05/08/04 石綿に関する健康管理等専門家会議第1回議事録           第1回石綿に関する健康管理等専門家会議                         日時 平成17年8月4日(木)                            14:00〜                         場所 厚生労働省省議室 ○労働衛生課長  ただいまから「第1回石綿に関する健康管理等専門家会議」を開催いたします。まず 傍聴の皆様にお知らせします。傍聴に当たりましては、すでにお配りしてある注意事項 をお守りくださるようお願いします。  私は、厚生労働省労働基準局労働衛生課長の阿部です。座長選任の間、議事進行役を 務めさせていただきます。よろしくお願いします。後ほど尾辻厚生労働大臣がご出席の 予定ですが、お見えになるまで議事次第のとおり議事進行をさせていただきます。委員 の皆様にはご多忙の折、お集まりいただきまして誠にありがとうございます。  初めに資料1に基づいて、委員のご紹介をいたします。富山医科薬科大学保健医学教 授の鏡森定信委員です。 ○鏡森委員  私は疫学というものをやっておりまして、人々の集団の中で病気が起きたときに、ど ういう要因が最も主な原因になるのかをやってきました。昭和53年からイギリスのワー グナーのじん肺研究所におりまして、そのときに生物医学の研究と疫学をやっており、 その後日本に帰ってから、地方じん肺診査医ということで、じん肺の患者さんや石綿ば く露の方々と仕事をしています。よろしくお願いします。 ○労働衛生課長  (独)労働者健康福祉機構岡山労災病院副院長の岸本卓巳委員です。 ○岸本委員  岡山労災病院副院長の岸本卓巳です。私は臨床医で内科、呼吸器を専門としておりま す。20年前、広島県呉市におりましたころから、アスベストばく露と石綿関連疾患につ いて、臨床研究を行っております。いまアスベストによる中皮腫の診断と治療を中心 に、臨床で活躍をして研究も行っています。皆様、よろしくお願いします。 ○労働衛生課長  次に国立がんセンターがん予防・検診研究センター情報研究部長の祖父江友孝委員で す。 ○祖父江委員  私も鏡森委員と同様で、がんの疫学を専門とするものです。長く肺がんを中心とした 疫学研究に従事しており、タバコの健康影響も研究してきたり、最近はがん登録の体制 整備等にも携わっていますが、長らくがん検診の有効性の評価も手をつけてきました。 よろしくお願いします。 ○労働衛生課長  次に国立がんセンター中央病院副院長の土屋了介委員です。 ○土屋委員  私は臨床家でありまして、呼吸器外科学、すなわち肺がんの外科を専攻しておりま す。特にその中でも局所進行肺がんの外科ということで、隣接臓器の合併切除などを中 心にやっておりましたので、中皮腫に対する肺胸膜全摘術ということで関与してまいり ました。また、祖父江委員と一緒に肺がんの検診にもタッチして、X線読影、その他に 関与しておりましたのでお声をかけていただいたと解釈しております。よろしくお願い します。 ○労働衛生課長  次に、医療法人社団ひらの亀戸ひまわり診療所の名取雄司委員です。 ○名取委員  私は呼吸器内科医なのですが、20年ぐらい前に横須賀共済病院で中皮腫や肺がんの 方、造船の方が多いのですが、そういう方の臨床に当たって以来、最近は建築の方の石 綿関連疾患の診断と治療を行っています。この3年ぐらいは、全国からの中皮腫の方の 電話相談に携わって、毎年100件ぐらいの方のご相談に応じています。よろしくお願い します。 ○労働衛生課長  次に奈良厚生会病院名誉院長の成田亘啓委員です。 ○成田委員  私が定年まで勤めていた奈良県立医学大学内科学第二講座の創設者は、私の恩師の宝 来委員です。宝来委員は日本で最初に石綿肺の研究をされたお一人です。それ以降、二 代目が三上理一郎先生、三代目を私が継いだわけですが、石綿に関する呼吸器疾患の研 究をメインテーマの1つと定めてやっております。岸本委員と名取委員と同じように、 臨床医です。よろしくお願いします。 ○労働衛生課長  次に、九州大学大学院医学研究科教授の本田浩委員です。 ○本田委員  私は専門が放射線医学です。私どもの病棟にも、肺がんの患者さんはたくさんおられ まして、画像診断、放射線治療、化学療法で患者さんに貢献している状態です。どうぞ よろしくお願いします。 ○労働衛生課長  最後になりますが、(独)産業医学総合研究所作業環境計測研究部部長の森永謙二委 員です。 ○森永委員  私の経歴で特に説明するものはありません。よろしくお願いします。 ○労働衛生課長  専門家の先生方は以上です。次に、本省側の参加者のご紹介をいたします。まず、青 木労働基準局長です。 ○青木労働基準局長  この会は公開ということで、国民の皆様方に役立つことがあればと思っておりますの で、どうぞよろしくお願いします。 ○労働衛生課長  次に、中村老健局長です。 ○中村老健局長  どうぞよろしくお願いします。 ○労働衛生課長  田中健康局長です。 ○田中健康局長  よろしくお願いします。 ○労働衛生課長  労働基準局小田安全衛生部長です。 ○小田安全衛生部長  よろしくお願いします。 ○労働衛生課長  環境省から俵木保健業務室長です。 ○環境省環境保健部保健業務室長  俵木です。よろしくお願いします。 ○労働衛生課長  三浦老人保健課長です。 ○三浦老健課長  よろしくお願いします。 ○労働衛生課長  以上です。議事に入ります。まず運営要綱により、本専門家会議の座長を互選により 推薦するということになっております。その上で、座長の指名により、座長の代理を決 めたいと思います。どなたでも構いませんので、座長の推薦をいただければお伺いした いと思います。 ○岸本委員  厚生労働省所管の国立がんセンター中央病院副院長で中皮腫も含めて、悪性腫瘍に大 変造詣の深い土屋了介委員に座長をお願いするのがよいかと思いますが、いかがです か。 ○労働衛生課長  ただいま土屋委員をご推薦の声が上がりましたが、皆様はいかがですか。                  (異議なし) ○労働衛生課長  よろしいですか。それではご異議がないようですので、土屋委員に、本専門家会議の 座長をお願いします。以後の議事運営については座長にお願いしますので、座長は席に お移りいただきたいと思います。 ○土屋座長  ただいま座長という大変な役を仰せつかりましたが、国民の健康維持、特にアスベス ト、中皮腫という観点から役目を果たせるように、委員の皆様のご協力を得て努めを果 たしていきたいと思います。よろしくご協力のほどお願いします。  それでは議事を進めていきます。まず、副座長を選任させていただきます。私から指 名いたします。副座長としては、やはりアスベストならびに中皮腫の診断治療という点 で、大変造詣の深い岸本委員にお願いしたいと思います。いかがですか。                  (異議なし) ○土屋座長  それでは指名させていただきます。よろしくお願いします。 ○労働衛生課長  ただいま尾辻厚生労働大臣がご到着されましたので、ご挨拶をお願いします。 ○尾辻厚生労働大臣  「第1回石綿に関する健康管理等専門家会議」の開催に当たりまして、冒頭でご挨拶 を申し上げたいと思っておりましたが、国会、委員会の日程が入りまして遅れて参りま したことをお詫び申し上げ、また、中断してご挨拶を申し上げることをお許しいただき たいと存じます。  改めまして、本日は先生方に大変お忙しい中をお集まりいただきまして、日頃より厚 生労働行政の推進につきましては、格別のご協力をいただいておりますが、併せて本会 議にご出席いただきましたことを厚く御礼申し上げます。  昨今、社会の関心事となっている石綿問題です。厚生労働省をはじめ、各省とも全力 を上げてその対策に取り組んでいるところです。健康問題に関しては、労働者のみなら ず、その家族、事業場周辺住民にも健康被害が広がっていることが指摘されています。 厚生労働省としても、従来より石綿問題に対して、さまざまな対策を講じてきたわけで すが、事業場以外の場所で健康障害が生じている事実に直面して、被害の拡大防止、実 態把握の強化、そして国民の皆様への不安への対応に全力で取り組んでいく必要を、い ま痛感しております。このように国民の皆様方に大きな不安と関心を持っていただいて いる今日の石綿問題です。取り分け、健康管理等については、1人でも多くの方の不安 を解消して差し上げることが、いま私どものなすべきことと思っております。そのこと を強く願いまして、専門家会議を開催させていただきました。  委員の皆様方におかれましては、大変お忙しいことと存じますが、どうぞ国民の皆様 方の期待にお応えするためにも、精力的にご議論をいただきたいと思います。そして失 礼をかえりみず、特にお願いを申し上げたいと存じます。まさに日本を代表する専門家 の先生方にお集まりいただいていますので、専門的なご審議をいただきたいのは当然で すが、あえて私が申し上げたいことは、どうぞ国民の目線でご議論をいただくと大変あ りがたいと思います。  例として適切かどうかわかりませんが、いま私が思いつく例で言わんとすることをご 説明いたしますと、例えばBSEの牛の検査です。専門家の先生方に出していただいた 結論として、21カ月以上の牛は検査をしないことにしました。したがって、専門家の先 生方は、その通りだとおっしゃるわけです。  一方で、実はまだ各都道府県の判断で、それ以下の月齢の牛も検査をすることとした ところもあります。おそらく、専門家の先生方がおっしゃるには、こんな無駄なことは ない、無駄だとおっしゃるのだろうと思います。ただ、専門家でない、私ども国民はや っぱり心配なのです。その安心を得るためには、やっぱりそれ以下の月例の牛も検査を してみたいということがあるわけです。  私がこの例でご説明をして、たぶん先生方にはご理解いただいたと思いますが、改め て国民の目線でどういうふうにしたらいいのだろうか、専門家的なご議論をいただけれ ば大変ありがたいと思います。特に本日の議事でも、「住民の健康不安の解消について 」というものがありますが、いま私がお願いしたような視線でご議論をいただければあ りがたいと思います。  同時に、この問題は極めて深刻な問題だと感じています。私のみならず、国民の皆様 も同様に深刻な問題だと感じておられますから、どうぞ大胆なご意見をお寄せいただく ように併せてお願いいたします。先生方からいただいたご意見については、是非、私ど もの施策に反映していきたいと考えておりますので、お願いいたしまして挨拶とさせて いただきます。 ○労働衛生課長  ありがとうございました。大臣は公務所用につきまして、これにて退席させていただ きます。 ○尾辻厚生労働大臣  この後委員会で答弁しなければならないものですから、どうぞお許しいただきたいと 存じます。 ○土屋座長  それでは議事を進めます。ただいま大臣よりご訓示をいただいたように、私どもは専 門家ですので、もちろんエビデンスに基づいた科学的な議論を踏まえているわけです が、それだけではなく、加えて国民の皆様の不安を解消するところまで議論を煮詰めて ほしいということですので、そのご趣旨を踏まえて審議を進めてまいります。それでは 本専門家会議の開催の趣旨について、安全衛生部長より説明していただきます。 ○小田安全衛生部長  資料2の本専門家会議の開催要綱の設置目的で、この専門家会議については、7月25 日に厚生労働省内で、西副大臣をヘッドとするアスベスト対策推進チームの第2回会合 の中で、専門家の先生方からヒアリングを行い、それ以降、専門家チームを構成して、 リスク評価に基づく健診対象やアスベストばく露者に対する健康管理の方法の検討を行 うとされて、このことが7月29日の関係閣僚による会合の中でも、「アスベスト問題の 当面の対応」に盛り込まれたものです。この趣旨を踏まえて、今般専門家会議を召集し て、専門的見地から検討を行っていただくことにしております。  具体的な検討内容については、「議事次第」の議事のところに(1)(2)(3)と あります。さらに他に検討していただくこともありますが、当面はこの3点をご検討い ただきます。  (1)は「石綿による住民への健康影響の実態把握について」ということで、現在予 定しているのが、国民全体に対しての疫学調査として、人口動態統計を用いた死亡デー タに基づく疫学調査が1つです。主に検討していただきたいのは、全国データではなく て、特定の石綿工場周辺の住民、あるいは石綿によって、石綿作業に従事していた労働 者等についての健康影響についての実態把握です。ただしこの労働者については、すで に労働災害の認定事例の中でかなり疫学的には解明されています。  (2)「住民の健康管理の方法について」は、例えば健康診査を実施する必要性、有 効性、対象についてどのように考えられるかということです。  (3)の「住民の健康の不安の解消について」は、すでにQ&Aの作成・公表、一般 の方々への相談窓口の設置、さらにはこれから専門家による相談、講演といったものに ついて何か必要なものがあればということで、ご議論をいただきたいというものです。 以上です。 ○土屋座長  どうもありがとうございました。ただいまのご説明に対して、何かご質問はあります か。よろしいですか。  それでは今後の本会議の進め方ですが、概ねこの資料に則って進めていきたいと思い ます。その後フリーのディスカッションにします。続きまして、政府のこれまでの取組 みならびに統計などの資料に基づいて、事務局から説明を受けたいと思います。その 後、健康管理等について皆様のご議論をいただきます。それでは事務局から資料の説明 をお願いします。 ○主任中央じん肺診査医 資料の説明の前に、資料の確認をいたします。資料1は先生 方の名簿、資料2は「開催要綱」、資料3は「アスベスト問題への当面の対応」とした 厚生労働省関係部分の抜粋、資料4はその全体像ですが、「アスベスト問題への当面の 対応」、資料5は8月3日付の「石綿関連疾患としての悪性中皮腫の診断と治療」のメ モです。資料6−1は「石綿にさらされる業務による肺がん・中皮腫の労災補償状況」 です。資料6−2は「人口動態調査における死亡者数の年別推移」、資料7は「アスベ スト(石綿)についてQ&A」という7月29日付のものです。資料8は、環境省提出資 料です。  資料3から資料7について、一括でご説明いたします。