傷病別アフターケア措置内容等(案)


 植え込み型ペースメーカ及び植え込み型除細動器の術後

 人工弁置換後、人工血管移植後、弁損傷及び心膜病変

 呼吸器の障害

 慢性肝炎

 消化吸収障害等腹部臓器の障害

 尿路変向術後



1 植え込み型ペースメーカ及び植え込み型除細動器の術後に係るアフターケア

 (1) 趣旨
 ペースメーカ又は除細動器を植え込んだ者は、身体条件の変化や機器の不具合等により不適正な機器の作動が生じるおそれがあり、症状固定後においても、定期的に患者の症状及び機器の作動状況を確認する必要があることから、労働福祉事業のアフターケアとして、次の(2)の対象者に対し、(3)から(5)までの措置を実施すべきである。

 (2) 対象者
 ペースメーカを植え込んだ者については、胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会(以下「障害認定検討会」という。)によって、障害等級を第9級とすることが適当であるとの報告がなされたことから、当該傷病に係るアフターケアの対象者は、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)による障害等級第9級の障害補償給付若しくは障害給付(以下「障害(補償)給付」という。)を受けている者又は受けると見込まれる者(症状固定した者に限る。以下同じ。)とすべきである。
 除細動器を植え込んだ者については、障害認定検討会によって、障害等級を第7級とすることが適当であるとの報告がなされたことから、当該傷病に係るアフターケアの対象者は、労災保険法による障害等級第7級の障害(補償)給付を受けている者又は受けると見込まれる者とすべきである。
 対象とする期間は、双方とも、他のアフターケアと差を設ける特段の事情がないことから、原則である3年間を区切りとして、その都度、医学的に継続の必要性を審査することが適当である。

 (3) 診察及び保健指導
 診察及び保健指導は、ペースメーカ又は除細動器の状態を定期的に把握するために、1カ月に1回程度実施すべきである。

 (4) 検査
(1) ペースメーカ又は除細動器を植え込んだ者については、貧血、電解質の異常等の症状を呈する場合があることから、スクリーニング検査として、「血液一般・生化学検査」及び「尿検査」を1カ月に1回程度実施すべきである。
(2) 心調律・ペーシングレイトを確認するため、「心電図検査」を1カ月に1回程度実施すべきである。
(3) リードの心房・心室内の位置、走行及びリードの断線の有無を確認するため、「胸部エックス線検査」を1カ月に1回程度実施すべきである。
 なお、心臓等の形態的な異常を把握する必要がないことから、「胸部MRI検査」は検査項目に含める必要はないと考える。
(4) ペースメーカ又は除細動器の植え込んだ者については、機器の不必要な動作等を把握する必要があり、長時間の動作確認を要することから、「ホルター心電図検査」を1年に1回程度実施すべきである。
(5) ペースメーカ及び除細動器については、リード抵抗値、ペーシング閾値及び心内電位波高の測定やテレメトリーデータの評価をするため、定期的に機器メーカがチェックを行うが、医師によるチェックも1年に1回程度必要である。
(6)  心臓の弁の閉鎖不全等による心不全が疑われる場合には、「心臓超音波検査」及び「心臓核医学検査」を実施すべきである。

 (5) 薬剤の支給
(1) ペースメーカ又は除細動器を植え込んだ者の中には、心電図等の検査により血流障害が認められた場合、心不全に至る場合があるため、予防薬として「抗狭心症剤」を支給すべきである。
(2) 除細動器を植え込むことによって、むくみ等の症状を呈する者に対しては、血流を改善し不整脈を予防するために「抗不整脈剤」を支給すべきである。
(3) 心臓の外傷等による心機能の低下に対しては、心臓の収縮機能を強化する必要があるため、「心機能改善剤」を支給すべきである。
(4) 心機能の収縮力の低下を来している者に対しては、機能の低下した心臓に対する圧負荷及び容量負荷を軽減するため、「循環改善剤」を支給すべきである。
 なお、循環改善薬の定義として、利尿剤を含むものとする。
(5) 除細動器を植え込んだ者は、うつ状態、精神的に不安定な症状がが多く見られるため、「向精神薬」を支給すべきである。
 なお、「向精神薬」とは、抗うつ剤及び精神安定剤を指すものである。



