労働契約法制に関する労使団体の提言等



 日本労働組合総連合会「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」報告についての談話
(平成17年9月13日)

 昨日9月12日、厚生労働省の「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」(座長:菅野和夫・明治大学教授)は、最終の研究会を開催し報告をとりまとめた。研究会は2005年4月に「中間取りまとめ」を公表し、意見を募集した。連合は「この方向性が修正されることなく労働契約法が作られていくのであれば、労働者や労働組合のためにならない労働契約法であると判断する」と強い懸念を示し、再検討を求める意見を提出した。だが、「最終報告」においては一顧だにされておらず、極めて遺憾である。

 雇用・就労形態の多様化など労働契約をめぐる環境の変化を受けて、個別労働紛争が大幅に増加している。連合は、こうした紛争の予防・解決の基準として、労働契約の成立・展開・終了にかかる労働者と使用者との権利・義務を明確にする労働契約法が必要であるとして、2001年に「労働契約法案要綱骨子案」を確認し、その制定を求めてきた。研究会報告が、労働契約法をつくる必要があるとしていること自体は、連合の認識と一致している。

 しかし、「研究会報告」には問題がある。とりわけ大きな問題点は、[1]労働組合とは本質的に異なる労使委員会に、労働条件の決定・変更の協議や就業規則の変更の合理性判断など重要な機能を担わせようとしている。[2]解雇無効の判決を勝ち取った労働者が職場復帰できなくなる、解雇の金銭解決制度を導入しようしている。[3]雇用継続型契約変更制度の創設は、労働者に対して「労働条件の変更か解雇か」を迫ることになる。[4]ホワイトカラー・イグゼンプションの導入は、労働時間の原則を骨抜きにし、長時間労働を助長しかねない。これらの内容を盛り込んだものならば、労働者のための労働契約法とは到底言えず、連合は容認できない。

 今後、労働契約法については、労働政策審議会で審議されることが予想されるが、「研究会報告」はあくまでも研究者による報告であり、審議会における議論のたたき台ではない。また、検討すべき項目が多岐にわたる労働契約法について、すべての事項を短時日に一気に検討するのは困難である。連合は、研究会報告が示した方向性そのままの労働契約法がつくられることを阻止し、連合案に基づく労働者と労働組合のための法制定に向けて、構成組織・地方連合会と一体なった取り組みを行う。



 日本労働組合総連合会「2006〜2007年度(2005年7月〜2007年6月)「政策・制度 要求と提言」」
 (平成17年6月30日)

パート2 2006〜2007年度の政策課題
2.雇用と公正労働条件の確保
雇用・労働政策
要求の項目
3.パートタイム、有期契約、労働者派遣、請負など、多様な雇用就労形態で働く場合の均等待遇原則の確立、不当な差別禁止のルール化を行う。
(2)有期労働契約が不安定な雇用形態とならないよう法律で規定する(連合「パート・有期契約労働法」)。
【1】 「合理的理由」がある場合を除き、処遇について差別的取り扱いを禁止する。
【2】 有期労働契約の締結は、「合理的理由」がある場合に限定するとともに、期間を定める理由の書面による明示、空きポストに関する情報提供を義務づける。
(5)請負契約で業務を行う個人、いわゆる「個人請負」「委託労働者」については、安全衛生、契約、料金支払い、セクシュアルハラスメント等の面で、保護のための法制化をはかる。
5.雇用労働環境の変化等に対応するワークルールの整備、確立をはかる。
(1) 採用、異動、出向、退職、解雇等についての定めを網羅した「労働契約法」を制定する。ILO第158号条約(使用者の発意による雇用終了に関する条約)を批准する。
(2) 秘密保持、競業避止、職務発明に関する規定の策定に際しては、「職業選択の自由」の保障、個人のキャリア形成促進の観点を踏まえ、労働者に不利にならないような適正・公正なルール化をはかる。また、職務発明に対する対価の決定手続き規定については、労働組合の関与を含めるなど、適正化をはかる。
(3) 労働基準法などにおける従業員代表の選出方法は、「投票によるもの」に限定するなど、過半数代表の適正・公正な選出をはかる。
(4) 労働基準法における就業規則の作成・届け出義務の対象は、10人以上から5人以上に拡大する。また、就業規則の作成と変更の手続きについては、過半数労働組合等との協議を義務づける。
(6) 持株会社やグループ会社等における使用者概念の明確化や団交応諾義務の明確化、および労使協議の制度化などを行う。
(7) 募集・採用時に年齢制限を課す規定は、これを禁止規定とする。また、雇用形態や年齢、性別、障害等による不当な差別を禁止し、雇用と労働条件を確保する法律を制定する。
(8) 企業組織の再編全般に関する労働者保護法を制定する。
【1】 合併・営業譲渡を含む企業組織の全般を対象とする労働者保護法を制定する。
【2】 企業分割に関する改正商法施行に伴う労働契約承継法・指針の周知徹底、指導を強化する。
 12.公正な労働基準の確立に向けて、労働監督行政を強化する。
(2) 整理解雇4要件と1994年の「3.16通達」について周知徹底活動を行う。
【1】 事業主の安易なリストラや解雇に対し、労使双方に整理解雇4要件の周知徹底を行う。



 日本労働組合総連合会「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会「中間取りまとめ」に対する意見」
 (平成17年6月8日)

