05/09/30 今後の労働時間制度に関する研究会 第9回議事録            第9回今後の労働時間制度に関する研究会                        日時 平成17年9月30日(金)                           17:00〜                        場所 厚労省専用第22会議室 ○座長  定刻になりましたので、「第9回の今後の労働時間制度に関する研究会」を開催させ ていただきます。お忙しい中をご参集いただきまして、大変ありがとうございます。本 日の出欠ですが、水町先生からご欠席のご連絡をいただいております。本日の議題は、 「企業・労働者を取り巻く現状認識と労働時間制度を見直すに当たっての視点について 」及び「裁量労働制のあり方について検討すべき事項について」ということです。ご案 内のとおり、前回まで労使団体や個別企業からのヒアリング、裁量労働制を導入してい る事業場などに対するアンケート調査などにより、裁量労働制についての関係者のいわ ば現段階における評価を確認させていただきました。これからは、当研究会としての考 え方を整理していくことになります。そのためには企業・労働者を取り巻く現状を我々 としてどのように認識するのか、更には、今後の労働時間制度そのものをどのように設 計していくのかという点についての共通認識があってはじめて裁量労働制の見直しにつ いての具体的な提案も可能になるかと思います。  本日はこのような議題の設定をさせていただきました。いわば総論的な議論をお願い するということです。私の考えを受けて、論点を整理していただいたものを事務局が準 備してありますので、まずその説明をお願いします。 ○小林調査官  それでは議事の1の「企業労働者を取り巻く現状認識と労働時間制度を見直すに当た っての視点」ということで、お手元に資料1、資料2をお配りしております。  まず、「企業・労働者を取り巻く現状認識」ということで資料1−1、資料1−2に したがって、今現在の取り巻く環境について説明をした上で、どう認識するかという点 について、資料1−1が現状認識の案です。したがいまして、資料1−2に具体的なデ ータを引きながら、資料1−1の認識をもつかどうか、ということについて説明いたし ます。  特に項目としては、大きく2つほどセットしております。1つ目は「産業構造の変化 等に伴う企業行動の変容」、2つ目は、「労働者の意識及び働き方の変容」という大き な項目をセットして、その中で企業ごとの変容としては、企業を取り巻く経済・社会状 況の変化があるのではないか。また、それにしたがいまして、企業構造が具体的にどう 変容してきたか、という2点について認識を新たにする必要があるということで整理さ せていただきました。  取りあえず、Iの1、企業を取り巻く経済・社会状況の変化としては、皆さん方もご 存じのように、経済のグローバル化、また第3次産業等のサービス産業の成長等が著し く進展しております。その中で、アジア、アメリカ、EUとのの輸出入の拡大、あるい はサービス産業の中のGDP比、あるいは就業者数の変化が著しいという点です。  2点目は、国内・国際市場における企業間の競争が激化して、その中で企業内、ある いは国際間の企業の間での技術革新のスピード競争に至っているということです。その 中で、企業内においては迅速な経営判断や、機動的な経営戦略が問われてきておりま す。またその中で大量生産による市場の支配というよりも、利益率を上げるという、総 力化を中心とした利益率向上のための構造が著しいわけです。  その中で企業内における労働者の役割についても、特に問われている職業、職務につ いても、それに対応した高付加価値化、知識集約的な仕事の比重が高まっているという 点が認識すべき点かなと思います。  それにしたがいまして、具体的なデータについて資料1−2の1頁から8頁までが、 その実証のデータです。資料1−2の具体的なデータについて、簡単ですが説明いたし ます。経済のグローバル化の進展ということで、資料の1頁に書いております。わが国 では、グローバル化の進展ということで、人、物、金の行き来が多様になってきており ます。その中で、物に着目して、貿易の輸出入額の点について着目しますと、1990年〜 2004年まで挙げていますが、いずれの地域等においても、相互に輸出入額が増えていま す。その中で特に中国等を中心としたアジア地域との交流、貿易の取引額が輸出入とも に増えてきております。やはりアジアの中で日本が中国等を中心としたアジア市場の中 での役割、あるいは付き合いというものが、特に比重としては高まってきます。  2頁目、サービス産業ということで、特にGDP比を見ますと、2003年の中では第3 次産業が7割強です。その中で第3次産業の中の比重としては、特にサービス業等の比 重が、近年その割合を高めてきています。  3頁目は、具体的な就業者数の変化を見ても、2000年では1,726万人の方がサービス 産業に従事しております。特に製造業との比で見ますと、近年では製造業の従事者を減 らす一方で、サービス産業従事者が比較的増加の勢いを強めている点が見られます。  4頁目は、企業間の競争の激化という点で、企業にアンケート調査をした結果が書い てあります。主要事業、特に産業等を通じて一般的に非常に激しかった、あるいはやや 激しかったという点も含めると、7割を超える企業等が近年の競争の激しさを物語って います。企業においても、そういう認識を強く持っていると言えると思います。  5頁目は、競合する市場としては、先ほどの国際化、グローバル化の進展に伴い、国 内市場のみならず、海外の市場をにらみながら、競争をしていくという点で、国内、国 外を問わず、競合する市場があると認識する企業が、約8割を超えている点で、非常に 競合する市場の中で競り合っている状況が見えるかと思います。  6頁目は、どの国との競合関係かという点について、海外の地域別に示した数字が載 っております。各地域とも2003年度には2001年度に比べて伸びてきているわけです。特 に左の中国等との競合関係については、特に貿易の伸長に伴い、中国市場との競合関係 がとりわけ強くなってきています。  7頁目の技術革新のスピードの早さについては、先ほどの競合関係が強くなるととも に、その競合に打ち勝つという観点で、技術革新や製品開発の期間を短くして、より短 期間に技術革新を行う必要性が高い。認識としては、非常に早くなったという点も含め ますと、7割近くの企業等がそう感じているということです。特に金融、保険業、特に 製造業の中でも電気機械、またIT等の情報通信業においては、そういう技術革新等の 中でのスピード感を強くするという認識を強く持つ会社が多くなっております。  8頁目は、設備投資に対する、どの投資を強めていくかということで、目的別の内訳 の数字です。左の欄で、いわゆる能力増強投資というものについては、近年減らす方向 です。そのかわりとして、右の欄の合理化・省力化投資、または研究開発投資という点 での投資に比重を置くという会社の方が過去3年間よりも、今後3年間で増やしていく という会社が多くなっています。その点を踏まえて、どう認識するかということは、合 理化・省力化投資の増大に伴い製造業等においては反復、あるいは単純な労働は装置に 代えられて、そのスピード、技術革新を担うべき人の付加価値の高い知識労働を果たす 役割が、会社内において比重を高めていくと言えるのではないかということで、「労働 経済白書」でもそういう分析をされています。以上が、企業を取り巻く産業の変化とい う点で、こういう状況になっていることがデータからも言えると思います。  次は企業を取り巻く状況を踏まえて、会社が具体的にどう構造について変化してきた かという点について説明いたします。まず、言えるということで、座長と案を作りまし た。資料1−1の2に戻りますが、企業は競争が激化する中で、短期的な収益を追究せ ざるを得ない状況に置かれています。経営資源の効率的、かつ効果的な活用を求められ ている。またその中で事業の選択や集中、あるいは組織においても抜本的な組織再編を 行うという会社が多い。その中で従業員、労働者の位置づけとしても、経営資源として の認識を新たにし、その効率的な活用が経営戦略の中の1つの柱として位置づけられる という企業が増えてきている。  一方で、従業員についての過重労働、正社員への労働負荷に伴った過重労働があると いう点で、会社自らもそういう認識をもつ会社が増え、また現在企業の社会的責任とい うことで、(CSR)の観点で各企業では取り組まれているわけです。環境問題も含め て、従業員の職業と家庭の調和を図るという、労働環境における配慮についても、企業 の社会的責任として認識を新たにしている状況ではないか、という点が認識すべき点だ と思います。  それを具体的なデータとして立証しますと、資料1−2の9頁目から24頁目にデータ を集めていますので、この点はデータを基に具体的に説明いたします。  9頁目に、長期雇用慣行について今後どう推移するかということです。長期雇用慣行 は維持する一方で、人事制度は年功から成果重視に方向転換するという点がデータ上明 らかです。特に長期雇用慣行ということと、年功序列型賃金という形が、日本の雇用管 理の典型と言われておりますが、長期雇用慣行については、資料の図を見ますと、どち らかというと、長期雇用が前提という認識を持っている会社は9割を超えています。そ の点については、変更をしないと言えるかと思います。ただし、正社員の中でも、中途 採用等を戦略的に外部から登用しながらも、長期雇用のもとの正規従業員重視型、とい う点については変更しておりません。  また、経済社会の変化に伴う年功的な処遇、例えば賃金や昇進制度等については見直 しを図り、成果主義的な人事制度に取り組む企業が多くなってきている、というのが一 般的な雇用管理における影響だと思います。  特に中途採用の増加については、新卒を基軸としながらも、中途採用でそのときその ときの事業を展開するための貴重な人材を外部から登用する傾向が、資料の「中途採用 の増加」という点で、1985年から比べますと、2003年までずっと増加していると言える と思います。