資料4
生活保護制度等の運用や他制度との関係に関する
地方団体からの指摘事項とそれへの対応について

【年金制度及び高齢者世帯への生活保障に関する問題】
 年金未加入者や年金保険料未納者の増加傾向は、将来における要保護者の増加の要因となる可能性が高いが、どう考えるか。

 高齢者の所得政策として年金制度は最も重要な政策である。現状の加入状況は極めて憂慮すべき状況にあり、国において加入促進や収納率の向上といった政策に全力を挙げて取り組むべき。

 老齢基礎年金額より生活扶助基準額が高いことについて不公平感があるが、どう考えるか。

 経済的自立の可能性が低い高齢者世帯は、被保護世帯の約半数を占めており、こうした高齢者世帯に対する生活保障の制度が、生活保護制度以外にないことをどう考えるか。

 我が国の生活保護を含めた低所得者対策を実効あるものとするためには、医療・介護・障害者施策・ホームレス施策等といった社会保障制度全体を見通した幅広い分野にわたるきめ細かでバランスの取れた対応が不可欠であり、社会保障審議会において、しっかりとした専門的な議論が必要。

 国民年金の保険料の年齢階級別の納付状況をみると、年金受給年齢に近づくにつれて保険料の納付率が上昇することから、現在の年金の未加入者又は未納者が将来必ず要保護者となるとは考えていない。厚生労働省としては、国民年金への加入の促進や保険料の収納対策を今後一層徹底するなど、未加入者や未納者の発生をできる限り防止するよう努力していく所存である。
 公的年金の額と生活保護の水準については、生活保護基準は必ずしも基礎年金より高いわけではない。また、公的年金は高齢による稼得能力の減退を補てんし、老後生活の安定を図るものであるのに対し、生活保護は資産、能力等をすべて活用しても、なお生活に困窮する者に対して最低生活の保障及び自立の助長を図るものであり、それぞれ異なる役割を担っているため、その水準だけを単純に比較することは適当でないものと考える。
 我が国における高齢社会を活力あるものにするためには、自立自助を基本とした老後生活を目指すべきであり、高齢者の所得保障を担う年金制度についても自立自助の考え方に立つ社会保険の仕組みが基本であり、これによらない別途の所得保障制度を設けることには慎重であるべきであると考えている。
 また、今回の政府全体の三位一体改革の中で、年金・医療・介護等の社会保障制度との整合性を踏まえて、生活保護制度における国と地方の役割や費用負担を見直すことは必要であると認識している。


【年金担保貸付制度に関する問題】
 年金担保貸付制度による借入金を使い果たし、生活保護の適用を受ける状況に陥る者がいるが、どう考えるか。

 年金担保貸付については、当該貸付を受け、借入金を全て借金の返済や遊興等により費消した後、生活に困窮したとして生活保護を受給することを繰り返す例が指摘されている。
これについては、全額税を原資とし、国民の最低生活を保障することを目的とする生活保護制度の趣旨に著しく悖るものである。
 国としても、年金担保貸付制度の問題点については認識しており、
 受付窓口((独)福祉医療機構から業務委託を受けた金融機関)において「償還期間中の生活に支障が生じないよう十分に検討した上で利用すること」、「生活保護受給中である場合は、年金担保貸付が生活保護の受給に影響する可能性があるため、福祉事務所に相談した上で借入申込を行うこと」をパンフレット等により説明するとともに、
 平成17年10月からは年金担保貸付制度の利用者が無理のない返済額を選択できるよう、定額償還制度の導入を行っている
ところであるが、これに加え、現在、更なる改善策について検討を進めているところである。


【医療扶助・介護扶助に関する問題】
 医療扶助・介護扶助が現物給付となっているため、被保護者に費用負担の意識が乏しい現状があるが、これら扶助の在り方をどう考えるか。

 頻回受診、過剰受診等を防ぐために、保護の実施機関において退院促進援助や適正受診指導等の対応をしていただいているところである。現在、医療扶助における一部負担の導入などの具体的な方策について検討中である。


【被保護者の自立支援に関する問題】
 福祉行政と労働行政との緊密な連携を図る法制度がない中で、ケースワーカーが被保護者の就労支援に当たらざるを得ない状況をどう考えるか。

 要保護者には、傷病や障害を抱えていたり、一人親での子育てを行っているなど、就労する上でハンディを抱えている者が多いが、このことをどう考えるか。

 ホームレスやDV被害者に対する支援施策があるが、経済的自立については、生活保護で対応せざるを得ないことをどう考えるか。

 被保護者は福祉サービスの利用料が無料となるなど、様々な減免・免除規定が適用されているが、生活保護から自立した途端、これらの優遇措置も同時に失われる。このことが自立への意欲の阻害要因となっていることをどう考えるか。

