(案)
2005年日本政府年次報告
結社の自由及び団結権の保護に関する条約(第87号)
(2003年6月1日〜2005年5月31日)


1.質問Iについて
 政府は、地方公共団体が、その業務の一部を行わせるために地方独立行政法人を設けることができることとし、その基本制度等を内容とする地方独立行政法人法案及び同法整備法案を2003年に国会に提出した。これらの法律は2003年7月2日に成立し、2004年4月1日から地方独立行政法人制度が発足した。
 上記整備法において、一般職の地方公務員となる特定地方独立行政法人職員の労働関係については、地方公営企業労働関係法を適用することとされた。これに伴い、「地方公営企業労働関係法」の名称が「地方公営企業等の労働関係に関する法律」に変更された。


.質問IIについて
(1)前回までの報告に変更又は追加すべき事項はない。

(2)2003年の専門家委員会の意見について
(@)消防職員の団結権の否認について
(1)日本の消防と警察の関係
 日本は、従来から、我が国の消防は、歴史的沿革、法制に基づく業務内容、運営状況からして、ILO第87号条約第9条の「警察」に含まれるものであると主張してきたところであり、ILOが我が国の見解を認めた(結社の自由委員会第12次報告及び第54次報告)ことから、当該条約を批准したものである。
 日本の消防は300年余の歴史をもち、従来一貫して警察の一部門とされてきた。1948年に組織的に警察から分離されたが、政府として消防組織が警察組織の一部を構成しているとの主張は取っていない。しかしながら、従来と比べて消防の権限・機能は増えこそすれ、減じてはいない。
 結社の自由委員会は、1954年と1961年の二度にわたり、我が国の労働組合側からの申立てを審議(同委員会第60号事件及び第179号事件)した。
 その結果、日本の消防機関の職務を「警察及び警察と同視すべき若干の職務」に該当するとして、消防職員の団結禁止が結社の自由を侵害するものであるとの申立については、「これ以上審議する必要がないと決定するよう理事会に勧告」した(同委第12次報告33−36項、第54次報告94項)。
 このように、日本の消防は、警察と組織的には分離されていても、本条約の「警察」に含まれるとの二度にわたるILOの見解を基礎として、我が国は1965年同条約を批准したものである。
 日本の消防と警察は、同条約の批准後も変わることなく、同様な使命・任務をもち、公共秩序の保持のためお互いに補完しあう関係にある。消防は、「火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害に因る被害を軽減し、もって安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的」としている(消防法第1条)。他方、警察は、「個人の権利と自由を保護し、公共の安全と秩序を維持する」ことを任務としている(警察法第1条)。両者は、公共の安寧秩序の保持という同一の使命を有しており、また、「国民の生命、身体及び財産の保護のために相互に協力」する(消防組織法第24条)ことにより、お互いに補完しあっている。
 両者の権限を比較すると、消防職員には、(1)優先的な道路通行権、(2)特定区域の通行制限権、(3)現場における一般人に対する協力命令権について、警察官とほぼ同様の権限が認められている。これらの権限に加えて、消防には、さらに、(4)他人の家屋や土地に立ち入る権利、(5)消火活動中の緊急措置権としての近隣建物を破壊する権限等が認められている。このような消防職員の権限は、行政作用としては「警察」に分類されるものである。
 なお、諸外国においても、軍隊又は警察の一部門に消防業務を担当させ、当該消防隊員は消防業務に専従させつつも、全体として、軍隊又は警察に従事する職員とみなしている例があると承知している。
(2)消防職員委員会制度の導入
 我が国の消防職員に対しては、団体交渉を目的とする団体の設立を法律により制限しているが、この点に関しては、国民的コンセンサスの推移に応じて解決を図っていくべきである。これまでも、関係者間で協議、同意した上で、国民的合意を背景として、消防職員委員会制度を創設してきた経緯がある。
 具体的には、1995年に国と全日本自治団体労働組合(地方公務員の代表的組合)との間で、勤務条件の決定等への消防職員の参加を保障することにより、消防職員の権利保護の趣旨にかない、かつ、国民的コンセンサスが得られる解決策として、この制度の導入が合意された。
 このことは、ILOにおいても満足をもって歓迎するとされ、合意内容を踏まえた法改正等が要請された。これらを踏まえ、制度導入のための法律案が、国会において、与野党全会派一致で可決成立した。
(3)消防職員委員会制度の運用状況
 1997年4月1日までに国内すべての消防本部において消防職員委員会が設置され、2005年3月までに、全国で年間に約5,000件、合計約50,000件に及ぶ意見について、審議が重ねられてきた。
 例年、約4割の意見が「実施が適当」とされ、そのうち5割以上(約1,000件)の意見が消防長の処置を経て実施に至っている。
 具体的な事例としては、多くの消防本部で、(1)健康管理の増進を図るための喫煙対策、(2)社会的にも関心の高いストレス対策としてのカウンセリング事業の導入や健康診断の充実、(3)交替制勤務のための仮眠室等の庁舎環境の整備等が進められている。