また具体的な中途採用の理由としては、次頁に、正社員の中の中途採用者 の占める割合が上昇している兆しです。その中途採用を戦略的に採用する割合が増えて いますが、その目的としては、資料の下の図の左から2つ目の欄に、「即戦力が必要な ため」と回答する企業が6割を超えています。そういう意味で、即戦力重視という点で の中途採用を重視するという会社が増えております。  また成果主義的な処遇への変更ということで、賃金について導入状況を見てみます と、これは職種ごと、あるいは資本金別にデータが付いています。成果主義的賃金制度 を導入している企業の割合は、管理的職業従事者は79.8%、専門技術的な従事者につい ても75%を超えています。資本金別にも各企業では資本金が多いほど、そういう成果主 義の賃金を導入していると見受けられます。  12頁では、成果主義賃金と併せて、人事考課制度を併せて導入している会社が多いわ けですが、人事考課制度を導入している会社が、平成14年では51%。その中で具体的に 評価制度としてどういうものを導入しているかと言いますと、やはり目標管理制度が5 割、多面的360度調査等の部下、あるいは同僚、上司等の多面的な評価をする部分が若 干減っておりますが多くなっている。また、自己評価も併せて導入している会社がある わけです。  13頁に横の表がありますが、評価をするに当たって、どういう点を基準として行うか ということです。年齢や勤続年数等の年功よりも、具体的な成果を重視する傾向が、今 後3年間に当てはまるという数字が42.4%まで増加しています。人事考課をした結果、 それをどういうふうに利用するかという点を示したデータが14頁です。人事考課をした 上で、昇進・昇格に反映させる。また給与・賞与等に反映させる。職務適性との適性判 断に利用する、と3つほど挙げております。昇進・昇格、あるいは給与等に反映させる ことについては、特に割合を高めていると言えると思います。  15頁に参考4を付けております。基本給の決定要素としては、管理職、あるいは管理 職以外を通じて、具体的な職務遂行能力、結果としての業績、成果のウエイトを増やし ていくという点で、実績主義、あるいは能力をフルに発揮するという能力面を重視した 基本給の決定要素にウエイトを移していく、という会社が近年多くなっています。給与 の下がり方についての変化については、16頁に「年報制の導入」ということで数字を挙 げております。年報制を導入している企業は1割を超えています。下の数字にあるよう に、年報制を導入している会社の中で、特に管理職については87.2%の会社が、管理職 を対象として導入している割合が多いわけです。また管理職以外でも、技術専門職、営 業職等への反映もしておりますので、年報制等の導入が、管理職以外の職種にもだいぶ 普及しているのではないかと思っております。  17頁に先ほどの戦略的な経営を可とするということで、労働力を基軸として経営戦略 を立てると言ったわけですが、具体的にどういう人材を戦略的に活用していくかという 点については、人材ポートフォリオで見てみますと、人数としては特定領域の専門家、 あるいは現場で高度な技能を有するテクノクラウドを、このような人材を増やし、現状 維持という会社が非常に多い。また、具体的にどういう人材をどこで確保していくかと いうことについては、下のグラフに書いてありますが、専門家、あるいは高度な技能者 については、正社員、あるいは新卒という正規職員で対応する傾向が見られます。一方 で、典型的な業務等については、事務管理、現場の作業従事者も含めて、派遣やアウト ソーシングの活用で当てるという会社が多くなっている。  18頁は、どういう技能を、特に専門高度な技能者として要求するかという点について は、重視する技能の割合としては、職能特化型の技能ということで、各企業を超えて、 特定の専門技能を有するという、技能面に着目して採用する傾向が強くなってきていま す。  19頁目に、労働者が専門技能的な技能を要求する一方で、仕事の割当て方という意味 の職務分担については、今まではどちらかというと、職務の分担については不明確な運 用のされ方が強かったわけですが、今後の人事管理の方針としては、個人1人1人に職 務分担を明確にして、その目標管理を受けて評価する。職務を明確にするという傾向を 強くしています。これは企業規模にかかわらず、全体的に4割を超える企業において、 そういう職務分担の見直しを図っています。  20頁は、企業組織の再編の動きについては、構造不況等、リストラクチャリングがだ いぶ進んだわけですが、その中で特にどれを選択するか、重視する点について聞いた数 字です。やはり社内組織のフラット化、あるいは支店、支社、事業所の再編、また子会 社、関連会社の再編ということで、分社化を中心としてするような形ですが、そういう 意味での組織と組織内のフラット化という、両方併せて行っている傾向が顕著に見られ ます。  組織のフラット化が具体的にどういう職種に影響を与えたかという点で、21頁目に は、具体的な影響としては、このグラフからわかるように、管理的職業従事者がその比 重を低めてきています。中間管理職等の管理職の中のフラット化に伴う影響が、特に管 理的職業従事者に強い影響を与えているという点が、このグラフから言えると思いま す。  22頁目の「今後の経営項目として従事すべき点」については、既存事業の強化や拡大 はもちろんのこと、競合する国内、国外を問わず、競合する製品等への差別化を図ると いう点で、技術革新等を行う要因として挙げられるのは、差別化が経営方針として高い ウエイトを占めています。また顧客満足の一層の向上ということで、多品種のカスタマ イズされた製品、商品を提供する必要があるという認識を持っているのかと思います。  先ほどの企業の社会的責任(CSR)という認識についても、重視する方向があると いう点で、9割の会社がそういう認識を持っています。  23頁目には、過重労働に対する企業自身の認識が、このグラフから数字として挙げら れています。特に過労を認識して、発症は懸念されるという認識を持っている企業は、 2002年から2004年まで毎年増えています。2004年には、38.3%まで上昇しています。脳 ・心臓疾患はもとより、精神疾患についても増えています。  働き過ぎという懸念があるとともに、24頁にあるように、働き方については、家庭と 仕事の調和を図るという点も、今後企業として重視していきたいという点で、労働者の モラルの向上になるので、積極的に導入するという会社、あるいは社会的責任、社会的 に養成を踏まえたイメージアップのために積極的に導入するという会社も多いわけで す。そういう点で、働き過ぎへの懸念とともに、定期的に会社のイメージ、モラルを向 上させるために、雇用管理をしていく必要があると認識する会社も増えています。  これは企業側の認識のデータです。レジメの2頁目の「労働者の意識と働き方の変容 」について、現状をどう認識するかという点について、4つほどまとめてあります。1 つは、経済成長等が、高度成長から低成長に変わることを受けて、成長していく社会の 中で働く企業における競争激化の中で、働く労働者というものの意識についても、おの ずと変わってきているのではないか。その中に会社人間等に対する、今までの仕事中心 から、それを若干低成長の中で違和感を持つ労働者の比重が高まり、また豊かさの観点 が物を持つことから、中身である心の豊かさを求めるという、豊かさの視点も変わって きている。その中で、生き方についても、必ずしも働くことだけを生きがいとするので はなく、自分に合った職業を、自分の能力を発揮するということで、職場を選ぶ傾向に なる労働者も多くなっています。  そういう意識を持っていながらも、実際上は仕事中心の選択をせざるを得ないという ことで、希望と実際とのギャップを感じている労働者も近年増えているのではないか。 労働時間も長時間働く方、あるいは短時間でいいということで、労働時間の実数につい ても長時間労働と短時間で終わってしまう労働ということで二極化の傾向が近年見られ ます。その中で、長時間働く労働者においては、年休も十分取れず、また仕事上のスト レスを感じる方も増えて、実際上過労死等による労災の認定件数も増えているのが現状 認識です。これを実証するデータとしては、25頁から38頁までデータを付けておりま す。  まず25頁目は、仕事と生活の調和を求める意識が、今現在どうなっているかという点 です。1が優先希望順位で、2番が現状です。四角枠で囲んだ部分は、特に20代、30代 は、どちらかといえば生活を優先、あるいは生活を優先すると希望していますが、現状 としては、仕事優先、あるいはどちらかといえば仕事を優先するということで、希望と しては、生活を優先しながらも、現状では仕事を優先せざるを得ないという意識のギャ ップが、この表から特に20代、30代を中心として言えるのではないか。  これを全体で見た数字が、32頁に付けております。先ほどは年代別でしたが、年代を トータルで見た数字が32頁目です。上が現状、下が優先希望順位ということで、左の、 どちらかといえば生活を優先と、生活を優先するという点とクロスして、現状は仕事優 先、どちらかといえば仕事優先ということで、下の段と、上の仕事優先、どちらかとい えば仕事優先というクロスした部分のウエイトが非常に高く、実際上、年代を問わず、 仕事を優先せざるを得ない現状が、全体としても言えるのではないか。  具体的に職種別、どういう人がそういうギャップを感じるかという点が33頁目です。 年代別にも若い層がそういうギャップを感じますが、具体的に雇用形態別にそのギャッ プについて分析しますと、若干バラけているのでわかりにくいかと思いますが、総合職 の正社員については、基本的に希望も仕事優先、現状も仕事優先ということでマッチし ています。特に乖離が激しいのは、パート・アルバイトです。優先希望順位として、ど ちらかといえば生活を優先するが31.8%もいるわけですが、現状を見ますと、どちらか といえば仕事優先が31.8%ということで、どちらかというと生活を優先しながらも、現 状では仕事を優先するが多く、その点、パート・アルバイト等については、そのギャッ プが激しいと言えます。  