労働時間等設定改善指針 項目案

 昭和62年の労働基準法改正による週40時間労働制に向けた取組、平成4年6月に策定された「生活大国五か年計画」における年間総労働時間1800時間の目標設定、さらに同年9月の時短促進法の施行等により労働時間の短縮が進んできた結果、平成16年度には年間総実労働時間は1,834時間となり、所期の目的をおおむね達成。
 しかし、その内実を見ると、「労働時間分布の長短二極化」が進展し、年次有給休暇の取得率が低下。また、長時間労働等業務に起因する健康障害が社会問題化。
 このような情勢の中、全ての労働者について年間総実労働時間1,800時間という一律の目標を掲げることが時宜に合わなくなり、今後は、労働者の心身の健康が保持されるとともに、労働時間の短縮に加え、家庭生活、地域活動及び自己啓発等に必要とされる時間と労働時間を柔軟に組み合わせ、心身ともに充実した状態で意欲と能力を発揮できる環境を整備していくことが必要。
 このような趣旨の下、この指針は、労働時間等設定改善法に基づき、事業主等が、労働時間等の設定の改善について適切に対処するために留意すべき事項について定めるもの。

I  労働時間等の設定の改善を行うにあたっての基本的考え方
   労働時間等の設定の改善の趣旨
 「労働時間等の設定の改善」とは、労働時間やその時間帯、休日や休暇の日数や時季などの労働時間や休日・休暇に関する事項を、労働者の生活や健康に配慮して定め、その改善を図ることをいう。労働時間等の設定の改善により、効率的な事業運営の観点からも、企業活動の担い手である労働者が着実に成果を上げられるようにし、企業の活性化を図ることも重要。
 労働時間の短縮の推進
 「労働時間等の設定の改善」には、「労働時間の短縮」も含まれる。今後も、労働者の生活や健康に配慮する上で、労働時間の短縮を推進することが必要であることから、事業主は、所定外労働をさせないこと、及び、年次有給休暇を完全消化させることを基本とし、総労働時間の短縮を図ることが重要。労働時間の短縮は、業務の効率や創造性を確保し、生産性を高めるという観点からも重要。
 多様な事情への配慮と自主的な取組の推進
 事業主は、労働時間等の設定の改善を図るにあたっては、労働者と十分に話し合い、労働者の生活と健康に係る多様な事情を踏まえつつ、自主的な取り組みを進めることが重要。
 他の計画等との連携
 事業主は、労働時間等の設定の改善を図るにあたっては、「少子化社会対策大綱に基づく重点施策の具体的実施計画について(平成16年12月24日少子化社会対策会議決定)」を参考とするとともに、次世代育成支援対策推進法(平成15年法律第120号)第7条第1項の規定に基づく「行動計画策定指針」等を踏まえ、少子化対策にも資するよう留意することが重要。