 このように、消防職員委員会は、消防職員が現に勤務する各消防本部において、消防職員の参加を得て、管理職員との真摯な協力を得ながら、個別の勤務条件等に関する問題解決に有効に機能しており、多大な貢献をしてきている。
 また、2003年度及び2004年度(2003年4月〜2005年3月)においては、ほぼすべての消防本部において消防職員委員会が開催されたところであり、本制度が着実に定着し、成果を挙げていると考えている。
(4)これまでの政府としての取り組み
 政府としても、消防大学校における幹部の研修や、全国の消防長研修会において、消防職員委員会制度の趣旨及び運用上の留意点について説明をしてきたところである。
 2003年1月には通知を出し、委員会を少なくとも毎年度1回は開催し、職員から提出された意見は、制度の趣旨に照らし、できるだけ広く積極的に審議の対象とし、審議対象外とする場合にあっても慎重に取り扱うことを要請してきた。
 政府としては、国民的コンセンサス、関係者の合意に基づいて導入されているこの制度を尊重することが重要であると認識しており、今後とも、制度の円滑な運用を通じて、消防職員の勤務条件の適切な改善が図られるよう努めてまいる所存である。
(5)消防職員委員会懇談会の開催とその議論内容
 制度施行から8年を経過した2004年10月15日、総務大臣と自治労委員長との定期協議の中で、消防職員委員会のこれまでの取り組みや運用方法について検証するための意見交換を行うこととした。
 これに基づき、2004年11月25日より2005年3月15日まで、5回にわたって「消防職員委員会懇談会」が開催された。
 この中で、総務省消防庁からは、消防本部における消防職員委員会の開催状況や意見数、審議状況等についての調査結果を報告し、自治労からは、消防職員委員会の問題点として職員側から指摘されている調査結果を報告した。
 また、消防本部の人事担当者と職員等から、消防職員委員会の運用の実態についてのヒアリングを行った。
 懇談会での議論の結果、総務省と自治労の間で、以下の事項について合意された。
@)委員会は、次年度予算編成作業に間に合わせるため、年度前半(4月から9月)に開催することを常例とする。
A)委員会に意見を提出した職員各自に対して、委員会の審議結果及び当該結果に至った理由を通知するとともに、職員全員に対して委員会の消防長に対する意見を含めた審議概要を周知する。
B)意見取りまとめ者制度を消防職員委員会制度に創設する。
 懇談会における合意内容については、自治労及び連合も「有効かつ有意義なものであると、高く評価している。
(6)委員会の運用改善策
 懇談会の議論の結果、現行の制度の運用を改善するため、以下の事項について、「消防職員委員会の組織及び運営の基準」(消防庁告示)を改正した。
(a)委員会は、年度前半に開催することを常例とするとともに、必要に応じ、開催するものとした。
 これは、年度前半に委員会が開催され、その審議の結果がより早く消防長に対して伝えられることにより、消防長が予算要求を行いやすくなることから、職員の意見がより実施されやすくするという趣旨に基づくものである。
(b)委員会に意見を提出した職員各自に対して、委員会の審議結果及び当該結果に至った理由を通知するとともに、職員全員に対して、委員会の消防長に対する意見を含めた審議概要について、周知することとした。
 これは、委員会の審議結果等を職員に対して示すことにより、制度の公正性、透明性が向上し、職員が委員会に対するより深い理解や信頼をもって活発な意見提出が期待されるという趣旨である。
(c)各消防本部の消防職員の中から、職員推薦に基づき、消防長が「意見取りまとめ者」を原則として4名指名することとし、職員からの意見を取りまとめて提出することとした。また、その際、意見取りまとめ者は、提出意見について補足説明を行うことができるとともに、委員会制度の運用に関する意見(意見の募集方法等)を述べることができることとした。また、委員会は、提出意見を審議対象とするかどうかについて、当該意見提出した職員及び意見取りまとめ者に、委員会開催前に通知することとした。
 これは、「意見取りまとめ者」が、職員から提出された意見を取りまとめて委員会に提出し、当該意見の補足説明を行い、委員会制度の運用に関する意見を述べる機会が与えられることにより、委員会がより効果的かつ円滑に運営されるようになることが期待されるという趣旨に基づくものである。
 これは、「変わりゆく環境における公共緊急サービスの社会対話に関するガイドライン」(ILO公共緊急サービスに関する合同会議、2003年1月31日採択)の中の「公共サービスが円滑に運営され、効率的で説明責任のある、良質のサービスが提供されるようにするため、効果的な社会対話メカニズムを構築することが、公共緊急サービスの労使全体の目標となるべきである」との趣旨に合致するものであると考える。なお、委員会制度の詳細については、NATLEXを参照されたい。
(7)政府の基本的方針
 消防職員委員会制度は、消防職員が現に勤務する各消防本部において、消防職員の参加を得て、勤務制度等の改善を行い、また、個別の勤務条件等に関する問題を処理するものである。
 政府としては、今回の運用の改善によって、この制度がより積極的に活用されるようになり、より大きな成果を挙げることができるものと考えている。