26頁目に、個々の労働者が職場においてどういう点について意識を持つかという点で は、職場内において能力発揮ができる機会があれば、昇進にこだわらないという正社員 の割合が60.8%あります。また、正社員の中でライン管理職というよりも、スタッフで はありますが、専門的知識を活かしたいというものが過半数を超えています。また転職 する会社の希望理由としても、やはり職場内において技能や能力を活かせる職場である かという点が、仕事内容を第1順位としますが、転職理由の2番目としては、自分の技 術・能力を活かせる場だから、というのが転職理由として挙げられています。  27頁目は、仕事に対して何を満足に思うかという点を挙げております。仕事全体の満 足度の中で、どの項目のウエイトが高いかについて調べた数字です。第1に仕事内容で す。次に、裁量的な仕事であるという点が、内容に次いで多い。仕事内容と併せて、裁 量的な仕事も満足度としては高くなっているのが現在の傾向です。  次に、職場における雇用形態の変化です。正社員については減らす一方で、契約社 員、あるいは派遣社員等の非正規職員等が32.2%(平成17年度)の比重を占めており、 3割を超えた方が非正規で雇用されているのが現状です。また非正規労働者が増えてき ておりますが、その意識を聞いたのが29頁目です。  非正規としてパートを選んだ方について、その理由を聞いたところ、男女共に書いて おりますが、特に女性の1番目は、自分の都合の良い時間に働きたいからというのが5 割を超え、また勤務時間、日数が短いから、あるいは仕事の中身に興味を持てたからと いう点で、プラス的志向で見た場合については、やはり自分の生活時間を大事にして、 それに合わせた時間に働きたいという意識を持つ方が、パートを選んでいる理由の大き な点です。ただし、ネガティブな選択の仕方も一部にあります。正社員として働けない から、やむを得ずパートを選んだ方が2割。また家事・育児の事情から、正社員として 働けないことで選ばざるを得なかった方についても2割弱おります。パート等の形態以 外に、働き方が多様になってきております。30頁目に、必ずしも勤務先が職場ではな く、自宅で仕事をする人も増えております。これは推計値ですが、在宅勤務者数は214 万人で、雇用者全体では3.9%を占めています。テレワークについては、自宅、あるい はモバイルワークと言いまして、特にサテライトオフィスなどで働くということで、会 社だけではなく、いろいろな通信機器を利用して、別の場所で勤務する方も増えていま す。それを含めますと、雇用型テレワーカーというものが311万人、全体の雇用者に占 める割合としても5.7%まで至っています。多様な就労場所も一部見受けられます。  在宅勤務を希望する割合としては、31頁目に付けています。四角の付け方が間違って おりまして、「希望する」と「どちらかといえば希望する」の欄が、本来の欄ですが、 そういう積極的な在宅勤務を希望する方も38.9%。その理由としては、子どもが小さい からという、未就学を理由とする割合が66.7%です。老人等の介護のため、家で勤務せ ざるを得ない方、また高齢期になるので通勤等が難しいということで、家で仕事をする 方も7割弱おります。そういう意味で、IT等の情報の通信機器の発達に伴って、就労 を在宅ですることを希望する方も多くなっています。  32頁、33頁は飛ばします。次は、労働時間の分布の二極化という点です。データを付 けていますが、35時間未満の短時間の就労。また60時間以上の長時間の労働者の割合 も、近年増えつつおります。長く働く人、短く働く人という二極化現象が言えるのでは ないかということです。その中で、所定労働時間を超えて働く方について、どうなって いるかという点が35頁です。実際に所定労働時間との乖離という点で、パート、一般労 働者を問わず、所定労働時間では納まらずに、超勤で仕事をされる方の超過時間が近年 増えつつありまして、必ずしも契約された所定労働時間を守らずに、パート等において も、それを超えた働き方をせざるを得ない、というのがこの数字からも言えるのではな いか。  次の頁は、年休の取得率についてです。全体の数字は、平成15年度では47.4%の取得 率で、約半分しか取れない。また取得する日数についても、8.5日しか取られておらず、 年休を長期的なスパンで取るという趣旨からいって、8.5日しか取れていないというの は、年休としての本来の目的からいっても少ないのではないか。  37頁には、ストレスを感じている労働者の意識です。会社の方として、過労について 懸念を抱くとともに、実際上、労働者の意識としてもストレス、不安等を抱えている労 働者の数も6割を超えています。職場内においてそういうストレスを感じる労働者の割 合も実数としては増えています。  最終の頁には、過労死等の労災による認定件数についても、平成14年度以降、請求件 数も増えていますが、実際に認定された件数についても、近年増えているのが現状で す。以上、データに基づいた説明です。いろいろな会社及び労働者を取り巻く環境につ いては、レジメの2枚で簡単にまとめておりますので、データ的にもそういう認識が共 有できるのではないかと思います。  それを受けまして、資料2です。座長の考え方も踏まえて作らせていただきました。 このように、企業と労働者を取り巻く状況については、仕事重視、あるいは戦略的に経 営戦略として人材を活用していこう、という企業側の意向もあります。その中で、過労 死やストレスを感じる労働者、あるいは労働時間の二極化については、一部では働き過 ぎ等の弊害も出ているところです。したがいまして、このような現状を認識した上で、 どのような今後の労働時間制度について、どう見直しをするかという点について、当研 究会において初めに進めていく視点として、どういう立場を取るべきかという点を2枚 にまとめてあります。  資料2の1が、取り得る立場としては2つあるのではないか。(1)これは単的に言 いますと、現行制度を前提として、いろいろな諸問題が発生してきておりますので、現 行制度の運用、あるいは指導等を強化して、現行制度の中での適正な運用を確保すると いうことが立場として取り得るべきではないかと思います。多様な就業形態、正規従業 者を減らしながら、労働者1人当たりの負荷が高まるということ、また年休の取得率も 5割を切っている中で、健康問題について、特に問題があると指摘されております。ま た不払残業等の問題も行政指導しておりますが、なおまだ生じているという点です。ま た裁量労働制についても、この前までのヒアリングやアンケート調査によりますと、一 定の評価を受けていますが、残業時間を減らすような形での運用も一部されておりま す。制度本来の趣旨を踏まえた運用の確保が必要ではないかということです。  したがいまして、(1)現行制度の中で、守られるべき労働時間制度については、制 度を厳守させ、また残業労働時間の削減や年休の取得促進、現在の制度をいかに普及、 あるいは強化させていくかという点での指導を強める点が、現行制度で取るべき選択の 1つだと思います。  その一方で、裁量労働制等の中で、十分そのニーズに受け入れられない方について は、より柔軟な働き方を可能にすることについても、検討する立場に立つべきだという のが(2)です。  したがいまして、行政指導等の強化・促進のみならず、制度的な見直しが必要な場合 については、そういう制度の必要な見直しをしながら、また新たな職業に対する高度な 技能をフルに活用するという労働者の意見や企業等の戦略的な人材活用という点を踏ま えて、そういうことを可能にするような労働時間制度の見直しも併せて行う必要がある という点が立場として取るべきではないかと思います。  具体的に立場が2つありますが、(1)、(2)それぞれを選択した場合について、 どういう施策の展開があるかということについて決めたものが2頁です。(1)現行制 度の枠の中で行政指導等、あるいは運用の適正な確保という点を取る場合について、具 体的な施策としては、所定外労働削減要綱等に基づきまして、時間外労働についてなお 一層の短縮のための啓発指導を行う。(2)計画年休制度についても、年休促進のため に措置されているわけですが、計画年休制度の普及率がまだ低いので、そういう意味で 業種別、あるいは企業別等のきめ細かな取組みに基づいて、計画年休制度等を中心とし た年次有給休暇の取得率の向上としての施策を展開していく。  みなし労働時間については、アンケート等の調査に基づきますと、制度趣旨にそぐわ ない始業・終業時刻の使用者による指定や、決められた対象業務以外の追加業務を負加 されてしまうような形ですので、現行制度の裁量性についても十分趣旨を徹底させる、 という運用改善の指導等を行うという点が、(1)現行制度のもとで取ることが想定さ れる政策と思います。具体的に制度を見直す、あるいは新たな働き方を可能にするため の選択を取る場合、2つほどあります。  (1)は諸制度について、制度上の欠点、あるいは見直すべき点がある場合、制度等 の見直しを適切に行う。具体的には裁量労働制について、現在の制度の対象業務につい ては狭いこともありますので、対象業務等の拡大、あるいは手続き等の要件緩和等を、 運用面で改善できるのではないか。また、仕事と家庭の調和を図る観点から、所定労働 時間を厳守することの措置。また割増率については、政令で書いてありますが、一律2 割5分ではなく、何らかの形の漸増するような形での政令改正等の見直しをすることが 可能かどうか。  年休については周りの方に迷惑をかける形で、なかなか遠慮して取り得ないことにつ いても、アンケート調査で分かっておりますので、そういう意味で代替要員の確保をす るための支援措置が可能かどうか。  有給休暇については、取得を理由とする不利益取扱いについては、現在136条に基づ いて訓示規定として書かれております。これを強行法規として規定することが可能かど うか。このような政令等、制度の改正、またスタッフ職についても、管理監督者として 位置づけるに当たり、疑義を解消することを目的として、今一度管理監督者の適用の基 準を見直すことが考えられるかどうか、という点が検討項目として挙げられるのではな いか。  