.はじめに

(1)労働契約法の必要性について

 連合は、2001年10月の大会において、「労働契約法案要綱骨子(案)」、「パートタイム労働者及び期間の定めのある労働契約により雇用されている労働者(有期契約労働者)の適正な労働条件の整備及び均等待遇の確保に関する法案要綱骨子(案)」、「労働者代表法案要綱骨子(案)」を確認している。
 特に労働契約については、企業間競争の激化、事業転換などを背景とした解雇をはじめ、雇用・就労形態の多様化などの拡大によって雇用や労働条件をめぐるトラブルが増加している。裁判所や厚生労働省の個別労働紛争解決制度、そして連合の労働相談に持ち込まれる労使紛争の数は増加する一方である。
 こうした増加の大きな要因は、労働契約に関するルールの未整備にある。民法や労働基準法、判例や裁判例などを用いて労使紛争を事前に予防し、また、紛争発生後に解決したりしてきた今までのやり方では、もはや対応できない状況にある。そのため、労働契約の成立から展開、終了まで、包括的に労使の権利義務を規定する「労働契約法」が必要である。

(2)今後の労働契約法制の在り方に関する研究会「中間取りまとめ」について

 労働契約法の制定が喫緊の課題であっても、「中間取りまとめ」には、労働者と労働組合にとって看過できない点が数多く含まれている。しかも、社団法人全国労働基準関係団体連合会から発行された出版物(労働調査会出版局編『どうなる? どうする? 労働契約法』)において、「中間取りまとめ」に関して、「最終報告における労働契約法制の内容について一定の方向を知ることができるものであります。本書は、その方向性が明らかな事項を中心に論点整理を試みたものです。」と「はじめに」に記載されていることに照らしても、「中間取りまとめ」の基本的性質は、今後の議論のための中間的論点整理のために作られたものではなく、「最終報告のたたき台」として作成されたものと言わざるを得ない。
 よって、連合は、今回の「中間取りまとめ」について、今後、各方面から意見を求め、議論を深めるための論点整理の文書を作成することを求める。そして、もし「中間取りまとめ」の示す方向性が修正されることなく労働契約法が作られていくのであれば、連合は、労働者や労働組合のためにならない労働契約法であると判断する。

.労働契約法の役割について

(1)労使の実質的対等性を確保する

 民法における契約には、「契約自由の原則」があり、国家は契約当事者の自由な意志に介入してはならない、とされている。
 しかし、労働契約においては、労働者と使用者との間には、経済的にも、社会的にも、大きな力の差がある。労働契約の基本的特徴は、契約当事者の本質的非対等性にある。労働契約をめぐる問題は、労使が非対等であるために、労働条件その他が一方的に使用者により決定されることに起因する。
 そのため、労働契約法では、労使自治に委ねるだけでは妥当ではなく、労使の非対等性を補強し、実質的対等に近づけるような仕組みが必要である。

(2)行為規範となり裁判規範となるもの

 労働契約法が存在しない中、労使紛争解決の判断基準は、民法の一般原則(民法1条2項の信義誠実原則、又は、同条3項の権利濫用禁止)とこれに基づく判例法理を中心としている。しかしこれらは、法令のように明確化されておらず、法令に比較すると一般に認知もされづらい。そして、裁判の結果の事前予測が難しく、実際に裁判をしてみなければ勝訴できるか否か分からない、という問題もある。
 新たに労働契約法を制定するにあたっては、必要なルールは明確に法律化して、労使の行為規範となり、紛争発生の予防に資するものにしなければならない。そしてルールの明確な法律化は、紛争が発生し、最終的に訴訟の提起となった場合にも、裁判所の判断の拠り所となり、事前の予測可能性も高められる。
 「中間取りまとめ」では、指針やガイドラインを作ることに重点が置かれているが、これらは、例え労使の行為規範になりうることがあったとしても、裁判官には一顧だにされない。やはり、重要なルールは法律化が必要である。
 また、裁判において紛争を解決することを考えれば、権利義務の「要件」と「効果」をはっきりさせ、立証責任の在り方についても考察しなければならない。なお、労使の非対等性を鑑みれば、立証責任は、基本的に使用者が負うものとするべきである。

(3)任意規定ではなく強行規定を基本とする

 繰り返すが、労使は対等ではない。「中間取りまとめ」では、「労使当事者が実質的に対等な立場で自主的に労働条件を決定することがますます重要」としているが、労使を対等に近づける仕組みを作ったとしても、「実質的に対等になった」と判断するのは拙速である。
 使用者と対等な立場で自主的に労働条件を決定できる労働者は、今後も少数である。もし労働契約法に、当事者が異なる合意をすれば適用されない任意規定を多くすれば、結局は、使用者が提案する労働条件等に合意をせざるを得ない労働者にとって、労働契約法の持つ意義は薄らぐ。また、労働契約法の、「判断の基準や、権利義務の要件と効果を明確化する」という重要な役割の一つがなくなり、実効性を失ってしまうことになる。労働契約法の基本は、当事者の意思に関わりなく適用される強行規定とすべきである。

(4)手続規制と実体規制、及び履行確保のための罰則が必要

 連合の「労働契約法案要綱骨子(案)」では、手続規定と実体規定の両方を重視した。労働者の権利を実現するためには、実体規定だけでなく、手続規定の充実が必要であり、同時に、手続規定が充実すれば実体規定が不要となるものではないからである。「中間取りまとめ」では、労働者への情報提供や手続規定を重視する傾向が見受けられるが、これらの充実だけで労働者の権利実現がはかられるものではない。
 また、「中間取りまとめ」では、労働契約法の履行は「基本的に労使当事者間の信頼関係によって図られるべき」としているが、一切の罰則が排除されるべきなのかは、十分に検討するべきである。例えば商法では、手続規定に違反した場合の罰則が発達している、ということもあり、履行確保のための罰則の有用性を示している。