(A)公務員のストライキの禁止について
 公務員の労働基本権については、その地位の特殊性と職務の公共性にかんがみ、国民全体の共同利益の保障という見地から、一定の制約のもとにおかれているところである。
 一方、公務員も勤労者であり、その生存権保障の見地から、人事院勧告制度等の代償措置が講じられているところである。
 国内的にも公務員の争議行為の禁止について、我が国の最高裁判所は累次の判決によりこれを合憲としているところである。
 すなわち、最高裁判所は、労働基本権を保障する憲法第28条の規定は公務員にも適用されるが、この権利は国民全体の共同利益の保障の見地からする制約を免れ得ないものであり、また、労働基本権制約に対する適切な代償措置が講じられているところから、公務員の争議行為を禁止した法律の各規定は違憲ではないと判示している。
 公務員のストライキ権禁止に関するILOの見解は十分認識しているが、公務員の争議行為制約の範囲等については、各国の歴史的背景や公務員労使関係の状況等諸般の事情を考慮して決められるべきものである。
 このように、我が国の公務員は、法律によりストライキが禁止されており、これに違反して、ストライキに参加した者に対し、法律の規定に基づき適正に懲戒処分が行われることは当然であるが、この際にも、既に累次の政府見解で明らかにしてきたように、各々の当局がストライキの期間、規模、態様、参加した職員の状況その他の諸般の事情を勘案して、懲戒処分をすべきかどうか、どのような処分をすべきかを適正に判断をして行ってきているところである。
 また、国家公務員法及び地方公務員法は争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおり又はこれらの行為を企てた者に限って、違法行為の首謀者であることに加え、公務員に違法行為を行わしめるというその行為の違法性が高いことから、懲役刑を含む刑事罰(3年以下の懲役又は10万円以下の罰金)を科し得るとし、違法行為の首謀者だけを処罰の対象としている。
 なお、ILOにおいてストライキ権を扱った国際文書が存在しないということはILO自身も認めているところである。