そのような所要の制度改正をした上で、(2)専門知識、あるいは高度の技術を有す るものが、休日・休暇等の健康確保を図りながら、その裁量によって十分その能力を発 揮することが可能な一定の処遇を受けることを前提とした方策について考えることがで きるかどうか、という点についても制度改正と併せて検討する。以上、労働者や企業の 状況を踏まえて選択する。今後の労働時間制度の基本的な立場、具体的な施策の選択の 仕方等について整理いたしました。 ○座長  どうもご苦労さまでした。それでは、ただ今の資料とご説明をめぐりまして、皆様と 少しご議論したいと思います。ご質問、ご意見等はございますか。 ○山川様  資料2の1頁目の(1)、(2)に書いてありますが、2頁目の(2)では、「選択 」ということですが、(1)は現行制度を前提にして、(2)は現行制度を見直す、と いう意味では選択という話なのですが現行制度を見直す場合も、見直さない領域もある わけで、その見直さない領域について、(1)に掲げたような措置を運用上取るという こともなおあるので、少なくとも(1)と(2)は、完全に排他的なものではないとい う理解ができるのではないか。それでよろしいかということで、質問というか、意見と いうか、どちらにもつかないのですが。 ○小林調査官  十分各種ニーズに答えられるものについては、運用で行って、ニーズに答えられない ものについては、制度改正等の措置を取るということです。運用で十分ニーズにマッチ ングできるものについては、運用もするという意味です。 ○座長  他にいかがですか。最初ですから、できるだけこういう議論で、率直に皆様のご意見 をお伺いしたいのです。 ○今田様  企業の対応の変化の中で人事制度の年功から成果主義へという軸は、よく立てられる 議論ですが、9頁のデータを見ると、年功から成果主義へという形で読むのは正しいの か、私にとっては疑問なのです。特に賃金制度は半分に分かれているわけです。しか し、いろいろな調査でもそうですが、企業側の対応として、みんなこぞって成果主義へ という形ではないし、現実に業種によっても違います。この報告書もそうだと思います が、職種によって、特にそういう成果主義的な色彩の強い、あるいはそういう賃金が見 合うような職種や産業、今企業もそういう対応に苦慮して、どういう制度を取ろうかと いうことだと思います。もちろん、かつてのものをそのまま維持することは良くないこ とは分かっていますが、今まで年功で、はい成果主義といっても、そう簡単なものでは ないという、そういう認識も企業の現状だと思います。このデータにも、特に賃金につ いては半分に分かれているということです。  我々もこの研究会もおそらく今後、企業においても業種や職種、いろいろなもので対 応して、ある意味では多様な体系が制度化されて、徐々にルール化されていく。そうい う認識の方がいいのではないかと理解します。データからも、このタイトルが「成果重 視へ」ということですが、一枚岩で重視にいってしまうのかという誤解をされないよう な記述がいいのではないかと思います。 ○座長  おっしゃるとおりだと思いますので、その辺のところは取りまとめの際に考慮させて いただくことにします。他にご質問、ご指摘はいかがですか。 ○守島様  今の今田委員のご発言に付け加える点が1つあります。付け加える点は、確かに企業 が苦慮していると、どういうふうに成果と能力というか、年功の部分をバランスさせて いくかということに関して苦慮しているのは事実だと思います。基本的にかなり多くの 企業が、成果主義一辺倒にはならないものの、やはり評価や処遇のコンポーネントの中 で、成果の部分を少なくとも前よりは増やしたという変化を取った企業は実は多いので はないかという認識を私は持っています。  それが今回のデータでも、15頁の参考4の資料などを見ますと、そういうふうにあり ますので、それが結果として成果一辺倒の国になると、私も今田委員と同意して思いま せんけれども、過去10年ぐらいの変化というのは、迷いつつも成果を増やしてきた企業 は結構多かっただろうという、そういう認識を持っています。それは1つの認識の問題 です。  もう1つは、特に資料1−1では「正規従業員重視は依然堅持」と書いてあり、これ も正しい部分もあるとは思いますが、今回、私が資料をきちんと見ていないせいもあり ますが、堅持というときに2つの意味があります。1つは、常にいる、もしくは正規従 業員として雇った人たちは長期的にずっと守っていくよという話と、それから従業員の 多くを正規従業員として長期的に守っていくよという話の2つあります。やはり、1つ の傾向として、正規従業員の数を減らしつつでも、彼らは強く守っていくという傾向が あるように思います。その点も少し配慮というか、認識も反映させていただくと。逆に 言うと、それがもしかしたら知識従業員というか、知的に貢献する従業員かもわかりま せんが、そこは1つの認識としてあるのではないかという気がします。 ○佐藤様  今の議論とは違う議論でもよろしいですか。資料1−1の2の第2パラグラフに、要 するに企業が人事管理制度を成果主義的な方向にしてきたと。そこは議論があるにして も、今守島委員がおっしゃったような解釈が、たぶん受け入れられているのかと私も思 っていますので、それはそうなのだろうと。企業はそのように処遇の見直しを行ってき たと。  問題なのは、そういう見直しに労働者側がどのように対応しているのか。特にニーズ の面から見たときに、年功処遇より専門知識や技術を活かして達成された成果に応じて 処遇されることを希望する者が増えているということですが、このような解釈が成り立 つデータや事例がいくつかあるのですが、本論の資料1−2でエビデンスとして提示さ れているものの中で、それに対応するものがどれに当たるのか、ちょっと見ていたので すが。労働者意識のデータとしては、ワークファミリバランスの議論で、かなり立ち入 った分析をされているデータがあるのですが、そのデータなどを見ますと、どちらかと いうと生活と仕事との優先順位の非常に興味深い図で、32頁にデータがありますけれど も、優先順位としては生活を優先しているのだけれども、現状としては仕事を優先せざ るを得なくなってきている、ということをかなり強く主張するデータになっています。  これも、さらにいろいろ割って見ていかなければならないわけですが、全体として見 たときに、現状と希望とのギャップが浮き立ってくるのが、生活優先派でありながら、 現状としては仕事優先にならざるを得なくなっている傾向がやや出てくる。  こういうことからすると、成果に応じて処遇されることを望む人たちの増加というの は、それとのかかわりでいうとどのように考えたらいいのか、あるいはこれとは別に、 成果に応じて処遇されることを希望する者がどういうデータの中で表現されているの か、ということを確認の意味でお伺いします。 ○今田様  成果主義の圧力の中で、生活のバランスがかなり仕事に重点を置かれて、従来よりも バランスが悪くなる。そのことによって、より生活と仕事とのバランス・ニーズが高ま っているという図式だと思います。  要するに、成果主義の圧力だということです。従来の制度よりも、成果主義への圧力 が、全体企業も従業員の中にも高まってきて仕事をやれと。やった結果、ストレスが溜 まる。当然仕事への重点的な意識も高まるということで、仕事の中で仕事と生活のバラ ンスがかなりおかしくなり始めて、そのバランスの回復が労働者の意識として高くなっ てきている。この2つの関係はそうだと私は理解しております。 ○佐藤様  成果に応じた処遇を望むという者の増加は。 ○今田様  私は、労働者がそんなに多くは望んでいないと思います。私どもの調査では、成果主 義というか年功的な賃金に対するシンパシーというか、肯定的なリアクションがありま す。ただ、それでは済まなくなって、やはり成果主義を受け入れざるを得なくなってい るというのが、今の労働者の勤労意識のあり方だと思います。  たぶん、新しい日本的な成果主義というものが、今納得のいく試みが行われてきてい る。おそらく、アメリカ的でもなく、納得のいく日本的な成果主義のルール化が、企業 の中で労使が一生懸命努力して行っているということです。今、労働者は納得していな いでしょう、非常に混乱している。特に圧力がかかって、ストレスフルな状況に置かれ ているということだと思います。まさに勤労者は非常に厳しいという状況で、仕事との バランスが拠り所というか、今の状態をかつてに戻ることもできない。そのときに仕事 と生活のバランスが神様のような、溺れる綱のような位置づけが勤労者の意識の中にあ る。  労働政策の新たな方向からいって、この原理というのは非常に重要で、これを戦略的 に展開することで今の新たな労働ルールのときに考えていく戦略的な概念だろうと思っ ています。 ○小林調査官  成果主義というよりも、管理能力というよりも、自分の持っている知識・経験を職場 内で活用することに仕事に対する生きがいを感じる人が多いです。その結果として成果 を給与に反映させることを望むかどうかというのはデータ的には出ていないです。会社 としては、戦略的な人材を活用する意味で、モチベーションを高めるという意味で、目 標管理制度を設け、達成度に応じて処遇する、という戦略的な観点で導入はしておりま す。  労働者の意識としては、成果型賃金について、目標設定や評価が不十分だという意識 もあります。一方で、ネガティブな評価もありますので、成果主義的な賃金制度につい て、すべてウエルカムというわけではないと思います。少なくとも、自分の能力を評価 してくれることに対してはプラスの評価をしている。評価の仕方が、成果型賃金という ことには、必ずしもストレートに行っていないというのが現状で、会社の意識と、それ を受ける労働者の方が、そのツールにしたがって評価されることに対しての摩擦を一部 起こしている現状です。 ○守島様  ニュアンスの問題にかかわってきてしまいますので、多少私の理解が間違っていたら 許してください。本日伺った話というのは、企業がより人材を効率的に活用しようと、 すべての企業が思うようになってきた。