.労使委員会制度について

(1)現行過半数代表制に対する問題意識

 労働基準法等では、労使協定・就業規則は、過半数代表の意見聴取等が規定されている。これらは、労働者の重要な労働条件について大きな影響を持つが、過半数労働組合がない事業場の過半数代表の選出については、民主的選出の保障や地位の保全などが不十分である。そのため、連合は、過半数労働組合がない事業場において、事業場における適正な労働者代表制を確保するため、我が国の労働組合活動との両立を前提に、労働者代表の民主的選出方法の明確化等を中心とした労働者代表法制が必要だと考える。

(2)「中間取りまとめ」における労使委員会の問題点

 しかるに、「中間取りまとめ」における労使委員会制度は、(1)労働組合との性質や役割の違いが不明確、(2)労使委員会の民主制確保のための方策が示されていない、という点で問題である。「中間取りまとめ」の労使委員会では、現行過半数代表制の持つ問題は解消されないばかりか、職場に混乱をもたらすだけである。

(1) 労働組合との性質や役割の違いが不明確であることについて
 「中間取りまとめ」は、常設的な労使委員会について「当該事業場における労働条件について、例えば、制度を変更した場合にその運用状況を確認することや、問題が生じた場合の改善の協議、労働者からの苦情処理等のさまざまな機能を担うことができる」との基本構想を示しているが、これが本当に可能なのは、労働組合だけである。
 労働組合は、憲法で保障されたストライキ権を背景にしているからこそ、使用者と対等な立場で労働条件等について協議し、交渉できるのである。不誠実な使用者に対しては、不当労働行為として労働委員会に申し立てることもできる。こういった素地に欠ける労使委員会が、労働条件等について使用者と対等に協議・交渉することは、とうてい不可能である。
 そして「中間取りまとめ」では、労使委員会の決議と労働協約との関係が一切論じられていない。労使委員会の決議と労働協約が重複しない制度設計にするのはもちろんであるが、重複した場合においても、労働協約が優先とするべきである。

(2) 労使委員会の民主性や正当性確保のための方策について
 「中間取りまとめ」においては、労使委員会の選出については「当該事業場の全労働者が直接複数の労働者委員を選出すること」という記述のみであり、選出方法について検討した形跡は見られない。任期の定めが必要、と言いながらも、任期はそれぞれの労使委員会で独自に定めるのか、法律で定めるのかすら明らかになっていない。民主制確保のためには、少なくとも、改正前の企画業務型裁量労働制の労使委員会のレベル以上のものが必要である。

 以上のように、「中間取りまとめ」で示されているような労使委員会に、就業規則の変更の際の合理性を推定させる効果等を認めることは、絶対にできない。研究会は、今後は、労使委員会と労働組合の役割分担や、労使委員会の民主性や正当性を確保できる方策について、一層の議論を行うべきである。

.解雇の金銭解決制度について

(1)2003年の労働基準法改正時における議論について

 2003年に労働基準法の改正を労働政策審議会・労働条件分科会において議論していた際、その建議には、解雇ルールに加えて、解雇の金銭解決制度が盛り込まれていたが、法案要綱には、金銭解決制度は入れられなかった。この理由の説明が十分になされないまま、「中間取りまとめ」に再度金銭解決制度の項目が入っていることには、納得できない。

(2)誰のための金銭解決制度か
 裁判所の審理期間が以前と比較すると短縮され、原則3回の期日で決着する労働審判制度が2006年からスタートするといっても、労働者にとって裁判に踏み切ることは、依然として相当の決断が必要なことには変わりはない。法律扶助制度が不十分なので、弁護士費用の負担も大きく、解雇により収入が途絶えた労働者が裁判を起こすことは、さらに難しい。
 このような状況下で、裁判を起こし、解雇無効の判決を勝ちとった労働者に対し、会社が一定の金銭を支払えば職場復帰できなくなる制度は、労働者にとって非常に過酷である。
 金銭解決制度の導入には、反対する。

(1) 「中間取りまとめ」の労働者側に金銭解決のニーズがあるとの指摘について
 現在、解雇の有効無効を裁判で争う場合には、現職復帰を求めずに損害賠償だけ請求することはできないため、「解雇には納得できないが職場には戻りたくない」と考える労働者には選択肢がなかった、と言われることもある。しかし、現在でも、裁判上の和解では金銭解決が可能であるし、2006年からスタートする労働審判制度の中では金銭解決を求めることも可能なので、この指摘は妥当ではない。

(2) 使用者からの金銭解決を認める範囲を狭める案について
 金銭解決制度の中でも、使用者からの金銭解決については、断じて認められない。
 まず、使用者からの金銭解決を認めれば、「金さえ払えば解雇できる」との風潮が広まる。違法な解雇が金銭により有効とはならない仕組みを作り、公序良俗違反の解雇については金銭解決を認めず、さらに特別な事情がある場合に限る、としたとしても、このような複雑な基準は一般的には理解できない。
 次に、使用者からの金銭解決を認める範囲をどれだけ狭めたとしても、職場復帰を望む労働者が職場に復帰できなくなるケースが発生することは、やはり納得できない。

.雇用継続型契約変更制度

(1)制度の必要性や現実性に対する疑問

(1) 雇用継続型契約変更制度を利用する場面について
 「中間取りまとめ」では、雇用継続型契約変更制度を利用するのは、「就業規則の変更法理によっては対応できない場面」だと読めるが、労働協約や就業規則の変更では対応できないのは、いかなる労働条件変更であり、いかなる方法で規定された労働条件なのか、理解できず、必要性は感じられない。次項で述べるが、この制度は労働者に多大な負担を課すものであるにもかかわらず、研究会では制度の必要性について十分に検討した形跡が見られない。