(B)公務員制度改革について
 日本政府は、公務員制度改革を進めるにあたり、これまで組合を始めとする関係者との間で、様々なレベルで意見交換を行ってきた。
 具体的には、2004年5月に行革担当大臣等の関係大臣と組合代表者との間で政労協議を開催し、公務員制度改革についての幅広い意見交換を行い、政府と組合との間で協議の場を設け、意見交換を行っていくことは大変有意義であるとの認識で一致した。
 その後、政労協議を受けて、関係行政機関の局長級と組合側との間で実務者レベルの協議を行い、労働基本権の問題も含め、率直な意見交換を行った。さらに、政治レベルでも協議・調整が行われた。
 しかしながら、組合を始めとする関係者との調整が十分に進まなかったことから、政府としては、その時点では、国会への公務員制度改革法案の提出を見送ることとし、2004年12月に閣議決定された「今後の行政改革の方針」において、今後も関係者間の調整を更に進め、改めて改革関連法案の提出を検討することとした。
 政府は、この方針を決定するに当たっても、行革担当大臣と公務労協の代表との会談を行った。会談では、公務労協から行革担当大臣等の関係大臣と組合代表者との「政労協議」の枠組みを維持してほしいとの要請を受け、行革担当大臣は、今後も政労協議の枠組みを維持していくことは望ましく、関係大臣とも相談していくとの発言を行った。
 さらに、2005年5月の連合代表と総理等との会見においても、公務員制度改革について、協議を続けたいとの連合会長の求めに対し、政府として、政府と連合との間で話合いを行っていくことが必要との認識を示した。
 政府としては、今後とも、組合を始めとする関係者と幅広く意見交換を行い、実りある公務員制度改革の実現に努力していきたいと考えている。

(C)2002年9月24日付け連合意見書について
(1)公務員制度改革について
 当報告「2.(2)2003年の専門家委員会意見について」中「(B)公務員制度改革について」の記述をもって日本政府の見解としたい。

(2)消防職員の団結権の否認について
 当報告「2(2)2003年の専門家委員会の意見について」中「(@)消防職員の団結権の否認について」の記述をもって日本政府の見解としたい。

(3)公務員のストライキ権の禁止について
 当報告「2(2)2003年の専門家委員会の意見について」中「(A)公務員のストライキの禁止について」の記述をもって日本政府の見解としたい。

(4)国営企業職員の賃金交渉について
 国営企業(2003年4月までは郵政、印刷、造幣及び林野であったが、同月より、郵政は日本郵政公社に、印刷及び造幣は特定独立行政法人に、それぞれ経営形態を変更している)の職員の賃金は、2003年までは毎年、中央労働委員会の仲裁裁定を経て決定されていたが、2004年及び2005年は労使間で自主決着しており、指摘されているような問題は生じていない。なお、この件については、本来98号条約の実施に関わる問題であると認識している。

(5)非現業公務員組合の団体交渉および代替措置の問題について
 この件については、本来98号条約の実施に関わる問題であると認識しているところであるが、連合の87号条約の適用に関する意見として述べられている論点であるので、当報告で政府の考え方を示すものである。

【国家公務員】
 労働基本権が制約されている一般職の国家公務員については、代償措置として、中立第三者機関たる人事院が設けられている。
 人事院は、代償措置としての機能を適切に果たすため、職員団体から意見を聴取するための職員団体審議官及び参事官を設置しており、職員の勤務条件に関する国会及び内閣への勧告、規則の制定・改廃などを行うに当たっては、職員団体との会見を通じて、職員団体の意見、要求などを聞き、できるだけ勧告等に反映している。
 また、人事院は、国家公務員の給与その他の勤務条件を社会一般の情勢に適応させるための勧告を行うに当たり、社会情勢全般の把握、民間企業の給与等勤務条件の調査を行うこととしている。特に給与水準については、毎年、国家公務員約29万人全員及び全国約8,100民間事業所の約36万人(数字は2004年度)の給与実態調査を行った上で、毎年、官民給与について統計的手法に基づき精密な比較を行い、その給与較差を解消することにより官民の給与水準の均衡を図っており、この方式による公務員給与の改定は1960年以来長期間にわたり定着している。
 この原則は公務員給与が民間給与を上回っているときも適用されるものであり、国家公務員法上も公務員給与を引き下げる勧告があることが予定されている。
 本意見書が提出された2002年を例にとると、1月から8月に勧告を行うまで、人事院は、職員団体と161回の公式の会見を行うなど、給与を取り巻く厳しい諸情勢を踏まえ、俸給や諸手当の改定について、職員団体から従来にも増してきめ細かく意見聴取及び意見交換を行った。
 同年8月の人事院勧告においては、公務員と民間の給与実態調査の結果、公務員給与(月額)が民間給与(月額)を上回っていたことから、公務員給与を2.03%引き下げることとされた。
 一方、人事院勧告を受け取る政府は、人事院勧告制度を尊重するとの基本姿勢の下、国家公務員の給与改定について検討することとなる 。
 政府は、2002年を通じて、給与に関することを含め計66回にわたって職員団体との公式の会見を行っており(そのうち、国務大臣である総務大臣によるものも、合計5回行った)、これらを踏まえて勧告どおりの給与改定を行う一般職給与法の改正法案を国会に提出した(この法案は、政府原案のまま可決成立した。)。






