資料1−1 |
今後の生活習慣改善支援サービスについて |
〜 | メタボリックシンドロームの概念を導入した 生活習慣病健診・保健指導への転換 〜 |
生活習慣病健診・保健指導の在り方に関する検討会
中間とりまとめ(案)
平成17年8月26日
生活習慣病健診・保健指導の在り方に関する検討会
目次
1. | 検討の背景 |
2. | 現在の生活習慣病対策に係る健診・保健指導 |
3. | 今後の生活習慣病健診・保健指導の在り方 |
4. | 今後の検討課題 |
「生活習慣病健診・保健指導の在り方に関する検討会」委員 |
< | 参考資料> |
今後の生活習慣病改善支援サービス全体のイメージ |
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効果的な健診・保健指導の事例等について |
1. | 検討の背景 |
○ | 早急な生活習慣病対策の充実が求められている。 |
・ | 現在の我が国の主な死因は、悪性新生物(がん等)が約3割、心疾患及び脳血管疾患(脳卒中等)の合計が約3割で、近年、確実に増加している。 |
※ | 昭和35年は、主要な死因の約4割、平成7年は約5割 |
・ | 前期高齢者が介護を要する状況となった理由の約半数は脳卒中であり、介護予防の観点からの脳卒中の発症予防が重要である。 |
・ | 国民全体の医療費のうち、生活習慣病が約4割(がんが約1割、糖尿病、脳卒中、心疾患等の循環器系疾患が3割)を占め、特に糖尿病は増加傾向にある。 |
・ | 虚血性心疾患や脳卒中の重要なリスクファクターと考えられる糖尿病、高血圧症、高脂血症の有病者及びその一歩手前の状態にある者(予備群)が増加している。 |
※ | 例えば、糖尿病については、平成14年の調査で有病者は740万人、予備群は880万人と推定され、5年間で約1.2倍 |
・ | 今後、これらに対する対応を充実し、推進することが急務である。 |
※ | 短期的な効果は必ずしも大きくないが、中長期的には国民の健康寿命の延伸、医療費の適正化等への重要な鍵である。 |
○ | 個人に対する継続的な生活習慣の改善支援が必要となっている。 |
・ | 糖尿病、高血圧症、高脂血症、高尿酸血症をはじめとする生活習慣病においては、その発症予防や病態の改善のため、継続的に生活習慣を改善することが基本となる。 |
・ | 多くの者が正しい知識を有し、実際に行動することにより、糖尿病等の発症予防、病態の改善、ひいては虚血性心疾患や脳卒中等の発症予防につながり、国民全体の健康寿命の延伸を図ることが可能と考えられる。 |
・ | 国民の多様なライフスタイルや考え方に対応しつつ、特に、現在、関心のない者や予備群に対して、適切な生活習慣改善への確実な支援を行うことが重要である。 |
○ | 国民にわかりやすく、受け入れられやすい対策が求められている。 |
・ | 国民のコンセンサスを形成し、対策を推進するためには、病態や危険度、生活習慣を改善する目的等の正しい情報を、専門的知識が無い者でも分かるように、提供していくことが必須である。 |
・ | 近年、内臓脂肪の蓄積が糖尿病、高血圧症、高脂血症の発症に深く関係し、これらの重複が多いほど、心疾患や脳血管疾患の発症リスクが高い、というメタボリックシンドロームの概念が受け入れられつつある。 |
※ | 2005年4月8日には、第102回日本内科学会総会において、日本動脈硬化学会、日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本肥満学会、日本循環器学会、日本腎臓病学会、日本血栓止血学会、日本内科学会の関係8学会が合同で策定した、「メタボリックシンドロームの定義と診断基準」が公表された。 |
・ | 今後、この考え方を取り入れ、国民にわかりやすく、受け入れられやすい対策を推進することが期待される。 |
○ | 現状を踏まえた健診・保健指導の再整理が必要と考えられる。 |
・ | 現在、健診は、疾病の早期発見・早期治療の機会としては広く認識されているが、予備群や健康な者を含む対象者全員に対する適切な生活習慣の獲得、維持の動機付けの機会としての視点からの認識が不十分である。 |
・ | 現在、社会保障全体の在り方の検討において、生活習慣病対策の充実が求められており、今後予定されている医療制度改革も念頭に置いた検討が必要とされている。 |
・ | 生活習慣病に関する、国民を対象とした公的サービスとして、健診・保健指導の仕組みがあるが、この仕組みの見直し、充実を図り、最大限に活用することが現実的と考えられる。 |