(2) 労働条件の変更に異議をとどめて承諾しつつ訴訟で争うことについて
 雇用継続型契約変更制度の特徴は、労働条件の変更に異議をとどめて承諾しつつ、変更の合理性について訴訟で争えることである。しかし、「変更後の労働条件は受け入れられない」として訴訟を起こした労働者を、使用者が雇用し続けるかは、甚だ疑問である。
 雇用継続型契約変更制度を考えるにあたって参考にされたのは、ドイツの「変更解約告知」である。しかしドイツでも、現実にはほとんどの場合、使用者は労働条件の変更を受け入れて変更の合理性を争おうとする労働者を、解雇するという。そして、労働者が裁判で争うのは、結局は労働条件の変更ではなく解雇の合理性になってしまう、という実態がある。研究会は、こうしたドイツの実態を考察した上で、制度の妥当性を議論するべきである。

(2)労働者に対する過大な負担
 労働条件の変更を提示された労働者が、変更後の労働条件に異議がある場合には、訴訟を提起しなければならないのが、この制度の特徴である。この制度のモデルとなった「変更解約告知」を持つドイツでは、労働裁判所があり、年間60万件とも70万件ともいわれる労働裁判の数がある。日本では、労働審判制度がスタートするといはいえ、ドイツほど日常的に労働事件が裁判所に持ち込める状況にはない。雇用継続型契約変更制度は、日本においては「中間取りまとめ」が考えるようには機能せず、労働者にとっては、解雇を背景に労働条件変更を迫られる制度でしかない。
 「労働条件の変更か、解雇か」と迫られることが、労働者にとってどれほど過酷かは、リストラが盛んに行われた時期のことを思い返せば、想像に難くない。

(3)雇用継続型契約変更制度と解雇の金銭解決は使用者に「フリーハンド」を与える

 もし、雇用継続型契約変更制度と解雇の金銭解決の両方を新設すれば、使用者に「フリーハンド」を与えることになる。つまり、労働条件は解雇を背景に変更できるようになり、もし違法な解雇であっても、最終的には金銭を払えば解決することになるからである。これでは、誰のための労働契約法なのか分からない。確かに、違法であれば訴訟に訴えれば解決する。しかし、労使の非対等性という労働の分野に固有の特性や、労働者が裁判などの紛争解決機関にアクセスするのが難しいという日本の現状を、研究会はどれぐらい認識しているのか、疑問である。

.労働時間法制の見直しについて

 「中間取りまとめ」では、「労働者の創造的・専門的能力を発揮できる自律的な働き方への対応が求められており、労働契約法を制定する際に、併せて労働基準法の労働時間法制についても基本的な見直しを行う必要がある」としているが、なぜ労働契約法に関する研究会であるにもかかわらず、労働時間法制の見直しについて言及するのか、理解できない。

.労働契約法の対象者の範囲について

 「中間取りまとめ」では、労働契約法の対象者は「労働契約法制全体の検討を更に深めることに併せて引き続き検討」としている。
 「請負」「委託」といった契約だが、実際は労働者と変わらない働き方をしている人が増えている問題だけでなく、労働者ではないが労働者に近い働き方をしている人が増えている、という問題もある。こういった人たちにも、何らかの保護が与えられるような法制度が現在求められている。

.就業規則の作成と変更について

 現行の労働基準法では、就業規則の作成や変更について、過半数組合や過半数代表者からの「意見聴取」が求められるだけだが、これでは過半数代表が反対しても、使用者が意見を聴けば、行政官庁に受理されてしまう。就業規則の作成と変更については、「協議」を義務付け、使用者が一方的に作成・変更できないようにするべきである。
 なお、「中間取りまとめ」にあるように、就業規則の変更による労働条件の不利益変更について、労使委員会の委員の5分の4以上の賛成があれば合理性を推定することについては、反対する。

.試用を目的とする有期労働契約について

 「中間取りまとめ」では、有期労働契約についても触れられているが、その中でも、試用を目的とする有期労働契約は、労働市場に多大な影響を与えることが十分に予想できる。
 2003年の労働基準法改正で、有期労働契約の上限が延長されたが、その後、新規学卒者をいったんは有期で雇用し、選別の後、期間の定めのない正社員に登用する、という方法を採用する企業が散見されるようになった。試用を目的とする有期労働契約が法制化されれば、企業が適性が見極めにくい若年労働者に対して一斉に利用することが容易に予想できる。若年労働者の雇用問題が大きな注目を集めているような時期に、この制度を法制化すれば、一層不安定雇用の労働者が増加することは明白である。有期労働契約自体にも規制が必要だが、試用を目的とする有期労働契約の新設は、絶対に許されない。

10.仲裁合意について

 個別労使紛争の事前の仲裁合意については、現在、仲裁法の附則により無効とされている。
 「中間取りまとめ」では、事前の仲裁合意について、「引き続き検討」としているが、日本における労使紛争処理の現状を鑑みれば、現行を維持すべきである。労働契約締結時に、将来の紛争発生後の処理方法まで規定できるようにすれば、発生した紛争そのものだけでなく、紛争の処理方法まで争う事態が出てきてしまう。

11.おわりに

 研究会は、労働契約に関わるあらゆる論点を洗い出し、いま一度、自由活発に議論を行い、連合意見を踏まえた最終の取りまとめが行われるよう強く要望する。

以上



 日本労働組合総連合会「新しいワークルールの実現をめざして」(平成13年10月)