2 人工弁置換後、人工血管移植後、弁損傷及び心膜病変に係るアフターケア

 (1) 趣旨
 人工弁置換及び人工血管移植を受けた者は、血栓が形成されやすくなり、脳梗塞や弁の機能不全等を来すおそれがあることから、症状固定後においても、血栓の形成を予防するため、抗凝血薬療法等の継続が必要なものがある。
 また、弁損傷又は心膜病変で、心機能の低下を残した者については、これに由来する症状の動揺を防止するため、症状固定後も薬剤の支給等が必要なものがある。
 このことから、これら傷病の症状固定後においては、労働福祉事業のアフターケアとして、次の(2)の対象者に対し、(3)から(5)までの措置を実施すべきである。

 (2) 対象者
 人工弁置換を受けた者については、障害認定検討会によって、障害等級を第9級又は第11級とすることが適当であるとの報告がなされたことから、当該傷病に係るアフターケアの対象者は、労災保険法による障害等級第11級以上の障害(補償)給付を受けている者又は受けると見込まれる者とするべきである。
 人工血管移植を受けた者については、障害認定検討会の報告書において障害等級が設けられていないが、人工弁置換を受けた者と同様に抗凝血薬療法等の継続が必要とすることから、当該傷病に係るアフターケアの対象者は、労災保険法による療養(補償)給付を受け、人工血管に置換し、症状固定したと認められる者とすべきである。
 弁損傷又は心膜病変は、障害認定検討会によって、障害等級を第9級又は第11級とすることが適当との報告がなされたことから、当該傷病に係るアフターケアの対象者は、労災保険法による障害等級第11級以上の障害(補償)給付を受けている者又は受けると見込まれる者とすべきである。
 対象とする期間は、すべての傷病とも、他のアフターケアと差を設ける特段の事情がないことから、原則である3年間を区切りとして、その都度、医学的に継続の必要性を審査することが適当である。

 (3) 診察及び保健指導
 診察及び保健指導は、人工弁の作動状態、心臓弁の損傷の進行状態等を把握するために、1カ月に1回程度実施すべきである。

 (4) 検査
(1) 溶血性貧血等の身体状態を把握するため、「血液一般・生化学検査」及び「尿検査」を1カ月に1回程度実施すべきである。
(2) 機械弁に血栓が形成された場合の開放・閉鎖音の変調を確認するため、「心音図検査」を1カ月に1回程度実施すべきである。
 また、人工弁の不全による心肥大等を把握するため、「心電図検査」を1カ月に1回程度実施すべきである。
(3) 人工弁の縫合不全等の場合の人工弁の位置を確認するため、「エックス線検査」を1カ月に1回程度実施すべきである。
(4) 人工血管の狭さくの進行を確認する必要がある場合に限り、「脈波図検査」又は「心機図検査」を実施すべきである。
(5) 心臓の弁の動作確認及び損傷状態を把握する必要がある場合に限り、「心臓超音波検査」を実施すべきである。
(6)  人工血管内の血栓の状態を断面的に把握する必要がある場合に限り、「CT」又は「MRI」検査を実施すべきである。
 なお、脈波図等の検査により狭さくの状態が確認できるため、「CT」又は「MRI」検査による定期的な検査は必ずしも必要はないと考える。

 (5) 薬剤の支給
(1) 心電図等の検査により心不全が認められた場合には、心房細動を制御するために「抗不整脈剤」を支給すべきである。
(2) 心機能の低下が認められる場合には、心臓の収縮機能を強化するために「心機能改善剤」を支給すべきである。
(3) 機能の低下した心臓に対する圧負荷及び容量負荷を軽減するために、「循環改善剤」を支給すべきである。
 なお、循環改善薬の定義として、利尿剤を含むものとする。
(4) 人工弁置換を受けた者及び弁損傷による後遺症を残す者は、心臓の異音に悩まされ、精神的に不安定になることがあるため、「向精神薬」を支給すべきである。
 なお、「向精神薬」とは、抗うつ剤及び精神安定剤を指すものである。
(5) 人工弁及び人工血管に血栓が付着することを予防するために、「血液凝固阻止剤」を支給すべきである。



