「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」
報告書(ポイント)


I 総論

 1 労働契約法の必要性
 近年の就業形態・就業意識の多様化に伴う労働条件決定の個別化の進展や経営環境の急激な変化、集団的労働条件決定システムの機能の相対的な低下や個別労働関係紛争の増加を踏まえ、また、労働者の創造的・専門的能力を発揮できる自律的な働き方に対応した労働時間法制の見直しの必要性が指摘されていることから、労使当事者が社会経済状況の変化に対応して実質的に対等な立場で自主的に労働条件を決定することを促進し、紛争の未然防止等を図るため、労働契約に関する公正かつ透明なルールを定める新たな法律(労働契約法)が必要となっている。
 2 労働契約法の基本的考え方
 労働契約法を構想するに当たっては、労使自治を尊重しつつ労使間の実質的な対等性を確保すること、労働関係における公正さを確保すること、就業形態の多様化に対応すること、紛争の予防と紛争が発生した場合に対応することを基本的な考え方とした。
 3 労働契約法の性格
 労働契約法は、労働基準法とは別の民事上のルールを定めた新たな法律とし、履行確保のための罰則は設けず、監督指導は行わない(行政の関与は情報収集・提供等の援助や指針の策定にとどめ、紛争には個別労働紛争解決制度によって対応)。
 労働契約法では判例法理の明文化だけでなく、今日の労働関係の下におけるより適切なルールを定立する。また、労働契約の内容の公正さを担保する強行規定は当然必要となるが、労使当事者の自主的な労働条件の決定を促し、個別の事案における予測可能性の向上を図るため、手続規定、任意規定や推定規定等も活用する。
 労働基準法についても労働契約に関するルールの明確化等の観点から見直しを行い、労働契約法と労働基準法とがあいまって時代の変化に対応した適正な労働関係を実現する。
 4 労働時間法制の見直しとの関係
 労働者の自律的な働き方に対応するためには、労働時間法制の見直しも検討する必要があるが、仮にその見直しを行うとすれば、労使当事者が業務内容、労働時間を含めた労働契約の内容を実質的に対等な立場で自主的に決定できるようにするための労働契約法が不可欠となる。


II 具体的内容

 1 労働契約法
[総則]
(1)労働契約は労使当事者が対等の立場で締結すべきことや、労働契約においては、雇用形態にかかわらず、就業の実態に応じた均等待遇が図られるべきことを規定。
(2)労働基準法の労働者以外の者であっても、特定の発注者に対して個人として継続的に役務を提供し、経済的に従属している場合は、労働契約法の対象とすることを検討。
(3)労働条件の設定に係る運用状況を常時調査討議することができ、労働条件の決定に多様な労働者の意思を適正に反映させることができる常設的な労使委員会制度を整備。また、これを就業規則の変更の合理性の推定等に活用。
(労使委員会の在り方)
多様な労働者の利益をできる限り公正に代表できるような委員の選出方法
委員であること等を理由とする不利益取扱いの禁止
[具体的項目]
(1)労働関係の成立
(1)採用内定の留保解約権の行使はその事由が採用内定者に書面で通知されている場合に限ることとし、採用内定時に使用者が知っていたか又は知ることができた事由による採用内定取消を無効とする。
(2)試用期間の上限を定める。
(2)労働関係の展開
(1)就業規則による労働条件の変更が合理的なものであれば労働者を拘束する等の判例法理を明らかにする。
(2)労働契約の変更に関し、労働者が雇用を維持した上でその合理性を争うことを可能とする「雇用継続型契約変更制度」を導入する。
(3)配置転換の際に使用者が講ずべき措置について指針等で示す。
(4)出向を命ずるには個別の合意、就業規則又は労働協約の根拠が必要であることを明らかにする。また、当事者間に別段の合意がない限り、出向中の賃金は出向直前の賃金水準をもって出向元・出向先が連帯して出向労働者に支払う義務があるという任意規定を定める。
(5)配置転換、出向等に係る権利濫用法理を明らかにする。
(6)転籍に当たっては、転籍先の情報、転籍先での労働条件等を書面で労働者に説明して同意を得なければならず、書面による説明がなかった場合や転籍後に説明と事実が異なることが明らかとなった場合は、転籍を無効とする。
(7)懲戒解雇、停職、減給の懲戒処分に当たっては、懲戒処分の内容、非違行為、懲戒事由等を書面で労働者に通知することとする。また、非違行為と懲戒の内容との均衡が必要であることを明らかにする。
(8)労働者の兼業を制限する就業規則の規定等は、やむを得ない事由がある場合を除き無効とする。
(9)退職後の競業避止義務や秘密保持義務を労働者に負わせる個別の合意等は、労働者の当該義務違反によって使用者の正当な利益が侵害されること等を要件とする。
(10)安全配慮義務や労働者の個人情報保護義務を明らかにする。
(11)留学・研修費用の返還の免除条件としての勤務期間の上限を5年とする。
(3)労働関係の終了
(1)解雇は、労働者側に原因がある理由、企業の経営上の必要性又はユニオン・ショップ協定等の労働協約の定めによるものでなければならないこととし、また、解雇に当たり使用者が講ずべき措置を指針等により示す。
(2)解雇が無効とされた場合でも、職場における信頼関係の喪失等によって職場復帰が困難な場合があることから、解雇の金銭解決制度の導入について検討する。この場合、解雇についての紛争の一回的解決を図るとともに、安易な解雇を防止する仕組みとする。
(3)労働者が使用者の働きかけに応じて退職の意思表示を行った場合、一定期間これを撤回することができることとする。
(4)有期労働契約
(1)有期労働契約締結時に契約期間が書面で明示されなかった場合には、期間の定めのない契約とみなす。
(2)「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」で定める手続を必要とし、更新があり得る旨が明示されていた場合には、差別的な雇止めや労働者が正当な権利を行使したことを理由とする雇止めはできないこととする。
(3)有期労働契約が試用の目的を有する場合にはその旨及び本採用の判断基準を明示させ、試用目的の有期労働契約の法律上の位置付けを明確にする。

 2 労働基準法の見直し
(1)労働契約に関するルールの明確化等の観点からの見直し
(1)契約期間の上限規制の趣旨が労働者の退職制限の防止に限られることを明確化する。
(2)採用内定期間中は解雇予告制度の適用を除外する。
(3)複数の事業場で働く場合の労働時間の通算規定を見直す。
(4)労働条件の明示事項や就業規則の記載事項及び作成手続を見直す。
(2)第18条の2など民事的効力のみを有する規定を労働契約法に移行する。

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