II  労働時間等の設定の改善のために必要な措置
   事業主は以下の事項に留意すること。
   事業主が講ずべき一般的な措置
(1) 実施体制の整備
 (1)  実態の把握
 使用者は、その雇用する労働者の始業・終業時間、有給休暇の取得、労働の密度等労働時間等の実態を正確に把握すること。
 (2)  労使間の話合いの機会の整備
 労働時間等の設定の改善に関して、企業内において普段から労使による話合いが行われることが必要であること。
 事業主は、労働時間等設定改善委員会をはじめとする労使間の話合いの機会を整備すること。なお、一定の要件を充たすことを条件に、衛生委員会を労働時間等設定改善委員会とみなすことができるので、その活用を図ること。
 このような労使間の話合いの機会を設けるにあたっては、性別、年齢等、あるいは、育児・介護等の経験を加味した構成員とすることが望ましいこと。
 (3)  個別の要望・苦情の処理
 事業主は、労働者の要望・苦情に応じるための担当者や処理制度を整えること。
 (4)  業務の見直し
 事業主は、業務計画や要員計画の策定等により不断の業務の見直しを図ること。
 (5)  労働時間等の設定の改善に係る措置に関する計画
 上記(1)から(4)を踏まえた上で、具体的な措置の内容等に係る計画を作成し、これに基づき、労働時間等の設定の改善を推進するとともに、随時、その効果を検証し、必要に応じて見直しを行うこと。
(2) 労働者の実情に応じた労働時間等の設定
 ・  時季や日に応じて業務量に変動がある事業場については、変形労働時間制、フレックスタイム制を導入、活用すること。
 ・  労働者の創造性や主体性が必要な業務に携わる労働者については、専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制を導入、活用すること。
(3) 年次有給休暇を取得しやすい環境の整備
 ・  事業主は、年次有給休暇の完全消化を目指し、取得しやすい雰囲気づくりや、労使の年次有給休暇に対する意識の改革を図ること。
 ・  年次有給休暇の取得促進を図るためには、特に、計画的な年休取得の一層の推進を図ることが重要。計画的な年休取得は、労使双方で1年間の仕事の繁閑や段取りを互いに話し合い、双方にとって合理的な仕事の進め方を理解し合うためにも有効な手段と考えられる。
 ・  事業主は、年次有給休暇の取得促進を図るため、業務量を十分に把握し、個人別年次有給休暇取得計画表の作成、年次有給休暇の完全取得を前提とした業務体制の整備、取得状況のチェックとフォローアップを行うこと。
 ・  労働基準法第39条第5項に基づく年次有給休暇の計画的付与制度も活用すること。
 ・  週休日と年次有給休暇とを組み合わせた2週間程度の連続した長期休暇、リフレッシュ休暇等の導入・取得促進を図ること。
 ・  なお、半日単位での年次有給休暇の利用について、連続休暇取得及び一日単位の取得の阻害とならない範囲で、年次有給休暇取得促進の観点からその導入を検討すること。
 少子化社会対策大綱に基づく重点施策の具体的実施計画について
 (平成16年12月24日少子化社会対策会議決定)
 年次有給休暇の取得促進
 企業全体に係る労働者一人平均年次有給休暇の取得率
  47.4% → 少なくとも55%以上
(4) 所定外労働の削減
 ・  所定外労働は、あくまでも例外であり、所定内に業務を完了させることが原則。事業主は、その雇用する労働者の健康で充実した生活のため、今後とも所定外労働時間の削減を図ること。特に、休日労働を避け、また、所定外労働を行わせた場合には、代償休日を取得させること等により、総労働時間の短縮を図ること。
 少子化社会対策大綱に基づく重点施策の具体的実施計画について
 (平成16年12月24日少子化社会対策会議決定)
 長時間にわたる時間外労働の是正
 長時間に渡る時間外労働を行っている者 1割以上減少
 労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準
 (平成10年労働省告示第154号)
 1箇月の限度時間 45時間
(5) 労働時間の管理の適正化
 ・  健康障害、事故、生産性阻害を防止する観点から、事業主は、業務が時間的・質的に過密とならない業務運営を図ること。
(6) ワークシェアリング、在宅勤務等の活用
 ・  事業主は、多様な働き方の選択肢を拡大するワークシェアリング、通勤時間を確保する必要のない在宅勤務等の導入等に努めること。
(7) 国の支援の活用
 ・  事業主が以上の取組を進めるにあたっては、特に時間外労働が長い事業場の事業主に対する自主的取組の推進支援、都道府県労働局に置かれる労働時間等設定改善コンサルタントの助言・指導といった国が行う支援制度を積極的に活用すること。(P)
 ・  また、労働時間等の設定の改善に係る措置に関する計画については、同業他社と歩調を揃えてこのような計画を作成し、実施することが効果的と考えられる。このため、同一の業種に属する複数の事業主が労働時間等設定改善実施計画を作成する場合には、法により国の支援が行われるので、そうした支援制度を積極的に活用すること。