労働者も、ある意味では成果で評価されたり、 もしくは自分の能力を活用されるということが、すべての労働者がそのように変化して きている。要するに、1つの方向に日本の社会が動いている、という前提に基づいて今 回の労働時間の見直しをしましょうという話になっているような気がするのです。  1つの傾向として、日本の中における分散が増えています。ある企業は、終身雇用を 守りつつ、能力主義を守りつつ、でも企業としての成果を上げていきたい企業もあるで しょう。それから、ここに描かれているような図を示している企業もあるように思いま す。1つの考え方というのは、分散の中で選択をどこまで、企業と働く人たちに許して いくかというチョイスの問題にかかわってくるように思います。  読み方によっては、もしかしたらここに書いてあることは、そういう読み方ができる のかもしれませんが、なんとなく選択の自由であるとか、労使で話し合って決めること が1つの解決法なのかもしれませんけれども、本日伺った話の中には、選択ということ がなんとなく欠けているような印象を受けました。印象論ですから、もしかしたら間違 っているかもしれませんが、私はそのように思いました。 ○座長  こういうのは誰が答えるのかわからないけれども、私は、守島委員のお考えに同感で す。先ほどから今田委員もおっしゃられているとおり、今はまだ模索過程にあるので、 全部が一挙に走るような状況でもない。将来ともにも、全部が一挙にある方向へ走ると いう時代ではないのではないか。  やはり、多様化、多元化が非常に重要なキーワードになる。逆に言うならば、多様化 や多元化にうまく対応していかなければいけない、政策ターゲットになっていくのでは ないか。そうだとすると、それが一番うまく収まりやすい法政策、収まりやすい制度設 計がこれからは大事ではないか。しかも、どの選択をとったところで、その選択をした 人たちが極度に問題になるようなことがないように、その点のバランスをとるシステム が大事ではないのだろうか。  そのような気持でいて、必ずしもある方向に行くとか、あるものにすべて収斂させな ければいけないという気持はありません。おそらく、事務局もそういう気持で様々な資 料も探し出してくれたわけです。ただ、書き方としては、そういう印象を与えるような ところが一部あったかもしれませんが、そこは必ずしもそうではありませんということ ですが、その点はいかがですか。 ○松井審議官  言われたように、多様化する働き方に対応して、いろいろな時間制度で選択肢を増 す。ただ、増すときに問題が生じないような仕組みを考えながら、というのがごくごく フラットで考えたときの整理です。  多少ここで文章がご支持いただけなかったのは、政策として打ち出すときに多様化し た特徴を捉えて、ここが違ったのだと。そこに着目して、それに合わせる装置も用意す ることが有益なのですよと書こうとすると、変わったところを引っ張り上げて書いてい るというふうに見ていただければと思います。  そうすると、言われたようにあまりにもバイアスがかかりすぎて、全体バランスの評 価に欠けていると言われれば戻します。ただ、新しい制度を提言するときには、ここで こういう特徴があるから、それに合わせるものだと。それは、最後に結果として多様な ものに対応する選択肢を用意したことになります。初めはグッと突っ込んで、それから 冷静に見てという展開でもいいかという気がします。 ○座長  その辺のところは今後議論していき、最終報告でも皆様のご意見を反映させていただ こうと思います。 ○西川様  本日のデータをいろいろ見せていただいて感じたことは、守島先生のお話とも若干重 なるのかもしれませんが、私は労働者の側をなんとなく全体として捉えすぎているので はないかという印象を受けています。  特に、労働者のデータを見ていますと、経営側に比べて比較的パワーを持っていない ような層の人たち、例えば非正規の人たち、あるいはまだ若い20代、30代の方たちのデ ータを見ていると、なんとなく仕事優先にならざるを得ないといいますか、あるいは所 定外の労働時間が増えたり、年休取得が減ったりしています。こういう弱い人たちのと ころへ、成果主義であるとか、グローバライゼーションであるとか、その辺の圧力がか かってきているのではないかという印象を受けました。  非正規に関しては、男女別のデータがありましたが、佐藤委員からもそういうコメン トが出ましたが、20代、30代といった年齢であるとか、キャリアステージであるとか、 あるいは男女であるとか、正規・非正規であるとか、どの辺にグローバライゼーション のプレッシャーが一番かかってきているのか。どの辺の人は、今までこの研究会で議論 されてきた裁量労働制を導入することにより、より働きやすくなるのか、そういうとこ ろが経済環境の変化との関連制で、それぞれ異なるグループへのインパクトみたいなの が見えてくると、もう少し議論が進むのではないかと思って聞いておりました。 ○座長  皆様のご意見から浮かび上がってきたことは、非常に多様化し、多元化していく中 で、それぞれの企業、あるいは働く人の持つニーズみたいなものが、今までのように画 一的に1つのものだとは言えなくなってきている。そして、それぞれのニーズに対応す る制度がうまく労働時間に関してできているかどうか。この点は、アンケートやヒアリ ングでいろいろな意見を聞いてきたわけです。  確かに、裁量労働制の対象労働者は非正規だとか、あるいは若い人に直ちに関係する わけではない。しかし、他方、先ほどのデータにもあったように、非正規の部分でも、 かなり時間外などがあったりする。あるいは、ワークライフバランスでは、実は不満を 持っているような事情があるのではないか。こうした多層な利害の分布状況といいます か、問題の分布状況が浮かび上がってきているのではないかと思います。  その意味では、先ほど山川委員がおっしゃったように、資料2の選択肢は、1か2か ではなくて、1をやるということと同時に、2を考えていく必要がある。あれかこれか というより、あれもこれもではないけれども、しかるべくバランスをとりつつ考えてい く必要があるということなのかと思います。  仮に(2)という選択肢をとった場合にはどんな論点があるのか、どの点を考えなけ ればいけないのか、この点について事務局に整理していただいたものがありますので、 それを説明していただいた上で皆様とご議論したいと思います。 ○小林調査官  資料3と資料4は、先生のご指導を受けて作らせていただきました。資料3「裁量労 働制のあり方に関する論点(案)」ということで、今までのヒアリングやアンケート調 査に基づき、現行の裁量労働制を取り巻くいろいろな論点がその中から見えてきたのか と思っております。  項目としてはIからIVまで大項目として挙げております。時間の関係で、それぞれの 大項目について、資料4ですべてに対応した論点として書き下ししておりません。Iと IIについてだけ各論点に落としております。これについては次回に足して、裁量労働制 のあり方すべての項目について、論点という形で整理させていただきたいと思っており ます。  裁量労働制のあり方に関する論点としてはIからIVの大項目があるのではないか。Iと しては、対象となる業務、あるいは労働者のあり方。みなしとされるIIの法的効果等の あり方。IIIの健康確保、文化的な生活を保障するための担保すべき事項のあり方。IV のその他ということで4つの項目を掲げております。  それぞれの項目ですが、I「対象となる業務及び労働者」について3つ挙げておりま す。1ポツは、現行の対象となる業務のほかにも、裁量労働制になじむ業務があるのか ないのか。2ポツは、上司により個別の指示や、追加の業務等を命じられる実態があり ますので、この点について運用上の工夫により適正化を図るべきなのか、また制度上の 措置を講ずることまで必要なことなのか。3ポツは、具体的な対象業務や、対象労働者 の範囲について、現在の規定の仕方について労使自治に委ねるような見直しをすること が必要かどうか。  II「法的効果等」では、今現在の裁量労働制のみなし労働時間について、実際の労働 時間がみなし労働時間を超えているケースも見られますので、この点について運用上の 工夫により適正化を図るのか、また、みなし労働時間制度そのものについての制度上必 要な措置を講ずる必要があるか。  2ポツにあるように、自律的な働き方を望む労働者に対して、現行のみなし労働時間 というものとは別に、より積極的な自律的な働き方を可能にするような労働時間規制の 適用除外等の検討をする必要があるのかどうか、ということが主な点です。  III「健康で文化的な生活を保障するために担保すべき事項」としては、1ポツで、 健康・福祉確保措置を実効性あるものにするための方策のあり方。過重労働を防止する ためにいかなる対処方法、方策があるのか。  IV「その他」として挙げているのは、裁量労働者の適用労働者について不満を持つ方 がいますが、一方で苦情処理措置について制度は作ったけれども、実際上利用者が少な いというデータも挙げております。したがって、不満を持つ方が苦情処理措置を利用す ることにより、うまくその不満が解消するような実効性ある措置のあり方はどうすべき なのか。  2ポツで、裁量労働制を導入した職場において、通常の労働時間規制の下で働いてい る方への影響、悪影響等も見受けられますので、そういう意味で裁量労働者とその適用 を受けない方が混在する、あるいは裁量労働制の労働者自体の働き方について円滑にす るためには働き方がどうあるべきか、という点についても対応できる措置があるのかど うかという点について大きく4つほど大項目を挙げております。  Iの対象業務とか労働者、あるいは法的効果等について個別に論点として挙げればど うなのか、という点をたたき台として資料4で個別論点として挙げております。最初 に、対象となる業務と労働者の考え方です。(1)の専門業務型裁量労働制についての 考え方ですが、現在、具体的な業務については省令で限定列挙されております。今現在 は19業務となっておりますが、指定された19業務のままで現行制度を維持することが適 当かどうか。