【参考】
2003年8月の人事院勧告においては、公務員給与(月額)が民間給与(月額)を上回っていたことから、公務員給与を1.07%引き下げることとし、勧告どおりの給与改定が行われた。
2004年8月の人事院勧告においては、公務員給与(月額)と民間給与(月額)がほぼ均衡していたことから、公務員給与(月額)の水準改定を行わないこととした。






 このように、一般職の国家公務員については、人事院勧告制度の枠組みにおける給与決定過程に職員団体が関与するシステムが確立されているところであり、労働基本権に対する制限の代償として、人事院勧告制度をはじめとした関連措置による保障が制度上整備され、運用されている。
 なお、2002年度の給与改定に関して、職員団体(国公労連)に所属する国家公務員らが、同年度の人事院勧告、人事院勧告に沿った一般職給与法改正法案の作成、同改正法案の閣議決定、同法の制定、執行の一連の各行為は、憲法28条、ILO第87号条約、同98号条約、不利益不遡及の原則に違反していると主張して、国に対し、国家賠償法第1条第1項に基づき、一般職給与法改正法附則第5項の特例措置規定に基づく調整額相当額の損害賠償金及び遅延損害金の支払いを求めて提訴していた(東京地方裁判所平成15年(ワ)第4816号)。本件について、東京地方裁判所は平成16年10月21日の判決において、以下のように判示して原告らの請求を棄却し、国側が勝訴した。
 (1)憲法自ら公務員の地位、勤務条件について、一般の労働者とは異なる規定を置いていることから、国家公務員の使用者である国は、憲法第28条により、国家公務員で組織する労働組合との間で勤務条件について誠実に妥結に向けた団体交渉を行う義務を負っていると解することは困難であること
 (2)人事院勧告が給与の減額など勤務条件を切り下げる内容であったからといって、人事院が国家公務員の団体交渉権を制約する代償機関として本来の機能を発揮していないということは困難であること
 (3)ILO第87号条約、同98号条約は、その条項から直ちに国家公務員にも私企業の労働者と同一の団体交渉権の保障がされているとまで解することは困難であること
 (4)勤務条件法定主義が妥当する国家公務員について、原告(国公労連)のいう「不利益不遡及の原則」の法理が直ちにあてはまるとはいえないこと
 (5)本件特例措置規定は、一般職給与法改正法施行後に具体的権利として発生する平成14年度の期末手当等について、一定の減額措置を講ずるというものであって、原告らに不利益な内容を含む法律を遡及的に適用して、既に発生した原告らの具体的権利を一方的に処分、変更させるものであると一義的にいうことはできないこと