最初に資料3の「アスベスト 問題の当面の対応」ということで、厚生労働省の関係部分を抜粋したものです。2頁の (2)国民の有する不安への対応の2つ目のマルです。労働者、退職者、家族、周辺住 民を対象とした健康相談窓口の開設等(厚生労働省、環境省)とあり、次頁のいちばん 上の四角の中に、ア、健康相談窓口の設置等ということで、保健所、産業保健推進セン ター、労災病院等に健康相談窓口を開設した。イ、アスベストによる健康被害を発生さ せている事業場の周辺住民の不安解消のため、専門家による臨時の相談窓口を各地に開 設する。エ、専門家チームにより、リスク評価に基づく健診対象や、アスベストばく露 者に対する健康管理の方向の検討を行う。これがまさにこの委員会です。  (3)過去の被害に対する対応です。まず、労災補償制度等の周知徹底等ということ で、アスベスト関連事業場で働いていた人への対応。健康診断の受診を広く呼びかける とともに、アスベストによる疾病に関する「労災補償」及び「健康管理手帳」の周知徹 底を図る。  5頁の2、実態把握の評価で、いちばん下のマル、アスベストによる中皮腫、発がん リスク等に関する研究の枠の中です。中皮腫の実態調査に係る研究、アスベストばく露 に関連した職種別リスクに関する研究を実施する。ア、中皮腫の実態調査に係る研究。 イ、アスベストばく露に関連した職種別リスクに関する研究を進める。7頁、別紙1、 アスベストによる健康被害に関する実態把握ということで統計数字を少し並べていま す。最初のマル、アスベストばく露による肺がん及び中皮腫の労災認定件数は、合計で 「535件」とありますが「534件」の間違いです。以下、関連のすべての所は訂正表を作 成しておりますので、後ほど配付いたします。  資料4は、政府全体の資料です。これについての説明は省略いたします。資料5は、 岸本委員から提出していただいたものですので、説明は岸本委員からお願いします。 ○岸本委員  資料5は、実は昨日国会で私が議員の先生方に、「アスベストによる中皮腫」という ことでご説明した内容です。中皮腫というのは、非常に診断が難しいということをまず お話させていただきました。やはり肺がんとの鑑別がいちばん問題であろうということ で、病理組織学的に腫瘍組織を取って、免疫染色法や、ある場合には透過型電子顕微鏡 を使ってきちんと診断を確定することが重要であると申し上げました。  実際、私も労災認定の場において、画像診断だけ、もしくは組織を取らない細胞診だ けで中皮腫だと診断をした例については、診断に誤りが多々あるという経験があるとい うことで、この中皮腫の診断を確立させなければいけないと申しました。  約8割はアスベストによって起こってくるわけですが、そうでないものは何かという ことで、SV40は実際に人に中皮腫を起こすかどうかはまだ論争のあるところですが、こ ういうものもある。遺伝や放射線の影響、トロトラストによって起こった中皮腫は、い ま日本で報告があるということもご説明いたしました。  やはり労災認定の場合いちばん大切なのは、石綿肺というじん肺があれば問題はない のですが、中皮腫というのは資料にあるように、石綿が高濃度ばく露によって起こるわ けではない。環境ばく露や家族内ばく露がいま社会問題になっていますが、アスベスト の低濃度ばく露によって起こってくることがあります。そのための医学的な所見、アス ベストによって起こったことを特定するためには、胸膜プラーク等、石綿小体が診断上 非常に大切である。胸膜プラークに関しては、1mmという非常に薄いものから1cmのよ うな太いものまである。いまCTの精度も非常によくなりましたが、やはり1mmの胸膜 プラークはいまでも診断はできないので、肉眼的に確認する方法がいちばん間違いな い。  胸膜プラークは20年を超えて石灰化してくるのですが、日本の臨床の先生方は、胸膜 に石灰化を見た場合は、どうしても陳旧性の肋膜炎や陳旧性結核と短絡してしまいがち であって、きちんと職業歴を聞いて、横隔膜状の胸膜の石灰化等、石綿ばく露に特徴的 なものをきちんと押さえていただくことが必要であると申し述べました。  悪性中皮腫の際の治療については、まず手術療法では、当院で何例か早期診断で肺胸 膜全摘術を行って、予後が非常にいいと。無再発の例が4人いるということで、これが いちばんいいわけで、5年生存可能なものは肺胸膜全摘手術だけである。放射線療法、 遺伝子治療というのは、まだエビデンスがない。放射線療法は単独では効かないという ことも言われています。それから、アリムタという薬は、シスプラチンという抗がん剤 と併用すると非常にいいと欧米で言われていますが、日本ではまだ治験が始まったばか りで、これは期待はできるのですが、根治治療にはなかなかならない。延命効果がわず かにあるだけです。  アスベストによる悪性中皮腫を早期に診断して、早期に治療するためには専門的な医 療機関が必要ですが、症例が非常に散在している現状から、専門医療機関のネットワー クで、きちんと診断をして早期に治療することが必要であると申し述べております。  石綿ばく露歴があって、石綿関連疾患がまだ発生していない方々が多々あるのです が、不安を解消するためには専門家等による健康相談、特殊健康診断等の健康管理をき ちんと行っていくべきであると述べています。以上です。 ○主任中央じん肺審査医 次に、資料6−1、「石綿にさらされる業務による肺がん・ 中皮腫の労災補償状況」です。昭和54年以前の情勢から、昭和55年から平成16年まで逐 年に計上したものです。例えば、平成15年に肺がんで認定された方が38名、中皮腫で認 定された方が83名、合計121名。累計で肺がんが353名、中皮腫が495名、合わせて848名 が平成16年までに認定されています。  2頁以降については、先日公表した「石綿ばく露作業に係る労災認定事業場一覧表」 です。事業場の名前、石綿ばく露作業状況、労災の認定件数、石綿の取扱い期間等を一 覧表にしたものです。  資料6−2は、2つの表がありまして、上は人口動態調査における死亡者数の年別推 移ということで、日本全体で毎年中皮腫・肺がんで何人亡くなったかというものを、平 成7年から平成15年まで逐年で示したものです。平成15年、中皮腫で亡くなった方が 878名、肺がんで亡くなった方が5万6,720人です。下の表は、先ほどと同じですが、 「労災認定件数の年度別推移」で、平成7年度から平成15年度までです。  資料7は、国民の皆様方が大変不安をお持ちですので、アスベストについてのQ&A ということで、ホームページ等で公表しているものです。以上です。 ○土屋座長  ただいまの説明で何か委員からご質問はありますか。よろしいですか。それでは引き 続いて、7月26日に環境省においても専門家会議がありましたので、そのときに出た話 題などを環境省の俵木環境保健部保健業務室長から簡単にご説明をいただきます。 ○環境省環境保健部保健業務室長  環境省におきましては、発生源から一般環境に排出されるアスベストによる健康被害 を防止するという観点から、大気汚染防止法、または廃棄物処理法により、各種の規制 を行っています。  