アンケート調査等によると、対象業務については、過去拡大してきてい て、現在の指定された対象業務については広げるべきという意見はありますが、労使と も現行制度で良いという意見も多いということで、対象業務については現行でいくかど うか。  また、対象業務について、さらに拡大することが必要かどうかという対象業務の考え 方について議論すべきと思います。  (2)の企画裁量労働制については、指針等で示された判断基準に基づき、企画、立 案、調査及び分析の業務については、指針等でその基準を示している形で限定をかけて おります。この限定のかけ方と、あるいは対象業務については、現行のままで良いとす るのか、事業場・業務の両面で範囲を明確にしておけば足りるかどうかという点。現行 では十分なニーズに満たないということで、一部拡大すべきかどうか。  対象業務については狭すぎるという意見がアンケートとして出てきております。具体 的にどういう点が狭いかという点ですが、企業の新分野の進出、外部コンサルタントの 活用、持株会社等があり、必ずしも当該事業場の企画立案業務ではなく、他社等の業務 を請負うという形の企画立案業務も増えてきております。新たな分野を開拓するための 新商品の企画、立案、調査及び分析についても現在はできないので、そういう業務につ いては拡大すべきではないか。  今現在の対象業務の考え方は、専ら当該対象業務に従事するという点が、限定として 指針等で明らかにしておりますが、100%対象業務となる企画等の業務だけに従事して いることについては、現実の人事労務の業務の与え方等に鑑みると、それだけに専ら従 事させる点については難しいのではないかという意見も一部あります。したがって、純 粋100%の対象業務に従事することについてどう考えていくかという点も論じるべきで はないかと思っております。  対象業務の規定の仕方については、指針で判断基準を示している現行制度について、 規定の仕方を労使の決定に委ねるような形での見直しをすることとすべきかどうか。具 体的な範囲等については、労使で委ねて、指針のあり方としては、その決定のついての ガイドラインに留めるべきではないか、という点もヒアリング等で見受けられたところ です。  2頁の「みなし労働時間」のみなしの法的効果等の諸問題です。(1)専門業務型裁 量労働制については、現行のままの「みなし労働時間」としてそのまま維持することが いいのかどうか。特に、ヒアリング、アンケート等で見られましたが、専門業務という ことで、対象業務がそもそも限定されているということで、通常必要となる時間につい ては、専門業務という特性から時間を把握しやすいということで、「みなし労働時間」 についても定めやすいと言われております。  具体的にアンケート等でも、「みなし労働時間」を設定する場合には、今までの実績 を基にして設定するという形で、実際上の労働時間とのずれはさほど大きくない、とい うのがデータ上も見受けられます。  一方で、運用上の工夫により適正化を図るべきではないかということで、若干のはみ 出し部分もあります。実際に応じた「みなし労働時間」がある一方で、若干みなしより も飛び出した実態については、運用上工夫すればその乖離については解決することが可 能かどうかという評価にわたります。そういうことで、適正化を図る、ということで対 処することが可能かということが1点です。  次は、企画業務裁量制について、大きく3点論点を掲げております。1番目は、実労 働時間との乖離のない「みなし労働時間」が設定されるような措置を講ずるべきではな いか。実際上、企画裁量型の労働者の意見を聞くと、先ほど言いましたように、能力を 有効に発揮するという観点、適正な処遇等が期待できるという観点で、現行の企画業務 型裁量労働制の労働者にとっては、その能力をフルに発揮し、処遇されるという点では 満足がいくということで、期待どおりの結果であったという肯定的な評価がありまし た。  その一方で、実際上所定労働時間で設定している事業場が多いということから、実労 働時間との乖離が専門業務型裁量労働制よりも多いということで、なかなか実績でセッ トできないので、所定労働時間でセットすることになる運用がされております。そうい う意味で、実労働時間との乖離が専門裁量よりも多いということがアンケートでも見受 けられます。したがって、「みなし労働時間」の設定が困難な要素が多いという点を鑑 み、裁量制の趣旨を今一層厳格な運用によって確保する必要があるのではないか、とい うことを認識です。  2番目の論点は、裁量労働制の趣旨を踏まえて、真に裁量性を確保する措置を講ずる べきではないか。アンケート調査によると、出退勤について適用の有無を聞くと、一律 の出退勤時刻を決めている。通常の労働時間規制の対象労働者と同じような出退勤を義 務づけているということで、裁量労働者としての裁量性を確保するということではそぐ わない運用がされていることが見受けられます。上司等が裁量労働者に対して業務遂行 上の具体的な指示をする場合、あるいは仕事中に指定対象業務以外の業務を追加的に命 じられる実態が見受けられます。裁量労働制について、真の裁量性が運用上確保されて いないという実例も見受けられます。  したがって、裁量性を確保するために考えられるべき措置として、3ポツ目に書いて あるように、適用労働者について出退勤の自由や業務の遂行方法について裁量性を確保 するべきではないか。また、労働の分配についても裁量を持てないような内容の包括的 な指示を抑制又は禁止する措置を新たに講ずることが必要ではないか。3点目として は、追加の業務の指示等により、過重労働を強いることがないように、運用面の工夫を すべきではないかということで、見直すべき点として3つほど挙げております。  3番目の論点は、労働時間規制を適用除外する労働者を分離することを考えることが 適当ではないか。特に、創造的な専門的能力を真に発揮するために、本人同意、あるい は一定額以上の年収要件、一定の休日・休暇の完全取得等の健康確保措置を確保した上 で、労働時間規制を適用除外する労働者が新たにいてもいいのではないかという視点で す。  特にアンケート調査にありますように、創造的能力を発揮することについて、成果主 義人事労務管理の導入の一環として裁量労働制を導入する企業が多いわけです。そうい う意味で、成果主義型人事労務管理の上で、裁量労働制を導入しているということで、 こういう点に鑑みて新たなものについても考えることが必要ではないか。  労働者の意識調査を見ても、一定の年収要件、一定の休日・休暇等の付与を条件とし ながらも、労働時間に関する規制を適用除外してもいいという労働者の意識も見受けら れます。そういう意味で、現行の裁量労働制の諸々の見直しをしながらも、新たな労働 時間規制の適用除外をするようなことについても検討することが適当ではないか。以上 の論点が挙げられました。 ○座長  資料3、資料4で非常に重要な基本枠組み、あるいはこれから検討していくべき論点 等を示していただきましたが、これで尽きているかどうか、あるいは論点を見る際の視 点などはこれで良いかなど、先生方の間にいろいろご意見があろうかと思いますので、 自由にお出しいただきたいと思います。 ○荒木様  資料3のタイトルが、「裁量労働制のあり方に関する論点」となっているのですが、 この研究会は、今後の労働時間制度を議論するわけです。この資料3は、最後で適用除 外の話がありますけれども、裁量労働制をどうするかというペーパーになっているよう です。裁量労働制だけに議論をフォーカスしてしまうということなのですか、それとも 適用除外の問題も考えていくということなのでしょうか。 ○小林調査官  現行の裁量労働制については、アンケート調査等でいろいろ論ずべき点がありました ので、現行裁量労働制をどう捉えて、見直すことについてどういう論点があるかという 点をまず押さえる、その中で、裁量的な働き方をする労働者については、「みなし労働 時間」をどう考えたらいいのか。それについて、「みなし労働時間」の枠の中で運用等 について、裁量性が確保されない労働者については、また新たな制度等についての検討 も併せてする必要があるのではないかという点です。 ○荒木様  企画業務型裁量労働制の対象労働者と、第41条の管理監督者の中のスタッフ職などの 関係はどうなっているのかという議論もあると思います。そういう問題は、今後別のペ ーパーが出るということでしょうか。 ○小林調査官  先ほど言いましたように、残業時間の問題や年休取得促進、あるいは管理監督者の基 準の見直しということ。今後、労働時間についてどう検討していくかという視点につい てペーパーを作らせていただきましたが、その中で多岐にわたる現行制度についての問 題も、裁量労働制以外の点についても今後議論していきたいと思っております。 ○荒木様  ここでは、裁量労働制についての論点を挙げていただいたということのようですが、 資料3のIIの「法的効果等」の1ポツで、みなし時間と実際の労働時間が乖離している とか、みなし時間を実際の労働時間が超えているケースがあるので、この点については 運用上の工夫により適正化を図るべきか、となっています。  裁量労働制のみなしというのは、実労働時間が何時間であろうと、それと関係なくみ なす制度というふうに私は理解していました。事業場外のみなし制は第38条の2で、実 際に必要な労働時間、通常必要とされる時間労働したとみなすという制度です。それを 協定でやることもできるということです。事業外みなしの場合は、現実の労働時間と乖 離のないようなみなし労働時間を設定しようという制度というふうに条文上なっており ます。  それに対して、第38条の3と第38条の4は、現実の労働時間と関係のない時間をみな してよろしいという制度ではないかと理解しております。例えば、実際にこの裁量労働 制を導入したときに、年俸労働者、年俸制度を導入したいという場合に、時間によって 割増賃金を払うと年俸制にならないわけです。そこで、時間比例の賃金ではない、そう いう成果によって処遇を決めるという働き方を認めるべきではないかということが考慮 されたと思います。例えば、年俸制の人に、みなしを8時間と設定して、現実には10時 間働いていても、それが適正ではないのかというと、そんなことはなく、それはもとも と裁量労働制が予定したことではないかという気がしております。  