 日本労働組合総連合会が平成13年10月に取りまとめた「新しいワークルールの実現をめざして」の中の一つのテーマとして、労働契約法制について下記のとおり提言が行われている。(別添参照(PDF:187KB))。

(「労働契約法制定に向けて」リーフレット抜粋)
 今、なぜ「労働契約法」が必要なのか?
 企業組織の再編や労働者の労働条件変更などにより雇用環境が悪化するのに伴って、民事上の個別労働紛争が増加しています。また、人事労務管理が変化し、賃金などの処遇が個別化しており、パートタイム労働者や契約社員も増加しています。とりわけ、今のような状況の中では、労働者の生活を脅かす「解雇」に関する相談は、著しい数に上っています。このような個別労働紛争を解決するため、さらには、事前に予防するためには、何が必要とされているでしょうか。

 連合は、今ある「労働基準法」のほかに、「労働契約法」が必要であると考えています。
 その最も大きな理由は、現行の労働基準法では労働契約に関する規定が少ないことにあります。労働基準法では、労働者が現実に会社で遭遇する労働契約上のトラブルに、十分対応できません。労働契約内容を使用者が守らなかったり、変更したりしたときには、それが労働基準法に定めがある労働条件水準を下回っていなければ、その契約違反を「法律に違反している」と明言するのが困難です。また、これまでは就業規則や労働協約などで集団的に処理することが通常であった労働条件が、労働者と企業の個別労働契約に委ねられる場面も増えてきました。このような中では、労働基準法に加え、労働契約そのものを捉えた法律が求められます。
 また、これまでは、民事上のトラブルが生じた場合の対応は判例に基づいてなされてきたのですが、この方法にも限界があります。この点でも、労働契約についての民事的なルールを明文化した法律が必要です。


 日本経済団体連合会「2005年度日本経団連規制改革要望−規制改革・民間開放の一層の推進による経済活性化を求める−」
 (平成17年6月21日)

雇用・労働(17)
解雇の金銭解決制度の導入
(要望内容)現在行われている「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」においても解雇の金銭解決の導入について積極的な検討を行い、早期に結論を見出し、速やかに制度を導入し、職場復帰より金銭解決を求める当事者の意向を反映させ、柔軟かつ迅速な紛争解決の選択肢を増やすべきである。
(要望理由)金銭賠償の途を開くことにより労働力の流動化を図り経済の活性化につなげるべきである。金銭賠償による解決策が労使双方に提示されることにより、紛争の解決方法の選択肢が増え、紛争の早期解決に資すると共に、労働力の流動化、中長期的には経済の活性化につながる。使用者側からの金銭解決の申し入れについては、今後の労働法制の在り方に関する研究会がその中間報告書において指摘するように、いかなる解雇についても認めるのではなく、ネガティブリストにより一定の解雇を除外するなどすれば、使用者による濫用の懸念を払拭できるので不都合はない。

雇用・労働(28)
有期労働契約に関する雇用期間の上限の延長
 (要望内容)上限を民法の定める5年とすべきである。
 (要望理由)有期雇用契約であっても労働者からの雇用契約の中途解約は事実上ほとんど制限されないのが実態であり、かつてのような「足止め」もまれになっていることから、民法の原則どおりとしても問題はない。本件について厚生労働省は、法の附則に従い施行後3年を経過した段階において検討を行う旨を回答している(「全国規模の規制改革・民間開放要望」に対する各省庁からの再回答について(2005年1月19日))が、早期に見直しに向けた検討に着手すべきである。



 日本経済団体連合会労働法専門部会「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会「中間取りまとめ」に対する意見」
 (平成17年6月20日)

.労働契約法の性格等に関わる問題点について

(1)労働契約法は任意規定であるべき、実体規制に反対
(1) 実体規制には反対
 労働契約法は契約法であるから、契約自由の原則を最大限尊重し、労使の自主的な労働条件の決定を補完する法律であるべきである。
 したがって、罰則が付加されないのは当然として、その性質は任意規定であるべきであり、実体規制をすべきではない。
 この点、「中間取りまとめ」にある、試用期間の上限を規制すること、兼業禁止を制限する規定や個別合意を無効とすることは実体を規制するものであり、反対する。

(2)書面化による規制について
 「中間取りまとめ」は、懲戒処分、有期雇用契約、採用内定の留保解約事由、試用制度、転籍、競業避止、秘密保持などの各労働契約について書面化を要求し、書面で明らかにされていない場合は、無効等使用者側に不利に取り扱うとしている。
 これらの強行法規化による規制は、労働契約法の性格に合わないばかりか、かえって労使紛争を誘発するおそれがあるため、反対である。

(2)契約法であるから、使用者側の義務に偏することなく、労使双方の義務を規定すべき
 今日、労基法制定当時とは異なり、労働者は必ずしも社会的弱者ではない。したがって、法律で労働者が専ら経済的弱者であるとの前提で、使用者のみに義務を課すことは妥当でない。
 中間取りまとめは使用者の付随義務(安全配慮義務、個人情報保護義務)を法律で明らかにすることを適当としている。
 これに対し、契約法であるならば、労働者の誠実義務(企業秩序遵守義務、秘密保持義務、競業避止義務、自己健康保持義務等)についても積極的に定めるべきである。