※ | 「充実」とは、単に健診項目等を増やすという意味合いではなく、効果、効率等を総合的に勘案した上で、必要な健診・保健指導を確実に実施する仕組みとすることが必要。 |
・ | 発見された後は、生活習慣の改善によって病態の改善が期待される糖尿病、高血圧症、高脂血症等と、生活習慣の改善よりも手術や化学療法等による治療が優先される「がん」「ウイルス性肝炎」等は、それぞれの特徴に応じた考え方の整理、及びそれに沿った施策の展開が必要である。 |
※ | がんについては、別途検討が行われている。 |
・ | 糖尿病、高血圧症、高脂血症等及びその重症化した病態である虚血性心疾患、脳卒中等に対する対策の充実方策の一つとして、メタボリックシンドロームの考え方を取り入れ、内臓脂肪の減量を目的とした保健指導の対象者の明確化や指導の内容を充実する等、健診・保健指導の対象や内容を再整理することが必要である。 |
○ | このため、本検討会において今後の方向性をとりまとめる。 |
2. | 現在の生活習慣病対策に係る健診・保健指導 |
○ | 国民の生活習慣の改善支援の仕組みは整備されているが、国民全体の行動変容に確実に結びついているとは言い難い。 |
・ | 健診・保健指導は、各種制度に基づいて各種事業主体による事業が実施されているが、必ずしも目的や実施方法等の整合性、連携等が十分に確保されていない場合がある。 |
・ | 健康増進法に基づく「健康増進事業実施者に対する健康診査の実施等に関する指針」により、各事業主体に適切な健診・保健指導の実施を求めている。 |
・ | 事業主体により、健診の受診率等に差がある。 |
※ | 特に、地域で生活する者(被用者保険被扶養者、国保被保険者)は、被用者本人と比べて受診率が低く、希望する者を中心に健診が行われているため、必要性の高い者が受けていない場合がある。 |
※ | 健診の受診状況等を体系的に把握し、必要性の高い者には強力に受診を勧奨する等の仕組みが十分に整っていない。 |
・ | 健診の実施に重点が置かれている場合が多く、健診結果に基づいた適切な保健指導が不十分と考えられる。 |
※ | 健診は、大部分が民間機関(健診機関、医療機関等)への委託により実施されているが、保健指導については、主として市町村や産業保健分野の保健師等の限られたマンパワーにより実施されているのが現状であり、必要性の高い者に対しても十分なサービスが提供されていない。 |
○ | 制度全体としての実施効果について、評価や根拠に基づいた体系的な整理が行われていない。 |
・ | 健診項目とその後必要とされるフォロー(判定基準、保健指導、治療等)との対応関係、効果について、医学的根拠に基づく検証が不十分と考えられる。 |
※ | 一部の健診項目については、予後(死亡率の低減等)への影響が証明できないとの報告もある。 |
・ | 事業主体により、保健指導の内容や対象者の選定方法等に差がある。 |
※ | 個人の特性に応じた、具体的な生活習慣の改善に結びつくサービスの提供がなされていない場合がある。 |
・ | 健診結果に基づく保健指導等の要否の判断、保健指導等の実施方法が、個々の医師や保健師等の資質、経験等に委ねられている傾向があり、標準化やノウハウを共有する取組みが不十分と考えられる。 |
※ | 健診結果の伝達のみで保健指導とされている場合も多く、健診機関と保健指導との連携が不十分で、十分に情報が共有されていない場合も多い。 |
・ | 健診及び保健指導を実施した者に関する効果の把握が体系的に行われておらず、計画的な保健指導の実施及びその効果を評価する仕組みが不十分と考えられる。 |
○ | 健診・保健指導の積極的な活用・実施について、国民、事業主体のインセンティブが十分に働いていない。 |
・ | 健診等を受けなかった理由として、「時間をとれない」、「めんどう」、「必要性を感じない」等が過半数を占める。 |
・ | 限られたマンパワーや財源の中で実施されており、資源を体系的かつ有効に活用する等の工夫やマンパワー、財源等の充実という取組みが積極的に行われていない傾向にある。 |
3. | 今後の生活習慣病健診・保健指導の在り方 |
○ | 特に予備群に対する保健指導の徹底、行動変容を目指したサービスとして体系化するべき。 |
・ | 健診によって、保健指導を必要とする者(特に、予備群)をスクリーニングし、確実な行動変容を促す保健指導につなげるということを再確認し、健診及び保健指導を一連のサービス(「生活習慣病改善支援サービス(仮称)」)として体系化することが必要である。 |