今般、尼崎のクボタの周辺で、一般住民の方にアスベストによると考えられる健康被 害が発生しているという報道等もありまして、一般環境経由のアスベストのばく露の実 態を把握して必要な対応を検討していきたいということで、その対応が求められていま す。  このため環境省では、7月26日に第1回の会合を開催した「アスベストの健康影響に 関する検討会」を設置したところです。7月26日の会議においては、主として、4つの 観点からご助言をいただいています。  1つは、一般環境経由のばく露のリスクの程度をどのように考えていけばいいのか。 2つ目は、中皮腫とアスベストの関連性についてはどう考えればいいのか。3つ目は、 健診の妥当性、可能性についてはどう考えればいいのか。4つ目は、実態把握のための 調査はどのように考えればいいのか。この4点について助言をいただきました。  簡単にその4つの議論の内容についてご紹介します。資料8は、その時の資料の一部 です。その2頁をご覧ください。イギリスの中皮腫の死亡数及び日本の胸膜中皮腫の死 亡数の推移です。この頁のグラフは、森永委員編集による「職業性石綿ばく露と石綿関 連疾患」の本から取らせていただきました。折れ線グラフは上から、イギリスの合計、 イギリスの男性、日本の合計、日本の男性、イギリスの女性、日本の女性で、グラフが 横にはっています。イギリスも日本もそうですが、男性が女性に比べて、かなり多い中 皮腫死亡数を示しています。特に日本においては、80年代後半から90年代の初めころか ら、またイギリスにおいては70年代後半ごろから立ち上がりがあって、ずっと上ってき ております。中皮腫の死亡例に、このような大きな男女差があること等については、検 討会の場では、職業性のばく露によるものが多いことがうかがえると。女性がずっと下 を這ってきていますが、日本の女性においては、特に90年代後半から少し立ち上がって きているところがあります。それ以前の日本女性が横這いをしている部分については、 ベースラインとしての中皮腫の発生で、女性が少し立ち上がっているこの部分について は、おそらく女性が職業性のばく露を受けている部分がある。それから家族性のばく露 が考えられること。さらにその中に一部環境経由のばく露をした方が入っているのだろ う。その環境経由のばく露の可能性のある人がどういう集団、どういう方たちなのかを 明らかにしていくことが必要だというご意見でした。  アスベスト繊維そのものの飛距離といいますか、到達距離についても助言をいただき ました。資料8の17頁の右のグラフは、環境省の監修による「アスベスト排出抑制マニ ュアル」という本から抜粋したもので、蛇紋岩採石場付近の大気中のアスベスト濃度を 測定したものです。  右軸が距離、縦軸にアスベスト濃度を振っており、このアスベスト濃度は電子顕微鏡 によるアスベスト繊維数ですので、光学顕微鏡による本数に比べると、かなり大きな数 字ですが、距離の二乗に反比例して鉱山から遠ざかれば遠ざかるほどアスベスト濃度が 急激に減っていくということです。  左側のグラフがその電子顕微鏡の数字を示したものです。表の左から2つ目のカラム が、発生源からの距離です。いちばん右側のカラムが工学顕微鏡による1L当たりのフ ァイバー数です。100m離れた所で、10本/Lぐらいを切り出して、500mから1km離れま すと、1L当たり2本程度ということで、WHOが一般環境として1本から10本と報告 がありますが、その一般環境レベルといいますか、バックグラウンドレベルのアスベス ト濃度になるというデータが報告されています。ただ、到達距離については情報収集を さらに進める必要があるというご意見をいただきました。  いずれにしても、一般環境経由のアスベストばく露については、これまで情報が世界 的に見ても少なく、その関係で22頁に過去の文献の一覧表などもありますが、最新の文 献も集めながら、一般環境経由のばく露について、さらに情報を集める必要があるとい うことです。  2点目の中皮腫とアスベストの関連については、中皮腫の8割から9割がアスベスト 関与と考えられるが、その点についてはさらに情報を集めておく必要があると言われて います。  3つ目の健診の妥当性、可能性については、一般環境経由のばく露は職業性ばく露に 比べると、ばく露量も少ないことから、一律にすべての住民の方々を対象に健診を行う ことは必ずしも適当ではなく、健診の実施についてはハイリスク集団をどう絞り込むか が極めて重要になる。まず、健康被害の状況をよく把握して、ハイリスク集団をどう捉 えるのか。健診の内容をどういう内容にするのか。その実施方法についてどうするの か、慎重に検討するべきだというご意見をいただきました。  最後の関心事項として、実態把握のための調査については、特に具体的な被害情報が 寄せられている尼崎市のクボタの周辺の健康被害の発生状況について、まずは情報をき ちんと収集することが重要。その際には、昭和30年代から40年代の現在被害が表面化し ている方々のばく露をしただろう時代の、クボタ周辺の工場の立地状況や、各工場の操 業の状況、もしあれば作業環境中の濃度がどうであるかというばく露情報についても、 収集をきちんとすることが必要とのご意見をいただきました。  検討会としては、まずは被害の発生状況について十分に実態を把握することが重要と されて、特にリスクの懸念される尼崎市を中心に、私どもとしては兵庫県のご協力もい ただきまして調査を実施していきたいと考えています。  保健所に保存されている3年間分の死亡個票や、これまで保健所に寄せられた相談事 例のうちから、環境経由のばく露が否定できない事例については、職歴や居住歴の聞き 取り調査を今後実施していきたいと考えています。  アスベスト問題の特殊性は、ばく露から発症までの期間が極めて長く、平均でも40年 近いと言われていますが、過去のばく露についての情報を得ることが現時点では極めて 困難であることが特徴です。このため、おそらく調査によっても、どのような経路でば く露したのか判然としないケースが少なくないのではないかと想定しています。  また作業衣の洗濯をしていたご家族や、またはアスベスト取扱い工場の敷地内で遊ん でいた子どもなど、環境経由のばく露とは捉えきれない被害もありますので、健診等の 対応を今後考えていくにあたっては、職業性ばく露があると考えられる被害者から家 族、周辺住民に至る全体の被害者に対してシームレスな対応、すなわちいろいろな制度 の合い間に落ち込んでしまわないような対応が必要だと考えており、まずは実態をきち んと把握していきたいと考えています。厚生労働省様と一緒に十分に協力、連携させて いただいて、対応を進めていきたいと考えています。以上です。 ○土屋座長  ただいまのご説明に対して、何かご質問はありますか。よろしいですか。本日は、第 1回目の会合でもありますので、この問題について、委員のご認識についてお一方ずつ ご発言をお願いします。それを踏まえた上で、次回以降、どのような形で取りまとめて いくか整理をしたいと思います。 ○鏡森委員  この働く人たちからアスベストの問題を見ると、私は「伝染病」という言葉を思い出 しました。伝染病というのは細菌なのですが、アスベストというのは物理的な要因によ る伝染病である様相を呈しているという感じがしました。  