(3)労働基準法の改正について
(1) 改正・削除すべきもの
 労働契約法制と併せて、労基法の改正を行い、不要な罰則規定の削除を行うべきである。
 たとえば、減給の制裁については、労働基準法第91条により1回の額が平均賃金の半日分という上限が設けられているが、このような厳しい上限規制は必要性も合理性もなく、少なくとも公務員と同程度の減給処分(人事院規則 12−0 (職員の懲戒)第3条 減給 1年以下の期間、俸給月額の5分の1以下の額)が可能とすべきである。
 また、昭和22年に制定された労基法に定められた刑罰法規について、現在、本当に必要かどうかという点から見直し、この機会に不要な罰則規定を削除すべきである。
 さらに民法の雇傭の規定との関係についても整理すべきである。

(2)導入すべきもの
 逆に今日の時代に必要な制度は導入すべきである。
 現在の労基法の制定当時と労働者の働き方は大きく変化しており、労働時間法制の見直しを行い必要な制度は新設すべきである。
 一定の労働者について労働時間規制の適用除外とする、「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度を導入すべきである。

(4)解釈指針・考慮要素は必要最小限にすべき
 労働契約法は、「わかりやすいシンプル」なものであるべきである。
 したがって、「中間とりまとめ」に想定されている多くの解釈指針や考慮要素については、必要最小限のものに削るべきであり、就業規則の不利益変更の考慮要素の指針、整理解雇の指針については不要である。
 また、指針については、契約法の指針であることから「使用者が講ずべき」とするような行政指導的なものが定められることについては反対する。指針はあくまで、情報提供的なものに限るべきである。よって、「解雇にあたり使用者が講ずべき措置の指針」についても反対する。

.その他の個別の問題点について

(1)対象者の範囲を限定すべき
 労働契約法制の対象とする者の範囲については、対象者について明確性を図るべきであるので、基本的には現行労働基準法が定める労働者、使用者とすべきである。

(2)就業規則について
(1) 就業規則の合理性推定の要件を緩和すべき
 「過半数労働組合が合意した場合、変更後の就業規則の合理性が推定される」ことを規定することには賛成である。
 但し、不利益変更について、現行判例法理以上の厳格な制約を課すことには反対する。
 たとえば、「中間取りまとめ」にある「一部の労働者に対して大きな不利益のみを与える変更の場合を除き」とする要件を付加する意見は、規定を不明確にすることから反対であり、このような事情は原告が主張立証し、合理性の推定を覆す仕組みとするべきである。

(2)就業規則の効力発生要件としての行政官庁への届出義務化に反対
 行政官庁への届出を就業規則の効力発生要件とすることは、判例上もまったく求められていない新たな規制を使用者側に課すことになるので反対である。

(3)解雇の金銭解決制度について
(1) 解雇の金銭解決制度は早急に導入すべき
 但し、解雇か金銭解決かを選択することは労働者個人の選択する問題であることから、個別的な使用者側からの申立てについて「中間取りまとめ」にあるような、「事前の集団的な労使合意」を要件とすることには反対する。
 また、「雇用関係を継続しがたい場合」に要件を限ることにも反対する。
 さらに、紛争の早期一回的解決の観点から、解雇手続の中で、金銭解決の申立ても可能とすべきである。

(2)有期労働契約の雇止めと金銭解決制度
 紛争になった場合、一定の有期労働契約の雇止めについては、裁判所によって解雇の法理が類推されることがあり、期間の定めのない労働者の解雇と同様 の利益状況が生じる。したがって、有期労働契約の雇止めにも金銭解決制度を導入すべきである。

(4)有期労働契約期間中における解雇について
 期間途中に解雇された有期労働契約者が使用者に対して損害賠償請求をする場合に使用者の過失について立証責任を転換することについては、労働者を過度に優遇し使用者に「過失の不存在」という証明困難な過度な負担を課すものであり、労使対等を基本とする労働契約法に馴染まないので反対である。

(5)辞職の効力発生時期について
 辞職の効力発生時期に関しては、現在、民法第627条1項により、2週間経過日に雇用契約が終了することとされているが、同法は一般に強行規定と解されるため、引継ぎ・後任の手当て等の準備のため、就業規則などで2週間より前に定めることはできず不都合である。
 したがって、少なくとも1ヶ月以上の期間が可能とすべきである。

(6)合意解約、辞職に関するクーリングオフについて
 「中間取りまとめ」にある「合意解約、辞職に関するクーリングオフ(おおむね8日)」は、民法理論・現行の判例の立場に反するものであり、反対する。
 合意解約や辞職は、これまで長期にわたって契約関係のあった者からの契約の打ち切りであり、売り手の巧みな口車に乗せられ契約をしたばかりの軽率な消費者を保護する「クーリングオフの制度」とは適用場面を異にする。

(7)配転命令、昇進、昇格(降格)について
 昇進、昇格、降格については、企業によって制度内容が大きくことなり、その法制化は不適切、困難である。したがって法制化に反対する。
 また、配転命令について権利濫用法理を法律で明らかにする点についても、判例上、配転命令が権利濫用とされる場合は極めて例外的であり、立法の必要はなく反対である。

(8)懲戒の権利濫用規定について
 懲戒について権利濫用規定を設け均衡論等の要素を盛り込むことについては、服務規律や慣行など企業によりさまざまであることを考えれば不要な立法の介入であり、反対である。

(9)個人情報保護義務について
 すでに、個人情報保護法が今年4月に施行されたばかりであること、顧客情報等にも要保護性の高いものがあり、労働者の個人情報のみをそれらに比して特に保護すべきことは適当ではないことなどから、使用者の個人情報保護義務を定めることには反対する。