・ | 健診で異常を指摘された者を適切な保健指導や医療に確実につなげることはもとより、異常を指摘されない者に対しても、健診の機会を最大限に活用し、行動変容への動機づけの機会とすることが必要である。 |
※ | 問診等をとおして自らの生活習慣を振り返り、改善への動機付けの機会とする工夫も必要。 |
○ | メタボリックシンドロームの概念を導入し、健診・保健指導の対象、目的を明確にするべき。 |
・ | 国民の死因や要介護状態となる要因の上位を占め、保健指導等により発症リスクの低減が期待される虚血性心疾患、脳卒中等の発症予防を重点的な目的とし、その重要なリスクファクターであるメタボリックシンドロームの概念を導入して内臓脂肪型肥満の者、糖尿病、高血圧症、高脂血症の有病者及びその予備群に対する内臓脂肪の減量を目指した生活習慣改善の支援を充実・強化することが有効である。 |
・ | 国民が、メタボリックシンドロームの考え方を理解し、運動習慣の徹底と食生活の改善により内臓脂肪を減量することの重要性や、高血糖、高血圧、高脂血の重複を改善することで虚血性心疾患や脳卒中発症のリスクが低減することを共通認識として有することが必要である。 |
・ | 喫煙についても、メタボリックシンドロームの増悪因子であり、虚血性心疾患、脳卒中等の重要なリスクファクターであることを十分に考慮して、禁煙支援等を行うことが必要である。 |
○ | サービスを必要とする者を効率的に抽出し、これらの者に確実にサービスを提供するべき。 |
・ | 全ての者に同じスクリーニングを行うことを基本として、対象者の年齢や性別、ライフスタイル等を考慮して詳細な健診や保健指導の機会を提供することが必要であり、必要性に応じた検査項目、頻度、判定基準、保健指導の内容等を設定することが必要である。 |
※ | 高齢者に対する健診や保健指導の内容は、青壮年者に対するものと異なる可能性があり、違い等を考慮し、目的に応じた内容や機会を設定する必要がある。 |
※ | 生活習慣病予防の観点から考えると、40歳未満の者に対しても健診・保健指導が積極的に提供される必要が高いと考えられる。 |
※ | 40歳未満の男性の肥満の増加、女性の過度のダイエットによる健康障害も指摘されている。 |
・ | 健診については、対象者に過度の負担をかけず、これまで受けていない者も受けやすく、かつ保健指導等が必要な者を見落とさない手法として、簡便な健診(健康チェック)を詳細な健診の前に行い、その結果に応じて詳細な健診を受ける「健診機会の重層化」を図ることが有効である。 |
※ | 現在の健診・保健指導では、呼びかけに応じた者を中心に一部の者にのみ繰り返し実施されており、必要性が高いにも関わらず、健診・保健指導を受けていない者が存在している可能性があり、これらの者をカバーする工夫が必要。 |
※ | 特に、主として地域で生活する者(被用者保険の被扶養者、国保の被保険者)は、被用者本人と比較して健診・保健指導を受けるインセンティブが弱いと考えられ、これまで健診を受けていない者も、より容易に健診にアクセスできる仕組みの整備が必要。 |
※ | 詳細な健診については、健康チェックの結果に基づく場合以外にも、数年毎の節目健診として実施し、全員に受ける機会を提供することも必要。 |
・ | 健診の内容については、国民に受け入れられやすく、また保健指導と連続性を持った内容とするため、メタボリックシンドロームの概念を導入して項目や判断基準を再整理し、「健診内容の重点化」を図ることが有効である。 |
※ | エビデンスを蓄積することによって、有効性を維持、向上しつつ、かつ負担を軽減することが必要。 |
※ | 生活習慣のアセスメント、行動変容の準備状況を把握するために問診を充実するとともに、問診そのものを行動変容の動機付けとすることが必要。 |
・ | 健診の結果を判断する際には、年齢や性別、既往歴等を考慮した基準を示すとともに、既往歴やライフスタイル等にも考慮した保健指導の内容を設定することが必要である。 |
・ | 保健指導については、健診を受けた全ての者に、個人の状況や必要性に応じたサービスを提供することが必要であり、メタボリックシンドロームの概念を取り入れた病態の重複状況、行動変容の困難さの度合い等を指標にし、「保健指導対象者の階層化」を図ることが有効である。 |