もし伝染病だとすれば、まず第1にやることは患者がどこにいるかの把握です。アス ベストの場合は、本人だけの問題ではなく、ファイバーを持った人が動き回るという話 ですから、まず患者を見つけて、伝染病の場合は隔離するのですが、同定をいかにする かという話がいちばん大事です。  私の捉え方の不十分さかもしれませんが、これをやるときには、どこに病源菌がいる かという話ですから、どこにファイバーがあったかということなのです。私は25年前、 イギリスに別な研究をしに行ったのですが、将来日本はアスベストの問題が大きくなる よと言われて、ある面脅かされてその研究もした経緯があります。  つまり、どこにアスベストがあるかというときに、我々は労災認定で出てきた人たち の所から行くと。これはハイリスクだと思います。もう1つは、どこで使われていたの かということです。いくつかの県の話を聞いていますが、労災認定の患者さんは出てい ないが、アスベストを使っていることが確実であるということを事業所は認識していま すので、現況では積極的な事業主はすでに患者さんを同定することをやっているわけで す。つまり自分の所の従業員プラス家族を含めて、自主的に健診も始めていますので、 国の施策がそれをサポートする形で動いてくれることになれば、もっとこれが進むだろ う。積極的な事業主は、もう健診機関と組んでやっていて、家族の健診もやっていると いうことです。そういう実態を早くキャッチアップして、対策が遅れないようにしてい くことが必要です。  伝染病だとすれば、発生源対策が必要です。発生源対策は、アスベストの使用に関し て急遽転換されて、私たち研究者が望んでいる状態に近いものは実現されてきていま す。ここは徹底してやっていただく。特に青、茶といったアスベストの使用に関して は、これは特定化学物質ですし、発がん性物質もありますので、労働現場で、そういう 所からものをつかんで押さえていく。これは発生源対策です。  あと感染経路対策というのは、この場合は特に労働者の奥さんだけの問題ではなく て、いろいろな所に行っている可能性があるので、環境省との連携でやっていかないと 非常に難しい問題が出るだろう。特にこれは環境省なのか、文科省なのか少し心配なの は、学校の吹き付けの体育館でアスベストのばく露の例が出てきました。現在は見つけ た順番に、今年の7月に施行された解体の手順に則ってやっているわけですが、そのと きに気になるのは、いまのところ学校現場で子ども、教員に健康被害は認められていな いという話がされているのですが、それはそうでしょう。しかし文献でも子どもの中皮 腫は報告されていますので、それはどうもアスベストよりも、先ほどお話がありました 病型の分析をすると繊維型なので、ひょっとしたらウイルスや、別な物質かもしれない という可能性は強いわけです。ただ、まだどの国も子どもに関しては結論が出されてい ないので、そういう意味では感染源対策と患者同定の中の感染経路の問題かもしれませ んが、そこに子どもたちや、やっかいな問題が入ってくる可能性があるので、ここは省 庁の壁を是非破っていただきたい。これは息の長い話になるかもしれませんが、やはり しかるべき対策、あるいはイギリスのようにパネル、怪しいと思ったグループに関して は登録をして、定期的なフォローをしていくことは、国として視野に入れて対策を進め ていただけたらいいのではないかと取りあえず思っています。 ○土屋座長  いま先生ご指摘の従業員のご家族、特に洗濯をしていたらというのは、名取委員とご 一緒にやっている三浦先生が、もう30年ぐらい前に学会でご指摘になって、そのときに は我々専門家でも、そんなこともあるのかと、半ば疑いの目で見たきらいがあります。 いま労働者がいろいろな所に行っているのではないかと言われました。ご家庭は想像で きますが、それ以外に何か動き回っているとか、具体的な場所は設定されていますか。 ○鏡森委員  やはり彼らの家庭にいろいろな子どもが遊びに来るわけです。そういうややこしい問 題があるので、家族、その周辺を含めたハイリスクの周りの準ハイリスクグループは、 一応視野に入れておく必要があるという程度でいいです。 ○土屋座長  ご家庭に帰った後ということですね。続いて、岸本委員、よろしくお願いします。 ○岸本委員  私ども労災病院では、7月初旬から実はアスベストの健康相談を始めています。始め てみてわかったことは、一般の皆様方がアスベストに関して非常に誤った知識、過剰な 不安をお持ちであることです。例えばロックウールはアスベストではないのですがアス ベストだと思われています。ある事業主の方から、ロックウールで吹き付けをやってい るので、これは除去しなければいけないのかという質問もありました。  やはり正しい知識を住民の方に与えるためには、そういう相談は非常に大切だと思い ますので、でき得れば専門家の方々によって巡回の相談をしたほうがいい。ですから余 分な不安はなるべく打ち消してあげると、非常に安心されるという経験例が何例かあり ます。  私の所はCTを含めた健康診断を希望される方は、自費でやっております。それでわ かったことは、職業性に過去にアスベストにばく露された方は、いわゆる医学的なエビ デンスがあるということです。  59歳の男性で、40年前に4年だけアスベストの吹き付けをやった方がおり、その後は 全くホワイトカラーになられている。兄が肺線維症で亡くなったが、私も心配なので来 たという方がおられました。この方は典型的なPR3型のasbestosisになられていて、 私も非常にびっくりしました。  ですから40年前であろうと、過去の高濃度ばく露を来した方は、レントゲンを撮った だけで、CTを撮らなくてもわかるようなエビデンスがあるのだなと。過去の職業性、 ばく露歴のある方は要注意であるのに、ご本人たちも全く気付いていない。たぶんお兄 さんもasbestosisで亡くなったのだろうと思いますが、ある大学病院では、特発性間質 性肺炎と診断し、職業性とは全く認められず、数年前に亡くなっています。  いま環境省の方からお話がありましたように、ハイリスクグループと、そうでない、 家に昔アスベストのようなものがあって、それを吸ったとか、ずっと落下していた物が アスベストではないか、そういう不安を持って来られた方々には、いままでの検討では アスベストによる医学的な所見は認められなかった。レントゲン検査をしてもなかなか 胸膜プラークというのは見つかりませんし、せいぜい20〜30%程度で、一律的にリスク の低い人も、高い人も皆レントゲンをやって、あとCTをやることになると、CTの放 射線の影響もありますので、この辺りはきちんと専門家が問診をして、ハイリスクなの か、そうでないのかきちんと見極めた上で精密検査はやらないと。何でもかんでもやる のは、実際にエビデンスもありません。いわゆる不安を解消するという意味で納得して いただける方には、私はレントゲンによる検診は馴染まないのではないかと思います。  中皮腫という病気は、環境省の方も8、9割がアスベストだと言ったり、7、8割と 言ったりするのですが、この正確な診断ができていない。私は労災委員をやっているも のですから、中皮腫の業務場外の判定の意見書を書く場合が非常に多い。