法的効果のところで、適正化を図るべきかとなっております。資料4の2法的効果等 の(1)の(2)で「運用上の工夫により」、ここでも実際の時間と合わせるような適正 化を図るべきではないか、(2)では実労働時間との乖離という議論がされているの は、ちょっと制度の理解が違っているのかという疑問を抱きました。 ○山川様  学説上みなし制度の趣旨については、見解の相違があるところではあります。私も荒 木委員と同じような発想で、みなし制度というのは3時間だけ出てきて帰ってもいいの だと。その実労働時間とみなし時間は別に乖離しても構わない。それが、これまでのデ ータに基づいて実労働時間を計算し、それを裁量労働制の手当に反映させるということ は現に行われていますので、それは構わないと思います。  例えば、実労働時間とみなし時間がなるべく一致するということになると、3時間で 帰ってしまうというのはいけないのかということになって、むしろ3時間で帰ることが 十分許容されるような職場が裁量労働制が活用できる職場である。もちろん10時間働く こともあるしというようなことではないかと理解していました。 ○小林調査官  アンケート調査によると、平均した時間がみなされた時間を超えているということで す。そうすると、トータルな時間で見ると、1日当たりの「みなし労働時間」と、実際 に働く時間が1時間、あるいは2時間乖離しているということです。1日であれば3時 間でもいいのですけれども、一定の期間を平均するとずれているということが、みなし 労働時間としてのセットの仕方としてそれでいいのかという点に若干疑問があります。 ○山川様  フレックスタイムというのはそういう制度であると思うのです。例えば、1週間の労 働時間は長いけれども、別の1週間においてはトータルで30時間しか働かなかったとい うことでも構わない。清算期間の設定はもっと長いでしょうけれども、フレックスタイ ム制との違いにおいても、実働時間とみなし時間というのは、裁量労働制の場合は切断 されているのかと思っていたのですが、理解が十分ではなかったのかもしれません。 ○松井審議官  条文解釈は、山川先生や荒木先生が言われるとおりで設計されていると思います。と ころが、今言ったような実態調査をしたときに、なぜ実労働時間と比較するかというと 条文に要件が組み込まれています。当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を 講じているかどうか、これがこの2つの仕組みには組み込まれています。  それで、健康確保措置というものが適正かどうかということを考えたときに、「みな し労働時間」より実態として少ない労働の所だけ適用されているときには、たぶんこの 条文は働かないです。ところが、みなし時間より実態として長く働くと、ここが機能す るということを、法律を作るときに想定して、その辺が法条文上の解釈と、運用での認 識のずれを生じさせているのです。健康管理という観点から、労働時間とみなしはどう なっているのか。法制度上は全然関係ないものとして設定したとしても、それを利用し たときに健康確保をするということ、あるいはそれが効果を生じるかどうか、担保でき ているかどうかということから見ると、時間設定と本当の働き方にあまり差があると、 特にみなしより多く働くという議論があったりします。  それが響いて、運用段階で、例えば企画業務型裁量労働制指針などについては、どう も解釈しながら、実働時間をついつい気にするようなものになっているというところか らややこしくなっているのではないかと考えております。その条文が入っていなけれ ば、2人の先生が言われたように、スパッと決まっていたのではないかと思うのです が、実態はそうなっていないということなのです。 ○荒木様  健康確保措置で把握するということですが、ヒアリングでもありましたけれども、そ こでどういう働きをしているか、あるいは健康のチェックをちゃんとやっているかとい う問題と、みなしの時間が何時間か、実際に働いている時間は何時間か。そこでの実働 の把握というのは、必ず一致しなければいけないのではないと思うのです。  健康確保措置として、我々も時間を申告するようにと言われていますけれども、それ しか健康確保措置がないかというとそんなことはないと思うのです。例えば、相当集中 的に働いても休暇を長く取る、ということだってあり得るわけです。とりわけ裁量労働 の典型的な研究者などは、相当集中的に働かなければ成果が上がらないということがあ るわけです。その代わり、ある日には一切職場に行かないで休むこともあるし、長期の 休暇を取ってリフレッシュするということもあるわけです。  もともとの裁量労働制の趣旨、つまり時間にとらわれない働き方をするということ が、実働と一致していないといけないのだということになったら、これはみなし制の裁 量労働制ではないです。労働時間の概算把握制といいますか、概算計算制であって、把 握するのが大変だから概算しよう、そういう制度だったらおっしゃるとおりなのです が、裁量労働制というのはそういうものでない。自分の裁量的な働き方によって成果を 上げるという働き方を認めようという当初の制度とは違うものに変質してきてしまうの ではないかという点がちょっと気になりました。 ○松井審議官  今先生が言われたように、制度を作ったときの本来の趣旨と違った運用になりかけて いるのではないかということを言いたくて説明したので、裁量労働制の趣旨はおっしゃ るとおりです。いろいろな調査や、物事を分析するときに、ついつい実労働とみなし時 間がずれているという、こういうチェックを始めるということがそういうことになって いて、そのチェックを始めるという動機づけが健康確保措置ということに絡めて展開さ れている。さらにその例示として、出退勤時間をチェックすることも、その1つだと位 置づけてしまったものですから、こんな混同が起こっています。それを、正すべきかど うかを議論していただきたいということがまず伝わっていないのです。 ○座長  出退勤をチェックするということを、健康管理という善意からやっても、そういうこ とをされたら今度は働く側、特に査定などをされる働く側の心理にどのような影響を与 えるか。それは裁量労働制をとったところで、ほとんど定刻には出てきて、「みなし労 働時間」が仮に9時間であったら、9時間かそれ以上働いておかないとまずい、という 事実上の心理が間違いなく働くだろうと思います。  本日は仕事がないから、3時間だけ顔を出して帰ろうというようなことは、たまにな らできるかもしれませんが、ある程度大きな仕事をやったから、しばらく息抜き的にや ろうということだって、みなし時間が9時間であって、みんながそれを知っているとき に、毎日毎日3時間で帰ったり、4時間で帰るというのは心理的に非常にきついです。 まして出退勤の時間というのは、本来は裁量労働ですから自己管理なので把握してはい けないはずなのに把握してしまう。  こういう矛盾が現行制度の中にもあるというのは荒木委員、山川委員のおっしゃると おりだろうと思います。その意味では、今回はそういうところをもう一度再整理をし て、裁量労働制が本当に仕事に関する裁量的な働き方になっているか。言葉を換えて言 うならば、本物の裁量労働制なのか、それともよく言われるような、単に時間外賃金な どの削減のための手段、手法としてだけ使われている、いわば偽物の裁量労働制になっ ているのか。偽の裁量労働制だとしたらそれはおかしいわけですから、そうしたものは 本来のあるべき姿に持っていく。  それに対して、他方本物の裁量労働制を目指しているのに、本物にならないとしたな らば、一体どうしたら本物になるのか。このようなことの整理を今回は改めてやってお くべきではないかという気がしています。 ○守島様  今のことと関連するかもしれないし、しないかもしれないし、私も理解していないの ですけれども、資料4のところで今の議論です。まさに一律の出退勤時刻まで定めてい るとする事業場が一定数存在する。このことが、ある意味裁量労働制というコンセプト に合っていないというお話は私も理解できるのですが、企業の側の話とすると、仕事を やるときに、個人の成果を上げさせたいのだけれども、個人の成果というのは1人で上 げられるものではないのである一定の時間はみんなが集まっていてほしいという時間、 これはフレックスの小型みたいなものですが、そういうニーズを持った上でやむを得ず というか、一定の出勤です。退勤はあまりないように思うのですけれども、出勤時刻を 定めている企業はあるように思います。  ここは微妙なところなのですけれども、そのようなニーズを持っている企業は裁量労 働制など使うなと言ってしまうのか、それとも裁量労働制の枠内なのだけれども、企業 のニーズの中でそういうことを許していくのかということが、先ほどから議論されてい る、企業が人材を戦略的に活用するという視点が仮に重要だとすれば、一旦考えておか なければいけないかなという気がいたします。ここの下から2番目のポツの、裁量性を もてないような内容の包括的な指示を抑制又は禁止する措置を講ずるべきではないかと いうのは、正直に言うと企業の側からすると、ちょっと強すぎるトーンかという気がい たします。具体的に何か代案があるかというとないのですけれども、そういう気がいた します。 ○松井審議官  今のご指摘は、とりあえずここで絞って、あえて極端に書いてありますが、一般化し た問題意識は資料3のその他の2ポツに近いです。つまり、裁量労働制を導入したとき に、いろいろな労働者をまとめて作業させる。その間の影響をどう遮断するか、あるい は遮断する必要があるか、そちらの方の議論ではないかと思っていて、再度まとめてや っていただく必要があるかと思っています。ここだけでは収まらない話だということな のです。 ○座長  今の守島委員の問題提起は非常に重要な点なのだろうと思います。その場合に、例え ば出退勤のうちの片側、特に出勤を義務づけているような場合でも、やはり働き方とし てはかなり成果に比重を置いて働いているような人の存在、これが事実増えているのだ ろうと思いますが、これをどうするかというのは、裁量労働の問題なのか、それとも先 ほどから出ている適用除外の問題なのか、という論点もそこにはあるのだろうと思いま す。