   特に配慮を必要とする労働者について事業主が講ずべき措置
 事業主は、個人情報保護に関する法令等の規定を踏まえるとともに、労働者本人の承諾を得て、その労働者の生活や健康に係る事情を把握すること。なお、把握した労働者の事情に関する情報の取り扱いについては、法令等の規定に基づき厳重を期するとともに、こうした情報を知ったことにより、事業主は労働者に対し不利益な取扱を行わないこと。
(1) その心身の状況及びその労働時間等に関する実情に照らして健康の保持に努める必要があると認められる労働者
 ・  健康の保持に努める必要があると認められる労働者について、労働安全衛生法に基づく措置を講じるに当たっては、労働時間の面からも適切に実施するとともに、その健康に配慮した労働時間等の設定を行うこと。
 ・ 労働者の健康を守る予防策として、疲労を蓄積させない、または、疲労を軽減させるような労働時間等の設定を行うこと。(特に、所定外労働の削減に努め、所定外労働時間を月45時間以下に収めること。)
 ・ 所定外労働が多い労働者については、代償休暇やまとまった休暇の付与等を行い、疲労の回復を図らせること。
 ・ 恒常的に所定外労働が多い部署については、業務の見直しを行う他、配置転換を行い、労働時間の削減を行うこと。
 ・  病気休暇から復帰する労働者については、短時間勤務から始め、徐々に通常の勤務時間に戻すこと等円滑な職場復帰を支援するような労働時間等の設定を行うこと。
(2) 子の養育を行う労働者、家族の介護を行う労働者
 ・  子の養育、家族の介護を行う労働者について、事業主は、短時間勤務、始業時間の繰下げ・終業時間の繰上げ、所定外労働の削減、通院日の休暇付与、法定より充実した育児休業制度の導入(時効消滅した年休の繰り越し付与等)等の労働時間等の設定を行うこと。
 ・  出産に際しての父親に対する休暇制度の充実、育児休業を取得しやすい環境の整備等を図ること。
 ・  事業主が自身の職場の仕事と家庭の両立のしやすさを客観的に認識するため、「両立指標」を活用し、自主的な意識改革を行うこと。
(3) 単身赴任者
 ・  単身赴任者については、事業主は、休日の前日の終業時間の繰上げ、及び、休日の翌日の始業時間の繰下げ、休日前後の半日年休の付与等を行うこと。
 ・  また、家族の誕生日、記念日等家族にとって特別な日については、休暇を付与する等配慮すること。
(4) 自ら職業に関する教育訓練を受ける労働者
 ・  事業主は、自ら職業に関する教育訓練を受ける労働者について、有給教育訓練休暇や長期教育訓練休暇、始業・終業時間等の変更、短時間勤務の導入等労働者が教育訓練を受けられるような労働時間等の設定を行うこと。
(5) 地域活動等を行う労働者
 ・  地域活動やボランティア活動等へ参加する労働者に対し、その参加を可能とするよう、休暇の付与、半日単位での年休付与等に努めること。
(6) その他の特に配慮を必要とする労働者
 ・  事業主は、労働者の意見を聞きつつ、その他の特に配慮を必要とする労働者がいる場合、その者に係る労働時間等の設定に配慮すること。

   事業主の団体が行うべき援助
 事業主の団体は、傘下の事業主に対して、労働時間等の設定の改善に関する、専門家による指導・助言、情報の提供、啓発資料の作成・配布等の援助を行うこと。
 なお、事業主の団体がこのような援助を行うにあたっては、一定の条件を充たす場合、政府が行う事業主団体に対する援助事業や助成金制度(P)を活用できること。

   事業主が他の事業主との取引上配慮すべき事項
 事業主は、取引先企業の講ずる労働時間等の設定の改善に関する措置を把握するよう努めるとともに、例えば、次のような事項について配慮すること。
(1)  短納期発注を抑制し、納期の適正化を図ること。
(2)  発注内容の頻繁な変更を抑制すること。
(3)  発注の平準化、発注内容の明確化等の発注方法の改善を図ること。

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