 生活保護制度においては、経済的給付に加え、実施機関が組織的に被保護世帯の自立を支援することにも力点を置くこととし、このために、本年4月から自立支援プログラムを導入して、地方自治体において自立支援プログラムの策定とこれに基づく自立支援の実施を進めていただいているところである。
 この自立支援プログラムの導入に当たって、福祉事務所とハローワークが緊密に連携して被保護者の就労を支援する「生活保護受給者等就労支援事業」を開始し、効果を上げつつあるところである。
 自立支援プログラムにおいては、母子家庭の母など、稼働能力のある者に対する就労自立のための支援のみならず、傷病者、障害者、高齢者、元ホームレス、DV被害者等に対する日常生活や社会生活における自立のための支援を行うことも目的としている。被保護者の自立阻害要因に応じた個別支援プログラムを地域の社会資源やネットワークを活用して策定し、これに基づき個々の被保護者に必要な支援を組織的に実施することとしている。
 また、介護保険や障害者福祉の自己負担等を求めることにより生活保護の対象となる場合には、この自己負担等の減免を行うことにより、生活保護の対象となることを防止する措置を講じている。


【不正受給への対応に関する問題】
 保護の決定に際して必要となる生活保護法による諸調査については、「報告を求めることができる」という規定となっているため、金融機関の協力が得られない場合、十分な調査ができないが、どう考えるか。

 不正受給を行った被保護者に対する罰則の規定はあるが、適用の要件・基準が不明確であることをどう考えるか。

 国の通知において、申請時に被保護者の調査への同意書を徴取し、同意書の提出に同意しない者については申請を却下することができることとしており、金融機関の協力が得られないことを理由として保護の決定に当たり支障が生じないようにしている。
 各種の給付行政関係法において、金融機関等に報告に応じることを義務づけている例はないが、法制面において何らかの対応が可能かどうか、さらに検討したい。
 また、個々の不正受給ケースに対し、捜査機関に対して告発・被害届の提出を行うかについては、ガイドライン的なものを国としてお示しできるよう、検討を進めていきたい。


【母子家庭の母の自立に向けた就労支援に関する問題】
 児童扶養手当制度においては、個々の受給者の生活状況を生活保護制度のケースワーカーのように綿密に把握できないため、自立に向けた就労支援が適正に行えないが、これをどう考えるか。

 母子家庭対策については、平成14年に母子及び寡婦福祉法等を改正し、「児童扶養手当中心の支援」から「就業・自立に向けた総合的な支援」へと政策の転換を図ったところであり、これとあわせて、地方自治体が実施する就業支援事業を創設するとともに、地方自治体に配置されている母子自立支援員の業務として職業能力の向上及び求職活動に関する支援を追加するなどの見直しを行った。
 就業・自立支援策については、平成17年度から、「自立支援教育訓練給付金」及び「高等技能訓練促進費」について、地方自治体が地域の実情に応じて、給付対象講座・資格を追加指定することを可能とするとともに、個々の児童扶養手当受給者ごとに自立目標や支援内容等を策定し、これに基づいてきめ細かな支援を実施する「母子自立支援プログラム事業」をモデル的に実施するなど、地方自治体の裁量の拡大と実効性の強化を図ってきたところである。
 児童扶養手当窓口において、児童扶養手当の支給申請時や毎年1回(8月)の現況届提出時等を捉え、これらの支援策について適切に情報提供を行い、効果的な就業・自立支援につなげていくことが重要と考える。


【養育費の確保に関する問題】
 受給世帯の増加の主たる要因は離婚率の上昇によるものと考えられる。養育費の確保に向けた更なる法整備が必要。

 離婚した父親から支払われるべき養育費の確保について、改正母子及び寡婦福祉法において一定の見直しがなされたが、現実的には確実に養育費を受け取れる状況になっておらず、給付費の増加につながっていることをどう考えるか。

 平成14年の母子及び寡婦福祉法等の一部を改正する法律において、民法の扶養義務を履行する責務について明確化した(平成15年4月施行)ところである。さらに、平成15年及び16年の二度にわたる民事執行法改正により、養育費の支払いに係る強制執行手続が改善された(各々平成16年4月施行、平成17年4月施行)ところであり、今後これらの効果が期待できるものと考えている。
 また、養育費の取決めを促進するため、養育費の相場を知るための養育費算定表や取得手続の概要等を示した「養育費の手引き」を作成し、母子家庭の相談機関において活用していただくべく、各自治体に配布している。さらに、離婚届出時等を捉えて、子の養育に関する法的義務について周知し、養育費の取決めを促すことが有効であることから、「養育費に関するリーフレット」を作成し、市町村に配布したところであり、戸籍事務等関係部署とも連携した周知活動を進めていくこととしている。
 養育費の確保に向けた更なる法制度の整備については、上記の取組みの効果も見つつ、引き続き関係省庁に働きかけていくこととしたい。

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