3 呼吸器の障害に係るアフターケア

 (1) 趣旨
 じん肺の合併症の治ゆ後及び胸部外傷等により呼吸機能に障害を残す者にあっては、症状固定した後においても、咳や痰等の後遺症状を残すことがあることから、労働福祉事業のアフターケアとして、次の(2)の対象者に対し、(3)から(5)までの措置を実施すべきである。

 (2) 対象者
 じん肺の合併症の治ゆ後及び胸部外傷等により呼吸機能に障害を残す者については、障害認定検討会よって、障害等級を第11級以上とすることが適当であるとの報告がなされたことから、当該傷病に係るアフターケアの対象者は、労災保険法による障害等級第11級以上の障害(補償)給付を受けている者又は受けると見込まれる者とすべきである。
 なお、外傷や他の臓器の障害を原因とする呼吸機能の障害であっても、呼吸器障害のアフターケアの対象とすることが適切と考える。
 対象とする期間は、すべての傷病とも、他のアフターケアと差を設ける特段の事情がないことから、原則である3年間を区切りとして、その都度、医学的に継続の必要性を審査することが適当である。

 (3) 診察及び保健指導
 じん肺の合併症の治ゆ後及び胸部外傷等により呼吸機能の低下し、その症状が固定した者については、咳や痰などによる症状の動揺を予防するための投薬が目的であることから、診察及び保健指導は1カ月に1回程度実施すべきである。

 (4) 検査
(1) 続発した気道感染や肺炎等の有無や程度を診断するために、「血液一般・生化学検査」を1年に2回程度実施すべきである。
(2) 血液一般・生化学検査により気道感染や肺炎等の続発及び再発が確認された場合に、その原因となった細菌を検索するために、「喀痰細菌検査」を1年に2回程度実施すべきである。
(3) 症状固定時の状態が維持されていることの確認及び障害の悪化を的確に診断するために、肺活量や一秒量を測定する「スパイログラフィー検査」を1年に2回程度実施すべきである。
(4) 症状固定時の状態からの変動を定期的に評価するため、「血液ガス分析」を1年に4回程度実施すべきである。
(5) 呼吸機能障害の変動及び再発の有無を確認するため、「胸部エックス線検査」を1年に2回程度実施すべきである。
(6)  胸部エックス線検査では把握できない呼吸器の微細な変化を診断する必要があるため、「胸部CT検査」を1年に1回程度実施すべきである。

 (5) 薬剤の支給
(1) 呼吸機能の障害を残した者が、呼吸困難、咳、喘鳴、喀痰の喀出困難等を訴えた場合には、その諸症状の改善を図り、状態の悪化を防止するために、「去痰剤」、「鎮咳剤」、「喘息治療剤」及び「呼吸器用吸入剤」を支給すべきである。
(2) 続発した気道感染や肺炎を治療するために、喀痰細菌検査により確認された原因菌に対する「抗菌剤」を支給すべきである。
(3) 胸部外傷及び気道感染や肺炎の続発等により生じた患部の疼痛を軽減するために、外皮用剤を含む「鎮痛・消炎剤」を支給すべきである



4 慢性肝炎に係るアフターケア

 (1) 趣旨
 慢性肝炎に係るアフターケアについては、昭和60年に設けられ、その後、平成6年に措置内容の見直しが行われたところである。
 しかしながら、現在では、インターフェロンの長期投与が認められことやペグインターフェロンとリバビリンの併用療法等が進歩したことにより、ウイルスの陰性化率が大幅に向上し、また、ウイルスの陰性化に至らない場合でも、AST(GOT)及びALT(GPT)を持続的に正常化できるようになってきた。
 このような状況を踏まえ、障害認定検討会によって、慢性肝炎について、ウイルスの持続感染が認められ、かつ、AST及びALTが持続的に基準値を超えないものは、障害等級を第11級とすることが適当であるとの報告がなされた。
 このことから、「慢性肝炎に係るアフターケアの要綱」については、 対象者を次の(2)のとおりに、措置内容を次の(3)から(5)までのとおりに改正すべきと考える。

 (2) 対象者
 ウイルス肝炎にり患した者については、障害認定検討会によって、慢性肝炎について、ウイルスの持続感染が認められ、かつ、AST及びALTが持続的に基準値を超えないものは、障害等級を第11級とすることが適当であるとの報告がなされたことから、当該アフターケアの対象者は、労災保険法による障害等級第11級以上の障害(補償)給付を受けている者又は受けると見込まれる者とすべきである。