【地方公務員】
 一般職の地方公務員の職員の給与については、地方公共団体は、給与等の勤務条件が社会一般の情勢に適用するように、随時、適当な措置を講じなければならないこと(情勢適応の原則)、及び給与は、生計費並びに国及び他の地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定められなければならないこと(均衡の原則)が法律で定められており、独立かつ公平な機関である人事委員会が、給与を社会一般の情勢に適応したものにするための勧告を行うという制度が設けられている。この勧告は「給料額の増減」について行われるもので、増額だけでなく、減額の勧告もあり得るものである。
 地方公共団体においては人事委員会勧告に基づき、又は、人事委員会を置いていない地方公共団体においては人事院勧告に基づく国の措置に準じ、あらゆる努力を尽くして適切な給与改定を実施しており、一般職の地方公務員については、法制度上も、現実にも適切な給与の支給を受ける利益を享受している。
 なお、一部の地方公共団体において、現下の社会経済情勢、危機的な財政事情、行財政改革の推進等の観点にかんがみ、やむを得ず人事委員会勧告どおりの給与改定の実施ができない場合があるが、こうした場合でも、職員団体とは事前に十分な協議を行って妥結を図り、良好な労使関係の維持に十分な配慮をしている。裁判所は、給与改定が人事委員会勧告どおりに実施されなかったとしても、それが県当局の財政事情の下で真にやむを得ない事由による場合には、人事委員会が本来の代償機能を果たしていないと即断すべきではないと判示している(佐教組行政処分無効確認等請求事件に関する1983年5月27日の福岡高裁判決及び1988年1月21日の最高裁第一小法廷判決)。
 このように、我が国の一般職の地方公務員の給与決定システムは長年にわたり十分有効に機能し、定着しており、地方公務員の労働基本権制約の代償措置としての人事委員会制度が機能していないとする理由はない。

(D)2003年11月26日付け全統一の意見書について
 2003年11月26日付け全統一労働組合の意見書は、1987年に行われた日本国有鉄道の分割・民営化に伴うJR各社の不採用問題に関するものである。
 本件は、結社の自由委員会において、第1991号案件の勧告(2000年11月)後、フォローアップの枠組みの中で現在取り扱われているものであり、日本政府は同勧告後の進展等を同委員会に対し、随時情報提供しているところである。