我々の地区の 瀬戸内海沿岸は中皮腫の好発地帯ですので、私の地元のみならず、他府県から多々あり ます。この中皮腫というのは、本当にそうなのかどうなのか。いわゆる肺がんがかなり 混じっていたり、細胞診だけで中皮腫だと、もしくはレントゲンだけで中皮腫だという 診断をする臨床医がいることも間違いないわけです。ですから、日本でもこれから増え ることが予測されていますので、正しい診断という意味で登録制度をやっていただきた いと望みます。  鏡森委員も言われましたが、発生源のこれからの対策です。アスベストは禁止になっ ていますが、建物等、吹き付けもあります。私もいろいろな所から相談を受けます。1 L当たり0.5本で環境は大丈夫かと言われるのですが、これは青石綿と白石綿では非常 に意味が変わってきます。環境ばく露でいちばん問題になっているのは、青石綿の問題 です。クボタの問題も、まさにそうです。ですから、この辺りは発生源に対して、特に 青石綿が吹き付けられているようなところに関しては非常に慎重に、遮蔽をするか除去 をするか、そういう対策をとっていただくような何らかの指針を出していただければ幸 いかなと思っております。 ○祖父江委員  私の意見は、岸本委員とかなり重なる部分があるかもしれません。まず、住民の方々 の不安を解消するために、健康管理のために何らか検査をすることが考えられるわけで すが、その際には、いったい何の目的でするのかを明確にしておく必要があると思うの です。  早期発見、早期治療、特に中皮腫を早期発見、早期治療して救命に至らせることを目 的として掲げる場合、残念ながら、これに関しての証拠は今のところないということに なります。肺がんに関していいますと、今の老人保健事業に含まれている胸部レントゲ ンに関していえば、一般の方々を対象にした話ですが、1回の胸部レントゲンである程 度の死亡率減少効果はあるということが日本の証拠として出されています。  早期発見、早期治療という目的でやる以外に、ばく露の評価、ハイリスク群を設定す るために検査をするという目的も考えられるでしょうし、一般の健康状態を管理すると いう形で検査をすることもあるかと思いますが、目的をしっかり区別して、受ける方に そのことを正しくお知らせをして理解していただくことが重要ではないかと思います。  検査をする、あるいは健診を行うということに関していうと、ご本人に対してメリッ トもありますが、一方でデメリットもあります。がん検診でいいますと、早期発見、早 期治療で死亡率が減るということが第1のメリットなわけですが、一方デメリットとし ては、間違った判断をすることが一定の確率で起こります。病気がある人に対して「な い」という判断をする、あるいは病気がない人に「ある」という判断をする。間違った 判断をしますと、ご本人に対して不利益をもたらすことになります。特に、頻度の少な い病気をスクリーニングする場合は、検査でポジティブになった場合に、その人が本当 に病気を持っている確率は非常に少ない。要するに、不必要な精密検査などが行われる 可能性が非常に高いということは重々承知をしておくべきである。  もちろん、病気があるのに「ない」と判断をする場合もあるということで、健診には メリットばかりではなくて、デメリットの側面があるということを必ず考えておく必要 があるかと思います。こういうことを検査や健診を受ける前に十分に説明し、それでも 受けると理解してもらった上で受けていただくということが重要だと思います。がん検 診の有効性などを判断して一般の方に適用する際には、メリットとデメリットのバラン スをかけて、メリットがデメリットを上回ると判断される場合に提供されるということ が一般の原則なのですが、リスクの高い人に対しては、そのメリット、デメリットの判 断が、一般的というより、むしろ個人のレベルで判断すべきこともあるかと思いますの で、個別の相談窓口というものが非常に重要になってくるのではないかと思います。  実態把握という面でいきますと、岸本委員がおっしゃるように、中皮腫の診断という のは非常に難しい。いま「中皮腫」と死亡診断書に書かれているものの中でも、本当に 中皮腫なのか、そうでないのかという例が含まれている可能性があるということをまず きっちり把握して、どの程度の誤分類があるのかという実態を把握する。そして、死亡 時に集まる情報というのは非常に限られていますので、そのことを追求する以上に、前 向きにがんの診断時に情報を集めて、正確な診断をするためのネットワークづくりとい いますか、専門医にきっちり照会をして、きちんとした診断ができるような体制を組む ことが必要かと思います。これだけ社会的に注目を浴びていますので、そういう仕組み をつくるということも、かなり実現可能ではないかと思います。 ○土屋座長  健診のメリット、デメリットということですが、肺がんに比べて約100分の1の発生 頻度であるということからいくと、メリットの点をよく考慮しないと。デメリットはど の対象でも変わらないわけで、その辺を慎重にやる必要があるということだと思いま す。  ちなみに、私ども国立がんセンター中央病院で、肺がんの手術が今までに約6,000件、 それ以外に内科、放射線の診断が組織でついたものが約1万件ぐらいあると思うので す。それに比較しまして、胸膜中皮腫で組織まで得られたというのは約50例ですので、 組織まで得られて診断が確定したというのは確かに少ないということが実態かと思いま す。それでは、続いて名取委員、よろしくお願いします。 ○名取委員  この間問題がいろいろと起きまして、国民の方から私どもへの電話相談も毎日80件ぐ らい、メールも50件ぐらいいただいておりますので、ご質問と回答という点で見ると、 この間数百件ぐらいの蓄積があって、国民の方が何を心配されているのかについては概 ね把握していると思っております。  1つは、明確な職業性ばく露があるのですけれども、やや短期的な場合、数年間ぐら いの建築作業があるとか、そういう部分の管理をどうすればよいかという問題がありま す。それから、非常に短期なのですが、例えばアスベストの吹き付け作業を、大学生が 1970年ぐらいにやっている場合が非常に多いのです。3週間ぐらいアスベストの吹き付 けのアルバイトをしたのだけれど、私はどの程度発病するのかと。なかなか難しいので すが、そのようなご質問もございます。それから、改築や解体ビルの近くにいたが、そ れはどうなのだという質問もあります。アスベスト含有建材では更に濃度的には下がっ てしまいますが、そういう部分でどうかという質問もあります。実際問題は、不安と言 ったほうがよいと思いますが、建材が存在すること自体に関するものです。今までの報 道にやや適切さがないといいますか、詳しい時間で報道されておりませんので、そうい うものに対する不安があります。  それに対する答えをこちらもしていくわけですが、その際に大変大事なのは、とにか く正しい知識を十分調べた上でお答えしていく。その答えが十分合っていれば、皆さん 納得されます。リスクが低い方については、「ああ、心配なかった」と納得されます し、ややリスクがある方、低濃度リスクについてはコミュニケーションが非常に難し い。リスク・コミュニケーションをどうするかという問題とともに、濃度自体が測られ ていない。