 (3) 診察及び保健指導
 肝炎ウイルスが残存していると、再活性化により肝炎が再発する可能性があり、特にB型肝炎ウイルス陽性者は肝細胞癌発生の可能性があるため、1カ月に1回程度実施すべきである。
 また、B型肝炎陰性者については、ウイルス量も少なく肝炎再燃の可能性が低いことから6カ月に1回程度の実施で十分であると考える。

 (4) 検査
(1) B型肝炎ウイルス感染者のうちHBe抗原陽性者はウイルス量も多く、ウイルスの増殖活性も旺盛で肝炎再燃の可能性が高いため、「血液生化学検査」を1カ月に1回程度実施できるよう改正すべきである。
 なお、HBe抗原陰性者は、ウイルス量も少なく肝炎再燃の可能性も低いため、「血液生化学検査」は、6カ月に1回程度の実施で十分と考える。
(3) ZTT(硫酸亜鉛混濁試験)の値は、慢性肝炎、肝硬変で上昇し、その動きは肝炎の進行性の指標となるため、「ZTT」を実施できるよう改正すべきである。
(4) γ−GTP単独上昇は、アルコール性肝障書に特徴的であるが、同時にALP(アルカリホスファターゼ)の上昇があれば、胆汁うっ滞が考えられるため、「ALP検査」を実施できるよう改正すべきである。
(5) AST、ALTの上昇に比して、γ−GTP上昇が顕著であり、かつ、中性脂肪、尿酸の上昇がある場合は、アルコール性肝障害の可能性があること、また、中性脂肪、尿酸、総コレステロールの上昇を伴ったAST、ALTの上昇は、脂肪肝の可能性があること(すなわち、中性脂肪、尿酸、総コレステロールはAST、ALTの上昇がみられた際の鑑別診断に必要である)ことから、「中性脂肪」、「尿酸」及び「総コレステロール」の各検査を実施できるよう改正すべきである。
(6)  画像診断については、現行は必要に応じて行うものとされているが、「腹部超音波検査」は、B型肝炎ウイルスキャリアでは慢性肝炎、肝硬変が存在しなくても肝細胞癌の発生をみるためのものであるから、6カ月〜1年に1回程度の実施が適当であると考える。
(7) 腹部超音波検査で疑わしい所見がみられた場合には、「腹部CT検査(造影CT検査を含む。)」を実施すべきと考えるが、MRI等他の画像検査はアフターケアにおいて実施する必要がない。
(8) 肝炎が肝硬変へと進展すると蛋白合成能力は低下し、血清アルブミン、血清コリンエステラーゼのみならず、プロトロンビンも減少し、プロトロンピン時間は延長することから、プロトロンビン時間の測定は肝炎の進展を知るために必要となり、また、重症肝炎でもプロトロンビンは減少し、肝炎再発の際、重症度の指標となるため、「プロトロンビン時間測定」を特に必要とする場合には実施できるよう改正すべきである。
 なお、「ICG15分停滞率検査」及び「HPT(ヘパプラスチンテスト)」は、現在主流となっている「プロトロンビン時間測定」を実施すれば足りるため、実施項目から除くことが適当であると考える。
(9) HCV抗体はC型肝炎の存在または既往の指標であって、陽性であってもウイルスは存在しないこともあることから、抗体価が低い場合には、ウイルスを直接的に検出するため、「HCV−RNA(HCV核酸同定(定性)検査)」を実施できるよう改正すべきである。

 (5) 薬剤の支給
 慢性肝炎における薬剤の投与は、現在の療法としては、症状が悪化している場合、すなわち症状が固定していない状態において行うものであることから、「経口的肝臓疾患用剤の支給」は要綱から削除すべきである。



5 消化吸収障害等腹部臓器に係るアフターケア

 (1) 趣旨
 腹部外傷等により消化器が損傷した者は、症状固定後においても、消化吸収障害、ダンピング症候群及び逆流性食道炎等の後遺症により、腹痛や下痢等に対する整腸剤及び便秘に対する下剤の投与を継続する必要がある。
 ストマを造設した者は、治ゆ後においても、ストマ周辺に皮膚炎等を発症するおそれがあることから、ストマの状況及びストマ周辺の皮膚の状況を定期的に確認し、管理する必要がある。
 このことから、これら傷病の症状固定後においては、労働福祉事業のアフターケアとして、次の(2)の対象者に対し、(3)から(6)までの措置を実施すべきである。