(E)2003年8月26日付け全医労の意見書について
(1) 国立療養所西別府病院における団結権侵害の事例について
(a)2002年秋闘でのビデオ学習の実施について
 追加情報では、「全医労西別府支部が各職場の休憩室で休憩時間中に学習会を実施したことについて、これまで約30年間認められてきたことであったため、支部執行部は当局に許可の申請を行なわなかった。」と主張していることについて、以下のとおり見解を述べる。
 国立病院・療養所の建物、土地は国有財産であり、庁舎管理規程において庁舎の利用に際しては、あらかじめ利用許可申請書を提出し、許可を受けなければならないものである。
 このことから国立療養所西別府病院においても、庁舎管理規程に基づき庁舎の適正管理を行ってきたところであり、「これまで約30年間認められてきた。」という事実はない。
 これらのことから、庁舎の利用許可申請書の提出をせず、庁舎管理者の許可を得ないで無断で庁舎を利用したことは、まさしく違法行為であり、このような主張をすること自体、認められるものではない。
(b)西別府病院当局による組合員への事情聴取の強行について
 追加情報では、「支部の抗議にも関わらず、当局は休憩室からテレビデオ器を撤去し、及びこれまでの慣例を無視して職場休憩室での学習会の実施を禁止した。さらに、職場長及び職員を一人ひとり呼び出してビデオ学習の内容について、一方的に事情聴取を強行した。また、病院当局は支部執行部三役を呼び出し、組合への内部干渉、不当労働行為となる追及をしてきた。」と主張していることについて、以下のとおり見解を述べる。
 当局は、2003年10月31日に書記長に対して、庁舎内における無許可のビデオ学習会は、庁舎管理規程違反であることを説明した上で、至急中止するよう2回に渡り通告しており、それに対し、書記長は「わかりました」と回答していた。
 なお、書記長が4日から7日まで、他県に出張していたことは承知していない。
 当局は、中止通告に対し、書記長が了解したことから、学習会を中止し、テレビデオ器の撤去については、あくまでも支部が自主的に撤去することを尊重する対応方針としたものであるが、その後も撤去されなかったため、同年11月5日書記長に連絡した。
 しかし、書記長が不在のため、書記次長に対し、自主的に撤去するか撤去しないのであれば当局が保管する旨を通告したところ、副支部長と相談するとの回答があった。
 その後、副支部長より連絡があり「組合活動の妨害だ。」などと一方的に話があった。庶務課長は、再度、副支部長にこれまでの経緯と方針を説明したが、副支部長は「そんなことをしてみろ、明日窓口を申し入れるからな。」等、乱暴な意見に終始し、権利の主張、報復的な対抗手段等の発言のみを行い、副支部長として学習会の実施方法に係る意見、協議等も全くなかったため、やむなく猶予の余地なしと判断し、支部がテレビデオ器を引き上げないのであれば、当局が一時保管する旨、説明を行い、当局において同日テレビデオ器を保管したものである。
 したがって、庁舎管理上、当局がテレビデオ器を保管したことについては、職場環境を適正良好に保持し、規律ある業務の運営態勢を確保するために行った適正な行為であり、当局の一方的な撤去という全医労の主張は全く当たらない。
 なお、休憩室での無許可のビデオ学習を当局が黙認するといった慣例はない。
 職場長及び職員への事情聴取については、問いつめや疑うような質問にならないように配慮し、あらかじめ質問事項を設定し、全員に同一の質問を行い、回答が無い場合でも繰り返しの質問はしておらず、さらに回答したくない職員に対しては無理に調査しておらず、一方的な事情聴取は強行していない。
 さらに、庶務課長より支部長に事情を調査したいと連絡したところ、「窓口」で対応するとの回答があったものであり、一方的な支部幹部の呼び出しではない。
 その「窓口」において当局がビデオ学習会の事情を調査することは、庁舎管理上必要であり、無許可でビデオ学習会が各職場の休憩室で行われていたこと等について、調査をしたいと説明したところ、副支部長からは、庶務課長が支部長に直接電話したことについて、「組合とのルール軽視が甚だしい。何と考えているのか」「庶務課長ぶんざいが支部長に電話して」等々の個人を中傷する発言があった。これは、2002年12月26日の支部執行部三役への事情調査においても、当局の組合に対する「内政干渉」及び「不当労働行為」という発言を繰り返し、当局の質問に対して回答を拒否している。
 これらのことから、全医労の主張する「西別府病院当局による組合員への事情聴取の強行」という事実はない。なお、当局の調査において、乱暴かつ中傷する発言があったこと、また、当局の質問に対し一方的に席を立ち、かつ「組合に対する内政干渉」を盾に回答を拒否したことは、誠に遺憾であり認め難い行為である。
(c)ペナルティーとしての休憩室への労働組合文書の配布禁止について
 追加情報では、「休憩室での学習会を「無届けで実施」したことへのペナルティーにより職場休憩室への文書配布を全面禁止し、組合員の知る権利を奪うとともに、組合活動を妨害する団結権の侵害であると言わざるをえない。」と主張していることについて、以下のとおり見解を述べる。
 「国有財産の目的外使用の禁止」並びに「庁舎管理規程」の定めにより当局は庁舎管理を行っているところであり、庁舎の利用許可申請書の提出があれば、その使用の時間や場所、使用者の範囲、使用の目的など諸般の事情を総合考慮し判断しているところである。