それに対応する濃度がいくつなのかというデータが、日本にないものが大変 多いので、そういうものを測っていかないと答えることができないという問題が、一方 で起きていると思います。  ご存じのとおり、石綿含有建材の対策を立てたときと立てていないときの濃度測定結 果が日本にあるかというと、これ自体がありません。そういうこと自体、今まであまり されていません。理想的な状態の手ばらし解体でのデータはあるのですが、皆さんが心 配されているような不法な、違法な解体が行われているときの近隣のデータ自体は、た ぶん環境省も出していないのです。そういう問題がありますので、その点ではきちんと した研究をしないと、国民の不安に応えられないということがあると思います。  基本的な答えとしてはEPA(アメリカの環境庁)で出しているように、基本的にい うと、繊維濃度がそのご本人がばく露されたところで何ファイバーあるのかということ を、私たちがお話を聞いて、大体何ファイバーだなと予測をして、ばく露期間がどのく らいだったのか、実際にばく露を受けてから経った時間、基本的にいうと、中皮腫の考 えというのは、濃度とばく露時間とばく露から経過した時間、これの三次関数的な部分 で決まってくるわけですので、そこを把握して、それを基に説明すると、皆さん「あ あ、そうですか。それだったら安心だ」という形になる場合が大変多いと考えていま す。ですから、それを十分お伝えできるような研究をして、そこを埋めていけば、当然 国民の不安も解消しますし、それに伴って、このくらいの低濃度のリスクだから健康診 断をする必要はないとか、それ以上だから、これはあるというのがレントゲンやCTの リスクに応じて比較検討していけば出てくる、そういうものではないかと思っておりま す。  当然、ばく露の形態に応じて相談があるわけです。1つは職業ばく露、それから家族 ばく露、環境ばく露とあるわけですが、職業ばく露については今日は割愛いたします。 家族ばく露について問題なのは、それがどのぐらいのオーダーなのかということの調査 を至急する必要があるということだと思うのです。それがないので、洗濯をした人が全 員なってしまうのではないかという不安がありますが、おそらく、そんなことはない。  私も横須賀の三浦先生と一緒の経験が長いのですが、たぶんこの横須賀が家族ばく露 の蓄積が大変多い。それから、洗濯を自ら工場内でやっている造船所と、お持ち帰りに なった工場があるはずなので、非常にコントロールのとれた研究もできるはずです。  詳しく調べないといけないのですが、横須賀の場合、造船所が比較的住宅密集地から 離れている所と、住宅に近いところがある。つまり、住民ばく露が出ないようなところ で純粋な家族ばく露のチェックをすることでは、大変有効だと思います。横須賀市をモ デルにして家族ばく露をきちんと洗えば、造船所の従業員1万人に対して純粋な家族ば く露が何人しかなかった、というオーダーまで出るのではないかと思います。そういう 研究をちゃんとしていただければ、家族ばく露のオーダーは大体このくらいだよという ことも出てきますので、それに応じた対策をどの程度とるのかという問題になるのであ ろうかと。もしくは、そのときの問診で頻度などの確認をしておけば、全員にあるので はない、このくらいの形で家に持ち帰ってきた方が危ない、という限定もつけられるの ではないかと思います。  環境ばく露につきましては、典型的である工場、鉱山からのばく露が1つの形態であ りますが、このことについては尼崎がいちばんの典型ですので、尼崎の調査をいかに厳 密かつ科学的に、徹底的に調査をするのか。これがすべて他の地域のモデルになると思 いますので、そこの調査を厳密かつ十分にやることが大事だと思っています。  もう1つ環境ばく露の原因である解体・改築時にその建物から飛散してしまった場合 にどうするのかということが今後の問題としても当然ありますし、そういうご質問も多 いわけです。これについては、すでに1999年、文京区の保育園に関して専門家委員会が 開かれまして、かなり十分な検討がされていて、リスクも出されております。京大の内 山先生が中心になってまとめられたと聞いていますので、そういう先生に来ていただき ながら不安の解消について十分お話を聞く。お子さんもしくは保護者の方とのリスク・ コミュニケーションの数年にわたる経験をお持ちだと思いますので、そういうところを 学びながらやっていけば、この改築・解体問題については一定のものがまとまると思っ ております。  第3点目ですが、最近問題になってきているのが、吹き付けのある建物に居住してい た方の低濃度リスクは何なのかという問題です。これについては、私も昨年産業衛生学 会に報告させていただきまして、間もなく最終報告書が完成すると思いますので、公表 しようと思っているのです。そこの部分がどういう形のオーダーになるのかというの は、何とも言えないところがまだありますが、そういうものを参考にしていただきなが ら、吹き付けのある建物でずっと暮らしていた方、あるいは過去、1970年代に小中学校 の教室で暮らしていた小学生や中学生がそろそろ発病してもおかしくない時期に入って きているわけで、そこのリスクをどう見ていくのか、その方々に何を提供していくのが ちょうどよいのかということになろうかと思います。道路の問題も何かあるようです が、それは把握が非常に難しいので、私としてはまだ、十分これがよいとは申し上げに くいのです。  その他、例えば「石綿付き金網を使いましたが、私は大丈夫でした」というようなこ とから始まって「簡単に濃度測定をいくつかやってみたけれど、石綿の金網も実験でや ってみたが、何も濃度が上がっていませんよ」とか。国民の多くの方が濃度測定の結果 がなくて心配されているのは、私がいま把握している限りでは10ケースぐらいですの で、その10ケースについて、石綿の飛散濃度はこの程度であるというリスクを示して、 上がっていないものについては心配しないようにと言えばいいし、上がっているものに ついては、オーダーに応じた適切な健康管理の方法を提案していく。そういう整理をし ていけばよろしいかなと思っております。 ○土屋座長  名取委員のように、一般の方からの質問に対して、説得力のある説明のできる方は、 日本にいま何人ぐらいいらっしゃいますか。専門家ですと、かなり専門用語で、かえっ て分かりにくいという声を聞きますが。 ○名取委員  それぞれの質問を受けたときに、そのばく露濃度が頭に入っていなければいけない。 数百事例のばく露濃度を頭に入れ、時間をかけて説明していけばよいのです。要する に、そのばく露濃度で、あなたの場合は30分だからほとんどゼロですよとか、そのよう に言えるのかなと思います。さまざまな石綿のばく露濃度を知るということが対策の道 なのかなと思います。 ○土屋座長  時間が迫っておりますが、せっかくの機会ですし、開始が少し遅れましたので10分ほ ど延長させていただいて、お三方からご意見を伺いたいと思います。成田委員、お願い いたします。 ○成田委員  私がいちばん心配しているのは、いま名取委員がお話になったようにちゃんとした説 明ができる人がどこにどのくらいいるかということが1つ。