 (2) 対象者
 消化吸収障害及び逆流性食道炎等については、障害認定検討会によって、障害等級を第11級以上とすることが適当であるとの報告がなされたことから、当該傷病に係るアフターケアの対象者は、労災保険法による障害等級第11級以上の障害(補償)給付を受けている者又は受けると見込まれる者とすべきである。
 対象となる傷病は、具体的には、障害認定検討会で障害等級を定めることが適当とされた消化吸収障害、逆流性食道炎、ダンピング症候群、腸管癒着、ストマ造設後(大腸皮膚瘻、小腸皮膚瘻及び人工肛門造設)、排便機能障害及び膵機能障害が考えられる。
 対象とする期間は、すべての傷病とも、他のアフターケアと差を設ける特段の事情がないことから、原則である3年間を区切りとして、その都度、医学的に継続の必要性を審査することが適当である。

 (3) 診察及び保健指導
 腹部臓器を損傷した者は、傷病により又は同じ傷病であっても個々の症例により診察及び保健指導の必要回数に差が生じるが、腸管の生理的な運動機能及び消化吸収機能を観察することを目的とした診察及び保健指導については、必要に応じ1月に1回程度とすべきである。

 (4) 処置
 人工肛門を造設した者及び膵液瘻が認められる者は、反応性びらん等の発症を予防するため、ストマ及び瘻孔周辺の皮膚の状況を管理し、パウチの装着が適切な状態であるか確認する必要がある。
 また、症状固定後の「ストマ用装具」の支給は、労働福祉事業よる義肢等の支給で行われているところであるが、その支給対象となっていない「自宅等で使用する衛生材料」については、アフターケアにより支給すべきである。

 (5) 検査
(1) 消化器を損傷した者は、消化吸収障害等により低栄養状態に陥ることがあることから、その予防のために「血液一般・生化学検査」及び「尿検査」を実施し、栄養状態等を把握する必要がある。
 なお、栄養状態等の変化を捉えるためには、3カ月程度の実施間隔が必要であることから、「血液一般・生化学検査」及び「尿検査」は、3カ月に1回程度実施すべきである。
(2) 胃を全摘した者等が逆流性食道炎を疑わせる胸やけ、胸痛等を訴える場合及び便潜血を含む下血が認められる場合に、腸管粘膜の内視鏡による観察が必要と認められる場合に限り「消化器内視鏡検査」を実施すべきである。
(3) 腸管癒着等により腹部膨満感を訴える者に、腸管運動及び腸管内容等の確認が必要と認められる場合に限り「腹部超音波検査」を実施し、大腸壁の肥厚及び腸内ガスの確認が必要と認められる場合に限り「腹部エックス線検査」を実施すべきである。
 また、腸内ガスが多量であるために腹部超音波検査では把握できない限局的な腸管の微細な病変の確認が必要と認められる場合に限り、「腹部CT検査」を実施すべきである。

 (6) 薬剤の支給
(1) 排便の状況を確認し、下痢等による低栄養状態を予防するために「整腸剤、止瀉剤」を支給し、腸管運動の低下に伴う便秘等による腸閉塞を予防するために「下剤、浣腸剤」を支給すべきである。
(2) 胃を全摘した者で、鉄欠乏性貧血が認められる場合には「抗貧血用剤」を支給し、上部消化管の内視鏡により逆流性食道炎が確認された場合には「消化性潰瘍用剤」を支給すべきである。
(3) 外傷による膵臓の機能低下による消化酵素の欠乏が確認された場合には「消化酵素剤」を支給すべきである。
(4) 人工肛門及び膵液瘻の周辺に反応性びらん等が認められる場合には、外皮用剤を含む「抗菌剤」、「鎮痛・消炎剤」を支給すべきである。



6 尿路変向術後に係るアフターケア

 (1) 趣旨
 尿路変向術後の者は、尿路ストマの狭さくにより尿流を妨げられ、水腎症等の発症するおそれがあるため、症状固定後においても、尿路ストマの状況及び尿路ストマ周辺の皮膚の状況を定期的に確認し、管理する必要がある。
 このことから、当該傷病の症状固定後において、労働福祉事業のアフターケアを実施するため、趣旨及び措置内容が近似している「尿路狭さくに係るアフターケアの要綱」について、 対象者を次の(2)のとおりに、措置内容を次の(3)から(6)までのとおりに改正すべきと考える。