 この庁舎利用については、支部から申請のあった院内の「職員出入口通路3カ所」におけるビラ配布について利用を許可してきたところであり、それ以外の場所においては、そもそも許可をしているものではない。2002年11月19日の看護師更衣棟および休憩室へのビラ配布を求める利用許可申請については、今回の違反行為なども含めた諸般の事情を総合考慮し判断しているものであり、不許可とする理由についても支部に対し説明を行っているものであることから、一方的に全面禁止したものではない。これまで利用を許可していた「職員出入口通路3カ所」におけるビラ配布及び掲示板については、これまでの許可のとおり利用できるものであり、支部が十分な組合活動ができなくなったという全医労の主張は全く当たらない。
 これらのことから、全医労の主張する「ペナルティーとしての休憩室への労働組合文書の配布禁止」や「組合員の知る権利を奪うとともに、組合活動を妨害する団結権の侵害であると言わざるをえない。」という事実はない。
(d)病院当局による労働組合の署名活動への侵害について
 追加情報では、「2002年11月8日以降、署名活動が十分にできない状況が続いている。」と主張していることについて、以下のとおり見解を述べる。
 病院内における署名活動についても「国有財産の目的外使用の禁止」並びに「庁舎管理規程」の定めにより当局は庁舎管理を行っているところであり、当局としては、庁舎内での自由な署名活動といったことは、支部の組合活動に限らず原則禁止しているところである。
 しかし、勤務時間外において一職員が個人的に個々の用紙に署名をすることまで制限しているものではない。病院内における署名活動は、従来より原則禁止としているが、このような状況下においても2003年10月末から12月3日までに集められた当院職員における請願書の署名が279通もまとめられており、署名活動が十分にできないという全医労の主張は全く当たらない。
(e)病院当局の処分強行について
 追加情報では、「国家公務員法並びに厚生労働省庁舎の管理に関する規程に違反するとの訓告書を本人へ通知した。この訓告処分により、同副支部長は2003年6月支給の勤勉手当において、5%削減処分を受けた。」と主張していることについて、以下のとおり見解を述べる。
 2003年2月4日に「10月29日の勤務時間内に、副支部長が病院の許可を得ずに実施した行為が、国家公務員法に規定する「職務に専念する義務」「職員団体のための職員の行為の制限」及び厚生労働省庁舎の管理に関する規程に違反するものとして、病院長より訓告した。また、支部に対しても、支部としての活動が厚生労働省庁舎の管理に関する規程に違反し、この結果、支部役員及び傘下の組合員に、同規程違反の行為を実行させることとなったとして、病院長より警告したことは、事実である。
 この「訓告」「警告」については、国家公務員法に規定する「懲戒処分」ではない。
 また、副支部長が勤勉手当において5%削減処分を受けたことについて、勤勉手当は、一般職給与法等の規定により一定の評価期間における勤務成績に応じて支給するものであり、国家公務員法の規定に基づく勤務成績の評定又は勤務成績を判定するに足ると認められる事実を考慮することとなっている。
 本件における勤勉手当の5%削減処分については、この評価期間内における今回の職務に専念する義務に違反したこと等による「訓告」を受けたことも含め、総合的に勤務成績を判断してなされたものである。
(f)組合の処分に対する抗議について
 追加情報では、「支部は当局に、また、全医労本部は厚生労働省に、訓告処分の不当性を訴え抗議し、処分の撤回を求めたが、撤回に応じなかった。」と主張していることについて、以下のとおり見解を述べる。
(e)で述べたとおり、勤務時間内に病院の許可を得ずに実施した行為は、国家公務員法並びに厚生労働省庁舎の管理に関する規程に違反するものであり、この違反行為をする者に対して行った処分は相当のものであることから、撤回する必要はないものと判断している。
(g)2003年4月以降の状況について
 追加情報では、「個別申請で「個別許可」となっているが、休憩室のない職場への配布は禁止の状態が続いている。」と主張していることについて、以下のとおり見解を述べる。
 (a)及び(c)で述べたとおり、「国有財産の目的外使用の禁止」及び「庁舎管理規程」の定めにより当局は庁舎管理を行っているところであり、庁舎内における職場環境を適正良好に保持し、規律ある運営態勢を確保するため、庁舎の利用許可申請書を提出があれば、その使用の時間や場所、使用者の範囲、使用の目的など諸般の事情を総合考慮し判断しているところである。
 支部に対しては、庁舎管理上、利用が認められるビラ配布及び掲示板については許可をしているところであり、これまでも行ってきている組合活動が十分にできないということはない。

(3)2004年の専門家委員会の意見について
 2003年の専門家委員会意見については、当報告「2.(2)2003年の専門家委員会意見について」の記述をもって日本政府の見解としたい。

 2004年9月1日付け連合の意見書について
 当報告「2.(2)2003年の専門家委員会意見について(@)、(A)及び(B)」の記述をもって日本政府の見解としたい。


3.質問IIIについて
前回までの報告に変更又は追加すべき事項はない。


4.質問IVについて
前回までの報告に変更又は追加すべき事項はない。


5.質問Vについて
前回までの報告に変更又は追加すべき事項はない。


6.質問VIについて
本報告の写を提出した代表的労使団体は、以下のとおり。
 (使用者団体)日本経済団体連合会
 (労働者団体)日本労働組合総連合会

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