※ | 保健指導の必要性が高い者には、優先的に密度の高いサービスを提供するとともに、必要性が低い者にも、適切な生活習慣の維持に向けた情報提供等のサービスを提供することが必要。 |
※ | 過去の健診・保健指導の状況を把握し、複数年度にわたる連続性と整合性を確保した実施計画の策定、サービスの提供を行うことが必要。 |
・ | 生活習慣の改善の必要性等に応じた一定レベルの保健指導の量と質を確保するため、「情報提供・普及啓発」、「動機付けの支援」、「積極的・具体的な生活習慣改善支援」等のサービスの考え方を示し、「保健指導プログラムの標準化」を図ることが有効である。 |
※ | 健診データ及び行動変容の困難度を基に保健指導の内容、密度等を分類し、保健指導の必要性(緊急度、切迫度)等を踏まえて、対象者に応じたサービスを提供することが必要。 |
※ | 対象者の特性に応じたフォローアップを行うことが必要。 |
・ | 集団的、画一的、抽象的な保健指導ではなく、対象者の特性に応じて確実な動機付け、行動変容を促す新たな手法を開発、導入していくことが必要である。 |
※ | 生活習慣のアセスメント、行動変容の準備状況を踏まえ、サービスを受ける者が主体的に具体的な目標を立てて自らの生活習慣を改善するとともに、適切な生活習慣が持続するサービスとすることが必要。 |
※ | 一定の期間を視野に入れ、この期間内における計画的、継続的に保健指導を実施することが必要。 |
○ | 健診・保健指導の内容を評価し、サービスの改善につながる仕組みを内包すべき。 |
・ | 健診結果を一定の判断基準に基づいて判断し、事業主体毎のメタボリックシンドロームの罹患率、検査項目毎の有所見率等の経年の変化等を把握、公表することが重要である。 |
・ | 個人として、また集団としての行動変容の達成度、健康度の向上、医療費の適正化等を視野に入れた健診・保健指導の効果を評価、把握することが必要である。 |
・ | 評価に基づいて、サービス提供者の質の向上及び健診や保健指導の内容の見直し等に活用することが必要である。 |
・ | 評価の結果を都道府県、国レベルで集約し、制度全体の改善等に活用できるようにすることが重要である。 |
○ | 保健資源(マンパワー等)の整備状況を考慮しつつ、効果的かつ効率的なサービスを提供すべき。 |
・ | 個人のニーズに対応した保健指導が提供される体制を整備するため、関係機関の有機的な連携を図るとともに、民間事業者を含めたサービス提供者間に質で選ばれるための競争原理を働かせることが必要である。 |
※ | IT技術の活用等も含めたサービスの多様化を図り、個人の特性、地理的条件等も踏まえた最適なサービスの提供が行われることが必要。 |
※ | 保健サービス提供の基本的な考え方、評価基準等を明確にし、サービスの質を確保することが必要。 |
4. | 今後の検討課題 |
○ | 社会全体への普及・啓発(ポピュレーションアプローチ)との一体性の確保 |
※ | 健康への配慮、自己管理の重要性、健康情報の正しい理解、適切な生活習慣を獲得することの爽快さ等、及びメタボリックシンドロームの概念について、国民全体のコンセンサスとインセンティブを形成することが必要。 |
※ | 国民が健康づくりを実践できる環境整備を行うことが重要。 |
○ | 「生活習慣改善支援サービス(仮称)」の具体的な内容の検討 |
※ | 対象年齢、性別、ライフスタイル等の特性に応じた健診の具体的項目、実施頻度、判定基準、対象者の階層化方法、標準化した保健指導プログラム内容等 |
○ | 精度管理の徹底 |
※ | 保健指導技術の向上 保健師等、専門職員の質の確保 良質なサービス提供機関(民間事業者等)の育成 等 |
○ | 制度整備を含めた推進方策 |
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※ | がん検診等との関係(整合性や実施体制 等) |
○ | 有病者に対する医療機関における保健指導の充実 |
※ | 受療中のメタボリックシンドロームの有病者に対する医療機関における保健指導の強化、徹底を図る必要。 |
○ | 健診データを体系的、経年的に管理するシステム |
※ | 生活習慣改善支援サービスの実施主体及び対象者自身が体系的、経年的にデータを活用し、個人の行動変容を支援することができる仕組みが必要。 |
「生活習慣病健診・保健指導の在り方に関する検討会」委員
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