 (2) 対象者
 骨盤骨折等により膀胱を摘出し、尿路変向術を行った者については、障害認定検討会によって、障害等級を第11級以上とすることが適当であるとの報告がなされたことから、当該傷病に係るアフターケアの対象者は、労災保険法による障害等級第11級以上の障害(補償)給付を受けている者又は受けると見込まれる者も対象とするよう改正すべきである。

 (3) 診察及び保健指導
 尿路変向術後の者についても、尿道の狭さくと同様に、尿路ストマ等の状態の把握に個人差があるため、1〜3カ月に1回程度実施することが適当考える。

 (4) 処置
(1) 尿路変向術後の者についても、尿路ストマ等の狭さくが認められる場合には、水腎症及び水尿管症の発症を予防するために、「尿道ブジー(誘導ブジーを含む。)」及び「カテーテル処置」を実施すべきである。
(2) カテーテル処置には、導尿、膀胱洗浄及び留置カテーテル設置・交換が含まれるものであるため、「尿路処置」と表記するのが適当と考える。
(3) 尿路変向術後の者についても、尿道ブジー及び尿路処置に伴い、自宅等で使用するカテーテル、カテーテル用消毒液及び滅菌ガーゼを支給する必要があるため、尿道狭さくと同様に、医師が認めた場合には、当該衛生材料を支給すべきである。

 (5) 検査
(1) 尿路変向術後の者についても、腎機能障害及び尿路感染症を発症する場合があるため、「尿検査」を診察の都度必要応じて実施すべきである。
(2) 尿道狭さく障害を残す者及び尿路変向術後の者については、残尿を原因とする菌により上部尿路感染を起こす危険があるため、検査時に雑菌の感染があるかどうかをチェックする「尿培養検査」が必要であることから、尿検査には「尿培養検査も含む」と明記すべきである。
(3) 尿道狭さくにおける「腎機能検査」には、腎クリアランスやPSPの検査が認められているが、当該検査は、実施頻度が低く、血中の尿素窒素量等の確認が重要であることから、従来の「腎機能検査」は「血液一般・生化学検査」に包括すべきである。
(4) 腎機能検査には、通常は尿素窒素(BUN)とクレアチニンを診ていれば足りるため、β2−マイクログロブリン測定を含める必要はないと考える。
(5) 尿路変向術後の者は、水腎症及び水尿管症を発症する場合があることから、尿路変向術後の者についても、「エックス線検査」を必要に応じて1年に1回程度実施すべきである。
(6)  尿道狭さくの障害を残す者及び尿路変向術後の者については、尿流を妨げる尿道狭さくによる水腎症及び水尿管症の発症の有無を確認する必要があるため、「腹部超音波検査」を1年に1回程度の実施できるよう改正すべきである。
(7) 尿道狭さくの障害を残す者及び尿路変向術後の者については、代用膀胱造設後の状態を定期的に確認する必要があるため、「CT検査」を1年に1回程度実施できるよう改正すべきである。
(8) 膀胱尿道ファイバースコピーについては、現在ではほとんどCT検査やエックス線検査で術後の管理ができるため、あえて変向した後に内視鏡を使って、膀胱内を診ることは希な行為であり必要ないと考える。

 (6) 薬剤の支給
(1) 尿路変向術後の者についても、尿道ブジーの実施による出血が認められる場合には、「止血剤」を支給すべきである。
(2) 尿路変向術後の者についても、尿検査等により腎尿管の細菌感染症が確認された場合には、「抗菌剤」を支給すべきである。
(3) 代用膀胱造設後における夜間尿失禁を改善するために、尿路変向術後の者についても、「自律神経剤」を支給すべきである。
(4) 尿路変向術後の者についても、尿道ブジーの実施後に狭さく部の炎症等が認められる場合には、「鎮痛・消炎剤」を支給すべきである。
(5) 尿路変向術後の者についても、尿路ストマに皮膚炎等が確認された場合には、自宅等で行うストマ処置に対する消炎剤等の「尿路処置用外用剤」を支給すべきである。

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