県が、住民・患者に対し、現在の保健医療提供体制の状況と今後の保健医療提供体制の改善状況を分かりやすく示すものである。医療計画作成過程での透明性の確保はもちろんであるが、作成される医療計画そのものについても分かりやすいものである必要がある。医療に関する情報の非対称性の克服に向けた積極的な取組が求められる。
 また、今後の評価のために、作成段階の医療計画が客観的に評価可能なものになっているかどうかなどについても見直す必要がある。

(1)住民のヒアリング
 実際に、住民に作成段階の医療計画を見てもらうのも案として考えられる。

(2)評価可能性
 医療計画は都道府県が設定する数値目標をどのように達成していくのか把握するための政策手段である。特に、事業の実施後の評価については重要となる。できる限り定性的な表現は避け、数値目標を設定することが重要である。これにより、専門家のみならず住民・患者に広く理解できるものにする必要がある。

 7) 事業の実施と評価
 医療計画を作成した後は、医療計画に基づいて事業を実施するとともに、当該事業の実施に関して成果を出すことが必要である。そのためにも、事業の実施を担当する組織とともに、これまで医療計画の作成を担当していた組織も引き続いて関与することが必要である。今後の医療計画は、都道府県が設定した数値目標について、途中段階においても、達成状況を検証しつづける政策の流れを確立するものである。特に重要な事業については、達成状況の経過をどう管理していくのかということが求められる。住民・患者への説明責任を果たすことは、医療計画の全ての過程において求められるべきである。

(1)事業の継続した監視
 医療計画の作成後も事業の実施の検証を目的として、医療計画の作成に携わった組織を活用するというのも1つの方法である。その場合、事業の実施に関して達成度などの進行状況を絶えず公開することで透明性を確保するように心がけなければならない。

(2)事業終了後の評価
 事業終了後は、医療計画において設定した数値目標に関する評価を行い、次の医療計画の見直しにつなげることが必要である。次回の医療計画作成につなげるために、以下のような評価を参考にすることも考えられる。なお、評価に当たっては、そのプロセスも、透明性を確保した形で広く公開されながら行われるべきである。

i.政策の形成過程の評価
 政策の形成過程の評価は、まさしく政策立案に関するサイクルの諸段階に表れる課題を評価するものである。例えば課題を抽出するに当たっては、十分な調査が行われたかどうか、関係者の合意形成を図ったかどうか、また、課題に関する解決方法の検討の段階では、実現可能な解決方法が検討されたか、解決方法に科学根拠があるのか、客観的な評価が必要である。さらに、解決方法の決定段階では関係者の意見を十分に聞いたか、意思決定に住民・患者や関係者がどのように関与したのかがポイントである。住民に対する説明責任を果たすための透明性の確保や住民参加の度合いが評価の対象となる。

ii.政策の実施過程の評価
 作成された医療計画については、そこに記載された事業が正しく実施されているかどうかを評価する必要がある。これは事業の実施に関わる影響度や事業の実施後の評価とは異なり、適切に事業が実施されたかどうかの評価である。従って、事業の途中段階での評価であり、事業の実施に投入された資源や投入に伴う途中段階の成果に対する評価が主となる。いわゆる中間評価又は追跡評価(モニター)といわれる評価が中心で、医療計画の作成やそれに基づく事業の立案に関わった意思決定者や事業の実施者のために行うものといえる。

iii.政策の影響の評価
 政策の影響の評価はまさしく事業の結果の評価となる。そのため、あらかじめ達成すべき数値目標を都道府県が設定して、事業が実施された後の影響を評価する必要がある。また、結果を評価することで、事業の実施方法に問題があったのか、作成した医療計画に問題があったのか、大きな戦略に問題があったのか、それぞれ分析して、次につながる医療計画の改善・改訂に向けることになる。


III.おわりに

 今後の医療サービスのあり方を考えると、患者が必要かつ十分な医療を受け、できるだけ早く入院を終え、必要に応じて介護サービスや在宅医療を利用しながら自宅で日常生活を過ごすことは、患者の生活の質(QOL)を向上させるという観点から重要である。
 国民の医療に対する一層の信頼を得るためには、今後の保健医療提供体制のあり方として、患者の視点を尊重し、患者の選択を通じて医療の質の向上と効率化を図ることによって、患者が望む医療を実現していくことが求められる。医療機関からの情報提供の促進により住民・患者が容易に、かつ、理解できる形で医療に関する多様な情報にアクセスできること、また、診療情報の提供の促進により患者の選択を尊重した医療が提供され、患者も自覚と責任をもって医療に参加することによって医療提供者との共同作業を行うことが重要であり、国はそのための基盤を整備する必要がある。
 また、保健医療提供体制の整備においては、国民皆保険の下で、国民がどの地域においても、安全・安心で一定水準の医療が受けられることを前提とした上で、都道府県が地域保健・健康増進体制と医療提供体制そして介護福祉提供体制との連携を充実・強化し、限りある保健医療資源の有効な活用に向けて、都道府県が主体的に取り組めるようにすることが重要である。
 さらに、医療関係者は、患者一人一人の医療ニーズに応じた適切な対応が求められ、一つの医療機関だけでなく地域全体で患者の医療ニーズを受け止める必要があり、このためにも、かかりつけ医(診療所・一般病院など)における日常的な医療を基盤としつつも、必要に応じ、適切な医療が受けられるよう地域の医療資源を最大限に活かした医療機能の分化と連携のより一層の推進が不可欠である。
 このたびの医療計画の見直しは、国、都道府県そして医療関係者の共同作業によって、質の高い効率的な医療サービスを地域で構築することを目的として行われるものである。
 このためにも、本ガイドラインは、この共同作業に資するものとなるよう不断の見直しを行う必要がある。


 この「医療計画作成ガイドライン」は、医療計画制度に関する学識経験者の下で作られたものを厚生労働省医政局指導課において加筆修正したものである。

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