(10) 雇用継続型契約変更制度について
 雇用継続型契約変更制度は、要件・効果を具体的に検討する必要がある。不十分な検討状況のまま拙速に取り入れるべきではなく、慎重な検討が必要である。
 同制度が、本来認められるべき解雇に対する新たな規制となる制度になるのであれば反対である。

(11)労働者代表制(新しい常設的な労使委員会制度)について
 労使関係のあらゆる場面に手続的要件として労使委員会における同意等を要求することは疑問である。
 労使委員会については、「まず労使委員会ありき」ではなく、必要性や現在の労使協定の活用、労働組合との関係なども十分考慮した上、導入の是非については、慎重に検討すべきである。
 なお、仮に導入するとしても、組織・決議要件、画一的な多数決(4/5)要件などについては疑問であり、労使自治に委ねるべきである。

.おわりに

(1)今回のパブリックコメントについて
 今回実施されたパブリックコメントの回答期間は問題の重さに比し余りにも短く、遺憾である。

(2)十分な議論が必要
 「中間取りまとめ」が示す内容は、大変広範にわたり、かつ、仮に法制化されれば、ひとつひとつの項目が労使に多大な影響を及ぼす重要なものである。
 したがって、法案の提出時期を決めてタイムスケジジュールを組み、そこから遡って決められた期間でのみ検討をするのではなく、審議会において十分な議論を尽くす必要がある。
 なお、その際、審議会では今回の「中間取りまとめ」、さらには秋に出されるであろう「最終取りまとめ」をもとに議論がなされるであろうが、これらはあくまで研究会の取りまとめであるので、これに縛られることなく、よりよい法制化に向けて自由な議論がなされることが肝要である。

以上



 日本経済団体連合会「2005年版 経営労働政策委員会報告「労使はいまこそさらなる改革を進めよう」」
 (平成16年12月14日)

2部 経営と労働の課題
 労働法・労働行政への対応
(2)労働条件決定は労使自治が基本
 (略)現在、労働契約法制の検討が厚生労働省で進められているが、これに仮に単なる法律による規制の追加に終わるのであるならば制定の意味は乏しい。たとえ違反に罰則がともなわないものでも、法律による規制の追加は労使自治、規制緩和の動きに逆行する。
 労働契約法制は、労使の自主的な決定と契約自由の原則を最大限に尊重しつつ、工場法の時代の遺制を引きずる労働基準法などの関係法令を、今日の環境にふさわしいものに抜本的に改革する実りの多いものとなることを強く期待したい。



 日本商工会議所労働小委員会「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」中間とりまとめに対する意見
 (平成17年6月20日)

 労働契約に関する包括的なルールを整理・整備し、その明確化を図るため、厚生労働省において議論が行われているが、このほど発表された同研究会の「中間とりまとめ」について下記の通り意見を申し述べる。


産業構造の変化が進む中で、就業形態や就業意識が多様化し、労働契約に関する現行の法律や判例法理によるルールが、最近の労働契約関係を取り巻く状況の変化に必ずしも十分に対応できているとは言い難い。このような状況のもと、労働契約に関する紛争の解決に資する指針もしくはガイドラインを整備し、労使当事者の行動規範となるようなものを明らかにすることは意義があることと考える。

もちろん、その場合であっても、従来から主張している通り、個々の労使が十分な話し合いにより主体的に労働条件を決定することを可能とする労使自治を基本とすべきことは言うまでもない。しかしながら、「中間とりまとめ」では、労働契約の分野において民法の特例法となる労働契約法制を制定することが必要であるとしている。また、法制化にあたっては、単に判例法理を立法化するだけでなく、実体規定と手続規定とを組み合わせることや、当事者の意思が明確でない場合に対応した任意規定、推定規定を活用することにより、労使当事者の行動規範となり、かつ、具体的な事案に適用した場合の予測可能性を高めて紛争防止に役立つようなルールを形成することが必要であるとしている。仮に、各企業の実情を考慮せずに、統一的、画一的に法制化されれば、それがかえって企業活動の足枷となり、企業経営を萎縮、硬直化させ、ひいては日本経済の活力を損なうことを大いに危惧するものである。

就業形態や就業意識の多様化により、労働者ごとに個別に労働条件が決定・変更される場合が増え、それに伴う紛争も増えている状況を考えれば、むしろ個別事案にあったケースバイケースの解決方法によらざるを得ず、労働契約で定めるべき基本的な項目を除けば、統一的・画一的なルールの法制化は馴染まないものと考える。平成13年に個別労働紛争解決制度が創設され、「中間とりまとめ」でも相当の実績を上げていると評価されているのも、その証左である。あくまでも労使自治の原則と契約自由の原則を最大限に尊重すべきであり、法制化を前提とするのではなく、迅速な個別労使紛争の解決の促進に資するとともに、労使双方にとっての行動規範となり、また紛争の未然防止にも役立つ指針もしくはガイドラインレベルにとどめるべきであり、労働契約に関する紛争が発生した場合は、現状通り、個別労働紛争解決制度を活用し、最終的には民事裁判に委ねるべき性格のものである。したがって、法制化は馴染まない。

また、具体的な労働契約に関する指針もしくはガイドラインの検討にあたっては、経済活動や企業経営の実態を十分に考慮する必要がある。研究会では、検討にあたって、人事管理に関する動向、就業形態や労働者の就業意識に関する動向、労働契約をめぐる紛争やその解決の状況など、労働契約関係や労使関係を取り巻く実情を踏まえたとしている。しかしながら、「中間とりまとめ」では、例えば「請負契約や委任契約に基づいて労務を提供する者を労働契約の対象とする」ことや「労働条件の決定・変更を行う場として、常設の労使委員会を設置する」ことなど、経済活動や企業経営の実態からみても、さらに慎重な検討を要する項目も数多くある。