この点はいかがですか。 ○荒木様  うまく言えないかもしれませんが、私ども国立大学の教員も労働基準法の適用を受け るようになりましたが、それまでは完全に裁量的な働き方をしていました。それで裁量 労働にならないとした場合にはどういうことになるかというと、適用除外にならない限 り、実労働時間制に服するわけです。  定時に出勤して、定時までいなさい、という働き方を強いられるわけです。これは、 大学の研究者、教員としての働き方は全然そんなことではなかったわけです。うちで仕 事をしたり、朝まで徹夜で考えたりして、その日は昼まで寝ていたりということで自分 が一番高いクオリティが保てるような働き方をしてきたのが、毎日9時には研究室に来 なさいと。つまり、この働き方は裁量労働制に適合しませんということになると、適用 除外しない限り実労働時間に変わってしまうわけです。  例えば、10時からチームで会議をしたいというときに、裁量労働適用者も来てね、と いう指示をされる人には裁量労働制を適用できないということになったら、年中実労働 時間管理で定時出勤ということになってしまいます。フレックスの場合は、時間外があ れば時間外を払えということになる。  そういう働き方が妥当しない人が増えてきているのだとしたら、そういう人が働きや すい働き方を認めないといけない。しかし、同時に全然自分で裁量ができないような人 が、先ほど言ったように労働時間の概算制みたいなものとして、裁量労働にしておけば 割増賃金を払わなくても済むという形で使われているのであれば、それは実労働時間に 戻すべきだと思います。  そこをきちんと仕分けして、本当に裁量的な働き方を本人もしたいし、させた方がい いという人たちをどう切り取って、その人たちにも実際上このときには来てもらう必要 はあるけれども、そういうことがあったとしても、全体の働き方は裁量的だという場合 には、それは裁量労働制なり、適用除外なりを認めることが必要なのではないかという 気がいたします。 ○山川様  出退勤時刻を定めるということの意味にも、先ほどの守島委員のお話はかかわるかと 思います。定めるということ、いわば契約上、あるいは規則によって義務づけるようだ ったら、やはり裁量労働制のコンセプトには反している。現実には、教授会をやるにし ても何時からというふうにして、出てこない人もいるかもしれませんが大体は出てくる わけです。  その意味で、ある時間に会議を設定してそれを義務づけたときに、違反したら懲戒処 分できることになるわけです。そうなってくると、趣旨に反しているのでどうかなとい う気がします。そこは、運用上会議を設定するということであれば、実際上ほとんどの 場合うまくいくと思いますので、そこを強制するようなことまでいくか、ということと は区別できるかと思います。 ○座長  今出ている論点は、オール・オア・ナッシングではなくて、少し段階的な把握ができ るかどうか。段階といっても、そうたくさん作ってしまったら、これは制度として混乱 してしまいますから、ある程度大括りですが、そういうことが可能かどうかという論点 を示しているのだろうと思います。  もう1つは、裁量労働といっても、全面的にある時間に来てくださいということがあ ってはいけないという場合だけではなくて、ある一定の比率まではそのような指示とい いますか要請に応えざるを得ないような仕事、今大学の教授が例に出ておりますが、そ ういう場合だって全体として見たら裁量労働というふうに見える、こういう論点だと思 います。  その場合には、また別途の基準が必要になるのでしょうね。現場でできるだけ混乱し ないような、わかりやすい、しかもあまり形式論に入りすぎない基準をどうやって作る か、このような課題だろうと思います。その議論は今後していくことにいたします。資 料3、資料4をめぐってほかにご意見をいただけますか。 ○佐藤様  論点の整理としては非常によくまとまっているレジュメだと拝見いたしました。今ま での議論でだいぶわかってきたのですが、自分が今考えている問題意識が、この論点整 理の中のどこに位置しているかの確認ですが、その他になるのかなと思っています。  要するに、人事管理の一環として見たときに、労働時間制度というのは法律で規制さ れていて、法のあり方を整備するという流れが1つあります。企業が時間管理をやって いく場合に、どういう時間管理の仕組みが本来的な利用、つまり本物の仕組みに近づけ ていけるかという観点から見ていったときには、人事管理の活動というのは企業から見 ると、時間制度は1つのパーツで、ほかの制度との関連性は非常に重要です。  今までのバックデータの中で明らかと断定してはいけないけれども、1つの流れとし ては成果的なというようなものが出てくる。そういう流れの中で時間管理がどう整合す るのか、そもそもこの裁量を導入する目的や狙いがどういうものであって、その狙いや 目的に照らしたときに制度がどう整合するか、また運用がどう整合するかという1つの 筋があるのかと思うのです。その辺りがまず前提にあった上で、目的に照らして本物で あるのか、本物でないのかという議論も出てくるし、より議論しやすいベースが出てく るのかという感じがしているのです。  そういう意味では、その他の中に苦情処理の問題というのは1つの制度を入れて、う まくいかないところで、後でカバーする仕組みが後の方で出てきます。もう一方で、そ もそも入れるところの目的と、この制度との関連というものがどうなのか、という議論 もしてみたいという感じがします。 ○座長  もう少ししていただいて結構ですので、そこのところを今していただけますか。 ○佐藤様  本物に近づけていく条件整理という条件を考えていくときには、座長がおっしゃった ような、本来自律的で創造的な働き方を追求する。そういうものをバックアップする仕 組みとしてみなし、あるいは裁量というものが考えられてくるということなのです。現 状はいろいろ分析してみると、残業の切り捨ての手段として使われているケースも散見 されてきます。  そういうときに、その狙いというものがそもそも本物指向で考えられているのか、そ れともそうでないのかというところは重要なポイントであると思っております。そうい う観点から見たときには、本物を指向するときには、このような条件が導入のときにそ もそも必要になってきますと。この辺りを法律でどう書き込むかわかりませんけれど も、そういう議論が重要かという気がしています。今までのヒアリングやアンケートの 結果を見ても感じていました。 ○山川様  今のご指摘は大変重要かと思います。先ほどの説明だと、成果主義というようなこと で出てきたのですが、ポイントは成果主義というよりも、それを可能にするような自律 的な働き方というところがポイントであるかと思いますので、そちらを活かすような条 件設定。確かに条件設定について自律とは何かということは当初の段階でいろいろ議論 して、何らかの代理指標みたいなものを考えざるを得ないのかとは思います。  その意味では、現在裁量労働制があって、新しいものを考える際にも、本当に自律的 な働き方ができるというのを担保した上での新たな制度を考える。自律的な働き方に適 合した、あるいは自律型の労働時間みたいな考え方をどう条件設定していくか、あるい はそういうことをそもそも考えるかということが検討の対象かという気がします。 ○守島様  今の点に関連してですが、皆さんのおっしゃっていることはすごく正しいと思ってい て、私もそういう条件設定ができるといいと思うのです。現時点ではそれを職種という 概念でやっているわけです。全部答えのない疑問なのですが、職種以外でそれは考えて いくという意味合いで皆さん方はおっしゃっているのか、それとも成果主義を入れない と、これをやっては駄目だみたいな、そのような人事管理のほかのシステムを入れてや っていくのか、そこのところは非常に難しい問題になってくるだろうと思います。 ○佐藤様  それについては確かにおっしゃるとおりです。まず職種で決めます。ただ、実態とし て見ると、職階で決めたり、ある主任層は全部だとかある種のずれがありますので、そ の辺りを整理したいと思います。私も、全然クリアではないです。 ○座長  佳境に入ってきたのですが、時間がやってまいりました。議論は本日で終わりではな くて、まさに始まったばかりであります。新たな論点というか視角というのでしょう か、物の見方みたいなもの、あるいは配慮すべきことで、今回のペーパーには十分盛り 込んでいなかったことなどもご指摘いただきました。そういうことを踏まえて、これら の論点整理表などの充実を図っていただき、この議論をさらに続けさせていただこうと 思います。特にこの点はお願いしたいという意見がありましたら是非いただきたいと思 います。 ○山川様  先ほど荒木委員から言われたような、裁量労働制ということに限らずと、とりあえず ここではそうだけれども、年休の話等もありますので、議論の対象としては広いという ことをご確認いただければと思います。 ○小林調査官  労働時間全般ですので、年休などの点についても今までの議論を踏まえて対応したい と思います。今後ともいろいろな観点について検討することについてはやります。 ○座長  本日の議論は、次回も引き継いで議論を継続したいと思っております。そこで、次回 の会合の予定等を事務局からお願いいたします。 ○小林調査官  次回の会合は、10月12日(水)の10時から12時まで開催いたしますので、お集まりい ただくようお願いいたします。正式な通知は追ってご連絡させていただきます。なお、 本日をもって賃金時間課が廃止されることになりました。次回以降の事務局は監督課が 引き継いで担当することになりますのでご承知おきください。 ○座長  本日の会合は以上で終わらせていただきます。遅い時間にお集まりいただきまして、 しかも貴重なご意見を多々いただきまして大変ありがとうございました。今後とも良い 制度設計ができるよう皆様のお知恵を拝借したいと思います。よろしくお願いいたしま す。 照会先:厚生労働省労働基準局監督課調整係 電話 :03-5253-1111(内線5522)