それから、健診をした場合 に、ちゃんと所見を読めるかどうか。例えば、呼吸器ができるというだけでは駄目なの であります。中皮腫はおろか、限局性胸膜肥厚斑も、そんなにたくさんあるわけではあ りません。見慣れているのと見慣れていないのとでは随分違いますから、きちんと所見 を読みとれる人がどのくらいあるか。それが私がいちばん心配していることなので、そ れをどのようにやっていくかを考える必要があると思います。あとはずっとおっしゃい ましたから、いまさら付け加えてもいけませんので、この程度にいたします。 ○土屋座長  わかりました。次回の課題として受け止めたいと思います。続きまして本田委員、よ ろしくお願いします。 ○本田委員  私はほとんど、先生方がおっしゃったとおりです。結局、職業被ばく以外のハイリス クグループについて、どう基準を設けるのか。そして、その基準を設けたときに、現状 はどう把握できるのか。ハイリスクグループと判断された方々に対してどういう健診を 行うのか、ここだろうと思うのです。  先ほどからお話になっていらっしゃる画像診断によるデメリットも、当然あるわけで す。ざっと計算して、通常の胸部CTを1回撮りますと、1,000人に1人ぐらいは致死 がんが発生するだろうという計算になります。そして肺がんが4,500〜5,500人に1人。 通常の肺がんの発生率に比べると圧倒的に低いですが、そういうリスクもあるというこ とを認識した上で、どういう健診を行うのかということだと思います。  また、健診のターゲットとして、中皮腫なのか肺がんなのか、石綿肺なのか。肺がん はタバコによって50倍ぐらいリスクが増すといわれていますから、スモーキングによる ものか、石綿によるものかの鑑別が非常に難しくなってくる。ですから、何を目的にす るかということも明らかにしておかないと、混乱を起こすだけだろうと思うのです。 ○土屋座長  ありがとうございます。先ほど祖父江委員からご指摘のあった、健診をやるのであれ ば、目的を明確にせよということだと思います。それでは森永委員、最後になりました が、よろしくお願いします。 ○森永委員  大体委員の皆様方が語られている内容でありますので、私は、それについて賛成か反 対かという立場でお話をさせていただきたいと思います。鏡森委員、岸本委員、名取委 員、3人の委員の先生方はおそらく、いまから中皮腫登録をすべきだと。それから、診 断精度の問題があるからパネルもやるべきだというような意見があったかと思うのです が、私はその意見に賛成です。  私は、厚生労働省のがん研究助成金の「悪性胸膜中皮腫の診断精度の向上及び治療法 に関する研究」の班長を務めております。それは診断精度をいかに上げるかというとこ ろがメインの研究班でして、私どもの班では、一応疑わしい症例についてはパネルを開 催して症例検討をやっておりますが、これを急いで全国レベルのものにしていく必要が あると思います。  中皮腫登録は、私が20年以上も前から言っておるわけで、遅きには失しましたが、い まからするべきであります。ただ、どこが主体になってやるかは、別に国がやることで もなく、学会がやるという形もあるでしょうし、いろいろ柔軟な形で、中皮腫登録は進 めていく必要があるだろうと思います。  熊本でもたくさんのプラークの患者さんが出ていますが、あそこはアンソフィライト という石綿の種類でありまして、非常に発がんのリスクが低いという話です。一方名取 委員がおっしゃったように、クボタのアスベストは青石綿で、発がんのリスクは非常に 高いということです。ですから、今度労災のあった事業所に入って調査を改めてする際 には、アスベストの種類と量と使用時期について、できる限り情報を集めていただきた い。そのような情報があれば、より正確な将来予測はできると思います。  1つ問題になっていますのが、実態調査、あるいは健康診断の話です。私の個人的な 意見を申しますと、名取委員と同じでございまして、クボタ周辺住民の問題は、日本で いちばん大きな問題であろう。これ以上大きな被害が出る所は他にはないと私は思って おります。その理由は、1957年から60年までにクボタが使用した石綿の量は、日本の輸 入量の1割を超えております。しかも、その半分以上が青石綿であるということはクボ タから出た資料で明らかですので、まずクボタの周辺地域の調査をすることによって、 他の地域にはどの程度影響があるか、ないかの推測がかなりつくと思います。いまだに 調査の計画をしないのは、怠慢と言われても仕方がないかと思います。  実態調査で何をするかということですが、これは中皮腫の早期発見でもなければ、肺 がんの早期発見でもございません。アスベストのばく露を受けたという証拠である胸膜 プラークを見つけて、その所見のある方のリスクが、工場周辺に近ければ近いほど高い のか、遠くになればなるほど低くなるのか。そういった疫学調査をやるべきであると私 は考えております。 ○土屋座長  それぞれの委員からいくつか課題が示されたと思います。本日は予定時間が近づきま したので、これを踏まえて次回の会議を考えたいと思います。次回の会議について、事 務局からご説明をいただきたいと思います。 ○労働衛生課長  今月中に1度委員の先生方にお集まりいただきまして、本日の各委員のご意見を踏ま えまして、論点をさらに明確にした上でご意見をいただきたいと考えておりますが、片 や環境省の専門家会議も進んでおりますので、1度事務局で打合せをした上で、できれ ば環境省の専門家会議との合同会議という形も考えてみたいと思います。なお、現在こ のアスベスト対策関係につきましては、各省庁を挙げて、次々に対策を打ち出して動い ているところですので、次回の会合までには、また何らかのアスベスト対策として打ち 出しが出てくるのではないかと思います。また、本日この後、私どもの厚生労働科学特 別研究による研究班の研究会が開始されますが、そこでの研究目的や議論等も踏まえて 論点を整理し、次回の議題と論点を絞った上で委員の先生方にお願いしたいと思ってお ります。時期につきましては、こちらで調整をさせていただきたいと思いますので、後 にまたご連絡を申し上げます。 ○土屋座長  今日は時間も限られておりましたが、まだまだお気付きの点はあるかと思います。お 気付きの点は、事務局なり私のほうへご連絡を頂戴できればと思います。予定の議事は 以上ですが、何かそれ以外に委員のほうから是非ということがございますか。 ○鏡森委員  1点だけお願いしておきたいのは、専門家が集まって調査をしていくという基本的な 流れはそれでよいのですが、森永委員が言われたように、事は急を要するのです。具体 的にいくつかの県では医師会が急遽、第一線の先生方に胸膜肥厚についてILOの標準 写真を使って研修会をやっています。全国産業保健推進センターであるとか、産業医の 先生たちがすぐできることもあるので、その辺の活用網を是非急いで立ち上げていただ きたいと思います。 ○労働衛生課長  かしこまりました。それも鋭意急いで検討いたします。 照会先:労働基準局安全衛生部労働衛生課(内線5493) まず、できるところから早速ということで、よろしくお願いいたします。長時間にわた り、ご協力ありがとうございました。これにて閉会させていただきます。