厳しい経済状況の中で、企業は、国際競争力を保持すべく懸命に努力しながら雇用の維持に努めている。特に、日本の企業数の99%以上を占める中小企業は、地域経済の活力の源泉として日本経済の基盤を成し、また、雇用の7割を支えている。したがって、労働契約に関する指針もしくはガイドラインの整理にあたっては、特に中小企業の実態を十分に反映してはじめて実効性のある内容となるため、十分な配慮が必要である。

いずれにしても、労働契約の「公正かつ透明なルール」を設けたとしても、その内容が企業経営や経済活動の実態に合わず、企業の競争力を失わせるようなものであれば、企業経営、ひいては経済活動の活力が失われ、結果的に雇用に悪影響を及ぼすことが懸念される。今後、研究会の最終報告の取りまとめにあたっては、企業経営や経済活動の実態を十分に踏まえた議論がなされるべきである。

以上



 東京商工会議所「労働政策に関する要望」
 (平成17年7月14日)

.経済社会の多様化に対応した労働法制の整備
(1)労働契約の在り方について
 労働契約に関する法制は、労使の自主的な決定と契約自由の原則を最大限に尊重したものでなければならない。かつての工場法の時代に作られた労働基準法などを今日の社会情勢にふさわしいものにしていく必要がある。
 労働契約に関するルールを整備する場合は、必ずしも新法による必要はない。労使の判断の参考となる目安であるべきであり、新たな紛争を引き起こすことのないよう、労使の自主性を尊重した、中小企業にもわかりやすく使いやすいものでなければならない。特に、解雇を巡る事情は企業によってかなり異なるため、法律で解雇の要件や手続きを一律に規定することは好ましくない。
 紛争の迅速な解決を目指して準備が進められている労働審判員制度等と合わせて、一体的に検討すべきである。
(2)裁判で解雇無効の際の金銭解決制度について
 裁判にて解雇無効となった労働者は、現実には職場復帰するケースは少なく、大半は金銭によって退職している実態を考慮すれば、紛争解決の選択肢を広げるという観点から「金銭賠償方式」の導入を検討すべきである。但し、その際の解決金額については一律に設定するのでなく、企業の実情に応じて労使の合意に委ねるべきである。

【別添】
 労働契約に関するルールを整備する場合は、必ずしも新法による必要はないと考える。現在検討されている労働契約法(仮称)については、主な意見を別添する。

厚生労働省「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会 中間取りまとめ」に対する東京商工会議所 労働委員会での主な意見

(1) 現在検討されている労働契約法(仮称)について
 「実質的に対等な立場」の担保方法、「紛争を未然に防止する労働契約のルール」の内容によっては、現行法以上に、固定的・画一的な労働条件・労働契約となりかねない。
(2) 裁判で解雇無効の際の金銭解決制度について
 裁判にて解雇無効となった労働者は、現実には職場復帰するケースは少なく、大半は金銭によって退職している実態を考慮すれば、紛争解決の選択肢を広げるという観点から「金銭賠償方式」の導入を検討すべきである。但し、その際の解決金額については一律に設定するのではなく、企業の実情に応じて労使の合意に委ねるべきである。
(3) 対象となる「労働者」の範囲について
 請負契約や委任契約に基づき労務を提供する者も労働契約法の対象とすることが検討されている。請負、委任契約は企業と対等な立場で契約を結んでおり、保護を必要とせず、労働基準法上も対象外となっている。対象にすることはなじまない。
(4) 常設の労使委員会制度について
 労働条件の決定・変更についての協議や苦情処理の場として、常設の労使委員会制度を法制化することが検討されている。常設の労使委員会の設置は、中小企業には負担が重く、全ての企業において設置することは現実的ではない。企業の実情に応じて労使の合意による自主的なルールが策定されていれば良く、労使委員会の設置を要件とすべきではない。更に常設である必要もない。
(5) 就業規則について
 就業規則の作成要件として、「労使委員会や複数人からの意見聴取が必要、更に意見聴取の手続きに関する指針を定める」となっているが、現行以上の細かな規定、要件の強化は必要ない。
 「内容を労働者に周知する、(常用労働者10人未満でも就業規則を制定する場合は)過半数組合等からの意見聴取、行政官庁への届け出」を法律で効力発生要件とすることには反対である。
(6) 雇用継続型契約変更制度について
 制度の導入自体が紛争の解決を促すとは考えられず、また紛争中の労働者の労働生産性は著しく低下することが指摘されており、導入には反対である。(以上)



 全国中小企業団体中央会「第57回中小企業団体全国大会決議」(平成17年9月15日)

 中小企業を重視した労働・教育政策の展開
.労働契約法制の検討
(1)労働契約法制の制度化への検討
 労働契約の制度化の検討は、中小企業の経営・雇用管理の規制強化や足かせとならないよう、中小企業の実態を十分踏まえ慎重に行うこと。
(2)中小企業の実態を踏まえた「金銭賠償方式」の検討
 解雇の際における「金銭賠償方式」(労働者の職場復帰ではなく、使用者の一定の金銭の支払によって労働契約を終了させる方法)の制度化に当たっては、中小企業に過重な制約と負担を課すことなく、柔軟な制度とすること。特に、使用者が支払う金銭の額は、一律に設定するのではなく、労使の合意を尊重するなど、その経営の実情と支払い能力を十分踏まえたものとすること。

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